説明

衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度の両立が可能な、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:1.0%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板内部において、鋼板に含まれる転位の密度が8×1011(個/mm2)以下であり、歪速度0.0067(s−1)での準静的強度(FS1)と、歪速度1000(s−1)での動的強度(FS2)との比からなる静動比(=FS2/FS1)が1.05以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の部品に用いられる鋼板の高強度化に対する要求が高まってきており、引張最大応力900MPa以上の高強度冷延鋼板が、サイドシルやインパクトビーム等の構造部材を中心に、その適用が急速に進められている。これは、高強度鋼板を適用することで、車体の強度を維持したままで軽量化を図ることと、自動車が衝突した際の衝撃を効率よく吸収するためである。特に、自動車の衝突時の歪速度は、通常行われる引張試験での歪速度と大きく異なっていることから、衝突時に相当する高歪速度での応力も、引張試験で得られる応力と大きく異なる場合がある(非特許文献1を参照)。この、引張試験時のような比較的低い歪速度での応力と、衝突時のような高歪速度での応力の比は、一般に、静動比(=高歪速度での応力/低歪速度での応力)と呼ばれ、材料の衝突吸収エネルギーを評価する一つの目安として知られている。
【0003】
鋼板強度の歪速度依存性は、鉄における塑性変形が転位運動によって担われているとともに、鋼をはじめとするbcc金属の転位運動が熱活性化過程に支配されていることに起因する。この結果、鋼の塑性変形時の応力は、歪速度が大きくなると増加する。一方、Alをはじめとするfcc金属は、歪速度を増加させた場合でも応力が増加しないことが知られており、衝突時の吸収エネルギーはあまり高くない。低歪速度での応力に対し、衝突時の応力が高くなる鋼は、プレス時の荷重を低く押さえ、衝突時には吸収エネルギーが増大することから、成形しやすく性能も高いため、自動車の構造部材に適する。
【0004】
しかしながら、例えば、非特許文献2に開示されているように、鋼板の高強度化は、衝突吸収エネルギーを低下させる場合があることが知られている。これは、析出強化や転移強化による鋼板強度の増加が、静動比を低下させることに起因している。このため、析出強化や転位強化を用いて鋼板強度を増加させたとしても、高歪速度下での衝突吸収エネルギーを増加させることが出来ないという課題を有している。
【0005】
引張最大応力900MPaを超える鋼としては、例えば、特許文献1、2に開示された、鋼板にTi、Nb、Mo、V等を添加した析出強化型の熱延鋼板が知られている。特許文献1、2に記載の熱延鋼板は、熱延段階で主相であるフェライト中に、Ti、Nb、Mo、Vよりなる炭化物を析出させることでフェライトを強化した鋼であり、900MPa以上の引張最大強度が確保可能である。しかしながら、上述しように、析出強化による高強度化は静動比を低下させてしまうことから、高速変形下においても、低歪速度での強度上昇に見合っただけの強度上昇しか得られない。また、析出強化は、析出物が主相であるフェライトに整合析出することで成し遂げられることから、冷延圧延やその後の連続焼鈍を経る冷延鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板へは適用し難いという課題を有している。即ち、冷延圧延及び焼鈍を行うことで母相のフェライトが再結晶するため、析出物との方位関係が失われてしまう(整合析出でなくなる)ことから、大幅な強度低下を招いてしまう。また、Nb、Ti、V、Moは、フェライト再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後の鋼板の組織中に未再結晶フェライトが残存し、伸びや穴拡げといった薄鋼板に不可欠な加工時の成形性が大幅に低下するため、冷延鋼板やめっき鋼板へは適用し難いという課題を有している。
【0006】
これに対し、特許文献3、4には、鋼板をマルテンサイト単相、あるいは、一部ベイナイト組織を含有した鋼とすることで、引張最大強度900MPa以上を確保可能であるとともに、曲げ性に優れた冷延鋼板あるいはめっき鋼板が製造可能であることが開示されている。マルテンサイト組織は、鋼の代表的な組織であるフェライト、パーライト、ベイナイト組織に比較して硬いことから、CやMn等の元素添加を抑制しながら高強度化が可能となる。同時に、鋼板組織がマルテンサイト単相と均一であることから、特定箇所への変形の集中やマイクロボイド形成を生じ難いため、穴拡げ性に優れる。しかしながら、マルテンサイトは、転位を多く含む組織であることから、歪速度を上げたとしても応力はあまり増加せず、高速変形下での吸収エネルギーの大幅な増加は期待できない。また、マルテンサイトは転位を多く含むことから、あたかも多量に変形を加えられたかのような組織をしているため、伸びに劣る。この結果、単純な曲げ加工のみを行う部材への適用は可能なものの、張り出しや絞りを行う部材への適用は難しいという課題を有していた。
【0007】
また、未再結晶フェライトや、加工によって高強度化した転位を多く含む高強度鋼板の静動比も高くないことが知られている。
これらの課題に対し、例えば、特許文献5に開示された鋼板のように、440〜590MPa級の鋼板を対象に、主相をフェライトとすることで高い静動比が得られる構成の鋼板が知られている。しかしながら、特許文献5に記載の技術は、本発明で課題とするような、900MPa級以上の高強度鋼板を対象としたものではない。
【0008】
これらの課題に対して、特許文献6に記載のフェライト及びマルテンサイトより成るDP鋼、あるいは、フェライト、ベイナイト及び残留オーステナイトより成るTRIP鋼は、高歪速度下での応力が高いことが知られている。特許文献6に記載の鋼板は、硬質なマルテンサイトや、成形後にマルテンサイトへと変態する残留オーステナイトを用いて高強度化を図ることで、静動比の高いフェライトの体積率を増大させることにより、強度と静動比の両立を図ったものである。同時に、フェライトと硬質組織よりなる鋼板は、軟質なフェライトを主相とすることで延性を確保し、硬質組織としてマルテンサイトや残留オーステナイトを含有することで強度を確保した鋼板であり、伸びや張り出し成形性に優れることが知られている。しかしながら、特許文献6に記載の鋼板においても、900MPa以上の高強度化には、硬質組織分率の増加、即ち、静動比の高いフェライトの分率を下げる必要があり、依然として高強度化に伴う衝突吸収エネルギーの低下が生じるという問題があった。
【0009】
即ち、900MPa以上の引張最大強度を確保しようとした場合、硬質組織の体積率増加やフェライトの析出強化等の強化機構を併用せざるを得ず、この場合には静動比が低下してしまうという問題があった。例えば、組織強化による高強度化を図る場合、硬質組織の割合が多くなり、場合によってはマルテンサイト組織が主相になることから、590MPa級鋼板並みの静動比を得ることが出来なくなる。あるいは、590MPa級の鋼板と同様のフェライト体積率を維持したまま、析出強化によってフェライトの強度を高めた場合も、同様に静動比が低下する。
このように、析出強化したフェライトや転位を多く含む硬質組織は静動比が低いことから、鋼板において、900MPa以上の引張最大強度と高い静動比の両立を図ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−264240号公報
【特許文献2】特開2005−154810号公報
【特許文献3】特開2002−161336号公報
【特許文献4】特開2009−30091号公報
【特許文献5】特開平11−100635号公報
【特許文献6】特開平07−18372号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「CAMP−ISIJ」,Vol.9,1996年,p1112
【非特許文献2】「日本機械学会材料部門講演会講演論文集」,No.920−72,1992年,P.519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来の鋼板において、900MPa以上の高強度を得るためには、析出強化や硬質組織の体積率増加による組織強化を活用する必要があり、低歪速度での応力の増加は可能なものの、歪速度を増加させたとしても、あまり応力が増加しない(静動比が低い)と言う問題があった。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度の両立が可能な、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意研究を行い、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
[1] 質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:1.0%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板内部において、鋼板に含まれる転位の密度が8×1011(個/mm2)以下であり、歪速度0.0067(s−1)での準静的強度(FS1)と、歪速度1000(s−1)での動的強度(FS2)との比からなる静動比(=FS2/FS1)が1.05以上であることを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[2] さらに、質量%で、Ti:0.005〜0.10%、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%を含有することを特徴とする上記[1]に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[3] さらに、質量%で、B:0.0001〜0.01%、Cr:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、Cu:0.01〜2.0%、Mo:0.01〜0.8%の内の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[4] さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を、合計で0.0001〜0.5%の範囲で含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[5] 上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層が設けられてなることを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板。
【0016】
[6] 上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760℃〜900℃で焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒以下で冷却し、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
[7] 上記[6]に記載の条件で、連続焼鈍設備を用いて焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、150〜400℃の温度域で保持を行った後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
[8]上記[6]又は[7]に記載の方法で高強度冷延鋼板を製造した後、該高強度冷延鋼板に亜鉛系電気めっきを施すことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
[9] 上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜900℃で焼鈍した後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、次いで、亜鉛めっき浴に浸漬し、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[10] 前記亜鉛めっき浴に浸漬した後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、次いで、平均冷却速度1℃/秒以上で、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする上記[9]に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板によれば、上記構成により、硬質組織であるマルテンサイト組織の体積率を増加させず、充分なフェライト組織の体積率を確保できるので、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させることが可能となる。これにより、高い衝突吸収エネルギーを備える高強度冷延鋼板を提供することが可能となる。
【0019】
また、本発明の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、鋼板成分、焼鈍条件並びに焼鈍後の圧延条件を制御する上記方法により、硬質組織であるマルテンサイト組織の体積率を増加させず、充分なフェライト組織の体積率が確保され、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させながら、高い衝突吸収エネルギーを備える高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板を模式的に説明する図であり、歪速度と応力との関係で表される衝突吸収エネルギーを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板(以下、単に高強度冷延鋼板と称することがある)及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法の実施形態について説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
[高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板]
本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板は、質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:1.0%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板内部において、鋼板に含まれる転位の密度が8×1011(個/mm2)以下であり、歪速度0.0067(s−1)での準静的強度(FS1)と、歪速度1000(s−1)での動的強度(FS2)との比からなる静動比(=FS2/FS1)が1.05以上とされ、概略構成される。
本発明に係る高強度冷延鋼板は、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度の両方を有し、衝突吸収エネルギーに優れるものである。
【0023】
本発明者等は、引張最大強度900MPa以上の高強度鋼板において、静動比を高めることを目的として鋭意検討を行った。この結果、鋼板組織をフェライトと硬質組織よりなる複相組織鋼板とするとともに、焼鈍後、あるいは、溶融亜鉛めっき後に圧延を行うことで鋼板組織に含まれる転位を運動させ、対消滅させることで静動比低減の原因となる高い転位密度を低減させることが可能となり、高強度を維持したままで、静動比が低減可能なことを見出した。
以下、本発明に係る高強度冷延鋼板について詳述する。
【0024】
『鋼成分(化学成分組成)』
まず、本発明を実施するにあたって規定した必須の化学成分範囲の限定理由について説明する。なお、以下の説明において、各元素の添加量は全て「質量%」で表す。
【0025】
「C:炭素」0.07〜0.25%
Cは、マルテンサイトの強度を高めるものであり、高強度冷延鋼板の強度を高めるために添加される。しかし、Cの含有量が0.25%を超えると溶接性や加工性が不充分となる。また、Cの含有量が0.07%未満であると強度が不充分となる。
また、Cの含有量は、0.075〜0.23%の範囲であることが好ましく、0.08〜0.21%の範囲であることがより好ましい。
【0026】
「Si:ケイ素」0.3〜2.50%
「Al:アルミニウム」1.0%以下
Si及びAlは、フェライト安定化元素であり、鋼板組織中のフェライト体積率を増加させる目的で添加される。特に、フェライトは、マルテンサイトやベイナイト組織に比較して転位密度が小さいことから、静動比に優れる。このことから、SiやAlを添加する必要がある。
【0027】
Siの含有量が0.3%未満であると、フェライトの体積率が不十分になり、高強度冷延鋼板の延性及び曲げ性、強度が不充分となる。なお、Alを含有する場合、Siを含有する場合と同様の効果が得られるが、Siのみを含有させることにより上記の効果が十分に得られる場合には、Alを含有していなくてもよい。また、Siの含有量が2.50%を超えたり、Alの含有量が1.0%を超えたりすると、溶接性や加工性が不十分となる。
【0028】
また、Siの含有量は、0.5〜2.25%の範囲であることがより好ましく、0.7〜2.0%の範囲であることがさらに好ましい。また、Alの含有量は、0.005〜0.9%の範囲であることがより好ましく、0.01〜0.8%の範囲であることがさらに好ましい。また、Alは脱酸材としても活用可能であることから、鋼板の組織制御のみならず、脱酸のために添加しても良い。また、Siは、固溶強化元素として、鋼板の強化も可能であることから添加することが好ましい。
【0029】
また、詳細を後述する本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法において、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを通板する際の加熱時に760℃〜900℃の低温で焼鈍を行う場合には、焼鈍時のフェライト、オーステナイトの体積率が、焼鈍温度に依存して変化する。即ち、焼鈍温度が760℃未満であると、セメンタイトの溶解に長時間を要することから、オーステナイト(冷却後は、マルテンサイト)の体積率が少なくなりすぎて900MPa以上の強度を確保できない。一方、SiやAlは、Ac変態点を増加させ、二相域焼鈍でのフェライト体積率の焼鈍温度依存性を小さくする。この結果、焼鈍温度が変化しても、材質が変化し難い高強度鋼板が製造可能になることから、鋼板組織を、フェライトを主相とする組織とする場合、上記の範囲内でSi及びAlを多量に含有させてAc変態点を増加させ、鋼板組織を焼鈍温度に依存させ難くすることが好ましい。
【0030】
「Mn:マンガン」1.5〜3.0%
Mnは、高強度冷延鋼板の強度を高めるために添加される。しかし、Mnの含有量が3.0%を超えるとマルテンサイトの体積率が多くなりすぎて、延性確保に寄与するフェライトの体積率が不十分となり、延性及び曲げ性が不十分となる。また、Mnの偏析に起因した鋼板表層の硬度分布も大きくなる。
一方、Mnの含有量が1.5%未満であると、冷却過程で生じるパーライト変態を抑制することが出来ず、鋼板組織がフェライト及びパーライト組織となってしまい、強度が不十分となる。
また、Mnの含有量は、1.6〜2.7%の範囲であることがより好ましく、1.7〜2.4%の範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
「P:リン」0.001〜0.03%
Pは、鋼板中に不可避的に含有される元素である。また、Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。Pの含有量が0.03%を超えると、溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.03%以下に限定した。また、Pの含有量の下限値は特に定めないが、0.001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とした。
【0032】
「S:硫黄」0.0001〜0.01%
Sは、不純物であり、溶接性及び鋳造時、並びに熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、Sの含有量の上限値を0.01%とした。Sの含有量の下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とする。また、SはMnと結びついて粗大なMnSを形成することから、曲げ性を低下させるため、Sの含有量は出来るだけ少ないことが好ましい。
【0033】
「N:窒素」0.0005〜0.0100%
Nは、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。Nの含有量が0.0100%を超えると、このような傾向が顕著となることから、N含有量の範囲を0.0100%以下とした。加えて、Nは、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。Nの含有量の下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、Nの含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
【0034】
「O:酸素」0.0005〜0.007%
Oは、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。特に、酸化物は介在物として存在する場合が多く、打抜き端面あるいは切断面に存在すると、端面に切り欠き状の傷や粗大なディンプルを形成することから、曲げ時や強加工時に応力集中を招き、亀裂形成の起点となり、大幅な穴拡げ性あるいは曲げ性の劣化をもたらす。Oの含有量が0.007%を超えると、このような傾向が顕著となることから、Oの含有量の上限を0.007%以下とした。また、Oの含有量を0.0005%と未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限とした。但し、Oの含有量を0.0005%未満にした場合であっても、本発明の効果である900MPa以上の引張最大応力と優れた延性および曲げ性を確保できる。
【0035】
本発明においては、上記必須元素に加え、さらに、以下に説明するような元素を選択的に添加することができる。以下、本発明における選択成分元素の添加範囲の限定理由につい説明する。
【0036】
「Ti:チタン」0.005〜0.10%
Tiは、
強化元素であり、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化により、鋼板の強度上昇に寄与する。また、Bを添加する場合には、Tiは、Bが窒化物となることを抑制する目的でも添加する。ここで、Bは、熱延時の組織制御性、連続焼鈍設備や連続溶融亜鉛めっき設備での組織制御と高強度化に寄与するものであるが、Bが窒化物になると、このような効果が得られないという問題がある。しかしながら、Tiを含有することで、Bが窒化物となるのを防止でき、B添加の効果を引き出すことが可能となることから、B添加を行う場合は、Tiを併せて添加することが望ましい。
【0037】
しかしながら、Tiの含有量が0.10%を超えると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化する。また、Tiの含有量が多すぎると、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残り易く大幅な延性低下をもたらす。このことから、Tiの含有量の上限を0.10%とする。また、Tiの含有量が0.005%未満であると、Tiを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。
また、Tiの含有量は、0.01〜0.09%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.08%の範囲であることがさらに好ましい。
【0038】
「Nb:ニオブ」0.005〜0.10%
Nbは、強化元素であり、Tiと同様に、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化、及び、再結晶の抑制を通じた転位強化によって、鋼板の強度上昇に寄与する。しかしながら、Nbの含有量が0.10%を超えると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化する。また、Nbの含有量が多いと、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残り易く、大幅な延性低下をもたらす。このため、Nbの含有量の上限を0.10%とすることが好ましい。また、Nbの含有量が0.005%未満であると、Nbを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。
また、Nbの含有量は、0.01〜0.09%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.08%の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
「V:バナジウム」0.005〜0.10%
Vは、強化元素であり、TiやNbと同様に、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化、及び、再結晶の抑制を通じた転位強化により、鋼板の強度上昇に寄与する。また、Vを含有させることで、遅れ破壊特性を向上させることができる。このことから、本発明のように、引張最大強度が900MPaを超える鋼板の製造にあたっては、Vを含有させることが望ましい。
【0040】
しかしながら、Vの含有量が0.10%を超えると、炭窒化物の析出が多くなり、成形性が劣化する。また、Vの含有量が多いと、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残り易く、大幅な延性低下をもたらすため、上限を0.10%とすることが好ましい。また、Vの含有量が0.005%未満であると、Vを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。
また、Vの含有量は、0.01〜0.09%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.08%の範囲であることがさらに好ましい。
【0041】
「B:ホウ素」0.0001〜0.01%
Bは、オーステナイトからのフェライト変態を遅延することから、鋼板の高強度化に活用できる。加えて、Bは、熱延時においても、オーステナイトからのフェライト変態を遅延することから、Bを含有させることで、熱延鋼板をベイナイト単相組織として均質性を高め、曲げ性を向上させることができる。しかしながら、Bの含有量が0.0001%未満であると、Bを含有することによって得られる上記効果が不充分となる。また、Bの含有量が0.01%を超えると、Bを含有することによる効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造性を低下させる。
また、Bの含有量は、0.0003〜0.007%の範囲であることがより好ましく、0.0005〜0.005%の範囲であることがさらに好ましい。
【0042】
「Cr:クロム」0.01〜2.0%、
「Ni:ニッケル」0.01〜2.0%、
「Cu:銅」0.01〜2.0%、
「Mo:モリブデン」0.01〜0.8%、の内の1種または2種以上
Cr、Ni、Cu、Moは、強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に代えて用いることができる。Cr、Ni、Cu、Moは、これらの内の1種又は2種以上を、それぞれ0.01%以上含有することが好ましい。一方、各元素の含有量が多すぎると、酸洗性や溶接性、熱間加工性などが劣化することがあるため、Cr、Ni、Cuの含有量は2.0%以下であることが好ましく、Moの含有量は0.8%以下であることが好ましい。
【0043】
「Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5%」
本発明においては、Ca、Ce、Mg、REMから選ばれる1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%添加することができる。これら、Ca、Ce、Mg、REMは、酸化物や硫化物の形態制御に用いる元素であり、1種または2種以上を合計で0.0001%以上含有することで、脱酸後の酸化物サイズや、熱延板中に存在する硫化物のサイズを低下させることが可能であり、曲げ性に寄与する。しかしながら、これらの各元素を、含有量が合計で0.5%を超えて含有すると、成形加工性の悪化の原因となり、また、含有量が0.0001%未満であると、十分な効果が得られない場合がある。このため、これら各元素の含有量は、合計で0.0001〜0.5%の範囲であることが好ましい。
【0044】
なお、REMとは、Rare Earth Metalの略であり、ランタノイド系列に属する元素をさす。本発明において、REMやCeは、ミッシュメタルにて添加することができ、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有させてもよい。
【0045】
『鋼板組織』
本発明に係る高強度冷延鋼板においては、鋼板組織を、転位密度低減の観点から、フェライトを主相とすることがより望ましい。鋼板の代表的な組織であるフェライトは、ベイナイトあるいはマルテンサイト組織に比較して転位密度が低い。このことから、フェライトを主相とすることが望ましい。これは、焼鈍後の圧延によって転位を対消滅させ、転位密度を低減させたとしても、なお、マルテンサイト組織中の転位密度は高く、マルテンサイト単相組織では静動比が低いためである。
【0046】
ここで、図1のグラフに示すように、一般に、転位密度が低いフェライト組織は、歪速度が大きくなると応力が高くなる。一方、転位密度が高いマルテンサイト組織は、既に転位が入って強化されていることから、歪速度増加に伴う応力上昇は小さい。
従って、本発明に係る高強度冷延鋼板においては、フェライトを主相とする鋼板組織とすることにより、鋼板強度が同一であっても、高歪速度における応力、即ち動的強度が高くなるという作用が得られる。これにより、高強度冷延鋼板の衝突吸収エネルギーが向上し、上述したように、衝突時等に発生する衝撃エネルギーを効果的に吸収することが可能となる。
【0047】
加えて、成形性との両立を図る場合、本発明の高強度冷延鋼板の引張最大応力は、強化組織であるマルテンサイトの体積率に依存することから、狙いとする鋼板強度に合せてマルテンサイトの体積率を変化させることが好ましい。
例えば、鋼板の引張最大応力を900〜1130MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は60%〜85%の範囲であることが好ましく、65%〜80%の範囲であることがより好ましい。
また、鋼板の引張最大応力を1130〜1280MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は55%〜80%の範囲であることが好ましく、60%〜75%の範囲であることがより好ましい。
鋼板の引張最大応力を1280〜1430MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は50%〜75%の範囲であることが好ましく、55%〜70%の範囲であることがより好ましい。
【0048】
上述のように、鋼板の引張最大応力に応じて、フェライトの体積率を上記範囲に制御することで、引張最大応力(TS)900MPa以上の高強度と、強度−延性バランス(TS×El.)16000(MPa×%)以上の優れた延性とが得られ、優れた強度と延性とを同時に具備する鋼板とすることができる。なお、本発明で説明する強度−延性バランス(TS×El.)とは、引張試験における引張最大応力(TS)と全伸び(El.)との積であり、引張最大応力に応じて変化するものである。
【0049】
また、鋼板組織としては、主相としてのフェライト以外の組織として、マルテンサイト、残留オーステナイト、ベイナイト、セメンタイト及びパーライト等を含有しても良い。加えて、転位密度を本発明の範囲に制御できるのであれば、本発明の効果である高い静動比は、主相であるフェライトの形態に限定されること無く発揮される。即ち、フェライトは、等軸なポリゴナルフェライト、針状や板上のアシキラーフェライト、あるいは、ベイニィティックフェライトの何れであっても構わない。
【0050】
なお、フェライト、マルテンサイト、パーライト、セメンタイト、ベイナイト、オーステナイト及び残部組織の同定や、存在位置の観察及び面積率の測定は、ナイタール試薬及び特開59−219473号公報に開示された試薬により、鋼板圧延方向断面又は圧延方向直角方向断面を腐食して、1000倍の光学顕微鏡観察及び1000〜100000倍の走査型及び透過型電子顕微鏡観察を行うことにより、定量化が可能である。また、FESEM(電界放射型走査電子顕微鏡)−EBSP(後方散乱電子回折)法を用いた結晶方位解析や、マイクロビッカース硬度測定等の微小領域の硬度測定からも、組織の判別は可能である。
【0051】
次に、鋼板組織中の転位密度の限定理由に関して述べる。
高強度冷延鋼板の衝突吸収エネルギーを増加させるためには、詳細を後述する静動比を下げる強化機構を用いないことが必要不可欠である。特に、鋼板の組織形成時に導入される転位は静動比を低下させることから、出来るだけ低下させる必要がある。しかしながら、900MPa以上の強度確保を行う場合、析出強化や硬質組織の体積系率増加によって強度確保を行わねばならず、静動比が低下し易くなる。そこで、焼鈍後に軽圧下冷延を加えることで、鋼板中に含まれる変態によって導入された転位を運動させ、対消滅させることで、静動比を高めることが可能となる。このような効果は、鋼板中に存在する平均転位密度を8×1011(個/mm)以下とすることで発揮される。また、鋼板に含まれる転位密度は、より好ましくは、6×1011(個/mm)以下であり、さらに好ましくは、4×1011(個/mm)以下である。
【0052】
転位密度は、X線回折法や透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めることが出来る。TEMは、微小領域を観察可能であることから、複相組織鋼板であれば、フェライト及び硬質組織の転位密度をそれぞれ測定可能である。ただし、TEM観察は、サンプル作製段階で、鋼板を薄い板状、あるいは、細い針状に加工する必要があり、試料作成が難しいとともに、試料が小さいために僅かな運動で転位が試料表面へと到達して消滅してしまうことから、転位密度が低下する場合があり、サンプル作製にあたっては十分な注意を払う必要がある。また、TEM観察は、測定可能な視野も限られる。一方、X線回折法は、比較的簡単に、広い領域の平均的な転位密度測定が可能である。このことから、本発明では、X線回折法を用いて転位密度を測定する方法を採用している。
【0053】
『機械的特性』
本発明に係る高強度冷延鋼板は、鋼板組織を上記構成としたうえで、静動比(=FS2/FS1)を1.05以上に制御する。
本発明で説明する静動比とは、歪速度1000(s−1)にて変形を行った際の公称歪0.03での公称応力(動的強度:FS2)を、歪速度0.0067(s−1)にて変形を行った際の公称歪0.03での公称応力(準静的強度:FS1)で除した値である(静動比(=FS2/FS1)。
【0054】
歪速度1000s−1は、自動車が衝突した際の歪速度を想定した歪速度であり、また、歪速度0.0067s−1は、通常の引張試験での歪速度である。
なお、本発明では、通常の引張試験での歪速度を0.0067s−1としたが、歪速度0.005〜0.05s−1の範囲であれば、歪速度が公称応力に及ぼす影響は比較的小さい。歪速度0.0067s−1での公称応力は、引張試験にて測定されることが好ましく、歪速度1000s−1での公称応力は、これと同様の変形モードとなるワンバー法やホプキンソン棒法を用いることが好ましい。但し、検力ブロック法を用いても測定が可能である。
【0055】
本発明において、静動比(FS2/FS1)を1.05以上としたのは、この値以上とすることで、衝突性能向上の顕著な効果が得られるためである。例えば、静動比が1.0となる鋼板を、静動比1.05の鋼板で置換した場合、同等の衝突性能を得るのであれば、5%の軽量化が可能となり、その効果が大きいためである。また、静動比(FS2/FS1)は、より好ましくは1.07以上であり、さらに好ましくは1.09以上である。
【0056】
なお、本発明においては、上述のような高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層や合金化した亜鉛メッキ層を設けることにより、高強度亜鉛めっき鋼板を構成することが可能である。高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層が形成されていることにより、優れた耐食性を有する鋼板となる。また、高強度冷延鋼板の表面に、合金化した亜鉛メッキ層が形成されていることにより、優れた耐食性を有し、塗料の密着性に優れたものとなる。
【0057】
以上説明したような本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板によれば、上記構成により、硬質組織であるマルテンサイト組織の体積率を増加させず、充分なフェライト組織の体積率を確保できるので、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させることが可能となる。これにより、高い衝突吸収エネルギーを備える高強度冷延鋼板を提供することが可能となる。
【0058】
[高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法]
次に、本発明に係る高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法は、上記化学成分組成を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760℃〜900℃で焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒以下で冷却し、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行う方法である。
【0059】
本発明の高強度冷延鋼板を製造するには、まず、上述した化学成分(組成)を有するスラブを鋳造する。本発明においては、熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
【0060】
熱延スラブ加熱温度は、1050℃以上にする必要がある。このスラブ加熱温度が過度に低いと、仕上げ圧延温度がAr点を下回ってしまい、フェライト及びオーステナイトの二相域圧延となり、熱延板組織が不均質な混粒組織となり、冷延及び焼鈍工程を経たとしても不均質な組織は解消されず、延性や曲げ性に劣るものとなる。
また、本発明の高強度冷延鋼板は、焼鈍後に900MPa以上の引張最大強度を確保するため、多量の合金元素を添加していることから、仕上げ圧延時の強度も高くなりがちである。スラブ加熱温度の低下は、仕上げ圧延温度の低下を招き、また、更なる圧延荷重の増加を招き、圧延が困難となったり、圧延後の鋼板の形状不良を招く懸念があることから、スラブ加熱温度は、1050℃以上とする必要がある。スラブ加熱温度の上限は、特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないことから、加熱温度の上限は1300℃未満とすることが望ましい。
なお、Ar温度は次の式により計算することができる。
Ar=901−325×C+33×Si−92×(Mn+Ni/2+Cr/2+Cu/2+Mo/2)
【0061】
一方、仕上げ温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、仕上げ圧延温度を過度に高温と使用とした場合、その温度を確保するため、スラブ加熱温度を過度に高温にせねばならない。このことから、仕上げ圧延温度の上限温度は、1000℃以下とすることが望ましい。
【0062】
巻き取り温度は400〜670℃にする必要がある。巻き取り温度が670℃を超えると、熱延組織中に粗大なフェライトやパーライト組織が存在するため、焼鈍後の組織不均質性が大きくなり、最終製品の曲げ性が劣化する。また、焼鈍後の組織を微細にして強度延性バランスを向上させる観点、されには、第二相を均質分散させ曲げ性を向上させる観点からは、630℃以下で巻き取ることがより好ましい。また、670℃を超える温度で巻き取ることは、鋼板表面に形成する酸化物の厚さを過度に増大させるため、酸洗性が劣るので好ましくない。また、本発明の製造方法における巻き取り温度の下限は、400℃である。巻き取り温度が400℃を下回ると、熱延板強度が極端に増加することから、冷間圧延の際、板破断や形状不良といったトラブルを誘発し易い。このことから、巻き取り温度の下限は400℃とする必要がある。
【0063】
なお、熱延時に粗圧延板同士を接合して、連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。
【0064】
次いで、上記方法で製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は、鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の冷延高強度鋼板の化成性や、溶融亜鉛あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の冷延鋼板の溶融めっき性向上のために重要である。また、酸洗を一回のみ行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
【0065】
次いで、酸洗した熱延鋼板を圧下率40〜70%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを通板する。圧下率が40%未満では、形状を平坦に保つことが困難であり、また、最終製品の延性が劣悪となるのでこれを下限とする。一方、70%を越える冷延は、冷延荷重が大きくなり過ぎて冷延が困難となることから、これを上限とする。また、冷間圧延の際の圧下率は、45〜65%がより好ましい範囲である。
なお、圧延パスの回数、パス毎の圧下率については、特に規定することなく本発明の効果が発揮される。
【0066】
その後、得られた冷延鋼板を、連続焼鈍ラインを通板させて高強度冷延鋼板を製造する。この際、以下に示す第1条件で行う。
【0067】
「第1条件」
本発明においては、冷延された鋼板を、連続焼鈍ラインに通板させるに際して、最高加熱温度760℃〜900℃で焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒以下で冷却し、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことにより、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板が得られる。
【0068】
「第2条件」
本発明においては、冷延された鋼板を、連続焼鈍ラインに通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、150〜400℃の温度域で保持を行った後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことで、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板が得られる。
【0069】
また、本発明においては、第1条件又は第2条件の連続焼鈍ラインに通板して得られた高強度冷延鋼板に、さらに、亜鉛系電気めっきを施すことにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造することが可能である。
またさらに、本発明においては、上記方法によって得られた冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインに通板させることにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。この場合には、以下に示すような第3条件又は第4条件で行う。
【0070】
「第3条件」
本発明においては、連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、次いで、亜鉛めっき浴に浸漬し、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことで、鋼板表面に亜鉛めっき層が形成され、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0071】
「第4条件」
本発明においては、連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第3条件と同様にして、亜鉛めっき浴に浸漬するまでの工程を行った後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、次いで、平均冷却速度1℃/秒以上で、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことで、鋼板表面に亜鉛めっき層が形成され、衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板が得られる。
本発明では、上述のような合金化処理を行うこことで、表面に亜鉛メッキ層が合金化されてなるZn−Fe合金が形成され、表面に合金化した亜鉛メッキ層を有する高強度亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0072】
本発明に係る製造方法において、焼鈍の際の最高加熱温度を760℃〜900℃としたのは、熱延板中に析出したセメンタイト、あるいは、冷延後の連続焼鈍設備や連続溶融亜鉛めっき設備での加熱中に析出したセメンタイトを溶解させ、十分な体積率のオーステナイトを確保するためである。最高加熱温度が760℃未満で焼鈍を行うと、セメンタイトの溶解に長時間を有することから生産性が低下するか、あるいは、セメンタイトが溶け残るため、冷却後のマルテンサイト体積率が低下してしまい、900MPa以上の強度が確保できないことから好ましくない。なお、900℃を超える高温で焼鈍したとしても何ら問題は生じないが、経済性に劣る点から好ましくない。
【0073】
また、本発明においては、焼鈍後の平均冷却速度を1〜1000℃/秒の範囲とする必要がある。冷却速度が1℃/秒未満では、冷却過程での過度なパーライト組織の形成を抑制することができず、900MPa以上の強度を確保することが出来ないことから好ましくない。一方、過度に冷却速度を上げたとしても、材質上何ら問題は生じないが、過剰な設備投資が必要となることから、1000℃/秒以下とすることが好ましい。
また、冷却停止温度は、特に定めることなく本発明の効果を発揮可能なものの、冷却停止温度を室温以下とすることは難しいので、これが実質的な下限温度である。
【0074】
また、本発明においては、焼鈍後に冷却した鋼板を、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延する必要がある。
ここで、冷延鋼板の製造にあたっては、鋼板の時効性改善、形状改善、粗度の転写、降伏応力の制御のため、スキンパス圧延を施す場合が多い。特に、高強度鋼板は、IF鋼とは異なり、鋼板中に多量の固溶Cが存在することから時効しやすく、伸びや加工性が劣化し易いという問題を有していた。この結果、時効性改善のために、高い伸び率で圧延し、時効性を改善することが一般的であったが、この場合、多量の転位が導入され、静動比が低下しやすいという課題を有していた。また、従来の圧延条件は、軽圧下冷延により、焼鈍−冷却時に導入された鋼板の組織変化に伴う転位(変態転位)の低減に配慮した条件ともされていなかった。
【0075】
本発明者等は、上記問題に関して鋭意検討を行った結果、スキンパス圧延のロールの粗度をRaで3.0以下とし、軽圧下冷延を行うことで、焼鈍―冷却時に導入された転位を消滅させて転位密度を下げることが可能であり、従来のスキンパス圧延の課題であった圧延時の変形に伴う転位密度増加も抑制可能であることを見出した。即ち、ロールの粗度がRaで3.0超であると、鋼板の一部に応力集中しやすく、局所的に大きな変形を受けやすくなり、この結果、必要以上に変形を与えてしまうことから転位密度が高くなる。本発明では、圧延時のロールの粗度をRaで3.0以下とすることで、局所的な変形が抑制可能であり、鋼板中の転位密度の低減と静動比の増加が可能である。このような効果は、ロールの粗度をRaで3.0以下とすることで顕著になることから、3.0以下とすることが好ましい。また、ロールの粗度は、より好ましくは2.75(Ra)以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。
【0076】
また、ロールの粗度を上記範囲内としたうえで軽圧下冷延を行ったとしも、伸び率が高くなると転位密度が増加して静動比が低下し、衝突時の吸収エネルギーが低下することがある。このことから、スキンパス圧延時の伸び率は、1.5%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは1.2%以下であり、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0077】
また、本発明においては、上記条件の冷却後に、組織制御の観点で、150〜400℃で熱処理を行っても良い。これは、熱処理中に相変態を制御することで鋼板組織を望ましい組織とすることが可能であったり、熱処理中に焼き戻し処理を行うことで硬質組織の硬度を調整したりすることが可能であるためである。
【0078】
また、連続溶融亜鉛めっき設備を通板して、高強度亜鉛めっき鋼板を製造するに際しては、上記と同様の理由で、焼鈍温度、冷却速度、あるいは、鋼板への圧延条件を本発明の範囲とする必要がある。
【0079】
本発明においては、めっき浴に浸漬することで溶融めっき鋼板とし、250℃以下まで冷却した後、上記条件で圧延を行うことにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造しても良い。あるいは、めっき浴浸漬後に、460℃〜600℃の温度で合金化処理を施すことで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造しても良い。これは、溶融亜鉛めっき、あるいは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とすることで、防錆性を高めることが可能となるためである。
【0080】
また、本発明においては、以下に示すように、高強度冷延鋼板または高強度亜鉛めっき鋼板の製造時における炉内雰囲気を、Hを1〜60体積%含有し、残部N、HO、O及び不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5とすることが好ましい。
上記の炉内雰囲気とすることで、鋼板に含まれるSi、Mn、Alが鋼板表面に拡散する前に、鋼板内部に拡散したOと鋼板内部に含まれるSi、Mn、Alとが反応し、鋼板内部に酸化物が形成されるとともに、鋼板表面へのこれら元素から成る酸化物の形成が抑制される。従って炉内を上記雰囲気とすることで、鋼板表面に酸化物が形成されることに起因する不めっきを抑制できるとともに、合金化反応の促進を図ることができ、鋼板表面に酸化物が形成されることによる化成処理性の劣化を防止できる。
なお、焼鈍炉内の雰囲気中における水分圧と水素分圧との比は、炉内に水蒸気を吹き込む方法によって調整することができる。このようにして焼鈍炉内の雰囲気中における水分圧と水素分圧との比を調整する方法は、簡便であり好ましい。
【0081】
なお、上記炉内雰囲気のH濃度が60体積%を超えると、コスト高を招くことから好ましくない。また、H濃度が1体積%未満になると、鋼板に含まれるFeが酸化することから、濡れ性やめっき密着性が不十分となる虞がある。
また、炉内雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5とすることで、Siを多量に含む鋼である場合であっても、充分なめっき性を確保できる。なお、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)の下限を−3以上としたのは、−3未満では、鋼板表面にSi酸化物(またはSi酸化物およびAl酸化物)が形成される割合が多くなり、濡れ性やめっき密着性が低下する虞があるからである。一方、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)の上限を−0.5としたのは、その効果が飽和するためである。
【0082】
従来の製造方法を用いて冷延鋼板または亜鉛めっき鋼板を製造する場合、製造時における焼鈍炉内の雰囲気が適性化されていないため、以下に示すような問題が生じる虞があった。
すなわち、本発明においては、フェライト体積率を向上させ、延性を確保するためにSi(又は、Si及びAl)を含み、高強度鋼板の強度を高めるMnを含む上述した化学成分(組成)を有するスラブを用いている。これらSi、Mn、Alは、Feと比較して、極めて酸化しやすい元素であるため、Feの還元雰囲気であっても、Si(又は、Si及びAl)、Mnの含有された鋼板の表面には、Si酸化物(又は、Si酸化物及びAl酸化物)、Mn酸化物が形成される。このような、鋼板の表面に形成されたSi、MnやAlを単独、あるいは、複合で含む酸化物は、高強度冷延鋼板における化成処理性を劣化させる原因となる。また、これらの酸化物は、亜鉛などの溶融金属との濡れ性が悪いため、Si(又は、Si及びAl)の添加された高強度鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成する場合、不めっきの原因となる。また、SiやAlは、合金化処理を施した高強度亜鉛めっき鋼板を製造する際に、合金化を遅延するなどの問題を引き起こす場合があった。
【0083】
ここで、鋼板表面における酸化物の形成を抑制する方法としては、焼鈍炉内の雰囲気をそれぞれの元素の還元雰囲気にする方法も考えられる。これに対し、本実施形態においては、焼鈍炉内の雰囲気を上記雰囲気とし、Feの還元雰囲気ではあるものの、Si、MnやAlといった元素が極めて酸化し易い雰囲気とした。これにより、高強度冷延鋼板の化成処理性を向上させることが可能となり、高強度亜鉛めっき鋼板を製造した場合においては高強度亜鉛めっき鋼板の濡れ性の向上を向上させることが可能となり、不めっきを抑制できるとともに合金化反応の促進を図ることができる。
【0084】
なお、本発明に係る高強度冷延鋼板又は高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上述した例に限定されるものではない。
例えば、上述した製造方法においては、水分圧と水素分圧とを制御して焼鈍炉内の雰囲気を制御したが、二酸化炭素と一酸化炭素の分圧を制御する方法、あるいは、炉内に直接酸素を吹き込む方法を用いて、焼鈍炉内の雰囲気を制御してもよい。この場合であっても、水分圧と水素分圧とを制御して焼鈍炉内の雰囲気を制御した場合と同様に、表層近傍の鋼板内部にSi、MnやAlを単独、あるいは、複合で含む酸化物を析出させることができ、上記と同様の効果が得られる。
【0085】
また、本発明に係る高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法においては、めっき密着性を向上させるために、焼鈍前の鋼板にNi、Cu、Co、Feから選ばれる1種あるいは複数種よりなるめっきを施してもよい。
【0086】
また、本発明に係る高強度亜鉛めっき鋼板を製造する場合には、焼鈍から亜鉛めっき浴に浸漬するまでの工程として「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H及びNを含む還元雰囲気にて焼鈍した後、亜鉛めっき浴温度近傍まで冷却して、亜鉛めっき浴に侵漬する」ゼンジマー法や「焼鈍時の雰囲気を調節して、最初に鋼板表面を酸化させ、その後還元することにより、めっき前の鋼板表面の清浄化を行った後、亜鉛めっき浴に侵漬する」全還元炉方式、あるいは「鋼板を脱脂酸洗した後に、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行い、その後亜鉛めっき浴に侵漬する」フラックス法などを用いてもよい。
【0087】
また、本発明に係る製造方法においては、上述の冷延を行なう工程において、圧延油を使用しても良い。鋼板の表層にせん断歪を導入する観点からは、鋼板表面の摩擦係数は高い方が好ましいものの、無潤滑の状態では圧延荷重の増大を招いてしまう。このことから、摩擦係数を大幅に低減しない範囲であれば、圧延油を用いた冷間圧延を行っても良い。
【0088】
以上説明したような本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば鋼板成分、焼鈍条件並びに焼鈍後の圧延条件を制御する上記方法により、硬質組織であるマルテンサイト組織の体積率を増加させず、充分なフェライト組織の体積率が確保され、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させながら、高い衝突吸収エネルギーを備える高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板を製造することが可能となる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明に係る衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0090】
[鋼板の製造]
まず、製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分の制御等を施すことにより、下記表1及び表2に示す化学成分組成のスラブを得た。そして、鋳造されたスラブを、下記表3に示す条件で、直接、熱間圧延し、冷間圧延にて1.2mmの冷延鋼板とした後、下記表4及び表5に示す雰囲気で熱処理を行い、冷延鋼板を得た。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
なお、表2〜表5において、製品板の種類を示すCRは連続焼鈍ラインにて製造した冷延鋼板であり、EGは冷延鋼板CRに亜鉛を電気めっきした電気めっき鋼板、GIは連続溶融亜鉛めっきラインにて製造した亜鉛めっき鋼板、GAは連続溶融亜鉛めっきラインにて製造した合金化亜鉛めっき鋼板である。
【0097】
その後、得られた冷延鋼板を、連続焼鈍ラインまたは連続溶融亜鉛めっきラインを通板させて高強度冷延鋼板または高強度亜鉛めっき鋼板を製造した。
ここで、冷延鋼板を連続焼鈍ラインに通板させるに際しては、表4及び表5に示す最高加熱温度で焼鈍を行った後、表4及び表5に示す平均冷却速度で冷却を行った。
その後、一部の実験例においては、表4及び表5に示す保持温度(熱処理温度)並びに保持時間(熱処理時間)で保持した後、室温まで冷却した。
連続焼鈍ラインの焼鈍炉内の雰囲気は、Hを1体積%含むN雰囲気とし、炉内の雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PH2O/PH2)を−2.8とした。
【0098】
その後、連続焼鈍ラインを通板させた実験例の冷延鋼板の一部について、以下に示す方法により、亜鉛系電気めっきを施し、亜鉛めっき鋼板(EG)を製造した。まず、連続焼鈍設備にて、所定の条件で制御した鋼板を用いて、めっきの前処理として、アルカリ脱脂、水洗、酸洗、並びに水洗を順に実施した。電気めっきには、硫酸亜鉛、硫酸ナトリウム、硫酸からなるめっき浴を用い、液循環式の電気めっき装置を用いてZnめっきを施した。この際の電流密度を100A/dmとして、所定のめっき厚みになるまで電解処理を行い、電気亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0099】
また、冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインに通板させるに際しては、表4及び表5に示す最高加熱温度で焼鈍を行った後、表4及び表5に示す平均冷却速度で冷却を行い,その後、表4及び表5に示す温度の亜鉛めっき浴に浸漬し、冷却を行った。
また、一部の実験例においては、亜鉛めっき浴に浸漬するまでの工程を行った後、表4及び表5に示す温度で合金化処理を施し、冷却を行った。
なお、連続溶融亜鉛めっきラインを通板させる場合、亜鉛めっき浴に浸漬する前と後とでの平均冷却速度を同じとした。
また、連続溶融亜鉛めっきラインの焼鈍炉内の雰囲気は、Hを1体積%含むN雰囲気とし、炉内の雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PH2O/PH2)を−1.2とした。
【0100】
[評価試験]
上記方法によって製造した各実験例の鋼板について、以下のような評価試験を行った。
【0101】
「鋼板組織」
まず、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて各実験例の鋼板の組織観察を行い、鋼板の転位密度を、各々20視野で撮影することで測定し、その平均を下記表6に示した。
また、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイト、及び、セメンタイトの測定にあたっては、ナイタール試薬、及び特開平59−219473号公報に開示された試薬により、鋼板圧延方向断面又は圧延方向直角方向断面を腐食した後、1000倍の光学顕微鏡観察にて10視野、及び、5000倍の走査型電子顕微鏡により、10視野観察を行うことで定量化を行った。なお、ここで述べるセメンタイトとは、フェライト中に存在する球状セメンタイトのことであり、パーライト組織を構成する層状のセメンタイトやベイナイト組織中に含まれる微細なセメンタイトは含まれない。
【0102】
「衝突吸収エネルギー:静動比=動的強度(FS2)/準静的強度(FS1)」
各実験例の鋼板から、所定の試験片を採取して静動比(=FS2/FS1)を求め、衝突吸収エネルギーの評価指標とした。
まず、準静的強度(FS1)の測定にあたっては、歪速度0.0067(s−1)において引張強度試験を行うことにより、公称歪0.03での強度を測定した。また、動的強度(FS2)の測定にあたっては、one bar法を用い、歪速度500〜1400(s−1)の範囲にて、4つの歪速度で各2点ずつ動的強度を求め、これらの値から1000(s−1)での動的強度を内挿した。これは、歪速度を正確に1000(s−1)とすることが難しいためである。このような方法で各強度を測定することにより、準静的強度(FS1)と動的強度(FS2)との比からなる静動比(FS2/FS1)を求め、下記表6に示した。
【0103】
「引張最大強度(TS)及び伸び率(EL.:延性)」
各実験例の鋼板から、JIS Z 2201に記載の5号試験片を加工して、JIS Z 2241に記載の試験方法に沿って、引張最大強度TS(MPa)及び伸び率(EL.)を測定し、下記表6に示した。
下記表6に、本実施例における評価結果の一覧を示す。
【0104】
【表6】

【0105】
[評価結果]
表1〜表6に示すように、本発明で規定する鋼成分を有し、また、本発明で規定する製造条件によって製造された本発明例(表1〜4の備考欄参照)の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板は、転位密度が2.0×1011(個/mm)以下であるとともに、高速変形特性の指標である準静的強度と動的強度との比からなる静動比(FS2/FS1)が全て1.05以上であり、引張最大強度が900MPa以上であった。これらの評価結果より、本発明例の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板は、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させながら、高い衝突吸収エネルギーが得られることが明らかとなった。
【0106】
これに対し、比較例の冷延鋼板及び亜鉛めっき鋼板は、本発明で規定する化学成分組成や各製造条件の何れかが満たされていないため、以下に説明するように、転位密度、鋼板組織を本発明の範囲とすることが出来ず、静動比、引張最大強度及び延び率の内の何れかの項目が、目標となる特性を満足することができない結果となった。
【0107】
実験例A−2の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例A−3の冷延鋼板は、最高加熱温度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例A−4、A−5の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例A−6の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例A−7の冷延鋼板は、熱処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0108】
実験例B−2の冷延鋼板は、最高加熱温度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例B−3の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例B−4、B−5の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例B−6の冷延鋼板は、熱処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0109】
実験例C−2の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例C−3の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例C−4の冷延鋼板は、熱処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0110】
実験例D−4の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例D−5の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例D−7の冷延鋼板は、最高加熱温度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例D−8の冷延鋼板は、平均冷却速度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0111】
実験例E−2、E−3の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例E−4の冷延鋼板は、最高加熱温度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例E−5の冷延鋼板は、平均冷却速度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0112】
実験例G−2の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例G−3の冷延鋼板は、ロールの粗度(Ra)が本発明の規定範囲を越えており、さらに、スキンパス伸び率が大きいため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例G−4の冷延鋼板は、平均冷却速度が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
【0113】
実験例R−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるCの含有量が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例S−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるCの含有量が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例T−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるSiの含有量が本発明の規定範囲を下回っているため、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
【0114】
実験例V−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるMnの含有量が本発明の規定範囲を下回っているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例W−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるMnの含有量が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
実験例X−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるAlの含有量が本発明の規定範囲を越えているため、引張最大強度(TS)が劣っている。
実験例Y−1の冷延鋼板は、鋼板の化学成分におけるC、Mnの含有量が本発明の規定範囲を越えているため、転位密度が大きく、静動比が本発明の規定値を下回っており、衝突吸収エネルギーが劣った結果となっている。
【0115】
以上説明した実施例の結果より、本発明の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板が、590MPa級の鋼板並みの静動比と、900MPa以上の引張最大強度を安定して両立させながら、高い衝突吸収エネルギーを備えることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.07〜0.25%、
Si:0.3〜2.50%、
Mn:1.5〜3.0%、
P :0.001〜0.03%、
S :0.0001〜0.01%、
Al:1.0%以下、
N :0.0005〜0.0100%、
O :0.0005〜0.007%、
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、
鋼板内部において、鋼板に含まれる転位の密度が8×1011(個/mm2)以下であり、歪速度0.0067(s−1)での準静的強度(FS1)と、歪速度1000(s−1)での動的強度(FS2)との比からなる静動比(=FS2/FS1)が1.05以上であることを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Ti:0.005〜0.10%、
Nb:0.005〜0.10%、
V:0.005〜0.10%
を含有することを特徴とする請求項1に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項3】
さらに、質量%で、
B :0.0001〜0.01%、
Cr:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Mo:0.01〜0.8%
の内の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項4】
さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を、合計で0.0001〜0.5%の範囲で含有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層が設けられてなることを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、
次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、
次いで、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760℃〜900℃で焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒以下で冷却し、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の条件で、連続焼鈍設備を用いて焼鈍を行った後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、150〜400℃の温度域で保持を行った後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の方法で高強度冷延鋼板を製造した後、該高強度冷延鋼板に亜鉛系電気めっきを施すことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、
次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、
次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜900℃で焼鈍した後、平均冷却速度1〜1000℃/秒で冷却し、次いで、亜鉛めっき浴に浸漬し、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記亜鉛めっき浴に浸漬した後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、次いで、平均冷却速度1℃/秒以上で、250℃以下まで冷却した後、粗度(Ra)3.0以下のロールを用いて圧延を行うことを特徴とする請求項9に記載の衝突吸収エネルギーに優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111672(P2011−111672A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272071(P2009−272071)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】