説明

血管作用物質の組合せおよび性機能不全の治療におけるそれらの使用

本発明は、不十分な局所血液供給および/または不十分な潤滑に伴う性機能不全の治療に有用な血管作用物質の組合せに関する。活性化合物は、エスクロシドまたはビスナジン、フォルスコリンまたはそれを含む抽出物、あるいはイポメア属(genus Ipomea)の植物の精製親油性抽出物、キシメニン酸のエステル、
場合によって、イカリンもしくはその誘導体またはそれを含む抽出物、アメントフラボンおよびギンコビロバ(Gingko biloba)二量体フラボンから選択される少なくとも1つの化合物から選択される。これらの血管作用物質の組合せを、性器に適用するように設計されたゲル剤およびローション剤に混入する。これらの製剤は、男性および女性の性器の勃起の誘発ならびにオーガスムおよび性機能の増強に有用である。該製剤は、女性の性機能不全の治療に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不十分な局所血液供給および/または不十分な潤滑に伴う性機能不全の治療に有用である血管作用性物質の組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
男性における勃起能力の喪失は、罹患者の身体的、情動的および社会的活動範囲に有害な影響を及ぼす事象である。この性機能不全が生ずる場合、男性は、性交する時にはいつも他の「不全」を予想するようになり、最初は身体的のみであった問題の原因であり、かつその影響である特定の心理状態を発生する。
【0003】
性は夫婦間の意思の疎通の重要な手段であるので、勃起能力の低下は、夫婦間の感情的な緊張状態の高まりと、結果として生ずるそれらの関係の悪化につながる。種々の程度の勃起能力および潤滑の喪失または欠如も女性における深刻な問題となり、夫婦の関係に有害な結果をもたらす。様々なメディエーターおよび受容体が男性および女性の生殖器の膨張に関与している。例えば、アセチルコリン(Ach)は、最もよく知られている副交感神経伝達物質である。それはin vitroで、ノルアドレナリンによって以前に収縮した平滑筋線条の弛緩、および平滑筋細胞分離体の収縮を引き起こす。このことは、Achの主な作用が平滑筋を収縮させ、海綿洞の弛緩を引き起こす物質の放出を決定することであることを示唆している。副交感神経は、Achに加えて、酸化窒素(NO)、VIPおよびCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を含む他の神経伝達物質も放出する。
【0004】
酸化窒素(NO)は、酵素NOs(酸化窒素シンテターゼ)の作用によりL−アルギニンから合成される。異なるNOs酵素、すなわち、副交感神経の細胞質に存在するnNOs(ニューロンNOs)ならびに血管の内皮および主として細胞膜に結合していると思われる小柱組織に認められるeNOs(内皮NOs)によって合成される、陰茎および陰核におけるNOの2つの源は、副交感神経末端および内皮によって代表される。多くの実験により、副交感神経の刺激が、神経末端による直接的な作用(nNOsによって触媒される反応)およびeNOsの刺激により血管内皮上の副交感神経によって放出されるAchの作用に起因する間接的な作用の結果としてのNOの放出をもたらすことが実証された。内皮によるNOの持続性放出と酸素分圧の関与を支持する証拠も存在する。実際、酸素分圧が低い期間は、弛緩の状態と同様に、NOs活性の低下に関連する。最後に、種々の試験で、生理学的意義が確立されていなかった他の物質の内皮によるNOの放出を決定する能力が確認された。
【0005】
NOが陰茎の勃起に役割を果たしているという臨床的証拠としては、NO放出物質の陰茎海綿体内注射が性交不能症男性ならびに正常な性交能力を有する男性における勃起をもたらし得るという知見などがある。
【0006】
副交感神経線維によって放出されるAchは、内皮細胞膜および平滑筋細胞膜上に存在するムスカリン様受容体に結合する。内皮においては、この結合は、eNOsの活性化と、NOの結果として生ずる放出およびノルアドレナリン(NA)の阻害を促進する。NAの阻害は、勃起の生理学に必須である。交感神経末端によって放出されるNAは、α1−アドレナリン作動性膜受容体(陰茎海綿体においては、α型受容体がβ型受容体より数のうえで10:1の比で優勢である)と結合し、ホスファチジルイノシトール(PIP)をイノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)に変換するホスホリパーゼ(PLC)の活性の増大をもたらす。IP3は筋小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘発し、DAGは酵素プロテインキナーゼC(PKC)を刺激する。この酵素は、L型カルシウムチャンネルを開き、カルシウムチャンネルを閉じることにより、細胞質内カルシウム濃度を増加させて、平滑筋の収縮を引き起こす。
【0007】
副交感神経末端および内皮によって放出されるNOは、親油性であり、したがって、平滑筋細胞膜を横切ることができる。
【0008】
その半減期は短い(約5秒)にもかかわらず、筋細胞の細胞質に到達した後に、それはその受容体である酵素グアニル酸シクラーゼを刺激して、グアノシン三リン酸(GTP)を第二活性メッセンジャーであるサイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)に変換する。cGMPの細胞質内レベルは、NO作動性刺激の程度および酵素ホスホジエステラーゼV(PDE)の異化速度によって制御される。刺激されたならば、cGMPは、L型カルシウムチャンネルを閉じ、カリウムチャンネルを開く酵素プロテインキナーゼG(PKG)を活性化する。VIPは、プロスタノイド(PGE1)と同様に、主として平滑筋細胞の表面上の特異的受容体を介して作用し、酵素アデニル酸シクラーゼ(膜酵素)を刺激する。この酵素は、ATPをサイクリックAMP(cAMP)に変換し、これがさらに細胞内カルシウム濃度の低下と平滑筋の弛緩を引き起こす。
[発明の開示]
生理学的に鈍化または変化したパラメーターを修正するエスクロシドまたはビスナジン、イカリンおよび誘導体またはそれを含む抽出物、アメントフラボン、ギンコビロバ(Gingko biloba)二量体、フォルスコリンまたはコレウスフォルスコリ(Coleus forskolii)の精製抽出物、イポメア属(genus Ipomea)およびキシメニン酸のエステルを合わせ、有効成分の間の相乗的相互作用を利用することによって、生殖器の機能性を非常に効果的に回復させることができることが発見された。
【0009】
本発明は、特に、男性および女性の生殖器への不十分な局所血液供給に伴う性機能不全の治療に有用な血管作用物質の組合せに関する。
【0010】
本発明による局所組成物は以下のものを含む。
【0011】
エスクロシドまたはビスナジン、
フォルスコリンまたはそれを含む抽出物、あるいはイポメア属(genus Ipomea)の植物の精製親油性抽出物、
キシメニン酸のエステル、
場合によって、イカリンもしくはその誘導体またはそれを含む抽出物、アメントフラボンおよびギンコビロバ二量体フラボン。
【0012】
ビスナジンは、狭心症様障害を治療するために伝統的に用いられている植物であるアンミビスナガ(Ammi visnaga)の種子に主として見いだされるクマリンである。この化合物は、製薬分野において冠動脈拡張薬として最近用いられている。我々は、この化合物が局所適用したとき、毛細血管前動脈および細動脈に対する強い血管運動性作用を有し、血流量および組織潅流を増加させることを種々の機会に示した(欧州特許第0418806号)。勃起組織への動脈血の供給は、勃起の開始を誘発し、該化合物が該組織に存在する限りそれを維持する。ビスナジンもサイクリックヌクレオチドを維持するのに有用な抗ホスホジエステラーゼ活性を有する。
【0013】
セイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)、トネリコ(Fraxinus communis)等の多くの植物に存在するクマリングルコシドであるエスクロシドは、静脈および動脈レベルでの血管運動性作用および向静脈活性を有する。
【0014】
イカリンとその誘導体は、cGMPホスホジエステラーゼVに作用する。高レベルのcGMPが、男性および女性の生殖器の勃起、したがって、性交に必要な能力を維持するために必要である。イカリン誘導体としては、7−ヒドロキシエチル−イカリンまたは7−アミノエチル−イカリン、7−ヒドロキシエチル−3−0−ラムノシル−イカリン、7−アミノエチル−7−デスグルコ−3−ラムノシル−イカリン、8−ジヒドロ−イカリンと7および3位におけるそのグルコシドならびに7−ヒドロキシエチル−7−デスグルコ−イカリンなどがある。
【0015】
アメントフラボンは、ギンコビロバ、ブラケリンゲア ザングエバリカ(Brakeringea zanguebarica)およびイチイ種(Taxus sp)などの多くの植物に少量存在するビフラボンである。アメントフラボンの添加は、いくつかの製剤において特に有用であり、ホスホジエステラーゼの、および低用量で既知の性欲促進物質であるオキシトシンの放出に対する非常に強力な阻害物質として作用するので、本発明の対象の1つである。
【0016】
フォルスコリンおよびそれを含む抽出物は、既知のアデニル酸シクラーゼ作動薬である。コレウスフォルスコリ(Coleus forskolii)の精製抽出物が特に好ましい。
【0017】
イポメア属の植物の抽出物もアデニル酸シクラーゼに対する有意な活性を有しており、イポメアヘデラセア(Ipomea hederacea)、イポメアパラシティカ(Ipomea parassitica)およびイポメアバタタス(Ipomea batatas)の標準化親油性抽出物が特に好ましい。
【0018】
本発明による製剤は、特に女性における性機能を改善する。例えば、1%エスクロシド、0.2%フォルスコリンおよび1%キシメニン酸エチルを含むゲル形の配合剤を妊娠する可能性のある年齢の10人の女性志願者の群に投与した。外性器における血流パラメーターを非侵入的方法により機器により測定した(レーザードプラーおよび光学プローブビデオ毛細管顕微鏡検査)有効性試験で、血流量が基礎値の最大200%増加したことが示された。主観的感覚に関しては、患者は一般的な良好な状態と30分以内の性的興奮を報告した。男性では、本発明の製剤の適用により、性交の行為を完了するのに必要な時間持続する速やかな勃起がもたらされる。
【0019】
以下の実施例は、本発明を例示している。
【実施例】
【0020】
実施例1
エスクロシド 1.00g
キシメニン酸エチル 2.00g
コレウス精製抽出物>80% 0.20g
ポリエチレン400 10.00g
エトキシジグリコール(トランスクトール(Transcutol)−Gattefosse) 10.00g
カプリル/カプリンPEG−6グリセリド 10.00g
(ソフティゲン(Softigen) 767−Huls)
ソルビトール 10.00g
ポリソルベート20 8.00g
カルボマー(ウルトレズ(Ultrez)10−BF Goodrich)
1.00g
イミダゾリジニル尿素 0.30g
キサンタンゴム(ケルトロール(Keltrol)TF−Kelco)
0.30g
メチルパラベン 0.20g
EDTA二ナトリウム 0.10g
ヒドロキシトルエンブトキシド 0.05g
水酸化ナトリウム10%溶液 2.00g
香料(ジェニー(Jenny)−Dragoco)
0.01g
水 100gまでの適量
【0021】
実施例2
ビスナジン 1.00g
キシメニン酸エチル 2.00g
コレウス精製抽出物>80% 0.20g
ポリエチレン400 10.00g
エトキシジグリコール(トランスクトール(Transcutol)−Gattefosse) 10.00g
カプリル/カプリンPEG−6グリセリド 10.00g
(ソフティゲン(Softigen) 767−Huls)
ソルビトール 10.00g
ポリソルベート20 8.00g
カルボマー(ウルトレズ(Ultrez)10−BF Goodrich)
1.00g
イミダゾリジニル尿素 0.30g
キサンタンゴム(ケルトロール(Keltrol)TF−Kelco)
0.30g
メチルパラベン 0.20g
EDTA二ナトリウム 0.10g
ヒドロキシトルエンブトキシド 0.05g
水酸化ナトリウム10%溶液 2.00g
香料(ジェニー(Jenny)−Dragoco)
0.01g
水 100gまでの適量
【0022】
実施例3
ビスナジン 1.00g
7−ヒドロキシエチル−7−デスグルコ−イカリン
1.00g
フォルスコリン 0.20g
アメントフラボン 0.20g
キシメニン酸エチル 2.00g
ポリエチレン400 10.00g
エトキシジグリコール(トランスクトール(Transcutol)−Gattefosse) 10.00g
カプリル/カプリンPEG−6グリセリド 10.00g
(ソフティゲン(Softigen) 767−Huls)
ソルビトール 10.00g
ポリソルベート20 8.00g
カルボマー(ウルトレズ(Ultrez)10−BF Goodrich)
1.00g
イミダゾリジニル尿素 0.30g
キサンタンゴム(ケルトロール(Keltrol)TF−Kelco)
0.30g
メチルパラベン 0.20g
EDTA二ナトリウム 0.10g
ヒドロキシトルエンブトキシド 0.05g
水酸化ナトリウム10%溶液 2.00g
香料(ジェニー(Jenny)−Dragoco)
0.01g
水 100gまでの適量
【0023】
実施例4
エスクロシド 1.00g
7−ヒドロキシエチル−7−デスグルコ−イカリン
1.00g
イポメアヘデラセア親油性標準化抽出物 0.20g
ギンコビロバ二量体フラボン 0.20g
キシメニン酸エチル 1.00g
ポリエチレン400 10.00g
エトキシジグリコール(トランスクトール(Transcutol)−Gattefosse) 10.00g
カプリル/カプリンPEG−6グリセリド 10.00g
(ソフティゲン(Softigen) 767−Huls)
ソルビトール 10.00g
ポリソルベート20 8.00g
カルボマー(ウルトレズ(Ultrez)10−BF Goodrich)
1.00g
イミダゾリジニル尿素 0.30g
キサンタンゴム(ケルトロール(Keltrol)TF−Kelco)
0.30g
メチルパラベン 0.20g
EDTA二ナトリウム 0.10g
ヒドロキシトルエンブトキシド 0.05g
水酸化ナトリウム10%溶液 2.00g
香料(ジェニー(Jenny)−Dragoco)
0.01g
水 100gまでの適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスクロシドまたはビスナジン、
フォルスコリンまたはそれを含む抽出物、あるいはイポメア属の植物の精製親油性抽出物、
キシメニン酸のエステル、
場合によって、イカリンもしくはその誘導体またはそれを含む抽出物、アメントフラボンおよびギンコビロバ二量体フラボンから選ばれた少なくとも一つの化合物
を含む局所組成物。
【請求項2】
イカリン誘導体が7−ヒドロキシエチル−7−デスグルコ−イカリン、7−ヒドロキシエチル−イカリン、7−アミノエチル−イカリン、7−ヒドロキシエチル−3−0−ラムノシル−イカリン、7−アミノエチル−3−ラムノシル−イカリン、8−ジヒドロ−イカリンもしくは7および3位におけるそのグルコシドを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ギンコビロバ二量体フラボンがアメントフラボンを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
キシメニン酸エステルがエチルエステルである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ビスナジン、コレウスフォルスコリ精製抽出物、キシメニン酸エチルエステル、潤滑剤および抗刺激添加剤を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
エスクロシド、コレウスフォルスコリ精製抽出物、キシメニン酸エチルエステルを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ビスナジン、フルスコリン及びキシメニン酸エチルエステルを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
イポメア植物の精製抽出物がイポメアヘデラセア、イポメアパラシティカおよびイポメアバタタスから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
性機能不全の局所治療用の組成物の調製のための
エスクロシドまたはビスナジン、
フォルスコリンまたはそれを含む抽出物、あるいはイポメア属の植物の精製親油性抽出物、
キシメニン酸のエステル、
場合によって、イカリンもしくはその誘導体またはそれを含む抽出物、アメントフラボンおよびギンコビロバ二量体フラボンから選択される少なくとも1つの化合物
の組合せの使用。

【公表番号】特表2009−513518(P2009−513518A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518123(P2006−518123)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007374
【国際公開番号】WO2005/004890
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(591092198)インデナ エッセ ピ ア (52)
【Fターム(参考)】