説明

複合材料

本発明は多層被覆を有する基体からなる複合材料に関し、前記被覆はアルミニウム、ジルコニウムおよび/またはハフニウムおよびチタンの酸化物からなる少なくとも1つの多相の層およびAl、ZrOおよび/またはHfOからなる単相の層を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層被覆を有する基体からなる複合材料に関する。これらの複合材料は例えば切断目的のための切断インサート(Schneideinsaetz)として、すなわち回転、フライス削りまたは穿孔のために使用される。物理的または化学的蒸着法(PVDまたはCVD)により被覆物が被覆される基体は硬質金属、サーメット、スチールまたはセラミックからなることができる。
【0002】
ドイツ特許第2736982号にすでに有利に硬質金属からなる成形体および1個以上の表面層からなる成形品、特に工具のための耐摩耗性層が記載され、表面層の少なくとも1個の保護層はセラミック材料からなり、セラミック材料に他の1つの材料が埋め込まれている。セラミックマトリックスと埋め込まれた材料は異なる熱膨張係数を有し、保護層を細かい微細な亀裂が貫通する。Alからなるセラミックマトリックスへの埋め込み材料として安定化されていないおよび/または部分安定化されたZrOが提案される。CVD法によりこの層を製造するために、AlCl、COおよびHを気相に導入し、Alを形成し、ZrClおよび水蒸気(HO)を1100℃で反応容器に導入し、ZrOを形成する。約1100℃の変換温度より高い温度で安定な四角形のZrOと約1100℃より低い温度で安定なZrOの単斜晶系変態との密度の差により相当する相変換の際に埋め込まれたZrOのかなりの体積の変動を生じる。これからZrOの体積割合の増加とともに同時に堆積されたセラミック層中の微細な亀裂密度が増加することが理解される。
【0003】
ドイツ特許第2825009号にはAlからなる薄い耐摩耗性表面層を有する硬質金属体が記載され、Alは全部または少なくとも85%がκ−変態からなり、その際場合によりα−変態からなる残りは表面領域にもしくは最大10μmの大きさを有する欠陥に形成される。酸化アルミニウム層は付加的にチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの添加物を有することができる。CVD法を使用してこれらのセラミック層を形成するために、ガス混合物にH,AlCl、COおよびCOのほかになお0.03〜0.5%の少量のTiClを添加する。しかしこれらの添加物は専らまたはほとんど専らκ−Al相の形成に用いる。
【0004】
硫化水素のような付加的な反応物質を使用してAlおよび/またはZrOを堆積する他のCVD法は欧州特許第0523021号に記載されている。
【0005】
ドイツ特許第19518927号は耐摩耗性複合セラミック被膜を有する焼結炭化物またはセラミック支持体からなる被覆された切断工具を記載し、前記複合被膜は例えばAlおよびZrOからなる2つの異なる金属酸化物相および更にドーピング物質を有し、ドーピング物質は硫黄、セレン、テルル、燐、砒素、アンチモン、ビスマス、または前記元素の化合物の群から選択される。CVD法によりこの二相の層を製造するために、例えばAlClおよびZrCl、COをHSガスのほかにキャリアガスとしてHと一緒に約700〜1250℃の温度および133Paから周囲圧力までの圧力で支持体に導入し、その際二相の層にドーピング物質を堆積する。
【0006】
欧州特許第0786536号はCVDおよび/またはPVDにより堆積され、塩素0.005〜0.5質量%を含有するべきである厚さ3〜20μmの酸化アルミニウム層を有する被覆された硬質金属体を記載する。選択的にこの層にZrおよび/またはHf0.5〜10質量%およびTi1.5〜15質量%が含まれていてもよい。
【0007】
欧州特許第0162656号は、内側層および外側層を有する硬質金属支持体上の多層被覆を記載し、内側層は少なくとも1種のチタンの炭化物、窒化物、窒化炭素、オキシ窒化炭素、オキシ窒化物、窒化ホウ素または窒化炭化ホウ素および全部の厚さ5〜20μmを有する1つの外側の多重層からなり、外側層は、それぞれの厚さ0.01〜2μmを有する多数のAl層からなり、前記層のそれぞれはAlフィルムからなり、前記フィルムに酸化チタンが溶解しまたは酸化チタンの少なくとも30体積%が一緒に存在する。前記層はそれぞれの厚さ0.01〜2μmの中間層により分離され、中間層はそれぞれTiC、TiN、TiCN、TiCNO、TiNO、チタン酸化物、Ti(B、N)、Ti(B、N、C)、SiC、AlNおよびAlONからなる。
【0008】
WO00/17416号には被覆された硬質金属またはサーメット基体からなる複合材料が記載され、前記基体上に唯一の層または多層の被覆の場合は少なくとも1つの0.5〜25μmの厚さの層、有利に最も外側のAl相およびZrOおよび/またはHfOからなる相および第3の微細分散相を含有し、前記相はチタンの酸化物、炭化物酸化物、オキシ窒化物またはオキシ炭化物窒化物からなる。この層の全部の量に対する第3相の割合は0.2〜5モル%である。この三相の層を製造するために、堆積温度900〜1000℃を使用するCVD法を選択し、その際堆積のために必要なガスがAl、Zr、Hfの塩化物、更にCO、H、CHおよびNまたは10〜100000Paの圧力下で不活性ガスを含有する。例えば第三相として埋め込まれるTiOは酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムの成長速度および粒度に有利な作用を有する。有利に960℃の被覆温度を選択し、この場合にZrOは単斜晶系の形で存在する。前記刊行物からTiN−Ti(C、N)の層の順序および前記三相の層を有する硬質金属支持体が公知である。
【0009】
本発明の課題は、切断インサートの場合に高い切断効率および長い耐用時間を供給する複合体を提供することである。高い切断効率は特に所望の高い切断速度および切削した切りくずの厚さにより決定される。可能な場合はこの切断インサートはいわゆる乾燥した断面で使用すべきである。
【0010】
前記課題は請求項1記載の複合材料により解決される。本発明の他の構成は従属請求項に記載される。
【0011】
本発明の基本思想は基体の上にアルミニウム、ジルコニウムおよび/またはハフニウムおよびチタンの酸化物からなる少なくとも1個の多相の層(三相の層として)およびAl、ZrOまたはHfOからなる単相の層を使用することにある。従って被覆中に少なくとも1個の多相酸化物層および少なくとも1個の単相酸化物層が存在する。多相の層は前記の3個の酸化物成分のほかに付加的になおMgOを含有し、単相の層は付加的に酸化チタン部分1%未満を含有することができる。しかし本発明の他の構成により少なくとも2個、有利に少なくとも3個の層が存在し、これらのそれぞれがAl、Zr、Tiおよび/またはAl、Hf、Tiおよび/またはAl、Zr、Ti、Mgおよび/またはAl、Hf、Ti、Mgの酸化物からなる前記多相層およびHf、ZrまたはAlからなる単相の酸化物層からなる。有利に少なくとも3個の三相または四相酸化物層が存在し、これらの間にそれぞれ1つの単相酸化物層が配置され、その際単相酸化物層が外側被覆層を形成する。これらの層は微粒子状組織および均一な相分布を有し、高い断熱性を有する。
【0012】
前記基体は硬質金属、サーメット、スチールまたはセラミック材料からなることができる。
【0013】
支持体と、有利に多相酸化物層である第1酸化物層の間に、チタン、ハフニウムまたはジルコニウムの窒化炭素からなる少なくとも1つの層が配置される。この被覆層は1〜15μm、特に3〜8μmの厚さを有する。
【0014】
しかし本発明の他の構成により同様に多相酸化物層と単相酸化物層の間に、有利に、すなわち多相酸化物層と単相酸化物層の多層の層順序の場合に、前記層のそれぞれの間にチタン炭化物窒化物、ハフニウム炭化物窒化物またはジルコン炭化物窒化物からなる1個以上の中間層を配置することが可能である。この中間層は有利に0.2〜3μm、特に2μmの厚さを有する。
【0015】
すべての多相酸化物層およびすべての単相酸化物層の全部の厚さは有利に6〜20μm、特に10μmである。個々の多相酸化物層の厚さは2〜6μm、有利に4μmでありおよび/または個々の単相酸化物層の厚さは1〜5μm、有利に3μmである。
【0016】
多相被覆はWO00/17416号から原則的に知られるまたはいわゆる中間温度CVD法として知られるようなCVD法により製造される。
【0017】
本発明の他の構成により存在する引張り応力を排除するためにまたは複合体の圧縮応力を高めるために、最終的研磨剤処理にさらし、その際有利に研磨剤は硬質金属顆粒からなり、前記顆粒は少なくとも実質的に円形の粒子の形を有し、および最大直径150μm、更に有利に最大100μmを有する。
【0018】
本発明の他の利点を実施例により説明する。
【0019】
図1〜3はそれぞれ技術水準に比べて切断インサートでの本発明の複合材料の改良された耐用時間に関する情報を提供する図である。
【0020】
検査対象は3つのすべての場合に形式CNMG120412−5の切断インサートであった。3つのすべての場合に支持体は硬質金属材料(THM)からなるが、異なって被覆されていた。第1試験においてねずみ鋳鉄からなる材料は切断速度450m/分、切断深さ2.5mmおよび送り0.315mm/回転で処理される。第1切断体は硬質金属基体からなり、前記基体は(外側層として)TiCNおよびAlからなる二層の層で被覆されていた。達成された耐用時間は2分未満であった。TiCN被覆層にAl/ZrO/TiOからなるWO00/17416による三相の酸化物層が被覆された二層の層の場合に明らかに改良された耐用時間が得られた。
【0021】
しかし支持体に近いTiCN層および6層の外側層を有し、前記層がそれぞれ三相の酸化物層からなる3つの個々の層および単相のZrO層からなる切断インサートを使用して再び明らかな耐用時間の改良を達成することができた。
【0022】
第2試験においてきわめて粗い表面を有するねずみ鋳鉄材料を回転により処理し、その際前記の試験に比べて切断速度を200m/分に低下している。この切断速度によりTiCN−Al被覆を有する切断インサートに関して6分の耐用時間が得られ、TiCN−Al/ZrO/TiO被覆を有する切断インサートに関して約7分の耐用時間が得られ、前記の構成と異なりAl/HfO/TiOからなる三相の酸化物層およびHfOからなる単相の酸化物層からなる三重の交換が存在した本発明による被覆を有する切断インサートに関して9分の耐用時間が得られる。
【0023】
前記の処理した切断試験はいわゆる乾燥した断面で実施される。
【0024】
しかし図3に示されるように、冷却潤滑剤を使用する場合に同様に高い耐用時間を達成できる。切断速度450m/分、切断深さ2.5mm、送り0.315mm/回転でねずみ鋳鉄を回転する場合に、TiCN−Al被覆を有する切断インサートの寿命は約4.5分であり、WO00/17416による被覆を有する切断インサートの寿命は約6.5分であるが、これに対して本発明の被覆は10分または12.5分の耐用時間を達成できる。特に単相の酸化物層としてHfOを使用する場合に、単相の酸化物層としてZrOを使用する場合のすでに改良された耐用時間に対して再び明らかな上昇を達成することができた。すべての被覆はいわゆるCVD−MT(中間温度)法で同じ処理条件下で被覆される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1試験による切断インサートでの本発明の複合材料の耐用時間の改良を示す図である。
【図2】第2試験による切断インサートでの本発明の複合材料の耐用時間の改良を示す図である。
【図3】第3試験による切断インサートでの本発明の複合材料の耐用時間の改良を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ジルコニウムおよび/またはハフニウムおよびチタンの酸化物からなる少なくとも1つの多相の層およびAl、ZrOまたはHfOからなる単相の層を含有する多層被覆を有する基体からなる複合材料。
【請求項2】
多相の層が付加的にMgO部分を有しおよび/または単相の層が付加的に1%未満の酸化チタン部分を有する請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
少なくとも2個、有利に少なくとも3個の層を有し、これらのそれぞれがAl、Zr、Tiおよび/またはAl、Hf、Tiおよび/またはAl、Zr、Ti、Mgおよび/またはAl、Hf、Ti、Mgの酸化物からなる多相の層およびHf、ZrまたはAlからなる単相の酸化物層からなる請求項1または2記載の複合材料。
【請求項4】
基体が硬質金属、サーメット、スチールまたはセラミックからなる請求項1から3までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項5】
支持体と、有利に多相酸化物層である第1酸化物層の間にTiCN、HfCNまたはZrCNからなる少なくとも1個の層が配置され、前記層が更に有利に1〜15μm、特に3〜8μmの厚さを有する請求項1から4までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項6】
多相酸化物層と単相酸化物層の間に、有利にそれぞれ前記層の間に、TiCN、HfCNまたはZrCNからなる1個以上の中間層が配置され、これらのそれぞれは有利に0.2〜3μm、特に2μmの厚さである請求項1から5までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項7】
すべての多相酸化物層およびすべての単相酸化物層の全部の厚さが6〜20μm、有利に10μmであり、その際更に有利に個々の多相酸化物層の厚さが2〜6μm、有利に4μmでありおよび/または個々の単相酸化物層の厚さが1〜5μm、有利に3μmである請求項1から6までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項8】
多層被覆がCVDにより製造されている請求項1から7までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項9】
粒子状研磨剤を使用して複合材料を最終的乾燥研磨処理し、前記研磨剤が硬質金属顆粒からなり、最大直径150μm、有利に最大直径100μmを有する少なくとも実質的に円形粒子の形を有する請求項1から8までのいずれか1項記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−502015(P2006−502015A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542180(P2004−542180)
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/DE2003/003228
【国際公開番号】WO2004/033751
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(303042981)ケンナメタル ヴィディア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (17)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Widia GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Munchener Strasse 125−127,D−45145 Essen,Germany
【Fターム(参考)】