説明

表示装置

【課題】限定的な条件を設定することなく、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる表示装置を提供する。
【解決手段】本表示装置は、互いに直交する複数の走査電極およびデータ電極の交差点近傍にマトリクス状に配置された複数の有機EL素子を含む表示パネル100と、これらの素子に選択的に電流を流す走査電極駆動回路200およびデータ電極駆動回路300と、上記電流を供給する定電圧電源400とを備え、上記走査電極およびデータ電極は所定の配線によりそれぞれ対応する上記駆動回路に接続されている。この配線抵抗を適宜に調節して、並列に接続される有機EL素子の総抵抗値Relallと配線の総抵抗値Rrallとの抵抗比率であるβ’の範囲を0.1≦β≦10とすることにより、簡易な構成で電気光学素子である有機EL素子の表示寿命を延ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子に流される電流量によって発光が制御される表示素子を含む表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、素子に流される電流量に応じてその発光量が制御される素子、例えば、無機EL(Electro Luminescence)素子や有機EL素子等に代表されるLED(Light Emitting Diode)を電気光学素子として利用した表示素子がある。ここで、本明細書において、電気光学素子とは、上記有機EL素子等の他、FED(Field Emission Display)、電荷駆動素子、液晶、Eインク(Electronic Ink)など、電気を与えることにより光学的な特性が変化する全ての素子をいうものとする。なお、以下では電気光学素子として有機EL素子を例示するが、電流量に応じて発光量が制御される発光素子であれば同様の説明が可能である。
【0003】
この有機EL素子を使用したディスプレイは、低電圧・低消費電力で発光可能であり、またバックライトが不要であるので、液晶ディスプレイよりも薄型とすることができ、近年では特に携帯機器への応用が注目されている。この有機EL素子の駆動方法としては、単純マトリクス方式とアクティブマトリクス方式とが知られているが、アクティブマトリクス方式は各画素回路内に使用される薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下「TFT」と略する)の閾値や電流ばらつきを適宜に制御することが難しく、また単純マトリクス方式に比べて製造プロセスが複雑で歩留まりが悪いため、量産には多くの課題がある。そこで、製造プロセスがシンプルで製造コストを安くすることができる単純マトリクス方式が採用されることも多く、この単純マトリクス方式を使用した携帯電話の表示装置や車載用表示装置などが数多く量産されている。
【0004】
また、この有機EL素子の制御方法は、当該有機EL素子に流される電流を与える電源の形態によって、定電圧源を使用した定電圧型制御方式と、定電流源を使用した定電流型制御方式とに大別される。
【0005】
定電圧型制御方式は、定電流型制御方式に比べて、電源の回路構成が簡単であるので、製造コストを抑えることができる。しかし、定電圧型制御方式では、時間の経過に伴って有機EL素子の内部抵抗が水分や酸素との反応、材料の分解、膜層形状変化等の素子劣化が主な原因で増加すると、電源電圧が一定であることから、当該有機EL素子に流れる電流は減少する。そして、発光輝度と発光時に流れる電流とは比例関係にあることが知られており、このことから当該有機EL素子の発光輝度も低下する。
【0006】
これに対して、定電流型制御方式では、時間の経過による内部抵抗の増加とは無関係に、有機EL素子に一定の電流が流れるよう制御される。そのため、流れる電流の減少による上記のような発光輝度の低下は生じない。しかし、一般的に有機EL素子は、時間経過とともに同一電流値に対する発光輝度が(素子の劣化により)低下する特性を有しているため、定電流型制御方式においても、時間の経過による発光輝度の低下は生じる。
【0007】
図12は、定電圧型制御方式および定電流型制御方式による、上記有機EL素子の時間経過による発光輝度の低下を示す図である。図中の曲線Aは定電圧型制御方式の場合を示し、曲線Bは定電流型制御方式の場合を示している。また、図12に示す規格化時間は、定電圧型制御方式での規格化輝度が半減した(すなわち0.5となる)ときの時間を1としている。この図12に示されるように、定電流型制御方式の方が定電圧型制御方式よりも表示装置の表示寿命を延ばすことができる。なお、この表示寿命とは、所定の輝度で発光する素子が、経時的な劣化により表示装置として使用できなくなる輝度に至る時間、すなわち上記所定の輝度がほぼ半減するまでの時間を意味する。
【0008】
また、有機EL素子の表示寿命は周囲温度によっても変化することがよく知られており、また発光時において当該該素子に流れる電流量が大きいほどその発熱量も大きくなるためその表示寿命も変化することになる。ただし、単純マトリクス方式では有機EL素子の発光が瞬間的であるので、有機EL素子により発せられる熱の散逸が早い。そのため、有機EL素子の表示寿命は時間平均電流密度で決まることが知られている(例えば非特許文献1を参照)。
【0009】
このことから、例えば有機EL素子に流れる平均駆動電流を3[mA/cm2 ]とし、平均駆動電圧を4V以下とするようデューティ比10%以下のパルス電圧を当該有機EL素子に印加する従来の表示装置がある(例えば特許文献1を参照)。この構成によって、有機EL素子の表示寿命を大きく延ばすことができる。また、有機EL素子にコンデンサを接続し、このコンデンサに1秒間に50回以上の電荷蓄積を行わせる従来の表示装置がある(例えば特許文献2を参照)。
【0010】
ここで定電流型制御方式は、有機EL素子の表示寿命を延ばすことができるとともに、発光輝度と発光時に流れる電流とが比例関係にあることから、発光輝度の高い安定性が要求されるディスプレイや、自然画を表示するような階調の再現性が厳密に要求されるディスプレイに広く採用されており、優れた効果を発揮する。
【0011】
これに対して、静的な2値(階調)表示を行う簡易型のディスプレイ、例えば時計や携帯型音楽プレーヤーのタイトル曲表示などに使用されるディスプレイには、複雑な回路構成が必要となる定電流制御方式のディスプレイが採用されることが少なく、製造コストがより低い定電圧制御方式が採用されることが多い。
【0012】
ところで、単純マトリクス方式のディスプレイでは、定電流制御方式および定電圧制御方式のいずれが採用される場合であっても、配線抵抗ができるだけ0[Ω]に近くなるよう構成されている。このように構成すれば、配線抵抗による電圧降下が0に近くなることにより、定電流制御方式では電源の電圧(または駆動用ICの電圧降下が差し引かれた電圧)に近い電圧を有機EL素子に印加することができる。そして、有機EL素子は印加される電圧と発光輝度または流れる電流との関係でダイオード特性を示すので、有機EL素子に印加される電圧を大きくすることによりその発光輝度をより高くすることができる。また、定電圧制御方式では同様に有機EL素子に印加される電圧を大きくすることによりその発光輝度を高くすることができるほか、配線毎の配線抵抗値のばらつきによる電圧降下量のばらつきを抑え、各有機EL素子にかかる電圧のばらつき、すなわち輝度のばらつきを抑えることができる。
【0013】
例えば従来より、電源から離れるほど上記配線の幅を広くした表示装置用基板(表示パネル)がある(特許文献3を参照)。このように配線の幅を広くすることにより配線抵抗を下げることができるので、各表示素子にかかる電圧のばらつき、すなわち輝度のばらつきが抑えられる。
【0014】
また、輝度のばらつきを抑えるための構成としては、従来より有機EL素子に対して直列に抵抗素子を設け、この抵抗素子の抵抗値を有機EL素子の内部抵抗値に対して所定の比率に設定した表示装置や、走査線またはデータ線を交互に異なる方向へ引き出す構成とした表示装置などがある(特許文献4,5を参照)。
【特許文献1】特開2002−299045号公報
【特許文献2】特開2000−276109号公報
【特許文献3】特開2004−246330号公報
【特許文献4】特開平11−87053号公報
【特許文献5】特開2002−299045号公報
【非特許文献1】宮田清蔵、他,「有機EL素子とその工業化最前線」,エヌ・ティー・エス,1998年11月,p.225−226、p.242−243
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここで、前述のように簡易型のディスプレイには、製造コストが低い定電圧制御方式を採用することが好ましいが、図12に示されるように、この定電圧型制御方式は定電流型制御方式に比べて表示装置の表示寿命を延ばすことが難しい。
【0016】
この点、前述した特許文献1に示される従来の表示装置のように、所定の駆動条件で有機EL素子を駆動することにより、その表示寿命を延ばすことが考えられる。しかし、この特許文献1に示される従来の表示装置は、駆動条件が限定的であるため、所望の解像度および輝度を有する装置を製造することが極めて困難な場合がある。
【0017】
なお、ここでは電気光学素子としての有機EL素子を例示して説明しているが、有機EL素子に限らず、素子に流れる電流量に応じてその発光量が制御される発光素子には同様の問題点がある。
【0018】
そこで本発明は、前述のように有機EL素子を例とする電気光学素子を駆動するための限定的な条件を設定することなく、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる表示装置を提供することを目的とする。また、本発明は、表示輝度のばらつきを抑えつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる表示装置を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の発明は、第1および第2の電極と、前記第1および第2の電極の交差点に配置されて電流を流されることにより発光する電気光学素子と、前記電気光学素子に流されるべき電流を供給する定電圧電源と、前記第1の電極を選択的に接地する第1のスイッチ手段と、前記第2の電極に前記定電圧電源からの電圧を選択的に印加する第2のスイッチ手段とを備える表示装置であって、
発光する電気光学素子から前記第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsおよび発光する電気光学素子から前記第2のスイッチ手段を介して前記定電圧電源に接続されるまでの第2の抵抗値Rdは、前記電気光学素子の発光時における抵抗値Relに対する前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdの和の比率をβ(=(Rs+Rd)/Rel)とするとき、0.1≦β≦10を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0020】
第2の発明は、第1の発明において、
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdは、0.1≦β≦9.0を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0021】
第3の発明は、第2の発明において、
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdは、0.1≦β≦5.0を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0022】
第4の発明は、第1の発明において、
前記第1の電極は、Cr単体、CrとTaとの積層構造、CrとITOとの積層構造、またはCrとTaとITOとの積層構造からなる金属層により形成されることを特徴とする。
【0023】
第5の発明は、第1の発明において、
前記第2の電極は、ITOにより形成されることを特徴とする。
【0024】
第6の発明は、第1の発明において、
前記第1の電極と前記第1のスイッチ手段とを接続する第1の配線と、前記第2の電極と前記第2のスイッチ手段とを接続する第2の配線とをさらに備え、
前記第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdが設定されることを特徴とする。
【0025】
第7の発明は、第6の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長がほぼ等しいことにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0026】
第8の発明は、第6の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線幅が定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0027】
第9の発明は、第6の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線深さが定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0028】
第10の発明は、所定の方向へ延びる互いに平行な複数の電極である第1の電極と、前記第1の電極と直交する方向へ延びる互いに平行な複数の電極である第2の電極と、前記第1および第2の電極の交差点にそれぞれ対応してマトリクス状に複数が配置されて複数の画素を形成する電気光学素子と、前記電気光学素子に流されるべき電流を供給する定電圧電源と、前記第1の電極を所定の期間ずつ選択的に接地する第1のスイッチ手段と、前記第2の電極に前記定電圧電源からの電圧を選択的に印加する第2のスイッチ手段とを備える表示装置であって、
前記所定の期間内において前記第2のスイッチ手段により選択的に前記定電圧電源からの電圧を印加される前記第2の電極の数をXとするとき、全ての発光する電気光学素子から前記第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsおよび全ての発光する電気光学素子から前記第2のスイッチ手段を介して前記定電圧電源に接続されるまでの第3の抵抗値(Rd/X)は、全ての発光する電気光学素子の総抵抗値Relallに対する前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)の和の比率をβ’(=(Rs+Rd/X)/Relall)とするとき、0.1≦β’≦10を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0029】
第11の発明は、第10の発明において、
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)は、0.1≦β’≦9.0を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0030】
第12の発明は、第11の発明において、
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)は、0.1≦β’≦5.0を満たすよう設定されることを特徴とする。
【0031】
第13の発明は、第10の発明において、
前記第1の電極は、Cr単体、CrとTaとの積層構造、CrとITOとの積層構造、またはCrとTaとITOとの積層構造からなる金属層により形成されることを特徴とする。
【0032】
第14の発明は、第10の発明において、
前記第2の電極は、ITOにより形成されることを特徴とする。
【0033】
第15の発明は、第10の発明において、
前記第1の電極と前記第1のスイッチ手段とを接続する第1の配線と、前記第2の電極と前記第2のスイッチ手段とを接続する第2の配線とをさらに備え、
前記第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)が設定されることを特徴とする。
【0034】
第16の発明は、第15の発明において、
前記第1および第2の電極の少なくとも一方は、平行に隣り合う2つの電極で互いに異なる側となる端部において、対応する第1または第2の配線と接続されていることを特徴とする。
【0035】
第17の発明は、第15の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長がほぼ等しいことにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0036】
第18の発明は、第15の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線幅が定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0037】
第19の発明は、第15の発明において、
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線深さが定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする。
【0038】
第20の発明は、第1または第10の発明において、
前記定電圧電源はパルス電源であって、
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から20[V]とするとき、前記パルス電源を駆動するためのデューティ数Y(Yは自然数)に対する前記電気光学素子に流れる電流密度Ael[mA/cm 2]の比率γ(=Ael/Y)が50から5までの範囲内に定められることを特徴とする。
【0039】
第21の発明は、第20の発明において、
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から18.2[V]とするとき、前記比率γが50から5.5までの範囲内に定められることを特徴とする。
【0040】
第22の発明は、第21の発明において、
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から9.1[V]とするとき、前記比率γが50から11までの範囲内に定められることを特徴とする。
【0041】
第23の発明は、第1または第10の発明において、
前記電気光学素子は、発光状態または非発光状態のいずれかの状態となるように2値で階調制御されることを特徴とする。
【0042】
第24の発明は、第1または第10の発明において、
前記電気光学素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
上記第1の発明によれば、発光する電気光学素子から第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsと、発光する電気光学素子から第2のスイッチ手段を介して定電圧電源に接続されるまでの第2の抵抗値Rdとが、0.1≦β≦10を満たすよう設定される。このことにより、例えば電気光学素子に加えられるべき上限の電圧を考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0044】
上記第2の発明によれば、第1の抵抗値Rsおよび第2の抵抗値Rdとが、0.1≦β≦9.0を満たすよう設定されるので、例えば定電圧電源の製造コストを低く抑えることを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0045】
上記第3の発明によれば、第1の抵抗値Rsおよび第2の抵抗値Rdとが、0.1≦β≦5.0を満たすよう設定されるので、例えば定電圧電源の消費電力を低く抑え、また一般的に使用される電源を使用することを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0046】
上記第4の発明によれば、第1の電極がCr、Ta、ITOのいずれか1つ以上からなる。これらの金属には、例えばAlが使用される場合のように酸化による腐食を避けるための構成が必要ではないので簡易に形成でき、従来から導電性材料として知られており、かつ材料の安定性にも優れているため好適である。
【0047】
上記第5の発明によれば、第2の電極がITOからなるが、一般的な電気光学素子では、第2の電極から第1の電極へ電流が流されると第2の電極側へ発光が行われるので、第2の電極は透明なITOからなることが好ましい。また、例えばAlが使用される場合のように酸化による腐食を避けるための構成が必要ではないので簡易に形成でき、材料の安定性にも優れているため好適である。
【0048】
上記第6の発明によれば、第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、第1の抵抗値Rsおよび第2の抵抗値Rdが設定されるので、これらの抵抗値を簡易な構成で設定することができる。
【0049】
上記第7の発明によれば、第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長がほぼ等しいことにより、複数の配線における配線抵抗が略同一となる。このことにより、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0050】
上記第8の発明によれば、第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線幅が定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一となる。このことにより、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0051】
上記第9の発明によれば、第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線深さが定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一となる。このことにより、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0052】
上記第10の発明によれば、マトリクス型の表示装置において、全ての発光する電気光学素子から第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsと、全ての発光する電気光学素子から第2のスイッチ手段を介して定電圧電源に接続されるまでの第3の抵抗値(Rd/X)とが、0.1≦β’≦10を満たすよう設定される。このことにより、上記第1の発明と同様、例えば電気光学素子に加えられるべき上限の電圧を考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0053】
上記第11の発明によれば、上記第2の発明と同様、例えば定電圧電源の製造コストを低く抑えることを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0054】
上記第12の発明によれば、上記第3の発明と同様、例えば定電圧電源の消費電力を低く抑え、また一般的に使用される電源を使用することを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0055】
上記第13の発明によれば、上記第4の発明と同様、簡易に形成でき、従来から導電性材料として知られており、かつ材料の安定性にも優れているため好適である。
【0056】
上記第14の発明によれば、上記第5の発明と同様、透明なITOからなることが好ましく、また、簡易に形成でき、材料の安定性にも優れているため好適である。
【0057】
上記第15の発明によれば、上記第6の発明と同様、第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、第1の抵抗値Rsおよび第3の抵抗値(Rd/X)が設定されるので、これらの抵抗値を簡易な構成で設定することができる。
【0058】
上記第16の発明によれば、第1および第2の電極の少なくとも一方は、平行に隣り合う2つの電極で互いに異なる側となる端部において、対応する第1または第2の配線と接続されている。このことにより、第1および第2の配線の少なくとも一方に平行な方向において、各電気光学素子の輝度ばらつきが結果的に平均化されることによりその輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0059】
上記第17の発明によれば、上記第7の発明と同様、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0060】
上記第18の発明によれば、上記第8の発明と同様、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0061】
上記第19の発明によれば、上記第9の発明と同様、第1および第2の配線の少なくとも一方に直交する方向における各電気光学素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0062】
上記第20の発明によれば、定電圧電源がパルス電源であり、電気光学素子の発光電圧を2[V]から20[V]として、比率γが50から5までの範囲内に定められることにより、パルス電源で電気光学素子の表示寿命を短くする温度上昇を抑えてその表示寿命を延ばすことができるとともに、例えば電気光学素子に加えられるべき上限の電圧を考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命をさらに延ばすことができる。
【0063】
上記第21の発明によれば、電気光学素子の発光電圧を2[V]から18.2[V]として、比率γが50から5.5までの範囲内に定められることにより、パルス電源で電気光学素子の表示寿命を短くする温度上昇を抑えてその表示寿命を延ばすことができるとともに、例えば定電圧電源の製造コストを低く抑えることを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命をさらに延ばすことができる。
【0064】
上記第22の発明によれば、電気光学素子の発光電圧を2[V]から9.1[V]として、比率γが50から11までの範囲内に定められることにより、例えばデューティ数Yが比較的使用される64であるパルス電源で電気光学素子の表示寿命を短くする温度上昇を抑えてその表示寿命を延ばすことができるとともに、例えば定電圧電源の製造コストを低く抑えることを考慮に入れつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命をさらに延ばすことができる。
【0065】
上記第23の発明によれば、2値の電圧により階調制御される。この構成によれば、階調表示にばらつきが生じにくく、また製造プロセスがシンプルで製造コストを安くすることができる単純マトリクス方式を採用した本表示装置を内蔵することが多い携帯電話の表示装置や車載用表示装置などにおいても好適な表示を行うことができる。
【0066】
上記第23の発明によれば、代表的な電気光学素子である有機エレクトロルミネッセンス素子が使用されることにより、容易に高品質な表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、本発明の一実施形態につき添付図面を参照して説明する。
【0068】
<1.原理>
本発明の一実施形態の構成を説明する前提として、本発明において適用されるべき原理と得られる効果につき説明する。
【0069】
図1は、単体で発光させるときの電気光学素子を示す回路図である。図示される電気光学素子に対して電源から与えられる電圧をV、電気光学素子が所定の輝度となるときの抵抗値をRel、そのときの電流値をIとしたとき、オームの法則より、上記電流、電圧、および抵抗の関係は次式(1)のように表される。
V=I・Rel …(1)
【0070】
図2は、図1に示す回路における電気光学素子に対して抵抗素子を直列に挿入したときのこれらの素子を示す回路図である。なお、電気光学素子の劣化特性は、接続される抵抗素子に関わらず同じものとする。この電気光学素子の発光時における抵抗値をRelとし、この電気光学素子に対して直列に挿入される抵抗素子(以下「挿入抵抗素子」という)の抵抗値(以下「挿入抵抗値」という)をRrとするとき、この電気光学素子に流れる電流値I’が上記電流値Iと等しくなるような電圧値V’を決定することができる。すなわち、図2に示す電気光学素子の発光輝度が、挿入抵抗素子を挿入しないときの電気光学素子の発光輝度に等しくなるような電圧値V’を決定することができる。
【0071】
この電気光学素子に加わる電圧値をVel、そのときの挿入抵抗素子(挿入抵抗値Rr)に加わる電圧値をVrとするとき、オームの法則より、上記電流、電圧、および抵抗の関係は、次式(2)のように表される。
V’=Vel+Vr
=I’・(Rr+Rel)
=I・(Rr+Rel) …(2)
【0072】
上式(2)に示す電流値Iは、上式(1)よりI=Vel/Relと表されるので、これを上式(2)に代入すると、次式(3)のように表すことができる。
V’=Vel・(Rr+Rel)/Rel …(3)
【0073】
ここで、挿入抵抗値Rrと電気光学素子の発光時における抵抗値Relとの抵抗比率(すなわち抵抗値Relに対する挿入抵抗値Rrの割合)をβとするとき、βは分圧の比率に置き替えることにより、次式(4)のように表現することができる。
β=Rr/Rel
=(Vr/I’)/(Vel/I’)
=Vr/Vel …(4)
【0074】
このように、電気光学素子の発光時における抵抗値Relに対する挿入抵抗値Rrの比率β(=Rr/Rel)は、これら各抵抗に加わる電圧値の比Vr/Velによっても表現することができる。
【0075】
このとき、上式(3)は、上式(4)に示すβを用いて表すと、次式(5)のように表現することができる。
V’=Vel・(β+1) …(5)
【0076】
また、図3は、定電圧制御方式を用いた単純マトリクス方式の表示装置において、1つの走査電極が選択されたときの等価回路図を示す図である。ここで、単純マトリクス方式の表示装置は、後述する図8に示されるように、マトリクス状に配置された複数の有機EL素子を含む表示パネル100と、これらの有機EL素子に対して選択的に電流を流すための複数のスイッチ回路を含む走査電極駆動回路(コモンドライバ回路またはロウドライバ回路とも言う)200およびデータ電極駆動回路(セグメントドライバ回路またはカラムドライバ回路とも言う)300と、上記電流を供給する定電圧電源400とを備えており、表示パネル100は、互いに平行な走査電極(カソード電極線)SL1〜SL64と、これらに直交する互いに平行なデータ電極(アノード電極線)DL1〜DL96と、これらの交差点近傍に配置される有機EL素子10とを含む。
【0077】
なお、図3に示す回路は、上記図2に示す回路を電源に対して並列に複数配置した構成であり、図3に示す各配線および各電気光学素子の特性は、上記図2に示す各配線および各電気光学素子の特性と同様である。また、図3に示す回路では、配線を含まない走査電極およびデータ電極自体の抵抗値を0とみなしている。
【0078】
ここで、各電気光学素子の発光に寄与する(すなわち発光する各電気光学素子に繋がる)データ電極の本数をX、各電気光学素子に流れる電流値をI、この電流を導通または遮断するよう制御するスイッチSWから各電気光学素子までの配線を含む各データ電極の配線抵抗値をRd、各電気光学素子から接地点までの配線を含む各走査電極の配線抵抗値をRs、各電気光学素子の発光時における抵抗値をRelとするとき、並列に接続される発光時の電気光学素子における内部抵抗のみを並列に接続した合成抵抗値である電気光学素子総抵抗値Relallは次式(6)のように表現することができる。
Relall=Rel/X …(6)
【0079】
また、(それ自体の抵抗値は0である)上記データ電極および走査電極におけるそれぞれの配線抵抗のみを接続した合成抵抗値である配線総抵抗値Rrallは、同様に次式(7)のように表現することができる。
Rrall=Rs+Rd/X …(7)
【0080】
さらに、電気光学素子総抵抗値Relallと配線総抵抗値Rrallとの抵抗比率(すなわち電気光学素子総抵抗値Relallに対する配線総抵抗値Rrallの割合)をβ’とするとき、β’は次式(8)のように表現することができる。
β’=Rrall/Relall …(8)
【0081】
また、上式(8)は上式(4)と同様に電圧比で表すこともできるので、配線総抵抗値Rrallを有する上記データ電極および走査電極全体に加わる電圧をVrallとし、電気光学素子総抵抗値Relallを有する発光時の電気光学素子全体に加わる電圧をVelallとするとき、β’は次式(9)のように表現することができる。
β’=(I・X・Rrall)/(I・X・Relall)
=Vrall/Velall …(9)
【0082】
さらに、図3に示す回路について、配線を含む走査電極の配線抵抗値Rsを0とし、電源電圧をVddとし、X=1のときに当該電気光学素子に加わる電圧をVelとし、データ電極および走査電極全体に加わる電圧をVrとし、その比をβとする。このとき電源電圧Vddおよびβは次式(10)のように表現することができる。
Vdd=Vel+Vr
=I・Rel+I・Rd
β=Vr/Vel …(10)
【0083】
また、表示装置に設けられる全てのデータ電極の本数をXmaxとし、X=Xmaxであるとき、電源電圧Vddは次式(11)のように表現することができる。
Vdd=I・X・Rel/X+I・X・Rd/X
=I・Rel+I・Rd
=Vel+Vr …(11)
【0084】
ここで、X=Xmaxであるときのβ’は、上式(9)より、次式(12)のように表現することができる。
β’=(I・X・Rel/X)/(I・X・Rd/X)
=Vr/Vel …(12)
【0085】
よって、上式(10)および上式(12)は等しいので、走査電極の配線抵抗値Rsが0の場合、電源に対して全てのデータ電極がXmax本並列に接続されているにもかかわらずβとβ’とは同一の値となり、電流値Iも変化しない。
【0086】
この結果が得られるのは走査電極の配線抵抗値Rsを0とした場合であるが、走査電極の配線抵抗値Rsが0より大きい場合には、発光に寄与するデータ電極の本数に応じて電流値が変化する。そして、電気光学素子である有機EL素子は、その発光輝度と流れる電流とが比例関係にあることが知られているので、流れる電流値の変化は発光輝度の変化となる。この変化する発光輝度のうち最大の値をピーク輝度と呼び、その最小輝度に対する最大輝度の倍率をピーク輝度率と呼ぶ。
【0087】
ここで、Rs>0とするとき、X=1の場合には、発光する電気光学素子に対する挿入抵抗値Rrは、(配線を含む)データ電極の配線抵抗値Rdと(配線を含む)走査電極の配線抵抗値Rsとの和に等しいので、これらに加わる電圧値Vrは次式(13)のように表現することができる。
Vr=I・(Rs+Rd) …(13)
【0088】
この式(13)より、電源電圧Vddは次式(14)のように表現することができる。
Vdd=Vel+Vr
=I・Rel+I・(Rs+Rd) …(14)
【0089】
また、X=Xmaxの場合には、電源電圧Vddは次式(15)のように表現することができる。
Vdd=I・X・Rel/X+I・X・(Rs+Rd/X)
=I・Rel+I・Rd+I・X・Rs …(15)
【0090】
ここで、X=Xmaxの場合に電気光学素子に加わる電圧値をVel’とし、そのときの挿入抵抗値Rrを有する総配線抵抗に加わる電圧値をVr’とするとき、Rs=0であるのときの上式(14)と、Rs>0であるのときの上式(15)とを参照すれば、Vr’>Vrであることがわかり、電源電圧Vddは一定であるので、Vel>Vel’であることがわかる。また、X=Xmaxの場合に電気光学素子に流れる電流値I’は、X=1の場合に電気光学素子に流れる電流値に比べて当然に小さくなるので、I>I’となる。さらに、上記電圧値Vr’は次式(16)のように表現することができる。
Vr’=I’・X・(Rs+Rd/X) …(16)
【0091】
また、上式(16)より、X=Xmaxの場合には、電源電圧Vddは次式(17)のように表現することができる。
Vdd=Vel’+Vr’
=Vel’+I’・X・(Rs+Rd/X) …(17)
【0092】
この式(17)を変形すると、電流値I’は次式(18)のように表現することができる。
I’=(Vdd−Vel’)/(Rd+X・Rs) …(18)
【0093】
ここで一般的に、電気光学素子である有機EL素子は、当該素子に加わる電圧と流れる電流との間に指数関数的な近似式が成り立ち、さらに加わる電圧が数ボルト程度である場合にはこれらの関係は2次関数式によって近似できることが知られている。そこで、所定の定数をa,b,cとするとき、上記電流値I’は次式(19)のように表現することができる。
I’=a・Vel’2 +b・Vel’+c …(19)
【0094】
そこで、上式(18)および上式(19)から解の公式より、上記電圧値Vel’は次式(20)のように表現することができる。
Vel’={−(b+1/(Rd+X・Rs))
+√{(b+1/(Rd+X・Rs))2
−4・a・(c−Vdd/(Rd+X・Rs))}}
/(2・a) …(20)
【0095】
また、X=1であるときの電気光学素子の発光輝度をLとし、X=Xmaxであるときの電気光学素子の発光輝度をL’とすると、ピーク輝度率αは次式(21)のように表現することができる。
α=L/L’ …(21)
【0096】
そして、電気光学素子の発光輝度と流れる電流とは比例関係にあることから、ピーク輝度率αは次式(22)のように表現することができる。
α=I/I’ …(22)
【0097】
さらに、このピーク輝度率αを所望の値に予め定める場合、このピーク輝度率αを実現するための(配線を含む)データ電極の配線抵抗値Rdと(配線を含む)走査電極の配線抵抗値Rsとは、上式(18)、(19)、(22)から上記電圧値Vr’を求め、この求められた上記電圧値Vr’を代入した、上式(13)、(16)、(22)からなる連立方程式を解くことにより求めることができる。
【0098】
なお、前述のようにVel>Vel’、Vr’>Vrであるので、上式(8)、(10)、(12)から、このX=Xmaxの場合におけるβ’と、X=1の場合におけるβとの関係は、次式(23)のような不等式で表現することができる。
β’(=Vr’/Vel’)>β(=Vr/Vel) …(23)
【0099】
よって、この式(23)を参照すると、挿入抵抗値Rrと電気光学素子の発光時における抵抗値Relとの抵抗比率βは、1つの走査電極に繋がる発光している電気光学素子の数が多くなるほ大きくなることがわかる。
【0100】
また、上述のように複数配列された電気光学素子および関連する配線抵抗の特性は全て同一であるとし、配線のシート抵抗値をRsh、配線長をL、配線幅をWとするとき、上記配線抵抗Rは次式(24)のように表現される。
R[Ω]=Rsh[Ω/□(スクエア)]・L/W …(24)
【0101】
<2.電気光学素子の表示寿命とβとの関係>
次に、電気光学素子である有機EL素子の表示寿命と、挿入抵抗値Rrおよび電気光学素子の発光時における抵抗値Relの抵抗比率β(またはβ’)との関係について説明する。
【0102】
有機EL素子の所定の輝度における発光初期(すなわち発光経歴が短いとき)の内部抵抗の値は、その発光面積や内部構造によって大きく変動するが、通常100[Ω]〜20[MΩ]である。この有機EL素子の内部抵抗の値は、その内部を流れる電流密度と輝度との関係(特性)および電流密度と電圧との関係(特性)に基づき算出される。
【0103】
また、有機EL素子の両端に加わる電圧が変化するとその内部抵抗が変化することはよく知られている。この有機EL素子が発光するときに当該素子に加わる電圧は、その素子構造により異なるが、通常は約2[V]〜約20[V]である。一般的に、有機EL素子に20[V]よりも大きな電圧を与えると、外部へ逃げることができない熱により高い温度になった当該有機EL素子は急激に劣化する。また、有機EL素子は、その膜厚が数10nmと極めて薄く構成されているのが一般的である。そのため、20[V]よりも大きな電圧を与えると、この有機EL素子の電極を構成するITO(Indium Tin Oxide)等の表面粗さによって局所的な電界の集中が起きやすくなって絶縁破壊が引き起こされることがある。これらのことから、一般的な有機EL素子に20[V]よりも大きな電圧を与えることは好ましくないといえる。以下では、上述した範囲の電圧が加わる有機EL素子における表示寿命とβとの関係について、図4および図5を参照して説明する。
【0104】
図4は、直流定電圧電源に対して220本の有機EL素子が並列に接続された等価回路を示す図である。この図4に示す等価回路は、図3に示すような定電圧制御方式を用いた単純マトリクス方式の表示装置において、1つの走査電極が選択されたときの等価回路に対して、各走査電極の配線抵抗値Rsを0とし、X=220とした簡略な構成に相当する。
【0105】
ここで、2つの異なる以下の条件Aおよび条件Bにおいて、図4に示す回路における有機EL素子の発光輝度の経時変化について測定を行う。これら条件A、Bにおいては、ともに同じ素子構成、素子サイズの有機EL素子を使用し、有機EL素子の発光初期における抵抗値Relはともに2.3[MΩ]である。そして条件Aにおいて、電源電圧(入力電圧)Vddは4.3[V]であり、挿入抵抗値Rrは300[kΩ]である。また、条件Bにおける電源電圧(入力電圧)Vddは3.98[V]であり、挿入抵抗値Rrは5[kΩ]である。
【0106】
図5は、上記条件A,Bにおいて、図4に示す有機EL素子の規格化された発光輝度の経時変化を示す図である。この図5に示す縦軸は有機EL素子の規格化された発光輝度であり、横軸は条件Bにおける規格化輝度が0.5になる時間を1とした規格化時間である。
【0107】
ここで、上記各条件における上記抵抗比率β(=Rr/Rel)を計算すると、条件Aにおいてはβ=0.13となり、条件Bにおいてはβ=0.002となる。この条件Bにおけるβ=0.002の場合のように、挿入抵抗値Rrが有機EL素子の抵抗値Relに比べて非常に小さい場合、挿入抵抗値Rrはほぼ0とみなすことができる。一般的には、消費電力を低減するため、このように挿入抵抗値Rrが0とみなせる場合が好ましいとされており、従来の表示装置では、例えば走査電極、データ電極、および関連する配線の各抵抗値ができるだけ0に近い値になるよう構成されている場合が多い。
【0108】
この点、β=0.13となる条件Aにおいては、挿入抵抗値は有機EL素子の内部抵抗値に対して1割をやや超える程度の値となっており、従来の表示装置における上記構成とは大きく異なるが、図5を参照すると、条件Aの方が条件Bの場合よりも長い表示寿命が得られることがわかる。これは有機EL素子の劣化による内部抵抗の増加に応じて、発光初期に挿入抵抗値Rrの抵抗に加わっていた電圧がその後に有機EL素子に分配されるよう変化し、このような有機EL素子に加わる電圧の増加によりその輝度の低下が条件Bの場合に比べて相対的に抑えられることとなることで、結果的に表示寿命が延ばされる効果が得られると考えられる。
【0109】
そしてさらに図5を参照すると、上記規格化輝度が0.5になるまでの経過時間、すなわち有機EL素子の表示寿命は、条件Aの方が条件Bよりも約1.76倍に延びている。以上のことからわかるように、βがほぼ0に等しい場合、例えば条件Bにおけるβ=0.002の場合には、挿入抵抗値Rrは有機EL素子の抵抗Relに対してほぼ0とみなせる程度に小さいため、電源からの電圧はほとんどすべて有機EL素子に加わる。このため、表示寿命の延長効果はほとんど期待できない。これに対して、βが0.1近傍の値である場合、すなわち条件Aにおけるβ=0.13のときには、上述したように実際に表示寿命の延長効果を得ることができる。したがって、表示寿命の延長効果を有意に得ることができるβの下限値は、少なくとも0.1以上でなければならないと考えられる。
【0110】
次に、パルス電源を使用したときの有機EL素子の発光輝度の経時変化について測定を行う。図6は、パルス電源に対して有機EL素子と挿入抵抗とを直列接続した等価回路を示す図である。なお、この図6に示すパルス電源は、デューティ比が50%である(すなわち1サイクル中50%の期間のみ定められたオン電位となる)パルス波形を示す電圧を与える。このパルス電源も、広い意味で定電圧電源といえる。
【0111】
ここで、4つの異なる条件C,D,E,Fにおいて、図6に示す回路における有機EL素子の発光輝度の表示寿命について測定を行う。これら条件C,D,E,Fにおいては、ともに同じ素子構成、素子サイズの有機EL素子を使用し、有機EL素子の発光初期における抵抗値Relはともに2.3[kΩ]である。そして条件Cにおいて、挿入抵抗値Rrは0[Ω]であり、挿入抵抗は設けられていない。また条件Dにおける挿入抵抗値Rrは51[kΩ]であり、条件Eにおける挿入抵抗値Rrは11.5[kΩ]であり、条件Fにおける挿入抵抗値Rrは5.35[kΩ]である。なお、その他の条件は条件C,D,E,Fともに同じである。そして、これら各条件における上記抵抗比率β(=Rr/Rel)を計算すると、条件Cにおいてはβ=0となり、条件Dにおいてはβ=0.045となり、条件Eにおいてはβ=0.20となり、条件Fにおいてはβ=0.43となる。
【0112】
図7は、上記条件C,D,E,Fにおいて、図6に示す有機EL素子の規格化された発光輝度の経時変化を示す図である。この図7に示す縦軸は、条件Cにおける表示寿命を1として、各条件における表示寿命がその何倍になるかを示す値である。またこの横軸はβである。
【0113】
この図7を参照すると、条件Dにおける表示寿命は、抵抗を挿入しない条件Cにおける表示寿命とほぼ変わらない結果が得られているので、β=0.045の場合にはほとんど表示寿命の延長効果が得られないことがわかる。また、条件E,Fにおける場合のように挿入抵抗値が大きくなるほど、すなわちβが大きくなるほど、表示寿命が延びることがわかる。また、前述した図4および図5などを合わせて参照すれば、図4に示す定電圧源に代えて、上記デューティ比を有するパルス電源を備え、このパルス電源に対して220本の有機EL素子が並列に接続された回路においても同様の効果を得ることができると考えられる。
【0114】
以上のような測定結果から、直流定電圧電源であっても、パルス電源であっても、有機EL素子に対して直列に抵抗を挿入することによって寿命が延びる効果が得られるが、その効果が有意に現れるためのβは、およそ0.1以上であることがわかる。
【0115】
また、前述したように有機EL素子に印加するのに適する上限の電圧は20[V]程度であるため、βを有意な効果が得られる最小値に設定した場合における挿入抵抗と直列に接続される電気光学素子の発光輝度が、抵抗が挿入されないときの電気光学素子の発光輝度に等しくなるような電圧値V’、すなわち電源電圧(の最大値)V’は、上式(5)に対してVel=20,β=0.1を代入することにより、22[V]程度であると決定することができる。したがって、V’=20とし、一般的な有機EL素子が発光するための最小電圧は2V程度であるので、Vel=2とすると、βは上式(5)より次式(25)のような不等式で表現することができる。
22≧2(β+1) …(25)
【0116】
この式(25)より、β≦10となる。そして前述したように有意な効果を得るためのβの最小値は0.1であるから、βの範囲は次式(26)のような不等式で表現することができる。
0.1≦β≦10 …(26)
【0117】
ここで、Vel=20とし、βを0.1より大きくすれば、上式(5)より電源電圧V’は22[V]よりも大きくなる。しかし、上記電源電圧V’が非常に大きな電圧になると、スイッチ制御を行うためのIC内の素子耐圧を大きくするため、そのチップ面積を大きくしなければならず、その結果、製造コストが上昇する。このことを考慮すれば、電源電源V’は20[V]以下であることが好ましい。このことを考慮してV’=20とし、Vel=2とすると、βは上式(5)より次式(27)のような不等式で表現することができる。
20≧2(β+1) …(27)
【0118】
この式(27)より、β≦9.0となる。そして前述したように有意な効果を得るためのβの最小値は0.1であるから、βの範囲は次式(28)のような不等式で表現することができる。
0.1≦β≦9.0 …(28)
【0119】
また同様に、βを有意な効果が得られる最小値に設定し、電源電源V’を好ましい最大の電圧値である20[V]に設定するとき、有機EL素子の最大発光電圧Velは、上式(5)より18.2Vと求めることができる。
【0120】
ここで、上記電源電圧V’が20[V]であるとすると、消費電力が非常に大きくなり、また一般的に使用される電源電圧としても高すぎるので、消費電力を低く抑え、また一般的に使用される電源を使用することを考慮すると、上記電源電圧V’は12V以下であることがより好ましい。このことを考慮してV’=12とし、Vel=2とすると、βは上式(5)より、上式(27)と同様に次式(29)のような不等式で表現することができる。
12≧2(β+1) …(29)
【0121】
この式(29)より、β≦5.0となる。そして前述したように有意な効果を得るためのβの最小値は0.1であるから、βの範囲は次式(30)のような不等式で表現することができる。
0.1≦β≦5.0 …(30)
【0122】
また同様に、βを有意な効果が得られる最小値に設定し、電源電源V’をより好ましい最大の電圧値である12[V]に設定するとき、有機EL素子の最大発光電圧Velは、上式(5)より10.9Vと求めることができる。
【0123】
以上より、有機EL素子に印加するのに適する上限の電圧を考慮すれば、発光電圧は2[V]から20[V]までの範囲内に設定されるのが好ましく、さらに電源の製造コスト等を考慮すれば、発光電圧は2[V]から18.2[V]までの範囲内に設定されるのが好ましく、さらに消費電力を抑えることなどを考慮すれば、発光電圧はは2[V]から10.9[V]までの範囲内に設定されるのがより好ましい。
【0124】
また上述のように、βの範囲は、0.1≦β≦10であることが好ましく、さらに0.1≦β≦9.0であることがより好ましく、さらにまた0.1≦β≦5.0であることがより好ましい。
【0125】
このことは、上記有機EL素子がマトリクス状に配置された単純マトリクス方式の表示装置における、電気光学素子総抵抗値Relallと配線総抵抗値Rrallとの抵抗比率β’の範囲についても同様である。よって、上記βと同様に、β’の範囲は、0.1≦β’≦10であることが好ましく、さらに0.1≦β’≦9.0であることがより好ましく、さらにまた0.1≦β’≦5.0であることがより好ましい。
【0126】
ここで、以下に説明する本発明の一実施形態に係る表示装置では、電気光学素子である個々の有機EL素子に対して抵抗素子を直列に挿入するわけではなく、有機EL素子に電流を流すための走査電極やデータ電極に繋がる電源(具体的には駆動ドライバ)からの配線の抵抗、典型的には配線のシート抵抗値、配線の長さ、および配線の幅のいずれか1つ以上を適宜に調節することにより、上記β’を調整する。本表示装置は、このことにより表示寿命を長くする構成である。このように構成された本発明の一実施形態に係る表示装置について添付図面を参照して説明する。
【0127】
<2. 表示装置の構成>
<2.1 全体的な構成>
図8は、本発明の一実施形態に係る表示装置の全体的な構成を簡略に示す図である。図8に示されるように、この表示装置は、単純マトリクス方式の表示装置であって、マトリクス状に配置された複数の有機EL素子を含む表示パネル100と、これらの有機EL素子に対して選択的に電流を流すための複数のスイッチ回路を含む走査電極駆動回路(コモンドライバ回路またはロウドライバ回路とも言う)200およびデータ電極駆動回路(セグメントドライバ回路またはカラムドライバ回路とも言う)300と、上記電流を供給する定電圧電源400とを備える。
【0128】
定電圧電源400は、駆動すべき負荷にかかわらず定められた直流の電源電圧Vdd(ここでは12[V])を出力する。よって、本表示装置は、前述した定電圧型制御方式を採用しており、定電流型制御方式に比べて電源の回路構成が簡単であるため、製造コストを抑えることができる。
【0129】
表示パネル100は、互いに平行な64本の走査電極(カソード電極線)SL1〜SL64と、これらに直交する互いに平行な96本のデータ電極(アノード電極線)DL1〜DL96と、これらの交差点近傍に配置される有機EL素子10を含む複数の有機EL素子とを含む。
【0130】
この表示パネル100は多層構造を有しており、例えばガラス基板上にまず上記データ電極となるべきITO層が形成され、その上にα−NPD等からなる正孔輸送層が形成され、さらにその上に周知の有機発光素材からなる発光層が形成され、さらにその上に上記走査電極となるべきCr単体、CrとTaとの積層構造、CrとITOとの積層構造、またはCrとTaとITOとの積層構造からなる金属層が形成される。なお、この構成は周知であるため詳しい説明は省略する。また、周知の陽極バッファ層や電子輸送層などがさらに適宜の位置に積層されてもよい。
【0131】
この多層構造において、上記データ電極となるべきITO層から走査電極となるべき上記金属層へ電流が流されるとガラス基板の方向へ発光が行われるので、データ電極は透明なITOからなることが好ましい。また、走査電極となるべき金属層の材料には特に制限はないが、例えばAlが使用される場合には酸化による腐食を避けるための構成が必要となる。この点、上記Cr、Ta、ITOはそのような構成の必要がなく、従来から導電性材料として知られており、かつ材料の安定性にも優れているため、走査電極はこれらの金属単体または周知の積層構造により形成されることが好ましい。
【0132】
なお、前述のように走査電極とデータ電極とは互いに直交するので、本表示装置では、その表示面に対して垂直方向にこれらが重なる部分のみが発光することになる。この発光部分の具体的な大きさは、ここでは縦240μmであり横240μmであり、また開口率は50%である。
【0133】
走査電極SL1〜SL64は、走査電極駆動回路200に接続されており、走査電極駆動回路200に含まれるスイッチ回路の切り替え動作によって定電圧電源400から供給される電源電圧Vddまたは接地電位のいずれかを選択的に与えられる。
【0134】
すなわち、1つの表示画面を表示するための1フレーム期間において、走査電極駆動回路200は、走査電極SL1〜SL64のうちの1つを順に選択して接地電位を与え、選択されていない走査電極には電源電圧Vddを与える。図8では、走査電極SL62が選択されている状態が示されている。
【0135】
なお、本明細書において接地電位とは、電源電圧Vddから所定の電位差を有する共通的な電位を指すものとし、或る電極を接地するとは、当該電極を上記共通的な電位にすることをいう
【0136】
データ電極DL1〜DL96は、データ電極駆動回路300に接続されており、走査電極駆動回路200と同様にデータ電極駆動回路300に含まれるスイッチ回路の切り替え動作によって定電圧電源400から供給される電源電圧Vddまたは接地電位のいずれかを選択的に与えられる。
【0137】
ここで、データ電極駆動回路300は、走査電極駆動回路200により選択されている1本の走査電極に繋がる複数の有機EL素子のうち発光させるべき1つ以上の有機EL素子に繋がるデータ電極DL1〜DL96のうちの1つ以上に電源電圧Vddを与え、それ以外のデータ電極を接地する。データ電極駆動回路300は、この動作を走査電極駆動回路200により走査電極が選択される毎に繰り返す。図8では、データ電極DL1,DL2に電源電圧Vddが与えられる状態が示されている。よって、ここでは有機EL素子10およびその右隣の有機EL素子のみが発光することになる。
【0138】
なお、本表示装置における走査電極駆動回路200は、各走査電極を100Hzで駆動しており、そのデューティ数を64回としている。この駆動周波数は、特に限定はないが人間の目にフリッカを感じさせない(または感じにくくさせる)限界周波数とされる60Hz以上であることが好ましい。
【0139】
ここで、本表示装置は、発光する有機EL素子に流れる電流をアナログ量で制御するアナログ階調制御の構成であってもよいが、一般的に定電圧制御方式では定電流制御方式に比べて各有機EL素子により表示される階調にばらつきが生じやすいことが知られており、このことを考慮すればアナログ階調制御の構成は必ずしも好ましいとはいえない。そこで、本実施形態では、有機EL素子を所定の明輝度の発光状態または所定の暗輝度の非発光状態とする2値の電圧により制御し、有機EL素子の発光時間を制御することにより階調を表現するデジタル階調制御方式が用いられるものとする。このように2値の電圧により階調を制御する構成によれば、階調表示にばらつきが生じにくく、また製造プロセスがシンプルで製造コストを安くすることができる単純マトリクス方式を採用した本表示装置を内蔵することが多い携帯電話の表示装置や車載用表示装置などにおいても好適な表示を行うことができる。
【0140】
なお、上記2値の電圧により階調制御を行う周知の方式としては、例えば、中間調を持つ動画像をそれぞれ重み付けられた複数の2値の画像に分け、時間的にそれらを重ね合わせることで中間調を表示する方式(サブフィールド法と呼ばれる)や、発光面積の異なる電気光学素子を2値の電圧で階調制御する方式などがあり、本表示装置にこれらの周知の方式を採用してもよい。
【0141】
次に、表示パネル100における走査電極SL1〜SL64およびデータ電極DL1〜DL96と、表示パネル100の外部に設けられる走査電極駆動回路200および走査電極駆動回路200とを接続するために設けられる、表示パネル100の配線について説明する。
【0142】
<2.2 表示パネルの配線構成>
図9は、表示パネル100の配線構成を簡略に示す平面図である。図9に示されるように、表示パネル100の図における下方には、走査電極駆動回路200に接続される奇数走査電極コネクタ101および偶数走査電極コネクタ103と、データ電極駆動回路300に接続されるデータ電極コネクタ102とが設けられている。
【0143】
走査電極SL1〜SL64のうち奇数行に対応する走査電極SL1,SL3,…,SL63は、図の左側においてそれぞれ対応する走査電極配線Ls1,Ls3,…,Ls63の一端に接続されている。これら走査電極配線Ls1,Ls3,…,Ls63は、それぞれ所定のシート抵抗値、配線長、および配線幅を有しており、その他端は奇数走査電極コネクタ101に接続されている。このシート抵抗値、配線長、および配線幅については後述する。
【0144】
同様に、走査電極SL1〜SL64のうち偶数行に対応する走査電極SL2,SL4,…,SL64は、図の右側においてそれぞれ対応する走査電極配線Ls2,Ls4,…,Ls64の一端に接続されている。これら走査電極配線Ls2,Ls4,…,Ls64は、同様に所定のシート抵抗値、配線長、および配線幅を有しており、その他端は奇数走査電極コネクタ101に接続されている。
【0145】
このように、走査電極SL1〜SL64のうち奇数行に対応する走査電極と偶数行に対応する走査電極とが左右交互に対応する走査電極配線と接続される構成であることから、有機EL素子の輝度のばらつきを緩和することができる。すなわち、走査電極の抵抗は完全に0とすることができないので、走査電極に繋がる各有機EL素子から(走査電極駆動回路200を経て)定電圧電源400までの配線距離に応じて各有機EL素子に加わる電圧にばらつきが生じることにより、その輝度にもばらつきが生じる。そこで、走査電極の一端を各行毎に左右交互に走査電極配線と接続することにより、各走査電極において定電圧電源400から最も遠い各有機EL素子が各行毎に交互に左端または右端となるよう配置することができる。この構成により、表示画面の左右方向において有機EL素子の輝度のばらつきが結果的に平均化され、このことにより輝度ばらつきが緩和される。
【0146】
また、走査電極SL1は、走査電極SL63よりも奇数走査電極コネクタ101から遠い位置にあり、また同様に走査電極SL2は、走査電極SL64よりも偶数走査電極コネクタ103から遠い位置にあるので、図の上下方向における各走査電極の定電圧電源400までの配線距離に応じて各有機EL素子に加わる電圧にばらつきが生じることにより、その輝度にもばらつきが生じる。そこで、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線長が同一になるよう、例えばより近い位置にある走査電極に繋がる走査電極配線ほど左右に屈曲させるなどの構成によって、より長い迂回路を経るような配線形状とする。このことにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にすることができるので、図の上下方向における各有機EL素子の輝度ばらつきを解消または緩和することができる。
【0147】
また、この構成に代えてまたはこの構成とともに、最も図の上方に配置される走査電極SL1に接続される走査電極配線Ls1の配線幅を最も大きくし、最も図の下方に配置される走査電極SL64に接続される走査電極配線Ls64の配線幅を最も小さくすることにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にしてもよい。すなわち、奇数走査電極コネクタ101または偶数走査電極コネクタ103から遠い位置にある走査電極に繋がる走査電極配線ほど配線長が大きくなることにより配線抵抗が大きくなるので、上述のように配線幅を適宜調整することにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にすることができる。この構成により、図の上下方向における各有機EL素子の輝度ばらつきが解消または緩和される。
【0148】
さらに、これらの構成に代えてまたはこれらの構成とともに、各走査電極配線の配線深さ(表示面に対する垂直方向の配線材料の膜厚)を適宜調整することにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にすることができる。配線の深さを調整することにより、配線のシート抵抗値を調整することができるからである。なお、この構成は、実際には製造プロセス等の制約により、シート抵抗値を0.3[Ω/□]程度わずかに増減させるための微調整のために行われるのが好適である。同様に製造プロセス等の制約があるが、各走査電極配線の素材を適宜選択することにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にすることができる。配線材料の抵抗率を調整することにより、配線のシート抵抗値を調整することができるからである。これらの構成により、図の上下方向における各有機EL素子の輝度ばらつきが解消または緩和される。
【0149】
次に、以上のように走査電極配線およびデータ電極配線のシート抵抗値、配線長、および配線幅を適宜に設定することにより、有機EL素子の表示寿命を延長することができる最小の値としてβ=0.1(またはβ’=0.1)とするときの、走査電極配線およびデータ電極配線の各配線抵抗値について、図9を参照しつつ具体的な数値を算出する。なお、βの範囲は、0.1≦β≦10であることが好ましく、さらに0.1≦β≦9.0であることがより好ましく、さらにまた0.1≦β≦5.0であることがより好ましいことについては前述したとおりであるが、ここではβ(またはβ’)の下限値である0.1である場合を例に説明する。
【0150】
<2.3 各配線抵抗の算出>
図10は、本表示装置に使用される1つの有機EL素子の発光電圧と、その内部抵抗値および流れる電流値との関係を示す図である。図10に示されるように、図の左側の縦軸は有機EL素子の内部抵抗値を示し、右側の縦軸は有機EL素子に流れる電流値を示し、横軸は有機EL素子の発光電圧を示している。なお、実線は有機EL素子の発光電圧とその内部抵抗値との関係を示し、点線は有機EL素子の発光電圧と流れる電流値との関係を示している。
【0151】
ここで、本表示装置に使用される1つの有機EL素子の発光電圧が10.9[V]となるよう当該有機EL素子に流れる電流値Iを設定する。このとき、図10を参照すると、有機EL素子の内部抵抗値は13170[Ω]となり、上記電流値Iは0.000828[A]となる。また、電源電圧Vddは12Vであることから、上記発光電圧が差し引かれた残る1.1[V]の電圧が走査電極配線およびデータ電極配線に印加されることになる。そこで、有機EL素子の表示寿命を延ばす効果が有意に現れるβ=0.1であるときの走査電極配線およびデータ電極配線の合計配線抵抗値(Rs+Rd)を計算すると、1329[Ω]となる。
【0152】
なお、ここでは走査電極およびデータ電極の合計抵抗値をほぼ0[Ω]としているが、この合計抵抗値が0[Ω]より相当程度大きい場合には、この合計抵抗値を差し引くことにより上記合計配線抵抗値を算出することができる。
【0153】
また、1つの走査電極に繋がる有機EL素子の最大数は96であるので、1つの走査電極に流れる最大の電流値は上記電流値Iの96倍である0.0795[A]となる。そして、上述したように、並列に接続される発光時の有機EL素子における内部抵抗全ての合成抵抗である電気光学素子総抵抗値Relallと、データ電極および走査電極の配線抵抗の合成抵抗値である配線総抵抗値Rrallとは、発光に寄与するデータ電極の本数Xによって変化する。
【0154】
ここで、X=96としたとき、有機EL素子の内部抵抗値Relは13170[Ω]であるから、これらを上式(6)に代入すると、電気光学素子総抵抗値Relallは次式(31)のように計算することができる。
Relall=13170/96
=137.2[Ω] …(31)
【0155】
また、走査電極に繋がる走査電極配線の抵抗値Rsを0[Ω]としたとき、これを上式(7)に代入すると、配線総抵抗値Rrallは次式(32)のように計算することができる。
Rrall=0+1329/96
=13.8[Ω] …(32)
【0156】
このように以上の条件では、Xに関係なく、発光する有機EL素子の発光電圧は10.9[V]であり、走査電極配線およびデータ電極配線に加わる電圧値は1.1[V]であるので、挿入抵抗値Rrと電気光学素子の発光時における抵抗値Relとの抵抗比率β(または抵抗比率β’)も0.1であり、変化しないことがわかる。
【0157】
次に、走査電極に繋がる走査電極配線の抵抗値Rsが0[Ω]より大きい場合には、発光に寄与するデータ電極の本数に応じて電流値が変化するので、ピーク輝度が生じることは前述したとおりである。そこで、X=1のときにβ=0.1になるよう走査電極配線およびデータ電極配線の合計配線抵抗値(Rs+Rd)を前述と同様1329[Ω]とし、さらにRs=10[Ω]、Rd=1319[Ω]とする。そして、発光する有機EL素子の数を増加させるようX=96とするとき、これらを上式(7)に代入すると、配線総抵抗値Rrallは次式(33)のように計算することができる。
Rrall=10+1319/96
=23.8[Ω] …(33)
【0158】
このとき、もし発光する有機EL素子に10.9Vが加わるものとすると、上記配線総抵抗値23.8[Ω]の配線抵抗に0.0795[A]の電流が流れるので、この抵抗に加わる電圧値は1.9[V]となり、これらの電圧値の合計が電源電圧Vddである12[V]を超えてしまう。そこで改めて有機EL素子に加わる電圧値を計算すると、X=96としたとき(すなわち1本の走査電極に繋がる全ての有機EL素子が発光するとき)、上記配線抵抗に流れる電流は、1つの有機EL素子に流れる電流値の96倍である全電流値Iallに等しく、この配線抵抗に加わる電圧はこの全電流値Iallに23.8[Ω]を乗じた値である。また、この配線抵抗に加わる電圧と有機EL素子に加わる電圧値Vrelとの和は12[V]である。これらの関係を満たす有機EL素子に加わる電圧値Vrelは、図10を参照すると10.54[V]であることがわかる。よって、配線抵抗に加わる電圧値は1.46[V]であり、このときのβはこれらの電圧比であるから0.14と計算することができる。
【0159】
また、図10を参照すると、1つの有機EL素子が発光するとき(X=1のとき)に流れる電流値は、1本の走査電極に繋がる96個全ての有機EL素子が発光するとき(X=96のとき)に流れる電流値に比べて、1.29倍となることがわかる。そして、前述したように、有機EL素子に流れる電流とその発光輝度とはほぼ比例関係にあることが知られているので、ピーク輝度率は1.29倍となる。このようにピーク輝度率が1より大きいことは、表示装置における表示をより鮮やかに見せるためには好ましく、発光する有機EL素子が少ない場合、ピーク輝度を有する有機EL素子によって表示がより鮮やかになる。しかし、ピーク輝度率が大きくなるほど、素子の劣化速度が大きくなって表示寿命が短くなるので、このような表示の美しさと表示寿命の長さとの好適なバランスを考慮すると、ピーク輝度率は概ね1.2から2.0までの値に設定することが好ましいといえる。このように配線抵抗値を調整することにより有機EL素子の表示寿命を延ばしながら、特に走査電極配線に0より大きい抵抗値を持たせることにより所定の範囲のピーク輝度率を設定することは、表示装置のおける各配線抵抗値を決定する上で純分に考慮すべき事項であるといえる。
【0160】
なお、ここでは走査電極およびデータ電極の合計抵抗値をほぼ0[Ω]としているが、この合計抵抗値が0[Ω]より相当程度大きい場合には、当該走査電極またはデータ電極に繋がる有機EL素子の輝度にばらつきが生じることがあるので、前述したように合計配線抵抗値(Rs+Rd)は、配線抵抗により適宜に設定することが好ましい。この配線抵抗を適宜に設定する方法としては、前述したように各配線のシート抵抗値、配線長、および配線幅(または配線深さ)を調整することが考えられる。例えばこの配線の長さを3000μmとし、配線幅を10μmとすると、上式(24)より、データ電極配線のシート抵抗値は4.4[Ω/□]となり、走査電極配線のシート抵抗値は0.03[Ω/□]となる。
【0161】
<3. 効果>
以上のように、本実施形態の表示装置は、個々の有機EL素子に対して抵抗素子を直列に挿入するのではなく、有機EL素子に電流を流すための走査電極やデータ電極に繋がる電源からの配線の抵抗、典型的には配線のシート抵抗値、配線の長さ、および配線の幅のいずれか1つ以上を適宜に調節することにより、上記βまたはβ’を調整し、βの範囲を0.1≦β≦10(またはβ’の範囲を0.1≦β’≦10)とし、より好適には0.1≦β≦9.0(またはβ’の範囲を0.1≦β’≦9.0)とし、さらにより好適にはβの範囲を0.1≦β≦5.0(またはβ’の範囲を0.1≦β’≦5.0)とすることにより、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0162】
また、本実施形態の表示装置は、走査電極SL1〜SL64のうち奇数行に対応する走査電極と偶数行に対応する走査電極とが左右交互に対応する走査電極配線と接続される構成により、表示画面の左右方向における有機EL素子の輝度のばらつきを緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償して表示寿命を延ばすことができる。
【0163】
さらに、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線長が同一になるよう、例えばより近い位置にある走査電極に繋がる走査電極配線ほど左右に屈曲させるなどの構成によって、より長い迂回路を経るような配線形状とする構成や、最も図の上方に配置される走査電極SL1に接続される走査電極配線Ls1の配線幅を最も大きくし、最も図の下方に配置される走査電極SL64に接続される走査電極配線Ls64の配線幅を最も小さくする構成や、各走査電極配線の配線深さ(表示面に対する垂直方向の配線の膜厚)を適宜調整することにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にする。このことにより、上下方向における各有機EL素子の輝度ばらつきを解消または緩和しつつ、簡易な構成で電気光学素子の経時的な輝度劣化を補償してその表示寿命を延ばすことができる。
【0164】
<4. 変形例>
<4.1 主たる変形例>
上記実施形態における表示装置に備えられる定電圧電源400は、その駆動負荷にかかわらず電源電圧Vdd(12[V])を出力する構成であるが、前述したようにこのような定電圧電源をパルス電源に置き換えたとしても同様の表示寿命の延長効果を得られることについては図7を参照して前述したとおりである。そこで、この主たる変形例における表示装置は、上記実施形態の定電圧電源400に代えて、12[V]のパルス電圧を出力するパルス電源を備えるものとする。なお、その他の構成要素は上記実施形態と同様であるためその説明は省略する。
【0165】
このパルス電源は、平均電流密度を制御できるので、定電圧電源よりも有機EL素子の内部温度を低く抑えることができる。そして、有機EL素子はその内部温度が上昇すると表示寿命が急激に短くなることが知られており、また非特許文献1に示されるように、時間平均電流密度の大きさに応じて有機EL素子の表示寿命が決定されることも知られている。
【0166】
ここで、有機EL素子の発光電圧をVelとし、その電流密度をAel[mA/cm 2]とし、パルス電源を駆動するためのデューティ数をY(Yは自然数)として、これら比をγ(=Ael/Y)とするとき、電力密度P[W/cm 2]は次式(34)のように表現することができる。
P=γ/1000*Vel …(34)
【0167】
そして一般的に、電力密度Pが0.1[W/cm 2]以下の場合に有機EL素子の温度上昇を数度程度に抑えることができるので、温度上昇を抑えるために上式(34)にP=0.1以下を代入すると、次式(35)のように表現することができる。
0.1≧γ/1000*Vel …(35)
【0168】
そして前述したように、有機EL素子の発光電圧は2[V]から20[V]までが好ましいので、上式(35)にVel=2〜20を代入すると、好適なγの範囲はVelに応じて、50から5までの値となる。また、前述したように、有機EL素子の発光電圧は2[V]から18.2[V]までがより好ましいので、上式(35)にVel=2〜18.2を代入すると、さらに好適なγの範囲はVelに応じて、50から5.5までの値となる。さらに前述したように、有機EL素子の発光電圧は2[V]から10.9[V]までがさらにより好ましいので、上式(35)にVel=2〜10.9を代入すると、さらに好適なγの範囲はVelに応じて、50から9.2までの値となる。
【0169】
次に、この主たる変形例における表示装置において、内部温度の上昇との関係で表示寿命の延長効果がみられるような有機EL素子の発光電圧について、図11を参照して具体的に検討する。
【0170】
図11は、図10に示される特性を有する有機EL素子について、その電流密度と発光電圧との関係を示す図である。ここで、パルス電源のデューティ数を比較的多く使用される64とし、発光電圧を10.9[V]とするとき、温度上昇を抑えるための有機EL素子の電流密度は、上式(35)より計算すると、587[mA/cm 2]以下でなければならない。しかし、図11を参照すると、実際の電流密度は2874[mA/cm 2]となるので、上記実施形態における表示装置と同様の表示寿命の延長効果はあるものの、この場合には有機EL素子内部の温度上昇により表示寿命が短くなってしまう。
【0171】
そこで、上式(35)より算出された温度上昇を抑えるための有機EL素子の電流密度が587[mA/cm 2]以下であることから、図11を参照して温度上昇を抑えることのできる有機EL素子の発光電圧を求めると、およそ9.1V以下であることがわかる。よって、パルス電源を使用した本表示装置は、上述した定電圧電源を使用した表示装置と同様の表示寿命の延長効果を得るためには有機EL素子の発光電圧は10.9Vであればよいが、有機EL素子の内部温度の上昇を抑えることによる表示寿命の延長効果を得るためには上記発光電圧は9.1V以下であることが好ましく、この場合配線抵抗に加わる電圧は2.9V以上となるため、このような電圧が加わるよう配線抵抗値を調節することがより好ましいといえる。
【0172】
また上記の検討結果から、パルス電源のデューティ数を64としたときに有機EL素子の内部温度の上昇を抑えることによる表示寿命の延長効果を得るためには、有機EL素子の発光電圧は2[V]から9.1[V]までがさらにより好ましいので、上式(35)にVel=2〜9.1を代入すると、さらに好適なγの範囲はVelに応じて、50から11までの値となる。
【0173】
<4.2 その他の変形例>
上記実施形態では、走査電極配線およびデータ電極配線の配線抵抗を適宜に調整する構成であるが、これらの配線抵抗を調整することに代えて、周知の抵抗器や抵抗物質を介挿することにより、上記配線抵抗値に相当する抵抗値を与えてもよい。
【0174】
上記実施形態では走査電極SL1〜SL64のうち奇数行に対応する走査電極と偶数行に対応する走査電極とが左右交互に対応する走査電極配線と接続される構成であるが、データ電極DL1〜DL96のうち奇数列に対応するデータ電極と偶数列に対応するデータ電極とが上下交互に対応するデータ電極配線と接続される構成であってもよい。この場合には、定電圧電源400から最も遠い各有機EL素子が各列毎に交互に上端または下端となるよう配置することができる。この構成により、表示画面の上下方向において有機EL素子の輝度のばらつきが結果的に平均化され、このことにより輝度ばらつきが緩和される。
【0175】
上記実施形態では全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線長が同一になるよう、例えばより近い位置にある走査電極に繋がる走査電極配線ほど左右に屈曲させるなどの構成によって、より長い迂回路を経るような配線形状とするが、同様に全てのデータ電極配線Ld1〜Ld96の配線長が同一になるよう構成してもよい。また、上記実施形態では最も図の上方に配置される走査電極SL1に接続される走査電極配線Ls1の配線幅を最も大きくし、最も図の下方に配置される走査電極SL64に接続される走査電極配線Ls64の配線幅を最も小さくする構成や、各走査電極配線の配線深さ(表示面に対する垂直方向の配線の膜厚)を適宜調整することにより、全ての走査電極配線Ls1〜Ls64の配線抵抗を略同一にするが、同様の構成よりデータ電極配線Ld1〜Ld96の配線抵抗を略同一にしてもよい。これらのことにより、図の左右方向における各有機EL素子の輝度ばらつきを解消または緩和することができる。
【0176】
なお、本発明は発光素子の形状や大きさに関係なく適用できるので、例えば自動車のスピードメータにおけるパワーメータ部や数字部、または時計など発光素子の形状が異なるものであっても、走査電極線が常に選択状態、すなわち所定のLow電圧または接地電圧になっている状態で、画像信号に応じた所定のタイミングで発光素子に電流を供給しまたは遮断する定電圧回路を有しており、βが0.1から10までの範囲、より好適にはβが0.1から9.0までの範囲、さらにより好適にはβが0.1から5.0までの範囲となる表示装置の構成であればよく、例えばセグメント方式など種々の表示装置において上記実施形態と同様の寿命を延ばす効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、単体で発光させるときの電気光学素子を示す回路図である。
【図2】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、電気光学素子に抵抗素子を直列に挿入したときのこれらの素子を示す回路図である。
【図3】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、定電圧制御方式を用いた単純マトリクス方式の表示装置において、1つの走査電極が選択されたときの等価回路図を示す図である。
【図4】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、直流定電圧電源に対して220本の有機EL素子が並列に接続された等価回路を示す図である
【図5】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、図4に示す有機EL素子の規格化された発光輝度の経時変化を示す図である。
【図6】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、パルス電源に対して有機EL素子と挿入抵抗とを直列接続した等価回路を示す図である。
【図7】上記一実施形態に係る表示装置の原理を説明するため、図6に示す有機EL素子の規格化された発光輝度の経時変化を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る表示装置の全体的な構成を簡略に示す図である。
【図9】上記一実施形態における表示パネルの配線構成を簡略に示す平面図である。
【図10】上記一実施形態に係る表示装置に使用される1つの有機EL素子の発光電圧と、その内部抵抗値および流れる電流値との関係を示す図である。
【図11】上記一実施形態における図10に示される特性を有する有機EL素子について、その電流密度と発光電圧との関係を示す図である。
【図12】従来例における定電圧型制御方式および定電流型制御方式による、有機EL素子の時間経過による発光輝度の低下を示す図である。
【符号の説明】
【0178】
10 …有機EL素子
100 …表示パネル
101 …奇数走査電極コネクタ
102 …データ電極コネクタ
103 …偶数走査電極コネクタ
200 …走査電極駆動回路
300 …データ電極駆動回路
400 …定電圧電源
SL1〜SL64 …走査電極
DL1〜DL96 …データ電極
Ls1〜Ls64 …走査電極配線
Ld1〜Ld96 …データ電極配線
Rd …データ電極の配線抵抗値
Rs …走査電極の配線抵抗値
Rel…電気光学素子の発光時における内部抵抗値
Rr …挿入抵抗値
Vel…電気光学素子に加わる電圧値
Vr …挿入抵抗素子(挿入抵抗値Rr)に加わる電圧値
Vdd …電源電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の電極と、前記第1および第2の電極の交差点に配置されて電流を流されることにより発光する電気光学素子と、前記電気光学素子に流されるべき電流を供給する定電圧電源と、前記第1の電極を選択的に接地する第1のスイッチ手段と、前記第2の電極に前記定電圧電源からの電圧を選択的に印加する第2のスイッチ手段とを備える表示装置であって、
発光する電気光学素子から前記第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsおよび発光する電気光学素子から前記第2のスイッチ手段を介して前記定電圧電源に接続されるまでの第2の抵抗値Rdは、前記電気光学素子の発光時における抵抗値Relに対する前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdの和の比率をβ(=(Rs+Rd)/Rel)とするとき、0.1≦β≦10を満たすよう設定されることを特徴とする、表示装置。
【請求項2】
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdは、0.1≦β≦9.0を満たすよう設定されることを特徴とする、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdは、0.1≦β≦5.0を満たすよう設定されることを特徴とする、請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、Cr単体、CrとTaとの積層構造、CrとITOとの積層構造、またはCrとTaとITOとの積層構造からなる金属層により形成されることを特徴とする、請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記第2の電極は、ITOにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記第1の電極と前記第1のスイッチ手段とを接続する第1の配線と、前記第2の電極と前記第2のスイッチ手段とを接続する第2の配線とをさらに備え、
前記第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、前記第1の抵抗値Rsおよび前記第2の抵抗値Rdが設定されることを特徴とする、請求項1に記載の表示装置。
【請求項7】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長がほぼ等しいことにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項6に記載の表示装置。
【請求項8】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線幅が定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項6に記載の表示装置。
【請求項9】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線深さが定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項6に記載の表示装置。
【請求項10】
所定の方向へ延びる互いに平行な複数の電極である第1の電極と、前記第1の電極と直交する方向へ延びる互いに平行な複数の電極である第2の電極と、前記第1および第2の電極の交差点にそれぞれ対応してマトリクス状に複数が配置されて複数の画素を形成する電気光学素子と、前記電気光学素子に流されるべき電流を供給する定電圧電源と、前記第1の電極を所定の期間ずつ選択的に接地する第1のスイッチ手段と、前記第2の電極に前記定電圧電源からの電圧を選択的に印加する第2のスイッチ手段とを備える表示装置であって、
前記所定の期間内において前記第2のスイッチ手段により選択的に前記定電圧電源からの電圧を印加される前記第2の電極の数をXとするとき、全ての発光する電気光学素子から前記第1のスイッチ手段を介して接地されるまでの第1の抵抗値Rsおよび全ての発光する電気光学素子から前記第2のスイッチ手段を介して前記定電圧電源に接続されるまでの第3の抵抗値(Rd/X)は、全ての発光する電気光学素子の総抵抗値Relallに対する前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)の和の比率をβ’(=(Rs+Rd/X)/Relall)とするとき、0.1≦β’≦10を満たすよう設定されることを特徴とする、表示装置。
【請求項11】
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)は、0.1≦β’≦9.0を満たすよう設定されることを特徴とする、請求項10に記載の表示装置。
【請求項12】
前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)は、0.1≦β’≦5.0を満たすよう設定されることを特徴とする、請求項11に記載の表示装置。
【請求項13】
前記第1の電極は、Cr単体、CrとTaとの積層構造、CrとITOとの積層構造、またはCrとTaとITOとの積層構造からなる金属層により形成されることを特徴とする、請求項10に記載の表示装置。
【請求項14】
前記第2の電極は、ITOにより形成されることを特徴とする、請求項10に記載の表示装置。
【請求項15】
前記第1の電極と前記第1のスイッチ手段とを接続する第1の配線と、前記第2の電極と前記第2のスイッチ手段とを接続する第2の配線とをさらに備え、
前記第1および第2の配線の少なくとも1つにおける、配線長、配線幅、および配線シート抵抗値の少なくとも1つを所定の値に定めることにより、前記第1の抵抗値Rsおよび前記第3の抵抗値(Rd/X)が設定されることを特徴とする、請求項10に記載の表示装置。
【請求項16】
前記第1および第2の電極の少なくとも一方は、平行に隣り合う2つの電極で互いに異なる側となる端部において、対応する第1または第2の配線と接続されていることを特徴とする、請求項15に記載の表示装置。
【請求項17】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長がほぼ等しいことにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項15に記載の表示装置。
【請求項18】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線幅が定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項15に記載の表示装置。
【請求項19】
前記第1および第2の配線は、それぞれ複数が設けられ、
前記第1および第2の配線の少なくとも一方は、複数の配線における配線長に応じて配線深さが定められることにより、複数の配線における配線抵抗が略同一であることを特徴とする、請求項15に記載の表示装置。
【請求項20】
前記定電圧電源はパルス電源であって、
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から20[V]とするとき、前記パルス電源を駆動するためのデューティ数Y(Yは自然数)に対する前記電気光学素子に流れる電流密度Ael[mA/cm 2]の比率γ(=Ael/Y)が50から5までの範囲内に定められることを特徴とする、請求項1または請求項10に記載の表示装置。
【請求項21】
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から18.2[V]とするとき、前記比率γが50から5.5までの範囲内に定められることを特徴とする、請求項20に記載の表示装置。
【請求項22】
前記電気光学素子の発光電圧を2[V]から9.1[V]とするとき、前記比率γが50から11までの範囲内に定められることを特徴とする、請求項21に記載の表示装置。
【請求項23】
前記電気光学素子は、発光状態または非発光状態のいずれかの状態となるように2値で階調制御されることを特徴とする、請求項1または請求項10に記載の表示装置。
【請求項24】
前記電気光学素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする、請求項1または請求項10に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−11218(P2007−11218A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195110(P2005−195110)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】