血管透過性の阻害のための方法および組成物
本発明は、血管透過性を調節するための方法および組成物に関する。本発明は、血管透過性を上昇させることに関与するタンパク質およびシグナル伝達経路をブロックするための方法および組成物に関する。本発明は、PAKが血管外漏出を誘導するMLCKリン酸化を活性化する機序ならびにこの経路を調節するための組成物および方法を包含する。本発明は、血管透過性を調節する、特に血管透過性を阻害するための組成物および方法を対象とする。特に、本発明は、血管透過性の引き金を引くために重要なタンパク質の相互作用をブロックすることによって血管透過性を調節する方法を対象とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府によって支援された研究または開発に関する声明)
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた、助成番号RO1 GM47214およびT32 HL07284の下での米国政府援助を得て為された。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
血管からの液体および細胞の流動は様々な状況における炎症、組織損傷および死亡への重大な寄与因子である。これらは虚血性損傷、中毒性ショック、アレルギーおよび免疫反応を含む。血管透過性は、一部には、内皮細胞間の細胞間接着によって調節される。
【0003】
血管構造を裏打ちする内皮細胞単層は、血液画分の完全性を維持する障壁を形成するが、可溶性因子と白血球の通過は、調節された方法で許容する。この過程の調節不全は、水腫を含む病的状態に関連する炎症を伴って、下にある組織への血管外漏出を生じさせる。血管透過性に関連する水腫はまた、発作および心筋梗塞の動物モデルにおいて組織損傷を増大させる、低酸素状態の組織による血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌を原因とする虚血性損傷においても生じる。血管透過性は、変化した細胞間接触と隣接細胞間の傍細胞孔の出現によって特徴づけられる。内皮障壁の完全性は、一部には、皮質F−アクチンが細胞間接触を安定化し、一方細胞内ストレスファイバーが透過性を誘導する張力を及ぼす、アクチン細胞骨格の相反する役割によって調節される。
【0004】
血管透過性は、免疫応答および創傷治癒に積極的に寄与し得る厳密に調節された機能である;しかし、液体および免疫細胞の組織内への流出は、様々な疾患において重大な生命を脅かす結果をもたらすことがある。呼吸機能不全を導く肺血管系の透過性上昇による肺内の液体蓄積は、急性呼吸窮迫症候群における鍵となる要素である。酸素欠乏組織によるVEGFの放出を原因とする発作または心筋梗塞後の血管外漏出は、これらの事象後の組織損傷を実質的に増大させる。血管漏出および組織水腫は、敗血症における臓器不全に寄与する。
【0005】
肺損傷は、深刻で、しばしば致死的な医学的問題である(非特許文献1)。通常は感染によって引き起こされ、液体の肺への漏出の引き金を引く機械換気によって増悪されることがあり、呼吸機能不全を導き得る。急性肺損傷における死亡の発生率は30−40%であり、現在のところ使用可能な特異的治療はない。
【0006】
低分子量GTPアーゼRacは、多くの系において細胞−細胞接着の形成と機能を調節する。上皮および内皮細胞型では、Racは、接着と密接な結合の構築、および細胞分散の間または透過性の引き金を引くアゴニストに応答したそれらの崩壊の両方にとって重要である。これらの複雑な作用は、異なるRacエフェクター経路が区別的に細胞間結合を調節し得ることを示唆する。Racの正確な時間的および空間的調節とそのエフェクター経路は、細胞間接着の強化と崩壊の間の均衡を決定するために決定的に重要であると考えられる。しかし、これらの作用を支配する下流経路はよく理解されていない。
【0007】
p21活性化キナーゼ(PAK)は、運動性、形態形成および血管新生を含む多くの細胞機能に関与するRacおよびCdc42の下流で活性化されるセリン/トレオニンキナーゼである。GTP結合RacおよびCdc42は、不活性PAKに結合して、PAK自己阻害ドメインによって課せられる立体的制約を解き放ち、PAKの自己リン酸化と活性化を可能にする。活性化PAKについてのマーカーとして働く数多くの自己リン酸化部位が同定されている。著明なPAK下流標的は、コンフィリンへのその作用を通してアクチン重合を調節するLIMキナーゼ、およびミオシン軽鎖(MLC)を含む。PAK2は、収縮性を高め、細胞収縮の引き金を引くSer19でのMLCのモノリン酸化を触媒する。しかし、PAKはまた、MLCキナーゼを阻害し、それによってMLCのリン酸化と収縮を制限することができる。PAK2上のセリン141は、キナーゼの活性化の間にリン酸化されるAID配列内の部位である。この部位のリン酸化は、自己阻害を解除するためにAIDとキナーゼドメインの相互作用をブロックすることによって活性化に寄与する。内皮細胞において、触媒活性PAK1の発現はMLCリン酸化と細胞収縮性を上昇させ、一方PAKの阻害は細胞収縮性を低下させた。それゆえ、これらの細胞では、PAKの主要な作用は収縮性の促進であると思われる。
【0008】
内皮細胞間結合におけるPAKの活性化はサイトカインに応答して血管透過性を調節することが以前に明らかにされた(非特許文献2)。これは、細胞収縮を促進する、ミオシン軽鎖のリン酸化を制御することによって行われた。PAKはERK1/2活性化を調節することが知られている(非特許文献3)。Erkも血管透過性を調節することが公知である(非特許文献4:L360−70;Borbiev Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2003 285:L43−54)。
【0009】
PAKはPIX(αまたはβアイソフォーム)と呼ばれるタンパク質に結合することができ、PIXは次にGIT(アイソフォーム1または2)と呼ばれる別のタンパク質に結合する(非特許文献5において総説されている)。GITは、Erk MAPキナーゼの活性化を促進するスキャフォールドタンパク質であると提案された(Yin 2004,Mol.Cell Biol.24:875−885)。PAK経路は血管外漏出を刺激する多くの事象に関与すると思われる。GITタンパク質は、低分子量GTP結合タンパク質であるADPリボシル化因子(ARF)についてのGTPアーゼ活性化タンパク質である。
【0010】
PIXαおよびPIXβに結合するPAK内の配列は、PPPVIAPRPEHTKSVYTR(配列番号1)(Manserら、Mol.Cell.1998 1:2:183−92)。GIT1/2に結合するPIX内のコア配列は、PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である(非特許文献6)。PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列は、Spa2相同性ドメイン(GIT1内の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1内の428−485)である(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内(アミノ酸残基255−375)である(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。
【0011】
PAKキナーゼは低分子量GTPアーゼRacおよびCdc42によって活性化される。PAKキナーゼは、時として2つの他のタンパク質、すなわちPIX(αまたはβ)とGIT(1または2)との複合体中に認められる。Pakは、PAK内の特殊なプロリンに富む配列を通してPIX SH3ドメインに直接結合する。PIXは次に、PIXの極C末端およびGIT内の2つの領域:Spa2相同性ドメイン(アミノ酸残基270−363)およびコイルドコイル(アミノ酸残基428−485)を通してGITタンパク質と結合する。GIT1はまた、Erkの活性化のためのスキャフォールドタンパク質であることが認められた。GIT1は、Erk活性化のための上流キナーゼ、MEK1/2に結合する。
【0012】
PAKキナーゼは、増殖因子、炎症性サイトカインおよびトロンビンによる血管透過性の誘導のために重要であることが以前に出願人によって示された。PAKは、ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化の調節、および透過性障壁として働く細胞間接着を崩壊させる細胞収縮の上昇によって透過性を制御した。
【0013】
血管透過性を調節するための組成物および方法に対する長年の強い需要が当技術分野に存在する。本発明はこれらの需要を満たすものである。
【非特許文献1】Orfanosら、2004; Lionettiら、2005
【非特許文献2】Stockton,J.Biol.Chem.279:46621−46630
【非特許文献3】Frost,1997,EMBO J.16:6426−6438
【非特許文献4】Verin,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2000 279
【非特許文献5】Turner,Curr Opin Cell Biol.,2001,13:593−599
【非特許文献6】Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
PAK、PIX、GIT1とGIT2およびMEKを含むタンパク質の複合体は、多くのサイトカイン、増殖因子または機械的刺激に応答して内皮単層の透過性の引き金を引くために必須である。血管透過性は、急性肺損傷、発作、心筋梗塞および感染を含む、組織損傷および炎症に関わる多くの病的状態への主要寄与因子である。PAKは、おそらくいくつかの機構を通してMLCKリン酸化を活性化し得る。潜在的経路は、ミオシン(Chewら、1998)またはカルデスモン(Fosterら、2000)の直接リン酸化を含む。あるいは、この作用は、MLCKを活性化し得る(Klemkeら、1997)、Erkを活性化するためのRafまたはMEK1/2のリン酸化を含むと考えられる(Frostら、1997;Kingら、1998)。本発明は、PAKが血管外漏出を誘導するMLCKリン酸化を活性化する機序ならびにこの経路を調節するための組成物および方法を包含する。
【0015】
本発明は、血管透過性を調節する、特に血管透過性を阻害するための組成物および方法を対象とする。特に、本発明は、血管透過性の引き金を引くために重要なタンパク質の相互作用をブロックすることによって血管透過性を調節する方法を対象とする。本発明は、PAK−PIX−GIT−MEK複合体を破壊するまたは細胞間結合から複合体を解離するための相互作用部位に関して競合する、ペプチド、およびその修飾物、フラグメント、誘導体、ホモログおよび類似体を提供する。そのようなペプチドをここでは競合ペプチドまたは配列と称する。本発明のペプチドは、PAK、PIX、GITおよびMEKの少なくとも1つと競合するまたは前記の少なくとも1つを調節する。それゆえ、本発明は、それによって血管透過性を調節する、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKから成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路のレギュレーターの使用を含む、関連シグナル伝達経路によって血管透過性を調節することを包含する。
【0016】
1つの態様では、本発明のペプチドはPIXαへのPAKの結合をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはPIXβへのPAKの結合をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドはGIT1へのPIXの結合をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはGIT2へのPIXの結合をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドはGIT1とMEKの結合をブロックする。1つの態様では、MEKはMEK1またはMEK2である。1つの態様では、本発明のペプチドはErkの活性化をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはErk MAPキナーゼをブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドは、PAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする。本発明はさらに、PAKから下流でErkおよびMLCKを調節するための方法および組成物を包含する。
【0017】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドは、タンパク質複合体の形成または相互作用をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドは、細胞間結合へのタンパク質複合体の局在化をブロックする。
【0018】
1つの態様では、血管透過性は、その必要のある被験体において本発明のペプチドによってブロックされる。
【0019】
以下のペプチドをここで使用する:
【0020】
【化1】
以下の核酸をここで使用する:
【0021】
【化2】
簡単に述べると、ここで使用する配列の機能および/または起源は以下の通りである:
配列番号1は、PIXに結合するPAK内の配列である。
【0022】
配列番号2は、GIT1およびGIT2に結合するPIX内のコア配列である。
【0023】
配列番号3は、細胞膜透過性を与えるTAT配列である。
【0024】
配列番号4は、配列番号1と3の組合せである。
【0025】
配列番号5は、2個のアミノ酸突然変異/置換を含む、配列番号4の対照ペプチドである。
【0026】
配列番号6は、細胞膜透過性を与えるTAT配列を含むPAK/Nckブロッキングペプチドを生じさせる、配列番号3と7の組合せである。
【0027】
配列番号7は、PAKの最初のプロリンに富むドメインからの配列から成る。
【0028】
配列番号8−11は、ここで使用するsiRNA Smartpoolの4個のセンス配列である。
【0029】
1つの実施形態では、タンパク質阻害剤であるペプチドは、配列PPPVIAPRPEHTKSVYTR(配列番号1)(Manserら、Mol.Cell.1998 1:2:183−92)、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを含む。配列番号1をPIX結合配列と称する。
【0030】
もう1つの実施形態では、タンパク質複合体形成または相互作用を阻害するために使用する競合配列は、GIT1/2に結合するPIX内のコア配列である(PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する;Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650)、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である。1つの実施形態では、使用する競合ペプチドは、Spa2相同性ドメイン(GIT1の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1の428−485)である、PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列の1またはそれ以上を含む(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内であり、本発明に包含される(アミノ酸残基255−375)(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。ペプチドに細胞膜透過性を与えるTAT配列、YGRKKRRQRRRG(配列番号3)または関連多塩基性配列はこれらの配列に連結されている(Stocktonら、J.Biol.Chem.,2004,279:45:46621−46630)。複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする、これらのタンパク質内の他の相互作用部位も本発明に包含される。1つの態様では、2以上のペプチド、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを、複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックするために使用する。本発明の1つの態様では、本発明の1またはそれ以上のペプチドを、血管透過性を調節する1またはそれ以上の他の化合物と共に投与する。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドへの多塩基性TAT配列または他の透過性配列の結合は、これらの構築物が細胞に進入することを可能にする。1つの態様では、透過性上昇配列はTAT配列YGRKKRRQRRRG(配列番号3)である。これらの複合化合物は、水腫および組織損傷をブロックするために損傷または炎症組織における血管透過性を抑制する。
【0032】
1つの実施形態では、本発明は、配列番号3と配列番号1の組合せの結果であるペプチドを提供する。配列番号3とは1の組合せは、ここでは「PIX結合ペプチド」として知られる配列番号4である。PIX結合ペプチドはまた、ここでは「PIXブロッキングペプチド」とも称される。配列番号4は、それゆえ、配列
【0033】
【化3】
を有し、カルボキシ末端修飾と共にここで使用されるときは、
【0034】
【化4】
である。
【0035】
ここで開示する対照ペプチドは、
【0036】
【化5】
であり、同じくここでは
【0037】
【化6】
として使用される(図6参照)。
もう1つの実施形態では、タンパク質複合体形成または相互作用を阻害するために使用する競合配列は、GIT1/2に結合するPIX内のコア配列である(PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する;Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650)、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である。1つの実施形態では、使用する競合ペプチドは、Spa2相同性ドメイン(GIT1の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1の428−485)である、PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列の1またはそれ以上を含む(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内であり、本発明に包含される(アミノ酸残基255−375)(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。それゆえ、本発明はさらに、これらのドメインのペプチド、およびそのホモログ、誘導体、フラグメントおよび修飾物を含むペプチドを包含する。複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする、これらのタンパク質内の他の相互作用部位も本発明に包含される。1つの態様では、2以上のペプチド、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを、複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックするために使用する。本発明の1つの態様では、本発明の1またはそれ以上のペプチドを、血管透過性を調節する1またはそれ以上の他の化合物と共に投与する。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドへの多塩基性TAT配列または他の透過性配列の結合は、これらの構築物が細胞に進入することを可能にする。1つの態様では、透過性上昇配列はTAT配列
【0039】
【化7】
である。これらの複合化合物は、水腫および組織損傷をブロックするために損傷または炎症組織における血管透過性を抑制する。
【0040】
1つの態様では、TAT−ペプチド構築物は、細胞と接触したとき血管透過性を阻害する。1つの態様では、細胞は内皮細胞である。1つの態様では、内皮細胞は培養下にある。もう1つの態様では、内皮細胞はインビボである。
【0041】
1つの態様では、本発明は、血管透過性を低下させるためまたは血管透過性の上昇を阻害するために有用な組成物および方法を提供する。1つの態様では、本発明は、血管外漏出が、組織損傷、炎症、水腫、腫脹、ショック、疾患、または血管透過性異常に関連する他の状態または障害に寄与するまたは前記によって引き起こされる、疾患、障害または状態を治療するために被験体に投与し得る、タンパク質複合体の機能または活性の阻害剤を含む組成物を提供する。そのような疾患および損傷は、機械的または他の肺損傷、発作および心筋梗塞を含むが、これらに限定されない。1つの態様では、本発明は、急性肺損傷において液体輸送を阻害するための組成物および方法を提供する。もう1つの態様では、本発明は、インビボで炎症性物質によって誘導される組織での血管透過性を低下させるまたは血管透過性の上昇を阻害するための組成物および方法を提供する。1つの態様では、組織は肺組織である。本発明の化合物はまた、その必要のある被験体にもう1つ別の薬剤または薬物と共に投与することができる。
【0042】
1つの実施形態では、本発明は、その必要のある被験体において、PAK−PIX−GIT−MEK複合体および相互作用を崩壊させ、炎症および損傷による血管透過性を阻害するための本発明のペプチドの投与を提供する。PAK−PIX−GIT−MEK複合体を崩壊させるまたは細胞間結合から複合体を解離するために相互作用部位に関して競合するタンパク質フラグメントおよびペプチドは、血管透過性を低下させる。これらの配列は、TAT配列または細胞内へのタンパク質の輸送を促進する他の配列に融合することができる。これらの試薬は、血管外漏出が寄与因子である疾患において血管透過性を阻害するために使用できる。PIXαまたはPIXベータへのPAKの結合、GIT1またはGIT2へのPIXの結合、およびGIT1へのMEKの結合をブロックするために内因性相互作用部位に関して競合するタンパク質フラグメントは、PAKをErk活性化および細胞間結合の崩壊、ならびにMLCKへと結びつけるシグナル伝達経路を遮断する。
【0043】
1つの実施形態では、PAK阻害剤は、ドミナントネガティブ作用を及ぼすPAKからの配列を含む短いペプチドである(Kiossesら、2002,Circ.Res.90:697)。このペプチド
【0044】
【化8】
は、細胞への進入を促進するHIV TATタンパク質からの多塩基性配列
【0045】
【化9】
(Schwarzeら、1999,Science 285:1569)に融合した、PAKの最初のプロリンに富むドメインからの配列
【0046】
【化10】
から成る。前記ペプチド(配列番号6)は、完全長ドミナントネガティブ構築物と同様にPAK機能を阻害する。このペプチドはそれ自体ではPAKキナーゼ活性をブロックせず、その代わりに細胞間結合を含む作用部位からPAKを変位させ、これは細胞の収縮性、移動および透過性へのその作用を妨げるのに十分である。このペプチドを「PAKブロッキングペプチド」および「Nckブロッキングペプチド」と称する。
【0047】
もう1つの実施形態では、PAK阻害剤は、PAKキナーゼ活性をブロックする、PAKの自己阻害ドメインを含む。
【0048】
本開示はまた、本発明における使用のための他のPAKレギュレーターを包含する。付加的なPAKレギュレーターを同定するために有用なアッセイは、本文中、ならびにそれらの開示全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第6,248,549号および2004年7月15日公開の米国特許公開第20040138133号に述べられている。
【0049】
もう1つの実施形態では、PAK活性または機能のレギュレーターは、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのをブロックすることができる。1つの態様では、レギュレーターは他のタンパク質または分子と結合して、それらがPAKと相互作用することを阻害する。もう1つの態様では、レギュレーターはPAKと結合して、他のタンパク質または分子がPAKと結合することを阻害する。
【0050】
1つの実施形態では、本発明は、増殖因子、サイトカインおよび細菌毒素によって誘導される血管透過性上昇を抑制する方法を提供する。
【0051】
当業者は、本発明の阻害剤が、対象標的部位と相互作用するまたは結合することによる競合的阻害によって、または三次構造の変化を誘導することなどの、分子の作用を阻害することまたは何らかの方法で複合体形成または相互作用をブロックすることによって間接的に、作用し得ることを認識する。
【0052】
本発明はさらに、これらの相互作用およびシグナル伝達経路を崩壊させる他の種類の分子を提供する。1つの実施形態では、本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸配列を含む単離核酸を提供する。もう1つの実施形態では、本発明は、ここで述べるシグナル伝達経路のタンパク質に対するsiRNAを提供する。1つの態様では、siRNAはGITに対する。1つの態様では、siRNAは、配列番号8−11から成る群より選択される配列を含む。もう1つの態様では、阻害剤はMEKの阻害剤である。1つの態様では、MEKの阻害剤はUO126である。
【0053】
1つの実施形態では、本発明は、少なくとも1つの本発明のペプチドを被験体に投与するためのキットを提供する。
【0054】
1つの実施形態では、本発明は、ここで述べるタンパク質調節経路の阻害剤を同定するためのアッセイおよび方法を提供する。
【0055】
本発明の様々な態様と実施形態を以下でさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
(発明の詳細な説明)
略語
AID−自己阻害ドメイン
ARF−ADPリボシル化因子
BAEC−ウシ大動脈内皮細胞
dn−ドミナントネガティブ
ECL−増感化学発光
ERK−細胞外シグナル制御キナーゼ
bFGF−塩基性線維芽細胞増殖因子
FAK−フォーカルアドヒージョン(接着域)キナーゼ
FN−フィブロネクチン
GAP−GTPアーゼ活性化タンパク質
GIT−GRK相互作用性ARF GAP
GRK−Gタンパク質共役受容体キナーゼ
HRP−ホースラディッシュペルオキシダーゼ
HUVEC−ヒト臍帯静脈内皮細胞
ip−腹腔内
IP−免疫沈降法
MEK−MAP/ERKキナーゼ
MLC−ミオシン軽鎖
MLCK−ミオシン軽鎖キナーゼ
PAK−p21活性化プロテインキナーゼ
PIX−PAK相互作用性交換因子
PKL−パキシリンキナーゼリンカータンパク質
PBS−リン酸緩衝食塩水
SHD−Spa2相同性ドメイン
TBS−トリス緩衝食塩水
TNF−腫瘍壊死因子
VEGF−血管内皮増殖因子
WCL−全細胞溶解産物
wt−野生型
定義
本発明を説明し、特許請求するとき、以下の用語を以下に述べる定義に従って使用する。
【0057】
ここで使用する、「a」および「an」は、冠詞の文法上の目的語の1または2以上、すなわち少なくとも1を指す。例として、「an element」は1エレメントまたは2以上のエレメントを意味する。
【0058】
ここで使用する、「接着」という用語は、広く、もう1つ別の細胞、分子または他の基質への細胞の結合を指す。
【0059】
ここで使用する、「罹患細胞」という用語は、疾患、損傷または障害に罹患した被験体の細胞を指し、罹患細胞は、疾患または障害に罹患していない被験体に比べて変化した表現型を有する。
【0060】
細胞または組織は、それらが疾患または障害に罹患していない被験体における同じ細胞または組織に比べて変化した表現型を有する場合、疾患、損傷または障害に「罹患」している。
【0061】
疾患、状態または障害は、疾患または障害の症状の重症度、そのような症状が患者によって経験される頻度、またはその両方が低減する場合、「緩和」される。
【0062】
ここで使用する、「アミノ酸」は、以下の表に示すように、その正式名称によって、それに対応する3文字表記によって、またはそれに対応する1文字表記によって表される。
【0063】
【化11】
ここで使用する「アミノ酸」という表現は、天然および合成アミノ酸、およびDとLの両方のアミノ酸を含むことが意図されている。「標準アミノ酸」は、天然に生じるペプチドにおいて一般的に認められる20個の標準L−アミノ酸のいずれかを意味する。「非標準アミノ酸残基」は、合成によって作製されるかまたは天然ソースに由来するかに関わらず、標準アミノ酸以外の何らかのアミノ酸を意味する。ここで使用する、「合成アミノ酸」はまた、塩、アミノ酸誘導体(アミドなど)および置換体を含むがこれらに限定されない、化学修飾されたアミノ酸を包含する。本発明のペプチド内に含まれる、特にカルボキシまたはアミノ末端のアミノ酸は、メチル化、アミド化、アセチル化、またはそれらの活性に有害な影響を及ぼさずにペプチドの循環半減期を変化させることができる他の化学基での置換によって修飾できる。付加的に、ジスルフィド結合が本発明のペプチド内に存在してもよくまたは存在しなくてもよい。
【0064】
「アミノ酸」という用語は、「アミノ酸残基」と交換可能に使用され、遊離アミノ酸およびペプチドのアミノ酸残基を表わし得る。遊離アミノ酸を指すかまたはペプチドの残基を指すかは、その用語が使用される文脈から明らかである。
【0065】
アミノ酸は以下の一般構造:
【0066】
【化12】
を有する。
【0067】
アミノ酸は、側鎖Rに基づいて7つの群に分類し得る:(1)脂肪族側鎖;(2)ヒドロキシル(OH)基を含む側鎖;(3)硫黄原子を含む側鎖;(4)酸性またはアミド基を含む側鎖;(5)塩基性基を含む側鎖;(6)芳香環を含む側鎖;および(7)側鎖がアミノ基に融合しているイミノ酸である、プロリン。
【0068】
ここで使用する、「保存的アミノ酸置換」は、以下の5つの群の1つの中での交換と定義される:
I.低分子脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性で負に荷電した残基およびそれらのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III.極性で正に荷電した残基:
His、Arg、Lys;
IV.大型の脂肪族、非極性残基:
Met、Leu、Ile、Val、Cys
V.大型の芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0069】
本発明のペプチド化合物を表わすために使用される用語は、アミノ基が各々のアミノ酸残基の左側に表示され、カルボキシ基が右側に表示される従来の慣例に従う。本発明の選択特定実施形態を示す式では、アミノおよびカルボキシ末端基は、特定して示さないが、異なる記載がない限り、それらが生理的pH値でとる形態であることが了解される。
【0070】
ここで使用する、「塩基性」または「正に荷電した」アミノ酸という用語は、R基がpH7.0で正味正電荷を有するアミノ酸を指し、標準アミノ酸リシン、アルギニンおよびヒスチジンを含むが、これらに限定されない。
【0071】
ここで使用する、化合物の「類似体」は、例として、構造的にもう1つ別の化合物に類似するが、必ずしも異性体ではない化合物である(たとえば5−フルオロウラシルはチミンの類似体である)。
【0072】
ここで使用する「抗体」という用語は、抗原上の特定エピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然ソースまたは組換えソースに由来する無傷免疫グロブリンであり得、および無傷免疫グロブリンの免疫反応性部分であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る(Harlowら、1999,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlowら、1989,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York;Houstonら、1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Birdら、1988,Science 242:423−426)。
【0073】
ここで使用する「合成抗体」という用語により、たとえばここで述べるようなバクテリオファージによって発現される抗体などの、組換えDNA技術を用いて作製される抗体が意味される。この用語はまた、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製され、前記DNA分子が抗体タンパク質または抗体を規定するアミノ酸配列を発現する抗体を意味すると解釈されるべきであり、前記DNAまたはアミノ酸配列は、当技術分野において使用可能であり、周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を用いて得られたものである。
【0074】
ここで使用する、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、少なくともその一部が、正常細胞または罹患細胞中に存在する核酸に相補的である、核酸重合体を意味する。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの他の修飾物を含むが、これらに限定されない。オリゴヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドおよびさもなければ修飾オリゴヌクレオチドを合成するための方法は当技術分野において周知である(米国特許第5,034,506号;Nielsenら、1991,Science 254:1497)。「アンチセンス」は、特に、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、または非コード鎖に実質的に相同な配列を指す。ここで定義されるように、アンチセンス配列は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列に相補的である。アンチセンス配列は、DNA分子のコード鎖のコード部分にだけ相補的である必要はない。アンチセンス配列は、タンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上で規定される、コード配列の発現を制御する調節配列に相補的であってもよい。
【0075】
ここで使用する、ポリペプチドの「生物学的に活性なフラグメント」または「生物活性フラグメント」という用語は、それらの天然リガンドに特異結合することができるまたはタンパク質の機能を実行することができる、完全長タンパク質の天然または合成部分を包含する。
【0076】
「対照」細胞は、試験細胞と同じ細胞型を有する細胞である。対照細胞は、たとえば試験細胞が検査されるのと厳密にまたはほぼ同時に検査され得る。対照細胞はまた、たとえば試験細胞が検査される時点と離れた時点で検査されてもよく、対照細胞の検査の結果は、記録された結果を試験細胞の検査によって得られた結果と比較し得るように記録され得る。
【0077】
「試験」細胞は、検査される細胞である。
【0078】
「病理指示」細胞は、組織中に存在するとき、その組織が位置する(またはその組織が得られた)動物が疾患または障害に罹患していることの指標である細胞である。
【0079】
「病原性」細胞は、組織中に存在するとき、その組織が位置する(またはその組織が得られた)動物において疾患または障害を引き起こすあるいは疾患または障害に寄与する細胞である。
【0080】
組織は、細胞の1またはそれ以上が疾患または障害に罹患していない動物の組織中に存在する場合、細胞を「正常に含む」。
【0081】
「競合配列」という用語は、そのコグネイト結合部位に関してもう1つ別のペプチドと競合するペプチド、またはその修飾物、フラグメント、誘導体またはホモログを指す。
【0082】
「相補的」とは、2本の核酸鎖の領域の間または同じ核酸鎖の2つの領域の間での配列相補性の広い概念を指す。第一核酸領域のアデニン残基は、第一領域に逆平行である第二核酸領域の残基と、その残基がチミンまたはウラシルである場合特異的水素結合を形成することができる(塩基対合)ことは公知である。ここで使用する、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合規則によって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)に関して使用される。たとえば配列「A−G−T」に関しては、配列「T−C−A」が相補的である。
【0083】
同様に、第一核酸鎖のシトシン残基は、第一鎖に逆平行である第二核酸鎖の残基と、その残基がグアニンである場合塩基対合できることは公知である。2つの領域を逆平行に配置したとき、第一領域の少なくとも1個のヌクレオチド残基が第二領域の残基と塩基対合できる場合、核酸の第一領域は、同じ核酸または異なる核酸の第二領域に相補的である。好ましくは、第一領域は第一部分を含み、第二領域は第二部分を含み、それにより、第一と第二部分を逆平行に配置したとき、第一部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%が第二部分のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。より好ましくは、第一部分のすべてのヌクレオチド残基が第二部分内のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。
【0084】
タンパク質に関してここで使用する、「複合体」という用語は、2またはそれ以上のタンパク質の結合または相互作用を指す。複合体形成または相互作用は、結合、三次構造の変化、およびリン酸化などの、あるタンパク質のもう1つ別のタンパク質による修飾を含み得る。
【0085】
ここで使用する、「化合物」は、一般的に薬剤とみなされる何らかの種類の物質または作用因子、または薬剤としての使用のための候補物質、ポリペプチド、単離核酸、抗体、または本発明の方法において使用される他の物質、ならびにそれらの何らかの組合せを指す。
【0086】
ここで使用する、「検出可能マーカー」または「レポーター遺伝子」は、マーカーを持たない類似化合物の存在下でマーカーを含む化合物の特異的検出を可能にする原子または分子である。検出可能マーカーまたはレポーター遺伝子は、たとえば放射性同位体、抗原決定基、酵素、ハイブリダイゼーションのために使用可能な核酸、発色団、発蛍光団、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、および変化した蛍光−偏光または変化した光散乱を提供する分子を含む。
【0087】
「疾患」は、動物がホメオスタシスを維持することができず、疾患が改善されない場合動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態である。
【0088】
これに対し、動物における「障害」は、動物はホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康状態が障害のない場合よりも良好でない、健康状態である。処置せずに放置した場合、障害は必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起すわけではない。
【0089】
「コードする」は、ヌクレオチドの定義された配列(すなわちrRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の定義された配列をおよびそれらから生じる生物学的性質を有する、生物学的過程において他の重合体および高分子の合成のための鋳型として働く、
遺伝子、cDNAまたはmRNAなどの、ポリヌクレオチド内のヌクレオチドの特定配列の固有の性質を指す。それゆえ、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を生産する場合、タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列表において提供されるコード鎖、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方を、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称することができる。
【0090】
異なる記載がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチドはイントロンを含み得る。
【0091】
「エンハンサー」は、転写開始部位に対するエンハンサーの距離または方向に関わりなく、転写の効率を高めることができるDNA調節エレメントである。
【0092】
ここで使用する、特定タンパク質またはペプチドの「基本的に純粋な」製剤は、製剤中のタンパク質またはペプチド少なくとも約95重量%、好ましくは少なくとも約99重量%がその特定タンパク質またはペプチドである製剤である。
【0093】
「フラグメント」または「セグメント」は、少なくとも1個のアミノ酸を含むアミノ酸配列の部分、または少なくとも1個のヌクレオチドを含む核酸配列の部分である。「フラグメント」および「セグメント」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0094】
ここで使用する、「機能性」生物分子は、その分子を特徴づける性質または活性を示す形態の生物分子である。機能性酵素は、たとえばその酵素を特徴づける特徴的な触媒活性を示すものである。
【0095】
ここで使用する「相同」は、2個の重合体分子の間、たとえば2個の核酸分子、たとえば2個のDNA分子または2個のRNA分子の間、または2個のペプチド分子の間でのサブユニット配列類似性を指す。2個の分子の両方のサブユニット部分が同じ単量体サブユニットによって占められるとき、たとえば2個のDNA分子の各々におけるある位置がアデニンによって占められる場合、それらはその位置において相同である。2つの配列間の相同性は、マッチングの数または相同な位置の数の直接の関数であり、たとえば2つの化合物配列内の位置の半数(たとえば10サブユニットの長さの高分子内の5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、位置の90%、たとえば10のうち9がマッチするまたは相同である場合、2つの配列は90%の相同性を共有する。例として、DNA配列3’ATTGCC5’と3’TATGGCは50%の相同性を共有する。
【0096】
ここで使用する、「相同性」は、「同一性」と同義に使用される。
【0097】
2個のヌクレオチドまたはアミノ酸配列のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実施できる。たとえば2個の配列を比較するために有用な数学的アルゴリズムは、KarlinとAltschul(1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)において修正された、KarlinとAltschul(1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268)のアルゴリズムである。このアルゴリズムは、Altschulら(1990,J.Mol.Biol.215:403−410)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれており、たとえばthe National Center for Biotechnology Information(NCBI)の世界的ウエブサイトでアクセスできる。BLASTヌクレオチド検索は、ここで述べる核酸に相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム(NCBIウエブサイトでは「blastn」と称される)で以下のパラメータを用いて実施できる:ギャップペナルティ=5;ギャップエクステンションペナルティ=2;ミスマッチペナルティ=3;マッチ加算=1;期待値10.0;およびワードサイズ=11。BLASTタンパク質検索は、ここで述べるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム(NCBIウエブサイトでは「blastn」と称される)で以下のパラメータを用いて実施できる:期待値10.0、BLOSUM62スコア行列。比較目的でギャップ付きアラインメントを得るため、Altschulら(1997,Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に述べられているようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI−BlastまたはPHI−Blastは、分子間の遠い関係(Id.)および共通パターンを共有する分子間の関係を検出する反復検索を実施するために使用できる。BLAST、Gapped BLAST、PSI−BlastおよびPHI−Blastプログラムを利用するときは、それぞれのプログラム(たとえばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用できる。
【0098】
2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップを導入するかまたは導入せずに、上述したのと同様の手法を用いて決定することができる。パーセント同一性を算定するとき、典型的には正確なマッチを計数する。
【0099】
ここで使用する、「阻害する」という用語は、化合物または何らかの物質が記述される機能を低下させるまたは妨げる能力を指す。好ましくは、阻害は少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに一層好ましくは少なくとも50%であり、最も好ましくは、機能が少なくとも75%阻害される。
【0100】
ここで使用する、「複合体を阻害する」という用語は、2またはそれ以上のタンパク質の複合体の形成または相互作用を阻害すること、ならびに複合体の機能または活性を阻害することを指す。この用語はまた、形成された複合体を崩壊させることを包含する。しかし、この用語は、これらの機能の各々すべてが同時に阻害されなければならないことを意味しない。
【0101】
ここで使用する、「タンパク質を阻害する」という用語は、タンパク質の合成、レベル、活性または機能を阻害する何らかの方法または手法、ならびに対象タンパク質の合成、レベル、活性または機能の誘導または刺激を阻害する方法を指す。この用語はまた、対象タンパク質の合成、レベル、活性または機能を調節することができる何らかの代謝または調節経路を指す。この用語は、他の分子との結合および複合体形成を含む。それゆえ、「タンパク質阻害剤」という用語は、その適用がタンパク質機能またはタンパク質経路機能の阻害を生じさせる、何らかの物質または化合物を指す。しかし、この用語は、これらの機能の各々すべてが同時に阻害されなければならないことを意味しない。
【0102】
「単離核酸」は、天然に生じる状態でそれに隣接している配列から分離された核酸セグメントまたはフラグメント、たとえば通常そのフラグメントに隣接している配列、たとえばそれが天然に生じるゲノム内でそのフラグメントに隣接している配列から取り出されたDNAフラグメントを指す。この用語はまた、天然で核酸に付随する他の成分、たとえば細胞において天然で核酸に付随するRNAまたはDNAまたはタンパク質から実質的に精製された核酸にも適用される。この用語はそれゆえ、たとえばベクター、自律複製プラスミドまたはウイルス、または原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれた、または他の配列とは独立して別個の分子として(たとえばcDNAとしてあるいはPCRまたは制限酵素消化によって生産されるゲノムまたはcDNAフラグメントとして)存在する、組換えDNAを包含する。この用語はまた、付加的なポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の部分である組換えDNAを含む。
【0103】
異なる記載がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチドはイントロンを含み得る。
【0104】
ここで使用する、「指示書(instructional material)」は、ここで列挙する様々な疾患または障害の緩和を生じさせるためのキットにおいて本発明の化合物の有用性を伝えるために使用できる出版物、記録、図表、または他の表現媒体を含む。場合によりまたは選択的に、指示書は、哺乳動物の細胞または組織において疾患または障害を緩和する1またはそれ以上の方法を記述し得る。本発明のキットの指示書は、たとえば、同定された本発明の化合物を含む容器に貼付され得るかまたは同定された化合物を含む容器と共に発送され得る。あるいは、指示書は、指示書と化合物が受容者によって協調的に使用されることを意図して容器とは別に発送され得る。
【0105】
ここで使用する、「リガンド」は、標的化合物または分子に特異的に結合する化合物である。リガンドは、そのリガンドが不均一な化合物の試料中でその化合物の存在を決定する結合反応において機能するとき、化合物「に特異的に結合する」または化合物「と特異的に反応性である」。
【0106】
ここで使用する、「連結」という用語は、2つの群の間の結合を指す。結合は、イオン結合、水素結合、および疎水性/親水性相互作用を含むがこれらに限定されない、共有結合または非共有結合であり得る。
【0107】
ここで使用する、「リンカー」という用語は、たとえばイオンまたは水素結合またはファンデルワールス相互作用を通して、共有結合または非共有結合によって2個の他の分子を連結する分子を指す。
【0108】
ここで使用する、「核酸」という用語は、RNAならびに一本鎖または二本鎖DNAまたはcDNAを包含する。さらに、「核酸」、「DNA」、「RNA」という用語および類似の用語はまた、核酸類似体、すなわちホスホジエステル以外の骨格を有する類似体である。たとえば、当技術分野において公知であり、骨格内にホスホジエステル結合ではなくペプチド結合を有する、いわゆる「ペプチド核酸」は、本発明の範囲内とみなされる。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドから成り、およびホスホジエステル結合またはホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合などの修飾結合、およびそのような結合の組合せから成る、何らかの核酸を意味する。核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。ここではポリヌクレオチド配列を表わすために従来の表示法を使用する:一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端は5’末端である;二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向を5’方向と称する。新生RNA転写産物に対する5’から3’へのヌクレオチドの付加の方向を転写方向と称する。mRNAと同じ配列を有するDNA鎖を「コード鎖」と称する;DNA上の標準点に対して5’側に位置するDNA鎖上の配列を「上流配列」と称する;DNA上の標準点に対して3’側にあるDNA鎖上の配列を「下流配列」と称する。
【0109】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には短いポリヌクレオチド、一般に約50以下のヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわちA、T、G、C)によって表わされるとき、これはまた、「U」が「T」に取って代わるRNA配列(すなわちA、U、G、C)も包含することが了解される。
【0110】
「作動可能に連結された」は、成分がそれらの通常の機能を実行するように構成された並列を指す。それゆえ、コード配列に作動可能に連結された制御配列またはプロモーターは、コード配列の発現を生じさせることができる。2個のポリヌクレオチドを「作動可能に連結された」と表わすことにより、一本鎖または二本鎖核酸部分が、2個のポリヌクレオチドの少なくとも1個がそれを特徴づける生理的作用を他方に及ぼすことができるように核酸部分内に配置された2個のポリヌクレオチドを含むことが意味される。例として、遺伝子のコード領域に作動可能に連結されたプロモーターは、コード領域の転写を促進することができる。
【0111】
ここで使用する、「PAK機能」という用語は、他の分子とのPAK結合、キナーゼ活性、自己リン酸化、トランスロケーション、他の分子による活性化等を含むがこれらに限定されない、p21活性化キナーゼの何らかの活性または機能を指す。「PAK機能」は、ここでは「PAK活性」と交換可能に使用される。ここで使用する、「PAKの阻害」は、PAK合成を阻害することを含む、何らかのPAK活性または機能を阻害することを指す。
【0112】
「PAKブロッキングペプチド」、「TAT−PAK−N末端ペプチド」および「Nckブロッキングペプチド」という用語は、配列番号6のペプチドを指し、これらの用語はここでは交換可能に使用される。配列番号の成分である、配列番号7。
【0113】
ここで述べる「PIXブロッキングペプチド」、「PIX結合ペプチド」等の用語は、配列番号4のペプチドなどの、PIXとPAKの相互作用をブロックするペプチドを指し、これらの用語はここでは交換可能に使用される。
【0114】
「ペプチド」という用語は、典型的には短いポリペプチドを指す。
【0115】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に生じる構造変異体、およびペプチド結合によって連結されたその合成の非天然に生じる類似体、関連する天然に生じる構造変異体、およびその合成の非天然に生じる類似体から成る重合体を指す。合成ポリペプチドは、たとえば自動ポリペプチド合成装置を用いて合成することができる。
【0116】
「タンパク質」という用語は、大きなポリペプチドを指す。
【0117】
「組換えポリペプチド」は、組換えポリヌクレオチドの発現時に生産されるものである。
【0118】
ペプチドは、天然に生じるまたは合成(非天然に生じる)アミノ酸である、2またはそれ以上のアミノ酸の配列を含む。ペプチドミメティックは、以下の修飾の1またはそれ以上を有するペプチドを含む:
1.ペプチジル−C(O)NR−結合の1またはそれ以上が、−CH2−カルバメート結合(−CH2OC(O)NR−)、ホスホネート結合、−CH2スルホンアミド(−CH2−S(O)2NR−)結合、尿素(−NHC(O)NH−)結合、−CH2−第二級アミン結合などの非ペプチジル結合によって、またはアルキル化ペプチジル結合(−C(O)NR−)[式中、RはC1−C4アルキルである]で置換されたペプチド;
2.N末端が、−NRR1基、−NRC(O)R基、−NRC(O)OR基、−NRS(O)2R基、−NHC(O)NHR基[式中、RおよびR1は、RとR1の両方が同時に水素ではないことを条件として、水素またはC1−C4アルキルである]に誘導体化されているペプチド;
3.C末端が、−C(O)R2[式中、R2はC1−C4アルコキシから成る群より選択される]、および−NR3R4[式中、R3とR4は、水素およびC1−C4アルキルから成る群より独立して選択される]に誘導体化されているペプチド。
【0119】
ここで使用する、「透過性」という用語は、細胞および組織の間のまたは細胞および組織を通しての液体、細胞またはデブリの通過を指す。
【0120】
ここで使用する、「医薬的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水または水/油乳剤などの乳剤、および様々な種類の湿潤剤などの、標準的な医薬担体を含む。この用語はまた、ヒトを含む動物における使用に関して米国連邦政府の規制当局によって認可されたまたは米国薬局方に記載されている物質を包含する。
【0121】
ここで使用する、末端アミノ基に関する「保護基」は、ペプチド合成において伝統的に使用される様々なアミノ末端保護基のいずれかと結合している、ペプチドの末端アミノ基を指す。そのような保護基は、たとえばホルミル、アセチル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル、スクシニルおよびメトキシスクシニルなどのアシル保護基;ベンジルオキシカルボニルなどの芳香族ウレタン保護基;および脂肪族ウレタン保護基、たとえばtert−ブトキシカルボニルまたはアダマンチルオキシカルボニルを含む。適切な保護基に関してはGrossとMienhofer編集、The Peptides,vol.3,p.3−88(Academic Press,New York,1981)参照。
【0122】
ここで使用する、末端カルボキシ基に関する「保護基」は、様々なカルボキシル末端保護基のいずれかと結合している、ペプチドの末端カルボキシル基を指す。そのような保護基は、たとえばtert−ブチル、ベンジル、あるいはエステルまたはエーテル結合を通して末端カルボキシル基に連結された他の許容される基を含む。
【0123】
ここで使用される、「精製」という用語および同様の用語は、ある分子または化合物が天然環境において通常関連する他の成分と比較してその分子または化合物の富化に関する。「精製」という用語は、必ずしもその工程の間に特定分子の完全な純度が達成されることを指示しない。ここで使用する「高度精製」化合物は、90%以上純粋である化合物を指す。
【0124】
ここで使用する、「タンパク質調節経路」という用語は、タンパク質を調節する上流調節経路、ならびにそのタンパク質が調節する下流事象の両方を指す。そのような調節は、対象タンパク質の転写、翻訳、レベル、活性、翻訳後修飾および機能、ならびにそのタンパク質が調節する下流事象を含むが、これらに限定されない。
【0125】
「タンパク質経路」および「タンパク質調節経路」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0126】
「調節する」という用語は、対象機能または活性を刺激することまたは阻害することのいずれかを指す。
【0127】
ここで使用する、「特異的に結合する」という用語により、特定タンパク質を認識し、結合するが、試料中の他の分子を実質的に認識しないまたは結合しない化合物が意味されるか、またはこの用語は、細胞調節過程の一部として、試料中の他のタンパク質を実質的に認識しないまたは結合しない2またはそれ以上のタンパク質の間の結合を意味する。
【0128】
ここで使用する、「標準品」という用語は、比較のために使用される何らかのものを指す。たとえば標準品は、試料中のある化合物を測定するとき、結果を比較するために投与されるかまたは対照試料に添加されて使用される公知の標準物質または化合物であり得る。標準品はまた、既知量で試料に添加され、対象マーカーを測定する前に試料を処理するあるいは精製または抽出工程に供するとき、精製または回収率などの事項を測定する上で有用である物質または化合物などの「内部標準」も表わすことができる。
【0129】
診断または治療の「被験体」は、ヒトを含む哺乳動物である。
【0130】
ここで使用する、「治療する」という用語は、特定疾患、障害または状態の予防、あるいは特定疾患、障害または状態に関連する症状の緩和および/または前記症状を予防または排除することを含む。「予防的」処置は、疾患に関連する病変を発現する危険度を低下させるために、疾患の徴候を示していないまたは疾患の初期徴候だけを示している被験体に投与される治療である。
【0131】
「治療的」処置は、疾病の徴候を示している被験体に、それらの徴候を低減するまたは排除するために投与される治療である。
【0132】
化合物の「治療有効量」は、その化合物が投与される被験体に有益な作用を提供するために十分な化合物の量である。
【0133】
ここで使用する、「血管外漏出関連疾患または障害」等の語句は、血管外漏出を生じさせるまたは血管外漏出に関連する疾患、障害、損傷または病的状態を指す。それゆえこの語句は、血管外漏出が起こるいかなる状態も指す。血管外漏出または血管透過性の変化は、多くの疾患、障害、損傷および病的状態で起こる。たとえばそのような病的状態または刺激は、組織損傷、虚血、炎症、発作、創傷治癒、急性呼吸窮迫症候群、高血圧、心筋梗塞、敗血症、低酸素症、感染、アレルギー反応、熱損傷、x線照射および紫外線照射を含むが、これらに限定されない。加えて、血管外漏出は多くの疾患において局所的組織炎症に結びつく。「血管外漏出関連疾患または障害」という用語は、ここでは「血管透過性関連疾患または障害」と交換可能に使用される。
【0134】
(発明の実施形態)
本発明は、血管透過性を調節するための組成物および方法を対象とする。本発明は、少なくとも一部には、PAK機能をブロックすることが血管外への液体漏出を抑制するという発見に基づく。1つの態様では、損傷に応答した血管外液体漏出が抑制される。本発明はさらに、ミオシン軽鎖のリン酸化の誘導などのPAKの活性がMEKおよびErkによって媒介されることを開示する。本発明はさらに、ErkがPAKによって活性化されることを開示する。本発明はさらに、Erkの活性化がPAK、PIXおよびGIT1の間の複合体の完全性を必要とし、それが次にMEKを通して作用することを開示する。本発明は、それゆえ、血管透過性の刺激を阻害するためにPAK/PIX/GIT1の複合体を崩壊させる、ならびに前記複合体がMEKおよびErk経路として働くのでそれを崩壊させる手段を対象とする。本発明はさらに、血管透過性上昇を抑制するための手段としてErk活性化またはその経路を阻害することを包含する。
【0135】
1つの実施形態では、本発明は、PIXへのPAKの結合をブロックすることによって血管透過性を抑制する方法を提供する。1つの態様では、本発明は、PIXへのPAKの結合をブロックするペプチドを提供する。1つの態様では、ペプチドは、配列番号1および4、それらのホモログ、誘導体および修飾物から成る群より選択される配列を含む配列を有する。
【0136】
1つの実施形態では、本発明は、MEKとGITの相互作用を阻害することによって血管透過性を抑制する方法を提供する。本発明は、ペプチド、抗体およびsiRNAを含むが、これらに限定されない阻害剤を提供する。
【0137】
1つの実施形態では、本発明は、GITへのPIXの結合をブロックすることによって血管透過性を抑制する方法を提供する。1つの態様では、GITはGIT1である。もう1つの態様では、GITはGIT2である。1つの態様では、本発明は、GITへのPIXの結合をブロックするペプチドを提供する。1つの態様では、ペプチドは配列番号2の配列を含む。1つの態様では、PIXはPIXαである。もう1つの態様では、PIXはPIXβである。
【0138】
本発明はまた、本発明における使用のための他のPAKレギュレーターを包含する。付加的なPAKレギュレーターを同定するために有用なアッセイは、本文中ならびにそれらの開示全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第6,248,549号および米国特許公開第20040138133号に述べられている。
【0139】
もう1つの実施形態では、PAK活性または機能のレギュレーターは、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのをブロックすることができる。1つの態様では、レギュレーターは他のタンパク質または分子と結合して、それらがPAKと相互作用するのを阻害する。もう1つの態様では、レギュレーターはPAKに結合して、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのを阻害する。1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIXとPAKの相互作用を阻害する。1つの態様では、阻害剤はペプチドである。1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体を含む配列を有する。もう1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体である。
【0140】
1つの実施形態では、本発明の阻害剤はPIX−GIT複合体の形成を阻害する。もう1つの態様では、PIX−GIT複合体の機能が阻害される。1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIX−GIT複合体がPAKの下流でErk活性化を促進するのを阻害する。さらにもう1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIX−GIT複合体がPAKの下流でMLCK活性化を促進するのを阻害する。1つの態様では、阻害剤はペプチドである。1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体を含む配列を有する。
【0141】
1つの実施形態では、本発明の阻害剤はPAK/PIX/GIT複合体の形成を阻害する。もう1つの実施形態では、本発明の阻害剤は、PAK/PIX/GIT/MEK複合体の形成または機能を阻害する。
【0142】
本出願は、ここで同定する経路をブロックするためのsiRNAの使用を開示する。1つの態様では、siRNAはGIT1を対象とする。さらなる態様では、第一siRNAを、第一siRNAとわずかに異なる配列を有する第二siRNAと組み合わせて使用することができ、あるいは第二siRNAは全く異なる配列を対象とし得る。1つの態様では、GIT1に対するsiRNAは、配列番号8−11から成る群より選択される配列を含む。本発明のsiRNAはさらに、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ここで述べるペプチドをコードする核酸、アプタマー、抗体、キナーゼ阻害剤、および薬剤/作用物質/化合物などの、ここで述べるまたは当技術分野において公知の他のレギュレーターと共に使用することができる。
【0143】
当業者が、化合物がPAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKのシグナル伝達および調節経路の成分を調節するかどうかを観測するための多くのアッセイおよび方法が、ここで述べられるかまたは当技術分野において公知であり、これらのアッセイおよび方法は本発明の方法に包含される。そのようなアッセイはまた、タンパク質および経路のレギュレーターを同定するために有用である。
【0144】
たとえばPAK活性および機能は、PAKリン酸化および細胞間結合へのトランスロケーションなどの事象を検定することによって観測できる。そのようなアッセイは、Schwartzら(その内容全体が参照によりここに組み込まれる、2005年10月20日公開の米国特許公開第2005/0233965号)に述べられている。PAK−1、−2および−3は、AIDと命名された調節N末端内の配列とキナーゼドメインの相互作用によって不活性コンフォメーションに保持されている(Bokochら、Annu.Rev.Biochem.,2003,72:743)。PAKへの活性化RacまたはCdc42の結合は、PAKキナーゼ活性の持続的上昇を与えるいくつかの部位の自己リン酸化を導く(Gattiら、J.Biol.Chem.,1999,274:32565;Chongら、J.Biol.Chem.,2001,276:17347)。これらの部位の1つである、PAK2内のSer141(PAK1内のSer144に対応する)はAID内であり、そのリン酸化は、キナーゼドメインとAIDの相互作用をブロックすることによって活性化に寄与する。内皮細胞において活性化PAKを局在化するため、リン酸化Ser141部位を特異的に認識する抗体を使用することができる。
【0145】
試験化合物/阻害剤に応答した内皮細胞におけるPAKリン酸化を評価するため、化合物を、18時間血清飢餓させ(0.5%血清)、その後10%血清で刺激し得る、集密ウシ大動脈およびヒト臍帯静脈内皮細胞(それぞれBAECおよびHUVEC)を用いて血清の作用と比較することができる。抗ホスホ−PAK Ser141抗体によるウエスタンブロット法が、PAKリン酸化の変化を検定するために使用できる。同様に処置した細胞の抗ホスホ−PAK Ser141(pPAK)による蛍光染色は、タンパク質の活性画分が主として細胞間結合に局在するかどうかを検定することにより、血清、無処置および試験化合物に応答したPAKリン酸化の変化を指示するために使用できる。
【0146】
本発明はさらに、ここで述べるタンパク質および経路のレギュレーターを同定するための酵母ツーハイブリッドシステムの使用を包含する。そのようなレギュレーターは、薬剤、化合物、ペプチド、核酸等であり得る。そのようなレギュレーターは、内因性レギュレーターを含み得る。
【0147】
一般に、酵母ツーハイブリッドアッセイは、新規タンパク質間相互作用およびそれらの相互作用を変化させる化合物を同定することができる。多くの異なるタンパク質を潜在的結合パートナーとして使用することにより、これまで特性決定されていなかった相互作用を検出することが可能である。第二に、酵母ツーハイブリッドアッセイは、起こることが既に知られている相互作用を特性決定するために使用できる。特性決定は、トランケート型タンパク質を使用することにより、どのタンパク質ドメインが相互作用の責任を担うか、または細胞内環境を変化させることにより、どのような条件下で相互作用が起こるかを判定することを含み得る。これらのアッセイはまた、相互作用の調節因子をスクリーニングするためにも使用できる。
【0148】
本発明は、ここで述べるタンパク質相互作用および経路のアゴニスト(刺激する)またはアンタゴニスト(阻害する)として働く化合物を同定するために化合物をスクリーニングする方法を包含する。アンタゴニスト化合物候補物質についてのスクリーニングアッセイは、ここで述べるペプチドと結合するまたは複合する、またはさもなければ他の細胞タンパク質とペプチドの相互作用に干渉する化合物を同定するように設計される。そのようなスクリーニングアッセイは、アッセイを、低分子薬剤候補物質を同定するために特に適したものにする、化学物質ライブラリーのハイスループットスクリーニングに適合させやすいアッセイを含む。
【0149】
アッセイは、当技術分野において広く特性決定されている、タンパク質間結合アッセイ、生化学的スクリーニングアッセイ、免疫測定法、および細胞ベースのアッセイを含む、様々な形式で実施することができる。
【0150】
アンタゴニストについてのすべてのアッセイは、化合物または薬剤候補物質を、これら2つの成分が相互作用するために十分な条件下で十分な時間、ここで同定されるペプチドと接触させることを必要とするという点で共通する。
【0151】
結合アッセイでは、相互作用は結合であり、形成される複合体を反応混合物中で単離または検出することができる。特定実施形態では、ここで述べる複合体のペプチドの1つ、あるいは試験化合物または薬剤候補物質を、共有結合または非共有結合によって固相、たとえばマイクロタイタープレートに固定化する。非共有結合は一般に、固体表面をペプチドの溶液で被覆し、乾燥することによって達成される。あるいは、固定化するペプチドに特異的な固定化抗体、たとえばモノクローナル抗体が、ペプチドを固体表面につなぎ止めるために使用できる。アッセイは、検出可能標識によって標識され得る非固定化成分を、固定化成分、たとえばつなぎ止められた成分を含む被覆表面に添加することによって実施される。反応が完了したとき、非反応成分を、たとえば洗浄によって除去し、固体表面につなぎ止められた複合体を検出する。最初に非固定化成分が検出可能標識を担持するときは、表面に固定化された標識の検出は複合体形成が起こったことを指示する。最初に非固定化成分が標識を担持していない場合は、たとえば固定化された複合体に特異的に結合する標識抗体を使用することによって複合体形成を検出することができる。
【0152】
候補化合物が、ここで同定される特定ペプチドと相互作用するが結合しない場合、候補化合物とそのペプチドの相互作用は、タンパク質間相互作用を検出するための周知の方法によって検定することができる。そのようなアッセイは、たとえば架橋、共免疫沈降、および勾配またはクロマトグラフィーカラムを通しての共精製などの伝統的アプローチを含む。加えて、タンパク質間相互作用は、ChevrayとNathans, Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5789−5793(1991)によって開示されたように、Fieldsと共同研究者たち(Fieldsと Song,Nature(London),340:245−246(1989);Chienら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:9578−9582 (1991))によって記述された酵母ベースの遺伝子系を用いることによって観測できる。ツーハイブリッド手法を用いて2個の特定タンパク質の間のタンパク質間相互作用を同定するための完全なキットが入手可能である。このシステムはまた、特定のタンパク質相互作用に関与するタンパク質ドメインを位置特定することならびにこれらの相互作用にとって決定的に重要なアミノ酸残基を正確に示すことに拡大できる。
【0153】
ここで同定するペプチドおよび他の細胞内または細胞外成分の相互作用に干渉する化合物を以下のように試験することができる:通常、遺伝子の産物および細胞内または細胞外成分を含む反応混合物を、2つの産物の相互作用と結合を許容する条件下と時間で調製する。候補化合物が結合を阻害する能力を調べるため、試験化合物の不在下と存在下で反応を実施する。加えて、陽性対照として使用するためのプラセボを3番目の反応混合物に添加し得る。試験化合物と混合物中に存在する細胞内または細胞外成分の間の結合(複合体形成)をここで上述したように観測する。対照反応では複合体が形成されるが、試験化合物を含む反応混合物では複合体が形成されないことは、試験化合物が試験化合物とその反応パートナーの相互作用を妨げることを指示する。
【0154】
アンタゴニストを検定するために、ペプチドを特定活性に関してスクリーニングする化合物と共に細胞に添加してもよく、化合物がペプチドの存在下で対象活性を阻害する能力は、化合物がペプチドに対するアンタゴニストであることを指示する。ペプチドは、放射能などによって標識することができる。
【0155】
phylomers(登録商標)の使用および逆酵母ツーハイブリッドアッセイ(Watt,2006,Nature Biotechnology,24:177;Watt,米国特許第6,994,982号;Watt,米国特許効果第2005/0287580号;Watt,米国特許公開第6,510,495号;Barrら、2004,J.Biol.Chem.,279:41:43178−43189参照;これらの出版物の各々の内容は、その全体が参照によりここに組み込まれる)などの、他のアッセイおよびライブラリーも本発明に包含される。Phylomers(登録商標)は天然タンパク質のサブドメインに由来し、それらを従来の短いランダムなペプチドよりも潜在的に安定にする。Phylomers(登録商標)は、ヒト起源ではない生物ゲノムから供給される。この特徴は、ヒトタンパク質標的に対してのPhylomers(登録商標)に関連する効力を有意に増強する。Phylogicaの現在のPhylomers(登録商標)ライブラリー5000万クローンの複雑度を有し、これはランダムペプチドまたは抗体Fabフラグメントライブラリーの数的複雑度に匹敵する。B42活性化ドメインに融合した6300万ペプチドから成る、相互作用ペプチドライブラリーは、正の酵母ツーハイブリッドスクリーニングにおいて標的タンパク質に結合することができるペプチドを単離するために使用できる。2番目は、逆ツーハイブリッドシステムを用いて特定タンパク質相互作用を崩壊させることができるペプチドをスクリーニングするために使用できる、200万を超えるペプチドから構成されるブロッキングペプチドライブラリーである。
【0156】
Phylomers(登録商標)ライブラリーは、多種多様な細菌ゲノムから供給されたタンパク質フラグメントから成る。ライブラリーは、安定なサブドメイン(15−50アミノ酸長)が高度に富化されている。この技術は、ファージディスプレイおよび逆酵母ツーハイブリッドトラップなどのハイスループットスクリーニング手法と統合することができる。
【0157】
本発明のタンパク質、ポリペプチドまたはそのペプチドフラグメントに対する抗体は、当技術分野において周知の方法を用いて作製し得る。たとえばその全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許出願第07/481,491号は、ペプチドに対する抗体を惹起する方法を開示する。抗体の生産のために、ウサギ、マウスおよびラットを含むがこれらに限定されない、様々な宿主動物を、ポリペプチドまたはそのペプチドフラグメントの注射によって免疫することができる。免疫応答を高めるため、宿主の種に依存して、フロイント(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどの無機ゲル、リゾレシチンなどの界面活性剤、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット‐ゲラン杆菌)およびcorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがこれらに限定されない、様々なアジュバントを使用し得る。
【0158】
モノクローナル抗体の作製のために、培養下で連続継代性細胞系による抗体分子の産生を提供する何らかの手法を使用し得る。たとえばKohlerとMilstein(1975,Nature 256:495−497)によって最初に開発されたハイブリドーマ手法、トリオーマ手法、ヒトB細胞ハイブリドーマ手法(Kozborら、1983,Immunology Today 4:72)、およびEBV−ハイブリドーマ手法(Coleら、1985,in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,p.77−96)が、ヒトモノクローナル抗体を作製するために使用し得る。もう1つの実施形態では、モノクローナル抗体は、その全体が参照によりここに組み込まれる、国際公開番号第PCT/US90/02545号に述べられている技術を用いて無菌動物において生産される。
【0159】
本発明に従って、ヒトハイブリドーマを利用することによって(Coteら、1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:2026−2030)またはインビトロでヒトB細胞をEBVウイルスで形質転換することによって(Coleら、1985,in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,p.77−96)ヒト抗体を使用し、入手し得る。さらに、SLLPポリペプチドのエピトープに特異的なマウス抗体分子からの遺伝子を適切な生物活性のヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングすることによる、「キメラ抗体」の生産のために開発された手法(Morrisonら、1984,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851−6855;Neubergerら、1984,Nature 312:604−608;Takedaら、1985,Nature 314:452−454)が使用できる;そのような抗体は本発明の範囲内である。ひとたび特異的モノクローナル抗体が開発されれば、従来の手法によるその突然変異体および変異体の作製も可能である。
【0160】
1つの実施形態では、一本鎖抗体の生産のために記述された手法(その全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第4,946,778号)が、タンパク質特異的一本鎖抗体を生産するように適合される。もう1つの実施形態では、Fab発現ライブラリーの構築のために記述された手法(Huseら、1989,Science 246:1275−1281)が、特定抗原、本発明のタンパク質、誘導体または類似体に対して所望特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速で容易な同定を可能にするために利用される。
【0161】
抗体分子のイディオタイプを含む抗体フラグメントは、公知の手法によって作製できる。たとえばそのようなフラグメントは、抗体分子のペプシン消化によって生産できるF(ab’)2フラグメント;F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって作製できるFab’フラグメント;抗体分子をパパインと還元剤で処理することによって作製できるFabフラグメント;およびFvフラグメントを含むが、これらに限定されない。
【0162】
ポリクローナル抗体の作製は、所望動物に抗原を接種し、抗原に特異的に結合する抗体をそこから単離することによって実施される。
【0163】
完全長タンパク質またはペプチドまたはそのペプチドフラグメントに対するモノクローナル抗体は、たとえばHarlowら(1988,In:Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY)およびTuszynskiら(1988,Blood,72:109−115)に述べられているような、何らかの周知のモノクローナル抗体作製手順を用いて作製し得る。大量の所望ペプチドも化学合成技術を用いて合成し得る。あるいは、所望ペプチドをコードするDNAをクローニングし、大量のペプチドの作製に適した細胞において適切なプロモーター配列から発現させ得る。ペプチドに対するモノクローナル抗体は、ここで言及するような標準手順を用いてペプチドで免疫したマウスから作製される。
【0164】
ここで述べる手順を用いて得られたモノクローナル抗体をコードする核酸は、当技術分野において使用可能であり、たとえばWrightら(1992,Critical Rev.in Immunol.12(3,4):125−168)およびその中で引用される参考文献に述べられている技術を用いて、クローニングし、配列決定し得る。さらに、本発明の抗体は、Wrightら(前出)およびその中で引用される参考文献、およびGuら(1997,Thrombosis and Hematocyst 77(4):755−759)に述べられている技術を用いて「ヒト化」し得る。
【0165】
ファージ抗体ライブラリーを作製するため、最初に、ファージ表面で発現されるべき所望タンパク質、たとえば所望抗体を発現する細胞、たとえばハイブリドーマから単離されるmRNAからcDNAライブラリーを得る。逆転写酵素を用いてmRNAのcDNAコピーを生産する。免疫グロブリンフラグメントを規定するcDNAをPCRによって得て、免疫グロブリン遺伝子を規定するDNAを含むバクテリオファージDNAライブラリーを作製するために、生じたDNAを適切なバクテリオファージベクターにクローニングする。異種DNAを含むバクテリオファージライブラリーを作製するための手順は当技術分野において周知であり、たとえばSambrookら(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY)に記述されている。
【0166】
所望抗体をコードするバクテリオファージは、タンパク質が、その対応する結合タンパク質、たとえば抗体が対象とする抗原に結合するために使用可能であるようにその表面に提示されるように遺伝子操作し得る。それゆえ、特定抗体を発現するバクテリオファージを、対応抗原を発現する細胞の存在下でインキュベートしたとき、バクテリオファージは細胞に結合する。抗体を発現しないバクテリオファージは細胞に結合しない。そのようなパニング手法は当技術分野において周知である。
【0167】
上述したような工程は、M13バクテリオファージディスプレイ(Burtonら、1994,Adv.Immunol.57:191−280)を用いたヒト抗体の生産のために開発された。基本的に、cDNAライブラリーは、抗体産生細胞の集団から得られるmRNAから作製される。mRNAは再編成された免疫グロブリン遺伝子をコードし、それゆえcDNAは同じものをコードする。増幅したcDNAをM13発現ベクターにクローニングし、表面にヒトFabフラグメントを発現するファージのライブラリーを作製する。対象抗体を提示するファージを抗原結合によって選択し、可溶性ヒトFab免疫グロブリンを生産するために細菌中で増殖させる。それゆえ、従来のモノクローナル抗体合成と異なり、この手順は、ヒト免疫グロブリンを発現する細胞ではなくヒト免疫グロブリンをコードするDNAを不死化する。
【0168】
上述した手順は、抗体分子のFab部分をコードするファージの作製を述べるものである。しかし、本発明は、Fab抗体をコードするファージの作製だけに限定されると解釈されるべきではない。むしろ、一本鎖抗体をコードするファージ(scFv/ファージ抗体ライブラリー)も本発明に包含される。Fab分子はIg軽鎖全体を含み、それゆえ軽鎖の可変領域と定常領域の両方を含むが、重鎖の可変領域と第一定常領域ドメイン(CH1)だけを含む。一本鎖抗体分子は、Ig Fvフラグメントを含むタンパク質の一本鎖を含む。Ig Fvフラグメントは、抗体の重鎖と軽鎖の可変領域だけを含み、定常領域はその中に含まれない。scFv DNAを含むファージライブラリーは、Marksら、1991,J.Mol.Biol.222:581−597に述べられている手法に従って作製し得る。所望抗体を単離するために、そのようにして作製されたファージのパニングを、Fab DNAを含むファージライブラリーについて述べたのと同様に実施する。
【0169】
本発明はまた、重鎖および軽鎖可変領域がほぼすべての可能な特異性を含むように合成され得る合成ファージディスプレイライブラリーを含むと解釈されるべきである(Barbas,1995,Nature Medicine 1:837−839;de Kruifら、1995,J.Mol.Biol.248:97−105)・
抗体の生産において、所望抗体についてのスクリーニングは、当技術分野において公知の手法、たとえばELISA(固相酵素免疫検定法)によって実施できる。本発明に従って作製される抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ(すなわち「ヒト化」)、および一本鎖(組換え)抗体、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリーによって生産されるフラグメントを含み得るが、これらに限定されない。
【0170】
本発明のペプチドは、Solid Phase Peptide Synthesis,第2版、1984,Pierce Chemical Company,Rockford,IllinoisにおいてStewartらによって述べられている、およびThe Practice of Peptide Synthesis,1984,Springer−Verlag,New YorkにおいてBodanszkyとBodanszkyによって述べられている、固相ペプチド合成(SPPS)などの標準的な広く確立された手法によって容易に作製し得る。最初に、適切に保護されたアミノ酸残基をそのカルボキシル基を通して、架橋ポリスチレンまたはポリアミド樹脂などの誘導体化された不溶性高分子支持体に結合する。「適切に保護された」とは、アミノ酸のα−アミノ基および側鎖官能基の両方に保護基が存在することを指す。側鎖保護基は、合成全体を通じて使用される溶媒、試薬および反応条件に対して一般に安定であり、最終ペプチド産物に影響を及ぼさない条件下で除去し得る。オリゴペプチドの段階的合成は、最初のアミノ酸からのN保護基の除去、および所望ペプチドの配列内の次のアミノ酸のカルボキシル末端への結合によって実施される。このアミノ酸も適切に保護される。新たに付加されたアミノ酸のカルボキシルは、カルボジイミド、対称酸無水物またはヒドロキシベンゾトリアゾールまたはペンタフルオロフェニルエステルなどの「活性エステル」基の形成のような、反応性基の形成によって支持体結合アミノ酸のN末端と反応するように活性化することができる。固相ペプチド合成法の例は、α−アミノ保護基としてtert−ブチルキシカルボニルを利用するBOC法、およびアミノ酸残基のα−アミノを保護するために9−フルオレニルメチルオキシカルボニルを利用するFMOC法を含み、どちらの方法も当業者に周知である。
【0171】
Nおよび/またはC保護基の組込みはまた、固相ペプチド合成法に慣例的なプロトコールを用いて実施できる。C末端保護基の組込みのために、たとえば、所望ペプチドの合成は、典型的には樹脂からの開裂が所望C末端保護基を有するペプチドを生じるように化学修飾された支持樹脂を固相として使用して実施される。C末端が第一級アミノ保護基を担持するペプチドを提供するために、たとえば、合成は、ペプチド合成が完了したとき、フッ化水素酸による処理が所望C末端アミド化ペプチドを放出するように、p−メチルベンズヒドリルアミン(MBHA)樹脂を用いて実施される。同様に、C末端におけるN−メチルアミン保護基の組込みは、HF処理したときN−メチルアミド化C末端を担持するペプチドを放出する、N−メチルアミノエチル誘導体化DVB樹脂を用いて達成される。エステル化によるC末端の保護も従来の手順を用いて実施できる。これは、エステル官能基を形成するために、所望アルコールとのその後の反応を可能にする、樹脂からの側鎖ペプチドの放出を許容する樹脂/保護基の組合せの使用を必要とする。FMOC保護基が、メトキシアルコキシベンジルアルコールまたは等価リンカーで誘導体化したDVB樹脂と組み合わせて、この目的のために使用でき、支持体からの開裂はジクロロメタン中のTFAによって実施される。適切に活性化された、たとえばDCCで活性化されたカルボキシル官能基のエステル化を、次に、所望アルコールの添加およびそれに続くエステル化ペプチド産物の脱保護と単離によって進行することができる。
【0172】
N末端保護基の組込みは、合成されたペプチドがまだ樹脂に結合している間に、たとえば適切な無水物と二トリルでの処理によって達成できる。N末端にアセチル保護基を組み込むために、たとえば、樹脂結合ペプチドをアセトニトリル中の20%無水酢酸で処理することができる。N保護されたペプチド産物を、次に、樹脂から開裂し、脱保護して、その後単離することができる。
【0173】
化学的または生物学的合成手法から得られるペプチドが所望ペプチドであることを確実にするために、ペプチド組成物の分析を実施すべきである。そのようなアミノ酸組成物分析は、ペプチドの分子量を決定するために高分解能質量分析を用いて実施し得る。あるいはまたは選択的に、ペプチドのアミノ酸含量は、水性酸中でペプチドを加水分解し、HPLCまたはアミノ酸分析装置を用いて混合物の成分を分離し、同定し、定量することによって確認できる。ペプチドを連続的に分解し、アミノ酸を順次同定するタンパク質配列決定装置も、ペプチドの配列を明確に決定するために使用し得る。その使用の前に、夾雑物を除去するためにペプチドを精製する。これに関して、ペプチドが、適切な規制当局によって定められた基準に合致するように精製されることは認識される。たとえばC4−、C8−またはC18−シリカなどのアルキル化シリカカラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、多くの従来の精製手順のいずれかが、必要なレベルの純度を達成するために使用し得る。漸増有機物含量の勾配移動相、たとえば、通常少量のトリフルオロ酢酸を含む、水性緩衝液中のアセトニトリルが、精製を実施するために一般的に使用される。イオン交換クロマトグラフィーも、ペプチドをそれらの電荷に基づいて分離するために使用できる。
【0174】
言うまでもなく、ペプチドまたは抗体、その誘導体またはフラグメントは、活性に影響を及ぼすことなく修飾されたアミノ酸残基を組み込み得る。たとえば末端を、保護基を含むように、すなわちNおよびC末端を「望ましくない分解」から保護するおよび/または安定化するのに適した化学的置換基を含むように誘導体化してもよく、前記の「望ましくない分解」という用語は、化合物の機能に影響を及ぼす可能性がある、その末端での何らかの種類の化合物の酵素的、化学的または生化学的崩壊、すなわちその末端での化合物の連続的分解を包含することが意図されている。
【0175】
保護基(ブロッキング基)は、ペプチドのインビボ活性に有害な影響を及ぼさない、ペプチド化学の技術分野において慣例的に使用される保護基を含む。たとえば適切なN末端保護基は、N末端のアルキル化またはアシル化によって導入することができる。適切なN末端保護基の例は、C1−C5分枝または非分枝アルキル基、ホルミルおよびアセチル基などのアシル基、ならびにアセトアミドメチル(Acm)基などのそれらの置換形態を含む。アミノ酸の脱アミノ類似体も有用なN末端保護基であり、ペプチドのN末端に結合し得るかまたはN末端残基の代わりに使用し得る。C末端のカルボキシル基が組み込まれているかまたは組み込まれていない、適切なC末端保護基は、エステル、ケトンまたはアミドを含む。エステルまたはケトンを形成するアルキル基、特にメチル、エチルおよびプロピルなどの低級アルキル基、および第一級アミン(−NH2)などのアミドを形成するアミノ基、およびメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルエチルアミノ等のようなモノ−およびジ−アルキルアミノ基はC末端保護基の例である。アグマチンなどの脱炭酸アミノ酸類似体も有用なC末端保護基であり、ペプチドのC末端に結合し得るかまたはその代わりに使用し得る。さらに、末端の遊離アミノおよびカルボキシル基が、ペプチド活性に影響を及ぼさずにその脱アミノおよび脱炭酸形態を生成するためにペプチドから完全に除去できることは認識される。
【0176】
他の修飾も、活性に有害な影響を及ぼさずに組み込むことができ、これらは、D異性体のアミノ酸による天然L異性体のアミノ酸の1またはそれ以上の置換を含むが、これらに限定されない。それゆえペプチドは、1またはそれ以上のD−アミノ酸残基を含んでもよく、またはすべてD型であるアミノ酸を含んでもよい。本発明に従ったレトロインベルソ形態のペプチド、たとえばすべてのアミノ酸がD−アミノ酸形態で置換された逆ペプチドも考慮される。
【0177】
本発明の酸付加塩も機能的等価物として考慮される。それゆえ、ペプチドの水溶性の塩を与えるために、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等のような無機酸、または酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等で処理した本発明に従ったペプチドは、本発明における使用に適する。
【0178】
本発明はまた、タンパク質およびペプチドのホモログを提供する。ホモログは、保存的アミノ酸配列相違によってまたは配列に影響を及ぼさない修飾によって、またはその両方によって、天然に生じるタンパク質またはペプチドと異なり得る。
【0179】
たとえば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変化させるが、通常その機能を変化させない、保存的アミノ酸変化を導入し得る。そのために、10またはそれ以上の保存的アミノ酸変化が、典型的にはペプチド機能に作用を及ぼさない。
【0180】
修飾(通常は一次配列を変化させない)は、ポリペプチドのインビボまたはインビトロでの化学的誘導体化、たとえばアセチル化又はカルボキシル化を含む。グリコシル化の修飾、たとえばポリペプチドのグリコシル化パターンをその合成とプロセシングの間にまたはさらなるプロセシング工程において改変することによって、たとえばグリコシル化に影響を及ぼす酵素、たとえば哺乳動物のグリコシル化または脱グリコシル化酵素にポリペプチドを暴露することによって、導入される修飾も含まれる。また、リン酸化アミノ酸残基、たとえばホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホトレオニンを有する配列も包含される。
【0181】
また、タンパク質分解に対する抵抗性を改善するためまたは溶解特性を最適化するためまたは治療薬としてより適したものにするために、通常の分子生物学的手法を用いて修飾されたポリペプチドまたは抗体フラグメントも包含される。そのようなポリペプチドのホモログは、天然に生じるL−アミノ酸以外の残基、たとえばD−アミノ酸または非天然に生じる合成アミノ酸を含むものを包含する。本発明のペプチドは、ここで列挙する特定例示工程のいずれかの産物に限定されない。
【0182】
ここで述べるようにして得られる実質的に純粋なタンパク質は、手順の各工程で精製を観測するために免疫学的、酵素的または他のアッセイを使用する、タンパク質精製のための以下の公知の手順によって精製し得る。タンパク質精製方法は当技術分野において周知であり、たとえばDeutscherら(編集、1990,Guide to Protein Purification,Harcourt Brace Jovanovich,San Diego)に述べられている。
【0183】
本発明はまた、本発明のペプチド、タンパク質および抗体をコードする核酸を提供する。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドから成り、およびホスホジエステル結合またはホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合などの修飾結合、およびそのような結合の組合せから成る、何らかの核酸を意味する。核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。
【0184】
本発明は使用する核酸の性質によって限定されることを意図しない。標的核酸は天然または合成核酸であり得る。核酸は、ウイルス、細菌、動物または植物源からであり得る。核酸は、DNAまたはRNAであり得、二本鎖、一本鎖または部分的二本鎖形態で存在し得る。さらに、核酸はウイルスまたは他の高分子の一部として認められ得る。たとえばFasbenderら、1996,J.Biol.Chem.272:6479−89(アデノウイルスの形態のDNAのポリリシン縮合)参照。
【0185】
本発明において有用な核酸は、限定ではなく例として、アンチセンスDNAおよび/またはRNA;リボザイム;遺伝子治療のためのDNA;ウイルスDNAおよび/またはRNAを含むウイルスフラグメント;DNAおよび/またはRNAキメラ;mRNA;プラスミド;コスミド;ゲノムDNA;cDNA;遺伝子フラグメント;一本鎖DNA、二本鎖DNA、スーパーコイル状DNAおよび/または三重らせんDNAを含む様々な構造形態のDNA;Z−DNA等のようなオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを含む。核酸は、大量の核酸を作製するために典型的に使用される従来の何らかの手段によって作製し得る。たとえばDNAおよびRNAは、当技術分野において周知の方法により、市販の試薬と合成装置を用いて化学合成し得る(たとえばGait,1985,OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS:A PRACTICAL APPROACH (IRL Press,Oxford,England)参照)。RNAは、SP65(Promega Corporation,Madison,WI)などのプラスミドを使用してインビトロ転写によって高収率で生産し得る。
【0186】
高いヌクレアーゼ安定性が所望される場合のような、一部の状況では、改変されたヌクレオシド間結合を有する核酸が好ましいと考えられる。改変ヌクレオシド間結合を含む核酸も、当技術分野で周知の試薬と方法を用いて化学合成し得る。たとえばホスホネートホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートメトキシエチルホスホルアミデート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン−スルフィド(−CH2−S−CH2)、ジインエチレン−スルホキシド(−CH2−SO−CH2)、ジメチレン−スルホン(−CH2−SO2−CH2)、2’−O−アルキル、および2’−デオキシ2’−フルオロホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む核酸を合成するための方法は、当技術分野において周知である(Uhlmannら、1990,Chem. Rev.90:543−584;Schneiderら、1990,Tetrahedron Lett.31:335およびその中で引用される参考文献参照)。
【0187】
核酸は、当技術分野で周知である、何らかの適切な手段によって精製し得る。たとえば核酸は、逆相またはイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲル電気泳動によって精製できる。言うまでもなく、当業者は、精製の方法が、一部には、精製しようするDNAの大きさに依存することを認識する。
【0188】
核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。
【0189】
本発明は有用なアプタマーを対象とする。1つの実施形態では、アプタマーは、もう1つ別の化合物(この場合は同定されたタンパク質)に選択的に結合するためにインビトロで選択される化合物である。1つの態様では、ランダムな配列が多数のヌクレオチドまたはアミノ酸(どちらも天然に生じるかまたは合成によって作製される)から容易に生成され得るので、アプタマーは核酸またはペプチドであるが、言うまでもなくアプタマーはこれらに限定される必要はない。もう1つの態様では、核酸アプタマーは、タンパク質標的に結合するDNAの短い鎖である。1つの態様では、アプタマーはオリゴヌクレオチドアプタマーである。オリゴヌクレオチドアプタマーは、対象とする特定タンパク質配列に結合することができるオリゴヌクレオチドである。アプタマーを同定する一般的な方法は、部分的縮重オリゴヌクレオチドから出発し、その後何千ものオリゴヌクレオチドを所望タンパク質に結合する能力に関して同時にスクリーニングすることである。結合オリゴヌクレオチドをタンパク質から溶出し、特異的認識配列を同定するために配列決定することができる。大量の化学的に安定化されたアプタマーの細胞への導入は、対象ポリペプチドへの特異的結合を生じさせ、それによってその機能をブロックすることができる[たとえば、アプタマーのインビトロ選択を説明する以下の出版物参照:Klugら、Mol.Biol.Reports 20:97−107(1994);Wallisら、Chem.Biol.2:543−552(1995);Ellington,Curr.Biol.4:427−429(1994);Latoら、Chem.Biol.2:291−303(1995);Conradら、Mol.Div.1:69−78(1995);およびUphoffら、Curr.Opin.Struct.Biol.6:281−287(1996)]。
【0190】
ここで使用する、アンタゴニストまたはブロッキング剤は、限定を伴わずに、抗体、その抗原結合部分または特定標識タンパク質に結合する生合成抗体結合部位;標的タンパク質をコードする核酸またはそれに関連する調節エレメントにインビボでハイブリダイズするアンチセンス分子、あるいは標的タンパク質に結合するおよび/または標的タンパク質を阻害する、または標的タンパク質をコードする核酸に結合するおよび/または核酸を阻害する、核酸の発現を低下させるまたは調節する、リボザイム、アプタマーまたは低分子を含み得る。
【0191】
アプタマーは、標的遺伝子機能に人為的に干渉する、他のオリゴヌクレオチドに基づくアプローチに比べて、高い親和性と特異性でこれらの遺伝子のタンパク質産物に結合する能力のゆえに利益を提供する。しかし、RNAアプタマーは、ヌクレアーゼ抵抗性アプタマーであっても細胞内分画に効率よく進入しないため、細胞内タンパク質を標的するそれらの能力は限定され得る。さらに、ベクターに基づくアプローチを通して哺乳動物細胞内でRNAアプタマーを発現する試みは、それらの機能的高次構造を変化させ得る、発現されたRNAアプタマー内の付加的な隣接配列の存在によって妨げられた。
【0192】
タンパク質分子を標的するために一本鎖核酸(DNAおよびRNAアプタマー)を使用するという概念は、高い親和性と特異性で標的タンパク質に結合することを可能にする独自の三次元構造へと折りたたまれる短い配列(20量体から80量体)の能力に基づく。RNAアプタマーは、酵母および多細胞生物などの真核細胞内で成功裏に発現され、細胞環境においてそれらの標的タンパク質に阻害作用を及ぼすことが示された。
【0193】
本出願は、ここで述べるタンパク質を阻害するための組成物および方法を開示し、当技術分野において公知である開示されていないものも本発明に包含される。たとえば様々なレギュレーター/エフェクター、たとえば抗体、アンチセンス分子、RNAi分子などの生物学的に活性な核酸、またはリボザイム、アプタマー、ペプチドまたは前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを認識する低分子量有機化合物が公知である。
【0194】
本発明はまた、本発明の血管透過性調節化合物を含有する医薬組成物を対象とする。より詳細には、そのような化合物は、当業者に公知の標準的な医薬的に許容される担体、充填剤、可溶化剤および安定剤を使用して医薬組成物として製剤され得る。
【0195】
本発明はまた、本発明の化合物を被験体に投与する方法を対象とする。1つの実施形態では、本発明は、血管外漏出または透過性関連疾患、障害または状態を有する被験体を、本発明の説明する方法を用いて同定される化合物を投与することによって治療する方法を提供する。化合物は、血管外漏出を抑制するために化合物が使用されない対照と比較して少なくとも10%血管外漏出を抑制することが好ましい。化合物が、未処置対照と比較して少なくとも25%血管外漏出を抑制することがより好ましい。化合物が、未処置対照と比較して少なくとも50%血管外漏出を抑制することがさらに好ましい。本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも75%血管外漏出を抑制することがさらに一層好ましい。また、本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも90%血管外漏出を抑制することが好ましい。さらにもう1つの態様では、本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも95%血管外漏出を抑制することが好ましい。本発明の1つの態様では、血管外漏出は、PAK機能または活性の阻害によって抑制される。「阻害(抑制)する」および「ブロックする」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0196】
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、局所、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、経皮、皮下、腹腔内、鼻内、腸内、局所、舌下または直腸的手段を含むがこれらに限定されない、数多くの経路によって、その必要のある個体に投与される。
【0197】
1つの実施形態に従って、そのような治療を必要とする被験体において血管透過性関連疾患、障害または状態を治療する方法が提供される。その方法は、本発明の少なくとも1つの血管透過性調節化合物を含有する医薬組成物をその必要のある患者に投与することを含む。血管透過性を調節する、本発明の方法によって同定される化合物は、既知の血管透過性化合物または他の薬剤と共に投与することもできる。好ましくは、化合物はヒトに投与される。
【0198】
本発明はまた、本発明の方法を実施するための、適切な化合物、そのホモログ、フラグメント、類似体または誘導体の医薬組成物の使用を包含し、前記組成物は、少なくとも1つの適切な化合物、そのホモログ、フラグメント、類似体または誘導体および医薬的に許容される担体を含有する。
【0199】
本発明を実施するために有用な医薬組成物は、1ng/kg/日から100mg/kg/日の用量を送達するために投与し得る。本発明の方法において有用な医薬組成物は、経口固体製剤、点眼薬、坐薬、エーロゾル、局所または他の同様の製剤として全身的に投与し得る。適切な化合物に加えて、そのような医薬組成物は、医薬的に許容される担体、および薬剤の投与を増強および促進することが知られる他の成分を含有し得る。ナノ粒子、リポソーム、再封孔(resealed)された赤血球、および免疫学に基づくシステムなどの他の可能な製剤も、本発明の方法に従って適切な化合物を投与するために使用し得る。
【0200】
ここで述べる方法のいずれかを用いて同定され、ここで開示する疾患の治療のために製剤され、哺乳動物に投与される化合物を説明する。
【0201】
本発明は、ここで開示する状態、障害および疾患の治療のために有用な化合物を有効成分として含有する医薬組成物の製造および使用を包含する。そのような医薬組成物は、被験体への投与に適する形態の、有効成分単独から成るか、または医薬組成物は、有効成分と1またはそれ以上の医薬的に許容される担体、1またはそれ以上の付加的な成分、またはこれらの何らかの組合せを含有し得る。有効成分は、当技術分野において周知であるように、生理的に許容される陽イオンまたは陰イオンとの組合せなどの、生理的に許容されるエステルまたは塩の形態で医薬組成物中に存在し得る。
【0202】
ここで使用する、「生理的に許容される」エステルまたは塩という用語は、組成物が投与される被験体に対して有害でない、医薬組成物の他のいかなる成分とも適合性である有効成分のエステルまたは塩形態を意味する。
【0203】
ここで述べる医薬組成物の製剤は、薬理学の技術分野において公知であるまたは今後開発される何らかの方法によって製造し得る。一般に、そのような製造方法は、有効成分を担体あるいは1またはそれ以上の他の付属成分と組み合わせ、その後、必要な場合または望ましい場合は、生成物を所望の単回投与または多回投与単位に成形するまたは包装する工程を含む。
【0204】
ここで提供する医薬組成物の説明は主としてヒトへの処方投与に適する医薬組成物を対象とするが、そのような組成物は、一般にすべての種類の動物への投与に適することが当業者に了解される。組成物を様々な動物への投与に適するようにするための、ヒトへの投与に適する医薬組成物の修正は広く理解されており、通常技術を有する動物薬理学者は、必要である場合も単に常套的な実験で、そのような修正を設計し、実施することができる。本発明の医薬組成物の投与が考慮される被験体は、ヒトおよび他の霊長動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコおよびイヌなどの商業的に重要な哺乳動物を含む哺乳動物、ニワトリ、アヒル、ガチョウおよびシチメンチョウなどの商業的に重要な鳥類を含むが、これらに限定されない。
【0205】
本発明の方法において有用な医薬組成物は、経口、直腸、膣、非経口、局所、肺、鼻内、口腔、点眼、髄腔内または別の投与経路に適した製剤として製造、包装、または販売され得る。他の考慮される製剤は、有効成分を含有する、予測されるナノ粒子、リポソーム製剤、再封孔赤血球、および免疫学に基づく製剤を含む。
【0206】
本発明の医薬組成物は、単一単位用量としてまたは複数の単一単位用量として、製造され、包装され、またはバルクで販売され得る。ここで使用する、「単位用量」は、あらかじめ定められた量の有効成分を含有する医薬組成物の個別量である。有効成分の量は、一般に、被験体に投与される有効成分の用量に等しいかまたは、たとえばそのような用量の2分の1または3分の1などの、そのような用量の好都合な分画に等しい。
【0207】
本発明の医薬組成物中の有効成分、医薬的に許容される担体および付加的な成分の相対量は、治療される被験体の同一性(identity)、大きさおよび状態に依存して、およびさらに組成物が投与される経路に依存して異なる。例として、組成物は0.1%−100%(重量/重量)の有効成分を含有し得る。
【0208】
有効成分に加えて、本発明の医薬組成物は、1またはそれ以上の付加的な医薬活性物質を含有し得る。特に考慮される付加的な物質は、鎮吐薬およびシアン化物およびシアン酸塩スカベンジャーなどのスカベンジャーを含む。
【0209】
本発明の医薬組成物の制御または持続放出製剤は、従来の技術を用いて製造し得る。経口投与に適する本発明の医薬組成物の製剤は、各々あらかじめ定められた量の有効成分を含有する、錠剤、硬または軟カプセル、カシェ剤、トローチまたはロゼンジを含むが、これらに限定されない、個別固体用量単位の形態で製造、包装、または販売され得る。経口投与に適する他の製剤は、粉末または顆粒製剤、水性または油性懸濁液、水性または油性溶液、または乳剤を含むが、これらに限定されない。
【0210】
ここで使用する、「油性」液体は、炭素含有液体分子を含み、水より低い極性を示すものである。
【0211】
有効成分を含有する錠剤は、たとえば有効成分を、場合により1またはそれ以上の付加的な成分と共に、圧縮するまたは成形することによって製造され得る。圧縮錠剤は、粉末または顆粒製剤などの自由流動形態の有効成分を、場合により1またはそれ以上の結合剤、潤滑剤、賦形剤、界面活性剤および分散剤と混合して、適切な装置で圧縮することによって製造し得る。成形錠剤は、有効成分、医薬的に許容される担体、および少なくとも混合物を湿潤化するのに十分な液体の混合物を、適切な装置で成形することによって製造し得る。錠剤の製造において使用される医薬的に許容される賦形剤は、不活性希釈剤、造粒および崩壊剤、結合剤、および潤滑剤を含むが、これらに限定されない。公知の分散剤は、ジャガイモデンプンおよびデンプングリコール酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。公知の界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムを含むが、これに限定されない。公知の希釈剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびリン酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。公知の造粒および崩壊剤は、トウモロコシデンプンおよびアルギン酸を含むが、これらに限定されない。公知の結合剤は、ゼラチン、アカシア、プレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むが、これらに限定されない。公知の潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカおよび滑石を含むが、これらに限定されない。
【0212】
錠剤は被覆されなくてもよく、または被験体の胃腸管において遅延崩壊を達成し、それによって有効成分の持続性放出と吸収を提供するために公知の方法を用いて被覆されてもよい。例として、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの材料が錠剤を被覆するために使用し得る。さらなる例として、錠剤は、浸透圧による制御放出錠剤を形成するために米国特許第4,256,108号;同第4,160,452号;および同第4,265,874号に述べられている方法を用いて被覆し得る。錠剤はさらに、医薬的に上品で口当たりのよい製剤を提供するために甘味料、香味料、着色料、防腐剤またはこれらの何らかの組合せを含み得る。
【0213】
有効成分を含有する硬カプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて製造し得る。そのような硬カプセルは有効成分を含み、さらに、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む付加的な成分を含有し得る。
【0214】
有効成分を含有する軟ゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて製造し得る。そのような軟カプセルは、水あるいは落花生油、流動パラフィンまたはオリーブ油などの油性媒質と混合し得る、有効成分を含有する。
【0215】
経口投与に適する本発明の医薬組成物の液体製剤は、液体形態あるいは使用前に水または別の適切な媒質で再溶解することを意図した乾燥生成物の形態で製造され、包装され、販売され得る。
【0216】
液体懸濁液は、水性または油性媒質中の有効成分の懸濁液を作製するための従来の方法を用いて製造し得る。水性媒質は、たとえば水および等張食塩水を含む。油性媒質は、たとえばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、落花生油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油などの植物油、分別(fractionated)植物油、および流動パラフィンなどの鉱物油を含む。液体懸濁液はさらに、懸濁化剤、分散または湿潤剤、乳化剤、粘滑薬、防腐剤、緩衝剤、塩、香味料、着色料および甘味料を含むがこれらに限定されない、1またはそれ以上の付加的な成分を含み得る。油性懸濁液は、増粘剤をさらに含み得る。公知の懸濁化剤は、ソルビトールシロップ、硬化食用油、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴム、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0217】
公知の分散または湿潤剤は、レシチンなどの天然に生じるホスファチド、脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、脂肪酸とヘキシトールから誘導される部分エステル、または脂肪酸とヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとアルキレンオキシドの縮合物(たとえばそれぞれ、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)を含むが、これらに限定されない。公知の乳化剤は、レシチンおよびアラビアゴムを含むが、これらに限定されない。公知の防腐剤は、メチル、エチルまたはn−プロピルパラヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸およびソルビン酸を含むが、これらに限定されない。公知の甘味料は、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロースおよびサッカリンを含む。油性懸濁液のための公知の増粘剤は、たとえば蜜ろう、固形パラフィンおよびセチルアルコールを含む。
【0218】
水性または油性溶媒中の有効成分の液体溶液は、液体懸濁液と実質的に同じように製造し得るが、主要な相違は、有効成分を溶媒に懸濁するのではなく溶解することである。本発明の医薬組成物の液体溶液は、液体懸濁液に関して述べた成分の各々を含有し得るが、懸濁化剤が必ずしも溶媒中への有効成分の溶解を助けないことは了解される。水性溶媒は、たとえば水および等張食塩水を含む。油性溶媒は、たとえばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、落花生油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油などの植物油、分別植物油、および流動パラフィンなどの鉱物油を含む。
【0219】
本発明の医薬組成物の粉末および顆粒製剤は公知の方法を用いて製造し得る。そのような製剤は、直接被験体に投与され得るか、たとえば錠剤を形成する、カプセルに充填する、またはそれに水性または油性媒質を添加することによって水性または油性懸濁液または溶液を調製するために使用され得る。これらの製剤の各々は、1またはそれ以上の分散または湿潤剤、懸濁化剤および防腐剤をさらに含有し得る。充填剤などの付加的な賦形剤および甘味料、香味料または着色料もこれらの製剤に含まれ得る。
【0220】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型乳剤または油中水型乳剤の形態で製造、包装、または販売され得る。油相は、オリーブ油または落花生油などの植物油、流動パラフィンなどの鉱物油、またはこれらの組合せであり得る。そのような組成物は、アラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの天然に生じるゴム、ダイズまたはレシチンホスファチドなどの天然に生じるホスファチド、モノオレイン酸ソルビタンなどの脂肪酸とヘキシトール無水物の組合せから誘導されるエステルまたは部分エステル、およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどの、そのような部分エステルとエチレンオキシドの縮合物のような、1またはそれ以上の乳化剤をさらに含み得る。これらの乳剤はまた、たとえば甘味料または香味料を含む、付加的な成分を含有し得る。
【0221】
本発明の医薬組成物はまた、直腸投与、膣投与、非経口投与に適した製剤で製造、包装、または販売され得る。
【0222】
医薬組成物は、無菌注射用水性または油性懸濁液または溶液の形態で製造、包装、または販売され得る。この懸濁液または溶液は公知の技術に従って製造でき、有効成分に加えて、ここで述べる分散剤、湿潤剤または懸濁化剤などの付加的な成分を含有し得る。そのような無菌注射用製剤は、たとえば水または1,3−ブタンジオールなどの非毒性で非経口的に許容される希釈剤または溶媒を用いて製造し得る。他の許容される希釈剤および溶媒は、リンガー液、等張塩化ナトリウム溶液、および合成モノまたはジグリセリドなどの固定油を含むが、これらに限定されない。有用な他の非経口的に投与可能な製剤は、微結晶形態で、リポソーム製剤中で、または生分解性高分子系の成分として有効成分を含有するものを含む。持続放出または移植のための組成物は、乳剤、イオン交換樹脂、難溶性高分子、または難溶性の塩などの医薬的に許容される高分子または疎水性材料を含み得る。
【0223】
局所投与に適する製剤は、塗布剤、ローション、クリーム、軟膏またはペーストなどの水中油型または油中水型乳剤、および溶液または懸濁液などの液体または半液体製剤を含むが、これらに限定されない。局所的に投与可能な製剤は、たとえば約1%−約10%(重量/重量)の有効成分を含有し得るが、有効成分の濃度は溶媒中の有効成分の溶解度限界まで高くてもよい。局所投与のための製剤は、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含有し得る。
【0224】
本発明の医薬組成物は、口腔を通しての肺投与に適した製剤として製造、包装、または販売され得る。そのような製剤は、有効成分を含有し、約0.5−約7ナノメートル、好ましくは約1−約6ナノメートルの範囲の直径を有する乾燥粒子を含み得る。そのような組成物は、好都合には、推進薬の流れが粉末を分散させるように方向づける乾燥粉末貯蔵容器を含む装置を用いる、または密封容器内の低沸点推進薬に溶解または懸濁した有効成分を含む装置などの自己推進性溶媒/粉末配薬容器を用いる投与のための乾燥粉末の形態である。好ましくは、そのような粉末は、粒子の少なくとも98重量%が0.5ナノメートル以上の直径を有し、および粒子数の少なくとも95%が7ナノメートル未満の直径を有する粒子を含む。より好ましくは、粒子の少なくとも95重量%が1ナノメートル以上の直径を有し、および粒子数の少なくとも90%が6ナノメートル未満の直径を有する。乾燥粉末組成物は、好ましくは糖などの固体微粉末希釈剤を含み、好都合には単位用量形態で提供される。
【0225】
低沸点推進薬は、一般に大気圧で65°F以下の沸点を有する液体推進薬を含む。一般に、推進薬は組成物の50−99.9%(重量/重量)を構成し、有効成分は組成物の0.1−20%(重量/重量)を構成し得る。推進薬は、液体非イオン性または固体陰イオン界面活性剤または固体希釈剤などの付加的な成分(好ましくは有効成分を含有する粒子と同じ位数の粒径を有する)をさらに含み得る。
【0226】
肺送達用に製剤される本発明の医薬組成物はまた、溶液または懸濁液の小滴の形態で有効成分を提供し得る。そのような製剤は、有効成分を含有する、場合により無菌の、水性または希薄アルコール溶液または懸濁液として製造、包装、または販売され得、何らかの噴霧化または微粒化装置を用いて好都合に投与され得る。そのような製剤は、サッカリンナトリウムなどの香味料、揮発性油、緩衝剤、界面活性剤、またはメチルヒドロキシベンゾエートなどの防腐剤を含むがこれらに限定されない、1またはそれ以上の付加的な成分をさらに含み得る。この投与経路によって供給される小滴は、約0.1−約200ナノメートル範囲の平均直径を有する。
【0227】
肺送達のために有用であるとここで述べる製剤はまた、本発明の医薬組成物の鼻内送達のためにも有用である。鼻内投与に適するもう1つの製剤は、有効成分を含有し、約0.2−500マイクロメートルの平均粒子を有する粗粉末である。そのような製剤は、嗅剤が服用される方法で、すなわち外鼻孔の近くに保持された粉末の容器から鼻道を通しての迅速吸入によって投与される。
【0228】
鼻投与に適する製剤は、たとえばわずかに0.1%(重量/重量)から100%(重量/重量)までの有効成分を含有することができ、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含み得る。
【0229】
本発明の医薬組成物は、口腔投与に適した製剤として製造、包装または販売され得る。そのような製剤は、たとえば従来の方法を用いて作製される錠剤またはロゼンジの形態であり得、たとえば0.1−20%(重量/重量)の有効成分を含むことができ、そのバランスは、経口的に溶解性または分解性の組成物および、場合により、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上を含む。あるいは、口腔投与に適する製剤は、有効成分を含有する粉末あるいはエーロゾル化または噴霧化された溶液または懸濁液を含み得る。そのような粉末またはエーロゾル製剤は、分散したとき、好ましくは約0.1−約200ナノメートルの範囲の平均粒径または小滴サイズを有し、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含み得る。
【0230】
本発明の医薬組成物は、点眼投与に適する製剤として製造、包装または販売され得る。そのような製剤は、たとえば水性または油性液体担体中に有効成分の0.1/1.0%(重量/重量)溶液または懸濁液を含む点眼薬の形態であり得る。そのような点眼薬は、緩衝剤、塩、あるいはここで述べる他の付加的な成分の1またはそれ以上を含み得る。有用な他の点眼によって投与可能な製剤は、微結晶形態またはリポソーム製剤中に有効成分を含有するものを含む。
【0231】
ここで使用する、「付加的な成分」は、以下の1またはそれ以上を含むが、これらに限定されない:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤、造粒および崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味料;香味料;着色料;防腐剤;ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物;水性媒質および溶媒;油性媒質および溶媒;懸濁化剤;分散または湿潤剤;乳化剤、粘滑薬;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定剤;および医薬的に許容される高分子または疎水性物質。本発明の医薬組成物に含まれ得る他の「付加的な成分」は当技術分野において公知であり、たとえば参照によりここに組み込まれる、Genaro編集、1985,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PAに述べられている。
【0232】
典型的には、動物、好ましくはヒトに投与し得る本発明の化合物の用量は、被験体の体重1キログラム当たり1μg−約100gの範囲の量である。投与される正確な用量は、治療される動物の種類および疾患の種類、動物の年齢および投与経路に依存して異なる。好ましくは、化合物の用量は動物の体重1キログラム当たり約1mg−約10gの範囲である。より好ましくは、用量は被験体の体重1キログラム当たり約10mg−約1gの範囲である。
【0233】
化合物は、1日数回の頻度で被験体に投与し得るか、または1日1回、1週間に1回、2週間ごとに1回、月に1回などのより少ない頻度で、または数ヵ月ごとに1回または1年に1回またはそれ以下などのさらに一層少ない頻度で投与し得る。投与の頻度は当業者に容易に明らかであり、治療される疾患の種類および重症度、被験体の種類および年齢等などの、但しこれらに限定されない、多くの因子に依存する。
【0234】
本発明はまた、本発明の化合物および組成物を被験体の細胞または組織に投与することを説明する指示書を含むキットを包含する。もう1つの実施形態では、このキットは、化合物を被験体に投与する前に本発明の組成物を溶解するまたは懸濁するのに適した(好ましくは滅菌)溶媒を含む。本発明はまた、p21活性化キナーゼを含む組織または細胞の試料、p21活性化キナーゼの標準レギュレーター、アプリケーターおよびそれらの使用のための指示書を含む、ここで述べる血管透過性のレギュレーターを同定するためにキットを提供する。
【0235】
さらなる説明を必要とせずに、当業者は、前記説明および以下の実施例を使用して、本発明の化合物を製造し、利用する、および特許請求される方法を実施することができると考えられる。以下の実施例はそれゆえ、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであり、いかなる意味においても残りの開示を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0236】
本発明を、ここで、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は例示のみを目的として提供するものであり、本発明は、いかなる意味においてもこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではなく、ここで提供する教示の結果として明らかになる、ありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0237】
ここで述べる実験は、ErkがPAK経路においてPAKの下流にあるかどうかを検討した。PIX結合領域が欠失しているGIT1構築物(GIT1−△SHD)、およびGIT結合領域が決しているβPIX構築物(PIX−△GBD)をこれらの実験で使用した。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、ErkへのPAKの作用はPIXおよびGITのアダプター機能を必要とし得ると仮定した。この仮説を試験するため、2つの異なる手段によって複合体からPAKを除去するはずである、互いに結合することができないPIXおよびGITの変異体を発現させた。
【0238】
実験方法
細胞培養およびトランスフェクション
ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を、記述されているように(Stockton 2004)10%子ウシ血清(Atlanta Biologicals,Atlanta,GA)、100μg/mlジヒドロストレプトマイシンおよび60U/mlペニシリン(Sigma,St.Louis,MO)を添加した低グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をDr.Brett Blackman(University of Virginia)より入手し、製造者の“SingleQuot”添加物プラス10%ウシ胎仔血清(Atlanta Biologicals)を添加したEGM−2培地(Clonetics)で増殖させ、3−10継代で使用した。
【0239】
図面の説明に示すようにフィルターでの一部の透過性アッセイのために、100mm組織培養皿の0.5%CS−DMEM中の集密BAECを、Effecteneを製造者の指示に従って使用して、指示されているcDNA合計5μgでトランスフェクトした。一晩インキュベートした後、10%血清を添加したDMEMに細胞を移し、48時間目に使用した。一部のアッセイについては、説明に示すように、細胞をヌクレオポレーションによってトランスフェクトした。集密度90%の2つの15cmプレートから細胞を分離し、ヌクレオフェクション緩衝液(10mM HPESを含むフェノールレッド不含M199)1.5mlに再懸濁した。各々のトランスフェクションについて、0.2μlキュベット中の細胞懸濁液100μlにDNA2.5μgを添加した。Amaxa Nucleofector II M3プログラムサイクルを用いてヌクレオフェクションを実施した後、細胞を、増殖培地5mlを含む60mmプレートに移し、48時間目に使用した。免疫蛍光のために、皿はFN被覆したカバーガラススリップを含んだ。PAKペプチドは、Biomolecular Research Facility at the University of VirginiaまたはEZ Biolabs Inc.(Westfield IN)によって合成され、1回のHPLCによって精製された。
【0240】
βPIXおよびGIT1構築物はDr.A.F.Horwitzより入手した。△GBD βPIX(GIT1結合に関して突然変異した)およびGIT1の△SHD突然変異体(PIXおよびMEK結合に関して突然変異した)は記述されている通りであった(Zhangら、2003)。ドミナントネガティブMEK1は記述されている通りであった(Renshawら、1997)。ヒト配列に対するGIT1 Smartpool siRNAオリゴはDharmaconより入手し、HUVECにおいて実験を実施した。Smartpool混合物は4つの異なるsiRNAオリゴを含んだ。4つの異なるセンス配列は次の通りである:
【0241】
【化13】
LPS−誘導の肺微小血管透過性
すべての動物実験は、Animal Care and Use Committee of the University of Virginiaによる承認を受けた。野生型雄性マウス(C57B1/6、8−12週齢、Jackson Labs,Bar Harbor,ME)をエールゾル化したLPS(腸炎菌、Sigma Co.,St.Louis,MO)に30分間暴露した。これは微小血管透過性の有意の上昇を生じさせる(Reutershanら、2005)。対照動物には食塩水を吸入させた。一部のマウスに、処置の30分前にPAK阻害ペプチドまたは対照ペプチドを腹腔内(ip)注射した。インビボでのMEKの役割を調べるため、70μM UO126 0.5mlをip注射した。エバンスブルー染料血管外遊出手法(Greenら、1988)を用いて6時間目に透過性を分析した。簡単に述べると、エバンスブルー(20mg/kg;Sigma)を静脈内注射して、30分後に安楽死させた。血管内染料を除去するために自発的に拍動している右心室を通して肺を灌流した。記述されているように(Pengら、2004)肺を切除し、エバンスブルーを抽出した。エバンスブルーの吸収を620nmで測定し、ヘム色素の存在に関して補正した:A620(補正済み)=A620−(1.426×A740+0.030)(Wang leら、2002)。血管外遊出したエバンスブルーを標準曲線に対して算定した(肺1グラム当たりのエバンスブルーマイクログラム)。
【0242】
免疫沈降およびウエスタンブロット法
細胞を刺激し、低温PBSで洗って、低温免疫沈降(IP)緩衝液(20mMトリスpH7.6、0.5%NP40、250mM NaCl、5mM EDTA、3mM EGTA;プラスSigmaプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤カクテル)0.5mlで10分間抽出した。それらを18ゲージ針に3回通し、微量遠心機において12,000×gで10分間遠心分離した。上清をプロテインG−アガロースビーズ25μlであらかじめ清澄化し、指示されている一次抗体と共に4℃で2時間インキュベートした。抗ホスホPAKはBiosource Internationalより入手した;抗全PAKはTransduction Labsからであった;抗ホスホ−Erkおよび全ErkはCell Signalingからであった。抗GIT1および抗βPIXはSanta Cruz Biotechnologyからであった。プロテインA−またはプロテインG−アガロースビーズ25μlを添加し、4℃で回転させながらさらに2時間インキュベートした。ビーズを沈降させ、IP緩衝液0.5mlで3回洗って、SDS−PAGEによって分離した。ペプチドへの結合のために、ビオチン標識ペプチド25μgをストレプトアビジンビーズ25μlと共に30分間インキュベートし、その後洗浄して、細胞溶解産物0.5と共に30分間インキュベートした。結合タンパク質を、指示されている抗体でのウエスタンブロット法によって検出した。βPIXについては、細胞をHA−PIXでトランスフェクトし、抗HAを用いてブロットをプローブした。タンパク質を電気泳動によってPVDF膜に移し、トリス緩衝食塩水(TBS)中の5%乳でブロックして、同じ緩衝液中の一次抗体で一晩プローブした。膜を4回洗い、二次抗体で2時間プローブして、その後化学発光(ECL,Amersham)を用いて視覚化した。
【0243】
インビトロでの透過性
集密に近い、FN被覆した3μmフィルター上のBAECを、上述したようにEffecteneを用いてcDNA0.5μgでトランスフェクトした。48時間目に、指示されているPAKペプチドで細胞を60分間前処置した。一部の実験については、細胞をヌクレオフェクトし、その後フィルターにプレートして、集密まで48時間増殖させた。次にフィルターを、フェノールレッドまたは血清を含まない新鮮DMEM培地500μlと共に外側のウエルに入れた。各々のフィルターウエルに、上述したように培地200μlプラス、サイトカインを含むまたは含まない1.5μg/mlホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)50μlを添加した。30分後、フィルターを取り出して固定し、記述されているように(Stocktonら、2003)より低いウエル中の培地をHRPに関して検定した。数値を対照未処置ウエルに基準化した。
【0244】
免疫蛍光
細胞を3.5%ホルムアルデヒド中に60分間固定し、洗浄して、0.2%TX100中で10分間透過性上昇させた。10%ヤギ血清を含むPBSでカバーガラスを60分間ブロックし、その後4℃にて以下の抗体を含む200μlで8時間プローブした:1:500のホスホ−ERK;1:500のホスホ−MEK;1:500のホスホ−PAK;1:500のホスホ−MLC(すべてBioSource Internationalより);1:200のβPIXまたは1:200のGIT1(Santa Cruz Biotechnology)。カバーガラスを洗浄し、4℃にて1:1000の抗マウスIgG−Alexa 568または1:1000の抗ウサギIgG−Alexa 488(Molecular Probes)で一晩プローブした。カバーガラスを洗浄し、FluoroMount(Invitrogen)を用いて封入した。
【0245】
免疫組織化学
マウス肺を、定圧(20cm H2O)でのPFA4%の気管内点滴注入で15分間膨張させた。次に肺を切除し、PFA4%中に24時間固定し、パラフィンに包埋した。IHCのために切片(5μm)を切断し、抗原賦活化溶液(Vector Laboratories)で処理した。切片をモノクローナルウサギ抗p−ERK(1:400 Cell Signaling)で一晩染色し、Vectastain Elite Kit(Vector Laboratories)で検出した。DAB(Dako Corp)で視覚化を行い、ヘマトキシリンで対比染色した。ImageProソフトウエアプログラムを使用して、デジタルカメラ(DP70型;Olympus)を備えた顕微鏡(BX51型;Olympus)で20または40倍対物レンズを用いて画像を取得した。
【0246】
結果
PAKを阻害することはマウスでの急性肺損傷において液体輸送を低下させる
これまでの試験は、インビトロでの内皮結合の完全性の調節にPAKを関係づけたが(Zengら、2000;Stocktonら、2004)、インビボでの血管透過性との関連は測定されなかった。PAKの阻害がインビボで血管外漏出を低下させるかどうかを試験するため、エーロゾル化リポ多糖(LPS)の吸入が肺における液体蓄積の引き金となる、急性ハイブリダイゼーション損傷のマウスモデルを使用した(Reutershanら、2005)。LPSは主として、多数のサイトカインの放出の引き金を引くために常在型肺マクロファージに作用する。PAKキナーゼ活性の上昇に関連するPAK上のリン酸化部位に対する抗体を用いたウエスタンブロット法は、LPSに暴露したマウスからの肺におけるリン酸化上昇を示した(図1A)。基準化した上昇は、対照、n=2に比べて2.1±0.5であり、この系におけるPAK活性化を明らかにした。
【0247】
完全長ドミナントネガティブPAK阻害作用が、NckのSH3ドメインに結合するN末端のプロリンに富む配列に位置することが以前に認められた(Kiossesら、1999)。この配列がHIV TATタンパク質からの多塩基性配列に連結したペプチドは、容易に細胞に進入し、ドミナントネガティブPAKの発現と同様にPAK機能をブロックする(Kiossesら、2001)。前記ペプチドは、増殖因子または炎症性サイトカインで刺激した内皮細胞培養物における透過性も阻害した(Stocktonら、2004)。
【0248】
それゆえ、マウスにTAT−PAK N末端ペプチドを注射し、LPSの吸入後の肺へのエバンスブルー染料の漏出を検査した。Nck結合ペプチドは染料の蓄積を強力に阻害したが、一方SH3結合にとって必須の2個のプロリンをアラニンで置換した対照ペプチドは作用を及ぼさなかった(図1B)。このペプチドが他のSH3タンパク質に結合するまたはPAK以外のNck標的に影響を及ぼすことは排除できないが、データは、インビボで透過性を調節する上でのPAKの役割を示唆する。
【0249】
インビトロでの血管透過性におけるErkの役割
次に、Erk経路が関与し得るかどうかを検討した。最初のアッセイとして、培養下の集密ウシ大動脈内皮細胞においてErkの局在化と活性化を測定した。VEGFによる刺激は活性化Erkについての全染色の上昇を誘導し、実質的な分画が細胞間境界に局在した(図2A)。この染色はMEK阻害剤UO126での前処理によってほぼ排除され、そのシグナルが特異的であることを明らかにした。PAK阻害ペプチドを、次に、Erkがこの経路においてPAKの下流であるかどうかを試験するために使用した。全細胞溶解産物のウエスタンブロット法は、VEGFによるErkの活性化がPAK N末端ペプチドによってほぼブロックされ、ならびにMEK阻害剤UO126によってブロックされることを示した(図2B)。活性化Erkについての免疫染色も、細胞間境界におけるホスホErkの低下を示した(図2A)。bFGFに関しても同様の結果を得た(データは示していない)。
【0250】
インビトロでの血管透過性への作用を検討するため、3μm細孔を有するフィルターで内皮細胞を増殖させ、単層を横切るホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の輸送を検定した。VEGF、bFGFまたはヒスタミンによって誘導される透過性は、UO126によってまたはドミナントネガティブMEKでのトランスフェクションによって、ならびにPAK N末端ペプチドによってブロックされた(図2C)。
【0251】
次に、培養内皮細胞に関するこれらの結果がインビボで血管系に適用し得るかどうかを検討した。最初に、肺切片をホスホErkに対する抗体で染色した。未処置マウスからの肺では、肺の大部分が、肺胞壁にわずかに分布する細胞(小さな矢印;図3A)を除いて、ほとんどシグナルを示さなかった。これらの細胞の同一性は不明であるが、常在型マクロファージまたは樹状細胞の可能性が高いと思われる。LPS処置マウスでは、多くの細胞型においてErk活性化の著明な上昇が存在し、血管壁に沿った特定部位の血管内皮が最も顕著であった(大きな矢印)。肺胞も陽性に染まったが、血管ほど顕著ではなかった。この染色は肺胞毛細血管または内皮であると考えられるが、詳細な細胞型は光学顕微鏡では解明できない。Nck−PAK相互作用をブロックするペプチドによるマウスの処置は主としてErk活性化を妨げ、ErkがPAKの下流であることを示唆した。対照として、マウスをMEK阻害剤UO126によっても前処置し、この物質も組織全体でErk活性化をブロックした(図3A)。Erkがこの系における血管外漏出のために必要であるかどうかを判定するため、肺透過性へのUO126の作用を検定した。MEK阻害剤は、このモデルにおいてLPSによる血管外漏出の誘導を有意にブロックした(図3B)。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、データは、MEK−Erk経路が血管透過性へのPAKの作用を媒介することを示唆する。
【0252】
βPIXおよびGIT1の関与
次に、特異的タンパク質相互作用がPAKの下流のErkの活性化を促進し得る可能性を検討した。PAKは、PAK内の特殊なプロリンに富む配列がPIXのSH3ドメインに結合することを通してPIXタンパク質に結合することが知られている(Manserら、1998)。PIXはまた、RacおよびCdc42についてのヌクレオチド交換活性を有する中央DH/PHモジュール、およびGIT1に結合するC末端近くの領域を含む(Bagrodiaら、1999;Zhaoら、2000)。GIT1は、PIXに結合するSpa2相同性ドメイン(SHD)ならびにそのN末端のArf GAPドメインを含む(Turnerら、2001)。このSHD領域はまた、MEK1および2にも結合する(Premontら、2004;Yinら、2004)。それゆえ、PIX−GIT複合体は、MEKの活性化を促進し得る、PAKとMEKを近接させる潜在的可能性を有する。
【0253】
βPIXおよびGIT1に対する抗体での内皮単層の染色は、これらのタンパク質の一部が細胞間境界に存在することを示した(図4A)。肺切片の染色も、内皮における両方のタンパク質の発現を示した(データは示していない)。これらの相互作用の機能的関与を試験するため、内皮細胞をWT βPIXまたはC末端GIT結合領域が欠失した突然変異型についてのベクターでトランスフェクトした。付加的に、細胞をWT GIT1またはPIXおよびMEKに結合するSHDが欠失した突然変異型でトランスフェクトした。突然変異型βPIXまたはGIT1の発現は、細胞間結合へのホスホ−S141 PAKの局在化を完全にブロックしたが、WT構築物は作用を及ぼさなかった(図4B)。突然変異型構築物はまた、ErkおよびMLCの活性化もブロックしたが、WT構築物は活性化を上昇させるかまたは作用を及ぼさなかった(図4CおよびD)。最後に、突然変異型βPIXおよびGIT1はどちらも、VEGF(図5A)およびbFGF(データは示していない)に応答した、インビトロでの内皮単層を横切る透過性の上昇を効率的にブロックした。これに対し、WT構築物の発現は透過性を上昇させた。我々は、PIX−GIT複合体はPAKの下流でErkおよびMLC活性化を促進する上で決定的に重要な役割を果たすと結論する。
【0254】
これらの結果は、GIT1のノックダウンがトロンビンに応答した血管透過性を増強すると報告した、Berkとその共同研究者達の結果と相容れないと思われる(van Nieuw Amerongenら、2004)。この不一致を調べるため、多数のサイトカインに応答したインビトロでの透過性へのGIT1ノックダウンの作用をここで検討した。HUVECにおいて、GIT1を標的するsiRNAオリゴヌクレオチドは、基線値を低下させ、bFGFおよびヒスタミンによって誘導される透過性上昇を効率的にブロックしたが、トロンビン誘導の透過性には統計的に有意の作用がなかった(図5B)。これまでに認められた透過性の増強(van Nieuw Amerongenら、2004)は本試験では見られなかったが、GIT1がサイトカインと比較してトロンビン経路において異なる役割を果たすことは明らかである。増強が存在しなかったことは、実験条件の相違または異なる細胞ソースが原因であると考えられる。
【0255】
PIX−GIT複合体のペプチド阻害
PAK−PIX−GIT複合体の機能的関連性をさらに調べるため、PAK−PIX相互作用のペプチド阻害剤を使用した(図6A)。PAKは、SH3結合についてのコンセンサス配列に適合しない非定型のプロリンに富む領域を通してPIX SH3ドメインに結合する(Manserら、1998)。細胞内へのその進入を促進するため、この配列がそのN末端でHIV Tat多塩基性領域に融合されたペプチドを合成した(Schwarzeら、1999)。我々はまた、プルダウンアッセイのために検出と固定化を容易にするべくそのC末端にビオチン標識を付加した。
【0256】
細胞溶解産物をストレプトアビジンビーズに結合したペプチドと共にインキュベートしたとき、PIX結合ペプチドは高い効率でβPIXに結合した(図6B)。2個の鍵となる残基が突然変異した対照ペプチドに対してはβPIXの結合は認められなかった。多くの他のSH3含有タンパク質は結合を示さなかったが、コルタクチンは、弱いが再現可能な結合を示した。より高い量の細胞溶解産物を使用したとき、CD2APの弱いが特異的な結合およびDOCK180の弱いが非特異的な結合も検出することができた(データは示していない)。ペプチドは、それゆえ、PIXに選択であると思われるが、他のより低い親和性相互作用も有する。
【0257】
PAKとPIXの間の相互作用を分断するその能力を調べるため、内皮細胞を、20μg/mlのPIX結合ペプチドまたは細胞への進入を可能にするTAT配列に融合した突然変異型対照ペプチドと共にインキュベートした。次に細胞を洗浄し、界面活性剤で抽出して、βPIXを免疫沈降させた。ペプチドはPIXの量に作用を及ぼさなかったが、沈殿物中のPAKを約70%減少させた(図6C)。ペプチドを溶解の前に洗い流したので、この結果は阻害の程度を過小評価させ得ると考えられ、それゆえ我々は、免疫沈降の間に何らかの再結合が起こった可能性を排除できない。Erk活性化を検定したとき、PIXブロッキングペプチドはVEGF刺激を効率的に阻害したが、対照ペプチドは作用を及ぼさなかった(図6D)。bFGFによるErkの刺激もブロックされた(データは示していない)。bFGF(図6E)またはVEGF(示していない)に応答したアクチン細胞骨格の再編成も検討した。これらの増殖因子は、処置細胞においてアクチンストレスファイバーの上昇の引き金を引き、これは活性ペプチドによってブロックされたが、突然変異型ペプチドではブロックされなかった。20μg/mlのPIX結合ペプチドも、ウシ内皮細胞(図7A)およびHUVEC(示していない)においてVEGFに応答したインビトロでの透過性上昇を約80%ブロックした。bFGFについても同様の結果を得た(示していない)。
【0258】
インビボでのPIXブロッキングペプチド
インビボでの血管透過性がPAKとPIXの間の相互作用を必要とするかどうかを調べるため、LPSの吸入後にマウスを検査した。これらの実験のために、ビオチンおよび3個のC末端残基を欠くTAT−PAKペプチドを、これらの残基がPIXとの相互作用に関与しないことを示すNMR構造に基づいて(Mottら、2005)、使用した。PIXブロッキングペプチドの注射は、肺へのエバンスブルー染料の漏出を用量依存的に有意に低下させ(1mgで62%、2mgで85%)、一方対照ペプチドは有意の作用を及ぼさなかった(図7B)。肺切片試料においてホスホ−Erk染色の阻害も認められた(図7C;図3A、+LPS試料と比較する。矢印は血管を示す)。肺炎症のインビボモデルにおいて、PAKとPIXの複合体がErkの活性化および血管外漏出の誘導のために必要であるとここで結論される。
【0259】
結論
Erkを活性化し、血管透過性を誘導するPAKの能力は、PAK−PIX−GIT複合体の完全性に依存する。この必要条件は、炎症、血栓および血管新生メディエイタに関連する。この結論は、関連成分の細胞間境界への共局在、および阻害性構築物、siRNAノックダウンおよび細胞透過性ペプチドによる経路の破壊に基づく。現在の公表データに基づくモデルを図8に示す。このモデルでは、サイトカインがPAKの活性化の引き金を引き(Stocktonら、2004)、PAKはβPIXに結合される。GIT1はPIXおよびMEK1または2の両方に結合して、活性名PAKをMEKに近接させる。PAKは、次に、ser298上のMEKをリン酸化し、これはMEK結合とRafによる活性化を増強する(Frostら、1997)。リン酸化されたMEKはErkを活性化し、それが、先に述べられているように(Klemkeら、1997)MLCKを活性化して、ミオシン依存性の収縮性を促進し、細胞間結合の崩壊を導くと推測される(Stocktonら、2004)。しかし、MEKがErkとは無関係に血管透過性を刺激することも報告されている(Wuら、2005)。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、Erkの特定サブ分画が、これらの作用を媒介するために適切なスカフォールドタンパク質に結合すると仮定される。フォーカルアドヒージョン(接着域)に局在するErkの小分画は全活性Erkとは異なる性質を有するので(Hughesら、2002)、この概念には先例がある。
【0260】
LPS吸入モデルにおけるPAKの活性化は、様々な因子を分泌するいくつかの細胞型を含むカスケードによるものであると考えられる。血管壁におけるErk活性化の限局性は、白血球との局所的相互作用が決定的に重要である可能性が高いことを示唆する。種々の因子が血管透過性を誘導するために異なるシグナル伝達経路を利用することの証拠が存在する。VEGFは、たとえば、src依存性経路に頼るが、bFGFはこれに依存しない(Eliceiriら、1999)。トロンビンの作用は主としてRhoおよびRhoキナーゼによって媒介される(Esslerら、1998;van Nieuw Amerongenら、2004)。しかし、PAKとErkは、これらの因子すべてによって共有される共通のシグナル伝達中間体であると思われる。GIT1の完全なノックダウンがPAK−PIX−GIT複合体の崩壊とは異なる作用を及ぼすことは興味深い。GIT1ノックダウンは、トロンビン誘導の透過性を増強する(van Nieuw Amerongenら、2004)かまたは作用を及ぼさない(本出願)が、複合体の崩壊は明らかにブロックする。GIT1の他の活性がトロンビン応答を調節することに関与する可能性が高い。たとえばGIT1はArf GAP活性を有し、これはフォーカルアドヒージョンの解除を刺激することができる(Turnerら、2001)。この概念と一致して、GIT1発現の抑制はトロンビン処置細胞においてフォーカルアドヒージョンを増強した(van Nieuw Amerongenら、2004)。しかし、PAK−PIX−GIT相互作用の特異的分断は異なる作用を有すると思われる。
ここで引用する一つ一つの特許、特許出願および公表文献の開示は、それらの全体が参照によりここに組み込まれる。
【0261】
見出しは、参照のためおよび一定の章を見出すのを助けるためにここに含まれる。これらの見出しは、その見出しの下で述べられる概念の範囲を限定することを意図せず、これらの概念は、本明細書全体を通じて他の章においても適用性を有し得る。
【0262】
開示した実施形態のこれまでの説明は、当業者が本発明を実施するまたは使用することを可能にするために提供されるものである。これらの実施形態の様々な修正が当業者には容易に明らかであり、ここで定義する一般的な原理が、本発明の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態にも適用され得る。従って、本発明は、ここで示す実施形態に限定されることを意図せず、ここで開示する原理および新規特徴に一致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0263】
【化14】
【0264】
【化15】
【図面の簡単な説明】
【0265】
【図1】図1は、肺炎症における血管透過性。
【0266】
A.マウスに、事前にNckブロッキングペプチド(PAKブロッキングペプチドとも称される;配列番号7を含む)または対照ペプチド1mgを腹腔内注射してまたは注射せずに、エーロゾル化したLPSを吸入させた。6時間目に、肺を切除し、抽出して、ウエスタンブロット法によってpSer141および全PAK2に関して分析した。2つの実験は類似の結果を生じた。
【0267】
B.マウスに、Aにおけるように対照またはNckブロッキングペプチドと共にLPSを吸入させた。6時間目に、エバンスブルー染料を注射し、1時間目に肺への漏出を検定した。数値は平均±S.D.であり、n=少なくとも4である。*は、統計的有意性、すなわちペプチドなしのLPS処置マウスに比べてp<0.01を示す。
【図2A】ErkはPAKの下流である。
【0268】
A.BAECを、20μg/mlのNck結合をブロックするN末端PAKペプチド、突然変異対照ペプチド、またはMEK阻害剤UO126(25μM)で前処置した。1時間後、VEGF25ng/mlを30分間添加した。その後細胞を固定し、活性化Erkに関して染色した。
【図2B】B.Aにおけるように細胞を抽出し、ウエスタンブロット法によってErkリン酸化に関して分析した。
【図2C】C.3μmフィルター上のBAECをドミナントネガティブMEK1(DN MEK)でトランスフェクトし、20μg/mlのPakN末端ペプチドまたは突然変異対照ペプチドで1時間前処置するか、またはUO126 25μMで前処置した。細胞を未処置のまま放置するか、またはVEGF25ng/ml、bFGF50ng/mlまたはヒスタミン10μMで1時間刺激した。フィルターを横切るホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の漏出を「実験方法」において述べるように検定した。
【図3A】インビボでのErk A.マウスにNckブロッキングペプチド(1mg;配列番号7を含む)、対照ペプチド(1mg)またはUO126(70μM 0.5ml)を注射し、その後図1におけるようにLPSで処置するかまたは処置しなかった。6時間後、肺を切除し、切片にして、pT202/pY204抗体を用いて活性化Erkに関して染色した。小さな矢印は、陽性染色される対照肺の同定されない細胞を示す。大きな矢印は、導管血管を示す。
【図3B】B.マウスを、MEK阻害剤UO126(70μM 0.5ml)を事前に注射してまたは注射せずに、LPSで処置した。エバンスブルー染料の漏出をAにおけるように検定した。*は、統計的有意性、すなわちUO126なしのLPS処置マウスに比べてp<0.05を示す。n=少なくとも4。
【図4A】βPIXおよびGIT1についての必要条件。
【0269】
A.VEGFで刺激したBAECを固定し、GIT1またはβPIXに関して免疫染色した。
【図4B】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0270】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図4C】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0271】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図4D】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0272】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図5A】インビトロでのGIT1およびβPIX対照透過性。
【0273】
A.図4Cにおけるようにトランスフェクトした細胞を集密密度で3.0μm細孔のフィルターにプレートした。培養物をVEGFで刺激し、HRPに対する透過性を「実験方法」で述べるように検定した。
【図5B】B.HUVECを、GIT1に特異的なsiRNAオリゴヌクレオチドまたは対照であるスクランブルsiRNAでトランスフェクトした。72時間目の全細胞溶解産物をウエスタンブロット法によってGIT1発現に関して分析した(上部)。フィルター上の細胞を、VEGF(50ng/ml)、ヒスタミン(10μM)またはトロンビン(0.2U/ml)による処置後にHRPに対する透過性に関して分析した。
【図6A】PAKとPIXの間の相互作用のブロッキング。
【0274】
A.PIX SH3ブロッキングペプチドおよび突然変異対照の配列。透過性上昇配列は配列番号3であり、PIX結合配列は配列番号1であり、および2つの配列の組合せであるPIX結合ペプチドは配列番号4である。配列番号4と共に使用する対照ペプチドは配列番号5を有する。
【図6B】B.細胞溶解産物をストレプトアビジンビーズに固定化したペプチドと共にインキュベートし、全細胞溶解産物(WCL)または結合タンパク質をウエスタンブロット法によって分析した。
【図6C】C.BAECを20μg/mlのPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドと共に1時間インキュベートし、その後VEGFで30分間刺激した。細胞を洗浄し、溶解して、βPIXを免疫沈降させた。IPをウエスタンブロット法によって分析した。
【図6D】D.BAECをペプチドと共にインキュベートし、CにおけるようにVEGFで刺激して、その後溶解し、ウエスタンブロット法によってErk活性化に関して分析した。
【図6E】E.細胞をCにおけるようにペプチドと共にインキュベートし、bFGFで60分間刺激して、F−アクチンに関して染色した。
【図7A】PIX−PAK相互作用のペプチドブロッキング。
【0275】
A.3.0μm細孔のフィルター上のBAECを20μg/mlのPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドで1時間前処置し、その後VEGFで30分間刺激した。単層を横切るHRPの運動を「実験方法」で述べるように検定した。
【図7B】B.マウスに、指示量のPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドを腹腔内注射した。マウスをエーロゾル化LPSで6時間処置し、エバンスブルー染料の肺への漏出を「実験方法」で述べるように検定した。数値は平均±S.D.であり、n=4−8である。ペプチドなしのLPS処置マウスと比較して、*はp<0.02、**はp<0.001を示す。
【図7C】C.図3AにおけるようにPIXブロッキングペプチド1mg/mlで前処置し、LPSに暴露したマウスからの肺をホスホ−Erkに関して染色した。比較し得る未処置およびLPS処置試料に関して図3A参照。矢印は導管血管を示す。
【図8】血管透過性のPAK誘導についてのモデル。PAKは、炎症、血栓および血管新生刺激に応答して活性化される。PAK内の非定型のプロリンに富む配列はβPIX SH3ドメインに結合する。PIXは、PIXのC末端の配列およびGIT1のSpa2相同性ドメイン(SHD)を通してGIT1に結合する。SHDはまた、MEK1/2に結合する。PAKは、RafによるMEKの活性化を促進する、ser298上のMEKをリン酸化する。その後のMEKによるErkの活性化は、細胞間結合を崩壊させる、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の活性化および収縮性を導く。
【技術分野】
【0001】
(政府によって支援された研究または開発に関する声明)
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた、助成番号RO1 GM47214およびT32 HL07284の下での米国政府援助を得て為された。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
血管からの液体および細胞の流動は様々な状況における炎症、組織損傷および死亡への重大な寄与因子である。これらは虚血性損傷、中毒性ショック、アレルギーおよび免疫反応を含む。血管透過性は、一部には、内皮細胞間の細胞間接着によって調節される。
【0003】
血管構造を裏打ちする内皮細胞単層は、血液画分の完全性を維持する障壁を形成するが、可溶性因子と白血球の通過は、調節された方法で許容する。この過程の調節不全は、水腫を含む病的状態に関連する炎症を伴って、下にある組織への血管外漏出を生じさせる。血管透過性に関連する水腫はまた、発作および心筋梗塞の動物モデルにおいて組織損傷を増大させる、低酸素状態の組織による血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌を原因とする虚血性損傷においても生じる。血管透過性は、変化した細胞間接触と隣接細胞間の傍細胞孔の出現によって特徴づけられる。内皮障壁の完全性は、一部には、皮質F−アクチンが細胞間接触を安定化し、一方細胞内ストレスファイバーが透過性を誘導する張力を及ぼす、アクチン細胞骨格の相反する役割によって調節される。
【0004】
血管透過性は、免疫応答および創傷治癒に積極的に寄与し得る厳密に調節された機能である;しかし、液体および免疫細胞の組織内への流出は、様々な疾患において重大な生命を脅かす結果をもたらすことがある。呼吸機能不全を導く肺血管系の透過性上昇による肺内の液体蓄積は、急性呼吸窮迫症候群における鍵となる要素である。酸素欠乏組織によるVEGFの放出を原因とする発作または心筋梗塞後の血管外漏出は、これらの事象後の組織損傷を実質的に増大させる。血管漏出および組織水腫は、敗血症における臓器不全に寄与する。
【0005】
肺損傷は、深刻で、しばしば致死的な医学的問題である(非特許文献1)。通常は感染によって引き起こされ、液体の肺への漏出の引き金を引く機械換気によって増悪されることがあり、呼吸機能不全を導き得る。急性肺損傷における死亡の発生率は30−40%であり、現在のところ使用可能な特異的治療はない。
【0006】
低分子量GTPアーゼRacは、多くの系において細胞−細胞接着の形成と機能を調節する。上皮および内皮細胞型では、Racは、接着と密接な結合の構築、および細胞分散の間または透過性の引き金を引くアゴニストに応答したそれらの崩壊の両方にとって重要である。これらの複雑な作用は、異なるRacエフェクター経路が区別的に細胞間結合を調節し得ることを示唆する。Racの正確な時間的および空間的調節とそのエフェクター経路は、細胞間接着の強化と崩壊の間の均衡を決定するために決定的に重要であると考えられる。しかし、これらの作用を支配する下流経路はよく理解されていない。
【0007】
p21活性化キナーゼ(PAK)は、運動性、形態形成および血管新生を含む多くの細胞機能に関与するRacおよびCdc42の下流で活性化されるセリン/トレオニンキナーゼである。GTP結合RacおよびCdc42は、不活性PAKに結合して、PAK自己阻害ドメインによって課せられる立体的制約を解き放ち、PAKの自己リン酸化と活性化を可能にする。活性化PAKについてのマーカーとして働く数多くの自己リン酸化部位が同定されている。著明なPAK下流標的は、コンフィリンへのその作用を通してアクチン重合を調節するLIMキナーゼ、およびミオシン軽鎖(MLC)を含む。PAK2は、収縮性を高め、細胞収縮の引き金を引くSer19でのMLCのモノリン酸化を触媒する。しかし、PAKはまた、MLCキナーゼを阻害し、それによってMLCのリン酸化と収縮を制限することができる。PAK2上のセリン141は、キナーゼの活性化の間にリン酸化されるAID配列内の部位である。この部位のリン酸化は、自己阻害を解除するためにAIDとキナーゼドメインの相互作用をブロックすることによって活性化に寄与する。内皮細胞において、触媒活性PAK1の発現はMLCリン酸化と細胞収縮性を上昇させ、一方PAKの阻害は細胞収縮性を低下させた。それゆえ、これらの細胞では、PAKの主要な作用は収縮性の促進であると思われる。
【0008】
内皮細胞間結合におけるPAKの活性化はサイトカインに応答して血管透過性を調節することが以前に明らかにされた(非特許文献2)。これは、細胞収縮を促進する、ミオシン軽鎖のリン酸化を制御することによって行われた。PAKはERK1/2活性化を調節することが知られている(非特許文献3)。Erkも血管透過性を調節することが公知である(非特許文献4:L360−70;Borbiev Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2003 285:L43−54)。
【0009】
PAKはPIX(αまたはβアイソフォーム)と呼ばれるタンパク質に結合することができ、PIXは次にGIT(アイソフォーム1または2)と呼ばれる別のタンパク質に結合する(非特許文献5において総説されている)。GITは、Erk MAPキナーゼの活性化を促進するスキャフォールドタンパク質であると提案された(Yin 2004,Mol.Cell Biol.24:875−885)。PAK経路は血管外漏出を刺激する多くの事象に関与すると思われる。GITタンパク質は、低分子量GTP結合タンパク質であるADPリボシル化因子(ARF)についてのGTPアーゼ活性化タンパク質である。
【0010】
PIXαおよびPIXβに結合するPAK内の配列は、PPPVIAPRPEHTKSVYTR(配列番号1)(Manserら、Mol.Cell.1998 1:2:183−92)。GIT1/2に結合するPIX内のコア配列は、PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である(非特許文献6)。PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列は、Spa2相同性ドメイン(GIT1内の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1内の428−485)である(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内(アミノ酸残基255−375)である(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。
【0011】
PAKキナーゼは低分子量GTPアーゼRacおよびCdc42によって活性化される。PAKキナーゼは、時として2つの他のタンパク質、すなわちPIX(αまたはβ)とGIT(1または2)との複合体中に認められる。Pakは、PAK内の特殊なプロリンに富む配列を通してPIX SH3ドメインに直接結合する。PIXは次に、PIXの極C末端およびGIT内の2つの領域:Spa2相同性ドメイン(アミノ酸残基270−363)およびコイルドコイル(アミノ酸残基428−485)を通してGITタンパク質と結合する。GIT1はまた、Erkの活性化のためのスキャフォールドタンパク質であることが認められた。GIT1は、Erk活性化のための上流キナーゼ、MEK1/2に結合する。
【0012】
PAKキナーゼは、増殖因子、炎症性サイトカインおよびトロンビンによる血管透過性の誘導のために重要であることが以前に出願人によって示された。PAKは、ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化の調節、および透過性障壁として働く細胞間接着を崩壊させる細胞収縮の上昇によって透過性を制御した。
【0013】
血管透過性を調節するための組成物および方法に対する長年の強い需要が当技術分野に存在する。本発明はこれらの需要を満たすものである。
【非特許文献1】Orfanosら、2004; Lionettiら、2005
【非特許文献2】Stockton,J.Biol.Chem.279:46621−46630
【非特許文献3】Frost,1997,EMBO J.16:6426−6438
【非特許文献4】Verin,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2000 279
【非特許文献5】Turner,Curr Opin Cell Biol.,2001,13:593−599
【非特許文献6】Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
PAK、PIX、GIT1とGIT2およびMEKを含むタンパク質の複合体は、多くのサイトカイン、増殖因子または機械的刺激に応答して内皮単層の透過性の引き金を引くために必須である。血管透過性は、急性肺損傷、発作、心筋梗塞および感染を含む、組織損傷および炎症に関わる多くの病的状態への主要寄与因子である。PAKは、おそらくいくつかの機構を通してMLCKリン酸化を活性化し得る。潜在的経路は、ミオシン(Chewら、1998)またはカルデスモン(Fosterら、2000)の直接リン酸化を含む。あるいは、この作用は、MLCKを活性化し得る(Klemkeら、1997)、Erkを活性化するためのRafまたはMEK1/2のリン酸化を含むと考えられる(Frostら、1997;Kingら、1998)。本発明は、PAKが血管外漏出を誘導するMLCKリン酸化を活性化する機序ならびにこの経路を調節するための組成物および方法を包含する。
【0015】
本発明は、血管透過性を調節する、特に血管透過性を阻害するための組成物および方法を対象とする。特に、本発明は、血管透過性の引き金を引くために重要なタンパク質の相互作用をブロックすることによって血管透過性を調節する方法を対象とする。本発明は、PAK−PIX−GIT−MEK複合体を破壊するまたは細胞間結合から複合体を解離するための相互作用部位に関して競合する、ペプチド、およびその修飾物、フラグメント、誘導体、ホモログおよび類似体を提供する。そのようなペプチドをここでは競合ペプチドまたは配列と称する。本発明のペプチドは、PAK、PIX、GITおよびMEKの少なくとも1つと競合するまたは前記の少なくとも1つを調節する。それゆえ、本発明は、それによって血管透過性を調節する、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKから成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路のレギュレーターの使用を含む、関連シグナル伝達経路によって血管透過性を調節することを包含する。
【0016】
1つの態様では、本発明のペプチドはPIXαへのPAKの結合をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはPIXβへのPAKの結合をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドはGIT1へのPIXの結合をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはGIT2へのPIXの結合をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドはGIT1とMEKの結合をブロックする。1つの態様では、MEKはMEK1またはMEK2である。1つの態様では、本発明のペプチドはErkの活性化をブロックする。もう1つの態様では、本発明のペプチドはErk MAPキナーゼをブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドは、PAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする。本発明はさらに、PAKから下流でErkおよびMLCKを調節するための方法および組成物を包含する。
【0017】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドは、タンパク質複合体の形成または相互作用をブロックする。1つの態様では、本発明のペプチドは、細胞間結合へのタンパク質複合体の局在化をブロックする。
【0018】
1つの態様では、血管透過性は、その必要のある被験体において本発明のペプチドによってブロックされる。
【0019】
以下のペプチドをここで使用する:
【0020】
【化1】
以下の核酸をここで使用する:
【0021】
【化2】
簡単に述べると、ここで使用する配列の機能および/または起源は以下の通りである:
配列番号1は、PIXに結合するPAK内の配列である。
【0022】
配列番号2は、GIT1およびGIT2に結合するPIX内のコア配列である。
【0023】
配列番号3は、細胞膜透過性を与えるTAT配列である。
【0024】
配列番号4は、配列番号1と3の組合せである。
【0025】
配列番号5は、2個のアミノ酸突然変異/置換を含む、配列番号4の対照ペプチドである。
【0026】
配列番号6は、細胞膜透過性を与えるTAT配列を含むPAK/Nckブロッキングペプチドを生じさせる、配列番号3と7の組合せである。
【0027】
配列番号7は、PAKの最初のプロリンに富むドメインからの配列から成る。
【0028】
配列番号8−11は、ここで使用するsiRNA Smartpoolの4個のセンス配列である。
【0029】
1つの実施形態では、タンパク質阻害剤であるペプチドは、配列PPPVIAPRPEHTKSVYTR(配列番号1)(Manserら、Mol.Cell.1998 1:2:183−92)、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを含む。配列番号1をPIX結合配列と称する。
【0030】
もう1つの実施形態では、タンパク質複合体形成または相互作用を阻害するために使用する競合配列は、GIT1/2に結合するPIX内のコア配列である(PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する;Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650)、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である。1つの実施形態では、使用する競合ペプチドは、Spa2相同性ドメイン(GIT1の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1の428−485)である、PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列の1またはそれ以上を含む(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内であり、本発明に包含される(アミノ酸残基255−375)(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。ペプチドに細胞膜透過性を与えるTAT配列、YGRKKRRQRRRG(配列番号3)または関連多塩基性配列はこれらの配列に連結されている(Stocktonら、J.Biol.Chem.,2004,279:45:46621−46630)。複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする、これらのタンパク質内の他の相互作用部位も本発明に包含される。1つの態様では、2以上のペプチド、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを、複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックするために使用する。本発明の1つの態様では、本発明の1またはそれ以上のペプチドを、血管透過性を調節する1またはそれ以上の他の化合物と共に投与する。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドへの多塩基性TAT配列または他の透過性配列の結合は、これらの構築物が細胞に進入することを可能にする。1つの態様では、透過性上昇配列はTAT配列YGRKKRRQRRRG(配列番号3)である。これらの複合化合物は、水腫および組織損傷をブロックするために損傷または炎症組織における血管透過性を抑制する。
【0032】
1つの実施形態では、本発明は、配列番号3と配列番号1の組合せの結果であるペプチドを提供する。配列番号3とは1の組合せは、ここでは「PIX結合ペプチド」として知られる配列番号4である。PIX結合ペプチドはまた、ここでは「PIXブロッキングペプチド」とも称される。配列番号4は、それゆえ、配列
【0033】
【化3】
を有し、カルボキシ末端修飾と共にここで使用されるときは、
【0034】
【化4】
である。
【0035】
ここで開示する対照ペプチドは、
【0036】
【化5】
であり、同じくここでは
【0037】
【化6】
として使用される(図6参照)。
もう1つの実施形態では、タンパク質複合体形成または相互作用を阻害するために使用する競合配列は、GIT1/2に結合するPIX内のコア配列である(PIXαについてのアミノ酸残基685−698およびPIXβについてのアミノ酸残基527−542に対応する;Fengら、2002,J.Biol.Chem.277:5644−5650)、AALEEDAQILKVI(配列番号2)である。1つの実施形態では、使用する競合ペプチドは、Spa2相同性ドメイン(GIT1の255−375)およびコイルドコイル領域(GIT1の428−485)である、PIXタンパク質に結合するGIT1およびGIT2内のコア配列の1またはそれ以上を含む(Premontら、2004,Cell Signal 16:1001−1011)。MEKに結合するGIT1に関する領域もSpa相同性ドメイン内であり、本発明に包含される(アミノ酸残基255−375)(Haendelerら、2003,J.Biol.Chem.278:50:49936−44)。それゆえ、本発明はさらに、これらのドメインのペプチド、およびそのホモログ、誘導体、フラグメントおよび修飾物を含むペプチドを包含する。複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックする、これらのタンパク質内の他の相互作用部位も本発明に包含される。1つの態様では、2以上のペプチド、およびそのホモログ、修飾物、誘導体、類似体およびフラグメントを、複合体形成または細胞間結合への局在化をブロックし、およびPAKからErkへ、および次にMLCKへのシグナル伝達をブロックするために使用する。本発明の1つの態様では、本発明の1またはそれ以上のペプチドを、血管透過性を調節する1またはそれ以上の他の化合物と共に投与する。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、本発明のペプチドへの多塩基性TAT配列または他の透過性配列の結合は、これらの構築物が細胞に進入することを可能にする。1つの態様では、透過性上昇配列はTAT配列
【0039】
【化7】
である。これらの複合化合物は、水腫および組織損傷をブロックするために損傷または炎症組織における血管透過性を抑制する。
【0040】
1つの態様では、TAT−ペプチド構築物は、細胞と接触したとき血管透過性を阻害する。1つの態様では、細胞は内皮細胞である。1つの態様では、内皮細胞は培養下にある。もう1つの態様では、内皮細胞はインビボである。
【0041】
1つの態様では、本発明は、血管透過性を低下させるためまたは血管透過性の上昇を阻害するために有用な組成物および方法を提供する。1つの態様では、本発明は、血管外漏出が、組織損傷、炎症、水腫、腫脹、ショック、疾患、または血管透過性異常に関連する他の状態または障害に寄与するまたは前記によって引き起こされる、疾患、障害または状態を治療するために被験体に投与し得る、タンパク質複合体の機能または活性の阻害剤を含む組成物を提供する。そのような疾患および損傷は、機械的または他の肺損傷、発作および心筋梗塞を含むが、これらに限定されない。1つの態様では、本発明は、急性肺損傷において液体輸送を阻害するための組成物および方法を提供する。もう1つの態様では、本発明は、インビボで炎症性物質によって誘導される組織での血管透過性を低下させるまたは血管透過性の上昇を阻害するための組成物および方法を提供する。1つの態様では、組織は肺組織である。本発明の化合物はまた、その必要のある被験体にもう1つ別の薬剤または薬物と共に投与することができる。
【0042】
1つの実施形態では、本発明は、その必要のある被験体において、PAK−PIX−GIT−MEK複合体および相互作用を崩壊させ、炎症および損傷による血管透過性を阻害するための本発明のペプチドの投与を提供する。PAK−PIX−GIT−MEK複合体を崩壊させるまたは細胞間結合から複合体を解離するために相互作用部位に関して競合するタンパク質フラグメントおよびペプチドは、血管透過性を低下させる。これらの配列は、TAT配列または細胞内へのタンパク質の輸送を促進する他の配列に融合することができる。これらの試薬は、血管外漏出が寄与因子である疾患において血管透過性を阻害するために使用できる。PIXαまたはPIXベータへのPAKの結合、GIT1またはGIT2へのPIXの結合、およびGIT1へのMEKの結合をブロックするために内因性相互作用部位に関して競合するタンパク質フラグメントは、PAKをErk活性化および細胞間結合の崩壊、ならびにMLCKへと結びつけるシグナル伝達経路を遮断する。
【0043】
1つの実施形態では、PAK阻害剤は、ドミナントネガティブ作用を及ぼすPAKからの配列を含む短いペプチドである(Kiossesら、2002,Circ.Res.90:697)。このペプチド
【0044】
【化8】
は、細胞への進入を促進するHIV TATタンパク質からの多塩基性配列
【0045】
【化9】
(Schwarzeら、1999,Science 285:1569)に融合した、PAKの最初のプロリンに富むドメインからの配列
【0046】
【化10】
から成る。前記ペプチド(配列番号6)は、完全長ドミナントネガティブ構築物と同様にPAK機能を阻害する。このペプチドはそれ自体ではPAKキナーゼ活性をブロックせず、その代わりに細胞間結合を含む作用部位からPAKを変位させ、これは細胞の収縮性、移動および透過性へのその作用を妨げるのに十分である。このペプチドを「PAKブロッキングペプチド」および「Nckブロッキングペプチド」と称する。
【0047】
もう1つの実施形態では、PAK阻害剤は、PAKキナーゼ活性をブロックする、PAKの自己阻害ドメインを含む。
【0048】
本開示はまた、本発明における使用のための他のPAKレギュレーターを包含する。付加的なPAKレギュレーターを同定するために有用なアッセイは、本文中、ならびにそれらの開示全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第6,248,549号および2004年7月15日公開の米国特許公開第20040138133号に述べられている。
【0049】
もう1つの実施形態では、PAK活性または機能のレギュレーターは、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのをブロックすることができる。1つの態様では、レギュレーターは他のタンパク質または分子と結合して、それらがPAKと相互作用することを阻害する。もう1つの態様では、レギュレーターはPAKと結合して、他のタンパク質または分子がPAKと結合することを阻害する。
【0050】
1つの実施形態では、本発明は、増殖因子、サイトカインおよび細菌毒素によって誘導される血管透過性上昇を抑制する方法を提供する。
【0051】
当業者は、本発明の阻害剤が、対象標的部位と相互作用するまたは結合することによる競合的阻害によって、または三次構造の変化を誘導することなどの、分子の作用を阻害することまたは何らかの方法で複合体形成または相互作用をブロックすることによって間接的に、作用し得ることを認識する。
【0052】
本発明はさらに、これらの相互作用およびシグナル伝達経路を崩壊させる他の種類の分子を提供する。1つの実施形態では、本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸配列を含む単離核酸を提供する。もう1つの実施形態では、本発明は、ここで述べるシグナル伝達経路のタンパク質に対するsiRNAを提供する。1つの態様では、siRNAはGITに対する。1つの態様では、siRNAは、配列番号8−11から成る群より選択される配列を含む。もう1つの態様では、阻害剤はMEKの阻害剤である。1つの態様では、MEKの阻害剤はUO126である。
【0053】
1つの実施形態では、本発明は、少なくとも1つの本発明のペプチドを被験体に投与するためのキットを提供する。
【0054】
1つの実施形態では、本発明は、ここで述べるタンパク質調節経路の阻害剤を同定するためのアッセイおよび方法を提供する。
【0055】
本発明の様々な態様と実施形態を以下でさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
(発明の詳細な説明)
略語
AID−自己阻害ドメイン
ARF−ADPリボシル化因子
BAEC−ウシ大動脈内皮細胞
dn−ドミナントネガティブ
ECL−増感化学発光
ERK−細胞外シグナル制御キナーゼ
bFGF−塩基性線維芽細胞増殖因子
FAK−フォーカルアドヒージョン(接着域)キナーゼ
FN−フィブロネクチン
GAP−GTPアーゼ活性化タンパク質
GIT−GRK相互作用性ARF GAP
GRK−Gタンパク質共役受容体キナーゼ
HRP−ホースラディッシュペルオキシダーゼ
HUVEC−ヒト臍帯静脈内皮細胞
ip−腹腔内
IP−免疫沈降法
MEK−MAP/ERKキナーゼ
MLC−ミオシン軽鎖
MLCK−ミオシン軽鎖キナーゼ
PAK−p21活性化プロテインキナーゼ
PIX−PAK相互作用性交換因子
PKL−パキシリンキナーゼリンカータンパク質
PBS−リン酸緩衝食塩水
SHD−Spa2相同性ドメイン
TBS−トリス緩衝食塩水
TNF−腫瘍壊死因子
VEGF−血管内皮増殖因子
WCL−全細胞溶解産物
wt−野生型
定義
本発明を説明し、特許請求するとき、以下の用語を以下に述べる定義に従って使用する。
【0057】
ここで使用する、「a」および「an」は、冠詞の文法上の目的語の1または2以上、すなわち少なくとも1を指す。例として、「an element」は1エレメントまたは2以上のエレメントを意味する。
【0058】
ここで使用する、「接着」という用語は、広く、もう1つ別の細胞、分子または他の基質への細胞の結合を指す。
【0059】
ここで使用する、「罹患細胞」という用語は、疾患、損傷または障害に罹患した被験体の細胞を指し、罹患細胞は、疾患または障害に罹患していない被験体に比べて変化した表現型を有する。
【0060】
細胞または組織は、それらが疾患または障害に罹患していない被験体における同じ細胞または組織に比べて変化した表現型を有する場合、疾患、損傷または障害に「罹患」している。
【0061】
疾患、状態または障害は、疾患または障害の症状の重症度、そのような症状が患者によって経験される頻度、またはその両方が低減する場合、「緩和」される。
【0062】
ここで使用する、「アミノ酸」は、以下の表に示すように、その正式名称によって、それに対応する3文字表記によって、またはそれに対応する1文字表記によって表される。
【0063】
【化11】
ここで使用する「アミノ酸」という表現は、天然および合成アミノ酸、およびDとLの両方のアミノ酸を含むことが意図されている。「標準アミノ酸」は、天然に生じるペプチドにおいて一般的に認められる20個の標準L−アミノ酸のいずれかを意味する。「非標準アミノ酸残基」は、合成によって作製されるかまたは天然ソースに由来するかに関わらず、標準アミノ酸以外の何らかのアミノ酸を意味する。ここで使用する、「合成アミノ酸」はまた、塩、アミノ酸誘導体(アミドなど)および置換体を含むがこれらに限定されない、化学修飾されたアミノ酸を包含する。本発明のペプチド内に含まれる、特にカルボキシまたはアミノ末端のアミノ酸は、メチル化、アミド化、アセチル化、またはそれらの活性に有害な影響を及ぼさずにペプチドの循環半減期を変化させることができる他の化学基での置換によって修飾できる。付加的に、ジスルフィド結合が本発明のペプチド内に存在してもよくまたは存在しなくてもよい。
【0064】
「アミノ酸」という用語は、「アミノ酸残基」と交換可能に使用され、遊離アミノ酸およびペプチドのアミノ酸残基を表わし得る。遊離アミノ酸を指すかまたはペプチドの残基を指すかは、その用語が使用される文脈から明らかである。
【0065】
アミノ酸は以下の一般構造:
【0066】
【化12】
を有する。
【0067】
アミノ酸は、側鎖Rに基づいて7つの群に分類し得る:(1)脂肪族側鎖;(2)ヒドロキシル(OH)基を含む側鎖;(3)硫黄原子を含む側鎖;(4)酸性またはアミド基を含む側鎖;(5)塩基性基を含む側鎖;(6)芳香環を含む側鎖;および(7)側鎖がアミノ基に融合しているイミノ酸である、プロリン。
【0068】
ここで使用する、「保存的アミノ酸置換」は、以下の5つの群の1つの中での交換と定義される:
I.低分子脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性で負に荷電した残基およびそれらのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III.極性で正に荷電した残基:
His、Arg、Lys;
IV.大型の脂肪族、非極性残基:
Met、Leu、Ile、Val、Cys
V.大型の芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0069】
本発明のペプチド化合物を表わすために使用される用語は、アミノ基が各々のアミノ酸残基の左側に表示され、カルボキシ基が右側に表示される従来の慣例に従う。本発明の選択特定実施形態を示す式では、アミノおよびカルボキシ末端基は、特定して示さないが、異なる記載がない限り、それらが生理的pH値でとる形態であることが了解される。
【0070】
ここで使用する、「塩基性」または「正に荷電した」アミノ酸という用語は、R基がpH7.0で正味正電荷を有するアミノ酸を指し、標準アミノ酸リシン、アルギニンおよびヒスチジンを含むが、これらに限定されない。
【0071】
ここで使用する、化合物の「類似体」は、例として、構造的にもう1つ別の化合物に類似するが、必ずしも異性体ではない化合物である(たとえば5−フルオロウラシルはチミンの類似体である)。
【0072】
ここで使用する「抗体」という用語は、抗原上の特定エピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然ソースまたは組換えソースに由来する無傷免疫グロブリンであり得、および無傷免疫グロブリンの免疫反応性部分であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る(Harlowら、1999,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlowら、1989,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York;Houstonら、1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Birdら、1988,Science 242:423−426)。
【0073】
ここで使用する「合成抗体」という用語により、たとえばここで述べるようなバクテリオファージによって発現される抗体などの、組換えDNA技術を用いて作製される抗体が意味される。この用語はまた、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製され、前記DNA分子が抗体タンパク質または抗体を規定するアミノ酸配列を発現する抗体を意味すると解釈されるべきであり、前記DNAまたはアミノ酸配列は、当技術分野において使用可能であり、周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を用いて得られたものである。
【0074】
ここで使用する、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、少なくともその一部が、正常細胞または罹患細胞中に存在する核酸に相補的である、核酸重合体を意味する。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの他の修飾物を含むが、これらに限定されない。オリゴヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドおよびさもなければ修飾オリゴヌクレオチドを合成するための方法は当技術分野において周知である(米国特許第5,034,506号;Nielsenら、1991,Science 254:1497)。「アンチセンス」は、特に、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、または非コード鎖に実質的に相同な配列を指す。ここで定義されるように、アンチセンス配列は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列に相補的である。アンチセンス配列は、DNA分子のコード鎖のコード部分にだけ相補的である必要はない。アンチセンス配列は、タンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上で規定される、コード配列の発現を制御する調節配列に相補的であってもよい。
【0075】
ここで使用する、ポリペプチドの「生物学的に活性なフラグメント」または「生物活性フラグメント」という用語は、それらの天然リガンドに特異結合することができるまたはタンパク質の機能を実行することができる、完全長タンパク質の天然または合成部分を包含する。
【0076】
「対照」細胞は、試験細胞と同じ細胞型を有する細胞である。対照細胞は、たとえば試験細胞が検査されるのと厳密にまたはほぼ同時に検査され得る。対照細胞はまた、たとえば試験細胞が検査される時点と離れた時点で検査されてもよく、対照細胞の検査の結果は、記録された結果を試験細胞の検査によって得られた結果と比較し得るように記録され得る。
【0077】
「試験」細胞は、検査される細胞である。
【0078】
「病理指示」細胞は、組織中に存在するとき、その組織が位置する(またはその組織が得られた)動物が疾患または障害に罹患していることの指標である細胞である。
【0079】
「病原性」細胞は、組織中に存在するとき、その組織が位置する(またはその組織が得られた)動物において疾患または障害を引き起こすあるいは疾患または障害に寄与する細胞である。
【0080】
組織は、細胞の1またはそれ以上が疾患または障害に罹患していない動物の組織中に存在する場合、細胞を「正常に含む」。
【0081】
「競合配列」という用語は、そのコグネイト結合部位に関してもう1つ別のペプチドと競合するペプチド、またはその修飾物、フラグメント、誘導体またはホモログを指す。
【0082】
「相補的」とは、2本の核酸鎖の領域の間または同じ核酸鎖の2つの領域の間での配列相補性の広い概念を指す。第一核酸領域のアデニン残基は、第一領域に逆平行である第二核酸領域の残基と、その残基がチミンまたはウラシルである場合特異的水素結合を形成することができる(塩基対合)ことは公知である。ここで使用する、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合規則によって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)に関して使用される。たとえば配列「A−G−T」に関しては、配列「T−C−A」が相補的である。
【0083】
同様に、第一核酸鎖のシトシン残基は、第一鎖に逆平行である第二核酸鎖の残基と、その残基がグアニンである場合塩基対合できることは公知である。2つの領域を逆平行に配置したとき、第一領域の少なくとも1個のヌクレオチド残基が第二領域の残基と塩基対合できる場合、核酸の第一領域は、同じ核酸または異なる核酸の第二領域に相補的である。好ましくは、第一領域は第一部分を含み、第二領域は第二部分を含み、それにより、第一と第二部分を逆平行に配置したとき、第一部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%が第二部分のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。より好ましくは、第一部分のすべてのヌクレオチド残基が第二部分内のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。
【0084】
タンパク質に関してここで使用する、「複合体」という用語は、2またはそれ以上のタンパク質の結合または相互作用を指す。複合体形成または相互作用は、結合、三次構造の変化、およびリン酸化などの、あるタンパク質のもう1つ別のタンパク質による修飾を含み得る。
【0085】
ここで使用する、「化合物」は、一般的に薬剤とみなされる何らかの種類の物質または作用因子、または薬剤としての使用のための候補物質、ポリペプチド、単離核酸、抗体、または本発明の方法において使用される他の物質、ならびにそれらの何らかの組合せを指す。
【0086】
ここで使用する、「検出可能マーカー」または「レポーター遺伝子」は、マーカーを持たない類似化合物の存在下でマーカーを含む化合物の特異的検出を可能にする原子または分子である。検出可能マーカーまたはレポーター遺伝子は、たとえば放射性同位体、抗原決定基、酵素、ハイブリダイゼーションのために使用可能な核酸、発色団、発蛍光団、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、および変化した蛍光−偏光または変化した光散乱を提供する分子を含む。
【0087】
「疾患」は、動物がホメオスタシスを維持することができず、疾患が改善されない場合動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態である。
【0088】
これに対し、動物における「障害」は、動物はホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康状態が障害のない場合よりも良好でない、健康状態である。処置せずに放置した場合、障害は必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起すわけではない。
【0089】
「コードする」は、ヌクレオチドの定義された配列(すなわちrRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の定義された配列をおよびそれらから生じる生物学的性質を有する、生物学的過程において他の重合体および高分子の合成のための鋳型として働く、
遺伝子、cDNAまたはmRNAなどの、ポリヌクレオチド内のヌクレオチドの特定配列の固有の性質を指す。それゆえ、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を生産する場合、タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列表において提供されるコード鎖、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方を、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称することができる。
【0090】
異なる記載がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチドはイントロンを含み得る。
【0091】
「エンハンサー」は、転写開始部位に対するエンハンサーの距離または方向に関わりなく、転写の効率を高めることができるDNA調節エレメントである。
【0092】
ここで使用する、特定タンパク質またはペプチドの「基本的に純粋な」製剤は、製剤中のタンパク質またはペプチド少なくとも約95重量%、好ましくは少なくとも約99重量%がその特定タンパク質またはペプチドである製剤である。
【0093】
「フラグメント」または「セグメント」は、少なくとも1個のアミノ酸を含むアミノ酸配列の部分、または少なくとも1個のヌクレオチドを含む核酸配列の部分である。「フラグメント」および「セグメント」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0094】
ここで使用する、「機能性」生物分子は、その分子を特徴づける性質または活性を示す形態の生物分子である。機能性酵素は、たとえばその酵素を特徴づける特徴的な触媒活性を示すものである。
【0095】
ここで使用する「相同」は、2個の重合体分子の間、たとえば2個の核酸分子、たとえば2個のDNA分子または2個のRNA分子の間、または2個のペプチド分子の間でのサブユニット配列類似性を指す。2個の分子の両方のサブユニット部分が同じ単量体サブユニットによって占められるとき、たとえば2個のDNA分子の各々におけるある位置がアデニンによって占められる場合、それらはその位置において相同である。2つの配列間の相同性は、マッチングの数または相同な位置の数の直接の関数であり、たとえば2つの化合物配列内の位置の半数(たとえば10サブユニットの長さの高分子内の5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、位置の90%、たとえば10のうち9がマッチするまたは相同である場合、2つの配列は90%の相同性を共有する。例として、DNA配列3’ATTGCC5’と3’TATGGCは50%の相同性を共有する。
【0096】
ここで使用する、「相同性」は、「同一性」と同義に使用される。
【0097】
2個のヌクレオチドまたはアミノ酸配列のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実施できる。たとえば2個の配列を比較するために有用な数学的アルゴリズムは、KarlinとAltschul(1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)において修正された、KarlinとAltschul(1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268)のアルゴリズムである。このアルゴリズムは、Altschulら(1990,J.Mol.Biol.215:403−410)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれており、たとえばthe National Center for Biotechnology Information(NCBI)の世界的ウエブサイトでアクセスできる。BLASTヌクレオチド検索は、ここで述べる核酸に相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム(NCBIウエブサイトでは「blastn」と称される)で以下のパラメータを用いて実施できる:ギャップペナルティ=5;ギャップエクステンションペナルティ=2;ミスマッチペナルティ=3;マッチ加算=1;期待値10.0;およびワードサイズ=11。BLASTタンパク質検索は、ここで述べるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム(NCBIウエブサイトでは「blastn」と称される)で以下のパラメータを用いて実施できる:期待値10.0、BLOSUM62スコア行列。比較目的でギャップ付きアラインメントを得るため、Altschulら(1997,Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に述べられているようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI−BlastまたはPHI−Blastは、分子間の遠い関係(Id.)および共通パターンを共有する分子間の関係を検出する反復検索を実施するために使用できる。BLAST、Gapped BLAST、PSI−BlastおよびPHI−Blastプログラムを利用するときは、それぞれのプログラム(たとえばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用できる。
【0098】
2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップを導入するかまたは導入せずに、上述したのと同様の手法を用いて決定することができる。パーセント同一性を算定するとき、典型的には正確なマッチを計数する。
【0099】
ここで使用する、「阻害する」という用語は、化合物または何らかの物質が記述される機能を低下させるまたは妨げる能力を指す。好ましくは、阻害は少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに一層好ましくは少なくとも50%であり、最も好ましくは、機能が少なくとも75%阻害される。
【0100】
ここで使用する、「複合体を阻害する」という用語は、2またはそれ以上のタンパク質の複合体の形成または相互作用を阻害すること、ならびに複合体の機能または活性を阻害することを指す。この用語はまた、形成された複合体を崩壊させることを包含する。しかし、この用語は、これらの機能の各々すべてが同時に阻害されなければならないことを意味しない。
【0101】
ここで使用する、「タンパク質を阻害する」という用語は、タンパク質の合成、レベル、活性または機能を阻害する何らかの方法または手法、ならびに対象タンパク質の合成、レベル、活性または機能の誘導または刺激を阻害する方法を指す。この用語はまた、対象タンパク質の合成、レベル、活性または機能を調節することができる何らかの代謝または調節経路を指す。この用語は、他の分子との結合および複合体形成を含む。それゆえ、「タンパク質阻害剤」という用語は、その適用がタンパク質機能またはタンパク質経路機能の阻害を生じさせる、何らかの物質または化合物を指す。しかし、この用語は、これらの機能の各々すべてが同時に阻害されなければならないことを意味しない。
【0102】
「単離核酸」は、天然に生じる状態でそれに隣接している配列から分離された核酸セグメントまたはフラグメント、たとえば通常そのフラグメントに隣接している配列、たとえばそれが天然に生じるゲノム内でそのフラグメントに隣接している配列から取り出されたDNAフラグメントを指す。この用語はまた、天然で核酸に付随する他の成分、たとえば細胞において天然で核酸に付随するRNAまたはDNAまたはタンパク質から実質的に精製された核酸にも適用される。この用語はそれゆえ、たとえばベクター、自律複製プラスミドまたはウイルス、または原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれた、または他の配列とは独立して別個の分子として(たとえばcDNAとしてあるいはPCRまたは制限酵素消化によって生産されるゲノムまたはcDNAフラグメントとして)存在する、組換えDNAを包含する。この用語はまた、付加的なポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の部分である組換えDNAを含む。
【0103】
異なる記載がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチドはイントロンを含み得る。
【0104】
ここで使用する、「指示書(instructional material)」は、ここで列挙する様々な疾患または障害の緩和を生じさせるためのキットにおいて本発明の化合物の有用性を伝えるために使用できる出版物、記録、図表、または他の表現媒体を含む。場合によりまたは選択的に、指示書は、哺乳動物の細胞または組織において疾患または障害を緩和する1またはそれ以上の方法を記述し得る。本発明のキットの指示書は、たとえば、同定された本発明の化合物を含む容器に貼付され得るかまたは同定された化合物を含む容器と共に発送され得る。あるいは、指示書は、指示書と化合物が受容者によって協調的に使用されることを意図して容器とは別に発送され得る。
【0105】
ここで使用する、「リガンド」は、標的化合物または分子に特異的に結合する化合物である。リガンドは、そのリガンドが不均一な化合物の試料中でその化合物の存在を決定する結合反応において機能するとき、化合物「に特異的に結合する」または化合物「と特異的に反応性である」。
【0106】
ここで使用する、「連結」という用語は、2つの群の間の結合を指す。結合は、イオン結合、水素結合、および疎水性/親水性相互作用を含むがこれらに限定されない、共有結合または非共有結合であり得る。
【0107】
ここで使用する、「リンカー」という用語は、たとえばイオンまたは水素結合またはファンデルワールス相互作用を通して、共有結合または非共有結合によって2個の他の分子を連結する分子を指す。
【0108】
ここで使用する、「核酸」という用語は、RNAならびに一本鎖または二本鎖DNAまたはcDNAを包含する。さらに、「核酸」、「DNA」、「RNA」という用語および類似の用語はまた、核酸類似体、すなわちホスホジエステル以外の骨格を有する類似体である。たとえば、当技術分野において公知であり、骨格内にホスホジエステル結合ではなくペプチド結合を有する、いわゆる「ペプチド核酸」は、本発明の範囲内とみなされる。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドから成り、およびホスホジエステル結合またはホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合などの修飾結合、およびそのような結合の組合せから成る、何らかの核酸を意味する。核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。ここではポリヌクレオチド配列を表わすために従来の表示法を使用する:一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端は5’末端である;二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向を5’方向と称する。新生RNA転写産物に対する5’から3’へのヌクレオチドの付加の方向を転写方向と称する。mRNAと同じ配列を有するDNA鎖を「コード鎖」と称する;DNA上の標準点に対して5’側に位置するDNA鎖上の配列を「上流配列」と称する;DNA上の標準点に対して3’側にあるDNA鎖上の配列を「下流配列」と称する。
【0109】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には短いポリヌクレオチド、一般に約50以下のヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわちA、T、G、C)によって表わされるとき、これはまた、「U」が「T」に取って代わるRNA配列(すなわちA、U、G、C)も包含することが了解される。
【0110】
「作動可能に連結された」は、成分がそれらの通常の機能を実行するように構成された並列を指す。それゆえ、コード配列に作動可能に連結された制御配列またはプロモーターは、コード配列の発現を生じさせることができる。2個のポリヌクレオチドを「作動可能に連結された」と表わすことにより、一本鎖または二本鎖核酸部分が、2個のポリヌクレオチドの少なくとも1個がそれを特徴づける生理的作用を他方に及ぼすことができるように核酸部分内に配置された2個のポリヌクレオチドを含むことが意味される。例として、遺伝子のコード領域に作動可能に連結されたプロモーターは、コード領域の転写を促進することができる。
【0111】
ここで使用する、「PAK機能」という用語は、他の分子とのPAK結合、キナーゼ活性、自己リン酸化、トランスロケーション、他の分子による活性化等を含むがこれらに限定されない、p21活性化キナーゼの何らかの活性または機能を指す。「PAK機能」は、ここでは「PAK活性」と交換可能に使用される。ここで使用する、「PAKの阻害」は、PAK合成を阻害することを含む、何らかのPAK活性または機能を阻害することを指す。
【0112】
「PAKブロッキングペプチド」、「TAT−PAK−N末端ペプチド」および「Nckブロッキングペプチド」という用語は、配列番号6のペプチドを指し、これらの用語はここでは交換可能に使用される。配列番号の成分である、配列番号7。
【0113】
ここで述べる「PIXブロッキングペプチド」、「PIX結合ペプチド」等の用語は、配列番号4のペプチドなどの、PIXとPAKの相互作用をブロックするペプチドを指し、これらの用語はここでは交換可能に使用される。
【0114】
「ペプチド」という用語は、典型的には短いポリペプチドを指す。
【0115】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に生じる構造変異体、およびペプチド結合によって連結されたその合成の非天然に生じる類似体、関連する天然に生じる構造変異体、およびその合成の非天然に生じる類似体から成る重合体を指す。合成ポリペプチドは、たとえば自動ポリペプチド合成装置を用いて合成することができる。
【0116】
「タンパク質」という用語は、大きなポリペプチドを指す。
【0117】
「組換えポリペプチド」は、組換えポリヌクレオチドの発現時に生産されるものである。
【0118】
ペプチドは、天然に生じるまたは合成(非天然に生じる)アミノ酸である、2またはそれ以上のアミノ酸の配列を含む。ペプチドミメティックは、以下の修飾の1またはそれ以上を有するペプチドを含む:
1.ペプチジル−C(O)NR−結合の1またはそれ以上が、−CH2−カルバメート結合(−CH2OC(O)NR−)、ホスホネート結合、−CH2スルホンアミド(−CH2−S(O)2NR−)結合、尿素(−NHC(O)NH−)結合、−CH2−第二級アミン結合などの非ペプチジル結合によって、またはアルキル化ペプチジル結合(−C(O)NR−)[式中、RはC1−C4アルキルである]で置換されたペプチド;
2.N末端が、−NRR1基、−NRC(O)R基、−NRC(O)OR基、−NRS(O)2R基、−NHC(O)NHR基[式中、RおよびR1は、RとR1の両方が同時に水素ではないことを条件として、水素またはC1−C4アルキルである]に誘導体化されているペプチド;
3.C末端が、−C(O)R2[式中、R2はC1−C4アルコキシから成る群より選択される]、および−NR3R4[式中、R3とR4は、水素およびC1−C4アルキルから成る群より独立して選択される]に誘導体化されているペプチド。
【0119】
ここで使用する、「透過性」という用語は、細胞および組織の間のまたは細胞および組織を通しての液体、細胞またはデブリの通過を指す。
【0120】
ここで使用する、「医薬的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水または水/油乳剤などの乳剤、および様々な種類の湿潤剤などの、標準的な医薬担体を含む。この用語はまた、ヒトを含む動物における使用に関して米国連邦政府の規制当局によって認可されたまたは米国薬局方に記載されている物質を包含する。
【0121】
ここで使用する、末端アミノ基に関する「保護基」は、ペプチド合成において伝統的に使用される様々なアミノ末端保護基のいずれかと結合している、ペプチドの末端アミノ基を指す。そのような保護基は、たとえばホルミル、アセチル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル、スクシニルおよびメトキシスクシニルなどのアシル保護基;ベンジルオキシカルボニルなどの芳香族ウレタン保護基;および脂肪族ウレタン保護基、たとえばtert−ブトキシカルボニルまたはアダマンチルオキシカルボニルを含む。適切な保護基に関してはGrossとMienhofer編集、The Peptides,vol.3,p.3−88(Academic Press,New York,1981)参照。
【0122】
ここで使用する、末端カルボキシ基に関する「保護基」は、様々なカルボキシル末端保護基のいずれかと結合している、ペプチドの末端カルボキシル基を指す。そのような保護基は、たとえばtert−ブチル、ベンジル、あるいはエステルまたはエーテル結合を通して末端カルボキシル基に連結された他の許容される基を含む。
【0123】
ここで使用される、「精製」という用語および同様の用語は、ある分子または化合物が天然環境において通常関連する他の成分と比較してその分子または化合物の富化に関する。「精製」という用語は、必ずしもその工程の間に特定分子の完全な純度が達成されることを指示しない。ここで使用する「高度精製」化合物は、90%以上純粋である化合物を指す。
【0124】
ここで使用する、「タンパク質調節経路」という用語は、タンパク質を調節する上流調節経路、ならびにそのタンパク質が調節する下流事象の両方を指す。そのような調節は、対象タンパク質の転写、翻訳、レベル、活性、翻訳後修飾および機能、ならびにそのタンパク質が調節する下流事象を含むが、これらに限定されない。
【0125】
「タンパク質経路」および「タンパク質調節経路」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0126】
「調節する」という用語は、対象機能または活性を刺激することまたは阻害することのいずれかを指す。
【0127】
ここで使用する、「特異的に結合する」という用語により、特定タンパク質を認識し、結合するが、試料中の他の分子を実質的に認識しないまたは結合しない化合物が意味されるか、またはこの用語は、細胞調節過程の一部として、試料中の他のタンパク質を実質的に認識しないまたは結合しない2またはそれ以上のタンパク質の間の結合を意味する。
【0128】
ここで使用する、「標準品」という用語は、比較のために使用される何らかのものを指す。たとえば標準品は、試料中のある化合物を測定するとき、結果を比較するために投与されるかまたは対照試料に添加されて使用される公知の標準物質または化合物であり得る。標準品はまた、既知量で試料に添加され、対象マーカーを測定する前に試料を処理するあるいは精製または抽出工程に供するとき、精製または回収率などの事項を測定する上で有用である物質または化合物などの「内部標準」も表わすことができる。
【0129】
診断または治療の「被験体」は、ヒトを含む哺乳動物である。
【0130】
ここで使用する、「治療する」という用語は、特定疾患、障害または状態の予防、あるいは特定疾患、障害または状態に関連する症状の緩和および/または前記症状を予防または排除することを含む。「予防的」処置は、疾患に関連する病変を発現する危険度を低下させるために、疾患の徴候を示していないまたは疾患の初期徴候だけを示している被験体に投与される治療である。
【0131】
「治療的」処置は、疾病の徴候を示している被験体に、それらの徴候を低減するまたは排除するために投与される治療である。
【0132】
化合物の「治療有効量」は、その化合物が投与される被験体に有益な作用を提供するために十分な化合物の量である。
【0133】
ここで使用する、「血管外漏出関連疾患または障害」等の語句は、血管外漏出を生じさせるまたは血管外漏出に関連する疾患、障害、損傷または病的状態を指す。それゆえこの語句は、血管外漏出が起こるいかなる状態も指す。血管外漏出または血管透過性の変化は、多くの疾患、障害、損傷および病的状態で起こる。たとえばそのような病的状態または刺激は、組織損傷、虚血、炎症、発作、創傷治癒、急性呼吸窮迫症候群、高血圧、心筋梗塞、敗血症、低酸素症、感染、アレルギー反応、熱損傷、x線照射および紫外線照射を含むが、これらに限定されない。加えて、血管外漏出は多くの疾患において局所的組織炎症に結びつく。「血管外漏出関連疾患または障害」という用語は、ここでは「血管透過性関連疾患または障害」と交換可能に使用される。
【0134】
(発明の実施形態)
本発明は、血管透過性を調節するための組成物および方法を対象とする。本発明は、少なくとも一部には、PAK機能をブロックすることが血管外への液体漏出を抑制するという発見に基づく。1つの態様では、損傷に応答した血管外液体漏出が抑制される。本発明はさらに、ミオシン軽鎖のリン酸化の誘導などのPAKの活性がMEKおよびErkによって媒介されることを開示する。本発明はさらに、ErkがPAKによって活性化されることを開示する。本発明はさらに、Erkの活性化がPAK、PIXおよびGIT1の間の複合体の完全性を必要とし、それが次にMEKを通して作用することを開示する。本発明は、それゆえ、血管透過性の刺激を阻害するためにPAK/PIX/GIT1の複合体を崩壊させる、ならびに前記複合体がMEKおよびErk経路として働くのでそれを崩壊させる手段を対象とする。本発明はさらに、血管透過性上昇を抑制するための手段としてErk活性化またはその経路を阻害することを包含する。
【0135】
1つの実施形態では、本発明は、PIXへのPAKの結合をブロックすることによって血管透過性を抑制する方法を提供する。1つの態様では、本発明は、PIXへのPAKの結合をブロックするペプチドを提供する。1つの態様では、ペプチドは、配列番号1および4、それらのホモログ、誘導体および修飾物から成る群より選択される配列を含む配列を有する。
【0136】
1つの実施形態では、本発明は、MEKとGITの相互作用を阻害することによって血管透過性を抑制する方法を提供する。本発明は、ペプチド、抗体およびsiRNAを含むが、これらに限定されない阻害剤を提供する。
【0137】
1つの実施形態では、本発明は、GITへのPIXの結合をブロックすることによって血管透過性を抑制する方法を提供する。1つの態様では、GITはGIT1である。もう1つの態様では、GITはGIT2である。1つの態様では、本発明は、GITへのPIXの結合をブロックするペプチドを提供する。1つの態様では、ペプチドは配列番号2の配列を含む。1つの態様では、PIXはPIXαである。もう1つの態様では、PIXはPIXβである。
【0138】
本発明はまた、本発明における使用のための他のPAKレギュレーターを包含する。付加的なPAKレギュレーターを同定するために有用なアッセイは、本文中ならびにそれらの開示全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第6,248,549号および米国特許公開第20040138133号に述べられている。
【0139】
もう1つの実施形態では、PAK活性または機能のレギュレーターは、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのをブロックすることができる。1つの態様では、レギュレーターは他のタンパク質または分子と結合して、それらがPAKと相互作用するのを阻害する。もう1つの態様では、レギュレーターはPAKに結合して、他のタンパク質または分子がPAKと結合するのを阻害する。1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIXとPAKの相互作用を阻害する。1つの態様では、阻害剤はペプチドである。1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体を含む配列を有する。もう1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体である。
【0140】
1つの実施形態では、本発明の阻害剤はPIX−GIT複合体の形成を阻害する。もう1つの態様では、PIX−GIT複合体の機能が阻害される。1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIX−GIT複合体がPAKの下流でErk活性化を促進するのを阻害する。さらにもう1つの態様では、本発明の阻害剤は、PIX−GIT複合体がPAKの下流でMLCK活性化を促進するのを阻害する。1つの態様では、阻害剤はペプチドである。1つの態様では、ペプチドは、配列番号4、またはその生物学的に活性なフラグメント、ホモログ、修飾物または誘導体を含む配列を有する。
【0141】
1つの実施形態では、本発明の阻害剤はPAK/PIX/GIT複合体の形成を阻害する。もう1つの実施形態では、本発明の阻害剤は、PAK/PIX/GIT/MEK複合体の形成または機能を阻害する。
【0142】
本出願は、ここで同定する経路をブロックするためのsiRNAの使用を開示する。1つの態様では、siRNAはGIT1を対象とする。さらなる態様では、第一siRNAを、第一siRNAとわずかに異なる配列を有する第二siRNAと組み合わせて使用することができ、あるいは第二siRNAは全く異なる配列を対象とし得る。1つの態様では、GIT1に対するsiRNAは、配列番号8−11から成る群より選択される配列を含む。本発明のsiRNAはさらに、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ここで述べるペプチドをコードする核酸、アプタマー、抗体、キナーゼ阻害剤、および薬剤/作用物質/化合物などの、ここで述べるまたは当技術分野において公知の他のレギュレーターと共に使用することができる。
【0143】
当業者が、化合物がPAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKのシグナル伝達および調節経路の成分を調節するかどうかを観測するための多くのアッセイおよび方法が、ここで述べられるかまたは当技術分野において公知であり、これらのアッセイおよび方法は本発明の方法に包含される。そのようなアッセイはまた、タンパク質および経路のレギュレーターを同定するために有用である。
【0144】
たとえばPAK活性および機能は、PAKリン酸化および細胞間結合へのトランスロケーションなどの事象を検定することによって観測できる。そのようなアッセイは、Schwartzら(その内容全体が参照によりここに組み込まれる、2005年10月20日公開の米国特許公開第2005/0233965号)に述べられている。PAK−1、−2および−3は、AIDと命名された調節N末端内の配列とキナーゼドメインの相互作用によって不活性コンフォメーションに保持されている(Bokochら、Annu.Rev.Biochem.,2003,72:743)。PAKへの活性化RacまたはCdc42の結合は、PAKキナーゼ活性の持続的上昇を与えるいくつかの部位の自己リン酸化を導く(Gattiら、J.Biol.Chem.,1999,274:32565;Chongら、J.Biol.Chem.,2001,276:17347)。これらの部位の1つである、PAK2内のSer141(PAK1内のSer144に対応する)はAID内であり、そのリン酸化は、キナーゼドメインとAIDの相互作用をブロックすることによって活性化に寄与する。内皮細胞において活性化PAKを局在化するため、リン酸化Ser141部位を特異的に認識する抗体を使用することができる。
【0145】
試験化合物/阻害剤に応答した内皮細胞におけるPAKリン酸化を評価するため、化合物を、18時間血清飢餓させ(0.5%血清)、その後10%血清で刺激し得る、集密ウシ大動脈およびヒト臍帯静脈内皮細胞(それぞれBAECおよびHUVEC)を用いて血清の作用と比較することができる。抗ホスホ−PAK Ser141抗体によるウエスタンブロット法が、PAKリン酸化の変化を検定するために使用できる。同様に処置した細胞の抗ホスホ−PAK Ser141(pPAK)による蛍光染色は、タンパク質の活性画分が主として細胞間結合に局在するかどうかを検定することにより、血清、無処置および試験化合物に応答したPAKリン酸化の変化を指示するために使用できる。
【0146】
本発明はさらに、ここで述べるタンパク質および経路のレギュレーターを同定するための酵母ツーハイブリッドシステムの使用を包含する。そのようなレギュレーターは、薬剤、化合物、ペプチド、核酸等であり得る。そのようなレギュレーターは、内因性レギュレーターを含み得る。
【0147】
一般に、酵母ツーハイブリッドアッセイは、新規タンパク質間相互作用およびそれらの相互作用を変化させる化合物を同定することができる。多くの異なるタンパク質を潜在的結合パートナーとして使用することにより、これまで特性決定されていなかった相互作用を検出することが可能である。第二に、酵母ツーハイブリッドアッセイは、起こることが既に知られている相互作用を特性決定するために使用できる。特性決定は、トランケート型タンパク質を使用することにより、どのタンパク質ドメインが相互作用の責任を担うか、または細胞内環境を変化させることにより、どのような条件下で相互作用が起こるかを判定することを含み得る。これらのアッセイはまた、相互作用の調節因子をスクリーニングするためにも使用できる。
【0148】
本発明は、ここで述べるタンパク質相互作用および経路のアゴニスト(刺激する)またはアンタゴニスト(阻害する)として働く化合物を同定するために化合物をスクリーニングする方法を包含する。アンタゴニスト化合物候補物質についてのスクリーニングアッセイは、ここで述べるペプチドと結合するまたは複合する、またはさもなければ他の細胞タンパク質とペプチドの相互作用に干渉する化合物を同定するように設計される。そのようなスクリーニングアッセイは、アッセイを、低分子薬剤候補物質を同定するために特に適したものにする、化学物質ライブラリーのハイスループットスクリーニングに適合させやすいアッセイを含む。
【0149】
アッセイは、当技術分野において広く特性決定されている、タンパク質間結合アッセイ、生化学的スクリーニングアッセイ、免疫測定法、および細胞ベースのアッセイを含む、様々な形式で実施することができる。
【0150】
アンタゴニストについてのすべてのアッセイは、化合物または薬剤候補物質を、これら2つの成分が相互作用するために十分な条件下で十分な時間、ここで同定されるペプチドと接触させることを必要とするという点で共通する。
【0151】
結合アッセイでは、相互作用は結合であり、形成される複合体を反応混合物中で単離または検出することができる。特定実施形態では、ここで述べる複合体のペプチドの1つ、あるいは試験化合物または薬剤候補物質を、共有結合または非共有結合によって固相、たとえばマイクロタイタープレートに固定化する。非共有結合は一般に、固体表面をペプチドの溶液で被覆し、乾燥することによって達成される。あるいは、固定化するペプチドに特異的な固定化抗体、たとえばモノクローナル抗体が、ペプチドを固体表面につなぎ止めるために使用できる。アッセイは、検出可能標識によって標識され得る非固定化成分を、固定化成分、たとえばつなぎ止められた成分を含む被覆表面に添加することによって実施される。反応が完了したとき、非反応成分を、たとえば洗浄によって除去し、固体表面につなぎ止められた複合体を検出する。最初に非固定化成分が検出可能標識を担持するときは、表面に固定化された標識の検出は複合体形成が起こったことを指示する。最初に非固定化成分が標識を担持していない場合は、たとえば固定化された複合体に特異的に結合する標識抗体を使用することによって複合体形成を検出することができる。
【0152】
候補化合物が、ここで同定される特定ペプチドと相互作用するが結合しない場合、候補化合物とそのペプチドの相互作用は、タンパク質間相互作用を検出するための周知の方法によって検定することができる。そのようなアッセイは、たとえば架橋、共免疫沈降、および勾配またはクロマトグラフィーカラムを通しての共精製などの伝統的アプローチを含む。加えて、タンパク質間相互作用は、ChevrayとNathans, Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5789−5793(1991)によって開示されたように、Fieldsと共同研究者たち(Fieldsと Song,Nature(London),340:245−246(1989);Chienら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:9578−9582 (1991))によって記述された酵母ベースの遺伝子系を用いることによって観測できる。ツーハイブリッド手法を用いて2個の特定タンパク質の間のタンパク質間相互作用を同定するための完全なキットが入手可能である。このシステムはまた、特定のタンパク質相互作用に関与するタンパク質ドメインを位置特定することならびにこれらの相互作用にとって決定的に重要なアミノ酸残基を正確に示すことに拡大できる。
【0153】
ここで同定するペプチドおよび他の細胞内または細胞外成分の相互作用に干渉する化合物を以下のように試験することができる:通常、遺伝子の産物および細胞内または細胞外成分を含む反応混合物を、2つの産物の相互作用と結合を許容する条件下と時間で調製する。候補化合物が結合を阻害する能力を調べるため、試験化合物の不在下と存在下で反応を実施する。加えて、陽性対照として使用するためのプラセボを3番目の反応混合物に添加し得る。試験化合物と混合物中に存在する細胞内または細胞外成分の間の結合(複合体形成)をここで上述したように観測する。対照反応では複合体が形成されるが、試験化合物を含む反応混合物では複合体が形成されないことは、試験化合物が試験化合物とその反応パートナーの相互作用を妨げることを指示する。
【0154】
アンタゴニストを検定するために、ペプチドを特定活性に関してスクリーニングする化合物と共に細胞に添加してもよく、化合物がペプチドの存在下で対象活性を阻害する能力は、化合物がペプチドに対するアンタゴニストであることを指示する。ペプチドは、放射能などによって標識することができる。
【0155】
phylomers(登録商標)の使用および逆酵母ツーハイブリッドアッセイ(Watt,2006,Nature Biotechnology,24:177;Watt,米国特許第6,994,982号;Watt,米国特許効果第2005/0287580号;Watt,米国特許公開第6,510,495号;Barrら、2004,J.Biol.Chem.,279:41:43178−43189参照;これらの出版物の各々の内容は、その全体が参照によりここに組み込まれる)などの、他のアッセイおよびライブラリーも本発明に包含される。Phylomers(登録商標)は天然タンパク質のサブドメインに由来し、それらを従来の短いランダムなペプチドよりも潜在的に安定にする。Phylomers(登録商標)は、ヒト起源ではない生物ゲノムから供給される。この特徴は、ヒトタンパク質標的に対してのPhylomers(登録商標)に関連する効力を有意に増強する。Phylogicaの現在のPhylomers(登録商標)ライブラリー5000万クローンの複雑度を有し、これはランダムペプチドまたは抗体Fabフラグメントライブラリーの数的複雑度に匹敵する。B42活性化ドメインに融合した6300万ペプチドから成る、相互作用ペプチドライブラリーは、正の酵母ツーハイブリッドスクリーニングにおいて標的タンパク質に結合することができるペプチドを単離するために使用できる。2番目は、逆ツーハイブリッドシステムを用いて特定タンパク質相互作用を崩壊させることができるペプチドをスクリーニングするために使用できる、200万を超えるペプチドから構成されるブロッキングペプチドライブラリーである。
【0156】
Phylomers(登録商標)ライブラリーは、多種多様な細菌ゲノムから供給されたタンパク質フラグメントから成る。ライブラリーは、安定なサブドメイン(15−50アミノ酸長)が高度に富化されている。この技術は、ファージディスプレイおよび逆酵母ツーハイブリッドトラップなどのハイスループットスクリーニング手法と統合することができる。
【0157】
本発明のタンパク質、ポリペプチドまたはそのペプチドフラグメントに対する抗体は、当技術分野において周知の方法を用いて作製し得る。たとえばその全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許出願第07/481,491号は、ペプチドに対する抗体を惹起する方法を開示する。抗体の生産のために、ウサギ、マウスおよびラットを含むがこれらに限定されない、様々な宿主動物を、ポリペプチドまたはそのペプチドフラグメントの注射によって免疫することができる。免疫応答を高めるため、宿主の種に依存して、フロイント(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどの無機ゲル、リゾレシチンなどの界面活性剤、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット‐ゲラン杆菌)およびcorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがこれらに限定されない、様々なアジュバントを使用し得る。
【0158】
モノクローナル抗体の作製のために、培養下で連続継代性細胞系による抗体分子の産生を提供する何らかの手法を使用し得る。たとえばKohlerとMilstein(1975,Nature 256:495−497)によって最初に開発されたハイブリドーマ手法、トリオーマ手法、ヒトB細胞ハイブリドーマ手法(Kozborら、1983,Immunology Today 4:72)、およびEBV−ハイブリドーマ手法(Coleら、1985,in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,p.77−96)が、ヒトモノクローナル抗体を作製するために使用し得る。もう1つの実施形態では、モノクローナル抗体は、その全体が参照によりここに組み込まれる、国際公開番号第PCT/US90/02545号に述べられている技術を用いて無菌動物において生産される。
【0159】
本発明に従って、ヒトハイブリドーマを利用することによって(Coteら、1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:2026−2030)またはインビトロでヒトB細胞をEBVウイルスで形質転換することによって(Coleら、1985,in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,p.77−96)ヒト抗体を使用し、入手し得る。さらに、SLLPポリペプチドのエピトープに特異的なマウス抗体分子からの遺伝子を適切な生物活性のヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングすることによる、「キメラ抗体」の生産のために開発された手法(Morrisonら、1984,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851−6855;Neubergerら、1984,Nature 312:604−608;Takedaら、1985,Nature 314:452−454)が使用できる;そのような抗体は本発明の範囲内である。ひとたび特異的モノクローナル抗体が開発されれば、従来の手法によるその突然変異体および変異体の作製も可能である。
【0160】
1つの実施形態では、一本鎖抗体の生産のために記述された手法(その全体が参照によりここに組み込まれる、米国特許第4,946,778号)が、タンパク質特異的一本鎖抗体を生産するように適合される。もう1つの実施形態では、Fab発現ライブラリーの構築のために記述された手法(Huseら、1989,Science 246:1275−1281)が、特定抗原、本発明のタンパク質、誘導体または類似体に対して所望特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速で容易な同定を可能にするために利用される。
【0161】
抗体分子のイディオタイプを含む抗体フラグメントは、公知の手法によって作製できる。たとえばそのようなフラグメントは、抗体分子のペプシン消化によって生産できるF(ab’)2フラグメント;F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって作製できるFab’フラグメント;抗体分子をパパインと還元剤で処理することによって作製できるFabフラグメント;およびFvフラグメントを含むが、これらに限定されない。
【0162】
ポリクローナル抗体の作製は、所望動物に抗原を接種し、抗原に特異的に結合する抗体をそこから単離することによって実施される。
【0163】
完全長タンパク質またはペプチドまたはそのペプチドフラグメントに対するモノクローナル抗体は、たとえばHarlowら(1988,In:Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY)およびTuszynskiら(1988,Blood,72:109−115)に述べられているような、何らかの周知のモノクローナル抗体作製手順を用いて作製し得る。大量の所望ペプチドも化学合成技術を用いて合成し得る。あるいは、所望ペプチドをコードするDNAをクローニングし、大量のペプチドの作製に適した細胞において適切なプロモーター配列から発現させ得る。ペプチドに対するモノクローナル抗体は、ここで言及するような標準手順を用いてペプチドで免疫したマウスから作製される。
【0164】
ここで述べる手順を用いて得られたモノクローナル抗体をコードする核酸は、当技術分野において使用可能であり、たとえばWrightら(1992,Critical Rev.in Immunol.12(3,4):125−168)およびその中で引用される参考文献に述べられている技術を用いて、クローニングし、配列決定し得る。さらに、本発明の抗体は、Wrightら(前出)およびその中で引用される参考文献、およびGuら(1997,Thrombosis and Hematocyst 77(4):755−759)に述べられている技術を用いて「ヒト化」し得る。
【0165】
ファージ抗体ライブラリーを作製するため、最初に、ファージ表面で発現されるべき所望タンパク質、たとえば所望抗体を発現する細胞、たとえばハイブリドーマから単離されるmRNAからcDNAライブラリーを得る。逆転写酵素を用いてmRNAのcDNAコピーを生産する。免疫グロブリンフラグメントを規定するcDNAをPCRによって得て、免疫グロブリン遺伝子を規定するDNAを含むバクテリオファージDNAライブラリーを作製するために、生じたDNAを適切なバクテリオファージベクターにクローニングする。異種DNAを含むバクテリオファージライブラリーを作製するための手順は当技術分野において周知であり、たとえばSambrookら(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY)に記述されている。
【0166】
所望抗体をコードするバクテリオファージは、タンパク質が、その対応する結合タンパク質、たとえば抗体が対象とする抗原に結合するために使用可能であるようにその表面に提示されるように遺伝子操作し得る。それゆえ、特定抗体を発現するバクテリオファージを、対応抗原を発現する細胞の存在下でインキュベートしたとき、バクテリオファージは細胞に結合する。抗体を発現しないバクテリオファージは細胞に結合しない。そのようなパニング手法は当技術分野において周知である。
【0167】
上述したような工程は、M13バクテリオファージディスプレイ(Burtonら、1994,Adv.Immunol.57:191−280)を用いたヒト抗体の生産のために開発された。基本的に、cDNAライブラリーは、抗体産生細胞の集団から得られるmRNAから作製される。mRNAは再編成された免疫グロブリン遺伝子をコードし、それゆえcDNAは同じものをコードする。増幅したcDNAをM13発現ベクターにクローニングし、表面にヒトFabフラグメントを発現するファージのライブラリーを作製する。対象抗体を提示するファージを抗原結合によって選択し、可溶性ヒトFab免疫グロブリンを生産するために細菌中で増殖させる。それゆえ、従来のモノクローナル抗体合成と異なり、この手順は、ヒト免疫グロブリンを発現する細胞ではなくヒト免疫グロブリンをコードするDNAを不死化する。
【0168】
上述した手順は、抗体分子のFab部分をコードするファージの作製を述べるものである。しかし、本発明は、Fab抗体をコードするファージの作製だけに限定されると解釈されるべきではない。むしろ、一本鎖抗体をコードするファージ(scFv/ファージ抗体ライブラリー)も本発明に包含される。Fab分子はIg軽鎖全体を含み、それゆえ軽鎖の可変領域と定常領域の両方を含むが、重鎖の可変領域と第一定常領域ドメイン(CH1)だけを含む。一本鎖抗体分子は、Ig Fvフラグメントを含むタンパク質の一本鎖を含む。Ig Fvフラグメントは、抗体の重鎖と軽鎖の可変領域だけを含み、定常領域はその中に含まれない。scFv DNAを含むファージライブラリーは、Marksら、1991,J.Mol.Biol.222:581−597に述べられている手法に従って作製し得る。所望抗体を単離するために、そのようにして作製されたファージのパニングを、Fab DNAを含むファージライブラリーについて述べたのと同様に実施する。
【0169】
本発明はまた、重鎖および軽鎖可変領域がほぼすべての可能な特異性を含むように合成され得る合成ファージディスプレイライブラリーを含むと解釈されるべきである(Barbas,1995,Nature Medicine 1:837−839;de Kruifら、1995,J.Mol.Biol.248:97−105)・
抗体の生産において、所望抗体についてのスクリーニングは、当技術分野において公知の手法、たとえばELISA(固相酵素免疫検定法)によって実施できる。本発明に従って作製される抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ(すなわち「ヒト化」)、および一本鎖(組換え)抗体、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリーによって生産されるフラグメントを含み得るが、これらに限定されない。
【0170】
本発明のペプチドは、Solid Phase Peptide Synthesis,第2版、1984,Pierce Chemical Company,Rockford,IllinoisにおいてStewartらによって述べられている、およびThe Practice of Peptide Synthesis,1984,Springer−Verlag,New YorkにおいてBodanszkyとBodanszkyによって述べられている、固相ペプチド合成(SPPS)などの標準的な広く確立された手法によって容易に作製し得る。最初に、適切に保護されたアミノ酸残基をそのカルボキシル基を通して、架橋ポリスチレンまたはポリアミド樹脂などの誘導体化された不溶性高分子支持体に結合する。「適切に保護された」とは、アミノ酸のα−アミノ基および側鎖官能基の両方に保護基が存在することを指す。側鎖保護基は、合成全体を通じて使用される溶媒、試薬および反応条件に対して一般に安定であり、最終ペプチド産物に影響を及ぼさない条件下で除去し得る。オリゴペプチドの段階的合成は、最初のアミノ酸からのN保護基の除去、および所望ペプチドの配列内の次のアミノ酸のカルボキシル末端への結合によって実施される。このアミノ酸も適切に保護される。新たに付加されたアミノ酸のカルボキシルは、カルボジイミド、対称酸無水物またはヒドロキシベンゾトリアゾールまたはペンタフルオロフェニルエステルなどの「活性エステル」基の形成のような、反応性基の形成によって支持体結合アミノ酸のN末端と反応するように活性化することができる。固相ペプチド合成法の例は、α−アミノ保護基としてtert−ブチルキシカルボニルを利用するBOC法、およびアミノ酸残基のα−アミノを保護するために9−フルオレニルメチルオキシカルボニルを利用するFMOC法を含み、どちらの方法も当業者に周知である。
【0171】
Nおよび/またはC保護基の組込みはまた、固相ペプチド合成法に慣例的なプロトコールを用いて実施できる。C末端保護基の組込みのために、たとえば、所望ペプチドの合成は、典型的には樹脂からの開裂が所望C末端保護基を有するペプチドを生じるように化学修飾された支持樹脂を固相として使用して実施される。C末端が第一級アミノ保護基を担持するペプチドを提供するために、たとえば、合成は、ペプチド合成が完了したとき、フッ化水素酸による処理が所望C末端アミド化ペプチドを放出するように、p−メチルベンズヒドリルアミン(MBHA)樹脂を用いて実施される。同様に、C末端におけるN−メチルアミン保護基の組込みは、HF処理したときN−メチルアミド化C末端を担持するペプチドを放出する、N−メチルアミノエチル誘導体化DVB樹脂を用いて達成される。エステル化によるC末端の保護も従来の手順を用いて実施できる。これは、エステル官能基を形成するために、所望アルコールとのその後の反応を可能にする、樹脂からの側鎖ペプチドの放出を許容する樹脂/保護基の組合せの使用を必要とする。FMOC保護基が、メトキシアルコキシベンジルアルコールまたは等価リンカーで誘導体化したDVB樹脂と組み合わせて、この目的のために使用でき、支持体からの開裂はジクロロメタン中のTFAによって実施される。適切に活性化された、たとえばDCCで活性化されたカルボキシル官能基のエステル化を、次に、所望アルコールの添加およびそれに続くエステル化ペプチド産物の脱保護と単離によって進行することができる。
【0172】
N末端保護基の組込みは、合成されたペプチドがまだ樹脂に結合している間に、たとえば適切な無水物と二トリルでの処理によって達成できる。N末端にアセチル保護基を組み込むために、たとえば、樹脂結合ペプチドをアセトニトリル中の20%無水酢酸で処理することができる。N保護されたペプチド産物を、次に、樹脂から開裂し、脱保護して、その後単離することができる。
【0173】
化学的または生物学的合成手法から得られるペプチドが所望ペプチドであることを確実にするために、ペプチド組成物の分析を実施すべきである。そのようなアミノ酸組成物分析は、ペプチドの分子量を決定するために高分解能質量分析を用いて実施し得る。あるいはまたは選択的に、ペプチドのアミノ酸含量は、水性酸中でペプチドを加水分解し、HPLCまたはアミノ酸分析装置を用いて混合物の成分を分離し、同定し、定量することによって確認できる。ペプチドを連続的に分解し、アミノ酸を順次同定するタンパク質配列決定装置も、ペプチドの配列を明確に決定するために使用し得る。その使用の前に、夾雑物を除去するためにペプチドを精製する。これに関して、ペプチドが、適切な規制当局によって定められた基準に合致するように精製されることは認識される。たとえばC4−、C8−またはC18−シリカなどのアルキル化シリカカラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、多くの従来の精製手順のいずれかが、必要なレベルの純度を達成するために使用し得る。漸増有機物含量の勾配移動相、たとえば、通常少量のトリフルオロ酢酸を含む、水性緩衝液中のアセトニトリルが、精製を実施するために一般的に使用される。イオン交換クロマトグラフィーも、ペプチドをそれらの電荷に基づいて分離するために使用できる。
【0174】
言うまでもなく、ペプチドまたは抗体、その誘導体またはフラグメントは、活性に影響を及ぼすことなく修飾されたアミノ酸残基を組み込み得る。たとえば末端を、保護基を含むように、すなわちNおよびC末端を「望ましくない分解」から保護するおよび/または安定化するのに適した化学的置換基を含むように誘導体化してもよく、前記の「望ましくない分解」という用語は、化合物の機能に影響を及ぼす可能性がある、その末端での何らかの種類の化合物の酵素的、化学的または生化学的崩壊、すなわちその末端での化合物の連続的分解を包含することが意図されている。
【0175】
保護基(ブロッキング基)は、ペプチドのインビボ活性に有害な影響を及ぼさない、ペプチド化学の技術分野において慣例的に使用される保護基を含む。たとえば適切なN末端保護基は、N末端のアルキル化またはアシル化によって導入することができる。適切なN末端保護基の例は、C1−C5分枝または非分枝アルキル基、ホルミルおよびアセチル基などのアシル基、ならびにアセトアミドメチル(Acm)基などのそれらの置換形態を含む。アミノ酸の脱アミノ類似体も有用なN末端保護基であり、ペプチドのN末端に結合し得るかまたはN末端残基の代わりに使用し得る。C末端のカルボキシル基が組み込まれているかまたは組み込まれていない、適切なC末端保護基は、エステル、ケトンまたはアミドを含む。エステルまたはケトンを形成するアルキル基、特にメチル、エチルおよびプロピルなどの低級アルキル基、および第一級アミン(−NH2)などのアミドを形成するアミノ基、およびメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルエチルアミノ等のようなモノ−およびジ−アルキルアミノ基はC末端保護基の例である。アグマチンなどの脱炭酸アミノ酸類似体も有用なC末端保護基であり、ペプチドのC末端に結合し得るかまたはその代わりに使用し得る。さらに、末端の遊離アミノおよびカルボキシル基が、ペプチド活性に影響を及ぼさずにその脱アミノおよび脱炭酸形態を生成するためにペプチドから完全に除去できることは認識される。
【0176】
他の修飾も、活性に有害な影響を及ぼさずに組み込むことができ、これらは、D異性体のアミノ酸による天然L異性体のアミノ酸の1またはそれ以上の置換を含むが、これらに限定されない。それゆえペプチドは、1またはそれ以上のD−アミノ酸残基を含んでもよく、またはすべてD型であるアミノ酸を含んでもよい。本発明に従ったレトロインベルソ形態のペプチド、たとえばすべてのアミノ酸がD−アミノ酸形態で置換された逆ペプチドも考慮される。
【0177】
本発明の酸付加塩も機能的等価物として考慮される。それゆえ、ペプチドの水溶性の塩を与えるために、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等のような無機酸、または酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等で処理した本発明に従ったペプチドは、本発明における使用に適する。
【0178】
本発明はまた、タンパク質およびペプチドのホモログを提供する。ホモログは、保存的アミノ酸配列相違によってまたは配列に影響を及ぼさない修飾によって、またはその両方によって、天然に生じるタンパク質またはペプチドと異なり得る。
【0179】
たとえば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変化させるが、通常その機能を変化させない、保存的アミノ酸変化を導入し得る。そのために、10またはそれ以上の保存的アミノ酸変化が、典型的にはペプチド機能に作用を及ぼさない。
【0180】
修飾(通常は一次配列を変化させない)は、ポリペプチドのインビボまたはインビトロでの化学的誘導体化、たとえばアセチル化又はカルボキシル化を含む。グリコシル化の修飾、たとえばポリペプチドのグリコシル化パターンをその合成とプロセシングの間にまたはさらなるプロセシング工程において改変することによって、たとえばグリコシル化に影響を及ぼす酵素、たとえば哺乳動物のグリコシル化または脱グリコシル化酵素にポリペプチドを暴露することによって、導入される修飾も含まれる。また、リン酸化アミノ酸残基、たとえばホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホトレオニンを有する配列も包含される。
【0181】
また、タンパク質分解に対する抵抗性を改善するためまたは溶解特性を最適化するためまたは治療薬としてより適したものにするために、通常の分子生物学的手法を用いて修飾されたポリペプチドまたは抗体フラグメントも包含される。そのようなポリペプチドのホモログは、天然に生じるL−アミノ酸以外の残基、たとえばD−アミノ酸または非天然に生じる合成アミノ酸を含むものを包含する。本発明のペプチドは、ここで列挙する特定例示工程のいずれかの産物に限定されない。
【0182】
ここで述べるようにして得られる実質的に純粋なタンパク質は、手順の各工程で精製を観測するために免疫学的、酵素的または他のアッセイを使用する、タンパク質精製のための以下の公知の手順によって精製し得る。タンパク質精製方法は当技術分野において周知であり、たとえばDeutscherら(編集、1990,Guide to Protein Purification,Harcourt Brace Jovanovich,San Diego)に述べられている。
【0183】
本発明はまた、本発明のペプチド、タンパク質および抗体をコードする核酸を提供する。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドから成り、およびホスホジエステル結合またはホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合などの修飾結合、およびそのような結合の組合せから成る、何らかの核酸を意味する。核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。
【0184】
本発明は使用する核酸の性質によって限定されることを意図しない。標的核酸は天然または合成核酸であり得る。核酸は、ウイルス、細菌、動物または植物源からであり得る。核酸は、DNAまたはRNAであり得、二本鎖、一本鎖または部分的二本鎖形態で存在し得る。さらに、核酸はウイルスまたは他の高分子の一部として認められ得る。たとえばFasbenderら、1996,J.Biol.Chem.272:6479−89(アデノウイルスの形態のDNAのポリリシン縮合)参照。
【0185】
本発明において有用な核酸は、限定ではなく例として、アンチセンスDNAおよび/またはRNA;リボザイム;遺伝子治療のためのDNA;ウイルスDNAおよび/またはRNAを含むウイルスフラグメント;DNAおよび/またはRNAキメラ;mRNA;プラスミド;コスミド;ゲノムDNA;cDNA;遺伝子フラグメント;一本鎖DNA、二本鎖DNA、スーパーコイル状DNAおよび/または三重らせんDNAを含む様々な構造形態のDNA;Z−DNA等のようなオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを含む。核酸は、大量の核酸を作製するために典型的に使用される従来の何らかの手段によって作製し得る。たとえばDNAおよびRNAは、当技術分野において周知の方法により、市販の試薬と合成装置を用いて化学合成し得る(たとえばGait,1985,OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS:A PRACTICAL APPROACH (IRL Press,Oxford,England)参照)。RNAは、SP65(Promega Corporation,Madison,WI)などのプラスミドを使用してインビトロ転写によって高収率で生産し得る。
【0186】
高いヌクレアーゼ安定性が所望される場合のような、一部の状況では、改変されたヌクレオシド間結合を有する核酸が好ましいと考えられる。改変ヌクレオシド間結合を含む核酸も、当技術分野で周知の試薬と方法を用いて化学合成し得る。たとえばホスホネートホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートメトキシエチルホスホルアミデート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン−スルフィド(−CH2−S−CH2)、ジインエチレン−スルホキシド(−CH2−SO−CH2)、ジメチレン−スルホン(−CH2−SO2−CH2)、2’−O−アルキル、および2’−デオキシ2’−フルオロホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む核酸を合成するための方法は、当技術分野において周知である(Uhlmannら、1990,Chem. Rev.90:543−584;Schneiderら、1990,Tetrahedron Lett.31:335およびその中で引用される参考文献参照)。
【0187】
核酸は、当技術分野で周知である、何らかの適切な手段によって精製し得る。たとえば核酸は、逆相またはイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲル電気泳動によって精製できる。言うまでもなく、当業者は、精製の方法が、一部には、精製しようするDNAの大きさに依存することを認識する。
【0188】
核酸という用語はまた、特に、5つの生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から成る核酸を包含する。
【0189】
本発明は有用なアプタマーを対象とする。1つの実施形態では、アプタマーは、もう1つ別の化合物(この場合は同定されたタンパク質)に選択的に結合するためにインビトロで選択される化合物である。1つの態様では、ランダムな配列が多数のヌクレオチドまたはアミノ酸(どちらも天然に生じるかまたは合成によって作製される)から容易に生成され得るので、アプタマーは核酸またはペプチドであるが、言うまでもなくアプタマーはこれらに限定される必要はない。もう1つの態様では、核酸アプタマーは、タンパク質標的に結合するDNAの短い鎖である。1つの態様では、アプタマーはオリゴヌクレオチドアプタマーである。オリゴヌクレオチドアプタマーは、対象とする特定タンパク質配列に結合することができるオリゴヌクレオチドである。アプタマーを同定する一般的な方法は、部分的縮重オリゴヌクレオチドから出発し、その後何千ものオリゴヌクレオチドを所望タンパク質に結合する能力に関して同時にスクリーニングすることである。結合オリゴヌクレオチドをタンパク質から溶出し、特異的認識配列を同定するために配列決定することができる。大量の化学的に安定化されたアプタマーの細胞への導入は、対象ポリペプチドへの特異的結合を生じさせ、それによってその機能をブロックすることができる[たとえば、アプタマーのインビトロ選択を説明する以下の出版物参照:Klugら、Mol.Biol.Reports 20:97−107(1994);Wallisら、Chem.Biol.2:543−552(1995);Ellington,Curr.Biol.4:427−429(1994);Latoら、Chem.Biol.2:291−303(1995);Conradら、Mol.Div.1:69−78(1995);およびUphoffら、Curr.Opin.Struct.Biol.6:281−287(1996)]。
【0190】
ここで使用する、アンタゴニストまたはブロッキング剤は、限定を伴わずに、抗体、その抗原結合部分または特定標識タンパク質に結合する生合成抗体結合部位;標的タンパク質をコードする核酸またはそれに関連する調節エレメントにインビボでハイブリダイズするアンチセンス分子、あるいは標的タンパク質に結合するおよび/または標的タンパク質を阻害する、または標的タンパク質をコードする核酸に結合するおよび/または核酸を阻害する、核酸の発現を低下させるまたは調節する、リボザイム、アプタマーまたは低分子を含み得る。
【0191】
アプタマーは、標的遺伝子機能に人為的に干渉する、他のオリゴヌクレオチドに基づくアプローチに比べて、高い親和性と特異性でこれらの遺伝子のタンパク質産物に結合する能力のゆえに利益を提供する。しかし、RNAアプタマーは、ヌクレアーゼ抵抗性アプタマーであっても細胞内分画に効率よく進入しないため、細胞内タンパク質を標的するそれらの能力は限定され得る。さらに、ベクターに基づくアプローチを通して哺乳動物細胞内でRNAアプタマーを発現する試みは、それらの機能的高次構造を変化させ得る、発現されたRNAアプタマー内の付加的な隣接配列の存在によって妨げられた。
【0192】
タンパク質分子を標的するために一本鎖核酸(DNAおよびRNAアプタマー)を使用するという概念は、高い親和性と特異性で標的タンパク質に結合することを可能にする独自の三次元構造へと折りたたまれる短い配列(20量体から80量体)の能力に基づく。RNAアプタマーは、酵母および多細胞生物などの真核細胞内で成功裏に発現され、細胞環境においてそれらの標的タンパク質に阻害作用を及ぼすことが示された。
【0193】
本出願は、ここで述べるタンパク質を阻害するための組成物および方法を開示し、当技術分野において公知である開示されていないものも本発明に包含される。たとえば様々なレギュレーター/エフェクター、たとえば抗体、アンチセンス分子、RNAi分子などの生物学的に活性な核酸、またはリボザイム、アプタマー、ペプチドまたは前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを認識する低分子量有機化合物が公知である。
【0194】
本発明はまた、本発明の血管透過性調節化合物を含有する医薬組成物を対象とする。より詳細には、そのような化合物は、当業者に公知の標準的な医薬的に許容される担体、充填剤、可溶化剤および安定剤を使用して医薬組成物として製剤され得る。
【0195】
本発明はまた、本発明の化合物を被験体に投与する方法を対象とする。1つの実施形態では、本発明は、血管外漏出または透過性関連疾患、障害または状態を有する被験体を、本発明の説明する方法を用いて同定される化合物を投与することによって治療する方法を提供する。化合物は、血管外漏出を抑制するために化合物が使用されない対照と比較して少なくとも10%血管外漏出を抑制することが好ましい。化合物が、未処置対照と比較して少なくとも25%血管外漏出を抑制することがより好ましい。化合物が、未処置対照と比較して少なくとも50%血管外漏出を抑制することがさらに好ましい。本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも75%血管外漏出を抑制することがさらに一層好ましい。また、本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも90%血管外漏出を抑制することが好ましい。さらにもう1つの態様では、本発明の化合物が、未処置対照と比較して少なくとも95%血管外漏出を抑制することが好ましい。本発明の1つの態様では、血管外漏出は、PAK機能または活性の阻害によって抑制される。「阻害(抑制)する」および「ブロックする」という用語は、ここでは交換可能に使用される。
【0196】
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、局所、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、経皮、皮下、腹腔内、鼻内、腸内、局所、舌下または直腸的手段を含むがこれらに限定されない、数多くの経路によって、その必要のある個体に投与される。
【0197】
1つの実施形態に従って、そのような治療を必要とする被験体において血管透過性関連疾患、障害または状態を治療する方法が提供される。その方法は、本発明の少なくとも1つの血管透過性調節化合物を含有する医薬組成物をその必要のある患者に投与することを含む。血管透過性を調節する、本発明の方法によって同定される化合物は、既知の血管透過性化合物または他の薬剤と共に投与することもできる。好ましくは、化合物はヒトに投与される。
【0198】
本発明はまた、本発明の方法を実施するための、適切な化合物、そのホモログ、フラグメント、類似体または誘導体の医薬組成物の使用を包含し、前記組成物は、少なくとも1つの適切な化合物、そのホモログ、フラグメント、類似体または誘導体および医薬的に許容される担体を含有する。
【0199】
本発明を実施するために有用な医薬組成物は、1ng/kg/日から100mg/kg/日の用量を送達するために投与し得る。本発明の方法において有用な医薬組成物は、経口固体製剤、点眼薬、坐薬、エーロゾル、局所または他の同様の製剤として全身的に投与し得る。適切な化合物に加えて、そのような医薬組成物は、医薬的に許容される担体、および薬剤の投与を増強および促進することが知られる他の成分を含有し得る。ナノ粒子、リポソーム、再封孔(resealed)された赤血球、および免疫学に基づくシステムなどの他の可能な製剤も、本発明の方法に従って適切な化合物を投与するために使用し得る。
【0200】
ここで述べる方法のいずれかを用いて同定され、ここで開示する疾患の治療のために製剤され、哺乳動物に投与される化合物を説明する。
【0201】
本発明は、ここで開示する状態、障害および疾患の治療のために有用な化合物を有効成分として含有する医薬組成物の製造および使用を包含する。そのような医薬組成物は、被験体への投与に適する形態の、有効成分単独から成るか、または医薬組成物は、有効成分と1またはそれ以上の医薬的に許容される担体、1またはそれ以上の付加的な成分、またはこれらの何らかの組合せを含有し得る。有効成分は、当技術分野において周知であるように、生理的に許容される陽イオンまたは陰イオンとの組合せなどの、生理的に許容されるエステルまたは塩の形態で医薬組成物中に存在し得る。
【0202】
ここで使用する、「生理的に許容される」エステルまたは塩という用語は、組成物が投与される被験体に対して有害でない、医薬組成物の他のいかなる成分とも適合性である有効成分のエステルまたは塩形態を意味する。
【0203】
ここで述べる医薬組成物の製剤は、薬理学の技術分野において公知であるまたは今後開発される何らかの方法によって製造し得る。一般に、そのような製造方法は、有効成分を担体あるいは1またはそれ以上の他の付属成分と組み合わせ、その後、必要な場合または望ましい場合は、生成物を所望の単回投与または多回投与単位に成形するまたは包装する工程を含む。
【0204】
ここで提供する医薬組成物の説明は主としてヒトへの処方投与に適する医薬組成物を対象とするが、そのような組成物は、一般にすべての種類の動物への投与に適することが当業者に了解される。組成物を様々な動物への投与に適するようにするための、ヒトへの投与に適する医薬組成物の修正は広く理解されており、通常技術を有する動物薬理学者は、必要である場合も単に常套的な実験で、そのような修正を設計し、実施することができる。本発明の医薬組成物の投与が考慮される被験体は、ヒトおよび他の霊長動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコおよびイヌなどの商業的に重要な哺乳動物を含む哺乳動物、ニワトリ、アヒル、ガチョウおよびシチメンチョウなどの商業的に重要な鳥類を含むが、これらに限定されない。
【0205】
本発明の方法において有用な医薬組成物は、経口、直腸、膣、非経口、局所、肺、鼻内、口腔、点眼、髄腔内または別の投与経路に適した製剤として製造、包装、または販売され得る。他の考慮される製剤は、有効成分を含有する、予測されるナノ粒子、リポソーム製剤、再封孔赤血球、および免疫学に基づく製剤を含む。
【0206】
本発明の医薬組成物は、単一単位用量としてまたは複数の単一単位用量として、製造され、包装され、またはバルクで販売され得る。ここで使用する、「単位用量」は、あらかじめ定められた量の有効成分を含有する医薬組成物の個別量である。有効成分の量は、一般に、被験体に投与される有効成分の用量に等しいかまたは、たとえばそのような用量の2分の1または3分の1などの、そのような用量の好都合な分画に等しい。
【0207】
本発明の医薬組成物中の有効成分、医薬的に許容される担体および付加的な成分の相対量は、治療される被験体の同一性(identity)、大きさおよび状態に依存して、およびさらに組成物が投与される経路に依存して異なる。例として、組成物は0.1%−100%(重量/重量)の有効成分を含有し得る。
【0208】
有効成分に加えて、本発明の医薬組成物は、1またはそれ以上の付加的な医薬活性物質を含有し得る。特に考慮される付加的な物質は、鎮吐薬およびシアン化物およびシアン酸塩スカベンジャーなどのスカベンジャーを含む。
【0209】
本発明の医薬組成物の制御または持続放出製剤は、従来の技術を用いて製造し得る。経口投与に適する本発明の医薬組成物の製剤は、各々あらかじめ定められた量の有効成分を含有する、錠剤、硬または軟カプセル、カシェ剤、トローチまたはロゼンジを含むが、これらに限定されない、個別固体用量単位の形態で製造、包装、または販売され得る。経口投与に適する他の製剤は、粉末または顆粒製剤、水性または油性懸濁液、水性または油性溶液、または乳剤を含むが、これらに限定されない。
【0210】
ここで使用する、「油性」液体は、炭素含有液体分子を含み、水より低い極性を示すものである。
【0211】
有効成分を含有する錠剤は、たとえば有効成分を、場合により1またはそれ以上の付加的な成分と共に、圧縮するまたは成形することによって製造され得る。圧縮錠剤は、粉末または顆粒製剤などの自由流動形態の有効成分を、場合により1またはそれ以上の結合剤、潤滑剤、賦形剤、界面活性剤および分散剤と混合して、適切な装置で圧縮することによって製造し得る。成形錠剤は、有効成分、医薬的に許容される担体、および少なくとも混合物を湿潤化するのに十分な液体の混合物を、適切な装置で成形することによって製造し得る。錠剤の製造において使用される医薬的に許容される賦形剤は、不活性希釈剤、造粒および崩壊剤、結合剤、および潤滑剤を含むが、これらに限定されない。公知の分散剤は、ジャガイモデンプンおよびデンプングリコール酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。公知の界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムを含むが、これに限定されない。公知の希釈剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびリン酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。公知の造粒および崩壊剤は、トウモロコシデンプンおよびアルギン酸を含むが、これらに限定されない。公知の結合剤は、ゼラチン、アカシア、プレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むが、これらに限定されない。公知の潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカおよび滑石を含むが、これらに限定されない。
【0212】
錠剤は被覆されなくてもよく、または被験体の胃腸管において遅延崩壊を達成し、それによって有効成分の持続性放出と吸収を提供するために公知の方法を用いて被覆されてもよい。例として、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの材料が錠剤を被覆するために使用し得る。さらなる例として、錠剤は、浸透圧による制御放出錠剤を形成するために米国特許第4,256,108号;同第4,160,452号;および同第4,265,874号に述べられている方法を用いて被覆し得る。錠剤はさらに、医薬的に上品で口当たりのよい製剤を提供するために甘味料、香味料、着色料、防腐剤またはこれらの何らかの組合せを含み得る。
【0213】
有効成分を含有する硬カプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて製造し得る。そのような硬カプセルは有効成分を含み、さらに、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む付加的な成分を含有し得る。
【0214】
有効成分を含有する軟ゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて製造し得る。そのような軟カプセルは、水あるいは落花生油、流動パラフィンまたはオリーブ油などの油性媒質と混合し得る、有効成分を含有する。
【0215】
経口投与に適する本発明の医薬組成物の液体製剤は、液体形態あるいは使用前に水または別の適切な媒質で再溶解することを意図した乾燥生成物の形態で製造され、包装され、販売され得る。
【0216】
液体懸濁液は、水性または油性媒質中の有効成分の懸濁液を作製するための従来の方法を用いて製造し得る。水性媒質は、たとえば水および等張食塩水を含む。油性媒質は、たとえばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、落花生油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油などの植物油、分別(fractionated)植物油、および流動パラフィンなどの鉱物油を含む。液体懸濁液はさらに、懸濁化剤、分散または湿潤剤、乳化剤、粘滑薬、防腐剤、緩衝剤、塩、香味料、着色料および甘味料を含むがこれらに限定されない、1またはそれ以上の付加的な成分を含み得る。油性懸濁液は、増粘剤をさらに含み得る。公知の懸濁化剤は、ソルビトールシロップ、硬化食用油、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴム、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0217】
公知の分散または湿潤剤は、レシチンなどの天然に生じるホスファチド、脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、脂肪酸とヘキシトールから誘導される部分エステル、または脂肪酸とヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとアルキレンオキシドの縮合物(たとえばそれぞれ、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)を含むが、これらに限定されない。公知の乳化剤は、レシチンおよびアラビアゴムを含むが、これらに限定されない。公知の防腐剤は、メチル、エチルまたはn−プロピルパラヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸およびソルビン酸を含むが、これらに限定されない。公知の甘味料は、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロースおよびサッカリンを含む。油性懸濁液のための公知の増粘剤は、たとえば蜜ろう、固形パラフィンおよびセチルアルコールを含む。
【0218】
水性または油性溶媒中の有効成分の液体溶液は、液体懸濁液と実質的に同じように製造し得るが、主要な相違は、有効成分を溶媒に懸濁するのではなく溶解することである。本発明の医薬組成物の液体溶液は、液体懸濁液に関して述べた成分の各々を含有し得るが、懸濁化剤が必ずしも溶媒中への有効成分の溶解を助けないことは了解される。水性溶媒は、たとえば水および等張食塩水を含む。油性溶媒は、たとえばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、落花生油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油などの植物油、分別植物油、および流動パラフィンなどの鉱物油を含む。
【0219】
本発明の医薬組成物の粉末および顆粒製剤は公知の方法を用いて製造し得る。そのような製剤は、直接被験体に投与され得るか、たとえば錠剤を形成する、カプセルに充填する、またはそれに水性または油性媒質を添加することによって水性または油性懸濁液または溶液を調製するために使用され得る。これらの製剤の各々は、1またはそれ以上の分散または湿潤剤、懸濁化剤および防腐剤をさらに含有し得る。充填剤などの付加的な賦形剤および甘味料、香味料または着色料もこれらの製剤に含まれ得る。
【0220】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型乳剤または油中水型乳剤の形態で製造、包装、または販売され得る。油相は、オリーブ油または落花生油などの植物油、流動パラフィンなどの鉱物油、またはこれらの組合せであり得る。そのような組成物は、アラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの天然に生じるゴム、ダイズまたはレシチンホスファチドなどの天然に生じるホスファチド、モノオレイン酸ソルビタンなどの脂肪酸とヘキシトール無水物の組合せから誘導されるエステルまたは部分エステル、およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどの、そのような部分エステルとエチレンオキシドの縮合物のような、1またはそれ以上の乳化剤をさらに含み得る。これらの乳剤はまた、たとえば甘味料または香味料を含む、付加的な成分を含有し得る。
【0221】
本発明の医薬組成物はまた、直腸投与、膣投与、非経口投与に適した製剤で製造、包装、または販売され得る。
【0222】
医薬組成物は、無菌注射用水性または油性懸濁液または溶液の形態で製造、包装、または販売され得る。この懸濁液または溶液は公知の技術に従って製造でき、有効成分に加えて、ここで述べる分散剤、湿潤剤または懸濁化剤などの付加的な成分を含有し得る。そのような無菌注射用製剤は、たとえば水または1,3−ブタンジオールなどの非毒性で非経口的に許容される希釈剤または溶媒を用いて製造し得る。他の許容される希釈剤および溶媒は、リンガー液、等張塩化ナトリウム溶液、および合成モノまたはジグリセリドなどの固定油を含むが、これらに限定されない。有用な他の非経口的に投与可能な製剤は、微結晶形態で、リポソーム製剤中で、または生分解性高分子系の成分として有効成分を含有するものを含む。持続放出または移植のための組成物は、乳剤、イオン交換樹脂、難溶性高分子、または難溶性の塩などの医薬的に許容される高分子または疎水性材料を含み得る。
【0223】
局所投与に適する製剤は、塗布剤、ローション、クリーム、軟膏またはペーストなどの水中油型または油中水型乳剤、および溶液または懸濁液などの液体または半液体製剤を含むが、これらに限定されない。局所的に投与可能な製剤は、たとえば約1%−約10%(重量/重量)の有効成分を含有し得るが、有効成分の濃度は溶媒中の有効成分の溶解度限界まで高くてもよい。局所投与のための製剤は、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含有し得る。
【0224】
本発明の医薬組成物は、口腔を通しての肺投与に適した製剤として製造、包装、または販売され得る。そのような製剤は、有効成分を含有し、約0.5−約7ナノメートル、好ましくは約1−約6ナノメートルの範囲の直径を有する乾燥粒子を含み得る。そのような組成物は、好都合には、推進薬の流れが粉末を分散させるように方向づける乾燥粉末貯蔵容器を含む装置を用いる、または密封容器内の低沸点推進薬に溶解または懸濁した有効成分を含む装置などの自己推進性溶媒/粉末配薬容器を用いる投与のための乾燥粉末の形態である。好ましくは、そのような粉末は、粒子の少なくとも98重量%が0.5ナノメートル以上の直径を有し、および粒子数の少なくとも95%が7ナノメートル未満の直径を有する粒子を含む。より好ましくは、粒子の少なくとも95重量%が1ナノメートル以上の直径を有し、および粒子数の少なくとも90%が6ナノメートル未満の直径を有する。乾燥粉末組成物は、好ましくは糖などの固体微粉末希釈剤を含み、好都合には単位用量形態で提供される。
【0225】
低沸点推進薬は、一般に大気圧で65°F以下の沸点を有する液体推進薬を含む。一般に、推進薬は組成物の50−99.9%(重量/重量)を構成し、有効成分は組成物の0.1−20%(重量/重量)を構成し得る。推進薬は、液体非イオン性または固体陰イオン界面活性剤または固体希釈剤などの付加的な成分(好ましくは有効成分を含有する粒子と同じ位数の粒径を有する)をさらに含み得る。
【0226】
肺送達用に製剤される本発明の医薬組成物はまた、溶液または懸濁液の小滴の形態で有効成分を提供し得る。そのような製剤は、有効成分を含有する、場合により無菌の、水性または希薄アルコール溶液または懸濁液として製造、包装、または販売され得、何らかの噴霧化または微粒化装置を用いて好都合に投与され得る。そのような製剤は、サッカリンナトリウムなどの香味料、揮発性油、緩衝剤、界面活性剤、またはメチルヒドロキシベンゾエートなどの防腐剤を含むがこれらに限定されない、1またはそれ以上の付加的な成分をさらに含み得る。この投与経路によって供給される小滴は、約0.1−約200ナノメートル範囲の平均直径を有する。
【0227】
肺送達のために有用であるとここで述べる製剤はまた、本発明の医薬組成物の鼻内送達のためにも有用である。鼻内投与に適するもう1つの製剤は、有効成分を含有し、約0.2−500マイクロメートルの平均粒子を有する粗粉末である。そのような製剤は、嗅剤が服用される方法で、すなわち外鼻孔の近くに保持された粉末の容器から鼻道を通しての迅速吸入によって投与される。
【0228】
鼻投与に適する製剤は、たとえばわずかに0.1%(重量/重量)から100%(重量/重量)までの有効成分を含有することができ、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含み得る。
【0229】
本発明の医薬組成物は、口腔投与に適した製剤として製造、包装または販売され得る。そのような製剤は、たとえば従来の方法を用いて作製される錠剤またはロゼンジの形態であり得、たとえば0.1−20%(重量/重量)の有効成分を含むことができ、そのバランスは、経口的に溶解性または分解性の組成物および、場合により、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上を含む。あるいは、口腔投与に適する製剤は、有効成分を含有する粉末あるいはエーロゾル化または噴霧化された溶液または懸濁液を含み得る。そのような粉末またはエーロゾル製剤は、分散したとき、好ましくは約0.1−約200ナノメートルの範囲の平均粒径または小滴サイズを有し、ここで述べる付加的な成分の1またはそれ以上をさらに含み得る。
【0230】
本発明の医薬組成物は、点眼投与に適する製剤として製造、包装または販売され得る。そのような製剤は、たとえば水性または油性液体担体中に有効成分の0.1/1.0%(重量/重量)溶液または懸濁液を含む点眼薬の形態であり得る。そのような点眼薬は、緩衝剤、塩、あるいはここで述べる他の付加的な成分の1またはそれ以上を含み得る。有用な他の点眼によって投与可能な製剤は、微結晶形態またはリポソーム製剤中に有効成分を含有するものを含む。
【0231】
ここで使用する、「付加的な成分」は、以下の1またはそれ以上を含むが、これらに限定されない:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤、造粒および崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味料;香味料;着色料;防腐剤;ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物;水性媒質および溶媒;油性媒質および溶媒;懸濁化剤;分散または湿潤剤;乳化剤、粘滑薬;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定剤;および医薬的に許容される高分子または疎水性物質。本発明の医薬組成物に含まれ得る他の「付加的な成分」は当技術分野において公知であり、たとえば参照によりここに組み込まれる、Genaro編集、1985,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PAに述べられている。
【0232】
典型的には、動物、好ましくはヒトに投与し得る本発明の化合物の用量は、被験体の体重1キログラム当たり1μg−約100gの範囲の量である。投与される正確な用量は、治療される動物の種類および疾患の種類、動物の年齢および投与経路に依存して異なる。好ましくは、化合物の用量は動物の体重1キログラム当たり約1mg−約10gの範囲である。より好ましくは、用量は被験体の体重1キログラム当たり約10mg−約1gの範囲である。
【0233】
化合物は、1日数回の頻度で被験体に投与し得るか、または1日1回、1週間に1回、2週間ごとに1回、月に1回などのより少ない頻度で、または数ヵ月ごとに1回または1年に1回またはそれ以下などのさらに一層少ない頻度で投与し得る。投与の頻度は当業者に容易に明らかであり、治療される疾患の種類および重症度、被験体の種類および年齢等などの、但しこれらに限定されない、多くの因子に依存する。
【0234】
本発明はまた、本発明の化合物および組成物を被験体の細胞または組織に投与することを説明する指示書を含むキットを包含する。もう1つの実施形態では、このキットは、化合物を被験体に投与する前に本発明の組成物を溶解するまたは懸濁するのに適した(好ましくは滅菌)溶媒を含む。本発明はまた、p21活性化キナーゼを含む組織または細胞の試料、p21活性化キナーゼの標準レギュレーター、アプリケーターおよびそれらの使用のための指示書を含む、ここで述べる血管透過性のレギュレーターを同定するためにキットを提供する。
【0235】
さらなる説明を必要とせずに、当業者は、前記説明および以下の実施例を使用して、本発明の化合物を製造し、利用する、および特許請求される方法を実施することができると考えられる。以下の実施例はそれゆえ、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであり、いかなる意味においても残りの開示を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0236】
本発明を、ここで、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は例示のみを目的として提供するものであり、本発明は、いかなる意味においてもこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではなく、ここで提供する教示の結果として明らかになる、ありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0237】
ここで述べる実験は、ErkがPAK経路においてPAKの下流にあるかどうかを検討した。PIX結合領域が欠失しているGIT1構築物(GIT1−△SHD)、およびGIT結合領域が決しているβPIX構築物(PIX−△GBD)をこれらの実験で使用した。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、ErkへのPAKの作用はPIXおよびGITのアダプター機能を必要とし得ると仮定した。この仮説を試験するため、2つの異なる手段によって複合体からPAKを除去するはずである、互いに結合することができないPIXおよびGITの変異体を発現させた。
【0238】
実験方法
細胞培養およびトランスフェクション
ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を、記述されているように(Stockton 2004)10%子ウシ血清(Atlanta Biologicals,Atlanta,GA)、100μg/mlジヒドロストレプトマイシンおよび60U/mlペニシリン(Sigma,St.Louis,MO)を添加した低グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をDr.Brett Blackman(University of Virginia)より入手し、製造者の“SingleQuot”添加物プラス10%ウシ胎仔血清(Atlanta Biologicals)を添加したEGM−2培地(Clonetics)で増殖させ、3−10継代で使用した。
【0239】
図面の説明に示すようにフィルターでの一部の透過性アッセイのために、100mm組織培養皿の0.5%CS−DMEM中の集密BAECを、Effecteneを製造者の指示に従って使用して、指示されているcDNA合計5μgでトランスフェクトした。一晩インキュベートした後、10%血清を添加したDMEMに細胞を移し、48時間目に使用した。一部のアッセイについては、説明に示すように、細胞をヌクレオポレーションによってトランスフェクトした。集密度90%の2つの15cmプレートから細胞を分離し、ヌクレオフェクション緩衝液(10mM HPESを含むフェノールレッド不含M199)1.5mlに再懸濁した。各々のトランスフェクションについて、0.2μlキュベット中の細胞懸濁液100μlにDNA2.5μgを添加した。Amaxa Nucleofector II M3プログラムサイクルを用いてヌクレオフェクションを実施した後、細胞を、増殖培地5mlを含む60mmプレートに移し、48時間目に使用した。免疫蛍光のために、皿はFN被覆したカバーガラススリップを含んだ。PAKペプチドは、Biomolecular Research Facility at the University of VirginiaまたはEZ Biolabs Inc.(Westfield IN)によって合成され、1回のHPLCによって精製された。
【0240】
βPIXおよびGIT1構築物はDr.A.F.Horwitzより入手した。△GBD βPIX(GIT1結合に関して突然変異した)およびGIT1の△SHD突然変異体(PIXおよびMEK結合に関して突然変異した)は記述されている通りであった(Zhangら、2003)。ドミナントネガティブMEK1は記述されている通りであった(Renshawら、1997)。ヒト配列に対するGIT1 Smartpool siRNAオリゴはDharmaconより入手し、HUVECにおいて実験を実施した。Smartpool混合物は4つの異なるsiRNAオリゴを含んだ。4つの異なるセンス配列は次の通りである:
【0241】
【化13】
LPS−誘導の肺微小血管透過性
すべての動物実験は、Animal Care and Use Committee of the University of Virginiaによる承認を受けた。野生型雄性マウス(C57B1/6、8−12週齢、Jackson Labs,Bar Harbor,ME)をエールゾル化したLPS(腸炎菌、Sigma Co.,St.Louis,MO)に30分間暴露した。これは微小血管透過性の有意の上昇を生じさせる(Reutershanら、2005)。対照動物には食塩水を吸入させた。一部のマウスに、処置の30分前にPAK阻害ペプチドまたは対照ペプチドを腹腔内(ip)注射した。インビボでのMEKの役割を調べるため、70μM UO126 0.5mlをip注射した。エバンスブルー染料血管外遊出手法(Greenら、1988)を用いて6時間目に透過性を分析した。簡単に述べると、エバンスブルー(20mg/kg;Sigma)を静脈内注射して、30分後に安楽死させた。血管内染料を除去するために自発的に拍動している右心室を通して肺を灌流した。記述されているように(Pengら、2004)肺を切除し、エバンスブルーを抽出した。エバンスブルーの吸収を620nmで測定し、ヘム色素の存在に関して補正した:A620(補正済み)=A620−(1.426×A740+0.030)(Wang leら、2002)。血管外遊出したエバンスブルーを標準曲線に対して算定した(肺1グラム当たりのエバンスブルーマイクログラム)。
【0242】
免疫沈降およびウエスタンブロット法
細胞を刺激し、低温PBSで洗って、低温免疫沈降(IP)緩衝液(20mMトリスpH7.6、0.5%NP40、250mM NaCl、5mM EDTA、3mM EGTA;プラスSigmaプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤カクテル)0.5mlで10分間抽出した。それらを18ゲージ針に3回通し、微量遠心機において12,000×gで10分間遠心分離した。上清をプロテインG−アガロースビーズ25μlであらかじめ清澄化し、指示されている一次抗体と共に4℃で2時間インキュベートした。抗ホスホPAKはBiosource Internationalより入手した;抗全PAKはTransduction Labsからであった;抗ホスホ−Erkおよび全ErkはCell Signalingからであった。抗GIT1および抗βPIXはSanta Cruz Biotechnologyからであった。プロテインA−またはプロテインG−アガロースビーズ25μlを添加し、4℃で回転させながらさらに2時間インキュベートした。ビーズを沈降させ、IP緩衝液0.5mlで3回洗って、SDS−PAGEによって分離した。ペプチドへの結合のために、ビオチン標識ペプチド25μgをストレプトアビジンビーズ25μlと共に30分間インキュベートし、その後洗浄して、細胞溶解産物0.5と共に30分間インキュベートした。結合タンパク質を、指示されている抗体でのウエスタンブロット法によって検出した。βPIXについては、細胞をHA−PIXでトランスフェクトし、抗HAを用いてブロットをプローブした。タンパク質を電気泳動によってPVDF膜に移し、トリス緩衝食塩水(TBS)中の5%乳でブロックして、同じ緩衝液中の一次抗体で一晩プローブした。膜を4回洗い、二次抗体で2時間プローブして、その後化学発光(ECL,Amersham)を用いて視覚化した。
【0243】
インビトロでの透過性
集密に近い、FN被覆した3μmフィルター上のBAECを、上述したようにEffecteneを用いてcDNA0.5μgでトランスフェクトした。48時間目に、指示されているPAKペプチドで細胞を60分間前処置した。一部の実験については、細胞をヌクレオフェクトし、その後フィルターにプレートして、集密まで48時間増殖させた。次にフィルターを、フェノールレッドまたは血清を含まない新鮮DMEM培地500μlと共に外側のウエルに入れた。各々のフィルターウエルに、上述したように培地200μlプラス、サイトカインを含むまたは含まない1.5μg/mlホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)50μlを添加した。30分後、フィルターを取り出して固定し、記述されているように(Stocktonら、2003)より低いウエル中の培地をHRPに関して検定した。数値を対照未処置ウエルに基準化した。
【0244】
免疫蛍光
細胞を3.5%ホルムアルデヒド中に60分間固定し、洗浄して、0.2%TX100中で10分間透過性上昇させた。10%ヤギ血清を含むPBSでカバーガラスを60分間ブロックし、その後4℃にて以下の抗体を含む200μlで8時間プローブした:1:500のホスホ−ERK;1:500のホスホ−MEK;1:500のホスホ−PAK;1:500のホスホ−MLC(すべてBioSource Internationalより);1:200のβPIXまたは1:200のGIT1(Santa Cruz Biotechnology)。カバーガラスを洗浄し、4℃にて1:1000の抗マウスIgG−Alexa 568または1:1000の抗ウサギIgG−Alexa 488(Molecular Probes)で一晩プローブした。カバーガラスを洗浄し、FluoroMount(Invitrogen)を用いて封入した。
【0245】
免疫組織化学
マウス肺を、定圧(20cm H2O)でのPFA4%の気管内点滴注入で15分間膨張させた。次に肺を切除し、PFA4%中に24時間固定し、パラフィンに包埋した。IHCのために切片(5μm)を切断し、抗原賦活化溶液(Vector Laboratories)で処理した。切片をモノクローナルウサギ抗p−ERK(1:400 Cell Signaling)で一晩染色し、Vectastain Elite Kit(Vector Laboratories)で検出した。DAB(Dako Corp)で視覚化を行い、ヘマトキシリンで対比染色した。ImageProソフトウエアプログラムを使用して、デジタルカメラ(DP70型;Olympus)を備えた顕微鏡(BX51型;Olympus)で20または40倍対物レンズを用いて画像を取得した。
【0246】
結果
PAKを阻害することはマウスでの急性肺損傷において液体輸送を低下させる
これまでの試験は、インビトロでの内皮結合の完全性の調節にPAKを関係づけたが(Zengら、2000;Stocktonら、2004)、インビボでの血管透過性との関連は測定されなかった。PAKの阻害がインビボで血管外漏出を低下させるかどうかを試験するため、エーロゾル化リポ多糖(LPS)の吸入が肺における液体蓄積の引き金となる、急性ハイブリダイゼーション損傷のマウスモデルを使用した(Reutershanら、2005)。LPSは主として、多数のサイトカインの放出の引き金を引くために常在型肺マクロファージに作用する。PAKキナーゼ活性の上昇に関連するPAK上のリン酸化部位に対する抗体を用いたウエスタンブロット法は、LPSに暴露したマウスからの肺におけるリン酸化上昇を示した(図1A)。基準化した上昇は、対照、n=2に比べて2.1±0.5であり、この系におけるPAK活性化を明らかにした。
【0247】
完全長ドミナントネガティブPAK阻害作用が、NckのSH3ドメインに結合するN末端のプロリンに富む配列に位置することが以前に認められた(Kiossesら、1999)。この配列がHIV TATタンパク質からの多塩基性配列に連結したペプチドは、容易に細胞に進入し、ドミナントネガティブPAKの発現と同様にPAK機能をブロックする(Kiossesら、2001)。前記ペプチドは、増殖因子または炎症性サイトカインで刺激した内皮細胞培養物における透過性も阻害した(Stocktonら、2004)。
【0248】
それゆえ、マウスにTAT−PAK N末端ペプチドを注射し、LPSの吸入後の肺へのエバンスブルー染料の漏出を検査した。Nck結合ペプチドは染料の蓄積を強力に阻害したが、一方SH3結合にとって必須の2個のプロリンをアラニンで置換した対照ペプチドは作用を及ぼさなかった(図1B)。このペプチドが他のSH3タンパク質に結合するまたはPAK以外のNck標的に影響を及ぼすことは排除できないが、データは、インビボで透過性を調節する上でのPAKの役割を示唆する。
【0249】
インビトロでの血管透過性におけるErkの役割
次に、Erk経路が関与し得るかどうかを検討した。最初のアッセイとして、培養下の集密ウシ大動脈内皮細胞においてErkの局在化と活性化を測定した。VEGFによる刺激は活性化Erkについての全染色の上昇を誘導し、実質的な分画が細胞間境界に局在した(図2A)。この染色はMEK阻害剤UO126での前処理によってほぼ排除され、そのシグナルが特異的であることを明らかにした。PAK阻害ペプチドを、次に、Erkがこの経路においてPAKの下流であるかどうかを試験するために使用した。全細胞溶解産物のウエスタンブロット法は、VEGFによるErkの活性化がPAK N末端ペプチドによってほぼブロックされ、ならびにMEK阻害剤UO126によってブロックされることを示した(図2B)。活性化Erkについての免疫染色も、細胞間境界におけるホスホErkの低下を示した(図2A)。bFGFに関しても同様の結果を得た(データは示していない)。
【0250】
インビトロでの血管透過性への作用を検討するため、3μm細孔を有するフィルターで内皮細胞を増殖させ、単層を横切るホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の輸送を検定した。VEGF、bFGFまたはヒスタミンによって誘導される透過性は、UO126によってまたはドミナントネガティブMEKでのトランスフェクションによって、ならびにPAK N末端ペプチドによってブロックされた(図2C)。
【0251】
次に、培養内皮細胞に関するこれらの結果がインビボで血管系に適用し得るかどうかを検討した。最初に、肺切片をホスホErkに対する抗体で染色した。未処置マウスからの肺では、肺の大部分が、肺胞壁にわずかに分布する細胞(小さな矢印;図3A)を除いて、ほとんどシグナルを示さなかった。これらの細胞の同一性は不明であるが、常在型マクロファージまたは樹状細胞の可能性が高いと思われる。LPS処置マウスでは、多くの細胞型においてErk活性化の著明な上昇が存在し、血管壁に沿った特定部位の血管内皮が最も顕著であった(大きな矢印)。肺胞も陽性に染まったが、血管ほど顕著ではなかった。この染色は肺胞毛細血管または内皮であると考えられるが、詳細な細胞型は光学顕微鏡では解明できない。Nck−PAK相互作用をブロックするペプチドによるマウスの処置は主としてErk活性化を妨げ、ErkがPAKの下流であることを示唆した。対照として、マウスをMEK阻害剤UO126によっても前処置し、この物質も組織全体でErk活性化をブロックした(図3A)。Erkがこの系における血管外漏出のために必要であるかどうかを判定するため、肺透過性へのUO126の作用を検定した。MEK阻害剤は、このモデルにおいてLPSによる血管外漏出の誘導を有意にブロックした(図3B)。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、データは、MEK−Erk経路が血管透過性へのPAKの作用を媒介することを示唆する。
【0252】
βPIXおよびGIT1の関与
次に、特異的タンパク質相互作用がPAKの下流のErkの活性化を促進し得る可能性を検討した。PAKは、PAK内の特殊なプロリンに富む配列がPIXのSH3ドメインに結合することを通してPIXタンパク質に結合することが知られている(Manserら、1998)。PIXはまた、RacおよびCdc42についてのヌクレオチド交換活性を有する中央DH/PHモジュール、およびGIT1に結合するC末端近くの領域を含む(Bagrodiaら、1999;Zhaoら、2000)。GIT1は、PIXに結合するSpa2相同性ドメイン(SHD)ならびにそのN末端のArf GAPドメインを含む(Turnerら、2001)。このSHD領域はまた、MEK1および2にも結合する(Premontら、2004;Yinら、2004)。それゆえ、PIX−GIT複合体は、MEKの活性化を促進し得る、PAKとMEKを近接させる潜在的可能性を有する。
【0253】
βPIXおよびGIT1に対する抗体での内皮単層の染色は、これらのタンパク質の一部が細胞間境界に存在することを示した(図4A)。肺切片の染色も、内皮における両方のタンパク質の発現を示した(データは示していない)。これらの相互作用の機能的関与を試験するため、内皮細胞をWT βPIXまたはC末端GIT結合領域が欠失した突然変異型についてのベクターでトランスフェクトした。付加的に、細胞をWT GIT1またはPIXおよびMEKに結合するSHDが欠失した突然変異型でトランスフェクトした。突然変異型βPIXまたはGIT1の発現は、細胞間結合へのホスホ−S141 PAKの局在化を完全にブロックしたが、WT構築物は作用を及ぼさなかった(図4B)。突然変異型構築物はまた、ErkおよびMLCの活性化もブロックしたが、WT構築物は活性化を上昇させるかまたは作用を及ぼさなかった(図4CおよびD)。最後に、突然変異型βPIXおよびGIT1はどちらも、VEGF(図5A)およびbFGF(データは示していない)に応答した、インビトロでの内皮単層を横切る透過性の上昇を効率的にブロックした。これに対し、WT構築物の発現は透過性を上昇させた。我々は、PIX−GIT複合体はPAKの下流でErkおよびMLC活性化を促進する上で決定的に重要な役割を果たすと結論する。
【0254】
これらの結果は、GIT1のノックダウンがトロンビンに応答した血管透過性を増強すると報告した、Berkとその共同研究者達の結果と相容れないと思われる(van Nieuw Amerongenら、2004)。この不一致を調べるため、多数のサイトカインに応答したインビトロでの透過性へのGIT1ノックダウンの作用をここで検討した。HUVECにおいて、GIT1を標的するsiRNAオリゴヌクレオチドは、基線値を低下させ、bFGFおよびヒスタミンによって誘導される透過性上昇を効率的にブロックしたが、トロンビン誘導の透過性には統計的に有意の作用がなかった(図5B)。これまでに認められた透過性の増強(van Nieuw Amerongenら、2004)は本試験では見られなかったが、GIT1がサイトカインと比較してトロンビン経路において異なる役割を果たすことは明らかである。増強が存在しなかったことは、実験条件の相違または異なる細胞ソースが原因であると考えられる。
【0255】
PIX−GIT複合体のペプチド阻害
PAK−PIX−GIT複合体の機能的関連性をさらに調べるため、PAK−PIX相互作用のペプチド阻害剤を使用した(図6A)。PAKは、SH3結合についてのコンセンサス配列に適合しない非定型のプロリンに富む領域を通してPIX SH3ドメインに結合する(Manserら、1998)。細胞内へのその進入を促進するため、この配列がそのN末端でHIV Tat多塩基性領域に融合されたペプチドを合成した(Schwarzeら、1999)。我々はまた、プルダウンアッセイのために検出と固定化を容易にするべくそのC末端にビオチン標識を付加した。
【0256】
細胞溶解産物をストレプトアビジンビーズに結合したペプチドと共にインキュベートしたとき、PIX結合ペプチドは高い効率でβPIXに結合した(図6B)。2個の鍵となる残基が突然変異した対照ペプチドに対してはβPIXの結合は認められなかった。多くの他のSH3含有タンパク質は結合を示さなかったが、コルタクチンは、弱いが再現可能な結合を示した。より高い量の細胞溶解産物を使用したとき、CD2APの弱いが特異的な結合およびDOCK180の弱いが非特異的な結合も検出することができた(データは示していない)。ペプチドは、それゆえ、PIXに選択であると思われるが、他のより低い親和性相互作用も有する。
【0257】
PAKとPIXの間の相互作用を分断するその能力を調べるため、内皮細胞を、20μg/mlのPIX結合ペプチドまたは細胞への進入を可能にするTAT配列に融合した突然変異型対照ペプチドと共にインキュベートした。次に細胞を洗浄し、界面活性剤で抽出して、βPIXを免疫沈降させた。ペプチドはPIXの量に作用を及ぼさなかったが、沈殿物中のPAKを約70%減少させた(図6C)。ペプチドを溶解の前に洗い流したので、この結果は阻害の程度を過小評価させ得ると考えられ、それゆえ我々は、免疫沈降の間に何らかの再結合が起こった可能性を排除できない。Erk活性化を検定したとき、PIXブロッキングペプチドはVEGF刺激を効率的に阻害したが、対照ペプチドは作用を及ぼさなかった(図6D)。bFGFによるErkの刺激もブロックされた(データは示していない)。bFGF(図6E)またはVEGF(示していない)に応答したアクチン細胞骨格の再編成も検討した。これらの増殖因子は、処置細胞においてアクチンストレスファイバーの上昇の引き金を引き、これは活性ペプチドによってブロックされたが、突然変異型ペプチドではブロックされなかった。20μg/mlのPIX結合ペプチドも、ウシ内皮細胞(図7A)およびHUVEC(示していない)においてVEGFに応答したインビトロでの透過性上昇を約80%ブロックした。bFGFについても同様の結果を得た(示していない)。
【0258】
インビボでのPIXブロッキングペプチド
インビボでの血管透過性がPAKとPIXの間の相互作用を必要とするかどうかを調べるため、LPSの吸入後にマウスを検査した。これらの実験のために、ビオチンおよび3個のC末端残基を欠くTAT−PAKペプチドを、これらの残基がPIXとの相互作用に関与しないことを示すNMR構造に基づいて(Mottら、2005)、使用した。PIXブロッキングペプチドの注射は、肺へのエバンスブルー染料の漏出を用量依存的に有意に低下させ(1mgで62%、2mgで85%)、一方対照ペプチドは有意の作用を及ぼさなかった(図7B)。肺切片試料においてホスホ−Erk染色の阻害も認められた(図7C;図3A、+LPS試料と比較する。矢印は血管を示す)。肺炎症のインビボモデルにおいて、PAKとPIXの複合体がErkの活性化および血管外漏出の誘導のために必要であるとここで結論される。
【0259】
結論
Erkを活性化し、血管透過性を誘導するPAKの能力は、PAK−PIX−GIT複合体の完全性に依存する。この必要条件は、炎症、血栓および血管新生メディエイタに関連する。この結論は、関連成分の細胞間境界への共局在、および阻害性構築物、siRNAノックダウンおよび細胞透過性ペプチドによる経路の破壊に基づく。現在の公表データに基づくモデルを図8に示す。このモデルでは、サイトカインがPAKの活性化の引き金を引き(Stocktonら、2004)、PAKはβPIXに結合される。GIT1はPIXおよびMEK1または2の両方に結合して、活性名PAKをMEKに近接させる。PAKは、次に、ser298上のMEKをリン酸化し、これはMEK結合とRafによる活性化を増強する(Frostら、1997)。リン酸化されたMEKはErkを活性化し、それが、先に述べられているように(Klemkeら、1997)MLCKを活性化して、ミオシン依存性の収縮性を促進し、細胞間結合の崩壊を導くと推測される(Stocktonら、2004)。しかし、MEKがErkとは無関係に血管透過性を刺激することも報告されている(Wuら、2005)。特定の理論に縛られるのは望むところではないが、Erkの特定サブ分画が、これらの作用を媒介するために適切なスカフォールドタンパク質に結合すると仮定される。フォーカルアドヒージョン(接着域)に局在するErkの小分画は全活性Erkとは異なる性質を有するので(Hughesら、2002)、この概念には先例がある。
【0260】
LPS吸入モデルにおけるPAKの活性化は、様々な因子を分泌するいくつかの細胞型を含むカスケードによるものであると考えられる。血管壁におけるErk活性化の限局性は、白血球との局所的相互作用が決定的に重要である可能性が高いことを示唆する。種々の因子が血管透過性を誘導するために異なるシグナル伝達経路を利用することの証拠が存在する。VEGFは、たとえば、src依存性経路に頼るが、bFGFはこれに依存しない(Eliceiriら、1999)。トロンビンの作用は主としてRhoおよびRhoキナーゼによって媒介される(Esslerら、1998;van Nieuw Amerongenら、2004)。しかし、PAKとErkは、これらの因子すべてによって共有される共通のシグナル伝達中間体であると思われる。GIT1の完全なノックダウンがPAK−PIX−GIT複合体の崩壊とは異なる作用を及ぼすことは興味深い。GIT1ノックダウンは、トロンビン誘導の透過性を増強する(van Nieuw Amerongenら、2004)かまたは作用を及ぼさない(本出願)が、複合体の崩壊は明らかにブロックする。GIT1の他の活性がトロンビン応答を調節することに関与する可能性が高い。たとえばGIT1はArf GAP活性を有し、これはフォーカルアドヒージョンの解除を刺激することができる(Turnerら、2001)。この概念と一致して、GIT1発現の抑制はトロンビン処置細胞においてフォーカルアドヒージョンを増強した(van Nieuw Amerongenら、2004)。しかし、PAK−PIX−GIT相互作用の特異的分断は異なる作用を有すると思われる。
ここで引用する一つ一つの特許、特許出願および公表文献の開示は、それらの全体が参照によりここに組み込まれる。
【0261】
見出しは、参照のためおよび一定の章を見出すのを助けるためにここに含まれる。これらの見出しは、その見出しの下で述べられる概念の範囲を限定することを意図せず、これらの概念は、本明細書全体を通じて他の章においても適用性を有し得る。
【0262】
開示した実施形態のこれまでの説明は、当業者が本発明を実施するまたは使用することを可能にするために提供されるものである。これらの実施形態の様々な修正が当業者には容易に明らかであり、ここで定義する一般的な原理が、本発明の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態にも適用され得る。従って、本発明は、ここで示す実施形態に限定されることを意図せず、ここで開示する原理および新規特徴に一致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0263】
【化14】
【0264】
【化15】
【図面の簡単な説明】
【0265】
【図1】図1は、肺炎症における血管透過性。
【0266】
A.マウスに、事前にNckブロッキングペプチド(PAKブロッキングペプチドとも称される;配列番号7を含む)または対照ペプチド1mgを腹腔内注射してまたは注射せずに、エーロゾル化したLPSを吸入させた。6時間目に、肺を切除し、抽出して、ウエスタンブロット法によってpSer141および全PAK2に関して分析した。2つの実験は類似の結果を生じた。
【0267】
B.マウスに、Aにおけるように対照またはNckブロッキングペプチドと共にLPSを吸入させた。6時間目に、エバンスブルー染料を注射し、1時間目に肺への漏出を検定した。数値は平均±S.D.であり、n=少なくとも4である。*は、統計的有意性、すなわちペプチドなしのLPS処置マウスに比べてp<0.01を示す。
【図2A】ErkはPAKの下流である。
【0268】
A.BAECを、20μg/mlのNck結合をブロックするN末端PAKペプチド、突然変異対照ペプチド、またはMEK阻害剤UO126(25μM)で前処置した。1時間後、VEGF25ng/mlを30分間添加した。その後細胞を固定し、活性化Erkに関して染色した。
【図2B】B.Aにおけるように細胞を抽出し、ウエスタンブロット法によってErkリン酸化に関して分析した。
【図2C】C.3μmフィルター上のBAECをドミナントネガティブMEK1(DN MEK)でトランスフェクトし、20μg/mlのPakN末端ペプチドまたは突然変異対照ペプチドで1時間前処置するか、またはUO126 25μMで前処置した。細胞を未処置のまま放置するか、またはVEGF25ng/ml、bFGF50ng/mlまたはヒスタミン10μMで1時間刺激した。フィルターを横切るホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の漏出を「実験方法」において述べるように検定した。
【図3A】インビボでのErk A.マウスにNckブロッキングペプチド(1mg;配列番号7を含む)、対照ペプチド(1mg)またはUO126(70μM 0.5ml)を注射し、その後図1におけるようにLPSで処置するかまたは処置しなかった。6時間後、肺を切除し、切片にして、pT202/pY204抗体を用いて活性化Erkに関して染色した。小さな矢印は、陽性染色される対照肺の同定されない細胞を示す。大きな矢印は、導管血管を示す。
【図3B】B.マウスを、MEK阻害剤UO126(70μM 0.5ml)を事前に注射してまたは注射せずに、LPSで処置した。エバンスブルー染料の漏出をAにおけるように検定した。*は、統計的有意性、すなわちUO126なしのLPS処置マウスに比べてp<0.05を示す。n=少なくとも4。
【図4A】βPIXおよびGIT1についての必要条件。
【0269】
A.VEGFで刺激したBAECを固定し、GIT1またはβPIXに関して免疫染色した。
【図4B】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0270】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図4C】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0271】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図4D】B.BAECを、80−90%のトランスフェクション効率を与えるヌクレオポレーションプロトコールを用いてWT GIT1、βPIXに結合しないSPA2相同性ドメイン(SHD)欠失を有するGIT1、WT βPIX、またはGIT1に結合しない△GBD欠失を有するβPIXでトランスフェクトした。細胞をVEGFで30分間刺激し、その後固定して、ホスホ−S141 PAKに関して染色した。
【0272】
CおよびD.細胞をBにおけるようにトランスフェクトし、VEGFで刺激して、その後界面活性剤抽出し、Erkリン酸化(C)およびミオシン軽鎖(MLC)ser19リン酸化(D)を検出するためにウエスタンブロット法によって分析した。
【図5A】インビトロでのGIT1およびβPIX対照透過性。
【0273】
A.図4Cにおけるようにトランスフェクトした細胞を集密密度で3.0μm細孔のフィルターにプレートした。培養物をVEGFで刺激し、HRPに対する透過性を「実験方法」で述べるように検定した。
【図5B】B.HUVECを、GIT1に特異的なsiRNAオリゴヌクレオチドまたは対照であるスクランブルsiRNAでトランスフェクトした。72時間目の全細胞溶解産物をウエスタンブロット法によってGIT1発現に関して分析した(上部)。フィルター上の細胞を、VEGF(50ng/ml)、ヒスタミン(10μM)またはトロンビン(0.2U/ml)による処置後にHRPに対する透過性に関して分析した。
【図6A】PAKとPIXの間の相互作用のブロッキング。
【0274】
A.PIX SH3ブロッキングペプチドおよび突然変異対照の配列。透過性上昇配列は配列番号3であり、PIX結合配列は配列番号1であり、および2つの配列の組合せであるPIX結合ペプチドは配列番号4である。配列番号4と共に使用する対照ペプチドは配列番号5を有する。
【図6B】B.細胞溶解産物をストレプトアビジンビーズに固定化したペプチドと共にインキュベートし、全細胞溶解産物(WCL)または結合タンパク質をウエスタンブロット法によって分析した。
【図6C】C.BAECを20μg/mlのPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドと共に1時間インキュベートし、その後VEGFで30分間刺激した。細胞を洗浄し、溶解して、βPIXを免疫沈降させた。IPをウエスタンブロット法によって分析した。
【図6D】D.BAECをペプチドと共にインキュベートし、CにおけるようにVEGFで刺激して、その後溶解し、ウエスタンブロット法によってErk活性化に関して分析した。
【図6E】E.細胞をCにおけるようにペプチドと共にインキュベートし、bFGFで60分間刺激して、F−アクチンに関して染色した。
【図7A】PIX−PAK相互作用のペプチドブロッキング。
【0275】
A.3.0μm細孔のフィルター上のBAECを20μg/mlのPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドで1時間前処置し、その後VEGFで30分間刺激した。単層を横切るHRPの運動を「実験方法」で述べるように検定した。
【図7B】B.マウスに、指示量のPIXブロッキングペプチドまたは対照ペプチドを腹腔内注射した。マウスをエーロゾル化LPSで6時間処置し、エバンスブルー染料の肺への漏出を「実験方法」で述べるように検定した。数値は平均±S.D.であり、n=4−8である。ペプチドなしのLPS処置マウスと比較して、*はp<0.02、**はp<0.001を示す。
【図7C】C.図3AにおけるようにPIXブロッキングペプチド1mg/mlで前処置し、LPSに暴露したマウスからの肺をホスホ−Erkに関して染色した。比較し得る未処置およびLPS処置試料に関して図3A参照。矢印は導管血管を示す。
【図8】血管透過性のPAK誘導についてのモデル。PAKは、炎症、血栓および血管新生刺激に応答して活性化される。PAK内の非定型のプロリンに富む配列はβPIX SH3ドメインに結合する。PIXは、PIXのC末端の配列およびGIT1のSpa2相同性ドメイン(SHD)を通してGIT1に結合する。SHDはまた、MEK1/2に結合する。PAKは、RafによるMEKの活性化を促進する、ser298上のMEKをリン酸化する。その後のMEKによるErkの活性化は、細胞間結合を崩壊させる、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の活性化および収縮性を導く。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管透過性を調節する必要のある被験体において血管透過性を調節する方法であって、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCK調節経路から成る群より選択されるタンパク質調節経路の少なくとも1つのレギュレーターの有効量および医薬的に許容される担体を含有する医薬組成物を該被験体に投与する工程を含み、該血管透過性は、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKから成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路によって調節され、それによって血管透過性を調節する、方法。
【請求項2】
前記の少なくともレギュレーターが、前記タンパク質調節経路の少なくとも1つの阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レギュレーターが血管透過性を抑制する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レギュレーターが血管透過性の上昇を抑制する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、増殖因子が刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、サイトカインが刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害剤が、細菌毒素が刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記経路がPAK経路である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記PAK経路がPAK−PIX−GIT−MEK−Erk経路である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害剤が、ペプチド、核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、アプタマー、キナーゼ阻害剤および抗体から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが、配列番号1、2、3、6および7、およびそれらの生物学的に活性なホモログ、誘導体および修飾物から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、細胞膜透過性を高めるためのアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記siRNAがGITを対象とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
siRNA配列が、配列番号8、9、10および11から成る群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記の少なくとも1つのレギュレーターの1つがUO126である、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記阻害剤がタンパク質相互作用または複合体形成を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質相互作用または複合体形成が、PAK−PIX、PAK−MEK、PIX−GITおよびGIT−MEKから成る群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
PIXがPIXαまたはPIXβである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
GITがGIT1またはGIT2である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
MEKがMEK1またはMEK2である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記阻害剤がErk活性化を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記阻害剤がMLCK活性化を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記核酸が単離核酸であり、該単離核酸は、配列番号1、2、4、6および7から成る群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記被験体が、組織損傷、虚血、炎症、発作、創傷治癒、急性呼吸窮迫症候群、高血圧、心筋梗塞、敗血症、低酸素症、感染、アレルギー反応、熱損傷、x線照射および紫外線照射から成る群より選択される血管透過性関連疾患、障害または状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
血管透過性疾患、障害または状態を調節する化合物を投与するための、請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を含有する医薬組成物、アプリケーター、およびそれらの使用のための指示書を含むキット。
【請求項26】
血管透過性を抑制する化合物を同定する方法であって、該化合物は、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCK調節経路から成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路を阻害し、該方法は、
該調節経路の少なくとも1つを含む試験細胞を試験化合物に接触させること;
該調節経路の少なくとも1つの活性または機能を測定すること;
を含み、該試験化合物と接触させなかったこと以外は同一の細胞における活性または機能のレベルと比較して、該試験細胞における活性または機能のより低いレベルが、該試験化合物が血管透過性を抑制することの指標である、方法。
【請求項27】
前記調節経路がPAKである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法がPAKリン酸化を測定する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、細胞間結合へのPAKの転位を測定する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が血管透過性を測定する、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記方法がインビボでの液体輸送を測定する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、タンパク質間相互作用または複合体形成を測定する、請求項26に記載の方法。
【請求項1】
血管透過性を調節する必要のある被験体において血管透過性を調節する方法であって、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCK調節経路から成る群より選択されるタンパク質調節経路の少なくとも1つのレギュレーターの有効量および医薬的に許容される担体を含有する医薬組成物を該被験体に投与する工程を含み、該血管透過性は、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCKから成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路によって調節され、それによって血管透過性を調節する、方法。
【請求項2】
前記の少なくともレギュレーターが、前記タンパク質調節経路の少なくとも1つの阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レギュレーターが血管透過性を抑制する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レギュレーターが血管透過性の上昇を抑制する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、増殖因子が刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、サイトカインが刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害剤が、細菌毒素が刺激する血管透過性の上昇を抑制する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記経路がPAK経路である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記PAK経路がPAK−PIX−GIT−MEK−Erk経路である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害剤が、ペプチド、核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、アプタマー、キナーゼ阻害剤および抗体から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが、配列番号1、2、3、6および7、およびそれらの生物学的に活性なホモログ、誘導体および修飾物から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、細胞膜透過性を高めるためのアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記siRNAがGITを対象とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
siRNA配列が、配列番号8、9、10および11から成る群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記の少なくとも1つのレギュレーターの1つがUO126である、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記阻害剤がタンパク質相互作用または複合体形成を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質相互作用または複合体形成が、PAK−PIX、PAK−MEK、PIX−GITおよびGIT−MEKから成る群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
PIXがPIXαまたはPIXβである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
GITがGIT1またはGIT2である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
MEKがMEK1またはMEK2である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記阻害剤がErk活性化を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記阻害剤がMLCK活性化を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記核酸が単離核酸であり、該単離核酸は、配列番号1、2、4、6および7から成る群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記被験体が、組織損傷、虚血、炎症、発作、創傷治癒、急性呼吸窮迫症候群、高血圧、心筋梗塞、敗血症、低酸素症、感染、アレルギー反応、熱損傷、x線照射および紫外線照射から成る群より選択される血管透過性関連疾患、障害または状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
血管透過性疾患、障害または状態を調節する化合物を投与するための、請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を含有する医薬組成物、アプリケーター、およびそれらの使用のための指示書を含むキット。
【請求項26】
血管透過性を抑制する化合物を同定する方法であって、該化合物は、PAK、PIX、GIT、MEK、ErkおよびMLCK調節経路から成る群より選択される少なくとも1つのタンパク質調節経路を阻害し、該方法は、
該調節経路の少なくとも1つを含む試験細胞を試験化合物に接触させること;
該調節経路の少なくとも1つの活性または機能を測定すること;
を含み、該試験化合物と接触させなかったこと以外は同一の細胞における活性または機能のレベルと比較して、該試験細胞における活性または機能のより低いレベルが、該試験化合物が血管透過性を抑制することの指標である、方法。
【請求項27】
前記調節経路がPAKである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法がPAKリン酸化を測定する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、細胞間結合へのPAKの転位を測定する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が血管透過性を測定する、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記方法がインビボでの液体輸送を測定する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、タンパク質間相互作用または複合体形成を測定する、請求項26に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【公表番号】特表2009−508812(P2009−508812A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526202(P2008−526202)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/031229
【国際公開番号】WO2007/019563
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/031229
【国際公開番号】WO2007/019563
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【Fターム(参考)】
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