説明

製品及び方法

本発明は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムから単離されたガラクトース転移活性を有する新規なα−ガラクトシダーゼに関する。前記α−ガラクトシダーゼは、メリビオースをα−ガラクトビオース二糖類に変換することが可能であり、前記α−ガラクトビオース二糖類は、腸内のビフィズス菌の増殖を促進して病原性微生物叢の増殖を抑制することにより腸内健康を改善するための、種々の食品または動物飼料に取り込ませることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
製品及び方法
本発明は、メリビオースをα−ガラクトビオース二糖類に変換可能なガラクトース転移活性を有する新規なα−ガラクトシダーゼに関する。特に、本発明は、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の最近発見された系統株から単離されたα−ガラクトシダーゼに関する。
【0002】
本発明は特に、単離されたα−ガラクトシダーゼ酵素をコードするDNA配列、このようなDNA配列にコードされる酵素、及び前記DNA配列又は前記DNA配列を組み込んだ組換えベクターを含む宿主細胞に関する。また、本発明は、α−ガラクトビオースを生産するための、DNA配列にコードされた酵素、またはDNA配列もしくは組換えベクターを含む宿主細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ビフィズス菌は、天然状態では下部消化管にコロニーを形成し、そこは、宿主及び上部消化管に存在する微生物が単糖及び二糖を優先的に消費するため、単糖及び二糖が少ない環境である。下部腸管で生存するために、ビフィズス菌は、細胞表面結合型、及び/又は細胞外型の種々のエキソグリコシダーゼ及びエンドグリコシダーゼを生産し、これによって、多様な炭水化物を利用することができる。
【0004】
加水分解酵素活性に加え、ビフィズス菌由来のいくつかの酵素は、トランスフェラーゼ活性も示す。グリコシダーゼのこの糖鎖転移活性は、種々のオリゴ糖の酵素合成に広範囲に使用されており、該オリゴ糖がビフィズス菌増殖促進因子として作用することが証明されている。
【0005】
ビフィズス菌は、ラクトースの細菌代謝に関与するβ−ガラクトシダーゼ酵素を作り出すことが知られている。Mφller、 P.L.らは、Appl& Environ. Microbial.、(2001)、62、(5)、 2276〜2283において、ビフィドバクテリウム・ビフィダムの一系統株由来の3種類のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の単離と特性について記載している。彼らは、これら3種類のβ−ガラクトシダーゼ全てが、ガラクトース転移によって、β結合したガラクトオリゴ糖の形成を触媒できることを見出した。
【0006】
B.ビフィダム以外のビフィズス菌のいくつかの種は、β−ガラクトシダーゼに加えて、α−ガラクトシダーゼを産生することが知られている。α−ガラクトシダーゼは、グリコシル加水分解酵素グループに属し、その基質特異性に基づいて2つのグループに分類することができる。すなわち、一方のグループは、p−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド、メリビオース、ラフィノース等の低分子糖類に特異的で、もう一方のグループは、低分子基質に加えて、グァーガム等のガラクトマンナンからガラクトースを遊離することができる。
【0007】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムの一系統株は、ラクトースをガラクトオリゴ糖の新規混合物へと変換するガラクトシダーゼ酵素活性を産生するものとして発見され、該混合物は、予期せぬことに、ガラビオース(Gal(α1−6)−Gal)を含む二糖類を最大35%まで含む。該二糖は、志賀毒素のような毒素や大腸菌(E.coli)などの病原体が腸壁へ接着することを防ぎ得る、接着防止剤として知られている(Paton、J C and Paton、A W (1998)、Clin.Microbiol.Revs.、11、450〜479;Carlsson、K A(1989)、Ann.Reviews Biochem.、58、309〜350を参照)。
【0008】
前記B.ビフィダム株は、2003年3月31日に、受託番号NCIMB 41171として、National Collection of Industrial & Marine Bacteria(アバディーン、英国)に寄託されている。該株については、英国特許第2 412 380号にも記載されている。
【0009】
前記B.ビフィダム株は、メリビオースをα−ガラクトビオース二糖類に変換可能なα−ガラクトシダーゼを産生することが知られている。
【特許文献1】英国特許第2 412 380号
【非特許文献1】Mφller、 P.L.他、Appl&Environ.Microbial.、(2001)、 62、(5)、2276〜2283
【非特許文献2】Paton、 J C and Paton、A W(1998)、Clin.Microbiol.Revs.、11、450〜479
【非特許文献3】Carlsson、K A (1989)、Ann.Reviews Biochem.、58、309〜350
【発明の開示】
【0010】
本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA配列、または該タンパク質をコードする該DNA配列に厳しい条件下でハイブリダイズするDNA配列を提供する。該DNA配列は、配列番号1に示される配列であるか、その断片もしくは縮重配列(degenerative)を含み得る。
【0011】
「縮重配列(degenerative)」という用語は、配列番号1に対して少なくとも50%の相同性、好ましくは、50〜98%の相同性、最も好ましくは75〜95%の相同性を示すDNA配列を意味するものとして解釈される。
【0012】
このようなDNA配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列に、60%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは25%未満の変化を生じさせるような、ヌクレオチドの置換、付加または欠失を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、上記DNA配列によりコードされる酵素が提供される。該酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその断片を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、上記DNA配列を含む組換えベクター、好ましくは発現ベクターが提供される。該ベクターは、細菌、酵母または真菌細胞等の宿主細胞内に取り込まれてもよい。もしくは、該DNA配列が、このような宿主細胞内に取り込まれてもよい。適切な宿主細胞は、ビフィドバクテリウム属、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilus)又はバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)等のバチルス属、エシェリキア属(Escherichia)、及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス属から選択され得る。
【0015】
上記に定義されるDNA配列によりコードされる酵素は、メリビオースを基質として用いて、オリゴ糖の混合物、特にα−ガラクトビオース二糖類の混合物を作り出す。
【0016】
上記の酵素または宿主細胞は、腸内の健康を向上するための製品の一部を構成しうる、α−ガラクトビオース二糖類の産生に用いることができる。このような製品は、乳製品(例えば、液乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、脂肪補充粉乳(fat filled milk powder)、ホエイパウダー等の乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等)、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、プロバイオティック食品(probiotic comestible product)、プレバイオティック食品(prebiotic comestible product)、動物飼料、家禽飼料または他のあらゆる食料もしくは飲料から選択され得る。
【0017】
もしくは、産生された二糖類を、病原体または病原体によって生産される毒素の腸壁への接着を防ぐための錠剤またはカプセルの形態を有する薬剤の調製に用いることもできる。このような薬剤は、例えば、しばしば通常の健康な腸内細菌叢を変化もしくは破壊してしまう場合がある一連の抗生物質療法に続いて、患者に投与される。
【0018】
本発明の更なる態様によれば、上記酵素を発現させる条件下で、上記宿主細胞を適切な培養培地中で培養すること、および、該培養で産生された酵素を該培養物から回収することを含む、該酵素の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明は、上記酵素または上記宿主細胞を、二糖類を形成させる条件下でメリビオース含有物質と接触させることを含む、ガラクトビオース二糖類の製造方法にも関する。
【0020】
適切なメリビオース含有物質は、市販のメリビオース、ラフィノース、スタキオース、または大豆抽出物から選択され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ゲノムDNAは、Lawson et al.(1989)Fems Microbiol Letterrs、65、(1−2)、41〜45に記載の方法を用いて前記ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)から単離した。DNAを制限酵素で処理し、最長で15 kbpのサイズを有する断片を、pBluescript KS(+)ベクターにライゲーションした。Pstlで処理したB.ビフィダム由来の染色体DNAから成るインサートを含むベクターを用いて、大腸菌細胞を形質転換した。α−ガラクトシダーゼ活性を有するクローンは、p−ニトロフェニル、α−Dガラクトピラノシド及びイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を含むLuria Bertaniアガープレート上で、セレクションされた。2つのα−ガラクトシダーゼ陽性クローン(pMelA1及びpMelA2)が同定された。
【0022】
2つの陽性クローンを、EcroRl、PstI及びBam HIで処理したところ、これら両クローンは、同一のインサートDNA断片を含むことを示唆する、類似した制限酵素処理パターンを示した。挿入したDNA断片MelA1のDNA配列決定は、BigDye Terminator V.3.0 cycle sequencing kit(Applied Biosystems、米国)を用いて、Sangerのジデオキシチェーンターミネーション法(Russel P.、2002 iGenetics、Pearson Education、Inc.、San Francisco、187〜189)により行った。MelA1のDNA配列を図1に示す(配列番号1)。
【0023】
オープンリーディングフレーム(ORF)は、NCBI(National Center of Biotechnology Information)のORF finderを用いて位置を特定した。細菌の遺伝暗号を用いて、フレームの長さを300bpと定めた。図1に示されるヌクレオチド配列を、6種類の全てのリーディングフレーム候補について翻訳し、α−ガラクトシダーゼと推定される配列をコードする759残基のアミノ酸からなる1種類のオープンリーディングフレームを同定した。翻訳配列を図2に示す(配列番号2)。
【0024】
以下の実施例を参照し、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0025】
実施例1
材料及び方法
本試験において使用した全ての試薬および培地はSigma(ドーセット、英国)、Invitrogen(ペーズリー、英国)、Oxoid(ベージングストーク、英国)、Qiagen(ウェストサセックス、英国)及びPromega(サウサンプトン、英国)から入手した。
【0026】
菌株
ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)は、Microbankチューブ中の低温ビーズ上で−70℃にて維持した。後の実験のため、該株を、Wilkinson Chalgren(WC)アガー(Oxoid、英国)及びTPY培地(トリプチケースファイトン酵母エキス培地)上で回復させ、嫌気的条件下(CO2およびN2がそれぞれ80%および20%)にて37℃で48時間増殖させた。グラム染色によりコロニーの形態およびコンタミネーションがないことを確認した。
【0027】
大腸菌株
本試験で用いた大腸菌(Escherichia coli) RA11r株及びDH5a株は、常法に従い、Luria Bertani(LB)アガーまたはLBブロス中で37℃の好気的条件下でインキュベートし(Sambrook J.and Russell W.D.(2001).Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York)、必要な場合には、抗生物質(100μg/mlのアンピシリン及び/または15μg/mlのクロラムフェニコール)及び40μlの2%X−α−ガラクトピラノシド(X−α−Gal)、7μlの20%IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を、事前に作製した90mmアガープレート表面に塗付することにより補充した。
【0028】
α−ガラクトシダーゼ欠損系統 大腸菌 RA11r株(Hanatini et al、1983、J.Biol.Chem.259、(3)、1807〜1812)(遺伝子型:melA-+,recA-,lacZ--)は、大腸菌 K12株の派生株であり、発現実験に用いた。 大腸菌 DH5a株(Invitrogen、ペイズリー、英国)(遺伝子型:Fー φ80lacZΔM Δ(lacZYA−argF)U169 recA1 endA1 hsdR17(rk-、mk-)phoA supE44 thi−1 gyrA96 relA1λ-)は、α−ガラクトシダーゼ陽性株であり、全ての他の遺伝子操作に用いた。
【0029】
発現実験に大腸菌 RA11r株が選択されたのは、その遺伝子型によるものである。該株は、染色体DNA上のmelA突然変異により、活性型のα−ガラクトシダーゼをコードしていない。しかし、該株は細胞質内へ糖(メリビオース)を輸送するのに必要な、つまり活性型のα−ガラクトシダーゼによる該糖の代謝に必要となる、活性型メリビオーストランスポーターを有している。ビフィドバクテリウム・ビフィダムのα−ガラクトシダーゼが細胞内で発現しているのか細胞外で発現しているのかは知られていない。従って、活性型メリビオーストランスポーターの存在は、α−gal陽性クローンの同定、ひいてはα−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子の単離に必須である。
【0030】
さらに、該株は、インサートの安定性を増加する導入されたDNAと宿主DNAとの組み換えを最小限にする、recA突然変異体である。
【0031】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムからのゲノムDNA抽出
Lawson et al.(1989)の方法を用いて、ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)からゲノムDNAを単離した。
【0032】
当該方法において、プレートから、1.5mlエッペンドルフチューブ中の0.5mlTESバッファー中に細胞を回収した。10μlのリゾチーム/ムタノリシン混合液(4:1、リゾチーム10 mg/ml、ムタノリシン1 mg/ml)を加え、混合し、37℃にて30分間インキュベートした。次いで、該細胞を10μlのプロテイナーゼK(20 mg/ml)および10μlRNase(10mg/ml)で処理し、混合し、65℃にて1時間インキュベートした。インキュベーション後、100μlの10%SDSを加え、該細胞溶解液を穏やかに転倒混合し、さらに65℃にて15分間インキュベートして、0.62mlのフェノール/クロロフォルムを加えて乳濁液が形成されるまで転倒混合した。この細胞溶解物を6、500rpmで10分間遠心分離し、上部水層を火炎滅菌した広径ブルーピペットチップを用いてエッペンドルフチューブに移した。抽出(除タンパク工程)は細胞残渣が完全に除かれるまで繰り返した。DNAは、1mlの氷冷エタノールを加え、少なくとも30分間の氷上でのインキュベーション、または−20℃の冷凍庫に1晩保存することによって沈殿させた。ゲノムDNAは13、000rpmで5分間の遠心分離により回収し、乾燥後、50μlの滅菌10mM Tris−HCl(pH8)中へ再懸濁した。
【0033】
抽出されたDNAはゲル電気泳動、及び260nmにおける濃度測定によって解析した。該DNAは−20℃で保存、もしくは−70℃において長期保存され、分解の可能性を減らすために多数回の凍結融解を避けた。
【0034】
ベクターDNAの調製
本試験においては、pBluescript KS(+)ベクター(Stratagene、North Torrey Pines Road)を使用した。該クローニングベクターは、自身のプロモーターを欠く遺伝子の転写開始に必要なlacプロモーターを、pBluescript KS(+)がコードすることから選択された。
【0035】
上記ベクターは、以下の制限酵素を用いて処理した:PstI、BamHI、及びEcoRI。製造元の説明書に従い、DNAに対して10倍過剰量の酵素を用いた(酵素のユニット数:DNAのμgは、プラスミドDNA1μgあたり酵素10ユニット、または、プラスミドDNA0.5pmolあたり酵素10ユニットである)。酵素を熱で不活性化(65℃で20分間)した後に、水平ゲル電気泳動解析により制限酵素処理パターンを解析した。
【0036】
更に、仔牛腸管由来アルカリホスファターゼCIAP(Promega、サウザンプトン、英国)を製造元の説明書に従って用いてベクターを脱リン酸化した。脱リン酸化処理の効率は、該ベクターをセルフライゲーション(バクテリオファージT4 DNAリガーゼを製造元の説明書に従って用いた)後に、DH5a細胞を形質転換することにより試験した。
【0037】
ゲル中の単一の断片の存在は、ベクターの完全消化、及びベクターの制限消化が一箇所で起こったことを示す。ベクターの制限酵素処理が十分であることは、ライゲーションを行っていない分子で大腸菌DH5aのコンピテント細胞を形質転換することによってもテストした。アンピシリン(100μg/ml)を補充したLBアガープレート上に形成されたコロニー数は、未消化分子及び後の実験において予想されるバックグラウンドの指標である。
【0038】
ゲノムDNAライブラリーの構築
原核細胞DNA内に高頻度に現れる6個のヌクレオチドから成る配列を認識する3種類の制限酵素を用いて、ゲノムDNAを部分的に消化した。EcoRI、BamHI及びPstIは、それぞれ5’G/AATTC’3、5’G/GATCC’3、及び5’CTGCA/G’3の配列を特異的に認識するタイプII制限エンドヌクレアーゼであり、これらの配列内で2本鎖を切断し、EcoRI及びBamHIについては、それぞれ、4個のヌクレオチドAATT、GATCから成る5’突出を生じさせ、PstIはACGTから成る3’突出を生じさせる。
【0039】
これらの酵素は、全て、2価のマグネシウムイオンの存在下でのみ活性を有しており、DNAを切断することができる。これらのイオンは、唯一必要とされる補因子であった。
【0040】
DNAの制限酵素処理
ゲノムDNAサンプルの制限酵素処理物の全てを37℃で2時間インキュベートし、最後に65℃で20分間インキュベートして熱により不活性化させた。次いで、反応物を室温にて冷まし、適当量のローディングバッファーを加え、密封ガラスキャピラリーを用いて穏やかに混和した。次いで、この溶液を0.8%アガロースゲルのウェルにローディングし(4〜5ボルト/cmの電力供給で14〜16時間)、消化したDNAのサイズを、1kbpのDNAスタンダード(Promega、英国)のサイズを用いて推計した(Sambrook J. Molecular Cloning:A Laboratory Manual (2002))。
【0041】
制限酵素処理後に生じた断片の精製
前記反応混合物及びアガロースゲルからの断片の精製は、Qiagen製(ウェストサセックス、英国)のQIAEX gel extraction kitを用いて行った。プロトコルは、製造元のマニュアルに詳細に記載されている。
【0042】
DNAのライゲーション及び形質転換
Qiaex gel extraction kitを用いてDNA断片を精製した後、これらの断片をCIAP処理したpBluescript KS(+)ベクターにライゲーションした。ライゲーションの際には、表1に示すように、適切量のDNAを滅菌した0.5 mlマイクロチューブに移した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1:ライゲーション混合物。チューブAは、セルフライゲーションを起こしたベクターDNAの数を表し、この数を、形質転換後の形質転換体の総数から引かなければならない。チューブBは、DNA断片とのベクターのライゲーションを表し、チューブCは、形質転換効率を計算するための対照区を表す。
【0045】
各ライゲーションの前に、断片精製過程で再アニーリングした粘着末端を融解するために、DNA断片を45℃で5分間温めた。全てのライゲーション反応において、ベクター:インサートDNAモル比を1:1とし、反応液は、Promegaの説明書に従って調製した。
【0046】
チューブAおよびBに、1.0μlの10倍濃度ライゲーションバッファーと0.5 WeissユニットのT4 DNAリガーゼ(Promega、英国)を添加し、分子生物学用グレード水でライゲーション体積を10μlに調節した。チューブCには1.0μlの10倍濃度ライゲーションバッファーを添加し、分子生物学グレードの水でライゲーション体積を10μlに調節した。
【0047】
水と共にDNA断片をチューブに加え、次いで、調製過程で再アニーリングした粘着末端を融解するために、DNA断片を45℃で5分間温めた。残りのライゲーション試薬を添加する前に、該DNAを0℃に冷却し、その後、反応混合液を16℃で一晩インキュベートした(Sambrook and Russell、2001)。
【0048】
(形質転換効率を低下させる原因となるライゲーション混合物を取り除くため)ライゲーションした断片のエタノール沈殿および精製を行った後、Hanahanの説明書に従って形質転換を行った。5μl中に約50ngのラーゲーションされたDNAを含む溶液を100μlの大腸菌DH5aコンピテント細胞に加えた。熱処理およびアンピシリン耐性遺伝子を発現させた後に、細胞を、アンピシリン(100μg/ml)、X−α−Gal(40μlの2% X−α−Gal)及びIPTG(7μlの20% IPTG)を含むLBプレート表面に播種した。
【0049】
各ライゲーション反応系による形質転換体の数を測定した。チューブCから通常得られる形質転換体の数は、2×105〜1×106cfu/μgであり、一方でチューブAから通常得られる形質転換体の数は、500〜600cfu/μgであった。チューブAにおける形質転換体の数は、ベクターDNAの効率的な処理を示すものであった。チューブBでの形質転換体の数は、2〜4×104cfu/μgの範囲内にあった。
【0050】
形質転換体の数
PstI処理した染色体DNAのライゲーション混合液からは、スクリーニングを行った約2500個の形質転換体の中から2個のα−ガラクトシダーゼ陽性クローン(pMelA1とpMelA2)が得られた。一方EcoRIとBamHIで処理した染色体DNAの場合では、スクリーニングを行った合計約4000個の形質転換体の中から、陽性クローンを得ることはできなかった。
【0051】
陽性クローンの制限酵素処理
2つのPstI陽性クローンをEcroRI、PstI、BamHI、HindIII、SmaI、及びKpnI制限酵素で処理した。制限酵素EcroRI、PstI及びBamHIによる消化は、類似する制限酵素処理パターンを示し、1つの約5kbp の断片(目的の遺伝子)および1つの約3kbpの断片(プラスミドDNA)は、これらの酵素が同じ場所で切断したことを示す。HindIIIでは、6.5kbpの断片と、1.5kbpの断片を生じたが、SmaIとKpnIでは、約8kbpのサイズを有する1つの断片が生じたことから、これらは、ただ一箇所でのみ切断したことが示された。両プラスミドが類似する制限酵素パターンを有することは、これらが同一のインサートDNA断片を含むことを示していた。
【0052】
DNA配列決定
DNA配列決定は、BigDye Terminator V.3.0 cycle sequencing kit(Applied Biosystems、米国)を用いて、Sangerのジデオキシチェーンターミネーション法により行い、キャピラリー電気泳動が組み込まれた、蛍光に基づくDNA解析システムであるABI Prism 3100を用いて解析を行った。
【0053】
インサートされたDNA断片の5’末端及び3’末端は、ベクターに特異的なプライマーを用いて配列決定された。インサートは、Genome Priming System(GPS−1)(New England Biolabs、英国)を用いて更に配列決定された。GPS−1は、TN7トランスポゾンに基づくin vitroシステムであり、TnsABCトランスポゼースを用いて、DNA標的内にランダムにトランスポゾンを挿入する。製造元の説明書に従い、ドナー:標的DNAを1:4の質量比で用いた。標的プラスミドにトランスプライマーを挿入した後に配列決定用に単離されたプラスミドの数は、25個であった。この数は、製造元の説明書に従って計算したものであり、5倍のカバー率であると推測される。
【0054】
トランスプライマーエレメントの両末端の特異プライミング部位により、挿入部位における標的DNAの両鎖の配列決定が可能になる。
【0055】
配列決定反応混合液は、約400〜600ngのプラスミドDNA、3.2pmolのプライマー溶液及び4μlのBigDye Terminator溶液を含む。
【0056】
オープンリーディングフレームの同定
オープンリーディングフレーム(ORF)の位置は、NCBIのORF finderを用いて特定された。細菌の遺伝暗号を用い、フレームの長さを300bpと定めた。ヌクレオチド配列は、6種類の全てのフレーム候補を翻訳し、α−ガラクトシダーゼと推定される配列をコードする759個のアミノ酸から成るオープンリーディングフレームを同定した(翻訳結果を図2に示す)。開始コドン及び終止コドンが確認された。
【0057】
プラスミドpMelA1上のビフィドバクテリウムα−ガラクトシダーゼ遺伝子を、クローニングベクターの隣接領域に位置する誘導性の大腸菌lacZプロモーターからの発現を通常抑制する増殖条件下で、大腸菌内で発現させた。この観察により、α−ガラクトシダーゼ遺伝子の上流の内在性ビフィズス菌配列が、大腸菌内で転写開始シグナルとして機能しうることが示された。
【0058】
転写開始点は太字のイタリック体文字で示される。上記の結果は、前記遺伝子が、自身の転写プロモーターにより調節されることを示す。
【0059】
実施例2
ビフィドバクテリウム・ビフィダムNCIMB 41171から単離してクローニングしたα−ガラクトシダーゼ酵素を用いた、大腸菌宿主(RA11株)内における合成
他に記載のない限り、以下に記載する合成は、細胞透過性を増加させ、その細胞膜を破壊することにより細胞を増殖不能にするために、大腸菌試料(10、000gの遠心により回収)を2000ppmの濃度のトルエンで処理した大腸菌RA11宿主細胞を用いて行った。該大腸菌試料は、実施例1「大腸菌株」に記載の通りに調製した。
【0060】
クローニングした酵素を用いた合成
α−ガラクトシダーゼを用いた合成は、初期のメリビオース濃度を40%(w/w)とした基質濃度で行った。合成溶液は、pH 6.0の0.1 Mリン酸バッファー中に調整した。合成は、150rpmの振とう水浴中で40℃にて行った。特定の酵素試料の異なるpH値での活性測定(基質としてp−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシドを使用)に基づいて、特定の酵素の最適pHを選択した。
【0061】
α−ガラクトシダーゼ合成に際しては、2mlの大腸菌RA11細胞懸濁液(0.3U/mlの活性を有する)を遠心(10、000g)して、大腸菌試料を回収し、上清を捨てた。合成を行うため、該大腸菌試料を1gの40%(w/w)メリビオース基質溶液に再懸濁した。
【0062】
合成において、混合物中に存在した種々の糖の濃度を図4に示す。B.ビフィダムNCIMB 41171からクローニングしたα−ガラクトシダーゼにより合成されたガラクトオリゴ糖混合物の、パルスアンペロメトリック検出器と連結した高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD)のクロマトグラムを図5に示す。最適な合成時点におけるガラクトオリゴ糖混合物の糖濃度を表1に示す。
【0063】
表1. 40%(w/w)の初期メリビオース濃度でのα−ガラクトオリゴ糖合成における、最高のオリゴ糖濃度が観察された時点における炭水化物組成。
【0064】
【表2】

【0065】
Mel:メリビオース、Glc:グルコース、Gal:ガラクトース、DP:重合度
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明のビフィドバクテリウム・ビフィダム由来α−ガラクトシダーゼのヌクレオチド配列(配列番号1)を示す。開始コドンと終止コドンは太字で表わされる。
【図2】図2は、図1のヌクレオチド配列と酵素のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、図2のアミノ酸配列(配列番号2)の最初の540アミノ酸を示す。
【図4】図4は、α−ガラクトシダーゼおよび基質として0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)の中の40%(w/w)のメリビオース用いたα−ガラクトオリゴ糖合成における経時的反応を示すグラフである。
【図5】図5は、基質として0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)中の40%(w/w)のメリビオースを用いて、B.ビフィダムNCIMB 41171由来のα−ガラクトシダーゼによって合成したα−ガラクトオリゴ糖混合物の高速陰イオン交換クロマトグラムである。(GIc= グルコース、Gal=ガラクトース、Mel= メリビオース、DP=重合度)。破線の矢印は、ガラクトオリゴ糖産物を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA配列であって
a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするか、または、
b)a)に記載する配列に厳しいハイブリダイゼーション条件下でバイブリダイズするか、または、
c)a)またはb)に記載する配列の縮重配列(degenerative)である、
該DNA配列。
【請求項2】
前記配列が、配列番号1に示される配列、またはその断片である、請求項1に記載のDNA配列。
【請求項3】
前記配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはその断片に、60%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは25%未満の変化を生じさせる、ヌクレオチドの置換、付加または欠失を含む、請求項1または請求項2に記載のDNA配列。
【請求項4】
前記配列が、保存的アミノ酸置換を生じさせるヌクレオチドの置換を含む、請求項1または請求項2に記載のDNA配列。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列にコードされる酵素。
【請求項6】
配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはその断片を含む酵素。
【請求項7】
配列番号2に定められる配列を有するα−ガラクトシダーゼ。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列を含む組換えベクター。
【請求項9】
前記ベクターが、発現ベクターである、請求項8記載のベクター。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列を含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
前記細胞が、細菌細胞、酵母細胞または真菌細胞である、請求項10または請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
前記細胞が、ビフィドバクテリウム属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、エシェリキア属、バチルス属、及びアスペルギルス属から成る群より選択される、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
前記細胞が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、バチルス・スブチリス、バチルス・サーキュランス及びアスペルギルス・ニガーから成る群から選択される、請求項13に記載の宿主細胞。
【請求項15】
α−ガラクトビオース二糖類の製造のための、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項16】
液乳、乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等の乳製品、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、プロバイオティック食品、プレバイオティック食品、動物飼料、家禽飼料及び薬物から成る群より選択される製品の一部となるα−ガラクトビオース二糖類の製造のための、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項17】
液乳、乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等の乳製品、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、プロバイオティック食品、プレバイオティック食品、動物飼料、家禽飼料及び薬物から成る群より選択される製品の製造のための、請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞の使用。
【請求項18】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞を、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素を発現させる条件下で、適切な培養培地中で培養すること、および、前記培養物から生じた酵素を前記培養物から回収することを含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素の製造方法。
【請求項19】
二糖の製造方法であって、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞を、メリビオース溶液と接触させることを含む該方法。

【図1】
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【図2】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−519725(P2009−519725A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546601(P2008−546601)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004796
【国際公開番号】WO2007/071987
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(508187045)クラサド インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】