説明

被覆線の押出被覆方法

【課題】ケーブルにチューブ押出によって被覆されたケーブル表面の肌荒れ発生を防止できる被覆線の押出被覆方法を提供する。
【解決手段】電線又はケーブルからなるコア16がニップル8内部を通過し、通過した後のコア16の外周に、ニップル8の外側のダイス9より溶融材料Wを押出被覆する被覆線の押出被覆方法において、内面81に周方向に間隔を隔てて複数の突起15を有すると共に、出口面83がダイス9の出口面91と同一面上にあるニップル8を使用し、コア16をニップル8に通過させる際に、複数の突起15とコア16とを接触させることによりコア16とニップル内面81とを非接触に保ちながらコア16の外周に溶融材料Wを押出被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ押出法によって溶融した材料をケーブルに被覆する被覆線の押出被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、一般に押出機1は、被覆用材料を投入するホッパー3、スクリュー5を駆動する減速機2、熱を加えるシリンダヒーター4、コア16と溶融材料Wとが交差するクロスヘッド7で構成され、コア16に溶融材料Wを被覆する押出法を用いている。
【0003】
この押出法とは、押出機1の材料供給口であるホッパー3に入れられた材料がスクリュー5の回転運動によって前方(図1において下方)に進められ、シリンダヒーター4の予熱と、材料の剪断(ひきちぎり)によって生じた熱とによって可塑化される。そして可塑化された溶融材料Wは数枚組み合わせたスクリーンと垂直に多数の孔を開けた厚い金属板であるブレーカープレート6を通ってクロスヘッド7に流れ、クロスヘッド7に組み付けられたニップル8にコア(心線)16が通過してくるとき、ダイス9から出てきた溶融材料Wをコア16の表面に引き落としながら被覆する方法である(例えば特許文献1,2参照)。コア16の表面に溶融材料Wが被覆されてケーブル12となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277875号公報
【特許文献2】特開平5−81946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図5に示すようにコア16がニップル8内部を通過する際、コア16が自重によってニップル内面81の下側へたわみ接触するため(1点鎖線で示す)、シリンダヒーター4の予熱によって温められたニップル8の温度がコア16との温度差によって温度の高い部分から低い部分へ熱移動が起こり、溶融材料Wの流れが不均一になり、その影響で被覆されたケーブル12の表面が悪くなり、肌荒れを引き起こしてしまう問題がある。
【0006】
そのための対策としてニップル内面81からの熱放出を軽減させるため、図6に示すようにニップル8の先端部80の材質を熱伝導率50〔W/mk〕の鉄製(SS400など)の材質から熱伝導率0.25〔W/mk〕のテフロン材質のカラー14をニップル8内部に挿入し、熱伝導率を材質変更によって下げる二重層構造とする方法がある。しかし、二重層構造であるとニップル8の先端部80の外径が大きくなるため、仕上がったケーブル12の被覆層の断面積に対するダイス9から押し出されるときの溶融物の断面積の比(引落比)が、従来値よりも小さくなってしまうという問題があった。
【0007】
また、別の対策として、前記特許文献2に示されるようにニップル内周面にコアの外周が接触するリング状の突起を設ける方法がある。この対策は、コア16が自重によってニップル内面81の下側にたわみ接触することがない点で有効であるが、突起の形状がリング状に形成されているため、コア16がニップル8の熱を奪ってしまうことから、ニップル8の温度を維持しつつケーブル12の肌荒れを防止するという観点ではまだ十分な対策とはいえない状況であった。
【0008】
本発明は、前記問題を解決するべく案出されたものであり、その目的とするところは、ケーブルにチューブ押出によって被覆されたケーブル表面の肌荒れ発生を防止できる被覆線の押出被覆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明の被覆線の押出被覆方法は、電線又はケーブルからなるコアがニップル内部を通過し、通過した後の前記コアの外周に、前記ニップルの外側のダイスより溶融材料を押出被覆する被覆線の押出被覆方法において、内面に周方向に間隔を隔てて複数の突起を有すると共に、出口面が前記ダイスの出口面と同一面上にあるニップルを使用し、前記コアを前記ニップルに通過させる際に、前記複数の突起とコアとを接触させることによりコアと前記ニップル内面とを非接触に保ちながらコアの外周に前記溶融材料を押出被覆することを特徴とする。
【0010】
また前記突起の形状は、曲面状であるのが好ましい。
【0011】
また前記突起の材質は、前記ニップルの材質と同じものであってもよい。
【0012】
前記被覆線の押出被覆方法によれば、コアがニップル内面を通過する際、コアの自重によってたわみを生じても、ニップル内面の周方向に間隔を隔てて形成された曲面状の突起により、コアがニップル内面に接触するのを防止できる。また突起が曲面状であるため、コアと突起との接触が点接触となり、コアがニップルの熱を奪うことなくシリンダヒーターの予熱によって温められたニップルからの放熱量を減少させられる。よって、ケーブルにチューブ押出によって被覆されたケーブル表面の肌荒れ発生を防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の被覆線の押出被覆方法によれば、ケーブルにチューブ押出によって被覆されたケーブル表面の肌荒れ発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、電線やケーブルにプラスチックを被覆するためにチューブ押出法として使用する押出機の概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に使用するニップルを示す断面図で、シリンダ内にあるスクリューの回転運動の熱によって材料を溶融し、ニップルを通過するコアを、ダイスから出てきた溶融材料を引落しながらコアに被覆する状態を示す。
【図3】図3は、図2のニップルを出口側から見た図である。
【図4】図4は、引落比を説明するためのダイス孔径、ニップル外径、被覆外径及びコア外径を示す図である。
【図5】図5は、従来のニップルを示す断面図で、シリンダ内にあるスクリューの回転運動の熱によって材料を溶融し、ニップルを通過するコアを、ダイスから出てきた溶融材料を引落しながらコアに被覆する状態を示す。
【図6】図6は、従来の他のニップルを示す断面図で、シリンダ内にあるスクリューの回転運動の熱によって材料を溶融し、ニップルを通過するコアを、ダイスから出てきた溶融材料を引落しながらコアに被覆する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお従来例で説明した押出機は、本実施形態でも共通するため、そのまま図1に基づき説明する。
【0016】
図1に示すように、押出機1は、被覆用材料を投入するホッパー3、スクリュー5を駆動する減速機2、熱を加えるシリンダヒーター4、コア16と溶融材料(溶融樹脂)Wとが交差するクロスヘッド7で構成されている。
【0017】
クロスヘッド7は、コア16の外周に溶融材料Wを押し出して被覆するもので、押出機1内に装着される。クロスヘッド7は筒状に形成され、その内部に先細り形状のニップル8と、このニップル8と同軸に配置されるダイス9とを備えている。ニップル8には、その中心にコア16が挿通されるコア導入孔82が形成されている。
【0018】
図2に示すように、ダイス9は内壁90を有し、この内壁90はコア16が進行する(矢印aで示す)下流側に向って内径がテーパ状に漸次縮小し、下流端側で所定長さ同一内径に形成されている。ニップル8の外径は、ダイス9の内壁90よりも後述する流路10aの寸法分だけ小さく形成されており、下流側に向ってテーパ状に漸次縮小しており、下流端側は所定長さ同一外径に形成された先端部80となっている。ダイス9とニップル8をクロスヘッド7に組み込んだ状態では、ニップル8の出口面83(図2において右側)とダイス9の出口面91とは同一面上となっている。すなわち、ニップル8の先端部80は、ダイス9の先端部まで達するように形成されている。これらダイス9、ニップル8は、鉄、真鍮、銅などの金属で製作される。
【0019】
ダイス9とニップル8との間には、加熱により軟化された溶融材料Wが通過する流路10aが形成されており、またクロスヘッド7の中間部には、押出機1より押出された溶融材料Wを流路10aへ導くための環状の流路10bが形成されている。
【0020】
本発明の特徴は、図2及び図3に示すようにコア16が通るニップル8の先端部80に突起15を設けた点である。突起15は、所定の曲率を有する曲面状に形成されており、ニップル内面81に周方向に間隔を隔てて複数設けられている(図3では、4箇所に設けている)。この突起15によって、ニップル内面81をコア16が通過する際、コア16の自重によってたわみを生じ、ニップル内面81に接触しても、この接触が従来の線接触から点接触へと変わり、シリンダヒーター4の予熱によって温められたニップル8からの放熱量を減少させられる。
【0021】
次に、コア16に溶融材料Wが被覆されて、ケーブル12が押出成形される過程について述べる。
【0022】
押出被覆は、図1より、押出機1の材料供給口であるポッパー3に入れられた材料をスクリュー5の回転運動よって前方に進められ、シリンダヒーター4の予熱と、材料の剪断(ひきちぎり)によって生じた熱とによって可塑化される。この可塑化された溶融材料Wは数枚組み合わせたスクリーンと垂直に多数の孔を開けた厚い金属板であるブレーカープレート6を通ってクロスヘッド7に流れ、さらに流路10b、流路10aを介してダイス9の出口面91へ流れ、図2に示すようにクロスヘッド7に組み付けられたニップル内面81に曲面状の突起15を設けたニップル8内をコア16が通過し、ダイス9から出てきた溶融材料Wをコア16の表面に引落しながら被覆される。
【0023】
このとき、従来はコア16がニップル内面81を通過する際、コア16の自重によってニップル内面81の下側へたわみ、ニップル内面81に線接触していたが、本発明ではニップル内面81に周方向に間隔を隔てて形成された複数の曲面状の突起15を有するニップル8を使用しているので、コア16とニップル内面81との接触状態が線接触から点接触へと変わり、シリンダヒーター4の予熱によって温められたニップル8の放熱量を減少させられる。また、この曲面状の突起15付き構造とすることで、ニップル8の冷え対策として二重層構造とする必要がないため、ケーブル12の品質に影響する引落比の値を変えることなくコア16に被覆することができる。
【0024】
ここにコア16は、特に材質を限定するものではなく、裸線を絶縁被覆した電線あるいは複数の被覆電線をシースで覆ったケーブル構造であってもよい。
【0025】
このように溶融材料Wは、クロスヘッド7内で流路10b、10aを経てダイス9の出口面91へ案内され、コア16とともに押出されながらコア16上に被覆され、ダイス9を出た後は直ちに冷却され固化してケーブル12が完成する。
【実施例】
【0026】
次に、図2で説明した本発明の被覆線の押出被覆方法と、図5及び図6で説明した従来方法とを比較した結果を示す。
【0027】
(1)引落比の比較
引落比は、仕上がったケーブルの被覆層の断面積に対するダイスから押し出されるときの溶融物の断面積の比であり、下記計算式(1)で表される。
引落比=(Dd2−Dg2)/(Dc2−Dw2)・・・式(1)
ここで、図4に示すように
Dd=ダイスの孔径
Dg=ニップルの外径
Dc=被覆外径
Dw=ケーブル外径
である。
【0028】
図5のニップル内面が平行構造タイプの引落比は、以下のようになる。
ケーブル外径:φ14
ニップル外径:φ17
ダイス孔径:φ22.2
被覆外径:φ18.3
とし、この条件で引落比を式(1)に代入し、算出すると、
引落比=(Dd2−Dg2)/(Dc2−Dw2)=(22.22−172)/(18.32−142)=1.467
【0029】
また、図6のニップル先端の構造が二重層構造タイプの引落比は、以下のようになる。
ケーブル外径:φ14
ニップル外径:φ19
ダイス孔径:φ22.2
被覆外径:φ18.3
とし、この条件で引落比を式(1)に代入し、算出すると、
引落比=(Dd2−Dg2)/(Dc2−Dw2)=(22.22−192)/(18.32−142)=0.949
【0030】
従来からニップル8の冷えによる被覆表面の肌荒れ対策の一つとして、熱伝導率を低くするためにニップル8の先端部80の構造を二重層構造にする方法があるが、二重層構造であるとニップル8の先端部80の外径が大きくなるため、前記のように引落比が従来値よりも小さくなってしまう。したがって、前記の二重層構造を使用せず、従来と内外径が同径のニップル8を使用する。そのため、本発明のニップル引落比は従来と同様の値である。
【0031】
(2)ニップルの構造による伝熱量の違い
伝熱量は、熱が高温側から低温側へ移動する量であり、下記計算式(2)で表される。
E=(A/t)×λ×T・・・式(2)
ここで、
A=接触面積〔m2
t=熱移動する物の厚さ〔m〕
λ=熱伝導率〔W/mK〕
T=温度差〔℃〕
E=伝熱量〔W〕
である。
【0032】
前記式(2)に表1の数値を代入し、3種類の伝熱量Eを求める。この結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果より、3種類のニップルを比較すると伝熱量がA>B>Cである。
【0035】
したがって、前記した(1)引落比の比較、(2)ニップルの構造による伝熱量の違いから、本発明のニップル構造であれば、引落比の値を従来と同様にし、且つニップル冷え対策として実績のあるテフロンカラーによる二重層構造よりも伝熱量が低くなることから、ニップルの冷えによるケーブル被覆表面の肌荒れ発生を防止できる。
【0036】
以上述べたように、本発明によればチューブ押出用ケーブル冷えによるケーブル被覆表面の肌荒れの防止を実現できる。
【0037】
従来例では、ニップルの内周面にリング状の突起を設けていたため、ニップル内周面に対して線接触していたが、本発明ではニップル内面81に曲面状に形成した突起15を周方向に間隔を隔てて設けたことで、コア16とニップル内面81との接触状態が線接触から点接触へと変わり、シリンダヒーター4の予熱によって温められたニップル8の放熱量を減少することができ、ひいてはケーブル12表面の肌荒れを防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 押出機
2 減速機
3 ホッパー
4 シリンダヒーター
5 スクリュー
6 スクリーンとブレーカープレート
7 クロスヘッド
8 ニップル
9 ダイス
10a,10b 流路
12 ケーブル
14 テフロンカラー
15 曲面状の突起
16 コア
81 ニップル内面
82 コア導入孔
83,91 出口面
W 溶融材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線又はケーブルからなるコアがニップル内部を通過し、通過した後の前記コアの外周に、前記ニップルの外側のダイスより溶融材料を押出被覆する被覆線の押出被覆方法において、
内面に周方向に間隔を隔てて複数の突起を有すると共に、出口面が前記ダイスの出口面と同一面上にあるニップルを使用し、
前記コアを前記ニップルに通過させる際に、前記複数の突起とコアとを接触させることによりコアと前記ニップル内面とを非接触に保ちながらコアの外周に前記溶融材料を押出被覆することを特徴とする被覆線の押出被覆方法。
【請求項2】
前記突起の形状は、曲面状である請求項1記載の被覆線の押出被覆方法。
【請求項3】
前記突起の材質は、前記ニップルの材質と同じものである請求項1又は2記載の被覆線の押出被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−238351(P2011−238351A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105867(P2010−105867)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】