説明

衝撃遮断構造体

本発明は、レーダーシステム(1)を、船体のボード上の支持面(5)に設置するための衝撃遮断構造体に関し、当該構造体は、前記レーダーシステム(1)が取り付けられ得るプラットフォーム(14)と、当該プラットフォーム(14)と前記支持面(5)との間で引張と圧縮の両方に作用する6つの支柱状緩衝要素(4)と、を備え、前記緩衝要素(4)はトラス構造に配向されており、当該緩衝要素(4)の第1の端部は自在運動可能に前記支持面(5)に接続されており、当該緩衝要素(4)の第2の端部は自在運動可能に前記プラットフォーム(14)に接続されており、各緩衝要素(4)は、磁性流体緩衝器または電気粘性流体緩衝器(12)を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、精密機器を支持し保護するのに用いられる衝撃遮断システムに関する。より詳細には、本発明は、船体に設置されたレーダーシステムを衝撃及び振動から保護するものに関する。
【背景技術】
【0002】
海軍艦艇に乗せられたデリケートな最新式の電子機器に、好ましくない衝撃及び振動によって欠陥が生じることを防ぐために、衝撃及び振動遮断技術が適用されなければならない。
【0003】
具体的には、今日の電子的に走査されるレーダーシステム(AESA)は、正確に作動するために、プラットフォームの安定性に関する大変高い要求を有する。レーダーシステムとプラットフォームとの間の相対運動は、一般に回避されなければならず、大変小さな回転変位のみが許容される。
【0004】
したがって、艦艇に搭載されたレーダーシステムに適した衝撃遮断プラットフォームは、最大で5gまでの加速度に晒されている時にはほぼじっとして動いてはならないが、負荷が5gを超えている時には衝撃吸収装置として作用すべきである。
【0005】
そのようなプラットフォームのための典型的かつ周知の緩衝手段は、螺旋状バネまたはワイヤロープ式遮断装置である。しかしながら、この方法は、通常の海軍艦隊の動作の間に十分な安定性を保証するものではなく、レーダーシステムの回転運動を引き起こす。
【0006】
US2003/0075407A1に開示されているように、いわゆるスチュワートプラットフォームは、船体に搭載された精密機器の衝撃遮断のために用いられ得る。提案された衝撃遮断プラットフォームは、船体上で使用されるレーダーシステムの保護のための、前述された必要とされる緩衝特性を有していない螺旋状バネに基づいている。開示されているスチュワートプラットフォームは、作動するレーダーシステムのための安定性を保証するには十分に堅固でない。このタイプの衝撃遮断構造体を使用することは、バネ定数の固定的な事前決定を要する。もし堅いバネが選択される場合、最大で5gまでの負荷が掛けられるときプラットフォームは動かない(安定である)が、水中爆発の場合、加速度は伝達され電子機器に損傷を与える。他方、柔らかいバネを選択する場合、プラットフォームは水中爆発に耐えるが、衝撃遮断構造体の安定性及び堅固性が不十分であるため、レーダーは船が動いている間作動することができない。
【0007】
船体に搭載された衝撃遮断構造体のための電気粘性流体または磁性流体(以下、それぞれERF及びMRFと称する)による緩衝要素が、US06752250B2で議論されている。しかしながら、その大変シンプルな設置原理は、軍艦用レーダーの構造要求に合っていない。開示されたシステムは、主に1つの軸内で作動し、複雑なレーダーシステムをそれに固定することを不可能にしている。容易に理解されるように、開示された衝撃遮断構造体は、鉛直方向の衝撃にのみ晒され得る。使用されている継ぎ手のために、当該システムは水平方向において全く頑丈でなく、軍艦で使用することを不適当にしている。開示された構造体のさらなる不都合な点は、当該構造体の緩衝特性の制御が複雑なことである。通常、MRFまたはERF緩衝要素は、穏やかな緩衝特性を有し、必要とされる時にのみ、剛性が増大される。しかしながら、軍艦用レーダーシステムに付随する要求によって、ちょうど対照的なことが必要とされる。すなわち、緩衝要素は、大変高い剛性を保証するために常に高電圧下にある必要がある。特定の事象(衝撃、爆発など)が生じる時にのみ、剛性は低減される。前述の不都合さが、US06752250B2に開示されている構造体を、本発明によって意図される軍艦用レーダーの保護には不適当なものにしている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、軍艦用レーダーシステムのための高い再配置正確性を保証する衝撃遮断プラットフォームを提供することである。
【0009】
本発明によれば、衝撃遮断構造体は、スチュワートプラットフォームの原理に従って設計される。この構造体は、地球の全ての方向の衝撃を吸収することができる。この構造体の支柱状緩衝要素は、ERFまたはMRF緩衝器を利用する。ERFまたはMRF緩衝器の緩衝特性は、電子的に制御され得る。調整は数ミリ秒で行われることが可能である。
【0010】
本発明による構造体は、レーダーシステムのあらゆる衝撃または振動の力からの保護を提供し、及び、船体の運転中にレーダーシステムが何の制限もなく作動できることを保証する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による衝撃遮断構造体の第1の実施の形態の側面図である。
【図2】図2は、各支柱状緩衝要素の端部におけるボールジョイントを示す図である。
【図3】図3は、図1のA−A線断面図による衝撃遮断構造体の平面図である。
【図4】図4は、衝撃遮断構造体の緩衝要素の他の実施の形態を示す図である。
【図5】図5は、衝撃遮断構造体の適用原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による衝撃遮断構造体の第1の実施の形態が、船体6のボード上に設置された状態で、図1及び図3に示されている。
【0013】
図1の側面図では、レーダーシステム1は、レーダー回転ユニット2及びレーダーインタフェース板3を有しており、プラットフォーム14に据え付けられている。船体6のプラットフォーム14及びデッキ5は、6つの支柱状緩衝要素4によって接続されており、当該緩衝要素4は、デッキ5とプラットフォーム14との間で引張と圧縮の両方に作用する。この6つの緩衝要素は、スチュワートプラットフォームの原理に従って、トラス構造に配設されている。図3から分かるように、6つの緩衝要素4は3つのペアを形成し、各ペアはV字形態に配向されている。
【0014】
緩衝要素4の各端部は、あらゆる方向に自在に動くことができる状態でプラットフォーム14またはデッキ5に接続されている。この接続は、例えば図2に詳しく示されているような標準的なボールジョイントによって実現され得る。緩衝要素4の球状の端部8がデッキ5またはプラットフォーム14に対向しているインタフェース板に据え付けられているケーシング9の中で動く。一般に、2つの直行する方向における中心点周りに角回転をし得るいかなる接続部も、使用され得る。
【0015】
各緩衝要素4は、MRFまたはERF緩衝器12を含んでいる。さらに、各緩衝要素4は、螺旋状バネ13を含んでいる。螺旋状バネの代わりに、いかなる他のタイプのバネも使用され得る。例えば液体バネまたは気体バネが使用され得る。バネ13の主な目的は、衝撃のエネルギーを移動に変換することにより消散させることである。使用されるバネの種類によって、衝撃エネルギーは摩擦や熱などにも変換され得る。
【0016】
MRF及びERF緩衝器の作動特性は、当技術分野で公知である。MRF緩衝器は、磁性流体で満たされた緩衝器であり、当該磁性流体は、通常電磁石を用いて磁場によって制御される。これにより、衝撃吸収装置の緩衝特性は、電磁石の強さを変化させることにより連続的に制御され得る。同様に、ERF緩衝器は、電気粘性流体で満たされた緩衝器であり、当該電気粘性流体は電場によって制御される。
【0017】
図1及び図3に示されている実施の形態によれば、MRFまたはERF緩衝器12は、螺旋状バネ13の内側に設けられている。図4に示されている他の実施の形態では、MRFまたはERF緩衝器12は、螺旋状バネ13の外側に設けられており、バネ13と緩衝器12の長手方向軸は、互いに平行になるよう配向されている。どちらの実施の形態においても、バネ13及び緩衝器12は、継ぎ手(ジョイント)に接続された2つの平行な板15の間に設けられている。
【0018】
もし、前述の構造体の剛性が、ある作動環境の下で衝撃を遮断するのに十分でなければ、レーダーシステムを複雑に支持するために構造体を2つ以上用いてよい。例えばある特定の実施の形態において、2つの構造体をレーダーシステムの対向する両側に配置してもよい。
【0019】
MRF及びERF緩衝器の緩衝特性のための制御アルゴリズムが、ここでより詳細に図5を参照して説明される。この図5は、衝撃が与えられている間の加速度荷重を時間に亘って示している。図5に示されているように、そのような衝撃の典型的な持続時間は、10ミリ秒〜20ミリ秒の範囲である。構造体の各減衰値(damping value)も示されている。衝撃の持続時間は、5つの特徴的な時間区分A乃至Eに更に分割され得る。
【0020】
船ないし各レーダーシステムに掛かる加速度荷重を観測するために、軍艦の船体(またはデッキ)上に加速度計7(図1)が配設されて緩衝器制御装置に接続されている。5gを超える負荷が検出されない限り、ERFまたはMRF緩衝器は実質的に堅固であり、すなわち減衰値は大変高く、船体とレーダーシステムとの間の相対運動は許容されない。大変高い減衰値は、緩衝要素が運動することを防ぎ、荷重は1:1で伝達され得る。レーダーシステムは適切に作動することが可能である(時間区分A)。
【0021】
典型的には、電子部品は、全く損傷を受けることなく15gまで耐えることが可能である。加速度計が5gを超える加速度を検知する場合(時間区分B)、電気信号が、緩衝器制御装置20によって、ERF(MRF)緩衝器12に送られる。結果として、緩衝器の減衰値と構造体全体の減衰値とは、加速度が15gの限界に到達する前に減少して最小値を取る。反応時間はできるだけ短いほうがよい。最小減衰値となるまでの典型的な時間スパンは、1ミリ秒から3ミリ秒の範囲であるが、既存のERFまたはMRF緩衝器でも、0.3ミリ秒より短い反応時間すらあり得る。
【0022】
後続する時間区分Cにおいては、衝撃荷重は15gを超える。システムの制動(緩衝)は、既に大変柔らかい(穏やかな)特性に調節されており、緩衝要素4は、衝撃エネルギーを吸収することができ、吸収したエネルギーを移動または熱に変換することができる。したがって、電子装置の損傷は回避され得る。
【0023】
時間区分D:加速度が最大値に達した後、構造体は大変緩やかな制動(緩衝)で揺動している。システムの緩衝特性は、構造体の揺動運動の打消しを速めるために、ここで再び増大される。減衰値の変化の割合(すなわち時間区分Dにおける減衰値のグラフの勾配)は、適切に調節され得る。
【0024】
衝撃を打ち消してから約3秒〜15秒後、構造体がその初期の堅固な位置に戻る前に、減衰値は自動的にその最大値まで上昇される(時間区分E)。
【0025】
バネによるエネルギーの散逸は、構造体の長時間に亘る大変小さな振幅での揺動運動が回避されることを保証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダーシステム(1)を船体のボード上の支持面(5)に設置するための衝撃遮断構造体であって、
前記レーダーシステム(1)が取付けられ得るプラットフォーム(14)と、
当該プラットフォーム(14)と前記支持面(5)との間で引張と圧縮の両方に作用する6つの支柱状緩衝要素(4)と、を備え、
前記緩衝要素(4)はトラス構造に配向されており、当該緩衝要素(4)の第1の端部は自在運動可能に前記支持面(5)に接続されており、当該緩衝要素(4)の第2の端部は自在運動可能に前記プラットフォーム(14)に接続されており、
各緩衝要素(4)は、磁性流体緩衝器または電気粘性流体緩衝器(12)を有している、ことを特徴とする衝撃遮断構造体。
【請求項2】
各緩衝要素(4)は、前記磁性流体緩衝器または電気粘性流体緩衝器(12)に対して平行に設けられたバネ(13)を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の衝撃遮断構造体。
【請求項3】
前記磁性流体緩衝器または電気粘性流体緩衝器の緩衝特性を制御するために、当該磁性流体緩衝器または電気粘性流体緩衝器(12)の少なくとも1つに対して操作可能に接続された緩衝器制御装置(20)を更に備えている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の衝撃遮断構造体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の衝撃遮断構造体に衝撃運動が作用している場合に当該衝撃遮断構造体の緩衝特性を制御する方法であって、
−前記衝撃遮断構造体に作用している加速度が所定の閾値より低い間は、前記構造体の剛性は最大値に維持され、
−前記加速度が第1の閾値を超えると、前記構造体の剛性は最小値まで低減され、
−前記加速度がその最大値に達した後であって前記構造体がその初期位置に達する前に、当該構造体の剛性は前記最大値まで再び増大される
方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2013−511670(P2013−511670A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539210(P2012−539210)
【出願日】平成22年10月23日(2010.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006492
【国際公開番号】WO2011/060868
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(501477864)イーエイーディーエス、ドイチュラント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】EADS DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】