説明

装飾用ガラス組成物および装飾結晶化ガラス基板

【課題】 調理器用トッププレート等の装飾に適した実質的に鉛を含有しない装飾用ガラス組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の装飾用ガラス組成物は、実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 55〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.1〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜5%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等に加飾するための装飾用ガラス組成物に関し、特に調理器用トッププレート等の低膨張結晶化ガラス基板の装飾に好適な装飾用ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低膨張結晶化ガラスは、その耐熱衝撃性の高さから、一般家庭において電磁調理器用食器等の加熱用容器または電気若しくはガス調理器のトッププレート等の様々な用途で使用されている。
【0003】
一般的に、電磁調理器用食器等の加熱用容器または電気若しくはガス調理器のトッププレート等は、その表面がガラスフリットと顔料等の着色成分を含有する装飾材料で装飾されている。従来、調理器用トッププレート等に装飾する目的は、高温を受けやすい区域の外形を示すことで安全性を確保することや、調理器内部の加熱装置を隠蔽し、外部から見えないようにすること等であった。
【0004】
しかし、昨今、低膨張結晶化ガラスが家庭日常用品として使用される場合は、表面に装飾模様を施して見栄えを良くすることが志向され、特に、調理器用トッププレートにおいて、その要求が強くなっている。
【0005】
さらに、上記の目的に加え、調理器用トッププレートにシルバー色やゴールド色等明るい色合いを付与したり、色鮮やかな模様や絵柄を付与する等、美観向上の役割も大きくなっている。
【0006】
また、低膨張結晶化ガラス基板の表面に装飾層を形成する一般的な方法は、粉末状に粉砕されたガラス組成物(ガラスフリット)に、顔料等の着色成分を加えて装飾材料とし、得られた装飾材料を有機バインダーおよび溶剤等を含有するビークル中に分散し、ペースト化する。このペーストは、スクリーン印刷等の方法によって基板上に転写された後、適切な温度条件により乾燥、焼成される。焼成することで、ペースト中のガラスフリットが軟化流動するため、装飾層と基板を強固に融着することができるが、焼成温度が高過ぎると、焼成後に、基板が変形する等の不具合が生じやすい。
【0007】
さらに、着色のために添加する顔料の中には、高温で焼成されると、鮮やかな原色が飛んでしまうものがあり、美観を重視する消費者の趣向に十分に応えることが困難になる場合も生じ得る。
【0008】
一方、焼成炉で消費されるエネルギーコストや、CO2排出による地球環境への影響等も考慮すると、焼成温度は低い方が有益である。
【0009】
焼成温度を低くするためには、装飾層に含まれるガラスフリットの軟化温度(軟化点)を低くする方法や焼成時間を十分に長くする方法が考えられるが、エネルギー効率や生産効率等を考慮すると前者の方法を採用するのが得策である。従来、ガラスフリットの軟化点を低くする方法として、装飾層に含まれるガラスフリットにPbOを含有させたガラス組成物が使用されていた。例えば、特許文献1には、PbOを含有したガラスフリットが開示されている。
【0010】
しかし、環境や健康に対する配慮から、PbOを含有したガラスフリットは使用が避けられるようになり、現在ではPbOを含有したガラスフリットに代わる低軟化点の無鉛のガラスフリットが望まれている。
【0011】
このような事情から、特許文献2では、軟化点700〜760℃を有する低熱膨張性無鉛ガラスフリットが提案されている。
【特許文献1】特開平7−267677号公報
【特許文献2】特許第2991370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2に記載のガラスフリットは、SiO2 45.0〜60.0wt%、Al23 4.0〜18.0wt%、アルカリ金属酸化物が合量で5.0〜10.0wt%(但しLi2O 2.0wt%以上)、B23 15.0〜30.0wt%、ZrO2 3.0〜7.0wt%からなるLi2O−Al23−SiO2系の無鉛のガラス組成物であって、重量組成比でAl23/Li2Oが1.2以上であり、軟化点が700〜760℃の範囲内にあることを特徴としている。さらに、特許文献2では、このガラスフリットの焼成温度を800℃前後としている。
【0013】
焼成温度が800℃前後であれば、上述したような基板の変形や顔料の色飛び等の不具合を防止でき、この温度は、装飾材料の焼成に適した焼成温度と考えられる。しかしながら、特許文献2のガラスフリットを800℃前後で基板と強固に融着させるためには、焼成時間を十分に長くする方法を採用する必要があり、エネルギー効率や生産効率等が乏しくなる。したがって、生産性等を考慮すると、800℃前後での焼成において、短時間でガラスフリットと基板が強固に融着することが好ましく、そのためにはガラスフリットの軟化点を600℃以上700℃未満にする必要があった。
【0014】
しかし、ガラスフリットの軟化点を600℃以上700℃未満に下げると、ガラスフリットが熱的に不安定になり、ガラスフリットの焼成時や調理器用トッププレート等の使用時等にガラスフリットが失透し、ガラスフリットの失透相に起因したクラックおよび耐酸性の劣化等の不具合が生じやすくなる。
【0015】
特許文献2のガラス組成物では、Al23成分にて、失透性を抑制している。しかし、Al23成分の添加により、特許文献2のガラス組成物は、ガラスの粘性が高くなっているとともに、軟化点も上昇しているため、800℃前後での短時間焼成に適していなかった。具体的には、焼成温度が800℃の場合、焼成時間は少なくとも30分より長い時間が必要であった。つまり、特許文献2のガラス組成物は、失透性を抑制するために、軟化点を700℃以上に上昇させたガラス組成物であると考えられる。
【0016】
本発明は、実質的に鉛を含有しない装飾用ガラス組成物であり、その目的とするところは、低軟化点と熱的安定性を両立させ、且つ、熱膨張係数等の他の特性にも配慮したトッププレート等の装飾に適した装飾用ガラス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の装飾用ガラス組成物は、実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 55〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.1〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜5%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明でいう「実質的に鉛を含有せず」とは、PbOの含有量が500ppm以下の場合を指す。
【0019】
本発明において、装飾用ガラス組成物の組成を上記のように限定した理由を以下に述べる。なお、以下の%表示は、質量%を意味している。
【0020】
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分である。SiO2の含有量は、55〜70%、好ましくは55〜65%、より好ましくは60〜65%である。SiO2の含有量が55%より少ないとガラスの耐酸性が悪化するとともに、ガラスの熱膨張係数が大きくなり、例えば、低膨張結晶化ガラス基板とガラスフリットの膨張差が大きくなり過ぎて、形成される装飾層にクラックが発生しやすくなる。また、SiO2の含有量が70%より多いとガラスの軟化点が高くなり過ぎ、低温での焼成が困難になる。
【0021】
23は、熱膨張係数を過剰に増加させずに、ガラスの粘性を低下させることができる成分である。B23の含有量は、15〜25%、好ましくは16〜22%、より好ましくは16.5〜21%、さらに好ましくは17〜21%、最も好ましくは17.5〜20.5%である。B23の含有量が15%より少ないと、ガラスの粘性が高くなり過ぎる。また、B23の含有量が25%より多いと、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎるとともに、ガラスの耐酸性が悪化する。
【0022】
Al23は、化学耐久性を向上させ、ガラスの失透性を抑制するための成分である。Al23の含有量は、3〜10%、好ましくは3〜7%である。Al23の含有量が3%より少ないと、ガラスの失透性を抑制する効果が乏しくなる。また、Al23の含有量が10%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎる。
【0023】
BaOは、ガラスの化学耐久性の改善させる成分であるとともに、軟化点を低下させる成分である。BaOの含有量は、0.1〜4.9%、好ましくは0.5〜4.9%、より好ましくは1〜4.9%である。BaOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの化学耐久性向上および低軟化点化の効果が乏しくなる。また、BaOの含有量が4.9%より多いと、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる。
【0024】
ZnOは、微量の添加でガラスの軟化点を低下させる効果を有する成分である。ZnOの含有量は、0.1〜5%、さらに好ましくは0.1〜2%である。ZnOの含有量が0.1%より少ないと、軟化点を下げる効果が得られにくくなる。また、ZnOの含有量が5%より多いと、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる。
【0025】
MgOおよびCaOは必須成分ではないが、ガラスの軟化点を低下させる効果があるため、それぞれ3%を上限として含有してもよい。
【0026】
Li2OおよびNa2O、K2Oのアルカリ成分は、ガラスの軟化点を大きく低下させることができる成分である。
【0027】
特に、Li2Oは、微量の添加でガラスの軟化点を大きく低下させる効果を有する成分である。本発明において、Li2Oは必須の成分であり、その含有量は0.1〜5%、好ましくは0.1〜3%、より好ましくは0.1〜2%である。Li2Oの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの軟化点を低下させる効果が乏しくなる。また、Li2Oの含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなり、失透物に起因した熱膨張係数の増加や化学耐久性の低下等の不具合が生じやすくなる。
【0028】
2Oは、ガラスの失透性を抑制するための成分である。特に、Li2Oを含むホウ珪酸ガラスにK2Oを含有させると、ガラスの失透性が抑制され、熱安定性の高いガラスを得ることが可能となる。K2Oの含有量は0.3〜15%、好ましくは0.3〜9%、より好ましくは0.3〜6%である。K2Oの含有量が0.3%より少ないと、ガラスの失透性を抑制する効果が乏しくなる。また、K2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの耐酸性が著しく低下するとともに、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎ、好ましくない。
【0029】
さらに、質量分率K2O/Li2Oは、0.3以上(好ましくは0.5以上、0.7以上、0.9以上、1.5以上、2.0以上)の範囲とするのが好適である。K2O/Li2Oが0.3未満であると、ガラスの失透性が顕著になり、例えば、ガラスフリットの焼成時や調理器用トッププレート等の使用時等にガラスフリットが失透し、失透相に起因したクラックおよび耐酸性の劣化等の不具合が生じやすくなる。
【0030】
Na2Oの含有量は、0〜10%、好ましくは0〜8%である。Na2Oの含有量が、10%より多いと、ガラスの耐酸性が著しく低下し、更には、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすい。
【0031】
2の含有量は0〜2%、好ましくは0〜1.5%である。F2の含有量が2%より多いと、ガラスフリットの流動性が不安定になり、安定した装飾層が得難くなる。
【0032】
本発明のガラス組成物は、上記成分以外に、SrO、ZrO2、SnO、P25等の成分を軟化点の調整や耐酸性改善等の目的で5%まで含有させることができる。なお、ZrO2はガラスの軟化点を上昇させる効果が大きいため、添加量は3%未満とするのが好ましい。
【0033】
以上のガラス組成物は、実質的に鉛を含有せず、低軟化点に加えて、加熱による失透性が低いため、加熱耐久性が要求される結晶化ガラス基板等の装飾に好適である。
【0034】
また、本発明における装飾用ガラス組成物は、30〜380℃における平均線熱膨張係数が、30〜70×10-7/℃、好ましくは30〜67×10-7/℃、さらに好ましくは30〜64×10-7/℃である。30〜380℃における平均線熱膨張係数を30×10-7/℃より小さくするためには、ガラス組成物として、SiO2およびAl23の含有量を増加しなければならず、結果的に低軟化点のガラスが得られにくくなる。また、30〜380℃における平均線熱膨張係数が70×10-7/℃より大きいと、形成される装飾層と低膨張結晶化ガラス基板の熱膨張差によるクラックや剥離等の不具合が生じやすくなる。このクラックは、耐酸性等の特性を劣化させるだけでなく、汚れがクラック内に浸透すると汚れを除去し難いため、美的観点からも好ましくない。
【0035】
水や酸に対して高い耐性を示すガラス組成物は、多種多用な用途で使用することが可能である。特に、調理器用トッププレートに用いるガラスフリットは、果汁や調味液等の浸食に耐えることが必要である。具体的には、25mm×25mm×2.5mmのガラスを90℃9%クエン酸水溶液中(pH=2〜3)に6時間浸漬したとき、ガラスの重量減少率が0.4%以下、好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下であることが必要である。ガラスの重量減少率が0.4%より大きいと、水や酸に曝された環境で調理器用トッププレートを長期間使用した場合、比較的短時間で装飾層にクラックが発生し、装飾層が結晶化ガラス基板から剥離しやすくなる。
【0036】
本発明の装飾材料は、上述したガラスフリットと無機顔料を含有する。
【0037】
本発明の装飾材料に用いる着色顔料は、一般に使用されている顔料が使用可能であり、例えばNiO(緑色)、MnO2(黒色)、CoO(黒色)、Fe23(茶褐色)、Cr23(緑色)、TiO2(白色)等の着色酸化物、Cr−Al系スピネル(ピンク色)、Sn−Sb−V系ルチル(グレー色)、Ti−Sb−Ni系ルチル(黄色)、Zr−V系バデライト(黄色)等の酸化物、Co−Zn−Al系スピネル(青色)、Zn−Fe−Cr系スピネル(茶色)等の複合酸化物、Ca−Cr−Si系ガーネット(ビクトリアグリーン色)、Ca−Sn−Si−Cr系スフェイン(ピンク色)、Zr−Si−Fe系ジルコン(サーモンピンク色)、Co−Zn−Si系ウイレマイト(紺青色)、Co−Si系カンラン石(紺青色)等のケイ酸塩があり、これらは所望の色を得るように任意の割合で混合することができる。また、上記着色顔料の他に、例えば、装飾層の隠蔽性および耐磨耗性を向上させるために、ZrSiO4やタルク等を適量混合させても良い。
【0038】
本発明の装飾材料は、結晶化ガラス基板の表面に被膜され、模様や絵柄を構成することで結晶化ガラス基板を装飾する。
【0039】
装飾を行うにあたり、装飾材料にビークルを加えてペースト化し、これをスクリーン印刷等の方法により塗布する。1回塗布したときの厚みは、2〜50μmであることが好ましい。2μm未満の場合には、模様の隠蔽性が悪くなり、模様が明確にならないおそれがある。50μmを越える場合には、模様にクラックが発生するおそれがある。装飾材料の塗布は、1回でも2回以上でもよいが、合計の厚みは50μmを超えない方がよい。
【0040】
また、焼成後の装飾材料の厚みは、1〜30μmであることが好ましい。1μm未満の場合には、模様の隠蔽性が悪くなり、模様が明確にならないおそれがある。30μmを越える場合には、模様にクラックが発生するおそれがある。
【0041】
上記結晶化ガラス基板を製造するにあたっては、上述のペーストの焼成温度は、750〜850℃であり、好ましくは760〜830℃、より好ましくは765〜825℃、さらに好ましくは770〜820℃である。本発明の装飾材料は、この温度範囲において、良好な光沢を有し、且つ短時間で強固に基板と融着することができる。
【0042】
さらに、焼成温度が750〜850℃であれば、結晶化ガラス基板の変形は抑制でき、且つ、着色のために添加した顔料の色とびを防止できるため、鮮やかなカラーバリエーションが大幅に拡大され、外観意匠性の高い結晶化ガラス基板が容易に得られる。しかし、焼成温度が750℃より低いと、短時間で装飾材料と基板の強固な融着が得難くなる。また、焼成温度が850℃より高いと、結晶化ガラス基板の変形が生じ、且つ、着色のために添加した顔料の色とびが生じるため、鮮やかなカラーバリエーションが大幅に制限され、外観意匠性の高い結晶化ガラス基板が得難くなる。
【0043】
また、室温から焼成温度に至るまでの昇温速度を35℃/分、焼成温度から室温までの降温速度を35℃/分とした場合、焼成温度における上述のペーストの焼成時間は、1〜20分、より好ましくは1〜15分、さらに好ましくは1〜10分、最も好ましくは1〜8分である。焼成時間が1分より短いと、装飾層と基板間の強固な融着が得られない。また、焼成時間が20分より長いと、装飾結晶化ガラス基板の生産効率が乏しくなる。
【0044】
本発明に用いる結晶化ガラス基板は、30〜380℃における平均線熱膨張係数が、−10〜+30×10-7/℃であることが好ましい。結晶化ガラス基板の熱膨張係数を小さくすることにより、結晶化ガラス基板の加熱耐久性や耐熱衝撃性が向上する。さらに、上記範囲内であれば、本発明の装飾材料との熱膨張差によるクラックが発生し難くなる。それ故、上述の結晶化ガラス基板は、使用中に急加熱、急冷却による熱衝撃が加わる調理器、特に、調理器用トッププレートに極めて適している。なお、調理器としては、電磁調理器、電気調理器、ガス調理器等がある。
【0045】
一方、本発明に用いる結晶化ガラス基板は、燃焼炉窓としても好適に使用することができる。一般的に、燃焼炉窓は、その近傍に熱源が設置されるため、高温に曝される。このため、燃焼炉窓には、加熱耐久性および耐熱衝撃性が要求される。本発明の結晶化ガラス基板によれば、これらの要求を十分に満足することができる。
【0046】
(実施例)
以下に実施例を挙げて、本発明を詳しく説明する。
【0047】
表1は本発明の実施例を示し、表2は本発明の比較例を示すものである。表1、2の各試料は次のようにして調製した。
【0048】
まず表中の組成になるように調合したガラス原料を1400〜1500℃の温度で10〜15時間溶融し、バルク状およびフィルム状に成形した。得られたバルク状のガラスを熱膨張係数および耐酸性の測定試料に加工した。また、得られたフィルム状のガラスをボールミルにて微粉砕し、平均粒径5μmのガラス粉末を得た。得られたガラス粉末を軟化点および装飾材料(装飾層)の評価に使用した。
【0049】
熱膨張係数は、差動検出式相対膨張計を用いて、30〜380℃における平均線熱膨張係数を測定した。
【0050】
軟化点は、示差熱分析(DTA)によって評価した。具体的には、示差熱分析を行った際に出現する2つめの吸熱ピークに相当する温度(第二屈曲点の外挿値)を測定した。
【0051】
耐酸性は、90℃9%クエン酸水溶液中に6時間浸漬した試料の重量減少率を測定して評価した。重量減少率が0.4%以下の場合を「○」、0.4%を越えた場合を「×」と判定した。なお、試料は、25mm×25mm×2.5mmの大きさで、全てのサイドが研磨されたものを使用した。
【0052】
表1、2のガラス80重量部と、黒色の着色顔料(Co−Mn−Cr−Fe)20重量部との合計重量100重量部に対して、ビークル80重量部を混合した後、三本ローラーミルで混練して、ペーストを得た。このペーストを、スクリーン印刷法により結晶化ガラス基板表面に4μm厚となるように塗布し、その後、焼成温度800℃で5分間焼成した。なお、焼成温度前後の昇降温速度は、35℃/分とした。得られた結晶化ガラス基板上の装飾層について、以下の特性を評価した。なお、ビークルはエチルセルロースをテルピネオールに溶解させたものを使用した。
【0053】
結晶化ガラス基板は、SiO2 66%、Al23 23%、Li2O 4%、MgO 0.5%、ZnO 0.3%、TiO2 5%、V25 0.2%、Na2O 0.5%、K2O 0.5%の組成を有し、熱処理することによって内部にβ−石英固溶体結晶が析出し、30〜380℃における平均線熱膨張係数が−3×10-7/℃のものを使用した。
【0054】
クラックの有無は、焼成後の装飾層表面を光学顕微鏡(100倍)にて観察し、クラックが無い場合を「○」、有る場合を「×」とした。
【0055】
耐摩耗性は、#1000のサンドペーパーを用いて、装飾層を荷重1.3kg、片道100mm/秒の速度で1000回往復した後、装飾層の変化を目視で観察した。変化が無い場合を「○」、装飾層が剥離した場合を「×」と判定した。
【0056】
耐酸性は、焼成後の装飾層を90℃の1%HCl水溶液(pH≦1)に24時間浸漬し、評価した。浸漬後に装飾層を布で拭取り、目視にて浸漬前と比較して、外観変化がない場合を「○」、ある場合を「×」とした。
【0057】
耐熱衝撃性は、ΔT=550℃の水中急冷後の装飾層を光学顕微鏡(100倍)にて観察し、クラックが無い場合を「○」、有る場合を「×」と判定した。
【0058】
加熱耐久性は、結晶化ガラス基板をラジアントヒーター上に載せ、60分間の加熱(540℃)と5分間の放冷(540℃から250℃に放冷される)を1サイクルとして、合計で100サイクル行った。評価は、試験後の装飾層を光学顕微鏡(100倍)にて観察し、クラックが無い場合を「○」、有る場合を「×」とした。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
以上の結果から、実施例のガラス組成物は、30〜380℃における平均線熱膨張係数が60〜63×10-7/℃であり、低膨張結晶化ガラス基板の装飾に適した熱膨張係数を有していた。
【0062】
また、実施例のガラス組成物は、軟化点が675〜686℃であり、着色顔料を加えても特性に大きな変化はなく、低温短時間焼成に適していた。さらに、実施例のガラス組成物は、耐酸性が良好であり、水や酸に曝される環境下で使用される調理器用トッププレート等の装飾に適していると判断できる。
【0063】
さらに、実施例の装飾材料は、800℃5分間の焼成で基板と強固に融着し、装飾層にクラックの発生は認められなかった。また、実施例の装飾層は、耐磨耗性、耐酸性、耐熱衝撃性、加熱耐久性も優れており、調理器用トッププレート等の装飾材料として好適であると判断できる。
【0064】
一方、比較例No.1のガラス組成物は、軟化点が700℃よりも大きかった。それ故、比較例No.1の装飾材料は、800℃5分間の焼成で十分に軟化、流動せず、その装飾層は基板との融着が不十分であり、耐摩耗性が低かった。さらに、装飾層の緻密性も乏しかったため、装飾層の耐酸性も低かった。
【0065】
比較例No.2のガラス組成物は、実施例1のガラス組成物に比べ、熱膨張係数が高く、装飾層にクラックが発生しやすかった。また、装飾層に発生したクラックは、酸の浸食を促進し、装飾層の耐酸性は低かった。
【0066】
比較例No.3のガラス組成物は、B23が過剰であるため、耐酸性が低かった。それ故、このガラス組成物を用いた装飾層は、酸に浸食され易く、耐酸性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明のガラス組成物は、鉛成分を含まず安全であり、このガラス組成物を用いた装飾材料は、800℃前後の焼成により、短時間で基板と強固に融着し、その装飾層は耐酸性も優れており、様々な特性劣化の要因となるクラックが発生せず、耐熱衝撃性および加熱耐久性も優れている。
【0068】
したがって、本発明のガラス組成物は、調理器用トッププレート等の調理器関係や燃焼炉窓の装飾に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 55〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.1〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜5%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする装飾用ガラス組成物。
【請求項2】
実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 55〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.1〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜2%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする装飾用ガラス組成物。
【請求項3】
実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 55〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.5〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜5%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする装飾用ガラス組成物。
【請求項4】
実質的に鉛を含有せず、質量百分率で、SiO2 60〜70%、B23 15〜25%、Al23 3〜10%、BaO 0.1〜4.9%、ZnO 0.1〜5%、CaO 0〜3%、MgO 0〜3%、Li2O 0.1〜5%、Na2O 0〜10%、K2O 0.3〜15%、F2 0〜2%のガラス組成を含有し、軟化点が600℃以上700℃未満であることを特徴とする装飾用ガラス組成物。
【請求項5】
質量分率でK2O/Li2Oが0.3以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の装飾用ガラス組成物。
【請求項6】
30〜380℃における平均線熱膨張係数が、30〜70×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の装飾用ガラス組成物。
【請求項7】
90℃9質量%クエン酸水溶液中に6時間浸漬した後の重量減少率が0.4%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装飾用ガラス組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の装飾用ガラス組成物の粉末と無機顔料を含有することを特徴とする装飾材料。
【請求項9】
結晶化ガラス基板の表面に、請求項8に記載の装飾材料の被膜が形成されてなることを特徴とする装飾結晶化ガラス基板。
【請求項10】
前記結晶化ガラス基板は、30〜380℃における平均線熱膨張係数が、−10〜+30×10-7/℃であることを特徴とする請求項9に記載の装飾結晶化ガラス基板。
【請求項11】
調理器用トッププレートまたは燃焼炉窓として用いられることを特徴とする請求項9または10に記載の装飾結晶化ガラス基板。

【公開番号】特開2007−39294(P2007−39294A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227544(P2005−227544)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】