説明

表示装置の製造方法およびマスク

【課題】簡素な工程で、高品質な保護膜を形成することができる表示装置の製造方法およびそれに用いるマスクを提供する。
【解決手段】基板11上にマスク140を配置し、マスク140の枠部142で電極パッド領域20を覆うと共に開口部141内に表示領域30を露出させ、プラズマCVD法により表示領域30に窒化ケイ素などよりなる保護膜を形成する。枠部142の開口部141側に、傾斜面を有するガス案内部143を設ける。枠部142と基板11との接点近傍でガスの流れが変わってしまうことがなく、マスク140近傍で保護膜の厚みが不均一になってしまうことがなくなる。ガス案内部143の下端143Aと上端143Bとを結ぶ直線が、枠部142の基板対向面144に対してなす傾斜角θは、10度以上15度以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示領域上に保護膜を有する表示装置の製造方法およびそれに用いるマスクに係り、特に表示領域を有機発光素子により構成した場合に好適な表示装置の製造方法およびそれに用いるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機発光素子を用いた有機発光ディスプレイが注目されている。この有機発光ディスプレイでは、水分または酸素などが有機発光素子に侵入することによって発光しないエリア(ダークスポット)が発生したり輝度が劣化したりするおそれがある。そのため、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)により窒化ケイ素(SiNx )などの保護膜を形成し、この保護膜で有機発光素子を覆う場合がある。しかし、有機発光素子からなる表示領域の周辺には、外部との接続を行うための電極パッド領域が設けられており、この電極パッド領域には保護膜を形成しないようにする必要がある。
【0003】
電極パッド領域に保護膜を形成しないようにするためには、保護膜を形成する際に電極パッド領域を金属などのマスクで覆っておくという方法が考えられる。しかし、この方法は、例えば特許文献1で指摘されている原料ガスの回りこみなどいくつかの問題があり、実現には至っていなかった。
【0004】
そのかわり、従来では、基板全体に薄膜を形成したのち、フォトリソグラフおよびエッチングにより薄膜を部分的に除去して電極パッド領域を露出させるという方法が一般的であった(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−151254号公報(0005,0006段落)
【特許文献2】特開2003−249354号公報
【特許文献3】国際公開第01/39554号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようにエッチングを用いて保護膜を成形する従来の方法では、工程数が増えてしまうという問題があった。
【0006】
マスクを用いて保護膜を成膜すれば、保護膜形成工程は著しく簡素なものとなる。一方、図16に示したようにマスク240の角部240AによりガスGの流れが変わってしまうので、図17に示したようにマスク近傍で保護膜340の厚みが薄くなったり厚くなったりするグラデーション領域350が発生し、あるいは保護膜に斑が生じてしまうという問題があった。
【0007】
特に、有機発光ディスプレイの場合には、有機材料の耐熱性を考慮して低温で保護膜を形成しなければならないので、保護膜の膜質を良くするためには原料ガスの流量を大きくする必要がある。そのため、マスクの側面近傍に多量のガスが滞留しやすく、ガスの流れに対するマスクの影響は極めて重大なものとなっていた。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡素な工程で、高品質な保護膜を形成することができる表示装置の製造方法およびそれに用いるマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による表示装置の製造方法は、基板に、表示素子を有する表示領域および前記表示領域と外部との接続を行うための電極パッド領域を形成する工程と、表示領域に保護膜を形成する工程とを含むものであり、保護膜の形成工程において、枠部および開口部を有するマスクを用いる。すなわち、マスクの枠部で電極パッド領域を被覆すると共に開口部内に前記表示領域を露出させたのち、基板を加熱しつつ原料ガスを供給し、原料ガスの反応生成物質を開口部内に堆積させることにより、表示領域上に保護膜を形成するものである。
【0010】
このような方法に用いる本発明のマスクは、反応生成物質が通過可能な開口部を有する枠部の開口部側にガス案内部を設けたものである。このガス案内部は、厚みが開口部に向かって薄くなる傾斜面または湾曲面を有している。
【0011】
本発明のマスクを基板上に配置したのち、基板を加熱しつつ原料ガスを供給すると、この原料ガスの反応生成物質が開口部内に堆積することにより、例えば保護膜が形成される。一方、未反応の原料ガスなどは、基板の中央付近から周辺に向かって流れ、枠部の開口部側に設けられたガス案内部に沿って、枠部の側面に滞留することなく移動し、そのまま枠部を乗り越えて基板外側へと流れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表示装置の製造方法によれば、保護膜の形成工程において、枠部および開口部を有するマスクを用い、マスクの枠部で電極パッド領域を被覆すると共に開口部内に表示領域を露出させるようにしたので、電極パッド領域に形成された保護膜をフォトリソグラフやエッチングなどで除去する工程が不要となり、簡素な工程で保護膜を形成することができる。また、プラズマCVD法など、基板を加熱して原料ガスを供給し、原料ガスの反応により生成した物質を開口部内に堆積させる成膜方法を用いるので、段差被覆性(ステップカバレッジ)が良好で、高品質な保護膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明のマスクによれば、枠部の開口部側に、厚みが開口部に向かって薄くなる傾斜面または湾曲面を有するガス案内部を設けるようにしたので、マスクの枠部と基板との接点近傍で原料ガスの流れが変わってしまうことがなく、マスク近傍で保護膜の厚みが厚くなったり薄くなったりして不均一になってしまうようなことがなくなる。よって、有機発光ディスプレイなどの表示装置を製造する場合に、保護膜の膜質を良くするために原料ガスの流量を大きくすることができ、厚みの均一な保護膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。
【0015】
図1ないし図15は、本発明の一実施の形態に係る表示装置の製造方法を表すものである。まず、図1(A)に示したように、例えばガラスなどの絶縁材料よりなる基板11を用意し、この基板11の上に、後述する有機発光素子の各々の形成予定位置に対応して複数のTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)12を配列形成したTFTアレイを形成すると共に、その周囲に駆動回路(図示せず)を形成する。このとき、有機発光素子や駆動回路を外部に接続するための電極パッド21も形成する。
【0016】
次いで、同じく図1(A)に示したように、例えばスピンコート法により、ポリイミドなどのポジ型感光性アクリル樹脂を塗布、露光、現像することにより、平坦化のための第1絶縁膜13を形成する。露光の際には、コンタクトホール13Aを形成すると共に、第1絶縁膜13が電極パッド21上には形成されないようにする。
【0017】
続いて、同じく図1(A)に示したように、基板11に対して窒素(N2 )などの不活性ガス雰囲気中でベーク処理を行うことにより、アクリル樹脂を硬化させると共に、第1絶縁膜13に含まれる水分などを除去する。
【0018】
そののち、第1絶縁膜13の上に、例えばスパッタ法により、例えば白金(Pt),金(Au),クロム(Cr)またはタングステン(W)などの金属または合金よりなる導電層(図示せず)を形成する。この導電層は、後述する第1電極や補助配線などを形成するためのものであり、例えば、厚みが約30nmの酸化インジウムスズ(ITO)膜,厚みが約100nmの銀(Ag)合金膜および厚みが約30nmのITO膜を、基板11側から順に積層した構成とすることが好ましい。銀合金膜により第1電極の反射率を高くすることができると共に、ITO膜により銀合金膜を保護し、密着性や化学的安定性を高めることができるからである。
【0019】
導電層を形成したのち、例えばリソグラフィおよびエッチングにより所定の形状に成形し、図1(B)および図2に示したように、各有機発光素子の形成予定位置に陽極としての第1電極31をマトリクス状に配置形成する一方、これらの第1電極31を囲む幅約3mmの額縁状の補助配線32を形成し、この補助配線32を駆動回路(図示せず)に接続する。なお、この補助配線32は、後述する第2電極に電気的に接続され、配線抵抗を低減することにより輝度を向上させると共に各画素間の輝度ばらつきを小さくするために設けるものである。このため、補助配線32は導電性に優れた材料により構成することが好ましく、また、その幅は広くするほうが好ましい。そののち、マスクを剥離する。
【0020】
第1電極31および補助配線32を形成したのち、図3(A)に示したように、第1電極31および補助配線32の上に、例えばスピンコート法により、ポジ型感光性アクリル樹脂を塗布、露光および現像することにより、素子分離のための第2絶縁膜15を形成する。このとき、第1電極31に対応して開口部15Aを形成すると共に、補助配線32に対応して開口部15Bを形成し、第1電極31および補助配線32の上面を露出させる。そののち、基板11に対して窒素(N2 )などの不活性ガス雰囲気中でベーク処理を行うことにより、アクリル樹脂を硬化させると共に、第1絶縁膜13および第2絶縁膜15に含まれる水分などを除去する。
【0021】
第2絶縁膜15を形成したのち、微小異物を除去するために純水でスピン洗浄を行い、続いて、真空雰囲気でベーク処理を行う。そののち、真空雰囲気を維持した状態で酸素(O2 )プラズマにより基板11の前処理を行う。
【0022】
続いて、図3(B)に示したように、真空雰囲気を維持した状態で、例えば蒸着法により、各有機発光素子の形成予定位置に有機層33を形成する。その際、有機層33は、有機発光素子の発光色によって異なる構成とする。赤色の光を発生する有機発光素子30Rまたは青色の光を発生する有機発光素子30Bは、正孔輸送層,発光層および電子輸送層が第1電極31の側からこの順に積層された構造とし、緑色の光を発生する有機発光素子30Gは、正孔輸送層および発光層が第1電極31の側からこの順に積層された構造とする。正孔輸送層は、発光層への正孔注入効率を高めるためのものである。発光層は、電流の注入により光を発生するものである。電子輸送層は、発光層への電子注入効率を高めるためのものである。
【0023】
有機発光素子30Rの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)が挙げられ、有機発光素子30Rの発光層の構成材料としては、例えば、2,5−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)―N−フェニルアミノ]]スチリルベンゼン―1,4−ジカーボニトリル(BSB)が挙げられ、有機発光素子30Rの電子輸送層の構成材料としては、例えば、8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3 )が挙げられる。
【0024】
有機発光素子30Bの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子30Bの発光層の構成材料としては、例えば、4,4−ビス(2,2−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)が挙げられ、有機発光素子30Bの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq3 が挙げられる。
【0025】
有機発光素子30Gの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子30Gの発光層の構成材料としては、例えば、Alq3 にクマリン6(C6;Coumarin6)を1体積%混合したものが挙げられる。
【0026】
有機層33の総厚みは発光波長に応じて調節し、例えば有機発光素子30Rでは約150nm、有機発光素子30Bでは約200nm、有機発光素子30Gでは約100nmとする。これは、有機発光素子30R,30G,30Bが、例えば特許文献3に記載されているような共振器構造を有するようにするためである。
【0027】
このように有機層33は発光色により構成および総厚みが異なるので、有機層33の蒸着は各色別の蒸着装置または蒸着室で行い、更に、各蒸着装置間または各蒸着室間の搬送も真空雰囲気を維持した状態で行うことが望ましい。また、総厚みの薄い有機層33が蒸着マスクとの接触により損傷を受けてしまうことを避けるため、有機層33の蒸着は、総厚みの厚い色から先に、例えば青色,赤色および緑色の順に行うことが望ましい。
【0028】
有機層33を形成したのち、真空雰囲気を維持した状態で基板11を更に別の蒸着装置または蒸着室へと搬送し、図4に示したように、例えば厚みが約1nmのフッ化リチウム(LiF)よりなる電子注入層(図示せず)と、例えば厚みが約10nmのアルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属または合金よりなる半透過性の陰極としての第2電極34とを順に形成する。また、第2電極34は、開口部15Bに露出した補助配線32の上面にも形成し、第2電極34と補助配線32とを電気的に接続する。第2電極34の構成材料としては、マグネシウムと銀との合金(MgAg合金)が好ましい。これにより、第1電極31,有機層33および第2電極34をこの順に積層した有機発光素子30R,30G,30Bが形成される。
【0029】
このようにして、図5に示したように、基板11に、複数の有機発光素子30R,30G,30Bを有する表示領域30が形成されると共に、表示領域30と外部との接続のための電極パッド21を有する電極パッド領域20が形成される。なお、表示領域30には、上述した駆動回路(図示せず)や補助配線32も含まれる。
【0030】
表示領域30および電極パッド領域20を形成したのち、例えばプラズマCVD法により、表示領域30に、例えば厚みが3μmの窒化ケイ素よりなる保護膜40を形成する。
【0031】
図6は、保護膜40を形成するためのプラズマCVD装置の概略構成を表すものである。このプラズマCVD装置は、成膜室110内に、基板11を支持する支持台120が設けられ、その上方にシャワープレート130が配置された構成を有している。成膜室110には、排気ポンプ(図示せず)などに接続された排気口111が設けられている。支持台120は、基板11を加熱するため温度調節可能となっている。シャワープレート130には、原料ガスを導入するためのガス導入口131が接続されている。また、支持台120とシャワープレート130とは、プラズマ発生のための並行平板電極としての機能も有しており、両者の間には例えば13.56MHzの高周波電力が印加されるようになっている。
【0032】
支持台120上の基板11には、マスク140が取り付けられている。図7は、このマスク140の全体構成を表し、図8はその断面構造を表したものである。このマスク140は、開口部141を有する枠部142を備えている。また、マスク140は、保護膜40を形成する際の温度に耐えることのできる十分な耐熱性を有する材料、例えばセラミックの表面にアルマイト処理を施した材料、または金属により構成されている。
【0033】
枠部142の開口部141側には、厚みが開口部141に向かって薄くなる傾斜面を有するガス案内部143が設けられている。これにより、このマスク140では、枠部142と基板11との接点近傍でガスGの流れが変わってしまうことがなく、マスク140近傍での保護膜40の厚みの不均一をなくすことができるようになっている。
【0034】
ガス案内部143の下端143Aと上端143Bとを結ぶ直線が、枠部142の基板対向面144に対してなす傾斜角θは、10度以上15度以下であることが好ましい。15度よりも大きいと、図9に示したように、グラデーション領域350(図17参照。)の幅Wが大きくなってしまい、また10度未満では枠部142の強度が不十分になるおそれがあるからである。なお、図9は、傾斜角θを変化させて保護膜を作製し、グラデーション領域350の幅Wを測定した結果を表したものである。
【0035】
ガス案内部143の形状は、ガスの流れに影響しない形状であればよく、図8に示したような傾斜面に限られない。例えば、図10に示したような湾曲面でもよい。
【0036】
また、ガス案内部143は、必ずしも枠部142の高さ方向全部にわたって設けられている必要はなく、図11(A)に示したように、高さ方向一部のみに設けられていてもよい。この場合、ガス案内部143の下端143Aは枠部142の下端に一致していることが望ましい。図11(B)に示したように、ガス案内部143の下端143Aが枠部142の内側面の途中にある場合、この下端143Aが角部となり、そこでガスGの流れが変わってしまい、十分な効果が得られないおそれがあるからである。
【0037】
あるいは、ガス案内部143は、図12に示したように、二段以上の傾斜面を有していてもよい。また、傾斜面と湾曲面とを組み合わせたものであってもよい。この場合、傾斜角θは、最も基板11に近い傾斜面または湾曲面において、下端143Cと上端143Dとを結ぶ直線が、枠部142の基板対向面144に対してなす角とする。
【0038】
枠部142の外側面145の形状は特に限定されないが、この外側面145にも、ガス案内部143と同様に、例えば図13に示したような傾斜面、または湾曲面が設けられていてもよい。
【0039】
更に、マスク140の基板対向面144は、面精度が0.05mm以下、すなわち面粗度が0.01a〜0.2aであることが好ましい。マスク140と基板11との密着性を高めることができ、原料ガスの回りこみを抑えることができるからである。
【0040】
一方、マスク140の基板対向面144以外の面、すなわち上面および両側面は、凹凸を有することが好ましい。シャワープレート130と基板11との距離は10mm〜50mmとかなり狭く、そこにマスク140を設けると、シャワープレート130および基板11の間の距離が、シャワープレート130およびマスク140の間の距離Lと異なるので、窒化ケイ素の未反応物質が生成され、基板11に付着してダストの原因となるおそれがある。基板対向面144以外の面に凹凸を設けることにより、このようなダストが基板11に付着するのを防止することができる。
【0041】
凹凸のRaは1μm以上10μm以下であることが好ましい。上面146のみにRa10μm以上の凹凸をつけると、加工段階でマスク140の形が歪んでしまうおそれがあり、また、1μm以下では効果が得られないからである。
【0042】
このようなマスク140は、例えば、上述した材料よりなる板状の母材を加工することにより製造することができる。なお、基板対向面144以外の面の凹凸は、例えばブラストまたは溶射により形成することができる。
【0043】
このプラズマ処理装置およびマスク140を用いた保護膜40の形成は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0044】
まず、基板11上にマスク140を配置し、枠部142で電極パッド領域20を被覆すると共に、開口部141内に表示領域30を露出させる。次いで、基板11を支持台120に載置し、排気口111からの排気により成膜室110内の圧力を所定の値に低下させる。また、支持台120の温度を調節して基板11を加熱し、シャワープレート130から原料ガスとして例えばNH3 ,SiH4 およびN2 を供給し、原料ガスに高電界を印加してプラズマを発生させる。これにより、原料ガスの反応により生成された窒化ケイ素を開口部141内に堆積させ、図14に示したように、表示領域30に保護膜40を形成する。
【0045】
成膜条件としては、例えば、シャワープレート130とマスク140との間の距離Lは20mm、原料ガスの流量は、NH3 が800sccm,SiH4 が800sccm,N2 が3000sccm、パワーは1.2Kw、時間は300secとすることができる。また、基板11を加熱する温度は、有機層22の耐熱性を考慮して、例えば60℃以下とすることが好ましい。
【0046】
保護膜40を形成したのち、有機発光素子30R,30G,30Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料よりなる封止用基板50を用意し、この封止用基板50に必要に応じてカラーフィルタ60を形成する。そののち、図15に示したように、保護膜40の上に例えば熱硬化性樹脂または紫外線硬化型樹脂よりなる接着層70を形成し、この接着層70を間にして、基板11とカラーフィルタ60が形成された封止用基板50とを貼り合わせる。そのとき、加熱または紫外線照射などにより接着層70を硬化させる前に、カラーフィルタ60と有機層33とをアライメントしておくことが望ましい。以上により、極薄型有機発光カラーディスプレイ装置などとして用いられる表示装置が完成する。
【0047】
この表示装置では、第1電極31と第2電極34との間に所定の電圧が印加されると、有機層33の発光層に電流が注入され、正孔と電子とが再結合することにより発光が起こる。この光は、第2電極34,保護膜40および封止用基板50を透過して取り出される。ここでは、保護膜40が、ガス案内部143を有するマスク140を用いて形成されているので、保護膜40の厚みの均一性が高くなっている。よって、保護膜40の薄いところから水分等が有機発光素子30R,30G,30Bに侵入することが防止され、信頼性が向上する。
【0048】
このように本実施の形態の表示装置の製造方法では、マスク140の枠部142で電極パッド領域20を被覆すると共に開口部141内に表示領域30を露出させて保護膜40を形成するようにしたので、電極パッド領域20に形成された保護膜40をフォトリソグラフやエッチングなどで除去する工程が不要となり、簡素な工程で保護膜40を形成することができる。また、プラズマCVD法のように、基板11を加熱して原料ガスを供給し、原料ガスの反応により生成した窒化ケイ素を開口部141内に堆積させる成膜方法を用いるので、段差被覆性(ステップカバレッジ)が良好で、高品質な保護膜40を形成することができる。
【0049】
また、本実施の形態のマスクでは、枠部142の開口部141側に、厚みが開口部141に向かって薄くなる傾斜面または湾曲面を有するガス案内部143を設けるようにしたので、マスク140の枠部142と基板11との接点近傍でガスGの流れが変わってしまうことがなく、マスク140近傍で保護膜40の厚みが厚くなったり薄くなったりして不均一になってしまうようなことがなくなる。よって、有機発光ディスプレイなどの表示装置を製造する場合に、保護膜40の膜質を良くするために原料ガスの流量を大きくすることができ、厚みの均一な保護膜40を形成することができる。
【0050】
特に、ガス案内部143の下端143Aと上端143Bとを結ぶ直線が基板対向面144に対してなす傾斜角θを、10度以上15度以下とすれば、より高い効果を得ることができる。
【0051】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。例えば、保護膜40は、二酸化ケイ素(SiO2 )など、ケイ素(Si)を含む他の化合物により構成してもよい。
【0052】
また、例えば、上記実施の形態においては、基板11の上に、第1電極31,有機層33および第2電極34を基板11の側から順で積層し、封止用基板70の側から光を取り出すようにした場合について説明したが、積層順序を逆にして、基板11の上に、第2電極34,有機層33および第1電極31を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【0053】
更に、例えば、上記実施の形態では、第1電極31を陽極、第2電極34を陰極とする場合について説明したが、陽極および陰極を逆にして、第1電極31を陰極、第2電極34を陽極としてもよい。この場合、第2電極34の材料としては、金,銀,白金,銅などの単体または合金が好適であるが、第2電極34と有機層33との間に正孔注入用薄膜層を設けることによって他の材料を用いることもできる。さらに、第1電極31を陰極、第2電極34を陽極とすると共に、基板11の上に、第2電極34,有機層33および第1電極31を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【0054】
加えて、上記実施の形態では、有機発光素子30R,30B,30Gの構成を具体的に挙げて説明したが、電子注入層などの全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。例えば第1電極31を、誘電体多層膜またはAlなどの反射膜の上部に透明導電膜を積層した2層構造とすることもできる。
【0055】
更にまた、補助配線32は、有機発光素子30R,30B,30Gの周囲だけでなく、各有機発光素子30R,30B,30Gの間にも形成されていてもよい。
【0056】
更にまた、上記実施の形態では、第2電極34が半透過性電極により構成されている場合について説明したが、第2電極34は、半透過性電極と透明電極とが第1電極31の側から順に積層された構造としてもよい。この透明電極は、半透過性電極の電気抵抗を下げるためのものであり、発光層で発生した光に対して十分な透光性を有する導電性材料により構成されている。透明電極を構成する材料としては、例えば、ITOまたはインジウムと亜鉛(Zn)と酸素とを含む化合物が好ましい。室温で成膜しても良好な導電性を得ることができるからである。透明電極の厚みは、例えば30nm以上1000nm以下とすることができる。
【0057】
また、上記実施の形態では、表示領域30に有機発光素子30R,30G,30Bを形成するようにした場合について説明したが、本発明は、表示領域30に、無機電界発光素子などのような自発光素子を形成した場合、または表示領域30に液晶表示素子を形成した場合などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示装置の製造方法を工程順に表す断面図である。
【図2】図1(B)に示した基板の平面図である。
【図3】図2に続く工程を表す断面図である。
【図4】図3に続く工程を表す断面図である。
【図5】図4に示した基板の平面図である。
【図6】図5に続く保護膜形成工程で用いられるプラズマCVD装置の一例を表す概略構成図である。
【図7】図6に示したマスクの全体構成を表す斜視図である。
【図8】図7に示したマスクの断面図である。
【図9】傾斜角θとグラデーション領域の幅Wとの相関関係を調べた結果を表す図である。
【図10】マスクの変形例を表す断面図である。
【図11】マスクの他の変形例を表す断面図である。
【図12】マスクの他の変形例を表す断面図である。
【図13】マスクの他の変形例を表す断面図である。
【図14】図5に続く工程を表す断面図である。
【図15】図14に続く工程を表す断面図である。
【図16】従来のマスクの問題点を説明するための図である。
【図17】従来のマスクを用いて形成された保護膜の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
11…基板、20…電極パッド領域、21…補助配線、30…表示領域、30R,30G,30B…有機発光素子、31…第1電極、32…補助配線、33…有機層、34…第2電極、40…保護膜、50…封止用基板、70…接着層、140…マスク、141…開口部、142…枠部、143…ガス案内部、144…基板対向面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、表示素子を有する表示領域および前記表示領域と外部との接続を行うための電極パッド領域を形成する工程と、前記表示領域に保護膜を形成する工程とを含み、
前記保護膜の形成工程において、枠部および開口部を有するマスクを用い、前記マスクの枠部で前記電極パッド領域を被覆すると共に前記開口部内に前記表示領域を露出させたのち、前記基板を加熱しつつ原料ガスを供給し、前記原料ガスの反応生成物質を前記開口部内に堆積させる
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記マスクは、前記枠部の前記開口部側に、厚みが前記開口部に向かって薄くなる傾斜面または湾曲面を有するガス案内部を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記ガス案内部の下端と上端とを結ぶ直線が前記枠部の基板対向面に対してなす傾斜角は、10度以上15度以下である
ことを特徴とする請求項2記載の表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記保護膜はケイ素(Si)を含む化合物により構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜は窒化ケイ素(SiNx )または二酸化ケイ素(SiO2 )のうち少なくとも一方により構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記表示素子は、第1電極および第2電極の間に有機層を備えた有機発光素子である
ことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。
【請求項7】
基板上に配置され、前記基板を加熱しつつ供給された原料ガスによる反応生成物質を前記基板上に選択的に堆積させるために用いられるマスクであって、
反応生成物質が通過可能な開口部を有する枠部と、
前記枠部の前記開口部側に設けられると共に、厚みが前記開口部に向かって薄くなる傾斜面または湾曲面を有するガス案内部と
を備えたことを特徴とするマスク。
【請求項8】
前記ガス案内部の下端と上端とを結ぶ直線が前記枠部の基板対向面に対してなす傾斜角は、10度以上15度以下である
ことを特徴とする請求項7記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−134243(P2007−134243A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327930(P2005−327930)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】