説明

表面処理方法および表面処理装置

【課題】シランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足することを防止して、未反応の官能基が被膜の表面に残存することを防止できる表面処理方法および表面処理装置を提供する。
【解決手段】大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、処理剤の雰囲気に被処理基板を晒すことで被処理基板上に処理剤の被膜C1を形成する表面処理工程を有し、表面処理工程の後に、被処理基板を冷却する冷却工程と、被処理基板の表面に水分を供給する水分供給工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面処理方法及び表面処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置の光変調手段として用いられる液晶装置は、一対の基板間の周縁部にシール材が配設され、その中央部に液晶層が封止されて構成されている。その一対の基板の内面側には液晶層に電圧を印加する電極が形成され、これら電極の内面側には非選択電圧印加時において液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。このような構成によって液晶装置は、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光を変調し、表示画像を形成するようになっている。
【0003】
ところで、前述した配向膜としては、側鎖アルキル基を付加したポリイミド等からなる高分子膜の表面に、ラビング処理を施したものが一般に用いられている。しかし、このようなラビング法は簡便であるものの、物理的にポリイミド膜をこすることでポリイミド膜に対して配向特性を付与するために、種々の不都合が指摘されている。
【0004】
また、このような有機物からなる配向膜では、液晶プロジェクタのような高出力光源を備えた機器に用いた場合、光エネルギーにより有機物がダメージを受けて配向不良を生じてしまう。特に、プロジェクタの小型化および高輝度化を図った場合には、液晶パネルに入射する単位面積あたりのエネルギーが増加し、入射光の吸収によりポリイミドそのものが分解し、また、光を吸収したことによる発熱でさらにその分解が加速される。その結果、配向膜に多大なダメージが付加され、機器の表示特性が低下してしまう。
【0005】
そこで、このような不都合を解消するため、無機材料からなる配向膜の適用が進められている。無機配向膜の形成には、蒸着法、スパッタ法等があるが、蒸着法では大型基板に低欠陥密度の膜を形成することが困難であり、スパッタ法での無機配向膜の形成が強く求められている。
このスパッタ法によって得られた無機配向膜(SiO)に対して、脂肪族アルコールやシランカップリング剤で表面処理する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−47211号公報
【特許文献2】特開2007−127757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、シランカップリング剤を用いる表面処理には、上記した液相処理のほかにも、気相状態のシランカップリング剤を基板に供給する気相処理が知られている。
このような気相処理を用いる場合に、シランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足すると、未反応の官能基(OCH)が被膜の表面に残存するという課題がある。未反応の官能基が被膜の表面に残存していると、いずれはHOと反応し、生成された汚染物によって液晶装置の表示不良や電気的特性の劣化などの要因となる。
【0008】
そこで、この発明は、シランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足することを防止して、未反応の官能基が被膜の表面に残存することを防止できる表面処理方法および表面処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の表面処理方法は、大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、前記処理剤の雰囲気に被処理基板を晒すことで前記被処理基板上に前記処理剤の被膜を形成する表面処理工程を有し、前記表面処理工程の後に、前記被処理基板を冷却する冷却工程と、前記被処理基板の表面に水分を供給する水分供給工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
このように処理することで、水分供給工程において被処理基板の温度を十分に低下させ、基板の表面に液相の水分を供給することができる。したがって、シランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足することを防止して、未反応の官能基が被膜の表面に残存することを防止できる。
【0011】
また、本発明の表面処理方法は、前記水分供給工程において、飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む気体を前記被処理基板の表面に供給し、前記冷却工程において、前記被処理基板を前記気体の露点温度以下の温度に冷却することを特徴とする。
【0012】
このように処理することで、水分供給工程において供給された気体中に含まれる水蒸気を被処理基板の表面で結露させることができる。
【0013】
また、本発明の表面処理方法は、前記水分供給工程において、前記被処理基板の表面に水を噴射し、前記冷却工程において、前記被処理基板を前記水の沸点以下の温度に冷却することを特徴とする。
【0014】
このように処理することで、水分供給工程において噴射され、被処理基板の表面に付着した水が基板の表面で気化することを防止できる。
【0015】
また、本発明の表面処理方法は、前記表面処理工程の後、前記水分供給工程よりも前に、前記被処理基板の周囲の気体を、水蒸気を含まない乾燥気体に置換するパージ工程を有することを特徴とする。
【0016】
このように処理することで、表面処理工程において気化して成膜室に充満した処理剤が水分と反応することを防止できる。
【0017】
また、本発明の表面処理方法は、前記水分供給工程及び前記冷却工程の後に、前記被処理基板を加熱する加熱処理工程を有することを特徴とする。
【0018】
このように処理することで、被処理基板の表面に付着している未反応の処理剤や水分等を除去することができる。
【0019】
また、本発明の表面処理方法は、前記表面処理工程よりも前に、前記被処理基板の表面の水分を除去する水分除去工程を実行することを特徴とする。
【0020】
このように処理することで、表面処理工程の前に被処理基板の表面の水分等を除去することができる。
【0021】
また、本発明の表面処理方法は、前記処理剤が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤であることを特徴とする。
【化1】

【0022】
このように処理することで、被処理基板上にきわめて薄い皮膜を略均一に形成することができ、被処理基板の表面の物理的性質および化学的性質を改質することができる。また、シランカップリング剤を用いることで、被処理基板の表面が撥水面となり、被処理基板の耐水性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の表面処理方法は、前記被処理基板上に無機膜を有し、当該無機膜の表面に前記被膜を形成することで前記被処理基板上に配向膜を形成することを特徴とする。
【0024】
このように処理することで、表面に被膜が形成された無機配向膜を形成することができる。また、被膜がシランカップリング剤により形成される場合には、被処理基板上の配向膜を耐水性の優れたものとすることができる。
【0025】
また、本発明の表面処理装置は、被処理基板を配置する成膜室と、前記成膜室内を減圧する減圧装置と、処理剤を気化させる処理剤気化装置と、前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、前記被処理基板に飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む水蒸気含有ガスを供給する水蒸気供給装置と、前記被処理基板を前記水蒸気含有ガスの露点温度以下の温度に冷却する冷却装置と、を有することを特徴とする。
【0026】
このように構成することで、成膜室を減圧装置により大気圧よりも低い圧力にした状態で、処理剤気化装置により気化させた処理剤をガス供給装置により供給したキャリアガスと共に成膜室に供給することができる。そして、成膜室に配置した被処理基板を処理剤の雰囲気に晒すことで被処理基板上に処理剤の被膜を形成することができる。
さらに、水蒸気供給装置により成膜室に水蒸気含有ガスを供給し、被処理基板を水蒸気含有ガスの露点温度以下に冷却することで被処理基板の表面の被膜に均一に結露させることができる。
【0027】
また、本発明の表面処理装置は、被処理基板を配置する成膜室と、前記成膜室内を減圧する減圧装置と、処理剤を気化させる処理剤気化装置と、前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、前記被処理基板に水を噴射する水噴射装置と、前記被処理基板を前記水の沸点以下の温度に冷却する冷却装置と、を有することを特徴とする。
【0028】
このように構成することで、成膜室を減圧装置により大気圧よりも低い圧力にした状態で、処理剤気化装置により気化させた処理剤をガス供給装置により供給したキャリアガスと共に成膜室に供給することができる。そして、成膜室に配置した被処理基板を処理剤の雰囲気に晒すことで被処理基板上に処理剤の被膜を形成することができる。
さらに、水噴射装置により被処理基板の表面に水を供給し、被処理基板を水の沸点以下の温度に冷却することで、被処理基板の表面の被膜と水とを接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一実施形態に係る表面処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】(a)および(b)は本発明の第一実施形態に係る被膜の反応状態を示す模式図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る加熱処理工程における基板の表面の温度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第二実施形態に係る表面処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例1に係る基板の表面の純水接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、部材毎に縮尺を適宜変更している。
【0031】
図1は、本実施形態の表面処理装置1の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、表面処理装置1は、無機膜C0を有する基板W(被処理基板)に対してシランカップリング剤の蒸気を導入して表面処理を行うことにより、基板W上に無機配向膜を形成する装置である。
【0032】
基板Wは、例えば石英、ガラス、サファイア等からなり、表面に透明電極、配線、層間絶縁膜など(いずれも図示略)を有し、最表層にスパッタ法や蒸着法などによって成膜された無機膜C0が設けられたものである。無機膜C0は、例えばSiO等の酸化膜によって構成されている。
表面処理装置1は、主に、成膜室2、減圧装置3、処理剤気化装置4、キャリアガス供給装置5、水蒸気供給装置6、パージガス供給装置7、および冷却装置8を備えている。
【0033】
成膜室2は、内部に無機膜C0を有した基板Wを収容可能な容器であって、例えばステンレスなどの金属からなる。成膜室2は密閉可能に構成されており、配管9を介して接続される減圧装置3によって内部を減圧可能に構成されている。
成膜室2は、成膜室2内の真空度を保持したまま基板Wを搬入および搬出するための不図示の基板搬送装置およびロッドロックチャンバー備えている。また、成膜室2内には不図示の抵抗加熱ヒータが備えられており、成膜室2の内部の温度(基板Wの温度)を所定温度に維持することが可能となっている。
【0034】
減圧装置3は配管9を介して成膜室2に接続され、配管9には制御弁V1が設けられている。減圧装置3は、成膜室2内の気体を外部に排出して成膜室2内の圧力を大気圧よりも低下させることができるように構成されている。減圧装置3としては例えばコンプレッサー等を用いることができる。減圧装置3および制御弁V1は制御装置(図示略)に接続され、成膜室2内を所定の圧力に維持できるように構成されている。
【0035】
処理剤気化装置4は、定量的に供給されたシランカップリング剤を気化させるための装置であり、配管10を介して成膜室2に接続されている。処理剤気化装置4は、シランカップリング剤を定量的に供給する処理剤供給部や、供給されたシランカップリング剤を加熱して気化させる加熱部等を備えている。配管10には、制御装置(図示略)に接続された制御弁V2が設けられ、成膜室2に供給するガスの流量を制御することができるように構成されている。
【0036】
シランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表されるものを用いることができる。
【0037】
【化2】

【0038】
式(1)においてORはアルコキシ基であり、Rはメチル基(CH)、エチル基(C)等のアルキル基である。このRは反応後には脱離し、A−Si結合部とSi−O−Siという結合だけが残ることになる。
このRとしては非常に選択の幅が広く、シランカップリング剤として例えば、オクタデシルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−トリフルオロメチルフェニルトリメトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを好適に用いることができる。また、オクチルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びトリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリエトキシシラン等も用いることもできる。
【0039】
キャリアガス供給装置5は、処理剤気化装置4を介して成膜室2内にキャリアガスを供給し、キャリアガスと共に気化したシランカップリング剤を成膜室2内に供給するためのもので、配管11を介して処理剤気化装置4に接続されている。キャリアガスは使用されるシランカップリング剤の種類に応じて選択され、例えば窒素ガス(N)やアルゴンガス(Ar)等を用いることができる。キャリアガス供給装置5は、例えば制御装置(図示略)に接続された制御弁V3等によりキャリアガスの供給量を制御することが可能である。
【0040】
水蒸気供給装置6は、飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む水蒸気含有ガスを供給する装置であり、配管12を介して成膜室2に接続されている。水蒸気供給装置6は、水を定量的に供給する水供給部や、供給された水を加熱して気化させて水蒸気を発生させる加熱部や、発生した水蒸気を所定の温度の大気あるいはキャリアガスと共に成膜室2内に供給する水蒸気供給部等を備えている。水供給部、加熱部および水蒸気供給部は制御装置(図示略)に接続され、成膜室2に供給されるガスが含む水蒸気量が所定の温度および圧力における飽和水蒸気量未満となるように設定されている。また、配管12には制御装置に接続された制御弁V4が設けられ、成膜室2内に供給する水蒸気含有ガスの流量を制御可能に設けられている。
【0041】
冷却装置8は、基板Wを冷却するための装置であり、基板Wを載置する載置台81と、載置台81を冷却する冷却管82と、冷媒を循環させる冷媒循環部83とを備えている。載置台81は複数の基板Wを配置することができるように多段状に構成され、内部に冷却管82が挿通されている。載置台81は基板搬送装置の一部であってもよい。冷却管82は載置台81の内部に張り巡らされ、内部に冷媒を流通させるようになっている。
【0042】
また、冷却管82には制御部(図示略)に接続された制御弁V5,V6が設けられ、冷媒の流量を制御することができるようになっている。冷媒循環部83は、冷媒を所定の温度に冷却して冷却管82に循環させるように構成されている。
すなわち、冷却装置8は制御部に接続され、冷媒の流量や温度を制御することで基板Wの表面を水蒸気供給装置6が供給する水蒸気含有ガスの露点温度以下の温度に冷却することができるように構成されている。
【0043】
パージガス供給装置7は、成膜室2内にパージガスを供給する装置であり、配管13を介して成膜室2に接続されている。配管13には制御部(図示略)に接続された制御弁V7が設けられている。パージガスとしては、例えば水蒸気を含まない乾燥した空気や窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0044】
次に、本実施形態における基板の表面処理方法について説明する。
本実施形態では、基板Wの表面に被膜を形成する表面処理工程よりも前に、基板Wの表面の水分を除去する水分除去工程を実行する。
具体的には、まず無機膜C0を有した基板Wを用意し、基板Wの表面を常温、液相のアルコールによって洗浄するアルコール洗浄を行う。その後、無機膜C0の表面の水分および無機膜C0が吸湿した水分を常温、液相のアルコールによって置換するアルコール置換を行う。本実施形態のアルコール洗浄およびアルコール置換においては、例えばイソプロピルアルコール等を用いることができる。次いで、基板Wを例えば加熱オーブン等により加熱する加熱処理を行って、水分を置換したアルコールを気化させ乾燥除去する。
【0045】
次に、図1に示すように、減圧装置3により成膜室2内の圧力を大気圧よりも低い所定の圧力に維持する。次いで、ロードロックチャンバーに基板Wを搬入し、基板搬送装置によって成膜室2内に基板Wを搬送し、成膜室2内の載置台81に基板Wを配置した状態にする。成膜室2内(基板W)は、抵抗加熱ヒータ(図示略)によって、例えば約100℃〜約200℃程度の温度に加熱しておく。以下、抵抗加熱ヒータを制御装置によって制御することにより、表面処理が終了するまで成膜室2内(基板W)の温度を維持する。
【0046】
次に、基板Wの無機膜C0の表面にシランカップリング剤の被膜を形成する表面処理を行う(表面処理工程)。
具体的には、処理剤気化装置4により上記の一般式(1)で表されるシランカップリング剤を大気圧よりも低い圧力下で気化させる。本実施形態では、シランカップリング剤としてC1021Si(OCHを用いる。次いで、気化させたシランカップリング剤をキャリアガス供給装置5によって供給したキャリアガスと共に大気圧よりも低い圧力に維持した成膜室2内に導入する。キャリアガスは、例えば窒素ガス(N)を用い、流量は例えば500cc/min以下(大気圧換算)とする。
【0047】
成膜室2内に気化させたシランカップリング剤を含むキャリアガスを導入すると共に、減圧装置3によってキャリアガスの排出を行って成膜室2内の圧力を一定にする。これにより、成膜室2内を、例えば約500Pa程度の圧力に維持する。そして、例えば約150℃の温度で約2時間程度、基板Wの表面処理を行う。
成膜室2内には基板Wが配置されているため、基板Wが気化したシランカップリング剤の雰囲気中に晒されて、無機膜C0上にシランカップリング剤の被膜が形成される。
【0048】
図2(a)および図2(b)は、基板Wの無機膜C0の表面に形成された被膜の反応状態を示す模式図である。
図2(a)に示すように、被膜C1の表面には、未反応の官能基(OCH)が多数残存した状態となっている。このように、未反応の官能基が被膜C1の表面に残存していると、被膜C1の耐湿性が低下して液晶装置の表示不良や電気的特性の劣化などの要因となる。そこで、本実施形態ではさらに以下の工程を実行する。
【0049】
基板Wの無機膜C0の表面に図2(a)に示す被膜C1を形成する表面処理工程の後、成膜室2内に残留した気体を、水蒸気を含まないパージガス(乾燥気体)によって置換する(パージ工程)。
具体的には、パージガス供給装置7によって成膜室2内に乾燥空気や窒素ガス(N)等の不活性ガスを供給すると共に、減圧装置3によって成膜室2内の気体を成膜室2の外部へ排出する。
【0050】
パージ工程に伴って、冷却装置8により冷却管82に冷媒を循環させ、基板Wを所定の温度に冷却する(冷却工程)。ここでは、少なくとも基板Wの表面の温度が60℃以下になるように冷却する。本実施形態では、基板Wの表面の温度が後述する水分供給工程において供給される水蒸気含有ガスの露点温度以下の温度になるように冷却する。そして、後述する水分供給工程が終了するまでの間、基板Wの表面の温度を維持する。
【0051】
次に、基板Wの表面に水分を供給する(水分供給工程)。
具体的には、水蒸気供給装置6によって飽和水蒸気量未満の水蒸気を含むキャリアガス(水蒸気含有ガス)を成膜室2内に供給する。このとき、成膜室2内に供給される水蒸気含有ガスの温度および成膜室2内の温度は少なくとも60℃よりも高い温度に設定する。本実施形態において成膜室2内に供給される水蒸気含有ガスの温度は約80℃であり、その露点温度は約60℃に設定されている。
【0052】
このようにして成膜室2内に導入された水蒸気含有ガスは基板Wの表面で露点温度(約60℃)まで冷却され、基板Wの表面に水滴が均一に結露する。これにより、図2(a)に示す未反応の官能基が加水分解されるのに十分な水分が基板Wの表面に供給される。
【0053】
次に、冷却装置8による冷媒の循環を停止して、抵抗加熱ヒータにより成膜室2内および基板Wを加熱する(加熱処理工程)。
図3は加熱処理工程における基板Wの表面の温度と経過時間との関係を示すグラフである。図3に示すように、表面の温度が約60℃に冷却された基板Wを加熱して温度を上昇させる。具体的には、成膜室2内に水蒸気含有ガスを供給した状態で、約30分程度で基板Wの表面の温度が約150℃程度まで上昇するように加熱する。すなわち、シランカップリング剤の反応温度の半分以下の温度に冷却された基板Wを、シランカップリング剤の反応温度を超える温度まで加熱する。その後、引き続き成膜室2内に水蒸気含有ガスを供給した状態で、基板Wの表面の温度を約150℃程度の一定の温度に維持するように基板Wをさらに約60分間程度加熱する。
【0054】
加熱開始から約90分が経過したら、水蒸気含有ガスの供給を停止する。そして、パージガス供給装置7により成膜室2内にパージガスとして窒素ガス(N)を導入すると共に、減圧装置3により成膜室2内の気体を排出して成膜室2内をパージする。このとき、基板Wの表面の温度を約150℃程度の一定の温度に維持して、基板Wをさらに約60分間程度加熱する。その後、自然冷却を行って基板Wの温度を室温程度まで低下させる。これにより、基板Wの無機膜の表面に図2(b)に示すシランカップリング剤の被膜C2が形成される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の表面処理方法によれば、水分供給工程において基板Wの温度を低下させ、基板Wの表面に液相の水分を供給することができる。
すなわち、冷却工程において、基板Wを水蒸気含有ガスの露点温度以下の温度に冷却し、水分供給工程において飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む水蒸気含有ガスを成膜室2内に供給することで、基板Wの表面に水蒸気を結露させることができる。これにより、図2(a)に示す未反応の官能基が加水分解されるのに十分な水分が基板Wの表面に供給される。そして、図2(b)に示すように、未反応の官能基同士を縮合反応させることができ、被膜C2の表面に未反応の官能基が残存することを防止できる。
したがって、本実施形態の表面処理方法によれば、基板Wの無機膜C0の表面においてシランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足することを防止して、未反応の官能基が被膜C2の表面に残存することを防止できる。
【0056】
また、基板Wの無機膜C0の表面に被膜C1を形成する表面処理を行った後、水分供給工程よりも前に成膜室2内の気体を乾燥気体に置換するパージ工程を有している。そのため、成膜室2内に気化したシランカップリング剤が残存することが防止される。これにより、水分供給工程において気化したシランカップリング剤の縮合反応が発生して粒状物が生成されることが防止され、その粒状物が落下して基板の表面に付着することを防止できる。
【0057】
また、水分供給工程及び冷却工程の後に、基板Wを加熱する加熱処理工程を有している。そのため、基板Wの表面に付着している未反応の処理剤や水分等を除去することができる。したがって、本実施形態の表面処理方法によれば、水分供給工程において十分な水分を供給したとしても、基板Wの表面に未反応水分が残存することを防止できる。
また、加熱処理工程において水蒸気含有ガスを成膜室2内に導入したまま基板Wを加熱することで、図2(a)に示す未反応の官能基が加水分解されるのに十分な水分が基板Wの表面に供給される。したがって、図2(b)に示すように、未反応の官能基同士を縮合反応させることができ、被膜C2の表面に未反応の官能基が残存することを防止できる。
【0058】
また、基板Wの無機膜C0の表面に被膜C1を形成する表面処理の前に基板Wの表面の水分を除去する水分除去工程を実行している。そのため、表面処理工程の前に基板Wの表面の水分等を除去することができ、基板Wの無機膜C0の表面に良好な被膜C1,C2を形成することができる。
【0059】
また、本実施形態では、表面処理を高温および減圧雰囲気下で行うようにした。これにより、シランカップリング剤が無機膜C0の表層部の間隙内により良好に入り込み、この間隙内のSi−OH基と反応し易くなる。このため、無機膜C0に対するシランカップリング剤の結合反応がより一層加速して、処理時間の短縮が図れる。
【0060】
このように、無機膜C0を有する基板Wに対してシランカップリング剤による表面処理を行うことにより、液晶装置への応用として好適な無機配向膜を備えた基板Wが得られる。
【0061】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図2および図3を援用し、図4を用いて説明する。本実施形態では、水蒸気供給装置6の代わりに水噴射装置6aが設けられている点で上述の第一実施形態で説明した表面処理装置と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0062】
図4は、本実施形態の表面処理装置の概略構成を示す模式図である。
表面処理装置1aは、上述の第一実施形態と同様に、成膜室2、減圧装置3、処理剤気化装置4、キャリアガス供給装置5、パージガス供給装置7、および冷却装置8を備えている。そして、水蒸気供給装置6の代わりに、基板Wに水を噴射する水噴射装置6aを備えている。
【0063】
水噴射装置6aは、基板Wの表面に水を噴射するための装置であり、水を供給するための配管61と、配管61に設けられた複数のノズル62とを備えている。水噴射装置6aは、配管61に所定の温度および圧力の水を供給するように設けられ、制御装置(不図示)に接続された制御弁V8によって水の流量を制御することができるように構成されている。ノズル62は複数の基板Wの表面に略均等に水を噴射することができるように配置され、例えば霧状の水を噴射可能に設けられている。
【0064】
冷却装置8は第一実施形態と同様に設けられ、本実施形態においては基板Wの表面の温度を成膜室2内の圧力における水の沸点以下の温度に冷却するように制御装置(不図示)によって制御されている。
【0065】
次に、本実施形態における基板Wの表面処理方法について説明する。
まず、第一実施形態と同様に水分除去工程および表面処理工程を行って基板Wの無機膜C0の表面にシランカップリング剤の被膜C1(図2(a)参照)を形成する。
次に、第一実施形態と同様にパージ工程を実行すると共に、冷却装置8によって基板Wの表面の温度が成膜室2内の圧力下における水の沸点以下の温度になるように基板Wを冷却する(冷却工程)。
【0066】
次に、基板Wの表面に水分を供給する(水分供給工程)。具体的には、水噴射装置6aによって配管61に水を供給し、基板Wの表面に複数のノズル62から霧状の水を噴射する。
次いで、第一実施形態と同様に冷却装置8による冷媒の循環を停止して、抵抗加熱ヒータにより成膜室2内および基板Wを加熱し(加熱処理工程)、自然冷却により室温程度まで冷却する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の表面処理方法によれば、水分供給工程において基板Wの温度を低下させ、基板Wの表面に液相の水分を供給することができる。
すなわち、冷却工程において、基板Wの表面の温度が成膜室2内の圧力下における水の沸点以下の温度になるように基板Wを冷却し、水噴射装置により基板Wの表面に水を噴射することで基板Wの表面の被膜と水とを確実に接触させることができる。
【0068】
これにより、図2(a)に示す未反応の官能基が加水分解されるのに十分な水分が基板Wの表面に供給される。そして、図2(b)に示すように、未反応の官能基同士を縮合反応させることができ、被膜C2の表面に未反応の官能基が残存することを防止できる。
したがって、本実施形態の表面処理方法によれば、基板Wの無機膜C0の表面においてシランカップリング剤の加水分解に必要な水分が不足することを防止して、未反応の官能基が被膜C2の表面に残存することを防止できる。
【0069】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、冷却工程における基板の冷却方法は、成膜室全体を冷却することによって行ってもよい。
また、上述の実施形態では、成膜室内で被膜を形成する表面処理工程、冷却工程、水分供給工程、加熱処理工程を行ったが、それぞれの工程を別のチャンバーを用いて行うようにしてもよい。例えば、冷却工程において成膜室内で基板を所定の温度まで冷却した後、水蒸気含有ガスが充満した別のチャンバー内に基板を移動させるようにしてもよい。
【実施例1】
【0070】
以下では、液晶装置の構成部材であるTFT基板と対向基板とを用意し、各基板の表面に無機配向膜のみが形成されている場合の純水接触角と、上述の第一実施形態で説明した表面処理方法により無機配向膜の表面にシランカップリング剤の被膜を形成した後の純水接触角とを比較した。
【0071】
図5は、TFT基板および対向基板の配向膜の純水接触角を示すグラフである。
表面処理前のTFT基板としてサンプルA1とA2を用意し、各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。その結果、サンプルA1とA2の純水接触角は約5°程度であった。
【0072】
次に、サンプルA1およびサンプルA2に上述の第一実施形態で説明した表面処理方法によりシランカップリング剤の被膜を形成した後、冷却工程及び水分供給工程を実施することなく再度各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。その結果、サンプルA1の純水接触角は約75°程度に増大し、サンプルA2の純水接触角は約76°〜約79°程度に増大した。
【0073】
次に、サンプルA1およびサンプルA2に上述の第一実施形態で説明した表面処理方法によりシランカップリング剤の被膜を形成した後、冷却工程及び水分供給工程を実施し、再度各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。
その結果、サンプルA1の純水接触角は約102°〜104°程度に更に増大し、サンプルA2の純水接触角は約102°〜106°程度に更に増大した。
【0074】
次に、表面処理前の対向基板としてサンプルB1〜B3を用意し、各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。その結果、サンプルB1〜B3の純水接触角は約5°程度であった。
【0075】
次に、サンプルB1〜サンプルB3に上述の第一実施形態で説明した表面処理方法によりシランカップリング剤の被膜を形成した後、冷却工程及び水分供給工程を実施することなく、再度各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。
その結果、サンプルB1の純水接触角は約67°〜約70°程度、サンプルB2の純水接触角は約82°〜約87°程度、サンプルB3の純水接触角は約70°〜約76°程度に増大した。
【0076】
次に、サンプルB1〜サンプルB3に上述の第一実施形態で説明した表面処理方法によりシランカップリング剤の被膜を形成した後、冷却工程及び水分供給工程を実施して、再度各表面上の数箇所の純水接触角を測定した。
その結果、サンプルB1の純水接触角は約102°〜103°程度に更に増大し、サンプルB2の純水接触角は約107°〜109°程度、サンプルB3の純水接触角は約99°〜102°程度に更に増大した。
【0077】
以上の結果から分かるように、各基板上にシランカップリング剤の被膜が形成されたことで、無機配向膜の表面の物理的性質および化学的性質が改善され、無機膜配向膜の表面が撥水面となって基板の耐水性が向上する。また、無機配向膜の表面の純水接触角を調整することによって液晶分子のプレチルト角を制御することが可能である。純水接触角は、表面処理回数によって調整することができるため、所望のプレチルト角を得るべく、純水接触角の検出を表面処理中に適宜行うようにしてもよい。
【0078】
また、純水接触角は、成膜室内におけるシランカップリング剤の濃度、処理温度、処理時間、および処理圧力によっても制御可能である。
なお、処理圧力が低いとシランカップリング剤の拡散性が高まるので成膜室内の均一性が得られ、処理むらのない良好な被膜を形成することができる。さらに、処理温度が高い方が、より短時間で所望とする純水接触角を得ることができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1a 表面処理装置、2 成膜室、3 減圧装置、4 処理剤気化装置、5 キャリアガス供給装置(ガス供給装置)、6 水蒸気供給装置、6a 水噴射装置、8 冷却装置、C1,C2 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、前記処理剤の雰囲気に被処理基板を晒すことで前記被処理基板上に前記処理剤の被膜を形成する表面処理工程を有し、
前記表面処理工程の後に、前記被処理基板を冷却する冷却工程と、前記被処理基板の表面に水分を供給する水分供給工程と、を有することを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記水分供給工程において、飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む気体を前記被処理基板の表面に供給し、
前記冷却工程において、前記被処理基板を前記気体の露点温度以下の温度に冷却することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記水分供給工程において、前記被処理基板の表面に水を噴射し、
前記冷却工程において、前記被処理基板を前記水の沸点以下の温度に冷却することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記表面処理工程の後、前記水分供給工程よりも前に、前記被処理基板の周囲の気体を、水蒸気を含まない乾燥気体に置換するパージ工程を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記水分供給工程及び前記冷却工程の後に、前記被処理基板を加熱する加熱処理工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理工程よりも前に、前記被処理基板の表面の水分を除去する水分除去工程を実行することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記処理剤が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【化1】

【請求項8】
前記被処理基板上に無機膜を有し、当該無機膜の表面に前記被膜を形成することで前記被処理基板上に配向膜を形成することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項9】
被処理基板を配置する成膜室と、
前記成膜室内を減圧する減圧装置と、
処理剤を気化させる処理剤気化装置と、
前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、
前記被処理基板に飽和水蒸気量未満の水蒸気を含む水蒸気含有ガスを供給する水蒸気供給装置と、
前記被処理基板を前記水蒸気含有ガスの露点温度以下の温度に冷却する冷却装置と、
を有することを特徴とする表面処理装置。
【請求項10】
被処理基板を配置する成膜室と、
前記成膜室内を減圧する減圧装置と、
処理剤を気化させる処理剤気化装置と、
前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、
前記被処理基板に水を噴射する水噴射装置と、
前記被処理基板を前記水の沸点以下の温度に冷却する冷却装置と、
を有することを特徴とする表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−170036(P2010−170036A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14495(P2009−14495)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】