説明

複合材料

【課題】 繊維状の材料を用いることにより界面における熱膨張率差を最適な値とした新規な構成からなり、熱膨張率差に起因する亀裂の発生を低減することができる複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の複合材料は、鉄系金属粒子からなる焼結体1’と、焼結体1’の気孔部分に含浸固化された軽金属3’と、からなる第一複合部1と、第一複合部1の少なくとも一面に一体的に形成され、ウィスカ、短繊維および長繊維のうちの1種以上からなる繊維材2’と、繊維材2’を保持する軽金属3’と、からなる第二複合部2と、第二複合部2を介して第一複合部1と一体的に形成され、軽金属3’からなる軽金属部3と、からなり、第二複合部2の熱膨張率は、第一複合部1の熱膨張率と軽金属部3の熱膨張率との中間の値であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系の複合材料に関するものであり、さらに詳しくは、軽金属と鉄系金属の焼結体との複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異種の構成素材を組み合わせてできた複合材料は、構成素材の種類や体積比率を変化させることにより、従来の材料では達成できないような様々な特性を有する材料となるため、工業材料の多くの分野で極めて有用である。
【0003】
母材が金属である金属系の複合材料のひとつに、金属粉末を焼結した焼結体とその気孔部分に含浸固化された金属とからなる複合部と、複合部の少なくとも一面に一体的に形成された上記金属からなる金属部と、からなる複合材がある。上記構成をもつ複合材料では、温度変化の激しい環境、たとえば、複合材料を熱処理した後の急冷時に、複合部と金属部との熱膨張差に起因して、両者の界面において亀裂が発生することがある。特に、鉄系の焼結体とアルミニウム合金等の軽金属とからなる複合材料は、様々な分野で用いられているが、鉄系金属と軽金属との熱膨張差が大きい(たとえば、鋼では11〜12×10-6/K程度、アルミニウム合金では20〜25×10-6/K程度)ため、複合部と金属部との界面から亀裂が発生しやすい。
【0004】
そこで、特許文献1では、鉄系の焼結体とその気孔部分に含浸固化されたアルミニウム合金とからなる複合部と、アルミニウム合金からなる母材部と、からなる複合材料において、複合部と母材部との界面における熱膨張差を5×10-6/K以下とした複合材料を開示している。具体的には、鉄系の焼結体のうち、母材部と複合部との界面側に位置する焼結体をステンレス鋼の粒子で形成し、界面における熱膨張差を5×10-6/K以下とすることにより耐亀裂性を確保している。しかしながら、特許文献1に開示されている複合材料では、複合部の界面側の焼結体に用いられる粒子は、鉄系金属の中でも比較的熱膨張率が高いステンレス鋼のような材料からなる粒子に限られるため、用いることができる材料の組み合わせが限定される。
【0005】
また、特許文献2では、一方の表層が緻密層で、表層から他方の表層へ向かって気孔率が漸次増加した多孔層を有するセラミックス粒子からなる焼結体と、その焼結体の気孔に含浸固化させた金属と、からなるセラミックス−金属複合体を開示している。特許文献2の複合体では、金属の熱膨張率がセラミックスの熱膨張率よりも高いため、焼結体の体積率を表層から他の表層へ向かって漸次に減少させることにより、層厚方向の熱膨張率を緩徐に増加させている。しかしながら、粒子を用いた通常の焼結体では、焼結体の体積率を低下させるのに限界がある。そのため、さらに複合体の熱膨張率を金属の熱膨張率に近づけることは困難であり、たとえば、複合体の他方の表層側に上記金属からなる放熱層を形成した場合(実施例2、4、8、10参照)、複合体と放熱層との熱膨張差によって両者の界面に発生する亀裂を防止するまでには至らない。
【特許文献1】特開平8−229663号公報
【特許文献2】特開2001−105124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者等は、界面における熱膨張差が大きな複合材料において、粒子を用いた焼結体の替わりに体積率を低く制御しやすい繊維状の材料を用いることにより、界面における熱膨張差を最適な値にできることに想到した。
【0007】
すなわち、本発明は、上記問題点に鑑み、新規な構成からなり、界面における熱膨張差に起因する亀裂の発生を防止することができる複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合材料は、鉄系金属粒子からなる焼結体と、該焼結体の気孔部分に含浸固化された軽金属と、からなる第一複合部と、該第一複合部の少なくとも一面に一体的に形成され、ウィスカ、短繊維および長繊維のうちの1種以上からなる繊維材と、該繊維材を保持する軽金属と、からなる第二複合部と、該第二複合部を介して第一複合部と一体的に形成され、軽金属からなる軽金属部と、からなり、第二複合部の熱膨張率は、第一複合部の熱膨張率と軽金属部の熱膨張率との中間の値であることを特徴とする。この際、第一複合部、第二複合部および軽金属部の軽金属は、焼結体および繊維材に一体的に含浸され固化されているのが望ましい。
【0009】
ここで、ウィスカおよび短繊維は、たとえば、アスペクト比(径に対する長さの比)が10以上のものを想定しており、焼結体を形成する鉄系金属粒子とは形状を異にしている。
【0010】
また、前記ウィスカ、前記短繊維および前記長繊維は、その熱膨張率が前記軽金属の熱膨張率よりも低い材料からなるのがよく、さらに好ましくは、前記鉄系金属粒子の熱膨張率以下の材料からなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合材料では、上記第一複合部と上記軽金属部とで熱膨張率の差が大きい。そこで、上記構成を有する第二複合部を介して軽金属部と第一複合部とを一体的に形成することにより、第一複合部と軽金属部との熱膨張差を緩和し、耐亀裂性を向上させている。この際、第二複合部に繊維材を用いると、繊維材の体積率の制御が容易であるため、第二複合部の熱膨張率を最適な値とすることができる。
【0012】
そして、第二複合部の熱膨張率が第一複合部の熱膨張率と軽金属部の熱膨張率との中間の値であるためには、繊維材を構成するウィスカ、短繊維および長繊維の熱膨張率が、軽金属の熱膨張率よりも低い材料からなるものであればよいため、幅広い種類の材料を用いることができる。特に、鉄系金属粒子の熱膨張率以下の材料からなるものであれば、良好に複合材料の耐亀裂性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の複合材料を実施するための最良の形態を図1〜図3を用いて説明する。
【0014】
本発明の複合材料は、第一複合部と、第一複合部の少なくとも一面に一体的に形成された第二複合部と、第二複合部を介して第一複合部と一体的に形成された軽金属部と、からなる。
【0015】
第一複合部、第二複合部および軽金属部は、少なくとも第一複合部と軽金属部とが第二複合部を介して一体的に形成されていれば、複合材料を用いる部材に合わせて適宜配置を選択すればよい。たとえば、図1(右図)および図2(右図)に示すように、第一複合部1、第二複合部2、軽金属部3が互いに積層された積層体である他、図3に示すように、第一複合部1が軽金属部3に取り囲まれるように位置してもよい。
【0016】
第一複合部は、鉄系金属粒子からなる焼結体と、焼結体の気孔部分に含浸固化された軽金属と、からなる。
【0017】
焼結体は、一般的な方法で作製された焼結体であれば特に限定はない。また、鉄系金属粒子は、従来より焼結体に用いられている粒子であればよく、通常、粒径が10〜300μmであって球形または球形に近い形状が用いられる。これらの粒子は、たとえば、各種アトマイズ法や粉砕法などにより得られる。そして、鉄系金属粒子としては、純鉄粒子の他、各種合金鋼粒子(たとえばSKD系、SKH系等)、鋳鉄粒子、炭素鋼粒子などを用いることができる。
【0018】
また、焼結体は、その気孔部分に軽金属が含浸固化される程度の気孔率(焼結体の体積当たりに占める気孔の体積割合[%]。以下Vpとする。)および気孔径を有するものであればよい。気孔率が高いものや粗大な気孔を有する焼結体を用いると、焼結体の強度が低下し、焼結体に軽金属を含浸する方法によっては焼結体が損傷することがあるため好ましくない。したがって、焼結体は、その体積率(Vf=100−Vp[%])が50%以上であるのが好ましく、さらに好ましくは、60〜90%である。
【0019】
軽金属は、焼結体の気孔部分に含浸固化されるが、焼結体に軽金属を含浸させる際に焼結体が溶融したり劣化したりすることがなければ、軽金属の種類に特に限定はない。たとえば、鉄系部材を構成する鉄系金属よりも融点が低い軽金属であれば製造しやすい。具体的には、純アルミニウムやMg、Cu、Zn、Si、Mn等を含むアルミニウム合金などのアルミニウム系金属や、純マグネシウムやZn、Al、Zr、Mn、Th、希土類元素等を含むマグネシウム合金などのマグネシウム系金属であるのが好ましい。そして、第一複合部において焼結体に含浸固化される軽金属、第二複合部において繊維材(後述)を保持する軽金属、および軽金属部を構成する軽金属は、それぞれ同種の軽金属である。
【0020】
第二複合部は、ウィスカ、短繊維および長繊維のうちの1種以上(「ウィスカ等」と記載)からなる繊維材と、繊維材を保持する軽金属と、からなる。
【0021】
本発明の複合材料では、上記構成をもつ第一複合部と、軽金属からなる軽金属部と、の熱膨張差が大きい。そこで、第二複合部により第一複合部と軽金属部との熱膨張差を緩和し、耐亀裂性を向上させている。この際、第二複合部に繊維材を用いることにより、繊維材の体積率を容易に制御することができるため、第二複合部の熱膨張率を最適な値とすることができる。以下にその理由を説明する。
【0022】
なお、第二複合部の熱膨張率が「最適な値」とは、第二複合部の熱膨張率が、第一複合部の熱膨張率と軽金属部の熱膨張率との中間の値であって、第一複合部、第二複合部、軽金属部の順に熱膨張率が傾斜していることをいう。第二複合部の熱膨張率が最適な値であれば、熱膨張差に起因して複合材料に発生する亀裂を良好に防止することができる。特に、第二複合部と軽金属部との熱膨張差を6×10-6/K以下とすれば、さらに亀裂の発生を防止することができる。
【0023】
たとえば、特許文献1に開示されている複合材料では、水アトマイズ法や粉砕法により造粒され粒径が20〜180μm程度の粒子を成形し焼結して形成された焼結体を用いている。しかしながら、上記のような方法で造粒された粒子は、体積率を低く成形するのが難しく、仮に体積率の低い焼結体を作製したとしても、軽金属を含浸させる方法によっては焼結体が破損する虞がある。一方、ウィスカ等の繊維状の材料は、同じ素材で比較した場合、粒子状のものよりもかさ密度が小さい。したがって、ウィスカ等からなる繊維材であれば、粒子の場合と比較して、体積率が大きくなり難い(たとえば一般的なウィスカであれば最大でもVf=33%程度)。
【0024】
そのため、繊維材に用いられるウィスカ等は、必ずしも鉄系金属と軽金属との中間の熱膨張率の値を有する材料である必要はなく、少なくとも軽金属の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ材料であれば、複合材料とした場合に第二複合部の熱膨張率が低下しすぎることが無く、最適な値を確保することができる。特に、鉄系金属粒子の熱膨張率以下の材料からなるものであれば、第二複合部の熱膨張率を最適な値とすることが容易である。
【0025】
具体例として、仮に、第一複合部に鉄系金属の粒子からなる焼結体を、第二複合部に同じ組成の鉄系金属の短繊維からなる繊維材を、用いたとする。この場合、粒子であっても短繊維であっても、それ自体の熱膨張係数に差はないが、鉄系金属の短繊維は、粒子状態である場合よりもかさ密度が小さい。そのため、特別な方法で焼結体の体積率を小さく成形しない限り、繊維材の体積率は焼結体の体積率よりも低くなる。その結果、熱膨張率が同じ鉄系金属を用いた場合でも、第二複合部の熱膨張率を最適な値とすることができる。
【0026】
繊維材の体積率は、その値に限定があるものではなく、軽金属を含浸固化させた後、結果的に第二複合部の熱膨張率が軽金属部の熱膨張率よりも低い値となればよい。最適な範囲を挙げるならば、焼結材に純鉄粉を、繊維材としてホウ酸アルミニウムウィスカを、軽金属としてアルミニウム合金を、用いた場合には、焼結体の体積率が50〜80%、繊維材の体積率が15〜30%であると、複合材料に発生する亀裂を効果的に防止することができる。
【0027】
そして、繊維材は、繊維材に軽金属を含浸させる際や、本発明の複合材料を熱処理したり高温下で使用する際に、特性変化がなく溶出しない程度の耐熱性を有する耐熱繊維材であるのがよい。
【0028】
繊維材を構成するウィスカ等の種類としては、セラミックス系や金属系のウィスカ、短繊維、長繊維を用いるのが好ましい。セラミックスウィスカであれば、ホウ酸アルミニウムウィスカを用いるのが好ましく、その他、炭化ケイ素(SiC)ウィスカ、アルミナ(Al2 3 )ウィスカ、窒化ケイ素(Si3 4 )ウィスカ、ホウ素炭化物(B4 C)ウィスカ等が使用可能である。また、金属ウィスカであってもよい。セラミックス繊維としては、アルミナ繊維、アルミナシリカ繊維などの長繊維や短繊維が使用可能である。金属繊維としては、純鉄繊維、ステンレス鋼繊維、鋳鉄繊維などの鉄系繊維からなる長繊維や短繊維が使用可能である。また、BNコーティングなどの耐熱処理が施された炭素繊維の長繊維や短繊維であってもよい。この際、繊維材と軽金属との化学的適合性が優れた組み合わせを適宜選択して使用すればよい。
【0029】
なお、繊維材を構成するウィスカおよび短繊維は、そのアスペクト比が10以上であるのが好ましい。また、ウィスカであれば直径が1μm程度、短繊維や長繊維であれば数μm程度である一般的なウィスカ等を用いるのがよい。
【0030】
本発明の複合材料は、鋳造により製造されるのが望ましい。特に、高圧鋳造法や溶融金属浸透法などの鋳造法が適する。これらの鋳造法によれば、焼結体および繊維材に軽金属の溶湯を無気孔質に近い状態に含浸させることができる。また、加圧しつつ鋳造する方法が望ましく、鋳造時の加圧により焼結体と繊維材との間(つまり、第一複合部と第二複合部との界面)の密着性が向上し、第一複合部と第二複合部との界面からの亀裂が生じ難くなる。そして、鋳造により製造すれば、鋳造金型内で焼結体および繊維材に軽金属の溶湯を含浸させつつ軽金属からなる軽金属部を成形し、その後、軽金属の溶湯が固化することにより、第一複合部、第二複合部および軽金属部を一体的に形成できる。
【0031】
この際、繊維材は、ウィスカ等を繊維状のままで使用する他、ウィスカ、短繊維および長繊維のうちの1種以上を所望の形状に予め成形し焼結した焼結体(「焼結繊維材」とよぶ)としてもよい。たとえば、図1に示すように、鉄系金属粒子からなる焼結体1’の所望の面に繊維状のウィスカ等2’を所望の形状に堆積させてから軽金属3’を含浸固化する、または、焼結体1’と焼結繊維材2’とを別工程で作製し両者を密着させてから軽金属3’を含浸固化する、といった方法により第二複合部2を介して第一複合部1と軽金属3’からなる軽金属部3とが一体的に形成された複合材料が得られる。なお、繊維材を用いているため、ウィスカ等を堆積させるだけであっても体積率を所望の値とすることができる。
【0032】
また、上記の方法の他にも、焼結体の所望の面にウィスカ等を堆積させて一体的に焼結する、焼結体と焼結繊維材とを密着させて焼結する、または、鉄系金属粒子とウィスカ等を所望の位置に配置して焼結体と焼結繊維材とを同時に形成する、といった方法により焼結体と繊維材とを接合したものに軽金属を含浸固化させることも可能である。焼結体と繊維材とを一体的に焼結するため、焼結体と繊維材とを強固に接合でき、その結果、第一複合部と第二複合部との界面の密着性が向上し、第一複合部と第二複合部との界面からの亀裂が生じ難くなる。特に、繊維材として鉄系繊維を用いた場合には、鉄系金属粒子やその焼結体と鉄系繊維とを一体的に焼結することにより、焼結体と繊維材とをより強固に接合できる。
【0033】
なお、粒子からなる焼結体では、焼結後の離型の際の摩擦などにより焼結体の表面に開口した気孔が詰まりやすいが、ある程度の長さを有するウィスカ等からなる焼結繊維材では、成形時の体積率が低いため型との摩擦が小さくなり上記のような現象が起こりにくい。そのため、焼結繊維材は、その表面が粗いため、第一複合部、第二複合部および軽金属部を一体的に形成した際に、それぞれの界面との結合性がよく密着性に優れ、界面からの亀裂が生じ難くなる。その結果、熱膨張差に起因する界面の亀裂を防止する効果が良好となる。
【0034】
また、繊維材として不織布を用いれば、繊維材を所望の位置に配置し難い形状の部材や、複雑な形状の部材にも第二複合部を容易に形成することができる。たとえば、図2のように、中空円筒形状の部材であって、その厚さ方向の中央部に第二複合部が位置するように形成する場合を説明する。あらかじめ、円柱形状の治具4と同軸的に成形され焼結された円筒形状の焼結体1’は、不織布2’が外周面に密着するように被覆された状態で、金型40内に設置される。その後、軽金属の溶湯を金型40に注入し、焼結体1’および不織布2’に軽金属を一体的に含浸固化させることにより、第一複合部と、第二複合部と、軽金属部と、が中空円筒形状の部材の厚さ方向に互いに積層された積層体である複合材料が得られる(図2の右図)。また、本発明の複合材料の一例として、図3に示すように、第一複合部1の一部が第二複合部2および軽金属部3に取り囲まれて位置する複合材料も考えられるが、このような断面を有する複合材料を形成する際にも不織布を用いることができる。
【0035】
上記のように繊維材として不織布を用いることにより、繊維材を焼結して焼結繊維材を作製する手間が無くなる。また、形状が複雑であったり、焼結体と焼結繊維材とを一度に成形できない(型の分割が必要な場合)、または、焼結体と繊維材とを密着させることが困難な形状の部材であっても、第二複合部を形成したい焼結体の部分に単に不織布を密着させればよいため、簡便な方法である。
【0036】
なお、焼結体と繊維材(不織布)とを「密着させる」とは、焼結体と繊維材とに軽金属を含浸する際に、両者の界面に軽金属のみからなる部分が形成されない程度に密着されている状態であればよい。
【0037】
上記のような構成を有する本発明の複合材料は、高強度を有し、軽量であるため、エンジンブロック、油圧ポンプ、圧縮機などの各種部品に好適に用いることができる。中でも、圧縮機構および該圧縮機構でガスを圧縮する作動空間を内蔵するハウジングを有する圧縮機において、ハウジングやシリンダの少なくとも一部が本発明の複合材料からなる圧縮機であるのが望ましい。ハウジングやシリンダが本発明の複合材料により形成されている圧縮機は、軽量かつ耐圧性、耐熱性に優れた圧縮機となる。さらに、軽金属部や焼結体の調質のために熱処理を施しても、焼入れ等の際に発生する亀裂が防止される。
【0038】
本発明の複合材料を圧縮機のハウジングとして用いる際には、軽金属としてアルミニウム系金属やマグネシウム系金属を用いるのが望ましい。また、第一複合部の焼結体は、強度維持の観点から、体積率Vf=60〜90%であるのが望ましい。
【0039】
また、本発明の複合材料は、略中空円筒形状のハウジングにおいて、その厚さ方向に第一複合部、第二複合部および軽金属部が互いに積層され積層体を形成しているのが望ましい。すなわち、内側面部に第一複合部、外側面部に軽金属部、が位置する(図2参照)ように形成されたハウジングや、また、内側面部と外側面部に軽金属部、中央部に第一複合部、が位置するように形成されたハウジングであるのがよい。また、ハウジングのうち、特に耐圧性が要求される部分にのみ第一複合部が位置する(たとえば、図3を軸方向または軸芯方向の断面の一部としたもの)ような配置としてもよい。
【0040】
なお、本発明の複合材料は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、他の構成を追加してもよい。たとえば、第一複合部と第二複合部との熱膨張差が大きい場合には、第一複合部と第二複合部との界面に第3の複合部を設け、熱膨張率を傾斜させてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の複合材料の実施例を説明する。
【0042】
[熱膨張測定試験片の作製]
鉄系金属粒子(JFEスチール株式会社製アトマイズ鉄粉(純鉄粉)KIP300A:粒径45〜180μm)、および、ホウ酸アルミニウム(9Al23・2B23)ウィスカ(四国化成工業株式会社製アルボレックス:繊維径0.5〜1.0μm、繊維長10〜30μm)を準備した。
【0043】
鉄系金属粒子およびホウ酸アルミニウムウィスカは、所定の形状にそれぞれ成形したものを所定の温度で焼結し、プリフォームを作製した。作製したプリフォームの体積率を表1に示す。そして、プリフォームを高圧鋳造金型のキャビティの所定の位置に配置し、キャビティにアルミニウム合金(A2024)の溶湯を注入し、100MPaの鋳造圧力で加圧した。こうして、それぞれのプリフォームにアルミニウム合金を含浸固化し、複合材料の第一複合部(2種類)および第二複合部に相当する熱膨張測定試験片を得た。
【0044】
また、プリフォームを用いない他は上記手順と同様にして、複合材料の軽金属部に相当する熱膨張測定試験片を得た。
【0045】
そして、作製した熱膨張測定試験片について、50℃から200℃まで温度を変化させた場合の、それぞれの熱膨張係数を石英の押し棒式で変位を検出することにより測定した。測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記試験によれば、第一複合部と軽金属部とでは熱膨張差が10×10-6/K以上であるが、第二複合部と軽金属部との熱膨張差は5.2×10-6/Kとなる。そのため、第一複合部と軽金属部とが第二複合部を介して一体的に形成された複合材料とした場合に、第二複合部により第一複合部と軽金属部との熱膨張差が緩和され、熱膨張差に起因して生じる亀裂の発生を防止できる。
【0048】
なお、上記の鉄系金属粒子からなるプリフォームとホウ酸アルミニウムウィスカからなるプリフォームとを積層し密着させた状態で、高圧鋳造法によりプリフォームにアルミニウム合金の溶湯を含浸させるとともに、ホウ酸アルミニウムウィスカ側(第二複合部側)にアルミニウム合金からなる軽金属部を形成することにより、本発明の複合材料が得られる。この際、第二複合部の厚さは約5mmとした。なお、第二複合部の厚さは、1〜10mmであれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の複合材料を示す模式図であって、軽金属の含浸前(左図)と含浸固化後(右図)の断面図である。
【図2】本発明の複合材料で形成された中空円筒形状の部材を示す模式図であって、軽金属の含浸前の軸方向断面図(左図)と含浸固化後の軸芯方向断面図(右図)である。
【図3】本発明の複合材料の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 :第一複合部
2 :第二複合部
3 :軽金属部
1’:(鉄系金属粒子からなる)焼結体
2’:繊維材
3’:軽金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属粒子からなる焼結体と、該焼結体の気孔部分に含浸固化された軽金属と、からなる第一複合部と、
該第一複合部の少なくとも一面に一体的に形成され、ウィスカ、短繊維および長繊維のうちの1種以上からなる繊維材と、該繊維材を保持する軽金属と、からなる第二複合部と、
該第二複合部を介して前記第一複合部と一体的に形成され、軽金属からなる軽金属部と、
からなり、前記第二複合部の熱膨張率は、前記第一複合部の熱膨張率と前記軽金属部の熱膨張率との中間の値であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記第一複合部、前記第二複合部および前記軽金属部は、軽金属を前記焼結体および前記繊維材に一体的に含浸固化して互いに積層された積層体を形成する請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
前記軽金属は、アルミニウム系金属またはマグネシウム系金属である請求項1記載の複合材料。
【請求項4】
前記繊維材は、耐熱性を有する耐熱繊維材である請求項1記載の複合材料。
【請求項5】
前記繊維材は、前記ウィスカ、前記短繊維および前記長繊維のうちの1種以上を成形し焼結した焼結繊維材である請求項1記載の複合材料。
【請求項6】
前記繊維材は、不織布である請求項1記載の複合材料。
【請求項7】
前記ウィスカおよび前記短繊維は、そのアスペクト比が10以上である請求項1記載の複合材料。
【請求項8】
前記ウィスカ、前記短繊維および前記長繊維は、その熱膨張率が前記軽金属の熱膨張率よりも低い材料からなる請求項1記載の複合材料。
【請求項9】
前記ウィスカ、前記短繊維および前記長繊維は、その熱膨張率が前記鉄系金属粒子の熱膨張率以下の材料からなる請求項1記載の複合材料。
【請求項10】
前記ウィスカは、セラミックスウィスカである請求項1記載の複合材料。
【請求項11】
前記セラミックスウィスカは、ホウ酸アルミニウムウィスカである請求項10記載の複合材料。
【請求項12】
前記短繊維または前記長繊維は、金属繊維またはセラミックス繊維である請求項1記載の複合材料。
【請求項13】
前記金属繊維は、鉄系繊維である請求項12記載の複合材料。
【請求項14】
前記短繊維または前記長繊維は、炭素繊維である請求項1記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−61936(P2006−61936A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246339(P2004−246339)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】