説明

複数のターボチャージャを備えた過給式エンジンの診断装置

【課題】複数のターボチャージャと複数の制御バルブを備えたエンジンにおいて、各制御バルブの作動を監視し、異常時には、作動不良の制御バルブを正確に特定する。
【解決手段】エンジン1には、高圧段ターボチャージャHTC及び低圧段ターボチャージャLTCが装備されるとともに、それらを制御するバイパスバルブ51、ウエイストゲートバルブ61及びバイパス絞り弁71が設置される。これらの制御バルブの作動を診断するため、エンジン制御装置ECUには診断装置8が設けてあり、診断装置8では、エンジン1のシリンダに供給される吸気圧を検出し、これが予め記憶された正常時の吸気圧の範囲内にあるか否かを判定する。さらに、正常時の吸気圧の範囲から外れたときは、上記の制御バルブを単独で順次作動して吸気圧の変化を検出し、吸気圧に所定の変化がない制御バルブを作動不良のバルブと特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のターボチャージャを備え、エンジンシリンダに供給される空気等を加圧する過給式エンジンにおける診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸入空気量を増加させるため、吸気通路に吸入空気加圧用のコンプレッサを配置し、これを排気通路に設置したタービンで駆動するターボチャージャは、エンジンを高出力化する手段としてよく知られており、車両用のエンジンでも、小型軽量化、燃料経済性の向上(燃料消費率の低減)等を目的として広く採用されている。車両用のターボチャージャでは、エンジンの負荷変動に応じてターボチャージャの作動を最適な状態に制御することが望ましく、そのため、排気通路に設置したタービンにバイパス通路を設け、タービンに作用する排気ガス量を調整するいわゆるウエイストゲートバルブ(バイパスバルブと呼ばれる場合もある)を設けるものが多い。タービンの排気ガス入口に可変ノズル等を設け、エンジンの負荷変動に対応してタービン容量を変更するいわゆるVNTターボが用いられることもある。
【0003】
ターボチャージャを備えたエンジンにおいて、さらなる出力あるいは燃料消費率の改善を目指して、近年では、複数のターボチャージャを装備し、エンジンの種々の特性に合わせた過給を行う過給方式の開発が行われている。このような過給方式としては、例えば、低圧段ターボチャージャと高圧段ターボチャージャとを直列に配置した2段ターボチャージャが知られている。一般的に、ターボチャージャで用いられるコンプレッサは、空気流量に応じて効率が変化する特性を有しており、2段ターボチャージャの低圧段と高圧段のターボチャージャには、特性の異なるコンプレッサが使用される。
【0004】
2段ターボチャージャを装備し、運転状態に対応して低圧段ターボチャージャ及び高圧段ターボチャージャの作動を制御するエンジンについて、図4によって説明する。
エンジン1には、低圧段ターボチャージャLTC及び高圧段ターボチャージャHTCが直列に設置されており、エンジン吸気通路において、低圧段コンプレッサLCの出口が高圧段コンプレッサHCの入口に接続され、圧縮空気を冷却する空気冷却器2を介してエンジン1の吸気マニホールド3に連結される。エンジン1の排気マニホールド4には、高圧段タービンHTと低圧段タービンLTとが直列に接続されるとともに、高圧段タービンHTをバイパスして排気ガスを直接低圧段タービンLTに導くバイパス管路5が設けられ、その管路にはバイパスバルブ51が配置されている。また、低圧段タービンLTをバイパスする低圧バイパス管6が設けてあり、その管路にはウエイストゲートバルブ61が配置される。吸気通路の高圧段コンプレッサHCには、これをバイパスする吸気バイパス通路7とバイパス絞り弁71が設けられている。
【0005】
エンジンが低速低負荷で運転されている場合には、排気マニホールド4に連結されたバイパス管路5のバイパスバルブ51を閉鎖し、かつ、ウエイストゲートバルブ61の開度を大とする。これによって、排気ガスは主に高圧段タービンHTにおいて膨張して高圧段コンプレッサHCを駆動する。高圧段コンプレッサHCには小流量域で高効率となるコンプレッサが採用されているので、エンジンの低速低負荷時における排気エネルギが効率よく利用され燃料消費率が低減する。エンジンの負荷が高まるにつれ、バイパスバルブ51の開度を増加してウエイストゲートバルブ61の開度を減少する。高速高負荷の運転状態になると、排気ガスが低圧段タービンLTに直接導入されて実質的に低圧段コンプレッサLCによって吸入空気が圧縮され、吸気バイパス通路7のバイパス絞り弁71が開放される。低圧段コンプレッサLCは大流量域で高効率となる特性を有しているので、高速高負荷時には、エンジン1に大量の空気が効率的に供給されることとなる。このような2段ターボチャージャは、一例として、本出願人の先行出願に係る特開2007−154684号公報に開示されている。
【0006】
複数のターボチャージャを装備し、エンジンの種々の特性に合わせた過給を行う過給方式は、2個のターボチャージャを直列に配置した2段ターボチャージャに限られるものではない。例えば、特許第3117784号公報には、2個のターボチャージャを並列に配置し、エンジンの負荷に応じて、1個のターボチャージャを使用するモードと2個のターボチャージャを使用するモードとを切り換える、シーケンシャルターボと称する過給方式が開示されている。
また、実公平2−41308号公報には、それぞれウエイストゲートバルブを備える2個のターボチャージャを並列に配置したエンジンにおいて、ウエイストゲートバルブの作動不良を診断するため、各ターボチャージャのコンプレッサの過給圧力を比較する方法が記載されている。この公報に開示されたエンジンには、図5に示すとおり、2個のターボチャージャTCA、TCBが並列に配置してあり、それぞれのターボチャージャは、ウエイストゲートバルブWA、WBにより制御される。これらのウエイストゲートバルブWA、WBは、各ターボチャージャのコンプレッサの吐出圧力で駆動されるダイヤフラム式空気アクチュエータDA、DBにより操作される。各ターボチャージャの吐出圧力は、診断装置を構成する圧力スイッチPSにも導入されており、圧力スイッチPSでは、両方の吐出圧力を比較して所定の差圧が生じると警報を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−154684号公報
【特許文献2】特許第3117784号公報
【特許文献3】実公平2−41308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ターボチャージャの作動を制御するには、タービンに作用する排気ガス量を調整するウエイストゲートバルブ等が使用されるが、これらの制御用バルブは、例えばダイヤフラム式空気アクチュエータを用いてエンジンの高温の排気ガス中で開閉される。そのため、熱膨張の影響や排気ガス中の煤等のかみ込みに起因して、制御用バルブの弁軸などに固着が生じ易い。固着が発生すると、エンジンの運転状態に応じた過給圧の適正な制御が不可能となるばかりでなく、場合によっては、ターボチャージャのオーバランによるエンジン等の破損を招くことがある。
【0009】
複数のターボチャージャを装備する過給式エンジンでは、ターボチャージャの作動を制御する制御用バルブの数が増加し制御系統も複雑となるので、固着等、制御バルブの作動不良の起こる頻度が増えることとなる。上述したように、特許文献3には、2個のターボチャージャを並列に配置したエンジンに診断装置を設けることが開示されており、この診断装置では、各ターボチャージャのコンプレッサの吐出圧力を比較し、これが大きいターボチャージャでウエイストゲートバルブが開放不能になったと判断する。しかし、実際にはウエイストゲートバルブが開いたままで固着して閉鎖不能となる場合もあり、このときは各コンプレッサの吐出圧力の大小関係が逆になるため、各ターボチャージャのコンプレッサの吐出圧力を比較するだけでは、固着の生じたウエイストゲートバルブを正確に特定することができない。
本発明は、複数のターボチャージャとこれを制御する複数の制御バルブを備えたエンジンにおいて、各制御バルブの作動を総合的に監視するとともに、異常が生じたときは、作動不良を起こした制御バルブを正確に特定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は、複数のターボチャージャを装備する過給式エンジンにおいて、エンジンのシリンダに供給される吸気圧(ブースト)を検出し、これに異常が生じたと判断されたときは、各制御用バルブを単独で順次操作して、作動不良の制御バルブを正確に特定するものである。すなわち、本発明は、
「複数のターボチャージャと、これらのターボチャージャを制御する複数の制御バルブとを備えた過給式エンジンの診断装置であって、
前記過給式エンジンは、前記過給式エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記過給式エンジンのシリンダに供給される吸気圧を検出する吸気圧検出手段とを備えており、さらに、
前記診断装置は、前記運転状態検出手段で検出した運転状態が予め設定した診断実施運転状態であるときに、前記吸気圧検出手段で検出された吸気圧が予め設定した吸気圧の範囲にあるか否かを判断し、かつ、予め設定された吸気圧の範囲にないときは、前記複数の制御バルブを各々単独で順次作動させてそのときの吸気圧の変化を検出し、吸気圧に所定の変化が検出されない制御バルブを作動不良と判断する」
ことを特徴とする過給式エンジンの診断装置となっている。
【0011】
請求項2に記載のように、前記診断装置は、前記過給式エンジンの正常時における運転状態に対応する吸気圧を記憶した正常時吸気圧記憶手段を備えており、前記予め設定された吸気圧の範囲が、前記正常時吸気圧記憶手段に基づき決定されるよう構成されていることが好ましい。
【0012】
請求項3に記載のように、本発明の診断装置は、低圧段ターボチャージャ及び高圧段ターボチャージャを直列に配置した2段ターボチャージャを備えており、前記低圧段ターボチャージャ及び高圧段ターボチャージャには、タービンをバイパスする排気ガス通路と制御バルブとがそれぞれ設置されている過給式エンジンに好適なものである。
【発明の効果】
【0013】
複数のターボチャージャとこれを制御する複数の制御バルブを備えた過給式エンジンにおいて、主に制御バルブの不具合を監視する本発明の診断装置には、運転状態検出手段と吸気圧検出手段とが設けてあり、これらによりエンジンの運転状態とシリンダに供給される吸気圧(ブースト)を検出する。そして、診断装置では、運転状態が予め設定した診断実施運転状態であるときに、まず、吸気圧が予め設定した吸気圧の範囲にあるか否かを判断している。
過給式エンジンの吸気圧は、ターボチャージャ及び制御バルブ等が正常に作動している限り、例えば回転数、燃料噴射量等で定まる運転状態に対応して、予め定められた範囲内にある。この吸気圧は、複数の制御バルブの中でいずれのものが固着等の作動不良を起こしたとしても正常の範囲から逸脱することになる。本発明の診断装置では、吸気圧が予め設定した吸気圧の範囲から外れたときに制御バルブに異常が生じたと判断し、複数の制御バルブを各々単独で順次作動させる。このとき、吸気圧に所定の変化が検出されない場合は、単独で作動させた制御バルブが作動不良であると判断できる。固着等を起こした制御バルブを特定するには、例えば、個々の制御バルブに開度位置検出用のポジションセンサ等を装着するなどの方法が考えられるが、本発明の診断装置では、こうした機器を用いることなく作動不良を起こした制御バルブの正確な特定が可能となり、迅速な修理や部品交換を行うことができる。
【0014】
また、本発明の診断装置では、運転状態が診断実施運転状態であるときに、吸気圧が正常な範囲にあるか否かをまず判断し、吸気圧が異常な場合にのみ、複数の制御バルブを順次作動させる操作を行う。吸気圧が正常か否かの判断がエンジンの運転になんら影響を及ぼさないのに対し、診断のため制御バルブを単独で作動する操作は、エンジンの作動に影響を与えるので、なるべく実行しないことが望ましい。何れかの制御バルブの作動不良が検知されたときのみに制御バルブを単独で操作し、正常時には操作を実施しない本発明の診断装置は、この点でも有効なものである。
【0015】
本発明の診断装置は、正常、異常を判断するため、診断実施運転状態であるときに吸気圧が予め設定した吸気圧の範囲にあるか否かを判断する手段を有している。この手段としては、診断実施運転状態を特定の限られた運転状態(例えば、回転数、燃料噴射量の特定の狭い範囲)として、そのときの吸気圧が設定範囲にあるかどうかを判定することもできるが、こうすると、診断を実施する運転状態の実現する頻度が非常に小さくなる。これに対し、請求項2に記載の発明では、過給式エンジンの正常時における運転状態に対応する吸気圧を記憶した正常時吸気圧記憶手段を、例えば、エンジン制御装置に設け、これに基づいて設定範囲を決定するので、運転状態に対応した正常の吸気圧を多数記憶しておくことができる。したがって、診断実施運転状態を広い運転状態に設定することができ、診断を実施する機会が大幅に増大する。
【0016】
そして、本発明の診断装置は、複雑な過給システムを装備するエンジンの診断に適しており、ことに、請求項3に記載の発明のように、低圧段及び高圧段ターボチャージャを直列に配置した2段ターボチャージャを備え、これらのターボチャージャのタービンがウエイストゲートバルブにより制御される過給式エンジンに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の診断装置を備えた過給式エンジンの一例を示す図である。
【図2】本発明の診断装置のフローチャートである。
【図3】本発明の診断装置の作動不良制御バルブ特定ルーチンを示す図である。
【図4】従来の2段過給エンジンの管路構成等を示す概要図である。
【図5】従来の過給エンジンの警報装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、複数のターボチャージャを装備し、本発明の診断装置を備えた過給式エンジン(ディーゼルエンジン)について説明する。図1は、本発明の診断装置を図4の2個のターボチャージャを直列に配置する2段ターボチャージャ付エンジンに適用した実施例を示すものであり、図4の部品や装置と対応するものについては、同一の符号が付してある。
【0019】
本発明の診断装置を備えた図1に示す過給式エンジンにおいて、2個のターボチャージャの構成及び作動、エンジン吸気通路及び排気通路の構成等は、基本的に図4の従来例のエンジンと変わりはない。すなわち、エンジン1には、大容量型の低圧段ターボチャージャLTC及び小容量型の高圧段ターボチャージャHTCが直列に設置され、エンジン1の吸気通路において、低圧段コンプレッサLCの出口は高圧段コンプレッサHCの入口に接続される。高圧段コンプレッサHCには、これをバイパスする吸気バイパス通路7とバイパス絞り弁71が設けられている。エンジン1の排気通路には、高圧段タービンHTと低圧段タービンLTとが直列に配置されるとともに、これらのタービンをバイパスする管路には、バイパスバルブ51及びウエイストゲートバルブ61が設置される。バイパス絞り弁71、バイパスバルブ51及びウエイストゲートバルブ61は、ターボチャージャの作動を制御する制御バルブを構成するものであり、通常はエンジンの作動を制御するエンジン制御装置(ECU)によってその開閉状態が制御される。
【0020】
本発明の過給式エンジンでは、エンジン制御装置(ECU)内に、制御バルブの作動を診断する診断装置8が設けられている。この診断装置8には、エンジンシリンダに供給される吸気圧の信号が、高圧段コンプレッサHCの下流に置かれた吸気圧センサ9から入力される。また、診断装置8は、必要時には操作信号を出力し、制御バルブであるバイパス絞り弁71、バイパスバルブ51又はウエイストゲートバルブ61を単独で操作できるよう構成されている。
【0021】
本発明の診断装置8の作動について、図2及び図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
図2において、制御バルブ診断のフローチャートがスタートすると、まず、現在のエンジン運転状態の検出(ST1)及び現在の吸気圧PAの検出(ST2)が行われる。エンジン運転状態としては、この実施例では、エンジンの回転数N及び燃料噴射量QがECUから読み込まれる。次いで、検出された現在のエンジン運転状態が、制御バルブ診断に適した運転状態として予め設定した診断実施運転状態であるか否かが判定される(ST3)。
【0022】
この実施例の診断装置8は、エンジンの正常時における運転状態に対応する吸気圧を記憶した正常時吸気圧記憶手段を備えており、正常時吸気圧記憶手段は、回転数Nと燃料噴射量Qとをパラメータとして正常時の吸気圧PDを定めた図2のマップMの形で診断装置8に格納されている。ステップST3で診断実施運転状態であると判断されると、現在のエンジン運転状態に対応する正常時の吸気圧PDがマップMから読み込まれ(ST4)、さらに、現在の吸気圧PAが吸気圧PDと所定値α以上乖離しているか否かの判断が行われる(ST5)。所定値αは測定誤差等を考慮しながら定められる数値であって、ステップST5の判断は、現在の吸気圧PAが予め設定した吸気圧(正常値)の範囲内にあるか否かを判定するものである。
この実施例におけるマップMは、複数のターボチャージャの中少なくとも1つが作動するような、いわば通常時の運転状態を広くカバーしている。そのため、こうしたマップを使用して吸気圧の正常、異常を判断すると、殆ど全ての運転状態で制御バルブの診断を実施することができる。
【0023】
ステップST5において、現在の吸気圧PAが正常値の範囲から外れると判断されたときは、バイパス絞り弁71、バイパスバルブ51又はウエイストゲートバルブ61の何れかに作動不良が生じたとして、後述する作動不良制御バルブ特定のルーチン(ST6)に進む。ただし、作動不良が生じるのは稀なケースであって、大部分の診断実施時にはこのルーチンに進むことはない。ステップST5までの手順は、エンジンの運転に何ら影響を与えることなく実行できるから、診断の実施によりエンジンの運転に支障が生じることは殆どない。なお、図2のフローチャートは、制御バルブ等の異常を迅速に発見して対処し得るように、適当な時間間隔(例えば1分毎)で繰り返し実行される。
【0024】
図3に、作動不良制御バルブ特定のルーチン(ST6)のフローチャートを示す。このルーチンは、制御バルブを各々単独で順次作動させてそのときの吸気圧の変化を検出するものであるが、この実施例では、例えば、バイパス絞り弁71をN=1の制御バルブ、バイパスバルブ51をN=2の制御バルブ、ウエイストゲートバルブ61をN=3の制御バルブとし、各々の制御バルブを反転(正常時には閉じているはずのものであればこれを開くようアクチュエータを駆動する等)して診断のための作動を実行する。
【0025】
作動不良制御バルブ特定のルーチンでは、まず、反転させる制御バルブを特定(ST61)し、吸気圧センサ9で検出した、反転させる前の運転状態における吸気圧PXを保存する(ST62)。次いで、特定した制御バルブを反転して(ST63)、そのときの吸気圧PYを検出、保存する(ST64)。さらに、PXとPYとの間に、正常に作動しているときに予想される差が存在するかどうか、つまり、吸気圧に所定の変化が検出されるかどうかが判断される(ST65)。そして、変化が検出されなければ、特定した制御バルブが固着していると判定し、特定した制御バルブが固着したときのバックアップ処理(例えば、燃料噴射量の制限あるいはエンジンの停止)を実施する(ST66)。
【0026】
ステップST65の判断で吸気圧に所定の変化が検出されたとき又はステップST66の処理が終了したときは、Nを一つ増やし(ST67)別の制御バルブで同様な手順を実行する。全ての制御バルブで診断が終了すると(ST68)、作動不良の制御バルブを特定できるので、作動不良制御バルブ特定のルーチン(ST6)と制御バルブ診断の全体のフローチャート(図2)が終わることとなる。
【0027】
以上詳述したように、本発明は、複数のターボチャージャとこれを制御する複数の制御バルブを備えたエンジンにおいて、エンジンのシリンダに供給される吸入空気の吸気圧を検出し、異常が生じたと判断されたときは、各制御用バルブを単独で順次操作して、作動不良の制御バルブを特定するものである。上記の実施例では、複数のターボチャージャを直列に配置した2段ターボエンジンに本発明を適用した場合について説明しているが、本発明がターボチャージャを並列に配置した過給式エンジンに適用できることは言うまでもない。また、上記の実施例では、吸気圧が正常範囲内にあるか否かを判定するに際し、診断装置内に吸気圧の正常値を記憶したマップを格納して行っているが、正常値を運転状態を表すパラメータから演算により求めるなど、実施例に対して種々の変形が可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0028】
HTC 高圧段ターボチャージャ
HC 高圧段コンプレッサ、 HT 高圧段タービン
LTC 低圧段ターボチャージャ
LC 低圧段コンプレッサ、 LT 低圧段タービン
1 エンジン
5 高圧バイパス管
51 バイパスバルブ
6 低圧バイパス管
61 ウエイストゲートバルブ
7 吸気バイパス通路
71 バイパス絞り弁
8 診断装置
9 吸気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のターボチャージャと、これらのターボチャージャを制御する複数の制御バルブとを備えた過給式エンジンの診断装置であって、
前記過給式エンジンは、前記過給式エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記過給式エンジンのシリンダに供給される吸気圧を検出する吸気圧検出手段とを備えており、さらに、
前記診断装置は、前記運転状態検出手段で検出した運転状態が予め設定した診断実施運転状態であるときに、前記吸気圧検出手段で検出された吸気圧が予め設定した吸気圧の範囲にあるか否かを判断し、かつ、予め設定された吸気圧の範囲にないときは、前記複数の制御バルブを各々単独で順次作動させてそのときの吸気圧の変化を検出し、吸気圧に所定の変化が検出されない制御バルブを作動不良と判断することを特徴とする過給式エンジンの診断装置。
【請求項2】
前記診断装置は、前記過給式エンジンの正常時における運転状態に対応する吸気圧を記憶した正常時吸気圧記憶手段を備えており、前記予め設定された吸気圧の範囲が、前記正常時吸気圧記憶手段に基づき決定される請求項1に記載の過給式エンジンの診断装置。
【請求項3】
前記過給式エンジンは、低圧段ターボチャージャ及び高圧段ターボチャージャを直列に配置した2段ターボチャージャを備えており、前記低圧段ターボチャージャ及び高圧段ターボチャージャには、タービンをバイパスする排気ガス通路と制御バルブとがそれぞれ設置されている請求項1又は請求項2に記載の過給式エンジンの診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−216402(P2010−216402A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65405(P2009−65405)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】