説明

装飾筐体及びその製造方法

【課題】本発明は、樹脂等による筐体基板上に形成された複数の微細な突部により、乱反射あるいは干渉色を発する装飾効果を生じさせた装飾筐体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】筐体基板1上に配置されたマスク2に設けられた複数の開口部a1〜a3を通して被成膜材S11を供給し、該筐体基板上に複数の島状薄膜31を成膜する成膜工程が実行される。該複数の島状薄膜の成膜の後に、マスクの配置を前記筐体基板の面方向に移動させる毎に、前記成膜工程を実行し、筐体基板上に複数の島状薄膜の積層体による複数の突部4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等に用いられる装飾筐体に関し、特に、乱反射あるいは干渉色を生ずるように、樹脂等による筐体基板上に複数の突部が形成された装飾筐体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の売れ行きを左右する要因として、電子機器等が本来発揮する機能が重要視されるのは勿論であるが、製品の外観の装飾性も重要な要素となっている。特に、ある製品群において各製品の機能が一定水準に達し、製品間における機能面での差別化が困難な場合、実質的に同一機能を有する製品群の中では、高い装飾性を有するものが消費者に好まれ、製品の装飾性が売れ行きに大きな影響を与える傾向がある。
【0003】
また、近年電子デバイスの小型化により、携帯電話や携帯音楽プレーヤに代表されるように、携帯性に優れた製品が急速に普及している。携帯型の製品の場合、机上等に固定して使用する製品に比べて人の目に触れる機会が多くなり、アクセサリー感覚で身につける等、外観の形状のみならず色彩等の装飾性が特に重要視され、他社製品との差別化が行われている。また、常に携帯して使用する製品以外でも、パソコン用のマウスや、メモリカード等のように、表面が外部に表れている製品においては、外観の装飾性が他社製品との差別化における重要なポイントとなっている。そこで、製品の装飾性を高める技術が、活発に研究されている。
【0004】
製品の外観に装飾性を付与する技術として、製品の筐体表面で乱反射を生じさせることや、見る角度により発色を変化させるなどの装飾技術があり、これらの装飾は、色彩に変化を与え、奥行き感を与えるものとして好まれている。これまでに、反射率を部分的に変化させる方法や、干渉色を部分的に変化させる方法が提案されている。
【0005】
反射率を変化させる方法による装飾技術が、既に知られている(例えば、特許文献1を参照)。この装飾技術は、偽造防止装飾媒体に適用されており、支持体上に、光学機能層が形成されている。この偽造防止装飾媒体では、前記光学機能層の光学膜厚を部分的に変化させることで、光学機能層の視感反射率を部分的に変化させ、視感反射率の差により画像を表現している。
【0006】
その偽造防止装飾媒体の概略を図6に示す。支持体としての基体121上に剥離保護層122、光学機能層124、接着層125が順次積層された構造となっている。光学機能層124に使用可能な金属薄膜及び金属膜として、アルミニウム、鉄、チタン、金、銀、銅などの金属材料を用いている。また、この金属薄膜及び金属膜を形成する方法としては、蒸着法、スパッタリングなどの薄膜形成手段が用いられ、金属薄膜及び金属膜を構成する材料に応じて任意に選択される。以上の構成によれば、キラキラ感の有無(視感反射率の差)が周期的に変化する画像をOVD(Optical Variable Device)画像と重ねて表現することができ、装飾効果の高いOVD装飾媒体が提供される。
【0007】
一方、装飾性を付与する方法として、光の干渉色を利用した薄膜を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。ここで提案された装飾技術では、干渉する色は薄膜の膜厚によって変化するため、膜厚を変えることによって発色に変化を生じさせている。図7に、この装飾技術における反射干渉色膜の製造方法の工程の一部が示されている。
【0008】
図7に示されるように、真空成膜法による反射干渉色膜の製造方法において、膜厚分布作成マスク202と被膜基体201との間に、膜厚分布作成マスク202の開口部よりも狭い、開口部を有するパターンマスク203を同時に使用して反射干渉色膜を製造する。このような製造方法により、種々の反射干渉色を同時に形成することが出来ることから、従来の装飾的な基体よりも多色的な基体を提供することができる。
【0009】
【特許文献1】特開平11−235900号公報
【特許文献2】特開平11−29855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された装飾技術においては、金属膜124の膜厚により反射率を変化させることができるが、金属膜の膜厚の部分毎の差は、1つの段差分しかないために、単調な色調となり、多彩な変化を生じさせることは困難であった。
一方、特許文献2に記載された装飾技術によれば、部分的に膜厚を変化させ、その結果として干渉色を変化させることはできるが、蒸着による成膜材の広がりを利用しているために、製造時において、発色に変化を生じさせる領域の正確な位置の制御が困難であるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、樹脂等による筐体基板上に形成された複数の微細な突部により、乱反射あるいは干渉色を生ずる装飾効果を生じさせた装飾筐体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の装飾筐体は、複数の突部が筐体基板の表面に形成された装飾筐体であって、前記突部の各々は、面積の異なる複数の島状薄膜による積層体であることを特徴とする。
【0013】
前記島状薄膜は、金属膜または透明薄膜であることが好ましい。また、前記透明薄膜は、酸化物で成膜されることが好ましく、前記酸化物は、チタン酸化物又はケイ素酸化物であることがさらに好ましい。
【0014】
前記積層体は、屈折率が異なる複数の島状薄膜により積層されていてもよい。前記突部の各々は、同一の形状を有していてもよい。前記島状薄膜は、円形、正方形、長方形、三角形、台形、星型、八角形のいずれかによる面形状を有することが好ましい。
【0015】
前記複数の突部は、筐体表面に被着された金属膜の上に形成されていてもよい。前記筐体基板は、樹脂で形成されていてもよい。装飾筐体の内部に電子部品を収納していてもよい。
【0016】
本発明の装飾筐体の製造方法は、筐体基板上に配置されたマスクに設けられた複数の開口部を通して被成膜材を供給し、該筐体基板上に複数の島状薄膜を成膜する成膜工程を有し、前記複数の島状薄膜の成膜の後に、前記マスクの配置を前記筐体基板の面方向に移動させる毎に、前記成膜工程を実行し、前記筐体基板上に複数の島状薄膜の積層体による複数の突部を形成することを特徴とする。
【0017】
前記成膜工程において、前記島状薄膜の成膜にスパッタ法又は堆積法を用いることが好ましい。
【0018】
前記被成膜材は、金属または酸化物であることが好ましく、前記酸化膜は、チタン酸化物又はケイ素酸化物であることが、さらに好ましい。
【0019】
前記酸化膜は、前記被成膜材をスパッタリングしながら、またはスパッタリングした後に酸化処理してもよい。前記被成膜材には、窒化膜が含まれていてもよい。前記積層体は、厚さの異なる複数の島状薄膜で形成されていてもよい。
【0020】
前記成膜工程前に、樹脂製の前記筐体基板上に金属膜を形成する工程を有し、前記金属膜の形成後に、前記成膜工程の繰り返しにより該金属膜上に前記複数の突部が形成されていてもよい。
【0021】
前記マスクに設けられる前記開口部は、円形、正方形、長方形、三角形、台形、星型、八角形のいずれかによる形状を有することが好ましい。前記マスクは、ステンレス、樹脂、石英、ガラスのいずれかで形成されることが好ましい。
【0022】
前記成膜工程の繰り返し毎に、供給される前記被成膜材の種類を変更してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、筐体表面上に形成された複数の突部において、入射した光が乱反射するので、複数の突部光の存在により、樹脂などで形成された筐体にキラキラ感を与えることができ、光の乱反射により明るく見せる効果を持たせることが可能となる。また、複数の突部を形成する酸化物等による複数の薄膜の厚さを異ならせることにより、各薄膜に入射する光の反射状態を変化させることができるので、部分毎で異なった発色が得られ、装飾筐体の装飾性を容易かつ簡単に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の装飾筐体及びその製造方法に関する実施形態について、第1乃至第4実施形態に分けて、以下に説明する。第1実施形態は、筐体基板上に金属膜により乱反射を生じる突部を形成する場合であり、第2実施形態は、筐体基板上に酸化膜等により干渉色を生じさせる機能を持った突部を形成する場合である。第3実施形態は、1つの島状構造内に多層構造を形成する場合であり、第4実施形態は、異種の被成膜材料を用いて交互に積層する場合である。
【0025】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について、図1に示されたフローチャートを用いて説明する。図1(a)乃至(e)は、本発明の第1実施形態の装飾筐体に関する製造工程を表している。ここで、図1(e)は、本発明の装飾筐体の最終工程であり、装飾の完成を概略的な断面図で示している。図1に示された各工程は、概略的な断面図を用いて説明されるが、これらの断面図では、発明の内容を分かりやすく説明する都合上、模式的に示しており、本発明は、図示された断面図における縮尺、縦横比等には限定されない。他の実施形態についても、同様である。
【0026】
図1(a)に示すように、例えば、熱可塑性樹脂からなる筐体の基体1上に、該基体の表面から離隔させて、ステンレス等からなるマスク2を配置する。ここで、マスクを離隔して配置させるのは、直接接触させると基体表面に傷が付くことを防止するためである。成膜した被成膜材のパターンの外縁部をシャープにしたい場合は、できるだけマスク2と基体1とを近接させることが望ましい。一方、外縁部を意図的にぼかす場合には、マスク2と基体1とを一定距離だけ離隔させてもよい。マスク2には、正方形の複数の開口部が形成されている。図示の例では、3つの開口部a1〜a3がマスク2に設けられている。各開口部の形状は種々異ならせてもよく、全て同一形状としてもよく、また、開口密度も、装飾効果を得るうえで適宜調整される。
【0027】
次に、図1(b)に示すように、スパッタ法により、形成する突部の1層目の薄膜として、アルミニウム等の金属からなる薄膜31を成膜する。ここで、スパッタターゲット(図示せず)から飛来した金属S11は、その一部がマスク2によって遮蔽され、基体1上へは、マスク2に設けられた各開口部a1〜a3を通過した金属のみが到達し、薄膜31を形成する。1層目の薄膜31の各々は、開口部の形状とほぼ同一の正方形の島状になっている。
【0028】
次に、図1(c)に示すように、マスク2の位置を基体1の表面に対して水平方向にずらした位置にマスク2を再配置してから、上記のスパッタ法により、アルミニウム等の金属からなる2層目の薄膜32を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、図1(b)で成膜した1層目の金属膜31と、2層目の金属膜32の一部とが重なり合うように設定する。このように、マスク2の再配置の位置を設定すると、1層目の薄膜31と2層目の薄膜32とが重なり合った部分の膜厚が2層となって、厚くなる。そして、1層目の薄膜31と2層目の薄膜32とが重なり合った部分以外においては、成膜された薄膜の1層分の厚さになっている。
【0029】
次に、図1(d)に示すように、さらにマスク2の位置を基体1の表面に対して水平方向にずらした位置に、マスク2を再度、再配置してから、上記のスパッタ法により、アルミニウム等の金属からなる3層目の薄膜33を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、少なくとも一部において、1層目〜3層目の薄膜が重なり合うように設定する。このように、マスク2の再配置の位置を設定すると、1層目から3層目の全ての金属膜が重なり合った部分(3層)と、その周辺に形成された、3層のうちの2層が重なった部分(2層)と、さらにその周辺に形成された、3層のうちの1層のみが形成された部分(1層)が形成される。
【0030】
そして、図1(e)は、マスク2を排除した状態を示している。これで、筐体の基体1上に、金属による薄膜が積層構成された複数の突部4が夫々同時に形成されたことになる。以上では、3層の場合を例にして説明したが、3層以上を積層させてもよい。また、マスク2をずらす量を調整することによって、突部の傾斜を所望の状態に調整することができる。
【0031】
例えば、突部の傾斜角を急角度にしたい場合には、マスク2の再配置工程での移動距離を狭ピッチにすればよい。同様に突部の傾斜を緩やかにしたい場合には、ピッチを大きくすればよい。また、各再配置工程での移動ピッチを一定にすれば、突部の傾斜の状態を直線状にすることができ、移動ピッチを変化させれば、曲線状等にすることもできる。さらに、2層目以降の薄膜を成膜するとき、マスクの移動方向を異ならせることもできる。このように、マスクの再配置工程と、成膜工程を複数回繰り返すことにより、より複雑な突部形状を付与することができ、光の乱反射の状態が調整され、より光の反射を強くし、明るく見せることができるという効果が得られる。
【0032】
上述した第1実施形態において、基体の表面が平滑な場合、金属薄膜による金属質感と、突部による質感とを併せて基体に付与することができる。筐体の基体自体の表面が外側に突状態になっている場合は、金属質感と併せて、異なる突部感を付与することができる。また、形成された突部により、光を乱反射させて明るく見せる効果を持たせることが可能である。これは、基体の表面形状と、上記方法で形成したスパッタリングによる突部形状を組み合わせること、又はスパッタリングによる突部形状単独で可能である。
【0033】
これまで説明した第1実施形態では、薄膜の成膜方法としてスパッタ法を用いた例を示したが、他の成膜方法でも使用することができる。例えば、蒸着法等が挙げられ、マスクを非接触で使用した場合に、所定のパターンが形成される成膜方法であれば、利用可能である。また、上記実施形態では、マスクの開口部の形状を正方形とした例を示したが、円形、長方形、三角形、台形、星型、八角形等とすることもできる。このように種々の形状とすることで、装飾効果を高めることができる。
【0034】
また、上記実施例では成膜後にマスクを変えずに位置をずらし、その後に積層膜の成膜を行っているが、成膜工程ごとにマスクを変えてもよい。例えば、成膜ごとに開口部の径が小さいマスクに交換することにより、所望の形状の突部を形成することができる。
【0035】
また、マスク2に複数の開口部を設ける際には、ステンレス鋼製のマスクへの穴あけ加工において、機械加工、レーザ加工、フォトリソグラフィを用いたエッチング加工で行ってもよい。機械加工であればマスクを簡便に形成することができる一方、レーザ加工やエッチング加工ではより高精細なマスクを得ることができる。また、ステンレス鋼製のマスクに替えて、スパッタリング成膜時のプラズマに一定の耐候性を示す、樹脂、石英、ガラス等を用いてもよい。樹脂マスク用いた場合、基体の形状が湾曲していても容易に対応することができ、石英、ガラス等の場合、低熱膨張性を利用して、高精度な位置合わせが可能となる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態では、被成膜材として、金属が使用されたが、第2実施形態では、被成膜材として、酸化物を用いる点を特徴としている。図2(a)乃至(e)は、本発明の第2実施形態の装飾筐体の製造工程のフローチャートを示し、図2(e)は、第2実施形態による装飾筐体の最終状態を示し、各製造工程は、第1実施形態の場合と同様に、概略的な断面図で示される。
【0037】
まず、図2(a)に示すように、例えば、熱可塑性樹脂からなる基体1上に、下地金属膜5を成膜する。さらに、成膜された金属膜5上に、一定の距離だけ離隔させて、ステンレス等からなるマスク2を配置する。マスク2には、第1実施形態で用いたのと同様に、正方形の複数の開口部が形成されている。図示の例では、3つの開口部a1〜a3がマスク2に設けられている。各開口部の形状は種々異ならせてもよく、全て同一形状としてもよい。
【0038】
次に、図2(b)に示すように、スパッタ法により、1層目の薄膜として、酸化チタン(TiO2)または酸化ケイ素(SiO2)からなる酸化膜61を成膜する。ここで、スパッタターゲット(図示せず)から飛来した酸化物S21は、その一部がマスク2によって遮蔽され、基体1上に形成された金属膜5上へはマスク2に設けられた開口部a1〜a3を通過したもののみが到達し、薄膜を形成する。1層目の酸化膜61は、開口部の形状とほぼ同一の正方形の島状を構成することになる。
【0039】
次に、図2(c)に示すように、マスク2の位置を金属膜5に対して水平方向にずらして、マスク2を再配置してから、上記スパッタ法により、2層目の薄膜として、TiO2またはSiO2からなる酸化膜62を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、図2(b)で成膜した1層目の酸化膜61と、2層目の酸化膜62とが重なり合うように設定する。このように、マスク2の再配置の位置を設定すると、1層目の酸化膜61と2層目の酸化膜62とが重なり合った部分が2層分の膜厚になって、厚くなり、その周辺では、1層分の厚さの薄膜が形成される。
【0040】
次に、図2(d)に示すように、さらにマスク2の位置を水平方向にずらしてマスク2を再度、再配置してから、スパッタ法によりTiO2またはSiO2からなる3層目の酸化膜63を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、少なくとも一部において、1層目〜3層目の酸化膜が重なり合う量に設定する。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目から3層目の全ての酸化膜が重なり合った部分(3層)と、その周辺に形成された、3層のうちの2層が重なった部分(2層)と、さらにその周辺に形成された、3層のうちの1層のみが形成された部分(1層)が形成される。
【0041】
そして、図2(e)に、マスク2が排除された状態が示される。これで、筐体の基体1上に形成された金属膜5の表面に、酸化膜による複数の薄膜の積層体による複数の突部7が同時に形成される。なお、下地の金属膜5の一部には、突部が形成されずに、該金属膜の表面が現れている。ここでは、3層の場合を例にとって説明したが、3層以上を積層させてもよい。このように、マスクの再配置工程と、成膜工程を複数回繰り返すことにより、より細かく部分毎の酸化膜の膜厚を変更し、より細かく部分毎の発色を異なるようにすることができるという効果が得られる。
【0042】
上記の第2実施形態において、突部において、酸化物の厚さが部分毎に異なることになるため、反射する光の波長が部分的に異なり、部分毎で異なった発色とすることができる。また、金属薄膜層が最外表になる部分を設けることで、その部分は異なった発色とすることができる。また、第2実施形態では、成膜方法としてスパッタ法を用いた例を示したが、成膜材料を金属とし、スパッタリング成膜時に金属を酸化(スパッタリング雰囲気ガス中に酸素等を混合)させてもよい。また、酸化膜の場合を例にとって説明したが、窒化膜等でもよい。
【0043】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による装飾筐体とその製造方法について、図3及び図4のフローチャートを用いて説明する。図3(a)乃至(d)、及び図4(a)乃至(d)は、本発明の第3実施形態の装飾筐体の製造工程のフローチャートを示し、図4(d)は、第3実施形態による装飾筐体の最終状態を示し、各製造工程は、第1実施形態及び第2実施形態の場合と同様に、概略的な断面図で示される。第2実施形態では、突部を形成する積層体の複数の薄膜は、同一の被成膜材が使用されたが、第3実施形態では、酸化物薄膜の成膜において、被成膜材として、複数の材質、例えば、Ti02とSiO2を組み合わせるものとし、これらの材質により交互に成膜する点を特徴とする。
【0044】
まず、図3(a)に示すように、例えば、熱可塑性樹脂からなる筐体の基体1上に、一定の距離だけ離隔させて、ステンレス等からなるマスク2を配置する。マスク2には、正方形の複数の開口部が形成されている。図示の例では、3つの開口部a1〜a3がマスク2に設けられている。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、スパッタ法により、酸化チタン(TiO2)からなる1層目の酸化膜81を成膜する。ここで、スパッタターゲット(図示せず)から飛来した酸化物S31は、一部はマスク2によって遮蔽され、基体1上へはマスク2に設けられた開口部a1〜a3を通過したもののみが到達し、薄膜を形成する。1層目の酸化膜81は、開口部の形状とほぼ同一の正方形の島状構造を構成することになる。
【0046】
次に、図3(c)に示すように、マスク2の位置をそのままにして、スパッタ法によりSiO2からなる2層目の酸化膜82を成膜する。したがって、1層目の酸化膜81と2層目の酸化膜82とは同じ正方形の島状構造を有し、両者は重なっている。
【0047】
次に、図3(d)に示すように、マスク2の位置を水平方向にずらしてマスク2を再配置してから、スパッタ法により、酸化チタン(TiO2)からなる3層目の酸化膜83を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、1層目の酸化膜81及び2層目の酸化膜82と、3層目の酸化膜83の一部とが重なり合う量に設定する。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目の酸化膜81及び2層目の酸化膜82と、3層目の酸化膜83が重なり合った部分のみに膜厚が厚い部分(3層)が生じ、その周辺に、1層目の酸化膜81及び2層目の酸化膜82が積そうした部分(2層)と、3層目の酸化膜のみが堆積した部分(1層)が形成される。
【0048】
次に、図4(a)に示すように、マスク2の位置をそのままにして、スパッタ法によりSiO2からなる4層目の酸化膜84を成膜する。したがって、3層目の酸化膜83と4層目の酸化膜84とは同じ正方形の島状構造を有し、両者は重なっている。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目〜4層目の酸化膜81〜84が重なり合った部分に膜厚が厚い部分(4層)が形成され、その周辺に、1層目の酸化膜81及び2層目の酸化膜82、あるいは3層目の酸化膜83及び4層目の酸化膜84が積層した部分(2層)が形成される。
【0049】
次に、図4(b)に示すように、さらに、マスク2の位置を水平方向にずらしてマスク2を再度、再配置してから、スパッタ法により、酸化チタン(TiO2)からなる5層目の酸化膜85を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、1層目〜4層目の酸化膜81〜84と、5層目の酸化膜85の一部とが重なり合う量に設定する。
【0050】
次に、図4(c)に示すように、マスク2の位置をそのままにして、スパッタ法によりSiO2からなる6層目の酸化膜86を成膜する。したがって、5層目の酸化膜85と6層目の酸化膜86とは同じ正方形の島状構造を有し、両者は重なっている。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目〜6層目の酸化膜81〜86が重なり合った部分に膜厚が厚い部分(6層)が形成され、その周辺に、1層目〜6層目の酸化膜81〜86のうちの4層が積層した部分(4層)が形成され、さらにその周辺に、1層目〜6層目の酸化膜81〜86のうちの2層が積層した部分(2層)が形成される。
【0051】
最後に、図4(d)に示すように、マスク2を除去し、酸化膜の積層構造からなる突部9を得ることができる。ここで、マスク2を移動せずに積層する酸化膜の層数として2層の場合を例示したが、2層以上の多層膜としても構わない。
このようにすることで、酸化物積層膜の厚さが部分毎に異なるため、反射する光の波長が部分毎で異なり、部分毎で異なった発色とすることができる。
【0052】
成膜する酸化物を例えば、TiO2とSiO2のような高屈折率と低屈折率の材料の組合せとし、これらの積層膜の膜厚、積層数を設計し、部分毎で特定の波長のみを反射する積層膜とし、部分毎で様々な発色とすることができる。このように、マスクの再配置工程と、成膜工程を複数回繰り返すことにより、より細かく部分毎の酸化物積層膜の厚さがより細かく異なる様にし、より細かく部分毎の発色を異なるようにすることができるという効果が得られる。
【0053】
本実施例では、成膜方法としてスパッタ法を用いた例を示したが、成膜材料を金属とし、スパッタリング成膜時に金属を酸化(スパッタリング雰囲気ガス中に酸素等を混合)させてもよい。本実施例では成膜する材質を2種類とした例を示したが、これには限定されず、3種類以上としてもよい。さらに、材質の変更、マスクの位置の変更は任意に組み合わせることができる。また、酸化膜の場合を例にとって説明したが、窒化膜等でもよい。さらに、下地層に金属薄膜を成膜してもよい。
また上記実施例では、マスクの開口部a1〜a3の形状を正方形とした例を示したが、長方形、三角形、台形、星型、八角形等とすることもできる。また、ステンレス鋼製のマスクへの穴あけ加工を機械加工、レーザ加工、フォトリソグラフィを用いたエッチング加工で行ってもよい。また、ステンレス鋼製のマスクに替えて、スパッタリング成膜時のプラズマに一定の耐候性を示す、樹脂、石英、ガラス等を用いてもよい。
【0054】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態による装飾筐体とその製造方法について説明する。第4実施形態は、酸化膜の成膜において、酸化膜を複数の材質とし、マスクを異動させつつ、これらを交互に成膜する点を特徴としている。図5は、本発明の第4実施形態の装飾筐体の製造工程のフローチャートを示し、図5(e)に本発明の装飾筐体の概略的な断面図を示す。
【0055】
まず、図5(a)に示すように、例えば、熱可塑性樹脂からなる基体1上に、一定の距離だけ離隔させて、ステンレス等からなるマスク2を配置する。マスク2には、正方形の複数の開口部a1〜a3が形成されている。
【0056】
次に、図5(b)に示すように、スパッタ法により、TiO2からなる1層目の酸化膜101を成膜する。ここで、スパッタターゲット(図示せず)から飛来した酸化物S41は、一部はマスク2によって遮蔽され、基体1上へはマスク2に設けられた開口部a1〜a3を通過したもののみが到達し、薄膜を形成する。1層目の酸化膜101は、開口部a1〜a3の形状とほぼ同一の正方形の島状構造を構成することになる。
【0057】
次に、図5(c)に示すように、マスク2の位置を水平方向にずらしてマスク2を再配置してから、スパッタ法によりSiO2からなる2層目の酸化膜102を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、図5(b)で成膜した1層目の酸化膜101と、2層目の酸化膜102の一部とが重なり合う量に設定する。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目の酸化膜101と2層目の酸化膜102とが重なり合った部分のみに膜厚が厚い部分(2層)が生じ、その周辺に膜厚が薄い部分(1層)が形成される。
【0058】
次に、図5(d)に示すように、さらにマスク2の位置を水平方向にずらしてマスク2を再度、再配置してから、スパッタ法によりTiO2からなる3層目の酸化膜103を成膜する。ここで、マスク2をずらす量は、少なくとも一部において、1層目〜3層目の酸化膜が重なり合う量に設定する。このように、マスク2の位置を設定すると、1層目から3層目の全ての酸化膜が重なり合った部分(3層)と、その周辺に形成された、3層のうちの2層が重なった部分(2層)と、さらにその周辺に形成された、3層のうちの1層のみが形成された部分(1層)が形成される。
【0059】
そして、図5(e)に示すように、マスク2を排除すると、酸化膜から構成された突部10が形成される。ここで突部10の各層厚毎の構成についてみると、3層が積層している部分では、TiO2/SiO2/TiO2の積層構造となり、2層が積層している部分ではTiO2/SiO2、あるいはSiO2/TiO2の積層構造となり、1層のみが形成されている領域はTiO2のみが形成されている。このように、酸化物の厚さや構成成分が部分毎に異なるため、反射する光の波長が部分的に異なり、部分毎で異なった発色とすることができる。ここでは、3層の場合を例にとって説明したが、3層以上を積層させてもよい。このように、マスクの再配置工程と、成膜工程を複数回繰り返すことにより、より細かく部分毎の酸化物積層膜の厚さがより細かく異なる様にし、より細かく部分毎の発色を異なるようにすることができるという効果が得られる。
【0060】
本実施例では、成膜方法としてスパッタ法を用いた例を示したが、成膜材料を金属とし、スパッタリング成膜時に金属を酸化(スパッタリング雰囲気ガス中に酸素等を混合)させてもよい。本実施例では成膜する材質を2種類とした例を示したが、これには限定されず、3種類以上としてもよい。さらに、材質の変更、マスクの位置の変更は任意に組み合わせることができる。また、酸化膜の場合を例にとって説明したが、窒化膜等でもよい。さらに、下地層に金属薄膜を成膜してもよい。
また上記実施例では、マスクの開口部a1〜a3の形状を正方形とした例を示したが、長方形、三角形、台形、星型、八角形等とすることもできる。また、ステンレス鋼製のマスクへの穴あけ加工を機械加工、レーザ加工、フォトリソグラフィを用いたエッチング加工で行ってもよい。また、ステンレス鋼製のマスクに替えて、スパッタリング成膜時のプラズマに一定の耐候性を示す、樹脂、石英、ガラス等を用いてもよい。
【0061】
以上の実施形態においては、突部を形成する基体の材質として、熱可塑性樹脂の例を示したが、これには限定されない。また、上記実施例で示した突部を形成した基体を電子デバイス等の筐体に用いてもよい。さらに、筐体以外の基体、例えば置物のように、電子デバイス等を内蔵しないものであっても同様に、装飾性を向上させる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施形態に係る装飾筐体の製造工程のフローチャートである。
【図2】第2実施形態に係る装飾筐体の製造工程のフローチャートである。
【図3】第3実施形態に係る装飾筐体の製造工程のフローチャートである。
【図4】図3に示された第3実施形態に係る装飾筐体の製造工程に続くフローチャートである。
【図5】第4実施形態に係る装飾筐体の製造工程のフローチャートである。
【図6】従来技術に係る積層構成を示す断面図である。
【図7】従来技術に係る概略の構成斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
1 基体
2 マスク
31、32、33 金属薄膜
4、7、9、10 突部
5 金属膜
61〜63、81〜83、101〜103 酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の突部が筐体基板の表面に形成された装飾筐体であって、
前記突部の各々は、面積の異なる複数の島状薄膜による積層体であることを特徴とする装飾筐体。
【請求項2】
前記島状薄膜は、金属膜であることを特徴とする請求項1に記載の装飾筐体。
【請求項3】
前記島状薄膜は、透明薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の装飾筐体。
【請求項4】
前記透明薄膜は、酸化物で成膜されたことを特徴とする請求項3に記載の装飾筐体。
【請求項5】
前記酸化物は、チタン酸化物又はケイ素酸化物であることを特徴とする請求項4に記載の装飾筐体。
【請求項6】
前記積層体は、屈折率が異なる複数の島状薄膜により積層されることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の装飾筐体。
【請求項7】
前記突部の各々は、同一の形状を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項8】
前記島状薄膜は、円形、正方形、長方形、三角形、台形、星型、八角形のいずれかによる面形状を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項9】
前記複数の突部は、筐体表面に被着された金属膜の上に形成されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項10】
前記筐体基板は、樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の装飾筐体。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載された装飾筐体の内部に電子部品を収納したことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
筐体基板上に配置されたマスクに設けられた複数の開口部を通して被成膜材を供給し、該筐体基板上に複数の島状薄膜を成膜する成膜工程を有し、
前記複数の島状薄膜の成膜の後に、前記マスクの配置を前記筐体基板の面方向に移動させる毎に、前記成膜工程を実行し、前記筐体基板上に複数の島状薄膜の積層体による複数の突部を形成することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項13】
前記成膜工程において、前記島状薄膜の成膜にスパッタ法又は堆積法を用いることを特徴とする請求項12に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項14】
前記被成膜材は、金属であることを特徴とする請求項12又は13に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項15】
前記被成膜材は、酸化物であることを特徴とする請求項12又は13に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項16】
前記酸化膜は、チタン酸化物又はケイ素酸化物であることを特徴とする請求項15に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項17】
前記酸化膜は、前記被成膜材をスパッタリングしながら、またはスパッタリングした後に、酸化処理されたものであることを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項18】
前記被成膜材には、窒化膜が含まれることを特徴とする請求項12乃至13に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項19】
前記積層体は、厚さの異なる複数の島状薄膜で形成されることを特徴とする請求項15乃至18のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項20】
前記成膜工程前に、樹脂製の前記筐体基板上に金属膜を形成する工程を有し、
前記金属膜の形成後に、前記成膜工程の繰り返しにより該金属膜上に前記複数の突部が形成されることを特徴とする請求項12乃至19のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項21】
前記マスクに設けられる前記開口部は、円形、正方形、長方形、三角形、台形、星型、八角形のいずれかによる形状を有することを特徴とする請求項12乃至20のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項22】
前記マスクは、ステンレス、樹脂、石英、ガラスのいずれかで形成されることを特徴とする請求項12乃至21のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項23】
前記成膜工程の繰り返し毎に、供給される前記被成膜材の種類を変更することを特徴とする請求項15乃至22のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−51055(P2009−51055A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218591(P2007−218591)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】