説明

表面処理亜鉛系めっき鋼板

【課題】薄膜での耐食性と耐指紋性を両立するだけでなく、従来の複層処理では得られなかった導電性と密着性とを有する亜鉛系めっき鋼板の提供。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板12上に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量が2〜50mg/mであり、自己析出および/または電解析出した表面処理層14と、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を前記表面処理層上に塗布して形成されるケイ素含有層16とをこの順で備える表面処理亜鉛系めっき鋼板10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディー、自動車部品、建材、家電用部品等の成形加工品、鋳造品、シートコイル等に用いられる表面処理鋼板であって、これまでに得られていない性能バランスを有し、耐食性と耐指紋性を両立するだけでなく、従来の表面処理では得られなかった導電性と密着性とを備える亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板はもちろんのこと、ほとんどすべての金属材料は、大気環境中に放置されると、大気から物理吸着した水分の存在のもと、SO、NO、飛来海塩粒子等の腐食促進付着物質の作用により、その表面に腐食を生じる。この腐食を防止するために、従来から亜鉛系めっき鋼板等の金属材料の防食法として、クロム酸クロメート等のクロムを含有する処理液に金属材料表面を接触させてクロメート皮膜を析出させる、または処理液を金属材料上に塗布後、乾燥させて金属材料表面にクロメート皮膜を形成させる方法がある。
【0003】
金属材料の表面を処理液と接触させてクロメート皮膜を析出させる代表的なものとしては、クロム酸クロメート化成処理とりん酸クロメート化成処理とがある。前者のクロム酸クロメート化成処理は1950年頃に実用化され、現在も亜鉛系めっき鋼板等に幅広く使用されている。このクロム酸クロメート化成処理に用いられる処理液は、クロム酸(CrO)とフッ化水素酸(HF)とを主成分として含み、さらに促進剤が添加されており、六価クロムを含有する析出皮膜を形成し得る。
【0004】
また、後者のりん酸クロメート化成処理は1945年に提案された特許文献1に記載の方法によるものであり、この化成処理液はクロム酸(CrO)、りん酸(HPO)、およびフッ化水素酸(HF)を含み、形成される析出皮膜は水和したりん酸クロム(CrPO・4HO)を主成分として含むものである。
【0005】
このように多くの場合、これらのクロメートタイプ表面処理液は、有害な六価クロムを含有している。環境面、安全面から問題のある六価クロムはもちろんのこと、三価クロムでさえその使用を規制されていく時代の流れにあって、上述のような六価クロムを含む処理液を用いる表面処理法から、クロムを全く含有しないノンクロメートタイプの表面処理法への転換が望まれている。
【0006】
ノンクロメートタイプの表面処理法には析出型および塗布型があるが、析出型は、アルミニウム含有金属材料の表面処理法として既に実績がある。アルミニウム含有金属材料に対し、比較的早期からノンクロメートタイプの処理液が適用されてきた理由は、アルミニウム缶等食品と接する材質としてこの金属材料が多く使われてきたことによる。
【0007】
アルミニウム含有金属材料に対するノンクロメートタイプの化成析出型表面処理液の代表的なものとしては、特許文献2に記載の処理液が挙げられる。この処理液はジルコニウムもしくはチタン、またはこれらの混合物、ホスフェートおよびフッ化物を含有し、かつ、pHが約1.0〜4.0の酸性の水系表面処理液である。この化成処理液を用いて処理を行うと、アルミニウム含有金属材料表面上に、ジルコニウムまたはチタンのりん化合物を主成分とする析出皮膜が形成される。
【0008】
このようなアルミニウム含有金属材料用の化成析出型表面処理液に比べ、亜鉛系めっき鋼板用のノンクロメートタイプの化成析出型表面処理液に関する既存技術はほとんどない。また、亜鉛系めっき鋼板のシートコイルメーカーでは現在、析出型の表面処理よりも塗布型表面処理が主流となりつつある。しかし、シートコイルメーカーのラインによっては、塗布型表面処理の導入が、設備コストや立地上の都合により不可能な場合もあり、析出型の設備によって既存のクロメート処理をノンクロメートタイプの処理に置き換えたいという要望は強い。
【0009】
ノンクロメートタイプの処理液としては、例えば、特許文献3には、アルミニウム、鉄またはマグネシウムの合金類を被覆するための水性組成物であって、チタン、ジルコニウム、マグネシウムおよびカルシウムと、溶解されたフッ素イオンとを含み、pHが2.0〜5.0であり、エッチングをほとんどまたは全く生じないように皮膜を形成する水性組成物が記載されている。しかし、この水性組成物を亜鉛系めっき鋼板に適用することは記載されていない。
【0010】
特許文献4〜13には、ジルコニウム、チタン、ハフニウムなどの金属、フッ素、促進剤などを含有し、その濃度やモル比率などを調整することにより、クロムを含まず、高い耐食性を発揮し、かつ、安定性に優れた化成処理剤、化成処理方法および化成処理材料に関する技術が開示されている。しかしながら、これらの処理においては皮膜析出にかかる時間が長く、シートコイルなどには適用できない。
【0011】
また、特許文献14および15には、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに、水溶性樹脂からなる化成処理剤であって、環境への負荷が少なく、かつ、鉄、亜鉛、アルミニウム等のすべての金属に対して良好な化成処理を行うことができる化成処理剤、およびそれを用いて得られる表面処理金属に関する技術が開示されている。しかしながら、この技術においても処理時間の短縮はできておらず、シートコイルには適用できない。
【0012】
また、特許文献16には、化成処理金属板であって、Zr、Ti、HfおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物を少なくとも1種含み、自己析出または電解析出した表面化成処理層を金属板の表面に有する化成処理金属板に関する技術が開示されている。この技術は、短時間で耐食性を有するという点ではシートコイルに適用でき、極めて産業的価値が高い。しかしながら、その化成皮膜の性能については、特に加工部耐食性において更なる改善が必要であった。
【0013】
一方、塗布型皮膜剤に関しては、金属材料表面への密着性に優れ、金属材料表面に耐食性や耐指紋性などを付与する技術として、金属材料表面に、クロム酸、重クロム酸またはそれらの塩を主成分として含有する処理液により塗布型クロメート処理を施す方法、りん酸塩処理を施す方法、シランカップリング剤単体による処理を施す方法、有機樹脂皮膜処理を施す方法、などが知られており、実用に供されている。
【0014】
主としてシランカップリング剤を使用する技術として特許文献17では、一時的な防食効果を得るため、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理方法が開示されている。架橋剤が有機官能シランを架橋することによって、稠密なシロキサン・フィルムが得られることが開示されている。
【0015】
また、特許文献18には、アルコキシシランを2個以上有する化合物と、有機酸、りん酸および錯弗化物から選ばれる化合物とを含有する表面処理剤を用いて、金属の表面上に耐食性と塗装密着性とに優れた皮膜を形成する方法が開示されている。
【0016】
しかしながら、特許文献17〜18に記載のこれらの技術は、得られる皮膜の導電性や耐指紋性などの性能が著しく欠如していること、製品の高品質化(耐食性、塗装密着性)に対しての対応が困難であることなどの問題がある。また、耐食性と塗装密着性とに優れた皮膜を形成することが可能であったとしても、溶剤系であることで環境面および安全面に問題を残すこと、水系で安定的に供給することが困難であることなどの問題を抱えており、実用化に関しては依然として大きな問題を抱えている。
【0017】
一方、有機樹脂皮膜を用いる技術として、特許文献19には、水性分散樹脂を固形分濃度で5〜30質量%、シリカ粒子を0.1〜20質量%、および有機チタネート化合物を0.01〜20質量%配合したことを特徴とする鋼材用水性被覆剤が開示されている。この被覆剤は、亜鉛系被覆鋼または無被覆鋼等の鋼材を被覆するに好適な1液タイプの鋼材用水性被覆剤であり、得られた鋼材は耐食性、耐溶剤性、耐アルカリ性、塗装密着性、皮膜密着性、浴安定性に優れる。
【0018】
また、特許文献20には、特定の樹脂化合物と、第1〜3級アミノ基および第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤と、特定の酸化合物とを含有し、かつ、カチオン性ウレタン樹脂およびシランカップリング剤の含有量が所定の範囲内である表面処理剤が開示されている。さらに、この処理剤を用いて得られる、耐食性、耐指紋性、耐黒変性および塗装密着性に優れたノンクロム系表面処理鋼板およびその製造方法が開示されている。
【0019】
しかしながら、特許文献19および20に開示されるこれらの技術は、有機樹脂で金属材料表面を被覆することで耐食性や耐指紋性を発現するため、導電性やスポット溶接性などの性能に劣るという問題がある。また主成分が有機高分子であるため、高温における熱分解、着色、粘性の増加などが生じるため耐熱用途には使用できないのが現状である。
【0020】
また、特許文献9、14、21には、特定の金属元素を含有する表面処理剤により下地皮膜を析出させ、その上層として水溶性高分子もしくは水分散性高分子、または樹脂を接触させ、皮膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は皮膜析出にかかる時間が長く、シートコイルには適用できないばかりか、上層として形成させた高分子皮膜による性能向上が認められない。
【0021】
上述のように、いずれの方法でもクロメート皮膜を代替した表面処理鋼板は得られておらず、耐食性、塗装密着性、導電性、耐指紋性などの諸特性を総合的に満足し、かつ短い処理時間で製造可能な表面処理亜鉛系めっき鋼板の開発が強く要求されている。
【0022】
【特許文献1】米国特許第2,438,877号明細書
【特許文献2】特開昭52−131937号公報
【特許文献3】特表平9−503823号公報
【特許文献4】特開2004−043913号公報
【特許文献5】特開2004−218070号公報
【特許文献6】特開2004−218072号公報
【特許文献7】特開2004−218073号公報
【特許文献8】特開2004−218074号公報
【特許文献9】特開2005−008982号公報
【特許文献10】特開2006−124751号公報
【特許文献11】特開2006−161115号公報
【特許文献12】特開2007−262577号公報
【特許文献13】特開2007−314888号公報
【特許文献14】特開2004−218075号公報
【特許文献15】特開2004−292874号公報
【特許文献16】国際公開第2007/61011号パンフレット
【特許文献17】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献18】特開2001−49453号公報
【特許文献19】特開2003−155451号公報
【特許文献20】特開2003−105562号公報
【特許文献21】特開2005−264230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、従来技術の有する上記課題を解決し、短時間で製造可能であり、かつ、耐食性と耐指紋性とを両立するだけでなく、従来の表面処理では得られなかった導電性と密着性とを有する、諸特性の性能バランスに優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、自己析出および/または電解析出により、特定の金属元素が所定量析出して形成される表面処理層を有する亜鉛系めっき鋼板に、特定の構造および分子量を有する有機ケイ素化合物を含む水系金属表面処理剤を塗布してケイ素含有層を形成させ、表面処理層中の金属元素と有機ケイ素化合物とが特定の質量比を満たすことで、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1) 亜鉛系めっき鋼板上に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量が2〜50mg/mであり、自己析出および/または電解析出により形成される表面処理層と、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を前記表面処理層上に塗布して形成されるケイ素含有層とをこの順で備える表面処理亜鉛系めっき鋼板であって、
前記有機ケイ素化合物(Y)が、1分子内に、式−SiR(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)とを含有し、前記官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000である化合物であり、
前記表面処理層の前記金属元素(X)の元素付着合計量と、前記ケイ素含有層の前記有機ケイ素化合物(Y)に由来するSi付着量との質量比〔Y/X〕が0.1〜100.0であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(2) 前記有機ケイ素化合物(Y)が、少なくとも1種の反応性官能基と式−SiR(式中、R、RおよびRは前記と同義である)で表される官能基(a)とを有する、少なくとも1種の有機シラン化合物(A)と、前記反応性官能基と反応可能な官能基を有する少なくとも1種の化合物(B)とを反応させて、得られる化合物である、(1)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(3) 前記有機シラン化合物(A)の前記反応性官能基、および前記化合物(B)の前記官能基が、それぞれ独立に、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、カルボキシル基、メチロール基、活性メチレン基、イミド基、アミド基、カルボニル基およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、(2)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(4) 前記有機シラン化合物(A)が、一般式(I)で表される化合物である、(2)または(3)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【化1】


(一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、およびイソシアネート基からなる群から選択されるいずれかの官能基を表す。Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。Yは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、水素原子、または水酸基を表す。)
(5) 前記水系金属表面処理剤が、2価以上の金属イオンを含有する金属化合物(C)、および/または、フッ化水素酸、有機酸およびりん酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸(D)を含有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(6) 前記金属化合物(C)に含有される金属イオンが、Ti、Zr、Hf、V、Mg、Mn、Zn、W、Mo、Al、Ni、Co、CeおよびCaイオンからなる群から選択される少なくとも1種である、(5)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(7) Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)を含有する処理液を用いて、自己析出および/または電解析出により、亜鉛系めっき鋼板の表面上に表面処理層を形成する表面処理層形成工程と、
前記表面処理層形成工程後、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を前記表面処理層上に塗布して、ケイ素含有層を形成するケイ素含有層形成工程と、を備える表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
前記有機ケイ素化合物(Y)が、1分子内に、式−SiR(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)とを含有し、前記官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000である化合物である、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、短時間で製造可能であり、かつ、耐食性と耐指紋性とを両立するだけでなく、従来の表面処理では得られなかった導電性と密着性とを有する、諸特性の性能バランスに優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板、およびその製造方法について記載する。まず、表面処理亜鉛系めっき鋼板について、図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
<表面処理亜鉛系めっき鋼板>
図1は、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す表面処理亜鉛系めっき鋼板10は、亜鉛系めっき鋼板12、表面処理層14、ケイ素含有層16をこの順で積層した積層構造を有する。表面処理層14は、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量が2〜50mg/mであり、自己析出および/または電解析出により形成された層である。また、ケイ素含有層16は、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を表面処理層上に塗布して形成される層である。
図1において、亜鉛系めっき鋼板12、表面処理層14、ケイ素含有層16の層厚は該図によっては限定されない。また、図1では、亜鉛系めっき鋼板12の一方の表面上にのみ、表面処理層14とケイ素含有層16とが積層されているが、図2に示すように亜鉛系めっき鋼板12の両面に表面処理層14およびケイ素含有層16を有していてもよい。
まず、表面処理亜鉛系めっき鋼板10を構成する、亜鉛系めっき鋼板12および各層について説明する。
【0029】
<亜鉛系めっき鋼板>
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板に用いられる亜鉛系めっき鋼板12は、後述する表面処理層14、ケイ素含有層16の各層を積層し、かつ支持するためのものである。
亜鉛系めっき鋼板12の種類としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板などの亜鉛系めっき鋼板などが挙げられる。
さらに、これらのめっき層に少量の異種金属元素または不純物として、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素などを含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが挙げられる。また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気亜鉛めっき法、溶融亜鉛めっき法などが挙げられる。
また、亜鉛系めっき鋼板12の大きさや厚さも特に制限されない。
【0030】
<表面処理層>
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板10における表面処理層14は、上述した亜鉛系めっき鋼板12の上に積層され、主に、耐食性を付与する。また、表面処理層14は一度形成されると酸やアルカリに侵されず、曲げ加工に追従し、優れた被覆性を付与するものである。
表面処理層14は、より詳細には、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量が2〜50mg/mであり、自己析出および/または電解析出した層である。
【0031】
表面処理層14中における、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量は、2〜50mg/mであり、5〜30mg/mが好ましく、7〜25mg/mがより好ましい。金属元素(X)の合計付着量が2mg/m未満であると、耐食性が発現しないため好ましくない。また、合計付着量が50mg/mを超えると、鋼板などのとの密着性が得られなくなるため好ましくない。
なお、金属元素(X)の付着量は、蛍光X線分析装置(XRF)によって測定することができる。
【0032】
表面処理層14の構成成分は、主に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の酸化物、フッ化物、および/または水酸化物であり、必要に応じて、添加剤(例えば、V、Mn、WまたはMoの酸化物および/または水酸化物や、Ni、Co、またはCuなどの金属元素)などが含有されていてもよい。なかでも、得られる層の欠陥がより少ない点で、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)とフッ素元素とを主構成元素とすることが好ましい。
なお、表面処理層14は自己析出および/または電解析出により形成される層であり、その製造方法については後述する。
【0033】
<ケイ素含有層>
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板10におけるケイ素含有層16は、上述した表面処理層14の上に積層され、主に、耐指紋性やバリア性を付与するものである。
ケイ素含有層16は、後述する有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を表面処理層上に塗布して形成される層であり、主として有機ケイ素化合物(Y)により構成されている。
【0034】
ケイ素含有層14中における、有機ケイ素化合物(Y)に由来するSi(ケイ素原子)の単位面積当りの元素付着量(以後、単にSi付着量とも称する)は、後述する金属元素(X)との質量関係を満足すれば特に制限されないが、10〜200mg/mが好ましく、30〜150mg/mがより好ましい。上記範囲内であれば、耐食性、導電性、密着性など各種特性がより向上する。
なお、Si付着量は、蛍光X線分析装置(XRF)によって測定することができる。
【0035】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板10においては、表面処理層14中の、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の元素付着合計量(以後、Xとも称する)と、ケイ素含有層16中の有機ケイ素化合物(Y)に由来するSi付着量(以後、Yとも称する)との質量比〔Y/X〕が、0.1〜100.0であり、1〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。上記質量比〔Y/X〕範囲を満たさないと、得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板の耐食性と密着性との良好なバランスが得られず、好ましくない。より具体的には、質量比〔Y/X〕が大きい場合、特にYが大きい場合は処理の際にカスなどの廃棄物が出やすく、また、Xが小さい場合は耐指紋性が悪化する。質量比〔Y/X〕が小さい場合、特にYが小さい場合は耐食性が悪化し、Xが大きい場合は密着性が悪くなり、かつ耐食性も悪化する。
【0036】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板10の皮膜(表面処理層14、ケイ素含有層16)には、さらに、被塗面に均一な皮膜を形成させるための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や、増粘剤、導電性向上剤、意匠性向上のための着色顔料、造膜性向上のための造膜助剤なども含有させることできる。また、潤滑性付与剤として、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスなどの有機潤滑剤や、黒鉛、雲母、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤なども配合できる。
【0037】
また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板10の皮膜(表面処理層14、ケイ素含有層16)には、さらなる耐食性向上のため、有機インヒビターと呼ばれる1分子中にC=O基、C=C基、C≡C基、C=N基、C≡N基およびN=N基からなる群から選ばれる少なくとも1種の不飽和基、N−N基およびS元素を有する官能基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物を配合できる。
これらの官能基を有する化合物としては、特に限定されないが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などのC=O基含有化合物、ベンゼンおよびその誘導体、ナフタレンおよびその誘導体、アクリル酸およびメタクリル酸およびその誘導体、アルキルカルボン酸エステル、アルキルアルデヒドなどのC=C基含有化合物、アセチレンアルコールやアセチレン誘導体などのC≡C基含有化合物、アジン、トリアジン、オサゾン染料、トリフェニルメタン染料、クニジン、ピリミジン、ピラゾール、イミダゾール、ピリジニウムおよびキノリニウム化合物などのC=N基含有化合物、エチレンシアンヒドリンなどのC≡N含有化合物、ヒドラジン化合物およびその誘導体などのN−N基含有化合物、アゾ染料などのN=N基含有化合物、スルホン酸、スルフォネート、スルフォアミド、チオ尿素および環状チオ尿素などのS元素含有化合物、などが挙げられる。
【0038】
<表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法>
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、特に限定されないが、主に以下の工程を備える製造方法が好ましい。
(1)Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)を含有する処理液を用いて、亜鉛系めっき鋼板の表面上に、自己析出および/または電解析出により表面処理層を形成する表面処理層形成工程
(2)表面処理層形成工程後、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を上記表面処理層上に塗布して、ケイ素含有層を形成するケイ素含有層形成工程
以下に、各工程およびその他の任意の工程について、使用する材料とともに詳細に説明する。
【0039】
<前処理工程>
使用される亜鉛系めっき鋼板は、必要に応じて、後述する表面処理層形成工程前に、その表面を洗浄してもよい。この洗浄により、亜鉛系めっき鋼板の表面に付着した油分、汚れが取り除かれる。洗浄方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、脱脂剤や酸性脱脂剤で洗浄する方法、湯洗や溶剤洗浄が挙げられる。
また、亜鉛系めっき鋼板の表面を洗浄する前および/または後に、酸、アルカリなどによる表面調整を行ってもよい。このような処理を施すことにより、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成される表面処理層と亜鉛系めっき鋼板との密着性が向上する。さらには、表面処理層の時間当たりの形成(析出)効率が向上する。
なお、上述した亜鉛系めっき鋼板の表面の洗浄および/または表面調整を行った後は、洗浄剤などが亜鉛系めっき鋼板の表面に残留しないように、さらに水洗いすることが好ましい。
【0040】
<表面処理層形成工程>
本発明の表面処理層形成工程は、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)を含有する処理液を用いて、亜鉛系めっき鋼板の表面上に、自己析出および/または電解析出により表面処理層を形成する工程である。この工程によって、上述した所定量の金属元素(X)を含有する表面処理層14が形成される。
表面処理層形成工程では、自己析出反応(態様1)および/または電解析出反応(態様2)によって金属元素(X)を含有する表面処理層が形成される。
以下に、それぞれの反応態様について説明する。
【0041】
<自己析出>
自己析出反応においては、電解処理などの外部からの処理を必要とせず、所定の処理液と亜鉛系めっき鋼板とを接触させるだけで、亜鉛系めっき鋼板上に表面処理層が形成される。
使用される処理液としては、少なくとも1種のZr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)と、フッ化水素酸、硝酸、硫酸およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸成分(e)とを含有することが好ましい。金属元素(X)を含む化合物(d)は、表面処理層の主成分として作用する。また、酸成分(e)は、金属元素(X)を含む化合物(d)を溶解させ、金属素材表面をエッチングし、自己析出反応の起点となる、などの効果を発揮する。
なかでも、少なくとも1種のZr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)およびフッ素元素を含む処理液が好ましい。
【0042】
Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)としては、Zr、TiまたはHfを含有していれば特に限定されず、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸、または有機酸の塩であってもよい。なかでも、有機錯化合物、フッ化物錯体、硫酸塩および硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これら酸およびその塩類のアニオン成分は、化成処理後の洗浄工程で容易に除去でき、また仮に僅かに残留しても耐食性に対して悪影響を与えにくいため好ましい。
化合物(d)としては、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、硫酸チタニル、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応物、チタンラウレート、チタンフッ化水素酸、乳酸ハフニウム、硝酸ハフニウム、フッ化ハフニウム、ハフニウムフッ化水素酸などが挙げられ、なかでもジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ハフニウムフッ化水素酸などが好ましい。
【0043】
処理液中における金属元素(X)を含む化合物(d)の含有量は、使用される亜鉛系めっき鋼板などの種類によって適宜最適な量が選択される。なかでも、処理液中での化合物(d)中のZr、TiおよびHf元素の合計含有量(濃度)が、0.01〜10g/Lであることが好ましく、0.05〜5g/Lであることがより好ましく、0.1〜1g/Lであることがさらに好ましい。0.01g/L以上であると、表面処理層の形成速度がより迅速になるので、工業的に利用する上で好ましい。また、10g/L以下であると、処理液中において化合物(d)の溶解安定性をより容易に保つことができるので好ましい。
【0044】
処理液中におけるフッ化水素酸、硝酸、硫酸およびこれらの塩としては、例えば、フッ化水素酸(HF)、ジルコンフッ化水素酸(HZrF)、チタンフッ化水素酸(HTiF)またはハフニウムフッ化水素酸(HHfF)等のフッ化物錯体による酸、さらには硝酸、硫酸またはそれらの塩等が挙げられる。
【0045】
処理液中におけるフッ化水素酸、硝酸、硫酸およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸成分(e)の含有量は、使用される亜鉛系めっき鋼板などの種類によって適宜最適な量が選択される。
なかでも、処理液中における酸成分(e)の含有量(濃度)は、0.005〜20g/Lであることが好ましく、0.02〜10g/Lであることがより好ましい。0.005g/L以上であると、金属板の表面に対する十分なエッチング能を期待できる。20g/L以下であると、エッチング能力が適切となり、均一な表面処理層を析出させることができる。
【0046】
処理液に使用される溶媒としては、特に限定されないが、環境保護の観点から、水が好ましい。なお、処理液中に、有機溶媒(例えば、アルコール、グリコール、グリセリン、アセトン)を含有していてもよい。
【0047】
処理液のpHは特に限定されないが、酸性条件が好ましく、具体的には、pHが2.0〜6.0が好ましく、2.5〜4.5がより好ましい。上記範囲内であれば、金属元素(X)の析出性がより向上する。
【0048】
自己析出(態様1)に使用される処理液は、さらに、Fe、Mn、Ni、Co、Ag、Mg、Al、Zn、CuおよびCeからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物(f)を、少なくとも1種含有することが好ましい。化合物(f)は、自己析出反応を促進する。化合物(f)は、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸、または有機酸の塩であってもよい。なかでも、有機錯化合物、フッ化物錯体、硫酸塩および硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
化合物(f)としては、例えば、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、硝酸マンガン、硫酸マンガン、フッ化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、酢酸セリウム(III)、酢酸セリウム(IV)、硝酸セリウム(III)、硝酸セリウム(IV)、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、フッ化ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、フッ化コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、フッ化銀、酸化銀、水酸化銀、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、フッ化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などが挙げられる。
【0049】
さらに、自己析出(態様1)の処理液の条件としては、処理液中の遊離フッ素イオン濃度が1〜30mg/Lで、化合物(f)中のFe、Mn、Ni、Co、Ag、Mg、Al、Zn、CuおよびCeの元素の合計質量濃度Fと、化合物(d)中のZr、TiおよびHfの金属元素(X)の合計質量濃度Dとの比(F/D)が1〜200で、処理液のpHが2.0以上であり、さらに、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
式(1) pH≦−0.02×(F/D)+6
処理液がこれらの条件をすべて満たすときに、極めて短時間で、諸性能の優れた皮膜を形成できる。
【0050】
ここで、遊離フッ素イオン濃度は、化合物(f)中の元素の添加量(つまり、合計質量濃度F)を調整することで1〜30mg/Lに調整することができる。
また、この自己析出用(態様1)の処理液のpHは、酸成分(e)の含有量およびアルカリ性物質の添加によって調整することができる。このアルカリ性物質は限定されず、処理液の性能を大きく劣化させずにpHを調整することができるものであればよい。このようなアルカリ性物質として、アンモニア、炭酸ナトリウム、有機アミン類(ジエタノールアミン、トリエチルアミン等)、無機水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を好ましく例示することができる。
【0051】
<自己析出:処理条件>
自己析出反応における、上記処理液と亜鉛系めっき鋼板との接触方法としては、特に限定されず、スプレー塗布法、ロール塗布法、浸漬法など公知の方法を使用することができる。なかでも、スプレー塗布法が好ましい。
接触条件(接触時間、処理液温度など)は、使用される処理液の種類により適宜最適な条件が選択される。なかでも、0.5〜20秒間であることが好ましく、1〜10秒間であることがより好ましい。この接触時間が短すぎると、処理液と亜鉛系めっき鋼板の表面が十分に反応せず、耐食性の優れた表面処理層が得られない場合がある。また、この接触時間が長すぎると、得られる表面処理層の性能向上は見られないうえ、ラインにおける操業効率の点からも好ましくない。
【0052】
ここでスプレー塗布法による場合は、0.2〜5秒の間隔をおいて2回以上の間欠スプレーを施すことにより表面処理層の形成効率(析出効率)が高まる傾向がある。この場合、処理液が発泡し問題を生ずる場合には、処理液に消泡剤を添加することが好ましい。この消泡剤の種類には特に限定はなく、後の塗料密着性を損なうようなものでなければ公知のものを用いることができる。
【0053】
なお、処理液と亜鉛系めっき鋼板との接触時間とは、例えば、浸漬法による場合であれば、亜鉛系めっき鋼板が処理液に浸漬している時間を意味する。また、スプレー法による場合であれば、処理液を亜鉛系めっき鋼板の表面にスプレーで吹付けている時間を意味する。
【0054】
処理液の温度は、特に限定されないが、5〜60℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。上記範囲内であれば、適切な反応速度を保持しつつ、エネルギー効率が高まり、コストデメリットが生じ難い。
【0055】
<電解析出>
電解析出反応においては、所定の処理液をカソードとした亜鉛系めっき鋼板と接触させ、アノードとの間で通電することで、亜鉛系めっき鋼板表面上に表面処理層が形成される。
電解析出において使用される処理液としては、少なくとも1種のZr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)と、フッ化水素酸、硝酸、硫酸、りん酸およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つである酸成分(g)とを含有することが好ましい。化合物(d)は、表面処理層の主成分の供給源として作用する。酸成分(g)は、化合物(d)を溶解させる、処理液の導電性を上げる、などの効果を発揮する。
なかでも、少なくとも1種のZr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)およびフッ素元素を含む処理液が好ましい。
【0056】
電解析出で使用される化合物(d)は、上述した自己析出の処理液で使用される化合物と同義である。
処理液中における金属元素(X)を含む化合物(d)の含有量(濃度)は、使用される亜鉛系めっき鋼板などの種類によって適宜最適な量が選択される。好ましい含有量は、上述した自己析出の際に使用される処理液中の金属元素(X)の含有量と同じである。
【0057】
酸成分(g)としては、上述の酸成分(e)で列挙した例示成分や、りん酸などが挙げられる。これらは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
処理液中における酸成分(g)の合計含有量(濃度)は、5〜30g/Lであることが好ましく、10〜25g/Lであることがより好ましい。5g/L以上であると、金属板の表面に対する十分なエッチング能を期待できる。30g/L以下であると、エッチング能力が適切となり、均一な表面処理層を析出させることができる。
【0058】
処理液に使用される溶媒としては、特に限定されないが、環境保護の観点から、水が好ましい。なお、処理液中に、有機溶媒(例えば、アルコール、グリコール、グリセリンやアセトン)を含有していてもよい。
【0059】
処理液のpHは特に限定されないが、酸性条件が好ましく、具体的には、pHが2.0〜6.0が好ましく、2.5〜4.5がより好ましい。上記範囲内であれば、金属元素(X)の析出性がより向上する。
【0060】
電解析出で使用される処理液としては、処理液中の遊離フッ素イオン濃度が1〜30mg/Lで、処理液のpHが2.0以上であることが好ましい。
【0061】
電解析出における処理液の温度は、特に限定されないが、5〜60℃が好ましく、15〜40がより好ましい。上記範囲内であれば、適切な反応速度を保持しつつ、エネルギー効率が高まり、コストデメリットが生じ難い。
【0062】
<電解析出:処理条件>
電解析出の方法としては、特に限定されず、公知の電解法を適用することができる。
電解条件においては、対極(陽極)としてステンレスかPb系合金を用い、温度を常温〜40℃、電流密度を0.5〜30A/dm(より好ましくは、1〜10A/dm)とすることが好ましい。
電解時間は、目的とする化合物(d)に含まれる金属元素(X)の必要量に応じて設定されるが、この電解処理により形成される表面処理層中での金属元素(X)の合計付着量が2〜50mg/mとなるためには、例えば、3A/dmの電流密度で0.5〜3秒間程度処理することが好ましい。
【0063】
上述した自己析出反応および電解析出反応は、一方のみを実施してもよいし、交互に実施してもよい。また、複数回実施してもよい。
【0064】
<洗浄工程>
表面処理層形成工程の後に、必要に応じて、表面処理層を有する亜鉛系めっき鋼板を水洗いし、乾燥する工程(洗浄工程)を実施してもよい。
水洗の方法は特定に限定されないが、例えば公知の浸漬法、スプレー法により行うことができる。水洗温度(水洗水の温度)は特に限定されず通常適用される温度でよいが、5〜60℃であることが好ましく、15〜40℃であることがより好ましい。このような温度であると、洗浄効率がより高まる。
水洗に使用する水洗水は、ドレン水、工業用水、市水、または脱イオン水を好適に用いることができる。
また、洗浄時間も特に限定されないが、例えば、浸漬法またはスプレー法の場合は、0.1〜10秒であることが好ましく、1〜5秒であることがより好ましい。水洗時間が短すぎると、表面処理層の表面に残存する余剰の処理液成分の除去が十分に行われず、耐食性に優れた表面処理層を得られないことがある。また、水洗時間が長すぎても、得られる表面処理層の性能向上は見られないうえ、ラインにおける操業効率の点からも好ましくない。
【0065】
なお、この洗浄時間とは、例えば、浸漬法による場合であれば、亜鉛系めっき鋼板が水洗水に浸漬している時間を意味する。また、スプレー法による場合であれば、水洗水を亜鉛系めっき鋼板の表面にスプレーで吹付けている時間を意味する。
【0066】
このような水洗をした後は、その表面を乾燥させることが好ましい。付着水の除去だけ行う場合は、風乾、またはエアーブロー等の物理的除去でも構わない。形成した表面処理層を金属板の表面に強固に密着させ、また化学的にも安定な状態にするためには、加熱乾燥処理が効果的である。その場合の加熱条件は、表面処理層を形成した金属板の表面の最高到達温度(PMT)が30〜250℃となるように加熱乾燥処理することが好ましく、40〜150℃とするのがより好ましい。
【0067】
<ケイ素含有層形成行程>
本発明のケイ素含有層形成工程は、表面処理層形成工程後、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を上記表面処理層上に塗布して、ケイ素含有層を形成する工程である。
なお、有機ケイ素化合物(Y)は、1分子内に、式−SiR(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)とを含有し、官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000である化合物である。
まず、有機ケイ素化合物(Y)について説明する。
【0068】
<有機ケイ素化合物(Y)>
有機ケイ素化合物(Y)は、1分子内に、式−SiRで表される官能基(a)を2個以上有する。
式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。なかでも、アルコキシ基が好ましい。
アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、炭素数1〜6が好ましく、炭素数1〜4がより好ましく、炭素数1または2が特に好ましい。
【0069】
有機ケイ素化合物(Y)は、1分子内に、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上有する。
親水性官能基(b)としては、アミノ基が好ましい。
【0070】
親水性官能基(b)と有機ケイ素化合物(Y)の分子量の関係は、親水性官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000であり、200〜5000が好ましい。有機ケイ素化合物(Y)において、親水性官能基(b)1個当たりの分子量が100未満であると、形成された皮膜の耐水性が著しく低くなる。また、親水性官能基(b)の1個当たりの分子量が10000より大きいと、有機ケイ素化合物(Y)を安定に溶解または分散させることが困難になる。
なお、上記分子量の測定方法としては、GPCを用いて測定することができる。
【0071】
本発明の有機ケイ素化合物(Y)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、(1)2つ以上の、活性水素含有官能基を有する化合物とクロロシランとを反応させる方法、(2)ビニル基を持つシランカップリング剤と共重合可能なビニル化合物とを反応させる方法、(3)特定の反応性官能基を有するシランカップリング剤と、その反応性官能基と反応しえる官能基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤とを反応させる方法、(4)特定の反応性官能基を有するシランカップリング剤と、その反応性官能基と反応し得る官能基を持つ化合物とを反応させる方法、(5)多官能シランカップリング剤に親水基を修飾する方法などが挙げられる。
【0072】
本発明の有機ケイ素化合物(Y)の好ましい実施態様の一つとして、少なくとも1種の反応性官能基と式−SiR(式中、R、RおよびRは上記と同義である)で表される官能基(a)とを有する、少なくとも1種の有機シラン化合物(A)と、反応性官能基と反応可能な官能基を有する少なくとも1種の化合物(B)とを反応させて、得られる化合物(反応生成物)が挙げられる。
なお、有機シラン化合物(A)および化合物(B)は、それぞれ1種のみを使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0073】
有機シラン化合物(A)は、少なくとも1種の反応性官能基を有している。この反応性官能基を介して後述する化合物(B)と反応する。有機シラン化合物(A)は、反応性官能基を2つ以上有していてもよい。
反応性官能基は、他の官能基と反応して結合を形成する基であれば、特に限定されないが、例えば、水酸基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、メルカプト基、イソシアナト基、カルボキシル基、メチロール基、活性メチレン基、イミド基、アミド基、カルボニル基およびビニル基からなる群から選択される官能基が好ましい。なかでも、グリシジル基、1級アミノ基、メチロール基などが好ましい。
【0074】
有機シラン化合物(A)は、式−SiR(式中、R、RおよびRは上記と同義である)で表される官能基(a)を有する。この官能基(a)は、上述した有機ケイ素化合物(Y)の官能基(a)と同義である。有機シラン化合物(A)は、官能基(a)を2つ以上有していてもよい。
【0075】
有機シラン化合物(A)の分子量は、特に制限されないが、取り扱いやすさの点から、150〜500が好ましく、200〜400がより好ましい。
【0076】
有機シラン化合物(A)の好ましい実施態様の一つとして、一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0077】
【化2】

【0078】
一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、およびイソシアネート基からなる群から選択されるいずれかの官能基を表す。Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。Yは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、水素原子、または水酸基を表す。
【0079】
一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、およびイソシアネート基からなる群から選択されるいずれかの官能基を表す。なかでも、エポキシ基、アミノ基が好ましい。
【0080】
一般式(I)中、Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。
Lで表される連結基としては、例えば、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましい)、−O−、−S−、アリーレン基、−CO−、−NH−、−SO2−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。なかでも、アルキレン基が好ましい。単なる結合手の場合、一般式(I)のXがSi(ケイ素原子)と直接連結することをさす。
【0081】
一般式(I)中、Yは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、水素原子、または水酸基を表す。なかでも、アルコキシ基、水酸基が好ましい。なお、Yのうち少なくとも1つがアルコキシ基を表すことが好ましい。
【0082】
有機シラン化合物(A)の具体例としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、および3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどのビニル基含有シランなどが挙げられる。
【0083】
化合物(B)は、上記の有機シラン化合物(A)の反応性官能基と反応可能な基を有していれば、特にその構造は限定されない。また、化合物(B)は式−SiRで表される官能基(a)を有していてもよい。さらに、化合物(B)は、上記の有機シラン化合物(A)で表される化合物であってもよい。つまり、有機ケイ素化合物(Y)は、有機シラン化合物(A)同士が反応して得られるものでもよい。
なお、反応可能な官能基としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、メルカプト基、イソシアナト基、カルボキシル基、メチロール基、活性メチレン基、イミド基、アミド基、カルボニル基およびビニル基からなる群から選択される官能基が好ましい。
化合物(B)の分子量は、特に制限されないが、取り扱いやすさの点から、100〜3000が好ましい。
【0084】
化合物(B)の具体例としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、および3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどのビニル基含有シラン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物、メラミン、ジメチロールプロピオン酸などのメチロール含有化合物、アセトアセトキシアクリリレートなどの活性メチレン含有化合物、N‘Nイソプロピルカルボジイミドなどのイミド化合物、イソホロンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミンなどのアミン化合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物のポリオキシエチレン付加物、エタノールアミンやプロパノールアミンなどのヒドロキシルアミン、グリコールなどの多価アルコール、2−アミノエタンチオールや2−アミノプロパンチオールなどのアミンチオール、酒石酸、L−アスコルビン酸などのヒドロキシカルボン酸、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸などのアミノスルホン酸、α−グリセロホスホン酸などのヒドロキシホスホン酸、ジアミノアルキルスルホン酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸などが挙げられる。
【0085】
有機シラン化合物(A)と化合物(B)との反応比は、特に制限されないが、有機シラン化合物(A):化合物(B)(モル比)で10:1〜1:10が好ましく、5:1〜1:5がより好ましい。
これら有機シラン化合物(A)と化合物(B)との反応条件は、使用される化合物によって適宜最適な条件が選択される。また、反応の際に、溶媒(例えば、アルコールなど)などを使用してもよい。
【0086】
有機シラン化合物(A)と化合物(B)との好適な組み合わせとしては、両者が一般式(1)で表される化合物の場合、3−アミノプロピルトリメトキシシランとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの組み合わせが挙げられる。
【0087】
水系金属表面処理剤中における有機ケイ素化合物(Y)の含有量は、特に制限されないが、取り扱いやすさの点から、処理剤全量に対して、2〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0088】
水系金属表面処理剤に使用される溶媒としては、主成分として水が使用される。なお、処理剤は、有機溶媒(例えば、アルコールなど)を含有していてもよい。
【0089】
水系金属表面処理剤のpHは特に限定されないが、酸性が好ましく、具体的には2.5〜6が好ましく、3.5〜5がより好ましい。上記範囲内であれば、水系金属表面処理剤の安定性がより向上する。
【0090】
<その他添加剤>
水系金属表面処理剤は、さらに、2価以上の金属イオンを含有する金属化合物(C)を含むことが好ましい。金属化合物(C)を含有することにより、水系金属表面処理剤で処理した金属材料の耐食性が向上する。
金属化合物(C)に含有される2価以上の金属イオンは、Ti、Zr、Hf、V、Mg、Mn、Zn、W、Mo、Al、Ni、CoおよびCaイオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
2価以上の金属イオンを含有する金属化合物(C)としては、上記の金属と、フルオロ酸、りん酸、硝酸および硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、DL−リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、フタル酸などの有機酸との塩、または、上記の金属のアルコキシド、アルキルアセトネート、アルカンジオレート、ラクテート、アミネートまたはステアレートなどの錯塩などが挙げられる。例えば、Vイオン(バナジウムイオン)含有化合物としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH))、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH))、三塩化バナジウムVCl、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を用いる場合には、これを水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基およびホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、2価〜4価に還元したものも使用可能である。
これらの金属化合物(C)は、単独でも、2種以上組み合わせて使用してもよい。
水系金属表面処理剤中における金属化合物(C)の含有量は、特に制限されないが、ケイ素含有層の形成速度の点から、処理剤中の固形分全量に対して0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。なお、固形分とは、処理剤中で溶媒(例えば、水)を除いたケイ素含有層を構成する成分をさす。
【0091】
水系金属表面処理剤は、さらに、フッ化水素酸、有機酸およびりん酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(D)を含有することが好ましい。酸(D)を含有することにより、耐食性が向上する。
フッ化水素酸は、エッチング効果の他に、キレート作用を発揮し、表面処理亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させる。有機酸は、酸の中では比較的酸性度の低い酸であるため、金属表面を強力にエッチングすることはないが、表面にある不均一な極薄い酸化膜を取り除くので表面処理亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させる。リン酸は、金属表面上にごくわずかであるがリン酸塩系化成皮膜を形成させ、表面処理亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させる。
水系金属表面処理剤中における酸(D)の含有量は、特に制限されないが、ケイ素含有層の形成速度の点から、処理剤中の固形分全量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。なお、固形分とは、処理剤中で溶媒(例えば、水)を除いたケイ素含有層を構成する成分をさす。
【0092】
<処理条件>
ケイ素含有層は、上述した表面処理層形成工程後、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を表面処理層上に塗布し、必要に応じて乾燥して、形成される。
塗布の方法としては、特に制限されず、スピンコーティング法、ロールコート法、浸漬法、スプレー塗布法、などが挙げられる。
塗膜を形成後、必要に応じて、塗膜を水洗してもよい。
工業的実用的皮膜形成のために、塗布後の塗膜を加熱乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度は、到達板温として30〜300℃が好ましく、40〜250℃がより好ましく、60〜200℃が特に好ましい。乾燥時間に関しては、到達板温が上記条件を満たしていれば特に制限されない。
【0093】
水系金属表面処理剤の使用温度は、特に限定されず、処理剤中に含有される成分によって適宜最適な条件が選択される。
【0094】
<用途>
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、上述のように亜鉛系めっき鋼板上に表面処理層とケイ素含有層とが積層した構造を備える。このような構成の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、優れた耐食性、耐指紋性、導電性、塗膜密着性を示す。このような種々の特性をバランスよく備える亜鉛系めっき鋼板は、従来提供されておらず、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は種々の用途に適用することができる。例えば、家電、建材、自動車用鋼板などが挙げられる。
【0095】
また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板に、プライマーを塗布し乾燥後、トップコート塗料を塗布し乾燥することで、塗装板としても使用することができる。プライマーは、樹脂を含有し、必要に応じて着色顔料や防錆顔料などを含有していてもよい。
樹脂としては、水系、溶剤系、粉体系などのいずれの形態のものでもよい。
着色顔料としては、酸化チタンやカーボンブラックなどの無機顔料や、アゾ系顔料といった有機顔料など公知の着色顔料を用いることができる。
防錆顔料としては、ストロンチウムクロメート、ジンクロメートなどのクロメート系防錆顔料、りん酸亜鉛などのりん酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウムなどのモリブデン酸系防錆顔料、水分散性シリカなどの微粒シリカなども用いることができる。
ただし、クロメート系防錆顔料は環境上有毒であるため使用しないことが望ましい。
また、消泡剤、分散補助剤、または、塗料粘度を下げるための希釈剤などの添加剤を適宜配合してもよい。
また、ここでトップコート塗料としては、特に限定されず、公知の塗装用トップコートを使用することができる。例えば、樹脂を含有し、必要に応じてさらに着色顔料や防錆顔料などを含有することができる。樹脂、着色顔料および防錆顔料、ならびに添加物としては、上記プライマーで使用したものと同様のものを用いることができる。
【0096】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、従来の表面処理法では得られなかった、優れた耐食性、耐指紋性、導電性、塗膜密着性を備える。その理由は以下のように推測される。本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の表面処理層は、主に耐食性を付与する。この表面処理層は、酸やアルカリにも侵されず、曲げ加工にも追従し、優れた被覆性を示すが、極めて薄い皮膜であるため腐食要因の物理的および時間的遮断能、いわゆるバリア性に関しては十分ではない場合がある。バリア性を付与するために、表面処理層を厚く形成させると、表面処理層の表面が疎な皮膜になるだけでなく、層内での凝集破壊などによって剥離などを生じやすくなり、塗膜密着性や導電性が悪化する。そこで、上述したケイ素含有層を表面処理層に積層させることにより、上記のような弊害を防止しつつ、バリア性を付与することができる。
【0097】
ケイ素含有層の特徴としては、まず、ケイ素化合物(Y)の一部が乾燥などにより濃縮されたときに、ケイ素化合物(Y)が互いに反応して連続皮膜を成膜すること、および、有機ケイ素化合物(Y)の一部が加水分解して生成した−OR基が金属表面とSi−O−M結合(M:被塗物表面の金属元素)を形成することにより、著しいバリア効果を発揮され、耐食性が向上すると推定される。また、緻密な皮膜形成が可能なため皮膜の薄膜化が可能となり、導電性も良好になる。さらに、その構造については、ケイ素−有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列している。そのため、無機系皮膜が通常有する導電性と、有機系皮膜が通常有する耐指紋性とを併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。
なお、本発明者らが、検討した結果、本発明のケイ素化合物(Y)を含有する表面処理層の単層構造の表面処理亜鉛系めっき鋼板では、特に、耐指紋性や耐食性が悪化し、上記のような性能バランスは得られなかった。つまり、本発明のように積層構造にすることによって、初めて諸特性の性能バランスに優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【実施例】
【0098】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調整、実施例および比較例について以下に説明する。
【0099】
(1)試験素材
以下の表1に示した市販の素材を用いた。
【0100】
【表1】

【0101】
上記表1中、目付量はそれぞれの鋼板の主面上への目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合は、20/20(g/m)であり、鋼板の両面のそれぞれに20g/mのめっきを有することを意味する。
なお、表1中、「態様1」とは自己析出により表面処理を形成するために使用する鋼板をさし、「態様2」とは電解析出により表面処理を形成するために使用する鋼板をさす。
【0102】
(2)亜鉛系めっき鋼板の洗浄方法
上記の試験素材の表面(両面)を、水酸化ナトリウム系脱脂剤ファインクリーナーL4460(登録商標:日本パーカライジング株式会社製)を用いて処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した。処理条件は、取扱説明書記載の標準濃度、温度40℃の条件で30秒スプレー処理した。処理後、試験素材を純水で30秒間水洗し、乾燥したものを試験板として使用した。
【0103】
(3−1)表面処理層の形成(態様1:自己析出)
脱脂処理を行った表1に示す試験板(態様1)を、以下の表2に示す処理液(溶媒:水)および処理液条件にて処理し、表3に示す表面処理層を有する試験板を得た。なお、処理液の使用温度は50〜60℃とし、スプレー処理にて試験板と接触させた。また、処理時間は2秒〜10秒の間で、以下の表3に示す金属元素(X)付着量が得られるまで処理した。
なお、ESCA測定より、表面処理層は主に金属元素(X)(ジルコニウム元素、チタン元素、またはハフニウム元素)およびフッ素元素より構成されることがわかった。
また、表2中の濃度(D)は、金属元素(X)の質量濃度を表し、濃度(F)は使用される各金属の質量濃度を表す。
【0104】
【表2】

【0105】
表2中のpHは、アンモニアで所定のpHになるように調整した。また、遊離フッ素濃度は、フッ素イオンメーターにて測定した。
また、表2中、「式(1)」とは上述した式(1):pH≦−0.02×(F/D)+6を表し、各処理液のpHが式(1)の関係を満足する場合を「成立可否:○」とする。
【0106】
【表3】

【0107】
表3中、金属元素(X)の付着量は、蛍光X線にて測定を行った。
【0108】
(3−2)表面処理層の形成(態様2:電解析出)
脱脂処理を行った表1に示す試験板(態様1)を、表4に示す処理液(溶媒:水)および処理液条件にて処理し、表5に示す表面処理層を有する試験板を得た。処理液の使用温度は50〜60℃とし、試験板を陰極、SUS304の薄板を陽極として、所定の処理液に浸漬すると同時に、所定量の電流を試験板に通電した。処理時間は2秒〜10秒の間で、表5に示す金属元素(X)付着量が得られるまでとした。
なお、ESCA測定より、Q1〜Q9、およびQ11での表面処理層は主に金属元素(X)(ジルコニウム元素、チタン元素、またはハフニウム元素)およびフッ素元素より構成されることが確認された。また、Q10での表面処理層は、主にジルコニウム元素および酸素元素より構成されることが確認された。なお、表4中の濃度(D)は、金属元素(X)の質量濃度を表す。
【0109】
【表4】

【0110】
【表5】

【0111】
表5中、金属元素(X)の付着量は、蛍光X線にて測定を行った。
【0112】
(3−3)表面処理層の形成(比較例)
以下の比較例(R1〜R4)の処理を実施した。なお、試験板としては、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を使用した。
R1:表面処理層無し
R2:反応型クロメート処理
R3:りん酸亜鉛処理
R4:前述のP1の処理液に後述のS1を5g/L添加した処理液
なお、反応型クロメート処理(R2)は、ジンクロム3367(登録商標:日本パーカライジング株式会社製)を用い、取扱説明書に則ってCr付着量で15mg/mとなるように処理した。
また、りん酸亜鉛処理(R3)は、パルボンド3305(登録商標:日本パーカライジング株式会社製)を用い、取扱説明書に則ってクロム酸剥離法による皮膜量が1.0g/mになるように処理した。
【0113】
(4)ケイ素含有層の形成
上記の(3−1)〜(3−3)で作製した試験板上に、下記の(S1)〜(S3)で表される水系金属表面処理剤、または(S4)で表される比較例用処理剤をバーコーターで塗布し、表面処理層上にケイ素含有層を形成した。
なお、ケイ素含有層は、塗布後に到達板温度が150℃になるように焼付けた。
(S1):
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(2モル)と、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(1モル)をエタノール中(100mL)で反応させ有機ケイ素化合物(Y)を合成し、その後純水と混合し、固形分が10質量%になるように調整した。生成物である有機ケイ素化合物(Y)は、アミノ基、水酸基を有しており、含まれる官能基(a)数は3個で、官能基(b)1個当たりの分子量は700であった。
(S2):
上記の水系金属表面処理剤(S1)に、りん酸を固形分に対して5質量%となるように添加した。
(S3):
上記の水系金属表面処理剤(S1)に、りん酸とメタバナジン酸アンモンを、それぞれ固形分に対して5質量%、2質量%となるように添加した。
(S4):
ウレタン樹脂(HYDRAN HW−340 株式会社DIC製)に、コロイダルシリカ(スノーテックスN 日産化学株式会社製)を固形分に対して15質量%となるように添加した。処理剤中に純水を加えて、全固形分が20質量%になるように調整した。
【0114】
上述の(3−1)〜(3−3)で述べた表面処理層と、(S1)〜(S4)で表される処理剤を用いて形成されるケイ素含有層との作製を、以下の表6に示すように組み合わせて、表面処理層とケイ素含有層とを備える表面処理亜鉛系めっき鋼板を作製した。
なお、表面処理層中の金属元素(X)の単位面積当たりの合計付着量と、ケイ素含有層中の単位面積当たりのSi付着量とを蛍光X線によって測定し、その質量比[Y/X]を求めた。
【0115】
【表6】

【0116】
(5)評価方法
(5−1)環境負荷性
上記の方法で得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板について、以下の判断基準に基づき、鋼板中に含有される成分より環境負荷性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
○:クロムを含有しない
×:クロムを含有する
【0117】
(5−2)平面部耐食性
得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板に対して、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を240時間実施した。次に、白錆発生面積率を目視で測定し評価を行った。ここで白錆発生面積率とは、観察部位の面積(7cm×15cm)に対する白錆発生部位の面積の百分率である。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
△:白錆発生面積率10%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0118】
(5−3)脱脂後平面部耐食性
得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板に対して、ファインクリーナーL4460(標準建浴:A剤20g/L、B剤12g/L、温度60℃、2分浸漬後水洗)にて脱脂を行い、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を120時間実施した。次に、白錆発生面積率を目視で測定し評価を行った。ここで白錆発生面積率とは、観察部位の面積(7cm×15cm)に対する白錆発生部位の面積の百分率である。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
△:白錆発生面積率10%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0119】
(5−4)加工部耐食性
得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板に対して、エリクセン試験機にて7mm押出し加工を行い、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を120時間実施した。次に、白錆発生面積率を目視で測定し評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
△:白錆発生面積率10%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0120】
(5−5)耐指紋性
得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板上にワセリンと塗布し、色差計(日本電色工業株式会社製、color meter ZE2000)にて、ワセリン塗布前後のL値増減(△L)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎=△Lが1.0未満
○=△Lが1.0以上2.0未満
△=△Lが2.0以上3.0未満
×=△Lが3.0以上
【0121】
(5−6)導電性
得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板に対して、層間抵抗測定機(TOEI KOGYO製、LRT−1A)を用いて、層間抵抗を測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎=層間抵抗が1.0Ω未満
○=層間抵抗が1.0Ω以上2.0Ω未満
△=層間抵抗が2.0Ω以上3.0Ω未満
×=層間抵抗が3.0Ω未満
【0122】
(5−7)密着性
塗料(関西ペイント株式会社製アミラック#1000(白塗料))を用いて、得られた各表面処理亜鉛系めっき鋼板上に塗装処理を行った。塗装はバーコート塗布で行い、塗装後、140℃で20分間焼付けを行い、乾燥後膜厚で25μmの皮膜を形成した。
次に、各塗装後亜鉛系めっき鋼板に対して、1mm角、100個の碁盤目をNTカッターで切り入れ、これをエリクセン試験機で5mm押し出した後、この押し出し凸部に粘着テープによる剥離テストを行い、塗膜剥離個数にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離個数1個以上、10個未満
△:剥離個数11個以上、50個未満
×:剥離個数51個以上
【0123】
実施例1〜24、および比較例1〜8で得られた表面処理亜鉛系めっき鋼板について、上記の(5−1)〜(5−7)の評価を行った結果を、表7に示す。
【0124】
【表7】

【0125】
表7より、表面処理層とケイ素含有層との積層構造を有する本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、環境負荷性、耐食性、耐指紋性、導電性、密着性のすべての項目において、良好な評価結果を示した。
比較例においては、比較例6のクロメート処理が本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板と同等程度の特性を示したが、クロムを含有する点で、環境負荷性に劣っていた。また、ケイ素含有層の代わりに、樹脂系皮膜を使用した比較例2〜4と比較しても、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は極めて良好な性能バランスを有していることがわかった。さらに、比較例1および比較例5のように、表面処理層またはケイ素含有層単層のみでは、十分な性能は得られなかった。
また、表面処理層を形成する処理液とケイ素含有層を形成する処理液とを混合して、単層構造とした比較例8では、耐食性および耐指紋性に劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板の一実施形態の模式的断面図である。
【図2】本発明に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板の一実施形態の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0127】
10、20 表面処理亜鉛系めっき鋼板
12 亜鉛系めっき鋼板
14 表面処理層
16 ケイ素含有層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板上に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)の単位面積当りの元素付着合計量が2〜50mg/mであり、自己析出および/または電解析出により形成される表面処理層と、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を前記表面処理層上に塗布して形成されるケイ素含有層とをこの順で備える表面処理亜鉛系めっき鋼板であって、
前記有機ケイ素化合物(Y)が、1分子内に、式−SiR(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)とを含有し、前記官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000である化合物であり、
前記表面処理層の前記金属元素(X)の元素付着合計量と、前記ケイ素含有層の前記有機ケイ素化合物(Y)に由来するSi付着量との質量比〔Y/X〕が0.1〜100.0であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物(Y)が、少なくとも1種の反応性官能基と式−SiR(式中、R、RおよびRは前記と同義である)で表される官能基(a)とを有する、少なくとも1種の有機シラン化合物(A)と、前記反応性官能基と反応可能な官能基を有する少なくとも1種の化合物(B)とを反応させて、得られる化合物である、請求項1に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記有機シラン化合物(A)の前記反応性官能基、および前記化合物(B)の前記官能基が、それぞれ独立に、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、カルボキシル基、メチロール基、活性メチレン基、イミド基、アミド基、カルボニル基およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記有機シラン化合物(A)が、一般式(I)で表される化合物である、請求項2または3に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【化1】


(一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、およびイソシアネート基からなる群から選択されるいずれかの官能基を表す。Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。Yは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、水素原子、または水酸基を表す。)
【請求項5】
前記水系金属表面処理剤が、2価以上の金属イオンを含有する金属化合物(C)、および/または、フッ化水素酸、有機酸およびりん酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸(D)を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記金属化合物(C)に含有される金属イオンが、Ti、Zr、Hf、V、Mg、Mn、Zn、W、Mo、Al、Ni、Co、CeおよびCaイオンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素(X)を含む化合物(d)を含有する処理液を用いて、自己析出および/または電解析出により、亜鉛系めっき鋼板の表面上に表面処理層を形成する表面処理層形成工程と、
前記表面処理層形成工程後、有機ケイ素化合物(Y)を含有する水系金属表面処理剤を前記表面処理層上に塗布して、ケイ素含有層を形成するケイ素含有層形成工程と、を備える表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
前記有機ケイ素化合物(Y)が、1分子内に、式−SiR(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基または水酸基を表し、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)、アミノ基、カルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基、スルホン基、ポリオキシエチレン鎖およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)とを含有し、前記官能基(b)1個当たりの分子量が100〜10000である化合物である、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111904(P2010−111904A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284587(P2008−284587)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】