説明

補強ホース

【課題】ゴム層に挟まれた補強糸のズレ抑制の実効性を高めて、耐久性や耐圧性の維持・向上を図る。
【解決手段】アラミド繊維は、ポリイソシアネート被覆層と架橋剤層で被覆された状態で内面ゴム層12と外面ゴム層14との間に位置し、アラミド繊維とこれを被覆するポリイソシアネート被覆層との界面では、アラミド繊維Fのアミド基とポリイソシアネート被覆層のイソシアネート基との化学結合を起こし、ポリイソシアネート被覆層と架橋剤層の界面では、ポリイソシアネート被覆層のイソシアネート基と架橋剤のアミン基との化学結合を起こし、架橋剤層と内面ゴム層12或いは外面ゴム層14との界面では、架橋剤のアミン基とアクリル系ゴムのカルボキシル基との化学結合を起こしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強糸を巻回した補強糸層を有する補強ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
こうした補強ホースの耐久性・耐圧性は、補強糸自体の物性と、補強糸とゴムとの接着性との影響を受けることがよく知られている。このため、高強度・低収縮・高ヤング率という優れた物性を有するアラミド繊維を使用しつつ、アラミド繊維とゴムとの接着性を向上させた接着剤が種々提案されている(特許文献1等)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−31854号公報
【特許文献2】特開平9−210262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補強ホースは、高圧流体の圧送に用いられることから繰り返し高圧荷重を受けるので、ゴム層に挟まれた補強糸のズレを抑制することも、耐久性・耐圧性確保のために必要となる。上記の特許文献では、ゴム層に挟まれた補強糸のズレを接着剤が呈する接着強度で抑制しているが、更なる改善が望まれるに到った。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされ、ゴム層に挟まれた補強糸のズレ抑制の実効性を高めて、耐久性や耐圧性の維持・向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための本発明の補強ホースとその製造方法では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:補強ホース]
補強糸を巻回した補強糸層を有する補強ホースであって、
アクリル系ゴムを用いて形成され、ホース最内層側に位置して流体の流路を形成する内面ゴム層と、
該内面ゴム層上にアラミド繊維を補強糸として巻回することにより形成された補強糸層と、
該補強糸層上に積層され、前記内面ゴム層と同系統のゴムを用いて形成された外面ゴム層とを備え、
前記補強糸層の補強糸は、
アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤を含む接着剤層で補強糸表面が被覆され、
前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に接着するに当たって、前記接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤を用いた上で、前記アラミド繊維と前記接着剤層の前記接着剤との第1化学結合と、前記架橋剤と前記接着剤層の前記接着剤との第2化学結合と、前記架橋剤と前記内面ゴム層および前記外面ゴム層の構成材である前記アクリル系ゴムとの第3化学結合とにより、前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に化学的に結合して接着していること
をその要旨とする。
【0008】
前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に前記補強糸層の補強糸を接着するために前記架橋剤を用いるに際しては、前記補強糸表面の前記接着層を前記架橋剤を含む架橋剤層で被覆した上で、前記内面ゴム層と前記補強糸層と前記外面ゴム層とを積層したり、前記架橋剤を配合した前記アクリル系ゴムを用いて前記内面ゴム層および前記外面ゴム層を形成することで、上記の第1〜第3の化学結合により前記補強糸層の補強糸を前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に化学的に結合して接着できる。
【0009】
上記構成を備える補強ホースは、アクリル系ゴムの内面ゴム層と、このゴム層と同系統のゴムを用いた外面ゴム層との間に補強糸層を位置させ、この補強糸層を形成する補強糸たるアラミド繊維は、補強糸表面側から、アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤からなる接着剤層と、該接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤からなる架橋剤層とで積層被覆されている。もしくは、アラミド繊維の補強糸表面を被覆した上記接着剤層が、内面ゴム層と外面ゴム層の構成材である前記アクリル系ゴムに配合された架橋剤と接することになる。内面ゴム層と外面ゴム層は、アクリル系ゴム同士、またはアクリル系ゴムと同系統のゴムであることから、その製造工程において加硫接着し、その間の補強糸層をサンドイッチ状に挟み込む。また、アラミド繊維は、上記の接着剤層および架橋材層を、接着剤層が繊維表面側で架橋材層がゴム層側にして、内面ゴム層或いは外面ゴム層との間に位置し、ゴム層との接着は、アラミド繊維と接着剤層の接着剤との第1化学結合、この接着剤と架橋剤層の架橋剤との第2化学結合、および、この架橋剤と内面ゴム層・外面ゴム層のアクリル系ゴムとの第3化学結合とによりなされ、内面ゴム層および外面ゴム層に化学的に結合して接着される。つまり、化学的な結合でもって補強糸たるアラミド繊維を接着する上記の耐熱性ホースによれば、接着剤自体が呈する接着強度で補強糸ズレを抑制する場合より、高い実効性で補強糸ズレを抑制できるので、ホース耐久性・耐圧性をより確実に維持・向上させることができる。
【0010】
この場合、アラミド繊維の補強糸表面を被覆した上記接着剤層が、内面ゴム層と外面ゴム層の構成材である前記アクリル系ゴムに配合された架橋剤と接する状況であっても、上記した第1〜第3の化学結合により、アラミド繊維の補強糸は、内面ゴム層および外面ゴム層に化学的に結合して接着する。よって、こうした形態であっても、高い実効性で補強糸ズレを抑制できるので、ホース耐久性・耐圧性をより確実に維持・向上させることができる。
【0011】
この場合、内面ゴム層と外面ゴム層がアクリル系ゴムであることから、接着剤をイソシアネート系の接着剤とし、架橋剤をジアミン系の架橋剤とすることが、上記の化学的な結合による接着を図る上で簡便である。そして、前記イソシアネート系の接着剤を0.3〜5wt%で前記補強糸表面に付着させて前記接着剤層とすれば、過剰な接着剤の使用を抑制しつつ、上記の化学的な結合による接着を達成できる。
【0012】
[適用2:補強ホースの製造方法]
アラミド繊維を補強糸とした補強糸層をアクリル系ゴムからなる内面ゴム層と外面ゴム層との間に介在させた補強ホースの製造方法において、
アクリル系ゴムを押し出すことにより、押出体支持用のマンドレルの周囲に前記内面ゴム層を形成する工程と、
マンドレルで支持した前記内面ゴム層の外周に前記アラミド繊維を補強糸として巻回することにより補強糸層を形成する工程と、
該補強糸層の外周にアクリル系ゴムを押し出すことにより、前記外面ゴム層を前記補強糸層に積層して形成する工程とを備え、
前記補強糸層の形成工程では、
アラミド繊維を、アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤の貯留槽と、該接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤の貯留槽とにこの順で浸漬させた後に、前記内面ゴム層の外周への巻回に処すること
をその要旨とする。
【0013】
[適用3:補強ホースの他の製造方法]
アラミド繊維を補強糸とした補強糸層をアクリル系ゴムからなる内面ゴム層と外面ゴム層との間に介在させた補強ホースの製造方法において、
アクリル系ゴムを押し出すことにより、押出体支持用のマンドレルの周囲に前記内面ゴム層を形成する工程と、
マンドレルで支持した前記内面ゴム層の外周に前記アラミド繊維を補強糸として巻回することにより補強糸層を形成する工程と、
該補強糸層の外周にアクリル系ゴムを押し出すことにより、前記外面ゴム層を前記補強糸層に積層して形成する工程とを備え、
前記補強糸層の形成工程では、アラミド繊維を、アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤の貯留槽浸漬させた後に、前記内面ゴム層の外周への巻回に処し、
前記内面ゴム層を形成する工程と前記外面ゴム層を形成する工程では、前記接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤を前記アクリル系ゴムに配合した上で、前記アクリル系ゴムを押し出すこと
をその要旨とする。
【0014】
上記構成を有する補強ホースの製造方法によれば、化学的な結合でもって補強糸たるアラミド繊維を内面ゴム層と外面ゴム層に接着してなる補強ホースを容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例について説明する。図1は本実施例の補強ホース10をその積層の様子と共に概略的に示す説明図である。
【0016】
図1に示すように、本実施例の補強ホース10は、ホース流路の側に内面ゴム層12を備え、当該ゴム層とホース最外部の外面ゴム層14との間に補強糸層16を備える。補強ホース10は、アクリル系ゴムを用いて形成され、ホース最内層側に位置して流体の流路を形成する。本実施例では、アクリル化合物系ゴムとして、アルキル酸エステルと2−クロルエチルビニルエステルとの共重合体(以下、ACM)を採用した。外面ゴム層14は、内面ゴム層12と同じACMから形成され、補強ホース10の外皮をなす。補強糸層16は、補強糸としてアラミド繊維を用い、このアラミド繊維を後述の薬液浸漬を経て打ち込み装置にて内面ゴム層12に打ち込み巻回して形成される。本実施例では、アラミド繊維を撚った繊維を用い、当該繊維の打ち込み数を32打(32打X2本)とした。なお、このうち込みを2回行って補強糸層16とすることもできる。
【0017】
補強ホース10の内面ゴム層12と外面ゴム層14の層厚は、耐熱性、耐オイル浸透性などを考慮して定められており、例えば、補強ホース10の内径φを50mmとした場合、内面ゴム層12は約2.6mm、外面ゴム層14は約2.4mmとした。補強糸層16の打ち込み角についても耐久性・耐圧性を考慮して定められ、本実施例では、約56゜の打ち込み角とした。
【0018】
次に、補強ホース10の製造方法について説明する。図2は補強ホース10における補強糸層16の形成のための補強糸の前処理を示す説明図、図3はホース製造装置110を説明する説明図である。
【0019】
図2に示すように、補強糸前処理工程部100は、アラミド繊維Fを巻き取り保持する繊維保持ボビン103と、第1薬液槽104と、第2薬液槽106と、中間ボビン108を備え、これら機器からなる繊維送り出し系統を有する。第1薬液槽104は、接着剤であって、アラミド繊維のアミド基との化学結合を起こすイソシアネート基を有するポリイソシアネートを貯留する。第2薬液槽106は、上記の接着剤たるポリイソシアネートおよびアクリル系ゴムとの化学結合、詳しくは、ポリイソシアネートのイソシアネート基との化学結合と、アクリル系ゴムのカルボキシル基との化学結合とを起こすアミン基を有する架橋剤(例えば、4,4ジアミノジシクロヘキシルメタン、6−アミノヘキシルカルバミン酸等)を貯留する。
【0020】
繊維保持ボビン103に巻き取られているアラミド繊維Fは、図中に示される搬送ローラRにより、ボビンから送り出し搬送され、第1薬液槽104を通過する間に、ポリイソシアネートに浸漬しこのポリイソシアネートで被覆される。アラミド繊維Fは、乾燥機109での乾燥を受けて、このポリイソシアネート被覆層FPを定着させ、その上で、第2薬液槽106を通過する間に、架橋剤に浸漬しこの架橋剤で被覆される。次いで、アラミド繊維Fは、乾燥機109での再度の乾燥により、架橋剤層をポリイソシアネート被覆層FPの上に定着させ、中間ボビン108で巻き取られる。こうして巻き取られたアラミド繊維Fは、表面側のポリイソシアネート被覆層FPとその上の架橋剤層FKの各層が薬剤ディッピング量として約1wt%に相当する重量で定着した状態で、図3に示すホース製造装置110に供給される。
【0021】
図3に示すように、ホース製造装置110は、第1押出機140と、ブレード装置150と、第2押出機160とを備えている。第1押出機140は、ゴム材料としてACMを押出しすることにより押出体20A(内面ゴム層12)を形成するための装置である。ブレード装置150は、押出体20A上に補強糸層16を形成するための装置であり、ドラム152に装着されたボビンキャリア(図示省略)を備える。このドラム152には、図2で示した中間ボビン108から補強糸としてのアラミド繊維Fが供給されるので、ブレード装置150は、ドラム152のボビンキャリアからアラミド繊維Fを繰り出しつつ押出体20A上にブレードすることにより補強糸層16を形成する。また、第2押出機160は、外面ゴム層14を形成するための装置であり、外管押出部161からゴム材料としてACMを押し出して外面ゴム層14を形成する。
【0022】
次に、図3を用いて、本実施例の補強ホース10の一連の製造工程について説明する。第1押出機140から、ACMを押し出すことにより、円筒状の押出体20Aが形成される。そして、押出体20Aが押し出されると、この押出体20Aの流路を形成するスペース20aに、マンドレルMdが挿入される。
【0023】
続いて、押出体20Aは、ブレード装置150に送られて、ブレード装置150のドラム152の回転によりボビンから補強糸としてのアラミド繊維Fが繰り出され、これにより押出体20A上に補強糸層16が形成される。つまり、第1押出機140により押し出された直後の押出体20AがマンドレルMdで支持された状態にて、補強糸としてのアラミド繊維Fが押出体20Aの外周に巻回され、補強糸層16が形成される。このとき、押出体20Aは、マンドレルMdで支持されているので潰れることがない。次に、第2押出機160により、外面ゴム層14を形成するためのACMが補強糸層16上に積層される。すなわち、外面ゴム層14を形成するためのゴム材料(ACM)は、補強糸層16上に直接供給することにより行なう。
【0024】
続いて、加硫工程を行なう。加硫工程では、150〜170℃×20〜60分の1次加硫後に、150〜170℃×4〜12時間の2次加硫を行った。この加硫工程により、内面ゴム層12および外面ゴム層14は、通常の加硫接着が行なわれて接合される。この加硫接着は、図1における補強糸と補強糸の網目格子の内側で起きる。これにより、内面ゴム層12と外面ゴム層14で補強糸層16をサンドイッチ状に挟んでこれら各層が一体の補強ホース10が得られる。
【0025】
また、この加硫工程においては、上記した補強糸層16をサンドイッチ状に挟んだ内面ゴム層12と外面ゴム層14の加硫接着と並行して、補強糸層16のアラミド繊維Fが内面ゴム層12或いは外面ゴム層14と接触する界面では、次のような接着が起きる。図4は補強糸層の補強糸を初めとする各層の界面における接着の様子を説明する説明図である。
【0026】
図示するように、アラミド繊維Fとこれを被覆するポリイソシアネート被覆層FPとの界面では、アラミド繊維Fの繊維表面におけるアミド基を有する繊維構成分子が、ポリイソシアネート被覆層FPのポリイソシアネートと反応し、アラミド繊維Fのアミド基とイソシアネート基とが化学結合を起こすと予想される。ポリイソシアネート被覆層FPと架橋剤層FKの界面では、ポリイソシアネートと架橋剤が反応し、ポリイソシアネートのイソシアネート基と架橋剤のアミン基とが化学結合を起こすと予想される。架橋剤層FKと内面ゴム層12或いは外面ゴム層14との界面では、架橋剤層FKの架橋剤とアクリル系ゴムとが反応し、架橋剤のアミン基とアクリル系ゴムのカルボキシル基とがイミド架橋の化学結合を起こすと予想される。
【0027】
つまり、本実施例の補強ホース10では、アラミド繊維Fを内面ゴム層12或いは外面ゴム層14に対して接着するに当たり、ポリイソシアネート被覆層FPと架橋剤層FKを積層させて介在させることにより、各層の界面での接着を化学的な結合でもってアラミド繊維Fを内面ゴム層12および外面ゴム層14に接着させる。よって、補強ホース10によれば、接着剤の改良により接着剤自体が呈する接着強度で補強糸ズレを抑制する場合より、高い実効性で補強糸層16の補強糸たるアラミド繊維Fのズレを抑制できるので、ホース耐久性・耐圧性をより確実に維持・向上させることができる。
【0028】
次に、本実施例の補強ホース10の利点の実証について説明する。図5は高温環境下での加圧繰り返し耐圧性を調べる様子を示す説明図である。本実施例の補強ホース10は、その配管経路がS字状であり、その経路のままで両端に加圧源側栓HCとメクラ栓MCを装着し、締結ベルトBで締結する。このベルト締結トルクは約6Nmである。加圧源側栓HCは、加圧ポンプPからのメイン配管MHが接続され、加圧ポンプPはメインバルブMVを経て補強ホース10に加圧流体を圧入する。メイン配管MHからは、流体排出用の配管EHが分岐しており、メインバルブMVを閉鎖状態にした上で排出バルブEVを開弁することで、加圧流体は排出される。この加圧繰り返し耐圧性試験(繰り返し加圧試験)では、上記した加圧源側栓HC等をセット済みの補強ホース10(サンプルホース)を140℃の高温環境下に置いて、220KPaの加圧・解放(0KPa)を繰り返す試験に供した。この加圧・解放を約1.5秒の間隔で繰り返した。
【0029】
本実施例の補強ホース10では、この加圧繰り返し耐圧性試験において、48万回を越える繰り返し加圧に耐え、上記環境下での目標加圧繰り返し耐圧性(30万回)を大きく越える性能が得られたことが実証された。
【0030】
この比較例として、架橋剤層FKやポリイソシアネート被覆層FPを用いない接着処理なしの比較例ホースを製造し、上記した加圧繰り返し耐圧性を調べたところ、目標加圧繰り返し耐圧性を大きく下回る約20万回の耐久性しか得られなかった。この対比から、本実施例の補強ホース10によれば、高い実効性での補強糸ズレの抑制を通して、ホース耐久性・耐圧性の向上が図ることができることが実証された。
【0031】
また、補強糸ズレについても実証試験を行った。図6は補強糸ズレの実証試験の様子を示す説明図である。図示するように、この実証試験では、S字状の配管経路のままでホース両端を固定具Jに固定し、一方の固定具Jの側の4箇所(上下端Su、Sdと左右端Sr、Sl)において内面ゴム層12を剥離して、補強糸層16の補強糸(アラミド繊維F)を露出させる。そして、この露出したアラミド繊維Fに鉤フックFFを引っかけ、当該フックをホースから引き離し、その際にフックにかける荷重を測定した。図7は本実施例の補強ホース10と接着処理なしのアラミド繊維Fを用いた比較例ホースについてのフック荷重の様子を示す説明図である。この鉤フックFFによる補強糸ズレ試験を、常温環境下と高温環境下(約180℃)で行った。測定に際しては、アラミド繊維Fに掛けた鉤フックFFをホース表面から引き離したときに、アラミド繊維Fの抜けが起きた際の荷重、或いはアラミド繊維Fのキレが起きた際の荷重を測定した。
【0032】
図示するように、比較例ホースでは、常温では、目標となる補強糸の耐ズレ荷重(目標耐ズレ荷重)45Nを満足できたものの、ゴムの軟化が起き得る高温環境下では、どの測定箇所においても目標耐ズレ荷重45Nを下回る結果となった。しかしながら、本実施例の補強ホース10では、常温ではどの測定箇所においても、目標ズレ荷重の3倍を超える荷重を掛けて始めてアラミド繊維Fの抜けが観察された。また、高温環境下であってさえ、目標ズレ荷重の3倍前後の荷重を掛けた際に、アラミド繊維Fの抜けやアラミド繊維F自体の切れ(切断)が観察された。
【0033】
このアラミド繊維Fのズレ試験の結果からも、本実施例の補強ホース10によれば、高い実効性で補強糸ズレを抑制できることが実証された。よって、ホース耐久性・耐圧性の向上も可能であることが判明した。
【0034】
上記の補強糸ズレは、アラミド繊維Fにおけるポリイソシアネート被覆層FPとその上の架橋剤層FKの各層を約1%として調べたが、ポリイソシアネート被覆層FPについては、0.3〜5wt%(好ましくは0.5〜3wt%)であれば、実用上の補強糸ズレに問題はなかった。また、架橋剤層FKについては、0.3〜3wt%でも実用上の補強糸ズレに問題はなかった。つまり、これら範囲での層形成により、ポリイソシアネート(接着剤)や架橋剤の使用量を低減した上で、実用性の高い補強ホースを得ることができると言える。
【0035】
次に、他の実施例について説明する。この実施例では、アラミド繊維Fにはポリイソシアネート被覆層FPしか形成せず、架橋剤については、内面ゴム層12および外面ゴム層14に含ませることとした。つまり、図2の第1薬液槽104によるポリイソシアネート被覆を経てポリイソシアネート被覆層FPを形成したアラミド繊維Fをボビンに巻き取り、このアラミド繊維Fを図3のブレード装置150に供給する。また、ホース製造装置110における第1押出機140と第2押出機160でのゴム材料(ACM)押出しに際して、架橋剤(アミン基を有する既述した架橋剤)をこのゴム材料に予め配合することで、押出体20A(内面ゴム層12)と外面ゴム層14を形成した。つまり、押出機による押出工程の前工程において、ゴム材料(ACM)と架橋剤(アミン基を有する既述した架橋剤)とを混練機にて配合・混練しておき、混練後のゴム材料を第1押出機140と第2押出機160に供給することとした。なお、こうした架橋剤の配合の他は、図3を用いて説明した製造工程により、補強ホース10を製造した。加硫工程についても同様である。
【0036】
ゴム材料への架橋剤の配合を経て製造した補強ホース10についても、図6に示す補強糸ズレの実証試験を行った。この実験に供する実施例の補強ホース10は、第1薬液槽104により形成するポリイソシアネート被覆層FPを0.5wt%、1.5wt%、3wt%の3タイプとし、架橋剤の配合については1wt%とした。なお、架橋剤は0.3〜3wt%の範囲とすることが、その使用量削減の上から好ましい。上記各タイプの補強ホース10についての補強糸ズレ試験の結果は、どのタイプの補強ホース10にあっても、図7に示した実施例品と同程度の補強糸ズレの抑制が実証された。
【0037】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施例の補強ホース10をその積層の様子と共に概略的に示す説明図である。
【図2】補強ホース10における補強糸層16の形成のための補強糸の前処理を示す説明図である。
【図3】ホース製造装置110を説明する説明図である。
【図4】補強糸層の補強糸を初めとする各層の界面における接着の様子を説明する説明図である。
【図5】高温環境下での加圧繰り返し耐圧性を調べる様子を示す説明図である。
【図6】補強糸ズレの実証試験の様子を示す説明図である。
【図7】本実施例の補強ホース10と接着処理なしのアラミド繊維Fを用いた比較例ホースについてのフック荷重の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
10…補強ホース
12…内面ゴム層
14…外面ゴム層
16…補強糸層
20A…押出体
100…補強糸前処理工程部
102…ホース形成部
103…繊維保持ボビン
104…第1薬液槽
106…第2薬液槽
108…中間ボビン
109…乾燥機
110…ホース製造装置
140…第1押出機
150…ブレード装置
152…ドラム
160…第2押出機
B…締結ベルト
EH…配管
EV…排出バルブ
F…アラミド繊維
FF…鉤フック
FK…架橋剤層
FP…ポリイソシアネート被覆層
HC…加圧源側栓
J…固定具
Md…マンドレル
MC…メクラ栓
MH…メイン配管
MV…メインバルブ
P…加圧ポンプ
R…搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強糸を巻回した補強糸層を有する補強ホースであって、
アクリル系ゴムを用いて形成され、ホース最内層側に位置して流体の流路を形成する内面ゴム層と、
該内面ゴム層上にアラミド繊維を補強糸として巻回することにより形成された補強糸層と、
該補強糸層上に積層され、前記内面ゴム層と同系統のゴムを用いて形成された外面ゴム層とを備え、
前記補強糸層の補強糸は、
アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤を含む接着剤層で補強糸表面が被覆され、
前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に接着するに当たって、前記接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤を用いた上で、前記アラミド繊維と前記接着剤層の前記接着剤との第1化学結合と、前記架橋剤と前記接着剤層の前記接着剤との第2化学結合と、前記架橋剤と前記内面ゴム層および前記外面ゴム層の構成材である前記アクリル系ゴムとの第3化学結合とにより、前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に化学的に結合して接着している耐熱性ホース。
【請求項2】
請求項1に記載の補強ホースにおいて、
前記補強糸表面の前記接着層を前記架橋剤を含む架橋剤層で被覆した上で、前記内面ゴム層と前記補強糸層と前記外面ゴム層とを積層し、前記第1〜第3の化学結合により前記補強糸層の補強糸を前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に化学的に結合して接着している耐熱性ホース。
【請求項3】
請求項1に記載の補強ホースにおいて、
前記架橋剤を配合した前記アクリル系ゴムを用いて前記内面ゴム層および前記外面ゴム層を形成した上で、前記内面ゴム層と前記補強糸層と前記外面ゴム層とを積層し、前記第1〜第3の化学結合により前記補強糸層の補強糸を前記内面ゴム層および前記外面ゴム層に化学的に結合して接着している耐熱性ホース。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれかに記載の補強ホースにおいて、
前記接着剤は、イソシアネート系の接着剤とされ、
前記架橋剤は、ジアミン系の架橋剤とされている補強ホース。
【請求項5】
前記イソシアネート系の接着剤を0.3〜5wt%で前記補強糸表面に付着させて前記接着剤層とした請求項4に記載の補強ホース。
【請求項6】
アラミド繊維を補強糸とした補強糸層をアクリル系ゴムからなる内面ゴム層と外面ゴム層との間に介在させた補強ホースの製造方法において、
アクリル系ゴムを押し出すことにより、押出体支持用のマンドレルの周囲に前記内面ゴム層を形成する工程と、
マンドレルで支持した前記内面ゴム層の外周に前記アラミド繊維を補強糸として巻回することにより補強糸層を形成する工程と、
該補強糸層の外周にアクリル系ゴムを押し出すことにより、前記外面ゴム層を前記補強糸層に積層して形成する工程とを備え、
前記補強糸層の形成工程では、
アラミド繊維を、アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤の貯留槽と、該接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤の貯留槽とにこの順で浸漬させた後に、前記内面ゴム層の外周への巻回に処する耐熱性ホースの製造方法。
【請求項7】
アラミド繊維を補強糸とした補強糸層をアクリル系ゴムからなる内面ゴム層と外面ゴム層との間に介在させた補強ホースの製造方法において、
アクリル系ゴムを押し出すことにより、押出体支持用のマンドレルの周囲に前記内面ゴム層を形成する工程と、
マンドレルで支持した前記内面ゴム層の外周に前記アラミド繊維を補強糸として巻回することにより補強糸層を形成する工程と、
該補強糸層の外周にアクリル系ゴムを押し出すことにより、前記外面ゴム層を前記補強糸層に積層して形成する工程とを備え、
前記補強糸層の形成工程では、アラミド繊維を、アミド基との化学結合を起こす官能基を有する接着剤の貯留槽浸漬させた後に、前記内面ゴム層の外周への巻回に処し、
前記内面ゴム層を形成する工程と前記外面ゴム層を形成する工程では、前記接着剤およびアクリル系ゴムとの化学結合を起こす官能基を有する架橋剤を前記アクリル系ゴムに配合した上で、前記アクリル系ゴムを押し出す耐熱性ホースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−267593(P2008−267593A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252149(P2007−252149)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】