説明

表面処理組成物及び表面処理鋼板

【課題】6価クロムを全く含まず、優れた耐食性と耐熱変色性及び耐黒変性が得られ、しかも上層に形成される有機樹脂層との密着性が優れた表面処理組成物を提供する。
【解決手段】加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、炭酸ジルコニウム化合物(B)を10〜300質量部、有機リン酸化合物(C)を50〜200質量部含有し、さらに、金属リン酸塩(D)を表面処理組成物の全固形分中での割合で5〜20mass%、酸化ケイ素(E)を表面処理組成物の全固形分中での割合で10〜50mass%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材用途に好適な表面処理組成物及び表面処理鋼板であって、組成物や皮膜中に6価クロムを全く含まない環境適応型表面処理組成物及びこれを用いた表面処理鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられている。このクロメート処理は、耐食性に優れかつ比較的簡単に行うことができる経済的な処理方法である。
【0003】
クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用するものであるが、この6価クロムは処理工程においてクローズドシステムで処理されること、また、上層に形成する有機皮膜によるシーリング作用によってクロメート皮膜中からのクロム溶出もほぼゼロにできることから、実質的には6価クロムによって人体や環境が汚染されることはない。しかしながら、近年の地球環境問題に対する関心の高まりとともに、従来の作業環境や排水処理を重視した法規制だけではなく、環境負荷や環境調和を重視した法規制もはじまりつつある。また、製造者を環境貢献度で評価する時代背景もあり、6価クロムを含めた重金属の使用を削減しようとする動きが高まりつつある。
【0004】
このような背景の下で、6価クロムを用いない亜鉛系めっき鋼板の白錆抑制技術(クロメートフリー技術)が数多く提案されている。例えば、特許文献1,2には、Alとリン酸化合物とシリカと水系有機樹脂エマルジョンを含有した表面処理剤及びこれを被覆した金属材料が提案されている。また、特許文献3には、多価金属の第一リン酸塩と金属酸化物ゾルの混合水溶液を塗布・乾燥した非晶質皮膜を形成後、有機被覆層を形成した亜鉛系めっき鋼板が提案されている。さらに、特許文献4,5には、酸化物微粒子とリン酸及び/又はリン酸化合物とMg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上の金属とを含有する複合酸化物皮膜層を下層とし、その上層に有機皮膜を形成した鋼板が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−350157号公報
【特許文献2】特開2000−26980号公報
【特許文献3】特開2000−129460号公報
【特許文献4】特開2002−53979号公報
【特許文献5】特開2002−53980号公報
【0006】
亜鉛系めっき鋼板が適用される用途の中で、亜鉛の融点以上の温度域(500〜600℃程度)で加熱を受ける部品が少なからず存在する。例えば、エアコン室外機内の熱交換器では、銅管とアルミニウム製エバポレーターをロウ付けする際に、ガスバーナーを用いた加熱によるアルミニウムの溶解を防ぐため、亜鉛系めっき鋼板を銅管とエバポレーター間に配置して、バーナーの火炎が直接アルミニウムに触れないようにしている。このような用途に上記従来技術の表面処理鋼板を適用すると、有機樹脂主体の皮膜であるために熱分解により黄色や茶褐色に変色し、外観不良を生じてしまう。このため従来技術の表面処理鋼板を適用することはほとんど不可能である。
【0007】
このような課題を解決するため、耐熱変色性に優れるクロメートフリー技術が提案されている。例えば、特許文献6,7には、重リン酸Mgとコロイダルシリカとホスホン酸化合物を主成分とする無機リッチ皮膜が提案されている。また、特許文献8には、第一リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする無機リッチ皮膜を下層、シリケート皮膜及び/又はシリコン樹脂を上層に配した二層皮膜が提案されている。また、特許文献9には、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液と、有機リン酸、水溶性又は水分散性有機樹脂、バナジン酸化合物、弗化ジルコニウム化合物及び炭酸ジルコニウム化合物を含有する表面処理組成物が開示されている。
【0008】
【特許文献6】特開2000−79370号公報
【特許文献7】特開2001−348672号公報
【特許文献8】特開2004−91826号公報
【特許文献9】特開2006−9121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献6,7の無機リッチ皮膜は、耐食性レベルが極めて低く、クロメート皮膜代替としての適用は困難である。一方、特許文献8の二層皮膜は、クロメート皮膜代替として適用可能な耐食性レベルであるが、高価なシリケートやシリコン樹脂を使用するため、コスト面で問題がある。また、これらの技術による皮膜は、湿潤環境下で黒色に変色する現象(黒変)が発生しやすいため、結露しやすい熱交換機での適用は困難であり、また、製品の輸送中の保管環境にも制約が生じ、実用的ではない。また、特許文献9の表面処理組成物は、これに含まれる弗化物が耐水付着性やアルカリ脱脂後の耐食性を向上させるものの、上層に比較的厚い有機樹脂層を有する場合、密着性の低下を招いてしまう。
【0010】
また、塗装鋼板やラミネート鋼板などの有機樹脂被覆鋼板では、有機樹脂層の密着性が重要な性能となるが、下地処理として行われる従来のリン酸塩処理は得られる皮膜が結晶質であるため、厳しい加工により結晶が破壊され、有機樹脂層の密着性が低下しやすい。特に、有機樹脂層の厚みが100μm以上となるような塗装鋼板やラミネート鋼板の場合、鋼板が加工を受ける際にリン酸塩皮膜が破壊され、この部分を起点として有機樹脂層が剥離しやすい。
このような問題に対して、例えば、さきに挙げた特許文献3〜5は、基板上のめっき金属と処理液とが反応し、ごく薄膜の難溶性リン酸塩を形成して耐食性や塗料密着性等が発現するものであるが、このような表面処理鋼板を有機樹脂被覆鋼板に用いた場合にも、加工を行った場合の密着性や耐食性が低下しやすい。特に、厚さが100μm以上となるような有機樹脂層を有する有機樹脂被覆鋼板の場合、皮膜強度が高いため、変形時に有機樹脂層とその下地との界面に強いせん断力が働き、有機樹脂層の剥離が生じやすくなる。
【0011】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、6価クロムを全く含まず、優れた耐食性と耐熱変色性及び耐黒変性が得られ、しかも表面処理皮膜の上層に形成される有機樹脂層との優れた密着性、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層の鋼板変形時における優れた密着性が得られる表面処理組成物及び表面処理鋼板を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような表面処理鋼板を用いた有機樹脂被覆鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決し得る皮膜組成について検討を行い、その結果、金属材料(好ましくは亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板)の表面に、特定のチタン含有水性液に対して炭酸ジルコニウム化合物、有機リン酸化合物、金属リン酸塩、及び酸化ケイ素を所定の割合で複合添加し、さらに必要に応じて、バナジン酸化合物、水性有機樹脂を適量添加した表面処理組成物による表面処理皮膜を形成することにより、優れた耐食性、耐熱変色性及び耐黒変性が得られるとともに、上層に形成される有機樹脂層、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層との優れた密着性が得られることを見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基づきなされたので、以下を要旨とするものである。
[1]加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、炭酸ジルコニウム化合物(B)を10〜300質量部、有機リン酸化合物(C)を50〜200質量部含有し、さらに、金属リン酸塩(D)を表面処理組成物の全固形分中での割合で5〜20mass%、酸化ケイ素(E)を表面処理組成物の全固形分中での割合で10〜50mass%含有することを特徴とする表面処理組成物。
【0014】
[2]上記[1]の表面処理組成物において、さらに、バナジン酸化合物(F)をチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して1〜400質量部含有することを特徴とする表面処理組成物。
[3]上記[1]又は[2]の表面処理組成物において、さらに、水溶性有機樹脂及び/又は水分散性有機樹脂(G)を表面処理組成物の全固形分中での割合で1〜10mass%含有することを特徴とする表面処理組成物。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの表面処理組成物において、金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との固形分質量比(D)/(E)が50/50〜10/90であることを特徴とする表面処理組成物。
【0015】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの表面処理組成物において、酸化ケイ素(E)が乾式法にて製造された気相シリカであることを特徴とする表面処理組成物。
[6]上記[5]の表面処理組成物において、気相シリカのかさ比重が40g/L以下であることを特徴とする表面処理組成物。
[7]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、上記[1]〜[6]のいずれかの表面処理組成物を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.03〜2.0g/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
[8]上記[7]の表面処理鋼板の表面処理皮膜上に有機樹脂層を有することを特徴とする有機樹脂被覆鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面処理組成物により形成される表面処理皮膜は、特定の無機成分で構成されることにより高度のバリア性を有するため、クロメート皮膜に匹敵する優れた耐食性と耐黒変性を有し、加えて、加熱による発色や変色を生じにくい優れた耐熱変色性を有し、さらに、上層に形成される有機樹脂層、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層の鋼板変形時における優れた密着性を有する。
また、本発明の表面処理鋼板及び有機樹脂被覆鋼板は、耐食性、耐黒変性、耐熱変色性に優れるとともに、有機樹脂層の密着性、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層の密着性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の表面処理組成物は、チタン含有水性液(A)、炭酸ジルコニウム化合物(B)、有機リン酸化合物(C)、金属リン酸塩(D)及び酸化ケイ素(E)を含有するものである。この表面処理組成物は6価クロム(但し、不可避不純物としての6価クロムを除く)を含有しない。
前記チタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを混合して得られるチタンを含む水性液である。
【0018】
前記加水分解性チタン化合物は、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタン化合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性基であるものでもよい。
前記加水分解性基としては、上記したように水分と反応することにより水酸化チタンを生成させるものであれば特に制限はないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、塩素などのハロゲン原子、水素原子、硫酸イオンなど)などが挙げられる。
【0019】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタン化合物としては、特に、一般式Ti(OR)(式中、Rは同一若しくは異なる炭素数1〜5のアルキル基を示す)で示されるテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
加水分解性基として、チタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタン化合物としては、塩化チタン、硫酸チタンなどが代表的なものとして挙げられる。
【0020】
また、加水分解性チタン化合物の低縮合物は、上記した加水分解性チタン化合物どうしの低縮合物である。この低縮合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性であるものでもよい。
加水分解性基がチタンと塩を形成する基である加水分解性チタン化合物(例えば、塩化チタン、硫酸チタンなど)については、その加水分解性チタン化合物の水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液との反応により得られるオルトチタン酸(水酸化チタンゲル)も低縮合物として使用できる。
【0021】
加水分解性チタン化合物の低縮合物及び水酸化チタンの低縮合物としては、縮合度が2〜30の化合物が使用可能であり、特に縮合度が2〜10の化合物を使用することが好ましい。縮合度が30以下であれば、過酸化水素と混合して安定なチタン含有水性液が得られる。
以上挙げた加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物は、1種又は2種以上を使用できるが、そのなかでも、上述した一般式で示される加水分解性チタン化合物であるテトラアルコキシチタンが特に好ましい。この理由は、テトラアルコキシチタンは、加水分解した時に生成されるアルコールが表面処理組成物を乾燥させる過程で揮発するため、耐食性などの皮膜性能に影響を与えることがなく、特に優れた皮膜性能が得られるからである。
【0022】
チタン含有水性液(A)としては、上記したチタン化合物と過酸化水素水を混合することにより得られるチタンを含む水性液であれば、従来公知のものを特に制限なしに使用することができる。具体的には、下記のものを挙げることができる。
(i)含水酸化チタンのゲル又はゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体又はチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(特開昭63−35419号公報、特開平1−224220号公報参照)。
【0023】
(ii)塩化チタンや硫酸チタンの水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体(特開平9−71418号公報、特開平10−67516号公報参照)。
このチタニア膜形成用液体を得る場合、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタンの水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで、水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0024】
沈殿した上記オルトチタン酸は、OHどうしの重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、そのままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になり、ペルオキソチタン酸イオンとして溶解或いは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、水と酸素しか発生しないため、ゾルゲル法や硫酸塩などの熱分解に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、低温でも比較的密度の高い酸化チタン膜を形成することができる。
【0025】
(iii)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を生成させた後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置又は加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を生成させ、次いで、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(特開2000−247638号公報、特開2000−247639号公報参照)。
【0026】
チタン化合物として加水分解性チタン化合物及び/又はその低縮合物(以下、説明の便宜上「加水分解性チタン化合物a」という)を用いるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
この加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させることにより、加水分解性チタン化合物aが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで、この水酸基含有チタン化合物に過酸化水素が配位するものと考えられ、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域での安定性が極めて高く、長期の保存に耐えるキレート液を生成する。従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルは、Ti−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させたチタン含有水性液(A)とは組成及び安定性が本質的に異なる。
【0027】
また、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を80℃以上で加熱処理又はオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。前記加熱処理又はオートクレーブ処理を80℃以上で行えば、酸化チタンの結晶化を十分に進行させることができる。このようにして製造された酸化チタン分散液の酸化チタン超微粒子の平均粒子径は10nm以下、好ましくは1〜6nm程度とすることが望ましい。酸化チタン超微粒子の平均粒子径を10nm以下とすると造膜性が優れる(塗布後乾燥して皮膜とした場合、膜厚1μm以上でワレを生じることがない)ので好ましい。また、酸化チタン超微粒子の平均粒子径が1nm以上であれば、表面処理組成物を粘度が高くならない状態に維持できるので好ましい。この酸化チタン分散液の外観は半透明状のものである。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A)として使用することができる。
【0028】
加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を含む表面処理組成物(H)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(H)を塗布した後の鋼板の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含む非晶質(アモルファス)の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
また、上記したような80℃以上の加熱処理又はオートクレーブ処理を経て得られた酸化チタン分散液をチタン含有水性液(A)として用いた場合、表面処理組成物(H)を塗布するだけで結晶性の酸化チタン含有皮膜が形成できるため、加熱処理できない材料のコーティング材として有用である。
【0029】
また、チタン含有水性液(A)としては、酸化チタンゾルの存在下で、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させて得られるチタン含有水性液(A1)を使用することもできる。
前記酸化チタンゾルは、無定型チタニア微粒子又は/及びアナタース型チタニア微粒子が水(必要に応じて、例えばアルコール系、アルコールエーテル系などの水性有機溶剤を添加してもよい)に分散したゾルである。この酸化チタンゾルとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、(i)硫酸チタンや硫酸チタニルなどの含チタン溶液を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(ii)チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(iii)四塩化チタンなどのハロゲン化チタン溶液を加水分解又は中和して得られる酸化チタン凝集物、などの酸化チタン凝集物を水に分散した無定型チタニアゾル、或いは前記酸化チタン凝集物を焼成してアナタース型チタン微粒子とし、このものを水に分散したゾルを使用することができる。
【0030】
前記無定形チタニアの焼成では、少なくともアナタースの結晶化温度以上の温度、例えば、400℃〜500℃以上の温度で焼成すれば、無定形チタニアをアナタース型チタニアに変換させることができる。この酸化チタンの水性ゾルとしては、例えば、TKS−201(商品名,テイカ社製,アナタース型結晶形,平均粒子径6nm)、TA−15(商品名,日産化学社製,アナタース型結晶形)、STS−11(商品名,石原産業社製,アナタース型結晶形)などが挙げられる。
チタン含有水性液(A1)において、上記酸化チタンゾルxとチタン過酸化水素反応物y(加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水との反応生成物)との質量比率x/yは、1/99〜99/1、好ましくは約10/90〜90/10の範囲が適当である。質量比率x/yが1/99以上であれば、安定性、光反応性などの点において酸化チタンゾルを添加した効果が十分に得られ、一方、99/1以下であれば、優れた造膜性が得られるので好ましい。
【0031】
チタン含有水性液(A1)は、酸化チタンゾルの存在下で加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
チタン含有水性液(A1)の生成形態やその特性は、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様であるが、特に、酸化チタンゾルを使用することにより、合成時に一部縮合反応が起きて増粘するのが抑えられる。その理由は、縮合反応物が酸化チタンゾルの表面に吸着され、溶液状態での高分子化が抑えられるためであると考えられる。
また、チタン含有水性液(A1)を80℃以上で加熱処理又はオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。この酸化チタン分散液を得るための温度条件、結晶化した酸化チタン超微粒子の粒子径、分散液の外観なども、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様である。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A1)として使用することができる。
【0032】
さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様、チタン含有水性液(A1)を含む表面処理組成物(H)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(H)を塗布した後の鋼板の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含むアナタース型の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
以上述べたように、チタン含有水性液(A)の中でも、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)やチタン含有水性液(A1)は、貯蔵安定性、耐食性などに優れた性能を有するので、本発明ではこれらを使用することが特に好ましい。
【0033】
加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物に対する過酸化水素水の配合割合は、チタン化合物10質量部に対して過酸化水素換算で0.1〜100質量部、望ましく1〜20質量部とすることが好ましい。過酸化水素水の配合割合が過酸化水素換算で0.1質量部以上であれば、キレート形成が十分であるため白濁沈殿が生じることがなく、一方、100質量部以下であれば、未反応の過酸化水素が残存することがなく、貯蔵中に活性酸素を放出することがないので好ましい。
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが、3〜30質量%程度であることが、取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点で好ましい。
【0034】
チタン含有水性液(A)には、必要に応じて、他のゾルや顔料を添加分散させることもできる。例えば、添加物としては、市販の酸化チタンゾルや酸化チタン粉末、マイカ、タルク、バリタ、クレーなどが挙げられ、これらの1種以上を添加することができる。
表面処理組成物中でのチタン含有水性液(A)の含有量は、固形分で1〜100g/L、好ましくは5〜50g/Lとすることが、処理液の安定性などの点から好ましい。
【0035】
本発明の表面処理組成物は、チタン含有水性液(A)に、炭酸ジルコニウム化合物(B)を添加することで耐食性をさらに向上させ、有機樹脂層(ラミネートまたは塗装により形成される有機樹脂層)で被覆されるまでの1次防錆と、有機樹脂層で被覆した後の耐食性を飛躍的に向上させるものである。また、有機リン酸化合物(C)は、鋼板との反応性を高めて耐食性を向上させるとともに、表面処理組成物の貯蔵安定性を良好とする。さらに、金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)を添加することで、上層に形成される有機樹脂層、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層(例えば、ラミネートにより形成される有機樹脂層)の鋼板変形時における密着性が向上するものである。
【0036】
炭酸ジルコニウム化合物(B)としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、オキシ炭酸ジルコニウムなどが好適であり、これらの1種以上を用いることで耐食性の向上を図ることができる。炭酸ジルコニウム化合物(B)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して10〜300質量部、好ましくは50〜100質量部とする。炭酸ジルコニウム化合物(B)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して10質量部未満では、耐食性の向上効果が少なく、一方、300質量部を超えると密着性が劣化する傾向がある。
【0037】
有機リン酸化合物(C)としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸などのヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのカルボキシル基含有有機亜リン酸、及びこれらの塩などが好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
有機リン酸化合物(C)は、耐食性とチタン含有水性液(A)の貯蔵安定性を向上させる効果を有し、なかでも、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸はその効果が特に大きいことから、これを使用するのが特に好ましい。
有機リン酸化合物(C)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して50〜200質量部とし、特に70〜150質量部とすることが耐水付着性などの点から好ましい。有機リン酸化合物(C)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して50質量部未満では、表面処理組成物の貯蔵安定性が劣るとともに、耐食性の低下もみられる。一方、200質量部を超えると耐水付着性が劣る。
【0039】
金属リン酸塩(D)及び酸化ケイ素(E)は、ラミネートなどによって上層に形成される有機樹脂層、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層との密着性を向上させるために配合させるものである。酸化ケイ素(E)としては、例えば液相シリカ、気相シリカなどの非晶質シリカが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。具体的には、コロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)製のスノーテックス(登録商標)O、N、20、30、40、C、S、気相シリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL(登録商標)130、200、200V、200CF、300、300CFなどを用いることができる。
なかでも乾式法で製造された気相シリカが有機樹脂層との密着性の点から非常に好ましく、良好な性能が得られる。
【0040】
また、金属リン酸塩(D)の種類に特別な制限はないが、なかでもアルミニウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩が有効である。特にアルミニウム塩の場合には、リン酸塩の溶解性が低くなり、湿潤環境下での効果が持続する利点がある。上記の金属リン酸塩は1種又は2種以上を用いることができる。また、金属リン酸塩(D)としては、水溶液として存在できるようにリン酸/金属カチオン成分比をあらかじめリン酸リッチとした市販の水溶液を適用することが好ましい。
【0041】
表面処理組成物中に金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)とを添加(配合)するには、金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)とを予め混合しておき、この混合物の形で添加することが好ましい。予め混合した状態で添加する方が、別々に添加する場合に較べてより優れた密着性と耐食性が得られる。この理由は必ずしも明らかではないが、リン酸成分の効果によって表面処理組成物により得られる皮膜の凝集力が高まるためであると考えられる。また、この方法による混合で表面処理組成物の貯蔵安定性が向上する。
また、酸化ケイ素(E)として乾式法により製造されたシリカ(気相シリカ)を用いる場合には、金属リン酸塩水溶液に気相シリカを添加して強撹拌することにより、金属リン酸塩水溶液中に気相シリカが分散した酸化ケイ素分散液を予め作製し、これを他の成分と混合すればよい。または、気相シリカ及び金属リン酸塩水溶液を他の配合成分及び水とともに強撹拌して表面処理組成物を作製してもよい。
【0042】
また、気相シリカをサンドミルなどで表面処理組成物中に分散させた場合、1週間〜数週間程度で凝集が起こり、沈殿物を生成するようになる。詳細なメカニズムは明らかではないが、このような凝集を生じにくくし、貯蔵安定性(薬液安定性)を向上させるには、かさ比重の低い気相シリカを使用するのが有効であることが判った。具体的には、かさ比重が40g/L以下の気相シリカを使用するのが好ましい。気相シリカのかさ比重は、乾式法で製造した後の脱気条件を制御することにより調整可能であり、これによりかさ比重の小さい気相シリカを得ることができる。
【0043】
金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)を配合することにより有機樹脂層との密着性が向上するのは、酸化ケイ素と金属リン酸塩の配合により表面処理皮膜の表面極性が変化し、密着性に有利に作用するためであると考えられる。酸化ケイ素は極性を高めるため、上層に有機樹脂層を直接塗布したり、有機樹脂皮膜を接着剤を介して密着させる際、樹脂層や接着剤層との密着力を高める作用がある。一方、極性が高すぎると、湿潤環境下で水分を取り込みやすくなり、膨れに対して不利になる。これに対して非極性のリン酸(金属リン酸塩)を配合することで、密着性と湿潤時の安定性を両立できる適度な表面極性が実現できる。さらに、酸化ケイ素は二次凝集することで、サブミクロンオーダーの表面凹凸を形成し、このような表面凹凸の形成は密着界面での有効面積を増大させるため、密着性に対して有効に作用するものと考えられる。金属リン酸塩を配合することによるテクスチャーへの影響は十分明らかではないが、酸化ケイ素の二次凝集に作用してテクスチャーに影響するものと考えられる。
【0044】
金属リン酸塩(D)の配合量は、表面処理組成物の全固形分中での割合で5〜20mass%とし、酸化ケイ素(E)の配合量は、表面処理組成物の全固形分中での割合で10〜50mass%とする。
金属リン酸塩(D)の配合量が、表面処理組成物の全固形分中での割合で5mass%未満では、その効果が発揮されず、鋼板との密着性が不十分となり、また、有機樹脂層の被覆後の耐食性も劣化する。一方、20mass%を超えて過剰に添加すると、有機樹脂層を被覆するまでの保管時の黒変などの性能を悪化させる要因となる。
【0045】
酸化ケイ素(E)の配合量が、表面処理組成物の全固形分中での割合で10mass%未満では、サブミクロンオーダーの凹凸の形成が不十分となり、上層の有機樹脂層との十分な密着性が得られない。一方、50mass%を超えると、良好な密着性は得られるものの、表面処理皮膜のバリヤー性を損なわれ、腐食環境における腐食因子の透過を抑制できず、めっき層が腐食しやすくなる。また、以上の観点から、酸化ケイ素(E)の配合量は、表面処理組成物の全固形分中での割合で20〜40mass%がさらに好ましい。
【0046】
金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との固形分質量比(D)/(E)は、50/50〜10/90、より好ましくは40/60〜10/90、さらに好ましくは30/70〜20/80とするのがよい。金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)とを複合添加することにより、厚い有機樹脂層を被覆した場合、塩水噴霧試験下のような湿度の高い腐食環境における腐食が生じにくくなる。
このような条件下では、通常、エッジや傷などの樹脂層欠落部からの膨れが生じるが、金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との複合添加により、そのような膨れが抑制される。酸化ケイ素(E)の比率が過少であると、密着性が低下するため、膨れの抑制効果が十分得られない。また、金属リン酸塩(D)の比率が過少であると、亜鉛の腐食抑制効果が得られず、やはり膨れの抑制効果が小さくなる。以上の理由により、金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との固形分質量比(D)/(E)は、50/50〜10/90の範囲が好ましい。
【0047】
本発明の表面処理組成物は、以上述べたようなチタン含有水性液(A)と成分(B)〜(E)を必須とするものであるが、さらに必要に応じて、バナジン酸化合物(F)、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)を含有することができる。
前記バナジン酸化合物(F)としては、例えば、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム、無水バナジン酸などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、メタバナジン酸アンモニウムが耐水付着性などの点から好ましい。
【0048】
バナジン酸化合物(F)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、1〜400質量部、特に10〜400質量部とすることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。バナジン酸化合物(F)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して400質量部以下であれば、Vが過剰に存在することがないため、アルカリ脱脂した後の耐食性を十分に発現できる。
【0049】
前記水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)は、水に溶解又は分散することのできる有機樹脂であり、有機樹脂を水に水溶化又は分散化させる方法としては、従来公知の方法を適用することができる。具体的には、有機樹脂として、単独で水溶化や水分散化できる官能基(例えば、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ(イミノ)基、スルフィド基、ホスフィン基など)を含有するもの、及び必要に応じてそれらの官能基の一部又は全部を、酸性樹脂(カルボキシル基含有樹脂など)であればエタノールアミン、トリエチルアミンなどのアミン化合物;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物で中和したもの、また、塩基性樹脂(アミノ基含有樹脂など)であれば、酢酸、乳酸などの脂肪酸;リン酸などの鉱酸で中和したものなどを使用することができる。
【0050】
水溶性又は水分散性有機樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン−カルボン酸系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリオキシアルキレン鎖を有する樹脂、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。上記有機樹脂は1種又は2種以上を用いることができる。
これらのなかでも特に、水溶性又は水分散性のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂を用いることが表面処理組成物の貯蔵安定性の面から好ましく、また特に、水溶性又は水分散性のアクリル系樹脂やウレタン系樹脂を主成分として用いることが、表面処理組成物の貯蔵安定性と塗膜性能とのバランスの面から好ましい。さらに、優れた密着性を確保するためには、Tg(ガラス転移点)が50℃未満のウレタン系樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、従来公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、親水性の基を有する重合体を溶液重合により合成し、必要に応じて中和、水性化する方法などにより得ることができる。
前記親水性の基を有する重合体は、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、ポリオキシアルキレン基などの親水性の基を有する不飽和単量体、必要に応じて、さらにその他の不飽和単量体を重合させることにより得ることができる。
水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、耐食性などの点からスチレンを共重合してなるものが好ましく、全不飽和単量体中のスチレンの量は10〜60質量%、特に15〜50質量%であることが好ましい。また、共重合して得られるアクリル樹脂のTg(ガラス転移点)は30〜80℃、特に40〜70℃であることが、得られる皮膜の強靭性などの点から好ましい。
【0052】
前記カルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸などが挙げられる。
前記アミノ基含有不飽和単量体などのような含窒素不飽和単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの重合性アミド類;2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジンなどの芳香族含窒素モノマー;アリルアミンなどが挙げられる。
【0053】
前記水酸基含有不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物などが挙げられる。
【0054】
その他の不飽和単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどが挙げられる。
以上挙げた不飽和単量体は、1種又は2種以上を用いることができる。なお、本願の記載において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタアクリレート」を意味する。
【0055】
前記ウレタン系樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどのポリオールとジイソシアネートからなるポリウレタンを必要に応じてジオール、ジアミンなどのような2個以上の活性水素を持つ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で鎖伸長し、水中に安定に分散又は溶解させたものを好適に使用でき、従来公知のものを広く使用できる(例えば、特公昭42−24192号公報、特公昭42−24194号公報、特公昭42−5118号公報、特公昭49−986号公報、特公昭49−33104号公報、特公昭50−15027号公報、特公昭53−29175号公報参照)。
【0056】
ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散又は溶解させる方法としては、例えば下記の方法が利用できる。
(1)ポリウレタンポリマーの側鎖又は末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基などのイオン性基を導入することにより親水性を付与し、自己乳化により水中に分散又は溶解する方法。
(2)反応の完結したポリウレタンポリマー又は末端イソシアネート基をオキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダなどのブロック剤でブロックしたポリウレタンポリマーを乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に水中に分散する方法。さらに、末端イソシアネート基を持つウレタンポリマーを水、乳化剤及び鎖伸長剤と混合し、機械的剪断力を用いて分散化と高分子量化を同時に行う方法。
(3)ポリウレタン主原料のポリオールとしてポリエチレングリコールのごとき水溶性ポリオールを使用し、水に可溶なポリウレタンとして水中に分散又は溶解する方法。
なお、ポリウレタン系樹脂は、上述した分散又は溶解方法のうち異なる方法で得られたものを混合して用いることもできる。
【0057】
前記ポリウレタン系樹脂の合成に使用できるジイソシアネートとしては、芳香族、脂環族又は脂肪族のジイソシアネートが挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、1,3−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、1,4−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、4,4′−ジイソシアナトシクロヘキサノン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらなかでも、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
ポリウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドラン(登録商標)HW−330、同HW−340、同HW−350(いずれも商品名,大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス(登録商標)100、同150、同E−2500、同F−3438D(いずれも商品名,第一工業製薬社製)などを挙げることができる。
【0058】
前記エポキシ系樹脂としては、エポキシ樹脂にアミンを付加してなるカチオン系エポキシ樹脂;アクリル変性、ウレタン変性などの変性エポキシ樹脂などが好適に使用できる。カチオン系エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ化合物と、1級モノ−又はポリアミン、2級モノ−又はポリアミン、1,2級混合ポリアミンなどとの付加物(例えば、米国特許第3984299号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−又はポリアミンとの付加物(例えば、米国特許第4017438号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシル化合物とのエーテル化反応生成物(例えば、特開昭59−43013号公報参照)などが挙げられる。
【0059】
エポキシ系樹脂としては、数平均分子量が400〜4000、特に800〜2000、エポキシ当量が190〜2000、特に400〜1000であるものが好ましい。そのようなエポキシ系樹脂は、例えば、ポリフェノール化合物とエピルロルヒドリンとの反応によって得ることができ、ポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられる。
【0060】
水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)の配合量は、表面処理組成物の全固形分中での割合で1〜10mass%とすることが好ましい。水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)の配合量が、表面処理組成物の全固形分中での割合で1mass%以上であれば十分な効果が得られ、一方、10mass%以下であれば耐熱変色性が低下することもない。
本発明の表面処理組成物には、さらに必要に応じて、例えば、シランカップリング剤、樹脂微粒子、無機リン酸化合物などのエッチング剤、本発明が規定する成分以外の重金属化合物、増粘剤、界面活性剤、潤滑性付与剤(ポリエチレンワックス、フッソ系ワックス、カルナバワックスなど)、防錆剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、染料などを含有することができる。特に、有機樹脂層との密着性を高めるためには、シランカップリング剤を含有させることが好ましい。
【0061】
また、本発明の表面処理組成物は、必要に応じて、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール系溶剤、プロピレングリコール系溶剤などの親水性溶剤で希釈して使用することができる。
本発明の表面処理組成物は、貯蔵安定性や塗装時の安定性などの観点から、その固形分含有量を2〜10mass%程度とすることが好ましい。
本発明の表面処理組成物は、種々の金属材料の表面処理剤として用いることができるが、後述する亜鉛系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板の表面処理剤として特に好適である。
【0062】
本発明の表面処理鋼板は、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、上述したような表面処理組成物、すなわちチタン含有水性液(A)、炭酸ジルコニウム化合物(B)、有機リン酸化合物(C)、金属リン酸塩(D)及び酸化ケイ素(E)を含有し(好ましくは主成分として含有し)、さらに、必要に応じて、バナジウム酸化合物(F)、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)の1種以上を含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥させることにより形成された所定の皮膜付着量の表面処理皮膜を有するものである。この表面処理皮膜は6価クロム(但し、不可避不純物としての6価クロムを除く)を含有しない。
また、チタン含有水性液(A)や表面処理組成物には、さらに必要に応じて、さきに挙げたような他の添加成分を含有させてもよい。
【0063】
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Fe合金めっき鋼板(電気めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Cr合金めっき鋼板、Zn−Mn合金めっき鋼板、Zn−Co合金めっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Ni合金めっき鋼板、Zn−Cr−Fe合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5mass%Al合金めっき鋼板、Zn−55mass%Al合金めっき鋼板)、Zn−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、さらには、これらのめっき鋼板のめっき皮膜中に金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO分散めっき鋼板)などを用いることができる。また、上記のようなめっきのうち、同種又は異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
【0064】
また、本発明の表面処理鋼板のベースとなるアルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムめっき鋼板、Al−Si合金めっき鋼板などを用いることができる。
また、めっき鋼板としては、鋼板面に予めNiなどの薄目付めっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
めっき方法としては、電解法(水溶液中での電解又は非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法のうち、実施可能ないずれの方法を採用することができる。
また、表面処理皮膜をめっき皮膜表面に形成した際に皮膜欠陥やムラが生じないようにするため、必要に応じて、予めめっき皮膜表面にアルカリ脱脂、溶剤脱脂、表面調整処理(アルカリ性の表面調整処理又は酸性の表面調整処理)などの処理を施しておくことができる。
【0065】
また、使用環境下での黒変(めっき表面の酸化現象の一種)を防止する目的で、必要に応じて予めめっき表面に鉄族金属イオン(Niイオン,Coイオン,Feイオンの1種以上)を含む酸性又はアルカリ性水溶液による表面調整処理を施しておくこともできる。
また、電気亜鉛めっき鋼板を下地鋼板として用いる場合には、黒変を防止する目的で電気めっき浴に鉄族金属イオン(Niイオン,Coイオン,Feイオンの1種以上)を添加し、めっき皮膜中にこれらの金属を1massppm以上含有させておくことができる。この場合、めっき皮膜中の鉄族金属濃度の上限については特に限定はない。
表面処理組成物により形成される表面処理皮膜の付着量は、0.03〜2.0g/m、好ましくは0.05〜1.0g/mとする。皮膜付着量が0.03g/m未満では耐食性が劣り、一方、2.0g/mを超えると皮膜が割れやすく、耐食性と密着性が低下する。また、さらに好ましい付着量は0.1〜0.5g/mである。
【0066】
本発明の表面処理鋼板を製造するには、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、上述したような表面処理組成物、すなわちチタン含有水性液(A)、炭酸ジルコニウム化合物(B)、有機リン酸化合物(C)、金属リン酸塩(D)及び酸化ケイ素(E)を含有し(好ましくは主成分として含有し)、さらに、必要に応じて、バナジウム酸化合物(F)、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂(G)の1種以上を含有する表面処理組成物(処理液)を塗布した後、水洗することなく乾燥する。
また、チタン含有水性液(A)や表面処理組成物には、さらに必要に応じて、さきに挙げたような他の添加成分を含有させてもよい。
【0067】
表面処理組成物(処理液)の塗布手段は、例えば、スプレー+ロール絞り、ロールコーターなど任意であり、また、塗布後の乾燥方式についても、例えば、熱風方式、誘導加熱方式、電気炉方式など任意である。
塗布した表面処理組成物(処理液)の乾燥温度(鋼板温度)は60〜200℃程度とすることが好ましい。乾燥温度が60℃以上であれば、皮膜形成が十分となって耐食性等が優れた皮膜となる。一方、乾燥温度が200℃以下であれば、熱により皮膜にクラックが生じることがないため、十分な耐食性の向上効果が得られる。また、より好ましい乾燥温度は60〜140℃であり、さらには好ましいのは60〜90℃である。
【0068】
また、本発明の有機樹脂被覆鋼板は、以上述べたような表面処理鋼板の表面処理皮膜上に有機樹脂層を形成したものである。この有機樹脂層の形成方法は任意であり、例えば、塗料組成物を塗布・乾燥させる方法や有機樹脂フィルムをラミネートする方法などを適用することができる。
また、本発明の表面処理皮膜は、特に100μm以上の厚みを有するような厚い有機樹脂層の密着性に優れているため、本発明の有機樹脂被覆鋼板は、有機樹脂層の厚さが100μm以上である場合に特に有用である。
なお、有機樹脂層には、非クロム系防錆添加剤、固形潤滑剤、着色顔料などをはじめとする種々の添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0069】
表面処理組成物に用いたチタン含有水性液(A)と成分(B)〜(G)を以下に示す。
[チタン含有水性液(A)の製造]
・製造例1(チタン含有水性液T1)
四塩化チタン60質量%溶液5ccを蒸留水で500ccとした溶液にアンモニア水(1:9=アンモニア:水の質量比)を滴下し、水酸化チタンの低縮合物を沈殿させた。蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30質量%溶液を10cc加えてかき混ぜ、チタンを含む黄色半透明の粘性のあるチタン含有水性液T1を得た。
【0070】
・製造例2(チタン含有水性液T2)
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を30質量%過酸化水素水10質量部と脱イオン水100質量部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液T2を得た。
・製造例3(チタン含有水性液T3)
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラn−ブトキシチタンを使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T3を得た。
【0071】
・製造例4(チタン含有水性液T4)
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラiso−プロポキシチタンの3量体(テトラiso−プロポキシチタンの低縮合物)を使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T4を得た。
・製造例5(チタン含有水性液T5)
製造例2に対して過酸化水素水を3倍量用い、50℃で1時間かけて滴下し、さらに60℃で3時間熟成した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T5を得た。
【0072】
・製造例6(チタン含有水性液T6)
製造例3で製造したチタン含有水性液T3を、さらに95℃で6時間加熱処理することにより、白黄色の半透明なチタン含有水性液T6を得た。
・製造例7(チタン含有水性液T7)
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を、「TKS−203」(商品名,テイカ社製,酸化チタンゾル)5質量部(固形分)、30質量%過酸化水素水10質量部及び脱イオン水100質量部の混合物中に10℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後10℃で24時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液T7を得た。
【0073】
[ジルコニウム化合物(B)]
B1:炭酸ジルコニウムアンモニウム
B2:オキシ炭酸ジルコニウム
B3:ジルコン弗化アンモニウム
[有機リン酸化合物(C)]
C1:1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸
C2:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
【0074】
[金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との混合物]
表2,4,6に示す固形分配合割合で、金属リン酸塩(D)の水溶液に酸化ケイ素(E)を添加して強撹拌し、金属リン酸塩水溶液に酸化ケイ素が分散した混合物を得た。なお、表4のNo.34、No.35の比較例は酸化ケイ素E1のみを含む。
・金属リン酸塩(D)
D1:第1リン酸アルミニウム
D2:第1リン酸マグネシウム
D3:第1リン酸マンガン
・酸化ケイ素(E)
E1:アエロジル300(商品名,日本アエロジル(株)製,気相シリカ,かさ比重;50g/L)
E2:アエロジル200(商品名,日本アエロジル(株)製,気相シリカ,かさ比重;35g/L)
E3:スノーテックスO(商品名,日産化学工業(株)製,コロイダルシリカ)
E4:アエロジル300CF(商品名,日本アエロジル(株)製,気相シリカ,かさ比重;35g/L)
【0075】
[バナジン酸化合物(F)]
F1:メタバナジン酸アンモニウム
F2:メタバナジン酸ナトリウム
[水溶性又は水分散性有機樹脂(G)]
G1:スーパーフレックスE−2500(商品名,第一工業製薬(株)製,水性ポリウレタン樹脂,Tg:42℃)
G2:バイロナールMD−1100(商品名,東洋紡績(株)製,水性ポリエステル樹脂)
G3:アデカレジンEM−0718(商品名,(株)ADEKA製,水性エポキシ樹脂)
【0076】
表面処理鋼板のベース鋼板としては、表1に示すめっき鋼板を用いた。
上記したチタン含有水性液(A)に対して成分(B)〜(G)および蒸留水を適宜配合して混合し、固形分含有量を2〜10mass%に調整した表面処理組成物をめっき鋼板表面に塗布し、5秒後に所定の乾燥温度(最高到達板温)となるように乾燥して供試材とした。なお、No.96の比較例はリン酸塩処理を施した供試材である。この比較例では、リン酸塩処理の前処理として、亜鉛系めっき鋼板の表面を表面調整剤(商品名「プレンパレンZ」,日本パーカライジング(株)製)で表面調整処理した後、リン酸亜鉛処理液(商品名「PB3312M」,日本パーカライジング(株)製)により、付着量が1.0g/mとなるようにリン酸塩処理したものである。
【0077】
これら供試材について、下記(1)〜(4)の試験方法により耐熱変色性、耐水付着性、耐食性及び耐黒変性を評価した。
さらに、供試材に一般的な塩ビフィルム用接着剤を乾燥膜厚が3μmとなるように塗布した後、炉内温度が100℃の加熱炉で加熱し、続いて膜厚250μmの塩ビフィルムをロールで供試材表面に押し付け、鋼板温度が230℃となるようにして、熱圧着することにより塩ビフィルム(有機樹脂層)を接着させた。このようにして有機樹脂層を形成した供試材について、下記(5)〜(7)の試験方法により、密着性、沸騰水浸漬後の密着性及び耐食性を評価した。
さらに、下記(8)、(9)の試験方法により表面処理組成物の貯蔵安定性を評価した。
以上の結果を、各供試材に適用した表面処理組成物の組成及びその塗装条件とともに、表2〜表9に示す。
【0078】
(1)耐熱変色性
供試材を赤外線イメージ炉にて30秒で板温500℃に加熱し、30秒間保持した後、室温まで自然放冷した時の表面外観を目視観察した。その評価基準は以下のとおりである。
○:変色なし
△:淡黄色に変色
×:黄色〜茶色に変色
(2)耐水付着性
供試材に純水1mLを滴下し、100℃のオーブンにて10分間乾燥させた時の表面外観を目視観察した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:変化なし
○:ほとんど変化なし
△:滴下部輪郭のみ観察される
×:滴下部全体が変色する
【0079】
(3)耐食性
端部と裏面をテープシールした供試材に対してJIS−Z−2371−2000の塩水噴霧試験を行い、白錆発生面積率が5%となる試験時間を測定した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:36時間以上
○:24時間以上、36時間未満
△:12時間以上、24時間未満
×:12時間未満
(4)耐黒変性
供試材を温度80℃、相対湿度95%雰囲気に制御された恒温恒湿機に24時間静置した際の白色度(L値)変化をΔL(試験後のL値−試験前のL値)で算出した。その評価基準は以下のとおりである。
○:ΔL≧−5.0
△:−5.0>ΔL≧−10.0
×:−10.0>ΔL
【0080】
(5)密着性
JIS−K−6744−1992(ポリ塩化ビニル被覆金属板)に記載された密着性試験(エリクセン試験)に準拠し、供試材から切り出された90mm×90mmの試験片を用いて有機樹脂層の密着性を調べた。この密着性試験では、エリクセン高さ6mm、カット部長さ50mmとして押し込んだ後、目視によって有機樹脂層の剥離の状況を観察し、以下の基準により評価した。
◎:剥離無し
○:カット部エッジの一部がわずかに剥離(カットから1mm以内)
×:カット部エッジでフィルムが大きく剥離(カットから1mm超え)
(6)沸騰水浸漬後の密着性
密着性試験を行なう前に、試験片を沸騰させたイオン交換水中に1時間浸漬させたこと以外は、上記「(5)密着性」と同様の方法で密着性試験を行ない、以下の基準により評価した。
◎:剥離無し
○:カット部エッジの一部がわずかに剥離(カットから1mm以内)
×:カット部エッジでフィルムが大きく剥離(カットから1mm超え)
【0081】
(7)耐食性(有機樹脂層被覆後)
JIS−K−6744−1992の耐食性の項記載に準じた方法であって、供試材から切り出された50mm×100mmの試験片を用い、JIS−Z−2371−2000の規定に準拠して塩水噴霧試験を1000時間行った。この試験では、各試験片の一部の端面を露出した状態とし、エッジからの有機樹脂層の膨れの程度に応じて下記基準で評価した。
◎:エッジからの膨れ巾(最大値)15mm未満
○:エッジからの膨れ巾(最大値)15mm以上、25mm未満
△:エッジからの膨れ巾(最大値)25mm以上、35mm未満
×:エッジからの膨れ巾(最大値)35mm以上
【0082】
(8)貯蔵安定性(I)
固形分8mass%とした表面処理組成物を40℃で2週間経時させ、固形分の沈殿状態と粘性について目視で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:固形分の沈殿なし且つ粘性に変化なし
○:僅かな固形分の沈殿あり又は小さい粘性の変化あり
△:固形分の沈殿が多い又は粘性の変化が大きい
×:固形分の沈殿が多く且つ粘性の変化が大きい
(9)貯蔵安定性(II)
固形分8mass%とした表面処理組成物を30℃に保持し、1週間毎に固形分の沈殿状態を目視で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:4週間後も沈殿なし
○:4週間後沈殿発生
△:2週間〜3週間後沈殿発生
×:1週間後沈殿発生
【0083】
表2、表4、表6、表8において、*1〜*11は以下の内容を示す。
*1 表1に記載のめっき鋼板No.1〜No.9
*2 明細書本文に記載のチタン含有水性液T1〜T7
*3 明細書本文に記載のジルコニウム化合物B1〜B3
*4 明細書本文に記載の有機リン酸化合物C1〜C3
*5 明細書本文に記載の金属リン酸塩D1〜D3
*6 明細書本文に記載の酸化ケイ素E1〜E4
*7 明細書本文に記載のバナジウム酸化合物F1,F2
*8 明細書本文に記載の水溶性又は水分散性有機樹脂G1〜G3
*9 表面処理組成物(水性処理液)1リットル中の固形分質量(g)
*10 表面処理組成物(水性処理液)の全固形分中での割合(mass%)
*11 固形分質量比
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、炭酸ジルコニウム化合物(B)を10〜300質量部、有機リン酸化合物(C)を50〜200質量部含有し、さらに、金属リン酸塩(D)を表面処理組成物の全固形分中での割合で5〜20mass%、酸化ケイ素(E)を表面処理組成物の全固形分中での割合で10〜50mass%含有することを特徴とする表面処理組成物。
【請求項2】
さらに、バナジン酸化合物(F)をチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して1〜400質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】
さらに、水溶性有機樹脂及び/又は水分散性有機樹脂(G)を表面処理組成物の全固形分中での割合で1〜10mass%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
金属リン酸塩(D)と酸化ケイ素(E)との固形分質量比(D)/(E)が50/50〜10/90であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理組成物。
【請求項5】
酸化ケイ素(E)が乾式法にて製造された気相シリカであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
気相シリカのかさ比重が40g/L以下であることを特徴とする請求項5に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の表面処理組成物を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.03〜2.0g/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項8】
請求項7に記載の表面処理鋼板の表面処理皮膜上に有機樹脂層を有することを特徴とする有機樹脂被覆鋼板。

【公開番号】特開2009−275284(P2009−275284A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335387(P2008−335387)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】