説明

被塗装部品の塗装方法、及び被塗装部品の塗装システム

【課題】塗装効率が向上する被塗装部品の塗装方法及び小型化が可能な被塗装部品の塗装システムを提供する。
【解決手段】本発明の塗装方法は、電鋳治具のマスキング部を被塗装部品の被マスキング部に当接させて被マスキング部を保護しつつ、被塗装部品をスプレー塗装する塗装方法に代え、熱可塑性樹脂からなるマスキング材20をマッドガード1の被マスキング部F’に装着して被マスキング部F’をマスキング材20により被覆してからマッドガード1をスプレー塗装する。また本発明の塗装システム45は、マスキング材20が被マスキング部F’に装着されて被マスキング部F’がマスキング材20により被覆された状態のマッドガード1をスプレー塗装する塗装ライン48と、スプレー塗装された後のマッドガード1を乾燥させる乾燥ライン51と、塗装ライン48から乾燥ライン51にマッドガード1を搬送する第二搬送装置55bとを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスキング材が被着される被マスキング部を有する被塗装部品の塗装方法と、該被塗装部品を塗装する塗装システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図6に示すように基台23上に被塗装部品Bを載置し、該被塗装部品Bの塗装から保護されるべき被マスキング部aにマスキング治具26のマスキング部26Bを当接させたうえでスプレー塗装を行う塗装装置21が提供されている。
該マスキング治具26は、例えば回動枠24に支持され、該回動枠24を回動軸28を中心にして点線に示す待機位置から実線に示す塗装位置まで往復回動させる。
該マスキング治具26は、基部26Aとマスキング部26Bとからなるが、一般的に金属製であり、特に該マスキング部26Bは、被塗装部品Bの被マスキング部aに対応する形状に精度よく形成されていることが必要であり、そのために該マスキング部26Bを電鋳によって形成することが望ましい。このように、マスキング部26Bを電鋳で形成する構成は、いわゆる電鋳マスク法として知られており、かかる電鋳マスク法にあっては、前記マスキング治具26は電鋳治具と呼称される(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平05−064767号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のマスキング治具26にあっては、スプレー塗装によって塗料が該マスキング治具26表面にも付着するので、一回の塗装あるいは数回の塗装の後、該マスキング治具26から塗料を取り除く洗浄工程が必要であった。
【0005】
また、上記塗装装置21にあっては、マスキング治具26が被塗装部品Bを搬送する搬送装置の直近に隣接して設置される為、当該被塗装部品Bの搬送方向は当該搬送装置を避けるようにして配置しなければならない。このため、被塗装部品Bの搬送方向は制限されることとなり、塗装ラインと、該塗装ラインの次工程である乾燥ラインとを連続させて塗装工程の効率化を図ることが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、上記問題を解決することができる被塗装部品の塗装方法、及び該被塗装部品の塗装システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非塗装領域である被マスキング部を有する被塗装部品の塗装方法であって、電鋳で形成されたマスキング部を具備する電鋳治具の当該マスキング部を前記被塗装部品の被マスキング部に当接させて該被マスキング部を保護しつつ、該被塗装部品をスプレー塗装する塗装方法に代えて、熱可塑性樹脂からなるマスキング材を被塗装部品の被マスキング部に装着して当該被マスキング部を当該マスキング材により被覆してから該被塗装部品をスプレー塗装するようにしたことを特徴とする被塗装部品の塗装方法である。
【0008】
さらにかかる構成にあっては、被塗装部品をスプレー塗装し、さらに、スプレー塗装した該被塗装部品をマスキング材を被マスキング部に装着したまま乾燥させても良い。
【0009】
なお、被塗装部品は、自動車用マッドガードが例示され得る。また、被塗装部品は、自動車の室内に配設されるドア窓開閉用スイッチケースとしても良い。
【0010】
また、本発明は、非塗装領域である被マスキング部を備え、熱可塑性樹脂からなるマスキング材が該被マスキング部に装着されて当該被マスキング部が当該マスキング材により被覆された状態の被塗装部品をスプレー塗装するスプレー塗装部が配置されてなる塗装ラインと、スプレー塗装された後であってマスキング材が被マスキング部に装着された状態の被塗装部品を乾燥させる乾燥部が配置されてなる乾燥ラインと、前記塗装ラインにあるスプレー塗装された被塗装部品を、前記乾燥ラインに移送する被塗装部品移送手段とを備えた被塗装部品の塗装システムである。
【0011】
かかる構成にあって、被塗装部品は、自動車用マッドガードとしても良い。また、被塗装部品としては、ドア窓開閉用スイッチケースが例示される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る被塗装部品の塗装方法は、電鋳マスク法におけるマスキング部の洗浄工程が排除される為、塗装効率が飛躍的に向上する。
【0013】
また、本発明に係る被塗装部品の塗装システムは、塗装ラインと乾燥ラインとが連続する為、全体として塗装効率が向上すると共に、塗装システム自体をコンパクトなものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、被塗装部品は、自動車用マッドガード1を例にして説明する。
図1に示すように、自動車用マッドガード1(以下、適宜、マッドガード1という。)は、自動車本体のフェンダー(図示省略)に連結される取付部11と、取付部11の直下に連成された湾曲部12と、湾曲部12の直下に連成された平板状のスカート部13とを備えている。
【0015】
また、前記取付部11には、複数のボルト取付穴14が開口しており、係るボルト取付穴14に取付手段であるボルト(図示省略)が挿通されて当該マッドガード1が前記フェンダーに固定される。
【0016】
なお、前記マッドガード1は硬質の樹脂を射出成形してなるものであり、たとえば、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂共重合体、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂を配合してなるもので、樹脂の硬度は少なくとも95(JISK6301A)以上、好ましくは98以上で、取付部11の板厚は5mm以上であれば、十分な取付強度が得られる。
【0017】
次に、マッドガード1の塗装方法について説明する。
本実施例に係るマッドガード1は、その表面にスプレー塗装されるところ、スカート部13の前面13Aのみが非塗装領域Fであり、該非塗装領域であるスカート部13には、図1に示すように、スプレー塗装時にマスキング材20が装着される。換言すれば、当該スカート部13は、マスキング材20が被着される被マスキング部F’となる。
【0018】
ここで、前記マスキング材20は、図2に示すように、正面視横長矩形であり、上縁を除く外縁には、後方へ突出した鍔部20Aが形成されていると共に、該鍔部20Aの基部には、前記スカート部13の外縁が嵌め込まれる嵌合溝22が形成されている。
【0019】
前記マスキング材20は、熱可塑性樹脂製のシートを所定形状に成形して製造されたものである。該熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリエステル等の熱可塑性プラスチック、あるいはポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、結晶性ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミノビスマレイミド、メチルペンテンコポリマー、セルロースアセテート等のエンジニアリングプラスチック、あるいは上記プラスチックの二種以上の混合物、あるいは上記プラスチックシートの二種以上の積層物等が挙げられる。
【0020】
さらに、上記熱可塑性樹脂には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、ドロマイト、石膏、タルク、クレー、アスベスト、マイカ、ガラス繊維、ケイ酸カルシウム、ベンナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填剤、木綿、竹、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビスコース繊維、アセテート繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維等の有機合成繊維、アスベスト繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、ウィスカー等の無機繊維、リンター、リネン、サイザル、木粉、ヤシ粉、クルミ粉、でん粉、小麦粉等の有機充填材等の補強材を添加して形状保持性、寸法安定性、圧縮および引張強度等を向上せしめてもよいし、更に難燃剤、防炎剤、防虫剤、防腐剤、ワックス類、滑剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、結晶化促進剤、化学発泡剤、カプセル型発泡剤等の発泡剤、染料、顔料等の着色剤、DOP、DBP等の可塑剤等の一種または二種以上が混合されてもよい。
【0021】
上記熱可塑性樹脂製のシートの成形方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等が挙げられる。該成形においては、金型を使用してもよく、またマスキング材20の対象物品(本実施形態であればマッドガード1)を車体組み立て前に採取し、該対象物品を成形型として使用してもよい。
【0022】
次に、上記自動車用マッドガード1の塗装システム45について説明する。
図4に示すように、マッドガード1を塗装する塗装システム45は、塗装ライン48と塗装ライン48の次工程である乾燥ライン51とを備えている。そして、マッドガード1は、第一搬送装置55aにより前記塗装ライン48に搬送され、次に第二搬送装置55bにより前記乾燥ライン51に搬送され、第三搬送装置55cにより次のラインに搬送される。なお、前記の第二搬送装置55bにより、本発明に係る被塗装部品移送手段が構成される。
【0023】
さらに、前記塗装ライン48には、塗料をワーク(本実施例ではマッドガード1)に対して噴射するスプレーガン(図示省略)を備えるスプレー塗装部49が配置されている。また、前記乾燥ライン51には、ワーク(本実施例ではスプレー塗装後のマッドガード1)を乾燥させる乾燥機(図示省略)を備える乾燥部52が配置されている。
【0024】
次に、マッドガード1の表面処理である塗装の手順について説明する。
マッドガード1が塗装ライン48に搬送される前においては、図1,2に示すように、当該マッドガード1のスカート部13に、上記マスキング材20が予め取り付けられる。このとき、該マスキング材20の嵌合溝22にスカート部13の外縁を押し込むと、当該マスキング材20がマッドガード1に係止されて脱着可能に装着される。
【0025】
そして、かかる状態で当該マッドガード1を、図4に示す塗装システム45における塗装ライン48に第一搬送装置55aによって搬送する。そして、この塗装ライン48のスプレー塗装部49でマッドガード1をスプレー塗装する。
【0026】
さらに、スプレー塗装が終了すると、マスキング材20をマッドガード1に装着したままマッドガード1を第二搬送装置55bによって乾燥ライン51に搬送する。そして、当該マッドガード1を乾燥部52で所定温度のエアーを接触させて表面を乾燥させる。
【0027】
次に、マッドガード1は第三搬送装置55cによって次にラインに搬送される。なお、前記マスキング材20は、乾燥ライン51の後の任意のラインにおいてマッドガード1から取り外され、再利用される。
【0028】
なお、本発明に係る被塗装部品は、例えば、図5に示すような自動車の室内に取り付けられるドア窓開閉用スイッチケース40としても良い。さらに詳述すると、ドア窓開閉用スイッチケース40は、自動車の例えば運転席に取り付けられたドア30の内側ドアレバー31の直下に形成されたドア一体型肘掛部32の上面に配設される。さらに、このドア窓開閉用スイッチケース40には、四つの矩形開口部41が形成され、各開口部41にドア窓を開閉する為のスイッチ42が配置される。
【0029】
そして、このドア窓開閉用スイッチケース40にあっても、非塗装領域Fである被マスキング部F’が適宜設定され、上記塗装方法に従ってスプレー塗装される。
【0030】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の塗装方法によれば、被塗装部品の塗装効率が向上するため、極めて有用である。また、本発明の塗装システムは、塗装設備を小型化することができるため、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】自動車用マッドガード1の外観斜視図である。
【図2】マスキング材20の外観斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】塗装システム45の説明図である。
【図5】ドア窓開閉用スイッチケース40の外観斜視図である。
【図6】電鋳方式の塗装装置21の概要側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 マッドガード(被塗装部品)
20 マスキング材
40 ドア窓開閉用スイッチケース(被塗装部品)
49 スプレー塗装部
48 塗装ライン
49 スプレー塗装部
51 乾燥ライン
52 乾燥部
55b 第二搬送装置(被塗装部品移動手段)
F 非塗装領域
F’ 被マスキング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非塗装領域である被マスキング部を有する被塗装部品の塗装方法であって、電鋳で形成されたマスキング部を具備する電鋳治具の当該マスキング部を前記被塗装部品の被マスキング部に当接させて該被マスキング部を保護しつつ、該被塗装部品をスプレー塗装する塗装方法に代えて、熱可塑性樹脂からなるマスキング材を被塗装部品の被マスキング部に装着して当該被マスキング部を当該マスキング材により被覆してから該被塗装部品をスプレー塗装するようにしたことを特徴とする被塗装部品の塗装方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂からなるマスキング材を被塗装部品の被マスキング部に装着して当該被マスキング部を当該マスキング材により被覆してから該被塗装部品をスプレー塗装し、さらに、スプレー塗装した該被塗装部品を、マスキング材を被マスキング部に装着したまま乾燥させることを特徴とする請求項1記載の被塗装部品の塗装方法。
【請求項3】
被塗装部品は、自動車用マッドガードである請求項1又は請求項2記載の被塗装部品の塗装方法。
【請求項4】
被塗装部品は、自動車の室内に配設されるドア窓開閉用スイッチケースである請求項1又は請求項2記載の被塗装部品の塗装方法。
【請求項5】
非塗装領域である被マスキング部を備え、熱可塑性樹脂からなるマスキング材が該被マスキング部に装着されて当該被マスキング部が当該マスキング材により被覆された状態の被塗装部品をスプレー塗装するスプレー塗装部が配置されてなる塗装ラインと、
スプレー塗装された後であってマスキング材が被マスキング部に装着された状態の被塗装部品を乾燥させる乾燥部が配置されてなる乾燥ラインと、
前記塗装ラインにあるスプレー塗装された被塗装部品を、前記乾燥ラインに移送する被塗装部品移送手段とを備えた被塗装部品の塗装システム。
【請求項6】
被塗装部品は、自動車用マッドガードである請求項5記載の被塗装部品の塗装システム。
【請求項7】
被塗装部品は、自動車の室内に配設されるドア窓開閉用スイッチケースである請求項5記載の被塗装部品の塗装システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−11898(P2009−11898A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174162(P2007−174162)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000243892)名古屋油化株式会社 (78)
【Fターム(参考)】