説明

複合成形品の製造方法

【課題】表皮が成形型の型面から離間することを防ぐことで表皮にシワや破れを発生させることなく複合成形品を製造する。
【解決手段】基材52(第2成形品)と表皮54(第1成形品)とが一体化された複合成形品50の製造方法であって、凹状をなす第1成形面S1と凸状をなす第2成形面S2との間で表皮54を成形する第1成形工程と、第1成形面S1に保持された表皮54と凸状をなす第3成形面S3との間で基材52を発泡成形する第2成形工程とを備え、第1成形面S1の型抜き方向に対する勾配θ1が、第2成形面S2の型抜き方向に対する勾配θ2よりも小さく設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1成形品と第2成形品とが一体化された複合成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1成形品と第2成形品とが一体化された複合成形品の製造方法として、下記特許文献1に記載の製造方法が知られている。この製造方法では、まず、固定金型と可動金型との間に1次溶融樹脂を射出して第1成形品である表皮を成形する。つぎに、可動金型を固定金型から離間させてキャビティの容積を拡大させるとともに、その拡大したキャビティ内に2次溶融樹脂を射出して第2成形品である基材を成形している。
【0003】
また、特許文献2には、フィルムと基材が一体となった多層樹脂成形品の製造方法が開示されている。特許文献3には、キャビティの内面に熱硬化性塗料を塗布した後に、加熱溶融した原料樹脂をキャビティ内に射出することによって、表面の少なくとも一部に塗膜を有する成形品を得ることのできる成形品の製造方法が開示されている。特許文献4には、一方の型と他方の型との間に第1の樹脂を供給して第1の層を成形した後、第1の層を保持した一方の型と他方の型との間に空隙を設け、この空隙に第2の樹脂を充填して第2の層を成形する多層成形品の製造方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−334549公報
【特許文献2】特開2007−331185公報
【特許文献3】特開2004−237461公報
【特許文献4】特開平9−1582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の製造方法では、可動金型の型面に保持された表皮と固定金型の間に2次溶融樹脂を射出している。これにより、表皮に対して基材を一体に成形することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、可動金型を固定金型から離間させる際に、表皮が可動金型の型面から離れてしまう場合があった。この場合、表皮と可動金型の型面との間には隙間が発生してしまい、可動金型の型面に保持された表皮と固定金型の間に2次溶融樹脂を射出した際に、2次溶融樹脂の射出圧によって表皮にシワや破れ等が発生してしまうという問題があった。
【0007】
また、基材を発泡成形する場合、上記問題を解決しようとして予め基材を発泡成形した後に表皮を成形しようとすると、表皮成形時の射出圧によって基材の発泡セルが破壊され、基材表面に凹みを生じてしまう。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、表皮が成形型の型面から離間することを防ぐことで表皮にシワや破れを発生させることなく複合成形品を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1成形品と第2成形品とが一体化された複合成形品の製造方法であって、凹状をなす第1成形面と凸状をなす第2成形面との間で前記第1成形品を成形する第1成形工程と、前記第1成形面に保持された前記第1成形品と凸状をなす第3成形面との間で前記第2成形品を発泡成形する第2成形工程とを備え、前記第1成形面の型抜き方向に対する勾配が、前記第2成形面の型抜き方向に対する勾配よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、第1成形面に保持された第1成形品が当該第1成形面から離間しにくくなる。したがって、第1成形品にシワや破れを生じさせることなく複合成形品を製造することが可能となる。
また、第1成形品を成形した後に第2成形品を成形しているため、第2成形品の発泡セルを破壊することがなく、第2成形品の表面に凹みを生じさせることがなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表皮が成形型の型面から離間することを防ぐことで表皮にシワや破れを発生させることなく複合成形品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、複合成形品50を製造するための成形用金型10の一例を示す断面図である。図1に示すように、成形用金型10は、固定金型12と、その固定金型12と対向するように配置された可動金型14とを備えている。固定金型12は、凹状の第1成形面S1を有している。可動金型14は、凸状の第2成形面S2と、凸状の第3成形面S3とを有している。
【0013】
固定金型12の背面側には、第1射出装置P1、及び、第2射出装置P2が取り付けられている。第1射出装置P1は、第1成形面S1と第2成形面S2との間に1次溶融樹脂R1を射出することが可能となっている。第2射出装置P2は、第1成形面S1と第3成形面S3との間に2次溶融樹脂R2を射出することが可能となっている。
【0014】
可動金型14は、スライドベース16に対して上下方向にスライド可能に取り付けられている。このスライドベース16の下方には油圧シリンダ18が取り付けられており、この油圧シリンダ18によって可動金型14を上下方向にスライドさせることが可能となっている。なお、このような可動金型14を上下方向にスライドさせるための機構は、例えば特開2001−334549公報に詳細に開示されている。
尚、本発明の実施形態では、油圧シリンダ18をスライドベース16の下方に取り付けているが、スライドベース16の上方に取り付けてもよい。
【0015】
次に、基材52と表皮54とが一体に成形された複合成形品50の製造方法について説明する。複合成形品50の製造方法は、以下に説明する第1成形工程及び第2成形工程を有している。尚、基材52が本発明の「第2成形品」に対応しており、表皮54が本発明の「第1成形品」に対応している。
【0016】
(第1成形工程)
第1成形工程では、図2に示すように、第1成形面S1と第2成形面S2との間に形成されたキャビティC1内に第1射出装置P1から1次溶融樹脂R1を射出する。これにより、表皮54を成形することができる。この表皮54の成形材料となる1次溶融樹脂R1としては、例えばTPO樹脂(熱可塑性オレフィン樹脂)を使用することができる。
【0017】
(第2成形工程)
第2成形工程では、図3に示すように、スライドベース16を移動させて(矢印a)、可動金型14を固定金型12から離間させた後に、油圧シリンダ18によって可動金型14を上方へスライドさせる(矢印b)。つぎに、図4に示すように、可動金型14を固定金型12に接近させることで第1成形面S1に貼り付いた状態で保持された表皮54と第3成形面S3との間にキャビティC2を形成する(矢印c)。そして、図5に示すように、第1成形面S1に保持された表皮54と第3成形面S3の間に、第2射出装置P2から発泡剤が添加された2次溶融樹脂R2を射出しキャビティC2内に充填させる。最後に、図6に示すように、スライドベース16を所定の距離だけ移動し(矢印d)、可動金型14を固定金型12から所定の距離だけ離間させることで2次溶融樹脂R2を発泡させる(コアバック発泡成形)。この結果、図7に示すように、基材52と表皮54とが一体化された複合成形品50を製造することができる。
【0018】
基材52の成形材料となる2次溶融樹脂R2としては、例えばPP樹脂(ポリプロピレン樹脂)を使用することができる。2次溶融樹脂R2に添加する発泡剤としては、例えば、化学発泡剤あるいは物理発泡剤を使用することができる。化学発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド類、p−トルエンスルホニルセミカルバジド等を使用することができる。物理発泡剤としては、例えば、炭酸ガスや窒素ガス等を使用することができる。
【0019】
図8は、図1に示す成形用金型10のA部の拡大断面図である。
図8に示すように、第1成形面S1は全体として凹状に形成されており、第2成形面S2は全体として凸状に形成されている。第1成形面S1と第2成形面S2との間には、表皮54を成形するための空間であるキャビティC1が形成されている。第1成形面S1の外周部と、第2成形面S2の外周部とは、パーティングラインPLにおいて互いに接触している。
【0020】
第1成形面S1は、ほぼ平坦に形成された平坦部S1aと、その平坦部S1aの外周においてパーティングラインPLに向けて立ち上がった立壁部S1bとを有している。
第2成形面S2は、ほぼ平坦に形成された平坦部S2aと、その平坦部S2aの外周においてパーティングラインPLに向けて立ち上がった立壁部S2bとを有している。
【0021】
図8に示すように、第1成形面S1の立壁部S1bは、型抜き方向の直線L1に対して所定の角度で交差している。以下、この角度のことを、第1成形面S1の型抜き方向に対する勾配θ1と呼ぶことにする。
また、第2成形面S2の立壁部S2bは、型抜き方向の直線L2に対して所定の角度で交差している。以下、この角度のことを、第2成形面S2の型抜き方向に対する勾配θ2と呼ぶことにする。
なお、本明細書において、「型抜き方向」とは、図8において左右方向のことであり、固定金型12と可動金型14とを互いに離間させる方向のことである。
【0022】
本実施形態において、第1成形面S1の型抜き方向に対する勾配θ1は、第2成形面S2の型抜き方向に対する勾配θ2よりも小さく設定されている。例えば、勾配θ1は2〜3°に設定されており、勾配θ2は5〜15°に設定されている。
【0023】
勾配θ1が勾配θ2よりも小さく設定されることによって、表皮54が第1成形面S1から離間しにくくなる。なぜなら、第1成形面S1の立壁部S1bと表皮54との間に作用する摩擦力が、第2成形面S2の立壁部S2bと表皮54との間に作用する摩擦力よりも大きくなるためである。
【0024】
本実施形態の複合成形品50の製造方法によれば、第1成形面S1に貼り付いた状態で保持された表皮54が、当該第1成形面S1から離間しにくくなる。したがって、表皮54と第1成形面S1との間に隙間が発生することを防止することが可能である。この結果、第1成形面S1に保持された表皮54と第3成形面S3との間に2次溶融樹脂R2を射出した際に、表皮54にシワや破れが発生することを防止することができる。
【0025】
本実施形態の複合成形品50の製造方法によれば、表皮54にシワや破れを発生させることなく複合成形品50を製造することが可能となる。
このようにして製造された複合成形品50は、車両用内装材として好適に使用することができる。例えば、ドアトリム、インストルメントパネル、シートバックボード、パーティションボード、コンソールボックス、ピラーガーニッシュ、クォータトリム等の車両用内装材として好適に使用することができる。
【0026】
本実施形態の複合成形品50の製造方法によれば、基材52が発泡体によって成形されているために、複合成形品50の軽量化が可能である。
【0027】
また、本実施形態の複合成形品50の製造方法によれば、表皮54を成形した後に基材52を成形しているために、基材52の表面に凹みが発生することを防止することが可能である。
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では、固定金型12と可動金型14とが左右方向に配置されている例を示したが、固定金型12と可動金型14とが上下方向に配置されている場合であっても本発明を適用することができる。
(2)上記実施形態では、1つの可動金型14に対して第2成形面S2及び第3成形面S3が形成されている例を示したが、図9に示すように、別体に形成された2つの可動金型14a、14bに対して、第2成形面S2及び第3成形面S3がそれぞれ形成されている場合であっても本発明を適用することができる。
(3)上記実施形態では、固定金型12側で表皮54を保持していたが、その逆に可動金型14側を凹状とし、可動金型14で表皮54を保持する場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】複合成形品を製造するための成形用金型の一例を示す断面図である。
【図2】成形用金型の断面図であり、第1成形面と第2成形面との間に1次溶融樹脂を射出した後の状態を示している。
【図3】成形用金型の断面図であり、可動金型を固定金型から離間させた後に、可動金型を上方へスライドさせた状態を示している。
【図4】成形用金型の断面図であり、第1成形面に保持された表皮と第3成形面との間に2次溶融樹脂を射出する前の状態を示している。
【図5】成形用金型の断面図であり、第1成形面に保持された表皮と第3成形面との間に2次溶融樹脂を射出した後の状態を示している。
【図6】成形用金型の断面図であり、可動金型を固定金型から所定の距離だけ離間させることで2次溶融樹脂を発泡させた後の状態を示している。
【図7】成形用金型の断面図であり、可動金型と固定金型との間から複合成形品を取り出した後の状態を示している。
【図8】図1に示す成形用金型のA部の拡大断面図である。
【図9】別体に形成された2つの可動金型に対して、第2成形面及び第3成形面がそれぞれ形成されている変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10…成形用金型
12…固定金型
14…可動金型
50…複合成形品
52…基材(第2成形品)
54…表皮(第1成形品)
R1…1次溶融樹脂
R2…2次溶融樹脂
S1…第1成形面
S2…第2成形面
S3…第3成形面
θ1…第1成形面の型抜き方向に対する勾配
θ2…第2成形面の型抜き方向に対する勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成形品と第2成形品とが一体化された複合成形品の製造方法であって、
凹状をなす第1成形面と凸状をなす第2成形面との間で前記第1成形品を成形する第1成形工程と、
前記第1成形面に保持された前記第1成形品と凸状をなす第3成形面との間で前記第2成形品を発泡成形する第2成形工程とを備え、
前記第1成形面の型抜き方向に対する勾配が、前記第2成形面の型抜き方向に対する勾配よりも小さく設定されていることを特徴とする複合成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−89285(P2010−89285A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258970(P2008−258970)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】