説明

製鋼スラグの加圧式蒸気エージング方法と装置

【課題】製鋼スラグの種類に関係なく、短時間で水和反応が可能なようにする。
【解決手段】製鋼スラグ2を加圧蒸気によってエージングする方法である。スラグ収納容器3を挿入する圧力容器4に蒸気を供給すべく設けられた配管5を、前記スラグ収納容器3の内部に導く。この配管5を介して、前記スラグ収納容器3に装入された製鋼スラグ2に蒸気を供給することによって、前記製鋼スラグ2を直接水和反応させる。
【効果】どのような種類の製鋼スラグでも、短時間で蒸気がスラグ内に十分行き渡り、2時間以内の短時間で水和反応が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉、電気炉等により排出される、未滓化石灰を含有する製鋼スラグを、水蒸気を利用して短時間でエージングさせる方法、及びこの方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程で発生する製鋼スラグは、硬く、その表面が角張った形状をしているので、道路転圧時の噛み合わせがよく、路盤材として優れた性質を有している。
【0003】
しかしながら、製鋼スラグは、脱燐剤・脱硫剤として使用される生石灰の一部が、他の分子と完全に結合しないで未滓化石灰(フリーライムとも称される)のまま残存している。
【0004】
従って、この製鋼スラグを、このまま路盤材として使用した場合には、経時的に水和反応を起こして膨張・崩壊し、地盤隆起などの弊害を生じる場合がある。
【0005】
そのため、製鋼スラグを路盤材料などに使用する場合、従来は、予め、安定して使用するためのエージングを行って、膨張・崩壊現象を完了させている。なお、エージングとは、未滓化石灰を含有する製鋼スラグを、水蒸気を利用して短時間で人工的に膨潤させる操作である。
【0006】
出願人の1社は、上記目的のための製鋼スラグのエージング方法及びその装置として、特許文献1の技術を提案している。
【特許文献1】特開平8−165151号公報
【0007】
この特許文献1で提案した技術では、まず、粒径25mm以下のものが80%以上となるように破砕した常温の製鋼スラグを圧力容器に装入し、この圧力容器を密閉して容器内に加圧水蒸気を供給して容器およびスラグを加熱する。そして、この操作によって凝縮した熱水を排出しつつ圧力容器内を昇温・昇圧し、次いで容器内を0.196〜0.98MPaの圧力の飽和水蒸気雰囲気に1〜5時間保持した後、圧力容器内を大気圧まで減圧して製鋼スラグを排出するものである。
【0008】
さらに、出願人の1社は、特許文献2で、圧力容器内の昇温・昇圧工程、および飽和水蒸気雰囲気の保温工程に伴い、圧力容器内部に蓄積する空気混じり蒸気を圧力容器外部に放出することを特徴とした製鋼スラグのエージング方法と装置を提案した。
【特許文献2】特開平9−118549号公報
【0009】
特許文献2で提案した装置を使用した蒸気エージングの概要を図6に示す。
すなわち、蒸気エージングしようとする製鋼スラグ2を、搬入装置1によって非密閉のスラグ収納容器3に装入する。
【0010】
このスラグ収納容器3を圧力容器4内に移送し、その上方に設けられた蒸気供給口4aから供給される飽和蒸気によって、圧力容器4内を所定時間、所定の圧力に保持して、製鋼スラグをエージングする。エージング処理が終了したスラグは、スラグ収納容器3の底部を開放することによって搬出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、例えば溶銑予備処理スラグ、電気炉還元スラグ等を、前記装置を用いて加圧エージングする場合、蒸気がスラグ内に十分行き渡るのに長時間を要し、短時間(2時間以内)での水和反応が困難な状況となる場合があることが判明した。
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の蒸気エージングは、製鋼スラグの種類によっては、蒸気がスラグ内に十分行き渡るのに、長時間を要し、2時間以内での水和反応が困難な状況となる場合があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の製鋼スラグの加圧式蒸気エージング方法は、
製鋼スラグの種類に関係なく、短時間で水和反応が可能なようにするために、
製鋼スラグを加圧蒸気によってエージングする方法において、
スラグ収納容器を挿入する圧力容器に蒸気を供給すべく設けられた配管を、前記スラグ収納容器の内部に導き、
この配管を介して、前記スラグ収納容器に装入された製鋼スラグに蒸気を供給することによって、前記製鋼スラグを直接水和反応させることを最も主要な特徴としている。
【0014】
本発明の製鋼スラグの加圧式蒸気エージング方法は、
圧力容器と、
この圧力容器内に蒸気を供給する配管と、
前記圧力容器内に挿入されるスラグ収納容器を備え、
前記配管を、前記スラグ収納容器の内部に導いた本発明の製鋼スラグの加圧式蒸気エージング装置を用いて実施できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、蒸気供給用配管をスラグ収納容器の内部に導き、この配管を介してスラグ収納容器内の製鋼スラグに蒸気を供給するので、どのような種類の製鋼スラグでも、短時間で蒸気がスラグ内に十分行き渡り、2時間以内の短時間で水和反応が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明者らは、上記課題が生じる原因について検討を行った。
従来、主に取扱っていた通常の転炉スラグは、溶融状態から冷却され、岩石状を呈しているので、加圧蒸気エージングに際しては、この転炉スラグを、適当な破砕手段によって、25mm以下の粒径のものが80質量%以上となるように破砕している。
【0017】
この破砕に際し、過分に粉砕するのはコストの増加に結びつくため、規定された粒度に収まる範囲で、破砕された粒径が大きい傾向になるように破砕することが一般的である。転炉スラグを破砕した後の粒度分布の一例を下記表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1の粒度分布を有する、水浸膨張比が5〜8%の転炉スラグを、加圧蒸気エージングする場合、図1に示すような、3時間サイクルを基本パターンとして、道路用JIS規格1.5%以下にすべく処理を実施している。なお、この3時間サイクルは、40分間昇温した後、2時間保持し、その後、10分間冷却した後に3分間で排出するサイクルである。
【0020】
ところで、溶銑予備処理スラグ、電気炉還元スラグ、転炉スラグにおいても、環境改善(溶出、含有量フッ素の減少)により、現在、脱フッ素化が推進されている。この製鋼スラグの一種である、電気炉還元スラグの粒度分布の一例を下記表2に示すが、粒径が0.425mm以下の粉状物を多く有している。
【0021】
【表2】

【0022】
このような粉状物の配合割合が多い製鋼スラグを加圧蒸気エージングした場合、スラグ内部まで蒸気が行き渡るのに約4時間を要する。これは、現状の加圧エージング装置は、図6のように、蒸気供給口4aが圧力容器4の上部に設置され、圧力容器4の上部からのみ加圧蒸気が供給されているからと考えられる。
【0023】
従って、前記昇温後に、従来と同様、2時間保持すると、約6時間サイクルの処理となって、本設備の特徴である短時間(2時間)での水和反応によるエージング処理が困難な状況になる。
【0024】
なお、図6に示した従来のエージング装置のスラグ収納容器3に装入した製鋼スラグ2をエージング処理した場合のスラグ内の温度測定位置を図2に、温度測定を実施した結果を図3に示す。
【0025】
そこで、発明者等は、製鋼スラグを収容するスラグ収納容器に蒸気を供給する経路を改善するについて検討した結果、以下の本発明を成立させた。
【0026】
本発明は、図4に示すように、スラグ収納容器3を挿入する圧力容器4に蒸気を供給する配管5を、前記スラグ収納容器3の内部に導き、製鋼スラグ2をエージング処理する間、例えば前記配管5がスラグ収納容器3内の製鋼スラグ2で覆われるようにする。
【0027】
このような本発明では、例えば前記配管5に設けた孔5aから蒸気を噴射することにより、スラグ収納容器3に装入された製鋼スラグ2の上部から蒸気を供給するのみの従来に比べて、製鋼スラグ2の全体に蒸気を行き渡らせるのに要する時間が大幅に短縮する。
【0028】
上記の本発明を適用して、転炉スラグを加圧蒸気エージングした場合における、スラグ内温度の測定結果を図5に示す。
【0029】
図5より明らかなように、本発明を適用した場合、前記図2に示した測定位置による差は無視できる程度であり、スラグ収納容器内の製鋼スラグは、操業上問題のない程度に均一に昇温されていることが判る。
【0030】
すなわち、本発明では、スラグ収納容器の内部に蒸気を供給する配管を配置したことにより、昇温時間は40分となって、サイクル時間が減少する。
【0031】
ちなみに、スラグ収納容器の内部の、図4に示した位置に配置した2本の配管から、0.49MPaの圧力の蒸気を、スラグ1ton当たり85kg噴射して、スラグ収納容器に装入した46tonの製鋼スラグをエージング処理した。
【0032】
図6に示したような、圧力容器の上部に設置された蒸気供給口からのみ蒸気を供給してエージング処理した場合との比較を下記表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
本発明、従来とも、保温時間及び冷却時間に差はなかったが、スラグ粒径が小さいので、本発明と従来では昇温時間に要する差が大きく、従来は4時間を要していたものが、本発明を適用することによって、2時間とすることができた。
【0035】
本発明は上記のような例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは、言うまでもない。
【0036】
例えば、上記の例では配管5に多数の孔5aを設けて、製鋼スラグ2に蒸気を噴射するものを示したが、配管にスリットを設けたものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上の本発明は、粉状物の配合割合の多い製鋼スラグを対象とするものに限らず、従来の路盤材程度の粒径の製鋼スラグにも適用できる。ちなみに、路盤材程度の粒径の製鋼スラグの昇温には、従来は40分程度必要であったが、本発明を適用した場合は10〜20分で昇温を完了することができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】蒸気エージングの基本サイクルを示した図である。
【図2】スラグ収納容器に収容した製鋼スラグ内の温度測定位置を示した図で、(a)は側面から見た図、(b)は平面から見た図である。
【図3】従来のエージング装置を使用してエージングした場合のスラグ内温度の測定結果を示した図である。
【図4】本発明のエージング装置の概略構成を説明する図で、(a)は側面方向から見た図、(b)は平面方向から見た図である。
【図5】本発明のエージング装置を使用してエージングした場合のスラグ内温度の測定結果を示した図である。
【図6】(a)は従来の設備を使用した蒸気エージングの概要を示す図、(b)はスラグ収納容器部の拡大図である。
【符号の説明】
【0039】
2 製鋼スラグ
3 スラグ収納容器
4 圧力容器
5 配管
5a 孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグを加圧蒸気によってエージングする方法において、
スラグ収納容器を挿入する圧力容器に蒸気を供給すべく設けられた配管を、前記スラグ収納容器の内部に導き、
この配管を介して、前記スラグ収納容器に装入された製鋼スラグに蒸気を供給することによって、前記製鋼スラグを直接水和反応させることを特徴とする製鋼スラグの加圧式蒸気エージング方法。
【請求項2】
圧力容器と、
この圧力容器内に蒸気を供給する配管と、
前記圧力容器内に挿入されるスラグ収納容器を備え、
前記配管を、前記スラグ収納容器の内部に導いたことを特徴とする製鋼スラグの加圧式蒸気エージング装置。
【請求項3】
前記配管は、蒸気噴射用の孔が複数個設けられていることを特徴とする請求項2に記載の製鋼スラグの加圧式蒸気エージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−280445(P2009−280445A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134438(P2008−134438)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(503202712)住金プラント株式会社 (9)
【出願人】(591146125)住金鉱化株式会社 (5)
【Fターム(参考)】