説明

衛星ナビゲーションのための方法及びシステム

【課題】衛星ナビゲーションのためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】一実施形態では、衛星ナビゲーション・システム用のモバイル・ユニットが開示される。このモバイル・ユニットは、衛星ビークルへ要求無線信号を送信する手段と、1又は複数の衛星ビークルの軌道座標を含む応答無線信号を受信する手段と、要求無線信号を送信する手段と応答無線信号を受信する手段とに応答するものであり、送信された要求無線信号と受信された応答無線信号とに基づいて到来時間差レンジを計算することにより、衛星ビークルまでのレンジを計算する手段と、レンジを計算する手段に応答するものであり、少なくとも3つの衛星ビークルまでのレンジと少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標とに基づいて位置を計算する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にナビゲーションに関し、より詳細には、衛星ベースのナビゲーション・システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
月や火星等の地球外の世界を探査するための任務では、地球外の世界の表面の上方と表面上との両方でモバイル・ビークル(mobile vehicles)を操作する必要がある。現在、かかるビークルは、配備されたときに、それらの場所では地球上の全地球測位システム(GPS)等の測位システムが使用可能でない故に、ビークル自体の位置を正確に確認することができない。GPS等の既存の衛星ナビゲーション・ソリューションは、余りに高額で大規模なものであり、また複雑過ぎるため、地球外での用途のために配備することができない。例えば、各GPS衛星は、高精度の軌道及び多重信号伝送を維持する機器アレイを備えており、高精度で高額な原子時計を機能させる必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の理由から、また、本明細書を読み理解すれば当業者には明らかとなるはずの後述のその他の理由から、当技術分野には、地球外任務のための低コストの汎用測位ナビゲーション・ソリューションに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の諸実施形態は、衛星ナビゲーションのための方法及びシステムを提供し、以下の詳細な説明を読み検討することによって理解されるはずである。
【0005】
一実施形態では、衛星ナビゲーション・システム用の移動(モバイル)ユニットが提供される。モバイル・ユニットは、無線送信機と、無線送信機に結合され、無線送信機を介して1又は複数の衛星ビークル(satellite vehicle)へ1又は複数の要求信号を送信するように適合されたプロセッサと、プロセッサに結合される無線受信機とを備え、プロセッサは、1又は複数の衛星ビークルから応答信号を受信するように更に適合され、応答信号は、1又は複数の衛星ビークルの軌道座標と、モバイル・ユニット識別コードと、衛星ビークル識別コードと、処理遅延ファクタ(processing delay factor)と、健康状態(health status)コードとの内の1又は複数のものを含む。プロセッサは更に、要求信号と応答信号とに基づいて到来時間差レンジ(time difference of arrival range)を計算することにより、1又は複数の衛星ビークルに対するレンジを計算するように適合される。更に、プロセッサは、1又は複数の衛星ビークルの内の少なくとも3つの衛星ビークルから応答信号を受信したときは、少なくとも3つの衛星ビークルまでのレンジと少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標とに基づいて、位置を計算するように適合される。
【0006】
別の実施形態では、物体(body)上のモバイル・ユニットの位置を判定するための方法が提供される。この方法は、物体を軌道周回する3つ以上の衛星ビークルに1又は複数の要求信号を送信するステップと、少なくとも3つの衛星ビークルから、少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標と、モバイル・ユニット識別コードと、衛星ビークル識別コードと、処理遅延ファクタと、健康状態コードとの内の1又は複数のものを含む応答信号を受信するステップと、少なくとも3つの衛星ビークルに対する到来時間差レンジと少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標とに基づいて位置を判定するステップとを含む。
【0007】
他の実施形態では、衛星ナビゲーション・システム用のモバイル・ユニットが提供される。モバイル・ユニットは、1又は複数の衛星ビークルへ要求無線信号を送信する手段と、1又は複数の衛星ビークルから1又は複数の衛星ビークルの軌道座標を含む応答無線信号を受信する手段と、要求無線信号を送信する手段と応答無線信号を受信する手段とに応答し、送信された要求無線信号と受信された応答無線信号とに基づいて到来時間差レンジを計算することにより、1又は複数の衛星ビークルまでのレンジを計算する手段と、レンジを計算する手段に応答し、少なくとも3つの衛星ビークルまでのレンジと少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標とに基づいて位置を計算する手段とを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
好ましい諸実施形態及び添付の図面に関する説明に照らして検討されれば、本発明がより容易に理解され得、更なる利点及びその使用もより容易に明らかとなり得る。
【0009】
一般的な慣行に従って、記載の様々な特徴は縮尺通りには示されておらず、本発明に関連する諸特徴を強調するように示されている。参照文字は、添付の図面及び本文全体を通して同様の要素を表す。
【0010】
以下の詳細な説明では、説明の一部を形成し且つ本発明が実施され得る個々の例示的な実施形態が例示的に示される添付の図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施することが可能となるように十分詳細に説明されており、又、本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を用いることもでき、また、論理的、機械的、及び電気的な変更が加えられてもよいことが理解されるべきである。従って、以下の詳細な説明は限定的な意味に解釈されるべきではない。
【0011】
以下で詳細に説明され示されるように、本発明の諸実施形態は、3つの主なサブ・システム、即ち、1)それぞれが空間における現在位置を認識する軌道周回衛星ビークル(orbiting satellite vehicle)システムと、2)それぞれの衛星ビークルの位置とクロック(時計)のバイアスを校正するように適合された少なくとも1つの支援局と、3)軌道周回衛星ビークルの内の少なくとも3つのものと通信するモバイル・ユニットとから、構成される。今日の当技術分野で使用可能なGPS衛星測位システムとは異なり、本発明の諸実施形態は、到着時間(TOA、time of arrival)法に依存せずに位置を計算するので、高度に正確な原子時計を各衛星が所有する必要がない。TOA法は、或る対象物(object)が別の対象物から送信された信号を受信するまでにかかる時間に基づいて、レンジを判定する。TOAは、正確な測定を保証するために、2つの対象物間での高い時計同期性を必要とする。それに対して、本発明の諸実施形態は、周期的に校正される、衛星ビークルを用いる到来時間差(TDOA、time difference of arrival)法を利用する。TOA法とは異なり、TDOAは、第1の対象物が第2の対象物へ信号を送信してから、第2の対象物から戻ってくる応答信号を受信するまでにかかる往復(ラウンド・トリップ)時間の関数として、第2の対象物から第1の対象物までのレンジを判定する。ラウンド・トリップ時間は、2つの対象物間の時計同期化の必要なしに、第1の対象物によって測定され得る。
【0012】
本明細書で提供される諸実施形態の例は、地球の衛星を対象とする月衛星測位システムに関して説明されるが、本発明の諸実施形態は、地球の衛星を対象とする形態に限定されるものではない。これとは対照的に、本発明の諸実施形態は、火星や、土星や木星の衛星等の地球外の衛星や、或いは他の地球外物体等の、任意の地球外物体にも適用可能であり、また、それらのものだけに限られるものではない。更に、本発明の諸実施形態を利用して地球を対象とする別の衛星測位システムを確立することを妨げるような制限もない。
【0013】
図1Aに示されるように、本発明の一実施形態におけるモバイル・ユニット110は、SV 120−1、SV 120−2、SV 120−3等の3つ以上の軌道周回衛星ビークル(SV)に関する既知の位置と突き合わせて三角測量を行うことによって、月面105との相対的なモバイル・ユニット110自体の位置を判定する。一実施形態では、モバイル・ユニット110は、図1Bに示されるように、無線送信機105と、無線受信機106と、プロセッサ108とを備える。本明細書で後に詳細に説明されるように、SV 120−1、SV 120−2、及びSV 120−3はそれぞれ、後述のように軌道におけるそれぞれの現在位置座標を認識している。一実施形態では、モバイル・ユニット110は、SV 120−1〜120−3のそれぞれによって受信される無線信号を送信する。SV 120−1〜120−3はそれぞれ、軌道内のそれぞれの位置を示すデータを含む信号を送信することによって、モバイル・ユニット110に応答する。各SVから送信された信号を受信すると、モバイル・ユニット110は次いで、各SVに対しての到来時間差(TDOA)レンジを計算することにより、モバイル・ユニット110自体とSV 120−1との間(距離d1で示される)と、SV 120−2との間(距離d2で示される)と、SV 120−3との間(距離d3で示される)との各レンジ(即ち、距離)を判定する。TDOAレンジは、モバイル・ユニット110が無線信号を送信してから、SVから応答信号を受信するまでに経過した時間の関数である。一実施形態では、モバイル・ユニット110とSV 120−1との間の距離は、例えば次の式から計算される。
【0014】
【数1】

【0015】
上記の式において、cは、光の速さに等しく、Δtは、モバイル・ユニット110が無線信号を送信してSV 120−1から応答信号を受信するまでの経過時間に等しく、Δt_syncは、SV 120−1がモバイル・ユニット110からの信号を内部で認識して、それ自体の応答信号を送信するのに掛かる時間に等しい処理遅延ファクタである。一実施形態では、Δt_syncの値は、SV 120−1からの応答信号に含まれてモバイル・ユニット110へ送信される。モバイル・ユニット110は同様に、SV 120−2及び120−3に関してそれぞれに距離d2及びd3を計算する。
【0016】
本明細書を読めば当業者には容易に理解されるように、モバイル・ユニット110は、SV 120−1、2、及び3のそれぞれからモバイル・ユニット110自体までの距離を認識し、SV 120−1〜120−3の軌道内の位置を認識することにより、幾つかの三角法の式のうちの任意の式を用いて、月面105上でのモバイル・ユニット110自体の位置を計算することができる。モバイル・ユニット110がそれ自体の位置の座標を計算するのに必要な式は、最終的には、月面105上及び月面上方の位置を指定するために採用される座標系に依存するが、このことは、本発明の諸実施形態の目的に関しては完全に任意に決定できるものである。
【0017】
モバイル・ユニット110が月面105上又は月面105との相対的な位置を三角測量し計算するには、少なくとも3つの衛星ビークルからの有効な応答信号が必要とされる。しかしながら、本明細書を読めば当業者には理解されるように、本発明の諸実施形態は、3つの軌道周回衛星ビークルだけを用いるナビゲーション・システムに限定されるものではない。一実施形態では、モバイル・ユニット110は、測位確度を向上させるために、4つ以上の衛星ビークルを用いて三角測量するようにも適合される。
【0018】
図2に示されるように、SV 200は、無線送信機210と、無線受信機215と、高度計220と、クロック(時計)222とを備え、それぞれがプロセッサ230と結合されている。一実施形態では、受信機215は、モバイル・ユニット110から要求信号を受信する。一実施形態では、プロセッサ230は、要求信号に応答して、送信機210を介してSV 200の現在位置を送信する。(プロセッサ230がどのようにしてSV 200の現在位置を判定するかに関する詳細は、以下に示される。)一実施形態では、モバイル・ユニット110へ返信されるデータは、SV 200の軌道座標と、Δt_syncと、健康状態データと、SV 200を識別し且つ他のSVと区別する一意のIDコードと、SV 200が応答しているモバイル・ユニット110のIDコードとのうちの1又は複数のものを含むが、これに限定されるものではない。
【0019】
一実施形態では、SV 200は、衛星の北極と南極との両方を周回毎に正確に1度ずつ通過するように、極軌道を移動する。本発明の諸実施形態は、極軌道上を移動するSVに限定されるものではないが、極軌道は幾つかの利点を有する。第1に、極軌道は、本質的に安定している。第2に、極軌道を用いることにより、100%カバレージの測位ソリューションを提供するために必要なSVの総数を減少させる。第3に、極軌道を用いることにより、SVを校正するのに必要とされる支援局の数を減少できるが、それは、本質的に極軌道を移動する何れのSVも、各周回中に月の北極又は南極の何れかに位置する一つの支援局を通過することになるからである。極軌道ではない軌道を移動する1又は複数のSVを備える本発明の一実施形態の衛星ナビゲーション・システムでは、本明細書の後段で説明される校正を周期的に実施するために、それらのSVが支援局に十分に近い範囲内を通過する必要がある。
【0020】
一実施形態では、プロセッサ230は、支援局からの校正信号から与えられる座標と、最後の校正信号を受信してから経過した時間とに基づいて、SV 200の現軌道座標を判定する。例えば、一実施形態では、SV 200は、月の北極の上方を通過するときに、支援局から校正信号を受信する。校正信号は、SV 200にそれ自体の精密な座標を提供する。SV 200が北極を通過して移動を続けると、プロセッサ230は、校正信号を受信してから経過した時間と、SV 200が既知の円経路の周りを移動するときの速度(SV 200が安定した期道に維持される限り、この速度は既知の定数である)とに基づいて、SV 200の現座標の計算を続けることができる。SV 200は各周回毎に1度校正されるので、時計222の不正確さや、速度の変動や、軌道経路の変動に起因する誤差が過度に蓄積することはない。
【0021】
図3は、図2に関して説明されたようなSVによって実施される、本発明の一実施形態の方法300を示す流れ図である。方法300は、モバイル・ユニット110等のモバイル・ユニットから要求信号を受信するステップ(310)を含む。一実施形態では、この要求信号に応答して、プロセッサは、最後の支援局の校正以降の経過時間を判定する。320で、プロセッサは、SVの現座標を計算する。プロセッサは、校正以降にSVが移動した距離と、SVの軌道経路と、最後の軌道で支援局から供給された校正座標とに基づいて計算結果に至る。一実施形態では、1つのオプションとして、プロセッサは、Δt_syncも判定する。一実施形態では、プロセッサは、プロセッサが要求信号を受信して、座標を計算して、モバイル・ユニットへ応答を送信する準備が整うまでに要した経過時間に基づいて、Δt_syncを計算する。別の実施形態では、Δt_syncは、周期的に更新され、必要に応じてメモリから呼び出される。別の実施形態では、Δt_syncは、支援局がSVの視野内にあるときに支援局から計算され、SVによるデータ送信のために使用される。
【0022】
位置データを要求するアクティブモバイル・ユニットが、月面上に1より多く存在する場合もあるので、一実施形態では、要求信号は、質問コード(interrogation code)(即ち、SVに位置データを要求するもの)と、モバイル・ユニットが要求を行うためのモバイル・ユニットIDコードとを含む。一実施形態では、或るSVが、IDコードを提供するモバイル・ユニットから要求信号を受信したとき、そのSVの応答信号は、更に、そのSVが応答しているモバイル・ユニットを識別するモバイル・ユニットIDコードを含む。このことは、モバイル・ユニットが、別のモバイル・ユニットに宛てられたSVの応答信号に基づいて、TDOAレンジを誤って計算する問題を解消する。更に、モバイル・ユニットは、その時々に特定のSVからの情報を取得したいと望み得るので、要求信号は更に、特定のSVのSV IDコードを含み得る。一実施形態では、SVのプロセッサは、それ自体のSV ID以外のSV IDを含む要求信号には応答しないように適合される。
【0023】
330で、SVは、モバイル・ユニットの要求信号に応答して、応答信号を送信する。一実施形態では、応答信号は、SVの現在座標と、Δt_syncと、モバイル・ユニットIDコードと、SV IDコードとを含むが、これに限定されるものではない。
【0024】
図4は、図1に関して説明されたようなモバイル・ユニットによって実施される、本発明の一実施形態の方法400を示す流れ図である。方法400は、モバイル・ユニットから1又は複数の要求信号を送信するステップ(410)を含む。一実施形態では、要求信号は、質問コードと、要求を行っているモバイル・ユニットを識別するモバイル・ユニットIDコードとを含む。一実施形態では、1つの要求信号がブロードキャストされて、少なくとも3つのSVからの応答を引き出す。一実施形態では、3以上の要求信号がモバイル・ユニットから順に送信され、それにより、特定のSV(応答を出すことを望まれるSV)が識別される。次に、方法400は更に、3以上のSVから応答信号を受信するステップ(420)を含む。一実施形態では、応答信号は、応答するSVのSV IDと、SVの現在座標と、Δt_syncと、応答対象のモバイル・ユニットを識別するモバイル・ユニットIDコードとの内の1又は複数のものを含む。一実施形態では、モバイル・ユニットは、他のモバイル・ユニットからの要求信号に応答する応答信号を無視する。モバイル・ユニットは、TDOAレンジを計算することにより、それ自体と少なくとも3つのSVとの間のレンジを計算し、また、それらのSVから供給される座標に基づいて三角測量を行って、それ自体の位置を判定する(430)。
【0025】
一実施形態では、各SVのプロセッサは更に、内部システムに関する1回又は複数回の自己診断を実施して、それ自体の健康状態を判定する。一実施形態では、SVの応答信号は更に健康状態データを含み、これに限られるものではないが、健康状態フラグを含み、それにより、信号を受信するモバイル・ユニットが、当該SVから供給された座標を三角測量計算に含めるか否かを判定することを可能にする。SVが、それ自体の健康状態が完全ではないことを示した場合、支援局は、当該SVから供給された座標データを無視するように適合される。
【0026】
図5A及び図5Bは、本発明の一実施形態の、支援局と、支援局によるSVの校正とを示す。一実施形態では、軌道510を移動するSV 200が、支援局520から校正信号を受信する。校正信号は、SV 200の校正された軌道座標を含み、この校正軌道座標は、支援局520が以下のように決定する。一実施形態では、支援局520は図5Bに示されるように、時計535と、送信機540と、受信機550と、指向性アンテナ・アレイ560とに結合されたプロセッサ530を備える。プロセッサ530は、月面上での支援局520の正確な座標を認識するように適合される。一実施形態では、支援局520は、接近中のSVへ質問信号を送信する。一実施形態では、質問信号は、質問コード(即ち、SVに位置データを要求するもの)と、SV IDとを含む。SV 200は、支援局からの質問信号に対して、高度計220によって判定される月面105の上方のSV 200の高度(h)を含む応答信号によって応答するように、適合される。一実施形態では、高度計220は、レーダ高度計とレーザ高度計の一方又は両方を備える。プロセッサ530は更に、指向性アンテナ・アレイ560のアンテナによって受信された応答信号の位相角の差の測定結果に基づいて、SVの仰角(θ)と方位角とを判定するように、適合される。角θと、高度(h)と、月の半径(地球の衛星(月)では、Rm=1738km)とに基づいて、プロセッサ530は、下記の式を使用して、支援局520からSV 200までの真のレンジ距離(true range distance)を計算するように、適合される。
【0027】
【数2】

【0028】
支援局520とSV 200の間の真のレンジ距離と、月面105の上方のSV 200の高度(h)と、SV 200の方位とが与えられた場合は、当業者には理解されるように、プロセッサ530は、SV 200の校正軌道座標を容易に計算することができ、この校正軌道座標は校正信号でSV 200へ送り戻され得る。
【0029】
一実施形態では、プロセッサ530は更に、一般にデルタ・レンジ(delta range)と呼ばれる、ある経過時間に渡ってのSV 200と支援局520との間のレンジ測定の搬送波信号におけるドップラー・シフト(即ち、レンジ・レート)の測定結果に基づいて、SV 200の正確な速度を計算することができる。一実施形態では、測定されたドップラー・シフトのデルタ・レンジは、SV 200の時計バイアスに関して修正される。別の実施形態では、SV 200の速度は、慣性ジャイロや加速度計等の1又は複数のナビゲーション・センサ240によって定量化されるが、これに限られるものではない。この速度測定値もまた、上述のようにプロセッサ230がSV 200の現在位置を計算するときに使用するために、校正信号でSV 200へ送り戻され得る。
【0030】
更に、一実施形態では、プロセッサ530は、SV 200に関してΔt_syncを計算し、その値を校正信号でSV 200へ送信するように適合される。図1に関して上述したように、支援局520は、TDOA測定に基づいてSV 200までのレンジを計算することもできる。次いで、SV 200に関するΔt_syncの値が、TDOAレンジとTrue_Range(真のレンジ)との差の関数として計算され得る。一実施形態では、プロセッサ530は、時計535を用いて、プロセッサ530がSV 200へ質問信号を送信したときと、SV 200から折り返し応答信号を受信したときとの間の時間の差(Δt)を測定するように、適合される。次いで、プロセッサ530は、次の式を用いてSV 200までのTDOAレンジを計算する。
【0031】
【数3】

【0032】
上記の式において、cは、光の速さに等しい。次いで、次の式を用いて、SV 200に関するΔt_syncの値が決定される。
【0033】
【数4】

【0034】
一実施形態では、このΔt_syncの測定値もまた、校正信号でSV 200へ送信されて、それをSV 200が後にモバイル・ユニットへの応答信号に含めるようにする。
【0035】
図6は、図5に関して上述されたようなSVを校正するための支援局によって実施される、本発明の一実施形態の方法600を示す流れ図である。方法600は、SVへ1又は複数の質問信号を送信するステップ(610)を含む。一実施形態では、質問信号は、質問コードと、SVのSV IDとを含む。次に、方法600は、月面の上方のSVの高度(h)に関するデータを含む、SVからの応答信号を受信するステップ(620)を含む。この方法は、SVの仰角(θ)を判定するステップ(630)へと進む。一実施形態では、SVの仰角(θ)は、指向性アンテナ・アレイのアンテナによって受信された応答信号の位相角の差を測定することによって判定される。角θと、高度(h)と、月の半径とに基づいて、方法600は更に、支援局からSVまでのTrue_Range(真のレンジ)距離を計算するステップ(640)を含み、SVの校正された軌道座標を計算する。上述のように、本発明の諸実施形態では、月面上及び月面の上方の位置を指定するために採用される座標系は任意である。SVの校正された軌道座標を計算するのに必要な式は、当業者が本明細書を読めば、採用された座標系に基づいて容易に決定され得る。一実施形態では、方法600はオプションとして、TDOAレンジとTrue_Rangeとの差に基づいて、SVに関するΔt_syncを計算する。一実施形態では、1又は複数の質問信号を送信するときと、応答信号を受信するときとの間の時間の差(Δt)が測定され、式TDOA_Range=2(c)/Δtを使用してTDOAレンジが計算される(cは光の速さ)。一実施形態では、次いで式Δt_sync=(TDOA_Range − True_Range)/cを用いて、Δt_syncの値が決定される。一実施形態では、方法600はオプションとして、SVの速度も計算する。一実施形態では、SVの速度は、送信されたSVの搬送波のドップラー・シフト(デルタ・レンジとしても知られる)の測定結果に基づいて決定される。別の実施形態では、1又は複数のレンジ測定値と、SVと支援局との現在の遭遇(encounter)と以前の遭遇との間に経過した時間とを使用して、速度が測定される。次いで、方法600は、SVへ校正信号を送信するステップ(670)を含む。一実施形態において、SVへ送信される校正信号は、SV IDと、SVの校正された軌道座標と、SVに関するΔt_sync値と、SVの速度との内の1又は複数のものを含む。
【0036】
本発明の図1、図2、及び図5に関して論じられたプロセッサを実施するために幾つかの手段が使用可能である。これらの手段は、デジタル・コンピュータ・システム、プログラマブル・コントローラ、現場でプログラム可能なゲート・アレイなどを含むが、これらに限られるものではない。従って、本発明の他の実施形態は、コンピュータ読取可能媒体上に所在するプログラム命令であり、かかるプロセッサによって実施されたときにそのプロセッサが本発明の諸実施形態を実施することを可能にする。コンピュータ読取可能媒体は任意の形態のコンピュータ・メモリを含み、例えば、パンチ・カード、磁気ディスク又はテープ、任意の光データ記憶システム、フラッシュ読取り専用メモリ(ROM)、不揮発性ROM、プログラマブルROM(PROM)、電気的消去可能及びプログラマブルROM(EPROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、他の任意の形態の恒久的、半恒久的、又は一時的なメモリ記憶システム又はデバイスを含むが、これらに限られるものではない。プログラム命令は、コンピュータ・システムのプロセッサによって実行されるコンピュータ実行可能な命令や、超高速集積回路(VHSIC)ハードウェア記述言語(VHDL)等のハードウェア記述言語を含むが、これらに限られるものではない。
【0037】
本明細書では個々の実施形態が示され説明されてきたが、同じ目的を達成することが企図される任意の構成を、図示の個々の実施形態と置き換えられ得ることが、当業者には理解されるであろう。本出願は、本発明の任意の適応形態や変形形態をカバーすることを意図している。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されることが明白に意図される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】図1Aは、本発明の一実施形態のモバイル・ユニットと衛星ビークルとの間での三角測量を示す図である。
【図1B】図1Bは、本発明の一実施形態のモバイル・ユニットのブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の衛星ビークルのブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態の方法を示す流れ図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態の方法を示す流れ図である。
【図5A】図5Aは、本発明の一実施形態の支援局による衛星ビークルの校正を示す図である。
【図5B】図5Bは、本発明の一実施形態の支援局のブロック図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態の方法を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星ナビゲーション・システムであって、
空間を周回する少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)と、
前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)への到着の時間差を計算することにより、前記少なくとも3つの衛星ビークルまでのレンジに基づいて位置を計算するように適合されたモバイル・ユニット(110)と、
前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)の校正された軌道座標を決定し、前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)へ前記校正された軌道座標を含む校正信号を送信するように適合された、少なくとも1つの支援局(520)と
を備えるシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、前記モバイル・ユニット(110)は、物体上のモバイル・ユニットの位置を判定する方法を実施することによって位置を計算し、前記方法は、
前記物体を軌道周回する3以上の衛星ビークル(120−1〜120−3)へ1又は複数の要求信号を送信するステップと、
少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)から、前記少なくとも3つの衛星ビークルの軌道座標と、モバイル・ユニット識別コードと、衛星ビークル識別コードと、処理遅延ファクタと、健康状態コードとの内の1又は複数のものを含む応答信号を受信するステップと、
前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)に対する到来時間差レンジと、前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)の前記軌道座標とに基づいて、位置を判定するステップと
を含む、
システム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、前記モバイル・ユニット(110)が、
第1の無線送信機(105)と、
前記第1の無線送信機(105)に結合され、前記第1の無線送信機(105)を介して1又は複数の衛星ビークル(200)へ1又は複数の要求信号を送信するように適合された第1のプロセッサ(108)と、
前記第1のプロセッサ(108)に結合される第1の無線受信機(106)であって、前記第1のプロセッサ(108)が、前記1又は複数の衛星ビークル(200)から応答信号を受信するように更に適合され、前記応答信号が、前記1又は複数の衛星ビークル(200)の軌道座標と、モバイル・ユニット識別コードと、衛星ビークル識別コードと、処理遅延ファクタと、健康状態コードとの内の1又は複数のものを含むものである、第1の無線受信機(106)と
を備え、
前記第1のプロセッサ(108)は、前記要求信号と前記応答信号とに基づいて到来時間差レンジを計算することにより、前記1又は複数の衛星ビークル(200)までのレンジを計算するように更に適合され、
前記第1のプロセッサ(108)は、前記1又は複数の衛星ビークル(200)の内の少なくとも3つの衛星ビークル(200)から応答信号を受信したときに、前記少なくとも3つの衛星ビークル(200)までの前記レンジと、前記少なくとも3つの衛星ビークル(200)の前記軌道座標とに基づいて、位置を計算するように更に適合される、
システム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムであって、前記要求信号が、質問コードと、モバイル・ユニット識別コードと、衛星ビークル識別コードとの内の1又は複数のものを含む、システム。
【請求項5】
請求項3に記載のシステムであって、前記第1のプロセッサ(108)が、前記モバイル・ユニット識別コードと、前記衛星ビークル識別コードと、前記健康状態コードとの内の1又は複数のものに基づいて、1又は複数の衛星ビークル(200)からの応答信号のデータを廃棄するように更に適合される、システム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムであって、前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)(200)のそれぞれが、
第2の無線受信機(215)と、
前記第2の無線受信機(215)に結合され、1又は複数のモバイル・ユニット(110)から1又は複数の要求信号を受信するように適合された第2のプロセッサ(230)と、
前記第2のプロセッサ(230)に結合される第2の無線送信機(210)であって、前記第2のプロセッサ(230)が、前記1又は複数の要求信号の受信に応答して第1の応答信号を送信するように更に適合され、前記第1の応答信号が、前記衛星ビークル(200)の現在の軌道座標と、処理遅延ファクタと、健康状態コードと、衛星ビークル識別コードと、モバイル・ユニット識別コードとの内の1又は複数のものを含むものである、第2の無線送信機(210)と、
前記第2のプロセッサ(230)に結合される第1の時計(222)であって、前記第2のプロセッサ(230)は、校正軌道座標と、前記処理遅延ファクタの値との内の少なくとも1つを含む校正信号を受信するように更に適合され、前記第2のプロセッサ(230)は、前記校正信号を受信してからの経過時間と、前記校正信号を受信してからの移動距離と、前記校正信号から受け取られた前記校正された軌道座標とに基づいて、前記衛星ビークル(200)の現在の軌道座標を計算するように更に適合される、第1の時計(222)と
を備える、
システム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムであって、前記第2のプロセッサ(230)は、前記校正信号から受け取られた速度値に基づく、前記校正信号を受信してからの前記移動距離と、要求信号を受信して、現在の軌道座標を計算して、前記第1の応答信号を送信するのに要した経過時間に基く、前記処理遅延ファクタの値とのうちの1又は複数のものの計算を行うように更に適合される、システム。
【請求項8】
請求項6に記載のシステムであって、前記少なくとも3つの衛星ビークル(120−1〜120−3)(200)のそれぞれが、
前記第2のプロセッサ(230)に結合された高度計(220)
を更に備え、
前記第2のプロセッサ(230)は、前記少なくとも1つの支援局(520)から1又は複数の質問信号を受信するように更に適合され、
前記第2のプロセッサ(230)は、前記1又は複数の質問信号の受信に応答して、第2の応答信号を送信するように更に適合され、前記第2の応答信号は、前記衛星ビークル(200)の現在の高度と、衛星ビークル識別コードとの内の1又は複数のものを含む、
システム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムであって、前記少なくとも1つの支援局(520)が、
第3の無線送信機(540)と、
前記第3の無線送信機(540)に結合され、前記第3の無線送信機(540)を介して1又は複数の衛星ビークル(200)へ質問信号を送信するように適合された第3のプロセッサ(530)と、
衛星ビークル(200)から、前記衛星ビークルの前記現在の高度を含む応答信号を受信するように適合された第3の無線受信機(550)と、
前記第3の無線受信機(550)に結合された指向性アンテナ・アレイ(560)と
を備え、
前記第3のプロセッサ(530)は、受信された前記応答信号に基づいて前記衛星ビークルの仰角を判定し、前記衛星ビークルの仰角と現在の高度とに基づいて前記衛星ビークルに対する真のレンジ距離を計算し、前記真のレンジ距離に基づいて前記衛星ビークルの校正された軌道座標を計算し、前記衛星ビークルの前記校正された軌道座標を含む校正信号を送信するように更に適合され、
前記第3のプロセッサ(530)は、前記質問信号と前記応答信号とに基づいて前記到来時間差レンジを計算することにより、前記衛星ビークル(200)までのレンジを計算するように更に適合され、
前記第3のプロセッサ(530)は、前記到来時間差レンジと前記真のレンジ距離との差に基づいて前記衛星ビークル(200)の処理遅延ファクタを計算するように更に適合されるものであり、
前記校正信号は前記処理遅延ファクタを更に含む、
システム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムであって、前記第3のプロセッサ(530)が、前記衛星ビークル(200)の軌道速度を計算するように更に適合され、
前記校正信号が前記衛星ビークル(200)の前記軌道速度を更に含む、
システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−101535(P2007−101535A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−228820(P2006−228820)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】