説明

表面に凹凸模様を有する化粧シートおよびその製造方法

【課題】単色ベタの状態であっても、表面の凹凸のみで絵柄表現や艶表現を含めた優れた凹凸感を表現した、表面に凹凸模様を有する化粧シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に凹凸模様を有する化粧シートであって、前記凹凸模様は、その凹凸が段階的な深さを有し、かつ、その凹凸が段階的な間隔を有してなり、前記段階的な深さは、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20μm以上あり、前記段階的な間隔は、その要素の平均長さ(「Psm」JIS B0601:2001)が500μmの前後で最大差が100μm以上あることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に家具、家電製品、自動車内装、建材内装及び外装などの表面に貼り合わせて意匠性を向上させる為に用いる化粧シートに関し、特に表面の凹凸模様の深さや疎密によって、木目模様の表面濃淡の差や艶の差を表現した化粧シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前記用途の化粧シートは、より天然木に近い化粧シートや化粧板に近づけるためには、その画像データを各種インキを複数種用いてグラビア印刷法などにより絵柄模様層を設けて、透明樹脂層を介して前記絵柄模様層の絵柄とある程度同調した程度の凹凸模様を表面に設けた化粧シートが知られている。
【0003】
また、前記絵柄模様層のインキや前記透明樹脂層に各種添加剤を入れることでグロス表現、マット表現に差を設け、表面の艶状態に変化をもたせることで凹凸感を示すようなことも知られている。
【0004】
しかしながら、用いる箇所などで他の意匠との調和などから、単色ベタとする場合があり、そのような場合では前記絵柄による凹凸感はなく、艶状態の変化や表面のある程度の凹凸だけでは十分な凹凸感が表現できなかった。
【0005】
画像をデジタルデータ化して、画像データの濃淡を単純に凹凸に置き換えてエンボス版を作成し、それにより化粧シートを作成することも考えられるが、やはり絵柄と同調した凹凸模様からなる化粧シート、さらに絵柄に同調して艶状態に差を設けた化粧シートなどの凹凸感からすると見劣りがするものであった。
【特許文献1】特許第3188313号公報
【特許文献2】特許第3629964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、単色ベタの状態であっても、表面の凹凸のみで絵柄表現や艶表現を含めた優れた凹凸感を表現した、表面に凹凸模様を有する化粧シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、表面に凹凸模様を有する化粧シートであって、前記凹凸模様は、その凹凸が段階的な深さを有し、かつ、その凹凸が段階的な間隔を有してなり、前記段階的な深さは、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20μm以上あり、前記段階的な間隔は、その要素の平均長さ(「Psm」JIS B0601:2001)が500μmの前後で最大差が100μm以上あることを特徴とする表面に凹凸模様を有する化粧シートである。
【0008】
またその請求項2記載の発明は、前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が環孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が50〜100μmであることを特徴とする、請求項1記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートである。
【0009】
またその請求項3記載の発明は、前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が散孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20〜40μmであることを特徴とする、請求項1記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートである。
【0010】
またその請求項4記載の発明は、画像をデジタルスキャナ装置を用いてデジタル画像データとして取り込み、画像データをその濃度分布により多段階の領域に分割し、濃度の濃いところをエンボス凹凸が深くかつエンボス凹凸の間隔が密となり、濃度の浅いところをエンボス凹凸が浅くかつエンボス凹凸の間隔が疎となるように、段階的に設定し、さらに、前記段階的な深さは、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20μm以上あり、前記段階的な間隔は、その要素の平均長さ(「Psm」JIS B0601:2001)が500μmの前後で最大差が100μm以上あるように設定され、この設定に基づいてエンボス版を作成し、このエンボス版を使用して化粧シート表面に凹凸模様を賦型することを特徴とする、表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法である。
【0011】
またその請求項5記載の発明は、前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が環孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が50〜100μmであることを特徴とする、、請求項4記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法である。
【0012】
またその請求項6記載の発明は、前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が散孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20〜40μmであることを特徴とする、請求項4記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、その請求項1、4に記載の発明により、画像データの濃淡を段階的な領域に分け、これに従って化粧シートの表面に設ける凹凸の深さと間隔とを併せて段階的なものとし、かつ、その際の凹凸の算術平均高さ(以下「Ra」とする。)の最大値を一定以上のものとし、凹凸の要素の平均長さ(以下「Psm」とする)の最大差を一定以上のものとすることで、より凹凸感のある意匠性に優れた化粧シートを得ることができる、という効果を奏するものとなる。
【0014】
またその請求項2、5記載の発明により、ケヤキ、ナラ、桐、栓、チーク、栗、トネリコなどの環孔材の導管による模様の凹凸感を、リアルに近いかそれ以上に表現することが可能となる化粧シートを得ることができる、という効果を奏するものとなる。
【0015】
またその請求項3、6記載の発明により、ブナ、朴、桜、桂などの散孔材の導管による模様の凹凸感を、リアルに近いかそれ以上に表現することが可能となる化粧シートを得ることができる、という効果を奏するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の化粧シートの製造方法の一実施例におけるエンボス版の作成工程の断面を示す。ここでは多段階の腐蝕によりエンボス版に凹部を設ける工程を示しているが、本発明ではエンボス版の最終形状を図1の最下段と同様に凹部の深さと凹部の間隔とが段階的なものとすることできるのであれば、1回で製造してもかまわないし、腐蝕以外の方法であってもかまわない。しかしながら、図1に示したように、多段階に分けて凹部を設ける方法が好適である。
【0017】
前記多段階の腐蝕の工程を示すもののうち、各段階で用いる版下の断面が太線で示されている。断絶部分は腐蝕が行われることとなる版下画像の空隙部分である。そして、その版下によりその段階で腐蝕された結果が実線で示されている。
図1はある環孔導管による木目模様の一例である。図の上から下へ5段階に進む時系列をもってエンボス版が作成されており、左右方向で左側が木材表面部、中央が導管部分であり、右側がその周辺の組織部である。5段階に分けた各段階において、段階をもって設けていくことで、最終的に凹凸の深さと間隔とを分けることが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記「Ra」の最大差は20μm以上となるように設計する。20μmより少ないと凹凸表現が十分なものとは無くなり、凹凸の粗密によって表現される艶状態の変化にも格段の違いが見られなくなる。最大差はそれを設ける化粧シート表面の透明樹脂層の厚み以上にはなりえないことから、最大でも150μm程度であるが、実質的には50〜100μmの範囲が好適である。
【0019】
本発明においては、前記「Psm」は500μmの前後で最大差が100μm以上となるように設計する。100μmより少ないと凹凸の粗密による艶状態の変化の見た目の違いが格段に得られなくなる。100μm以上であれば特に限定されないが、通常の絵柄模様の繰り返し模様の意匠性を考慮すると、2000μmも間隔があけば次の模様となることから、実質的には100〜300μmの範囲が好適である。
【0020】
本発明において、木目模様を表現する場合、前記「Ra」の最大差は環孔導管による木目模様の場合は50〜100μm、散孔導管の場合は20〜40μmと異なるが、前記「Psm」の最大差は同様である。これは、そのことによりその樹種の表面の状態、組織を表現する上でよりリアルに(あるいはリアル以上に)再現されることとなるからである。これ以外の木材表面のズイ線、タンニン等の組織は、前記の範囲内において木目模様全体から領域を分けて、凹凸の深さと間隔とを段階的に設けることをもって、適宜表現することが可能となる。
【0021】
本発明における表面に凹凸を有する化粧シートにおいて表面に凹凸を設ける方法としては、化粧シート基材の上に溶融状態で樹脂を設けた状態で前記設計によるエンボス版を用いてエンボス加工を行いつつ樹脂を硬化させる方法が好適であるが、特にこれに限定されるものではなく、賦型したシートを貼り合わせるなどの方法であっても良い。このように凹凸を設けた表面をそのままの状態としても良いし、表面コートにより表面保護層を設けても良い。この際、表面コートとしてはエンボスの凹凸が損なわれない程度に薄くすることが好ましく、またシート面の平均反射率を2〜20の範囲として抑えるのが好適である。この範囲であれば表面の艶状態(グロス/マット表現)の差異がより明確なものとなり、本発明の意匠向上効果をより優れたものとしつつ、表面保護層に用いる樹脂等の物性により化粧シートの表面耐性を優れたものとすることができる。
【0022】
本発明における化粧シートにおいては、その目的とするところから、絵柄模様が無い着色基材のみあるいは1色のみのベタ印刷層からなるものを想定しているが、別途印刷により絵柄模様層を設けたものであってもよい。この場合、化粧シートの基材に印刷を設けてもよいし、前記表面凹凸を有する透明樹脂層を賦型したシートとして貼り合せる場合はその裏面に印刷を施したものであってもよい。もちろん前記絵柄模様と表面に設けた凹凸が同調したものであれば、化粧シートの凹凸感、艶状態の変化による意匠性の向上はさらに望ましいものとなる。
【実施例1】
【0023】
<版下画像データの作成>
まず、材木板をデジタルスキャナ装置でデジタル画像データとしてコンピュータの記憶装置に取り込んで原稿画像を作成し、このデジタル原稿画像の画像濃度の0%から100%までの領域から10%、30%、50%、70%、90%と5段階の濃度域を抽出し、各段階の濃度を白黒ネガの版下画像データに置き換えた。
【0024】
そして、1段目の10%濃度は、導管部の一番深い部分とし、2段目の30%濃度は導管部中腹と組織の濃い部分、3段目の50%濃度は導管部中腹と組織の中間濃度部分、4段目の70%濃度は導管部の浅い部分と組織の淡い部分、5段目の90%濃度は導管の間口と材木の表面組織の最淡濃度と定義した。
【0025】
作成した5段階の版下画像は、図1のように版下画像と形成するエンボス版の凹凸に連動し、エンボス凹凸の深さと粗密を再現する様に作成した。この時、a)の木材表面部に対しては「Psm」が500〜900μmなるようにし、b)の木材の導管および組織部に対しては「Psm」が200〜400μmになるように設定し、500μmの前後で「Psm」の最大差が150μm以上となるようにして、各段の版下画像データを作成した。
【0026】
<エンボス版の作成>
鉄心の表面に銅メッキを施したシリンダーロールに対して、多段腐蝕法によって、上記の5段の版下画像データを用いて、1段のエンボスの「Ra」が15μmになるまで行い、次に2段目画像の処理を上記と同様に行い、3段、4段、5段と重ねて繰り返し作業を行って、「Ra」の総計が最大75μmに達した時点で完了とし、エンボス版を作成した。
【0027】
<化粧シートの作成>
基材として着色剤を添加して茶色に着色した厚さ70μmのポリプロピレン樹脂シートを用い、この上に透明なポリプロピレン樹脂の溶融物を厚さ80μmでルーダーラミネートすると同時に前記エンボス版でエンボス加工を行いった。
最後にその表面の凹凸にそうように、乾燥後の厚みが1g/m2となる程度にウレタン系樹脂をコートして表面保護層を形成し、化粧シートを得た。
出来上がった化粧シートは単色であるにもかかわらず、表面のエンボスによる艶感の差により、木目の表面状態をよりわかり易くリアルに表現することができたものとなった。
【0028】
<比較例1>
前記「Psm」の最大差が100μmに達しないように設定した以外は実施例1と同様にして版下画像データを作成し、化粧シートを得た。得られた化粧シートは艶状態に変化がなく、木材の表面状態を表現し得ないものとなった。
【0029】
<比較例2>
前記「Ra」を1段あたり3μmとして、総計が最大15μmとした以外は実施例1と同様にして版下画像データを作成し、化粧シートを得た。得られた化粧シートは凹凸感に欠けたものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の化粧シート及びその製造方法は、用いる箇所などで他の意匠との調和などから、単色ベタとする化粧シートであっても、その表面に凹凸模様を形成することのみでも優れた凹凸感、艶感などを表現できる化粧シートとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の化粧シートの製造方法の一実施例におけるエンボス版の作成工程の断面を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸模様を有する化粧シートであって、前記凹凸模様は、その凹凸が段階的な深さを有し、かつ、その凹凸が段階的な間隔を有してなり、前記段階的な深さは、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20μm以上あり、前記段階的な間隔は、その要素の平均長さ(「Psm」JIS B0601:2001)が500μmの前後で最大差が100μm以上あることを特徴とする表面に凹凸模様を有する化粧シート。
【請求項2】
前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が環孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が50〜100μmであることを特徴とする、請求項1記載の表面に凹凸模様を有する化粧シート。
【請求項3】
前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が散孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20〜40μmであることを特徴とする、請求項1記載の表面に凹凸模様を有する化粧シート。
【請求項4】
画像をデジタルスキャナ装置を用いてデジタル画像データとして取り込み、画像データをその濃度分布により多段階の領域に分割し、濃度の濃いところをエンボス凹凸が深くかつエンボス凹凸の間隔が密となり、濃度の浅いところをエンボス凹凸が浅くかつエンボス凹凸の間隔が疎となるように、段階的に設定し、さらに、前記段階的な深さは、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20μm以上あり、前記段階的な間隔は、その要素の平均長さ(「Psm」JIS B0601:2001)が500μmの前後で最大差が100μm以上あるように設定され、この設定に基づいてエンボス版を作成し、このエンボス版を使用して化粧シート表面に凹凸模様を賦型することを特徴とする、表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法。
【請求項5】
前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が環孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が50〜100μmであることを特徴とする、請求項4記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法。
【請求項6】
前記凹凸模様が木目模様であり、前記段階的な深さが深く間隔が密な領域が散孔材の木目の導管部分を表現してなり、前記段階的な深さが浅く間隔の疎な領域が木目の表面部を表現してなり、その算術平均高さ(「Ra」JIS B 0601:2001)の最大差が20〜40μmであることを特徴とする、請求項4記載の表面に凹凸模様を有する化粧シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−297895(P2009−297895A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151143(P2008−151143)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【Fターム(参考)】