説明

被処理物の処理方法及び処理装置

【課題】特定の生成物や副次生成物の生成量を低減可能とされた被処理物の処理方法及び処理装置、さらには、特定の生成物が生成するように制御可能とされた被処理物の処理方法及び処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明の被処理物の処理方法は、温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物が活性化状態にある時に、前記被処理物が特定の成分に変化させられる温度領域以下に前記被処理物を急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして前記被処理物の成分状態を変化させる処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の処理方法及び処理装置に関し、特に、特定の生成物や副次生成物の生成量を制御する処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者等はこれまでにあらゆるガスを大気圧下で高温の熱プラズマにできる、マルチガス誘導結合プラズマを世界で初めて開発し、さまざまな応用先を検討している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これまでに、医療用麻酔ガスの主成分である亜酸化窒素を熱プラズマ化し、分解処理することに成功している。この方法によれば、99.9%の亜酸化窒素を分解したときの分解効率(単位電力量あたりの分解量)は、触媒法の約6倍、燃焼法の約10倍(いずれも実用技術)、非平衡プラズマ法の25倍という(非実用技術)、極めて優れた環境性能を持つことが分かった。しかしながら、手術室一室分の医療用麻酔ガスを処理した時、日本の最新のディーゼルトラック排出ガス規制(18g/h)の約2.5倍のNO2が発生する問題があった。
【0004】
また、手術で使用される麻酔ガスには、亜酸化窒素の他にハロゲン元素を分子内に含むセボフルランあるいはイソフルランなどの微量の揮発性麻酔薬(VOC)が混合されている場合がある。従来の麻酔ガスの排ガスを分解処理する市販の装置では、亜酸化窒素の分解処理の前に、予め大型装置を使った冷却法などによりVOCを除去している。そのため、装置の普及への大きな障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−82796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑み、特定の生成物や副次生成物の生成量を低減可能とされた被処理物の処理方法及び処理装置、さらには、特定の生成物が生成するように制御可能とされた被処理物の処理方法及び処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の被処理物の処理方法は、温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物が活性化状態にある時に、前記被処理物が特定の成分に変化させられる温度領域以下に前記被処理物を急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして前記被処理物の成分状態を変化させる処理を施すことを特徴とする被処理物の処理方法。
【0008】
ここで、気体を含む被処理物が活性化状態にあるとは、被処理物に熱を付与して高温状態にあること、あるいは被処理物に電場や磁場を付与してプラズマ状態にあること等を含む。また、気体を含む被処理物の成分状態とは、当該気体を構成する分子が当該分子と異なる分子、原子、イオン、電子と変化する各変化した状態をいう。また、特定の成分とは、各変化した状態の1つにおいて形成される前記分子、原子、イオン、電子のうち少なくとも1つ含むものをいう。例えば、被処理物が亜酸化窒素(N2O)である場合、図1の状態図に示したように、温度に依存してN、O、N2、O2、NO、N、O+、e-の少なくとも1つが混在して存在している状態をいい、特定の成分とは、N、O、N2、O2、NO、N+、O+、e-のうち少なくとも1つをいう。
【0009】
また、請求項2に記載の被処理物の処理方法は、請求項1に記載の被処理物の処理方法において、前記被処理物をプラズマ化して活性化状態とし、プラズマ化された被処理物を急冷することにより、前記特定の成分に変化させられる温度以下にすることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の被処理物の処理方法は、請求項2に記載の被処理物の処理方法において、プラズマの発生方向に対する急冷の位置を調整することにより、プラズマの大きさを制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の被処理物の処理方法は、請求項1に記載の被処理物の処理方法燃焼によって被処理物を活性化状態とすることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の被処理物の処理方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法において、活性化状態にある前記被処理物に水を噴霧することにより急冷することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の被処理物の処理方法は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法において、前記被処理物は亜酸化窒素であり、前記特定の成分は一酸化窒素であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の被処理物の処理方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法において、急冷した前記被処理物中に残余している前記特定の成分を除去することを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の被処理物の処理装置は、温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物を活性化状態とする活性化手段と、活性化状態にある前記被処理物を冷却する冷却手段とを備え、前記活性化手段により活性化状態とされた前記被処理物を、前記冷却手段により特定の成分が形成される温度領域以下に急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして前記被処理物の成分状態を変化させる処理を施すことを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の被処理物の処理装置は、請求項8に記載の被処理物の処理装置において、前記活性化手段は、前記被処理物をプラズマ化するプラズマ発生装置であることを特徴とする請求項8に記載の被処理物の処理装置。
【0017】
請求項10に記載の被処理物の処理装置は、請求項8または請求項9に記載の被処理物の処理装置において、前記冷却手段は、プラズマ化された前記被処理物に水を噴霧する噴霧装置であることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の被処理物の処理装置は、請求項10に記載の被処理物の処理装置において、前記噴霧装置は、フルコーンノズル、アトマイジングノズル及び農薬噴霧用ノズルのいずれかを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の被処理物の処理装置は、請求項10に記載の被処理物の処理装置において、前記噴霧装置は、プラズマの発生方向に対して所定の角度を持った方向からカーテン状に噴霧可能とされたノズルを備えることを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載の被処理物の処理装置は、請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載の被処理物の処理装置において、前記冷却手段により急冷した前記被処理物に残余している前記特定の成分を除去する除去手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の生成物や副次生成物の生成量を低減したり、さらには、特定の生成物が生成するように制御することができる。例えば、分解処理したい排気ガスをプラズマ化し、その際に生成される副次生成物の有害ガスの発生量を低減することができる。具体的には、N2Oからなる麻酔ガスをプラズマ化して分解処理する際、プラズマを急冷することにより、副次生成物であるNO2、N24の生成量を削減することができる。また、例えば、プラズマCVD法を用いて、基板等の表面に薄膜形成をする場合において、所望の薄膜を形成することができる等の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】N2Oの熱平衡時における状態図
【図2】(a)は本発明の実施形態に係る装置の概略図、(b)は(a)の装置においてプラズマを急冷した時の様子を示す写真図である。
【図3】(a)はプラズマに噴霧する水の水圧とN2Oの分解率の関係を示すグラフ、(b)はプラズマに噴霧する水の水圧と分解処理で発生するNO2の濃度の関係を示すグラフである。
【図4】(a)はFTIR分光器により測定したスペクトルに基づいて作成したボルツマンスポットのグラフ、(b)はプラズマの回転温度であり、RF電源からの供給電力毎の温度との関係を示したグラフである。
【図5】(a)(b)はそれぞれ、セボフルランをプラズマで分解処理した前後のFTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の被処理物の処理方法及び処理装置について、図1から図5を用いて説明する。
【0024】
本発明の被処理物の処理方法及び処理装置は、温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物が活性化状態にある時に、前記被処理物を急冷することによって、特定の成分状態に変化させられる温度領域以下に被処理物を急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして被処理物の成分状態を変化させる処理を施すものである。ここで、前記被処理物は気体に限らず、気体の他に液体や粉体等の固体を含んでいてもよい。
【0025】
以下、第1実施形態について図1から図4を用いて説明する。
【0026】
本実施形態は、被処理物として、亜酸化窒素(N2O)を主成分とした麻酔ガスを用い、これをプラズマ化して活性化状態とし、プラズマ化された亜酸化窒素に直接水を噴霧することにより急冷し、一酸化窒素(NO)が存在する温度領域の保持時間を短くして、亜酸化窒素の成分状態を変化させる処理を施すものである。
【0027】
まず、本実施形態における原理を図1により説明する。図1は、N2Oと温度との関係を計算した結果をグラフにしたものである。すなわち、図1のグラフは時間的にも温度的にも完全な熱平衡を仮定した場合のN2Oの状態図であり、N2Oを何度に固定するとどんな状態で存在するかを示したものである。
【0028】
本実施形態で用いるプラズマトーチ内のプラズマのガス温度は、後述する温度測定結果から約7000℃であることが確認されている。したがって、図1のグラフから、プラズマトーチ内のプラズマ中には安定なNとOが存在しているものと考えられる。また、徐々に温度を下げていくとNとOが減少していく一方、N2、O2、NO等が混在した成分状態に変化していくことが分かる。NOについては、約5500℃から約2500℃に温度が低下する間に一端増加した後、再び減少し、約2500℃以下では消失している。また、常温においては安定なN2とO2のみが存在していることが分かる。
【0029】
以上のことから、従来、プラズマトーチの内部でプラズマ化されるとともに分解されたN2Oの一部は、プラズマトーチ内のプラズマの発生方向における下流側に移動し、プラズマトーチの外部に排出されて冷却される過程でNOに変化し、さらに、このNOが酸化されて安定なNO2(二酸化窒素)、N24として観測されていたものと考えられる。
【0030】
したがって、プラズマ化された亜酸化窒素に水を噴霧し、亜酸化窒素が分解されて一酸化窒素が発生する温度領域(約5500℃から約2500℃)以下の温度、すなわち約2500℃以下、具体的には約50℃に急冷することにより、一酸化窒素が存在する温度領域を短時間で通過させることで、一酸化窒素の発生量が抑えられ、さらに一酸化窒素の酸化により発生する二酸化窒素の発生量を低減することができると考えられる。
【0031】
次に、本実施形態に係る装置について図2により説明する。図2(a)は、本実施形態に係る装置の概略図である。また、図2(b)は、この装置を用いてプラズマに水を噴霧して急冷した時のプラズマトーチの様子を示した写真図である。本実施形態の装置は、亜酸化窒素を活性化状態とし、プラズマ化する活性化手段としてのプラズマ発生装置1と、プラズマ化された亜酸化窒素に水を噴霧して冷却する冷却手段としての噴霧装置2とからなる。
【0032】
前記プラズマ発生装置1としては、大気圧下において、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気、及びこれらの混合ガスを安定に熱プラズマ化することができる誘導結合プラズマ発生装置を用いる。この装置は、図2(a)に示すように、内部でプラズマを発生可能な管状のプラズマトーチ3を有する。このプラズマトーチ3の基端部には被処理物である亜酸化窒素ガスを導入可能な被処理物導入口4が形成されており、亜酸化窒素ガスはプラズマトーチ3の中央部まで給送されるようになっている。また、プラズマトーチ3の基端部の外周面には、例えば4重に巻かれたコイル5が配置されており、電源部(不図示)より直流、交流、マイクロ波等の電力を印加することが可能となっている。
【0033】
本実施形態においては、被処理物導入口4より導入された麻酔ガス及び空気、厳密には、2L/minのN2O、4L/minのO2及び4L/min程度の空気が全てプラズマトーチ3内に給送され、前記電源部からの電圧印加によってプラズマ化するようになっている。なお、前記空気は麻酔ガスが使用された後、排出される際に混入されるものである。プラズマトーチ3の内径は約34mmが好ましい。また、コイル5の巻径はそれよりも12mm大きく形成されている。
【0034】
また、プラズマトーチ3の側壁には噴霧装置2のノズル7から水を噴霧するための噴霧口6が形成されている。そして、噴霧した水がコイル5側のプラズマに逆流してプラズマが消失しないように、ノズル7がプラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)の上流側と同一方向であって、プラズマトーチ3の外壁面と所定の角度(以下、噴射角という。)傾斜した方向から噴霧可能に配置されている。そして、当該噴霧口6に臨ませて配置されたノズル7の先端部から当該噴霧口6を介してプラズマトーチ3内のプラズマに直接水を噴霧することが可能となっている。
【0035】
本実施形態においては噴霧装置2のノズル7として、農薬噴霧用の一般的なノズルを用いる。このノズル7は後述するような異なる形状のノズルに変更することが可能である。また、噴霧口6の位置や数(ノズルの数)を変更してもよい。また、例えば、噴霧口6及びノズル7を2つずつ設ける場合には噴霧口6を互いに同じ高さ位置にし、ノズル7を同じ噴射角となるように配置し、プラズマトーチ3を介して対称的な配置になるように設けてもよいし、また、噴霧口6の高さ位置やノズル7の噴射角を異ならせて非対称な配置になるように設けてもよい。
【0036】
また、プラズマトーチ3のプラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側から放出される処理後のガスはポンプ(不図示)を介して外部に排出可能となっている。また、後述するように、一酸化窒素の低減を確認する実験等を行う場合には、例えば、プラズマトーチ3の内部に、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側に、セラミックス製の捕集管8の先端部を配置し、プラズマ中から放出されたガスを捕集可能としてもよい。そして、捕集管8の基端部は、捕集したガスをトラップするトラップ、ガスセル、ポンプを介して、外部に排気可能とし、前記ガスセル内のガスをFTIRスペクトルを測定するためのFTIR分光器や、成分を測定するためのガスクロマトグラフ装置等に用いた分析に用いるようにしてもよい。
【0037】
以上のような装置を用いて、プラズマ化された亜酸化窒素に直接、噴霧装置2から水を噴霧した。このとき、図2(b)に示すように、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側であって水を噴霧した部分ではプラズマの発光が消失していることが確認された。また、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における上流側で水が噴霧されていない部分では通常のプラズマの発光がみられた。これは、水の気化熱によって水が噴霧された部分においてプラズマのガス温度が低下し、その結果、プラズマの発光が消失したものと考えられる。したがって、本実施形態によれば、ノズル7からプラズマに直接水を噴霧することでプラズマを消去することができる。
【0038】
また、例えば、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)に対して垂直方向など、所定の角度を持った方向からカーテン状の水の霧を噴霧可能なノズル、あるいはカーテン状の水を放出可能なノズルを設けてもよい。これにより、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側のプラズマの一部を消去することで、プラズマの大きさを制御することができる。さらに、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)に対するズルの位置を調整し、プラズマの急冷位置を調整することにより、プラズマの大きさを制御することができる。
【0039】
次に、プラズマを急冷した後、捕集したガスをガスクロマトグラフ装置により成分を検出し、亜酸化窒素の分解率及び捕集されたガスに含まれる二酸化窒素の濃度を計算した。図3(a)(b)はそれぞれ、噴霧する水の水圧を変えたときのN2Oの分解率、及びNO2の濃度を示すグラフである。
【0040】
図3(a)(b)に示すように、本実施形態の処理方法によれば、亜酸化窒素の99.9%の分解率が得られると同時に、従来、生成されていた一酸化窒素の生成量を低減することができた。また、噴霧する水の水圧が0.5MPaのときに最も一酸化窒素の低減効率が得られ、プラズマを急冷する処理を行わない従来の処理方法と比べて、その生成量を約1/5に低減させることができた。
【0041】
ここで、本実施形態の装置において、プラズマトーチ3内におけるプラズマの温度を実際に測定した。測定箇所はプラズマトーチ3の内部におけるプラズマの内部であって、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側であって水を噴霧し、発光が消失している部分と、上流側であって通常のプラズマの発光がみられる部分の2箇所について測定した。
【0042】
前者については熱電対で測定したところ50±10℃であった。また、後者については、高温のため熱電対で測定できないので、分光器を用いて回転スペクトルを測定し、この回転スペクトルからプラズマのガス温度に相当する回転温度を算出した。
【0043】
図4(a)は、回転スペクトルから作成したボルツマンスポットのグラフである。また、図4(b)は、この回転スペクトルから見積もったプラズマの回転温度であり、前記電源部からコイル5に印加する高周波の入力電力を変えたときの温度を示している。なお、OH基を有する化合物から発生させたプラズマの場合は、ほんの少しOH基の化合物をプラズマトーチ内に導入すれば発光がよく出るが、麻酔ガスプラズマ(及び空気プラズマ)では、ノイズや他のスペクトルがOH基に相当するスペクトルの上に重なってしまい、OH基に関する数値がボルツマンプロットに乗らなかった。そこで、プラズマガスを100%バブリングにより調湿し、OH基の回転スペクトルを求めた(60%付近からピークの強さが一気に上がり100%まで上がり続けた)。以上から、プラズマの発生方向(図2(a)における矢印Aの方向)における下流側のプラズマのガス温度は、約7000℃であることが確認された。
【0044】
次に、上記実施形態で用いた農薬噴霧用のごく一般的なノズルとは異なる7種類のノズルを用いて、一酸化窒素の低減効果を評価した。表1に、各ノズルのタイプと、流量サイズ(小流量フルコーンノズルの上段のノズルを1としたときの相対値)、流量、スプレー角(霧状の水の広がり角度)、各ノズルの一酸化窒素の低減効果の数値を示す。
【0045】
ここで、前記ノズルのタイプとしては、スプレーパターンが均一分布のフルコーンノズルであって、流量が小量で前記スプレー角が広いもの(表1における小流量広角フルコーンノズル)及びスプレー角が狭いもの(表1における小流量フルコーンノズル)、ノズルの内部で気体と混合させることなく液体のみを噴霧可能であって、液滴が微細なアトマイジングノズル(表1における1流体微細アトマイジングノズル)を用いた。
【0046】
いずれも図2と同様の装置を用い、水圧を0.5Mpaに固定した。また、前記電源部から印加する電力は1000W、プラズマトーチの内径は26mm、水を噴霧して急冷した位置は、前記コイル5から110〜120mm、プラズマから排出されたガスを捕集管8で捕集した位置はコイルのプラズマの発生方向における先端部から180mmかつ中心軸上の位置であり、前記ポンプの流量は6L/minである。なお、表1の低減効果の数値は、各ノズルについて最も低減効果の得られた噴射角で行った場合の数値である。
【表1】

【0047】
表1に示したように、小流量フルコーンノズルの流量サイズ「1.5」を使用したときに最も大きな低減効果が得られ、急冷しない場合と比較して、約1/15まで一酸化窒素を低減させることに成功した。
【0048】
以上から、本実施形態によれば、プラズマを急冷し副次的に生成されていたNO2の生成量を低減することができる。
【0049】
次に、第2実施形態について図5により説明する。
【0050】
本実施形態の被処理物の処理方法及び処理装置は、上記第1実施形態の装置を用いて同様の処理方法により、亜酸化窒素にセボフルラン(sevoflurane)が5%添加された麻酔ガスをプラズマを用いて分解処理し、セボフルランについても亜酸化窒素と同時に分解処理するものである。
【0051】
なお、前記電源部からプラズマトーチ3に印加する電力は1000Wとし、プラズマトーチ3の内径は340mm、捕集管によりガスを捕集する位置はプラズマトーチ3のコイル5から200mmの位置とする。厳密には、プラズマ化されるガスとしては、N2Oが2L/min、O2が4L/min、セボフルランが5%、これに空気が4L/minである。
【0052】
また、本実施形態においては、捕集管8の基端部をFTIR分光器と接続し、プラズマから排出されたガスのFTIRスペクトルを測定とし、第1実施形態と同様に、このセボフルランが混合されたN2Oガスをプラズマ化し、プラズマトーチ3から排出されるガスのスペクトルを測定した。
【0053】
図5(a)(b)は、それぞれプラズマ処理前後のFTIRスペクトルである。図5(b)に示すように、図5(a)のプラズマ処理前のスペクトルに見られたN2O及びセボフルランに対応するピークが消失していることが確認された。従って、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、一酸化窒素の生成量を低減して、亜酸化窒素の分解処理を行うことができるとともに、亜酸化窒素の分解処理と同時に分解処理することができる。このような本実施形態によれば、従来のように、亜酸化窒素の分解処理の前に、従来のように、亜酸化窒素に微少量添加されているセボフルラン等のVOCを予め冷却除去することが必要ないため、簡易的に分解処理することができる。
【0054】
次に、第3実施形態について説明する。
【0055】
本実施形態は、前記第1実施形態における装置を用い、プラズマ分解処理し、水を噴霧して急冷した後、捕集管で捕集されたガス中に残余している被処理物を除去する除去手段を設けたものである。本実施形態では前記除去手段として、捕集管の基端部と接続され、その内部に減圧状態を作り出すことで、捕集されたガスを吸引するアスピレータを用い、流体として水を使用する。水の噴霧による処理後のガスは吸入され、吸入されたガスは水流中で気泡を形成するため、水との接触面積が大きくなる。その結果、処理後のガスに残余しているNO(一酸化窒素)から酸化されて形成されたNO2、N24は水に吸着される。したがって、本実施形態によれば、処理後のガス中に含まれるNO、NO2、N24が外部に排出する量を確実に低減させることができる。
【0056】
次に、第4実施形態について説明する。
【0057】
第1、第2実施形態においては、N2Oやセボフルランをプラズマ化することで分解処理しているが、本実施形態においては代わりに、燃焼処理法を用いて分解処理するものである。例えば、使用後に排気され、一度捕集されたNO2やセボフルランに、活性化手段としてのアセチレンバーナーを用いて燃焼処理してもよい。そして、この場合についても、第1、2実施形態と同様に、燃焼処理後のガスを急冷して、燃焼処理後に含まれるNO2の生成量を低減することができる。
【0058】
ここで、このように燃焼処理を行う場合、図2(a)のプラズマトーチ3に代えて酸素供給型のアセチレンバーナー(不図示)を設置する。この場合、アセチレンバーナー中の温度は約3000℃である。したがって、図1の状態図に示されるように、約3000℃から約2500℃においてはNOが形成されている。このことから、同様に、アセチレンバーナーの炎の下流側の一部にノズル7より直接水を噴霧し、化学炎中のガスの温度を急冷し、NOの発生する温度領域の過程を短時間で通過させることで、NOの発生量が抑えられ、その結果、NOの酸化により発生するNO2の発生量を低減することができる。
【0059】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。例えば、プラズマCVD法を用いて、基板等の表面に薄膜形成をする場合において、特定の薄膜が形成されるように制御する処理を行う等、様々な処理に応用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 プラズマ発生装置(活性化手段)
2 噴霧装置(冷却手段)
3 プラズマトーチ
4 被処理物導入口
5 コイル
6 噴霧口
7 ノズル
8 捕集管
A プラズマの発生方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物が活性化状態にある時に、前記被処理物が特定の成分に変化させられる温度領域以下に前記被処理物を急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして前記被処理物の成分状態を変化させる処理を施すことを特徴とする被処理物の処理方法。
【請求項2】
前記被処理物をプラズマ化して活性化状態とし、プラズマ化された被処理物を急冷することにより、前記特定の成分に変化させられる温度以下にすることを特徴とする請求項1に記載の被処理物の処理方法。
【請求項3】
プラズマの発生方向に対する急冷の位置を調整することにより、プラズマの大きさを制御することを特徴とする請求項2に記載の被処理物の処理方法。
【請求項4】
燃焼によって被処理物を活性化状態とすることを特徴とする請求項1に記載の被処理物の処理方法。
【請求項5】
活性化状態にある前記被処理物に水を噴霧することにより急冷することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法。
【請求項6】
前記被処理物は亜酸化窒素であり、前記特定の成分は一酸化窒素であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法。
【請求項7】
急冷した前記被処理物中に残余している前記特定の成分を除去することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の被処理物の処理方法。
【請求項8】
温度変化することにより成分状態が変化する気体を含む被処理物を活性化状態とする活性化手段と、
活性化状態にある前記被処理物を冷却する冷却手段と、
を備え、
前記活性化手段により活性化状態とされた前記被処理物を、前記冷却手段により特定の成分が形成される温度領域以下に急冷することによって、前記特定の成分が存在する温度領域の保持時間を短くして前記被処理物の成分状態を変化させる処理を施すことを特徴とする被処理物の処理装置。
【請求項9】
前記活性化手段は、前記被処理物をプラズマ化するプラズマ発生装置であることを特徴とする請求項8に記載の被処理物の処理装置。
【請求項10】
前記冷却手段は、プラズマ化された前記被処理物に水を噴霧する噴霧装置であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の被処理物の処理装置。
【請求項11】
前記噴霧装置は、フルコーンノズル、アトマイジングノズル及び農薬噴霧用ノズルのいずれかを備えることを特徴とする請求項10に記載の被処理物の処理装置。
【請求項12】
前記噴霧装置は、プラズマの発生方向に対して所定の角度を持った方向からカーテン状に噴霧可能とされたノズルを備えることを特徴とする請求項10に記載の被処理物の処理装置。
【請求項13】
前記冷却手段により急冷した前記被処理物に残余している前記特定の成分を除去する除去手段を備えることを特徴とする請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載の被処理物の処理装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−61434(P2012−61434A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208568(P2010−208568)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人応用物理学会による2010年8月30日発行の「2010年秋季 第71回応用物理学会学術講演会 講演予稿集」のDVDに発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】