説明

複素環化合物及び発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質

【課題】 ホタルルシフェリン類似構造を有する複素環化合物を提供し、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質としての利用を図る。
【解決手段】 複素環化合物は、 一般式(A)又は(B)で示される。
【化1】


(一般式(B)中のXは、硫黄原子、酸素原子、イミノ基及びメチレン基からなる群より選択される一種であり、一般式(A)及び(B)中のYは、硫黄原子、酸素原子又はメチレン基の何れかである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質として利用可能な、ホタルルシフェリン類似構造を有する複素環化合物及びこれを用いる発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質に関する。より詳細には、ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系を用いた生化学物質の定量や遺伝子発現・導入の解析等においてホタルルシフェリンに代えて利用可能な複素環化合物及びこれを用いた発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光として有名なホタルの発光は、ホタルルシフェリン−ホタルルシフェラーゼ発光系の反応によるものであり、発光基質であるホタルルシフェリンが、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されることによって発光する。
【0003】
ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系は、遺伝子組換えベクターや細胞に発光甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を導入することによって遺伝子発現・遺伝子導入効率の解析や細胞増殖のモニター等に利用できることが知られており、生化学や医学、薬学、免疫学など様々な分野において注目され、応用が検討されつつある。発光系の各種用途への応用においては、発光の制御が重要であり、発光波長や発光挙動等を随意に変更可能になれば、実用性が高まり、用途の拡大が容易になる。このようなことから、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質として利用可能なホタルルシフェリン以外の物質についての研究が進められている。
【0004】
例えば、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系に利用可能な発光基質として、ホタルルシフェリンのベンゾチアゾール環に結合するヒドロキシ基をアミノ基に置き変えた化合物(下記非特許文献1参照)や、チアゾリジン環をジメチル置換しカルボキシル基をAMP(アデノシン−1リン酸)化した化合物(下記非特許文献2参照)、ベンゾチアゾール環をナフタレン環又はキノリン環に置き変えた化合物(下記非特許文献3参照)が報告されている。
【0005】
また、下記特許文献1では、ホタルルシフェリンのカルボキシル基又はヒドロキシ基をアミド化又はエステル化することによって得られるホタルルシフェリン誘導体が開示され、免疫定量等の生化学物質の定量への利用を提案している。
【非特許文献1】White E. H.; Worthr H.; Seliger H. H.; McElroy W.D., J. Amer. Chem. Soc., 88, 2015-2019 (1986).
【非特許文献2】Branchini B. R.; Murtiashaw M. H.; Magyar R. A.; Portier N. C.; Ruggiero M. C.; Stroh J. G., J. Am. Chem. Soc., 124, 2112-2113 (2002).
【非特許文献3】Branchini B. R.; Hayward M. H.; Bamford S.; Brennan, P. H.; Lajiness E., J. Photochem. Photobiol., 49, 689- (1989).
【特許文献1】特表昭63−501571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、発光基質として利用可能なホタルルシフェリン類似化合物についての研究が進められているが、用途に応じて化合物を選択できるほど発光基質が見出されているわけではなく、必要に応じて任意の発光挙動が実現可能な状態には至っていない。
【0007】
本発明は、ホタルルシフェリンに代えて発光基質として利用するための候補物質として、ホタルルシフェリン類似構造を有する新規な複素環化合物及びこれを用いた発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質を提供することを目的とする。
【0008】
又、本発明は、ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系を生化学物質の定量や遺伝子発現・導入の解析に応用する際に、ホタルルシフェリンとは異なる発光特性の発光を実現可能とする発光基質として有望な新規な複素環化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ホタルルシフェリンの複素環構造を構成する窒素原子又は硫黄原子を他の原子に置き換えた類似化合物が発光基質として利用可能であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
本発明の一態様によれば、複素環化合物は、一般式(A)又は(B)で示される。
【化1】

【0011】
(一般式(B)中のXは、硫黄原子、酸素原子、イミノ基及びメチレン基からなる群より選択される一種であり、一般式(A)及び(B)中のYは、硫黄原子、酸素原子又はメチレン基の何れかである。)
上記一般式(A)においてYが酸素原子である複素環化合物は特に好適に発光基質として使用できる。
【0012】
本発明の一態様によれば、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質は、上記複素環化合物を含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質として利用可能な、ホタルルシフェリン類似構造を有する新規な複素環化合物が提供され、生化学物質の定量や遺伝子発現・導入の解析等におけるホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の応用範囲を広められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系を用いた生化学物質の定量や遺伝子発現・導入の解析は、発光光量を測定して決定される発光甲虫ルシフェラーゼの酵素活性に基づくものである。従って、定量や解析の精密さは、発光光量の測定における正確さに依存する。測定が正確になされるためには、測定対称の発光波長域近辺に、測定の障害となるような他の原因による光が存在しないことが重要であり、このためには、測定系によっては、ホタルルシフェリンの発光波長域とは異なる波長での発光が得られる発光基質が必要となる場合がある。また、ホタルルシフェリンの場合の発光は変化が激しく、初期の発光量から瞬間的に減衰するので、測定時期を逸したり測定誤差が大きくなるため、測定の安定性が低い。従って、発光時間がプラトーになるような発光を生じる発光基質が望まれている。
【0015】
発光、発色等の光学的特徴を有する化合物において、その光学的特徴は、化合物のπ電子系構造との関連性が大きいことが知られているが、発光甲虫ルシフェラーゼの作用によって発光を伴う反応が進行する発光系(以下、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系と称する)の発光基質として利用可能な従来のホタルルシフェリン類似化合物は、いずれも、ホタルルシフェリンの複素環構造を保持したものであり、複素環構造を変化させたものについてはほとんど知られていない。そこで、本願発明者らは、ホタルルシフェリンの複素環構造と発光における光学的特徴との関係を解明し、発光波長や光量変化等がホタルルシフェリンとは異なる発光基質を開発すべく、ホタルルシフェリンの複素環構造を構成する窒素原子及び/又は硫黄原子を他の原子又は基に置き換えた類似化合物の合成を行った。更に、合成した類似化合物の発光について検討し、複素環構造の窒素原子又は硫黄原子を他の原子に置き換えた化合物についても、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光基質として利用可能であることを見出した。
【0016】
ホタルルシフェリンより短波長(約500nm以下)で発光する発光基質は、発光オワンクラゲの緑色蛍光タンパク(GFP)にエネルギー移動が可能であるので、緑色のGFP蛍光(約520nm)が観測される。従って、この発光基質を用いて、GFP/発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質によるBRET(Bioluminescence Resonance Energy Transfer)型発光系を構成することができる。BRET型発光系は、種々のタンパク質翻訳後修飾や遺伝子発現のバイオイメージングを可能にする。例えば、GFPと発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質とがタンパク質プロセッシング配列を介している状態で、融合タンパク質がプロセッシングを受けないと、GFPの緑色蛍光が検出され、融合タンパク質がプロセッシングを受けると、発光基質の青色発光が検出される。従って、発光状態に基づいて、タンパク質プロセッシング酵素の発現やタンパク量のアッセイ、タンパク質の局在化状態のバイオイメージングができる。また、タンパク質の熟成に必要な糖鎖の付加プロセスをバイオイメージしたり、タンパク質/タンパク質間の相互作用等を観測することも可能である。
【0017】
本発明に係るホタルルシフェリン類似化合物は、下記一般式(A)又は(B)で示される複素環化合物である。
【化2】

【0018】
(一般式(B)中のXは、硫黄原子、酸素原子、イミノ基及びメチレン基からなる群より選択される一種であり、一般式(A)及び(B)中のYは、硫黄原子、酸素原子又はメチレン基の何れかである。)
上記一般式(A)又は(B)で示される複素環化合物を個別に記載すると、表1の複素環化合物(a)〜(n)のようになる。
【0019】
(表1)
複素環化合物 一般式 X Y
ホタルルシフェリン (A) − S
(a) (A) − O
(b) (A) − メチレン
(c) (B) O S
(d) (B) O O
(e) (B) O メチレン
(f) (B) メチレン S
(g) (B) メチレン O
(h) (B) メチレン メチレン
(i) (B) S S
(j) (B) S O
(k) (B) S メチレン
(l) (B) NH S
(m) (B) NH O
(n) (B) NH メチレン

上記複素環化合物(a)〜(n)において、カルボキシル基が結合する炭素は不斉炭素であるので、複素環化合物(a)〜(n)には光学異性体が存在し、合成プロセスにおいてL又はD型のシステイン、セリン等を用いることにより光学活性な複素環化合物(a)〜(n)が得られる。従来、L型のホタルルシフェリンでは発光せず、発光基質となるのはD体のみであると考えられていたが、近年、L型のホタルルシフェリンにおける発光は初期においては極めて微少で検出し難く、非常に緩慢に経時増加することが明らかになり(参照:Lembert N., Biochem. J., 317, 273-7 (1996)等)、何れの異性体も発光基質となり得ることが判明した。本発明に係る上記複素環化合物に関しても、D体及びL体の何れもが発光甲虫ルシフェラーゼに対する発光基質となり得る。ホタルルシフェリンの場合と異なる点は、発光時間がプラトーな発光挙動を実現可能なことであり、後述の実施例から明らかなように、D体の複素環化合物(a)を発光基質とした時に、発光光量が急激に減衰することなく一定レベルで安定化してある程度の時間維持されるような発光挙動が見られている。従って、発光甲虫ルシフェラーゼアッセイ等の測定・検出に利用すると、確実性及び再現性が高い測定が可能であり、発光甲虫ルシフェラーゼ活性の経時変化を観測するのに都合が良いので、極めて有用性が高い発光基質となる。
【0020】
また、上記複素環化合物(a)〜(n)のカルボキシル基がアルコールと縮合したエステル化合物は化学発光性を有することも判明した。エステル化合物は、上記複素環化合物(a)〜(n)の合成プロセスにおいて目的化合物が生成する前段階において得られる。勿論、任意の反応プロセスを経由して得た複素環化合物(a)〜(n)を、常法に従ってカルボキシル基をエステル化して得てもよく、例えば、ジアゾメタンと反応させる方法や、ジシクロへキシルカルボジイミドの存在下、ジメチルスルホキシド中でアルコールと反応させて得られることができる(特表昭63−501571号公報参照)。炭素数1〜20の直鎖又は分岐アルキルアルコールとのエステルが好ましい。化学発光は、上記複素環化合物のエステルを酸化して過酸化物を生成することにより、過酸化物の分解物が励起状態の発光種となって起こる。酸化は、DMSO中でt−ブトキシカリウムを用いて空気酸化することによって進行する。エステル化合物の化学発光では、ホタルルシフェリンのエステル化合物の場合よりも短波長の発光が可能である。
【0021】
本発明に係る複素環化合物(a)〜(n)は、発光甲虫ルシフェラーゼ、ATP及びMg2+の存在する系に添加することによって、発光甲虫ルシフェラーゼにより酸化して発光する。単独で発光基質として利用可能であるが、必要に応じて、他の発光基質と組み合わせて用いてもよい。又、発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定・検出において本発明の複素環化合物を応用することができ、この場合、例えば、発光基質、ATP及びMg2+を含有しpHを適切に調整した発光基質組成物を発光剤キットとして用いることもできる。
【0022】
以下、実施例を参照して本発明を詳述する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。尚、本願において、「%」は、特に説明がない場合、「質量%」を示すものとする。
【実施例】
【0023】
[複素環化合物(a)]
複素環化合物(a)は、下記の反応プロセスに従って、市販の6−ヒドロキシ−ベンゾチアゾール−2−カルボニトリルから調製した。
【化3】

【0024】
(エステルの合成)
6−ヒドロキシベンゾチアゾール−2−カルボニトリル(126.2 mg、0.7162 mmol)のメタノール溶液(20 ml)に1 mol/lナトリウムメトキシド溶液(メタノール溶液) (1.5 ml、1.5 mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。反応混合物に1 M塩酸(40 ml)を加え、酢酸エチル(3×60 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、6−ヒドロキシベンゾチアゾール−2−カルボン酸メチルエステル(化合物1)(159.4 mg、quant.)を薄黄色結晶として得た。
【0025】
(化合物1の分析値)
mp: 197-200 ℃. IR (film): 3157, 1739 cm-1
1H NMR (270 MHz, CD3OD): δ 4.01 (3H, s), 7.11 (1H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 7.37 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.95 (1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR (67.8 MHz, CD3OD): δ 53.83 (q), 107.30 (d), 119.05 (d), 126.57 (d), 139.95 (s), 147.84 (s), 155.76 (s), 159.61 (s), 162.16 (s)
MS (EI): m/z 209 (M+, 100), 178 (30), 151 (95)
(セリンメチルエステルの導入)
上記化合物1(344.4 mg、1.646 mmol)の1,2-ジメトキシエタン溶液(25 ml)に、アルゴン雰囲気下、市販のD-セリンメチルエステル塩酸塩(2.5611 g、16.462 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(4.0523 g、33.169 mmol)を加え、2時間加熱還流した。この反応混合物に4 M塩酸(120 ml)を加え、酢酸エチル(4×100 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を2度のシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル50 g; クロロホルム‐メタノール(10:1)}、{シリカゲル50 g; クロロホルム‐酢酸エチル(2:1)}で精製し、更に分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×6枚 ; クロロホルム−酢酸エチル(1 : 1)}にて精製し、原料エステル(182.1 mg、0.870 mmol)と3−ヒドロキシ−2−[(6−ヒドロキシベンゾチアゾール−2−カルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルエステル(化合物2)(163.6 mg、変換収率71%)を薄黄色油状物として得た。
【0026】
(化合物2の分析値)
1H NMR (270 MHz, CD3OD):δ 3.80 (3H, s), 3.97 (1H, dd, J = 3.6, 11.5 Hz), 4.07 (1H, dd, J = 4.3, 11.5 Hz), 4.75 (1H, dd, J = 3.6, 4.3 Hz), 7.08 (1H, dd, J = 2.6, 8.9 Hz), 7.36 (1H, d, J = 2.6 Hz), 7.94 (1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR (67.8 MHz, CD3OD):δ 53.13 (q), 56.47 (d), 62.80 (t), 107.51 (d), 118.49 (d), 126.33 (d), 140.09 (s), 148.14 (s), 158.86 (s), 160.25 (s), 162.09 (s), 171.83 (s)
(アセタートの合成)
上記化合物2(30.2 mg、0.102 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(8 ml)に無水酢酸(50 ml、0.53 mmol)、炭酸水素ナトリウム(17.6 mg、0.209 mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。反応混合物に50%塩化アンモニウム水溶液(30 ml)を加え、酢酸エチル(3×35 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×2枚 ; クロロホルム−酢酸エチル(3 :2)}にて精製し、2−[(6−アセトキシベンゾチアゾール−2−カルボニル)アミノ]−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルエステル(化合物3)(22.8 mg、66%)を薄黄色油状物として得た。
【0027】
(化合物3の分析値)
1H NMR (270 MHz, CDCl3):δ 2.36 (3H, s), 2.73 (1H, br.s), 3.84 (3H, s), 4.09 (1H, br.dd), 4.18 (1H, br.dd), 4.88 (1H, m), 7.28 (1H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 7.71 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.06 (1H, d, J = 8.9 Hz), 8.24 (1H, d, J = 7.9 Hz)
1H NMR (270 MHz, CD3OD):δ 2.33 (3H, s), 3.80 (3H, s), 3.98 (1H, dd, J = 4.0, 11.5 Hz), 4.07 (1H, dd, J = 4.6, 11.5 Hz), 4.76 (1H, dd, J = 4.0, 4.6 Hz), 7.38 (1H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 7.89 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.16 (1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3):δ 21.15 (q), 53.01 (q), 54.97 (d), 63.08 (t), 115.00 (d), 121.76 (d), 125.17 (d), 137.77 (s), 149.39 (s), 150.62 (s), 159.89 (s), 162.92 (s), 169.33 (s), 170.22 (s)
(オキサゾリンの合成)
上記化合物3(22.8 mg、0.0674 mmol)のジクロロメタン溶液(20 ml)に、アルゴン雰囲気下、ジエチルアミノ硫黄トリフルオリド(18 ml、0.14 mmol)を加え、90 ℃で30分間撹拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を0.5 ml加え、ジエチルアミノ硫黄トリフルオリドを分解した後、30%塩化アンモニウム水溶液(30 ml)を加え、ジクロロメタン(1×30 ml)酢酸エチル(2×40 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×1枚 ; クロロホルム−酢酸エチル(3 : 1)}にて精製し、2−(6−アセトキシベンゾチアゾール−2−イル)−4,5−ジヒドロオキサゾール−4−カルボン酸メチルエステル(化合物4)(16.6 mg、77%)を無色結晶として得た。
【0028】
(化合物4の分析値)
1H NMR (270 MHz, CDCl3):δ 2.36 (3H, s), 3.85 (3H, s), 4.77 (1H, dd, J = 8.9, 10.9 Hz), 4.88 (1H, dd, J = 8.2, 8.9 Hz), 5.08 (1H, dd, J =8.2, 10.9 Hz), 7.29 (1H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 7.73 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.17 (1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3):δ 21.15 (q), 52.99 (q), 68.79 (d), 70.95 (t), 114.59 (d), 121.74 (d), 125.55 (d), 136.83 (s), 149.68 (s), 151.01 (s), 154.96 (s), 161.04 (s), 169.26 (s), 170.46 (s)
(複素環化合物(a)の合成)
上記化合物4(16.6 mg、0.0318 mmol)を、エタノール(2 ml)及び10 mM炭酸水素アンモニウム水溶液(8 ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓由来エステラーゼを加えた。35 ℃で15時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、D型の2−(6−ヒドロキシベンゾチアゾール−2−イル)−4,5−ジヒドロオキサゾール−4−カルボン酸(複素環化合物(a))(18.5 mg、quant.)を黄色結晶として得た。
【0029】
(複素環化合物(a)の分析値)
1H NMR (270 MHz, CD3OD):δ 4.65-4.88 (3H, complex), 7.07 (1H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 7.34 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.88 (1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR (67.8 MHz, CD3OD):δ 72.48 (d), 73.91 (t), 107.24 (d), 118.39 (d), 125.74 (d), 139.02 (s), 147.85 (s), 153.62 (s), 158.97 (s), 161.22 (s), 177.69 (s)
MS (FAB): m/z 378 (M+H+, 10), 243 (100)
[複素環化合物(c)]
複素環化合物(c)は、下記の反応プロセスに従って、市販の2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒドから調製した。
【化4】

【0030】
(モノヒドロキシアルデヒドの合成)
2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(1.0 g、7.24 mmol)のジクロロメタン溶液(200ml) にt−ブチルジメチルシリルクロリド(1.2 eq., 8.69 mmol)及びジメチルアミノピリジン(0.9 eq., 6.52 mmol)を加え、摂氏零度で30分間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル130 g; ヘキサン‐酢酸エチル(10:1)}にて精製し、4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−2−ヒドロキシベンズアルデヒド(化合物5)(1.6 g、87%)を薄橙色油状物として得た。
【0031】
(ジエステルの合成)
上記化合物5(1.53 g、6.06 mmol)のトルエン溶液(50 ml)に、アルゴン雰囲気下、臭化マロン酸ジエチル(1.2 eq., 7.27 mmol)及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(3.2 eq., 19.4 mmol)を加え、摂氏80度で50分間加熱撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g;ヘキサン‐酢酸エチル (3:1)}にて2回精製し、6−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−ヒドロキシクマロン−2−ジカルボン酸ジエチルエステル(化合物6)(881.6 mg、35%)を黄色油状物として得た。
【0032】
(モノエステルの合成)
上記化合物6(471.1 mg、1.15 mmol)のメチルエチルケトン溶液(50 ml)に、アルゴン雰囲気下、炭酸カリウム(5.1 eq., 5.87 mmol)を加え、摂氏80度で20時間加熱環流した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル120 g; ヘキサン‐酢酸エチル(3:1)、含0.01%トリフルオロ酢酸}で精製し、更に分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×6枚 ; ベンゼン−酢酸エチル(10 : 1)}にて2回精製し、6−ヒドロキシベンゾ[b]フラン−2−カルボン酸エチルエステル(化合物7)(122.7 mg、51.7%)を無色固体として得た。
【0033】
(ベンゾフランカルボン酸の合成)
上記化合物7(99.8 mg、0.484 mmol)のイソプロパノール溶液(25 ml)に1 M水酸化ナトリウム(3ml)を加え、室温で3日間撹拌した。この反応混合物を陽イオン樹脂(アンバーライトIR-120B)で処理し、樹脂を濾過して除去した後、濾液を減圧濃縮し、6−ヒドロキシベンゾ[b]フラン−2−カルボン酸(化合物8)(87.5 mg、100%)を淡黄色固体として得た。
【0034】
(システイン保護体の合成)
市販のD‐システイン−S−トリチル化合物(932.8 mg, 2.566 mmol)をメタノール(200 ml)に溶解し、4 N塩化水素/1,4−ジオキサン溶液(10 ml, 40 mmol)を加えた。この混合液を室温で2日間撹拌した後、陰イオン交換樹脂(IRA400 OH AG)を用いて中和した。樹脂を濾別し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル85 g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1)→クロロホルム−メタノール (10:1) }にて精製し、2−アミノ−3−(トリチルスルファニル)プロピオン酸メチルエステル(化合物9)(414.6 mg、43%)を薄黄色油状物として得た。
【0035】
(化合物9の分析値)
IR (neat):3381, 3315, 1739, 1595 cm-1
1H NMR (270 MHz, CDCl3):δ2.47 (1H, dd, J = 7.7, 12.4 Hz), 2.60 (1H, dd, J = 4.8, 12.4 Hz), 3.20 (1H, br.dd, J = 4.8, 7.7 Hz), 3.65 (3H, s), 7.18-7.31 (9H, complex), 7.40-7.45 (6H, complex)
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3):δ36.90 (t), 52.16 (q), 53.78 (d), 66.83 (s), 126.76 (d)×3, 127.94 (d)×6, 129.57 (d)×6, 144.51 (s)×3, 174.18 (s)
MS (FAB):m/z 378 (M+H+, 10), 243 (100)
(化合物10の合成)
上記化合物8(35.1 mg、0.197 mmol)のジメチルホルムアミド溶液(30 ml)に、アルゴン雰囲気下、上記化合物9(1.4 eq., 0.276 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(3.1 eq., 0.611 mmol)及びジメチルアミノピリジン(5.1 eq., 1.00 mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル50 g; クロロホルム‐メタノール(10:1)}、{シリカゲル200 g; ヘキサン‐酢酸エチル(1:1)}にて精製し、2−[(6−ヒドロキシベンゾ[b]フラン−2−カルボニル)アミノ]−3−(トリチルスルファニル)プロピオン酸メチルエステル(化合物10)(32.6 mg、31%)を薄黄色油状物として得た。
【0036】
(チアゾリンの合成)
上記化合物10(30.1 mg、0.056 mmol)のジクロロメタン溶液(10 ml)に、アルゴン雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(2.7 eq., 0.151 mmol)及びトリフェニルホスフィンオキシド(5.3 eq., 0297 mmol)を加え、室温で40分間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×3枚 ; ヘキサン−酢酸エチル(2 : 3)}にて精製し、2−(6−ヒドロキシベンゾ[b]フラン−2−イル)−4,5−ジヒドロチアゾール−4−カルボン酸メチルエステル(化合物11)(12.0 mg、77%)を淡黄色固体として得た。
【0037】
(複素環化合物cの合成)
上記化合物11(12.0 mg、0.043 mmol)を、エタノール(3 ml)及び10 mM炭酸水素アンモニウム水溶液(12 ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、触媒量のブタ肝臓由来エステル加水分解酵素を加えた。この溶液を36 ℃で18時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、D体の2−(6−ヒドロキシベンゾ[b]フラン−2−イル)−4,5−ジヒドロチアゾール−4−カルボン酸(複素環化合物(c))(14.3 mg、quant.)を黄色固体として得た。
【0038】
(複素環化合物cの分析値)
1H-NMR (270MHz, MeOH-d4):δ3.64 (1H, dd, J = 13.1, 9.2 Hz), 3.78 (1H, dd, J =13.1,8.9 Hz), 5.10 (1H, dd, J = 9.2, 8.9 Hz), 6.80 (1H, dd, J = 8.6, 2.3 Hz), 6.93 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.31 (1H, s), 7.47 (1H, d, J = 8.6 Hz)
MS (FAB):m/z 264 (M+H+, 31), 192 (100)
[複素環化合物(h)]
複素環化合物(h)は、下記の反応プロセスに従って、市販の5−インダノールから調製した。
【化5】

【0039】
(ケトンの合成及びヒドロキシ基の保護)
市販の5-インダノール(2.5 g、18.6 mmol)の80%含水アセトニトリル溶液(20ml) に2, 3-ジクロロ-5, 6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(1.2 eq., 22.3 mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル500 g; クロロホルム‐メタノール(10:1)}にて精製し、5−ヒドロキシインダン−1−オン(2.1 g、75%)を赤褐色固体として得た。
【0040】
5−ヒドロキシインダン−1−オン(433.0 mg、2.93 mmol)のジクロロメタン溶液(100ml) にt−ブチルジメチルシリルクロリド(5.0 eq., 14.6 mmol)及びジメチルアミノピリジン(5.1 eq., 14.9 mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。この反応混合物をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g; ヘキサン‐酢酸エチル(4:1)}にて精製し、5−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)インダン−1−オン(化合物12)(591.1 mg、77%)を薄黄色油状物として得た。
【0041】
(ジエステルの合成)
上記化合物12(455.1 mg、1.74 mmol)のトルエン溶液(20 ml)に、アルゴン雰囲気下、クロロ炭酸エチル(3.0 eq., 5.22 mmol)及びビス(トリメチルシリル)アミドカリウム(7.8 eq., 13.6 mmol)を加え、摂氏-78度で15分間撹拌し、続いて室温で15分間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g;ヘキサン‐酢酸エチル(5:1)}にて精製し、5−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−オキソインダン−2,2−ジカルボン酸ジエチルエステル(化合物13)(682.0 mg、96%)を赤橙色油状物として得た。
【0042】
(ケトンの還元)
上記化合物13(1.03 g、2.53 mmol)のジオキサン−メタノール(9:1)の混合溶液(80 ml)に、アルゴン雰囲気下、水素化ホウ素ナトリウム(5.2 eq., 13.2 mmol)を加え、摂氏零度で40分間撹拌した。この反応混合物に希塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、粗5−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ヒドロキシインダン−2,2−ジカルボン酸ジエチルエステル(化合物14)(1.02 g、99%)を薄黄色油状物として得た。
【0043】
(インデンの合成)
上記化合物14(488.4 mg、1.20 mmol)の1,2ジクロエタン溶液(40 ml)に、アルゴン雰囲気下、塩化メタンスルフホニル(3.3 eq., 3.96 mmol)及びジメチルアミノピリジン(5.2 eq., 6.24 mmol)を加え、30分間摂氏60度で加熱撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×6枚 ; ヘキサン−酢酸エチル(4 : 1)}にて精製し、6−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1H−インデン−2−カルボン酸エチルエステル(化合物15)(240.4 mg、63%)を薄黄色油状物として得た。
【0044】
(アルデヒドの合成)
上記化合物15(432.4 mg、1.36 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50 ml)に、アルゴン雰囲気下、1 M水素化ブチルアルミニウム(1.2 eq., 1.63 mmol, 1.63 ml)を加え、摂氏-40度で3時間撹拌した。この反応混合物にロッシェル塩を加え、室温で18時間撹拌し、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル300 g; ヘキサン‐酢酸エチル(10:1)}にて精製し、6−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1H−インデン−2−カルバルデヒド(化合物16)(354.0 mg、95%)を無色油状物として得た。
【0045】
(ジチアンの合成)
上記化合物16(233.1 mg、0.851 mmol)のジクロロメタン溶液(20 ml)に、アルゴン雰囲気下、プロパンジチオール(1.1 eq., 0.936 mmol)及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(1.5 eq., 1.28 mmol)を加え、摂氏零度で1時間撹拌し、続けて室温で3時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g; ヘキサン‐酢酸エチル(10:1)}にて精製し、t−ブチル[2−(1,3−ジチアン−2−イル)−3H−インデン−5−イロキシ]ジメチルシラン(化合物17)(310 mg、100%)を無色油状物として得た。
【0046】
(ホモセリン誘導体の合成)
市販のホモセリン(965 mg, 8.11 mmol)をメタノール(300 ml)に溶解し、4 N塩化水素/1,4−ジオキサン溶液(10 ml, 40 mmol)を加えた。室温で2日間撹拌した後、陰イオン交換樹脂(IRA400 OH AG)を用いて中和した。樹脂を濾別し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をジクロロメタンに溶解し、二炭酸ジt−ブチル(1.5 eq., 12.2 mmol)及びジメチルアミノピリジン(1.5 eq., 12.2 mmol)を加えた。摂氏零度で1時間撹拌し、続けて室温で3時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル85 g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1) → クロロホルム−メタノール (10:1) }にて精製し、精製物を直ちにテトラヒドロフラン(150 ml)に溶解してヨウ化メチルトリフェノキシホスホニウム(1.5 eq., 12.2 mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル300 g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1) → クロロホルム−メタノール (10:1) }にて精製し、ホモセリン誘導体18(2.4 g、87%)を薄黄色油状物として得た。
【0047】
(化合物19の合成)
上記化合物17(154.3 mg、0.424 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20 ml)に、アルゴン雰囲気下、0.98 Mブチルリチウム/ヘキサン溶液(1.5 eq., 0.636 mmol, 0.65ml)及びホモセリン誘導体18(1.5 eq., 0.636 mmol)を加え、摂氏零度で20分間続いて室温で3時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g;ヘキサン‐酢酸エチル(2:1) → クロロホルム−メタノール (10:1)}にて精製し、2−(t−ブトキシカルボニルアミノ)−4−{2−[6−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1H−インデン−2−イル]−1,3−ジチアン−2−イル}ブタン酸メチルエステル(化合物19)(228 mg、93%)を無色油状物として得た。
【0048】
(ケトンの合成)
上記化合物19(126.8 mg、0.219 mmol)の80%含水アセトン溶液(10 ml)にヨウ化メチル(20 eq., 4.38 mmol)を加え、室温で43時間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g;ヘキサン‐酢酸エチル(2:1) → クロロホルム−メタノール (10:1)}にて精製し、2−(t−ブトキシカルボニルアミノ)−5−[6−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1H−インデン−2−イル]−5−オキソペンタン酸メチルエステル(化合物20)(106.0 mg、99%)を無色油状物として得た。
【0049】
(化合物21及びイミンの合成)
上記化合物20(106.0 mg、0.217 mmol)のジクロロメタン溶液(5 ml)にトリフルオロ酢酸(1 ml)を加え、室温で1時間撹拌した。この反応混合物をそのまま減圧濃縮し、2−アミノ−5−(6−ヒドロキシ−1H−インデン−2−イル)−5−オキソペンタン酸メチルエステル(化合物21)を粗収率100%で得た。
【0050】
上記化合物21を含む残渣を直ちにエタノールに溶解し、ジメチルアミノピリジン(3.0 eq., 0.651 mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。この反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル150 g;ヘキサン‐酢酸エチル(2:1) → クロロホルム−メタノール (10:1)}にて精製し、5−(6−ヒドロキシ−1H−インデン−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸メチルエステル(化合物22)(49.1 mg、88%, 2 steps)を無色油状物として得た。
【0051】
(複素環化合物(h)の合成)
上記化合物22(23.5 mg、0.091 mmol)を、エタノール(3 ml)及び10 mM炭酸水素アンモニウム水溶液(12 ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、触媒量のブタ肝臓由来エステル加水分解酵素を加えた。35 ℃で16時間撹拌した後、この反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、5−(6−ヒドロキシ−1H−インデン−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸(複素環化合物(h))(23.2 mg、quant.)を黄色結晶として得た。
【0052】
(複素環化合物(h)の分析値)
MS (FAB): m/z 244 (M+H+, 31), 199 (100)
[複素環化合物(b)]
前記化合物15の代わりに前記化合物1を用いて、前記化合物15から複素環化合物(h)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(b)を合成した。
【0053】
[複素環化合物(d)]
前記化合物1の代わりに前記化合物7を用いて、前記化合物1から複素環化合物(a)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(d)を合成した。
【0054】
[複素環化合物(e)]
前記化合物15の代わりに前記化合物7を用いて、前記化合物15から複素環化合物(h)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(e)を合成した。
【0055】
[複素環化合物(f)]
前記化合物7の代わりに前記化合物15を用いて、前記化合物7から複素環化合物(c)までの合成プロセスに従って反応を進めることによって、複素環化合物(f)を合成した。
【0056】
[複素環化合物(g)]
前記化合物1の代わりに前記化合物15を用いて、前記化合物1から複素環化合物(a)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(g)を合成した。
【0057】
[複素環化合物(i)]
6−ヒドロキシ−ベンゾチアゾール−2−カルボニトリルから前記化合物1を合成したプロセスに従って、6−ヒドロキシ−ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボニトリルから6−ヒドロキシ−ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチルエステルを合成し、さらに前記化合物7から複素環化合物(c)までの合成プロセスに従って反応を進めることによって、複素環化合物(i)を合成した。
【0058】
[複素環化合物(j)]
前記化合物1の代わりに、上記複素環化合物(i)の合成途中において得られた6−ヒドロキシ−ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチルエステルを用いて、前記化合物1から複素環化合物(a)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(j)を合成した。
【0059】
[複素環化合物(k)]
前記化合物15の代わりに、上記複素環化合物(i)の合成途中において得られた6−ヒドロキシ−ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチルエステルを用いて、前記化合物15から複素環化合物(h)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(k)を合成した。
【0060】
[複素環化合物(l)]
前記化合物7の代わりに6−ヒドロキシ−インドール−2−カルボン酸メチルエステルを用いて、前記化合物7から複素環化合物(c)までの合成プロセスに従って反応を進めることによって、複素環化合物(l)を合成した。
【0061】
[複素環化合物(m)]
前記化合物1の代わりに6−ヒドロキシ−インドール−2−カルボン酸メチルエステルを用いて、前記化合物1から複素環化合物(a)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(m)を合成した。
【0062】
[複素環化合物(n)]
前記化合物15の代わりに、6−ヒドロキシ−インドール−2−カルボン酸メチルエステルを用いて、前記化合物15から複素環化合物(h)までの合成プロセスに従って同様に反応を進めることによって、複素環化合物(n)を合成した。
【0063】
[複素環化合物(a)の生物発光]
Photinus pyralisのルシフェラーゼ:10μg/ml、ATP:1mM、硫酸マグネシウム:5mM、塩化カリウム:20mMの濃度に調製されたHEPESバッファー(50mM、pH 7.7)100μlにおける、100μMの濃度に調製された前記複素環化合物(a)及び100nMのD−ホタルルシフェリンによる発光スペクトルを測定したところ、図1に示すような結果を得た。(a)による発光の極大値は、波長582nm付近にあった。
【0064】
更に、上記と同様の発光条件において、波長582nmにおける発光強度の経時変化を調べたところ、図2のグラフに示す結果が得られた。これによれば、D−ホタルルシフェリンと異なり、複素環化合物(a)の発光時間はプラトーになり、各種測定に発光基質として応用した場合に高い定量性が実現可能であり、発光甲虫ルシフェラーゼ酵素活性の経時変化を調べるのに有利な基質であることが判る。
【0065】
[複素環化合物(c)の生物発光]
Photinus pyralisルシフェラーゼ:10μg/ml、ATP:1mM、硫酸マグネシウム:5mM、塩化カリウム:20mMの濃度に調製されたHEPESバッファー(50mM、pH 7.7)100μlにおける、100μMの濃度に調製された前記複素環化合物(c)による発光スペクトルを測定したところ、図3に示すような結果を得た。(c)による発光の極大値は、波長537nm付近にあった。
【0066】
[複素環化合物(a)のメチルエステルの化学発光]
前述の複素環化合物(a)の合成プロセスにおいて得られる化合物4のメタノール溶液をナトリウムメトキシドで処理することにより、複素環化合物(a)のメチルエステルを得た。このエステル化合物を1mMのDMSO溶液に調製し、t−ブトキシカリウムを加えて空気酸化したところ、緑色の発光を示した。D−ホタルルシフェリンのメチルエステルについて同じ条件で参加した場合には黄色の発光を示し、複素環化合物(a)のエステルの方が発光波長が短い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る複素環化合物のPhotinus pyralisルシフェラーゼによる発光波長を示す発光スペクトル(縦軸:規格化強度、横軸:波長(nm))である。
【図2】本発明に係る複素環化合物のPhotinus pyralisルシフェラーゼによる発光挙動を示すグラフ(縦軸:発光強度及び発光量(RLU)、横軸:時間(秒))である。
【図3】本発明に係る複素環化合物のPhotinus pyralisルシフェラーゼによる発光波長を示す発光スペクトル(縦軸:規格化強度、横軸:波長(nm))である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A)又は(B)で示される複素環化合物。
【化1】

(一般式(B)中のXは、硫黄原子、酸素原子、イミノ基及びメチレン基からなる群より選択される一種であり、一般式(A)及び(B)中のYは、硫黄原子、酸素原子又はメチレン基の何れかである。)
【請求項2】
請求項1記載の複素環化合物を含有する、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系用発光基質。
【請求項3】
請求項1記載の複素環化合物のカルボキシル基がメチルエステル化した複素環化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−219381(P2006−219381A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31574(P2005−31574)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】