複数の産物を伴うZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素及びセスキテルペン合成酵素をコード化する遺伝子及びその使用
本発明は、Z,Z−FPP合成酵素及びセスキテルペンSB合成酵素を含む、SB型のセスキテルペン(アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテン)及びその前駆体Z,Z−ファルネシル二リン酸(ZZ−FPP)の生合成経路に関与する遺伝子、ならびに、SB型のセスキテルペン化合物を産生するためのその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セスキテルペンの混合物の合成に関与する2つの遺伝子ならびに細菌、酵母、動物細胞、及び植物などの生きた生物における該化合物を調製するためのそれらの使用に関する。
【0002】
序論
テルペンは、細菌、カビ、動物、及び植物などの全ての生きた生物に存在する分子である。それらは生物界において天然産物の最大の分類を形成する。植物において、これらの分子はホルモン(ジベレリン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、及びアブシシン酸)として、又は、光合成(カロチノイド、クロロフィル、プラストキノン、及びフィトール)、タンパク質プレニル化過程、及び膜構造(ステロール)に関与する化合物として、一次代謝において役割を果たす。しかし、二次代謝から生ずるテルペノイドは、分子のこの分類での構造的多様性の大部分を占める。いわゆる二次テルペノイド(secondary terpenoid)は、主に、例えば、植物に有益な昆虫の誘引(受粉及び植食性昆虫の捕食者)、病原体及び昆虫に対する防御、ならびに光酸化ストレスに対する保護などの環境相互作用において役割を果たす(Tholl, 2006)。
【0003】
テルペンは複数の5炭素イソプレニル単位で構成される。含まれるイソプレニル単位の数に従って、テルペンは、モノテルペン(10個の炭素原子又はC10を伴う化合物)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)などに分類される。全てのテルペンの普遍的な前駆体は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)である。2つの別々の経路が、IPP及びDMAPPの形成をもたらす。1つのメバロン酸(MEV)経路は真核細胞の細胞質中に位置しており、他方のメチル−エリトリトール(MEP)経路は、それが葉緑体中に位置する一部の細菌及び植物においてのみ公知である(Rodriguez-Concepcion and Boronat, 2002)。これらの2つの経路における全ての階段及び階段の酵素をコード化する全ての遺伝子は、一定数の生物において公知である。
【0004】
共通の前駆体であるIPP及びDMAPPからのテルペン生合成の第一段階は、プレニル二リン酸合成酵素(又はプレニルトランスフェラーゼ)により実施され、それは、ホモアリル前駆体であるIPP及びアリル前駆体(DMAPP、ゲラニル二リン酸、ファルネシル二リン酸、あるいはゲラニルゲラニル二リン酸)の縮合により、多様な長さのプレニル二リン酸鎖を生成する。プレニル二リン酸合成酵素の2つの主な分類が存在する:シス−プレニルトランスフェラーゼ又はZ−プレニルトランスフェラーゼ及びトランス−プレニルトランスフェラーゼ又はE−プレニルトランスフェラーゼ。シス−プレニルトランスフェラーゼはシス−配置で二重結合の形成をもたらし、トランス−プレニルトランスフェラーゼはトランス配置で二重結合の形成をもたらす(Koyama, 1999)。例えば、トランス−ファルネシル二リン酸合成酵素、又はE−FPS、によるDMAPPへの2単位のIPPの連続付加によって、E,E−ファルネシル二リン酸(E,E−FPP、C15)が生じる。鎖伸長反応は、二リン酸イオンの除去後のアリル型カチオンの形成により開始し、アリルプレニルを形成する。次に、1個のIPPを加え、2番目の位置でプロトンが立体特異的に除去され、産物中に新しいC−C結合及び新しい二重結合を形成する。アリルプレニル二リン酸を伴うIPPのこの立体特異的縮合の反復は、その鎖長及び立体化学が各々の酵素に特異的であるプレニル二リン酸の合成をもたらす。特に、終産産物の鎖長は大幅に変動し、C10(ゲラニル二リン酸)から、数千の炭素原子で構成される天然ラテックスの前駆体であるポリプレニル二リン酸にまで及ぶ。
【0005】
先に言及した通り、プレニルトランスフェラーゼは各々の伸長サイクル後に形成される二重結合の立体化学(E又はZ)に基づき2つの異なる遺伝子系統に分けることができる(Poulter, 2006; Liang et al., 2002)。
【0006】
今までに特性付けられたE−プレニルトランスフェラーゼは、E配置を有する短鎖プレニルリン酸(C10からC50)の合成をもたらす。例として、ゲラニル二リン酸合成酵素(GPS)、ファルネシル二リン酸合成酵素(FPS)、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素(GGPS)、オクタプレニル二リン酸合成酵素(OPS)、ソラネシル二リン酸合成酵素(SPS)、及びデカプレニル二リン酸合成酵素(DPS)が挙げられ、それぞれ(E)−GPP(C10)、(E,E)−FPP(C15)、(E,E,E)−GGPP(C20)、(E,E,E,E,E,E,E)−OPP(C40)、(E,E,E,E,E,E,E,E)−SPP(C45)、及び(E,E,E,E,E,E,E,E,E)−DPP(C50)の合成を触媒する。一般的に、(E,E)−FPPは、20個を上回る炭素での鎖合成に関与するプレニルトランスフェラーゼの基質であることに注目すべきである。(E)−プレニルトランスフェラーゼをコード化する最初に特性付けされた遺伝子は、ラットのFPSをコード化する遺伝子であった(Clarke et al., 1987)。E−プレニルトランスフェラーゼコード配列の配列整列によって、DDXXD型の2つの保存モチーフが明らかにされている。FPSによるX線結晶構造解析(Tarshis et al., 1994)ならびに部位特異的変異誘発試験により初めて決定されたE−プレニルトランスフェラーゼの三次元構造によって、2つのDDXXDモチーフが基質結合及び結果として得られる触媒活性に関与することが示された。最後に、第1のDDXXDモチーフの上流に位置する少数の特定アミノ酸によって、合成されるイソプレニル鎖の長さが決定されることが示されている(Wang & Ohnuma, 1999)。
【0007】
Z−プレニルトランスフェラーゼをコード化する第1の遺伝子が、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)においてクローン化された(Shimizu et al., 1998)。この遺伝子はウンデカプレニルトランスフェラーゼ(UPS)をコード化し、それはE−FPPを基質として使用し、Z,E立体化学を伴う55炭素プレニル二リン酸を形成する。この分子は、一部の細菌における細胞壁のペプチドグリカン生合成に関与する。シロイヌナズナ(Arabidopsis)において特性付けされた相同配列が、100から130個の炭素原子を有するZ,E−イソプレニル二リン酸の合成に関与することが示された(Oh et al., 2000)。これらの酵素のアミノ酸配列分析によってE−プレニルトランスフェラーゼへの相同性は全く明らかにされなかった(Koyama, 1999)。特に、Z−プレニルトランスフェラーゼは、アスパラギン酸に富むモチーフ(DDXXD)を持たない。その全てが基質結合及びその触媒において多かれ少なかれ役割を果たす7つの保存領域が同定されている。今までに特性付けられている全てのZ−プレニルトランスフェラーゼが、55個の炭素より多い、又は、等しい鎖長を有するプレニル二リン酸を合成するが、基質としてE−GPPを使用して、Z,E−FPPを形成するマイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)のZ,E−FPSは例外である(Schulbach et al., 2000)。M.ルテウスのUPSに関する最近の部位特異的変異誘発試験によって、合成されるイソプレニル鎖の伸長サイクル数において重要な役割を果たすいくつかのアミノ酸が同定された(Kharel et al., 2006)。
【0008】
イソプレニル二リン酸は、酵素分類、テルペン合成酵素の基質であり、それはC10(モノテルペン)、C15(セスキテルペン)、C20(ジテルペン)、及びC30(トリテルペン)中の基本環状骨格又はアシルテルペン骨格の形成を触媒する(Cane 1999; McMillan and Beale, 1999; Wise and Croteau, 1999)。これらの酵素の反応多様性は、天然において見いだされる環状テルペン骨格の多様性の基礎となる。ファルネシル二リン酸の4つの立体異性体が、分子の2及び6番目の位置の二重結合の立体化学的配置に従って理論的に可能である(E,E、Z,E、E,Z、又はZ,Z)。しかし、今までに、遺伝子が特性付けされた全てのセスキテルペン合成酵素で、基質としてE,E−FPPが使用される。これは、例えば、タバコの5−エピ−アリストロチェン合成酵素(Facchini & Chappell, 1992)、グランドモミ(Abies grandis)の(E)−アルファ−ビサボレン合成酵素(Bohlmann et al., 1998)、チコリのゲルマクレンA合成酵素(Bouwmeester et al., 2002)、クソニンジン(Annual Wormwood)のアモルファ−4,II−ジエン合成酵素(Wallaart et al., 2001)、トマトのゲルマクレンC合成酵素(Colby et al., 1998)、クソニンジンのカリオフィレン合成酵素(Cai et al., 2002)、及びオレンジのバレンセン合成酵素(Sharon-Asa et al., 2003)の例である。それにもかかわらず、最近の研究では、14のセスキテルペンの混合物の合成を触媒するトウモロコシセスキテルペン合成酵素(tps4)がE,E−FPP及びZ,E−FPPを受け取り(Kollner et al., 2006)、それによってセスキテルペン合成酵素がE,E−FPP以外の異性体を基質として使用できることが示されたと報告された。しかし、今までにクローン化されたセスキテルペン合成酵素のいずれもZ,Z−FPPを使用しない。
【0009】
ソラナム・ハブロカイト(Solanum habrochaites)(以前はリコペルシコン・ヒルスタム(Lycopersicum hirsutum)として公知)のVI型腺毛(glandular trichome)は、2つの異なる分類に属する大量のセスキテルペンオレフィンを分泌する。クラスIは特にゲルマクレンBを含み、クラスIIはとりわけアルファ−サンタレン及びアルファ−ベルガモテンを含む。栽培トマトの遺伝子型(リコペルシコン・エスクレンタム(Lycopersicon esculentum)=ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum))と野生型トマトの遺伝子型(リコペルシコン・ヒルスタム=ソラナム・ハブロカイト)の間の分離比分析によって、これらの2つの異なるセスキテルペンクラスの生合成が、2つの異なる染色体にマップされる2つの異なる遺伝子座(Sst1A及びSst2)により制御されることが示された(van der Hoeven et al., 2000)。Sst1A遺伝子座は第6染色体上に位置し、この遺伝子座の遺伝子はクラスIセスキテルペンの蓄積に関与する。第8染色体上に位置するS.ハブロカイトのSst2対立遺伝子は、アルファ−サンタレン、また、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、エピ−ベータ−サンタレン、及びベータ−ベルガモテン、ならびに他の未同定の微量化合物などのクラスIIセスキテルペンの蓄積を制御する。Sst1A遺伝子座の遺伝子のコード配列が同定されているのに対して(van der Hoeven et al., 2000)、これはSst2遺伝子座の遺伝子には該当しない。
【0010】
発明の概要
本発明は、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物ならびにそれらの前駆体Z,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)の合成に関与する2つの遺伝子、及び、細菌、酵母、動物細胞、及び植物などの生きた生物において該化合物を調製するためのその使用に関する。
【0011】
より具体的には、本発明は、本文の残りの部分において(サンタレン及びベルガモテンでの)SB型セスキテルペンと呼ばれるクラスIIのS.ハブロカイトのセスキテルペン(とりわけ、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテン)の合成に関与するS.ハブロカイトの2つの遺伝子の同定及び特性付けについて記載する。第1の遺伝子はZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素をコード化し、第2は、基質としてZ,Z−ファルネシル二リン酸を使用する複数産物のセスキテルペン合成酵素をコード化する。対応する組み換えタンパク質の産生は、インビトロで得られるセスキテルペンプロファイルが、トマトSst2遺伝子座により制御されるものと同一であることを明らかにした。
【0012】
本発明は、一方で、IPP及びDMAPからのZ,Z−FPP、ならびに、Z,Z−FPPからのアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物の生合成に関与する酵素活性、ならびに、該活性に関与するペプチド配列及び該ペプチド配列をコード化する核酸配列に関する。本発明は、さらに、該化合物又はその誘導体を産生するための該酵素活性を使用した方法に関する。
【0013】
本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞において、Z,Z−FPPから、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPSをコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSBSと命名されたセスキテルペン合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はSBS酵素のセスキテルペン産物又はその誘導体の回収
を含む。
【0014】
本発明は、Z,Z−FPS活性を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。該タンパク質は、好ましくは、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する。本発明は、また、そのようなタンパク質をコード化するヌクレオチド配列、又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を含む核酸に関する。
【0015】
本発明は、また、SB合成酵素型活性を有し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。本発明は、また、そのようなタンパク質をコード化するヌクレオチド配列、又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を含む核酸に関する。
【0016】
本発明は、本発明の核酸を含む発現カセット、本発明の発現カセット又は核酸を含むベクター、本発明のベクター、発現カセット、又は核酸を含む宿主細胞、及び本発明の細胞、ベクター、発現カセット、又は核酸を含む非ヒトトランスジェニック生物に関する。
【0017】
本発明は、また、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞において、IPP及びDMAPから、Z,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPSをコード化する核酸配列を伴う発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるその誘導体の回収
を含む。
【0018】
本発明は、Z,Z−FPP、又は、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンなどのSB型セスキテルペン、又は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、シス−アルファ−ベルガモトール、トランス−アルファ−ベルガモトール、及びベータ−ベルガモトールなどのその誘導体を調製するための本発明のタンパク質、核酸、宿主細胞、又はトランスジェニック生物の使用に関する。
【0019】
本発明は、クラスIIセスキテルペンの合成経路が、本発明のZ,Z−FPSをコード化する遺伝子もしくは本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子のいずれか、あるいは両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物に関する。
【0020】
本発明は、また、対応するゲノム配列を他の種又は品種の栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)中に導入可能にする分子マーカーの同定のための核酸の使用に関する。本発明に関連して、ヌクレオチド配列の配列番号1及び2又はその変異体を、他の種又は品種の栽培トマト中への該配列の遺伝子導入のための分子マーカーとして使用することもできる。
【0021】
このように、本発明は、S.ハブロカイトと性的和合性のあるソラナム型の種中に対応する遺伝子を導入するためにS.ハブロカイトと該種との間のゲノム多型を同定するための配列番号1又は配列番号3と少なくとも80%の同一性を伴う核酸の全部又は一部を含む分子マーカーに関する。本発明は、また、プロトプラストによる、ソラナム・ハブロカイトと性的和合性のない種中へのzFPS遺伝子及びSBS遺伝子の導入である方法に関する。
【0022】
本発明は、また、ホスファターゼによるZ,Z−FPPの脱リン酸化によるZ,Z−ファルネソールを産生するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】FPPの可能な立体異性体。FPPの全ての立体異性体はIPP及びDMAPPから生合成される。今までに、多くの生物において特性付けされているE,E−ファルネシル二リン酸合成酵素(1)、及びマイコバクテリウム・ツベルクローシス−のZ,E−ファルネシル二リン酸合成酵素(2)(Schulbach et al., 2000)だけが公知であった。(3):本発明のトマトZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素;(4):E,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素:この活性を有する酵素はまだ記載されていない。
【図2A】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を保有するT−DNAの図面。km:カナマイシン耐性遺伝子;35S: CaMV 35S遺伝子プロモーター。CBTS−ter:CBTSターミネーター遺伝子;eCBTS1.0:CaMV35プロモーターのエンハンサーに融合したCBTS遺伝子の1kbプロモーター。Sh−zFPS:トマトzFPS(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;Sh−SBS:トマトSB合成酵素(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;LB:T−DNAの左ボーダー;RB: T− DNA右ボーダー;35S−ter:CaMV35遺伝子ターミネーター;nos−ter:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ターミネーターのノパリン合成酵素遺伝子。図2:pLIBRO6バイナリーベクターのT−DNA断片;図2B:pLIBRO65バイナリーベクターのT−DNA断片。
【図2B】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を保有するT−DNAの図面。km:カナマイシン耐性遺伝子;35S: CaMV 35S遺伝子プロモーター。CBTS− ter:CBTSターミネーター遺伝子;eCBTS1.0:遺伝子がCaMV35プロモーターのエンハンサーに融合したCBTS遺伝子の1kbプロモーター。Sh−zFPS:トマトzFPS(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;Sh−SBS:トマトSB合成酵素(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;LB:T−DNAの左ボーダー;RB: T− DNA右ボーダー;35S−ter:CaMV35遺伝子ターミネーター;nos−ter:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ターミネーターのノパリン合成酵素遺伝子。図2:pLIBRO6バイナリーベクターのT−DNA断片;図2B:pLIBRO65バイナリーベクターのT−DNA断片。
【図3A】トランスジェニックタバコ葉におけるSh−SBS導入遺伝子発現分析。発現は、蛍光プローブ((登録商標)TAQ−MAN,ABI)を使用したリアルタイム定量的PCRにより決定する。1つのプローブがSh−SBS導入遺伝子に特異的であり、他はタバコアクチン遺伝子(対照遺伝子)に特異的である。縦軸の値は、Sh−SBSプローブで得られた値とアクチンプローブで得られた値との力価の2つの比率(2SBS/2アクチン)を表す。この比率は、Sh−SBS導入遺伝子発現とアクチンのそれとの比率を表す。横軸の値はトランスジェニック系統の数を示唆する。図3A:Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−064)。図3B:Sh−SBS導入遺伝子のみを組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−065)。
【図3B】トランスジェニックタバコ葉におけるSh−SBS導入遺伝子発現分析。発現は、蛍光プローブ((登録商標)TAQ−MAN,ABI)を使用したリアルタイム定量的PCRにより決定する。1つのプローブがSh−SBS導入遺伝子に特異的であり、他はタバコアクチン遺伝子(対照遺伝子)に特異的である。縦軸の値は、Sh−SBSプローブで得られた値とアクチンプローブで得られた値との力価の2つの比率(2SBS/2アクチン)を表す。この比率は、Sh−SBS導入遺伝子発現とアクチンのそれとの比率を表す。横軸の値はトランスジェニック系統の数を示唆する。図3A:Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−064)。図3B:Sh−SBS導入遺伝子のみを組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−065)。
【図4A】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4B】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4C】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4D】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図5A】Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で実施したインビトロ活性テストのGC/MSプロファイル。2つの組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びShSBS−6HisをIPP及びDMAPPと共にインキュベートした。反応混合物はペンタンで抽出し、GC/MSにより分析した。図5A:Sh−zFPS及びSh−SBSで、インビトロで得られた産物のクロマトグラム。ピーク2は主産物であり、アルファ−サンタレンに対応する。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。図5B:ピーク2(左)に対応する質量スペクトル及びアルファ−サンタレン構造(右)。
【図5B】Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で実施したインビトロ活性テストのGC/MSプロファイル。2つの組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びShSBS−6HisをIPP及びDMAPPと共にインキュベートした。反応混合物はペンタンで抽出し、GC/MSにより分析した。図5A:Sh−zFPS及びSh−SBSで、インビトロで得られた産物のクロマトグラム。ピーク2は主産物であり、アルファ−サンタレンに対応する。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。図5B:ピーク2(左)に対応する質量スペクトル及びアルファ−サンタレン構造(右)。
【図6】組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6Hisで、インビトロで得られた産物及びTA517同質遺伝子組み換えトマト系統の浸出物での混合GCプロファイル。追跡は抽出したm/z94イオンに対応する。灰色:ShzFPS及びSh−KSによりインビトロで産生したオレフィン。ブラック:TA517同質遺伝子系統の浸出物。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図7A】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を持つトランスジェニック植物(#3877)により放出される揮発性分子のGC/MSプロファイル。トランスジェニック植物#3877を培養チェンバー中の制御空気中で24時間栽培した。植物により放出された揮発性分子をSuper(登録商標)Qマトリクス(Alltech)上に捕捉し、GC/MSにより分析した。クロマトグラム(7A)はSB型セスキテルペンに特徴的な識別特性を伴ういくつかのピークを示す。ピークは、それらの保持時間及び質量スペクトルをTA517系統(7B)のそれと比較することにより同定した。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図7B】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を持つトランスジェニック植物(#3877)により放出される揮発性分子のGC/MSプロファイル。トランスジェニック植物#3877を培養チェンバー中の制御空気中で24時間栽培した。植物により放出された揮発性分子をSuper(登録商標)Qマトリクス(Alltech)上に捕捉し、GC/MSにより分析した。クロマトグラム(7A)はSB型セスキテルペンに特徴的な識別特性を伴ういくつかのピークを示す。ピークは、それらの保持時間及び質量スペクトルをTA517系統(7B)のそれと比較することにより同定した。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図8】S.リコペルシカム(Sl)とS.ハブロカイト(Sh)の間のzFPS遺伝子多型:完全zFPS遺伝子をS.リコペルシカム、S.ハブロカイト、及びTA517のゲノムDNAからPCRにより増幅した。0.8%アガロースゲル上でのPCR産物の分離によって3本のバンドA、B、Cが同定され、それぞれのサイズは約3,000、2,500、及び2,000ヌクレオチドであった。バンドBに対応するPCR産物はS.hゲノムに特異的であり、本明細書において記載するzFPS遺伝子に対応する。kb:キロベース。
【0024】
略語及び定義
mRNA:メッセンジャーRNA
DNA:デオキシリボ核酸
cDNA:mRNAの逆転写により産生した相補的DNA
CaMV:カリフラワーモザイクウイルス
DMAPP:ジメチルアリル二リン酸
CBT−ol:センブラトリエン(cembratrien)−オール
CBTS:センブラトリエン−オール合成酵素
GPP:ゲラニル二リン酸
FPP:ファルネシル二リン酸
GC:ガスクロマトグラフィー
GGPP:ゲラニルゲラニル二リン酸
ihpRNAi:干渉イントロンヘアピンRNA
IPP:イソペンテニル二リン酸
MS:質量分析法
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
RACE:cDNA末端の迅速増幅
A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、V:普遍的な命名法に従ったアミノ酸の標準的暗号
www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Utils/wprintgc.cgi?mode=t
A、C、G、T、B、D、H、K、M、N、R、S、V、W、Y:普遍的な命名法に従った塩基の標準的暗号
www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Utils/wprintgc.cgi?mode=t
RFLP:制限断片長多型
【0025】
「Z,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素」又はzFPSは、本明細書において使用する通り、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAP)からZ,Z−ファルネシル二リン酸[(2Z,6Z)−ファルネシル二リン酸又はシス−,シス−FPP]を産生できる酵素を指す。「Z,Z−FPS活性」は、本明細書において使用する通り、IPP及びDMAPPからのZ,Z−ファルネシル二リン酸の産生を指す。Z,Z−FPS活性は、Z,Z−ファルネシル二リン酸の形成を測定することにより評価できる。
【0026】
「SB合成酵素」又はSBSは、本明細書において使用する通り、Z,Z−FPPからアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンドベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を産生できる酵素を指す。「SB型活性」はZ,Z−ファルネシル二リン酸からのSB型セスキテルペンの産生を指す。SB型活性は、1又は複数のSB型セスキテルペンの形成を測定することにより評価できる。SB型活性の測定例を実施例において記載する。
【0027】
「SB型セスキテルペン」は、本明細書において使用する通り、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を指す。
【0028】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」:一般的に、所与のサイズ及び配列のポリヌクレオチドでの、ストリンジェントな条件は、同じ反応混合物中で該ポリヌクレオチドとその相補体により形成されたハイブリッドの融解温度(Tm)を5℃から10℃下回る温度で作業することにより得られる。所与のポリヌクレオチドでのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、問題のポリヌクレオチドのサイズ及び塩基組成ならびにハイブリダイゼーション混合物の組成(特に、pH及びイオン強度)に従って、当業者が決定できる。ハイストリンジェントな条件は、65℃の0.2 x SSCバッファーでの洗浄段階を含む。
【0029】
上に記載するストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、特に、“Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor; Maniatis et al., 1982, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. CSH, N.Y. USA”、又は、その最新の再版の1つである“Ausubel et al., Eds., 1995, Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 2 (Greene Publishing and Wiley-Interscience, N.Y.)”において記載される当業者に公知の関連教示に従って、より大きな、又は、より小さなポリヌクレオチドについて、当業者が適応できる。
【0030】
「異種」は、本明細書において使用する通り、遺伝子が遺伝子操作により細胞中に導入されていることを意味すると理解される。それはエピ−ソーム又は染色体の形で存在できる。遺伝子は、それが導入される細胞とは異なる供給源に由来してよい。一方、遺伝子は、また、それが導入される細胞と同じ種に由来してよく、しかし、それは天然ではないその環境のために異種と見なされる。例えば、遺伝子がその天然のプロモーターではないプロモーターの制御下にあり、遺伝子がその天然の位置とは異なる位置に導入されるため、その遺伝子は異種と呼ばれる。宿主細胞は、異種遺伝子の導入前に遺伝子の内因性コピーを含むこともあれば、又は、それは内因性コピーを含まないこともある。
【0031】
本明細書において使用する通り、2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の「同一性パーセント」は、最良の配列整列後に得られる、比較する2つの配列の間で同一であるヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセンテージを指し、該パーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列の間の違いは無作為に、及び、それらの全長にわたり分布する。最良の配列整列又は最適な配列整列は、後に算出する、比較する2つの配列の間の同一性パーセントが最高である配列整列である。2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の配列比較は、従来、それらを最適に配列整列した後に該配列を比較することにより実施し、該比較はセグメントにより、又は、比較ウィンドウにより行い、配列類似性の局所領域を同定及び比較する。その他、手作業で、Smith and Waterman (1981)(Ad. App. Math. 2: 482)の局所ホモロジーアルゴリズムを用いて、Neddleman and Wunsch (1970)(J. Mol. Biol. 48: 443)の局所ホモロジーアルゴリズムを用いて、Pearson and Lipman (1988)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444)のホモロジー検索法を用いて、コンピューターソフトウェアで実行する該アルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA;Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)を用いて、配列を比較のために最適に整列できる。2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の同一性パーセントは、比較ウィンドウによりこれらの2つの最適に整列した配列を比較することにより決定でき、ここで、比較する核酸配列又はアミノ酸配列の領域は、これら2つの配列の間の最適な配列整列のための参照配列と比べて付加又は欠失を含みうる。同一性パーセントは、ヌクレオチド又はアミノ酸残基が2つの配列間で同じである同一位置の個数を決定し、同一位置の該個数を比較ウィンドウ中の位置の総個数により割り、結果に100を掛けることにより算出し、これらの2つの配列間の同一性パーセントを得る。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、従って、多くのセスキテルペンの合成経路に関与する酵素をコード化する遺伝子について初めて記載する。特に、本発明は、SB型化合物と呼ばれ、Z,Z−FPPからのアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物の産生を可能にする複数の産物を伴うトマトのセスキテルペン合成酵素(SB合成酵素)の特性付けに関する。また、本発明は、さらに、IPP及びDMAPからのZ,Z−FPPの産生を可能にするトマトのZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素(zFPS)の特性付けに関する。これらの酵素を使用して、トランスジェニック生物又は組み換え微生物もしくは細胞においてインビトロ又はインビボで、SB型セスキテルペン又はZ,Z−FPPを産生できる。トランスジェニック生物、細菌、酵母、カビ、動物、昆虫、もしくは植物細胞などの細胞又は微生物、及びトランスジェニック動物又は植物を検討する。それらはZ,Z−ファルネソールなどのZ,Z−FPPに由来する化合物の産生も可能にする。本発明の方法は、特に微生物(細菌、酵母)におけるZ,Z−FPP、及び分泌型の腺毛を保有する植物においてSB型化合物を産生するために使用できる。SB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の産生は、また、植物、例えばトマトにおいて、遺伝子消失技術により、又は、変異導入法により低減又は抑制することができる。また、本発明において同定した配列は、生物の他の種、特に植物において同じ活性を有する酵素をコード化する遺伝子を同定及び/又はクローン化するために有用である。最後に、多型分子的マーカーはzFPS及びSB合成酵素をコード化する核酸から同定でき、他の種又は様々な栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)中への対応する機能的ゲノム配列の導入をモニター可能にする。
【0033】
Z,Z−FPPはセスキテルペン合成酵素の潜在的な基質であるが、しかし、現在それは市販されていない。今までに特性付けされたセスキテルペン合成酵素の大多数でE,E−FPPが使用されるが、市販Z,Z−FPPの欠如によって実験目的でのその使用が大きく制限されてきたことも明らかである。綿のカジネン合成酵素は、セスキテルペン合成酵素によるZ,Z−FPPの優先的な使用を記載する唯一の例である(Heinstein et al., 1970)。この場合、Z,Z−FPPは化学合成により産生され、本特許において記載するZ,Z−FPP合成酵素は簡単で安価な様式で該分子を産生するための方法を提供する。
【0034】
さらに、SB型セスキテルペンはアルファ−サンタレンを含み、それ自体がアルファ−サンタロールの直接の前駆体である。アルファ−サンタロールはビャクダン油の特徴的な構成成分の1つである。ビャクダン油は香料産業において高く評価され、その価格は、ビャクダンの乱獲のために、主にインドにおいて過去10年にわたり急激に上昇している。この乱獲は天然ビャクダン資源の生存に脅威を及ぼす。アルファ−サンタロールは、単純なヒドロキシル化によりアルファ−サンタレンから入手できる。
【0035】
本発明は、従って、DMAP及びIPPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のzFPSをコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む。
【0036】
特定の態様において、産生したSB型セスキテルペンは段階c)において回収する。好ましい態様において、産生されるSB型セスキテルペンは、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、アルファ−ベルガモテン、ベータ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンから成る群より選択される。別の特定の態様において、産生したSB型セスキテルペンは、アルファ−サンタロールなどの目的の他の化合物を得るための出発産物である。好ましい態様において、SB型セスキテルペン誘導体は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、シス−アルファ−ベルガモトール、トランス−アルファ−ベルガモトール、及びエンド−ベータ−ベルガモトールから成る群より選択される。
【0037】
特定の態様において、本発明は、DMAP及びIPPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のzFPSをコード化する第1異種遺伝子及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における該細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む。
【0038】
好ましい態様において、該細胞はZ,Z−FPPを産生する。別の態様において、Z,Z−FPPが細胞に供給される。
【0039】
特定の態様において、2つの発現カセットは同じコンストラクトにより保有される。別の態様において、2つの発現カセットは2つの別々のコンストラクトにより保有される。
【0040】
本発明は、Z,Z−FPP合成酵素活性を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。特に、本発明は、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。好ましくは、ポリペプチドは、配列番号2と少なくとも95%の同一性を伴う配列を有する。特定の態様において、ペプチドは、配列番号2の配列を含む、又は、それから成る。該ポリペプチドは、酵素の精製を容易にする追加配列、例えばいくつかの連続ヒスチジンアミノ酸を含むタグ配列を含んでもよい。
【0041】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を有するポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を含む単離核酸に関する。核酸の例は、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はその相補配列を含む、又は、それから成る核酸である。本発明は、ハイストリンジェンシーな条件において、Z,Z−FPP合成酵素活性を有するポリペプチド及び配列番号2と少なくとも95%又は98%の同一性を伴う配列を有する該ポリペプチドをコード化する核酸にハイブリダイズできる単離核酸に関する。特定の態様において、核酸は配列番号1の配列を含む、又は、それから成る。本発明は、また、本発明の核酸を含む発現カセット、ベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0042】
核酸は、ゲノムDNA、相補DNA(cDNA)、又は合成DNAでよい。核酸は、単鎖もしくは二重鎖又は2つの混合物でよい。本発明において、転写された核酸は好ましくはイントロン無しのcDNAである。転写された核酸は合成又は半合成の組み換え分子でよく、場合により増幅し、又は、ベクター中にクローン化し、化学修飾し、又は非天然塩基を含む。典型的に、それらは、当業者に周知の組み換え技術により合成した単離DNA分子である。
【0043】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。特定の態様において、ポリペプチドは配列番号4の配列を含む、又は、それから成る。この場合において、本発明は、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも95%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、酵素の精製を容易にする追加配列、例えばいくつかの連続ヒスチジンアミノ酸を含むタグ配列を含んでもよい。
【0044】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を有するポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を含む単離核酸に関する。そのような核酸の例は、配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はその相補配列を含む、又は、それから成る核酸である。本発明は、ハイストリンジェンシーな条件において、SB合成酵素活性を有するポリペプチド及び配列番号4と少なくとも95%又は98%の同一性を伴う配列を有する該ポリペプチドをコード化する核酸にハイブリダイズできる単離核酸に関する。特定の態様において、核酸は配列番号3の配列を含む、又は、それから成る。本発明は、また、本発明の核酸を含む発現カセット、ベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0045】
本発明は、特に、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸及びZ,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。本発明の特定の態様において、トランスジェニック生物は、植物、特に植物トリコーム(plant trichome)である。
【0046】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0047】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、好ましくは、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0048】
本発明は、IPP及びDMAPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてIPP及びDMAPを、配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素及び配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素と接触させること、及び、得られたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を回収することを含む。本発明は、IPP及びDMAPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を調製するための、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素及び配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素の使用に関する。
【0049】
本発明は、IPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてIPP及びDMAPを、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素と接触させること、及び、得られたZ,Z−FPP又はその誘導体を回収することを含む。場合により、方法は、得られたZ,Z−FPPとウシ腸アルカリホスファターゼとのインキュベーション、及び、Z,Z−ファルネソールの回収をさらに含む。本発明は、IPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を調製するための、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素の使用に関する。
【0050】
本発明は、Z,Z−FPPからクラスIIセスキテルペン又はその誘導体の混合物を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてZ,Z−FPPを、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素と接触させること、及び、得られたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を回収することを含む。本発明は、Z,Z−FPPからクラスIIセスキテルペン又はその誘導体の混合物を調製するための、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素の使用に関する。
【0051】
一般的に、発現カセットは、遺伝子転写及びタンパク質への翻訳に必要な全てのエレメントを含む。特に、それは、プロモーター、場合によりエンハンサー、転写ターミネーター、及び翻訳のためのエレメントを含む。
【0052】
プロモーターは宿主細胞に適応させる。例えば、細胞が原核生物である場合、プロモーターは以下のプロモーターから成る群より選択できる:LacI、LacZ、pLacT、ptac、pARA、pBAD、バクテリオファージT3又はT7のRNAポリメラーゼプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、ラムダファージのPR又はPLプロモーター。細胞が真核生物及び動物である場合、プロモーターは以下のプロモーターから成る群より選択できる:サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター、サルウイルス40(SV40)初期又は後期プロモーター、マウスメタロチオネイン−Lプロモーター、及び特定のレトロウイルスのLTR(末端反復配列)領域。一般的に、適切なプロモーターを選ぶために、当業者が“Sambrook and Russell (2000)”の研究、あるいは“Ausubel et al. (2006)”の研究において記載される方法を参照できることは有利である。
【0053】
ベクターは、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YAC、BAC、アグロバクテリウムpTiプラスミドなどでよい。ベクターは、好ましくは、複製起点、複数のクローニング部位、及びマーカーから選択される1又は複数のエレメントを含みうる。マーカーは、検出可能シグナルを産生するレポーター遺伝子でありうる。検出可能シグナルは、蛍光シグナル、染色、光放出でありうる。マーカーは、従って、GFP、EGFP、DsRed、ベータ−ガラクトシダーゼ、ベータ−グルコシダーゼ、ルシフェラーゼなどでありうる。マーカーは、好ましくは、細胞に抗生物質耐性又は除草剤耐性を付与する選択マーカーである。例えば、遺伝子は、カナマイシン、ネオマイシンなどの耐性遺伝子でありうる。好ましい態様において、ベクターはプラスミドである。原核生物ベクターの例として、限定はされないが、以下が挙げられる:pQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)、pbs、pD10、phagescript、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46A(Stratagene);ptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pBR322、及びpRIT5(Pharmacia)、pET(Novagen)、及びpQE−30(QIAGEN)。真核生物ベクターの例として、限定はされないが、以下が挙げられる:pWLNEO、pSV2CAT、pPICZ、pcDNA3.1(+)Hyg(Invitrogen)、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene);pSVK3、pBPV、pCI−neo(Stratagene)、pMSG、pSVL(Pharmacia)。ウイルスベクターとして、限定はされないが、アデノウイルス、AAV、HSV、レンチウイルスなどが挙げられる。好ましくは、発現ベクターはプラスミド又はウイルスベクターである。
【0054】
宿主細胞は原核生物、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)、及びシュードモナス属(Pseudomonas sp.)又は真核生物でありうる。真核生物は、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae))もしくは糸状菌(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus))などの下等真核生物又は昆虫、哺乳動物、もしくは植物細胞などの高等真核生物でありうる。細胞は、哺乳動物細胞、例えばCOS、CHO細胞(US4,889,803;US5,047,335)でありうる。特定の態様において、細胞は非ヒト及び非胚である。細胞は、例えば培養液中で単離できる。細胞は、生物、例えば非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物中に含まれてもよい。
【0055】
本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はその誘導体の回収
を含む。
【0056】
特定の態様において、産生されたZ,Z−FPPは段階c)において回収する。別の特定の態様において、産生されたZ,Z−FPPは、Z,Z−ファルネソールなどの目的の別の化合物を得るための出発産物である。例えば、Z,Z−FPPは、ホスファターゼによりZ,Z−ファルネソールに変換できる。このように、方法は、段階a)ホスファターゼをコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入をさらに含み、それによってZ,Z−ファルネソールを段階c)において回収可能にする。本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有し、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関する。本発明は、このように、IPPP及びDMAPの供給源を有する組み換え細胞においてZ,Z−FPPを産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のzFPSをコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該遺伝子の発現のための適切な条件における細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はその誘導体の回収
を含む。
【0057】
本発明は、従って、Z,Z−FPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収
を含む。
【0058】
特定の態様において、産生されたSB型セスキテルペン混合物は段階c)において回収する。別の特定の態様において、産生されたSB型セスキテルペン混合物は、アルファ−サンタロールなどの目的の別の化合物を得るための出発産物である。本発明は、従って、Z,Z−FPPの供給源を有し、本発明のSB合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関する。本発明は、このように、Z,Z−FPPの供給源を有する組み換え細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のSB合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該遺伝子の発現のための適切な条件における細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収
を含む。
【0059】
細胞は、多細胞生物、例えば植物又は非ヒト動物の一部でもありうる。この場合において、本発明は、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した2つの遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0060】
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは植物の腺トリコームである。
【0061】
本発明は、従って、本発明のZ,Z−FPP合成酵素及び本発明のSB合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供ならびに該トランスジェニック生物におけるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収を含む、SB型セスキテルペン混合物を製造するための方法に関する。
【0062】
この方法によって、そのような化合物を産生しない生物においてSB型セスキテルペン混合物を産生し、又は、既にそれを産生する生物により産生されるSB型セスキテルペン混合物の量を増加できる。
【0063】
本発明は、従って、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0064】
本発明は、また、本発明のZ,Z−FPP合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供及び該トランスジェニック生物における産生したZ,Z−FPP又はその誘導体の回収を含む、Z,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関する。
【0065】
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは腺トリコームを有する植物である。この方法によって、該化合物を産生しない生物においてZ,Z−FPPを産生し、又は、生物により産生されるZ,Z−FPPの量を増加できる。
【0066】
本発明は、従って、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0067】
本発明は、また、本発明のSB合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供ならびに該トランスジェニック生物における産生されたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収を含む、SB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関する。
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは植物の分泌トリコームである。この方法によって、該化合物を産生しない生物によりSB型セスキテルペン混合物を産生し、又は、生物により産生されるSB型セスキテルペン混合物の量を増加できる。
【0068】
特に、本発明は、腺トリコームを伴う科からの全ての植物、例えばキク科(ヒマワリなど)、ナス科(トマト、タバコ、ジャガイモ、コショウ、ナスなど)、アサ科(例、大麻(Cannabis sativa))、及びシソ科(ミント、バジル、ラベンダー、タイムなど)に適用可能である。本発明は、特に、例えば、ニコチアナ属、ソラナム属、カプシカム属、ペチュニア属、ダチュラ属、アトロパ属などからのナス科の植物、及び、特に、例えば栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)、野生トマトソラナム・ハブロカイト、栽培タバコ(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、ウッドランドタバコ(ニコチアナ・シルベストリス(Nicotiana sylvestris))などのソラナム属及びニコチアナ属に適応する。非限定的な様式において、本発明は、以下の属からの植物に適用できる:ポプルス(Populus)属、ニコチアナ属、カンナビス(Cannabis)属、ファルビティス(Pharbitis)属、アプテリア(Apteria)属、サイコトリア(Psychotria)属、ヤマアイ属(Mercurialis)、キク属(Chrysanthemum)、ポリポディウム(Polypodium)属、ペラルゴニウム(Pelargonium)属、ミゾホオズキ属(Mimulus)、マトリカリア(Matricaria)属、モナルダ(Monarda)属、ソラナム属、ノコギリソウ属(Achillea)、パトリニア(Valeriana)属、オシマム(Ocimum)属、メディカゴ(Medicago)属、アエスクルス(Aesculus)属、プルンバゴ(Plumbago)属、ギンシダ属(Pityrogramma)、ファセリア(Phacelia)属、アビセニア(Avicennia)属、タマリクス(Tamarix)属、フランケニア(Frankenia)属、リモニウム(Limonium)属、フォエニクルム(Foeniculum)属、ティムス(Thymus)属、サルビア(Salvia)属、カズラ(Kadsura)属、ベイエリア(Beyeria)属、フムルス(Humulus)属、メンタ(Mentha)属、アルテミシア(Artemisia)属、ネプタ(Nepta)属、ゲラエア(Geraea)属、ポゴステモン(Pogostemon)属、マジョラム(Majorana)属、クレオメ(Cleome)属、サントリソウ属(Cnicus)、パルセニウム(Parthenium)属、リキノカルポス(Ricinocarpos)属、ヒメナエア(Hymennaea)属、ラレア(Larrea)属、プリムラ(Primula)属、ファセリア(Phacelia)属、ドリオプテリス(Dryopteris)属、プレクトランサス(Plectranthus)属、シプリペジウム(Cypripedium)属、ペチュニア(Petunia)属、ダチュラ(Datura)属、ムクナ(Mucuna)属、リシヌス(Ricinus)属、オトギリソウ属(Hypericum)、ハマジンチョウ属(Myoporum)、アカシア(Acacia)属、ディプロペルティス(Diplopeltis)属、ドドナエア(Dodonaea)属、ハルガニア(Halgania)属、キアノステギア(Cyanostegia)属、プロスタンテラ(Prostanthera)属、アンソサーシス−(Anthocercis)属、オレアリア(Olearia)属、ビスカリア(Viscaria)属。好ましくは、植物は、キク科、アサ科、ナス科、又はシソ科からの植物である。より好ましい態様において、植物は、ソラナム属又はニコチアナ属に属し、好ましくはソラナム・エスクレンタム、ソラナム・ハブロカイト、ニコチアナ・タバカム、又はニコチアナ・シルベストリスである。
【0069】
この態様において、遺伝子はプロモーターの制御下にあり、植物のトリコームにおいて、好ましくは特異的な発現を可能にする。そのようなプロモーターが存在し、当業者に公知である(Tissier et al., 2004)。
【0070】
本発明において、「特異的」プロモーターは、主に所与の組織又は細胞群において活性なプロモーターを指す。他の組織又は細胞における残りの発現は、一般的に低く、完全には除外できないことが理解されるであろう。本発明の特定の特性は、腺トリコームの分泌細胞に特異的なプロモーターを構築して、植物の葉分泌物の組成物の改変を可能にし、及び、特にその中において本発明の遺伝子を発現させて、SB型セスキテルペン混合物の調製を可能にする能力に基づく。このように、Z,Z−FPP、及びSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体は、特にトリコームの浸出物において、溶剤での抽出により、あるいは蒸留により、前記植物のトリコームから回収できる。
【0071】
例えば、CYP71D16遺伝子のATGの上流に位置する1852 bpの調節配列が、タバコトリコームの分泌細胞において特異的にuidAレポーター遺伝子の発現を方向付けることが示されている(出願US2003/0100050 A1,Wagner et al., 2003)。さらに、異なる種から抽出された、いくつかのプロモーター配列がタバコトリコームにおいて異種遺伝子の発現を方向付けできるとして同定されている。
【0072】
【表1】
【0073】
本発明の好ましい態様において、カセットにおいて使用するプロモーターは、ニコチアナ・シルベストリス種の遺伝子NsTPS−02a、02b、03、及び04に由来し、CYC−2と強い配列同一性を示す(CBT−オールシクラーゼ;NID:AF401234)。前記プロモーターは、特許出願WO2006040479(Tissier et al., 2004)においてより十分に記載されている。
【0074】
好ましいターミネーター配列の内、NOSターミネーター(Bevan et al., 1983)及びヒストン遺伝子ターミネーター(EPO 633 317)に言及できる。
【0075】
特定の態様において、発現カセットは、発現を増加できる配列(「エンハンサー」)、例えばCaMV35Sプロモーター及びオクトピン合成酵素遺伝子の特定のエレメントを含んでよい(US 5 290 924)。好ましくは、CaMV35Sプロモーターのエンハンサーエレメントを使用する。
【0076】
本発明の1つ又は両方の遺伝子を有するコンストラクトの、種子又は植物を含む細胞又は植物組織中への導入は、エピ−ソーム又は染色体の形状を含む、当業者に公知の任意の方法により実施できる。植物の遺伝子組み換え技術は当技術分野において周知であり、例えば細菌アグロバクテリウム・ツメフアシェンス(Agrobacterium tumefaciens)の使用、エレクトロポレーション、遺伝子銃技術、特にウイルスベクターによるトランスフェクション、及び当業者に公知の任意の他の方法を含む。
【0077】
1つの共通に使用される方法は、細菌アグロバクテリウム・ツメフアシェンスの使用に基づき、主に、目的のコンストラクト(核酸、カセット、ベクターなど)を細菌A・ツメフアシェンス中に導入し、次に形質転換した細菌を選んだ植物の葉片と接触させることに存する。発現カセットは、典型的に、ベクターとしてTiプラスミド(又はT−DNA)を使用することにより細菌中に導入し、それは、例えばヒートショックにより、又は、エレクトロポレーションにより細菌中に移入できる。形質転換した細菌と葉片とのインキュベーションは、Tiプラスミドの片細胞のゲノム中への移入をもたらす。これらは、場合により、適切な条件において栽培して、細胞が本発明のコンストラクトを含むトランスジェニック植物を再構成できる。A.ツメフアシェンスの形質転換技術のさらなる詳細又は変法について、例えば“Horsch et al. (1985)”又は“Hooykaas and Schilperoort (1992)”を参照できる。
【0078】
このように、特定の態様において、そのようにして構成した発現カセットをアグロバクテリウム・ツメフアシェンスによる植物細胞中への移入のためにアームを除去した(disarmed)TiプラスミドのトランスファーDNA(T−DNA)の左ボーダーと右ボーダーの間に挿入する。T−DNAは、また、その発現が抗生物質又は除草剤に対する耐性を付与し、形質転換体の選択を可能にする遺伝子を含む。
【0079】
ひとたび再生させれば、トランスジェニック植物は、トリコームにおいて本発明の遺伝子の異種発現又はSB型セスキテルペン混合物、Z,Z−FPP又はZ,Z−ファルネソールの産生についてテストできた。これは、葉浸出物の回収及び該浸出物中での目的の産物の存在についてのテストにより達成できる。植物により放出された揮発性化合物の分析によって、該化合物の同定も可能になる。これは、また、葉中及び、特にトリコーム細胞中での本発明の1又は複数の異種酵素の存在を分析することにより(例えば、特異的プライマー又はプローブでmRNA又はゲノムDNAを分析することにより)行える。植物は、場合により、選択、交配、処置などして、改善した発現レベルを有する植物を得ることができる。
【0080】
本発明の別の目的は、また、上で定義したような核酸、発現カセット、又はベクターを含む植物又は種子に基づく。
【0081】
本発明のさらなる目的は、S.ハブロカイトの対応するゲノム配列の他の性的和合性のある栽培トマト(S.リコペルシカム)の種又は品種中への導入を可能にする分子マーカーとしての本発明の核酸の使用に関する。実際に、前記マーカーは、S.ハブロカイトの対応するゲノム配列の他の性的和合性のある栽培トマト(S.リコペルシカム)の種又は品種中への導入を制御し、これにより、例えば、野生種と本発明の核酸の遺伝子移入が起こった栽培種の間での交配から産生された個体を同定及び選択することが可能になる。分子マーカーとしての本発明の核酸の使用は、当業者に公知の任意の技術により実施できる。例えば、一般的に使用される技術は、異なる制限酵素により切断される2つのゲノム間の、本発明の核酸との分子ハイブリダイゼーションによるバンド多型の同定(RFLP)に基づく。別の例は、比較するゲノムにおいて、本発明の核酸と相補的なプライマーから本発明の核酸の全て又は一部を増幅するためのPCRの使用により多型を探索して、PCR増幅後、2つのゲノム間のサイズ多型を同定することである。多型は、また、比較するゲノム間の異なるサイズの断片を産生する1又は複数の制限酵素による該PCR産物の消化後に明らかにできる。
【0082】
ひとたび多型が同定されると、この情報を使用して、例えば、S.ハブロカイトと本発明の核酸の遺伝子移入が望ましい様々なトマトの間の交配に由来するF2集団において個体を同定する。
【0083】
本発明の別の目的は、zFPS及びSB合成酵素をコード化するS.ハブロカイトのゲノム配列の性的和合性のある種中への細胞、特にプロトプラストの融合による導入に関する。プロトプラスト質融合技術は当業者に公知であり(Zimmermann et al., 1981, Bates et al., 1983)、2つの融合種に属する染色体を含むハイブリッド細胞の作製を可能にする。融合中、2つの種の染色体又は染色体断片は除去される。本発明の遺伝子を含む染色体断片を保持したハイブリッド細胞は、次にzFPSをコード化する遺伝子(配列番号1)もしくはSB合成酵素をコード化する遺伝子(配列番号2)に特異的なプライマー又は両方を一度に使用したPCRにより選択できる。
【0084】
本発明は、また、SB型セスキテルペン混合物の合成経路が、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子もしくは本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子のいずれか、又は両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物に関する。前記遺伝子の発現は、当業者に公知の多くの利用可能な技術により遮断できる。遺伝子は、欠失、突然変異(例えば、メタンスルホン酸エチルでの化学的突然変異誘発により、又は、イオン化照射により)、又は中断(挿入突然変異誘発)できる。さらに、前記遺伝子の発現は、抑制性転写物の発現による遺伝子消失によっても遮断できる。抑制性転写物は、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、遮断する遺伝子の転写物と一定の相補性又は特異性を有するRNAである。
【0085】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子の発現を低減又は抑制できる核酸に関する。実際に、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子と一定の相補性又は特異性を有する抑制RNAは、本発明の教示に基づき調製できる。例えば、本発明は、配列番号1の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子又はそれに相補的な配列の抑制RNAに関する。同様に、本発明は、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子の発現を抑制するための、配列番号1の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド又はそれに相補的な配列の使用に関する。この酵素の抑制は、SB型セスキテルペン混合物の合成経路を停止又は減速させ、IPP及びDMAPをZ,Z−FPPの供給を必要とする目的の別の合成経路で利用可能にするために有用でありうる。例えば、この酵素の抑制は、トマト葉の腺トリコーム細胞によるゲルマクレンBの産生レベルにおける増加をもたらすことができる。本発明は、従って、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子が不活化されたトランスジェニック生物又は細胞に関する。不活化は、RNA干渉技術、遺伝子欠失、化学突然変異、又は相同組み換えによる不活化により達成できる。このように、Z,Z−FPP又はSB型セスキテルペン混合物の含量は、前記トランスジェニック生物又は細胞において低減できる。
【0086】
さらに、本発明は、また、SB合成酵素をコード化する遺伝子の発現を低減又は抑制できる核酸に関する。確かに、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、SB合成酵素をコード化する遺伝子と一定の相補性又は特異性を有する抑制RNAは、本発明の教示に基づき調製できる。このように、本発明は、配列番号3の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むSB合成酵素をコード化する遺伝子の抑制RNAに関する。同様に、本発明は、SB合成酵素をコード化する遺伝子の発現を抑制するための、配列番号3の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの使用に関する。この酵素の抑制は、SB型セスキテルペンの合成経路を停止させ、Z,Z−FPPを該化合物の供給を必要とする目的の別の合成経路で利用可能にする、例えばZ,Z−FPP誘導体、例えばZ,Z−ファルネソール、又はZ,Z−FPPを基質として使用する合成酵素の産物である他のセスキテルペンを調製するために有用でありうる。
【0087】
本発明は、従って、SB合成酵素をコード化する遺伝子が不活化されている細胞又はトランスジェニック生物に関する。不活化は、RNA干渉技術、遺伝子欠失、化学突然変異、又は相同組み換えによる不活化により達成できる。このように、SB型セスキテルペン混合物の含量は、前記細胞又はトランスジェニック生物において低減できる。
【0088】
本発明は、また、別の種に由来するZ,Z−FPP合成酵素又はSB合成酵素をコード化する他の遺伝子を同定又はクローン化するための方法に関し、ここで、配列番号1又は3の少なくとも15、30、50、75、100、200、又は300個の連続ヌクレオチドを有するプローブを調製及び使用し、サンプル中の該プローブとハイブリダイズできるヌクレオチド配列を同定又は選択する。サンプルは、例えば、1又は複数の生物に由来するゲノム又はcDNAライブラリーでよい。方法は、同定又は選択した配列を特性付ける追加段階を含んでよい。この追加段階は、クローニング、及び/又はシークエンシング、及び/又は配列アラインメント、及び/又は酵素活性テストを含んでよい。
【0089】
本発明の他の局面及び利点は、以下の実施例において明らかとなり、それらは説明の目的のために与えられ、限定しない。
【0090】
実施例
トマト葉cDNA(S.ハブロカイト)の合成
mRNAはトマト葉(ソラナム・ハブロカイト=L.ヒルスタム LA1777)から全RNA抽出キット(RNeasy Minikit, Qiagen)を使用して抽出した。対応するcDNAは、逆転写酵素(Roche,Cat.No.03 531 317)を使用して、製造者が推奨する反応条件においてポリTプライマーからの逆転写により合成する。
【0091】
ソラナム・ハブロカイト・トマトからのZ,Z−FPP合成酵素(Sh−zFPS)及びSB合成酵素(Sh−SBS)のためのコード配列のクローニング
2つの遺伝子Sh−zFPS及びSh−SBSの完全コードヌクレオチド配列は、SGNウェブサイト(“SOL Genomics Network”,http://www.sgn.cornell.edu/)で入手可能なS.ハブロカイトトマト葉トリコームのESTライブラリー(Van der Hoeven, et al., 2000、未発表)中の公的に入手可能な配列データからクローン化した。
【0092】
Sh−zFPS(配列番号1)及びSh−SBS(配列番号3)の配列は、配列番号1についてはプライマー
【表2】
を、配列番号3についてはプライマー
【表3】
を使用してトマト葉cDNAからPCRにより得た。制限酵素部位(NcoI及びXhoI)をプライマーの5’末端に付加し、プロモーターの下流でのcDNAのクローニングを容易にした。PCR増幅は、製造者により供給されるバッファーにおいて0.5単位のTaqポリメラーゼ(Eurogentec)で実施した。PCR産物はQiaquickカラム(Qiagen)で精製し、T4 DNAリガーゼ(NEB)でのライゲーションによりpGEM−Tクローニングベクター(Promega)中にクローン化した。予測配列を有するクローンは、挿入断片の完全シークエンシング後に選択した。
【0093】
Sh−zFPSヌクレオチド配列(配列番号1)は912塩基長であり、303個のアミノ酸(配列番号2)のタンパク質をコード化する。シス−型(Z)−イソプレニル二リン酸合成酵素(シス−IPPS)、又は名ウンデカプレニル合成酵素(UPPS)の保存タンパク質ドメインを、コンピュータでのCCDシス−テムにより同定した(NCBI, Marchler-Bauer A, Bryant SH (2004))。Sh−zFPSと類似のアミノ酸配列を、BlastPソフトウェアを使用したSwissProt及びGenBankタンパク質データベースにおいて検索した(Altschul et al., 1997)。最高パーセントの同一性が、ウンデカプレニル二リン酸合成酵素とホモロジーを示すが、しかし、その機能が実証されていない植物配列で得られた(表1)。例えば、Sh−zFPSは、シロイヌナズナ(Arabidopis thaliana)BAA97345及びAAO63349の推定UPPSとそれぞれ42%及び39%の同一性を有する。Sh−zFPS配列がミクロコッカス・ツベルクロシス(Micrococcus tuberculosis)(O53434)のZ,E−FPSと非常に低いパーセント(24%)の同一性を有することも分かる。
【0094】
【表4】
表1:Sh−zFPS配列でのSwissProt及びGenBankライブラリーに対するBlastP 2.2.13プログラム(Altschul et al., 1997)を使用したホモロジー検索により得られた最高パーセントの同一性(%同一性)を伴う配列
【0095】
Sh−SBSヌクレオチド配列(配列番号3)は2334塩基長であり、777個のアミノ酸(配列番号4)のタンパク質をコード化する。保存テルペンシクラーゼタンパク質ドメインをCCDシス−テム(NCBI, Marchler-Bauer A, Bryant SH (2004))によりコンピュータで同定した。Sh−SBSと類似のアミノ酸配列を、BlastPソフトウェアを使用してSwissProt及びGenBankタンパク質ライブラリーにおいて検索した(Altschul et al., 1997)。機能未知のタバコ配列(60%同一性)を例外とし、最高のホモロジーが植物ジテルペン合成酵素で得られ(表2)、異なる植物(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)、ステビア・レバウディアナ(Stevia rebaudiana)、オリザ・サティバ(Oryza sativa))のカウレン合成酵素をコード化する配列との同一性は約40から45%であった。Sh−SBSは、また、アビエタジエン合成酵素及びタキサジエン合成酵素などの機能未知のテルペン合成酵素ならびにアルファ−ビサボレン合成酵素とのより低いホモロジー(26−33%同一性)を有する。
【0096】
【表5】
表2:Sh−SBS配列でのSwissProt及びGenBankライブラリーに対するBlastP 2.2.13プログラム(Altschul et al., 1997)を使用したホモロジー検索により得られた最高パーセントの同一性(%同一性)を伴う配列
【0097】
Sh−zFPS及びSh−SBS組み換えタンパク質の産生
Sh−zFPS及びSh−SBSをコード化する核酸配列(それぞれ配列番号1及び3)を別々にpET−30b発現ベクター(Novagen)中に導入した。組み換えタンパク質の精製を可能にするために、これらの配列の終止コドンを欠失させて、C末端に6ヒスチジンテールを伴う融合タンパク質を作製した。そのようにして得られたShzFPS−pET30b及びSh−SBS−pET30bベクターは、エレクトロポレーションにより、組み換えタンパク質の発現用に改変した大腸菌(Escherichia coli)(BL21−CodonPlus,Stratagene)中に導入した。タンパク質を産生するために、大腸菌培養(500ml)を37℃で開始し、600nmでの吸光度が0.5に達した。この段階で、培養温度を16℃まで下げ、エタノール(1%V/V)を培地に加えた。1時間のインキュベーション後、IPTGを1mM濃度で培地に加えて、組み換えタンパク質の発現を誘導した。培養物を次に18時間インキュベートし、細胞を4℃で遠心することにより停止した。細胞沈殿物を200mMリン酸バッファー中に再浮遊した。細胞をフレンチプレス(ΔP=19バール)で溶解させて、溶解物を15,000gで遠心した。可溶性タンパク質を含む上精をPD10カラム(Amersham)で脱塩し、50mMリン酸バッファー(pH7)で平衡化し、製造者の溶出プロトコルに厳密に従ってニッケル−ニトリロ三酢酸アフィニティ樹脂(Ni−NTA,Qiagen)上に添加した。最高量のSh−zFPS−6His及びSh−SBS−6Hisタンパク質を伴う画分をSDS−PAGEにより同定し、次に50mM HEPESバッファー(pH7.8,100mM KCl)で平衡化したPD10カラムで脱塩した。粗タンパク質画分と比較して、約20倍濃縮が2つのタンパク質について得られた。
【0098】
Sh−zFPS及びSh−SBS組み換えタンパク質のインビトロ酵素活性テスト
活性テストは以下のバッファー中で実施した:50mM HEPES(pH7.8)、100mM KCl、7.5mM MgCl2、5%(w/v)グリセロール、及び5mM DTT。活性テストでは、濃縮画分からの25又は50μgのタンパク質を32℃で2時間基質IPP、DMAPP、GPP、FPP、GGPP(Sigma)と、単独又は併用で、各々65μMの濃度でインキュベートした。
【0099】
Sh−zFPS−6Hisで実施したテストでは、反応産物を、20単位のウシ腸アルカリホスファターゼ(New England Biolabs)の37℃で1時間の添加により脱リン酸化した。テルペンアルコールは、リン酸化産物であり、次にクロロホルム/メタノール/水混合物(0.5/1/0.4)で抽出した。水相及び有機相を水(0.5vol)及びクロロホルム(0.5vol)の添加により分離し、2,000gで遠心した。有機層を回収し、窒素ガス流下で乾燥させ、ペンタン中に溶かし、質量分析を連結したガスクロマトグラフィー(GC−MS 5973N, Agilent Technologies)により分析した。テルペンアルコールは、それらの質量スペクトルをNational Institute of Standards and Technology(NIST)のデータベースのものと比較し、及び、それらの保持時間をゲラニトール、ファルネソール、及びゲラニルゲラニオール参照標準物質(Fluka)のものと合わせることにより同定した。
【0100】
Sh−SBS−6Hisで実施したテストでは、反応において産生したテルペンを反応混合物からペンタンで(3回)直接抽出した(容積対容積)。3つのペンタン抽出物をプールし、窒素ガス流下で濃縮し、GC−MSにより分析した。産生したテルペンをNISTデータベースの照合及びソラナム・ハブロカイト浸出物の抽出物でのクロマトグラムとの比較により同定した。
【0101】
Sh−zFPS−6His組み換えタンパク質を基質IPP+DMAPP又はIPP+GPPとインキュベートした(表1参照)。第1の組み合わせ(IPP+DMAPP)のみが、脱リン酸化後、15個の炭素原子(C15)を伴う単一のテルペンアルコールの形成をもたらし、その質量スペクトルによって、NISTデータベース中の標準スペクトルとの比較により、それはファルネソールとして同定された(図4)。保持時間は、4つのファルネソール異性体(E,E−ファルネソール;E,Z−ファルネソール;Z,E−ファルネソール、及びZ,Z−ファルネソール)の混合物を含むファルネソール標準物質と比較した。Sh−zFPS−6Hisにより産生したファルネソールは、Z,Z−ファルネソールのものと同一の保持時間を有した。
【0102】
Sh−SBS−6His組み換えタンパク質を基質GPP、FPP、及びGGPPとインキュベートした。使用した基質を問わず、新しいテルペンは検出できず、酵素がトランス−アリル型基質では不活性であることを示唆する(表1)。
【0103】
【表6】
*:脱リン酸化後
表3:異なるイソプレン基質を伴うSh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で得られたインビトロ酵素活性テストのまとめ。A、Z,Z−ファルネソール、B、アルファ−サンタレン;C、エピ−ベータ−サンタレン;D、エンド−ベータ−ベルガモテン;E、シス−アルファ−ベルガモテン;F、トランス−アルファ−ベルガモテン
【0104】
Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His酵素を基質DMAPP及びIPP又はGPP及びIPPと一緒にインキュベートした。反応産物をホスファターゼで処置せず、ペンタンで抽出し、その中には全てのオレフィンが溶解できる。DMAPP及びIPPを基質として、抽出物のクロマトグラフ分析によっていくつかのテルペン化合物の存在が明らかになった(図5)。GCプロファイルは、親のS.リコペルシカムとS.ハブロカイトから得られた準同質遺伝子系統であるTA517トマト系統(Monforte and Tanksley, 2000)の浸出物のものと比較した。TA517系統は、クラスIIセスキテルペンの生合成に関与するS.ハブロカイトの遺伝子移入断片を含む(van der Hoeven et al., 2000)。2つのGCプロファイルは同一であり、組み換え酵素がトマト中に存在するものと厳密に同一である活性を有することが確認された(図6)。主成分(図5、ピーク2)は、その保持時間及び質量スペクトルをTA517浸出物の抽出物のものと比較することによりアルファ−サンタレンとして同定された。量の多いものから、アルファ−サンタレン(ピーク4)、エンド−ベータ−ベルガモテン(ピーク5)、及びアルファ−ベルガモテン(ピーク1)も同定された。Sh−SBS−6His酵素は、従って、その活性が複数の産物の形成をもたらす酵素である。
【0105】
Sh−zFPSは、IPP及びDMAPPに作用して、ファルネシル二リン酸型のリン酸化化合物を産生する酵素であると結論付けることができる。保持時間は(Z,Z)−ファルネソール標準物質と同一であり、ShzFPSにより産生されるファルネシル二リン酸がZ,Z配置型により特徴付けられることを示唆する。Sh−zFPS−6Hisが、IPPとの組み合わせで、E−ゲラニル二リン酸に不活性であるとの事実は、この分子がSh−zFPS−6Hisの中間体ではなく、1つのDMAPPと1つのIPPを組み合わせることにより少なくとも1つのZ型結合を産生することを示唆する。Sh−SBSは、Sh−zFPSにより産生されるファルネシル二リン酸化合物でのみ活性であるが、しかし、少なくとも4つの明確に同定されたセスキテルペンを産生し、主な1つはアルファ−サンタレンである。最後に、C末端での6ヒスチジンタグ及びスペーサーの存在は、元の植物の天然酵素と比較して、酵素活性に及ぼす効果を有さなかった(図3)。
【0106】
タバコにおけるZ,Z−FPP合成酵素(Sh−zFPS)及びSB合成酵素(Sh−SBS)の発現
トリコーム特異的タバコプロモーター(eCBTS02, Tissier et al., 2004)をSh−zFPS及びSh−SBSのコード配列の上流にクローン化して、コンストラクトeCBTS1.0Sh−zFPS[#1]及びeCBTS1.0−Sh−SBS[#2]を形成した。これらの2つのコンストラクトを、カナマイシン耐性遺伝子を含む、アグロバクテリウムによる形質転換用の同じバイナリーベクター中に導入し、pLIBRO−064バイナリーベクターを得た(図2A)。コンストラクト#2もpLIBRO−065バイナリーベクター中に別々に導入した(図2B)。ベクターは、エレクトロポレーションによりアグロバクテリウム株LBA4404中に導入した。異なるベクターを持つ株を使用して、葉片法(leaf disc method)(Horsch et al., 1985)によるN.シルベストリスの遺伝子形質転換を実施した。
【0107】
導入遺伝子を保有するT−DNAを遺伝子形質転換により、CBTSの発現がRNA干渉により抑制されたN.シルベストリスのトランスジェニック細胞系統(親系統ihpCBTS)(Tissier et al., 2005)中に導入した。この系統において、葉中のCBTジオール量は非常に低い。N.シルベストリスは野生タバコであり、トマトのものに対応するセスキテルペンを産生しない。約25のカナマイシン耐性植物が、各々のコンストラクトについて得られた。各々の植物における導入遺伝子の存在を、葉ゲノムDNAでのPCRにより確認した。葉中での導入遺伝子の発現レベルは、タバコ葉からのmRNAでのリアルタイム定量的PCRにより確かめた。Sh−SBS導入遺伝子の発現レベルを、タバコ葉において構成的に発現したアクチンのものと比較した。結果を図3において例示する。結果は、選択した系統が全て、アクチン遺伝子と比べて、pLIBRO−064コンストラクトでは1から50まで、pLIBRO−065コンストラクトでは1から10までの範囲の変動レベルで導入遺伝子を発現したことを示唆する。
【0108】
オレフィンセスキテルペンは揮発性分子であるため、植物により放出された揮発性分子は培養チェンバー中の制御空気中で分析した。空気サンプルを、オレフィンテルペンを吸収するSuperQ(登録商標)フィルター(Altech)を含む誘導サーキット中に捕捉した。分子を次に1mlペンタンで溶出し、GC/MSにより分析した。図7は、トランスジェニック植物により放出された揮発性分子のクロマトグラフプロファイルの例を図示する。それは、Sh−zFPS及びSh−SBS遺伝子を発現する系統#3877は、このクラスのセスキテルペンに特徴的な分子イオンサイン93、94、121、及び204を伴ういくつかの新しいピークを含んだことを示す。クロマトグラフプロファイルを、天然でこれらの化合物を産生するTA517トマト系統の浸出物で得られたものと比較した(図7)。2つのプロファイルは同一であり、各々のピークの質量スペクトルはTA517系統のピークのものと同一であった。2つの導入遺伝子Sh−zFPS及びSh−SBSを発現している植物が、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンを産生したのに対し、Sh−SBS遺伝子のみを組み込んだトランスジェニック系統はこれらの化合物のいずれも産生しなかった。これらの結果は、両方の遺伝子の存在がSB型のセスキテルペンの合成に必要であることを示唆する。それらによって、組み換え酵素で、インビトロで得られたデータが確認される。結論として、Sh−zFPS及びSh−SBS遺伝子は、トマトのセスキテルペンの生合成に関与し、“van der Hoeven et al., 2000”により記載される遺伝子座SsT2に位置する。
【0109】
S.リコペルシカムとS.ハブロカイトの間のzFPS遺伝子多型
完全zFPS遺伝子は、以下のプライマーを使用して、S.リコペルシカム、S.ハブロカイト、及びTAS17のゲノムDNAからPCRにより増幅した:ACCATGGGTTCTTTGGTTCTTCAATGTTGGA(配列番号9)及びACTCGAGATATGTGTGTCCACCAAAACGTCTATG(配列番号10)。2つの産物が2つのゲノムにおいて増幅され、2つのゲノム中に少なくとも2コピーの遺伝子が存在することを示唆する(図8)。約3000ヌクレオチド(バンドA)のサイズを伴う2つの産物の1つは、2つのゲノムに共通である。第2の産物は、S.リコペルシカムにおいて約2000ヌクレオチド(バンドC)及びS.ハブロカイトにおいて約2500ヌクレオチド(バンドB)のサイズを有する。TA517系統のプロファイルは、S.ハブロカイトのものと同一である。これらの結果は、S.ハブロカイトに特異的な遺伝子BがTA517系統中に導入されていることを示唆する。産物Bのシークエンシングによって、それが本明細書において記載するzFPS遺伝子に対応することが確認された。この結果は、また、2つのゲノムの間に存在する多型をこの遺伝子について使用することによりS.ハブロカイトのzFPS遺伝子をS.リコペルシカム中に導入できることを実証する。
【表7】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セスキテルペンの混合物の合成に関与する2つの遺伝子ならびに細菌、酵母、動物細胞、及び植物などの生きた生物における該化合物を調製するためのそれらの使用に関する。
【0002】
序論
テルペンは、細菌、カビ、動物、及び植物などの全ての生きた生物に存在する分子である。それらは生物界において天然産物の最大の分類を形成する。植物において、これらの分子はホルモン(ジベレリン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、及びアブシシン酸)として、又は、光合成(カロチノイド、クロロフィル、プラストキノン、及びフィトール)、タンパク質プレニル化過程、及び膜構造(ステロール)に関与する化合物として、一次代謝において役割を果たす。しかし、二次代謝から生ずるテルペノイドは、分子のこの分類での構造的多様性の大部分を占める。いわゆる二次テルペノイド(secondary terpenoid)は、主に、例えば、植物に有益な昆虫の誘引(受粉及び植食性昆虫の捕食者)、病原体及び昆虫に対する防御、ならびに光酸化ストレスに対する保護などの環境相互作用において役割を果たす(Tholl, 2006)。
【0003】
テルペンは複数の5炭素イソプレニル単位で構成される。含まれるイソプレニル単位の数に従って、テルペンは、モノテルペン(10個の炭素原子又はC10を伴う化合物)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)などに分類される。全てのテルペンの普遍的な前駆体は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)である。2つの別々の経路が、IPP及びDMAPPの形成をもたらす。1つのメバロン酸(MEV)経路は真核細胞の細胞質中に位置しており、他方のメチル−エリトリトール(MEP)経路は、それが葉緑体中に位置する一部の細菌及び植物においてのみ公知である(Rodriguez-Concepcion and Boronat, 2002)。これらの2つの経路における全ての階段及び階段の酵素をコード化する全ての遺伝子は、一定数の生物において公知である。
【0004】
共通の前駆体であるIPP及びDMAPPからのテルペン生合成の第一段階は、プレニル二リン酸合成酵素(又はプレニルトランスフェラーゼ)により実施され、それは、ホモアリル前駆体であるIPP及びアリル前駆体(DMAPP、ゲラニル二リン酸、ファルネシル二リン酸、あるいはゲラニルゲラニル二リン酸)の縮合により、多様な長さのプレニル二リン酸鎖を生成する。プレニル二リン酸合成酵素の2つの主な分類が存在する:シス−プレニルトランスフェラーゼ又はZ−プレニルトランスフェラーゼ及びトランス−プレニルトランスフェラーゼ又はE−プレニルトランスフェラーゼ。シス−プレニルトランスフェラーゼはシス−配置で二重結合の形成をもたらし、トランス−プレニルトランスフェラーゼはトランス配置で二重結合の形成をもたらす(Koyama, 1999)。例えば、トランス−ファルネシル二リン酸合成酵素、又はE−FPS、によるDMAPPへの2単位のIPPの連続付加によって、E,E−ファルネシル二リン酸(E,E−FPP、C15)が生じる。鎖伸長反応は、二リン酸イオンの除去後のアリル型カチオンの形成により開始し、アリルプレニルを形成する。次に、1個のIPPを加え、2番目の位置でプロトンが立体特異的に除去され、産物中に新しいC−C結合及び新しい二重結合を形成する。アリルプレニル二リン酸を伴うIPPのこの立体特異的縮合の反復は、その鎖長及び立体化学が各々の酵素に特異的であるプレニル二リン酸の合成をもたらす。特に、終産産物の鎖長は大幅に変動し、C10(ゲラニル二リン酸)から、数千の炭素原子で構成される天然ラテックスの前駆体であるポリプレニル二リン酸にまで及ぶ。
【0005】
先に言及した通り、プレニルトランスフェラーゼは各々の伸長サイクル後に形成される二重結合の立体化学(E又はZ)に基づき2つの異なる遺伝子系統に分けることができる(Poulter, 2006; Liang et al., 2002)。
【0006】
今までに特性付けられたE−プレニルトランスフェラーゼは、E配置を有する短鎖プレニルリン酸(C10からC50)の合成をもたらす。例として、ゲラニル二リン酸合成酵素(GPS)、ファルネシル二リン酸合成酵素(FPS)、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素(GGPS)、オクタプレニル二リン酸合成酵素(OPS)、ソラネシル二リン酸合成酵素(SPS)、及びデカプレニル二リン酸合成酵素(DPS)が挙げられ、それぞれ(E)−GPP(C10)、(E,E)−FPP(C15)、(E,E,E)−GGPP(C20)、(E,E,E,E,E,E,E)−OPP(C40)、(E,E,E,E,E,E,E,E)−SPP(C45)、及び(E,E,E,E,E,E,E,E,E)−DPP(C50)の合成を触媒する。一般的に、(E,E)−FPPは、20個を上回る炭素での鎖合成に関与するプレニルトランスフェラーゼの基質であることに注目すべきである。(E)−プレニルトランスフェラーゼをコード化する最初に特性付けされた遺伝子は、ラットのFPSをコード化する遺伝子であった(Clarke et al., 1987)。E−プレニルトランスフェラーゼコード配列の配列整列によって、DDXXD型の2つの保存モチーフが明らかにされている。FPSによるX線結晶構造解析(Tarshis et al., 1994)ならびに部位特異的変異誘発試験により初めて決定されたE−プレニルトランスフェラーゼの三次元構造によって、2つのDDXXDモチーフが基質結合及び結果として得られる触媒活性に関与することが示された。最後に、第1のDDXXDモチーフの上流に位置する少数の特定アミノ酸によって、合成されるイソプレニル鎖の長さが決定されることが示されている(Wang & Ohnuma, 1999)。
【0007】
Z−プレニルトランスフェラーゼをコード化する第1の遺伝子が、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)においてクローン化された(Shimizu et al., 1998)。この遺伝子はウンデカプレニルトランスフェラーゼ(UPS)をコード化し、それはE−FPPを基質として使用し、Z,E立体化学を伴う55炭素プレニル二リン酸を形成する。この分子は、一部の細菌における細胞壁のペプチドグリカン生合成に関与する。シロイヌナズナ(Arabidopsis)において特性付けされた相同配列が、100から130個の炭素原子を有するZ,E−イソプレニル二リン酸の合成に関与することが示された(Oh et al., 2000)。これらの酵素のアミノ酸配列分析によってE−プレニルトランスフェラーゼへの相同性は全く明らかにされなかった(Koyama, 1999)。特に、Z−プレニルトランスフェラーゼは、アスパラギン酸に富むモチーフ(DDXXD)を持たない。その全てが基質結合及びその触媒において多かれ少なかれ役割を果たす7つの保存領域が同定されている。今までに特性付けられている全てのZ−プレニルトランスフェラーゼが、55個の炭素より多い、又は、等しい鎖長を有するプレニル二リン酸を合成するが、基質としてE−GPPを使用して、Z,E−FPPを形成するマイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)のZ,E−FPSは例外である(Schulbach et al., 2000)。M.ルテウスのUPSに関する最近の部位特異的変異誘発試験によって、合成されるイソプレニル鎖の伸長サイクル数において重要な役割を果たすいくつかのアミノ酸が同定された(Kharel et al., 2006)。
【0008】
イソプレニル二リン酸は、酵素分類、テルペン合成酵素の基質であり、それはC10(モノテルペン)、C15(セスキテルペン)、C20(ジテルペン)、及びC30(トリテルペン)中の基本環状骨格又はアシルテルペン骨格の形成を触媒する(Cane 1999; McMillan and Beale, 1999; Wise and Croteau, 1999)。これらの酵素の反応多様性は、天然において見いだされる環状テルペン骨格の多様性の基礎となる。ファルネシル二リン酸の4つの立体異性体が、分子の2及び6番目の位置の二重結合の立体化学的配置に従って理論的に可能である(E,E、Z,E、E,Z、又はZ,Z)。しかし、今までに、遺伝子が特性付けされた全てのセスキテルペン合成酵素で、基質としてE,E−FPPが使用される。これは、例えば、タバコの5−エピ−アリストロチェン合成酵素(Facchini & Chappell, 1992)、グランドモミ(Abies grandis)の(E)−アルファ−ビサボレン合成酵素(Bohlmann et al., 1998)、チコリのゲルマクレンA合成酵素(Bouwmeester et al., 2002)、クソニンジン(Annual Wormwood)のアモルファ−4,II−ジエン合成酵素(Wallaart et al., 2001)、トマトのゲルマクレンC合成酵素(Colby et al., 1998)、クソニンジンのカリオフィレン合成酵素(Cai et al., 2002)、及びオレンジのバレンセン合成酵素(Sharon-Asa et al., 2003)の例である。それにもかかわらず、最近の研究では、14のセスキテルペンの混合物の合成を触媒するトウモロコシセスキテルペン合成酵素(tps4)がE,E−FPP及びZ,E−FPPを受け取り(Kollner et al., 2006)、それによってセスキテルペン合成酵素がE,E−FPP以外の異性体を基質として使用できることが示されたと報告された。しかし、今までにクローン化されたセスキテルペン合成酵素のいずれもZ,Z−FPPを使用しない。
【0009】
ソラナム・ハブロカイト(Solanum habrochaites)(以前はリコペルシコン・ヒルスタム(Lycopersicum hirsutum)として公知)のVI型腺毛(glandular trichome)は、2つの異なる分類に属する大量のセスキテルペンオレフィンを分泌する。クラスIは特にゲルマクレンBを含み、クラスIIはとりわけアルファ−サンタレン及びアルファ−ベルガモテンを含む。栽培トマトの遺伝子型(リコペルシコン・エスクレンタム(Lycopersicon esculentum)=ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum))と野生型トマトの遺伝子型(リコペルシコン・ヒルスタム=ソラナム・ハブロカイト)の間の分離比分析によって、これらの2つの異なるセスキテルペンクラスの生合成が、2つの異なる染色体にマップされる2つの異なる遺伝子座(Sst1A及びSst2)により制御されることが示された(van der Hoeven et al., 2000)。Sst1A遺伝子座は第6染色体上に位置し、この遺伝子座の遺伝子はクラスIセスキテルペンの蓄積に関与する。第8染色体上に位置するS.ハブロカイトのSst2対立遺伝子は、アルファ−サンタレン、また、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、エピ−ベータ−サンタレン、及びベータ−ベルガモテン、ならびに他の未同定の微量化合物などのクラスIIセスキテルペンの蓄積を制御する。Sst1A遺伝子座の遺伝子のコード配列が同定されているのに対して(van der Hoeven et al., 2000)、これはSst2遺伝子座の遺伝子には該当しない。
【0010】
発明の概要
本発明は、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物ならびにそれらの前駆体Z,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)の合成に関与する2つの遺伝子、及び、細菌、酵母、動物細胞、及び植物などの生きた生物において該化合物を調製するためのその使用に関する。
【0011】
より具体的には、本発明は、本文の残りの部分において(サンタレン及びベルガモテンでの)SB型セスキテルペンと呼ばれるクラスIIのS.ハブロカイトのセスキテルペン(とりわけ、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテン)の合成に関与するS.ハブロカイトの2つの遺伝子の同定及び特性付けについて記載する。第1の遺伝子はZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素をコード化し、第2は、基質としてZ,Z−ファルネシル二リン酸を使用する複数産物のセスキテルペン合成酵素をコード化する。対応する組み換えタンパク質の産生は、インビトロで得られるセスキテルペンプロファイルが、トマトSst2遺伝子座により制御されるものと同一であることを明らかにした。
【0012】
本発明は、一方で、IPP及びDMAPからのZ,Z−FPP、ならびに、Z,Z−FPPからのアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物の生合成に関与する酵素活性、ならびに、該活性に関与するペプチド配列及び該ペプチド配列をコード化する核酸配列に関する。本発明は、さらに、該化合物又はその誘導体を産生するための該酵素活性を使用した方法に関する。
【0013】
本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞において、Z,Z−FPPから、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPSをコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSBSと命名されたセスキテルペン合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はSBS酵素のセスキテルペン産物又はその誘導体の回収
を含む。
【0014】
本発明は、Z,Z−FPS活性を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。該タンパク質は、好ましくは、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する。本発明は、また、そのようなタンパク質をコード化するヌクレオチド配列、又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を含む核酸に関する。
【0015】
本発明は、また、SB合成酵素型活性を有し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。本発明は、また、そのようなタンパク質をコード化するヌクレオチド配列、又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を含む核酸に関する。
【0016】
本発明は、本発明の核酸を含む発現カセット、本発明の発現カセット又は核酸を含むベクター、本発明のベクター、発現カセット、又は核酸を含む宿主細胞、及び本発明の細胞、ベクター、発現カセット、又は核酸を含む非ヒトトランスジェニック生物に関する。
【0017】
本発明は、また、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞において、IPP及びDMAPから、Z,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPSをコード化する核酸配列を伴う発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるその誘導体の回収
を含む。
【0018】
本発明は、Z,Z−FPP、又は、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンなどのSB型セスキテルペン、又は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、シス−アルファ−ベルガモトール、トランス−アルファ−ベルガモトール、及びベータ−ベルガモトールなどのその誘導体を調製するための本発明のタンパク質、核酸、宿主細胞、又はトランスジェニック生物の使用に関する。
【0019】
本発明は、クラスIIセスキテルペンの合成経路が、本発明のZ,Z−FPSをコード化する遺伝子もしくは本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子のいずれか、あるいは両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物に関する。
【0020】
本発明は、また、対応するゲノム配列を他の種又は品種の栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)中に導入可能にする分子マーカーの同定のための核酸の使用に関する。本発明に関連して、ヌクレオチド配列の配列番号1及び2又はその変異体を、他の種又は品種の栽培トマト中への該配列の遺伝子導入のための分子マーカーとして使用することもできる。
【0021】
このように、本発明は、S.ハブロカイトと性的和合性のあるソラナム型の種中に対応する遺伝子を導入するためにS.ハブロカイトと該種との間のゲノム多型を同定するための配列番号1又は配列番号3と少なくとも80%の同一性を伴う核酸の全部又は一部を含む分子マーカーに関する。本発明は、また、プロトプラストによる、ソラナム・ハブロカイトと性的和合性のない種中へのzFPS遺伝子及びSBS遺伝子の導入である方法に関する。
【0022】
本発明は、また、ホスファターゼによるZ,Z−FPPの脱リン酸化によるZ,Z−ファルネソールを産生するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】FPPの可能な立体異性体。FPPの全ての立体異性体はIPP及びDMAPPから生合成される。今までに、多くの生物において特性付けされているE,E−ファルネシル二リン酸合成酵素(1)、及びマイコバクテリウム・ツベルクローシス−のZ,E−ファルネシル二リン酸合成酵素(2)(Schulbach et al., 2000)だけが公知であった。(3):本発明のトマトZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素;(4):E,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素:この活性を有する酵素はまだ記載されていない。
【図2A】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を保有するT−DNAの図面。km:カナマイシン耐性遺伝子;35S: CaMV 35S遺伝子プロモーター。CBTS−ter:CBTSターミネーター遺伝子;eCBTS1.0:CaMV35プロモーターのエンハンサーに融合したCBTS遺伝子の1kbプロモーター。Sh−zFPS:トマトzFPS(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;Sh−SBS:トマトSB合成酵素(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;LB:T−DNAの左ボーダー;RB: T− DNA右ボーダー;35S−ter:CaMV35遺伝子ターミネーター;nos−ter:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ターミネーターのノパリン合成酵素遺伝子。図2:pLIBRO6バイナリーベクターのT−DNA断片;図2B:pLIBRO65バイナリーベクターのT−DNA断片。
【図2B】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を保有するT−DNAの図面。km:カナマイシン耐性遺伝子;35S: CaMV 35S遺伝子プロモーター。CBTS− ter:CBTSターミネーター遺伝子;eCBTS1.0:遺伝子がCaMV35プロモーターのエンハンサーに融合したCBTS遺伝子の1kbプロモーター。Sh−zFPS:トマトzFPS(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;Sh−SBS:トマトSB合成酵素(S.ハブロカイト LA1777)をコード化する遺伝子のコーディングフレーム;LB:T−DNAの左ボーダー;RB: T− DNA右ボーダー;35S−ter:CaMV35遺伝子ターミネーター;nos−ter:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ターミネーターのノパリン合成酵素遺伝子。図2:pLIBRO6バイナリーベクターのT−DNA断片;図2B:pLIBRO65バイナリーベクターのT−DNA断片。
【図3A】トランスジェニックタバコ葉におけるSh−SBS導入遺伝子発現分析。発現は、蛍光プローブ((登録商標)TAQ−MAN,ABI)を使用したリアルタイム定量的PCRにより決定する。1つのプローブがSh−SBS導入遺伝子に特異的であり、他はタバコアクチン遺伝子(対照遺伝子)に特異的である。縦軸の値は、Sh−SBSプローブで得られた値とアクチンプローブで得られた値との力価の2つの比率(2SBS/2アクチン)を表す。この比率は、Sh−SBS導入遺伝子発現とアクチンのそれとの比率を表す。横軸の値はトランスジェニック系統の数を示唆する。図3A:Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−064)。図3B:Sh−SBS導入遺伝子のみを組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−065)。
【図3B】トランスジェニックタバコ葉におけるSh−SBS導入遺伝子発現分析。発現は、蛍光プローブ((登録商標)TAQ−MAN,ABI)を使用したリアルタイム定量的PCRにより決定する。1つのプローブがSh−SBS導入遺伝子に特異的であり、他はタバコアクチン遺伝子(対照遺伝子)に特異的である。縦軸の値は、Sh−SBSプローブで得られた値とアクチンプローブで得られた値との力価の2つの比率(2SBS/2アクチン)を表す。この比率は、Sh−SBS導入遺伝子発現とアクチンのそれとの比率を表す。横軸の値はトランスジェニック系統の数を示唆する。図3A:Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−064)。図3B:Sh−SBS導入遺伝子のみを組み込んだトランスジェニックタバコ系統(pLIBRO−065)。
【図4A】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4B】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4C】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図4D】ファルネソール標準物質(異性体の混合物)上で混合した(Z,Z)−ファルネソールのGC/MSプロファイル。図4A:灰色のクロマトグラム(m/z:69)はSh−zFPS−6His組み換えタンパク質で、インビトロで得られた産物に対応する。Sh−FPS−6HisをDMAPP及びIPPと共にインキュベートした。イソプレニル二リン酸産物はアルコール中で脱リン酸化し、液体クロマトグラフィーにより精製した。ピーク1はZ,Z−ファルネソールに対応する。黒色のクロマトグラム(m/z:69)は、(Z,E)−、(E,Z)−、及び(E,E)−ファルネソール異性体(Fluka)の混合物で構成されるファルネソール標準物質に対応する。ピーク2は(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソールの混合物に対応し、ピーク3は(E,E)−ファルネソールに対応する。図4B:ピーク1に対応する(Z,Z)−ファルネソールの質量スペクトル。図4C:ピーク2に対応する(Z,E)−及び(E,Z)−ファルネソール(混合物)の質量スペクトル。図4D:ピーク3に対応する(E,E)−ファルネソールの質量スペクトル。
【図5A】Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で実施したインビトロ活性テストのGC/MSプロファイル。2つの組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びShSBS−6HisをIPP及びDMAPPと共にインキュベートした。反応混合物はペンタンで抽出し、GC/MSにより分析した。図5A:Sh−zFPS及びSh−SBSで、インビトロで得られた産物のクロマトグラム。ピーク2は主産物であり、アルファ−サンタレンに対応する。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。図5B:ピーク2(左)に対応する質量スペクトル及びアルファ−サンタレン構造(右)。
【図5B】Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で実施したインビトロ活性テストのGC/MSプロファイル。2つの組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びShSBS−6HisをIPP及びDMAPPと共にインキュベートした。反応混合物はペンタンで抽出し、GC/MSにより分析した。図5A:Sh−zFPS及びSh−SBSで、インビトロで得られた産物のクロマトグラム。ピーク2は主産物であり、アルファ−サンタレンに対応する。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。図5B:ピーク2(左)に対応する質量スペクトル及びアルファ−サンタレン構造(右)。
【図6】組み換え酵素Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6Hisで、インビトロで得られた産物及びTA517同質遺伝子組み換えトマト系統の浸出物での混合GCプロファイル。追跡は抽出したm/z94イオンに対応する。灰色:ShzFPS及びSh−KSによりインビトロで産生したオレフィン。ブラック:TA517同質遺伝子系統の浸出物。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図7A】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を持つトランスジェニック植物(#3877)により放出される揮発性分子のGC/MSプロファイル。トランスジェニック植物#3877を培養チェンバー中の制御空気中で24時間栽培した。植物により放出された揮発性分子をSuper(登録商標)Qマトリクス(Alltech)上に捕捉し、GC/MSにより分析した。クロマトグラム(7A)はSB型セスキテルペンに特徴的な識別特性を伴ういくつかのピークを示す。ピークは、それらの保持時間及び質量スペクトルをTA517系統(7B)のそれと比較することにより同定した。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図7B】Sh−zFPS及びSh−SBS導入遺伝子を持つトランスジェニック植物(#3877)により放出される揮発性分子のGC/MSプロファイル。トランスジェニック植物#3877を培養チェンバー中の制御空気中で24時間栽培した。植物により放出された揮発性分子をSuper(登録商標)Qマトリクス(Alltech)上に捕捉し、GC/MSにより分析した。クロマトグラム(7A)はSB型セスキテルペンに特徴的な識別特性を伴ういくつかのピークを示す。ピークは、それらの保持時間及び質量スペクトルをTA517系統(7B)のそれと比較することにより同定した。1、シス−アルファ−ベルガモテン;2、アルファ−サンタレン;3、トランス−アルファ−ベルガモテン;4、エピ−ベータ−サンタレン;5、エンド−ベータ−ベルガモテン。
【図8】S.リコペルシカム(Sl)とS.ハブロカイト(Sh)の間のzFPS遺伝子多型:完全zFPS遺伝子をS.リコペルシカム、S.ハブロカイト、及びTA517のゲノムDNAからPCRにより増幅した。0.8%アガロースゲル上でのPCR産物の分離によって3本のバンドA、B、Cが同定され、それぞれのサイズは約3,000、2,500、及び2,000ヌクレオチドであった。バンドBに対応するPCR産物はS.hゲノムに特異的であり、本明細書において記載するzFPS遺伝子に対応する。kb:キロベース。
【0024】
略語及び定義
mRNA:メッセンジャーRNA
DNA:デオキシリボ核酸
cDNA:mRNAの逆転写により産生した相補的DNA
CaMV:カリフラワーモザイクウイルス
DMAPP:ジメチルアリル二リン酸
CBT−ol:センブラトリエン(cembratrien)−オール
CBTS:センブラトリエン−オール合成酵素
GPP:ゲラニル二リン酸
FPP:ファルネシル二リン酸
GC:ガスクロマトグラフィー
GGPP:ゲラニルゲラニル二リン酸
ihpRNAi:干渉イントロンヘアピンRNA
IPP:イソペンテニル二リン酸
MS:質量分析法
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
RACE:cDNA末端の迅速増幅
A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、V:普遍的な命名法に従ったアミノ酸の標準的暗号
www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Utils/wprintgc.cgi?mode=t
A、C、G、T、B、D、H、K、M、N、R、S、V、W、Y:普遍的な命名法に従った塩基の標準的暗号
www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Utils/wprintgc.cgi?mode=t
RFLP:制限断片長多型
【0025】
「Z,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素」又はzFPSは、本明細書において使用する通り、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAP)からZ,Z−ファルネシル二リン酸[(2Z,6Z)−ファルネシル二リン酸又はシス−,シス−FPP]を産生できる酵素を指す。「Z,Z−FPS活性」は、本明細書において使用する通り、IPP及びDMAPPからのZ,Z−ファルネシル二リン酸の産生を指す。Z,Z−FPS活性は、Z,Z−ファルネシル二リン酸の形成を測定することにより評価できる。
【0026】
「SB合成酵素」又はSBSは、本明細書において使用する通り、Z,Z−FPPからアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンドベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を産生できる酵素を指す。「SB型活性」はZ,Z−ファルネシル二リン酸からのSB型セスキテルペンの産生を指す。SB型活性は、1又は複数のSB型セスキテルペンの形成を測定することにより評価できる。SB型活性の測定例を実施例において記載する。
【0027】
「SB型セスキテルペン」は、本明細書において使用する通り、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物を指す。
【0028】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」:一般的に、所与のサイズ及び配列のポリヌクレオチドでの、ストリンジェントな条件は、同じ反応混合物中で該ポリヌクレオチドとその相補体により形成されたハイブリッドの融解温度(Tm)を5℃から10℃下回る温度で作業することにより得られる。所与のポリヌクレオチドでのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、問題のポリヌクレオチドのサイズ及び塩基組成ならびにハイブリダイゼーション混合物の組成(特に、pH及びイオン強度)に従って、当業者が決定できる。ハイストリンジェントな条件は、65℃の0.2 x SSCバッファーでの洗浄段階を含む。
【0029】
上に記載するストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、特に、“Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor; Maniatis et al., 1982, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. CSH, N.Y. USA”、又は、その最新の再版の1つである“Ausubel et al., Eds., 1995, Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 2 (Greene Publishing and Wiley-Interscience, N.Y.)”において記載される当業者に公知の関連教示に従って、より大きな、又は、より小さなポリヌクレオチドについて、当業者が適応できる。
【0030】
「異種」は、本明細書において使用する通り、遺伝子が遺伝子操作により細胞中に導入されていることを意味すると理解される。それはエピ−ソーム又は染色体の形で存在できる。遺伝子は、それが導入される細胞とは異なる供給源に由来してよい。一方、遺伝子は、また、それが導入される細胞と同じ種に由来してよく、しかし、それは天然ではないその環境のために異種と見なされる。例えば、遺伝子がその天然のプロモーターではないプロモーターの制御下にあり、遺伝子がその天然の位置とは異なる位置に導入されるため、その遺伝子は異種と呼ばれる。宿主細胞は、異種遺伝子の導入前に遺伝子の内因性コピーを含むこともあれば、又は、それは内因性コピーを含まないこともある。
【0031】
本明細書において使用する通り、2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の「同一性パーセント」は、最良の配列整列後に得られる、比較する2つの配列の間で同一であるヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセンテージを指し、該パーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列の間の違いは無作為に、及び、それらの全長にわたり分布する。最良の配列整列又は最適な配列整列は、後に算出する、比較する2つの配列の間の同一性パーセントが最高である配列整列である。2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の配列比較は、従来、それらを最適に配列整列した後に該配列を比較することにより実施し、該比較はセグメントにより、又は、比較ウィンドウにより行い、配列類似性の局所領域を同定及び比較する。その他、手作業で、Smith and Waterman (1981)(Ad. App. Math. 2: 482)の局所ホモロジーアルゴリズムを用いて、Neddleman and Wunsch (1970)(J. Mol. Biol. 48: 443)の局所ホモロジーアルゴリズムを用いて、Pearson and Lipman (1988)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444)のホモロジー検索法を用いて、コンピューターソフトウェアで実行する該アルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA;Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)を用いて、配列を比較のために最適に整列できる。2つの核酸配列又はアミノ酸配列の間の同一性パーセントは、比較ウィンドウによりこれらの2つの最適に整列した配列を比較することにより決定でき、ここで、比較する核酸配列又はアミノ酸配列の領域は、これら2つの配列の間の最適な配列整列のための参照配列と比べて付加又は欠失を含みうる。同一性パーセントは、ヌクレオチド又はアミノ酸残基が2つの配列間で同じである同一位置の個数を決定し、同一位置の該個数を比較ウィンドウ中の位置の総個数により割り、結果に100を掛けることにより算出し、これらの2つの配列間の同一性パーセントを得る。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、従って、多くのセスキテルペンの合成経路に関与する酵素をコード化する遺伝子について初めて記載する。特に、本発明は、SB型化合物と呼ばれ、Z,Z−FPPからのアルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンで主に構成されるセスキテルペンの混合物の産生を可能にする複数の産物を伴うトマトのセスキテルペン合成酵素(SB合成酵素)の特性付けに関する。また、本発明は、さらに、IPP及びDMAPからのZ,Z−FPPの産生を可能にするトマトのZ,Z−ファルネシル二リン酸合成酵素(zFPS)の特性付けに関する。これらの酵素を使用して、トランスジェニック生物又は組み換え微生物もしくは細胞においてインビトロ又はインビボで、SB型セスキテルペン又はZ,Z−FPPを産生できる。トランスジェニック生物、細菌、酵母、カビ、動物、昆虫、もしくは植物細胞などの細胞又は微生物、及びトランスジェニック動物又は植物を検討する。それらはZ,Z−ファルネソールなどのZ,Z−FPPに由来する化合物の産生も可能にする。本発明の方法は、特に微生物(細菌、酵母)におけるZ,Z−FPP、及び分泌型の腺毛を保有する植物においてSB型化合物を産生するために使用できる。SB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の産生は、また、植物、例えばトマトにおいて、遺伝子消失技術により、又は、変異導入法により低減又は抑制することができる。また、本発明において同定した配列は、生物の他の種、特に植物において同じ活性を有する酵素をコード化する遺伝子を同定及び/又はクローン化するために有用である。最後に、多型分子的マーカーはzFPS及びSB合成酵素をコード化する核酸から同定でき、他の種又は様々な栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)中への対応する機能的ゲノム配列の導入をモニター可能にする。
【0033】
Z,Z−FPPはセスキテルペン合成酵素の潜在的な基質であるが、しかし、現在それは市販されていない。今までに特性付けされたセスキテルペン合成酵素の大多数でE,E−FPPが使用されるが、市販Z,Z−FPPの欠如によって実験目的でのその使用が大きく制限されてきたことも明らかである。綿のカジネン合成酵素は、セスキテルペン合成酵素によるZ,Z−FPPの優先的な使用を記載する唯一の例である(Heinstein et al., 1970)。この場合、Z,Z−FPPは化学合成により産生され、本特許において記載するZ,Z−FPP合成酵素は簡単で安価な様式で該分子を産生するための方法を提供する。
【0034】
さらに、SB型セスキテルペンはアルファ−サンタレンを含み、それ自体がアルファ−サンタロールの直接の前駆体である。アルファ−サンタロールはビャクダン油の特徴的な構成成分の1つである。ビャクダン油は香料産業において高く評価され、その価格は、ビャクダンの乱獲のために、主にインドにおいて過去10年にわたり急激に上昇している。この乱獲は天然ビャクダン資源の生存に脅威を及ぼす。アルファ−サンタロールは、単純なヒドロキシル化によりアルファ−サンタレンから入手できる。
【0035】
本発明は、従って、DMAP及びIPPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のzFPSをコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む。
【0036】
特定の態様において、産生したSB型セスキテルペンは段階c)において回収する。好ましい態様において、産生されるSB型セスキテルペンは、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、アルファ−ベルガモテン、ベータ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンから成る群より選択される。別の特定の態様において、産生したSB型セスキテルペンは、アルファ−サンタロールなどの目的の他の化合物を得るための出発産物である。好ましい態様において、SB型セスキテルペン誘導体は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、シス−アルファ−ベルガモトール、トランス−アルファ−ベルガモトール、及びエンド−ベータ−ベルガモトールから成る群より選択される。
【0037】
特定の態様において、本発明は、DMAP及びIPPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のzFPSをコード化する第1異種遺伝子及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における該細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む。
【0038】
好ましい態様において、該細胞はZ,Z−FPPを産生する。別の態様において、Z,Z−FPPが細胞に供給される。
【0039】
特定の態様において、2つの発現カセットは同じコンストラクトにより保有される。別の態様において、2つの発現カセットは2つの別々のコンストラクトにより保有される。
【0040】
本発明は、Z,Z−FPP合成酵素活性を有する単離又は組み換えタンパク質に関する。特に、本発明は、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。好ましくは、ポリペプチドは、配列番号2と少なくとも95%の同一性を伴う配列を有する。特定の態様において、ペプチドは、配列番号2の配列を含む、又は、それから成る。該ポリペプチドは、酵素の精製を容易にする追加配列、例えばいくつかの連続ヒスチジンアミノ酸を含むタグ配列を含んでもよい。
【0041】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を有するポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を含む単離核酸に関する。核酸の例は、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はその相補配列を含む、又は、それから成る核酸である。本発明は、ハイストリンジェンシーな条件において、Z,Z−FPP合成酵素活性を有するポリペプチド及び配列番号2と少なくとも95%又は98%の同一性を伴う配列を有する該ポリペプチドをコード化する核酸にハイブリダイズできる単離核酸に関する。特定の態様において、核酸は配列番号1の配列を含む、又は、それから成る。本発明は、また、本発明の核酸を含む発現カセット、ベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0042】
核酸は、ゲノムDNA、相補DNA(cDNA)、又は合成DNAでよい。核酸は、単鎖もしくは二重鎖又は2つの混合物でよい。本発明において、転写された核酸は好ましくはイントロン無しのcDNAである。転写された核酸は合成又は半合成の組み換え分子でよく、場合により増幅し、又は、ベクター中にクローン化し、化学修飾し、又は非天然塩基を含む。典型的に、それらは、当業者に周知の組み換え技術により合成した単離DNA分子である。
【0043】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。特定の態様において、ポリペプチドは配列番号4の配列を含む、又は、それから成る。この場合において、本発明は、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも95%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、酵素の精製を容易にする追加配列、例えばいくつかの連続ヒスチジンアミノ酸を含むタグ配列を含んでもよい。
【0044】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はストリンジェントな条件においてそれにハイブリダイズできる配列を有するポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を含む単離核酸に関する。そのような核酸の例は、配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列又はその相補配列を含む、又は、それから成る核酸である。本発明は、ハイストリンジェンシーな条件において、SB合成酵素活性を有するポリペプチド及び配列番号4と少なくとも95%又は98%の同一性を伴う配列を有する該ポリペプチドをコード化する核酸にハイブリダイズできる単離核酸に関する。特定の態様において、核酸は配列番号3の配列を含む、又は、それから成る。本発明は、また、本発明の核酸を含む発現カセット、ベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0045】
本発明は、特に、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸及びZ,Z−FPP合成酵素活性を有し、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。本発明の特定の態様において、トランスジェニック生物は、植物、特に植物トリコーム(plant trichome)である。
【0046】
本発明は、また、SB合成酵素活性を有し、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0047】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素活性を有し、好ましくは、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う配列を有するポリペプチドをコード化する異種配列を含む核酸を含むベクター、宿主細胞、又はトランスジェニック生物に関する。
【0048】
本発明は、IPP及びDMAPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてIPP及びDMAPを、配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素及び配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素と接触させること、及び、得られたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を回収することを含む。本発明は、IPP及びDMAPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を調製するための、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素及び配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素の使用に関する。
【0049】
本発明は、IPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてIPP及びDMAPを、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素と接触させること、及び、得られたZ,Z−FPP又はその誘導体を回収することを含む。場合により、方法は、得られたZ,Z−FPPとウシ腸アルカリホスファターゼとのインキュベーション、及び、Z,Z−ファルネソールの回収をさらに含む。本発明は、IPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を調製するための、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えZ,Z−FPP合成酵素の使用に関する。
【0050】
本発明は、Z,Z−FPPからクラスIIセスキテルペン又はその誘導体の混合物を産生するための方法に関し、それは適切な条件においてZ,Z−FPPを、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素と接触させること、及び、得られたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を回収することを含む。本発明は、Z,Z−FPPからクラスIIセスキテルペン又はその誘導体の混合物を調製するための、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を伴う精製又は組み換えSB合成酵素の使用に関する。
【0051】
一般的に、発現カセットは、遺伝子転写及びタンパク質への翻訳に必要な全てのエレメントを含む。特に、それは、プロモーター、場合によりエンハンサー、転写ターミネーター、及び翻訳のためのエレメントを含む。
【0052】
プロモーターは宿主細胞に適応させる。例えば、細胞が原核生物である場合、プロモーターは以下のプロモーターから成る群より選択できる:LacI、LacZ、pLacT、ptac、pARA、pBAD、バクテリオファージT3又はT7のRNAポリメラーゼプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、ラムダファージのPR又はPLプロモーター。細胞が真核生物及び動物である場合、プロモーターは以下のプロモーターから成る群より選択できる:サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター、サルウイルス40(SV40)初期又は後期プロモーター、マウスメタロチオネイン−Lプロモーター、及び特定のレトロウイルスのLTR(末端反復配列)領域。一般的に、適切なプロモーターを選ぶために、当業者が“Sambrook and Russell (2000)”の研究、あるいは“Ausubel et al. (2006)”の研究において記載される方法を参照できることは有利である。
【0053】
ベクターは、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YAC、BAC、アグロバクテリウムpTiプラスミドなどでよい。ベクターは、好ましくは、複製起点、複数のクローニング部位、及びマーカーから選択される1又は複数のエレメントを含みうる。マーカーは、検出可能シグナルを産生するレポーター遺伝子でありうる。検出可能シグナルは、蛍光シグナル、染色、光放出でありうる。マーカーは、従って、GFP、EGFP、DsRed、ベータ−ガラクトシダーゼ、ベータ−グルコシダーゼ、ルシフェラーゼなどでありうる。マーカーは、好ましくは、細胞に抗生物質耐性又は除草剤耐性を付与する選択マーカーである。例えば、遺伝子は、カナマイシン、ネオマイシンなどの耐性遺伝子でありうる。好ましい態様において、ベクターはプラスミドである。原核生物ベクターの例として、限定はされないが、以下が挙げられる:pQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)、pbs、pD10、phagescript、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46A(Stratagene);ptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pBR322、及びpRIT5(Pharmacia)、pET(Novagen)、及びpQE−30(QIAGEN)。真核生物ベクターの例として、限定はされないが、以下が挙げられる:pWLNEO、pSV2CAT、pPICZ、pcDNA3.1(+)Hyg(Invitrogen)、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene);pSVK3、pBPV、pCI−neo(Stratagene)、pMSG、pSVL(Pharmacia)。ウイルスベクターとして、限定はされないが、アデノウイルス、AAV、HSV、レンチウイルスなどが挙げられる。好ましくは、発現ベクターはプラスミド又はウイルスベクターである。
【0054】
宿主細胞は原核生物、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)、及びシュードモナス属(Pseudomonas sp.)又は真核生物でありうる。真核生物は、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae))もしくは糸状菌(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus))などの下等真核生物又は昆虫、哺乳動物、もしくは植物細胞などの高等真核生物でありうる。細胞は、哺乳動物細胞、例えばCOS、CHO細胞(US4,889,803;US5,047,335)でありうる。特定の態様において、細胞は非ヒト及び非胚である。細胞は、例えば培養液中で単離できる。細胞は、生物、例えば非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物中に含まれてもよい。
【0055】
本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有する細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はその誘導体の回収
を含む。
【0056】
特定の態様において、産生されたZ,Z−FPPは段階c)において回収する。別の特定の態様において、産生されたZ,Z−FPPは、Z,Z−ファルネソールなどの目的の別の化合物を得るための出発産物である。例えば、Z,Z−FPPは、ホスファターゼによりZ,Z−ファルネソールに変換できる。このように、方法は、段階a)ホスファターゼをコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入をさらに含み、それによってZ,Z−ファルネソールを段階c)において回収可能にする。本発明は、従って、IPP及びDMAPの供給源を有し、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関する。本発明は、このように、IPPP及びDMAPの供給源を有する組み換え細胞においてZ,Z−FPPを産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のzFPSをコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該遺伝子の発現のための適切な条件における細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるZ,Z−FPP又はその誘導体の回収
を含む。
【0057】
本発明は、従って、Z,Z−FPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)該細胞中への、本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収
を含む。
【0058】
特定の態様において、産生されたSB型セスキテルペン混合物は段階c)において回収する。別の特定の態様において、産生されたSB型セスキテルペン混合物は、アルファ−サンタロールなどの目的の別の化合物を得るための出発産物である。本発明は、従って、Z,Z−FPPの供給源を有し、本発明のSB合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関する。本発明は、このように、Z,Z−FPPの供給源を有する組み換え細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法に関し、以下:
a)本発明のSB合成酵素をコード化する異種遺伝子を含む組み換え細胞の提供;
b)該遺伝子の発現のための適切な条件における細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収
を含む。
【0059】
細胞は、多細胞生物、例えば植物又は非ヒト動物の一部でもありうる。この場合において、本発明は、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及び本発明のSB合成酵素をコード化する第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した2つの遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0060】
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは植物の腺トリコームである。
【0061】
本発明は、従って、本発明のZ,Z−FPP合成酵素及び本発明のSB合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供ならびに該トランスジェニック生物におけるSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収を含む、SB型セスキテルペン混合物を製造するための方法に関する。
【0062】
この方法によって、そのような化合物を産生しない生物においてSB型セスキテルペン混合物を産生し、又は、既にそれを産生する生物により産生されるSB型セスキテルペン混合物の量を増加できる。
【0063】
本発明は、従って、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0064】
本発明は、また、本発明のZ,Z−FPP合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供及び該トランスジェニック生物における産生したZ,Z−FPP又はその誘導体の回収を含む、Z,Z−FPP又はその誘導体を産生するための方法に関する。
【0065】
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは腺トリコームを有する植物である。この方法によって、該化合物を産生しない生物においてZ,Z−FPPを産生し、又は、生物により産生されるZ,Z−FPPの量を増加できる。
【0066】
本発明は、従って、以下:
a)生物の細胞中への、本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該細胞からの生物の再構成及び導入した遺伝子を発現するトランスジェニック生物の選択
を含む多細胞生物を調製するための方法に関する。
【0067】
本発明は、また、本発明のSB合成酵素を発現するトランスジェニック多細胞生物の提供ならびに該トランスジェニック生物における産生されたSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体の回収を含む、SB型セスキテルペン混合物又はその誘導体を産生するための方法に関する。
一態様において、生物は非ヒト動物である。例えば、生物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどでありうる。別の好ましい態様において、生物は、植物、好ましくは植物の分泌トリコームである。この方法によって、該化合物を産生しない生物によりSB型セスキテルペン混合物を産生し、又は、生物により産生されるSB型セスキテルペン混合物の量を増加できる。
【0068】
特に、本発明は、腺トリコームを伴う科からの全ての植物、例えばキク科(ヒマワリなど)、ナス科(トマト、タバコ、ジャガイモ、コショウ、ナスなど)、アサ科(例、大麻(Cannabis sativa))、及びシソ科(ミント、バジル、ラベンダー、タイムなど)に適用可能である。本発明は、特に、例えば、ニコチアナ属、ソラナム属、カプシカム属、ペチュニア属、ダチュラ属、アトロパ属などからのナス科の植物、及び、特に、例えば栽培トマト(ソラナム・リコペルシカム)、野生トマトソラナム・ハブロカイト、栽培タバコ(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、ウッドランドタバコ(ニコチアナ・シルベストリス(Nicotiana sylvestris))などのソラナム属及びニコチアナ属に適応する。非限定的な様式において、本発明は、以下の属からの植物に適用できる:ポプルス(Populus)属、ニコチアナ属、カンナビス(Cannabis)属、ファルビティス(Pharbitis)属、アプテリア(Apteria)属、サイコトリア(Psychotria)属、ヤマアイ属(Mercurialis)、キク属(Chrysanthemum)、ポリポディウム(Polypodium)属、ペラルゴニウム(Pelargonium)属、ミゾホオズキ属(Mimulus)、マトリカリア(Matricaria)属、モナルダ(Monarda)属、ソラナム属、ノコギリソウ属(Achillea)、パトリニア(Valeriana)属、オシマム(Ocimum)属、メディカゴ(Medicago)属、アエスクルス(Aesculus)属、プルンバゴ(Plumbago)属、ギンシダ属(Pityrogramma)、ファセリア(Phacelia)属、アビセニア(Avicennia)属、タマリクス(Tamarix)属、フランケニア(Frankenia)属、リモニウム(Limonium)属、フォエニクルム(Foeniculum)属、ティムス(Thymus)属、サルビア(Salvia)属、カズラ(Kadsura)属、ベイエリア(Beyeria)属、フムルス(Humulus)属、メンタ(Mentha)属、アルテミシア(Artemisia)属、ネプタ(Nepta)属、ゲラエア(Geraea)属、ポゴステモン(Pogostemon)属、マジョラム(Majorana)属、クレオメ(Cleome)属、サントリソウ属(Cnicus)、パルセニウム(Parthenium)属、リキノカルポス(Ricinocarpos)属、ヒメナエア(Hymennaea)属、ラレア(Larrea)属、プリムラ(Primula)属、ファセリア(Phacelia)属、ドリオプテリス(Dryopteris)属、プレクトランサス(Plectranthus)属、シプリペジウム(Cypripedium)属、ペチュニア(Petunia)属、ダチュラ(Datura)属、ムクナ(Mucuna)属、リシヌス(Ricinus)属、オトギリソウ属(Hypericum)、ハマジンチョウ属(Myoporum)、アカシア(Acacia)属、ディプロペルティス(Diplopeltis)属、ドドナエア(Dodonaea)属、ハルガニア(Halgania)属、キアノステギア(Cyanostegia)属、プロスタンテラ(Prostanthera)属、アンソサーシス−(Anthocercis)属、オレアリア(Olearia)属、ビスカリア(Viscaria)属。好ましくは、植物は、キク科、アサ科、ナス科、又はシソ科からの植物である。より好ましい態様において、植物は、ソラナム属又はニコチアナ属に属し、好ましくはソラナム・エスクレンタム、ソラナム・ハブロカイト、ニコチアナ・タバカム、又はニコチアナ・シルベストリスである。
【0069】
この態様において、遺伝子はプロモーターの制御下にあり、植物のトリコームにおいて、好ましくは特異的な発現を可能にする。そのようなプロモーターが存在し、当業者に公知である(Tissier et al., 2004)。
【0070】
本発明において、「特異的」プロモーターは、主に所与の組織又は細胞群において活性なプロモーターを指す。他の組織又は細胞における残りの発現は、一般的に低く、完全には除外できないことが理解されるであろう。本発明の特定の特性は、腺トリコームの分泌細胞に特異的なプロモーターを構築して、植物の葉分泌物の組成物の改変を可能にし、及び、特にその中において本発明の遺伝子を発現させて、SB型セスキテルペン混合物の調製を可能にする能力に基づく。このように、Z,Z−FPP、及びSB型セスキテルペン混合物又はその誘導体は、特にトリコームの浸出物において、溶剤での抽出により、あるいは蒸留により、前記植物のトリコームから回収できる。
【0071】
例えば、CYP71D16遺伝子のATGの上流に位置する1852 bpの調節配列が、タバコトリコームの分泌細胞において特異的にuidAレポーター遺伝子の発現を方向付けることが示されている(出願US2003/0100050 A1,Wagner et al., 2003)。さらに、異なる種から抽出された、いくつかのプロモーター配列がタバコトリコームにおいて異種遺伝子の発現を方向付けできるとして同定されている。
【0072】
【表1】
【0073】
本発明の好ましい態様において、カセットにおいて使用するプロモーターは、ニコチアナ・シルベストリス種の遺伝子NsTPS−02a、02b、03、及び04に由来し、CYC−2と強い配列同一性を示す(CBT−オールシクラーゼ;NID:AF401234)。前記プロモーターは、特許出願WO2006040479(Tissier et al., 2004)においてより十分に記載されている。
【0074】
好ましいターミネーター配列の内、NOSターミネーター(Bevan et al., 1983)及びヒストン遺伝子ターミネーター(EPO 633 317)に言及できる。
【0075】
特定の態様において、発現カセットは、発現を増加できる配列(「エンハンサー」)、例えばCaMV35Sプロモーター及びオクトピン合成酵素遺伝子の特定のエレメントを含んでよい(US 5 290 924)。好ましくは、CaMV35Sプロモーターのエンハンサーエレメントを使用する。
【0076】
本発明の1つ又は両方の遺伝子を有するコンストラクトの、種子又は植物を含む細胞又は植物組織中への導入は、エピ−ソーム又は染色体の形状を含む、当業者に公知の任意の方法により実施できる。植物の遺伝子組み換え技術は当技術分野において周知であり、例えば細菌アグロバクテリウム・ツメフアシェンス(Agrobacterium tumefaciens)の使用、エレクトロポレーション、遺伝子銃技術、特にウイルスベクターによるトランスフェクション、及び当業者に公知の任意の他の方法を含む。
【0077】
1つの共通に使用される方法は、細菌アグロバクテリウム・ツメフアシェンスの使用に基づき、主に、目的のコンストラクト(核酸、カセット、ベクターなど)を細菌A・ツメフアシェンス中に導入し、次に形質転換した細菌を選んだ植物の葉片と接触させることに存する。発現カセットは、典型的に、ベクターとしてTiプラスミド(又はT−DNA)を使用することにより細菌中に導入し、それは、例えばヒートショックにより、又は、エレクトロポレーションにより細菌中に移入できる。形質転換した細菌と葉片とのインキュベーションは、Tiプラスミドの片細胞のゲノム中への移入をもたらす。これらは、場合により、適切な条件において栽培して、細胞が本発明のコンストラクトを含むトランスジェニック植物を再構成できる。A.ツメフアシェンスの形質転換技術のさらなる詳細又は変法について、例えば“Horsch et al. (1985)”又は“Hooykaas and Schilperoort (1992)”を参照できる。
【0078】
このように、特定の態様において、そのようにして構成した発現カセットをアグロバクテリウム・ツメフアシェンスによる植物細胞中への移入のためにアームを除去した(disarmed)TiプラスミドのトランスファーDNA(T−DNA)の左ボーダーと右ボーダーの間に挿入する。T−DNAは、また、その発現が抗生物質又は除草剤に対する耐性を付与し、形質転換体の選択を可能にする遺伝子を含む。
【0079】
ひとたび再生させれば、トランスジェニック植物は、トリコームにおいて本発明の遺伝子の異種発現又はSB型セスキテルペン混合物、Z,Z−FPP又はZ,Z−ファルネソールの産生についてテストできた。これは、葉浸出物の回収及び該浸出物中での目的の産物の存在についてのテストにより達成できる。植物により放出された揮発性化合物の分析によって、該化合物の同定も可能になる。これは、また、葉中及び、特にトリコーム細胞中での本発明の1又は複数の異種酵素の存在を分析することにより(例えば、特異的プライマー又はプローブでmRNA又はゲノムDNAを分析することにより)行える。植物は、場合により、選択、交配、処置などして、改善した発現レベルを有する植物を得ることができる。
【0080】
本発明の別の目的は、また、上で定義したような核酸、発現カセット、又はベクターを含む植物又は種子に基づく。
【0081】
本発明のさらなる目的は、S.ハブロカイトの対応するゲノム配列の他の性的和合性のある栽培トマト(S.リコペルシカム)の種又は品種中への導入を可能にする分子マーカーとしての本発明の核酸の使用に関する。実際に、前記マーカーは、S.ハブロカイトの対応するゲノム配列の他の性的和合性のある栽培トマト(S.リコペルシカム)の種又は品種中への導入を制御し、これにより、例えば、野生種と本発明の核酸の遺伝子移入が起こった栽培種の間での交配から産生された個体を同定及び選択することが可能になる。分子マーカーとしての本発明の核酸の使用は、当業者に公知の任意の技術により実施できる。例えば、一般的に使用される技術は、異なる制限酵素により切断される2つのゲノム間の、本発明の核酸との分子ハイブリダイゼーションによるバンド多型の同定(RFLP)に基づく。別の例は、比較するゲノムにおいて、本発明の核酸と相補的なプライマーから本発明の核酸の全て又は一部を増幅するためのPCRの使用により多型を探索して、PCR増幅後、2つのゲノム間のサイズ多型を同定することである。多型は、また、比較するゲノム間の異なるサイズの断片を産生する1又は複数の制限酵素による該PCR産物の消化後に明らかにできる。
【0082】
ひとたび多型が同定されると、この情報を使用して、例えば、S.ハブロカイトと本発明の核酸の遺伝子移入が望ましい様々なトマトの間の交配に由来するF2集団において個体を同定する。
【0083】
本発明の別の目的は、zFPS及びSB合成酵素をコード化するS.ハブロカイトのゲノム配列の性的和合性のある種中への細胞、特にプロトプラストの融合による導入に関する。プロトプラスト質融合技術は当業者に公知であり(Zimmermann et al., 1981, Bates et al., 1983)、2つの融合種に属する染色体を含むハイブリッド細胞の作製を可能にする。融合中、2つの種の染色体又は染色体断片は除去される。本発明の遺伝子を含む染色体断片を保持したハイブリッド細胞は、次にzFPSをコード化する遺伝子(配列番号1)もしくはSB合成酵素をコード化する遺伝子(配列番号2)に特異的なプライマー又は両方を一度に使用したPCRにより選択できる。
【0084】
本発明は、また、SB型セスキテルペン混合物の合成経路が、本発明のZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子もしくは本発明のSB合成酵素をコード化する遺伝子のいずれか、又は両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物に関する。前記遺伝子の発現は、当業者に公知の多くの利用可能な技術により遮断できる。遺伝子は、欠失、突然変異(例えば、メタンスルホン酸エチルでの化学的突然変異誘発により、又は、イオン化照射により)、又は中断(挿入突然変異誘発)できる。さらに、前記遺伝子の発現は、抑制性転写物の発現による遺伝子消失によっても遮断できる。抑制性転写物は、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、遮断する遺伝子の転写物と一定の相補性又は特異性を有するRNAである。
【0085】
本発明は、また、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子の発現を低減又は抑制できる核酸に関する。実際に、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子と一定の相補性又は特異性を有する抑制RNAは、本発明の教示に基づき調製できる。例えば、本発明は、配列番号1の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むZ,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子又はそれに相補的な配列の抑制RNAに関する。同様に、本発明は、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子の発現を抑制するための、配列番号1の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド又はそれに相補的な配列の使用に関する。この酵素の抑制は、SB型セスキテルペン混合物の合成経路を停止又は減速させ、IPP及びDMAPをZ,Z−FPPの供給を必要とする目的の別の合成経路で利用可能にするために有用でありうる。例えば、この酵素の抑制は、トマト葉の腺トリコーム細胞によるゲルマクレンBの産生レベルにおける増加をもたらすことができる。本発明は、従って、Z,Z−FPP合成酵素をコード化する遺伝子が不活化されたトランスジェニック生物又は細胞に関する。不活化は、RNA干渉技術、遺伝子欠失、化学突然変異、又は相同組み換えによる不活化により達成できる。このように、Z,Z−FPP又はSB型セスキテルペン混合物の含量は、前記トランスジェニック生物又は細胞において低減できる。
【0086】
さらに、本発明は、また、SB合成酵素をコード化する遺伝子の発現を低減又は抑制できる核酸に関する。確かに、二本鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム、三重らせんを形成できるRNAの形状であり、SB合成酵素をコード化する遺伝子と一定の相補性又は特異性を有する抑制RNAは、本発明の教示に基づき調製できる。このように、本発明は、配列番号3の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むSB合成酵素をコード化する遺伝子の抑制RNAに関する。同様に、本発明は、SB合成酵素をコード化する遺伝子の発現を抑制するための、配列番号3の少なくとも21、30、40、50、60、70、80、90、又は100個の連続ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの使用に関する。この酵素の抑制は、SB型セスキテルペンの合成経路を停止させ、Z,Z−FPPを該化合物の供給を必要とする目的の別の合成経路で利用可能にする、例えばZ,Z−FPP誘導体、例えばZ,Z−ファルネソール、又はZ,Z−FPPを基質として使用する合成酵素の産物である他のセスキテルペンを調製するために有用でありうる。
【0087】
本発明は、従って、SB合成酵素をコード化する遺伝子が不活化されている細胞又はトランスジェニック生物に関する。不活化は、RNA干渉技術、遺伝子欠失、化学突然変異、又は相同組み換えによる不活化により達成できる。このように、SB型セスキテルペン混合物の含量は、前記細胞又はトランスジェニック生物において低減できる。
【0088】
本発明は、また、別の種に由来するZ,Z−FPP合成酵素又はSB合成酵素をコード化する他の遺伝子を同定又はクローン化するための方法に関し、ここで、配列番号1又は3の少なくとも15、30、50、75、100、200、又は300個の連続ヌクレオチドを有するプローブを調製及び使用し、サンプル中の該プローブとハイブリダイズできるヌクレオチド配列を同定又は選択する。サンプルは、例えば、1又は複数の生物に由来するゲノム又はcDNAライブラリーでよい。方法は、同定又は選択した配列を特性付ける追加段階を含んでよい。この追加段階は、クローニング、及び/又はシークエンシング、及び/又は配列アラインメント、及び/又は酵素活性テストを含んでよい。
【0089】
本発明の他の局面及び利点は、以下の実施例において明らかとなり、それらは説明の目的のために与えられ、限定しない。
【0090】
実施例
トマト葉cDNA(S.ハブロカイト)の合成
mRNAはトマト葉(ソラナム・ハブロカイト=L.ヒルスタム LA1777)から全RNA抽出キット(RNeasy Minikit, Qiagen)を使用して抽出した。対応するcDNAは、逆転写酵素(Roche,Cat.No.03 531 317)を使用して、製造者が推奨する反応条件においてポリTプライマーからの逆転写により合成する。
【0091】
ソラナム・ハブロカイト・トマトからのZ,Z−FPP合成酵素(Sh−zFPS)及びSB合成酵素(Sh−SBS)のためのコード配列のクローニング
2つの遺伝子Sh−zFPS及びSh−SBSの完全コードヌクレオチド配列は、SGNウェブサイト(“SOL Genomics Network”,http://www.sgn.cornell.edu/)で入手可能なS.ハブロカイトトマト葉トリコームのESTライブラリー(Van der Hoeven, et al., 2000、未発表)中の公的に入手可能な配列データからクローン化した。
【0092】
Sh−zFPS(配列番号1)及びSh−SBS(配列番号3)の配列は、配列番号1についてはプライマー
【表2】
を、配列番号3についてはプライマー
【表3】
を使用してトマト葉cDNAからPCRにより得た。制限酵素部位(NcoI及びXhoI)をプライマーの5’末端に付加し、プロモーターの下流でのcDNAのクローニングを容易にした。PCR増幅は、製造者により供給されるバッファーにおいて0.5単位のTaqポリメラーゼ(Eurogentec)で実施した。PCR産物はQiaquickカラム(Qiagen)で精製し、T4 DNAリガーゼ(NEB)でのライゲーションによりpGEM−Tクローニングベクター(Promega)中にクローン化した。予測配列を有するクローンは、挿入断片の完全シークエンシング後に選択した。
【0093】
Sh−zFPSヌクレオチド配列(配列番号1)は912塩基長であり、303個のアミノ酸(配列番号2)のタンパク質をコード化する。シス−型(Z)−イソプレニル二リン酸合成酵素(シス−IPPS)、又は名ウンデカプレニル合成酵素(UPPS)の保存タンパク質ドメインを、コンピュータでのCCDシス−テムにより同定した(NCBI, Marchler-Bauer A, Bryant SH (2004))。Sh−zFPSと類似のアミノ酸配列を、BlastPソフトウェアを使用したSwissProt及びGenBankタンパク質データベースにおいて検索した(Altschul et al., 1997)。最高パーセントの同一性が、ウンデカプレニル二リン酸合成酵素とホモロジーを示すが、しかし、その機能が実証されていない植物配列で得られた(表1)。例えば、Sh−zFPSは、シロイヌナズナ(Arabidopis thaliana)BAA97345及びAAO63349の推定UPPSとそれぞれ42%及び39%の同一性を有する。Sh−zFPS配列がミクロコッカス・ツベルクロシス(Micrococcus tuberculosis)(O53434)のZ,E−FPSと非常に低いパーセント(24%)の同一性を有することも分かる。
【0094】
【表4】
表1:Sh−zFPS配列でのSwissProt及びGenBankライブラリーに対するBlastP 2.2.13プログラム(Altschul et al., 1997)を使用したホモロジー検索により得られた最高パーセントの同一性(%同一性)を伴う配列
【0095】
Sh−SBSヌクレオチド配列(配列番号3)は2334塩基長であり、777個のアミノ酸(配列番号4)のタンパク質をコード化する。保存テルペンシクラーゼタンパク質ドメインをCCDシス−テム(NCBI, Marchler-Bauer A, Bryant SH (2004))によりコンピュータで同定した。Sh−SBSと類似のアミノ酸配列を、BlastPソフトウェアを使用してSwissProt及びGenBankタンパク質ライブラリーにおいて検索した(Altschul et al., 1997)。機能未知のタバコ配列(60%同一性)を例外とし、最高のホモロジーが植物ジテルペン合成酵素で得られ(表2)、異なる植物(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)、ステビア・レバウディアナ(Stevia rebaudiana)、オリザ・サティバ(Oryza sativa))のカウレン合成酵素をコード化する配列との同一性は約40から45%であった。Sh−SBSは、また、アビエタジエン合成酵素及びタキサジエン合成酵素などの機能未知のテルペン合成酵素ならびにアルファ−ビサボレン合成酵素とのより低いホモロジー(26−33%同一性)を有する。
【0096】
【表5】
表2:Sh−SBS配列でのSwissProt及びGenBankライブラリーに対するBlastP 2.2.13プログラム(Altschul et al., 1997)を使用したホモロジー検索により得られた最高パーセントの同一性(%同一性)を伴う配列
【0097】
Sh−zFPS及びSh−SBS組み換えタンパク質の産生
Sh−zFPS及びSh−SBSをコード化する核酸配列(それぞれ配列番号1及び3)を別々にpET−30b発現ベクター(Novagen)中に導入した。組み換えタンパク質の精製を可能にするために、これらの配列の終止コドンを欠失させて、C末端に6ヒスチジンテールを伴う融合タンパク質を作製した。そのようにして得られたShzFPS−pET30b及びSh−SBS−pET30bベクターは、エレクトロポレーションにより、組み換えタンパク質の発現用に改変した大腸菌(Escherichia coli)(BL21−CodonPlus,Stratagene)中に導入した。タンパク質を産生するために、大腸菌培養(500ml)を37℃で開始し、600nmでの吸光度が0.5に達した。この段階で、培養温度を16℃まで下げ、エタノール(1%V/V)を培地に加えた。1時間のインキュベーション後、IPTGを1mM濃度で培地に加えて、組み換えタンパク質の発現を誘導した。培養物を次に18時間インキュベートし、細胞を4℃で遠心することにより停止した。細胞沈殿物を200mMリン酸バッファー中に再浮遊した。細胞をフレンチプレス(ΔP=19バール)で溶解させて、溶解物を15,000gで遠心した。可溶性タンパク質を含む上精をPD10カラム(Amersham)で脱塩し、50mMリン酸バッファー(pH7)で平衡化し、製造者の溶出プロトコルに厳密に従ってニッケル−ニトリロ三酢酸アフィニティ樹脂(Ni−NTA,Qiagen)上に添加した。最高量のSh−zFPS−6His及びSh−SBS−6Hisタンパク質を伴う画分をSDS−PAGEにより同定し、次に50mM HEPESバッファー(pH7.8,100mM KCl)で平衡化したPD10カラムで脱塩した。粗タンパク質画分と比較して、約20倍濃縮が2つのタンパク質について得られた。
【0098】
Sh−zFPS及びSh−SBS組み換えタンパク質のインビトロ酵素活性テスト
活性テストは以下のバッファー中で実施した:50mM HEPES(pH7.8)、100mM KCl、7.5mM MgCl2、5%(w/v)グリセロール、及び5mM DTT。活性テストでは、濃縮画分からの25又は50μgのタンパク質を32℃で2時間基質IPP、DMAPP、GPP、FPP、GGPP(Sigma)と、単独又は併用で、各々65μMの濃度でインキュベートした。
【0099】
Sh−zFPS−6Hisで実施したテストでは、反応産物を、20単位のウシ腸アルカリホスファターゼ(New England Biolabs)の37℃で1時間の添加により脱リン酸化した。テルペンアルコールは、リン酸化産物であり、次にクロロホルム/メタノール/水混合物(0.5/1/0.4)で抽出した。水相及び有機相を水(0.5vol)及びクロロホルム(0.5vol)の添加により分離し、2,000gで遠心した。有機層を回収し、窒素ガス流下で乾燥させ、ペンタン中に溶かし、質量分析を連結したガスクロマトグラフィー(GC−MS 5973N, Agilent Technologies)により分析した。テルペンアルコールは、それらの質量スペクトルをNational Institute of Standards and Technology(NIST)のデータベースのものと比較し、及び、それらの保持時間をゲラニトール、ファルネソール、及びゲラニルゲラニオール参照標準物質(Fluka)のものと合わせることにより同定した。
【0100】
Sh−SBS−6Hisで実施したテストでは、反応において産生したテルペンを反応混合物からペンタンで(3回)直接抽出した(容積対容積)。3つのペンタン抽出物をプールし、窒素ガス流下で濃縮し、GC−MSにより分析した。産生したテルペンをNISTデータベースの照合及びソラナム・ハブロカイト浸出物の抽出物でのクロマトグラムとの比較により同定した。
【0101】
Sh−zFPS−6His組み換えタンパク質を基質IPP+DMAPP又はIPP+GPPとインキュベートした(表1参照)。第1の組み合わせ(IPP+DMAPP)のみが、脱リン酸化後、15個の炭素原子(C15)を伴う単一のテルペンアルコールの形成をもたらし、その質量スペクトルによって、NISTデータベース中の標準スペクトルとの比較により、それはファルネソールとして同定された(図4)。保持時間は、4つのファルネソール異性体(E,E−ファルネソール;E,Z−ファルネソール;Z,E−ファルネソール、及びZ,Z−ファルネソール)の混合物を含むファルネソール標準物質と比較した。Sh−zFPS−6Hisにより産生したファルネソールは、Z,Z−ファルネソールのものと同一の保持時間を有した。
【0102】
Sh−SBS−6His組み換えタンパク質を基質GPP、FPP、及びGGPPとインキュベートした。使用した基質を問わず、新しいテルペンは検出できず、酵素がトランス−アリル型基質では不活性であることを示唆する(表1)。
【0103】
【表6】
*:脱リン酸化後
表3:異なるイソプレン基質を伴うSh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His組み換えタンパク質で得られたインビトロ酵素活性テストのまとめ。A、Z,Z−ファルネソール、B、アルファ−サンタレン;C、エピ−ベータ−サンタレン;D、エンド−ベータ−ベルガモテン;E、シス−アルファ−ベルガモテン;F、トランス−アルファ−ベルガモテン
【0104】
Sh−zFPS−6His及びSh−SBS−6His酵素を基質DMAPP及びIPP又はGPP及びIPPと一緒にインキュベートした。反応産物をホスファターゼで処置せず、ペンタンで抽出し、その中には全てのオレフィンが溶解できる。DMAPP及びIPPを基質として、抽出物のクロマトグラフ分析によっていくつかのテルペン化合物の存在が明らかになった(図5)。GCプロファイルは、親のS.リコペルシカムとS.ハブロカイトから得られた準同質遺伝子系統であるTA517トマト系統(Monforte and Tanksley, 2000)の浸出物のものと比較した。TA517系統は、クラスIIセスキテルペンの生合成に関与するS.ハブロカイトの遺伝子移入断片を含む(van der Hoeven et al., 2000)。2つのGCプロファイルは同一であり、組み換え酵素がトマト中に存在するものと厳密に同一である活性を有することが確認された(図6)。主成分(図5、ピーク2)は、その保持時間及び質量スペクトルをTA517浸出物の抽出物のものと比較することによりアルファ−サンタレンとして同定された。量の多いものから、アルファ−サンタレン(ピーク4)、エンド−ベータ−ベルガモテン(ピーク5)、及びアルファ−ベルガモテン(ピーク1)も同定された。Sh−SBS−6His酵素は、従って、その活性が複数の産物の形成をもたらす酵素である。
【0105】
Sh−zFPSは、IPP及びDMAPPに作用して、ファルネシル二リン酸型のリン酸化化合物を産生する酵素であると結論付けることができる。保持時間は(Z,Z)−ファルネソール標準物質と同一であり、ShzFPSにより産生されるファルネシル二リン酸がZ,Z配置型により特徴付けられることを示唆する。Sh−zFPS−6Hisが、IPPとの組み合わせで、E−ゲラニル二リン酸に不活性であるとの事実は、この分子がSh−zFPS−6Hisの中間体ではなく、1つのDMAPPと1つのIPPを組み合わせることにより少なくとも1つのZ型結合を産生することを示唆する。Sh−SBSは、Sh−zFPSにより産生されるファルネシル二リン酸化合物でのみ活性であるが、しかし、少なくとも4つの明確に同定されたセスキテルペンを産生し、主な1つはアルファ−サンタレンである。最後に、C末端での6ヒスチジンタグ及びスペーサーの存在は、元の植物の天然酵素と比較して、酵素活性に及ぼす効果を有さなかった(図3)。
【0106】
タバコにおけるZ,Z−FPP合成酵素(Sh−zFPS)及びSB合成酵素(Sh−SBS)の発現
トリコーム特異的タバコプロモーター(eCBTS02, Tissier et al., 2004)をSh−zFPS及びSh−SBSのコード配列の上流にクローン化して、コンストラクトeCBTS1.0Sh−zFPS[#1]及びeCBTS1.0−Sh−SBS[#2]を形成した。これらの2つのコンストラクトを、カナマイシン耐性遺伝子を含む、アグロバクテリウムによる形質転換用の同じバイナリーベクター中に導入し、pLIBRO−064バイナリーベクターを得た(図2A)。コンストラクト#2もpLIBRO−065バイナリーベクター中に別々に導入した(図2B)。ベクターは、エレクトロポレーションによりアグロバクテリウム株LBA4404中に導入した。異なるベクターを持つ株を使用して、葉片法(leaf disc method)(Horsch et al., 1985)によるN.シルベストリスの遺伝子形質転換を実施した。
【0107】
導入遺伝子を保有するT−DNAを遺伝子形質転換により、CBTSの発現がRNA干渉により抑制されたN.シルベストリスのトランスジェニック細胞系統(親系統ihpCBTS)(Tissier et al., 2005)中に導入した。この系統において、葉中のCBTジオール量は非常に低い。N.シルベストリスは野生タバコであり、トマトのものに対応するセスキテルペンを産生しない。約25のカナマイシン耐性植物が、各々のコンストラクトについて得られた。各々の植物における導入遺伝子の存在を、葉ゲノムDNAでのPCRにより確認した。葉中での導入遺伝子の発現レベルは、タバコ葉からのmRNAでのリアルタイム定量的PCRにより確かめた。Sh−SBS導入遺伝子の発現レベルを、タバコ葉において構成的に発現したアクチンのものと比較した。結果を図3において例示する。結果は、選択した系統が全て、アクチン遺伝子と比べて、pLIBRO−064コンストラクトでは1から50まで、pLIBRO−065コンストラクトでは1から10までの範囲の変動レベルで導入遺伝子を発現したことを示唆する。
【0108】
オレフィンセスキテルペンは揮発性分子であるため、植物により放出された揮発性分子は培養チェンバー中の制御空気中で分析した。空気サンプルを、オレフィンテルペンを吸収するSuperQ(登録商標)フィルター(Altech)を含む誘導サーキット中に捕捉した。分子を次に1mlペンタンで溶出し、GC/MSにより分析した。図7は、トランスジェニック植物により放出された揮発性分子のクロマトグラフプロファイルの例を図示する。それは、Sh−zFPS及びSh−SBS遺伝子を発現する系統#3877は、このクラスのセスキテルペンに特徴的な分子イオンサイン93、94、121、及び204を伴ういくつかの新しいピークを含んだことを示す。クロマトグラフプロファイルを、天然でこれらの化合物を産生するTA517トマト系統の浸出物で得られたものと比較した(図7)。2つのプロファイルは同一であり、各々のピークの質量スペクトルはTA517系統のピークのものと同一であった。2つの導入遺伝子Sh−zFPS及びSh−SBSを発現している植物が、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、シス−アルファ−ベルガモテン、トランス−アルファ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテンを産生したのに対し、Sh−SBS遺伝子のみを組み込んだトランスジェニック系統はこれらの化合物のいずれも産生しなかった。これらの結果は、両方の遺伝子の存在がSB型のセスキテルペンの合成に必要であることを示唆する。それらによって、組み換え酵素で、インビトロで得られたデータが確認される。結論として、Sh−zFPS及びSh−SBS遺伝子は、トマトのセスキテルペンの生合成に関与し、“van der Hoeven et al., 2000”により記載される遺伝子座SsT2に位置する。
【0109】
S.リコペルシカムとS.ハブロカイトの間のzFPS遺伝子多型
完全zFPS遺伝子は、以下のプライマーを使用して、S.リコペルシカム、S.ハブロカイト、及びTAS17のゲノムDNAからPCRにより増幅した:ACCATGGGTTCTTTGGTTCTTCAATGTTGGA(配列番号9)及びACTCGAGATATGTGTGTCCACCAAAACGTCTATG(配列番号10)。2つの産物が2つのゲノムにおいて増幅され、2つのゲノム中に少なくとも2コピーの遺伝子が存在することを示唆する(図8)。約3000ヌクレオチド(バンドA)のサイズを伴う2つの産物の1つは、2つのゲノムに共通である。第2の産物は、S.リコペルシカムにおいて約2000ヌクレオチド(バンドC)及びS.ハブロカイトにおいて約2500ヌクレオチド(バンドB)のサイズを有する。TA517系統のプロファイルは、S.ハブロカイトのものと同一である。これらの結果は、S.ハブロカイトに特異的な遺伝子BがTA517系統中に導入されていることを示唆する。産物Bのシークエンシングによって、それが本明細書において記載するzFPS遺伝子に対応することが確認された。この結果は、また、2つのゲノムの間に存在する多型をこの遺伝子について使用することによりS.ハブロカイトのzFPS遺伝子をS.リコペルシカム中に導入できることを実証する。
【表7】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DMAP及びIPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法であって、以下:
a)該細胞中への、zFPSをコード化し、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及びSB合成酵素をコード化し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む、方法。
【請求項2】
Z,Z−FPP合成酵素活性及び配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質。
【請求項3】
その配列が配列番号2に対応することを特徴とする、請求項2記載のタンパク質。
【請求項4】
SB合成酵素活性を有し、及び、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質。
【請求項5】
請求項2から4記載のタンパク質をコード化するヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項6】
請求項5記載の核酸を含む発現カセット。
【請求項7】
請求項5記載の核酸又は請求項6記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項8】
請求項5記載の核酸、請求項6記載の発現カセット、又は請求項7記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項5記載の核酸、請求項6記載の発現カセット、請求項7記載のベクター、又は請求項8記載の細胞を含む非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項10】
生物が植物の腺トリコームであり、好ましくはニコチアナ(Nicotiana)属又はソラナム(Solanum)属からであることを特徴とする、請求項9記載のトランスジェニック生物。
【請求項11】
IPP及びDMAPの供給源を有する細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)又はその誘導体を産生するための方法であって、以下:
a)該細胞中への、請求項2又は3記載のタンパク質をコード化する核酸配列を伴う発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるその誘導体の回収
を含む、方法。
【請求項12】
Z,Z−FPP、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、アルファ−ベルガモテン、ベータ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテン、又は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、アルファ−ベルガモトール、ベータ−ベルガモトール、及びZ,Z−ファルネソールなどのその誘導体を調製するための請求項2から4記載のタンパク質、請求項5記載の核酸、請求項8記載の宿主細胞、又は請求項9又は10記載のトランスジェニック生物の使用。
【請求項13】
SB型セスキテルペンの合成経路が、請求項2又は3記載のタンパク質をコード化する遺伝子もしくは請求項4記載のタンパク質をコード化する遺伝子、又は両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項14】
S.ハブロカイトと性的和合性のあるソラナム型の種において対応する遺伝子の遺伝子移入を制御するためにS.ハブロカイトと該種との間のゲノム多型を同定するための配列番号1又は配列番号3と少なくとも80%の同一性を伴う核酸の全部又は一部を含む分子マーカーの使用。
【請求項15】
分子マーカーが配列番号9及び10に対応する核酸配列を含むことを特徴とする、請求項14記載の使用。
【請求項16】
プロトプラスト融合による、ソラナム・ハブロカイト(Solanum habrochaites)と性的和合性のない種における、zFPSをコード化し、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴うzFPS遺伝子、及び、SB合成酵素をコード化し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴うSBS遺伝子の導入に存する方法。
【請求項17】
ホスファターゼにより、請求項11記載の方法に従い得られるZ,Z−FPPの脱リン酸化によりZ,Z−ファルネソールを産生するための方法。
【請求項1】
DMAP及びIPPの供給源を有する細胞においてZ,Z−FPPからSB型セスキテルペン又はその誘導体を産生するための方法であって、以下:
a)該細胞中への、zFPSをコード化し、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う第1遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクト及びSB合成酵素をコード化し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う第2遺伝子を含む発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)該第1遺伝子及び該第2遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるSB型セスキテルペン又はその誘導体の回収
を含む、方法。
【請求項2】
Z,Z−FPP合成酵素活性及び配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質。
【請求項3】
その配列が配列番号2に対応することを特徴とする、請求項2記載のタンパク質。
【請求項4】
SB合成酵素活性を有し、及び、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴う配列を有する単離又は組み換えタンパク質。
【請求項5】
請求項2から4記載のタンパク質をコード化するヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項6】
請求項5記載の核酸を含む発現カセット。
【請求項7】
請求項5記載の核酸又は請求項6記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項8】
請求項5記載の核酸、請求項6記載の発現カセット、又は請求項7記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項5記載の核酸、請求項6記載の発現カセット、請求項7記載のベクター、又は請求項8記載の細胞を含む非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項10】
生物が植物の腺トリコームであり、好ましくはニコチアナ(Nicotiana)属又はソラナム(Solanum)属からであることを特徴とする、請求項9記載のトランスジェニック生物。
【請求項11】
IPP及びDMAPの供給源を有する細胞においてIPP及びDMAPからZ,Z−ファルネシル二リン酸(Z,Z−FPP)又はその誘導体を産生するための方法であって、以下:
a)該細胞中への、請求項2又は3記載のタンパク質をコード化する核酸配列を伴う発現カセットを有するコンストラクトの導入;
b)遺伝子の発現のための適切な条件における形質転換細胞の培養;ならびに、
c)場合により、該細胞中及び/又は培養液中に含まれるその誘導体の回収
を含む、方法。
【請求項12】
Z,Z−FPP、アルファ−サンタレン、エピ−ベータ−サンタレン、アルファ−ベルガモテン、ベータ−ベルガモテン、及びエンド−ベータ−ベルガモテン、又は、アルファ−サンタロール、エピ−ベータ−サンタロール、アルファ−ベルガモトール、ベータ−ベルガモトール、及びZ,Z−ファルネソールなどのその誘導体を調製するための請求項2から4記載のタンパク質、請求項5記載の核酸、請求項8記載の宿主細胞、又は請求項9又は10記載のトランスジェニック生物の使用。
【請求項13】
SB型セスキテルペンの合成経路が、請求項2又は3記載のタンパク質をコード化する遺伝子もしくは請求項4記載のタンパク質をコード化する遺伝子、又は両方の遺伝子の不活化により遮断されることを特徴とする、細胞又は非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項14】
S.ハブロカイトと性的和合性のあるソラナム型の種において対応する遺伝子の遺伝子移入を制御するためにS.ハブロカイトと該種との間のゲノム多型を同定するための配列番号1又は配列番号3と少なくとも80%の同一性を伴う核酸の全部又は一部を含む分子マーカーの使用。
【請求項15】
分子マーカーが配列番号9及び10に対応する核酸配列を含むことを特徴とする、請求項14記載の使用。
【請求項16】
プロトプラスト融合による、ソラナム・ハブロカイト(Solanum habrochaites)と性的和合性のない種における、zFPSをコード化し、配列番号2と少なくとも80%の同一性を伴うzFPS遺伝子、及び、SB合成酵素をコード化し、配列番号4と少なくとも80%の同一性を伴うSBS遺伝子の導入に存する方法。
【請求項17】
ホスファターゼにより、請求項11記載の方法に従い得られるZ,Z−FPPの脱リン酸化によりZ,Z−ファルネソールを産生するための方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公表番号】特表2010−523099(P2010−523099A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501569(P2010−501569)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050576
【国際公開番号】WO2008/142318
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(596060424)フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム (222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050576
【国際公開番号】WO2008/142318
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(596060424)フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム (222)
【Fターム(参考)】
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