衝撃吸収部材
【課題】構造部材に使用される衝撃吸収部材であって、従来よりもさらに大きなエネルギー吸収量を実現する衝撃吸収部材を提案する。
【解決手段】 本発明によれば、衝撃吸収部材に対して、2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いる。したがって、この衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換する。
【解決手段】 本発明によれば、衝撃吸収部材に対して、2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いる。したがって、この衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、衝撃吸収部材に関する。さらに詳しくは、構造部材に使用される、高い比エネルギー吸収量を有した衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量な構造部材として、アルミに加えて、繊維強化材料が使われている。複合材料のうち材料を繊維で強化したものは、繊維強化材料とよばれ、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化金属(FRM)、繊維強化セラミックス(FRC)、繊維強化プラスチック(FRP)が知られている。特に、FRPは、マトリクス(素地)としてプラスチックを使用したもので、強化材としては一般に、ガラスやカーボン等の繊維が使用されることが知られている。
【0003】
繊維強化プラスチックの強化材としてカーボン繊維を使用したものは、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)とよばれ、先端複合材料の中核に位置し、軽量、高強度、高弾性率材料として、航空分野、宇宙分野等に欠くことのできない構造材料として知られている。CFRP材は、カーボン繊維の配向に応じて異なる構造及び性質を持つ、ユニダイレクショナル材(UD材)や、クロス材が知られている。UD材は、カーボン繊維をうすく一方向に並べてエポキシ樹脂等により成型した素材形態である。一方、クロス材はカーボン繊維を織物状に編みこんで、エポキシ樹脂等により成型した素材形態である。これらのCFRPは鉄の約25%の重量と軽量ながら、耐熱性、耐蝕性がある。
【0004】
一方、構造部材の一例として、自動車等の車両においては、乗員の保護対策のために、フロントピラー、センターピラー、リアピラー等の自動車側部に使用されるビーム材に対して、さらに優れた衝撃エネルギー吸収が期待されている。また、これらのピラーの材料においては、さらなる燃費向上のため、軽いものが望ましく、アルミニウム材もしくはアルミニウム合金材が知られている。これらの材料よりもさらに軽く、エネルギー吸収率がよい衝撃吸収材料が望まれている。
【0005】
例えば、自動車の側部構造材に設置されるフレームは、単一材料を押出成型やプレス成型し、断面形状を閉断面化、大断面化して強度、剛性を上げ、衝突時のエネルギー吸収を図っている。一般に、側面衝突時の変形モードとしては、センターピラーを例に挙げると、上部サイドルーフレールと下部サイドシルを支点として折れ曲がるような3点曲げを受ける。従って、側部構造材としては、3点曲げの荷重に対する耐久力が強く、曲げによるたわみが小さくなることが望まれる。
【0006】
さらに、ピラー用の衝撃吸収部材としてアルミニウム材もしくはアルミニウム合金材(以下、単にアルミ)が使用された場合、同じ重量で大きな断面2次モーメントを得るために、中空構造が採用されている。このようなアルミ等のビーム材を使用したときの変形においては、加わる荷重が最大強度に達した直後に荷重強度が急激に減少するという性質がある。これは、加わる荷重が降伏点を越えると、小さな荷重で容易に衝撃吸収部材を変形させることができるため、一度、降伏点を越えると車体の変形量が大きいことを意味する。即ち、降伏点を越えたとたんに耐えうる荷重が小さくなり、小さい荷重で大きな車体の変形を生じるため、荷重と変位の積で算出されるエネルギー吸収量は結果的に小さくなる。これに対して、ピラー用の衝撃吸収部材として望ましい性質は、荷重が最大強度に達して降伏点を越えた後、降伏点近傍の荷重が引き続き加わっても、一定の変位に達するまでは荷重強度を保持し続けるというものである。
【0007】
これに関し、特許文献1は、アルミ中空形材の引張面側にFRP材を隣接して一体化させた部材が提案されている。これは圧縮面側に塑性変形容易な部材を使用し、引張面側に高強度軽量部材を使用することで、圧縮面側で衝撃吸収を受け持ち、引張面側では面の変形量を少なくすることで大きなエネルギー吸収と小さな変形を実現しようとする技術である。
【特許文献1】特開平06−101732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の衝撃吸収部材では、荷重がかかる衝撃吸収部材の一点に荷重と変形が集中するため、衝撃吸収部材の吸収エネルギー量は、大部分が圧縮面の面部材の強度に依存し、そのエネルギー吸収量は飽和してしまう。さらに、特許文献1の衝撃吸収部材においては、アルミとFRPがボルトにより接合されているが、このような構造であると、荷重による変形に伴ってボルト接合部に応力集中が発生し、この発明特有の利点を発揮する以前に接合部から破断に至る可能性がある。ボルトの代わりとして接着剤を使用しても、接着剤の強度でビーム剤全体の強度の上限値が決まってしまう。
【0009】
そこで、衝撃荷重が加わった際に、衝撃吸収部材の一点に荷重と変形が集中することを回避することで、変形に伴った応力集中をも回避し、衝撃吸収部材全体の吸収エネルギー率を、従来よりも向上することが望まれていた。
【0010】
本発明においては、従来よりもエネルギー吸収効率が向上した衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、衝撃吸収部材として、引張荷重特性、引張変位特性、圧縮荷重特性、圧縮変位特性、もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いた衝撃吸収部材が、衝撃に対するエネルギー吸収性能を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のような衝撃吸収部材を提供する。
【0012】
(1) 長手方向と短手方向を有し、この長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う衝撃吸収部材であって、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、及び引張最大変位特性、圧縮最大変位特性からなる群から選択される一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材。
【0013】
(2) 前記シート状部分材が、繊維強化材からなる(1)に記載の衝撃吸収部材。
【0014】
(3) 前記繊維強化材は、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材である(2)記載の衝撃吸収部材。
【0015】
(4) 前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向0度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向90度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向45度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向−45度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、を前記長手方向に対して交互に配置したシート状長手部材を、前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた(3)に記載の衝撃吸収部材。
【0016】
(5) 前記繊維強化材が、繊維強化材料である(3)又は(4)記載の衝撃吸収部材。
【0017】
(6) 前記衝撃吸収部材の面部材の厚みが、前記シート状部分材の種類によって異なる(1)から(5)いずれか記載の衝撃吸収部材
【0018】
(7) (1)から(6)いずれか記載の衝撃吸収部材を構造部材に用いた自動車。
【0019】
(8) 長手方向と短手方向を有し、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性と、圧縮最大荷重特性と、引張最大変位特性と、圧縮最大変位特性とからなる群のうち一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材を用いることで、エネルギーの吸収を向上させる方法。
【0020】
本発明においては、衝撃吸収部材に対して、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いる。したがって、この衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、単一の部材により面部材が形成されている場合とは異なり、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換することができる。結果として、従来よりも比エネルギー吸収量を向上させた衝撃吸収部材を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換することができる。結果として、従来よりも衝撃エネルギー吸収率を増加させた衝撃吸収部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に好適な実施形態の一例について、図を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の好適な実施形態に係る衝撃吸収部材101、102を自動車50のセンターピラー10に適用した例を図1(a)、(b)、(c)、(d)に示した。図1(b)、(c)、(d)に示すように、本発明は、例えば、自動車の側面部の側突による衝撃に対して充分なエネルギー吸収を実現した衝撃吸収部材101、102を提供することを目的とする。その他の適用例としては、例えば、自動車のフロントピラーや、リアピラーに使用されてもよいし、自動2輪、自転車、航空機、電車等の乗物の構造部材や、建築の構造部材等に使用されてもよい。
【0024】
衝撃吸収部材101、102は、長手方向と短手方向を有し、衝撃時には、長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う。衝撃吸収部材101、102は、面部材からなり、この面部材が平面又は曲面を囲み形成した中空形状である。面部材は、薄いシート形状の部材であるシート状部材を積層させて形成される。シート状部材は、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化金属(FRM)、繊維強化セラミックス(FRC)、繊維強化プラスチック(FRP)、鉄、アルミ、樹脂等からなる。このシート状部材のうち物性の異なる2種以上の材料を、衝撃吸収部材の長手方向に対して交互に配置して、シート状長手部材を形成する。このシート状長手部材のみを積層することにより、衝撃吸収部材の面部材としてもよいし、シート状長手部材と、シート状部材とを積層させて、面部材としてもよい。
【0025】
すなわち、シート状部分材を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を、シート状長手部材もしくは、上述のその他のシート状部材と積層することにより、衝撃吸収部材の面部材を形成する。また、図8(b)のように、基材となる中空長材に対して、種類の異なる2種類のシート状部分材(シート状部分材20、シート状部分材21)を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、中空長材の面部材としてもよい。
【0026】
図1(c)にて示した、圧縮面とは、衝撃による荷重を直接的に受ける面であり、自動車の側面とほぼ平行な面である。また、荷重により主に圧縮応力を受ける面であってもよい。引張面とは、圧縮面と対面した面であって、衝撃による荷重を間接的に受ける面である。また、衝撃による荷重により主に引張り応力を受ける面であってもよい。さらに、衝撃吸収部材の側面とは、圧縮面に対して略直角の面であって、衝撃による荷重を間接的に受ける面である。また、側面は、衝突時の荷重により主にせん断応力か圧縮力もしくはその両方の力を受ける面であり、自動車の側面に対して直角な面であってもよい。
【0027】
衝撃吸収部材101、102は、例えば、繊維強化材を使用した場合には、強化繊維として、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維を使用することが可能であり、これらの繊維の母材として、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アルミを採用できる。これらの母材と強化繊維との結合においては、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材を積層したものであってもよいし、繊維を織り込んだクロス材であってもよい。
【0028】
UD材は、繊維強化材の素材形態である。強化繊維をほぼ一方向に揃えて固めたシート状繊維強化材をシート状UD材とし、このシート状UD材の繊維方向を揃えて積層したものを、一方向UD材とする。一方向UD材は、繊維方向の引張強度が強いため、異方性を有する繊維強化材料である。衝突吸収部材101では、一例として、引張面と圧縮面に一方向UD材が採用されている。また、一方向UD材とは異なり、繊維方向が積層する層ごとに異なっていてもよい。例えば、衝撃吸収部材101、102の各面部材は、一のシート状UD材の繊維方向に対して、一定の角度を有するように、次に積層されるシート状UD材の繊維方向を向けて積層させている。
【0029】
クロス材は、繊維強化材の素材形態であって、繊維強化材の強化繊維の構造として繊維を織り込むことで織物状に配向したシート状繊維強化材、又はこのシート状繊維強化材を積層した繊維強化材である。即ち、クロス材とは、強化繊維の套を一本もしくは複数本ずつ編むことで平面を構成し、その平面に樹脂等のマトリクスを使用し固めた繊維強化材である。織物状を形成するための編み方としては、平織りや綾織りであってよい。一方向UD材とは異なり、一般に、クロス材は、その強度においては等方性を有する繊維強化材料である。
【0030】
シート状長手部材を形成するシート状部分材としては、繊維強化プラスチック、繊維強化金属を用いて、この素材形態として、UD材、クロス材を採用したものであってもよいし、その他の素材形態を有する繊維強化プラスチック、繊維強化金属であってもよいし、鉄、アルミ、樹脂等であってもよい。
【0031】
繊維強化材を面部材に用いた場合には、繊維強化材の繊維方向により、この材料の荷重特性が異なる。繊維方向とは、繊維を組み合わせて繊維強化材を形成する際に、繊維を一方向に揃えることにより決定される繊維の向きである。また、衝撃吸収部材の面に対して一の繊維方向による角度が定まり、これを繊維配向角度(配向角)と呼ぶ。繊維配向角度は、衝撃吸収部材の重心を通り衝撃吸収部材の長手方向に延びる中心軸と繊維方向から定まる角度である。例えば、長手方向30度の配向角を備えたシート状UD材はシート状UD材(30度)とする。
【0032】
衝撃吸収部材101、102では、一例として、シート状UD材(0度)とシート状UD材(90度)とを1層ごと積層したシート状部分材と、シート状UD材(45度)とシート状UD材(−45度)とを1層ごと積層したシート状部分材とを、長手方向に対して交互に配置して、シート状長手部材を形成している。図では一例として、四角柱、円柱の衝撃吸収部材を示したが、後述するように、構造部材として適切な形状でよい(図11参照)。
【0033】
また、衝撃吸収部材の面部材を構成する全ての層が、シート状長手部材でなくてもよく、面部材の一部の層にのみ、シート状長手部材が採用されていてもよい。例えば、UD材またはクロス材を面部材として全面に用いた部材を衝撃吸収部材の骨格とし、この骨格に2種以上の部分的衝撃吸収部材を長手方向に対して交互に配置することで、衝撃吸収部材を形成してもよい。
【0034】
さらに、衝撃吸収部材101、102では、2種類のシート状部分材を用いているが、2種類以上のシート状部分材を採用して、シート状長手部材としてもよい(図11(b)参照)。
【0035】
繊維強化材の衝撃吸収部材が、従来のアルミに比べて高い荷重特性を持つことを説明する。衝撃吸収を、衝撃吸収部材の長手方向から略直角に曲げ変形することで実現する部材について、曲げモーメントから考察する。
【0036】
一般に、梁の曲げにおいては、図2のように衝撃吸収部材100に垂直応力が発生し、衝撃吸収部材100の中心軸からの距離y、微小面積dA、衝撃吸収部材の強度σとすると、yσdAのモーメントが生じる。従って、梁中央部断面に作用する曲げモーメントは、式(1)のように表される。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、強度σは繊維強化材の構造及び、配向角により調整することが可能であり、アルミよりも高強度に設定が可能である。例えば、一方向UD材(配向角0度)(東レ(株)製カーボン繊維T700S、マトリクスにエポキシ樹脂を採用)の強度は2600MPaであり、クロス材の強度は798MPaである。これに対して、アルミ(5000系)の強度は270MPa(ヤング率71GPa、破壊歪み14%、ポアソン比0.3)と小さい。従って、中心軸からの距離yが等しいアルミと繊維強化材(FRP材)では、繊維強化材(FRP材)の方が、強度が大きいため、耐えうる曲げモーメントが大きくなり、より大きい荷重特性を持つことができる。
【0039】
さらに、繊維強化材は、荷重が付加されても衝撃吸収部材の断面が変化しないため、高いエネルギー吸収性能を持つことを説明する。衝撃吸収部材が完全塑性体と仮定した場合、梁の塑性曲げモーメントMpは式(2)のように表される(図3参照)。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、σyは降伏点応力、y1は中立軸から圧縮面までの距離、y2は中立軸から引張面までの距離、Aが衝撃吸収部材の中央部断面積である。対応する各変数は、図3(a)に記した。
【0042】
図3(b)は、衝撃吸収部材としてアルミを使用した際に、降伏点近傍まで荷重を加えることで変形したアルミの形状を示す模式図である。図に示されるように、アルミの場合には、荷重による変形に伴ってアルミ7の中央部断面積Aの値が減少する。それに伴って、中立軸から圧縮面、引張面までの距離y1、y2も減少する。この結果、塑性曲げモーメントMpも減少するため、荷重値も降伏点近傍まで荷重を加えた後には減少せざるを得ない。
【0043】
図3(c)は、衝撃吸収部材100として繊維強化材(FRP材)を使用した際に、降伏点近傍まで荷重を加えることで変形した繊維強化材の形状を示す模式図である。繊維強化材の場合には、荷重を加えたところで、図のように上述の断面積A、距離y1、y2が一定である。これは繊維強化材の塑性変形が進行するため、アルミのように荷重によるへこみがないからである。従って、(2)式より、塑性曲げモーメントMpの値は減少することがなく、降伏点近傍まで荷重を加えていながらも、荷重値はすぐに減少しない特徴がある。結果として、繊維強化材は高いエネルギー吸収性能を示すことが予想される。
【0044】
図4は、比エネルギー吸収量(単位重量あたりのエネルギー吸収量)を比較したグラフ図である。ここでの繊維強化材(FRP材)は、東レ(株)製カーボン繊維T700Sを強化繊維とし、マトリクスにエポキシ樹脂を用いた。一方向UD材(配向角0度)のヤング率は140GPa、破壊歪みが1.9%、ポアソン比が0.32、強度2600MPaである。クロス材では、ヤング率は89GPa、破壊歪みが0.9%、ポアソン比が0.07、強度798MPaである。
【0045】
実験では、アルミ衝撃吸収材の比重が7.6g/cm3、CFRP材の比重が1.6g/cm3である。グラフ402が引張面のみクロス材を採用し、その他の全面に一方向UD材(0度)を採用した結果である。グラフ401が全面に一方向UD材(0度)を採用した結果である。グラフ403が、前述のアルミを衝撃吸収部材に採用した結果である。アルミで形成した衝撃吸収部材の比エネルギー吸収量は400J/kg程度であるのに対して、一方向UD材(0度)で形成した衝撃吸収部材101の比エネルギー吸収量は1200J/kg強であった。CFRP材はアルミより、曲げモーメントが大きく、荷重による圧縮部の断面積が減少しないため、充分な比エネルギー吸収量を実現していると考えられる。
【0046】
曲げ変形を受ける自動車の衝撃吸収部材に、荷重がかかったときの概念図を、図5(a)、(b)に示した。一般にピラー材は、上部サイドルーフレールと下部サイドシルを支点として折れ曲がるような3点曲げを受ける。図5(a)の衝撃吸収部材では、衝撃による荷重時に、中央の点線丸印に示すように、荷重が直接かかる衝撃吸収部材の中心部にのみ荷重と変形が集中する。これは、衝撃吸収部材が長手方向に対して、均一の面部材から形成されているために、荷重がかかる部分に集中的に負荷がかかるからである。
【0047】
そこで、図5(b)に示すように、一定の荷重に対して、この荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受けとめることにより、荷重と変形の集中を回避し、吸収エネルギー効率を向上させることができると考えられる。このように、荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受け止めるためには、荷重の分散や変形の分散が必要である。そこで、衝撃吸収部材の長手方向に対して、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性が異なる面部材を適宜、配置することで、荷重と変形が複雑に分散し、個々の荷重量や変形量は小さくなり、荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受け止めることができるのではないかと考えられる。
【0048】
引張最大荷重特性とは、部材に対して引張荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の荷重の大きさ(最大荷重)と、変形の大きさ(引張り歪み程度)とから特徴づけられる部材の性質である。
【0049】
圧縮最大荷重特性とは、部材に対して圧縮荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の荷重の大きさ(最大荷重)と、変形の大きさ(圧縮歪み程度)とから特徴づけられる部材の性質である。
【0050】
引張最大変位特性とは、部材に対して引張荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の変形の大きさ(引張り歪み程度)と、このときの荷重の大きさ(最大荷重)とから特徴づけられる部材の性質である。引張最大荷重特性と異なり、ある一定荷重に対する変位の量によって部材の性質を判断する。
【0051】
圧縮最大変位特性とは、部材に対して圧縮荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の変形の大きさ(圧縮歪み程度)と、このときの荷重の大きさ(最大荷重)とから特徴づけられる部材の性質である。圧縮最大荷重特性と異なり、ある一定荷重に対する変位の量によって部材の性質を判断する。
【0052】
面部材A、B、C、Dの荷重変位曲線をモデル化したグラフを図6(a)、(b)に示した。このグラフは一例を示したに過ぎないため、荷重変位曲線の荷重は、引張荷重であっても、圧縮荷重であってもよい。ここで、図6(a)の(X1,Y1)および(X2,Y2)は、シート状部材Aの最大荷重、最大変位(降伏点)を表す点であり、これ以上の荷重が加わると、座屈してしまう。図6(b)の(X3,Y3)、(X4,Y4)も同様に降伏点を示す。図6(a)によれば、変位を固定してシート状部材Aとシート状部材Bを比較すると、シート状部材Aの方が、最大荷重が大きい。
【0053】
逆に、荷重を固定して最大変位を比べると、図6(b)のように、シート状部材Dの方がシート状部材Cよりも、最大変位が大きい。このようなシート状部材の特性から、荷重に耐えられる部材としては、シート状部材Bよりもシート状部材Aが適当であり、荷重に対する変位(歪み)が大きいシート状部材としてはシート状部材Cよりもシート状部材Dが適当である。
【0054】
このように、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性に対して異なる特性をもつシート状部材を断片化し、シート状部分材として、これを交互に配置したシート状長手部材として、これを衝撃吸収部材の面部材に採用すれば、荷重が複雑に分散され、歪みの方向が複雑化することで、変形の集中を回避することができると考えられる。具体的には、上述の特性が異なる2種以上のシート状部材を、長手方向に対して交互に配置することでシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材に用いる(図6(c))。
【0055】
UD材[0/90/0/90/0]5、UD材[45/−45/45/−45]5(大きさ:幅25mm、長さ200mm、厚さ1mm)の引張に対する応力歪み曲線を図8(a)に示した。ここで、UD材[0/90/0/90/0]5とは、シート状UD材(0度)を2層重ねたものに、シート状UD材(90度)を2層重ねたものを、5セット積層させたシート状部分材を示す。すなわち、(0度、90度、0度、90度、0度、0度、90度、0度、90度、0度)という順番でシート状UD材を計10層、積層させたシート状部分材である。UD材[45/−45/45/−45]5も同様に、シート状UD材(45度)、シート状UD材(−45度)を各々2層ごと、交互に5セット積層させたシート状部分材である。
【0056】
図7に示される応力歪み曲線(引張応力)によれば、UD材[0/90/0/90/0]5は、応力には強い(小さな歪みで、大きな応力を保持する)が、一定の歪みで、破壊してしまうため、強くて脆い特性があると考えられる。これに対して、UD材[45/−45/45/−45]5は、応力には弱い(小さな応力で、大きく歪む)が、部材自体が長く歪んでから破壊するという、弱くて伸びる特性があると考えられる。各々の曲線の端部にて、各シート状部材は破壊されるため、これらのシート状UD材の引張最大荷重と引張最大変位は、図より明らかなように、引張最大荷重においては、10倍程度の差があり、引張最大変位においては、50倍以上の差がある。
【0057】
衝撃吸収部材のシート状部材として、CFRPを採用し、集中的に荷重がかかるA部のみ、UD材[0/90/0/90/0]5、UD材[45/−45/45/−45]5を配置した衝撃吸収部材を図8(a)に示す。ここで、衝撃吸収部材は、断面が50mm、50mmであり、長手方向600mmを使用した。また強化繊維として、東邦テナックス(株)社製カーボン繊維HTAを採用し、マトリクスとしてエポキシ樹脂(#112)を採用したCFRPを使用した。
【0058】
衝撃吸収部材のシート状長手部材を形成する際には、図8(b)のように、基材となる中空長材に対して、種類の異なる2種類のシート状部分材(シート状部分材20、シート状部分材21)を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、中空長材の面部材としてもよい。
【0059】
図9にて、この衝撃吸収部材に対して3点曲げを行ったときの荷重変位特性の結果を示す。この衝撃吸収部材は、変位15mm程度にて、荷重16kNにて、最大荷重に達するが、その後も11kN程度で荷重を保持し、変位30mm弱にて、再び、12.5kN程度の最大荷重を保持することができる。これは、UD材[0/90/0/90/0]5にて大きな荷重を受け止めた後に、UD材[45/−45/45/−45]5が荷重や曲げモーメントを周囲に分散し変形の集中を回避することにより、2度目の最大荷重を保持するからである。また、UD材[0/90/0/90/0]5の最大荷重を超えた後に、さらに加わる荷重が、荷重部分に配置された全てのUD材[45/−45/45/−45]5を歪ます力へと置換されたときに、最大荷重に到達すると考えられる。
【0060】
曲げ変形50mmのときの、比エネルギー吸収率の比較をしたグラフを図10にて示した。本実施例と比較するために、同形状のビーム材(炭素鋼、780MPa級高張力鋼)と、UD材(0度)とを衝撃吸収部材の全面に用いたものとを示した。本実施例では、上述のように2度目の荷重の立ち上がりが発生するという特徴があるため、他の衝撃吸収部材と比較して、荷重を変位で積分した吸収エネルギー率は大きいことがわかる。
【0061】
本実施例では、UD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5を交互に配置させたシート状長手部分材を積層させて面部材を形成したが、例えば、UD材[0/90/0/90/0]5の面部材を全面に採用した四角中空長材に対して、UD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5を全面に交互に配置して衝撃吸収部材を形成してもよい。すなわち、衝撃吸収部材の面部材の全ての層が、シート状長手部材により構成されていなくてもよく、シート状長手部材が積層された層のうちの1以上の層に採用されていてよい。
【0062】
さらに、本実施例では、引張の応力歪み特性が異なるUD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5とを用いた。しかし、この2種類の面部材を採用することは任意であり、例えば、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性等の特性が異なる面部材から2種以上の面部材を組み合わせてもよい。
【0063】
また、図11のように、衝撃吸収部材が直方体である場合のみならず、例えば、三角柱(図11(a))、四角柱(図11(b)、(d))、十二角柱(図11(c))であってもよいし、複雑な立体形状を組み合わせたものであってもよい。各面に用いたシート部材は、繊維強化プラスチックに限らず、繊維強化金属、鉄、アルミ、樹脂等を採用してもよい。繊維強化材料の構造及び、繊維配向角度は例示したにすぎないため、これら以外の様々な組み合わせを採用することができる。
【0064】
ここで、図11(b)では、3種類のシート状部分材を用いてシート状長手部材を示した。このように、2種以上のシート状部分材を採用してもよい。
【0065】
図11(d)では、衝撃吸収部材の面部材の厚みが、シート状部分材の種類ごとに異なる場合を示した。シート状部分材の種類によって、積層する数を異ならせることにより、面部材の厚みを調整することができる。このように、積層する層の数を変化させることで、衝撃荷重時に、荷重と歪みがさらに複雑化すると考えられる。すなわち、シート状部分材が有する引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性により、衝撃吸収部材が特徴付けられるが、これに加えて、これらの特性を積層する程度によって調整することもできると考えられる。
【0066】
衝撃吸収部材の一例として、衝撃吸収部材が何れの立体形状であっても、自動車の構造部材として使用される場合に、例えばピラー材としてならば、自動車のルーフからシャーシの方向を衝撃吸収部材の長手方向とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、衝撃を吸収する構造部材であり、従来よりもさらに高い比エネルギー吸収量で軽量化を実現した衝撃吸収部材である。この部材を、例えば、自動車のピラー等に用いることで、従来よりもさらに安全性が確保されたより軽量な自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例である衝撃吸収部材を自動車の構造部材に適用した模式図である。
【図2】衝撃吸収部材に荷重がかかったときに生じる曲げモーメントを示した概念図である。
【図3】衝撃吸収部材の塑性曲げモーメントをアルミ材とCFRP材で比較するための模式図である。
【図4】比エネルギー吸収量を3種の衝撃吸収部材で比較したグラフ図である。
【図5】衝撃吸収部材に荷重がかかった際の、荷重と変形の範囲を示す模式図である。
【図6】荷重変位特性が異なる面部材により衝撃吸収部材を形成した図である。
【図7】UD材[0/90/0/90/0]5、とUD材[45/−45/45/−45]5との、応力歪み特性を示すグラフ図である。
【図8】本実施例の衝撃吸収部材の大きさ、位置、範囲を示した図である。
【図9】本発明の実施例である衝撃吸収部材の荷重変位特性を表した図である。
【図10】本発明の実施例である衝撃吸収部材の吸収エネルギー量を表した図である。
【図11】本発明の実施例である衝撃吸収部材の他の実施例を表した図である。
【符号の説明】
【0069】
7 アルミ
50 自動車
10 ピラー
100 衝撃吸収部材
101 衝撃吸収部材
102 衝撃吸収部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、衝撃吸収部材に関する。さらに詳しくは、構造部材に使用される、高い比エネルギー吸収量を有した衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量な構造部材として、アルミに加えて、繊維強化材料が使われている。複合材料のうち材料を繊維で強化したものは、繊維強化材料とよばれ、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化金属(FRM)、繊維強化セラミックス(FRC)、繊維強化プラスチック(FRP)が知られている。特に、FRPは、マトリクス(素地)としてプラスチックを使用したもので、強化材としては一般に、ガラスやカーボン等の繊維が使用されることが知られている。
【0003】
繊維強化プラスチックの強化材としてカーボン繊維を使用したものは、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)とよばれ、先端複合材料の中核に位置し、軽量、高強度、高弾性率材料として、航空分野、宇宙分野等に欠くことのできない構造材料として知られている。CFRP材は、カーボン繊維の配向に応じて異なる構造及び性質を持つ、ユニダイレクショナル材(UD材)や、クロス材が知られている。UD材は、カーボン繊維をうすく一方向に並べてエポキシ樹脂等により成型した素材形態である。一方、クロス材はカーボン繊維を織物状に編みこんで、エポキシ樹脂等により成型した素材形態である。これらのCFRPは鉄の約25%の重量と軽量ながら、耐熱性、耐蝕性がある。
【0004】
一方、構造部材の一例として、自動車等の車両においては、乗員の保護対策のために、フロントピラー、センターピラー、リアピラー等の自動車側部に使用されるビーム材に対して、さらに優れた衝撃エネルギー吸収が期待されている。また、これらのピラーの材料においては、さらなる燃費向上のため、軽いものが望ましく、アルミニウム材もしくはアルミニウム合金材が知られている。これらの材料よりもさらに軽く、エネルギー吸収率がよい衝撃吸収材料が望まれている。
【0005】
例えば、自動車の側部構造材に設置されるフレームは、単一材料を押出成型やプレス成型し、断面形状を閉断面化、大断面化して強度、剛性を上げ、衝突時のエネルギー吸収を図っている。一般に、側面衝突時の変形モードとしては、センターピラーを例に挙げると、上部サイドルーフレールと下部サイドシルを支点として折れ曲がるような3点曲げを受ける。従って、側部構造材としては、3点曲げの荷重に対する耐久力が強く、曲げによるたわみが小さくなることが望まれる。
【0006】
さらに、ピラー用の衝撃吸収部材としてアルミニウム材もしくはアルミニウム合金材(以下、単にアルミ)が使用された場合、同じ重量で大きな断面2次モーメントを得るために、中空構造が採用されている。このようなアルミ等のビーム材を使用したときの変形においては、加わる荷重が最大強度に達した直後に荷重強度が急激に減少するという性質がある。これは、加わる荷重が降伏点を越えると、小さな荷重で容易に衝撃吸収部材を変形させることができるため、一度、降伏点を越えると車体の変形量が大きいことを意味する。即ち、降伏点を越えたとたんに耐えうる荷重が小さくなり、小さい荷重で大きな車体の変形を生じるため、荷重と変位の積で算出されるエネルギー吸収量は結果的に小さくなる。これに対して、ピラー用の衝撃吸収部材として望ましい性質は、荷重が最大強度に達して降伏点を越えた後、降伏点近傍の荷重が引き続き加わっても、一定の変位に達するまでは荷重強度を保持し続けるというものである。
【0007】
これに関し、特許文献1は、アルミ中空形材の引張面側にFRP材を隣接して一体化させた部材が提案されている。これは圧縮面側に塑性変形容易な部材を使用し、引張面側に高強度軽量部材を使用することで、圧縮面側で衝撃吸収を受け持ち、引張面側では面の変形量を少なくすることで大きなエネルギー吸収と小さな変形を実現しようとする技術である。
【特許文献1】特開平06−101732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の衝撃吸収部材では、荷重がかかる衝撃吸収部材の一点に荷重と変形が集中するため、衝撃吸収部材の吸収エネルギー量は、大部分が圧縮面の面部材の強度に依存し、そのエネルギー吸収量は飽和してしまう。さらに、特許文献1の衝撃吸収部材においては、アルミとFRPがボルトにより接合されているが、このような構造であると、荷重による変形に伴ってボルト接合部に応力集中が発生し、この発明特有の利点を発揮する以前に接合部から破断に至る可能性がある。ボルトの代わりとして接着剤を使用しても、接着剤の強度でビーム剤全体の強度の上限値が決まってしまう。
【0009】
そこで、衝撃荷重が加わった際に、衝撃吸収部材の一点に荷重と変形が集中することを回避することで、変形に伴った応力集中をも回避し、衝撃吸収部材全体の吸収エネルギー率を、従来よりも向上することが望まれていた。
【0010】
本発明においては、従来よりもエネルギー吸収効率が向上した衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、衝撃吸収部材として、引張荷重特性、引張変位特性、圧縮荷重特性、圧縮変位特性、もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いた衝撃吸収部材が、衝撃に対するエネルギー吸収性能を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のような衝撃吸収部材を提供する。
【0012】
(1) 長手方向と短手方向を有し、この長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う衝撃吸収部材であって、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、及び引張最大変位特性、圧縮最大変位特性からなる群から選択される一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材。
【0013】
(2) 前記シート状部分材が、繊維強化材からなる(1)に記載の衝撃吸収部材。
【0014】
(3) 前記繊維強化材は、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材である(2)記載の衝撃吸収部材。
【0015】
(4) 前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向0度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向90度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向45度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向−45度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、を前記長手方向に対して交互に配置したシート状長手部材を、前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた(3)に記載の衝撃吸収部材。
【0016】
(5) 前記繊維強化材が、繊維強化材料である(3)又は(4)記載の衝撃吸収部材。
【0017】
(6) 前記衝撃吸収部材の面部材の厚みが、前記シート状部分材の種類によって異なる(1)から(5)いずれか記載の衝撃吸収部材
【0018】
(7) (1)から(6)いずれか記載の衝撃吸収部材を構造部材に用いた自動車。
【0019】
(8) 長手方向と短手方向を有し、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性と、圧縮最大荷重特性と、引張最大変位特性と、圧縮最大変位特性とからなる群のうち一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材を用いることで、エネルギーの吸収を向上させる方法。
【0020】
本発明においては、衝撃吸収部材に対して、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材の全ての層、または一部の層に用いる。したがって、この衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、単一の部材により面部材が形成されている場合とは異なり、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換することができる。結果として、従来よりも比エネルギー吸収量を向上させた衝撃吸収部材を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、2種以上のシート状長手部材により、荷重と歪みの方向が複雑に分散され、荷重と変形の集中を回避することで、衝撃エネルギーを衝撃吸収部材の広範囲を破壊するエネルギーに置換することができる。結果として、従来よりも衝撃エネルギー吸収率を増加させた衝撃吸収部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に好適な実施形態の一例について、図を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の好適な実施形態に係る衝撃吸収部材101、102を自動車50のセンターピラー10に適用した例を図1(a)、(b)、(c)、(d)に示した。図1(b)、(c)、(d)に示すように、本発明は、例えば、自動車の側面部の側突による衝撃に対して充分なエネルギー吸収を実現した衝撃吸収部材101、102を提供することを目的とする。その他の適用例としては、例えば、自動車のフロントピラーや、リアピラーに使用されてもよいし、自動2輪、自転車、航空機、電車等の乗物の構造部材や、建築の構造部材等に使用されてもよい。
【0024】
衝撃吸収部材101、102は、長手方向と短手方向を有し、衝撃時には、長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う。衝撃吸収部材101、102は、面部材からなり、この面部材が平面又は曲面を囲み形成した中空形状である。面部材は、薄いシート形状の部材であるシート状部材を積層させて形成される。シート状部材は、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化金属(FRM)、繊維強化セラミックス(FRC)、繊維強化プラスチック(FRP)、鉄、アルミ、樹脂等からなる。このシート状部材のうち物性の異なる2種以上の材料を、衝撃吸収部材の長手方向に対して交互に配置して、シート状長手部材を形成する。このシート状長手部材のみを積層することにより、衝撃吸収部材の面部材としてもよいし、シート状長手部材と、シート状部材とを積層させて、面部材としてもよい。
【0025】
すなわち、シート状部分材を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を、シート状長手部材もしくは、上述のその他のシート状部材と積層することにより、衝撃吸収部材の面部材を形成する。また、図8(b)のように、基材となる中空長材に対して、種類の異なる2種類のシート状部分材(シート状部分材20、シート状部分材21)を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、中空長材の面部材としてもよい。
【0026】
図1(c)にて示した、圧縮面とは、衝撃による荷重を直接的に受ける面であり、自動車の側面とほぼ平行な面である。また、荷重により主に圧縮応力を受ける面であってもよい。引張面とは、圧縮面と対面した面であって、衝撃による荷重を間接的に受ける面である。また、衝撃による荷重により主に引張り応力を受ける面であってもよい。さらに、衝撃吸収部材の側面とは、圧縮面に対して略直角の面であって、衝撃による荷重を間接的に受ける面である。また、側面は、衝突時の荷重により主にせん断応力か圧縮力もしくはその両方の力を受ける面であり、自動車の側面に対して直角な面であってもよい。
【0027】
衝撃吸収部材101、102は、例えば、繊維強化材を使用した場合には、強化繊維として、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維を使用することが可能であり、これらの繊維の母材として、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アルミを採用できる。これらの母材と強化繊維との結合においては、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材を積層したものであってもよいし、繊維を織り込んだクロス材であってもよい。
【0028】
UD材は、繊維強化材の素材形態である。強化繊維をほぼ一方向に揃えて固めたシート状繊維強化材をシート状UD材とし、このシート状UD材の繊維方向を揃えて積層したものを、一方向UD材とする。一方向UD材は、繊維方向の引張強度が強いため、異方性を有する繊維強化材料である。衝突吸収部材101では、一例として、引張面と圧縮面に一方向UD材が採用されている。また、一方向UD材とは異なり、繊維方向が積層する層ごとに異なっていてもよい。例えば、衝撃吸収部材101、102の各面部材は、一のシート状UD材の繊維方向に対して、一定の角度を有するように、次に積層されるシート状UD材の繊維方向を向けて積層させている。
【0029】
クロス材は、繊維強化材の素材形態であって、繊維強化材の強化繊維の構造として繊維を織り込むことで織物状に配向したシート状繊維強化材、又はこのシート状繊維強化材を積層した繊維強化材である。即ち、クロス材とは、強化繊維の套を一本もしくは複数本ずつ編むことで平面を構成し、その平面に樹脂等のマトリクスを使用し固めた繊維強化材である。織物状を形成するための編み方としては、平織りや綾織りであってよい。一方向UD材とは異なり、一般に、クロス材は、その強度においては等方性を有する繊維強化材料である。
【0030】
シート状長手部材を形成するシート状部分材としては、繊維強化プラスチック、繊維強化金属を用いて、この素材形態として、UD材、クロス材を採用したものであってもよいし、その他の素材形態を有する繊維強化プラスチック、繊維強化金属であってもよいし、鉄、アルミ、樹脂等であってもよい。
【0031】
繊維強化材を面部材に用いた場合には、繊維強化材の繊維方向により、この材料の荷重特性が異なる。繊維方向とは、繊維を組み合わせて繊維強化材を形成する際に、繊維を一方向に揃えることにより決定される繊維の向きである。また、衝撃吸収部材の面に対して一の繊維方向による角度が定まり、これを繊維配向角度(配向角)と呼ぶ。繊維配向角度は、衝撃吸収部材の重心を通り衝撃吸収部材の長手方向に延びる中心軸と繊維方向から定まる角度である。例えば、長手方向30度の配向角を備えたシート状UD材はシート状UD材(30度)とする。
【0032】
衝撃吸収部材101、102では、一例として、シート状UD材(0度)とシート状UD材(90度)とを1層ごと積層したシート状部分材と、シート状UD材(45度)とシート状UD材(−45度)とを1層ごと積層したシート状部分材とを、長手方向に対して交互に配置して、シート状長手部材を形成している。図では一例として、四角柱、円柱の衝撃吸収部材を示したが、後述するように、構造部材として適切な形状でよい(図11参照)。
【0033】
また、衝撃吸収部材の面部材を構成する全ての層が、シート状長手部材でなくてもよく、面部材の一部の層にのみ、シート状長手部材が採用されていてもよい。例えば、UD材またはクロス材を面部材として全面に用いた部材を衝撃吸収部材の骨格とし、この骨格に2種以上の部分的衝撃吸収部材を長手方向に対して交互に配置することで、衝撃吸収部材を形成してもよい。
【0034】
さらに、衝撃吸収部材101、102では、2種類のシート状部分材を用いているが、2種類以上のシート状部分材を採用して、シート状長手部材としてもよい(図11(b)参照)。
【0035】
繊維強化材の衝撃吸収部材が、従来のアルミに比べて高い荷重特性を持つことを説明する。衝撃吸収を、衝撃吸収部材の長手方向から略直角に曲げ変形することで実現する部材について、曲げモーメントから考察する。
【0036】
一般に、梁の曲げにおいては、図2のように衝撃吸収部材100に垂直応力が発生し、衝撃吸収部材100の中心軸からの距離y、微小面積dA、衝撃吸収部材の強度σとすると、yσdAのモーメントが生じる。従って、梁中央部断面に作用する曲げモーメントは、式(1)のように表される。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、強度σは繊維強化材の構造及び、配向角により調整することが可能であり、アルミよりも高強度に設定が可能である。例えば、一方向UD材(配向角0度)(東レ(株)製カーボン繊維T700S、マトリクスにエポキシ樹脂を採用)の強度は2600MPaであり、クロス材の強度は798MPaである。これに対して、アルミ(5000系)の強度は270MPa(ヤング率71GPa、破壊歪み14%、ポアソン比0.3)と小さい。従って、中心軸からの距離yが等しいアルミと繊維強化材(FRP材)では、繊維強化材(FRP材)の方が、強度が大きいため、耐えうる曲げモーメントが大きくなり、より大きい荷重特性を持つことができる。
【0039】
さらに、繊維強化材は、荷重が付加されても衝撃吸収部材の断面が変化しないため、高いエネルギー吸収性能を持つことを説明する。衝撃吸収部材が完全塑性体と仮定した場合、梁の塑性曲げモーメントMpは式(2)のように表される(図3参照)。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、σyは降伏点応力、y1は中立軸から圧縮面までの距離、y2は中立軸から引張面までの距離、Aが衝撃吸収部材の中央部断面積である。対応する各変数は、図3(a)に記した。
【0042】
図3(b)は、衝撃吸収部材としてアルミを使用した際に、降伏点近傍まで荷重を加えることで変形したアルミの形状を示す模式図である。図に示されるように、アルミの場合には、荷重による変形に伴ってアルミ7の中央部断面積Aの値が減少する。それに伴って、中立軸から圧縮面、引張面までの距離y1、y2も減少する。この結果、塑性曲げモーメントMpも減少するため、荷重値も降伏点近傍まで荷重を加えた後には減少せざるを得ない。
【0043】
図3(c)は、衝撃吸収部材100として繊維強化材(FRP材)を使用した際に、降伏点近傍まで荷重を加えることで変形した繊維強化材の形状を示す模式図である。繊維強化材の場合には、荷重を加えたところで、図のように上述の断面積A、距離y1、y2が一定である。これは繊維強化材の塑性変形が進行するため、アルミのように荷重によるへこみがないからである。従って、(2)式より、塑性曲げモーメントMpの値は減少することがなく、降伏点近傍まで荷重を加えていながらも、荷重値はすぐに減少しない特徴がある。結果として、繊維強化材は高いエネルギー吸収性能を示すことが予想される。
【0044】
図4は、比エネルギー吸収量(単位重量あたりのエネルギー吸収量)を比較したグラフ図である。ここでの繊維強化材(FRP材)は、東レ(株)製カーボン繊維T700Sを強化繊維とし、マトリクスにエポキシ樹脂を用いた。一方向UD材(配向角0度)のヤング率は140GPa、破壊歪みが1.9%、ポアソン比が0.32、強度2600MPaである。クロス材では、ヤング率は89GPa、破壊歪みが0.9%、ポアソン比が0.07、強度798MPaである。
【0045】
実験では、アルミ衝撃吸収材の比重が7.6g/cm3、CFRP材の比重が1.6g/cm3である。グラフ402が引張面のみクロス材を採用し、その他の全面に一方向UD材(0度)を採用した結果である。グラフ401が全面に一方向UD材(0度)を採用した結果である。グラフ403が、前述のアルミを衝撃吸収部材に採用した結果である。アルミで形成した衝撃吸収部材の比エネルギー吸収量は400J/kg程度であるのに対して、一方向UD材(0度)で形成した衝撃吸収部材101の比エネルギー吸収量は1200J/kg強であった。CFRP材はアルミより、曲げモーメントが大きく、荷重による圧縮部の断面積が減少しないため、充分な比エネルギー吸収量を実現していると考えられる。
【0046】
曲げ変形を受ける自動車の衝撃吸収部材に、荷重がかかったときの概念図を、図5(a)、(b)に示した。一般にピラー材は、上部サイドルーフレールと下部サイドシルを支点として折れ曲がるような3点曲げを受ける。図5(a)の衝撃吸収部材では、衝撃による荷重時に、中央の点線丸印に示すように、荷重が直接かかる衝撃吸収部材の中心部にのみ荷重と変形が集中する。これは、衝撃吸収部材が長手方向に対して、均一の面部材から形成されているために、荷重がかかる部分に集中的に負荷がかかるからである。
【0047】
そこで、図5(b)に示すように、一定の荷重に対して、この荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受けとめることにより、荷重と変形の集中を回避し、吸収エネルギー効率を向上させることができると考えられる。このように、荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受け止めるためには、荷重の分散や変形の分散が必要である。そこで、衝撃吸収部材の長手方向に対して、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性が異なる面部材を適宜、配置することで、荷重と変形が複雑に分散し、個々の荷重量や変形量は小さくなり、荷重を衝撃吸収部材の広範囲で受け止めることができるのではないかと考えられる。
【0048】
引張最大荷重特性とは、部材に対して引張荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の荷重の大きさ(最大荷重)と、変形の大きさ(引張り歪み程度)とから特徴づけられる部材の性質である。
【0049】
圧縮最大荷重特性とは、部材に対して圧縮荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の荷重の大きさ(最大荷重)と、変形の大きさ(圧縮歪み程度)とから特徴づけられる部材の性質である。
【0050】
引張最大変位特性とは、部材に対して引張荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の変形の大きさ(引張り歪み程度)と、このときの荷重の大きさ(最大荷重)とから特徴づけられる部材の性質である。引張最大荷重特性と異なり、ある一定荷重に対する変位の量によって部材の性質を判断する。
【0051】
圧縮最大変位特性とは、部材に対して圧縮荷重を課したときに、この部材が破壊に至る降伏点の変形の大きさ(圧縮歪み程度)と、このときの荷重の大きさ(最大荷重)とから特徴づけられる部材の性質である。圧縮最大荷重特性と異なり、ある一定荷重に対する変位の量によって部材の性質を判断する。
【0052】
面部材A、B、C、Dの荷重変位曲線をモデル化したグラフを図6(a)、(b)に示した。このグラフは一例を示したに過ぎないため、荷重変位曲線の荷重は、引張荷重であっても、圧縮荷重であってもよい。ここで、図6(a)の(X1,Y1)および(X2,Y2)は、シート状部材Aの最大荷重、最大変位(降伏点)を表す点であり、これ以上の荷重が加わると、座屈してしまう。図6(b)の(X3,Y3)、(X4,Y4)も同様に降伏点を示す。図6(a)によれば、変位を固定してシート状部材Aとシート状部材Bを比較すると、シート状部材Aの方が、最大荷重が大きい。
【0053】
逆に、荷重を固定して最大変位を比べると、図6(b)のように、シート状部材Dの方がシート状部材Cよりも、最大変位が大きい。このようなシート状部材の特性から、荷重に耐えられる部材としては、シート状部材Bよりもシート状部材Aが適当であり、荷重に対する変位(歪み)が大きいシート状部材としてはシート状部材Cよりもシート状部材Dが適当である。
【0054】
このように、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性に対して異なる特性をもつシート状部材を断片化し、シート状部分材として、これを交互に配置したシート状長手部材として、これを衝撃吸収部材の面部材に採用すれば、荷重が複雑に分散され、歪みの方向が複雑化することで、変形の集中を回避することができると考えられる。具体的には、上述の特性が異なる2種以上のシート状部材を、長手方向に対して交互に配置することでシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を衝撃吸収部材の面部材に用いる(図6(c))。
【0055】
UD材[0/90/0/90/0]5、UD材[45/−45/45/−45]5(大きさ:幅25mm、長さ200mm、厚さ1mm)の引張に対する応力歪み曲線を図8(a)に示した。ここで、UD材[0/90/0/90/0]5とは、シート状UD材(0度)を2層重ねたものに、シート状UD材(90度)を2層重ねたものを、5セット積層させたシート状部分材を示す。すなわち、(0度、90度、0度、90度、0度、0度、90度、0度、90度、0度)という順番でシート状UD材を計10層、積層させたシート状部分材である。UD材[45/−45/45/−45]5も同様に、シート状UD材(45度)、シート状UD材(−45度)を各々2層ごと、交互に5セット積層させたシート状部分材である。
【0056】
図7に示される応力歪み曲線(引張応力)によれば、UD材[0/90/0/90/0]5は、応力には強い(小さな歪みで、大きな応力を保持する)が、一定の歪みで、破壊してしまうため、強くて脆い特性があると考えられる。これに対して、UD材[45/−45/45/−45]5は、応力には弱い(小さな応力で、大きく歪む)が、部材自体が長く歪んでから破壊するという、弱くて伸びる特性があると考えられる。各々の曲線の端部にて、各シート状部材は破壊されるため、これらのシート状UD材の引張最大荷重と引張最大変位は、図より明らかなように、引張最大荷重においては、10倍程度の差があり、引張最大変位においては、50倍以上の差がある。
【0057】
衝撃吸収部材のシート状部材として、CFRPを採用し、集中的に荷重がかかるA部のみ、UD材[0/90/0/90/0]5、UD材[45/−45/45/−45]5を配置した衝撃吸収部材を図8(a)に示す。ここで、衝撃吸収部材は、断面が50mm、50mmであり、長手方向600mmを使用した。また強化繊維として、東邦テナックス(株)社製カーボン繊維HTAを採用し、マトリクスとしてエポキシ樹脂(#112)を採用したCFRPを使用した。
【0058】
衝撃吸収部材のシート状長手部材を形成する際には、図8(b)のように、基材となる中空長材に対して、種類の異なる2種類のシート状部分材(シート状部分材20、シート状部分材21)を交互に配置することで、シート状長手部材を形成し、中空長材の面部材としてもよい。
【0059】
図9にて、この衝撃吸収部材に対して3点曲げを行ったときの荷重変位特性の結果を示す。この衝撃吸収部材は、変位15mm程度にて、荷重16kNにて、最大荷重に達するが、その後も11kN程度で荷重を保持し、変位30mm弱にて、再び、12.5kN程度の最大荷重を保持することができる。これは、UD材[0/90/0/90/0]5にて大きな荷重を受け止めた後に、UD材[45/−45/45/−45]5が荷重や曲げモーメントを周囲に分散し変形の集中を回避することにより、2度目の最大荷重を保持するからである。また、UD材[0/90/0/90/0]5の最大荷重を超えた後に、さらに加わる荷重が、荷重部分に配置された全てのUD材[45/−45/45/−45]5を歪ます力へと置換されたときに、最大荷重に到達すると考えられる。
【0060】
曲げ変形50mmのときの、比エネルギー吸収率の比較をしたグラフを図10にて示した。本実施例と比較するために、同形状のビーム材(炭素鋼、780MPa級高張力鋼)と、UD材(0度)とを衝撃吸収部材の全面に用いたものとを示した。本実施例では、上述のように2度目の荷重の立ち上がりが発生するという特徴があるため、他の衝撃吸収部材と比較して、荷重を変位で積分した吸収エネルギー率は大きいことがわかる。
【0061】
本実施例では、UD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5を交互に配置させたシート状長手部分材を積層させて面部材を形成したが、例えば、UD材[0/90/0/90/0]5の面部材を全面に採用した四角中空長材に対して、UD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5を全面に交互に配置して衝撃吸収部材を形成してもよい。すなわち、衝撃吸収部材の面部材の全ての層が、シート状長手部材により構成されていなくてもよく、シート状長手部材が積層された層のうちの1以上の層に採用されていてよい。
【0062】
さらに、本実施例では、引張の応力歪み特性が異なるUD材[0/90/0/90/0]5とUD材[45/−45/45/−45]5とを用いた。しかし、この2種類の面部材を採用することは任意であり、例えば、引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性等の特性が異なる面部材から2種以上の面部材を組み合わせてもよい。
【0063】
また、図11のように、衝撃吸収部材が直方体である場合のみならず、例えば、三角柱(図11(a))、四角柱(図11(b)、(d))、十二角柱(図11(c))であってもよいし、複雑な立体形状を組み合わせたものであってもよい。各面に用いたシート部材は、繊維強化プラスチックに限らず、繊維強化金属、鉄、アルミ、樹脂等を採用してもよい。繊維強化材料の構造及び、繊維配向角度は例示したにすぎないため、これら以外の様々な組み合わせを採用することができる。
【0064】
ここで、図11(b)では、3種類のシート状部分材を用いてシート状長手部材を示した。このように、2種以上のシート状部分材を採用してもよい。
【0065】
図11(d)では、衝撃吸収部材の面部材の厚みが、シート状部分材の種類ごとに異なる場合を示した。シート状部分材の種類によって、積層する数を異ならせることにより、面部材の厚みを調整することができる。このように、積層する層の数を変化させることで、衝撃荷重時に、荷重と歪みがさらに複雑化すると考えられる。すなわち、シート状部分材が有する引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、引張最大変位特性、圧縮最大変位特性により、衝撃吸収部材が特徴付けられるが、これに加えて、これらの特性を積層する程度によって調整することもできると考えられる。
【0066】
衝撃吸収部材の一例として、衝撃吸収部材が何れの立体形状であっても、自動車の構造部材として使用される場合に、例えばピラー材としてならば、自動車のルーフからシャーシの方向を衝撃吸収部材の長手方向とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、衝撃を吸収する構造部材であり、従来よりもさらに高い比エネルギー吸収量で軽量化を実現した衝撃吸収部材である。この部材を、例えば、自動車のピラー等に用いることで、従来よりもさらに安全性が確保されたより軽量な自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例である衝撃吸収部材を自動車の構造部材に適用した模式図である。
【図2】衝撃吸収部材に荷重がかかったときに生じる曲げモーメントを示した概念図である。
【図3】衝撃吸収部材の塑性曲げモーメントをアルミ材とCFRP材で比較するための模式図である。
【図4】比エネルギー吸収量を3種の衝撃吸収部材で比較したグラフ図である。
【図5】衝撃吸収部材に荷重がかかった際の、荷重と変形の範囲を示す模式図である。
【図6】荷重変位特性が異なる面部材により衝撃吸収部材を形成した図である。
【図7】UD材[0/90/0/90/0]5、とUD材[45/−45/45/−45]5との、応力歪み特性を示すグラフ図である。
【図8】本実施例の衝撃吸収部材の大きさ、位置、範囲を示した図である。
【図9】本発明の実施例である衝撃吸収部材の荷重変位特性を表した図である。
【図10】本発明の実施例である衝撃吸収部材の吸収エネルギー量を表した図である。
【図11】本発明の実施例である衝撃吸収部材の他の実施例を表した図である。
【符号の説明】
【0069】
7 アルミ
50 自動車
10 ピラー
100 衝撃吸収部材
101 衝撃吸収部材
102 衝撃吸収部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向と短手方向を有し、この長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う衝撃吸収部材であって、
シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、
引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、及び引張最大変位特性、圧縮最大変位特性からなる群から選択される一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記シート状部分材が、繊維強化材からなる請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記繊維強化材は、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材である請求項2記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向0度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向90度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、
前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向45度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向−45度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、を前記長手方向に対して交互に配置したシート状長手部材を、前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた請求項3記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記繊維強化材が、繊維強化材料である請求項3又は請求項4記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材の面部材の厚みが、前記シート状部分材の種類によって異なる請求項1から請求項5いずれか記載の衝撃吸収部材
【請求項7】
請求項1から請求項6いずれか記載の衝撃吸収部材を構造部材に用いた自動車。
【請求項8】
長手方向と短手方向を有し、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性と、圧縮最大荷重特性と、引張最大変位特性と、圧縮最大変位特性とからなる群のうち一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材を用いることで、エネルギーの吸収を向上させる方法。
【請求項1】
長手方向と短手方向を有し、この長手方向に対して略直角に曲げ変形を行うことにより衝撃の吸収を行う衝撃吸収部材であって、
シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、
引張最大荷重特性、圧縮最大荷重特性、及び引張最大変位特性、圧縮最大変位特性からなる群から選択される一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記シート状部分材が、繊維強化材からなる請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記繊維強化材は、繊維方向を略一方向に揃えたシート状UD材である請求項2記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向0度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向90度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、
前記シート状UD材の繊維方向が、長手方向45度であり、これに積層される他のシート状UD材の繊維方向が、長手方向−45度であり、これらのシート状UD材が積層されたシート状部分材と、を前記長手方向に対して交互に配置したシート状長手部材を、前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた請求項3記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記繊維強化材が、繊維強化材料である請求項3又は請求項4記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材の面部材の厚みが、前記シート状部分材の種類によって異なる請求項1から請求項5いずれか記載の衝撃吸収部材
【請求項7】
請求項1から請求項6いずれか記載の衝撃吸収部材を構造部材に用いた自動車。
【請求項8】
長手方向と短手方向を有し、シート状部材を積層させ形成した面部材により平面又は曲面を囲み形成する中空長材であり、引張最大荷重特性と、圧縮最大荷重特性と、引張最大変位特性と、圧縮最大変位特性とからなる群のうち一以上の特性によって特徴付けられる2種以上のシート状部分材を、前記長手方向に対して交互に配置してシート状長手部材を形成し、このシート状長手部材を前記面部材の全ての層又は一部の層に用いた衝撃吸収部材を用いることで、エネルギーの吸収を向上させる方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−27435(P2006−27435A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209217(P2004−209217)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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