説明

複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法並びに装置

【課題】セルラシステムにおけるユーザ同時接続数を最大化する。
【解決手段】各基地局のアンテナビームの全ての組み合わせに対して、各端末におけるSINRが所要伝送品質に等しいものとして各基地局で選択されたアンテナビームと送信電力とを変数とする連立方程式を立式し、各基地局の送信電力を求める。解が基地局電力の制約条件を満たしていないときは、端末数を順に削減して上記の処理を繰り返し、ユーザ同時接続数が最も多いアンテナビームの組み合わせ及び基地局送信電力を決定する。計算量を削減するために、端末で受ける信号強度が強い複数のアンテナビームを抽出し、信号強度が弱いアンテナビームを探索の対象から外すようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局によって形成される複数の無線ゾーン(セル)を組み合わせてサービスエリアを形成するセルラ通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
セルラ通信システムでは、各セルが利用する周波数はセル間で再利用されており、他セルからの同一の周波数をもつ信号は干渉となる。
図7は、下りリンクにおける他セルからの干渉の様子を説明するための図である。
この図において、BSは基地局、MSは端末である。ここで、隣接するセルが同一の周波数を利用しているものとする(1セル周波数繰り返し)。図示するように、基地局BSに属する端末MSには、基地局BSからの希望信号とともに基地局BSなどの他セルの基地局BSからの干渉信号が受信されることとなる。
【0003】
伝送品質を表す指標としてSINR(信号対干渉雑音比)が用いられる。SINRが高ければ伝送品質が良く、低ければ悪い。
SINRは、次式で表される。
【数1】

周辺からの干渉が大きくなればなるほど式(1)の分母が大きくなるため、SINRが低くなり、伝送品質が悪くなってしまう。
このように、セルラ通信システムでは、端末が基地局と通信を行う際、周辺基地局で送信される同一周波数の電波が干渉となり、端末において十分な伝送品質を得ることができず、システム容量(スループットやユーザの同時接続数)が制限されてしまうという問題がある。
【0004】
そこで本発明者は、予め各基地局が周辺基地局の端末に与える干渉を計算し、各端末が所要伝送品質を得られるように基地局の電力制御を協調して行う複数基地局協調送信電力制御方法を提案している(特願2008−223841号、特願2008−223842号、特願2008−223843号、非特許文献1)。
この提案している複数基地局協調送信電力制御方法について説明する。
図7に示したような周波数の1セル繰り返しを想定する。各セルには、その周波数を利用する1台の端末のみが通信可能な端末として存在することができる。
基地局BSの送信電力をpi、基地局BSの送信電力をpk、基地局BSから基地局BSに属する端末MSまでの規格化受信電力をzii、基地局BSから端末MSまでの伝搬損失をzikとすると、希望信号電力はpiii、基地局BSからの干渉信号電力はpkikとなる。
基地局数をN(Nは2以上の整数)、端末MSでの雑音電力をniとすると、端末MSにおける受信SINRiが所要伝送品質γreq,iを満足するためには、以下の条件を満たす必要がある。
【数2】

【0005】
全ての基地局に存在する全ての端末について、上の式(2)における不等号を等号に変換した条件式、すなわち、各端末の伝送品質がそれらの所要伝送品質に等しいものとした式を作成して展開すると、各基地局の電力を変数とする連立方程式が得られる。ただし、立式にあたっては、各端末での各基地局からの規格化受信電力及び雑音レベルの推定が必要である。
この連立方程式を解くことで、全ての端末における伝送品質が所要伝送品質γreq,iとなる場合の各基地局の送信電力を求めることができる。ただし、各基地局の送信電力pi(i=1〜N)は、基地局の最大送信電力をPlimitとして、0≦pi≦Plimitを満たす必要がある(基地局電力の制約条件)。しかし、電力の解が基地局の出力可能な範囲を外れる場合がある。例えば、解が負の値となる場合がある。
【0006】
連立方程式の解が前記制約条件を満たさない場合は、全端末が所要品質を満たして通信を行うことが不可能である。そこで、前記制約条件を満たすように通信を許可する端末の数を削減する。幾つかの端末の通信を一時的に遮断、すなわち、その端末が所属する基地局の送信出力を遮断することにより変数を減らし、解が前記制約条件を満たすように、再度連立方程式を立式し、その解を求める。ここで、端末数を削減する際は、同時接続できる端末数を可能な限り増やすことを評価規定とする。
最も有効な方法として、通信を許可する端末の全ての組み合わせについて連立方程式を解き、前記基地局電力の制約条件を満たす端末の組み合わせのうち、同時接続端末数が最大となるものを見つける方法(総当り法)がある。
また、総当り法は、N端末からi個の端末を取り除く組み合わせの全てについて順次連立方程式を立式し、解を求めているため、正確な結果を得ることができるが、協調制御を行う基地局の数が増加すると計算量が指数関数的に増大するという問題がある。
そこで、本発明者は、少ない計算量でシステム容量を大幅に改善することができるセルラ通信システムにおける基地局送信電力制御方法及び装置を上記特許出願において提案している。
【0007】
なお、従来から行われている基地局電力調整方法として、次の二つの方法がある。
一つは、全ての基地局に対して同一の電力を設定して送信する方法、もう一つは各基地局内の端末に対して所要SNR(信号対雑音電力比)が達成されるように基地局ごとに電力制御を行う方法である。しかしながら、どちらの方法も、周辺基地局からの干渉電力については考慮されていないため、干渉によりSINRが劣化し、所要伝送品質を満たせない可能性がある。
一方、アンテナに指向性を導入することにより、目的とする端末へ向けて集中的に電波を送信することが可能であるため、他セルに属する端末への干渉を軽減することが可能である。アンテナビームの従来技術として、主ビームの方向が異なる複数のビームを形成することができるマルチビームアンテナを基地局送信アンテナとして用い、端末における受信電力が最も高くなるビームを選択する方法が知られている。この方法も同様に、他端末への干渉は考慮されず高いユーザ接続率は得られないものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】星野兼次、長手厚史、藤井輝也、「移動通信における複数基地局協調送信電力制御法に関する一検討」、2008年電子情報通信学会ソサイエティ大会、B-5-51、p.364、September 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記提案されている複数基地局協調送信電力制御方法によれば、基地局電力の制約条件を満たすとともに、同時接続する端末数を可能な限り多くすることができるように各基地局の送信電力を決定することができるが、各基地局が送信アンテナとして主ビームの方向が異なる複数のビームを形成することができるマルチビームアンテナを使用する場合についてのものではなかった。
また、アンテナビームを様々な方向に向ける技術そのものは従来から存在し、基地局が複数有しているアンテナビームのうち、適切なビームを一つ選択するアンテナビーム選択を行うことも知られているが、通常は端末に対して最も信号電力の高いビームが選択されるようになされており、他の基地局に所属する端末への影響を考慮してアンテナビームを選択する方法は、これまでに提案されていない。
【0010】
そこで本発明は、複数基地局で送信電力協調制御及びアンテナビーム選択制御を行うことにより、ユーザ同時接続率を最大化又は改善することができる複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法並びに装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法は、複数の基地局と複数の端末とを有するセルラ通信システムにおいて前記複数の基地局における送信電力及び送信アンテナのビーム方向を制御する複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法であって、前記複数の基地局にそれぞれ属する端末の伝送品質が所要の伝送品質になるように前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力を変数とする連立方程式を立式し、該連立方程式の解を求める第1の工程と、前記連立方程式の解が基地局電力の制約条件を満たしている場合に、その解を前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力として決定する第2の工程と、前記連立方程式の解が前記基地局電力の制約条件を満たしていない場合に、前記複数の基地局のうちの選択された基地局に属する端末を削減して、前記第1の工程に移行する第3の工程とを有するものである。
また、前記複数の基地局のそれぞれの基地局が有する送信アンテナのビーム方向の全ての組み合わせについて前記第1の工程ないし第3の工程を実行するもの、前記複数の基地局のそれぞれの基地局において、その基地局に属する端末で受ける信号強度が最も強いビーム方向をその基地局の送信アンテナのビーム方向として選択し、前記第1の工程ないし第3の工程を実行するもの、あるいは、前記複数の基地局のそれぞれの基地局において、その基地局に属する端末で受ける信号強度が強い順に選択された複数のビーム方向の全ての組み合わせについて前記第1の工程ないし第3の工程を実行するものである。
さらに、本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御装置は、複数の基地局と複数の端末とを有するセルラ通信システムにおける前記複数の基地局における送信電力及び送信アンテナのビーム方向を制御する複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御装置であって、前記複数の基地局にそれぞれ属する端末の伝送品質が所要の伝送品質になるように前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力を変数とする連立方程式を立式し、該連立方程式の解を求める第1の手段と、前記連立方程式の解が基地局電力の制約条件を満たしている場合に、その解を前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力として決定する第2の手段と、前記連立方程式の解が前記基地局電力の制約条件を満たしていない場合に、前記複数の基地局のうちの選択された基地局に属する端末を削減して、前記第1の手段の処理を実行させる第3の手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法並びに装置によれば、予め各基地局間で周辺基地局の端末に与える干渉を考慮し、端末の方向に適切なアンテナビームを選択し、かつ所要受信電力を得られるように基地局の電力制御を行い、また、全ての端末が所要電力を満たして基地局電力を決定することが不可能な場合、通信を許可する端末数を削減して残りの基地局に対して電力を決定することにより、セルラ移動通信において、基地局からの電波が周辺基地局からの電波により干渉を受け、端末で十分な受信品質が得られず、ユーザの同時接続数が制限されてしまうという問題を解決し、ユーザ同時接続率を最大化または改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法が適用されるセルラ通信システムの構成を示す図である。
【図2】基地局送信アンテナの指向性を考慮した場合の下りリンクにおける他セルからの干渉の様子を説明するための図である。
【図3】マルチビームアンテナの指向性パターンの一例を示す図である。
【図4】本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】端末の受信強度が強い上位k個のビームのみを対象とすることにより計算量の削減を図るようにした実施の形態について説明するための図である。
【図6】計算機シミュレーションにより、本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法におけるユーザ同時接続率の評価を行った結果を示す図である。
【図7】下りリンクにおける他セルからの干渉の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法が適用されるセルラ通信システムの構成を示す図である。この図において、11〜1Nは基地局(BS)(Nは2以上の整数)、21〜2Nは端末(MS)、3は前記複数の基地局を統括する制御局である。各基地局11〜1Nによりそれぞれセルが形成されており、各基地局は同一の周波数を利用するものとする。各基地局11〜1Nは、主ビームの方向が異なる複数のビームを形成することができるマルチビームアンテナを備え、前記複数のビームのうちの本発明の方法により決定されたビームを用いて自セル内に位置する端末21〜2Nと通信を行う。なお、この図には、すべてのセル内に端末21〜2Nが存在するように記載しているが、セル内に端末2が存在していない場合や1セル内に複数の端末2が存在する場合もある。ただし、同一の周波数を利用するものとしているため、1セル内において基地局とその周波数を用いて通信できる端末2は1台だけである。
制御局3は、前記複数の基地局11〜1Nと接続し、各基地局11〜1Nを介して得られる情報などに基づいて各基地局11〜1Nの送信アンテナのビーム方向と送信電力を決定し、各基地局11〜1Nに該決定した送信アンテナのビーム方向及び送信電力を通知する。基地局11〜1Nは、送信アンテナのビームとして通知された方向に対応するビームを選択し、自己の送信電力を制御局3から通知された送信電力となるように制御する。本発明においては、このようにして複数基地局が協調して送信電力制御及びアンテナビーム選択制御を行う。
【0015】
図2は、基地局送信アンテナの指向性を考慮した場合の下りリンクにおける他セルからの干渉の様子を説明するための図である。
この図に示すように、各基地局が複数のアンテナビームを有するマルチビームアンテナを使用する場合には、アンテナの指向性が絞られるので、オムニアンテナを使用する場合に比べて他の基地局に属する端末に与える影響を軽減することができる。さらに、他の基地局に属する端末への影響を考慮しつつ自局に属する端末に対して所望の信号強度の得られるビームを選択することにより、他局に属する端末に対する干渉をより少なくすることができ、システム全体において同時接続することができる端末数をより多くすることが可能となる。
【0016】
以下、前記制御局3において実行される各基地局11〜1Nの送信アンテナのビーム方向及び送信電力を決定する複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御処理について説明する。
本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法においては、ユーザ同時接続率を最大化する最適な基地局送信アンテナのビームの組み合わせ及び基地局送信電力を決定するために、基地局送信アンテナのビーム方向及び基地局送信電力を変数とする連立方程式を立式し、端末における受信SINRが所要伝送品質を満たすように各基地局の送信電力を決定する。
【0017】
基地局BSの送信電力をpk、基地局BSがmk番目のアンテナビームを選択した場合の基地局BSから基地局BSに属する端末MSまでのアンテナ利得をGik(mk)、伝搬路利得をzik、基地局数をN、端末MSでの雑音電力をniとすると、端末MSにおける受信SINR(γi)が所要伝送品質(γreq,i)を満たすための条件は次式の通りである。
【数3】

図3に、アンテナ素子の指向性パターン(G)の一例を示す。この図に示すマルチビームアンテナは3通りのアンテナビームを有し、各ビームの指向方向が120度ずつ異なっている。
【0018】
全ての端末について、上の式(3)における不等号を等号に変換した式、すなわち、各端末の伝送品質がそれらの所要伝送品質に等しいものとした式を作成して展開すると、各基地局の送信アンテナの指向性(各基地局で選択したアンテナビーム)及び送信電力を変数とする連立方程式が得られる。ただし、協調の対象となる全ての基地局11〜1Nに繋がっている制御局3が各基地局11〜1Nから全端末21〜2Nまでの伝搬路(伝搬損)及び各端末における雑音電力niを全て情報として把握しているものとする。例えば、各基地局がビームを切り換えながらパイロット信号を順次送信し、各端末は受信したパイロット信号の信号強度及び雑音を測定して、それを各基地局を介して前記制御局3に通知するようになされている。
【0019】
図4に、複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御処理の流れを示すフローチャートを示す。
まず、上記式(3)に基づく連立方程式を立式するために、各基地局から全端末までの伝搬路の情報と各端末における雑音の情報を取得する(ステップS1)。
次に、各基地局で用いるアンテナビームmkの組合せを一つ選択する(ステップS2,S3)。
次に、ステップS4に進み、式(3)の不等号を等号に置き換えた連立方程式を解くことにより、全ての端末MSに対して、γi=γreq,iとなる場合の各基地局の送信電力を求める。但し、基地局の最大送信電力をPlimit として、0≦pi≦Plimitが制約条件となる。解がこの制約条件を満たさない場合、全端末が同時に所要品質を満たして通信を行うことが不可能であるので、条件を満たすように、通信を許可する端末の数を削減する。端末が削減されると、その端末が属する基地局からの送信電力が0となり、他の基地局に属する端末への干渉量が減少する。端末数を削減する際は、同時に接続できる端末数を最大化することを評価基準として、条件を満たすまで通信を許可する端末数を順に削減する。
【0020】
なお、端末削減の方法は問わない。接続率を最大にする方法として、通信を許可する端末の全ての組み合わせについて連立方程式を解き、電力の制約条件を満たす端末の組み合わせのうち、同時接続端末数が最大となるものを見つける方法(Full search)がある。しかし、この方法は、協調制御する基地局数が増加すると計算量が指数関数的に増大することとなる。そこで、取り除く端末を一意に選択し、一つの端末を取り除くたびに連立方程式を解き、その解が電力の制約条件を満たすかどうかを判別し、満たさなければ再び取り除く端末を選択する処理を繰り返すことにより計算量を削減する方法がある。この方法については、前述した本発明者による特許出願に記載されているが、例えば、全基地局が最大の電力で送信しているものと仮定して各端末における受信SINRを計算し、その値が最も低い端末から順に取り除く方法(Lowest-SINR removal)、全端末への干渉が最も大きい基地局に属する端末から順に取り除く方法(Largest-IF removal)などがある。 本発明においては、どの方法を採用して端末を削減してもよい。
【0021】
全てのアンテナビームの組み合わせに対して以上の送信電力割当制御を行う(ステップS5、S6)。各基地局のもつアンテナビーム数をMとし、基地局数をNとした場合、全てのアンテナビームの組み合わせは全部でMN通りとなる。
各基地局の持つアンテナビームの全ての組み合わせについて送信電力割当制御を行った後、最もユーザ同時接続数の多いビームを最終的な選択ビームとして設定する(ステップS7)。
このようにして、全てのビームの組み合わせについて連立方程式を解き、それぞれの連立方程式に端末削減方式を適用して、最もユーザ接続数が多くなる場合を探すことにより、ユーザ同時接続率を最大化する最適なビームの組み合わせ及び基地局送信電力を決定することができる。この方式をアンテナビーム選択の総当り法とよぶ。
【0022】
上記アンテナビーム選択の総当り法によれば、最も正確にユーザ同時接続率を最大化する最適なビームの組み合わせ及び基地局送信電力を決定することができるが、全探索を行うため膨大な計算量となる。そこで、信号処理量の削減を図るようにした本発明の他の実施の形態について説明する。この実施の形態のビーム選択法では、端末における受信信号強度が、強いビームを複数、例えば、k(1≦k<M)個抽出し、受信信号強度の弱いビームに対しては最適なビームである可能性が低いので探索の対象から外すことにより、上述した総当り法よりも信号処理量を削減するものである。
【0023】
図5は、端末の受信強度が強い上位k個のビームのみを対象とする場合について説明するための図である。
図中(a)に示すように、各基地局は指向性の方向が異なるM個のビームを有しているものとする。このとき、基地局数をNとすると、全基地局におけるビームの組み合わせはMN通りとなる。そこで、(b)に示すように、その基地局に属する端末が受ける信号強度が強い順にk(1≦k<M)個のビームを選択し、該選択されたk個のビームの組み合わせを対象に前述した計算を行うようにする。図示する例では、ビーム3、ビーム4及びビーム2の順に端末が受ける信号強度が強い場合を示しており、これらのビームのみを計算の対象として選択する。これにより、(c)に示すように、計算の対象となる全基地局におけるビームの組み合わせの数はkN通りとなり、計算量を大幅に削減することが可能となる。例えば、k=1、すなわち、端末において基地局からの受信電力が最も高くなるビームを選択する場合には、最も計算量を少なくすることができる。
なお、ここでは、各基地局において選択するビーム数をk個としたが、基地局ごとに異なる数のアンテナビームを対象として選択するようにしてもよい。
【0024】
計算機シミュレーションにより、本発明の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法の特性を評価した結果について説明する。図6は、システム内の端末が所要伝送品質γreq,iを満たす確率であるユーザ同時接続率の評価を行った結果を示す図である。ここで、六角格子状に19個のオムニセルを正則配置し、伝搬路利得は距離の3.5に反比例するものとした。セル半径、基地局の最大送信電力、雑音電力は、オムニアンテナの場合、セル端での受信SNRが最大で10dBとなるように設定した。マルチビームアンテナの場合は、全方向の送信電力の総和がオムニアンテナと等しくなるように正規化を行った。マルチビームアンテナの基地局当たりのビーム数をM=3とし、各ビームの指向方向を360度/M=120度ずつシフトさせるものとした。また、各ビームの半値幅は120度、サイドローブレベルが−15dBで一定となるものを用いるものとした。伝搬路利得及び雑音電力は理想的に求まるものとし、全てのユーザiについて所要受信SINR(γreq,i)は等しいものとした。
【0025】
図中、aは、複数基地局協調送信電力制御を行う場合で、端末削減方法として上述したLowest-SINR removalを採用し、k=2のアンテナビーム選択制御を行なった場合、bは、同様にLowest-SINR removalを採用した複数基地局送信電力制御を行い、k=1のアンテナビーム選択制御を行なった場合、cは、複数基地局電力制御を行わず、基地局ごとに送信電力制御を行い、アンテナビーム選択制御も行なわない場合、dは複数基地局電力制御、各基地局ごとの送信電力制御のいずれも行わず、アンテナビーム選択制御も行わない場合の、横軸を所要受信SINR(γreq,i)とした場合のユーザ同時接続率をそれぞれ示す。
この図より、基地局協調電力制御及びマルチビーム選択制御を行うことにより、大幅なユーザ同時接続率の向上が図れることが分かる。また、90%のユーザ同時接続率でシステム設計を行う場合、k=2のアンテナビーム選択制御を適用することにより、k=1のアンテナビーム選択制御の場合と比べて、ユーザのSINRを約1.5dB改善できることが分かる。
【符号の説明】
【0026】
1〜1N:基地局、21〜2N:端末、3:制御局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局と複数の端末とを有するセルラ通信システムにおいて前記複数の基地局における送信電力及び送信アンテナのビーム方向を制御する複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法であって、
前記複数の基地局にそれぞれ属する端末の伝送品質が所要の伝送品質になるように前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力を変数とする連立方程式を立式し、該連立方程式の解を求める第1の工程と、
前記連立方程式の解が基地局電力の制約条件を満たしている場合に、その解を前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力として決定する第2の工程と、
前記連立方程式の解が前記基地局電力の制約条件を満たしていない場合に、前記複数の基地局のうちの選択された基地局に属する端末を削減して、前記第1の工程に移行する第3の工程と
を有することを特徴とする複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法。
【請求項2】
前記複数の基地局のそれぞれの基地局が有する送信アンテナのビーム方向の全ての組み合わせについて前記第1の工程ないし第3の工程を実行することを特徴とする請求項1記載の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法。
【請求項3】
前記複数の基地局のそれぞれの基地局において、その基地局に属する端末で受ける信号強度が最も強いビーム方向をその基地局の送信アンテナのビーム方向として選択し、前記第1の工程ないし第3の工程を実行することを特徴とする請求項1記載の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法。
【請求項4】
前記複数の基地局のそれぞれの基地局において、その基地局に属する端末で受ける信号強度が強い順に選択された複数のビーム方向の全ての組み合わせについて前記第1の工程ないし第3の工程を実行することを特徴とする請求項1記載の複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御方法。
【請求項5】
複数の基地局と複数の端末とを有するセルラ通信システムにおける前記複数の基地局における送信電力及び送信アンテナのビーム方向を制御する複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御装置であって、
前記複数の基地局にそれぞれ属する端末の伝送品質が所要の伝送品質になるように前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力を変数とする連立方程式を立式し、該連立方程式の解を求める第1の手段と、
前記連立方程式の解が基地局電力の制約条件を満たしている場合に、その解を前記複数の基地局における送信アンテナのビーム方向及び送信電力として決定する第2の手段と、
前記連立方程式の解が前記基地局電力の制約条件を満たしていない場合に、前記複数の基地局のうちの選択された基地局に属する端末を削減して、前記第1の手段の処理を実行させる第3の手段と
を有することを特徴とする複数基地局協調送信電力制御及びアンテナビーム選択制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−220031(P2010−220031A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66275(P2009−66275)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)▲1▼発行者名 社団法人電子情報通信学会 ▲2▼刊行物名 電子情報通信学会技術研究報告 Vol.108 No.358 ▲3▼発行日 2008年12月11日 (2)▲1▼発行者名 社団法人電子情報通信学会 ▲2▼刊行物名 電子情報通信学会2009年総合大会講演論文集 ▲3▼発行日 2009年 3月 4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究に関わる特許出願
【出願人】(501440684)ソフトバンクモバイル株式会社 (654)
【Fターム(参考)】