説明

表面保護層及びそれを有する反射防止膜

【課題】空隙を有する層の上にその空隙を維持したまま形成することが可能であり、かつ機械的強度と防汚性に優れた表面保護層、並びにそれを有する反射防止性能に優れた反射防止膜を提供すること。
【解決手段】本発明の表面保護層13は、含フッ素ポリマー122と無機微粒子121とを含有し、前記含フッ素ポリマー122と前記無機微粒子121とが共有結合を介して結合している材料で構成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材に用いられる表面保護層及びそれを有する反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ装置などの表示機器の視認性を高めるために用いられる反射防止膜は、従来は複数層を積層してなるものが主流であった。これは屈折率が1.4〜1.6である低屈折率層(フッ素系材料、シリカ系材料、有機ポリマーなど)と、屈折率1.6以上である高屈折率層(金属酸化物を含有する材料など)とを交互に2層以上積層することによって可視光領域での反射率を低下させるものである。しかしながら、このような複数層からなる反射防止膜は、その製造プロセスが煩雑であることはもちろんであり、さらに可視光領域内での反射率の均一性に乏しく、望まない色合いやギラツキが発生するという問題があった。
【0003】
可視光領域全体にわたり反射率を均一に低く抑えるには、下記のような単層からなる反射防止膜が適している。すなわち、ガラス(屈折率1.52程度)、ポリメチルメタクリレート(屈折率1.49程度)、ポリエチレンテレフタレート(屈折率1.54〜1.67程度)、トリアセチルセルロース(屈折率1.49程度)などのような基板上に単層の低屈折率層を直接設けるか、あるいは基材上に有機系あるいは無機系のハードコート層(屈折率1.45〜1.70程度)を積層した上で単層の低屈折率層を設けることによって、可視光領域内での反射率を均一に低下させるというものである。この場合、低屈折率層の屈折率の値は、用いる基材(ハードコート層が存在する場合はハードコート層)の屈折率の平方根に近ければ近いほど優れた反射防止膜となる。つまり低屈折率層の屈折率を1.40未満、より好ましくは1.30未満に設定することで、反射防止性能を向上させることができる。
【0004】
このような非常に低い屈折率を有する層として、シリカ微粒子からなり、内部に微小な空隙を有するかあるいは表面に微小な凹凸を有する低屈折率層が提案されている(特許文献1〜3)。これらは屈折率1.40未満である層を簡便に形成可能という点では有用であるが、層内に空隙を有するために応力が一点に集中しやすく、また表面に凹凸が存在するために摩擦係数が高いので、機械的強度、特に耐擦傷性に乏しいという問題があった。また、空隙内部や凹凸の隙間に汚染物質が取り込まれやすく、防汚性にも劣るという問題もあった。
【0005】
これらの問題を解決するためには、低屈折率層の上部にさらに表面保護層を形成するのが有効である。しかし、空隙を有する層の上に、その空隙を維持したままさらに薄い層を形成することは非常な困難が伴う。例えば特許文献4には、空隙を有する低屈折率層上に含フッ素ポリマーからなる層を積層する際に、フッ素系微粒子を共存させたり、含フッ素ポリマーの分子量を制御したり、その塗布量を少量に抑えたりすることなどによって、低屈折率層内部の空隙に含フッ素ポリマーが浸入する量を低下させる手法が開示されている。しかしながら、この方法によっても低屈折率層の屈折率が1.40未満であるような積層体は得られていない。これは、表面保護層に由来する物質が低屈折率層の空隙に浸入するのを未だ防ぐことができていないためと考えられ、すなわち上記の課題が解決されているとは言い難い。また、フッ素系微粒子だけでは、表面の緻密性が不十分であり、層に指紋がついてしまう(耐指紋性に劣る)という問題があり、さらに、微粒子は粒径分布を持つために、相対的に小さい粒径を有する微粒子が表面保護層の下層、すなわち低屈折率層に浸透してしまい、低屈折率が得られないという問題もある。
以上の通り、従来の技術では、屈折率が1.40未満であるような低屈折率層上に形成された、機械的強度と防汚性に優れた表面保護層は提供されていない。
【特許文献1】特開平11−292568号公報
【特許文献2】特開平8−122501号公報
【特許文献3】特開平11−6902号公報
【特許文献4】特開2000−75105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、空隙を有する層の上にその空隙を維持したまま形成することが可能であり、かつ機械的強度と防汚性に優れた表面保護層、並びにそれを有する反射防止性能に優れた反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面保護層は、含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが共有結合を介して結合している材料で構成されたことを特徴とする。
【0008】
本発明の表面保護層においては、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが3次元架橋していることが好ましい。
【0009】
本発明の表面保護層においては、前記含フッ素ポリマーが、含フッ素ビニルモノマーによる繰り返し単位及び同一分子内にビニル基と加水分解可能なシリル基を共に含むケイ素化合物による繰り返し単位を少なくとも含む共重合体であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面保護層においては、前記含フッ素ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることが好ましい。
【0011】
本発明の表面保護層においては、前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する少なくとも2種類以上の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルを含有することが好ましい。
【0012】
本発明の表面保護層においては、前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることが好ましい。
【0013】
本発明の表面保護層においては、前記無機微粒子がシリカ微粒子であることが好ましい。
【0014】
本発明の表面保護層においては、アルコキシシランの加水分解・脱水縮合物をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明の表面保護層においては、厚さが5〜50nmであることが好ましい。
【0016】
本発明の表面保護層用塗布組成物は、含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが共有結合を介して結合してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、前記含フッ素ポリマーが、含フッ素ビニルモノマーによる繰り返し単位及び同一分子内にビニル基と加水分解可能なシリル基を共に含むケイ素化合物による繰り返し単位を少なくとも含む共重合体であることが好ましい。
【0018】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、前記含フッ素ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることが好ましい。
【0019】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する少なくとも2種類以上の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルを含有することが好ましい。
【0020】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることが好ましい。
【0021】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、前記無機微粒子がシリカ微粒子であることが好ましい。
【0022】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、アルコキシシランの部分加水分解及び/又は部分脱水縮合物をさらに含むことが好ましい。
【0023】
本発明の表面保護層用塗布組成物においては、加熱又は光照射により酸又はアルカリを発生しうる物質をさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明の表面保護層は、上記表面保護層用塗布組成物を基体上に塗布し、前記表面保護層用塗布組成物を硬化せしめてなることを特徴とする。
【0025】
本発明の反射防止膜は、3〜50体積%の空隙を有する低屈折率層の上に上記表面保護層が積層されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の反射防止膜においては、前記低屈折率層がシリカ微粒子を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の反射防止膜においては、前記低屈折率層が数珠状のシリカ微粒子を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の反射防止膜においては、前記低屈折率層の屈折率が1.40未満であることが好ましい。
【0029】
本発明の光学部材は、透明な光学基板上に、上記表面保護層が最外層である層を形成してなることを特徴とする。
【0030】
本発明の光学部材は、透明な光学基板上に、上記反射防止膜を含む単層又は複数層の層を形成してなることを特徴とする。
【0031】
本発明の光学部材においては、前記光学基板が透明樹脂基板であることが好ましい。
【0032】
本発明の表面保護層用塗布組成物の製造方法は、含フッ素ポリマー、無機微粒子及び溶媒を混合する工程と、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子との間で共有結合を形成せしめる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の表面保護層は、空隙を有する層の上にその空隙を維持したまま形成することが可能である。すなわち、反射防止性能に優れた低屈折率層に対し、その反射防止性能を損なうことなく、さらに耐久性と防汚性を付与することができる。また、前記低屈折率層のみならず、表面の保護が求められる種々の用途に応用可能であり、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明者は、含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含む材料を表面保護層(オーバーコート層)に用いた場合において、下地層、例えばシリカ微粒子で構成される低屈折率層への含フッ素ポリマーの浸透を十分に抑制すること、表面保護層の表面の緻密性を確保すること、及び相対的に小さい粒径の無機微粒子の下地層への浸透を防止すること、の特性を同時に満足することができていない点に着目し、含フッ素ポリマーと無機微粒子との間を結合させ、無機微粒子で含フッ素ポリマーを保持して、下地層への含フッ素ポリマーの浸透を防止することを見出し本発明をするに至った。これにより、含フッ素ポリマーが表面保護層の表面に保持されるので、表面の緻密性が確保される。また、含フッ素ポリマーと無機微粒子とが結合することにより、無機微粒子の見掛け上の粒径が大きくなり、相対的に小さい粒径の無機微粒子であっても、下地層への浸透を防止することができる。また、下地層がシリカ微粒子で構成される低屈折率層である場合には、無機微粒子がシリカ微粒子で構成される表面の凹凸の凹部に入り込み表面保護層を平坦化する。このため、表面保護層と低屈折率層との間の密着性が向上し、機械的強度が向上する。
【0035】
ここで、本発明に係る表面保護層について図1及び図2を用いて説明する。図1(a),(b)は、本発明に係る表面保護層用塗布組成物を用いて表面保護層を成膜する場合を説明するための図である。図2(a),(b)は、従来の表面保護層用塗布組成物を用いて表面保護層を成膜する場合を説明するための図である。
【0036】
図1(a)に示すように、本発明に係る表面保護層用塗布組成物12は、含フッ素ポリマー122と無機微粒子121と共有結合により結合されている。すなわち、無機微粒子121の周りに含フッ素ポリマー122が存在する状態になっている。このような表面保護層用塗布組成物12を下地層である、シリカ微粒子11aで構成された低屈折率層11上に塗布すると図1(b)に示すような表面保護層13が形成される。無機微粒子121は含フッ素ポリマー122と共有結合しており、粒径が大きくなっているので、無機微粒子121に粒径分布が存在して比較的小さな粒径のものが存在したとしても、シリカ微粒子11a間の隙間に入り込むことを防止できる。このとき、無機微粒子121が含フッ素ポリマー122が共有結合しているので、無機微粒子121が含フッ素ポリマー122を保持した形となり、含フッ素ポリマー122が下地層のシリカ微粒子11a間に浸透してしまうことを防止できる。このため、含フッ素ポリマー122が低屈折率層11の表面にとどまるので(表面に含フッ素ポリマー層が固定されるので)、表面保護層13の表面の緻密性を確保することができる。その結果、反射防止性能に優れた低屈折率層に対し、その反射防止性能を損なうことなく、さらに耐久性と防汚性を付与することができる。
【0037】
一方、図2(a)に示すように、従来の表面保護層用塗布組成物22は、含フッ素ポリマー222と無機微粒子221とが個別に有している。すなわち、無機微粒子221と含フッ素ポリマー222とが単に混合している状態になっている。このような表面保護層用塗布組成物22を下地層である、シリカ微粒子21aで構成された低屈折率層21上に塗布すると図2(b)に示すような表面保護層が形成される。すなわち、表面保護層においては、無機微粒子221と少量の含フッ素ポリマー222が低屈折率層21上に存在し、多くの含フッ素ポリマー222’が下地層のシリカ微粒子21a間に浸透してしまう。このため、表面保護層の表面の緻密性を確保することができない。その結果、反射防止性能に優れた低屈折率層に対し、その反射防止性能を損なうことなく、さらに耐久性と防汚性を付与することができない。
【0038】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明の表面保護層は、含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが共有結合を介して結合している材料で構成されたことを特徴とする。このような表面保護層は、含フッ素ポリマー、及びそれと共有結合を介して結合している無機微粒子とを含有する塗布組成物を基体上に塗布する工程を経ることによって製造可能である。以下、該塗布組成物について詳述する。
【0039】
含フッ素ポリマーとしては、特に限定されず、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロアルキルエチレン、テトラフルオロエチレンオキシド、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、α−フルオロ(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルなどフッ素系モノマーの(共)重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を意味する。これらは、単独重合体でも2種類以上の共重合体でも良く、他の任意のモノマーとの共重合体でも良い。
【0040】
これらの中でも(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、重合体の製造方法が容易であり、かつ得られる表面保護層の機械的強度や防汚性が優れたものとなるので好ましい。(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルとは、炭素原子上に存在する一部又は全ての水素原子をフッ素原子に置換した構造を有する直鎖状あるいは分岐状のアルコールと、(メタ)アクリル酸とが脱水縮合した構造をもつエステルである。該アルコールのα位、β位、ω位は必ずしも全てフッ素化されている必要はない。特にα位あるいはα位とβ位の両方がフッ素化されていないものはエステルの安定性が高いので好ましい。用いることができる(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルの例として、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルメタクリレート、パーフルオロエチルメチルアクリレート、パーフルオロエチルメチルメタクリレート、パーフルオロプロピルメチルアクリレート、パーフルオロプロピルメチルメタクリレート、パーフルオロブチルメチルアクリレート、パーフルオロブチルメチルメタクリレート、パーフルオロペンチルメチルアクリレート、パーフルオロペンチルメチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロヘキシルメチルメタクリレート、パーフルオロヘプチルメチルアクリレート、パーフルオロヘプチルメチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメチルアクリレート、パーフルオロオクチルメチルメタクリレート、パーフルオロノニルメチルアクリレート、パーフルオロノニルメチルメタクリレート、パーフルオロデシルメチルアクリレート、パーフルオロデシルメチルメタクリレート、パーフルオロウンデシルメチルアクリレート、パーフルオロウンデシルメチルメタクリレート、パーフルオロドデシルメチルアクリレート、パーフルオロドデシルメチルメタクリレート、パーフルオロトリデシルメチルアクリレート、パーフルオロトリデシルメチルメタクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルアクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルメタクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルアクリレート、パーフルオロエチルメチルアクリレート、パーフルオロプロピルメチルアクリレート、パーフルオロブチルメチルアクリレート、パーフルオロペンチルメチルアクリレート、パーフルオロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロヘプチルメチルアクリレート、パーフルオロオクチルメチルアクリレート、パーフルオロノニルメチルアクリレート、パーフルオロデシルメチルアクリレート、パーフルオロウンデシルメチルアクリレート、パーフルオロドデシルメチルアクリレート、パーフルオロトリデシルメチルアクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルアクリレートなどのアクリル酸のフルオロアルキルエステルを用いると、ポリマーの溶解性が高くなり扱いやすいのでより好ましい。
【0041】
上記(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いてもよいが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する2種類以上、より好ましくは3種類以上、さらに好ましくは4種類以上の(メタ)アクリル酸エステルを用いて共重合体とした方が、得られる表面保護層の機械的強度が高くなる場合があるので望ましい。
【0042】
本発明で用いる含フッ素ポリマーは、上記の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルのみからなるポリマーであっても良いが、フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体とした方が、種々の溶媒に対する溶解性が向上して取り扱いが容易になるほか、防汚性がさらに向上する場合があるので好ましい。フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルが長鎖エステルである方がこの効果が発現しやすい傾向にあり、好ましくは炭素数8以上のエステル、具体的には(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどが好ましい。含フッ素ポリマー中におけるフッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、1〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
【0043】
本発明の表面保護層製造するために用いる塗布組成物においては、上記含フッ素ポリマーの他に無機微粒子を含有し、さらに含フッ素ポリマーが無機微粒子と共有結合を介して結合していることが必要である。すなわち該含フッ素ポリマーは、その分子内に無機微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を少なくとも1個有することが必要である。このような官能基をポリマー分子に導入する方法の例として下記(a)〜(c)の方法が挙げられる。
【0044】
(a)上記含フッ素モノマーと、シリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有するコモノマーとの共重合体とし、側鎖にシリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を導入する。
(b)シリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有する重合開始剤及び/又は重合停止剤を用いて重合反応を行い、末端にシリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を導入する。
(c)シリカ微粒子の表面を重合開始可能な官能基で修飾しておき、含フッ素ポリマーをグラフト重合させる。
【0045】
これらの方法の中でも最も簡便な(a)の方法が好ましい。(a)の方法を採用する場合、シリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有するコモノマーの最も好ましい例として、下記式(1)に挙げられる化合物を挙げることができる。
SiR(OR3−n (1)
(式中Rは炭素−炭素二重結合を含む有機置換基を表す。R、Rは各々独立に任意の有機置換基を表す。n=0〜2である。)
【0046】
の具体的な例としてはビニル基、アリル基、(メタ)アクリロキシメチル基、(メタ)アクリロキシエチル基、(メタ)アクリロキシプロピル基などが挙げられ、Rの具体的な例としてはメチル基、エチル基、フェニル基などが挙げられ、Rの具体的な例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基などが挙げられる。
【0047】
式(1)で表される化合物のうち好適なものとして挙げられるのは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。またこれらの中でも最も好ましいのは、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0048】
もちろんシリカ微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有するコモノマーは上記式(1)で表される化合物に限らず、例えばヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ環を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のt−ブチルエステルやアダマンチルエステル(これらは容易に加水分解されカルボキシル基を生成する)なども使用可能である。
【0049】
含フッ素ポリマーの分子量は特に制限を受けないが、重量平均分子量の値が1000〜1000000、より好ましくは5000〜100000、さらに好ましくは10000〜50000の範囲が適している。
【0050】
含フッ素ポリマー中における含フッ素モノマーユニットの含有量は、その全繰り返し単位の個数に対する含フッ素モノマーの繰り返し単位の個数の割合で5〜99mol%、好ましくは10〜90mol%、より好ましくは20〜70mol%、さらに好ましくは30〜49mol%の範囲である。また含フッ素ポリマー中における上記コモノマーユニットの含有量は、その全繰り返し単位の個数に対するコモノマーの繰り返し単位の個数の割合で1〜95mol%、好ましくは10〜90mol%、より好ましくは30〜80mol%、さらに好ましくは50〜70mol%の範囲である。
【0051】
含フッ素ポリマーは同じ組成をもつ単独のポリマーを用いても良く、組成の異なる複数のポリマーの混合物として用いても良い。さらに本発明の効果を損なわない範囲で他の任意のポリマーを併用してもよい。
【0052】
本発明の表面保護層及び塗布組成物はさらに無機微粒子を含む。この無機微粒子は、空隙を有する低屈折率層上に該塗布組成物を塗布する際に上記含フッ素ポリマーが空隙内部に浸入するのを防ぐほか、得られる表面保護層そのものの機械的強度を高くする効果も併せ持つ。無機微粒子の種類としては二酸化ケイ素(シリカ)微粒子、二酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク、カオリン及び硫酸カルシウム微粒子などを例示することができる。また無機微粒子が導電性を有していれば、帯電防止機能を付与することも可能である。導電性を有する無機微粒子としては亜鉛、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ガリウム、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、セリウム、タンタル、イットリウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物あるいは複合酸化物からなる無機酸化物微粒子(代表的なものとしてITO(スズ含有酸化インジウム)微粒子、ATO(スズ含有酸化アンチモン)微粒子などがある)や、銅、銀、ニッケル、低融点合金(ハンダなど)の金属微粒子、各種のカーボンブラック、金属繊維、炭素繊維など公知のものが用いられる。これら微粒子の中でも特にシリカ微粒子が好ましい。
【0053】
上記無機微粒子の平均粒子径は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.02〜0.5μmであることがさらに好ましい。また無機微粒子は単独でも各々複数種を混合して用いても構わない。
【0054】
上記無機微粒子の添加量は、(無機微粒子の重量)/(含フッ素ポリマーの重量)の値で0.001〜100、好ましくは0.01〜10、より好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜1、特に好ましくは0.3〜0.8の範囲である。
【0055】
上で述べたとおり、該塗布組成物中において、含フッ素ポリマーと無機微粒子とが共有結合を介して結合していることが必要である。無機微粒子の表面から含フッ素ポリマーをグラフトさせた場合を除くと、本発明で用いる含フッ素ポリマーは、分子内に無機微粒子と共有結合を形成可能な官能基(アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基など)を含んでいるので、その官能基と無機微粒子とを反応させることによって共有結合を形成せしめる。この反応は、含フッ素ポリマーを溶解させた有機溶媒あるいは水などの溶媒中に無機微粒子を分散させることによって行うのが最も適している。溶媒は限定されず、含フッ素ポリマーを溶解することができかつ無機微粒子が安定に分散できるものであればどのようなものでも用いることができる。反応の条件としては、室温〜100℃の範囲で10分間〜1週間の期間攪拌することで目的を達成できる。また反応を促進するために公知の酸やアルカリ、スズ化合物などの触媒を添加することも有効である。含フッ素ポリマーは塗布組成物において全分子が無機微粒子と共有結合を介して結合している必要はなく、含フッ素ポリマーの全量のうち50重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは90重量%以上が無機微粒子と結合していればよい。含フッ素ポリマーが無機微粒子に結合している程度は、例えばネブライザーを用いて塗布組成物の分散を行った上で電子顕微鏡観察を行うなどの方法や、GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフィー)により無機微粒子との反応前後でのポリマーピークの強度比を測定することなどにより評価できる。
【0056】
上記のように含フッ素ポリマーと無機微粒子とを結合させる反応においてその効率を高め、さらには後述のように表面保護層の架橋密度を向上させ機械的強度や耐久性を高める目的で、下記式(2)で表されるアルコキシシラン類をさらに上記反応条件下に共存させるか、あるいは予め公知の方法で、下記式(2)で表されるアルコキシシラン類あるいはその部分加水分解物、部分脱水縮合物で無機微粒子表面を修飾しておくことが有効である。
Si(OR4−n (2)
(式中R、Rは各々独立に任意の有機置換基を表す。n=0〜2である。)
【0057】
好適に用いられるアルコキシシラン類の具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどを挙げることができる。これらアルコキシシラン類の添加量は、無機微粒子に含まれる金属原子数に対して0〜100mol%、好ましくは0〜10mol%の範囲である。当然該アルコキシシラン類は単独で用いても複数を併用しても差し支えない。
【0058】
本発明の表面保護層は3次元架橋していることが望ましいので、塗布後に含フッ素ポリマーや無機微粒子などが3次元架橋を起こす反応を促進しうる物質を塗布組成物に添加することも有効である。特に無機微粒子や上記式(1),(2)で表される化合物は酸あるいはアルカリの存在下によってその縮合反応が促進されるので、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、乳酸、蓚酸などの酸類やアンモニア、有機アミン、水酸化有機アンモニウム、苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ソーダ、炭酸カリ、重炭酸ソーダ、重炭酸カリなどのアルカリ類が適している。さらに塗布組成物の安定性を高めるために、加熱又は光照射などの外部刺激により酸又はアルカリを発生しうる物質を用いるとさらに効果的である。具体的にはトリアリールスルホニウムやジアリールヨードニウムのトリフルオロメタンスルホン酸塩、ノナフルオロブタンスルホン酸塩、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネートなどのスルホニウム系やヨードニウム系の光酸発生剤などが適している。その他、公知の光ラジカル発生剤の使用が効果的な場合もある。
【0059】
塗布組成物の粘度などを調節するために通常は溶媒を用いる。溶媒としては水、任意の有機溶媒、公知の反応性希釈剤が好適である。もちろん溶媒は単一でも複数の混合でもよい。
【0060】
表面保護層用塗布組成物には、さらに、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤や改質用樹脂を添加してもよい。
【0061】
次に、本発明の表面保護層の製造方法について説明する。
本発明の表面保護層は、上記塗布組成物を基体上に塗布することで得られる。基体としては任意の形状をもつ金属、ガラス、セラミック、プラスチックなどどのようなものでも用いることができる。この中でも特に表面の保護と防汚性が強く求められるものはディスプレイなどの表示材料に用いられる透明基板である。透明基板としては透明なガラス板や透明樹脂基板が挙げられ、さらに透明樹脂基板が好ましい。透明樹脂基板としては(メタ)アクリル樹脂板、(メタ)アクリル樹脂シート、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂板、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂シート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテート系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ノルボネン系フィルム、ポリアリレート系フィルム及びポリスルフォン系フィルムなどが挙げられる。
【0062】
塗布の方法は浸漬、スピンコーター、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターなどの公知の塗布法を用いて実施することができる。これらのうち、透明樹脂基板がフィルム状の場合、連続塗布が可能なナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターなどの方法が好ましく用いられる。
【0063】
塗布を行った後、通常は塗布組成物に含まれる溶媒を乾燥するために室温〜200℃の範囲で静置、送風、マイクロ波照射などを5秒〜10分間行う。これらの温度、時間などは使用する基材や溶媒の種類に応じて適宜決定される。
【0064】
本発明の表面保護層の厚さは、5nm〜15μmの範囲が好ましく、10nm〜5μmの範囲がより好ましい。5nmを下回ると表面保護層としての十分な機能が発現しないおそれがあり、逆に15μmを越えると膜の内部応力が大きくなるのでクラックや剥離などを生ずる可能性がある。
【0065】
以上の工程を行うことによって、含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、かつ該含フッ素ポリマーと該無機微粒子とが共有結合を介して結合している構造を有する、高い機械的強度と防汚性を兼ね備えた表面保護層を製造することができる。
【0066】
該表面保護層の機械的強度と防汚性をより高めるために、上記の溶媒乾燥工程と同時あるいは前後して、表面保護層に含まれる含フッ素ポリマー、無機微粒子、場合によってはさらに式(2)で表されるアルコキシシラン類を3次元架橋させることが好ましい。3次元架橋の方法はその3次元架橋反応の態様や触媒の種類に応じて加熱、マイクロ波照射、紫外線照射、電子線照射などの中から適宜選択される。これら加熱、マイクロ波照射、紫外線照射、電子線照射は複数を併用してもよく、それらの順序は任意である。この工程によって、表面保護層に含まれる含フッ素ポリマー上の官能基、無機微粒子の表面、場合によってはさらに式(2)で表されるアルコキシシラン類が相互に結合して強固な3次元ネットワークを形成し、さらに強靱で耐久性に優れた表面保護層を得ることが可能になる。
【0067】
本発明の表面保護層は、高い機械的強度と防汚性を備えているので、あらゆる基材上に塗布することでその効果を発揮することができる。その中でも、特に空隙を有する材料の表面を保護する用途に適しており、さらには空隙を有する低屈折率層を備えた反射防止膜の表面を保護する用途にきわめて好適に用いることができる。このような空隙を有する低屈折率層を製造する方法としては、溶媒を含むゲル層から超臨界乾燥によって溶媒を取り除く方法、溶媒を含むゲル層に対して収縮を抑制するための化学処理を施してから乾燥する方法、空孔助剤が分散したマトリックスからなる層を形成した後に該空孔助剤を除去する方法、中空微粒子を用いて層内に空隙を導入する方法、微粒子を塗布してその微粒子間の隙間を空隙として利用する方法などが挙げられる。この中でも、微粒子を塗布してその微粒子間の隙間を空隙として利用する方法が最も簡便であり、屈折率が1.40未満と低くかつ機械的強度の高い低屈折率層が得られるので適している。
【0068】
微粒子としては二酸化ケイ素(シリカ)微粒子、二酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、有機ポリマーラテックスなどが挙げられる。この中で最も適しているのは、屈折率が低くかつ十分な強度を有するシリカ微粒子である。
【0069】
上記微粒子の形状は限定されず、球状、板状、針状、複数のこれらの形状のものがつながって鎖状又は枝分かれした鎖状になったもの、複数のこれらの形状のものが凝集してブドウの房状になったものなどを用いることができる。なお「鎖状」とは、一般に「(短)繊維状」、「パールネックレス状」と呼ばれるものも含む。これら粒子の形状は、例えば透過電子顕微鏡で観察することによって確認できる。
【0070】
これらの中でも、球状でないもの、すなわち、板状、針状、鎖状、枝分かれした鎖状、ブドウの房状のものを用いると、隣接する粒子間により多くの空隙が生じ、屈折率の低い低屈折率層を得ることができるので好ましい。
【0071】
球状、針状又は板状の微粒子を用いる場合、反射防止膜の強度、ヘーズの発生、透視像の解像度などを考慮して、平均粒子径は10nm〜200nmの範囲であることが好ましい。平均粒子径とは、窒素吸着法(BET法)により測定された比表面積(m2/g)から、平均粒子径=(2720/比表面積)の式によって与えられた値である。
【0072】
鎖状及び/又は枝分かれした鎖状の微粒子を用いる場合に用いることができるものは、反射防止膜の強度や表面粗さ(Ra)、ヘーズの発生、透視像の解像度、視認性などを考慮して、5〜30nm、より好ましくは10〜30nmの平均粒子径を有する微粒子が複数連なり、30〜200nmの平均長さを有するまで連続したものである。平均粒子径とは、前記と同様に求められた値である。平均長さとは動的光散乱法による測定値であり、一般的に動的光散乱法による粒子径と呼ばれる値と同等のものである。
【0073】
これらの微粒子の中でも鎖状及び/又は枝分かれした鎖状のものを用いると、隣接する粒子間にさらに多くの空隙が生じ、屈折率が1.40未満、条件によっては1.30未満ときわめて低い低屈折率層を得ることができるほか、微粒子1個当たりの、他の微粒子と接触し結着する点の数が多くなるため、低屈折率層の強度が高くなるので好ましい。それらの中でも、特に二次元又は三次元的に湾曲した形状を有するものが最も好ましい。このような微粒子の例としては、例えばシリカ微粒子の場合には日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)−OUP」、「スノーテックス(登録商標)−UP」、「スノーテックス(登録商標)−PS−S」、「スノーテックス(登録商標)−PS−SO」、「スノーテックス(登録商標)−PS−M」、「スノーテックス(登録商標)−PS−MO」、日本国触媒化成工業株式会社製の「ファインカタロイドF−120」などが挙げられる。これらの鎖状のシリカ微粒子は緻密なシリカ主骨格からなり、鎖状かつ三次元的に湾曲した形状を有する。
【0074】
上記のような空隙を有する反射防止膜の表面に塗布する場合、表面保護層の厚さは、表面保護層の反射防止性能などを考慮して、5〜50nmの範囲が好ましく、10〜30nmの範囲がより好ましい。
【0075】
以上の方法によって、屈折率が1.40未満ときわめて低い低屈折率層であっても、その屈折率を1.40未満に保ったまま表面を保護し、高い機械的強度と防汚性を付与することができる。また、本発明の表面保護層用塗布組成物によれば、含フッ素ポリマーと無機微粒子とが共有結合しているので、成膜した際に、下地層がシリカ微粒子などの微粒子で構成されていても、含フッ素ポリマーが微粒子間に浸透せず、表面保護層の表層に含フッ素ポリマーを残存させることができる。これにより下地層の特性、例えば、下地層が低屈折率層であれば、屈折率を低く維持することができる。さらに、本発明に係る表面保護層は、緻密であるため、表面の欠陥が少なく、油脂や指脂成分の浸透が抑制される。
【0076】
本発明の表面保護層とそれを備えた反射防止膜は、上述のようなディスプレイなどの表示材料にのみならず、メガネレンズ、ゴーグル、コンタクトレンズなどの視力矯正用部材、車の窓やインパネメーター、ナビゲーションシステムなどの自動車部品、窓ガラスなどの住宅・建築部材、ビニルハウスの光透過性フィルムやシートなどの農芸製品、太陽電池、光電池などの電池部材、タッチパネル、光ファイバー、光ディスクなどの電子情報機器部品、照明グローブ、蛍光灯、鏡、時計などの家庭用品、ショーケース、額、半導体リソグラフィー、コピー機器などの業務用部材、パチンコ台ガラスやゲーム機など、表面保護、防汚性、視認性の向上が求められる様々な分野における部材として応用することが可能である。
【0077】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(1)反射率、屈折率の測定
FE−3000型反射分光計(大塚電子社製)を用いて、波長250〜800nmの範囲での反射スペクトルを測定し、該波長範囲における反射率の最小値を最低反射率と定めた。また該装置付属のソフトウェア「FE−Analysis」を用いて低屈折率層の屈折率を計算した。
【0078】
(2)耐擦傷性試験
表面特性試験機(井元製作所社製)を用いた。直径15mmのステンレス柱の片端にスチールウール(ボンスター(登録商標)#0000、日本スチールウール社製)を取り付け、200gの荷重をかけながら反射防止膜上を10回往復させた後、摩擦痕を目視で観察した。傷がほとんどみられなければ○、傷が多数みられれば△、反射防止膜がほとんど消失していれば×とした。
【0079】
(3)鉛筆硬度
JISのK5400記載に基づき、2Hの硬度の鉛筆を用い、1kg荷重下で行った。
【0080】
(4)防汚性
表面保護層上に黒色油性ペンで印を付け、すぐに紙ワイパーで拭き取りを行った。インクを完全に拭き取ることができれば○、拭き取れなければ×とした。
【0081】
(合成例1)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名DPE−6A、共栄社化学社製)10g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名Irgacure184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.5g、エタノール10g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名サイラエースS710、チッソ社製)1.0gを混合し、ハードコート層用塗布組成物を得た。
【0082】
(合成例2)
数珠状シリカ微粒子の15重量%水分散液(商品名スノーテックス(登録商標)OUP、日産化学社製)10g、エタノール20g、テトラエトキシシラン0.52g、1N硝酸0.075gを混合し、室温にて終夜攪拌した。反応液をさらにイソプロピルアルコールで3.3倍に希釈することによって低屈折率層用塗布組成物を得た。
【0083】
(合成例3)
フルオロアルキルアクリレートの混合物(商品名Cheminox FAAC−N、NOK社製)12g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名サイラエースS710、チッソ社製)8g、メチルエチルケトン30gをフラスコに入れ、アゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加し80℃にて4時間攪拌し重合した。反応液をメタノールに投入し、沈殿を濾過し、真空乾燥することによって含フッ素コポリマーを得た。この含フッ素コポリマーをメチルエチルケトンに溶解させ3重量%溶液とし、含フッ素コポリマー溶液Aを得た。
【0084】
(合成例4)
フルオロアルキルアクリレートの混合物の量を10gに、かつ3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの量を10gに変更した以外は合成例3と同じ操作を行い、含フッ素コポリマー溶液Bを得た。
【0085】
(合成例5)
フルオロアルキルアクリレートの混合物を単一化合物である2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート(商品名Cheminox FAAC−8、NOK社製)に変更した以外は合成例4と同じ操作を行い、含フッ素コポリマー溶液Cを得た。
【0086】
(合成例6)
球状シリカ微粒子の20重量%水分散液(商品名スノーテックス(登録商標)OS、日産化学社製)2.5g、イソプロピルアルコール7.5g、テトラエトキシシラン0.087g、1N硝酸0.025gを混合し、室温にて終夜攪拌することによってシリカ微粒子分散液Dを調製した。
【0087】
(合成例7)
テトラエトキシシラン0.087gをメチルトリエトキシシラン0.074gに変更した以外は合成例6と同じ操作を行い、シリカ微粒子分散液Eを調製した。
【0088】
(実施例1)
上記含フッ素コポリマー溶液A0.33g、プロピレングリコールモノメチルエーテル0.67g、上記シリカ微粒子分散液D0.10g、1N硝酸0.0003gを混合し、室温にて終夜攪拌して反応させた。さらにプロピレングリコールモノメチルエーテルで3倍希釈し、光酸発生剤(トリフルオロメタンスルホン酸トリフェニルスルホニウム)0.002gを添加し、表面保護層用塗布組成物を得た。
【0089】
片面に易接着処理がなされた厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名コスモシャインA4100、東洋紡績社製)上に、上記ハードコート層用塗布組成物をバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#7ロッドを装着)を用いて塗布し、120℃にて10秒間乾燥し、続いて紫外線硬化装置(UVC−2519型、高圧水銀灯を装着、ウシオ電機社製)を用いて出力160W、コンベア速度2m/分、光源距離100mmにて紫外線照射することによってハードコート層を形成した。
【0090】
該ハードコート層上に、上記低屈折率層用塗布組成物をバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#4ロッドを装着)を用いて塗布し、120℃にて2分間加熱硬化することによって、低屈折率層を形成した。
【0091】
該低屈折率層上に、上記表面保護層用塗布組成物をバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#4ロッドを装着)を用いて塗布し、120℃にて10秒間乾燥し、続いて紫外線硬化装置(UVC−2519型、高圧水銀灯を装着、ウシオ電機社製)を用いて出力120W、コンベア速度2m/分、光源距離100mmにて紫外線照射し、さらに120℃にて2分間加熱硬化することによって、表面保護層を形成した。
【0092】
(実施例2)
シリカ微粒子分散液Dの量を0.05gに変更した以外は実施例1と全く同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。
【0093】
(実施例3)
シリカ微粒子分散液Dをシリカ微粒子分散液E0.10gに変更した以外は実施例1と全く同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。
【0094】
(実施例4)
シリカ微粒子分散液Dの量を0.05gに変更し、かつ1N硝酸の量を0.0010gに変更した以外は実施例1と全く同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。
【0095】
(実施例5)
含フッ素コポリマー溶液Aを含フッ素コポリマー溶液Bに変更した以外は実施例1と全く同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。
【0096】
(実施例6)
含フッ素コポリマー溶液Aを含フッ素コポリマー溶液Cに変更した以外は実施例1と全く同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。
【0097】
実施例1〜6についての成分を下記表1に示す。また、実施例1〜6の表面保護層の評価結果を表2に示す。表2から分かるように、本発明に係る表面保護層においては、低屈折率層の屈折率が非常に低く保たれ、ゆえに反射防止性能に優れており、しかも耐擦傷性、鉛筆硬度、防汚性にも優れていた。
【0098】
(比較例1)
低屈折率層上に表面保護層を積層しなかったこと以外は実施例1と同じ操作を行って表面保護層を形成した。この比較例1の表面保護層について同様に評価を行った。その結果を表2に併記する。表2から分かるように、低屈折率層の屈折率が非常に低く保たれ、鉛筆硬度も良かったが、耐擦傷性と防汚性がともに低かった。
【0099】
(比較例2)
シリカ微粒子分散液を添加しない以外は実施例1と同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。比較例2についての成分を下記表1に併記する。この比較例1の表面保護層について同様に評価を行った。その結果を表2に併記する。表2から分かるように、低屈折率層の屈折率は著しく上昇しており、ゆえに反射防止性能に劣るものであった。
【0100】
(比較例3)
1N硝酸を添加せず、かつ室温での終夜攪拌を行わず、かつ光酸発生剤を添加しないこと以外は実施例1と同じ操作を行って低屈折率層上に表面保護層を形成した。比較例3についての成分を下記表1に併記する。この比較例3の表面保護層について同様に評価を行った。その結果を表2に併記する。表2から分かるように、低屈折率層の屈折率は上昇しており、ゆえに反射防止性能に劣るものであった。かつ鉛筆硬度及び防汚性に劣っていた。
【0101】
【表1】

【表2】

【0102】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における材料、数値などは例示であり、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】(a),(b)は、本発明に係る表面保護層用塗布組成物を用いて表面保護層を成膜する場合を説明するための図である。
【図2】(a),(b)は、従来の表面保護層用塗布組成物を用いて表面保護層を成膜する場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0104】
11 低屈折率層
11a シリカ微粒子
12 表面保護層用塗布組成物
121 無機微粒子
122 含フッ素ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが共有結合を介して結合している材料で構成されたことを特徴とする表面保護層。
【請求項2】
前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが3次元架橋していることを特徴とする請求項1記載の表面保護層。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマーが、含フッ素ビニルモノマーによる繰り返し単位及び同一分子内にビニル基と加水分解可能なシリル基を共に含むケイ素化合物による繰り返し単位を少なくとも含む共重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の表面保護層。
【請求項4】
前記含フッ素ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることを特徴とする請求項3記載の表面保護層。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する少なくとも2種類以上の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルを含有することを特徴とする請求項4記載の表面保護層。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の表面保護層。
【請求項7】
前記無機微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の表面保護層。
【請求項8】
アルコキシシランの加水分解・脱水縮合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の表面保護層。
【請求項9】
厚さが5〜50nmであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の表面保護層。
【請求項10】
含フッ素ポリマーと無機微粒子とを含有し、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子とが共有結合を介して結合してなることを特徴とする表面保護層用塗布組成物。
【請求項11】
前記含フッ素ポリマーが、含フッ素ビニルモノマーによる繰り返し単位及び同一分子内にビニル基と加水分解可能なシリル基を共に含むケイ素化合物による繰り返し単位を少なくとも含む共重合体であることを特徴とする請求項10記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項12】
前記含フッ素ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることを特徴とする請求項11に記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項13】
前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する少なくとも2種類以上の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルを含有することを特徴とする請求項12に記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項14】
前記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルが、アクリル酸のフルオロアルキルエステルであることを特徴とする請求項12又は請求項13記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項15】
前記無機微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項10から請求項14のいずれかに記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項16】
アルコキシシランの部分加水分解及び/又は部分脱水縮合物をさらに含むことを特徴とする請求項10から請求項15のいずれかに記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項17】
加熱又は光照射により酸又はアルカリを発生しうる物質をさらに含むことを特徴とする請求項10から請求項16のいずれかに記載の表面保護層用塗布組成物。
【請求項18】
請求項10から請求項17のいずれかに記載の表面保護層用塗布組成物を基体上に塗布し、前記表面保護層用塗布組成物を硬化せしめてなることを特徴とする表面保護層。
【請求項19】
3〜50体積%の空隙を有する低屈折率層の上に請求項1から請求項9、請求項18のいずれかに記載の表面保護層が積層されていることを特徴とする反射防止膜。
【請求項20】
前記低屈折率層がシリカ微粒子を含むことを特徴とする請求項19記載の反射防止膜。
【請求項21】
前記低屈折率層が数珠状のシリカ微粒子を含むことを特徴とする請求項19に記載の反射防止膜。
【請求項22】
前記低屈折率層の屈折率が1.40未満であることを特徴とする請求項19から請求項21のいずれかに記載の反射防止膜。
【請求項23】
透明な光学基板上に、請求項1から請求項9、請求項18のいずれかに記載の表面保護層が最外層である層を形成してなることを特徴とする光学部材。
【請求項24】
透明な光学基板上に、請求項19から請求項22のいずれかに記載の反射防止膜を含む単層又は複数層の層を形成してなることを特徴とする光学部材。
【請求項25】
前記光学基板が透明樹脂基板であることを特徴とする請求項23又は請求項24記載の光学部材。
【請求項26】
含フッ素ポリマー、無機微粒子及び溶媒を混合する工程と、前記含フッ素ポリマーと前記無機微粒子との間で共有結合を形成せしめる工程と、を含むことを特徴とする表面保護層用塗布組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−8088(P2007−8088A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193943(P2005−193943)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】