説明

表示装置及びその製造方法

【課題】表示画素の画素形成領域に膜厚が比較的均一な有機EL層を形成して表示パネルの開口率を向上させて、良好な表示画質を実現することができる表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁性基板11上の画素形成領域を画定するバンク18(バンクメタル部18b)表面に、トリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜18cからなる酸化防止膜を選択的に形成した後、絶縁性基板11に酸素プラズマ処理やUV−オゾン処理を施して画素電極15表面を親液化することにより、当該親液化処理によりバンク18表面が酸化される現象を抑制して、バンク18(トリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜18c)表面に撥液性のフッ素系トリアジンジチオール誘導体の被膜18dを良好に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置及びその製造方法に関し、特に、表示画素として有機エレクトロルミネッセンス素子を複数配列した表示パネルを備えた表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや映像機器、携帯情報機器等のモニタ、ディスプレイとして多用されている液晶表示装置(LCD)に続く次世代の表示デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)や発光ダイオード(LED)等のような自発光素子を2次元配列した発光素子型の表示パネルを備えたディスプレイ(表示装置)の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、アクティブマトリックス駆動方式を適用した発光素子型ディスプレイにおいては、液晶表示装置に比較して、表示応答速度が速く、視野角依存性もなく、また、高輝度・高コントラスト化、表示画質の高精細化等が可能であるとともに、液晶表示装置のようにバックライトを必要としないので、一層の薄型軽量化や低消費電力化が可能であるという極めて優位な特徴を有している。
【0004】
ここで、発光素子型ディスプレイに適用される自発光素子の一例として、有機EL素子について簡単に説明する。
図9は、有機EL素子の一構成例を示す概略断面図である。
図9に示すように、有機EL素子は、概略、ガラス基板等の絶縁性基板111の一面側(図面上方側)に、アノード(陽極)電極112、有機化合物等(有機材料)からなる有機EL層113、及び、カソード(陰極)電極114を順次積層した構成を有している。
【0005】
有機EL層113は、例えば、ホール(正孔)輸送材料からなるホール輸送層(正孔注入層)113aと、電子輸送性発光材料からなる電子輸送性発光層(発光層)113bとを積層して構成されている。なお、有機EL層113(ホール輸送層113a及び電子輸送性発光層113b)に適用されるホール輸送材料や電子輸送性発光材料としては、低分子系や高分子系の種々の有機材料が知られている。
【0006】
ここで、一般に、低分子系の有機材料の場合、有機EL層における発光効率は比較的高いものの、製造プロセスにおいて蒸着法が適用されているため、画素形成領域のアノード電極上にのみ選択的に薄膜形成する際に、上記アノード電極以外の領域への低分子材料の蒸着を防止するためのマスク表面にも低分子材料が付着することになるため、製造時の材料ロスが大きいうえ、製造プロセスが非効率的であるという問題を有している。
【0007】
一方、高分子系の有機材料を適用した場合には、湿式成膜法として液滴吐出法(いわゆる、インクジェット法)等を適用することができるので、画素形成領域のアノード電極上にのみ選択的に液滴を塗布して、良好に有機EL層(ホール輸送層及び電子輸送性発光層)の薄膜を形成することができる。
【0008】
ここで、高分子系の有機材料を適用した有機EL素子の製造プロセスについて、簡単に説明する。
図10及び図11は、従来技術における表示パネル(有機EL素子)の製造プロセスの一例を示す工程断面図である。ここでは、説明の都合上、絶縁性基板上に有機EL素子のみを形成する場合を示す。また、上述した有機EL素子(図9)の素子構造と同等の構成については、同一の符号を付して説明する。
【0009】
有機EL素子の製造プロセスの一例は、まず、図10(a)に示すように、ガラス基板等の絶縁性基板111の一面側(図面上方側)の、各表示画素が形成される領域(画素形成領域)Apxごとにアノード電極(陽極)112を形成した後、図10(b)に示すように、隣接する表示画素との境界領域に絶縁性の樹脂材料等からなる隔壁(バンク)121を形成する。ここで、隔壁121に囲まれた画素形成領域Apxには、上記アノード電極112が露出している。
【0010】
次いで、図10(c)に示すように、酸素ガス雰囲気中で上記絶縁性基板111表面に紫外線UVを照射することにより、活性酸素ラジカルが発生して、アノード電極112表面の有機物を分解除去して親水化するとともに、隔壁121表面においてもラジカルを発生して親液化する。
次いで、上述した親液化処理を施した絶縁性基板111に対して、フッ化物ガス雰囲気中で紫外線UVを照射することにより、隔壁121表面においてはフッ素が結合して撥液化(撥水化)し、一方、アノード電極(ITO)112表面は親液性を保持する。
【0011】
次いで、図10(d)に示すように、インクジェット装置を用いて、インクヘッドIHHから高分子系の有機材料からなる正孔注入材料(ホール輸送材料を溶媒に分散又は溶解させた液状材料)HMCを液滴状にして吐出させ、上記親液性を有するアノード電極112上に塗布した後、乾燥処理を行うことにより、図10(e)に示すように、アノード電極112上に正孔注入材料HMCを定着させて正孔注入層113aを形成する。
【0012】
次いで、同様に、図10(f)に示すように、インクヘッドIHEから高分子系の有機材料からなる発光材料(電子輸送性発光材料を溶媒に分散又は溶解させた液状材料)EMCを液滴状にして吐出させ、上記正孔注入層113a上に塗布した後、乾燥処理を行うことにより、図11(g)に示すように、発光材料EMCを定着させて発光層113bを形成する。なお、上記正孔注入材料HMC及び発光材料EMCの塗布処理においては、隔壁121表面が撥水性を有しているので、仮に正孔注入材料HMCや発光材料EMCの液滴が隔壁121上に着滴してもはじかれて、各画素形成領域Apxのアノード電極112上の親液性領域(すなわち、有機EL素子形成領域Ael)にのみ塗布されることになる。
【0013】
次いで、図11(h)に示すように、各画素形成領域Apxの有機EL層113(正孔注入層113a及び発光層113b)を介してアノード電極112に対向するように、共通電極からなるカソード電極(陰極)114を形成した後、図11(i)に示すように、当該カソード電極114を含む絶縁性基板111上に、保護絶縁膜や封止樹脂層115を形成し、さらに封止基板116を接合することにより、有機EL素子(有機EL表示パネル)が完成する。
このような有機EL素子の製造方法については、例えば、特許文献1等に詳しく説明されている。
【0014】
このような素子構造を有する有機EL素子においては、図9に示すように、直流電圧源115からアノード電極112に正電圧、カソード電極114に負電圧を印加することにより、ホール輸送層113aに注入されたホールと電子輸送性発光層113bに注入された電子が有機EL層113内で再結合する際に生じるエネルギーに基づいて光(励起光)hνが放射される。
【0015】
ここで、この光hνは、アノード電極112及びカソード電極114を、各々、光透過性又は遮光性(及び反射特性)を有する電極材料を用いて形成することにより、絶縁性基板111の一面側(図面上方)もしくは他面側(図面下方)の任意の方向に放射させることができる。このとき、光hνの発光強度は、アノード電極112とカソード電極114間に流れる電流量に応じて決まる。
【0016】
なお、図9においては、アノード電極112として錫ドープ酸化インジウム(ITO;Indium Thin Oxide)等の透明電極材料を用い、カソード電極114として金属材料等の遮光性及び反射特性を有する電極材料を用いることにより、有機EL層113において発光した光hνを、直接又はカソード電極114で反射させて、透明な絶縁性基板111の他面側に放射させるボトムエミッション構造について示した。
【0017】
【特許文献1】特開2003−257656号公報 (第4頁〜第6頁、図2〜図5、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したような表示パネル(有機EL素子)の製造方法においては、各表示画素(画素形成領域Apx)のアノード電極112上を親水化しているが、このような親水化処理は親水化の持続時間が短く、またその後にフッ素化物ガスによって撥水化処理しているので、アノード電極112親水性が低下してしまい、有機EL層の膜厚が不均一になる恐れがあった。
【0019】
このように、画素形成領域内に形成される有機EL層の膜厚が不均一になると、発光動作時に供給される発光駆動電流が膜厚の薄い領域に集中して流れ、当該領域において発光輝度が高くなり、厚い領域は発光輝度が低くなり、上述した表示パネルの画素における発光面積比率が低下して、表示画質が劣化するという問題を有していた。また、有機EL層が薄すぎると、アノード電極112とカソード電極114とがショートしてしまう恐れがあり、表示欠陥の要因となっていた。
【0020】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、表示画素の画素形成領域に膜厚が比較的均一な有機EL層を形成することができる表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1記載の発明は、表示装置の製造方法において、
少なくとも表面が金属導電層である複数の隔壁の表面に酸化防止膜を被膜する酸化防止工程と、
前記複数の隔壁間に配置された画素電極を親液化処理する親液化工程と、
を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1に記載の表示装置の製造方法において、前記親液化処理工程後に、前記画素電極上に電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程をさらに含むことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の表示装置の製造方法において、前記画素電極は表面が金属酸化物を有していることを特徴とする。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記酸化防止工程は、前記複数の隔壁の表面に選択的に前記酸化防止膜が被膜することを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記酸化防止膜は、トリアジンチオール化合物を有することを特徴とする。
【0024】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記親液化工程は、オゾン処理工程を含むことを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記親液化処理後に前記複数の隔壁の表面を選択的に撥液処理する撥液化処理工程をさらに含むことを特徴とする。
【0025】
請求項8の発明は、請求項7に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化処理工程は、前記複数の隔壁の表面に選択的に撥液化膜が被膜されることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項8に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化膜は金属に選択的に被膜し、金属酸化物には、撥液性を示すほど成膜されないことを特徴とする。
【0026】
請求項10の発明は、請求項8または9に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化膜は、トリアジンチオール化合物を有することを特徴とする。
請求項11の発明は、請求項7乃至10のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化処理工程後に、前記画素電極上に電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程をさらに含むことを特徴とする。
請求項12の発明は、表示装置であって、請求項1乃至11のいずれかに記載の表示装置の製造方法によって製造されたことを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る表示装置の製造方法においては、画素電極上に膜厚の略均一な電荷輸送層(有機EL層)を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る表示装置の製造方法について、実施の形態を示して詳しく説明する。
(表示パネル)
まず、本発明に係る表示装置(表示パネル)の概略構成について説明する。
図1は、本発明に係る表示装置(表示パネル)の一実施形態を示す要部概略平面図であり、図2は、本発明に係る表示装置(表示パネル)の一実施形態を示す要部概略断面図である。なお、図1に示す平面図においては、図示の都合上、視野側から見た各画素形成領域とアノードライン及びカソードラインの配設構造のみを示し、図2に示す他の構成(薄膜トランジスタ等)を省略した。
【0029】
本発明の一実施形態に係る表示装置(有機EL素子を備えた表示パネル)は、図1、図2、図8に示すように、ガラス基板等の絶縁性の基板(絶縁性基板)11上に、有機EL素子を発光駆動するための発光駆動回路(発光駆動手段;具体例については、後述する)を構成する1又は複数の薄膜トランジスタ(図2中では、便宜的に2個のトランジスタT1、T2を示す)、及び、トランジスタT1、T2に直接または間接的に接続されたアノードラインLa、カソードラインLc、データラインLd、走査ラインLsを含む各種配線層LNが設けられ、当該トランジスタT1、T2及び配線層LNの一部を被覆するように、窒化シリコン等からなる保護絶縁膜13及び感光性樹脂等からなる平坦化膜14が積層形成された構成を有している。
【0030】
各トランジスタT1、T2は、概略、例えば、絶縁性基板11上に形成されたゲート電極Egと、ゲート絶縁膜12を介して各ゲート電極Egに対応する領域に形成された半導体層SMCと、該半導体層SMCの両端部にそれぞれ形成された不純物層OHMと、不純物層OHMにそれぞれ形成されたソース電極Es及びドレイン電極Edと、を有して構成されている。また、トランジスタT1、T2及び配線層LN上に積層形成された保護絶縁膜13及び平坦化膜14には、適宜コンタクトホールHLが形成され、上記トランジスタと平坦化膜14上の導電層(例えば、後述する画素電極)とが電気的に接続されるように、金属材料(コンタクトメタル)が埋め込まれている。
【0031】
そして、上記平坦化膜14上の、各画素形成領域Rpx(図1においては、隣接する赤(R)、緑(G)、青(B)の3色からなる色画素PXr、PXg、PXbを一組として一表示画素PIXを構成する場合を示し、図2においては、赤色画素PXrの形成領域Rpxのみを示す)には、少なくとも光反射特性を有する画素電極15、正孔輸送層16a及び電子輸送性発光層16bからなる有機EL層(電荷輸送層)16、及び、光透過性を有する対向電極17を順次積層した有機EL素子が設けられている。
【0032】
また、相互に隣接する画素形成領域間(各色画素形成領域間;厳密には、有機EL素子の形成領域相互の境界領域)には、平坦化膜14(絶縁性基板11)から突出するようにバンク(隔壁)18(図1におけるカソードラインLcの列方向部分)が設けられている。さらに、上記有機EL素子及びバンク18を含む絶縁性基板11上には、透明な封止樹脂層19を介して、絶縁性基板11に対向するようにガラス基板等からなる封止基板(対向基板)20が接合されている。
【0033】
特に、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)においては、上記バンク18により各色画素の形成領域が画定されるとともに、当該バンク18として金属材料等の導電性材料を適用することにより、図1に示すように、表示パネル(絶縁性基板11)上に2次元配列された各表示画素(色画素)間に格子状に金属導電層(カソードラインLc)を配設することができ、例えば、図2に示すように、各表示画素(色画素)の有機EL素子のカソード電極17を当該バンク18に電気的に接続することにより、カソード電極17を所定の電源電圧(接地電位等)に共通に接続するためのカソードラインLcとして適用した構成を有している。
【0034】
そして、このような構成を有する表示装置においては、例えば、表示パネルの下層(絶縁性基板側)に設けられたトランジスタT1、T2や配線層LN等からなる発光駆動回路において、データラインLdを介して供給された階調信号(表示データ)に基づいて、所定の電流値を有する発光駆動電流がトランジスタT2のドレイン−ソース間に流れ、コンタクトホールHLに埋め込まれたコンタクトメタルMTLを介して、有機EL素子OELの画素電極15に供給されることにより、有機EL素子OELが表示データに応じた所定の輝度階調で発光動作する。
【0035】
このとき、有機EL素子OELがトップエミッション型である場合、つまり、画素電極15が光反射性電極(図2に示すように、アルミニウム等の光反射膜と有機EL層16に接触する、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのうちの少なくとも一つを含む化合物または混合物等の透明電極材料(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や、亜鉛ドープ酸化インジウム等)等の透明導電膜の積層構造でもよい。)であり、カソード電極17が例えばITOや亜鉛ドープ酸化インジウム等の透明導電膜である場合、各表示画素の有機EL層16において発光した光は、光透過性を有するカソード電極17を介して直接、あるいは、光反射特性を有する画素電極15で反射して、封止樹脂層19を介して封止基板20方向(視野側;図2の図面上方)に出射される。
【0036】
また、有機EL素子OELがボトムエミッション型である場合、つまり、画素電極15が酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのうちの少なくとも一つを含む化合物または混合物等の透明電極材料(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や、亜鉛ドープ酸化インジウム等)膜であり、カソード電極17が例えば、Ca、Mg、Ba、Li、等の比較的仕事関数の低い電子注入膜と、電子注入膜が酸化されるのを防止するとともにシート抵抗を下げるためのAl等の保護導電膜との積層構造でもよい。各表示画素の有機EL層16において発光した光は、基板11を介して出射される。ボトムエミッション型の場合、平坦化膜14は必ずしも必要がない。
【0037】
(表示装置の製造方法)
次に、上述した構成を有する表示装置(表示パネル)の製造方法について説明する。
図3乃至図5は、本実施形態に係るトップエミッション型の表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図である。また、図6は、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法に適用される被膜材料の分子構造を示す化学記号である。なお、ボトムエミッション型についてもトップエミッション型の製法を踏襲して製造することができる。
【0038】
本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法は、まず、図3(a)に示すように、ガラス基板等の絶縁性基板11の一面側(図面上面側)に、各表示画素に対応する所定の領域ごとに、階調信号に応じた電流値を有する発光駆動電流を生成して有機EL素子に供給する発光駆動回路を構成する複数のトランジスタT1、T2や配線層LN等を形成する。
【0039】
具体的には、絶縁性基板11の一面側に、例えば、金属材料からなるゲート電極Eg及び当該ゲート電極に接続される配線層を形成し、その後、絶縁性基板11の全域に絶縁膜を被覆してゲート絶縁膜12を形成する。次いで、ゲート絶縁膜12上の上記ゲート電極Egに対応する領域に、例えば、アモルファスシリコンやポリシリコン等からなる半導体層SMCを形成し、当該半導体層SMCの両端部にそれぞれ半導体層SMCとソース電極Es及びドレイン電極Edとのオーミック接続を実現するための不純物層OHMを形成し、不純物層OHM上に、ソース電極Es及びドレイン電極Ed並びにこれらの電極の元となる導電膜をパターニングして一括して形成され、適宜トランジスタT1,T2に接続される走査ラインLs、データラインLd、アノードラインLaを形成する。
【0040】
ここで、半導体層SMC上には、上記ソース電極Es及びドレイン電極Ed並びに配線層LNをパターニング形成する際の半導体層SMCへのエッチングダメージを防止するためのブロック層BLが設けられていてもよい。また、ソース電極Es及びドレイン電極Ed並びに走査ラインLs、データラインLd、アノードラインLaは、配線抵抗を低減し、かつ、マイグレーションを低減する目的で、例えば、アルミニウム合金と遷移金属からなる積層配線構造を有している。
【0041】
次いで、図3(b)に示すように、上記トランジスタT1、T2及び走査ラインLs、データラインLd、アノードラインLaを含む絶縁性基板11の一面側全域を被覆するように保護絶縁膜(パッシベーション膜)13及び平坦化膜14を形成した後、当該平坦化膜14及び保護絶縁膜13を貫通して、例えば、上記発光駆動回路を構成する特定のトランジスタ(発光駆動トランジスタ)T2のソース電極(又は、ドレイン電極)の上面が露出するコンタクトホールHLを形成する。
【0042】
次いで、図3(c)、図4(d)に示すように、上記コンタクトホールHLにコンタクトメタルMTLを埋め込んだ後、各画素形成領域Rpx、Gpx、・・に当該コンタクトメタルMTLに電気的に接続された画素電極15を形成する。ここで、画素電極15は、具体的には、アルミニウム(Al)等の光反射特性を有する反射金属層15aを薄膜形成してパターニングした後、当該反射金属層15aを被覆するように、ITOや亜鉛ドープ酸化インジウム等の酸化金属層15bを薄膜形成してパターニングする。上層の酸化金属層15bのパターニングの際に反射金属層15aとの間で電池反応を引き起こさないように、反射金属層15aをパターニング後に酸化金属層15bとなる膜を被膜して反射金属層15aが露出しないようにこの膜をパターニングすることが好ましい。
【0043】
すなわち、本実施形態に係る画素電極15は、下層の反射金属層15aと上層の酸化金属層15bを積層した電極構造を有している。これにより、反射金属層15aの上面及び端面が酸化金属層15bにより被覆されるので、反射金属層15aと酸化金属層15bのエッチング条件が異なる場合であっても、酸化金属層15bをパターニング形成する際に下層の反射金属層15aがオーバーエッチングされたり、エッチングダメージを受けたりすることを防止することができる。
【0044】
このように、画素電極15の上層を構成する酸化金属層15bは、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのうちの少なくとも一つを含む化合物または混合物等の透明電極材料(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や、亜鉛ドープ酸化インジウム等)を、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を用いて成膜した後、有機EL素子の平面形状(発光領域)に対応させてパターニングすることにより形成される。
【0045】
次いで、上記各画素形成領域Rpx、Gpx、・・に対応して形成された画素電極15間の領域(すなわち、相互に隣接する色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・間の境界領域)に、図4(e)に示すように、例えば、シリコン窒化膜等の無機の絶縁性材料からなる下地層21を形成し、当該下地層21上に、少なくとも表面が、例えば、銅や銀、又は、これらを主成分とした金属単体又は合金等の、低抵抗の金属材料からなるバンクメタル部18b(図1に示したカソードラインLcに相当する)を形成する。これにより、バンクメタル部(カソードライン)18bと下地層21からなるバンク(隔壁)18に囲まれた領域が、各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・(すなわち、有機EL素子における発光領域)として規定(画定)される。
【0046】
次いで、図4(f)に示すように、上記バンクメタル部18bの表面に、トリアジントリチオール(TATT)またはトリアジントリチオール誘導体等のトリアジンチオール化合物の被膜18cからなる酸化防止膜を選択的に形成する。具体的には、上記バンク18まで形成された絶縁性基板11を、まず、純水で洗浄して清浄化した後、トリアジントリチオール(TATT)の水溶液に浸漬する。この工程における水溶液の温度は概ね20〜30℃程度とし、浸漬時間は概ね1〜10分程度とする。このとき、トリアジンチオール化合物は金属と選択的に結合することになる。ただし、金属酸化物、有機絶縁膜、無機絶縁膜には撥液性を発現する程度には被膜されない。次いで、上記水溶液から取り出した絶縁性基板11をアルコールで濯ぐことにより、絶縁性基板11上の余分なトリアジントリチオール(TATT)を洗い流し、水で2次洗浄した後、窒素ガス(N)のブローにより乾燥させる。
【0047】
ここで、トリアジントリチオール(TATT)誘導体は、図6(a)に示すように、トリアジン(3個の窒素を含む六員環構造)の窒素(−N)にチオール基(−SH)が結合した分子構造を有し、特に、チオール基(−SH)が金属と結合しやすいという性質を有している。また、トリアジントリチオール(TATT)は、単体では水に不溶であるが、同モル量の水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)を一緒に混ぜることにより水に溶けるという性質も有している。上述した工程において使用する水溶液の濃度は、概ね1×10−4〜1×10−2mol/Lの範囲で設定する。
【0048】
これにより、トリアジントリチオールのチオール基(またはメルカプト基とも呼称する−SH)の水素原子(H)が還元離脱し、硫黄原子(S)がバンクメタル部18bの表面に酸化吸着する。このように、絶縁性基板11の一面側に形成された各構成のうち、金属材料からなるバンクメタル部18bの表面にのみ、トリアジントリチオール(TATT)が化学吸着することにより、図6(b)に示すように、極薄い被膜18cが選択的に形成され、バンクメタル部18bでは撥液性を示す。一方、酸化金属層(ITO等)15bにより被覆された画素電極15の表面には付着しにくく、撥液性を示す程度に被膜が形成されない。このバンクメタル部18bの表面に形成されたトリアジンチオール化合物の被膜18cは、後述する親液化工程において、酸化防止膜としての機能を果たす。
【0049】
上述の工程は、トリアジントリチオールに限らず、トリアジンジチオール又はその誘導体等のトリアジンチオール化合物であってもよい。例えば、6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール−ナトリウム塩或いは6−ジドデシルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール−ナトリウム塩を用い、水に溶解して被膜18cを被膜してもよい。
【0050】
次いで、絶縁性基板の一面側に対して、周知の酸素プラズマ処理やUV−オゾン処理を施すことにより、画素電極15(酸化金属層15b)の表面のみを選択的に親液化処理する。具体的には、酸素ガス雰囲気で上記絶縁性基板11表面に紫外線(UV)を照射することにより、活性酸素ラジカルが発生して、画素電極15の上層に形成されたITO等の酸化金属層15b表面の有機物を分解除去して親液化(親水化及び親油化)する。ここで、バンク18を構成するバンクメタル部18bの表面には、上述したトリアジンチオール化合物の被膜18cが形成されていることにより、上記酸素プラズマ処理やUV−オゾン処理におけるバンクメタル部18b表面の酸化を防止することができるが、この親液化処理によってバンクメタル部18bの表面では、撥液性が低下してしまう。
【0051】
次いで、上記バンクメタル部18bの表面上に、さらに、フッ素系トリアジンチオール化合物の被膜18dからなる撥液性(撥水性)の薄膜(撥液性膜)を選択的に形成する。具体的には、上述した親液化処理が施された絶縁性基板11を、まず、フッ素系トリアジンチオール化合物の水溶液に浸漬する。この工程における水溶液の温度は概ね20〜30℃程度とし、浸漬時間は概ね1〜10分程度とする。次いで、上記水溶液から取り出した絶縁性基板11をアルコールで濯ぐことにより、絶縁性基板11上の余分なフッ素系トリアジンチオール化合物を洗い流し、水で2次洗浄した後、窒素ガス(N)のブローにより乾燥させる。
【0052】
ここで、フッ素系トリアジンチオール化合物は、例えば図6(c)に示すように、トリアジンの窒素(−N)にチオール基(−SH)が結合した分子構造に加え、特定のチオール基のS原子にアルキル基(−CH−CH−)及びフッ化アルキル基(−CF−CF−CF−CF)が順次結合した分子構造を有し、トリアジンチオール化合物と同様に、図6(d)に示すように、バンクメタル部18bの表面に選択的に結合してバンクメタル部18bの表面を撥液性にする被膜18dを被膜するが、金属酸化物、有機絶縁膜、無機絶縁膜に対して、はっきりと撥液性を示す程度には結合しない。このように予め酸化防止膜として被膜18cを被膜してあるので、バンクメタル部18bの表面は酸化されておらず良好に被膜18dを被膜することができる。このフッ素系トリアジンジチオール誘導体は、それ自体が撥液性を示すトリアジントリチオールに加えてさらに撥液性を示すフッ素原子を含んでいるので、被膜18dは、上記被膜18cよりも強い撥液性を示す。
【0053】
上述した工程において使用する水溶液の濃度は、概ね1×10−4〜1×10−2mol/Lの範囲が好ましい。なお、上記フッ素系トリアジンジチオール誘導体は、チオール基のS原子がアルキル基(−CH−CH−)と結合していたが、直接フッ化アルキル基と結合してもよく、また著しい立体障害にならない限りアルキル基、フッ化アルキル基の炭素数に特別な制限はない。また、上記フッ素系トリアジンジチオール誘導体は、二つのチオール基のS原子にそれぞれ直接又は間接的にフッ化アルキル基が形成されていてもよく、フッ素原子を含む基の炭素間がオレフィン二重結合を有していてもよい。
【0054】
これにより、絶縁性基板11の一面側に形成された各構成のうち、バンクメタル部18bの表面は、トリアジンチオール化合物の被膜18cが形成され、一方、酸化金属層(ITO等)15bにより被覆された画素電極15の表面、下地層21の表面、画素電極15間から露出された平坦化膜14(或いは保護絶縁膜13)には付着しにくく、被膜が形成されない。したがって、同一の絶縁性基板11上において、バンクメタル部18bの表面のみが撥液化処理され、当該バンク18により画定された各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・に露出する画素電極15表面は親液性が保持された状態が実現される。
【0055】
次いで、図5(g)に示すように、上記バンク18に囲まれた各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・に、インクジェット法を適用して正孔輸送材料の水溶液を液滴状にして塗布し、その後、当該水溶液を乾燥させて正孔輸送層16aを形成する。具体的には、有機高分子系の正孔輸送材料を含む有機化合物含有液として、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸水溶液(PEDOT/PSS;導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェンPEDOTと、ドーパントであるポリスチレンスルホン酸PSSを水系溶媒に分散させた分散液)を、図示を省略したインクヘッドから個々に分離した液滴状又は連続した液状にして排出させ、上記親液性を有する画素電極15(親液化処理された酸化金属膜15b)表面に塗布した後、窒素雰囲気中で乾燥処理を行って溶媒を除去することにより、当該画素電極15上に有機高分子系の正孔輸送材料を定着させて、電荷輸送層の1つである正孔輸送層16aを形成する。
【0056】
このとき、画素電極15表面に塗布された有機化合物含有液(正孔輸送材料)は、親液化処理された酸化金属膜15bに対して当該液滴が濡れやすいので、各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・の全域に良好に行き渡り、均一な膜厚を有する正孔輸送層16aを形成することができる。一方、撥液化処理されたバンクメタル部18bの表面のフッ素系トリアジンチオール化合物の被膜18d上には、上記有機化合物含有液がはじかれて当該膜上には定着しない。
【0057】
次いで、上記正孔輸送層の場合と同様に、図5(g)に示すように、上記バンク18に囲まれた各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・の正孔輸送層16a上に、インクジェット法を適用して電子輸送性発光材料の溶液を個々に分離した液滴状又は連続した液状にして塗布し、その後、当該水溶液を乾燥させて電子輸送性発光層16bを形成する。具体的には、有機高分子系の電子輸送性発光材料を含む有機化合物含有液として、例えば、ポリパラフェニレンビニレン系等の共役二重結合高分子を有する発光材料を、テトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン、キシレン等の有機溶媒に溶解した溶液を、図示を省略したノズルヘッドから個々に分離した液滴状又は連続した液状にして排出させ、上記正孔輸送層16a上に塗布した後、窒素雰囲気中で乾燥処理を行って溶媒を除去することにより、正孔輸送層16a上に有機高分子系の電子輸送性発光材料を定着させて、電荷輸送層である電子輸送性発光層16bを形成する。
【0058】
このとき、有機化合物含有液(電子輸送性発光材料)は、乾燥した正孔輸送層16aに対して濡れやすいので、各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・の全域に良好に行き渡り、均一な膜厚を有する電子輸送性発光層16bを形成することができる。一方、撥液化処理されたバンク18(バンクメタル部18b)表面のフッ素系トリアジンチオール化合物の被膜18d上に塗布された有機化合物含有液は、はじかれて当該膜上には定着しない。また、有機化合物含有液中の溶媒が親油性(疎水性)を有しているため、この溶媒によって正孔輸送層16aの材料が溶解することはほとんどない。
したがって、画素電極15上に均一な膜厚を有するとともに、均一な膜質を有する有機EL層16(正孔輸送層16a及び電子輸送性発光層16b)を形成することができる。
【0059】
次いで、図5(h)に示すように、上記各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・を含む絶縁性基板11上に透明電極層を形成し、少なくとも、上記有機EL層16(正孔輸送層16a及び電子輸送性発光層16b)を介して画素電極15に対向するカソード電極(対向電極)17を形成する。ここで、カソード電極17は、例えば、少なくとも各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・に形成された有機EL層16上から、各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・を画定するバンク18上にまで延在する単一の共通電極として形成される。具体的には、カソード電極17は、例えば、蒸着法やスパッタ法等により、カルシウム(Ca)やバリウム(Ba)、インジウム(In)等の仕事関数の比較的低い金属材料を、可視光線の波長以下(概ね400nm以下)の膜厚(例えば、10nm〜20nm程度)に薄膜形成し、さらに、その上層に、例えば、ITO等の透明電極膜を積層形成した構造を有している。
【0060】
これにより、下層のインジウム等の仕事関数の低い金属材料が、有機EL層16(電子輸送性発光層16b)を構成する有機材料に対して、良好に電気的な密着を実現することができるとともに、可視光の波長以下の膜厚を有しているので、有機EL層16で発光した光を良好に透過させることができる。また、上層のITO等の透明電極膜は、上記下層の金属膜を400nm以下に極めて薄く形成することにより高抵抗化するため、カソード電極17を低抵抗化させる目的で積層形成される。さらに、バンク18上にまでカソード電極17が延在して形成された構成を有することにより、バンクメタル部18bの表面に薄膜形成されたトリアジンチオール化合物の被膜18c及びフッ素系トリアジンチオール化合物の被膜18dが、極めて薄く形成されていることから、当該被膜18c、18dを介して、カソード電極17とバンクメタル部18b(カソードラインLc)とを良好に電気的に接続することができる。
【0061】
次いで、図1、図2に示したように、各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・及びバンク18を含む絶縁性基板11の一面側に、透明な封止樹脂層19を形成した後、当該絶縁性基板11に対向するように、封止基板20を接合することにより、複数の表示画素PIX(RGBの各色画素PXr、PXg、PXbの組み合わせ)が2次元配列された表示パネルが完成する。
【0062】
このように、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法は、絶縁性基板11上の画素形成領域(各色画素の形成領域Rpx、Gpx、・・)を画定するバンク18(バンクメタル部18b)表面に、トリアジンチオール化合物の被膜18cからなる酸化防止膜を選択的に形成した後、絶縁性基板11に酸素プラズマ処理やUV−オゾン処理を施して画素電極15表面を親液化すると、当該親液化処理によりバンク18表面が酸化される現象を抑制して、バンク18(トリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜18c)表面に撥液性のフッ素系トリアジンジチオール誘導体の被膜18dが良好に形成される。
【0063】
これによれば、画素電極15(酸化金属層15b)の表面が、正孔輸送層16aや電子輸送性発光層16bを形成するための正孔輸送材料や電子輸送性発光材料等の高分子系の有機材料に対して、良好な親液性(濡れ性)を有し、また、当該画素電極15が形成される画素形成領域を画定するバンク18表面が、上記高分子系の有機材料に対して、十分な撥液性を有しているので、有機材料の塗布液の表面張力に起因する液面端部の立ち上がり(後述する純水接触角に関連する)を緩和して、画素電極15表面に馴染みやすくし、膜厚及び膜質が比較的均一な有機EL層16を形成することができる。
【0064】
ここで、本実施形態に係る表示装置の製造方法を適用した場合の有機EL層の膜厚の均一性について、実験データを示して具体的な検証する。
上述した実施形態に示したように、画素形成領域(各色画素の形成領域)を画定するバンク(バンクメタル部)の表面に、トリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜を形成し、その後、UV−オゾン処理により画素電極表面を親液化した後に、バンク(バンクメタル部の表面に形成されたトリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜の)表面に、撥液性のフッ素系トリアジンジチオール誘導体の被膜をさらに形成した場合(本実施形態)と、画素形成領域にUV−オゾン処理を行い、画素電極表面を親液化処理を行った後に、上記バンク(バンクメタル部)の表面に、撥液性のトリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜を形成した場合(説明の都合上、「他の方式」と記載する)について、純水接触角を比較検証すると、表1に示すように、本実施形態においては、画素電極や絶縁膜上における純水接触角は上記他の方式と同様に、有機EL層を成膜する際の親液性の目安である10°以下を保持することができ、一方、バンク(バンクメタル部)上における純水接触角は130°と十分なり、他の方式同様に撥液性を得ることができることが判明した。ただし、他の方式では、バンクメタル部がUV−オゾン処理によって酸化されてしまい、バンクメタル部を配線に適用しようとすると好ましくない。
【0065】
【表1】

【0066】
これにより、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法によれば、画素電極上に着滴した有機材料は、画素形成領域内に良好に馴染んで広がるとともに、バンク(バンクメタル部)上に着滴した有機材料、及び、画素電極との境界付近のバンク側面に接触する有機材料は、良好にはじかれるので、画素電極上の略全域にわたり膜厚の略均一な有機EL層を形成することができ、さらにバンクメタル部18bを酸化させてしまうことがほとんどなく、十分電極の一部として利用することができる。
【0067】
次いで、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法おける特徴的な効果について説明する。
図7は、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法における効果を説明するための実験データの一例(デバイス平面写真)である。
【0068】
ここでは、上述した実施形態において、バンクに形成されるバンクメタル部として低抵抗の金属材料である銀を適用し、その表面に上述した処理工程によりトリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜を形成し、その後、UV−オゾン処理により画素電極表面を親液化した場合におけるバンク(バンクメタル部)の表面状態を検証すると、図7(a)に示すように、UV−オゾン処理により画素形成領域(各色画素の形成領域)間に設けられたバンク18(バンクメタル部18b)表面のトリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜に多少の変色(図中、変色箇所を符号DSAで表示)は認められるものの、バンクメタル部を構成する金属導電層(カソードライン)に酸化等の影響が及んでいないことが判明した。
【0069】
これに対して、上記と同様に、バンクに形成されるバンクメタル部として銀を適用し、トリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜を形成することなく、上記と同一の条件で、UV−オゾン処理により画素電極表面を親液化した場合におけるバンク18(バンクメタル部18b)の表面状態は、図7(b)に示すように、バンクメタル部を構成する金属導電層(カソードライン)が顕著に変色して酸化が進行していることが判明した(図中、変色箇所を符号DSBで表示)。
【0070】
これにより、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法によれば、有機EL層を成膜する際に絶縁性基板表面に施す親液化処理において、低抵抗の金属導電層からなるバンクメタル部(カソードライン)表面に、予め酸化防止膜としてトリアジントリチオール(TATT)誘導体の被膜を形成した後に、UV−オゾン処理等の親液化処理を施すことができるので、バンクメタル部が直接酸化される現象を防止することができ、当該バンクメタル部表面へのフッ素系トリアジンジチオール誘導体の被膜の良好に形成することができるとともに、バンクメタル部と共通電極との間で良好な電気的な接続状態(コンタクト性)を実現することができ、信頼性の高い表示パネルを製造することができる。
【0071】
したがって、本発明に係る表示装置の製造方法によれば、例えば表示パネルの大画面化に伴って各表示画素のサイズを大型化した場合であっても、比較的均一な膜厚及び膜質を有する有機EL素子を形成することができるので、有機EL素子の発光動作時に供給される発光駆動電流を、有機EL層の略全域に比較的均一に流すことができ、画素形成領域(有機EL素子形成領域)の略全域において励起光が放出される(発光動作が行われる)。これにより、表示パネルの開口率を向上させて、表示画質が良好な表示装置を実現することができる。特に、表示パネルとして、トップエミッション型の発光構造を有し、発光駆動回路を構成するトランジスタやその配線層を有機EL素子の下層(絶縁性基板側)に形成することにより、上記開口率をさらに改善することができる。
【0072】
なお、上述した実施形態においては、画素電極の表面をUV−オゾン処理等により親液化処理する工程に先立って、バンク(バンクメタル部)表面にトリアジンチオール化合物の被膜を形成する場合について説明したが、このトリアジントリチオール(TATT)誘導体に代えて、バンク(バンクメタル部)の撥液化処理に適用するフッ素系トリアジンチオール化合物の被膜を、上記親液化処理に先立って形成するようにしても、上記と同等の酸化防止効果を得ることができる。
【0073】
また、上述した実施形態においては、親液化処理における酸化防止膜としてトリアジンチオール化合物の被膜を適用し、親液化処理後の撥液性膜としてフッ素系トリアジンチオール化合物の被膜を適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記一連の製造プロセスにおいて、トリアジンチオール化合物と同等の酸化防止機能や、トリアジンチオール化合物と同等の撥液性を有する被膜であれば、他の材質を適用することができることはいうまでもない。
【0074】
また、上述した実施形態においては、トップエミッション構造を有する表示パネルに本発明に係る表示装置の製造方法を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ボトムエミッション型の発光構造を有する表示パネルにも良好に適用することができることはいうまでもない。
【0075】
また、上記実施形態においては、有機EL層として、正孔輸送層及び電子輸送性発光層を順次成膜する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、有機EL層として、発光層単層、あるいは、正孔輸送層、発光層、電子輸送層からなる多層構造を有するものでもよく、また、正孔輸送性発光層、電子輸送層からなるものでもよく、さらに、その他の電荷輸送層を適宜追加するものであってもよい。
また、上記実施形態では、画素電極15はアノード電極であったが、カソード電極としてもよい。この場合、共通電極17がアノード電極となり、バンクメタル部18bがアノードラインLaとなる。
【0076】
<発光駆動回路の適用例>
次に、本発明に係る表示装置(表示パネル)に適用可能な表示画素(発光駆動回路)について具体的に説明する。
図8は、本発明に係る表示装置の表示パネルに2次元配列される各表示画素に適用可能な発光駆動回路の一例を示す等価回路図である。
【0077】
図8に示すように、本発明に適用可能な表示画素PXは、例えば、上述した実施形態(図1、図2参照)において、当該表示画素PX(有機EL素子OEL)が形成される領域に対応して、絶縁性基板11上に設けられた1又は複数のトランジスタT1、T2を含んで構成される発光駆動回路(発光駆動手段)DCと、当該発光駆動回路(トランジスタ等)DC上に保護絶縁膜13及び平坦化膜14を介して設けられた有機EL素子OELと、を備えて構成されている。
【0078】
なお、本構成例においては、表示パネルを構成する表示画素に設けられる発光駆動回路として、nチャネル型のトランジスタ(すなわち、単一のチャネル極性を有するトランジスタ)T1、T2を適用した回路構成を示した。このような回路構成によれば、nチャネル型のトランジスタのみを適用することができるので、既に製造技術が確立されたアモルファスシリコン半導体製造技術を用いて、動作特性が安定したトランジスタを簡易に製造することができ、上記表示画素の発光特性のバラツキを抑制した発光駆動回路を実現することができる。ここで、発光駆動回路DCはアモルファスシリコンTFT以外にポリシリコンTFTでもよい。つまり、nチャネルトランジスタのみでもpチャネルトランジスタのみでも、nチャネルトランジスタ及びpチャネルトランジスタをともに備えていてもよい。
【0079】
また、本構成例においては、上述のようなデータラインLdに階調電圧を印加して有機EL素子OELの輝度階調を制御する電圧階調制御を行ったが、これに限らず、発光駆動回路DCに所望の電流値の電流を流して有機EL素子OELの輝度階調を制御する電流階調制御であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る表示装置(表示パネル)の一実施形態を示す要部概略平面図である。
【図2】本発明に係る表示装置(表示パネル)の一実施形態を示す要部概略断面図である。
【図3】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その1)である。
【図4】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その2)である。
【図5】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その3)である。
【図6】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法に適用される被膜材料の分子構造を示す化学記号である。
【図7】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法における効果を説明するための実験データの一例(デバイス平面写真)である。
【図8】本発明に係る表示装置の表示パネルに2次元配列される各表示画素に適用可能な発光駆動回路の一例を示す等価回路図である。
【図9】有機EL素子の一構成例を示す概略断面図である。
【図10】従来技術における表示パネル(有機EL素子)の製造プロセスの一例を示す工程断面図(その1)である。
【図11】従来技術における表示パネル(有機EL素子)の製造プロセスの一例を示す工程断面図(その2)である。
【符号の説明】
【0081】
11 絶縁性基板
13 保護絶縁膜
14 平坦化膜
15 画素電極
16a 正孔輸送層
16b 電子輸送性発光層
16 有機EL層
17 カソード電極
18 バンク
19 封止樹脂層
20 封止基板
T1、T2 トランジスタ
La アノードライン
Lc カソードライン
LN 配線層
Rpx 画素形成領域
PXr、PXg、PXb 色画素
PIX 表示画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が金属導電層である複数の隔壁の表面に酸化防止膜を被膜する酸化防止工程と、
前記複数の隔壁間に配置された画素電極を親液化処理する親液化工程と、
を含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表示装置の製造方法において、前記親液化処理工程後に、前記画素電極上に電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程をさらに含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表示装置の製造方法において、前記画素電極は表面が金属酸化物を有していることを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記酸化防止工程は、前記複数の隔壁の表面に選択的に前記酸化防止膜が被膜することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記酸化防止膜は、トリアジンチオール化合物を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記親液化工程は、オゾン処理工程を含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記親液化処理後に前記複数の隔壁の表面を選択的に撥液処理する撥液化処理工程をさらに含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化処理工程は、前記複数の隔壁の表面に選択的に撥液化膜が被膜されることを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化膜は金属に選択的に被膜し、金属酸化物には、撥液性を示すほど成膜されないことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化膜は、トリアジンチオール化合物を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記撥液化処理工程後に、前記画素電極上に電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程をさらに含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の表示装置の製造方法によって製造されたことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−95428(P2007−95428A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281573(P2005−281573)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】