説明

被膜形成方法及び被膜形成装置

【課題】塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる被膜形成方法及び被膜形成装置を提供する。
【解決手段】被膜形成装置10は、ガラス板1の被膜形成面1aに赤外線カット液3を射出する2本のノズル2a,2bを有する。ノズル2a,2bからそれぞれ射出される単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量は、1〜3g/sである。まず、ノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出する。その後、赤外線カット液3を射出しながら2本のノズル2a,2bを被膜形成面1aに沿って右方向へ50〜500mm/sで移動させる。ノズル2a,2bがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達すると、ノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成方法及び被膜形成装置に関し、特に、ノズルを用いて塗布液をガラス板上に塗布する被膜形成方法及び被膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス板の表面に形成された薄膜中にインジウム等の高価で希少な金属を含有させることにより、赤外線をカットオフ(遮蔽)する機能等を持たせることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1の赤外線遮蔽ガラスでは、耐熱性に優れたフッ素成分を含有させたITO粉末を用いて350℃以上の高温でもゾル−ゲル法を実行可能にしている。このフッ素成分は、ITO微粒子を熱的に保護した状態で赤外線カット膜中に導入される。
【0004】
特許文献2の赤外線遮蔽ガラスは、少なくとも一方の面上に、有機物及び無機酸化物が複合化された有機無機複合膜中に赤外線カットオフ成分としてのITO微粒子を含む赤外線カット膜が形成されている。
【0005】
ガラス板の表面に赤外線カット膜等の薄膜を形成する方法として、図4に示すように、ガラス板11をガラス板保持部材14により上下方向に保持した状態でガラス板11の上部にノズル12を用いて塗布液13を射出し、ガラス板11の上部に射出された塗布液13が鉛直下向きに流れ落ちることによりガラス板11上に塗布液13が塗布されるフローコート法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、自動車用ガラスなどの幅の広いガラスに対し塗布する場合、図5に示すように、ノズル12をガラス板11に対し矢印A方向に相対移動させて塗布する。
【特許文献1】国際公開第2004/011381号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/095298号パンフレット
【特許文献3】特開平7−157749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の塗布方法には、以下の課題がある。
【0008】
図4のフローコート法では、ガラス板11の上部より塗布液13を塗布している。ガラス板11の上下方向の長さが長いため、塗布液13の射出量が少ないと塗布液13の溶媒が蒸発して下まで液が流れず、途中で液切れを起こしてしまう。従って、ガラス板11の下部まで塗布を行うためには、塗布液13の量を多くするか、ノズル12の相対移動速度を遅くする必要があり、製造コストが上昇するという問題が発生する。
【0009】
また、塗布するガラス板11の幅が広く、ガラス板11又はノズル12を矢印A方向に移動させる場合、塗布液13の流れはノズル12の動きに遅れて斜めになる(図5(ノズル12を動かした場合))。よって、ノズル12がガラス板11の終端まで行き着いた後、塗布液13の射出を止めるとガラス板11の終端が濡れなくなるので、ガラス板11の終端で塗布液13を流し続ける必要があり、塗布液13の使用量増大によって製造コストが上昇するという問題が発生する。
【0010】
さらに、赤外線遮蔽ガラスをフローコート法を用いて製造する場合、希少金属の使用量増大によって製造コストが上昇するだけでなく、希少金属の早期枯渇をも招くという問題が発生する。
【0011】
本発明の目的は、塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる被膜形成方法及び被膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の被膜形成方法は、基材の被膜形成面に被膜を形成する被膜形成方法において、前記基材の被膜形成面が鉛直面に対して所定の角度となるように前記基材を保持する保持ステップと、前記被膜形成面に複数のノズルから塗布液を射出する射出ステップと、前記塗布液を射出しながら前記複数のノズルを前記被膜形成面に対して相対移動させるべく前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つを移動させる移動ステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の被膜形成方法は、請求項1記載の被膜形成方法において、前記塗布液は、該塗布液の全質量に対する全固形分質量が3〜10質量%であることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の被膜形成方法は、請求項1又は2記載の被膜形成方法において、前記塗布液は、粘度が0.0017〜0.1Pa・sであることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の被膜形成方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルは、前記被膜形成面に対する対向位置であって、前記被膜形成面及び水平面のそれぞれに対し略垂直な1つの略鉛直面上に配置されることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の被膜形成方法は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルの各先端と前記被膜形成面との距離は、5〜150mmであることを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の被膜形成方法は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つは、前記複数のノズルの各先端と前記被膜形成面との距離が略一定に維持されるように、相対移動されることを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の被膜形成方法は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記相対移動の速度は50〜500mm/秒であることを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の被膜形成方法は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルの各々における前記塗布液の射出量は1〜3g/秒であることを特徴とする。
【0020】
請求項9記載の被膜形成方法は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルは、夫々、100〜500mmの間隔で配置されることを特徴とする。
【0021】
請求項10記載の被膜形成方法は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルのうち最下段に配置されたノズルと、前記被膜形成面における塗布範囲の下端との鉛直方向の距離は、0〜700mmであることを特徴とする。
【0022】
請求項11記載の被膜形成方法は、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の被膜形成方法において、前記複数のノズルの本数は2本であり、前記被膜形成面における塗布範囲は、鉛直方向の長さが200〜1000mmであることを特徴とする。
【0023】
請求項12記載の被膜形成装置は、基材の被膜形成面に被膜を形成する被膜形成装置において、前記基材の被膜形成面が鉛直面に対して所定の角度となるように前記基材を保持する保持手段と、前記被膜形成面に塗布液を射出する複数のノズルと、前記塗布液を射出しながら前記複数のノズルを前記被膜形成面に対して相対移動させるべく前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つを移動させる移動手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の被膜形成方法及び請求項13の被膜形成方法によれば、被膜形成面に複数のノズルから塗布液を射出し、塗布液を射出しながら複数のノズルを被膜形成面に対して相対移動させるべく複数のノズル及び基材の少なくとも1つを移動させるので、ノズル1つ当たりの塗布範囲を小さくすることができ、もって塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる。また、塗布液の全質量に対する全固形分質量が3〜10質量%であっても、塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる。また、塗布液の粘度が0.0017〜0.1Pa・sであっても、塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる。
【0025】
請求項4記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルは被膜形成面に対する対向位置であって、被膜形成面及び水平面のそれぞれに対し略垂直な1つの略鉛直面上に配置されるので、塗り始め及び塗り終りの被膜形成領域に段差が生じないようにすることができる。
【0026】
請求項5記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルの各先端と被膜形成面との距離は、5〜150mmであるので、塗布液を被膜形成面全体に均一に塗布することができる。
【0027】
請求項6記載の被膜形成方法によれば、複数のノズル及び基材の少なくとも1つは、複数のノズルの各先端と被膜形成面との距離が略一定に維持されるように、相対移動されるので、塗布液を被膜形成面全体に均一に塗布することができる。
【0028】
請求項7記載の被膜形成方法によれば、相対移動の速度は50〜500mm/秒であるので、塗布液を迅速に塗布すると共に、塗布液を被膜形成面全体に確実に塗布することができる。
【0029】
請求項8記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルの各々における塗布液の射出量は1〜3g/秒であるので、塗布液の使用量を低減すると共に、塗布液を被膜形成面全体に確実に塗布することができる。
【0030】
請求項9記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルは、夫々、100〜500mmの間隔で配置されるので、塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができる。
【0031】
請求項10記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルのうち最下段に配置されたノズルと、被膜形成面における塗布範囲の下端との鉛直方向の距離は、0〜700mmであるので、ノズルが被膜形成面の下端からはみ出すことなく、塗布液を被膜形成面全体に確実に塗布することができる。
【0032】
請求項11記載の被膜形成方法によれば、複数のノズルの本数は2本であり、被膜形成面における塗布範囲は、鉛直方向の長さが200〜1000mmであるので、比較的少ないノズルで比較的大きいガラス板に塗布液を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、基材の被膜形成面が鉛直面に対して所定の角度となるように基材を保持し、被膜形成面に複数のノズルから塗布液を射出し、塗布液を射出しながら複数のノズルを被膜形成面に対して相対移動させるべく複数のノズル及び基材の少なくとも1つを移動させると、ノズル1つ当たりの塗布範囲を小さくすることができ、もって塗布液の使用量を低減すると共に塗布液を迅速に塗布することができることを見出した。
【0034】
本発明は、上記研究の結果に基づいてなされたものである。
【0035】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳述する。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態に係る被膜形成装置の構成を示す側面図である。
【0037】
図1において、被膜形成装置10は、ガラス板1を保持するガラス板保持部材4と、ガラス板1の被膜形成面1aに赤外線カット液3を射出する2本のノズル2a,2bとを有する。
【0038】
ノズル2a,2bは、ガラス板1の被膜形成面1aに対する対向位置であって、被膜形成面1a及び水平面のそれぞれに対し略垂直な1つの略鉛直面上に配置されている。ノズル2a,2bの間隔は、100〜500mm、好ましくは100〜300mmである。また、ノズル2a,2bの先端とガラス板1の被膜形成面1aとの距離は、5〜150mm、好ましくは5〜100mm、より好ましくは5〜50mmである。ノズル2a,2bの先端とガラス板1の被膜形成面1aとの距離が5mm未満であると、ノズル2a,2bの先端とガラス板1の被膜形成面1aとが接触する可能性がある。一方、ノズル2a,2bの先端とガラス板1の被膜形成面1aとの距離が150mmを超えると、ノズル2a,2bの先端から射出した赤外線カット液3がガラス板1の被膜形成面1aまで届かない可能性がある。
【0039】
ガラス板1は、特に限定されるものではなく、その組成、大きさ、形状、厚さは、用途に応じて決定すればよい。例えば、自動車用の窓ガラスを製造する場合は、ソーダライムシリカガラスを自動車の窓枠の形状に即した形状に加工したものをガラス板1とすればよい。
【0040】
ガラス板1は、鉛直方向下向きを0°、ガラス板1が水平で被膜形成面1aがガラス板1の上側となる場合を90°、ガラス板1が水平で被膜形成面1aがガラス板1の下側となる場合を−90°とした場合に、ガラス板保持部材4により鉛直面(鉛直方向)に対して0〜40°の角度に保持されている。ガラス板1が鉛直面(鉛直方向)に対して0°未満であると、赤外線カット液3がガラス板1の被膜形成面1aから離れて鉛直方向に滴下する可能性がある。一方、ガラス板1が鉛直面(鉛直方向)に対して40°を超えると、赤外線カット液3が流れにくくなり、赤外線カット液3をガラス板1の被膜形成面1a全体に塗布することができない可能性がある。
【0041】
赤外線カット液3は、シリカ(SiO)を構成単位とするシリカ成分等から成る主成分と、有機物と、無機物としてのテトラエトキシシラン(TEOS)と、ITO微粒子(インジウム(In)−スズ(Sn)酸化物:Indium Tin Oxide)とを含み、溶媒としてエタノール等のアルコールを含む。シリカ成分と有機物は、被膜形成面1aに形成された赤外線カット膜中のマトリクスを形成する。
【0042】
赤外線カット液3は、赤外線カット液3の全質量に対する全固形分質量が3〜10質量%である。赤外線カット液3の全質量に対する全固形分質量が3質量%未満であると、赤外線カット膜の膜厚が薄くなり、赤外線カットオフ機能が不十分になる場合がある。一方、赤外線カット液3の全質量に対する全固形分質量が10質量%を超えると、赤外線カット膜の膜厚が厚くなりすぎて、赤外線カット膜にクラックが発生しやすい。
【0043】
また、赤外線カット液3は粘度が0.0017〜0.1Pa・sである。赤外線カット液3は粘度が0.0017Pa・s未満であると、赤外線カット膜の膜厚が薄くなり、赤外線カットオフ機能が不十分になる場合がある。一方、赤外線カット液3は粘度が0.1Pa・sを超えると、赤外線カット膜の膜厚が厚くなりすぎて、赤外線カット膜にクラックが発生しやすい。
【0044】
ITO微粒子を、シリカ成分と有機物とを含むマトリクス中に分散させた状態で膜状にするためにはゾル−ゲル法を用いる。ITO微粒子は、該ゾル−ゲル法によってゾル状態にあるマトリクスが固化することによりマトリクス中に分散された状態で固定される。マトリクスに固定されている状態でITO微粒子の含有量は、赤外線カット膜の全質量に対して20〜45質量%である。該ITO微粒子の含有量が赤外線カット膜の全質量に対して20質量%未満であると、赤外線をカットする赤外線遮蔽機能が低くなり、一方、赤外線カット膜の全質量に対して45質量%を超えると、マトリクスの硬度が低下する。
【0045】
また、ITO微粒子の粒径は、100nm以下、好ましくは40nm以下であり、より好ましくは1〜40nmである。これにより、赤外線カットの効率が良く、且つ微粒子の粒径が大きいことに起因するヘイズの発生を抑制することができる。
赤外線カット膜中の有機物としては、親水性有機ポリマー、例えば、ポリアルキレンオキサイド、及び該ポリアルキレンオキサイドの熱分解物のいずれか一方の有機物を用いる。これらの有機物は、シリコンアルコキシドなどのシリカ成分を含む無機酸化物と複合化し、その結果、マトリクスが形成される。すなわち、マトリクスは、有機物と無機酸化物とが分子レベルで結合又は組み合わされた有機無機複合化合物から成る有機無機複合膜である。
【0046】
また、上記有機物の含有量は、赤外線カット膜の全質量に対して2〜60%である。該有機物の含有量が赤外線カット膜の全質量に対して2質量%未満であると、収縮緩和効果が十分に得られなくなり、厚い膜を形成する際にクラックが発生する可能性が増大する。一方、赤外線カット膜の全質量に対して60質量%を超えると、赤外線カット膜中の有機物の含有量が多すぎて、十分な硬度を得ることができなくなる。
【0047】
赤外線カット膜中のシリカ成分の含有量は、赤外線カット膜の全質量に対して20〜78%、好ましくは40〜78%である。該シリカ成分の含有量が赤外線カット膜の全質量に対して20質量%未満であると、耐摩耗性試験(テーバー摩耗試験)を赤外線カット膜形成面に行った後に測定される赤外線カットガラスのヘイズ率(曇価)を低くすることができなくなる。なお、ゾル−ゲル法において使用される溶液に添加されるマトリクスの出発原料におけるシリカ成分の濃度は20〜40質量%である。
【0048】
上記シリカ成分の濃度(質量%)は、シリカ成分の構成単位であるシリカの含有量で算出する。例えば、上記有機物とシリカ(シリコン酸化物)とが複合化合物としての非晶質体を構成している場合にも、シリカ成分の質量百分率はシリカの含有量で算出する。
【0049】
上記製造技術では、ITO微粒子の熱遮蔽機能や赤外線遮蔽機能を保持可能な温度及び上記機能性材料の分解温度よりも低い温度、例えば200℃での焼成で赤外線カットガラスの所望の特性を得ることができる。これにより、熱的に不安定なITO微粒子や他の機能性材料がそれらの機能を損なうことなく赤外線カット膜中に導入された赤外線カットガラスを提供することができる。
【0050】
図2は、図1の被膜形成装置の構成を示す正面図である。
【0051】
図2において、2本のノズル2a,2bの先端からガラス板1の被膜形成面1aに向け赤外線カット液3を射出する。ノズル2a,2bからそれぞれ射出される単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量は、1〜3g/sである。
【0052】
まず、2本のノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出する。その後、赤外線カット液3を射出しながら2本のノズル2a,2bを被膜形成面1aに沿って右方向へ50〜500mm/sで移動させる。ノズル2a,2bがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達するとノズル2a,2bを停止させ、ノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出する。
【0053】
赤外線カット液3の射出開始からノズル2a,2bの移動開始までの時間、及びノズル2a,2bの停止から赤外線カット液3の射出停止までの時間を2秒としたのは、この時間を2秒より短くすると、ガラス板1の被膜形成面1aの左端及び右端において、赤外線カット液3が塗布されない部分が発生してしまうからである。
【0054】
図3は、複数のノズルの配置を説明する図である。
【0055】
図3において、ノズルの数は3本であるが、これに限定されるものではなく、ノズルはいくつあってもよい。最下段に配置されたノズル2cと、被膜形成面1aにおける塗布範囲の下端との鉛直方向の距離Lは、0〜700mm、好ましくは0〜500mmである。
【0056】
車両のドアガラスに使用するガラス板1は、通常、短辺(長さH1)と長辺(長さH2)とを有する。短辺に赤外線カット液3を塗布する際に、最下段に配置されたノズル2cがガラス板1の短辺の下端からはみ出してしまうのは好ましくない。よって、最下段に配置されたノズル2cと短辺の下端との鉛直方向の距離L1は、0mm以上であることが好ましい。
【0057】
また、最下段に配置されたノズル2cと長辺の下端との鉛直方向の距離L2が長いと、赤外線カット液3を被膜形成面1a全体に確実に塗布するためには、ノズル2cの赤外線カット液3の射出量を増大させるか、又はノズル2cの移動速度を低下させなければならず、好ましくない。よって、最下段に配置されたノズル2cと長辺の下端との鉛直方向の距離L2は、700mm以下であることが好ましい。
ここで、上記鉛直方向の距離L,L1,L2は、塗布範囲の下端がノズル2cより下にある状態を正の値とし、塗布範囲の下端がノズル2cより上にある状態を負の値とする。
なお、ノズルの本数が2本である場合は、鉛直方向の長さが200〜1000mmである被膜形成面1aに赤外線カット液3の塗布するのに適している。これにより、比較的少ないノズルで比較的大きいガラス板1の被膜形成面1aに赤外線カット液3を塗布することができる。
【0058】
なお、複数のノズル2のそれぞれの間隔、例えば、ノズル2a,2b間の間隔とノズル2b,2c間の間隔との差が大きいと、塗布効率が悪くなる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0060】
ポリエチレングリコール(PEG400:関東化学社製)、純水、高分子分散剤としてのポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(ソルスパース41000:日本ルーブリゾール社製)、変性アルコール(ソルミックス(登録商標)AP−7:日本アルコール販売社製(以下、「AP−7」という))を順に入れた溶液を1分間攪拌した後、濃塩酸(関東化学社製)を1質量%添加したAP−7(以下、「1質量%AP−7」という)を上記溶液に添加し、1分間攪拌した。
【0061】
その後、テトラエトキシシラン(KBE−04:信越化学社製、シリカ成分含有量=28.8質量%)を上記溶液に添加して室温で4時間攪拌した。この後、ITO微粒子とエタノールを質量比2:3の割合で混合して4時間攪拌することにより得られたITO分散液を上記溶液に添加して、30分間攪拌を行い、赤外線カット液3を得た。なお、赤外線カット液3における各液の分量は、表1に記載した分量とした。また、ITO分散液中のITO微粒子として、直径が10〜20nm程度の微粒子を用いた。
【0062】
【表1】

【0063】
ガラス板1として、洗浄した厚さ4mm、大きさが600mm×600mmのソーダライムシリカガラス基板(紫外線吸収機能を有するグリーンガラス)を用いた。
【0064】
このガラス板1を、ガラス板保持部材4により鉛直面(鉛直方向)に対して10°の角度に保持し、相対湿度(Relative Humidity)30%RH、温度20℃の環境下でガラス板1の表面に上記赤外線カット液3をフローコート法にて塗布した。
【0065】
2本のノズル2a,2bを、被膜形成面1aに対する対向位置であって、被膜形成面1a及び水平面のそれぞれに対し略垂直な1つの略鉛直面上に配置した。ノズル2a,2bの間隔は、150mmとした。また、ノズル2a,2bの先端とガラス板1の被膜形成面1aとの距離は、それぞれ25mm、22mmとした。
【0066】
以下、実施例1及び比較例1〜3について説明する。
【0067】
実施例1において、ノズル1本、単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量をそれぞれ1.5g/sとして、2本のノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。その後、赤外線カット液3を射出しながら2本のノズル2a,2bを被膜形成面1aに沿って右方向へ100mm/sで6秒間移動させた。ノズル2a,2bがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達するとノズル2a,2bを停止させ、ノズル2a,2bからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。
【0068】
比較例1において、ノズル1本、単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量を3.0g/sとして、ノズル2aのみからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。その後、赤外線カット液3を射出しながらノズル2aを被膜形成面1aに沿って右方向へ100mm/sで6秒間移動させた。ノズル2aがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達するとノズル2aを停止させ、ノズル2aからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。
【0069】
比較例2において、ノズル1本、単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量を1.5g/sとして、ノズル2aのみからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。その後、赤外線カット液3を射出しながらノズル2aを被膜形成面1aに沿って右方向へ50mm/sで12秒間移動させた。ノズル2aがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達するとノズル2aを停止させ、ノズル2aからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。
【0070】
比較例3において、ノズル1本、単位時間当たりの赤外線カット液3の射出量を3.0g/sとして、ノズル2aのみからガラス板1の被膜形成面1aの左端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。その後、赤外線カット液3を射出しながらノズル2aを被膜形成面1aに沿って右方向へ50mm/sで12秒間移動させた。ノズル2aがガラス板1の被膜形成面1aの右端に到達するとノズル2aを停止させ、ノズル2aからガラス板1の被膜形成面1aの右端に向けて赤外線カット液3を2秒間射出した。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例1では、塗布に要した時間は10秒であり、赤外線カット液3の総射出量は30gであった。また、液切れすることなくガラス板1の全体に赤外線カット液3を塗布することができた。
【0073】
比較例1では、塗布に要した時間は10秒であり、赤外線カット液3の総射出量は30gであった。しかし、液切れが発生し、ガラス板1の全体に赤外線カット液3を塗布することができなかった。
【0074】
比較例2では、赤外線カット液3の総射出量は24gと少なかったものの、塗布に要した時間は16秒と長かった。また、液切れが発生し、ガラス板1の全体に赤外線カット液3を塗布することができなかった。
【0075】
比較例3では、液切れは発生しなかったものの、塗布に要した時間は16秒と長く、赤外線カット液3の総射出量は48gと多かった。
【0076】
本実施の形態によれば、ノズルを2つ以上設けることにより、ノズル1つ当たりの塗布範囲を小さくすることができる。従って、赤外線カット液3の射出量を増加することなく赤外線カット液3が基板の下まで流れる前に赤外線カット液3における溶媒が蒸発して乾燥するのを防止することができ、また、ガラス板1の終端での赤外線カット液3の射出量を低減することができる。その結果、赤外線カット液3の使用量を低減すると共に赤外線カット液3を迅速に塗布することができる。
【0077】
本実施の形態では、ノズルの数は2本であるとしたが、これに限定されるものではなく、ノズルはいくつあってもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、2本のノズル2a,2bを被膜形成面1aに沿って右方向へ移動させるとしたが、2本のノズル2a,2bを被膜形成面1aに対して相対移動させるべくガラス板1を移動させてもよい。
【0079】
また、本実施の形態では、被膜形成面1aの左端から赤外線カット液3を塗布するとしたが、右端から塗布してもよい。
【0080】
また、本実施の形態では、ガラス板1に赤外線カット液3を塗布しているが、ガラス板に塗布する塗布液はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態に係る被膜形成装置の構成を示す側面図である。
【図2】図1の被膜形成装置の構成を示す正面図である。
【図3】複数のノズルの配置を説明する図である。
【図4】従来の被膜形成装置の構成を示す側面図である。
【図5】図4の被膜形成装置の構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ガラス板
2a,2b ノズル
3 赤外線カット液
4 ガラス板保持部材
10 被膜形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の被膜形成面に被膜を形成する被膜形成方法において、
前記基材の被膜形成面が鉛直面に対して所定の角度となるように前記基材を保持する保持ステップと、
前記被膜形成面に複数のノズルから塗布液を射出する射出ステップと、
前記塗布液を射出しながら前記複数のノズルを前記被膜形成面に対して相対移動させるべく前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つを移動させる移動ステップとを備えることを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
前記塗布液は、該塗布液の全質量に対する全固形分質量が3〜10質量%であることを特徴とする請求項1記載の被膜形成方法。
【請求項3】
前記塗布液は、粘度が0.0017〜0.1Pa・sであることを特徴とする請求項1又は2記載の被膜形成方法。
【請求項4】
前記複数のノズルは、前記被膜形成面に対する対向位置であって、前記被膜形成面及び水平面のそれぞれに対し略垂直な1つの略鉛直面上に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項5】
前記複数のノズルの各先端と前記被膜形成面との距離は、5〜150mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項6】
前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つは、前記複数のノズルの各先端と前記被膜形成面との距離が略一定に維持されるように、相対移動されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項7】
前記相対移動の速度は50〜500mm/秒であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項8】
前記複数のノズルの各々における前記塗布液の射出量は1〜3g/秒であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項9】
前記複数のノズルは、夫々、100〜500mmの間隔で配置されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項10】
前記複数のノズルのうち最下段に配置されたノズルと、前記被膜形成面における塗布範囲の下端との鉛直方向の距離は、0〜700mmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項11】
前記複数のノズルの本数は2本であり、前記被膜形成面における塗布範囲は、鉛直方向の長さが200〜1000mmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項12】
基材の被膜形成面に被膜を形成する被膜形成装置において、
前記基材の被膜形成面が鉛直面に対して所定の角度となるように前記基材を保持する保持手段と、
前記被膜形成面に塗布液を射出する複数のノズルと、
前記塗布液を射出しながら前記複数のノズルを前記被膜形成面に対して相対移動させるべく前記複数のノズル及び前記基材の少なくとも1つを移動させる移動手段とを備えることを特徴とする被膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−175663(P2007−175663A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379704(P2005−379704)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】