説明

表面保護フィルム及びその製造方法

接着性シリコーンゴム層から容易に剥離でき、かつ接着性シリコーンゴム層の半導体チップなどに対する接着性に悪影響を及ぼす残留溶剤などを含有することなく、しかも接着性シリコーンゴム層の表面平坦性に悪影響を及ぼさないために、表面保護フィルム自体の表面平滑性に優れる表面保護フィルム及びその製造方法、及び、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムであって、ポリスルホン系樹脂層(B)は、特定の3又は4成分からなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とする表面保護フィルムなどを提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護フィルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、接着性シリコーンゴム層から容易に剥離でき、かつ接着性シリコーンゴム層の半導体チップや半導体チップ取付部に対する接着性に悪影響を及ぼす残留溶剤などを含有することなく、しかも、接着性シリコーンゴム層の表面平坦性に悪影響を及ぼすことがない表面保護フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、半導体チップをパッケージで包んだものであり、半導体素子とも呼ばれ、電子計算機、テレビ、DVD、VTR、ラジオ、電子レンジ、自動車、飛行機、化学工場等の制御回路や演算回路に利用されている。
この半導体装置には、多くのタイプがあるが、代表的なタイプを図1、2に示した。該半導体装置を、図1を用いて説明すると、ICやLICである半導体チップ1(シリコンウエハと称することもある。)が中心にあり、この下面が接着性シリコーンゴム層2の上面と接着しており、該接着性シリコーンゴム層2の下面が半導体チップ取付部3の上面と接着されている[この状態を本発明では、半導体チップ1が接着性シリコーンゴム層2を介して半導体チップ取付部3に接着(取付と同義語)されていると表現することもある。]。
【0003】
接着性シリコーンゴム層は、半導体チップ1と半導体チップ取付部3との接着と、半導体チップ1と半導体チップ取付部3との間の応力を緩和する役目を担っている。
半導体チップ1と回路配線4は、ボンディングワイヤ5で接続されており、上記の半導体チップ1、接着性シリコーンゴム層2、半導体チップ取付部3及び回路配線4のブロックは、エポキシ系樹脂封止剤で封止し、外気中のチリ、ホコリ、湿分、衝撃等から保護し、また、内部で発生した熱を外部に放散する役目を担っている。
【0004】
従来、半導体チップを該チップ取付部に接着するためには、液状架橋性(硬化性と同義語)シリコーン組成物ないしはペースト状架橋性シリコーン組成物等のシリコーン系接着剤が用いられていた。
このようなシリコーン系接着剤としては、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、およびヒドロシリル化反応用触媒から少なくともなる架橋性シリコーン組成物が用いられ、さらに、接着促進剤として、一分子中に、ケイ素原子結合アルコキシ基およびケイ素原子結合アルケニル基またはケイ素原子結合水素原子をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するオルガノポリシロキサンを配合してなる架橋性シリコーン組成物が用いられていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、このような架橋性シリコーン組成物は、架橋途上に、この組成物から低粘度シリコーンオイルが滲み出して、この組成物の周囲を汚染するという問題があった。この低粘度シリコーンオイルは、主成分のオルガノポリシロキサンに含まれる低重合度のオルガノポリシロキサンであったり、接着促進剤として添加したオルガノポリシロキサンに含まれている低重合度のオルガノポリシロキサンであるため、これらを完全に取り除くことは非常に困難であった。このため、このような架橋性(硬化性)シリコーン組成物を用いて半導体チップと該チップ取付部を接着した後には、該チップ上のボンディングパッドとボンディングワイヤやビームリードとのワイヤボンダビリティ(接合性)が低下したりして、得られる半導体装置の信頼性が乏しくなるという問題があった。
【0006】
上記の問題を解決する技術として、架橋途上、低粘度シリコーンオイルの滲み出しが抑制され、半導体チップと該チップ取付部を良好に接着でき、ひいては信頼性の優れた半導体装置を調製することができる接着性シリコーンゴム層(シートと同義語であり、以降この語を用いることもある。)およびこのような接着性シリコーンゴム層において特に良好な接着性を有し、信頼性の優れた半導体装置を作製することができる接着性シリコーンゴム層を効率良く製造する方法、このような接着性シリコーンゴム層を用いて、半導体チップおよび該チップ取付部を接着してなる、信頼性に優れる半導体装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
ところで、上記の接着性シリコーンゴム層は、そのまま層表面が露出された状態であると、その表面に空中のチリ、ホコリや水分などが付着し、接着性シリコーンゴム層を半導体チップや該チップ取付部に接着させた場合に、チリ、ホコリや水分などが半導体チップや該チップ取付部の性能を劣化させるので、チリ、ホコリや水分などが付着することを防止する表面保護フィルムが不可欠である。
【0008】
表面保護フィルムとして、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルムが用いられている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【0009】
しかしながら、こうした樹脂を用いた表面保護フィルムには、以下に述べるような種々の問題点がある。
フッ素樹脂系のフィルムは、剥離性がよいものの、剥離した後の接着性シリコーンゴム層の被着体(半導体チップや該チップ取付部)に対する接着性が低下するという問題がある。
ポリエチレン樹脂シート(フィルム、層等と同義語である。)やポリプロピレン樹脂シートは、価格は安いものの、融点がシリコーンゴム組成物の架橋温度より低く、表面保護フィルム自体が変形し、一定の厚さの接着性シリコーンゴム層を形成させることが困難であるという問題がある。
ポリイミド樹脂シートは、耐熱性、寸法安定性等が非常に優れているものの、高価格であり、接着性シリコーンゴム層との剥離性にもやや問題がある。
ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)シートは、接着性シリコーンゴム層に対する剥離性が悪い。
ポリエーテル樹脂シートは、価格も高く、また接着性シリコーンゴム層に対する剥離性も非常に悪い。
ポリエーテルスルホン(PESと称することもある。)樹脂シートは、接着性シリコーンゴム層に対する剥離性が良いので、表面保護フィルムとして最も使用されているものの、このシートを表面保護フィルムとして用いた積層体を打ち抜いた際に、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が多く、その打ち抜きカスの混入により、接着性シリコーンゴム層と半導体チップや該チップ取付部との接着不良が生じるという問題がある。
エポキシ樹脂シートは、接着性シリコーンゴム層に対する剥離性が非常に悪く使用されていない。
フェノール樹脂シートは、可撓性が悪く使用されていない。
表面がシリコーン離型処理された一般的な離型フィルム(セパレータ)は、離型フィルムを剥離した後の接着性シリコーンゴム層の被着体(半導体チップや該チップ取付部)に対する接着性が低下するという問題がある。
【0010】
一方、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂を溶解して溶液組成物として使用する際に、その溶剤として、強極性の不活性液体[DMSO(ジメチルスルホオキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)]を主体とし、環式脂肪族ケトンと高揮発性脂肪族ケトンを併用した混合溶媒を用いることが提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
しかしながら、この溶液組成物では、コーティング(塗膜層)表面の平滑性に劣り、さらに、その溶液組成物を塗布、乾燥したときに蒸発する溶剤成分が、廃棄のために燃焼されたときに、SOやNO等の有害成分を発生する問題がある。
また、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物においては、ポリスルホンの二量体などが結晶化し溶液に濁りが生じ、その濁りの生じたポリスルホン系樹脂溶液を製膜しフィルム化すると、ヘイズが高く、しかも表面の荒れの大きいフィルムとなる。そこで、製膜工程に先立ち、フィルターによるろ過や80℃以上の加熱処理が行われている(例えば、特許文献6〜8参照。)。
しかしながら、ろ過工程は生産性を低下させ、また、加熱処理では、高沸点溶媒を使う必要があって、乾燥工程が高温或いは長時間になり、生産性に問題がある。そして、それらの対処方法では、未だ十分な表面平滑性が得られていない。
【0011】
【特許文献1】特開平3−157474号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平11−12546号公報(特許請求の範囲、第4頁等)
【特許文献3】特開2000−80335号公報(特許請求の範囲、第4頁等)
【特許文献4】特開2001−19933号公報(特許請求の範囲、第11頁等)
【特許文献5】特開昭49−110725号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開平5−329857号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開平7−233265号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献8】特開平7−268104号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、接着性シリコーンゴム層から容易に剥離でき、かつ接着性シリコーンゴム層の半導体チップや半導体チップ取付部に対する接着性に悪影響を及ぼす残留有機溶剤を含有することなく、しかも接着性シリコーンゴム層の厚さ均一性や表面平坦性に悪影響を及ぼさないために、表面保護フィルム自体の表面平滑性に優れた表面保護フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題に鑑み、各種プラスチックフィルムからなる表面保護フィルム、及びその表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層からなる積層体を試作し、接着性シリコーンゴム層からの剥離性、接着性シリコーンゴム層の半導体チップや半導体チップ取付部に対する接着性への影響、接着性シリコーンゴム層の表面平坦性への影響、表面保護フィルム自体の表面平滑性等について数多くの実験を行ったところ、基材フィルムの少なくとも一方の面に、特定の組み合わせの混合溶剤を用いたポリスルホン系樹脂溶液組成物を用いることにより形成されるポリスルホン系樹脂層(B)を、積層してなる表面保護フィルムは、上記の剥離性、接着性、表面平坦性、表面平滑性などに対して良好な結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムであって、ポリスルホン系樹脂層(B)は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリスルホン系樹脂層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、基材フィルム(A)とポリスルホン系樹脂層(B)との密着強度が5N/m以上であることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
さらにまた、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、基材フィルム(A)がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
【0015】
本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、表面保護フィルム中に含有する混合溶媒量が1000mg/m以下であることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、基材フィルム(A)の厚さが10〜200μmであり、且つポリスルホン系樹脂層(B)の厚さが0.1〜50μmであることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、接着性シリコーンゴム層(C)との剥離強度が4N/m以下であることを特徴とする表面保護フィルムが提供される。
【0016】
一方、本発明の第8の発明によれば、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面上に、ポリスルホン系樹脂のドープを塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(B)を形成させることを特徴とする第1〜7のいずれかの発明の表面保護フィルムの製造方法が提供される。
【0017】
本発明は、上記した如く、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムであって、ポリスルホン系樹脂層(B)は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とする表面保護フィルムなどに係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
【0018】
(1)第1の発明において、混合溶媒における溶剤の配合割合(容量部)は、全混合溶媒100容量部基準で、下記の式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする表面保護フィルム。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
(2)第1の発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物におけるポリスルホン系樹脂の配合量は、混合溶媒100重量部に対して、1〜30重量部であることを特徴とする表面保護フィルム。
(3)第1の発明において、ポリスルホン系樹脂は、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、又はポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)のいずれかであることを特徴とする表面保護フィルム。
(4)第8の発明において、ドープは、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液であることを特徴とする表面保護フィルムの製造方法。
(5)第8の発明において、ドープの塗布は、ワイヤーバーコーティングにより、行われることを特徴とする表面保護フィルムの製造方法。
【0019】
(6)接着性シリコーンゴム層(C)の少なくとも片面に、第1〜7のいずれかの発明の表面保護フィルムを積層してなる積層体。
(7)上記(6)の発明において、表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層(C)との剥離強度が4N/m以下であることを特徴とする積層体。
(8)上記(6)の発明において、接着性シリコーンゴム層(C)の両面に、表面保護フィルムが積層されることを特徴とする積層体。
(9)上記(6)の発明において、接着性シリコーンゴム層(C)の原料である架橋性シリコーンゴム組成物は、(イ)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(ロ)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、(ハ)接着性促進剤および(ニ)ヒドロシリル化反応用触媒を含有することを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面保護フィルムは、接着性シリコーンゴム層から容易に剥離でき、かつ接着性シリコーンゴム層の半導体チップや半導体チップ取付部に対する接着性に悪影響を及ぼす残留溶剤などを含有することなく、また、表面保護フィルム自体の表面平滑性に優れているために、接着性シリコーンゴム層の表面平坦性に悪影響を及ぼすことがない効果がある。
また、本発明の表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層の間は、容易に剥離することができ、かつ接着性シリコーンゴム層と半導体チップや半導体チップ取付部との接着性は、非常に優れており、信頼性の優れた半導体装置を作製することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の積層体を適用した半導体装置(ハイブリッドIC)の一例を示した断面図である。
【図2】図2は、本発明の積層体を適用した半導体装置(LSI)の一例を示した断面図である。
【図3】図3は、本発明に係るポリスルホン系樹脂溶液組成物に用いられる混合溶剤を構成する3成分の組成を示す図である。
【図4】図4は、本発明の表面保護フィルムの一例を示した断面図である。
【図5】図5は、本発明の表面保護フィルムの用途の一例であるA/B/C/B/Aからなる積層体の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 半導体チップ
2 接着性シリコーンゴム層
3 半導体チップ取付部(エポキシ樹脂製の回路基板)
4 回路基板
5 ボンディングワイヤ
6 封止樹脂
7 半導体チップ取付部(ポリイミド樹脂製の回路基板)
8 バンプ
9 封止・充填剤
10 基材フィルム(PET)層
11 ポリスルホン系樹脂層(ポリスルホン系樹脂塗膜層)
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の表面保護フィルム及びその製造方法について、各項目毎に詳細に説明する。
本発明の表面保護フィルムは、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムであって、ポリスルホン系樹脂層(B)は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とするものである。
【0024】
1.基材フィルム(A)
本発明において基材フィルム(A)とは、本発明の表面保護フィルムの基材となるフィルムであり、表面保護フィルムの機械的強度を担い、その少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層させる。
【0025】
基材フィルム(A)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリスチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリパラキシレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂等からなるフィルム(シート)が例示される。基材フィルム(A)の原料樹脂は、一種であっても、二種以上を混合してもよい。
【0026】
また、ポリスルホン系樹脂層(B)との接着性の面からみると、基材フィルム(A)としては、ポリスルホン系樹脂層(B)との密着強度が5N/m以上、好ましくは7N/m以上、さらに好ましくは10N/m以上であることが望ましい。
これらの樹脂フィルムの中で、上記要件を満たすものとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、ポリスルホン系樹脂層(B)との接着性に優れ、5N/m以上の密着強度で積層されることが可能であり、厚薄ムラがなく、また腰があるため取扱性に優れるので、最も好ましい基材フィルムである。
密着強度が5N/m未満では、接着性シリコーンゴム層(C)の表面保護フィルムからの剥離強度より小さくなる恐れがあり、剥離強度より小さくなるときには、表面保護フィルムを接着性シリコーンゴム層(C)の表面から剥離することが不可能となり、基材フィルム(A)とポリスルホン系樹脂層(B)が剥離し、本発明の目的を達成させることができない。
【0027】
基材フィルム(A)の厚みは、特に限定されないが、例えば、10〜200μm、好ましくは30〜150μm、更に好ましくは40〜100μmである。厚みが10μm未満であると、フィルムの腰がなく取扱性が悪く、一方、200μmを超えると、腰が強すぎロール巻きが困難となり、また、材料費がかさみ過剰品質となり、コストアップとなり好ましくない。
【0028】
基材フィルム(A)には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、顔料、紫外線防止剤等を添加してもよい。
また、ポリスルホン系樹脂層(B)との界面の接着性を向上させるために、基材フィルム(A)には、コロナ放電処理やアンダーコート処理などを行ってもよい。
【0029】
2.ポリスルホン系樹脂層(B)
本発明において用いられるポリスルホン系樹脂層(B)は、接着性シリコーンゴム層(C)と界面を形成するので、接着性シリコーンゴム層(C)からの剥離性がよく、かつ接着性シリコーンゴム層(C)の半導体チップや半導体チップ取付部への接着性能に悪影響を与える成分を含有しないことが必要である。
【0030】
一般に、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂は、前述したように、接着性シリコーンゴム層に対する剥離性が良いので、表面保護フィルムとして最も使用されている。しかし、表面保護フィルムとしてポリスルホン系樹脂シートを使用した場合は、その表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層とからなる積層体をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際に、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が多く、このため、その打ち抜きカスの混入により、接着性シリコーンゴム層(C)と半導体チップや半導体チップ取付部との間の接着不良が生じるという問題がある。
そこで、前記の打ち抜きカスの発生による問題を解消するために、本発明において、表面保護フィルムは、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面にポリスルホン系樹脂層(B)を積層されていることを特徴とするものである。ポリスルホン系樹脂層(B)の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜3μmである。厚みが0.1μm未満であると、ポリスルホン系樹脂層(B)の形成が困難であり、他方、50μmを超えると、打ち抜きカスの発生が多くなるので好ましくない。
また、ポリスルホン系樹脂は、被覆材、塗料、接着剤などにも利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤に溶かし、溶液組成物を準備し、これをそのまま、又は基材表面に塗布、乾燥して製品としている。
そこで、本発明においては、ポリスルホン系樹脂層(B)は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とするものである。
この混合溶媒を用いることによって、ポリスルホン系樹脂が、ポリスルホン系樹脂溶液組成物中に均一に溶解する。その結果、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(B)を形成した際に、そのポリスルホン系樹脂層(B)が表面平滑性に優れたものとなる。
【0031】
(1)混合溶媒(混合溶剤)
本発明において、混合溶媒(混合溶剤)とは、ポリスルホン系樹脂を溶解し、ポリスルホン系樹脂溶解液を作製することができる混合された有機溶剤である。
本発明に係る混合溶媒は、上記したように、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とから構成され、混合溶媒(100容量部)中におけるそれらの混合割合(容量部)は、下記の式(1)〜(4)を同時に満足することが必要である。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
なお、その際、式(1)〜(3)については、好ましい範囲として、
55≧(a+b)≧20
60≧c≧15
40≧d≧15
さらに好ましい範囲として、
50≧(a+b)≧20
55≧c≧20
40≧d≧20
が例示できる。
【0032】
上記の式(1)〜(4)を同時に満足する範囲を図3の3成分相図に示す。
これらの特定範囲外、すなわち式(1)〜(4)を同時に満足しない混合溶媒では、ポリスルホン系樹脂を溶解できないか、又はポリスルホン系樹脂を膨潤しゲル化させるだけであり、好ましくない。
また、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)との3種又は4種の中から2種を選んだ2成分系混合溶媒では、本発明の目的、すなわち優れた表面平滑性を達成することはできず、さらに、例え3成分系混合溶媒であっても、上記の式(1)〜(4)を満足しない範囲のものは、同様に本発明の目的を達成することはできず、好ましくない。
この理由については定かではないが、特定比率の3成分系混合溶媒の場合は、ポリスルホン系樹脂の溶解度が相乗効果によって増加し、膨潤しただけのポリスルホン系樹脂を貧溶媒である沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)中に分散させ、また、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)は、低粘度であるので、溶解液の粘度を低下させ、塗布する際には、低粘度であるから表面が平滑になると推定される。
【0033】
(2)ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)
本発明において、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)は、下記に詳細に述べる溶剤群から1種又は2種以上を用いてもよい。
【0034】
ラクトン類(a)は、環内にエステル基(−CO−O−)をもつ環状化合物であり、例えば、β−プロピオラクトン(沸点:100〜102℃)、γ−ブチロラクトン(沸点:206℃)、γ−バレロラクトン(沸点:206〜207℃)、δ−バレロラクトン(沸点:218〜220℃)、ε−カプロラクトン(沸点:235.3℃)、エチレンカーボネート(沸点:238℃)、プロピレンカーボネート(沸点:90℃、@5mmHg)、ヒノキチオール(沸点:140〜141℃、@10mmHg)、ジケテン(沸点:127.4℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的なラクトン類として、γ−ブチロラクトン(GBL)の化学式(1)を以下に示す。
【0035】
【化1】

【0036】
また、芳香族ケトン類(b)は、芳香環基をもつケトン類であり、例えば、アセトフェノン(沸点:202℃)、p−メチルアセトフェノン(沸点:228℃)、プロピオフェノン(沸点:218℃)、1−フェニル−1−ブタノン(沸点:218〜221℃)、イソプロピルフェニルケトン(沸点:217℃)、ベンズアルデヒド(沸点:179℃)、o−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:196〜197℃)、m−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:191℃、@50mmHg)、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:116〜117℃)、ベンジルメチルケトン(沸点:216℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な芳香族ケトン類として、アセトフェノンの化学式(2)を以下に示す。
【0037】
【化2】

【0038】
(3)環状ケトン類(c)
環状ケトン類(c)は、環内にケトン基(−CO−)をもつ環状化合物であり、例えば、シクロブタノン(沸点:100〜102℃)、シクロペンタノン(沸点:130℃)、シクロヘキサノン(沸点:156.7℃)、ヘプタノン(沸点:179〜181℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点:165〜166℃)、シクロオクタノン(沸点:74℃、@1.6kPa)、シクロノナノン(沸点:93〜95℃、@1.6kPa)、シクロデカノン(沸点:107℃、@1.7kPa)、シクロウンデカノン(沸点:108℃、@1.6kPa)、シクロドデカノン(沸点:125℃、@1.6kPa)、シクロトリデカノン(沸点:138℃、@1.6kPa)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な環状ケトン類として、シクロヘキサノンの化学式(3)を以下に示す。
【0039】
【化3】

【0040】
(4)脂肪族ケトン(d)
本発明において、脂肪族ケトン(d)とは、沸点が150℃以下の脂肪族ケトンであり、例えば、アセトン(沸点:100〜102℃)、メチルエチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルプロピルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルn−ブチルケトン(沸点:100〜102℃))、メチルsec−ブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ジイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ピナコロン(沸点:106.4℃)、メチルイソアミルケトン(沸点:144.9℃)、ジエチルケトン(沸点:101.8℃)、ジイソプロピルケトン(沸点:125.0℃)、エチル−プロピルケトン(沸点:123.2℃)、ブチル−エチルケトン(沸点:147.3℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な脂肪族ケトン(d)として、メチルエチルケトン(MEK)の化学式(4)を以下に示す。
【0041】
【化4】

【0042】
(5)ポリスルホン系樹脂
本発明において、ポリスルホン系樹脂とは、主鎖に芳香環基とその結合基としてスルホン基を有する熱可塑性樹脂であり、ポリスルホン樹脂と、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリフェニルスルホン樹脂に大別される。
ポリスルホン樹脂(PSFと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(5)で表されるような構造をもつポリマーであり、1965年に米国ユニオンカーバイド社から発表されたものである。
【0043】
【化5】

【0044】
上記の化学式(5)で表されるポリマーは、原料として、ビスフェノールAのアルカリ金属塩(Na塩)と、ビスフェノールSの塩素化化合物(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン)を使用し、脱塩化ナトリウム反応で得られるが、ビスフェノールAを、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−オキシド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−スルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−メタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−フェニルエタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−パーフロロプロパン、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル等で置換することにより、下記の化学式(6)〜(13)で表されるポリマーが得られ、本発明において使用することができる。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
PSFとしては、ユーデル[登録商標、米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びユーデルP−3500(登録商標、日産化学工業(株)の製造販売)などが、市販品として利用できる。
【0054】
また、ポリエーテルスルホン樹脂(PESと略称することもある。)は、代表的には下記の化学式(14)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0055】
【化14】

【0056】
PESは、ジフェニルエーテルクロロスルホンのフリーデルクラフツ反応により得られる。
PESとしては、ウルトラゾーンE[登録商標、ドイツBASF社が製造し、三井化学(株)が輸入販売]、レーデル(登録商標)A[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びスミカエクセル[登録商標、住友化学(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0057】
また、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSUと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(15)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0058】
【化15】

【0059】
PPSUとしては、レーデル(Radel)(登録商標)Rシリーズ(R−5000、R−5500、R−5800など)[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]などが、市販品として利用できる。
【0060】
(6)ポリスルホン系樹脂溶液組成物
本発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物とは、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、上記の少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解したものであり、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムを製造するために用いられる。
ポリスルホン系樹脂溶液組成物中のポリスルホン系樹脂の配合量は、混合溶媒100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。配合量が、1重量部未満であると、粘度は低くなって塗布しやすくなり、そして溶液組成物の寿命は長くなるものの、ポリスルホン系樹脂層(塗膜)の厚さが0.1μm未満となり、好ましくなく、一方、30重量部を超えると、粘度が高くなり均一な厚さのポリスルホン系樹脂層(塗膜)が得られず、また溶液組成物の寿命が短くなり、望ましくない。
【0061】
また、ポリスルホン系樹脂溶液組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤、レベリング剤等を必要に応じて添加することができる。尚、レベリング剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸カルシウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルエチレノキシド、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フッ素化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0062】
ポリスルホン系樹脂層(B)は、ドープ、すなわちラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液、から容易に溶剤キャスト法で0.1〜50μm、好ましくは1〜3μmの薄膜として、基材フィルム(A)、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層でき、低コストに高品位の表面保護フィルムを提供することができる。
また、本発明においては、基材フィルム(A)に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層した際に、ポリスルホン系樹脂層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測したときに、視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であることを特徴とするものであり、特に、ポリスルホン系樹脂層(B)自体の表面平滑性を優れたものにすることができる。
【0063】
ポリスルホン系樹脂層(B)の表面平滑性を評価するために、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法による計測を用いた理由は、本発明に係るポリスルホン系樹脂層(B)の塗膜が透明である場合、一般的な光学顕微鏡法では観察が困難であり、そのため、特殊なプリズムを用いるノマルスキー型微分干渉顕微鏡法においては、光線を二分化することで干渉縞を発生させ、明暗のコントラストが明確に出る結果、微小な凹凸の観察に適しているからである。そして、視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下である意味は、本発明の表面保護フィルムが用いられた際に、表面が平滑性に優れ、十分な光沢を有すると、又は高い透明性を有すると判断でき、さらに、接着性シリコーンゴム層(C)と積層する際に、本発明の表面保護フィルムは、表面が平滑であるため、気泡を巻き込む等の問題は生じない。一方、円状凹凸が1個超であれば、ポリスルホン系樹脂層の表面平滑性に劣り、光沢不良、透明性が低いなどの問題がある。また、接着性シリコーンゴム層(C)と積層する際に、凹凸部に気泡を巻き込み、良好な積層体の作製が困難となる。
【0064】
3.表面保護フィルム及びその製法
本発明の表面保護フィルムは、基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、前記のポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなるものであり、半導体装置などの接着対象製品に接着するために使用する接着性シリコーンゴム層(C)を保護するために用いられる。
そして、基材フィルム(A)としては、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、該基材フィルム(A)とポリスルホン系樹脂層(B)が、5N/m以上の密着強度で積層されており、両者間は剥離しないことが必要である。また、表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層(C)との剥離強度は4N/m以下、好ましくは3N/m以下、さらに好ましくは2N/m以下であるので、両者間は容易に剥離することができ、接着性シリコーンゴム層(C)の接着性能に対する影響がなく、本発明の目的を達することができる。
【0065】
本発明の表面保護フィルムは、厚さが10〜200μmの基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂のドープ、すなわち前記のポリスルホン系樹脂溶液を塗布した後、乾燥処理を行い、厚さが0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜3μmのポリスルホン系樹脂層(B)を積層させることによって製造することができる。
その塗布方法としては、ロールコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、エアーナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング等が利用できる。中でも、ワイヤーバーコーティングによる塗布方法が塗布される溶液組成物の量を正確にコントロールでき、塗布膜の表面平滑度を向上させることができ、その結果、表面平滑性の優れた表面保護フィルムを得ることができるため、好ましい。基材フィルム上に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布する際の溶液温度は、生産コスト上20〜50℃が好ましい。
また、乾燥方法としては、最初に25〜40℃、相対湿度70〜100%RHで2〜10分行い、次いで50〜150℃、相対湿度30〜70%RHで0.1〜5分乾燥させることが好ましい。
【0066】
さらに、ポリスルホン系樹脂層(B)の形成に使用した混合溶媒の表面保護フィルムに残留する量、すなわち表面保護フィルムの合計残留溶剤量、言い換えると表面保護フィルム中に含有する混合溶媒量は、1000mg/m以下、好ましくは800mg/m以下、さらに好ましくは500mg/m以下である。合計残留溶剤量が1000mg/mを超えると、接着性シリコーンゴム層(C)の接着性を阻害し、接着対象製品の品質、例えば半導体チップの動作に悪影響を与え、好ましくない。
尚、本発明においては、溶媒として、前述のラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒を用いるために、基材フィルム上にポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥する際に蒸発する溶剤成分の廃棄のための燃焼時に、NOx、SOx、塩化物を発生させることはない。他方、溶媒として、例えばNメチル2ピロリドンやN,Nジメチルホルムアミドなどの窒素を含む有機溶剤や、チオフェンやジメチルスルホキシドなどの硫黄を含む有機溶剤、或いはジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲンを含む有機溶剤を用いた場合は、その樹脂溶液組成物を塗布、乾燥する際に蒸発する溶剤成分の廃棄のための燃焼時に、NOx、SOx、塩化物を発生させる恐れがあり、環境上好ましくない。
また、合計残留溶剤量の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)又はガスクロマト質量分析(GC−MS)法で容易にできる。
本発明の表面保護フィルムは、主に、半導体チップを半導体チップ取付部に接着するために使用する接着性シリコーンゴム層(C)を塵芥から保護するためのものであり、使用する際には剥がす必要がある。
【0067】
本発明の表面保護フィルムは、接着性シリコーンゴム層(C)の両側に表面保護フィルムを密着させた場合に、接着性シリコーンゴム層(C)に対する表面保護フィルムの剥離強度が、それぞれ4N/m以下であることが好ましい。
これは、接着性シリコーンゴム層(C)に対する表面保護フィルムの剥離強度が4N/mを超えると、表面保護フィルムを剥がす際に、接着性シリコーンゴム層(C)を破損したりする恐れがあるからである。
【0068】
4.接着性シリコーンゴム層(C)
本発明において、接着性シリコーンゴム層(C)とは、主に半導体チップと半導体チップ取付部を接着するために用いるものであり、例えば、2枚の表面保護フィルム間にポリスルホン系樹脂層(B)を介して、接着性シリコーンゴム層(C)が積層され、中間層となっている。
接着性シリコーンゴム層(C)は、既に、架橋(硬化)又は半架橋(半硬化)されており、その原料は、下記に詳細に述べる架橋(硬化)又は半架橋(半硬化)がなされていないシリコーンゴム組成物である。
このシリコーンゴム組成物は、まだ架橋はされてないが、架橋することができるという意味を込めて、架橋性シリコーンゴム組成物と称されることもある。
したがって、本発明においては、接着性シリコーンゴム層(C)と区別するために、その原料は、架橋性シリコーンゴム組成物と称する。
【0069】
(1)架橋性シリコーンゴム組成物
本発明において、架橋性シリコーンゴム組成物としては、例えば、ヒドロシリル化反応により架橋するもの、縮合反応により架橋するもの、有機過酸化物により架橋するもの、紫外線により架橋するものなどが挙げられ、好ましくは、ヒドロシリル化反応により架橋するものである。このヒドロシリル化反応架橋性シリコーン組成物としては、例えば、(イ)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(ロ)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、(ハ)接着性促進剤および(ニ)ヒドロシリル化反応用触媒からなるもの等が挙げられる。
【0070】
上記(イ)成分は、上記組成物の主剤であり、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。この(イ)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、網状が例示される。また、(イ)成分中のケイ素原子結合アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示され、特に、ビニル基が好ましい。このアルケニル基の結合位置としては、分子鎖末端および/または分子鎖側鎖が例示される。
【0071】
また、(イ)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合した基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基が例示され、特に、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0072】
また、得られるシリコーン系接着性シートが優れた耐寒性を有し、このシリコーン系接着性シートを用いて作製した半導体装置の信頼性がより向上することから、(イ)成分中のケイ素原子に結合した有機基に対するフェニル基の含有量が1モル%以上であることが好ましく、さらには、これが1〜60モル%の範囲内であることが好ましく、これが1〜30モル%の範囲内であることが特に好ましい。また、(イ)成分の粘度は、特に限定されないが、25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・s(cP)の範囲内であることが好ましい。
【0073】
次に、上記(ロ)成分は、架橋性シリコーンゴム組成物の架橋剤であり、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。この(ロ)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示される。また、(ロ)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の結合位置としては、分子鎖末端および/または分子鎖側鎖が例示される。
【0074】
また、(ロ)成分中の水素原子以外のケイ素原子に結合した基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基が例示され、特に、メチル基、フェニル基が好ましい。また、この(ロ)成分の粘度は、特に限定されないが、25℃における粘度が1〜100,000mPa・s(cP)の範囲内であることが好ましい。
【0075】
架橋性シリコーンゴム組成物における(ロ)成分の含有量は、該組成物を架橋(硬化)させるに十分な量であり、これは、該組成物中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルの範囲内となる量であることが好ましく、これが1〜5モルの範囲内であることが特に好ましい。これは、該組成物において、ケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が上記範囲の下限未満のモル数である組成物は、十分に硬化しなくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限をこえるモル数である組成物は、その架橋物の耐熱性が低下する傾向があるからである。
【0076】
さらに、上記(ハ)成分(接着性促進剤)は、上記組成物の架橋物の接着性を向上させるための成分であり、下記のシラトラン誘導体や、官能基含有シリコーン化合物、オルガノシロキサンオリゴマーが例示される。
シラトラン誘導体については、特開2001−19933号公報(前記特許文献4)、特開2000−265063号公報、特開2000−302977号公報、特開2001−19933号公報、特開2001−261963号公報、特開2002−38014号公報、特開2002−97273号公報等に詳細に説明されており、それらの化合物の内、代表的なものを下記に例示する。
【0077】
【化16】

【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
【化19】

【0081】
【化20】

【0082】
次に、上記官能基含有シリコーン化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
【0083】
また、上記オルガノシロキサンオリゴマーとして、下記のような化合物が例示される。
【0084】
【化21】

【0085】
【化22】

【0086】
上記架橋性シリコーンゴム組成物における(ハ)成分の含有量は、上記接着性シリコーンゴム層(C)に良好な接着性を付与するに十分な量であり、例えば、(イ)成分100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部が特に好ましい。これは、(ハ)成分の含有量が上記範囲の下限未満の量であると、接着性シリコーンゴム層(C)の接着性が低下する傾向があるからであり、一方、上記範囲の上限を超える量を加えても、接着性はさほど向上せず、むしろ、接着性シリコーンゴム層(C)の安定性が低下する傾向があるからである。
【0087】
さらに、上記(ニ)成分は、上記架橋性シリコーンゴム組成物のヒドロシリル化反応による架橋を促進するための触媒であり、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒等の周知のヒドロシリル化反応用触媒が例示され、特に、白金微粉末、白金黒、白金担持シリカ微粉末、白金担持活性炭、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体等の白金系触媒が、反応速度が良好であることから好ましい。
【0088】
上記架橋性シリコーンゴム組成物における(ニ)成分の含有量は、上記組成物の架橋を促進するに十分な量であり、これは、白金系触媒を用いる場合には、上記組成物において、この触媒中の白金金属が重量単位で0.01〜1,000ppmの範囲内となる量であることが好ましく、これが0.1〜500ppmの範囲内であることが特に好ましい。これは、(ニ)成分の含有量が、上記範囲の下限未満の量である組成物は、架橋速度が著しく遅くなる傾向があるからであり、一方、上記範囲の上限を超える量であっても、さほど架橋速度は向上せず、むしろ、架橋物に着色等の問題を生じる恐れがあるからである。
【0089】
また、架橋性シリコーンゴム組成物には、ヒドロシリル化反応の速度を調整するために、ヒドロシリル化反応抑制剤を含有することが好ましい。このヒドロシリル化反応抑制剤としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、ベンゾトリアゾールが例示される。
このヒドロシリル化反応抑制剤の含有量としては、上記組成物の架橋条件により異なるが、実用上、(イ)成分100重量部に対して、0.00001〜5重量部の範囲内であることが好ましい。
【0090】
さらに、上記組成物には、その他任意の成分として、沈降シリカ、湿式シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、酸化チタン、アルミナ、ガラス、石英、アルミノケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の無機質充填剤、これらの充填剤をオルガノハロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物により処理した無機質充填剤;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の有機樹脂微粉末;銀、銅等の導電性金属粉末等の充填剤、染料、顔料、難燃材、溶剤を含有してもよい。
【0091】
5.積層体(表面保護フィルムの用途)
本発明の表面保護フィルムは、基材フィルム(A)少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)が形成されており(図4参照。)、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するために用いられる。表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層(C)とは、ポリスルホン系樹脂層(B)を介して接合し、積層体を構成する。その際には、積層体全体の層構成を、A/B/C/B/Aの順番とすることが好ましい(図5参照。)。
積層体の層構成としては、上記のA/B/C/B/Aの順番が代表的なものであるが、B/A/B/C/B/A、A/B/C/B/A/B、B/A/B/C/B/A/B、A/B/C/B/A/B/C/B/A、又はA/B/C/B/A/B/C/B/A//B/C/B/A等の順番であってもよい。
【0092】
上記のA/B/C/B/Aからなる積層体の下方側の表面保護フィルム層(B/A)を剥離し、露出した接着性シリコーンゴム層(C)の下方面を、半導体チップ取付部の上方面に接着し、次いで残りのA/B/Cからなる積層体の上方側の表面保護フィルム層(A/B)を剥離し、露出した接着性シリコーンゴム層(C)の上方面を、半導体チップの下方面に接着し、例えば図1または図2に示す半導体装置を製造する。
【実施例】
【0093】
以下に、本発明の表面保護フィルムおよび積層体を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、本発明の実施例で作られた表面保護フィルムおよび積層体の評価を行うために、それらの接着性、剥離強度、密着強度、表面平滑性及び合計残留溶剤量を測定、評価したが、これらの測定、評価方法を以下に示す。
【0094】
[接着性シリコーンゴム層の接着性]
1×1cmの接着性シリコーンゴム層を介して2枚のシリコンウエハ(3cm×3cm)を重ね合わせた後、5kg/cmで圧着させながら100℃で10分間熱処理してサンプルを作製した。
また、1×1cmの接着性シリコーンゴム層を介して2枚のFPC用のポリイミドフィルム(3cm×3cm)を重ね合わせた後、5kg/cmで圧着させながら100℃で10分間熱処理してサンプルを作製した。
得られたサンプルを反対方向に引張り試験を行い、被着体上で接着性シリコーンゴム層が凝集破壊している面積の割合を求めて、凝集破壊率(%)とした。
【0095】
[接着性シリコーンゴム層と表面保護フィルムとの剥離強度]
積層体を1cmW×15cmLの短冊状に切り出し、引張り試験機を使用して片側の表面保護フィルムを速度1000mm/minで180°剥離を行ったときの平均応力を剥離強度とした。
【0096】
[ポリスルホン系樹脂層の密着強度]
表面保護フィルムの表面にセロテープ(登録商標)を貼り、2.5cmW×15cmLの短冊状に切り出し、引張り試験機を使用して速度1000mm/minで180°剥離を行ったときの平均応力を密着強度とした。
【0097】
[ポリスルホン系樹脂層の表面平滑性]
ポリスルホン系樹脂層の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が何個存在するかで評価し、その個数が1個以下の場合を合格(○)とした。
【0098】
[表面保護フィルムの合計残留溶剤量]
50mlのガラスサンプル瓶に表面保護フィルム(250×200mm)を5mm角にしたものを入れ、さらに10mlのクロロホルムを加えて室温24時間で溶解させたものを分析試料としてガスクロマトグラフィで分析し、その分析結果から表面保護フィルムの1m当たりに含有する混合溶媒の重量、すなわち表面保護フィルムの合計残留溶剤量(mg/m)を得た。
【0099】
また、実施例及び比較例で使用した表面保護フィルムの材料などについて以下に説明する。
基材フィルム(A)のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとして、東レ製「ルミラーQT32」(厚さ50μm)を用いた。
また、ポリスルホン系樹脂層(B)として、ポリエーテルスルホン樹脂である住友化学(株)製の「スミカエクセルPES5200G」を用いた。
【0100】
また、実施例及び比較例で使用した接着性シリコーンゴム層(C)の材料などについて、以下に説明する。
【0101】
[接着性シリコーンゴム層の材料]
25℃における粘度40,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.08重量%)72重量部、25℃における粘度6,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.84重量%)15重量部、水1.5重量部、ヘキサメチルジシラザン3重量部、およびBET法による比表面積が200m/gである乾式シリカ微粉末10重量部をロスミキサーで1時間混合した後、減圧下、170℃で2時間混合した。その後、室温まで冷却して、半透明ペースト状のシリコーンゴムベースを調製した。
【0102】
次に、上記のシリコーンゴムベース100重量部に、25℃における粘度5mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.7重量%)3重量部、参考例1(下述する。)で調製したシラトラン誘導体1.0重量部、白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(本組成物において、この錯体中の白金金属が重量単位で5ppmとなる量)、および3−フェニル−1−ブチン−3−オール0.01重量部を均一に混合して、25℃における粘度70,000mPa・sのヒドロシリル化反応架橋性シリコーンゴム組成物を調製した。
【0103】
上記の架橋性シリコーンゴム組成物を、表面保護フィルムの間にはさみ、クリアランスを調整したステンレス製の2本ロールにより、前記架橋性シリコーンゴム組成物の厚さを200μmとした状態で、80℃の熱風循環式オーブン中で30分間加熱することにより架橋反応させて積層体を調製した。
【0104】
[参考例1](シラトラン誘導体の調製)
攪拌装置、温度計、および還流冷却管を備えた500mlの4つ口フラスコに、2−ヒドロキシエチルアミン12.2g(0.2モル)、ビニルトリメトキシシラン88.9g(0.6モル)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン94.5g(0.4モル)、およびメタノール32gを仕込み、この系をメタノールの還流温度で8時間加熱攪拌した。
得られた反応混合物全量を、なす型フラスコに移して、ロータリーエバポレーターにより低沸点成分を留去することにより、微黄色透明液体132gを得た。
この透明液体を29Si−核磁気共鳴分析および13C−核磁気共鳴分析したところ、下記の式(22)で表されるシラトラン誘導体を、90重量%以上含有することが確認された。
【0105】
【化23】

【0106】
[実施例1]
(i)ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の調製
アセトフェノン40体積%、シクロヘキサノン30体積%及びメチルエチルケトン30体積%からなる混合溶媒100容量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、「スミカエクセル」(登録商標)PES5003P]10質量%を添加し24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
【0107】
(ii)表面保護フィルム(1)、積層体(1)の作製
PETフィルム[東レ製「ルミラーQT32」(厚さ50μm)]の片面に、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物のドープをリバースロールコーターで塗布・乾燥し、ポリスルホン系樹脂の乾燥膜厚2μmの塗膜を形成させ表面保護フィルム(1)を作製した。
得られた表面保護フィルム(1)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(1)を作製した。
【0108】
(iii)評価
表面保護フィルム(1)と積層体(1)は、接着性100%、剥離強度0.9N/m、密着強度20N/m、表面平滑性が視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下、及び合計残留溶剤量200mg/m未満であり、また積層体(1)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が少なく、表面保護フィルム、積層体として十分な品質のものである。
【0109】
[実施例2]
(i)ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の調製
γ−ブチロラクトン40体積%、シクロヘキサノン30体積%及びメチルエチルケトン30体積%からなる混合溶媒100容量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、「スミカエクセル」(登録商標)PES5003P]10質量%を添加し24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
【0110】
(ii)表面保護フィルム(2)、積層体(2)の作製
PETフィルム[帝人デュポン製「テトロンHS」(厚さ50μm)]の片面に、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物のドープをリバースロールコーターで塗布・乾燥し、ポリスルホン系樹脂の乾燥膜厚2μmの塗膜を形成させ表面保護フィルム(2)を作製した。
得られた表面保護フィルム(2)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(2)を作製した。
【0111】
(iii)評価
表面保護フィルム(2)と積層体(2)は、接着性100%、剥離強度1.0N/m、密着強度25N/m、表面平滑性が視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下、及び合計残留溶剤量200mg/m未満であり、また積層体(2)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が少なく、表面保護フィルム、積層体として十分な品質のものである。
【0112】
[実施例3]
(i)ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の調製
アセトフェノン30体積%、シクロヘキサノン50体積%及びメチルエチルケトン20体積%からなる混合溶媒100容量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、「スミカエクセル」(登録商標)PES5003P]10質量%を添加し24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
【0113】
(ii)表面保護フィルム(3)、積層体(3)の作製
PETフィルム[帝人デュポン製「テトロンHS」(厚さ50μm)]の片面に、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物のドープをリバースロールコーターで塗布・乾燥し、ポリスルホン系樹脂の乾燥膜厚2μmの塗膜を形成させ表面保護フィルム(3)を作製した。
得られた表面保護フィルム(3)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(3)を作製した。
【0114】
(iii)評価
表面保護フィルム(3)と積層体(3)は、接着性100%、剥離強度0.9N/m、密着強度20N/m、表面平滑性が視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下、及び合計残留溶剤量200mg/m未満であり、また積層体(3)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が少なく、表面保護フィルム、積層体として十分な品質のものである。
【0115】
[実施例4]
(i)ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の調製
γ−ブチロラクトン30体積%、シクロヘキサノン30体積%及びメチルエチルケトン40体積%からなる混合溶媒100容量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、「スミカエクセル」(登録商標)PES5003P]10質量%を添加し24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
【0116】
(ii)表面保護フィルム(4)、積層体(4)の作製
PETフィルム[帝人デュポン製「テトロンHS」(厚さ50μm)]の片面に、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物のドープをリバースロールコーターで塗布・乾燥し、ポリスルホン系樹脂の乾燥膜厚2μmの塗膜を形成させ表面保護フィルム(4)を作製した。
得られた表面保護フィルム(4)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(4)を作製した。
【0117】
(iii)評価
表面保護フィルム(4)と積層体(4)は、接着性100%、剥離強度0.9N/m、密着強度20N/m、表面平滑性が視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下、及び合計残留溶剤量200mg/m未満であり、また積層体(4)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が少なく、表面保護フィルム、積層体として十分な品質のものである。
【0118】
[比較例1]
(i)表面保護フィルム(5)の準備
PETフィルム[東レ製「ルミラーQT32」(厚さ50μm)]を表面保護フィルム(3)として準備した。
この表面には、ポリスルホン系樹脂の塗膜は形成されていない。
【0119】
(ii)積層体(5)の作製
表面保護フィルム(5)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(5)を作製した。
【0120】
(iii)評価
表面保護フィルム(5)と積層体(5)は、表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層との間の剥離強度が大きく、接着性シリコーンゴム層から剥離させることができず、表面保護フィルム、積層体としては不十分な品質のものである。
【0121】
[比較例2]
(i)表面保護フィルム(6)の作製
表面保護フィルム(6)として、下記のPESフィルムを準備した。この表面保護フィルムには、基材としてPESフィルムが用いられ、単層構造である。
PESフィルムは、住友化学(株)製のPES樹脂「スミカエクセルPES5200G」を160℃で8時間乾燥し、含水率を0.08重量%にした。このPES樹脂ペレットを、Tダイを取り付けた押出機から300℃で溶融押出し、冷却固化させて、厚さ75μmのPESフィルムを作製した。
【0122】
(ii)積層体(6)の作製
表面保護フィルム(6)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(6)を作製した。
【0123】
(iii)評価
表面保護フィルム(6)と積層体(6)は、剥離強度が1.1N/mで、接着性が95%であり、問題は無かったが、積層体(6)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が多く、表面保護フィルム、積層体としては不十分な品質のものである。
【0124】
[比較例3]
(i)ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の調製
DMF(ジメチルホルムアミド)に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、「スミカエクセル」(登録商標)PES5003P]10質量%を添加し24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
【0125】
(ii)表面保護フィルム(7)、積層体(7)の作製
PETフィルム[帝人デュポン製「テトロンHS」(厚さ50μm)]の片面に、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物のドープをリバースロールコーターで塗布・乾燥し、ポリスルホン系樹脂の乾燥膜厚2μmの塗膜を形成させ表面保護フィルム(7)を作製した。
得られた表面保護フィルム(7)を接着性シリコーンゴム層(C)に、上述の方法で積層し、積層体(7)を作製した。
【0126】
(iii)評価
表面保護フィルム(7)と積層体(7)は、接着性100%、剥離強度7N/m、密着強度13N/m、及び表面平滑性が視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が4個であり、また積層体(7)をトムソン打ち抜き機で打ち抜いた際には、糸状(またはヒゲ状)の打ち抜きカスの発生が少ないが、合計残留溶剤量1200mg/mであり、表面保護フィルム、積層体として不十分な品質のものである。
以上の評価結果を、表1に要約して示した。
【0127】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の表面保護フィルムは、接着性シリコーンゴム層から容易に剥離でき、かつ接着性シリコーンゴム層の半導体チップや半導体チップ取付部に対する接着性に悪影響を及ぼす残留溶剤などを含有することなく、また、表面保護フィルム自体の表面平滑性に優れているために、接着性シリコーンゴム層の表面平坦性に悪影響を及ぼすことがない。また、本発明の表面保護フィルムと接着性シリコーンゴム層の間は、容易に剥離することができ、かつ接着性シリコーンゴム層と半導体チップや半導体チップ取付部との接着性は、非常に優れており、信頼性の優れた半導体装置を作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂層(B)を積層してなる、接着性シリコーンゴム層(C)を保護するための表面保護フィルムであって、
ポリスルホン系樹脂層(B)は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液組成物で形成されることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
ポリスルホン系樹脂層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mmに直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
基材フィルム(A)とポリスルホン系樹脂層(B)との密着強度が5N/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
基材フィルム(A)がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項5】
表面保護フィルム中に含有する混合溶媒量が1000mg/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項6】
基材フィルム(A)の厚さが10〜200μmであり、且つポリスルホン系樹脂層(B)の厚さが0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項7】
接着性シリコーンゴム層(C)との剥離強度が4N/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項8】
基材フィルム(A)の少なくとも一方の面上に、ポリスルホン系樹脂のドープを塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(B)を形成させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表面保護フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/021258
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513506(P2005−513506)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012529
【国際出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】