説明

表面シートを用いたインサート成形用金型及び成形物の製造方法

【課題】表面シートを用いた成形物表面の高い意匠性を保持することができる成形物、特に加飾成形物の製造に用いるインサート成形金型および成形物の製造方法を提供する。
【解決手段】金型の雌型1と雄型2の接触面に垂直な向きに、製品部に対置して施されたゲート5先端の樹脂注入口6からキャビティ10に続く樹脂流路である肉盛部用樹脂流路7の断面積が、ゲート5近傍から製品部にかけて漸増する形状を有し、前記樹脂流路7の体積と、該樹脂流路7の製品部側断面を底面として製品部厚みを高さとした柱の体積との和が、製品部13の全体積の4%以上となるようにしたインサート成形用金型及びその金型を使用して射出成形する加飾成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯電話やパソコンなどの電気機器の筐体、化粧品の容器や自動車の内装部品などプラスチックのインサート成形用金型及びその表面加飾に関し、特に加飾シート等の表面シートと樹脂とが一体となった成形物のインサート成形用金型及び成形と同時の表面シートを用いた加飾成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年プラスチック成形物の表面加飾は高い意匠性を要求されてきている。一般にプラスチック表面加飾は、直接印刷、転写印刷、箔押し、塗装、水圧転写といった成形品に対して後加工で加飾を行う方法と、インサート成形、インモールド成形といった射出成形と同時に加飾を行う方法とがある。加飾の対象となるプラスチック成形物が、平面状や絞りの小さい3次元形状の場合、上記いずれの方法でも加飾は可能であるが、成形物の絞りが深い形状の場合、水圧転写、およびインサート成形、インモールド成形といった成形同時加飾成形法が適している。
【0003】
成形同時加飾成形法は高意匠性の付与を可能とし表現の幅が広い一方、射出成形における溶融樹脂の温度が高く、注入圧力が大きいため、加飾シート(表面シート)がダメージを受け、成形物の意匠性が損なわれる問題もある。
【0004】
特許文献1では、肉盛部用凹部の面積が3〜100mm2 、深さが0.5〜3mmである金型を使用することにより、課題の解決を図っている。しかしながら上記特許文献1では製品部に対する肉盛部用凹部の寸法割合に関する指定がないため、製品サイズが大きい場合、フィルムの溶融やインキ流れなど加飾シート(表面シート)のダメージを抑えきれなくなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】平成19年特許第3964953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑み、インサート成形において、いかなる意匠シート、加飾シート、保護シート等の表面シートを用いる場合にも、またいかなるサイズの製品を成形する場合においても、表面シートにダメージを与えることなく成形物表面の高い意匠性を保持することが可能なインサート成形用金型の提供、および成形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段として、本発明の請求項1に係る発明は、水平に動作する一対の金型に、予め前記金型の内面に沿った形状に予備成形した表面シートを設置し、型締めした後、前記表面シートと前記金型とで形成される金型内のキャビティに溶融した樹脂を射出させることにより、前記表面シートと前記樹脂とが一体化した成形物を得る成形物の製造に用いるインサート成形用金型において、雌型と雄型の接触面に垂直な向きに、製品部分に対置するように施されたゲートの先端の樹脂注入口から続く肉盛部用樹脂流路の断面積が、ゲートの近傍から製品部にかけて漸増するようにしたことを特徴とするインサート成形用金型である。
【0008】
また本発明の請求項2に係る発明は、上記請求項1に係るインサート成形用金型において、前記肉盛部用樹脂流路の体積と、該樹脂流路の製品部側断面を底面として製品部厚みを高さとした柱の体積との和が、製品部全体積の4%以上となるようにしたことを特徴とするインサート成形用金型である。
【0009】
次に本発明の請求項3に係る発明は、水平に動作する一対の金型に、予め前記金型の内面に沿った形状に予備成形した表面シートを設置し、型締めした後、前記表面シートと前記金型とで形成される金型内のキャビティに溶融した樹脂を射出させることにより、前記表面シートと前記樹脂とが一体化した成形物を得る成形物の製造方法において、雌型と雄型が接触する面に垂直な向きに、製品部分に対置するように施されたゲートの先端の樹脂注入口から続く樹脂流路の断面積が、ゲートの近傍から製品部にかけて漸増するようにしたことを特徴とするインサート成形用金型を用いることを特徴とする成形物の製造方法である。
【0010】
また本発明の請求項4に係る発明は、上記請求項3に係る成形物の製造方法において、上記請求項2に係るインサート成形用金型を使用することを特徴とする成形物の製造方法である。
【0011】
また本発明の請求項5に係る発明は、上記請求項3に係る成形物の製造方法において、前記ゲートの数が少なくとも2本であり、且つ上記請求項1又は2に係るインサート成形用金型を使用することを特徴とする成形物の製造方法である。
【0012】
また本発明の請求項6に係る発明は、上記請求項3乃至5のいずれか1項に係る成形物の製造方法において、前記表面シートの材料としてポリオレフィンを使用することを特徴とする成形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインサート成形用金型および成形物の製造方法は、ゲートから流入する溶融樹脂が、円錐形状の流路を通過して断面積を漸増させながら製品部に流入するため、表面シートに加えられるせん断応力負荷を低減させることができるため、表面シートが溶融することなく、成形物本体の外表面に被覆され、表面シート本来の意匠性、加飾性、保護性を維持した状態で、意匠成形物、加飾成形物、表面保護成形物を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のインサート成形用金型の一実施例を示す断面図。
【図2】本発明のインサート成形用金型の一実施例を示す断面図。
【図3】図2のインサート成形用金型を用いて成形される成形物の一実施例を示す断面図。
【図4】図2に示すインサート成形用金型を用いて成形される成型物の一実施例を示す斜視図。
【図5】従来のインサート成形用金型を用いて成形される成形物の一実施例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1に示すように、本発明のインサート成形金型は、雌型1と、雌型1に対向する位置にある樹脂注入口6を有する雄型2とを備える。雌型1および雄型2は、成形物を形成するためのそ
れぞれキャビティ形成面8、9を備え、それによりキャビティ10が構成される。雄型2には、溶融樹脂をキャビティ10に導くためのスプルー3が形成されており、該スプルー3の先端は、図示するようにそれぞれランナー4、4にて2本に分岐し、それぞれランナー4と、該ランナー4に対して略垂直方向へのゲート5へと通じている。前記キャビティ10を形成する雄型キャビティ形成面9においては、それぞれ前記ゲート5、5の先端部の樹脂注入口6から肉盛部用樹脂流路7に通じている。
【0016】
図2は、図1のインサート成形金型に表面シート12(意匠シート、加飾シート、保護シート)を装填した状態を示している。図3は、図1に示したインサート成形用金型を用いて製造した成形物の断面図、図4は、その成形物の斜視図である。なお、本発明においては、表面シート12としては、そのシート表面に意匠性機能のある意匠シート、装飾性機能のある装飾シート、成形物の表面を外部からの応力や衝撃、環境から保護する保護機能のある保護シートであってもよい。
【0017】
本発明においては、図3に示すように、上記インサート成形用金型を用いて成形製造した成形物の製品部13面(平坦面)に肉盛部用樹脂流路7により形成される成形物肉盛部14の体積と、該成形物肉盛部14の製品部側断面を底面として製品部厚みを高さとした柱の体積との和が、製品部15の体積の4%以上になるようにする。また、このように成形物肉盛部14の形状を、樹脂の流れ方向に向かって肉盛部用樹脂流路7の径が増大する形状にすることにより、該樹脂流路7を流れる溶融樹脂のせん断応力を低減し、且つシート12に加わる熱を分散させることが可能となる。
【0018】
図1、図2に示す肉盛部用樹脂流路7の図面に対して垂直方向の断面形状としては、例えば円形、楕円形や四角形などがあるが、その断面形状は、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明において、ゲート5を少なくとも2本にすることにより、ゲート1本あたりについて、ゲート近傍の表面シート12及びそのシート面に加わるせん断応力を軽減でき、表面シート12の表面意匠の損傷をより低減することが可能となる。
【0020】
本発明において、表面シート12としては少なくとも加熱下で展延性を有するフィルムで構成されていることが望ましい。例えば、熱可塑性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート、光硬化性樹脂シート、電子線硬化性樹脂シート、および上記シートのうちで異なる2種類以上のシートを組み合わせて積層させたシート、上記シートに印刷層を設けたシート12などが使用できる。
【0021】
前記表面シート12に採用する熱可塑性樹脂シートとしては、具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂、ABS樹脂などを主成分とするシートを使用できる。
【0022】
前記表面シート12に採用する熱硬化性樹脂シートとしては、具体的には、反応性アクリル樹脂とブロックイソシアネートを主成分とする未硬化または半硬化状態のシート等を使用できる。
【0023】
前記表面シート12に採用する光硬化性樹脂シートとしては、具体的には、熱可塑性樹脂と二重結合を有するモノマーと、光開始剤とを主成分とする未硬化または半硬化状態のシート等を使用できる。
【0024】
前記表面シート12に採用する電子線硬化性樹脂シートとしては、具体的には、熱可塑性樹脂と二重結合を有するモノマーとを主成分とする未硬化または半硬化状態のシート等
を使用できる。
【0025】
表面シート12としてオレフィン系樹脂を使用すると、エンボスなどの加工が容易でかつ、高い意匠性を発揮させることができる。
【0026】
本発明に使用される成形用樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいはこれらにガラス繊維などの充填剤を添加したもの等を挙げることができる。
【0027】
本発明における成形物の製造方法の一例を以下に説明すれば、図1、図2に示す雌型1の雌型キャビティ形成面8に、該キャビティ形成面8に沿うように予備成形された表面シート12を保持して、吸引回路11(吸引エア流路)から脱気することにより、表面シート12を雌型キャビティ形成面8に密着させる。
【0028】
次に雌型1と雄型2とがパーティングラインLにて当接して型締めされた後、スプルー3から、その先端のそれぞれランナー4、4、該ランナー4に対して略垂直方向へのゲート5を通り、その先端部の樹脂注入口6、6から、240〜280℃の溶融樹脂がキャビティ10内に射出され、該溶融樹脂が冷却固化した後、雌型1と雄型2とが型開きして、表面シート12と一体成形された成形物を取り出す。以上のようにして、表面シート12へのダメージのない、意匠性、装飾性、表面保護性のある成形物を製造することが可能となる。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
次に本発明の実施例について更に詳しく説明する。
ポリプロピレンを基材とした加飾シート12(表面シート)を100℃に加熱して、真空圧空成形により、予め雌型1と雄型2により形成されるキャビティ10のキャビティ形成面8(又はキャビティ形成面8及び9)に沿う形状に予備成形した。図1に示すインサート成形金型において予備成形した加飾シート12を70℃の雌型1に保持し、吸引回路11により加飾シート12を雌型1のキャビティ形成面8に密着させ、雌型1と雄型2とを型締め後、250℃にて溶融させたポリカーボネート・アクリロニトリルブタジエンスチレンアロイ樹脂を射出率160cm3/sで射出して、加飾成形物のプラスチック製品を得た。製品部表面の加飾シート12の外観は意匠の損傷がなく良好であった。
【0030】
<比較例1>
次に比較例について説明すれば、成形物を成形する金型として、実施例1にて使用した雌型1と雄型2による金型以外の従来の金型を用いて、実施例と同一の加飾シート(表面シート)、同一射出樹脂材料、同一成形工程、同一成形条件にて加飾成形を行った。樹脂流路と製品部との連結部において溶融樹脂の熱と、せん断応力により加飾シートが溶融し、意匠が損傷を受けて不良となった。また射出率は160cm3/sより小さくすればするほど、加飾シートに溶融樹脂が触れている時間が長くなり、加飾シートに供給される熱量が増加するために、意匠の損傷度は増大した。図5は、比較例1にて成形された成形物の斜視図であり、15は成形物のタグ部、16はその成形物の樹脂注入口部である。
【符号の説明】
【0031】
1…雌型
2…雄型
3…スプルー
4…ランナー
5…ゲート
6…樹脂注入口
7…肉盛部用樹脂流路
8…雌型キャビティ形成面
9…雄型キャビティ形成面
10…キャビティ
11…吸引回路
12…表面シート(加飾シート、意匠シート、保護シート)
13…成形物製品部
14…成形物肉盛部
15…成形物のタグ部
16…成形物の樹脂注入口部
L…パーティングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に動作する一対の金型に、予め前記金型の内面に沿った形状に予備成形した表面シートを設置し、型締めした後、前記表面シートと前記金型とで形成される金型内のキャビティに溶融した樹脂を射出させることにより、前記表面シートと前記樹脂とが一体化した成形物を得る加飾成形物の製造に用いるインサート成形用金型において、雌型と雄型の接触面に垂直な向きに、製品部分に対置するように施されたゲートの先端の樹脂注入口から続く肉盛部用樹脂流路の断面積が、ゲートの近傍から製品部にかけて漸増するようにしたことを特徴とするインサート成形用金型。
【請求項2】
前記肉盛部用樹脂流路の体積と、該樹脂流路の製品部側断面を底面として製品部厚みを高さとした柱の体積との和が、製品部全体積の4%以上となるようにしたことを特徴とする請求項1記載のインサート成形用金型。
【請求項3】
水平に動作する一対の金型に、予め前記金型の内面に沿った形状に予備成形した表面シートを設置し、型締めした後、前記表面シートと前記金型とで形成される金型内のキャビティに溶融した樹脂を射出させることにより、前記表面シートと前記樹脂とが一体化した成形物を得る加飾成形物の製造方法において、雌型と雄型が接触する面に垂直な向きに、製品部分に対置するように施されたゲートの先端の樹脂注入口から続く樹脂流路の断面積が、ゲートの近傍から製品部にかけて漸増するようにしたことを特徴とするインサート成形用金型を用いることを特徴とする加飾成形物の製造方法。
【請求項4】
請求項2に係るインサート成形用金型を使用して射出成形して成形物を得ることを特徴とする請求項3記載の加飾成形物の製造方法。
【請求項5】
前記ゲートの数が少なくとも2本であり、且つ請求項1又は2に係るインサート成形用金型を使用して射出成形して成形物を得ることを特徴とする請求項3記載の加飾成形物の製造方法。
【請求項6】
前記表面シートの材料としてポリオレフィンを使用することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の加飾成形物の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−76302(P2012−76302A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221993(P2010−221993)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】