表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法及び表面改質フッ素樹脂フィルム
【課題】外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布することなく容易にゴムと接着できる表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルム、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体、及び医療用ゴム製品を提供する。
【解決手段】希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、を順次行う表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法に関する。
【解決手段】希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、を順次行う表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルム、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体、及び医療用ゴム製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学的に安定な炭素−フッ素(C−F)結合を有するフッ素樹脂は、化学的安定性及び熱的安定性に優れるほか、自己潤滑性を有するために摩擦係数が低い等の優れた特性を有する。しかしながら、フッ素樹脂は、汎用樹脂に比べて極めて高価であることから、その用途は限られていた。実用製品へのフッ素樹脂の適用コストを抑えるには、その使用量を限定することが重要である。具体例としては、シート状又はフィルム状のフッ素樹脂と他の材質(素材)とを有機系接着剤によりラミネートする方法が考えられる。
【0003】
フッ素樹脂は、化学的安定性を生かすことができる医薬品容器の栓等への適用が考えられるが、他の材質(素材)との接着性が悪いため、普及していない。ここで、一般的な医薬品容器は、薬液を挿入した状態で出荷されており、栓と薬液とが直接接触する。そのため、拡散浸透した薬液が栓材の内部材質と化学反応を起こし、薬液成分が変質する恐れがある。そこで、栓の材質であるゴムの表面に耐薬品性に優れるフッ素樹脂フィルムを被覆材としてラミネートすることが好ましいとされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
接着剤によりフッ素樹脂と他の材質(素材)とを接着可能にするには、化学的に安定なC−F結合を有するフッ素樹脂の表面改質が必要不可欠である。従来から、フッ素樹脂成形物の表面を改質する種々の方法が提案されている。最も広範に使用される表面改質法としては、ナトリウム−アンモニア溶液処理、ナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理が挙げられる。これらの方法によれば、C−F結合が化学的に切断されるため、フッ素樹脂表面を化学的にほぼ完全に改質して、他の材質(素材)との接着が可能となることが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの使用の際には、高い化学反応性、毒性、臭気により、作業者の健康や自然環境への負荷が極めて高い。また、表面改質によりフッ素樹脂表面は茶褐色を呈してしまう。製品部材として茶褐色に呈するのは、外観上好ましくない。特に、厳密な品質管理が求められる医療用製品の被覆材として適用する場合、異物検査などの障害になることがあり、着色のない改質方法が求められる。
【0006】
前記のナトリウム−アンモニア溶液処理は化学的な表面改質法であるが、他の方法として、スパッタエッチング処理などの物理的な方法を用いてフッ素樹脂フィルムの表面改質を行う手法も検討されている。しかしながら、この方法では、表面改質されたフッ素樹脂フィルムと他の材質(素材)とを接着する場合、有機系接着剤を塗布する必要がある。有機系接着剤の使用は、医療用製品の製造工程には好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−216753号公報
【特許文献2】特願2010−188148号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松尾唯男、「シランカップリング剤による塩素化ブチルゴムの架橋」、日本ゴム協会誌、1985年2月、Vol.58、No.2、p.88−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述の状況を鑑み、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布することなく容易にゴムと接着できる表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルム、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体、及び医療用ゴム製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の先行技術に対して、表面改質されたフッ素樹脂フィルムと他の材質(素材)とを接着する際に、有機系接着剤の塗布が必要でない方法として、本発明では、次の先行技術を参照して鋭意検討した。
【0011】
特許文献2では、フッ素樹脂表面に有機シラン化合物のシランカップリング剤の自己組織化膜を成膜して、フッ素樹脂フィルムと無電解銅メッキ被膜との密着性効果を得ている。具体的には、フッ素樹脂フィルム表面に大気圧プラズマ処理を施して、親水基(水酸基、カルボキシル基等)を形成した後に、アミノ基を有したシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3−aminopropyltrimethoxysilane):以下、APS)を気相蒸着している。フッ素樹脂フィルム表面には、APSの自己組織化膜が形成されており、APSの末端官能基であるアミノ基で被覆されている。そして、無電解銅メッキ処理の前処理工程であるアクチベータ処理(塩化パラジウムの希釈溶液に浸漬する処理)工程において、APSの末端官能基であるアミノ基とパラジウムイオンとの錯体化学反応が生じるために、その後、無電解銅メッキ被膜が形成されることを示している。
【0012】
一方、非特許文献1においては、APSの末端官能基であるアミノ基は、ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン系官能基との間で化学反応を生じる性質があることを示している。
【0013】
これらの点を鑑み、本発明者等が更に検討した結果、所定の工程を経て、フッ素樹脂フィルムの表面に対してゴムと親和性の高い有機シラン化合物を成膜した後、未反応の有機シラン化合物を除去することで、有機系接着剤を使用しなくても容易にゴムと接着でき、前記課題を見事に解決できることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明は、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、を順次行う表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0015】
上記フッ素樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂の成形物であることが好ましい。
【0016】
上記有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0017】
上記有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することが好ましい。
【0018】
上記有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0019】
上記有機シラン化合物の成膜処理は、気相蒸着法又は液相成膜法で行うことが好ましい。
【0020】
本発明はまた、上記製造方法により得られる表面改質フッ素樹脂フィルムに関する。
【0021】
本発明はまた、上記表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより上記表面改質フッ素樹脂フィルムと上記ゴムとの複合体を得る複合体の製造方法に関する。
【0022】
上記複合体の製造方法は、実質的に有機系接着剤を使用しないことが好ましい。
【0023】
本発明はまた、上記複合体の製造方法により得られる複合体に関する。
【0024】
本発明はまた、上記複合体を用いて作製した医療用ゴム製品に関する。
【0025】
以下に、本発明の原理を説明する。従来から行われていたナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理では、フッ素樹脂表面のC−F結合を化学的に切断して、フッ素樹脂表面を化学的にほぼ完全に改質するとともに、マイクロメートルレベルの凹凸構造を形成することで、有機系接着剤を用いて他の材質(素材)とを接着している。その反面、作業者の健康や自然環境への負荷が極めて高いこと、処理後のフッ素樹脂表面が茶褐色を呈してしまうという問題がある。
【0026】
本発明は、上記方法とは原理が異なり、常温常圧下の雰囲気下で大面積にわたる均一な巨大エネルギーを簡便に供給することができる大気圧プラズマ処理工程、及び有機シラン化合物の自己組織化膜の成膜工程を融合することにより得られた表面改質フッ素樹脂フィルムと、ゴムとの複合体を成形する技術を提供するものである。大気圧プラズマ処理は、誘電体バリア放電により発生させたプラズマを用いる。ここで、誘電体バリア放電は、対向させた2つの電極の高位電極を覆うように誘電体を配設して、その電極間に希ガスを主成分とする励起ガスを供給し、電極間に高周波電界を印加することで、大気圧下で生じる。誘電体バリア放電によるプラズマは、アークに移行せずかつ電子温度が高く、イオン温度が低い状態を安定的に維持できる非平衡プラズマであり、更に、印加する投入電力が低くても発生することができる。被処理材料に与える熱的ダメージが少ないために、化学反応によるソフトな表面改質技術として、様々な産業応用分野で利用されている。
【0027】
しかしながら、プラズマ処理によるフッ素樹脂フィルム表面の脱フッ素のみでは、ナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理のように、フッ素樹脂フィルム表面を化学的にほぼ完全に改質するとともに、フッ素樹脂フィルム表面に凹凸構造を形成することは期待できない。そこで、親水基(親水性官能基)を形成したフッ素樹脂フィルムに有機シラン化合物APSの自己組織化膜を成膜した。ここで、APSの末端官能基は、フッ素樹脂表面及びゴム表面の官能基との間で化学結合を形成することが可能である。故に、APSの自己組織化膜が形成された表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムを加硫成形することで、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を容易に形成することが可能となる。
【0028】
以上から、有機系接着剤を用いることなく、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの接着強度を、従来のナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理を用いた場合と同程度に確保することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布することなく容易にゴムと接着できる表面改質フッ素樹脂フィルムを容易に提供することができる。また、該表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することで、これらの複合体が容易に製造できる。該複合体は、医療用製品の被覆材に適用する場合でも異物検査などの障害になることがないため、医療用ゴム製品に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、及び表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法を説明する概念図を示す。
【図2】PTFEフィルムのSEM観察像を示す。
【図3】プラズマ発生装置の概略模式図を示す。
【図4】プラズマ発生装置を説明する図であり、(a)は側面図を、(b)は平面図を示す。
【図5】工程(2)を説明する概念図を示す。
【図6】工程(2)を説明する図であり、(a)はAPSの加水分解を、(b)はPTFE表面におけるAPSの自己組織化膜の形成を示す。
【図7】表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を説明する概念図を示す。
【図8】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:5.0L/min、GAP(3):∞、試験片走査往復回数:10回)
【図9】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):∞、試験片走査往復回数:10回)
【図10】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:10回)
【図11】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルであり、(a)はスペクトル全体を、(b)はC1sスペクトルを示す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回)
【図12】工程(2)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルであり、(a)はスペクトル全体を、(b)はC1sスペクトルを示す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回)
【図13】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:30分)
【図14】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:1時間)
【図15】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:2時間)
【図16】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:30分)
【図17】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:1時間)
【図18】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:2時間)
【図19】(a)は実施例1の複合体、(b)は比較例1の複合体の状況を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本実施形態では、特に断りがない場合、フッ素樹脂をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ゴムをハロゲン化ブチルゴムとする。
【0032】
本発明に係る表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、及び表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法の概念図を図1に示している。図1(a)は、未処理のフッ素樹脂フィルムを示している。図1(b)は、フッ素樹脂フィルムに大気圧プラズマ処理を施す工程(工程(1))と、後述する工程(2)とにより親水化処理を施す工程を示している。本発明においては、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。具体的には、図3に示すように、対向させた上下2つの電極の間にフッ素樹脂フィルムを設置し、その電極間に希ガスを主成分とする励起ガスを供給させる。そして、電極間に高周波電界を印加することで、大気圧下の誘電体バリア放電、すなわち大気圧プラズマが生じる。プラズマ照射されるフッ素樹脂フィルム表面では、プラズマ中に含まれるラジカル、イオン、電子等の励起化学反応により脱フッ素化が起こるため、分子レベルの凹凸構造形成とともにフッ素樹脂フィルム表面の原子にダングリングボンドが発生する。大気圧プラズマ処理は、プラズマ照射領域をフッ素樹脂フィルム表面上に対して複数回往復走査させることで施される。大気圧プラズマ処理を数分間施している間、フッ素樹脂フィルム表面原子のダングリングボンドは、プラズマ照射領域から外れると大気中の酸素及び水成分と反応して、過酸化物官能基、水酸基、カルボニル基がフッ素樹脂フィルム表面に自発的に形成される。このようにして、フッ素樹脂フィルムの表面に過酸化物官能基を導入できる。
【0033】
次に、工程(1)で過酸化物官能基を導入したフッ素樹脂フィルムを蒸留水などの水に浸漬する(工程(2))。ここで、フッ素樹脂フィルム表面上の過酸化物官能基、カルボニル基は、水分子と反応し、親水性官能基(水酸基、カルボキシル基等)に変化する。これにより、フッ素樹脂フィルム表面上の親水性官能基を増加させることができる。
【0034】
図1(c)は、工程(2)で親水化処理したフッ素樹脂フィルム表面に有機シラン化合物の成膜処理を施す工程を示している(工程(3))。ここで、有機シラン化合物は、フッ素樹脂表面及びゴム表面の官能基との間で化学結合を形成することが可能な官能基を末端に有しており、後述する工程で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行うことで、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を容易に形成することができる。
【0035】
図1(d)は、工程(3)で有機シラン化合物の自己組織化膜を成膜したフッ素樹脂フィルムに、減圧乾燥炉などを用いて減圧乾燥処理を施す工程を示している(工程(4))。本処理を施すことにより、自己組織化膜の内部に在留する未反応の有機シラン化合物の凝縮物を除去することができ、後述する工程で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行う際に、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの界面で気泡が発生することを防止することが可能となる。以上の工程(1)〜(4)を経て、表面改質フッ素樹脂フィルムを得ることができる。
【0036】
図1(e)は、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行って、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を形成する工程(工程(5))を示している。この工程(5)を経て、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得ることができる。
【0037】
以下、工程(1)〜(5)の好ましい条件等について説明する。
【0038】
大気圧プラズマを発生させるには、50Hzから2.45GHzまでの高周波電源を用いて、対向する2つの電極の高周波電界を印加する。対向させた2つの電極には、少なくとも片側(例えば、高位側電極)が誘電体で被覆された円筒状又は平板状の金属を用いる。ここで、対向させた2つの電極間の距離は、5mm以下であることが望ましい。
【0039】
プラズマを発生させる励起ガスは、希ガスのヘリウム、アルゴン、ネオンなどを主成分とする。また、励起ガスに酸素、窒素、水素、水蒸気、アンモニア蒸気、アルコール蒸気を適量混合させることで、被処理材の表面改質を大いに促進することができると考えられる。
【0040】
その際には、チャンバーに励起ガスを溜め込んで雰囲気制御条件において大気圧プラズマを発生させる場合と、対向させた2つの電極の間に励起ガスを供給させる形態をとる完全大気開放型条件において大気圧プラズマを発生させる場合が考えられる。
【0041】
なお、完全大気開放条件においても、電極間に供給する励起ガスは所定の混合比を保持する必要がある。そのため、供給励起ガスがプラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素、酸素、水蒸気等を巻き込み混入させることを防止する障害壁を設置することが望ましい。
【0042】
表面改質の対象となるフィルムはフッ素樹脂フィルムである。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE(4Fモノマーと微量のパーフルオロアルコキシドとの共重合体)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。ここで、フィルムとは概平板状に成形された成形品を指す。フィルムの成形方法に特に指定はないが、圧縮成形、スカイブド成形、キャスト成形などが挙げられる。フィルムの厚みに特に指定はないが、ゴムとの複合体を成形する場合、フィルムの厚みは、10μm〜220μmが好ましく、10μm〜150μmがより好ましい。
【0043】
また、表面改質の対象となるフィルムは、表面改質の対象となる表面がフッ素樹脂であれば他の物質との複合体であっても良い。例えば、フッ素樹脂フィルムの片面に金属膜などを被覆したフッ素樹脂フィルムを準備し、その被覆されていない面のフッ素樹脂に対して表面改質を行っても良い。あるいは、片面に別の樹脂などが積層されたフッ素樹脂フィルムを準備し、その積層されていない面のフッ素樹脂に対して表面改質を行っても良い。
【0044】
フッ素樹脂は、化学的安定性及び熱的安定性に最も優れ、かつ自己潤滑性が最も良好であるPTFEであることが好ましい。
【0045】
有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、アミノ基を有することがより好ましい。これらの官能基は、ゴム中の官能基との化学反応が生じて結合する性質を有しており、これにより、有機シラン化合物とゴムとが結合することができる。なお、これらの官能基は、1つであってもよいし、複数であってもよく、例えば、ジオール基、ジチオール基であってもよい。また、アミノ基は、低級アミノ基であっても高級アミノ基であってもよい。
【0046】
また、有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられ、メトキシ基が好ましい。アルコキシ基は、表面改質フッ素樹脂フィルム表面に付与された親水基と脱水縮合反応によって結合する性質を有しており、これにより、有機シラン化合物と表面改質フッ素樹脂フィルムとが結合することができる。なお、アルコキシ基は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0047】
そして、有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。該シランカップリング剤の具体例としては、
アミノ基を有するものとして、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリ(メトキシエトキシエトキシ)シラン、11−アミノウンデシルトリエトキシシラン、2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、6−(アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、11−(2−アミノエチル)アミノウンデシルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、3−(アミノエチルアミノ)イソブチルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
カルボニル基を有するものとして、トリエトキシシリルプロピルマレイン酸などが挙げられる。
アミド基を有するものとして、N,N−ジオクチル−N’−トリエトキシシリルプロピルウレアなどが挙げられる。
水酸基を有するものとして、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
エポキシ基を有するものとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
エステル基を有するものとして、アセトキシメチルトリエトキシシラン、アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、ベンゾイルオキシプロピルトリメトキシシラン、10−(カルボメトキシ)デシルジメチルメトキシシラン、2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
チオール基を有するものとして、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン、S−(オクタノイル)メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
なかでも、アミノ基を有するもの、特にAPSを好適に使用できる。
【0048】
有機シラン化合物を成膜処理する方法としては、気相蒸着法、液相成膜法を好適に使用できる。
【0049】
ゴムとしては、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴム又は、1,2−ポリブタジエン等が使用される。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体に使用されるゴムは、上記に限定されないが、ブチル系ゴム又はエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、EPDMゴムという)が好ましい。
【0051】
ブチル系ゴムは耐気体透過性及び耐水蒸気透過性に優れることから好ましい。ブチル系ゴムとしては公知の化合物を用いて良いが、例えば、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(以下、「ハロゲン化ブチルゴム」という)、又はその変性物が挙げられる。変性物としては、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭素化物等が挙げられる。なかでも、架橋の容易さからハロゲン化ブチルゴムが好ましく、塩素化ブチルゴム又は臭素化ブチルゴムがより好ましい。
【0052】
また、EPDMゴムは加工性に優れているため好ましい。EDPMゴムにはゴム成分のみからなる非油展タイプのEPDMゴムと、ゴム成分とともに伸展油を含む油展タイプのEPDMゴムとが存在するが、本発明では、いずれのタイプも使用可能である。EPDMゴムにおけるジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルポルネン、1,4−ヘキサジエン又はシクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0053】
さらに、ハロゲン化ブチルゴムとEPDMゴムの組み合わせは相溶性が良く、耐気体透過性及び耐水蒸気透過性に優れるとともに、加工性にも優れることからより好ましい。
【0054】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を、例えば、注射器用のガスケットのような医療用ゴム製品として使用する場合には、ゴムの主成分として気体透過性の低いブチルゴムの使用が好ましい。架橋剤としては、清浄性の観点から、トリアジン誘導体架橋の使用が好ましい。
【0055】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形は、これらを接触させた状態で所定の時間に渡って、熱と圧力を加え、ゴムの架橋を行いながら表面改質フッ素樹脂フィルムと接着成形させる技術である。加硫成形を行う時間と温度は、未架橋ゴム配合の架橋への必要に応じて、設定が行われる。
【0056】
一般的なゴム配合において、加硫温度は140℃〜200℃である。架橋に必要な時間は成形体の寸法に依存するが、医療用ゴム栓などの小型物では1分〜20分程度である。加硫成形を行う時の圧力に関しては、公知のゴムの架橋方法における圧力が採用される。一般に成形物の雌型となる金型に対して、隙間無くゴムが充填される程度の圧力を加えれば良く、医療用ゴム栓などの小型物では10〜20MPa程度である。
【0057】
本発明によれば、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得るには、表面改質後のフッ素樹脂フィルムを未加硫ゴムと加硫接着を行うだけで良く、一般に用いられる有機系接着剤の使用は必要でない。本発明において、有機系接着剤とは、請求項に記載のフッ素樹脂フィルム、有機シラン化合物、及びゴムに含まれる有機化合物以外の成分を言う。一般にアクリル樹脂系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤などが挙げられる。これらの有機系接着剤は一般には表面改質フィルムの表面に塗布されることで被接着物との剥離強度を向上させるが、本発明によれば十分な剥離強度を与えるゴムとの複合体が得られる為、これらの有機系接着剤を使用する必要はない。また、これらの有機系接着剤は一般に高温での安定性に欠ける為、加硫工程において劣化するおそれがあるが、本発明によれば加硫温度、及び時間は有機系接着剤の安定性に考慮する必要がなく、ゴム成分の加硫に必要な温度、及び時間を自由に選ぶことが出来る。
【実施例】
【0058】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
以下の5つの工程により、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとが接合されたゴム複合体を形成した。
希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、
上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、
有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、
減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得る工程(5)の各工程である。以下、それぞれの工程について説明する。
【0060】
工程(1)
厚み0.2mmのPTFEフィルム(日本バルカー工業(株)製、バルフロン(登録商標))を50mm×80mmの寸法に切り出し、この切片を試験片とした。試験片は、焼成樹脂材がスカイブド成形されたものであり、図2のSEM観察像のように、試験片表面には、無数の焼成孔や繊維くずが存在している。そのため、先ず、試験片を水洗してからアセトン中で超音波洗浄を行った。その後、大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理には、図3に示す容量結合型大気圧プラズマ発生装置を用いた。プラズマ処理の試験条件は、表1に示すとおりとした。
【0061】
【表1】
【0062】
本実施例で使用した容量結合型大気圧プラズマ発生装置は、13.56MHz高周波発振電源11、マッチング回路ユニット12、電極ユニット、及びアルミ合金製の試料台走査ステージ(80×160mm)6から構成されている。上記電極ユニットは棒状形状になっており、直径3mmのアルミ合金製ロッド10に内径3mm、外径5mmのアルミナ製絶縁パイプ9を被覆した構造である。励起ガスであるヘリウムガスは、ガスボンベ1から配管経路2、マスフローコントローラー(MFC)3、配管経路4、吹き出しノズル5を経て、試料台走査ステージ6上にセットされた試験片7付近に供給した。
【0063】
MFC3は、センサー部で検出したガスの質量流量信号と流量設定信号を瞬時比較し一致するようにバルブ開閉調整を行い、ガスの供給流量を制御する。試験片7付近にヘリウムガスが存在した状態で、高周波電力を電極ユニットとアルミ合金製の試料台走査ステージ6のGAP(1)間に印加して、プラズマ8を発生させた。これにより、誘電体バリア放電条件下でのグロープラズマ放電を実現している。そして、プラズマ8内に試験片7を所定回数往復走査させた。本実施例では、試験片7付近に供給するガス濃度は、ヘリウムガス100容量%とした。
【0064】
本実施例では、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。図4(a)に、使用した大気圧プラズマ発生装置の詳細図を示す。電極間に供給する励起ガスは所定の混合比を保持する必要があるため、図4(a)に示されるように、供給励起ガスがプラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素ガス、酸素ガス等を巻き込み混入することを防止する遮蔽板13、14を設置した。
【0065】
工程(2)
大気圧プラズマ処理後の表面改質試験片を、蒸留水を入れたビーカーの中で浸漬処理した。処理時間は5分間であった。工程(1)の大気圧プラズマ処理により試験片表面に形成された過酸化物官能基やカルボニル基は、ここでの蒸留水の浸漬処理により、水分子と加水分解反応が生じて親水性官能基(水酸基、カルボキシル基等)に変化するため、試験片の濡れ性は良好となった。なお、浸漬処理により、試験片表面の低分子残渣が除去された。浸漬処理後に試験片を乾燥させた。
【0066】
工程(3)
本実施例では、ゴムとの親和性の高い有機シラン化合物を成膜させて、有機シラン化合物の自己組織化膜をフッ素樹脂フィルム表面に成膜する工程として、気相蒸着法を適用した。また、有機シラン化合物には、APSを用いた。
【0067】
図5に示されるように、試験片7と、有機シラン化合物APSのトルエン溶液24を入れたビーカー23とを、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製容器22内に収納し密封した。さらに、PFA製容器22をステンレス製容器21内に収納し密封した。その後、ステンレス製容器をオーブン26に入れて加熱することにより、試験片7表面にAPSの自己組織化膜を形成した。実験条件は、表2に示すとおりとした。
【0068】
加熱終了後、試験片をメタノール中で5分間超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0069】
【表2】
【0070】
なお、加熱終了後の試験片の洗浄は、上記以外の1mol/L塩酸水溶液、蒸留水、及び1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に順次各1分間浸漬して洗浄し、最後に蒸留水を用いて1分間超音波洗浄した場合にも、本実施例と同様の結果が得られることが確認された。
【0071】
加熱により、ビーカーから有機シラン化合物APSの蒸気25が発生する。APS分子中のメトキシ基は、図6(a)に示されるように、大気中の水分と反応して加水分解され、水酸基へと変化する。その後、図6(b)に示されるように、試験片7表面の水酸基と、APS分子中に形成された水酸基との間で脱水縮合が起こり、APS分子が試験片表面に結合する。さらに、隣接するAPS分子の水酸基間でも脱水縮合が起こり、APSの自己組織化膜が成膜形成される。
【0072】
工程(4)
工程(3)後の試験片を、減圧乾燥炉内に入れて、減圧乾燥処理をした。本処理を施すことにより、試験片表面と未反応である有機シラン化合物のAPS凝縮物を除去することができ、後述する工程(5)で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行う際に、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの界面で気泡が発生することなく、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を形成することが可能となった。なお、到達真空度は大気圧に対して−100kPa、乾燥温度は150℃、乾燥時間は1時間とした。
【0073】
工程(5)
工程(4)後の試験片とゴムとの複合体の成形は加硫成形にて行った。架橋剤として2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン(三協化成(株)製、ジスネットDB)を含む未加硫ゴムシート(ハロゲン化ブチルゴム、厚み2mm)を準備し、表面改質された側の試験片の表面と未加硫ゴムシートとを重ねた状態でプレス型に入れた。なお、後述する剥離試験で必要な掴み代を形成するため、試験片と未加硫ゴムシートとの間には、該掴み代に相当する形状の不活性フィルムを挿入した。加硫温度は180℃、加硫処理時間は10分間、加硫処理圧力は10MPaに設定して加硫成形を行い、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得た。
【0074】
上述の工程(1)〜(5)の条件を最適化するため、以下の実験を行った。
【0075】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片の濡れ性評価では、蒸留水の静的接触角を静滴法により、接触角計(協和界面科学社製、CA−X150型)を用いて測定した。蒸留水が試験片表面に接触して5秒以内に接触角を測定した。
【0076】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片表面をX線光電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)分析装置(アルバックファイ(株)製、5500MT型)を用いて、化学状態分析を行った。なお、装置の励起X線源はマグネシウム(Mg)で、励起X線出力は200Wであった。
【0077】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片表面を原子間力顕微鏡(AFM、デジタル・インスツルメンツ社製、Nano Scope IIIa型)及び走査型電子顕微鏡(SEM、日本エフ・イー・アイ社製、Sirion型)による表面形状観察を行った。
【0078】
処理後の試験片の濡れ性を評価する上で、上記の接触角測定とともに表面粗さは重要な因子である。表面粗さは、固体表面の化学的性質とともに濡れ性に影響を及ぼす因子である。本実施例においてAFM及びSEM像を観察した結果、工程(1)及び工程(2)の処理前後での試験片表面の表面粗さは、大きく変化していないことが分かった。従って、試験片表面が親水化した結果は、親水性官能基の形成による化学的性質の変化が主な要因であると考えられる。
【0079】
工程(5)処理後の表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を、図7に示される形式で行った。図7の平面図において、20mm×45mmの範囲が接着面を、残りの20mm×5mmの範囲が掴み代(非接着面)を示している。該掴み代を引張強度試験機((株)島津製作所製、AUTOGRAPH AG−1000D型)のチャックに挟み、試験片(表面改質フッ素樹脂フィルム)7とゴムシート31を180°の方向に引張り、接着界面32の剥離強度(N/cm)を測定した。試験片7の厚みは0.2mm、ゴムシート31の厚みは2mmとした。引張試験速度は、50mm/minとした。
【0080】
<大気圧プラズマ処理条件と試験片表面の架橋効果の最適化>
I.大気圧プラズマ処理条件(励起ガスの供給流速)について
工程(1)のみを実施した試験片を用いて、励起ガスの供給流速の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表3に示すとおりとした。蒸留水の静的接触角を測定した。
【0081】
【表3】
【0082】
試験片について、蒸留水の静的接触角を測定した結果を表4に、XPS分析を行った結果を図8、図9に示している。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して試験片を大気圧プラズマ処理した場合、励起ガスの供給流速が大きい10.0L/minの条件の方が、接触角は小さくなっている(表4)。また、XPS分析結果では、励起ガスの供給流速5.0L/minの条件下の結果(図8)と、励起ガスの供給流速10.0L/minの条件下の結果(図9)を比較すると、図9は、O1sピーク強度が増加しており、試験片の濡れ性は良好となっている。よって、励起ガスの供給流速の最適値は10.0L/minとした。
【0083】
【表4】
【0084】
II.大気圧プラズマ処理条件(試験片走査往復回数)について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いて、試験片走査往復回数の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表5に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0085】
【表5】
【0086】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、及び工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表6に示している。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して試験片を大気圧プラズマ処理した場合、試験片走査往復回数が2〜8回の範囲では、試験片走査往復回数を増すごとに、接触角は小さくなり、試験片の濡れ性は良好となった。
【0087】
プラズマ照射されるフィルム表面では、ラジカル、イオン、電子等の衝突作用により、フィルム分子の主鎖が切断されて凹凸構造が形成される。その一方、切断された主鎖同士が再結合して架橋効果を得て表面硬化が生じることが考えられる。試験片の表面硬化は、濡れ性とともに接着強度に寄与する。ただし、プラズマ照射時間の過剰な増加は、フィルム分子の主鎖切断が累積され低分子量鎖が積層するため、フィルム強度の低下を招く。今回、試験片とゴムとの複合体の剥離強度が試験片走査往復4回で最大値をとったのは、上記の試験片の表面硬化を得られたためと推察される。
【0088】
【表6】
【0089】
III.大気圧プラズマ処理条件((GAP(3))について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いてGAP(3)の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を変化させて、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表7に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0090】
【表7】
【0091】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、ならびに工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表8に示している。
【0092】
本実施例では、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。電極間に供給する励起ガスは、プラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素ガス、酸素ガス等を巻き込みプラズマ発生領域に混入させる可能性が高い。なお、本実施例で用いる大気圧プラズマ発生装置の電極間に、供給する励起ガスの中へ窒素ガスをMFCにより意図的に混合してみたところ、ヘリウムガス流速に対する窒素ガス流速の割合が0.2%以上ではプラズマ発生を維持できなくなり、プラズマが消滅するという結果を得た。これは、窒素ガスの混入がプラズマエネルギーの損失に繋がり、試験片の表面硬化を阻害するものと考えられる。そこで、図4(a)に示すような遮蔽板13、14を設置することで、励起ガスへの大気中の窒素ガスの混入を抑制できるものと考えられる。しかしながら、試験片の親水化を広面積処理するには、図4(b)に示すように試験片(厚み0.2mm)を走査することが必要となるため、図4(a)のGAP(3)をゼロにはできない。
【0093】
表8には、GAP(3)を狭くするほど、接触角が大きくなり試験片の濡れ性は悪くなるが、剥離強度は向上する結果を示している。これは、プラズマ発生領域への酸素ガスの混入が少なくなるために、試験片の親水化処理が低減されたと考えられる。図10には、GAP(3)が0.5mmの条件下でのXPS分析結果を示しているが、図9(GAP(3):∞)に比べてN1sピーク強度が減少していることが分かる。すなわち、プラズマ発生領域への窒素ガスの混入が少なく、プラズマエネルギーの損失が抑制されたために、試験片の表面硬化が向上したものと考えられる。よって、GAP(3)の最適値は0.5mmとした。
【0094】
【表8】
【0095】
IV.試験片表面の架橋効果の最適化(試験片走査往復回数)について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いて、GAP(3)を0.5mmに設定した場合の試験片走査往復回数の最適値を検討した。プラズマ処理の条件は、表9に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0096】
【表9】
【0097】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、及び工程(5)処理後に試験片とゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表10に示している。試験片走査往復回数を増すごとに、接触角は小さくなり、試験片の濡れ性は良好となった。ただし、図4(a)のGAP(3)を0.5mmに設定して遮蔽板14を取り付けたため、表6に比べて接触角は大きくなっており、これは、プラズマ発生領域への大気中の酸素ガスの混入がより少なくなることで試験片の親水化が低下したためと考えられる。剥離強度は試験片走査往復6回で最大値を示していることから、試験片走査往復回数は6回が最適値とした。
【0098】
【表10】
【0099】
以下では、実施例1の試験結果について述べていく。試験条件は、表1中の印加電力を100W、電極間距離(GAP(1))を1.5mm、励起ガス供給流速を10.0L/min、試験片走査速度を2.25mm/sec、試験片走査往復回数を6回として採用し、また、GAP(3)を0.5mmに設定して、試験片の試験結果を得ている。
【0100】
<大気圧プラズマ処理による試験片表面の親水化>
工程(1)後の試験片表面のXPS分析を行った結果を図11(a)に示している。図10(試験片走査往復回数10回)の場合に比べて、O1sピーク強度が若干低くなっている。これは、試験片往復走査回数、すなわち、大気圧プラズマ処理時間の減少によって、形成される過酸化物官能基や親水性官能基(水酸基等)が減少したためと考えられる。
【0101】
図11(b)はC1sスペクトルを示す。未処理の試験片表面のXPS分析では292.4eVの−CF2に由来するメインピークのみが認められたが、図11(b)では、291.0eVの−CFに由来するピークと、288.5eVの−C=O、286.2eVの−C−O−、284.6eVの−CH2や−C=C−に由来するピークが認められた。この結果は、試験片表面が大気圧プラズマ処理により脱フッ素化されて、過酸化物官能基や親水性官能基が試験片表面に形成されたことを示している。蒸留水の静的接触角を測定した結果は、表10に示すように49.4°であった。
【0102】
<蒸留水への浸漬処理による親水性官能基の形成>
工程(2)後の試験片表面のXPS分析を行った結果を図12(a)に示している。工程(1)後の結果を示す図11(a)に比べて、C1sピークが低くなっている。これは、蒸留水への浸漬処理により、試験片表面の低分子残渣が除去されたことが主な要因と考えられる。図12(b)に示すC1sスペクトルでは、−CH2や−C=C−に由来する284.6eVのピークが低くなった一方、291.0eVの−CFに由来するピークが相対的に高くなったが、その他の変化は認められなかった。しかしながら、蒸留水の静的接触角を測定した結果は37.6°となった。これは、試験片表面の過酸化物官能基等が水分子と加水分解反応することで、親水性官能基に変化したため、試験片表面の濡れ性が良好となったものと考えられる。
【0103】
<有機シラン化合物の自己組織化膜の成膜>
工程(3)後の試験片表面のXPS分析、及びSEM観察の結果を、図13、図14、図15に示している。実施例1では、ゴムとの親和性の高い有機シラン化合物APSを気相蒸着法により試験片表面に成膜させている。工程(3)における試験条件に関して、表2中のAPS量を0.10mL、APS加熱温度を130℃として、APS加熱時間の試験条件を30分、1時間、2時間の3つに設定して、試験片に成膜処理を施した。
【0104】
APS加熱時間を30分とした試験片表面のXPS分析の結果を図13(a)に、SEM像を図13(b)に示している。APS加熱時間を1時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図14(a)に、SEM像を図14(b)に示している。APS加熱時間を2時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図15(a)に、SEM像を図15(b)に示している。
【0105】
図13(a)、図14(a)、図15(a)に示されるように、APS加熱時間にかかわらず、試験片表面のXPS分析の結果は同様の傾向となり、F1sピークが消滅する一方、C1s、N1s、O1s、及びSi2pピークが明瞭に出現していることが認められた。これ故に、親水性官能基が形成した試験片表面に、有機シラン化合物APSの自己組織化膜が成膜されたことが確認された。なお、表11には、試験片表面のXPS分析の結果から算出した成分元素の組成濃度と、蒸留水の静的接触角を測定した結果を示している。ここで、APS加熱時間ごとにおける成分元素の組成濃度は、同様の傾向を示している。すなわち、APS加熱時間30分で有機シラン化合物APSを気相蒸着すると、試験片表面にAPSの自己組織化膜が成膜され得ると考えられる。
【0106】
試験片表面のAPS自己組織化膜をSEM像観察すると、APS加熱時間30分の図13(b)ではAPS自己組織化膜が均一に成膜されていることが認められる。しかしながら、APS加熱時間1時間の図14(b)では、試験片表面と未結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物が認められ、また、APS加熱時間2時間の図15(b)ではAPS凝縮物が顕著に積層していることが認められている。ここで、APS加熱時間2時間での蒸留水の静的接触角は、その他の条件よりも大きくなり、濡れ性が低下している。これは、図15(b)に示すように、顕著に積層したAPS凝縮物の表面粗さが大きいとともに、APSの末端官能基であるアミノ基がAPS凝縮物の表面上に隆起できていないためとも考えられる。
【0107】
【表11】
【0108】
<減圧乾燥処理による有機シラン化合物APS凝縮物の除去>
工程(4)後の試験片表面のXPS分析、及びSEM像観察した結果を、図16、図17、図18に示している。ここで、APS加熱時間を30分とした試験片表面のXPS分析の結果を図16(a)に、SEM像を図16(b)に示している。APS加熱時間を1時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図17(a)に、SEM像を図17(b)に示している。APS加熱時間を2時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図18(a)に、SEM像を図18(b)に示している。
【0109】
減圧乾燥処理前の工程(3)後(図13(a)、図14(a)、図15(a))に比べて、図16(a)、図17(a)、図18(a)に示される試験片表面のXPS分析の結果は、O1sピークが低下する一方、C1sピークが増加し、また、N1s及びSi2pピークが明瞭に出現する同様の傾向を示している。ここで、APS加熱時間を30分とした図16(a)と、APS加熱時間を1時間とした図17(a)では、F1sの明瞭な出現が認められた。
【0110】
表12には、試験片表面のXPS分析の結果から算出した成分元素の組成濃度と、蒸留水の静的接触角とを測定した結果を示している。表11と比較すると、APS加熱時間ごとの成分元素の組成濃度に対してCの組成濃度が10%程度増加する一方、Oの組成濃度は7%程度減少していることや、加熱時間がより短いほどFの組成濃度は高くなっていることが分かった。これらのことから、減圧乾燥処理工程での除去により、試験片表面と未化学結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物、及び試験片表面の有機シラン化合物APSの自己組織化膜の一部分が除去されるものの、試験片表面の大半には有機シラン化合物APSの自己組織化膜が残存していることが確認された。ここで、蒸留水の静的接触角は、いずれの加熱条件でも100°よりも大きくなり、濡れ性が低下している。これは、APSの末端官能基であるアミノ基がAPSの自己組織化膜の表面上に隆起できていないためとも考えられる。
【0111】
【表12】
【0112】
<加硫成形による試験片とゴムとの複合体成形、及び該複合体の剥離試験>
工程(5)における加硫成形により、試験片とゴムとの複合体を成形した。その後、図7に示されるように、180°剥離試験による試験片とゴムとの複合体成形との剥離試験を行った。表13には、剥離試験の試験結果を示している。工程(3)における試験条件のAPS加熱時間を1時間とした場合、8.5N/cm以上の剥離強度が得られることが分かった。これは、大気圧プラズマ処理による親水化のみを施した試験片表面とゴムとを加硫成形した後に行った剥離試験の結果(表10)と比較して、約3倍の剥離強度を得られたことになる。
【0113】
図19(a)は、試験片とゴムとの加硫成形した際の状況を示している。APS加熱時間のいずれの条件でも、試験片とゴムとの界面には気泡が発生することがなく、試験片とゴムとの複合体が成形できることが可能となった。これは、工程(4)の減圧乾燥処理を施すことにより、試験片表面と未結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物が除去されたためと考えられる。
【0114】
また、表12に示す蒸留水の静的接触角は、いずれの加熱条件でも100°よりも大きく、濡れ性が低下しているにもかかわらず、表13に示す高い剥離強度を得られた。前項でも述べたように、APSの末端官能基であるアミノ基がAPSの自己組織化膜の表面上に隆起できていないと考えられる。しかしながら、高温度雰囲気において加硫成形するゴム素材は、APS自己組織化膜の内部に浸透するために、自己組織化膜内のアミノ基と化学反応が生じることができるものと考えられる。
【0115】
【表13】
【0116】
[比較例1]
実施例1における工程(4)を省略すること以外、その他の全ての工程を実施したところ、図19(b)に示すように、試験片とゴムとの界面において気泡が発生して、試験片とゴムとの複合体成形は不可能であった。これは、工程(4)の減圧乾燥処理を行わなかったため、試験片表面にAPS凝縮物が残留して、ゴムとの加硫成形を行う際に高温度雰囲気によってAPS凝縮物が気化して気泡が生じるためと推察される。これは、APS加熱時間のいずれの条件でも同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明により、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布使用することなく、表面フッ素樹脂フィルムとブチルゴムなどのゴムとを加熱プレスで加硫成形した複合体を形成することができ、更に、該複合体を用いた医療用ゴム製品を提供することが可能となる。なお、本発明の手法によって加硫成形した表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの接着強度は、大気圧プラズマ処理のみを施して加硫成形した場合と比べて、約3倍程度に改善することができた。
【符号の説明】
【0118】
1:ガスボンベ
2:配管経路
3:マスフローコントローラー
4:配管経路
5:吹き出しノズル
6:試料台走査ステージ
7:試験片
8:プラズマ
9:アルミナ製絶縁パイプ(絶縁管)
10:アルミ合金製ロッド(電極)
11:高周波発振電源
12:マッチング回路ユニット
13:遮蔽板
14:遮蔽板
21:ステンレス製容器
22:PFA製容器
23:ビーカー
24:APSのトルエン溶液
25:APSの蒸気
26:オーブン
31:ゴムシート
32:接着界面
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルム、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体、及び医療用ゴム製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学的に安定な炭素−フッ素(C−F)結合を有するフッ素樹脂は、化学的安定性及び熱的安定性に優れるほか、自己潤滑性を有するために摩擦係数が低い等の優れた特性を有する。しかしながら、フッ素樹脂は、汎用樹脂に比べて極めて高価であることから、その用途は限られていた。実用製品へのフッ素樹脂の適用コストを抑えるには、その使用量を限定することが重要である。具体例としては、シート状又はフィルム状のフッ素樹脂と他の材質(素材)とを有機系接着剤によりラミネートする方法が考えられる。
【0003】
フッ素樹脂は、化学的安定性を生かすことができる医薬品容器の栓等への適用が考えられるが、他の材質(素材)との接着性が悪いため、普及していない。ここで、一般的な医薬品容器は、薬液を挿入した状態で出荷されており、栓と薬液とが直接接触する。そのため、拡散浸透した薬液が栓材の内部材質と化学反応を起こし、薬液成分が変質する恐れがある。そこで、栓の材質であるゴムの表面に耐薬品性に優れるフッ素樹脂フィルムを被覆材としてラミネートすることが好ましいとされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
接着剤によりフッ素樹脂と他の材質(素材)とを接着可能にするには、化学的に安定なC−F結合を有するフッ素樹脂の表面改質が必要不可欠である。従来から、フッ素樹脂成形物の表面を改質する種々の方法が提案されている。最も広範に使用される表面改質法としては、ナトリウム−アンモニア溶液処理、ナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理が挙げられる。これらの方法によれば、C−F結合が化学的に切断されるため、フッ素樹脂表面を化学的にほぼ完全に改質して、他の材質(素材)との接着が可能となることが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの使用の際には、高い化学反応性、毒性、臭気により、作業者の健康や自然環境への負荷が極めて高い。また、表面改質によりフッ素樹脂表面は茶褐色を呈してしまう。製品部材として茶褐色に呈するのは、外観上好ましくない。特に、厳密な品質管理が求められる医療用製品の被覆材として適用する場合、異物検査などの障害になることがあり、着色のない改質方法が求められる。
【0006】
前記のナトリウム−アンモニア溶液処理は化学的な表面改質法であるが、他の方法として、スパッタエッチング処理などの物理的な方法を用いてフッ素樹脂フィルムの表面改質を行う手法も検討されている。しかしながら、この方法では、表面改質されたフッ素樹脂フィルムと他の材質(素材)とを接着する場合、有機系接着剤を塗布する必要がある。有機系接着剤の使用は、医療用製品の製造工程には好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−216753号公報
【特許文献2】特願2010−188148号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松尾唯男、「シランカップリング剤による塩素化ブチルゴムの架橋」、日本ゴム協会誌、1985年2月、Vol.58、No.2、p.88−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述の状況を鑑み、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布することなく容易にゴムと接着できる表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルム、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体、及び医療用ゴム製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の先行技術に対して、表面改質されたフッ素樹脂フィルムと他の材質(素材)とを接着する際に、有機系接着剤の塗布が必要でない方法として、本発明では、次の先行技術を参照して鋭意検討した。
【0011】
特許文献2では、フッ素樹脂表面に有機シラン化合物のシランカップリング剤の自己組織化膜を成膜して、フッ素樹脂フィルムと無電解銅メッキ被膜との密着性効果を得ている。具体的には、フッ素樹脂フィルム表面に大気圧プラズマ処理を施して、親水基(水酸基、カルボキシル基等)を形成した後に、アミノ基を有したシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3−aminopropyltrimethoxysilane):以下、APS)を気相蒸着している。フッ素樹脂フィルム表面には、APSの自己組織化膜が形成されており、APSの末端官能基であるアミノ基で被覆されている。そして、無電解銅メッキ処理の前処理工程であるアクチベータ処理(塩化パラジウムの希釈溶液に浸漬する処理)工程において、APSの末端官能基であるアミノ基とパラジウムイオンとの錯体化学反応が生じるために、その後、無電解銅メッキ被膜が形成されることを示している。
【0012】
一方、非特許文献1においては、APSの末端官能基であるアミノ基は、ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン系官能基との間で化学反応を生じる性質があることを示している。
【0013】
これらの点を鑑み、本発明者等が更に検討した結果、所定の工程を経て、フッ素樹脂フィルムの表面に対してゴムと親和性の高い有機シラン化合物を成膜した後、未反応の有機シラン化合物を除去することで、有機系接着剤を使用しなくても容易にゴムと接着でき、前記課題を見事に解決できることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明は、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、を順次行う表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0015】
上記フッ素樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂の成形物であることが好ましい。
【0016】
上記有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0017】
上記有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することが好ましい。
【0018】
上記有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0019】
上記有機シラン化合物の成膜処理は、気相蒸着法又は液相成膜法で行うことが好ましい。
【0020】
本発明はまた、上記製造方法により得られる表面改質フッ素樹脂フィルムに関する。
【0021】
本発明はまた、上記表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより上記表面改質フッ素樹脂フィルムと上記ゴムとの複合体を得る複合体の製造方法に関する。
【0022】
上記複合体の製造方法は、実質的に有機系接着剤を使用しないことが好ましい。
【0023】
本発明はまた、上記複合体の製造方法により得られる複合体に関する。
【0024】
本発明はまた、上記複合体を用いて作製した医療用ゴム製品に関する。
【0025】
以下に、本発明の原理を説明する。従来から行われていたナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理では、フッ素樹脂表面のC−F結合を化学的に切断して、フッ素樹脂表面を化学的にほぼ完全に改質するとともに、マイクロメートルレベルの凹凸構造を形成することで、有機系接着剤を用いて他の材質(素材)とを接着している。その反面、作業者の健康や自然環境への負荷が極めて高いこと、処理後のフッ素樹脂表面が茶褐色を呈してしまうという問題がある。
【0026】
本発明は、上記方法とは原理が異なり、常温常圧下の雰囲気下で大面積にわたる均一な巨大エネルギーを簡便に供給することができる大気圧プラズマ処理工程、及び有機シラン化合物の自己組織化膜の成膜工程を融合することにより得られた表面改質フッ素樹脂フィルムと、ゴムとの複合体を成形する技術を提供するものである。大気圧プラズマ処理は、誘電体バリア放電により発生させたプラズマを用いる。ここで、誘電体バリア放電は、対向させた2つの電極の高位電極を覆うように誘電体を配設して、その電極間に希ガスを主成分とする励起ガスを供給し、電極間に高周波電界を印加することで、大気圧下で生じる。誘電体バリア放電によるプラズマは、アークに移行せずかつ電子温度が高く、イオン温度が低い状態を安定的に維持できる非平衡プラズマであり、更に、印加する投入電力が低くても発生することができる。被処理材料に与える熱的ダメージが少ないために、化学反応によるソフトな表面改質技術として、様々な産業応用分野で利用されている。
【0027】
しかしながら、プラズマ処理によるフッ素樹脂フィルム表面の脱フッ素のみでは、ナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理のように、フッ素樹脂フィルム表面を化学的にほぼ完全に改質するとともに、フッ素樹脂フィルム表面に凹凸構造を形成することは期待できない。そこで、親水基(親水性官能基)を形成したフッ素樹脂フィルムに有機シラン化合物APSの自己組織化膜を成膜した。ここで、APSの末端官能基は、フッ素樹脂表面及びゴム表面の官能基との間で化学結合を形成することが可能である。故に、APSの自己組織化膜が形成された表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムを加硫成形することで、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を容易に形成することが可能となる。
【0028】
以上から、有機系接着剤を用いることなく、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの接着強度を、従来のナトリウム−ナフタリン錯体溶液処理を用いた場合と同程度に確保することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布することなく容易にゴムと接着できる表面改質フッ素樹脂フィルムを容易に提供することができる。また、該表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することで、これらの複合体が容易に製造できる。該複合体は、医療用製品の被覆材に適用する場合でも異物検査などの障害になることがないため、医療用ゴム製品に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、及び表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法を説明する概念図を示す。
【図2】PTFEフィルムのSEM観察像を示す。
【図3】プラズマ発生装置の概略模式図を示す。
【図4】プラズマ発生装置を説明する図であり、(a)は側面図を、(b)は平面図を示す。
【図5】工程(2)を説明する概念図を示す。
【図6】工程(2)を説明する図であり、(a)はAPSの加水分解を、(b)はPTFE表面におけるAPSの自己組織化膜の形成を示す。
【図7】表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を説明する概念図を示す。
【図8】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:5.0L/min、GAP(3):∞、試験片走査往復回数:10回)
【図9】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):∞、試験片走査往復回数:10回)
【図10】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルである。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:10回)
【図11】工程(1)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルであり、(a)はスペクトル全体を、(b)はC1sスペクトルを示す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回)
【図12】工程(2)後の試験片表面のXPS分析結果を表すスペクトルであり、(a)はスペクトル全体を、(b)はC1sスペクトルを示す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回)
【図13】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:30分)
【図14】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:1時間)
【図15】(a)は工程(3)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:2時間)
【図16】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:30分)
【図17】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:1時間)
【図18】(a)は工程(4)後の試験片表面のXPS分析結果を、(b)は該試験片のSEM像を表す。(励起ガスの供給流速:10.0L/min、GAP(3):0.5mm、試験片走査往復回数:6回、APS加熱時間:2時間)
【図19】(a)は実施例1の複合体、(b)は比較例1の複合体の状況を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本実施形態では、特に断りがない場合、フッ素樹脂をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ゴムをハロゲン化ブチルゴムとする。
【0032】
本発明に係る表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法、及び表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の製造方法の概念図を図1に示している。図1(a)は、未処理のフッ素樹脂フィルムを示している。図1(b)は、フッ素樹脂フィルムに大気圧プラズマ処理を施す工程(工程(1))と、後述する工程(2)とにより親水化処理を施す工程を示している。本発明においては、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。具体的には、図3に示すように、対向させた上下2つの電極の間にフッ素樹脂フィルムを設置し、その電極間に希ガスを主成分とする励起ガスを供給させる。そして、電極間に高周波電界を印加することで、大気圧下の誘電体バリア放電、すなわち大気圧プラズマが生じる。プラズマ照射されるフッ素樹脂フィルム表面では、プラズマ中に含まれるラジカル、イオン、電子等の励起化学反応により脱フッ素化が起こるため、分子レベルの凹凸構造形成とともにフッ素樹脂フィルム表面の原子にダングリングボンドが発生する。大気圧プラズマ処理は、プラズマ照射領域をフッ素樹脂フィルム表面上に対して複数回往復走査させることで施される。大気圧プラズマ処理を数分間施している間、フッ素樹脂フィルム表面原子のダングリングボンドは、プラズマ照射領域から外れると大気中の酸素及び水成分と反応して、過酸化物官能基、水酸基、カルボニル基がフッ素樹脂フィルム表面に自発的に形成される。このようにして、フッ素樹脂フィルムの表面に過酸化物官能基を導入できる。
【0033】
次に、工程(1)で過酸化物官能基を導入したフッ素樹脂フィルムを蒸留水などの水に浸漬する(工程(2))。ここで、フッ素樹脂フィルム表面上の過酸化物官能基、カルボニル基は、水分子と反応し、親水性官能基(水酸基、カルボキシル基等)に変化する。これにより、フッ素樹脂フィルム表面上の親水性官能基を増加させることができる。
【0034】
図1(c)は、工程(2)で親水化処理したフッ素樹脂フィルム表面に有機シラン化合物の成膜処理を施す工程を示している(工程(3))。ここで、有機シラン化合物は、フッ素樹脂表面及びゴム表面の官能基との間で化学結合を形成することが可能な官能基を末端に有しており、後述する工程で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行うことで、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を容易に形成することができる。
【0035】
図1(d)は、工程(3)で有機シラン化合物の自己組織化膜を成膜したフッ素樹脂フィルムに、減圧乾燥炉などを用いて減圧乾燥処理を施す工程を示している(工程(4))。本処理を施すことにより、自己組織化膜の内部に在留する未反応の有機シラン化合物の凝縮物を除去することができ、後述する工程で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行う際に、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの界面で気泡が発生することを防止することが可能となる。以上の工程(1)〜(4)を経て、表面改質フッ素樹脂フィルムを得ることができる。
【0036】
図1(e)は、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行って、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を形成する工程(工程(5))を示している。この工程(5)を経て、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得ることができる。
【0037】
以下、工程(1)〜(5)の好ましい条件等について説明する。
【0038】
大気圧プラズマを発生させるには、50Hzから2.45GHzまでの高周波電源を用いて、対向する2つの電極の高周波電界を印加する。対向させた2つの電極には、少なくとも片側(例えば、高位側電極)が誘電体で被覆された円筒状又は平板状の金属を用いる。ここで、対向させた2つの電極間の距離は、5mm以下であることが望ましい。
【0039】
プラズマを発生させる励起ガスは、希ガスのヘリウム、アルゴン、ネオンなどを主成分とする。また、励起ガスに酸素、窒素、水素、水蒸気、アンモニア蒸気、アルコール蒸気を適量混合させることで、被処理材の表面改質を大いに促進することができると考えられる。
【0040】
その際には、チャンバーに励起ガスを溜め込んで雰囲気制御条件において大気圧プラズマを発生させる場合と、対向させた2つの電極の間に励起ガスを供給させる形態をとる完全大気開放型条件において大気圧プラズマを発生させる場合が考えられる。
【0041】
なお、完全大気開放条件においても、電極間に供給する励起ガスは所定の混合比を保持する必要がある。そのため、供給励起ガスがプラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素、酸素、水蒸気等を巻き込み混入させることを防止する障害壁を設置することが望ましい。
【0042】
表面改質の対象となるフィルムはフッ素樹脂フィルムである。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE(4Fモノマーと微量のパーフルオロアルコキシドとの共重合体)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。ここで、フィルムとは概平板状に成形された成形品を指す。フィルムの成形方法に特に指定はないが、圧縮成形、スカイブド成形、キャスト成形などが挙げられる。フィルムの厚みに特に指定はないが、ゴムとの複合体を成形する場合、フィルムの厚みは、10μm〜220μmが好ましく、10μm〜150μmがより好ましい。
【0043】
また、表面改質の対象となるフィルムは、表面改質の対象となる表面がフッ素樹脂であれば他の物質との複合体であっても良い。例えば、フッ素樹脂フィルムの片面に金属膜などを被覆したフッ素樹脂フィルムを準備し、その被覆されていない面のフッ素樹脂に対して表面改質を行っても良い。あるいは、片面に別の樹脂などが積層されたフッ素樹脂フィルムを準備し、その積層されていない面のフッ素樹脂に対して表面改質を行っても良い。
【0044】
フッ素樹脂は、化学的安定性及び熱的安定性に最も優れ、かつ自己潤滑性が最も良好であるPTFEであることが好ましい。
【0045】
有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、アミノ基を有することがより好ましい。これらの官能基は、ゴム中の官能基との化学反応が生じて結合する性質を有しており、これにより、有機シラン化合物とゴムとが結合することができる。なお、これらの官能基は、1つであってもよいし、複数であってもよく、例えば、ジオール基、ジチオール基であってもよい。また、アミノ基は、低級アミノ基であっても高級アミノ基であってもよい。
【0046】
また、有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられ、メトキシ基が好ましい。アルコキシ基は、表面改質フッ素樹脂フィルム表面に付与された親水基と脱水縮合反応によって結合する性質を有しており、これにより、有機シラン化合物と表面改質フッ素樹脂フィルムとが結合することができる。なお、アルコキシ基は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0047】
そして、有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。該シランカップリング剤の具体例としては、
アミノ基を有するものとして、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリ(メトキシエトキシエトキシ)シラン、11−アミノウンデシルトリエトキシシラン、2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、6−(アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、11−(2−アミノエチル)アミノウンデシルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、3−(アミノエチルアミノ)イソブチルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
カルボニル基を有するものとして、トリエトキシシリルプロピルマレイン酸などが挙げられる。
アミド基を有するものとして、N,N−ジオクチル−N’−トリエトキシシリルプロピルウレアなどが挙げられる。
水酸基を有するものとして、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
エポキシ基を有するものとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
エステル基を有するものとして、アセトキシメチルトリエトキシシラン、アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、ベンゾイルオキシプロピルトリメトキシシラン、10−(カルボメトキシ)デシルジメチルメトキシシラン、2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
チオール基を有するものとして、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン、S−(オクタノイル)メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
なかでも、アミノ基を有するもの、特にAPSを好適に使用できる。
【0048】
有機シラン化合物を成膜処理する方法としては、気相蒸着法、液相成膜法を好適に使用できる。
【0049】
ゴムとしては、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴム又は、1,2−ポリブタジエン等が使用される。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体に使用されるゴムは、上記に限定されないが、ブチル系ゴム又はエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、EPDMゴムという)が好ましい。
【0051】
ブチル系ゴムは耐気体透過性及び耐水蒸気透過性に優れることから好ましい。ブチル系ゴムとしては公知の化合物を用いて良いが、例えば、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(以下、「ハロゲン化ブチルゴム」という)、又はその変性物が挙げられる。変性物としては、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭素化物等が挙げられる。なかでも、架橋の容易さからハロゲン化ブチルゴムが好ましく、塩素化ブチルゴム又は臭素化ブチルゴムがより好ましい。
【0052】
また、EPDMゴムは加工性に優れているため好ましい。EDPMゴムにはゴム成分のみからなる非油展タイプのEPDMゴムと、ゴム成分とともに伸展油を含む油展タイプのEPDMゴムとが存在するが、本発明では、いずれのタイプも使用可能である。EPDMゴムにおけるジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルポルネン、1,4−ヘキサジエン又はシクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0053】
さらに、ハロゲン化ブチルゴムとEPDMゴムの組み合わせは相溶性が良く、耐気体透過性及び耐水蒸気透過性に優れるとともに、加工性にも優れることからより好ましい。
【0054】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を、例えば、注射器用のガスケットのような医療用ゴム製品として使用する場合には、ゴムの主成分として気体透過性の低いブチルゴムの使用が好ましい。架橋剤としては、清浄性の観点から、トリアジン誘導体架橋の使用が好ましい。
【0055】
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形は、これらを接触させた状態で所定の時間に渡って、熱と圧力を加え、ゴムの架橋を行いながら表面改質フッ素樹脂フィルムと接着成形させる技術である。加硫成形を行う時間と温度は、未架橋ゴム配合の架橋への必要に応じて、設定が行われる。
【0056】
一般的なゴム配合において、加硫温度は140℃〜200℃である。架橋に必要な時間は成形体の寸法に依存するが、医療用ゴム栓などの小型物では1分〜20分程度である。加硫成形を行う時の圧力に関しては、公知のゴムの架橋方法における圧力が採用される。一般に成形物の雌型となる金型に対して、隙間無くゴムが充填される程度の圧力を加えれば良く、医療用ゴム栓などの小型物では10〜20MPa程度である。
【0057】
本発明によれば、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得るには、表面改質後のフッ素樹脂フィルムを未加硫ゴムと加硫接着を行うだけで良く、一般に用いられる有機系接着剤の使用は必要でない。本発明において、有機系接着剤とは、請求項に記載のフッ素樹脂フィルム、有機シラン化合物、及びゴムに含まれる有機化合物以外の成分を言う。一般にアクリル樹脂系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤などが挙げられる。これらの有機系接着剤は一般には表面改質フィルムの表面に塗布されることで被接着物との剥離強度を向上させるが、本発明によれば十分な剥離強度を与えるゴムとの複合体が得られる為、これらの有機系接着剤を使用する必要はない。また、これらの有機系接着剤は一般に高温での安定性に欠ける為、加硫工程において劣化するおそれがあるが、本発明によれば加硫温度、及び時間は有機系接着剤の安定性に考慮する必要がなく、ゴム成分の加硫に必要な温度、及び時間を自由に選ぶことが出来る。
【実施例】
【0058】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
以下の5つの工程により、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとが接合されたゴム複合体を形成した。
希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、
上記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、上記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、
有機シラン化合物の成膜処理を施して、上記フッ素樹脂フィルム表面に上記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、
減圧乾燥処理を施して、上記フッ素樹脂フィルムから未反応の上記有機シラン化合物を除去する工程(4)、
表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得る工程(5)の各工程である。以下、それぞれの工程について説明する。
【0060】
工程(1)
厚み0.2mmのPTFEフィルム(日本バルカー工業(株)製、バルフロン(登録商標))を50mm×80mmの寸法に切り出し、この切片を試験片とした。試験片は、焼成樹脂材がスカイブド成形されたものであり、図2のSEM観察像のように、試験片表面には、無数の焼成孔や繊維くずが存在している。そのため、先ず、試験片を水洗してからアセトン中で超音波洗浄を行った。その後、大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理には、図3に示す容量結合型大気圧プラズマ発生装置を用いた。プラズマ処理の試験条件は、表1に示すとおりとした。
【0061】
【表1】
【0062】
本実施例で使用した容量結合型大気圧プラズマ発生装置は、13.56MHz高周波発振電源11、マッチング回路ユニット12、電極ユニット、及びアルミ合金製の試料台走査ステージ(80×160mm)6から構成されている。上記電極ユニットは棒状形状になっており、直径3mmのアルミ合金製ロッド10に内径3mm、外径5mmのアルミナ製絶縁パイプ9を被覆した構造である。励起ガスであるヘリウムガスは、ガスボンベ1から配管経路2、マスフローコントローラー(MFC)3、配管経路4、吹き出しノズル5を経て、試料台走査ステージ6上にセットされた試験片7付近に供給した。
【0063】
MFC3は、センサー部で検出したガスの質量流量信号と流量設定信号を瞬時比較し一致するようにバルブ開閉調整を行い、ガスの供給流量を制御する。試験片7付近にヘリウムガスが存在した状態で、高周波電力を電極ユニットとアルミ合金製の試料台走査ステージ6のGAP(1)間に印加して、プラズマ8を発生させた。これにより、誘電体バリア放電条件下でのグロープラズマ放電を実現している。そして、プラズマ8内に試験片7を所定回数往復走査させた。本実施例では、試験片7付近に供給するガス濃度は、ヘリウムガス100容量%とした。
【0064】
本実施例では、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。図4(a)に、使用した大気圧プラズマ発生装置の詳細図を示す。電極間に供給する励起ガスは所定の混合比を保持する必要があるため、図4(a)に示されるように、供給励起ガスがプラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素ガス、酸素ガス等を巻き込み混入することを防止する遮蔽板13、14を設置した。
【0065】
工程(2)
大気圧プラズマ処理後の表面改質試験片を、蒸留水を入れたビーカーの中で浸漬処理した。処理時間は5分間であった。工程(1)の大気圧プラズマ処理により試験片表面に形成された過酸化物官能基やカルボニル基は、ここでの蒸留水の浸漬処理により、水分子と加水分解反応が生じて親水性官能基(水酸基、カルボキシル基等)に変化するため、試験片の濡れ性は良好となった。なお、浸漬処理により、試験片表面の低分子残渣が除去された。浸漬処理後に試験片を乾燥させた。
【0066】
工程(3)
本実施例では、ゴムとの親和性の高い有機シラン化合物を成膜させて、有機シラン化合物の自己組織化膜をフッ素樹脂フィルム表面に成膜する工程として、気相蒸着法を適用した。また、有機シラン化合物には、APSを用いた。
【0067】
図5に示されるように、試験片7と、有機シラン化合物APSのトルエン溶液24を入れたビーカー23とを、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製容器22内に収納し密封した。さらに、PFA製容器22をステンレス製容器21内に収納し密封した。その後、ステンレス製容器をオーブン26に入れて加熱することにより、試験片7表面にAPSの自己組織化膜を形成した。実験条件は、表2に示すとおりとした。
【0068】
加熱終了後、試験片をメタノール中で5分間超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0069】
【表2】
【0070】
なお、加熱終了後の試験片の洗浄は、上記以外の1mol/L塩酸水溶液、蒸留水、及び1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に順次各1分間浸漬して洗浄し、最後に蒸留水を用いて1分間超音波洗浄した場合にも、本実施例と同様の結果が得られることが確認された。
【0071】
加熱により、ビーカーから有機シラン化合物APSの蒸気25が発生する。APS分子中のメトキシ基は、図6(a)に示されるように、大気中の水分と反応して加水分解され、水酸基へと変化する。その後、図6(b)に示されるように、試験片7表面の水酸基と、APS分子中に形成された水酸基との間で脱水縮合が起こり、APS分子が試験片表面に結合する。さらに、隣接するAPS分子の水酸基間でも脱水縮合が起こり、APSの自己組織化膜が成膜形成される。
【0072】
工程(4)
工程(3)後の試験片を、減圧乾燥炉内に入れて、減圧乾燥処理をした。本処理を施すことにより、試験片表面と未反応である有機シラン化合物のAPS凝縮物を除去することができ、後述する工程(5)で表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの加硫成形を行う際に、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの界面で気泡が発生することなく、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を形成することが可能となった。なお、到達真空度は大気圧に対して−100kPa、乾燥温度は150℃、乾燥時間は1時間とした。
【0073】
工程(5)
工程(4)後の試験片とゴムとの複合体の成形は加硫成形にて行った。架橋剤として2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン(三協化成(株)製、ジスネットDB)を含む未加硫ゴムシート(ハロゲン化ブチルゴム、厚み2mm)を準備し、表面改質された側の試験片の表面と未加硫ゴムシートとを重ねた状態でプレス型に入れた。なお、後述する剥離試験で必要な掴み代を形成するため、試験片と未加硫ゴムシートとの間には、該掴み代に相当する形状の不活性フィルムを挿入した。加硫温度は180℃、加硫処理時間は10分間、加硫処理圧力は10MPaに設定して加硫成形を行い、表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体を得た。
【0074】
上述の工程(1)〜(5)の条件を最適化するため、以下の実験を行った。
【0075】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片の濡れ性評価では、蒸留水の静的接触角を静滴法により、接触角計(協和界面科学社製、CA−X150型)を用いて測定した。蒸留水が試験片表面に接触して5秒以内に接触角を測定した。
【0076】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片表面をX線光電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)分析装置(アルバックファイ(株)製、5500MT型)を用いて、化学状態分析を行った。なお、装置の励起X線源はマグネシウム(Mg)で、励起X線出力は200Wであった。
【0077】
工程(1)〜工程(4)処理後の試験片表面を原子間力顕微鏡(AFM、デジタル・インスツルメンツ社製、Nano Scope IIIa型)及び走査型電子顕微鏡(SEM、日本エフ・イー・アイ社製、Sirion型)による表面形状観察を行った。
【0078】
処理後の試験片の濡れ性を評価する上で、上記の接触角測定とともに表面粗さは重要な因子である。表面粗さは、固体表面の化学的性質とともに濡れ性に影響を及ぼす因子である。本実施例においてAFM及びSEM像を観察した結果、工程(1)及び工程(2)の処理前後での試験片表面の表面粗さは、大きく変化していないことが分かった。従って、試験片表面が親水化した結果は、親水性官能基の形成による化学的性質の変化が主な要因であると考えられる。
【0079】
工程(5)処理後の表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を、図7に示される形式で行った。図7の平面図において、20mm×45mmの範囲が接着面を、残りの20mm×5mmの範囲が掴み代(非接着面)を示している。該掴み代を引張強度試験機((株)島津製作所製、AUTOGRAPH AG−1000D型)のチャックに挟み、試験片(表面改質フッ素樹脂フィルム)7とゴムシート31を180°の方向に引張り、接着界面32の剥離強度(N/cm)を測定した。試験片7の厚みは0.2mm、ゴムシート31の厚みは2mmとした。引張試験速度は、50mm/minとした。
【0080】
<大気圧プラズマ処理条件と試験片表面の架橋効果の最適化>
I.大気圧プラズマ処理条件(励起ガスの供給流速)について
工程(1)のみを実施した試験片を用いて、励起ガスの供給流速の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表3に示すとおりとした。蒸留水の静的接触角を測定した。
【0081】
【表3】
【0082】
試験片について、蒸留水の静的接触角を測定した結果を表4に、XPS分析を行った結果を図8、図9に示している。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して試験片を大気圧プラズマ処理した場合、励起ガスの供給流速が大きい10.0L/minの条件の方が、接触角は小さくなっている(表4)。また、XPS分析結果では、励起ガスの供給流速5.0L/minの条件下の結果(図8)と、励起ガスの供給流速10.0L/minの条件下の結果(図9)を比較すると、図9は、O1sピーク強度が増加しており、試験片の濡れ性は良好となっている。よって、励起ガスの供給流速の最適値は10.0L/minとした。
【0083】
【表4】
【0084】
II.大気圧プラズマ処理条件(試験片走査往復回数)について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いて、試験片走査往復回数の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表5に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0085】
【表5】
【0086】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、及び工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表6に示している。図4(a)のGAP(3)を無限大(∞)、すなわち、遮蔽板14を取り外して試験片を大気圧プラズマ処理した場合、試験片走査往復回数が2〜8回の範囲では、試験片走査往復回数を増すごとに、接触角は小さくなり、試験片の濡れ性は良好となった。
【0087】
プラズマ照射されるフィルム表面では、ラジカル、イオン、電子等の衝突作用により、フィルム分子の主鎖が切断されて凹凸構造が形成される。その一方、切断された主鎖同士が再結合して架橋効果を得て表面硬化が生じることが考えられる。試験片の表面硬化は、濡れ性とともに接着強度に寄与する。ただし、プラズマ照射時間の過剰な増加は、フィルム分子の主鎖切断が累積され低分子量鎖が積層するため、フィルム強度の低下を招く。今回、試験片とゴムとの複合体の剥離強度が試験片走査往復4回で最大値をとったのは、上記の試験片の表面硬化を得られたためと推察される。
【0088】
【表6】
【0089】
III.大気圧プラズマ処理条件((GAP(3))について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いてGAP(3)の最適値を検討した。図4(a)のGAP(3)を変化させて、試験片を大気圧プラズマ処理した。プラズマ処理の条件は、表7に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0090】
【表7】
【0091】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、ならびに工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表8に示している。
【0092】
本実施例では、完全大気開放条件において大気圧プラズマを発生させている。電極間に供給する励起ガスは、プラズマ発生領域の周辺から浸入する大気中の窒素ガス、酸素ガス等を巻き込みプラズマ発生領域に混入させる可能性が高い。なお、本実施例で用いる大気圧プラズマ発生装置の電極間に、供給する励起ガスの中へ窒素ガスをMFCにより意図的に混合してみたところ、ヘリウムガス流速に対する窒素ガス流速の割合が0.2%以上ではプラズマ発生を維持できなくなり、プラズマが消滅するという結果を得た。これは、窒素ガスの混入がプラズマエネルギーの損失に繋がり、試験片の表面硬化を阻害するものと考えられる。そこで、図4(a)に示すような遮蔽板13、14を設置することで、励起ガスへの大気中の窒素ガスの混入を抑制できるものと考えられる。しかしながら、試験片の親水化を広面積処理するには、図4(b)に示すように試験片(厚み0.2mm)を走査することが必要となるため、図4(a)のGAP(3)をゼロにはできない。
【0093】
表8には、GAP(3)を狭くするほど、接触角が大きくなり試験片の濡れ性は悪くなるが、剥離強度は向上する結果を示している。これは、プラズマ発生領域への酸素ガスの混入が少なくなるために、試験片の親水化処理が低減されたと考えられる。図10には、GAP(3)が0.5mmの条件下でのXPS分析結果を示しているが、図9(GAP(3):∞)に比べてN1sピーク強度が減少していることが分かる。すなわち、プラズマ発生領域への窒素ガスの混入が少なく、プラズマエネルギーの損失が抑制されたために、試験片の表面硬化が向上したものと考えられる。よって、GAP(3)の最適値は0.5mmとした。
【0094】
【表8】
【0095】
IV.試験片表面の架橋効果の最適化(試験片走査往復回数)について
工程(1)及び工程(5)のみを実施した試験片を用いて、GAP(3)を0.5mmに設定した場合の試験片走査往復回数の最適値を検討した。プラズマ処理の条件は、表9に示すとおりとした。工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した。また、工程(5)処理後に表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの複合体の剥離試験を行った。
【0096】
【表9】
【0097】
試験片について、工程(1)処理後に蒸留水の静的接触角を測定した結果、及び工程(5)処理後に試験片とゴムとの複合体の剥離試験を行った結果を表10に示している。試験片走査往復回数を増すごとに、接触角は小さくなり、試験片の濡れ性は良好となった。ただし、図4(a)のGAP(3)を0.5mmに設定して遮蔽板14を取り付けたため、表6に比べて接触角は大きくなっており、これは、プラズマ発生領域への大気中の酸素ガスの混入がより少なくなることで試験片の親水化が低下したためと考えられる。剥離強度は試験片走査往復6回で最大値を示していることから、試験片走査往復回数は6回が最適値とした。
【0098】
【表10】
【0099】
以下では、実施例1の試験結果について述べていく。試験条件は、表1中の印加電力を100W、電極間距離(GAP(1))を1.5mm、励起ガス供給流速を10.0L/min、試験片走査速度を2.25mm/sec、試験片走査往復回数を6回として採用し、また、GAP(3)を0.5mmに設定して、試験片の試験結果を得ている。
【0100】
<大気圧プラズマ処理による試験片表面の親水化>
工程(1)後の試験片表面のXPS分析を行った結果を図11(a)に示している。図10(試験片走査往復回数10回)の場合に比べて、O1sピーク強度が若干低くなっている。これは、試験片往復走査回数、すなわち、大気圧プラズマ処理時間の減少によって、形成される過酸化物官能基や親水性官能基(水酸基等)が減少したためと考えられる。
【0101】
図11(b)はC1sスペクトルを示す。未処理の試験片表面のXPS分析では292.4eVの−CF2に由来するメインピークのみが認められたが、図11(b)では、291.0eVの−CFに由来するピークと、288.5eVの−C=O、286.2eVの−C−O−、284.6eVの−CH2や−C=C−に由来するピークが認められた。この結果は、試験片表面が大気圧プラズマ処理により脱フッ素化されて、過酸化物官能基や親水性官能基が試験片表面に形成されたことを示している。蒸留水の静的接触角を測定した結果は、表10に示すように49.4°であった。
【0102】
<蒸留水への浸漬処理による親水性官能基の形成>
工程(2)後の試験片表面のXPS分析を行った結果を図12(a)に示している。工程(1)後の結果を示す図11(a)に比べて、C1sピークが低くなっている。これは、蒸留水への浸漬処理により、試験片表面の低分子残渣が除去されたことが主な要因と考えられる。図12(b)に示すC1sスペクトルでは、−CH2や−C=C−に由来する284.6eVのピークが低くなった一方、291.0eVの−CFに由来するピークが相対的に高くなったが、その他の変化は認められなかった。しかしながら、蒸留水の静的接触角を測定した結果は37.6°となった。これは、試験片表面の過酸化物官能基等が水分子と加水分解反応することで、親水性官能基に変化したため、試験片表面の濡れ性が良好となったものと考えられる。
【0103】
<有機シラン化合物の自己組織化膜の成膜>
工程(3)後の試験片表面のXPS分析、及びSEM観察の結果を、図13、図14、図15に示している。実施例1では、ゴムとの親和性の高い有機シラン化合物APSを気相蒸着法により試験片表面に成膜させている。工程(3)における試験条件に関して、表2中のAPS量を0.10mL、APS加熱温度を130℃として、APS加熱時間の試験条件を30分、1時間、2時間の3つに設定して、試験片に成膜処理を施した。
【0104】
APS加熱時間を30分とした試験片表面のXPS分析の結果を図13(a)に、SEM像を図13(b)に示している。APS加熱時間を1時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図14(a)に、SEM像を図14(b)に示している。APS加熱時間を2時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図15(a)に、SEM像を図15(b)に示している。
【0105】
図13(a)、図14(a)、図15(a)に示されるように、APS加熱時間にかかわらず、試験片表面のXPS分析の結果は同様の傾向となり、F1sピークが消滅する一方、C1s、N1s、O1s、及びSi2pピークが明瞭に出現していることが認められた。これ故に、親水性官能基が形成した試験片表面に、有機シラン化合物APSの自己組織化膜が成膜されたことが確認された。なお、表11には、試験片表面のXPS分析の結果から算出した成分元素の組成濃度と、蒸留水の静的接触角を測定した結果を示している。ここで、APS加熱時間ごとにおける成分元素の組成濃度は、同様の傾向を示している。すなわち、APS加熱時間30分で有機シラン化合物APSを気相蒸着すると、試験片表面にAPSの自己組織化膜が成膜され得ると考えられる。
【0106】
試験片表面のAPS自己組織化膜をSEM像観察すると、APS加熱時間30分の図13(b)ではAPS自己組織化膜が均一に成膜されていることが認められる。しかしながら、APS加熱時間1時間の図14(b)では、試験片表面と未結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物が認められ、また、APS加熱時間2時間の図15(b)ではAPS凝縮物が顕著に積層していることが認められている。ここで、APS加熱時間2時間での蒸留水の静的接触角は、その他の条件よりも大きくなり、濡れ性が低下している。これは、図15(b)に示すように、顕著に積層したAPS凝縮物の表面粗さが大きいとともに、APSの末端官能基であるアミノ基がAPS凝縮物の表面上に隆起できていないためとも考えられる。
【0107】
【表11】
【0108】
<減圧乾燥処理による有機シラン化合物APS凝縮物の除去>
工程(4)後の試験片表面のXPS分析、及びSEM像観察した結果を、図16、図17、図18に示している。ここで、APS加熱時間を30分とした試験片表面のXPS分析の結果を図16(a)に、SEM像を図16(b)に示している。APS加熱時間を1時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図17(a)に、SEM像を図17(b)に示している。APS加熱時間を2時間とした試験片表面のXPS分析の結果を図18(a)に、SEM像を図18(b)に示している。
【0109】
減圧乾燥処理前の工程(3)後(図13(a)、図14(a)、図15(a))に比べて、図16(a)、図17(a)、図18(a)に示される試験片表面のXPS分析の結果は、O1sピークが低下する一方、C1sピークが増加し、また、N1s及びSi2pピークが明瞭に出現する同様の傾向を示している。ここで、APS加熱時間を30分とした図16(a)と、APS加熱時間を1時間とした図17(a)では、F1sの明瞭な出現が認められた。
【0110】
表12には、試験片表面のXPS分析の結果から算出した成分元素の組成濃度と、蒸留水の静的接触角とを測定した結果を示している。表11と比較すると、APS加熱時間ごとの成分元素の組成濃度に対してCの組成濃度が10%程度増加する一方、Oの組成濃度は7%程度減少していることや、加熱時間がより短いほどFの組成濃度は高くなっていることが分かった。これらのことから、減圧乾燥処理工程での除去により、試験片表面と未化学結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物、及び試験片表面の有機シラン化合物APSの自己組織化膜の一部分が除去されるものの、試験片表面の大半には有機シラン化合物APSの自己組織化膜が残存していることが確認された。ここで、蒸留水の静的接触角は、いずれの加熱条件でも100°よりも大きくなり、濡れ性が低下している。これは、APSの末端官能基であるアミノ基がAPSの自己組織化膜の表面上に隆起できていないためとも考えられる。
【0111】
【表12】
【0112】
<加硫成形による試験片とゴムとの複合体成形、及び該複合体の剥離試験>
工程(5)における加硫成形により、試験片とゴムとの複合体を成形した。その後、図7に示されるように、180°剥離試験による試験片とゴムとの複合体成形との剥離試験を行った。表13には、剥離試験の試験結果を示している。工程(3)における試験条件のAPS加熱時間を1時間とした場合、8.5N/cm以上の剥離強度が得られることが分かった。これは、大気圧プラズマ処理による親水化のみを施した試験片表面とゴムとを加硫成形した後に行った剥離試験の結果(表10)と比較して、約3倍の剥離強度を得られたことになる。
【0113】
図19(a)は、試験片とゴムとの加硫成形した際の状況を示している。APS加熱時間のいずれの条件でも、試験片とゴムとの界面には気泡が発生することがなく、試験片とゴムとの複合体が成形できることが可能となった。これは、工程(4)の減圧乾燥処理を施すことにより、試験片表面と未結合状態にある有機シラン化合物のAPS凝縮物が除去されたためと考えられる。
【0114】
また、表12に示す蒸留水の静的接触角は、いずれの加熱条件でも100°よりも大きく、濡れ性が低下しているにもかかわらず、表13に示す高い剥離強度を得られた。前項でも述べたように、APSの末端官能基であるアミノ基がAPSの自己組織化膜の表面上に隆起できていないと考えられる。しかしながら、高温度雰囲気において加硫成形するゴム素材は、APS自己組織化膜の内部に浸透するために、自己組織化膜内のアミノ基と化学反応が生じることができるものと考えられる。
【0115】
【表13】
【0116】
[比較例1]
実施例1における工程(4)を省略すること以外、その他の全ての工程を実施したところ、図19(b)に示すように、試験片とゴムとの界面において気泡が発生して、試験片とゴムとの複合体成形は不可能であった。これは、工程(4)の減圧乾燥処理を行わなかったため、試験片表面にAPS凝縮物が残留して、ゴムとの加硫成形を行う際に高温度雰囲気によってAPS凝縮物が気化して気泡が生じるためと推察される。これは、APS加熱時間のいずれの条件でも同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明により、外観上着色が認められず、かつ有機系接着剤を塗布使用することなく、表面フッ素樹脂フィルムとブチルゴムなどのゴムとを加熱プレスで加硫成形した複合体を形成することができ、更に、該複合体を用いた医療用ゴム製品を提供することが可能となる。なお、本発明の手法によって加硫成形した表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとの接着強度は、大気圧プラズマ処理のみを施して加硫成形した場合と比べて、約3倍程度に改善することができた。
【符号の説明】
【0118】
1:ガスボンベ
2:配管経路
3:マスフローコントローラー
4:配管経路
5:吹き出しノズル
6:試料台走査ステージ
7:試験片
8:プラズマ
9:アルミナ製絶縁パイプ(絶縁管)
10:アルミ合金製ロッド(電極)
11:高周波発振電源
12:マッチング回路ユニット
13:遮蔽板
14:遮蔽板
21:ステンレス製容器
22:PFA製容器
23:ビーカー
24:APSのトルエン溶液
25:APSの蒸気
26:オーブン
31:ゴムシート
32:接着界面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、
前記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、前記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、
有機シラン化合物の成膜処理を施して、前記フッ素樹脂フィルム表面に前記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、
減圧乾燥処理を施して、前記フッ素樹脂フィルムから未反応の前記有機シラン化合物を除去する工程(4)、
を順次行うことを特徴とする表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂の成形物であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記有機シラン化合物の成膜処理は、気相蒸着法又は液相成膜法で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる表面改質フッ素樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより該表面改質フッ素樹脂フィルムと該ゴムとの複合体を得ることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項9】
実質的に有機系接着剤を使用しないことを特徴とする請求項8に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の製造方法により得られる複合体。
【請求項11】
請求項10に記載の複合体を用いて作製した医療用ゴム製品。
【請求項1】
希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を施して、フッ素樹脂フィルム表面に過酸化物官能基を導入する工程(1)、
前記フッ素樹脂フィルムを水に浸漬して、前記フッ素樹脂フィルム表面に親水基を形成する工程(2)、
有機シラン化合物の成膜処理を施して、前記フッ素樹脂フィルム表面に前記有機シラン化合物の自己組織化膜を形成する工程(3)、
減圧乾燥処理を施して、前記フッ素樹脂フィルムから未反応の前記有機シラン化合物を除去する工程(4)、
を順次行うことを特徴とする表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂の成形物であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記有機シラン化合物は、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記有機シラン化合物は、アルコキシ基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記有機シラン化合物は、一方の末端にアミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基、エポキシ基、エステル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有し、他方の末端にアルコキシ基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記有機シラン化合物の成膜処理は、気相蒸着法又は液相成膜法で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表面改質フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる表面改質フッ素樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の表面改質フッ素樹脂フィルムとゴムとを加硫成形することにより該表面改質フッ素樹脂フィルムと該ゴムとの複合体を得ることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項9】
実質的に有機系接着剤を使用しないことを特徴とする請求項8に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の製造方法により得られる複合体。
【請求項11】
請求項10に記載の複合体を用いて作製した医療用ゴム製品。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−49819(P2013−49819A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189785(P2011−189785)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
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