説明

表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】CGLで製造される溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造において問題視される筋状の模様の発生を解消する。
【解決手段】CGLで搬送される鋼板20の両面を、対向して配置される一対のブラシロール21により前研削してから溶融亜鉛めっきを行って溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、鋼板20の搬送方向についての、上ブラシロール21aの中心軸と下ブラシロール21bの中心軸とのオフセット量t(mm)、及び鋼板20の板厚方向への下ブラシロール21bの押し込み量P(mm)が、下記(1)式及び(2)式の関係を満足するようにする。
0.5/P≦t≦3.0 ・・・・・(1)
0.5≦P≦5mm ・・・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関し、具体的には、例えば連続溶融めっき鋼板製造ラインにおいて、筋状の模様等の表面欠陥がなく表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板に発生し易い表面欠陥の一つに、筋状の模様がある。このうちある種の筋状の模様は、溶融亜鉛めっき後の合金化処理時に合金化反応が鋼板の面内で不均一に生じ、めっき層の表面に凹凸が形成されることにより、発生する。
【0003】
この筋状の模様は、塗装を行っても消失せずに残存することがあり、例えば自動車の外板パネルのような美麗な塗装外観を要求される用途では、重大な問題となる。さらに、この自動車の外板パネルに用いられる合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき母材には、加工性等を満足するために、極低炭素Ti添加鋼(Nb、V、B等がさらに添加されることもある)が広く用いられる。筋状の模様は、このような極低炭素Ti添加鋼を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、より発生し易い。
【0004】
また、鋼中にSi、CrやMnを比較的多量に含有する高張力鋼板をめっき母材とする溶融亜鉛めっき鋼板には、上述した筋状の模様とは別に、点状又は筋状の欠陥が発生し易い。これは、易酸化性元素であるSi等が溶融亜鉛めっき前の高張力鋼板の表面に濃化してめっきの濡れ性を低下させるためである。
【0005】
一方、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、めっき母材である鋼板の表面を研削(以下、単に「前研削」という)してからめっきを行う技術が知られている。この前研削の主な目的は、例えば特許文献1〜3に開示されるように、鋼板とめっきとの濡れ性を阻害したり、その後の合金化反応を阻害あるいは逆に著しく加速するような、鋼板の表面の濃化元素や酸化物等をめっき前に除去することにより、めっきの欠陥やムラの発生を抑制することである。
【0006】
また、前研削の他の目的は、例えば特許文献4に開示されるように、鋼板の表面を研削することによって表層部に歪を付与することによりその後の焼鈍によって得られる表層部の結晶を、歪を付与しない場合よりも微細化し、これにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の合金化処理反応を促進することである。
【0007】
図1は、連続溶融めっき鋼板製造ライン(以下、「CGL」という)の一例を模式的に示す説明図である。同図に示すように、ペイオフリール2a,2bから巻き戻され、溶接機3により接合された鋼板1は、前洗浄機4により前洗浄され、入側ルーパー5を介して連続焼鈍炉6に送られて連続焼鈍される。連続焼鈍された鋼板1は、引き続いて溶融亜鉛槽7に送られて亜鉛めっきを行われ、付着量調整装置8により付着量を調整されてから、GA炉9に送られて合金化処理が行われ、冷却帯10により冷却される。その後、スキンパスミル11により軽圧下され、テンションレベラー12及び出側ルーパー13を経て、フライングシャー14により所定の長さに切断され、静電塗油機15により塗油された後、巻取機16によりコイルに巻き取られる。このようにして、CGLにより合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0008】
上述した前研削を行うための設備は、この図1では図示していないが、通常は、前洗浄機4の直前又は直後に配置される。前研削を行うための設備は、通常は、対向して配置される一対のブラシロールを複数組配置した研削装置である。
【特許文献1】特開2003−11053号公報
【特許文献2】特開平6−41708号公報
【特許文献3】特開平6−136500号公報
【特許文献4】特許第3520741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、一対のブラシロールを用いた研削装置により鋼板1の表面及び裏面を実際に前研削しても、上述した筋状の模様の発生を十分に抑制することができないことが多い。
溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥を確実に除去するためにブラシロールを鋼板に強く押し当てると、研削量が増加するので逆にその分製造コストが上昇するとともに、ブラシロールによる研削疵が増加することに起因して溶融亜鉛めっき鋼板の表面に線状のムラを生じることがあった。
【0010】
このように、一対のブラシロールを用いた研削装置により鋼板の前研削を行っても、例えば、めっき母材として極低炭素Ti添加鋼を用いる合金化溶融亜鉛めっき鋼板において発生する筋状の模様や、めっき母材として高張力鋼板を用いる溶融亜鉛めっき鋼板において発生する点状又は筋状の欠陥等といった、溶融亜鉛めっき鋼板のめっきの表面欠陥の発生を確実に防ぐことはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するための鋭意検討を重ね、例えばCGLにおいてブラシロールで前研削を行っても筋状の模様を無くすことができない理由は、一対のブラシロールを鋼板の表面及び裏面に押し付けて研削する際、鋼板をその全幅にわたって均等に研削することが難しいためであると考えた。このため、本発明者らは、鋼板をブラシロールでその全幅にわたって略均等に研削するための条件を鋭意検討した結果、一対のブラシロールの配置位置を、鋼板の搬送方向及び板厚方向にずらすことが有効であるとの重要な知見を得て、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
本発明は、搬送される鋼板の両面を、対向して配置される一対のブラシロールにより研削してから溶融亜鉛めっきを行って溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、鋼板の搬送方向についての、一方のブラシロールの中心軸と他方のブラシロールの中心軸とのオフセット量t(mm)、及び鋼板の板厚方向への前記ブラシロールの押し込み量P(mm)が、下記(1)式及び(2)式の関係を満足することを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
0.5/P≦t≦3.0 ・・・・・(1)
0.5≦P≦5mm ・・・・・(2)
【0013】
この本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、鋼板が極低炭素Ti添加鋼からなり、この鋼板のTi含有量(wt%)、及び押し込み量P(mm)が下記(3)式の関係を満足することが望ましい。
25W−0.5≦P≦5 ・・・・・(3)
【発明の効果】
【0014】
本発明により、例えばCGLで製造される溶融亜鉛めっき鋼板、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板における筋状の模様をはじめとする表面欠陥を解消でき、これにより、表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら、説明する。
(i)母材鋼板の成分
本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、どのような組成の母材鋼板に対しても適用することができ、特定の組成の鋼板には限定されない。特に、(a)極低炭素Ti添加鋼板を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合や、(b)Si,CrやMnを比較的多量に含有する高張力鋼板を母材とする溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合のように、筋状の模様をはじめとするめっきの表面欠陥が発生し易い鋼板を母材として溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合に適用することが望ましい。
【0016】
以下、上記(a)項及び(b)項で示す鋼板でめっきの表面欠陥が発生し易い理由を説明する。
(a)母材が極低炭素Ti添加鋼板の場合
筋状の模様が発生している部分の直下に位置する母材鋼板を観察した結果、模様として見える部位の直下の鋼板表層とそのすぐ隣の部位の直下の鋼板表層とでは、鋼板表層におけるフェライト結晶粒の大きさが異なる不均一な組織となっていることが判明した。筋状の模様として見える部位の直下の鋼板表層の結晶粒が、大きい場合もあれば、逆に小さい場合もある。これは、鋼板表層に占める面積の割合によるものと考えられる。
【0017】
鋼板表層における不均一な組織は、熱間圧延工程における鋼板の内部におけるTi酸化物の濃度のムラに起因すると考えられる。鋼板のTi含有量が多いほど、合金化溶融亜鉛めっき後の筋状の模様の程度も悪化するばかりでなく、Ti酸化物の濃度のムラも顕著であることが判明している。このTi酸化物の濃度のムラが原因となって、フェライト結晶粒が粗大な箇所と微細な箇所とが混在した不均一な組織を形成する。
【0018】
この不均一な組織は、冷間圧延後にも最表層に存在し、その後の再結晶に影響を与える。すなわち、不均一組織が存在する鋼板をCGLで焼鈍し再結晶させると、再結晶組織にも粗大粒と微細粒が混在し、また部分的に集合組織が異なる不均一な組織となる。
【0019】
このような状態の鋼板に溶融亜鉛めっきを行い、さらに合金化処理を行うと、合金化反応の際に粒界から起こり易いアウトバースト反応が不均一に発生し易い。また、鋼板の集合組織によっても合金化の反応速度が異なる。その結果、めっき層が凹凸状に発達し易くなり、この部分が筋状の模様として現出すると考えられる。
【0020】
極低炭素―Ti添加鋼の成分の例としては、C:0.01%以下、Mn:2.5%以下、Si:1.0%以下、Ti:0.005〜0.1%を含み、必要に応じNb:0.005〜0.04%、を1種以上含むものがあげられる。
【0021】
(b)母材が高張力鋼板の場合
鋼板の表面に濃化したSi、CrやMnを前研削により除去しようとする際に、研削が不十分又は不均一な場合に発生すると考えられる。これら濃化成分を除去し切れない部分は、CGLでの焼鈍時に表面酸化物が厚く形成されてめっき濡れ性を阻害したり、合金化反応時の反応速度に影響を及ぼす。
【0022】
このような鋼の成分の例としては、C:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜1%、Mn:1.0〜2.0%を含有し、且つP:0.04%以下(0は含まない)、B:0.0002〜0.01%以下、Mo:0.4%以下を1種又は2種以上、さらにSi:0.2%以下、sol−Al:0.01〜0.10、S:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不純物である。
【0023】
(ii)前研削工程
(ブラシロール)
本実施の形態では、図1に示すCGLにおける前洗浄機4の直前に、前研削を行うための装置として、対向して配置される一対のブラシロールを設けて、鋼板の表面及び裏面の前研削を行う。
【0024】
ブラシロールは、鋼板の表面を幅方向へ均一に研削できるものであればよい。例えば、直径が1μm以上30μm以下のSiCを主成分とする砥粒を混入させた、直径が0.1mm以上1mm未満のブラシ糸の数10本の集合体として、太さが1mm以上2mm以下のブラシ素子に織り込み、それらを3〜7本の束としてロール周方向へ配置されたブラシロールを例示することができる。
【0025】
(研削条件)
本実施の形態では、対向して配置される一対のブラシロールにより鋼板の表面及び裏面をそれぞれ前研削する。
【0026】
図2は、前研削工程における鋼板20、一対のブラシロール21〜24およびその他の付帯設備の一例を模式的に示す説明図である。
図2に示す本実施の形態では、一対のブラシロール21〜24を4組配置するが、4組に限定されるものではなく、要求される製品の外観品質や性能を得ることができるのであれば1〜3組配置してもよいし、設備の設置スペースを確保できれば5組以上設置するようにしてもよい。
【0027】
本実施の形態における各ブラシロール対21〜24は全て同じに構成されるので、以降の説明は、一対のブラシロール21を例にとって、行う。
一対のブラシロール21は、上ブラシロール21aと下ブラシロール21bとを有する。上ブラシロール21aは鋼板20の表面(上面)を研削し、下ブラシロール21bは鋼板20の裏面(下面)を研削する。上ブラシロール21a及び下ブラシロール21bの入側には水噴射装置25a、25bが設けられており、上ブラシロール21a及び下ブラシロール21bによる研削の際に鋼板20の表面、裏面にそれぞれ水スプレーを噴射する。
【0028】
図3は、一対のブラシロール21の配置状況を誇張して示す説明図である。同図に示すように、本実施の形態では、鋼板20の表面(上面)を研削する上ブラシロール21aの中心軸mと、鋼板20の裏面(下面)を研削する下ブラシロール21bの中心軸nとを、鋼板20の搬送方向(図3における白矢印方向)について距離tずらして配置する、すなわちオフセット量tを設けることにより、めっきの表面欠陥の発生を防止する。
【0029】
具体的には、一対のブラシロール21のオフセット量t(mm)と下ブラシロール21bの鋼板20への押し込み量P(mm)とが、下記(1)式に示す関係を満足するように、上ブラシロール21a及び下ブラシロール21bを、鋼板20の搬送方向にずらして配置する。
0.5/P≦t≦3.0 ・・・・・(1)
【0030】
ここで、押し込み量Pとは、下ブラシロール21bに関して、ロールのブラシ先端が鋼板表面と接触する位置を基準位置とし、この基準位置と実際の設置位置との間の、鋼板20の板厚方向(図3における上方向)への距離を意味する。
【0031】
なお、図3では、オフセット量t及び押し込み量Pの関係を理解し易くするために
下ブラシロール21bを押し込み量P押し込むことに伴って鋼板20が変形するように示されているが、実際には、下ブラシロール21bを押し込み量Pだけ押し込むと、上ブラシロール21a及び下ブラシロール21bそれぞれの外周面に設けられたナイロンブラシが鋼板20に当たって撓むので、鋼板20は殆ど変形しない。
【0032】
(1)式を満足するようにオフセット量tを設けることにより、上ブラシロール21aに設けられたナイロンブラシが撓んだ状態で鋼板20の表面に接触するとともに下ブラシロール21bに設けられたナイロンブラシが撓んだ状態で鋼板20の裏面に接触し、これにより、上ブラシロール21aによる鋼板20の表面の研削面積、及び下ブラシロール21bによる鋼板20の裏面の研削面積が、いずれも増加する。
【0033】
このため、下ブラシロール21bの押し込み量Pを大きく設定しなくとも、鋼板20の表面及び裏面を均一かつ充分に研削することができるようになり、筋状の模様等の表面欠陥の発生を確実に抑制することができるようになる。
【0034】
さらに、下ブラシロール21bの押し込み量Pを大きく設定しないので上ブラシロール21a、下ブラシロール21bを鋼板20に過剰に接近させないことから、上ブラシロール21a、下ブラシロール21bに設けられたナイロンブラシの交換周期が短くなることを、防ぐこともできる。
【0035】
ただし、オフセット量tを3.0mm超と大きくし過ぎると、研削時に反対面からの反力が小さくなるため十分な研削を行うためには下ブラシロール21bの押し込み量Pを大きくする必要があり、これにより研削疵に起因するめっきの表面欠陥が発生するおそれがある。反対に、研削疵が出ない程度の押し込み量Pとすれば必要なオフセット量tは小さくなる。このような観点から、押し込み量P(mm)の範囲は下記(2)式に示す範囲である。
0.5≦P≦5 ・・・・・(2)
【0036】
さらに、鋼板20が前述した極低炭素Ti添加鋼からなる場合には、鋼中のTi含有量に応じて研削条件を決定することが望ましい。この場合には、鋼板20の表層部の濃化元素等の除去にとどまらず、十分な歪(目安として約100Mpa以上)を均一に付与することにより、再結晶後の鋼板20の表層部の結晶組織を均一化できるからである。また、上述したように、めっきの表面欠陥は鋼中のTi含有量が多いほど生じ易い。このため、押し込み量P(mm)は、鋼中のTi含有量W(wt%)に応じて、下記(3)式を満足するように設定することが望ましい。
25W−0.5≦P≦5 ・・・・・(3)
【0037】
図2に示すように、各ブラシロール対21〜24により鋼板20の表面を前研削した後、前洗浄機4の洗浄用水噴射装置26から洗浄水を吹き付けながら洗浄ブラシ(ロール)27a、27b、28a、28bで鋼板20の表面の研削屑を除去し、リンガーロール29により洗浄水を絞る。なお、前洗浄機4の下部には、除去された研削屑を回収するための収容部材30を設けておくことが望ましい。
【0038】
本実施の形態では、前洗浄機4の直前に前研削を行うためのブラシロールを配置するので、既存の前洗浄機4により前研削による研削屑を迅速に除去することができる。なお、製品に要求される外観品質や研削屑の回収の点で問題なければ、洗浄用水噴射装置26からの洗浄水の吹き付けを省略してもよい。
【0039】
このようにして、本実施の形態によれば、CGLにおいて前研削及び前洗浄を行うことにより鋼板20の幅方向に均一にかつ十分に前研削を行うことができるので鋼板の表面の歪みや元素の濃化状態等を均一化できる。そして、引き続いて、連続焼鈍炉6による連続焼鈍と、溶融亜鉛槽7による溶融亜鉛めっきとを行い、必要に応じてGA炉9による合金化処理を行い、冷却することにより、溶融亜鉛めっき鋼板における表面欠陥、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板における筋状の模様の発生を確実に解消でき、これにより、表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0040】
ここで、このような表面状態の指標として、鋼板の幅方向の明度差ΔL*値がある。この明度差Δ*L値は、以下のようにして測定することができる。
測定対象である溶融亜鉛めっき鋼板の表面外観を、スキャナーを用いて画像ファイルとして取り込み、パソコン(画素数256ビット)により色の3原色RGBに数値化する。さらに、下記変換式を用いてL*値を求め、溶融亜鉛めっき鋼板の幅方向の中でその最大値と最小値の差ΔL*値を求める。
【0041】
RGB→XYZ
X=0.412453×R+0.35758×G+0.180423×B
Y=0.212671×R+0.71516×G+0.072169×B
Z=0.019334×R+0.119193×G+0.950227×B
XYZ→L*a*b*
=100(完全拡散反射)とする
=Y/100
yy>0.008856の時 fy=3√yy
yy≦0.008856の時 fy=(903.3×yy+16)/116
L*=116×fy−16
【0042】
このようにして求められる明度差ΔL*値が2以下であれば、筋状の模様の発生が抑制される。すなわち、本実施の形態により明度差ΔL*値が2以下である溶融亜鉛めっき鋼板を確実に製造することができる。
【実施例1】
【0043】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
図1に示す上述した本実施の形態のCGLにおいて、熱間圧延、酸洗及び冷間圧延を経た、表1の鋼種1〜3に示す鋼組成を有する極低炭素Ti添加鋼からなる鋼板20の表面及び裏面に対し、図2、3に示す一対のブラシロール21〜24により前研削を行った。このとき、前研削を行わないでめっきした場合に筋状の模様が発生し易い面を上ブラシロール21a〜24aで研削するようにした。
【0044】
【表1】

【0045】
ブラシロール21a〜24a、21b〜24bとして、外径が1.4mm以上の砥粒を織り込んだナイロンブラシ素子を3本束ねてそれをロール周方向に配置したものを用いた。
【0046】
また、一対のブラシロール21〜24それぞれに対し、上下のロール間でオフセット量t、押し込み量Pを調整できる機構を設けた。なお、ブラシロール径(ブラシ先端までの径)は420mmであり、押込み量Pは0.5mm以上5.0mm以下に設定した。
【0047】
前研削による研削量は、前研削の前後における鋼板20の重量差により、求めた。本実施例における鋼板20のTi含有量、押し込み量、オフセット量及び研削量を表2に示す。
【0048】
このようにして前研削を行った後、図1に示す前洗浄機4により鋼板20に前洗浄を行い、入側ルーパー5を介して連続焼鈍炉6に送り、連続焼鈍を行った。この後、鋼板20を溶融亜鉛槽7に送り亜鉛めっきを行い、付着量調整装置8により付着量を調整してから、GA炉9に送って合金化処理して冷却する工程を経ることにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0049】
亜鉛めっき時のラインスピードは90m/minであり、焼鈍温度は840℃であり、合金化溶融亜鉛めっき処理は、めっき浴温458℃、めっき浴中Al濃度0.12wt%、合金化温度505℃で、行なった。
【0050】
めっき外観(筋状の模様)の評価は、前研削時に上ブラシロール21a〜24aにより研削した表面について行った。また、筋状の模様の評価は、目視による3段階評価(〇:目視で見えない、△:目視でわずかに見える、×:目視ではっきり見える)と併せ、鋼板20の幅方向の明度差ΔL*値を上述した方法により測定した。結果を表2にまとめて示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2において、No1〜4は、Ti含有量が0.054wt%の鋼種に関してブラシロール21b〜24bの押し込み量P及びオフセット量tを適切に制御して前研削を行った本発明例であり、No5〜8は、Ti含有量が0.037wt%の鋼種に関してブラシロール21b〜24bの押し込み量P及びオフセット量tを適切に制御して前研削を行った本発明例であり、さらに、No9〜12は、Ti含有量0.072wt%の鋼種に関してブラシロール21b〜24bの押し込み量P及びオフセット量tを適切に制御して前研削を行った本発明例である。
【0053】
No.1〜12は本発明で規定する条件を全て満足して前研削を行ったので、筋状の模様の程度は改善され、良好な結果となった。
これに対し、表2におけるNo9、10は、Ti含有量が0.054wt%の鋼種に関してオフセットを設けなかった比較例であり、いずれも、局部的に筋状の模様が残存し、不芳な結果となった。
【0054】
表2におけるNo.11は、オフセット量tを設けたものの押し込み量Pが適切でなかったので研削量が足りず、筋状の模様は十分に改善されなかった。
表2におけるNo12〜16は、Ti含有量に対して研削量が少ないことと、適切なオフセット量tを設けていないことにより、筋状の模様が残存し不芳な結果であった。
【0055】
表2におけるNo.17は、押込み量を5.0mm、研削量を11.3g/mにするので、筋状の模様の発生を欠陥を抑制することはできるものの、ブラシロールによる疵が残存し、自動車外板パネル用として用いることはできないものであった。
【0056】
さらに、表2におけるNo.18は、前研削を行わないので、筋状の模様の程度は改善されず、不芳な結果となった。
【実施例2】
【0057】
表3に、本実施例で用いた鋼板の組成を示す。表3に示す組成A〜Dを有する鋼板から、厚さ:0.80mm、幅:80mm、長さ:200mmの寸法を有する鋼板を切り出した。
【0058】
【表3】

【0059】
採取した鋼板の表面研削を、径1.4mm以上の砥粒入りブラシ素子を3本束ねたブラシロールを上下一対に有する前研削設備を4段直列に配置した設備により、行った。前研削の際の押し込み量Pは0mm、1mm、0.5mm、2mm、3mmまたは5mmとし、オフセット量tは0mm以上3.2mm以下の値に設定した。
【0060】
前研削を終了した鋼板を75℃のNaOH水溶液で脱脂洗浄し、連続式溶融めっきシミュレータを用いて10体積%H−Nの還元性雰囲気中で760℃に加熱し、60秒間保持して焼鈍を行い、その後,6℃/秒の冷却速度で520℃まで冷却し、520℃で40秒間保持し,溶融亜鉛浴温度近傍まで冷却してから溶融亜鉛浴に浸漬し、めっき付着量を60g/mに調節した。また、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度は0.15wt%とした。
【0061】
溶融亜鉛めっきはそのまま使用し、一方合金化溶融亜鉛めっき鋼板は500℃のソルトバスを用いてFe濃度11%に調節することにより、種々の溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
これとは別に、機械特性を調査するための試料を準備し、上記の条件で加熱を施し、JIS5号引っ張り試験によりYP、TS及びELを測定した。また、2%の歪付与後に170℃に20分間加熱してBH量を測定した。結果を表4にまとめて示す。
【0062】
【表4】

【0063】
〔めっき表面外観〕
得られた試料の表面の外観ムラの状況を観測し、評価した。外観ムラは、発生状況に応じ、以下の基準で判定した。
○:外観ムラ無し
×:外観ムラ有り
【0064】
〔表層粒径観察〕
表層粒径観察はめっき溶解後のサンプルを断面光学顕微鏡観察(100倍視野で連続観察)することにより行った。結晶粒径は単位長さ当たりの粒径で整理した。
結果を表5にまとめて示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5におけるNo.2、5、7〜10、13〜17は、本発明で規定する条件を全て満足する本発明例である。本発明により、外観ムラがない溶融亜鉛めっき鋼板を得られることがわかる。
【0067】
一方、表5におけるNo.1はオフセット量を設けていない比較例であり、No.3、4、6及び11は、本発明で規定する(1)式を満足しない比較例であり、さらにNo.12はオフセット量tが本発明で規定する範囲の上限を超える比較例である。いずれも、溶融亜鉛めっき鋼板に外観ムラが発生し、不芳な結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】CGLの一例を模式的に示す説明図である。
【図2】前研削工程における鋼板、一対のブラシロールおよびその他の付帯設備の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】一対のブラシロールの配置状況を誇張して示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 鋼板
2a,2b ペイオフリール
3 溶接機
4 前洗浄機
5 入側ルーパー
6 連続焼鈍炉
7 溶融亜鉛槽
8 付着量調整装置
9 GA炉
10 冷却帯
11 スキンパスミル
12 テンションレベラー
13 出側ルーパー
14 フライングシャー
15 静電塗油機
16 巻取機
20 鋼板
21〜24 一対のブラシロール
21a〜24a 上ブラシロール
21b〜24b 下ブラシロール
25a、25b 水噴射装置
26 洗浄用水噴射装置
27a、27b、28a、28b 洗浄ブラシ(ロール)
29 リンガーロール
30 収容部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される鋼板の両面を、対向して配置される一対のブラシロールにより研削してから溶融亜鉛めっきを行って溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、前記鋼板の搬送方向についての、一方の前記ブラシロールの中心軸と他方の前記ブラシロールの中心軸とのオフセット量t(mm)、及び前記鋼板の板厚方向への前記ブラシロールの押し込み量P(mm)が、下記(1)式及び(2)式の関係を満足することを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
0.5/P≦t≦3.0 ・・・・・(1)
0.5≦P≦5mm ・・・・・(2)
【請求項2】
前記鋼板は極低炭素Ti添加鋼からなり、該鋼板のTi含有量(wt%)、及び前記押し込み量P(mm)が下記(3)式の関係を満足する請求項1に記載された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
25W−0.5≦P≦5 ・・・・・(3)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−13447(P2009−13447A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174255(P2007−174255)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】