説明

表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体

【課題】表皮材の肉厚が薄く軽量性、機械的物性、表皮材と発泡粒子成形体との融着性および発泡粒子同士の融着性に優れた表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【解決手段】表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体ブロー成形により得られた中空成形体10内にポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体20が位置してなる表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体であって、該表皮を形成している樹脂が、熱流束示差走査熱量測定における80〜140℃の部分融解熱量が15J/g以上、かつ部分融解熱量と全融解熱量との比が0.2以上であるポリプロピレン系樹脂であり、該表皮の厚みが0.3〜3.5mm、該発泡粒子成形体の見かけ密度が0.015〜0.15g/cmであり、表皮の厚みが0.5〜3.5mmで、発泡粒子成形体の密度が0.02〜0.1g/cmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体、詳しくはブロー成形により得られたプロピレン系樹脂中空成形体からなる表皮内にポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体が位置してなる表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空状の表皮材の内部に発泡粒子を充填して発泡させて表皮材と一体化した表皮付発泡成形体が知られている。この表皮付発泡成形体を製造する方法として、ブロー成形用分割金型間に垂下させた樹脂パリソンを該金型にて挟み込んでブロー成形して中空成形体とし、この中空成形体内部に予備発泡粒子を充填し、次いで該中空成形体内部にスチーム等の加熱媒体を吹き込むことにより該粒子を加熱して相互に融着させた後、冷却し表皮を有する発泡粒子成形体を得る製造方法が知られている。例えば、下記の特許文献1を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、ブロー成形により表皮付発泡成形体を得るに際して、ブロー成形にて得られた中空成形体が冷却固化する前に、該中空成形体内に熱可塑性予備発泡樹脂粒子を充填し、次いで加熱用水蒸気を供給する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2860007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ブロー成形法による表皮付発泡成形体を製造する際に、曲げ強さ等の機械的物性に優れたものを得る上で、表皮材の中空成形体と発泡粒子、発泡粒子同士の接着強度に優れた表皮付発泡成形体を得る必要があり、そのような表皮付発泡成形体には、特許文献1に記載の方法のように、中空成形体が冷却固化する前に、該中空成形体内に熱可塑性予備発泡樹脂粒子を充填しなければならず、該冷却固化する時間を遅らせるために表皮材の厚みを、3.5mmを超える厚みにすることが必要とされていた。しかしながら、表皮を厚くすれば表皮と発泡粒子成形体との接着強度が良好な機械的物性に優れるものが得られるが、その一方で表皮付発泡成形体自体が重くなり発泡成形体としての特徴の一つである軽量性の点で問題がある。また表皮材が肉厚であることから成形サイクル性に難点があった。なお、特許文献1で、中空成形体が冷却固化する前に、該中空成形体内に熱可塑性予備発泡樹脂粒子を充填しなければならないのは、発泡粒子充填時に表皮と表皮に隣接する発泡粒子とを接着させるためであり、後工程の加熱用水蒸気を供給して発泡粒子を相互に融着させる工程では表皮と発泡粒子とは接着させることが困難であるためである。
【0006】
本発明は、上記表皮付発泡成形体においてこれまで十分に改良されていない軽量性と成形サイクルの課題を解決し、表皮材と発泡粒子成形体との融着性および発泡粒子同士の融着性に優れた表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、表皮材を形成する基材樹脂、および発泡粒子について種々の観点から多角的に検討を重ねた結果、表皮材を形成する基材樹脂が特定の熱的特性を有するものを用いた場合に所期の目的を達成し得ることを見出し本発明を為した。
【0008】
すなわち本発明は、(1) ブロー成形により得られたプロピレン系樹脂中空成形体からなる表皮内にポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体が位置してなる表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体であって、該表皮を形成している基材樹脂が、熱流束示差走査熱量測定における80〜140℃の部分融解熱量が15J/g以上、かつ部分融解熱量と全融解熱量との比(部分融解熱量/全融解熱量)が0.2以上のポリプロピレン系樹脂であり、該表皮の厚みが0.3〜3.5mm、該発泡粒子成形体の見かけ密度が0.015〜0.15g/cmであり、表皮と発泡粒子成形体とが融着していると共に、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子同士が相互に融着していることを特徴とする表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体である。
【0009】
(2)表皮を形成している前記基材樹脂が、230℃における溶融張力が1〜30cNのポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体、
【0010】
(3)表皮を形成している前記基材樹脂が、メタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体、
【0011】
(4)表皮を形成している前記基材樹脂が、メタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂と230℃における溶融張力が1〜30cNのポリプロピレン系樹脂とからなることを特徴とする上記(1)に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体、を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、薄い表皮厚みのものでありながら表皮と発泡粒子成形体とが良好な接着性を示すものであり、軽量性、機械的物性、外観、金型形状再現性に優れている。また、表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得るための成形サイクル時間の短縮が図れるなど生産性を高めることができる効果をも奏する。
【0013】
更に、表皮を形成している基材樹脂が特定の溶融張力を有するものは、表皮厚みの均一性において特に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体(以下、単に「表皮付発泡成形体」と記すことがある。)は、押出機に付設されたアキュムレータを介して溶融樹脂を押出してブロー成形用分割金型間に垂下させたポリプロピレン系樹脂パリソンを該金型にて挟み込みブロー成形して中空成形体となし、次いで該中空成形体内にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、更に発泡粒子が充填されている中空成形体内にスチーム等の加熱媒体を吹き込むことにより加熱して発泡粒子を相互に融着させて発泡粒子成形体とすると共に発泡粒子と表皮材としての前記中空成形体とを融着させた後、冷却して製造される。なお、中空成形体内へのポリプロピレン系樹脂発泡粒子の充填、成形工程は、ブロー成形により中空成形体を得た後、連続して行われることが好ましいが、ブロー成形にて中空成形体を得た後、時間をおいて別工程にて該発泡粒子の充填、成形工程を行うこともできる。
【0015】
本発明においては、表皮を形成している基材樹脂として、熱流束示差走査熱量測定における80〜140℃の部分融解熱量(ΔT)が15J/g以上、好ましくは30〜70J/gで、かつ部分融解熱量と全融解熱量(ΔH)との比(ΔT/ΔH)が0.2以上、好ましくは0.4〜1.0、特に好ましくは0.4〜0.7である熱的特性を有するポリプロピレン系樹脂が用いられている。
【0016】
表皮を形成している基材樹脂のポリプロピレン系樹脂が、上記の熱的特性要件を満たすものであることにより、中空成形体内に発泡粒子を充填し、スチーム加熱により発泡粒子同士を融着させる際に、表皮の中空成形体と発泡粒子との融着性が優れたものとなっている。一方において、肉厚が薄い表皮付発泡成形体の成形に当たっては、通常のブロー成形以上に中空成形体からなる表皮の肉厚バランスが重要になってくる。肉厚のバランスのとれた中空成形体を得るには、該中空成形体を形成するポリプロピレン系樹脂の溶融張力(MT)が影響する。
【0017】
本発明においては、表皮を形成している基材樹脂が前記の熱的特性を有すると共に、加えて該ポリプロピレン系樹脂の溶融張力(MT)が、1〜30cNのものが好ましい。このような溶融張力を有するポリプロピレン系樹脂は、ドローダウンが抑制され、ブロー成形して得られる中空成形体の肉厚のバランスがとれた、表皮の厚みが0.3〜3.5mm、更に0.5〜2.5mm、特に0.7〜2.0mmの厚みの均一性に特に優れる薄肉な中空成形体となっている。該ポリプロピレン系樹脂の溶融張力(MT)が低すぎる場合には、ドローダウンが大きく、目的とする成形体の容積にもよるが肉厚のバラツキが大きいものとなる傾向が高く、更に2cN以上、特に3cN以上が好ましい。一方、溶融張力(MT)が大きすぎる場合には、ダイスエルが大きくなり、肉厚の薄い中空成形品とすることが難しくなる傾向にある。また肉厚を薄くするためには高い圧力のプリブローエアーで薄くすることが可能であるが、この場合には肉厚バラツキを十分に考慮してプリブローエアー圧力を設定しなければならないため、該溶融張力は、更に20cN以下、特に10cN以下が好ましい。本発明の表皮付発泡成形体は、成形体の表皮が薄いので、成形体角部のエッジが正確に成形できるなどの成形型の複雑な形状に追従し易く、金型形状再現性に優れ、製品設計の自由度が広がる利点を有する。なお、本発明において、表皮を形成している基材樹脂の溶融張力とは、表皮付発泡成形体から切り出した表皮を試料とし、後述する方法により求められる溶融張力のことである。
【0018】
また、表皮が薄い表皮付発泡成形体を製造する場合には、中空成形体に穴を開け、フィーダーにより発泡粒子を中空成形体内に圧送して圧縮充填などの方法により充填し、スチームにより加熱、融着して発泡粒子成形体を製造する際に、表皮の肉厚のバラツキが大きいと、中空成形体への穴開けが難しくなり、穴形状が不均一になり充填不良を起こす虞がある。また、発泡粒子を中空成形体内に充填する時に、中空成形体の厚みの薄い部分が破れるなど当該部分からの圧損が起こり、設定した圧縮充填圧力で発泡粒子を充填できない虞があり良好な発泡粒子成形体が得られない虞がある。
【0019】
本発明において表皮を形成している基材樹脂は、前記した特定の融解熱量を示す熱的特性を有し、好ましくは230℃における溶融張力が上記範囲内である、ポリプロピレン系樹脂であり、表皮を形成している基材樹脂がこれらの特定の条件を満足するようにポリプロピレン樹脂原料を選定し、該原料からなるポリプロピレン系樹脂パリソンをブロー成形用金型内でブロー成形して中空成形体となし、該中空成形体内部に発泡粒子を充填し、スチーム加熱して発泡粒子同士を融着させるに際して、発泡粒子成形体の成形に必要な所望のスチーム加熱圧力に到達までの短い時間に、中空成形体の内面を形成している基材樹脂が融解し、表皮と発泡粒子との融着性と、発泡粒子成形体の成形性、すなわち発泡粒子同士の融着性とに優れた、発泡粒子成形体の見かけ密度が0.015〜0.15g/cmである、軽量で融着強度に優れた表皮肉厚のバラツキが少ない表皮付発泡成形体を得ることができる。
【0020】
本発明における表皮を形成している基材樹脂の熱流束示差走査熱量測定による部分融解熱量(ΔT)および全融解熱量(ΔH)は、次のようにして求められる。これを本発明実施例2の表皮を形成している基材樹脂の熱流束示差走査熱量測定によるDSC吸熱曲線である図1により具体的に説明する。
熱流束示差走査熱量測定において、試料用樹脂3〜5mgを常温から200℃まで昇温し、その後直ちに10℃/分の冷却速度で40℃まで冷却する。次いで10℃/分の加熱速度で再度200℃まで加熱して得られるDSC吸熱曲線において、部分融解熱量(ΔT)は、以下の通り求められる。
1.DSC吸熱曲線上の80℃の点αと、融解終了温度(Te)に相当する点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。
2.次にDSC吸熱曲線上の140℃の点σからグラフの縦軸に平行な直線を引き、直線(α−β)と交差する点をγとする。
3.部分融解熱量(ΔT)は、DSC曲線と、線分(σ−γ)および線分(γ−α)とによって囲まれる部分(図1の斜線で示される部分)の面積に相当する熱量として定められる。
また、全融解熱量(ΔH)は、DSC曲線と、線分(α−β)とによって囲まれる部分の面積に相当する熱量として定められる。
なお、熱流束示差走査熱量測定において、基材樹脂の溶融熱量を定める上で再現性よく当該熱量を求めることができるベースラインの起点として80℃が好適であることから本発明では、ベースラインの起点を80℃とした。温度範囲80℃〜140℃の部分融解熱量は、ベースラインの起点である80℃と、発泡粒子加熱成形時の実際のスチーム圧力に近似する温度である140℃に基づくもので、温度範囲80℃〜140℃の部分融解熱量が特定の値を示すことが本発明の所期の目的を達成する上で有意な結果を導くことになるという本発明者らにより見出された指標である。
【0021】
また本発明の表皮を形成しているポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレイト[230℃、21.18N]が0.1〜5g/10分であることが好ましい。
【0022】
本発明において表皮を形成している前記の熱的特性を有するポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜8のα‐オレフィンとの共重合体、或いはそれら2種以上の混合物である。プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜8のα‐オレフィンとの共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−ブテンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンブロック共重合体等が挙げられる。上記ポリプロピレン系樹脂の中でもメタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂、或いはその混合物、特にメタロセン系重合触媒により重合されてなるプロピレン系ランダム共重合体、或いはその混合物が好ましく用いられる。
【0023】
共役五員環配位子を有する周期律表4〜6族の遷移金属化合物、所謂メタロセン化合物は、オレフィンの重合活性が高いことからオレフィン重合用触媒として使用されており、メタロセン系触媒による、プロピレン共重合体などは、従来のチーグラ/ナッタ系触媒による汎用のポリプロピレ系樹脂に比べて、分子量分布が狭く、低融点でかつ結晶化度が高いものが得られ、分子中に低い温度において融解に寄与する部分が多く存在し、チーグラ/ナッタ系触媒によるポリプロピレ系樹脂とメタロセン系重合触媒によるポリプロピレン系樹脂とが同じ融点を示すものであっても、後者の方がプロピレン系樹脂との融着性に優れている。
【0024】
また、本発明における表皮を形成している基材樹脂は、前述の部分融解熱量を求める熱流束示差走査熱量測定より得られるDSC吸熱曲線において115〜140℃、更に120〜135℃の温度領域に頂点温度を有する吸熱曲線ピークが現れるものであることが好ましく、また、溶融張力が1〜30cN、更に3〜25cNであることが好ましい。なお、表皮を形成している基材樹脂の融点はポリプロピレン系樹脂ペレット原料の融点と同じであり、表皮を形成している基材樹脂の溶融張力はポリプロピレン系樹脂ペレット原料の溶融張力と同じか、ポリプロピレン系樹脂ペレット原料の溶融張力よりも小さな値を示すことがある。そのことを踏まえて、必要ならば中空成形体を得る際の熱履歴を考慮した予備的な実験を行い目的の溶融張力を示す表皮を形成している基材樹脂を得ることができる。
【0025】
発泡粒子成形体を得る際のスチーム加熱条件としては、発泡粒子同士の融着性が良く、且つ収縮の少ない、良好な発泡粒子成形体を得るために、比較的短時間で昇圧して目的成形圧力に到達させ、短時間のうちにスチーム加熱を終了させることが好ましい。一方、表皮と発泡粒子成形体との融着性の観点から考えると、表皮の内面が発泡粒子との接着性を発揮する程度に融解するまで長時間スチーム加熱することが好ましい。
【0026】
そこで、表皮の基材樹脂は、表皮となる中空成形体の成形性と、表皮と発泡粒子成形体との融着性との両者を満足する上で、発泡粒子成形体を得る際のスチーム加熱時の目的成形圧力到達までに、速やかに中空成形体の基材樹脂の一部(発泡粒子との融着が達成できる量以上)が融解する、分子量分布の狭いメタロセン系触媒によるプロピレン系ランダム共重合体が特に好適な樹脂である。
【0027】
本発明においては、表皮の肉厚バランス等の観点を考慮することが好ましく、そのためにはメタロセン系触媒によるポリプロピレン系樹脂を単独で使用するよりも他の高溶融張力タイプのポリプロピレン系樹脂を混合して使用することが望ましい。この場合の混合割合は、高溶融張力タイプのポリプロピレン系樹脂が80重量%以下、更に20〜80重量%とすることが好ましい。
【0028】
本発明に使用される発泡粒子の基材樹脂は、従来汎用されているプロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体などのポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
【0029】
また、本発明における発泡粒子は、発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定により、発泡粒子3〜5mgを常温から200℃まで10℃/分の加熱速度で昇温した際に得られる第1回目のDSC曲線において、樹脂融点以下の温度領域に頂点を有する1以上の吸熱曲線ピークが現れると共に、樹脂融点を超える温度領域に1以上の吸熱曲線ピーク(以下、「高温ビーク」とも言う。)が現れ、該高温ピークの熱量が2〜12J/gである発泡粒子が好ましく使用される。
【0030】
また、発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂からなる発泡芯層と、該発泡芯層の表面を、該芯層を形成する樹脂の融点よりも低い融点又は軟化点を示す樹脂により被覆された多層構造、いわゆる鞘/芯構造の発泡粒子、或いはメタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂からなる発泡粒子を使用することができる。これらの発泡粒子を使用することにより比較的低いスチーム加熱圧力で発泡粒子同士を融着させることができる。
【0031】
本発明において中空成形体中に充填される発泡粒子は、見かけ密度が0.02〜0.2g/cmであり、該発泡粒子はこの種の発泡粒子を製造する公知の方法により製造することができる。例えば、オートクレーブのような加圧可能な容器内の所要量の水に、所望により界面活性剤を添加して樹脂粒子を分散し、発泡剤を圧入して加熱下に撹拌して発泡剤を樹脂粒子に含浸させ、所定時間経過後、高温高圧条件下の容器内から水とともに樹脂粒子を低圧域に放出し、該樹脂粒子を発泡させ発泡粒子を得る方法により製造される。
【0032】
本発明の表皮付発泡成形体の製造方法を図2および図3によりその概略を説明する。パリソンの製造例を示す図2に示される押出機に付設されたアキュムレータを介してダイ3から溶融樹脂を押出して稼動可能な左右一対のブロー成形用金型2、2間にポリプロピレン系樹脂パリソン1を垂下させたのち、金型を矢印方向に移動して型締めし、空気導入管4からパリソン内へ空気を導入するとともに管5、5から吸引してブロー成形して金型形状を反映した中空成形体を形成する。
【0033】
ついで、図3に示すように表皮付発泡成形体の表皮となる該中空成形体10内に、該中空体内部の圧力を調整する2本のピン7、8を差込み、中空成形体内部の圧力を調整しながらポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填用フィーダー9から中空成形体内部へ圧縮充填する。前記ピン7、8および充填用フィーダー9はシリンダー6、6により稼動する構成とされている。前記発泡粒子を充填したのち、前記ピン7、8の一方から吸引し、他方のピンから加圧スチームを供給して加熱する。この操作を所要時間交互に行って発泡粒子と表皮材とを完全に融着させると共に、発泡粒子同士を融着させて発泡粒子間に空間部が存在しない発泡粒子成形体20とした後、冷却し、前記シリンダーを稼動させて前記ピンおよびフィーダーを成形体から抜いて金型を開き表皮付発泡成形体22が製造される。図4に表皮付発泡成形体の一部切開斜視図を示す。
【0034】
前記の中空成形体内に、発泡粒子を充填用フィーダーから充填する際の圧縮充填圧力は、0.2〜4.0kgf/cm(G)が採用される。
【0035】
また、発泡粒子を加熱融着させ発泡粒子成形体を形成させると共に、表皮と発泡粒子とを融着させるために供給されるスチーム加熱圧力は、発泡粒子の種類にもよるが、通常3.0〜3.6kgf/cm(G)が採用される。スチーム加熱圧力が低すぎる場合には発泡粒子同士の融着性が低くなり、発泡粒子の融着を高めるためには長時間の加熱を要し成形サイクルが長くなり好ましくない。一方、スチーム加熱圧力が高い場合には経済的に不利であり、またスチーム加熱圧力が高すぎる場合には、成形後発泡粒子成形体が収縮するなどの現象が発生したりし、寸法制度の良好な表皮付発泡成形体が得られない。
【0036】
本発明の表皮付発泡成形体における発泡粒子成形体の見かけ密度は0.02〜0.1g/cmであり、表皮付発泡成形体全体の見かけ密度は、表皮の肉厚により多少異なるが、0.03〜0.3g/cm、好ましくは0.03〜0.2g/cmである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明の実施例に示す評価結果は比較例との対比により本発明の効果を相対的に示すものであり、本発明の権利範囲は実施例の評価結果より限定されるものはない。
【0038】
実施例1
日本ポリプロ株式会社製メタロセン系触媒により重合されたポリプロピレン(商品名:ウィンテック、グレード名:WFX6、メルトフローレイト2g/10分[230℃、21.18N]、溶融張力1.2cN、融点125℃)を、内径65mmの押出機に供給し、180℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした。なお、メタロセン系触媒により重合されたポリプロピレンを、以下単に「メタロセン系ポリプロピレン」という。
【0039】
次いで、該溶融樹脂を180℃に調整したアキュムレータに充填し、該溶融樹脂を該アキュムレータの下流側に連結されたダイから表1に示す吐出速度(kg/h・cm)で押出して筒状のパリソンを形成した。なお、該吐出速度は、瞬間吐出(kg/h)をダイリップ部の最大開口面積(cm)にて除した値である。
次に、得られた軟化状態にあるパリソンをダイ直下に位置し水冷された平板状金型(平板状金型成形空間部の寸法:縦400mm、横250mm、厚み40mm)内に配置して型締め後、金型下方に取り付けられた気体吹込み口からパリソンの内部に加圧気体(空気)を吹込むと同時にパリソン外面と金型内面との間を減圧することによって表1に示す厚みを有する中空成形体(表皮)を形成した。
【0040】
次に、この中空成形体内部に、表2に示す見かけ密度のプロピレン−エチレンランダム共重合体発泡粒子(メルトフローレイト:8g/10分[230℃、21.18N]、融点145℃、エチレン含量2.5重量%)を充填した。中空成形体内に発泡粒子を充填するに際し、該中空成形体内に所要の間隔を設けて2本のピンを中空成形体の縦方向に差し込み、該ピンにより該中空体内部の内圧を表2に示す圧縮充填圧力に調圧しながら前記発泡粒子を充填した後、充填された発泡粒子間に差し込まれている一方のピンから吸引しながら他方のピンより3.2kgf/cm(G)のスチームを8秒間供給し、次いでスチームを供給していたピンから吸引し、吸引していたピンから3.2kg/cm(G)のスチームを8秒間供給して、交互加熱を行なった後、更に3.2kg/cm(G)のスチームを両方のピンより5秒間供給して発泡粒子を加熱成形することにより中空成形体内に発泡粒子同士が相互に融着し粒子間に空隙のない発泡粒子成形体を得た。
次いで発泡粒子成形体の層内に差し込んだピンにより吸引冷却した後、金型を開いて表皮付発泡成形体を取り出し、この成形体を60℃、大気圧下で24時間養生して表皮付発泡成形体を得た。得られた表皮付発泡成形体は表皮内面と発泡粒子成形体とが完全に融着していた。得られた表皮付発泡成形体の諸物性を表2に示す。
【0041】
実施例2、3、4
日本ポリプロ株式会社製メタロセン系ポリプロピレン(商品名:ウィンテック、グレード名:WFX6)とBasell社製ポリプロピレン(グレード名:7823、メルトフローレイト0.4g/10分[230℃、21.18N]、溶融張力5.5cN、融点163℃)とを表1に示す配合割合にてドライブレンドし、内径65mmの押出機に供給し、180℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした以外は実施例1と同様にして表皮付発泡成形体を得た。得られた表皮付発泡成形体の諸物性を表2に示す。
【0042】
実施例5
表皮肉厚を表1に示す厚みとした以外は実施例1と同様にして表皮付発泡成形体を得た。得られた表皮付発泡成形体の諸物性を表2に示す。
【0043】
比較例1
Basell社製ポリプロピレン(グレード名:7823)を、内径65mmの押出機に供給し、220℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした。
次いで、220℃に調整したアキュムレータに充填し、アキュムレータから該溶融樹脂を押出すとともに、該アキュムレータの下流側に連結されたダイから溶融樹脂を表1に示す吐出速度(kg/h・cm)で押出してパリソンを形成した。
以降の操作は、実施例1と同様にして表皮付発泡成形体を得た。得られた表皮付発泡成形体の諸物性を表1及び2に示す。
【0044】
比較例2
表皮肉厚を表1に示す厚みとした以外は比較例1と同様にして表皮付発泡成形体を得た。得られた表皮付発泡成形体の諸物性を表2に示す。
【0045】
表皮付発泡成形体の物性評価は下記により行った。
【0046】
[表皮肉厚バランス]
表皮肉厚バランスは、直方体形状の表皮付発泡成形体(縦400mm、横250mm、厚み40mm)の縦400mm、横250mmで定まる一方の面において表皮の厚みを測定することにより評価した。具体的には、表皮付発泡成形体の横方向を2等分するように成形体を切断して得られる断面において、上記の縦400mm、横250mmで定まる一方の面の中央部の表皮の厚み(A)及び両端から各々5cm内側の部分の表皮の厚み(B)、(C)を求める。更に(A)、(B)、(C)の算術平均値(E)を算出し、平均値(E)と、それぞれの表皮の厚み(A)、(B)、(C)との差が、全て±0.1mm未満の場合を「◎」、全て±0.2mm未満の場合を「○」、(A)、(B)、(C)の値のいずれかひとつでも±0.2mm以上の場合を「×」と表示した。
【0047】
[溶融張力(MT)]
溶融張力は、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定される。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を230℃とし、ポリプロピレン系樹脂試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引き取り速度が0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取って紐状物が破断した際の直前の張力の極大値を得る。ここで、引取り速度が0m/分から200m/分に達するまでの時間を4分とした理由は、樹脂の熱劣化を抑えるとともに得られる値の再現性を高めるためである。上記操作を異なる試料を使用し、計10回の測定を行い、10回で得られた極大値の最も大きな値から順に3つの値と、極大値の最も小さな値から順に3つの値を除き、残った中間の4つの極大値を相加平均して得られた値を本発明方法における溶融張力(cN)とする。
【0048】
但し、上記した方法で溶融張力の測定を行い、引取り速度が200m/分に達しても紐状物が切れない場合には、引取り速度を200m/分の一定速度にして得られる溶融張力(cN)の値を採用する。詳しくは、上記測定と同様にして、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を張力検出用プーリーに掛け、4分間で0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーを回転させ、回転速度が200m/分になるまで待つ。回転速度が200m/分に到達してから溶融張力のデータの取り込みを開始し、30秒後にデータの取り込みを終了する。この30秒の間に得られたテンション荷重曲線から得られたテンション最大値(Tmax)とテンション最小値(Tmin)の平均値(Tave)を本発明方法における溶融張力とする。ここで、上記Tmaxとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたピーク(山)値の合計値を検出された個数で除した値であり、上記Tminとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたディップ(谷)値の合計値を検出された個数で除した値である。
尚、当然のことながら上記測定において溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出す際には該紐状物に、できるだけ気泡が入らないようにする。
【0049】
[表皮の厚み]
表皮付発泡成形体の厚みの測定は、表皮付発泡成形体の長手方向中央部および長手方向両端部付近の計3箇所の長手方向に対する垂直断面(但し、表皮付発泡成形体の特殊な形状部分は避けることとする。)に対して行い、各垂直断面の表皮周方向に沿って等間隔に6箇所の垂直断面の厚み方向の厚さの測定を行い、得られた18箇所の厚みの算術平均値を表皮の厚みとした。
【0050】
[表皮−発泡粒子成形体間の融着性]
表皮付発泡成形体から縦10cm、横10cmの正方形の表皮付の直方体形状の発泡粒子成形体(縦10cm、横10cm、厚み:表皮付発泡成形体厚み)を試験片として切り出し、該試験片の表皮を発泡粒子成形体から約200N(約20kgf)の力で引き剥がしたときの表皮と発泡粒子成形体との剥離状態を、発泡粒子成形体剥離面を観察することにより下記の基準にて評価した。
◎:50%以上の発泡粒子が材料破壊
○:30%以上の発泡粒子が材料破壊
×:発泡粒子が材料破壊せずに表皮面で剥離
【0051】
[剥離強度]
表皮付発泡成形体から切り出した、両面に縦50mm、横50mmの表皮付の直方体形状の発泡粒子成形体試験片(縦50mm、横50mm、厚み40mm)の上下面(表皮面)を接着剤にて剥離強度測定用冶具に接着させ、テンシロンにて2mm/分の引張速度にて引張試験を行なった。最大点応力を剥離強度(kgf/cm)としてそれぞれ表2に示す。表皮層と発泡粒子層との接着が非常に良いものは、発泡粒子同士間で材料破壊した。なお、上記測定により求められる本発明の実施例に係る表皮付発泡成形体の剥離強度(最大点応力)は0.5kgf/cm以上のものであり、表皮と発泡粒子成形体との接着性が良好なものであった。
【0052】
[DSC測定による融点]
融点は熱流束示差走査熱量計(DSC)により測定した。具体的には、試料樹脂3〜5mgを常温から200℃まで昇温し、その後直ちに10℃/分の冷却速度で40℃まで冷却し、次いで10℃/分の加熱速度で再度200℃まで加熱して得られる吸熱曲線において、得られる吸熱曲線ピークの頂点温度を融点とした。なお、表1中に融点が2つ示されているものは、吸熱曲線ピークが2つ存在していたことを意味し、それぞれのピークの頂点温度を融点として示した。
【0053】
[密度]
発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子成形体の見かけ密度、表皮付発泡成形体の見かけ密度はそれぞれ以下の通り求めた。
【0054】
発泡粒子見かけ密度:水の入ったメスシリンダー内に重量:W(g)の発泡粒子群を、金網などを使用して沈めることにより、水位上昇分から読取れる該発泡粒子群の体積:V(L)を測定し、該発泡粒子群の重量を該発泡粒子群の体積にて除する(W/V)ことにより求めた。
【0055】
発泡粒子成形体の見かけ密度:表皮付発泡成形体の表皮を除く発泡粒子成形体部分から試料を切り出し、切り出した試料の重量を該試料の体積で除することにより求めた。
【0056】
表皮付発泡成形体全体の見かけ密度:表皮付発泡成形体の重量を該成形体の体積で除することにより求めた。
【0057】
[軽量性]
表皮付発泡成形体全体の見かけ密度が0.2g/cm未満のものを「○」、0.2g/cm以上のものを「△」とした。
【0058】
[成形サイクル]
成形サイクルが150秒未満のものを「○」、150秒以上、180秒未満のものを「△」、180秒以上のものを「×」とした。
【0059】
【表1】

【0060】
表1中のm−PPはメタロセン系触媒ポリプロピレン、HMS−PPは高溶融張力タイプのポリプロピレンを表す。
【0061】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明における部分融解熱量(ΔT)およびと全融解熱量(ΔH)を説明するための熱流束示差走査熱量計(DSC)による吸熱曲線のグラフの一例を示す。
【図2】パリソンの製造工程の一例を示す概略断面図。
【図3】表皮付発泡成形体の製造装置の一例を示す概略断面図。
【図4】表皮付発泡成形体の一例を示す一部切開斜視図。
【符号の説明】
【0063】
α DSC曲線上の80℃に相当する点。
β 基材樹脂の融解終了温度Teに相当する点。
σ DSC曲線上の140℃の点。
γ 点σからグラフの縦軸と平行な直線を引き、直線(α−β)と交わる点。
1 パリソン
2 金型
3 ダイ
4 気体導入管
5 吸引管
10 中空成形体(表皮)
20 発泡粒子成形体
22 表皮付発泡成形体
6 シリンダー
7,8 ピン
9 充填用フィーダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形により得られたプロピレン系樹脂中空成形体からなる表皮内にポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体が位置してなる表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体であって、該表皮を形成している基材樹脂が、熱流束示差走査熱量測定における80〜140℃の部分融解熱量が15J/g以上、かつ部分融解熱量と全融解熱量との比(部分融解熱量/全融解熱量)が0.2以上のポリプロピレン系樹脂であり、該表皮の厚みが0.3〜3.5mm、該発泡粒子成形体の見かけ密度が0.015〜0.15g/cmであり、表皮と発泡粒子成形体とが融着していると共に、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子同士が相互に融着していることを特徴とする表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項2】
表皮を形成している前記基材樹脂が、230℃における溶融張力が1〜30cNのポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項3】
表皮を形成している前記基材樹脂が、メタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項4】
表皮を形成している前記基材樹脂が、メタロセン系重合触媒により重合されてなるポリプロピレン系樹脂と230℃における溶融張力が1〜30cNのポリプロピレン系樹脂とからなることを特徴とする請求項1に記載の表皮付ポリプロピレン系樹脂発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−273117(P2008−273117A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121721(P2007−121721)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】