説明

補強ホース

【課題】 耐熱性を向上させ、強度の低下を防止した補強ホースを提供することにある。
【解決手段】 管状の内ゴム層1と、内ゴム層1の外側を覆う外ゴム層3とを有し、内ゴム層1と外ゴム層3との間に補強糸4,5を介装した補強ホース10であって、補強糸4,5を、引張り破断伸び率が20%〜35%で且つ、その融点が300℃以上であるメタ系アラミッド繊維またはポリベンズイミダゾール繊維で形成し、内ゴム層1を水素化ニトリルゴムまたはフッ素ゴムで形成して、補強ホース10の耐熱性を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強ホースに関し、詳しくは、車両のパワーステアリング装置等で用いられるパワーステアリングホースなど、耐圧性・耐久性・耐熱性に優れた補強ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両のパワーステアリング装置等では、耐圧性・耐久性・耐熱性に優れた補強ホース(パワーステアリングホース)が用いられる。この補強ホース20は、図2に示すように、管状の内ゴム層21と、この内ゴム層21の外周を覆う第1補強糸層22と、この第1補強糸層22の外周を覆う中間ゴム層23と、この中間ゴム層23の外周を覆う第2補強糸層24と、この第2補強糸層24の外周を覆う外ゴム層25とを有しており、この端部には接続金具30が固着される。
【0003】
内ゴム層21は、水素化ニトリルゴム、ニトリルゴム、またはクロロスルホン化ポリエチレンゴムで形成されている。中間ゴム層23は、クロロスルホン化ポリエチレンゴムで形成されている。外ゴム層25は、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレン、またはクロロプレンゴムで形成されている。第1及び第2補強糸層22,24は、ポリアミド系合成繊維で形成されている。
【0004】
接続金具30は、その一側部側にニップル部31と、所定の空間を設けてニップル部31を覆うソケット部32とからなるかしめ部33が形成される一方、その他側部側に雄ネジに螺合する螺合部34が形成されており、補強ホース20と図示しないパワーステアリング装置のポンプを連結可能になっている。
【0005】
ここで、上記パワーステアリング装置は、ポンプを駆動して発生した油圧を利用してステアリングホイールの操作力を軽くするものであり、ステアリング装置に取り付けられた倍力装置である。この油圧は、補強ホースを介して連結されたステアリングギアに給排される。すなわち、ステアリングの操舵角度が0°のときには油圧は給排されず、ステアリングの操舵に応じて操舵角度が0°より大きくなると油圧は給排され、この操舵角度の大きさに応じて、その油圧の給排量も多くなっている。
【0006】
他の補強ホースとして、特許文献1に記載される車両用配管ホースが知られている。この車両用配管ホースは、内側ゴム層と、この内側ゴム層の外周面上に複数本の補強糸を引き揃えて一方向にスパイラル状に巻き付けて形成された第一の補強層と、この第一の補強層上に中間ゴム層を介して、複数本の補強糸を引き揃えて前記一方向とは逆の方向にスパイラル状に巻き付けて形成された第二の補強層と、第二の補強層の外周面上に形成された外側層とを有する。
【0007】
【特許文献1】特開平7−68659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、車庫入れなどで、ステアリングを切ってロック状態、すなわちステアリングを最大限に操舵した状態をある一定時間以上継続して走行したり、この状態をある一定時間以上繰り返し行って走行したりすると、パワーステアリング装置内ではオイルが激しく流動し、そのオイルの流動に伴ってオイルの温度が200℃以上に上昇することがある。このような高温のオイルにより、補強ホース20の第1,第2補強糸層22,24における補強糸の弾性率が低下して、前記パワーステアリング装置のポンプに接続する接続金具30のかしめ部33にて緩みが生じる。その結果、オイルが接合金具30のニップル部31と補強ホース20の内ゴム層21との間を通過して、第2補強糸層24へ入り込み、油圧が補強ホース20に繰り返しかかることにより、補強ホース20の外ゴム層25を突き破ってオイルのにじみ漏れを発生させる虞があった。
【0009】
特許文献1に記載の車両用配管ホースでも、オイルの温度が200℃以上に上昇すると、車両用配管ホースにおける補強層のポリアミドフィラメント糸の弾性率が低下して、車両用配管ホースの一端に固定される接続金具との間で緩みが生じる。その結果、オイルが高圧ホースの第二の補強層へ入り込み、油圧が車両用配管ホースに繰り返しかかることにより、高圧ホースの外側層を突き破ってオイルのにじみ漏れを発生させる虞があった。
【0010】
そこで、本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、耐熱性を向上させ、強度の低下を防止した補強ホースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決する第1の発明に係る補強ホースは、管状の内ゴム層と、該内ゴム層の外側を覆う外ゴム層とを有し、該内ゴム層と該外ゴム層との間に補強糸を介装した補強ホースであって、前記補強糸は、引張り破断伸び率が20%〜35%で且つ、その融点が300℃以上であることを特徴とする。
【0012】
前述した課題を解決する第2の発明に係る補強ホースは、第1の発明に記載された補強ホースであって、前記補強糸が、メタ系アラミッド繊維またはポリベンズイミダゾール繊維で形成されることを特徴とする。
【0013】
前述した課題を解決する第3の発明に係る補強ホースは、第1の発明または第2の発明に記載された補強ホースであって、前記内ゴム層が、水素化ニトリルゴムまたはフッ素ゴムで形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る補強ホースによれば、耐熱性が向上しており、補強ホース内のオイルの温度が上昇しても、補強ホースの補強糸の弾性率が低下したり、前記補強糸が溶融したりしないので、補強ホースの端部に固定される接続金具のかしめ部が緩んだり、補強ホースの強度が低下したりすることを防止することができる。
【0015】
第2の発明に係る補強ホースによれば、第1の発明に記載された補強ホースと同様な作用効果を奏する他、メタ系アラミッド繊維およびポリベンズイミダゾール繊維自体が市販品であり、その製造コストの増加を抑制することができる。
【0016】
第3の発明に係る補強ホースによれば、第1の発明および第2の発明に記載された補強ホースと同様な作用効果を奏する他、内ゴム層の耐熱性が高く、耐油性が優れているので、補強ホース全体の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態に係る補強ホースを、図面を用いて具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る補強ホースの積層構造を示す斜視図である。
【0019】
本発明を実施するための最良の形態に係る補強ホース10は、図1に示すように、管状の内ゴム層1と、内ゴム層1の外側を覆う中間ゴム層2と、中間ゴム層2の外側を覆う外ゴム層3とを有し、内ゴム層1と中間ゴム層2との間には第1補強糸4が介装され、中間ゴム層2と外ゴム層3との間には第2補強糸5が介装される。
【0020】
内ゴム層1は、例えば、水素化ニトリルゴムおよびフッ素ゴムなどで形成される。中間ゴム層2は、例えばテープ巻きの水素化ニトリルゴムおよびゴム糊のフッ素ゴムなどで形成される。外ゴム層3は、例えば、塩素化ポリエチレンおよびエピクロルヒドリン−エチレンオキシドゴムなどで形成される。
【0021】
第1,第2補強糸4,5は、引張り破断伸び率が20%〜35%で且つ、その融点が300℃以上である材料が用いられる。例えば、引張り破断伸び率が22%で融点が400℃のメタ系アラミッド繊維、および引張り破断伸び率が30%で融点が550℃のポリベンズイミダゾール繊維などが用いられる。引張り破断伸び率を20%以上とすることにより、パワーステアリング装置のポンプの脈動を補強ホース10全体の膨らみによって吸収し、前記パワーステアリング装置使用時の異音の発生を抑制することができる。
また、融点を300℃以上とすることにより、補強ホース10内のオイルの温度が上昇しても、補強糸の弾性率が低下せず、結果オイルのにじみ漏れが発生しない。
【0022】
上述した補強ホース10は、以下の手順にて製造する。
最初に、外径9.7mmの樹脂製長尺マンドレルを用意する。長尺マンドレルの外周に肉厚1.7mmの各ゴム種の内ゴム層1を押出成形し、内ゴム層1の外周面に1400デシテックスの第1補強糸4を用いて引き揃え数4本、24キャリアで編み組みした補強層を設ける。続いて、第1補強糸4からなる補強層の外周面に肉厚0.2mmの各ゴム種からなる中間ゴム層2をテープ巻きまたはゴム糊の塗布を施し、外周面に1400デシテックスの第2補強糸5を用いて引き揃え数4本、24キャリアで編み組みした補強層を設ける。続いて、第2補強糸5からなる補強層の外周面に肉厚1.4mmの外ゴム層3を押出成形した。これを通常の手段により加熱加硫した。
【0023】
その後、長尺マンドレルを抜き取り内径9.7mmの補強ホース10を得た。
この補強ホース10の両端に図示しない接続金具、即ち一側部側にニップル部及びソケット部からなるかしめ部を有する一方、他側部側に雄ネジに螺合する螺合部を有する接続金具を取り付け固着して補強ホースアッセンブリとした。
【0024】
したがって、本発明の最良の形態に係る補強ホース10によれば、補強ホース10内に介在する第1補強糸4および第2補強糸5の引張り破断伸び率が20%以上35%以下で且つ、それらの融点が300℃以上であり、耐熱性が向上しているので、補強ホース10内のオイルの温度が上昇しても、補強糸4,5の弾性率が低下したり、補強糸4,5が溶融したりせず、補強ホース10の端部に固定される接続金具のかしめ部が緩んだり、補強ホース10の強度が低下したりすることを防止することができる。
【0025】
また、第1,第2補強糸4,5は、メタ系アラミッド繊維またはポリベンズイミダゾール繊維で形成されることで、これらの材料自体が市販品であり、その製造コストの増加を抑制することができる。さらに、内ゴム層1は水素化ニトリルゴムおよびフッ素ゴムで形成されることで、内ゴム層1の耐熱性が高く、耐油性が優れているので、オイルの温度が上昇しても、熱劣化が発生せず、内ゴム層1の伸びの低下や硬度上昇を抑制することができ、補強ホース10全体の耐久性が向上する。
【0026】
上記では、内ゴム層1、第1補強糸4、中間ゴム層2、第2補強糸5、外ゴム層3を有する補強ホース10を用いて説明したが、中間ゴム層が無く、内ゴム層、補強糸、外ゴム層を有する補強ホースに適用しても良い。このような補強ホースにおける補強糸の引張り破断伸び率が20%以上35%以下で且つ、その融点が300℃以上であれば、この補強ホース内を循環するオイルの温度が約200℃まで上昇しても、補強糸の弾性率が低下したり、前記補強糸が溶融したりしないため、上記補強ホース10と同様な作用効果を奏する。
【実施例1】
【0027】
本発明の第1の実施例に係る補強ホースについて、以下に説明する。
本発明の第1の実施例に係る補強ホースは、上述した本発明を実施するための最良の形態における、内ゴム層、中間ゴム層、外ゴム層、および第1,第2補強糸の材料をそれぞれ限定したものであり、上述した補強ホースと同一手順にて製造したものである。
尚、補強糸には、ゴム層と接着性を増すために、RFL処理(レゾルシンホルマリンラテックス処理)をしておく。
【0028】
第1の実施例に係る補強ホースでは、内ゴム層は水素化ニトリルゴムで形成され、中間ゴム層はテープ巻きの水素化ニトリルゴムで形成され、外ゴム層は塩素化ポリエチレンで形成され、第1,第2補強糸はメタ系アラミッド繊維で形成された。
【実施例2】
【0029】
本発明の第2の実施例に係る補強ホースについて、以下に説明する。
本発明の第2の実施例に係る補強ホースは、上述した本発明を実施するための最良の形態における、内ゴム層、中間ゴム層、外ゴム層、および第1,第2補強糸(RFL処理を実施しておく)の材料をそれぞれ限定したものであり、上述した補強ホースと同一手順にて製造したものである。
【0030】
第2の実施例に係る補強ホースでは、内ゴム層は水素化ニトリルゴムで形成され、中間ゴム層はテープ巻きの水素化ニトリルゴムで形成され、外ゴム層は塩素化ポリエチレンで形成され、第1,第2補強糸はポリベンズイミダゾール繊維で形成された。
【実施例3】
【0031】
本発明の第3の実施例に係る補強ホースについて、以下に説明する。
本発明の第3の実施例に係る補強ホースは、上述した本発明を実施するための最良の形態における、内ゴム層、中間ゴム層、外ゴム層、および第1,第2補強糸(RFL処理を実施しておく)の材料をそれぞれ限定したものであり、上述した補強ホースと同一手順にて製造したものである。
【0032】
第3の実施例に係る補強ホースでは、内ゴム層はフッ素ゴムで形成され、中間ゴム層はゴム糊のフッ素ゴムで形成され、外ゴム層はエピクロルヒドリン−エチレンオキシドゴムで形成され、第1、第2補強糸はメタ系アラミッド繊維で形成された。
【0033】
[比較例1]
比較例1に係る補強ホースについて、以下に説明する。
比較例1に係る補強ホースは、上述した本発明を実施するための最良の形態における、内ゴム層、中間ゴム層、外ゴム層、および第1,第2補強糸(RFL処理を実施しておく)の材料をそれぞれ限定したものであり、上述した補強ホースと同一手順にて製造したものである。
【0034】
比較例1に係る補強ホースでは、内ゴム層はクロロスルホン化ポリエチレンで形成され、中間ゴム層はゴム糊のクロロスルホン化ポリエチレンで形成され、外ゴム層はクロロスルホン化ポリエチレンで形成され、第1,第2補強糸はポリアミド66合成繊維で形成された。
【0035】
[比較例2]
比較例2に係る補強ホースについて、以下に説明する。
比較例2に係る補強ホースは、上述した本発明を実施するための最良の形態における、内ゴム層、中間ゴム層、外ゴム層、および第1,第2補強糸(RFL処理を実施しておく)の材料をそれぞれ限定したものであり、上述した補強ホースと同一手順にて製造したものである。
【0036】
比較例2に係る補強ホースでは、内ゴム層は水素化ニトリルゴムで形成され、中間ゴム層はテープ巻きのクロロプレンゴムで形成され、外ゴム層は塩素化ポリエチレンで形成され、第1,第2補強糸はポリアミド66合成繊維で形成された。
【0037】
[評価]
上述した実施例1−3、および比較例1,2にて得られた各補強ホースに対して液圧を8MPa、オイルの温度を220℃の条件にて加圧試験を実施した。
下記表1に上述した各補強ホースに対して加圧試験を実施した結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1に示すように、比較例1,2にて得られた補強ホースに比べて、実施例1−3にて得られた補強ホースの方が、それらの耐久性が向上していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、車両のパワーステアリング装置等に接続される補強ホースに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る補強ホースの積層構造を示す斜視図である。
【図2】従来の補強ホースの端部近傍における断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 内ゴム層
2 中間ゴム層
3 外ゴム層
4 第1補強糸
5 第2補強糸
10 補強ホース
20 補強ホース
30 接続金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の内ゴム層と、該内ゴム層の外側を覆う外ゴム層とを有し、該内ゴム層と該外ゴム層との間に補強糸を介装した補強ホースであって、
前記補強糸は、引張り破断伸び率が20%〜35%で且つ、その融点が300℃以上である
ことを特徴とする補強ホース。
【請求項2】
請求項1に記載された補強ホースであって、
前記補強糸は、メタ系アラミッド繊維またはポリベンズイミダゾール繊維で形成される
ことを特徴とする補強ホース。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された補強ホースであって、
前記内ゴム層は、水素化ニトリルゴムまたはフッ素ゴムで形成される
ことを特徴とする補強ホース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−226339(P2006−226339A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38598(P2005−38598)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】