説明

複合ギヤの支持構造

【課題】ウォームが一体に形成された回転軸にギヤがスプライン結合された複合ギヤを、スプライン結合部分のクリアランスを比較的ルーズとして量産性の向上を図るとともにギヤを十分な支持力で支持する。
【解決手段】複合ギヤ145の、出力側ベベルギヤ35の先端部およびスライド軸36を軸受ブッシュ18,150でそれぞれ回転自在に支持し、伝達軸140の中間部と後端部を軸受ブッシュ34,136で回転自在に支持し、この支持状態において、伝達軸140の出力軸31Aに形成した外周側スプライン部33aと出力側ベベルギヤ35のスライド軸36に形成した内周側スプライン部36aとの間のクリアランスを、伝達軸140と出力側ベベルギヤ35との軸ずれが吸収され得るように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギヤのウォームに回転軸が一体に形成され、その回転軸にギヤがスプライン結合されてなる複合ギヤを回転自在に支持する支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
1つのモータの動力を複数の出力軸に選択的に分配するものとして、複数の出力軸上に軸方向に移動自在にそれぞれ設けた従動側ベベルギヤを、モータ軸上の駆動側ベベルギヤに対して噛み合い可能に付勢した状態で設け、従動側ベベルギヤを押圧するカムによって従動側ベベルギヤを駆動側ベベルギヤに対して離接させて動力伝達の経路を切り換える機構が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭54−41898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載の装置では、複数の出力軸に何らかの動力伝達手段を介して可動機構の駆動軸を連結することが考えられるが、出力軸に駆動軸が直交して配置されたり、大きな減速比を得たかったりする場合には、動力伝達手段としてウォームギヤが適用される。その場合には、出力軸にウォームギヤのウォームを一体に設け、出力軸に上記従動側ベベルギヤをスプライン結合する構成が採用され得る。このような構成では、スプライン結合部分のクリアランスを小さくして出力軸と従動側ベベルギヤとの同軸度を高めることが望ましいが、これを達成するには両者の軸受どうしの同軸度を高くする必要があり、製造上困難となって量産性の低減を招く。逆に、スプライン結合部分のクリアランスを大きくすると製造上の問題は解消するが、従動側ベベルギヤの支持力が不足し、異音発生や破損を招くことになる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ウォームが一体に形成された回転軸にベベルギヤ等のギヤがスプライン結合された複合ギヤを、スプライン結合部分のクリアランスを比較的ルーズとすることにより量産性の向上が図られるとともに、ギヤを十分な支持力で支持することできる支持構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ウォームギヤのウォームの一端部に回転軸が同軸的、かつ一体に形成された伝達軸における回転軸の先端部に外周側スプライン部を形成し、円筒状のスライド軸の先端部にギヤ部が形成されたギヤのスライド軸に内周側スプライン部を形成し、前記外周側スプライン部に前記内周側スプライン部をスプライン結合してなる複合ギヤを、回転自在に支持する構造であって、この複合ギヤの、前記ギヤの先端部および前記スライド軸を軸受で回転自在に支持し、前記伝達軸の少なくとも軸方向に離間する2位置を軸受で回転自在に支持し、この支持状態において、前記外周側スプライン部と前記内周側スプライン部との間のクリアランスが、前記伝達軸と前記ギヤとの軸ずれが吸収され得るように設定されていることを特徴とする。前記ギヤとしては、例えばベベルギヤが挙げられる。
【0007】
本発明によれば、スプライン結合部分のクリアランス(回転軸の外周側スプライン部とギヤのスライド軸の内周側スプライン部との間のクリアランス)が、伝達軸とギヤとの軸ずれが吸収され得るように比較的ルーズに設定されていることにより、ギヤ側の軸受と伝達軸側の軸受との同軸度が低い場合であっても、これら軸受にギヤと伝達軸を支持し、かつ両者をスプライン結合することができる。このため、それら軸受の同軸度を高精度に維持する必要が無く、その結果、製造が容易となり量産性が向上する。また、スライド軸を有するギヤは、先端部およびスライド軸が軸受で支持されるため十分な支持力で支持され、このため、異音発生や破損が防がれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウォームが一体に形成された回転軸にベベルギヤ等のギヤがスプライン結合された複合ギヤを、スプライン結合部分のクリアランスを比較的ルーズとすることにより量産性の向上が図られるとともに、ギヤを十分な支持力で支持することできる支持構造が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る複合ギヤの支持構造を含む多軸駆動装置の全体斜視図である。
【図2】同多軸駆動装置のカバーを外した状態の全体平面図である。
【図3】同多軸駆動装置の装置ケースとカバーを除外した状態の斜視図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】図4においてギヤホルダを除外した状態を示す(a)平面図、(b)側面図である。
【図6】図2においてギヤホルダを除外した状態を示す図である。
【図7】同多軸駆動装置のクラッチユニットを示す平面図である。
【図8】同多軸駆動装置の出力部を示す(a)斜視図、(b)断面図である。
【図9】同多軸駆動装置の出力側ベベルギヤのピンの支持構造を示す一部断面平面図である。
【図10】出力軸にウォームが直接一体に形成された伝達軸、軸受部等を示す分解図である。
【図11】同伝達軸に出力側ベベルギヤが装着された状態を示す側面図である。
【図12】同多軸駆動装置の全体平面図である。
【図13】図12のF−F断面図である。
【図14】図6のG−G断面図である。
【図15】ウォームの端部が軸受部で支持された状態を示す断面図である。
【図16】第1出力部の出力側ベベルギヤの支持構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
【0011】
(1)多軸駆動装置の構成
図1は、一実施形態に係る複合ギヤの支持構造を含む多軸駆動装置の斜視図である。この多軸駆動装置は、1つのモータ1で図示せぬ車両用電動シートの複数の可動機構を選択的に駆動するものである。可動機構は、この場合、シート座面の高さを調節するリフタ機構、シートバック(背もたれ部)の角度を調節するリクライニング機構、シートの前後位置を調節するスライド機構の3つとされる。これら可動機構は、各機構が有する駆動軸が正逆回転することにより作動する。
【0012】
図1で符号10は装置ケース、13は装置ケース10を覆うカバーである。図2は、カバー13を外した状態の平面図、図3は装置ケース10とカバー13を除外した装置内部およびモータ1を示す斜視図、図4は図3の平面図である。
【0013】
図2に示すように、装置ケース10は、クラッチユニットケース部11とギヤボックスケース部12とが一体に成形されたものである。クラッチユニットケース部11およびギヤボックスケース部12には、それぞれクラッチユニット2およびギヤボックス3が収容されている。モータ1は、クラッチユニットケース部11の裏面に、ピニオン1bが固着されたモータ軸1aが装置ケース10内に突出した状態で固定されている。
【0014】
クラッチユニット2は、図5に示すように、上記各機構ごとに設けられモータ1の動力が伝達される複数の入力部20と、各機構に動力伝達手段を介して接続される出力軸31を備えた複数の出力部30と、それぞれの入力部20と出力部30とに設けられ、前記入力部20から各出力軸31への動力伝達を断接するクラッチ機構40と、これらクラッチ機構40を選択的に接続状態とするセレクタ50と、セレクタ50を作動させる操作軸60とを備えている。
【0015】
複数の入力部20は、ピニオン1bの周囲に配置されている。これら入力部20は円盤状に形成されたもので、平歯車からなりピニオン1bに噛み合う入力ギヤ21と、入力ギヤ21の一端面に形成された入力側ベベルギヤ22とが入力軸23に同軸的に形成されたもので、Z方向に沿ったモータ軸1aと平行な入力軸23を介して、クラッチユニットケース部11に回転自在に支持されている。
【0016】
図4の符号15は、板状のギヤホルダである。このギヤホルダ15は、図3に示すように装置ケース10のクラッチユニットケース部11内に、各入力部20を覆って固定されている。このギヤホルダ15の所定箇所には、Z方向に突出する2つのガイド突起16が形成されている。図6は、ギヤホルダ15を除外した状態の平面図である。
【0017】
図7はクラッチユニット2を示しており、上記セレクタ50は、同図においてY方向に長い略長方形状の板状部材である。このセレクタ50には、ガイド突起16に対応するY方向に延びる2つのガイド孔54が形成されており、これらガイド孔54にガイド突起16がそれぞれ挿入されている。セレクタ50は、ガイド突起16にガイドされることにより、ギヤホルダ15上においてY方向にスライド自在に支持されている。
【0018】
セレクタ50のY方向に沿った両側面のうち、図7で右側の側面は第1カム面51に形成されている。また、左側の側面の下側は第2カム面52に形成されており、上側にはY方向に歯列が並ぶラック55が形成されている。上記操作軸60はZ方向を回転軸としてクラッチユニットケース部11内に回転自在に支持されており、この操作軸60には、ラック55に噛み合うピニオン61が形成されている。操作軸60には、カバー13の外側に配設される図示せぬダイヤルあるいはレバー等の操作部材が固定される。この操作部材を介して操作軸60を回転させると、回転するピニオン61により、ラック55を介してセレクタ50が操作軸60の回転方向に応じてY方向に往復送りさせられるようになっている。
【0019】
モータ1は、図示せぬスイッチによってON・OFFおよび回転方向が選択される。モータ1が稼働すると、全ての入力部20が回転する。スイッチは、上記操作部材に設けられると、クラッチユニット2の作動すなわち可動機構の選択と、モータ1のON・OFFを一連の操作で行うことができるため好ましい。
【0020】
図7に示すように、セレクタ50のX方向両側には、各カム面51,52に対向して上記出力部30が配設されている。この場合、第1カム面51に対して2つの出力部30(第1出力部30Aと第2出力部30B)がY方向に離間して配設され、第2カム面52に対して1つの出力部30(第3出力部30C)が配設されている。出力部30は出力軸31を有しており、各出力部30は、出力軸31のスラスト方向がZ方向に直交するX・Y平面と平行で、かつカム面51,52に対して所定角度斜めになる状態で、クラッチユニットケース部11内に設けられた収容部14に収容されている。
【0021】
出力部30は、図8に示すように、セレクタ50と一定距離をおいて位置付けられる出力軸31と、出力軸31の先端側(セレクタ50側)に、出力軸31と一体回転可能、かつセレクタ50に対し出力軸31のスラスト方向に沿って進退自在、かつ同軸的に装着された出力側ベベルギヤ35と、出力側ベベルギヤ35をセレクタ50方向に進出するように付勢するコイルばね39とから構成されている。
【0022】
出力軸31は、大径部32の先端側に円筒部33が形成されたものである。大径部32の後端にはフランジ32aが形成されている。この場合、第3出力部30Cの出力軸31は、図7に示すように、大径部32が軸受ブッシュ34(図4参照)を介して、クラッチユニットケース部11に形成された円筒状の軸受ホルダ部11c内に、回転自在、かつスラスト方向への移動不可能な状態に支持される。また、第2出力部30Bの出力軸31は、大径部32が軸受ブッシュ34を介して、クラッチユニットケース部11およびカバー13にそれぞれ形成され、カバー13を装置ケース10に装着した状態で円筒状となる半円筒状の軸受ホルダ部に挟まれることにより、回転自在、かつスラスト方向への移動不可能な状態に支持される。図7には、クラッチユニットケース部11側の半円筒状の軸受ホルダ部11bが示されている。第1出力部30Aの出力軸31は、クラッチユニットケース部11に形成された後述するウォーム支持部120内に回転自在に支持される。
【0023】
図8に示すように、出力側ベベルギヤ35は、出力軸31の円筒部33の外周面に、相対回転不能すなわち一体回転可能で、スラスト方向にスライド自在、かつ同軸的にスプライン結合され、出力軸31のスラスト方向に沿ってセレクタ50に対し進退自在に外装された円筒状のスライド軸36と、このスライド軸36の先端側に一体形成され、進出時に上記入力部20の入力側ベベルギヤ22に噛み合うギヤ部37と、ギヤ部37の中心に突設されたピン38とから構成されている。出力軸31の円筒部33の外周面および出力側ベベルギヤ35のスライド軸36の内周面には、互いに係合する外周側スプライン部33aおよび内周側スプライン部36aがそれぞれ形成されている。
【0024】
本実施形態では、上記出力側ベベルギヤ35と上記入力側ベベルギヤ22とにより、本発明に係るクラッチ機構40が構成される。
【0025】
コイルばね39は、圧縮状態で出力軸31の円筒部33および出力側ベベルギヤ35のスライド軸36の内部に収容されており、このコイルばね39によって出力側ベベルギヤ35はセレクタ50方向に付勢され、ピン38の先端がカム面51,52に突き当たるようになっている。ピン38の先端面は球面状に形成されており、セレクタ50がY方向に送られると突き当たっているカム面51,52に摺接する。
【0026】
図7に示すように、セレクタ50の第1カム面51には、第1出力部30Aおよび第2出力部30Bに対応する凹部53(第1凹部53Aおよび第2凹部53B)が形成されており、第2カム面52には、第3出力部30Cに対応する凹部53(第3凹部53C)が形成されている。第3凹部53は、この場合、セレクタ50のY方向端部に続く傾斜面のことを言う。セレクタ50がY方向に送られると、いずれか1つの出力部30のピン38が凹部53に嵌り込むようになっている。
【0027】
このようにピン38が凹部53に嵌り込むことにより出力側ベベルギヤ35全体がセレクタ50方向にスライドし、このとき、出力側ベベルギヤ35が入力側ベベルギヤ22に係合して噛み合い、クラッチ機構40が接続状態となる。図7および図9に示すように、各出力部30の出力側ベベルギヤ35のピン38は、上記ギヤホルダ15に形成された壁部17の貫通孔17aを貫通している。貫通孔17aには軸受ブッシュ18が圧入して固定され、ピン38はこの軸受ブッシュ18内に摺動回転自在、かつスラスト方向に移動自在に支持される。クラッチ機構40の接続時には、出力側ベベルギヤ35のギヤ部37の先端面が壁部17に当接し、これによって出力側ベベルギヤ35の進出時のストロークエンドが規制されるようになっている。
【0028】
クラッチ機構40の接続時にモータ1が稼働して入力部20が回転すると、その回転が入力側ベベルギヤ22から出力側ベベルギヤ35に伝わって出力側ベベルギヤ35が回転し、スライド軸36の回転が出力軸31に伝わって出力軸31が回転する。また、ピン38が凹部53に嵌り込まずカム面51(52)に突き当たっている状態では、出力側ベベルギヤ35はカム面51(52)によりコイルばね39に抗して出力軸31側に押され、このとき、ギヤ部37は入力側ベベルギヤ22から離れてクラッチ機構40は切断状態となる。
【0029】
上記各出力部30の出力軸31は、動力伝達手段を介して上記各可動機構の駆動軸に接続される。本実施形態では、第2出力部30Bと第3出力部30Cの出力軸31には可撓性を有するトルクケーブル5(図2参照)が動力伝達手段として接続される。第2出力部30B側のトルクケーブル5は上記リクライニング機構の駆動軸に、第3出力部30C側のトルクケーブル5は上記スライド機構の駆動軸に接続される。トルクケーブル5は、第2出力部30Bおよび第3出力部30Cの出力軸31の後端面に形成された装着穴32b(図8(b)参照)に、出力軸31と一体回転可能に挿入される。それら出力軸31が、クラッチ機構40が接続状態となって回転するとトルクケーブル5が回転し、リクライニング機構やスライド機構が作動する。
【0030】
一方、第1出力部30Aの出力軸31には、図4に示すように、ウォームギヤ70およびギヤ77が動力伝達手段として接続されている。これらウォームギヤ70およびギヤ77により、上記ギヤボックス3が構成される。
【0031】
図10および図11に示すように、ウォームギヤ70は、第1出力部30Aの出力軸31(本発明の回転軸、以下、出力軸31A)の後端に、この出力軸31Aと同軸的、かつ一体に形成されたウォーム71と、このウォーム71に噛み合うウォームホイール75とにより構成される。すなわち第1出力部30Aの出力軸31Aおよびウォーム71は、図10に示すように、1本の円柱状の伝達軸140に形成されている。この伝達軸140の中間部にフランジ32aが形成されており、このフランジ32aの一端側に大径部32および外周面に外周側スプライン部33aが形成された円筒部33を有する出力軸31が形成され、他端側に、ウォーム71が形成されている。
【0032】
ウォーム71は、図12および図13に示すように、ギヤボックスケース部12に形成された円筒状のウォーム支持部120内に挿入されて回転自在に支持されている。
【0033】
図14に示すように、ウォーム支持部120内には円筒状の内周面を有するウォーム挿入孔121が形成されており、このウォーム挿入孔121の両端は開口している。ウォーム挿入孔121の一端側(図14で左側:クラッチユニット2側)の開口部121aには、円筒状の軸受ブッシュ34がウォーム挿入孔121と同軸的に嵌め込まれる。軸受ブッシュ34は一端側の開口部121aに形成されている環状のストッパ段部122に当接してその開口部121aからの抜け止めがなされており、この軸受ブッシュ34内に、出力軸31Aの大径部32が摺動回転自在に支持される。軸受ブッシュ34とフランジ32aとの間には、ワッシャ141が介装されている。ワッシャ141と軸受ブッシュ34を介してフランジ32aがストッパ段部122に係合することにより、伝達軸140全体がクラッチユニット2側に移動することが規制されるようになっている。
【0034】
伝達軸140のウォーム71側の端部には均一径の円柱状の小径部72が、段部73を介してウォーム71と同軸的に形成されており、この小径部72が、ウォーム支持部120の他端側の開口部(以下、挿入側開口部)121bに装着される軸受部130に回転自在に支持されている。
【0035】
ウォーム挿入孔121の内径は、ウォーム71との間に一定の隙間が空く寸法に設定されている。図15に示すように、上記軸受部130は、円筒状のキャップ131と、キャップ131の一端側の内周部に固着される円筒状の軸受ブッシュ136とから構成される。キャップ131の外周面の一端側は、ウォーム支持部120の内周面に摺動自在に挿入され得る平滑な円筒面132に形成されており、他端側には、円筒面132よりも大径の雄ねじ部133が円筒面と同軸的に形成されている。キャップ131の円筒面132側の端面には、円筒面132と同軸的な軸受穴134が形成されており、この軸受穴134に、軸受ブッシュ136が圧入されて固着されている。軸受ブッシュ136は、軸受穴134の内部に完全に入り込む状態に圧入されている。また、キャップ131の雄ねじ部133側の端面には、六角穴135が形成されている。ウォーム支持部120の挿入側開口部121bの端部には、雄ねじ部133が螺合される雌ねじ部123が形成されている。上記軸受ブッシュ34、キャップ131の外周面である円筒面132および雄ねじ部133、キャップ131の軸受穴134、軸受ブッシュ136は、いずれもウォーム挿入孔121と同軸的となっている。
【0036】
軸受部130は、キャップ131の円筒面132がウォーム支持部120の挿入側開口部121bに摺動しながら挿入され、雄ねじ部133が雌ねじ部123にねじ込まれて螺合されることにより、ウォーム支持部120の挿入側開口部121bに装着される。ウォーム71の小径部72は、軸受ブッシュ136内に摺動回転自在に挿入されて支持されている。なお、本実施形態では小径部72にワッシャ74が挿入され、ワッシャ74を介してウォーム71の段部73がキャップ131に係合し、これにより、伝達軸140全体がクラッチユニット2と反対方向に移動することが規制されるようになっている。ウォーム支持部120の中間部には、ウォーム71の一部が露出してウォームホイール75の係合を可能とする切欠き124が形成されている。
【0037】
上記伝達軸140は、次のようにしてウォーム支持部120にセットされる。まず、出力軸31Aの大径部32に軸受ブッシュ34とワッシャ141を装着し、コイルばね39を出力軸31Aの円筒部33内に装填してから、伝達軸140を出力軸31側からウォーム挿入孔121内に挿入する。そして、ピン38が、ギヤホルダ15の壁部17の貫通孔17aに固定された軸受ブッシュ18に挿入されて収容部14に収容されている出力側ベベルギヤ35の内周側スプライン部36aに、出力軸31Aの外周側スプライン部33aを嵌め込む。そして、ワッシャ74を小径部72に嵌め込んでから、キャップ131の円筒面132を挿入側開口部121aに挿入して雄ねじ部133を雌ねじ部123にねじ込みながら小径部72を軸受ブッシュ136内に挿入させる。
【0038】
このようにしてウォーム支持部120に回転自在に支持された伝達軸140と、この伝達軸140の出力軸31Aに装着された出力側ベベルギヤ35とが連結されて、
先端側に出力側ベベルギヤ35を有し、後端側にウォーム71を有し、ウォーム71に対して出力側ベベルギヤ35がスプライン結合された複合ギヤ145が構成される。
【0039】
この複合ギヤ145の伝達軸140は、ウォーム71の後端部の小径部72が軸受部130の軸受ブッシュ136に支持され、中間部の出力軸31Aの大径部32がウォーム支持部120の一端側の開口部121aに配される軸受ブッシュ34に支持されることにより、ラジアル方向が位置決めされた状態で回転自在に支持される。そして、キャップ131を回転させて雌ねじ部123へのねじ込み量を調節することにより、ウォーム71のスラスト方向位置を調整することができるようになっている。
【0040】
また、複合ギヤ145の出力側ベベルギヤ35は、先端のピン38がギヤホルダ15の壁部17の軸受ブッシュ18に支持され、スライド軸36の後端部が、図11に示す軸受ブッシュ150を介して回転自在に支持される。
【0041】
軸受ブッシュ150は、図16に示すように、装置ケース10のクラッチユニットケース部11に形成されている半円筒状の軸受ホルダ部11dと、カバー13に形成されている軸受ホルダ部13dとに挟まれて保持される。したがって出力側ベベルギヤ35は、先端のピン38が軸受ブッシュ18に、スライド軸36の後端部が軸受ブッシュ150にそれぞれ摺動回転自在に支持されており、これにより両端支持の状態でラジアル方向が位置決めされる。
【0042】
すなわち出力軸31Aとウォーム71とが一体化された伝達軸140に出力側ベベルギヤ35がスプライン結合されてなる複合ギヤ145は、出力側ベベルギヤ35の先端のピン38が軸受ブッシュ18に、ウォーム71の後端部が軸受ブッシュ136に、出力軸31Aの後端部の大径部32が軸受ブッシュ34に、出力側ベベルギヤ35のスライド軸36が軸受ブッシュ150に、それぞれ回転自在に支持された状態となる。
【0043】
ここで、本実施形態においては、この支持状態において、出力軸31Aの外周側スプライン部33aと出力側ベベルギヤ35のスライド軸36の内周側スプライン部36aとの間のクリアランスが、伝達軸140と出力側ベベルギヤ35との軸ずれが吸収され得るように設定されている。換言すると、各軸受ブッシュ18,150で支持される出力側ベベルギヤ35と、各軸受ブッシュ34,136で支持される伝達軸140とが、軸受ブッシュ18,150,34,136の同軸度が低いことにより厳密に同軸的でない場合が生じても、出力軸31Aの外周側スプライン部33aを出力側ベベルギヤ35の内周側スプライン部36aに嵌め込むことが可能なように、各スプライン部33a,36a間のクリアランスが比較的ルーズに設定されている。
【0044】
図4に示すように、上記ギヤボックス3は、上記ウォーム71およびウォーム71に係合するウォームホイール75からなるウォームギヤ70と、ギヤ77とから構成される。ウォームホイール75は、ギヤボックスケース部12に回転自在に支持されている。ウォームホイールの中心には小径ギヤ76が形成されており、この小径ギヤ76がギヤ77に係合されている。このギヤ77は、伝達軸140に直交する上記リフタ機構の駆動軸160上に固定されている。したがって、第1出力部30Aの出力軸31Aが、クラッチ機構40が接続状態となって回転すると、ウォーム71が回転し、その回転がウォームホイール75に伝わり、ウォームホイール75の回転が小径ギヤ76からギヤ77に伝わってギヤボックス3が作動することにより、リフタ機構の駆動軸160が回転してリフタ機構が作動する。
【0045】
以上が本実施形態の多軸駆動装置であり、この多軸駆動装置は、装置ケース10およびカバー13の周縁に設けられた複数のねじ挿通孔19を利用してシートフレーム等の部材に固定される。
【0046】
(2)多軸駆動装置の作用
上記多軸駆動装置動作の作用は、以下の通りである。
図7は、上記操作軸60を回転させてセレクタ50をY方向に送ることにより、第1出力部30Aにおける出力側ベベルギヤ35のピン38が第1凹部53Aに嵌り込んだ状態を示している。このとき、第1出力部30Aの出力側ベベルギヤ35は第1出力部30Aに対応する入力側ベベルギヤ22に係合し、クラッチ機構40が接続状態となる。一方、他の出力部30(第2出力部30Bと第3出力部30C)においては、ピン38がカム面51,52に押されて出力側ベベルギヤ35は対応する入力側ベベルギヤ22から離れ、クラッチ機構40は切断状態となる。
【0047】
この状態からセレクタ50がY1方向に所定距離送られると、第2出力部30Bのピン38が第2凹部53Bに嵌り込み、第2出力部30Bの出力側ベベルギヤ35が対応する入力側ベベルギヤ22に噛み合い、クラッチ機構40が接続状態となる。このとき、他の出力部30(第1出力部30Aと第3出力部30C)においてはピン38がカム面51,52に押されて出力側ベベルギヤ35は対応する入力側ベベルギヤ22から離れ、クラッチ機構40は切断状態となる。
【0048】
さらにセレクタ50がY1方向に所定距離送られると、第3出力部30Cのピン38が第3凹部53Cに沿って進出し、第3出力部30Cの出力側ベベルギヤ35が対応する入力側ベベルギヤ22に噛み合い、クラッチ機構40が接続状態となる。このとき、他の出力部30(第1出力部30Aと第2出力部30B)においてはピン38がカム面51に押されて出力側ベベルギヤ35は対応する入力側ベベルギヤ22から離れ、クラッチ機構40は切断状態となる。
【0049】
セレクタ50は操作軸60を正逆回転させることによりY方向に往復移動し、その移動の途中においてピン38がセレクタ50の凹部53A〜53Cのうちのいずれか1つに進出し、そのとき、上記のように第1〜第3出力部30A〜30Cのうちの1つの出力部30が選択されたことになり、その出力部30における出力側ベベルギヤ35が対応する入力側ベベルギヤ22に噛み合ってクラッチ機構40が接続状態となる。
【0050】
上記のようにクラッチ機構40が接続状態のときに上記スイッチをONにしてモータ1を稼働させると、モータ1の動力が入力側ベベルギヤ22から出力側ベベルギヤ35に伝わり、出力軸31が回転する。第2出力部30Bおよび第3出力部30Cにおいては、出力軸31の回転がトルクケーブル5を介してリクライニング機構およびスライド機構の駆動軸に伝わり、これらリクライニング機構およびスライド機構が作動する。また、第1出力部30Aにおいては、出力軸31Aの回転がギヤボックス3すなわちウォーム71、ウォームホイール75、小径ギヤ76、ギヤ77を介してリフタ機構の駆動軸160に伝わって回転し、リフタ機構が作動する。また、スイッチによってモータ1の回転方向を切り換えることにより、出力軸31とともに可動機構の駆動軸の回転方向が切り換えられる。
【0051】
(3)実施形態の効果
上記実施形態では、伝達軸140の出力軸31Aに出力側ベベルギヤ35のスライド軸36がスプライン結合されてなる複合ギヤ145においては、出力軸31Aの外周側スプライン部33aと出力側ベベルギヤ35のスライド軸36の内周側スプライン部36aとの間のクリアランスが、伝達軸140と出力側ベベルギヤ35との軸ずれが吸収され得るように比較的ルーズに設定されている。このため、出力側ベベルギヤ35の軸受ブッシュ18,150と伝達軸140の軸受ブッシュ34,136との同軸度が低い場合であっても、出力側ベベルギヤ35に伝達軸140の出力軸31Aをスプライン結合することができる。したがって、それら軸受ブッシュ18,150,34,136の同軸度を高精度に維持する必要が無く、その結果、製造が容易となり量産性が向上する。また、出力側ベベルギヤ35は、先端部のピン38およびスライド軸36の後端部がそれぞれ軸受ブッシュ18,150で支持されるため十分な支持力で支持され、このため、異音発生や破損が防がれる。
【0052】
また、複数の出力部30のうち、第2出力部30Bおよび第3出力部30Cにおいては、出力軸31の回転を可動機構に伝達する動力伝達手段が従来のトルクケーブル5であるが、第1出力部30Aでは、出力軸31Aにウォーム71を直接連結し、このウォーム71を含むウォームギヤ70およびギヤ77からなるギヤボックス3を動力伝達手段としている。
【0053】
このため、第1出力部30Aにおいてはトルクケーブル5、およびトルクケーブル5を支持する部材等が不要となり、出力軸31と可動機構の駆動軸160との接続構造が従来よりも簡素となる。また、ウォーム71を含むギヤボックス3を収容するギヤボックスケース部12をクラッチユニット2を収容するクラッチユニットケース部11と一体に成形しているため、ケースを1つ(装置ケース10)にすることができる。さらに、出力軸31Aの後端部を支持する軸受ブッシュ34はウォーム71を支持する軸受として機能し、したがって軸受が共通化されている。これらの点から、本実施形態の多軸駆動装置によれば、組み立てが容易となって生産性が向上し、また、部品点数の削減が可能となって低コスト化を図ることができるといった効果を奏する。
【0054】
また、ギヤボックスケース部12がクラッチユニットケース部11と別体であった場合には、ギヤボックスケース部12のシートフレーム等の部材への固定部となるねじ挿通孔の数は比較的少ないが、クラッチユニットケース部11と一体に成形されたことによりねじ挿通孔19は多くなり、このため固定状態での剛性が高くなるといった利点がある。
【0055】
また、ウォームギヤ70のウォーム71がウォーム支持部120内のウォーム挿入孔121に挿入されて支持された構造にあっては、ウォーム挿入孔121に同軸的に装着される軸受部130の軸受ブッシュ136にウォーム71の小径部72が摺動回転自在に挿入されることにより、出力軸31Aが軸受ブッシュ34に支持されることと相まって、ウォーム71のラジアル方向が高精度に位置決めされる。また、ウォーム71の段部73が軸受部130のキャップ131に係合することにより、ウォーム71のスラスト方向が高精度で位置決めされる。ウォーム71のスラスト方向は、キャップ131を回転させて雌ねじ部123へのねじ込み量を調節することにより調整することができるようになっている。
【0056】
軸受部130は、キャップ131に軸受ブッシュ136が固着された簡素な構成であり、キャップ131をウォーム挿入孔121に螺合するといった簡易な方法でウォーム挿入孔121に装着される。そして、この軸受部130の軸受ブッシュ136にウォーム71の端部の小径部72を単に挿入することで、ウォーム71はウォーム挿入孔121内に支持される。したがってウォーム71にあっては、スラスト方向とラジアル方向の双方の位置決めが、簡素な構造でありながら高精度で達成される。
【符号の説明】
【0057】
31A…出力軸(回転軸)
33a…外周側スプライン部
35…出力側ベベルギヤ(ギヤ)
36…スライド軸
36a…内周側スプライン部
37…ギヤ部
70…ウォームギヤ
71…ウォーム
140…伝達軸
145…複合ギヤ
150…軸受ブッシュ(軸受)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームギヤのウォームの一端部に回転軸が同軸的、かつ一体に形成された伝達軸における回転軸の先端部に外周側スプライン部を形成し、
円筒状のスライド軸の先端部にギヤ部が形成されたギヤのスライド軸に内周側スプライン部を形成し、
前記外周側スプライン部に前記内周側スプライン部をスプライン結合してなる複合ギヤを、回転自在に支持する構造であって、
この複合ギヤの、前記ギヤの先端部および前記スライド軸を軸受で回転自在に支持し、前記伝達軸の少なくとも軸方向に離間する2位置を軸受で回転自在に支持し、
この支持状態において、前記外周側スプライン部と前記内周側スプライン部との間のクリアランスが、前記伝達軸と前記ギヤとの軸ずれが吸収され得るように設定されていること
を特徴とする複合ギヤの支持構造。
【請求項2】
前記ギヤはベベルギヤであることを特徴とする請求項1に記載の複合ギヤの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−180848(P2012−180848A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42156(P2011−42156)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】