覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法
【課題】より現実に近い状態で試験を行なうことにより、覆工セグメントの火災に対する信頼性を向上させることが可能で、且つこのような試験で得られた結果に基づき経済的な設計を可能にした覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法を提供する。
【解決手段】覆工セグメントの試験体Aに対し、トンネルの火災時に加熱される内面に相当する試験体Aの一面A1に沿う方向に所定の軸力Nをかけるとともに、一面A1側に圧縮力、一面A1と対向する他面A2側に引張力が生じるように、または一面A1側に引張力、他面A2側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントMをかけて、トンネル火災前の覆工セグメントに相当するように試験体Aを曲げ変形させ、この初期状態を維持しつつ試験体Aを一面A1側から加熱して、試験体Aの曲げモーメントMの変化を計測する。
【解決手段】覆工セグメントの試験体Aに対し、トンネルの火災時に加熱される内面に相当する試験体Aの一面A1に沿う方向に所定の軸力Nをかけるとともに、一面A1側に圧縮力、一面A1と対向する他面A2側に引張力が生じるように、または一面A1側に引張力、他面A2側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントMをかけて、トンネル火災前の覆工セグメントに相当するように試験体Aを曲げ変形させ、この初期状態を維持しつつ試験体Aを一面A1側から加熱して、試験体Aの曲げモーメントMの変化を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの覆工セグメントの耐火性能を評価するために行なう覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシールド工法等により掘削したトンネル掘削面には、この掘削面の曲率半径と略等しい曲率半径を備えた複数の円弧状のセグメント(覆工セグメント)が周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面を被覆して支持する環状のセグメントリング体が形成される。そして、このような周方向の掘削面を支持するセグメントリング体がトンネル軸方向に連続するように接続されて、掘削面を被覆支持するトンネルの覆工が形成される。また、この種のセグメントには、一般に、鋼製セグメントやコンクリート製セグメント、これら鋼とコンクリートを複合した合成セグメントが用いられ、隣接するセグメント同士が一体に接合される。
【0003】
一方、道路トンネルや鉄道トンネルなどでは、トンネル火災が発生した際に、火災による熱でセグメントが損傷されないように、トンネルの内側に耐火層(耐火コンクリートや耐火パネル)を備えた耐火セグメントが用いられている場合がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。そして、このような耐火セグメントの耐火性能を評価する際には、実際のトンネルに設置した状態に極力合わせるように、試験体(耐火セグメント)に火災時に加熱される面に沿う方向の軸力をかけ、この状態で加熱して試験を行なうようにしている。
【特許文献1】特開2004−323330号公報
【特許文献2】特開2005−187275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トンネルに設置した状態の耐火セグメントには、軸力に加えて曲げモーメントが作用している。このため、上記のように耐火セグメントに軸力のみをかけた状態で加熱する試験方法では、より現実に近い状態での耐火性能を評価することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、より現実に近い状態で試験を行なうことにより、覆工セグメントの火災に対する信頼性を向上させることが可能で、且つこのような試験で得られた結果に基づき経済的な設計を可能にした覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0007】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験方法は、トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するための覆工セグメントの耐火性試験方法であって、前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるとともに、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけ、トンネル火災前の前記覆工セグメントに相当するように前記試験体を曲げ変形させて、この初期状態を維持しつつ前記試験体を前記一面側から加熱し、前記試験体の曲げモーメントの変化を計測することを特徴とする。
【0008】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験装置は、トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するために用いる覆工セグメントの耐火性試験装置であって、前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるための軸力導入手段と、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけるための曲げモーメント導入手段とを備えるとともに、前記試験体を前記一面側から加熱するための加熱手段と、該加熱手段で加熱することにより変化する前記試験体の軸力を計測する軸力計測手段と、前記試験体の曲げモーメントを計測する曲げモーメント計測手段及び変位を計測する変位計側手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の覆工セグメントの設計方法は、複数の覆工セグメントで形成されるトンネルの覆工セグメントの設計方法であって、前記覆工セグメントの構造仕様及び荷重条件を設定し、前記構造仕様及び前記荷重条件の設定値に基づき、想定したトンネル火災に相当する加熱により変化する前記トンネルの覆工各部の内部温度を非定常熱伝導解析によって解析し、前記設定値と前記非定常熱伝導解析の解析値に基づき、前記覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析によって解析して、前記覆工各部を構成する前記覆工セグメントのうち少なくとも一つの前記覆工セグメントを抽出するとともに、前記弾塑性熱応力変形解析で求めた前記少なくとも一つの覆工セグメントの加熱前の初期状態における軸力及び曲げモーメントを、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法の前記所定の軸力及び前記所定の曲げモーメントとし、且つ前記非定常熱伝導解析時と同様に前記試験体を加熱して、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法による耐火性試験を行ない、
前記試験体の加熱により変化する曲げモーメントの実測値と前記熱応力変形解析による曲げモーメントの解析値とを比較し、相関があることを確認して、前記覆工セグメントの構造仕様を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置によれば、覆工セグメントの試験体に所定の軸力をかけるとともに所定の曲げモーメントをかけた状態で加熱して、曲げモーメントの変化を計測するため、従来の軸力のみをかけて耐火性試験を行なう場合と比較して、実際のトンネル火災を受けた場合により近い状態で試験を行なうことができる。これにより、覆工セグメントの耐火性能を高精度で確認することができる。
【0011】
また、本発明の覆工セグメントの設計方法においては、上記のように高精度の試験結果を基に、火災時に発生する覆工セグメントの熱応力変形の解析値の妥当性を確認した上で覆工セグメントの構造仕様を決定するため、確実に所望の耐火性を備えた覆工セグメントを設計することができる。そして、このように正確に所望の耐火性を備えた覆工セグメントを設計できることによって、覆工セグメントに、例えば安全性の配慮から本来必要とされる耐火性よりも過剰に高い耐火性を付与するようなことがなく、覆工セグメントを経済的に設計することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置について説明する。本実施形態は、例えばシールド工法などによって構築される道路トンネルの覆工セグメントの耐火性を評価するために行う耐火性試験方法及び耐火性試験装置に関する。
【0013】
はじめに、本実施形態の覆工セグメントAは、図1に示すように、シールドマシンによって掘削したトンネルTの掘削面の曲率半径と略等しい曲率半径を備える円弧盤状に形成され、周方向の周長が、設置した状態でトンネルTの軸O1と平行する覆工セグメントAの軸O2方向の幅よりも大きく形成されるとともに、径方向の厚さが周方向に沿って一定に形成されている。そして、このように形成された複数の覆工セグメントAは、トンネルTの掘削面に沿ってトンネルTの周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面を被覆しつつ支持する環状のセグメントリング体1を形成している。また、トンネルTの軸O1方向に、セグメントリング体1が連続するように隣接されて、シールドマシンで掘削した掘削面が複数の覆工セグメントAで被覆されつつ支持されトンネルTの覆工が形成される。なお、各覆工セグメントAは、図示せぬリング間継手とセグメント間継手によって相互に接合される。
【0014】
そして、本実施形態では、このような覆工セグメントAが、図2に示すように、トンネルに設置した状態でトンネル内側に開口する略箱状の鋼材部2と、鋼材部2の内部に充填して設けられたコンクリート部3とを備えて構成されている。鋼材部2は、トンネル周方向に延び、トンネル曲率に合わせた曲率を有して平行に配置された断面H形状の2つの鋼材2aと、2つの鋼材2aに連架して地山G側及び周方向の両端側を閉塞するように設置された複数の鋼板2bとで構成されている。また、2つの鋼材2aのトンネル内側を向くフランジ面には、鋼材2aが加熱されることを防止するための耐火被覆4が被覆して設けられている。一方、コンクリート部3には、その内部に、2つの鋼材2aのトンネル内側のそれぞれのフランジに両端のそれぞれを接続して2つの鋼材2aの間隔(幅)を保持する複数の幅止筋5と、周方向に所定の間隔をあけて複数並設した幅止筋5のそれぞれに接続しつつ支持されたメッシュ状の金網6とが埋設状態で設置されている。そして、本実施形態の覆工セグメントAにおいては、例えば、2つの鋼材2aの端部を結ぶ幅Lが1500mm、幅L方向に直交する方向の厚さBが270mmで形成されている。また、鋼材2aの幅b1が250mmであり、コンクリート部3がトンネル内側に20mm(b2)増打ちして形成されて、覆工セグメントAの厚さBが270mmとされている。
【0015】
また、覆工セグメントAのコンクリート部3は、例えば、水セメント比40%以下で、且つ直径10〜200μm、長さ1〜20mmのポリアセタールやポリプロピレンなどの有機繊維を0.05容積%〜0.3容積%混入して形成されている。このようなコンクリート部3を備えた覆工セグメントAは、トンネル火災で加熱された際に、有機繊維が分解してコンクリート内に微細な空隙をつくり、この空隙がコンクリート表層の熱膨張力や内部で膨張した気体の圧力を緩和して、コンクリート表層の剥離・飛散を防止する。これにより、本実施形態の覆工セグメントAは、鋼材部2が耐火被覆4によって、コンクリート部3が有機繊維の混入などによって優れた耐火性を備えるように形成されている。
【0016】
そして、上記のような覆工セグメントAの耐火性能を評価するために用いる本実施形態の覆工セグメントAの耐火性試験装置(以下、耐火性試験装置Cという)は、図3及び図4に示すように、応力導入部10と加熱炉部(加熱手段)20とから構成されている。
【0017】
応力導入部10は、略矩形枠状の軸力導入フレーム11と、軸力導入ジャッキ(軸力導入手段)12と、曲げモーメント導入ジャッキ(曲げモーメント導入手段)13とを備えて構成されている。軸力導入ジャッキ12は、水平方向に複数並設され、軸力導入フレーム11の内側に挿入設置した覆工セグメントの試験体Aに対し、一端が軸力導入フレーム11の内側を向く内面(一面)に接続されて支持され、他端が荷重受け梁14及び複数のピンジョイント15を介して試験体Aの一側面を押圧可能に設けられている。また、軸力導入ジャッキ12には、例えばロードセルなどの軸力計測手段16aやジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)16bが具備されている。ここで、軸力導入フレーム11の内側に挿入した試験体Aは、一側面側の一端が軸力導入ジャッキ12、荷重受け梁14、複数のピンジョイント15によって支持され、この一側面側の一端と反対に位置する他端が、側近に位置する軸力導入フレーム11の側面(他面)に複数のピンジョイント17を介して接続して支持されている。そして、このような軸力導入ジャッキ12を駆動することにより、試験体Aに、トンネルの火災時に加熱される内面に相当する試験体の下面(一面、加熱面)A1に沿う方向の軸力Nをかけることができ、このとき、試験体Aの軸力Nの大きさが軸力計測手段16aによって検知され、この軸力計測手段16aを備えることで軸力Nの大きさを調整することができる。
【0018】
曲げモーメント導入ジャッキ13は、試験体Aの上面(他面、非加熱面、トンネルに設置した状態で地山側を向く外面)A2の一端と他端の両端側(軸力N方向両端側)にそれぞれ下端を接続しつつ上方に突設した一対のモーメントブロック18に支持されて設けられている。このとき、曲げモーメント導入ジャッキ13は、水平方向に配され、両端がそれぞれ一対のモーメントブロック18のそれぞれに接続して設けられている。また、曲げモーメント導入ジャッキ13には、例えばロードセルなどの曲げモーメント計測手段19aやジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)19bが具備されている。そして、このような曲げモーメント導入ジャッキ13を駆動することにより、一対のモーメントブロック18がそれぞれ外側に押圧され、試験体Aには、これら一対のモーメントブロック18を通じ、下面A1側に圧縮力が、上面A2側に引張力が生じるように曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけることができる。また、このとき、試験体Aの曲げモーメントMの大きさが曲げモーメント計測手段19aによって検知され、この曲げモーメント計測手段19aを具備することで曲げモーメントMの大きさを調整することができる。
【0019】
この他に、試験体Aの曲げモーメント付加による曲げ変形を計測する変位計測手段(変位計)23や、さらに変位計23や各ロードセル16a、19aの計測信号を基に、軸力導入ジャッキ12や曲げモーメント導入ジャッキ13のシリンダを伸縮させる各ジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)16b、19bを制御する制御装置24が備えられている。なお、この制御装置24に、軸力計測手段16a及び曲げモーメント計測手段19aの計測値が表示されるが、別途に計測値表示装置があってもよい。また、変位計23は、試験体Aのほぼ中央部付近を計測できるように固定して設けられている。
【0020】
一方、加熱炉部20は、上面が開口する略矩形箱状の炉21と、炉21の内側面から内部に向けて火炎Sを噴出するように設けられた複数のバーナー22とを備えて構成されている。そして、この加熱炉部20は、試験体Aの下面(加熱面、一面)A1で加熱炉部20の開口する上面が閉塞されるように、試験体Aひいては応力導入部10の下方に配置されている。このように構成した加熱炉部20は、バーナー22によってその内空温度を1200℃以上にすることができ、且つこの内空温度を自在に変化させることができ、任意の温度で試験体Aを下面A1側(一面側)から加熱することができる。
【0021】
そして、上記のように構成した耐火性試験装置Cを用いて試験体(覆工セグメント)Aの耐火性の試験を行う際には、試験体Aに、軸力導入ジャッキ12を駆動することによりトンネル火災前に覆工セグメントAに作用している所定の軸力Nをかけるとともに、曲げモーメント導入ジャッキ13を駆動することにより、同じくトンネル火災前に覆工セグメントAに作用している所定の曲げモーメントMをかける。これにより、試験体Aに、トンネル火災前の覆工セグメントAに相当する初期状態の応力が発生し、この応力に応じて試験体Aがトンネル火災前の覆工セグメントAに相当するように曲げ変形する。そして、この曲げ変形が一定に維持されるようにしておく。
【0022】
ついで、加熱炉部20のバーナー22から火炎Sを噴出させて炉21の内空温度を上昇させるとともに試験体Aを下面A1側から加熱する。このとき、本実施形態においては、道路トンネルの耐火性能試験で多用されるRABT(ドイツ交通省、道路トンネルの設備と運用に関する指針)に基づくRABT加熱(RABT曲線Z)で試験体Aを加熱する。すなわち、本実施形態では、図5(a)に示すように、加熱開始から5分で1200℃に至らしめ、55分間1200℃を維持し、除冷開始から110分間で常温に戻すように試験体Aを加熱する。ここで、トンネル火災が発生した際に、トンネルの覆工の軸力Nは加熱によってほぼ変化することがない(詳細は第2実施形態で示す)。このため、図5(b)に示すように、軸力計測手段16aの検知結果を基に軸力導入ジャッキ12の駆動を制御して、試験を行なっている間、試験体Aの軸力Nを常時初期状態の軸力Nで維持する。
【0023】
ここで、具体的に曲げ変形を一定にする制御と軸力Nを一定にする制御について説明する。曲げ変形については、変位計23の計測信号が制御装置24に伝達されると、制御装置24では、最初の設定変形(変位)が記憶されていて、その値よりも変形が小さく(試験体Aが真っ直ぐになる方向)なれば、変位を大きくするべく曲げモーメント導入ジャッキ13を伸長させる信号をジャッキ駆動装置19bに送り、逆に変位が大きくなれば、変位を小さくするべく曲げモーメント導入ジャッキ13を縮退させる信号をジャッキ駆動装置19bに送るような制御が逐次行なわれて、変形が一定に維持される。軸力Nについては、曲げ変形を一定にする制御に伴って、曲げモーメント導入ジャッキ13の加力状態が変化するが、この加力状態は、曲げモーメント計測手段19a(この計測手段19aは、軸力計測手段16aと同様に荷重計である。曲げモーメントMの計測値は、この曲げモーメント導入ジャッキ13と試験体Aとの偏芯距離から換算されるものである。)によって計測されている。例えば、曲げモーメント計測手段19aの導入力値が10Nだった場合には、試験体Aへの導入軸力Nは、当初導入軸力Nに比べ、ほぼその値だけ減じられることになるので、減じられないように(軸力Nが変化しないように)その分だけ加力する、つまり、制御装置24は、曲げモーメント計測手段19aの計測値信号を受けて、その計測値分だけ軸力導入ジャッキ12のジャッキ駆動装置16bに伸長信号を送り、ジャッキ駆動装置16bを駆動させる。この際、軸力計測手段16aの計測値も制御装置24に送られているので、この数値が、当初導入軸力Nに曲げモーメントMを導入するための力を加算した数値になるまでジャッキ駆動装置16bを駆動させる制御を制御装置24が行なう。
【0024】
そして、上記のように軸力Nを一定に維持した状態でRABT加熱された試験体Aは、例えば図5(c)に示すように曲げモーメントMが経時的に変化し、この加熱により変化する曲げモーメントMが曲げモーメント計測手段19aによって計測される。本実施形態では、図5(c)に示すように、初期状態の曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけた状態で加熱を開始すると、徐々に負の曲げモーメントMが増大してゆき、1200℃の加熱温度を維持している間に、そのピークを迎えるとともに徐々に負の曲げモーメントMが減少してゆく。そして、除冷を開始してから常温に戻る間に急激に負の曲げモーメントMが減少し始め、ほぼ常温に戻った段階から今度は正の曲げモーメントMが試験体Aに発生する。
【0025】
このように、本実施形態では、試験体Aの曲げモーメントMの経時的変化が試験データとして得られ、このとき、トンネル火災前の覆工セグメントAに相当するように、試験体Aに所定の軸力Nをかけるとともに所定の曲げモーメントMをかけて試験を行なっているため、従来の軸力のみをかけて耐火性試験を行なう場合と比較して、実際のトンネル火災を受けた場合により近い状態での試験データを得ることができる。
【0026】
したがって、本実施形態の耐火性試験装置C及び耐火性試験方法によれば、より実際に近い状態でのトンネル火災に対する覆工セグメントAの影響を試験データとして取得することができ、覆工セグメントAの耐火性能を正確に且つ高精度で確認することが可能になる。
【0027】
以上、本発明に係る覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、試験体Aの加熱にRABT加熱を用いるものとしたが、例えば実際に火災を受けた特定のトンネルの受熱履歴などに基づいて加熱条件を設定してもよく、特に加熱条件を限定する必要はない。
【0028】
また、本実施形態では、鋼材部2とコンクリート部3を備えるとともに、コンクリート部3に有機繊維を混入した覆工セグメント(耐火セグメント)Aの耐火性を試験するものとして説明を行なったが、本発明は、本実施形態の覆工セグメントAと異なる構成を備えた覆工セグメントAの耐火性を試験するために用いられてもよい。
【0029】
ついで、以下に、図6から図12を参照し、本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法について説明する。本実施形態は、例えばシールド工法などによって構築される道路トンネルの覆工セグメントを設計する方法に関するものである。なお、第1実施形態と共通する構成に対しては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0030】
本実施形態の覆工セグメントAの設計方法では、はじめに、覆工セグメントAの構造仕様及び荷重条件を設定する。この構造仕様及び荷重条件の設定では、例えばトンネル外径や内径、覆工セグメントAの幅Lや厚さB、覆工セグメントAの鋼材部2やコンクリート部3の使用材料の力学特性などの構造仕様を設定するとともに、トンネル構築に伴い事前に行なわれる地山調査結果に基づいて荷重条件を設定する。荷重条件としては、例えば、図6(a)、図6(b)及び表1に示すように、トンネルの覆工に作用する荷重に係る、土被りH、地下水位Hw、鉛直土圧Pvc、頂部側方土圧qe1、底部側方土圧qe2、頂部水圧Pw1、底部水圧Pw2、自重g、地盤反力係数k、側方土圧係数λを設定する。
【0031】
【表1】
【0032】
ついで、このように設定した構造仕様及び荷重条件の設定値に基づき、トンネルT内で火災が発生した際の加熱条件(想定したトンネル火災に相当する加熱条件)としてRABT加熱を用い、加熱によって変化する覆工各部の内部温度(覆工の内部温度の分布)を周知の非定常熱伝導解析によって解析する。なお、本実施形態では、図7に示すように、トンネルTの対象性を考慮して右半分の覆工各部に対してのみ解析を行い、また、このとき、クラウン部CLを基点として135°〜180°に位置する部分は、道路面Rよりも下方に位置して火災時に直接加熱されることがないものとして扱っている。
【0033】
そして、構造仕様及び荷重条件の設定値と非定常熱伝導解析の解析値に基づいて、トンネルTの覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析により解析する。すなわち、図8に示すような、はり−ばねモデルを用い、荷重条件値(外部荷重や自重、地山拘束力)をばねの各節点に与えて覆工の応力、ひずみを解析する。このとき、非定常熱伝導解析の結果を反映させるとともに覆工セグメントAの力学特性の温度依存性を考慮して解析を行なう。そして、この弾塑性熱応力変形解析によって、RABT加熱に基づく経過時間毎(0分から180分)の覆工の変形、覆工の曲げモーメントM、覆工の軸力Nが、図9から図11に示すように得られる。ここで、図9が覆工の変形、図10が覆工の曲げモーメントM、図11が覆工の軸力Nを示しており、加熱によって覆工に作用する曲げモーメントMが経時的に変化するのに対し、覆工に作用する軸力Nは、加熱による変化がほぼ生じないことが分かる。
【0034】
ついで、トンネルTの覆工各部を構成する複数の覆工セグメントAのうち、少なくとも一つの覆工セグメントAを抽出する。そして、弾塑性熱応力変形解析で求めたこの抽出した覆工セグメントAの加熱前の初期状態、すなわち加熱時間0分における軸力N及び曲げモーメントMを、第1実施形態で示した覆工セグメントAの耐火性試験方法における所定の軸力N及び所定の曲げモーメントMとして、第1実施形態に示した耐火性試験を行なう。また、この耐火性試験において、試験体Aは、本実施形態の構造仕様を備えるように形成し、試験体Aの加熱条件を、本実施形態の非定常熱伝導解析に用いた加熱条件と同様にすなわちRABT加熱として耐火性試験を行なう。これにより、第1実施形態の図5(c)に示したような、試験体(抽出した覆工セグメント)Aの加熱に伴い変化する曲げモーメントMの実測値が得られる。
【0035】
そして、試験体Aの実測値と熱応力変形解析値とを比較する。図12に示すように、このように比較した結果、実測値と熱応力変形解析値、すなわち試験結果と解析結果とが相関係数0.5(好ましくは0.8)以上、及び/又は試験結果と解析結果の差異が±10%(好ましくは±5%)以下を示してほぼ一致する場合には、熱応力変形解析の妥当性が高いものと判断される。なお、この相関があることについては数値計算による他、相関係数の基準が低い場合は目視によって判断することも可能である。これにより、他の部分の覆工ひいてはトンネルT全体の覆工に対する熱応力変形解析の信憑性が得られ、この熱応力変形解析から、覆工(覆工セグメントA)が所望の耐火性を具備していると判断できる場合には、初期に設定した覆工セグメントAの構造仕様が好適であると判断される。そして、第1実施形態に示したように、覆工セグメントAの耐火性能を正確に且つ高精度で確認できる耐火性試験の実測値を基に、熱応力変形解析の妥当性が確認されるため、本実施形態の設計方法を基に構造仕様を定めて製作した覆工セグメントAは、確実に所望の耐火性を備えることになる。
【0036】
したがって、本実施形態の覆工セグメントAの設計方法においては、上記のように高精度の試験結果を基に、火災時に発生する覆工セグメントAの熱応力変形の解析値の妥当性を確認して覆工セグメントAの構造仕様を定めるため、確実に所望の耐火性を備えた覆工セグメントAを設計・製作することができ、覆工セグメントAの火災に対する信頼性を向上させることができる。また、このように高精度で所望の耐火性を備えた覆工セグメントAを設計できることによって、覆工セグメントAに、例えば安全性の配慮から本来必要とされる耐火性よりも過剰に高い耐火性を付与するようなことがなくなり、覆工セグメントAの経済的な設計を可能にする。
【0037】
以上、本発明に係る覆工セグメントの設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、非定常熱伝導解析を行う際にRABT加熱を用いるものとしたが、第1実施形態と同様に、例えば実際に火災を受けた特定のトンネルの受熱履歴などに基づいて加熱条件を設定してもよく、特に加熱条件を限定する必要はない。
【0038】
また、本実施形態では、試験体Aの上面(他面)A2に設けた曲げモーメント導入ジャッキ13を伸ばし、一対のモーメントブロック18をそれぞれ外側に押圧するようにして(一対のモーメントブロック18が離れるように押圧して)、上面A2側に引張力、下面(一面)A1側に圧縮力が生じるように曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけたが、トンネルの断面形状や断面位置によっては、覆工セグメントに生じる曲げモーメントは必ずしも負の曲げモーメントばかりではない。覆工セグメントの初期応力状態が正の曲げモーメントになっている場合には、本実施形態とは逆に、曲げモーメント導入ジャッキ13を縮め、一対のモーメントブロック18をそれぞれ内側に引っ張って近づけるようにして、試験体Aの上面A2側に圧縮力、下面A1側に引張力が生じるように曲げモーメント(正の曲げモーメント)Mをかけることになる。このようにした場合でも、覆工セグメントの設計方法は前述の通りで変わることがなく、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントが設置されるトンネルを示す斜視図である。
【図2】図1のY−Y線矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験装置を示す断面図である。
【図4】図3のX−X線矢視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法における加熱条件と、覆工セグメント(試験体)の軸力及び曲げモーメントの経時変化を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法における荷重条件の設定例を説明するために用いた図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において非定常熱伝導解析及び弾塑性熱応力変形解析により解析する範囲を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析時に用いたはり−ばねモデルを示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の変形を経時的に示した図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の曲げモーメントの変化を経時的に示した図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の軸力の変化を経時的に示した図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において、本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法による実測値と、弾塑性熱応力変形解析の解析値を比較した図である。
【符号の説明】
【0040】
10 応力導入部
11 軸力導入フレーム
12 軸力導入ジャッキ(軸力導入手段)
13 曲げモーメント導入ジャッキ(曲げモーメント導入手段)
16a 軸力計測手段
16b ジャッキ駆動装置
18 モーメントブロック
19a 曲げモーメント計測手段
19b ジャッキ駆動装置
20 加熱炉部(加熱手段)
21 炉
22 バーナー
23 変位計(変位計測手段)
24 制御装置
A 覆工セグメント(試験体)
A1 下面(加熱面、一面)
A2 上面(非加熱面、他面)
C 覆工セグメントの耐火性試験装置
M 曲げモーメント
N 軸力
T トンネル
Z RABT曲線
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの覆工セグメントの耐火性能を評価するために行なう覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシールド工法等により掘削したトンネル掘削面には、この掘削面の曲率半径と略等しい曲率半径を備えた複数の円弧状のセグメント(覆工セグメント)が周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面を被覆して支持する環状のセグメントリング体が形成される。そして、このような周方向の掘削面を支持するセグメントリング体がトンネル軸方向に連続するように接続されて、掘削面を被覆支持するトンネルの覆工が形成される。また、この種のセグメントには、一般に、鋼製セグメントやコンクリート製セグメント、これら鋼とコンクリートを複合した合成セグメントが用いられ、隣接するセグメント同士が一体に接合される。
【0003】
一方、道路トンネルや鉄道トンネルなどでは、トンネル火災が発生した際に、火災による熱でセグメントが損傷されないように、トンネルの内側に耐火層(耐火コンクリートや耐火パネル)を備えた耐火セグメントが用いられている場合がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。そして、このような耐火セグメントの耐火性能を評価する際には、実際のトンネルに設置した状態に極力合わせるように、試験体(耐火セグメント)に火災時に加熱される面に沿う方向の軸力をかけ、この状態で加熱して試験を行なうようにしている。
【特許文献1】特開2004−323330号公報
【特許文献2】特開2005−187275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トンネルに設置した状態の耐火セグメントには、軸力に加えて曲げモーメントが作用している。このため、上記のように耐火セグメントに軸力のみをかけた状態で加熱する試験方法では、より現実に近い状態での耐火性能を評価することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、より現実に近い状態で試験を行なうことにより、覆工セグメントの火災に対する信頼性を向上させることが可能で、且つこのような試験で得られた結果に基づき経済的な設計を可能にした覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置並びに覆工セグメントの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0007】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験方法は、トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するための覆工セグメントの耐火性試験方法であって、前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるとともに、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけ、トンネル火災前の前記覆工セグメントに相当するように前記試験体を曲げ変形させて、この初期状態を維持しつつ前記試験体を前記一面側から加熱し、前記試験体の曲げモーメントの変化を計測することを特徴とする。
【0008】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験装置は、トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するために用いる覆工セグメントの耐火性試験装置であって、前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるための軸力導入手段と、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけるための曲げモーメント導入手段とを備えるとともに、前記試験体を前記一面側から加熱するための加熱手段と、該加熱手段で加熱することにより変化する前記試験体の軸力を計測する軸力計測手段と、前記試験体の曲げモーメントを計測する曲げモーメント計測手段及び変位を計測する変位計側手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の覆工セグメントの設計方法は、複数の覆工セグメントで形成されるトンネルの覆工セグメントの設計方法であって、前記覆工セグメントの構造仕様及び荷重条件を設定し、前記構造仕様及び前記荷重条件の設定値に基づき、想定したトンネル火災に相当する加熱により変化する前記トンネルの覆工各部の内部温度を非定常熱伝導解析によって解析し、前記設定値と前記非定常熱伝導解析の解析値に基づき、前記覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析によって解析して、前記覆工各部を構成する前記覆工セグメントのうち少なくとも一つの前記覆工セグメントを抽出するとともに、前記弾塑性熱応力変形解析で求めた前記少なくとも一つの覆工セグメントの加熱前の初期状態における軸力及び曲げモーメントを、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法の前記所定の軸力及び前記所定の曲げモーメントとし、且つ前記非定常熱伝導解析時と同様に前記試験体を加熱して、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法による耐火性試験を行ない、
前記試験体の加熱により変化する曲げモーメントの実測値と前記熱応力変形解析による曲げモーメントの解析値とを比較し、相関があることを確認して、前記覆工セグメントの構造仕様を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置によれば、覆工セグメントの試験体に所定の軸力をかけるとともに所定の曲げモーメントをかけた状態で加熱して、曲げモーメントの変化を計測するため、従来の軸力のみをかけて耐火性試験を行なう場合と比較して、実際のトンネル火災を受けた場合により近い状態で試験を行なうことができる。これにより、覆工セグメントの耐火性能を高精度で確認することができる。
【0011】
また、本発明の覆工セグメントの設計方法においては、上記のように高精度の試験結果を基に、火災時に発生する覆工セグメントの熱応力変形の解析値の妥当性を確認した上で覆工セグメントの構造仕様を決定するため、確実に所望の耐火性を備えた覆工セグメントを設計することができる。そして、このように正確に所望の耐火性を備えた覆工セグメントを設計できることによって、覆工セグメントに、例えば安全性の配慮から本来必要とされる耐火性よりも過剰に高い耐火性を付与するようなことがなく、覆工セグメントを経済的に設計することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置について説明する。本実施形態は、例えばシールド工法などによって構築される道路トンネルの覆工セグメントの耐火性を評価するために行う耐火性試験方法及び耐火性試験装置に関する。
【0013】
はじめに、本実施形態の覆工セグメントAは、図1に示すように、シールドマシンによって掘削したトンネルTの掘削面の曲率半径と略等しい曲率半径を備える円弧盤状に形成され、周方向の周長が、設置した状態でトンネルTの軸O1と平行する覆工セグメントAの軸O2方向の幅よりも大きく形成されるとともに、径方向の厚さが周方向に沿って一定に形成されている。そして、このように形成された複数の覆工セグメントAは、トンネルTの掘削面に沿ってトンネルTの周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面を被覆しつつ支持する環状のセグメントリング体1を形成している。また、トンネルTの軸O1方向に、セグメントリング体1が連続するように隣接されて、シールドマシンで掘削した掘削面が複数の覆工セグメントAで被覆されつつ支持されトンネルTの覆工が形成される。なお、各覆工セグメントAは、図示せぬリング間継手とセグメント間継手によって相互に接合される。
【0014】
そして、本実施形態では、このような覆工セグメントAが、図2に示すように、トンネルに設置した状態でトンネル内側に開口する略箱状の鋼材部2と、鋼材部2の内部に充填して設けられたコンクリート部3とを備えて構成されている。鋼材部2は、トンネル周方向に延び、トンネル曲率に合わせた曲率を有して平行に配置された断面H形状の2つの鋼材2aと、2つの鋼材2aに連架して地山G側及び周方向の両端側を閉塞するように設置された複数の鋼板2bとで構成されている。また、2つの鋼材2aのトンネル内側を向くフランジ面には、鋼材2aが加熱されることを防止するための耐火被覆4が被覆して設けられている。一方、コンクリート部3には、その内部に、2つの鋼材2aのトンネル内側のそれぞれのフランジに両端のそれぞれを接続して2つの鋼材2aの間隔(幅)を保持する複数の幅止筋5と、周方向に所定の間隔をあけて複数並設した幅止筋5のそれぞれに接続しつつ支持されたメッシュ状の金網6とが埋設状態で設置されている。そして、本実施形態の覆工セグメントAにおいては、例えば、2つの鋼材2aの端部を結ぶ幅Lが1500mm、幅L方向に直交する方向の厚さBが270mmで形成されている。また、鋼材2aの幅b1が250mmであり、コンクリート部3がトンネル内側に20mm(b2)増打ちして形成されて、覆工セグメントAの厚さBが270mmとされている。
【0015】
また、覆工セグメントAのコンクリート部3は、例えば、水セメント比40%以下で、且つ直径10〜200μm、長さ1〜20mmのポリアセタールやポリプロピレンなどの有機繊維を0.05容積%〜0.3容積%混入して形成されている。このようなコンクリート部3を備えた覆工セグメントAは、トンネル火災で加熱された際に、有機繊維が分解してコンクリート内に微細な空隙をつくり、この空隙がコンクリート表層の熱膨張力や内部で膨張した気体の圧力を緩和して、コンクリート表層の剥離・飛散を防止する。これにより、本実施形態の覆工セグメントAは、鋼材部2が耐火被覆4によって、コンクリート部3が有機繊維の混入などによって優れた耐火性を備えるように形成されている。
【0016】
そして、上記のような覆工セグメントAの耐火性能を評価するために用いる本実施形態の覆工セグメントAの耐火性試験装置(以下、耐火性試験装置Cという)は、図3及び図4に示すように、応力導入部10と加熱炉部(加熱手段)20とから構成されている。
【0017】
応力導入部10は、略矩形枠状の軸力導入フレーム11と、軸力導入ジャッキ(軸力導入手段)12と、曲げモーメント導入ジャッキ(曲げモーメント導入手段)13とを備えて構成されている。軸力導入ジャッキ12は、水平方向に複数並設され、軸力導入フレーム11の内側に挿入設置した覆工セグメントの試験体Aに対し、一端が軸力導入フレーム11の内側を向く内面(一面)に接続されて支持され、他端が荷重受け梁14及び複数のピンジョイント15を介して試験体Aの一側面を押圧可能に設けられている。また、軸力導入ジャッキ12には、例えばロードセルなどの軸力計測手段16aやジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)16bが具備されている。ここで、軸力導入フレーム11の内側に挿入した試験体Aは、一側面側の一端が軸力導入ジャッキ12、荷重受け梁14、複数のピンジョイント15によって支持され、この一側面側の一端と反対に位置する他端が、側近に位置する軸力導入フレーム11の側面(他面)に複数のピンジョイント17を介して接続して支持されている。そして、このような軸力導入ジャッキ12を駆動することにより、試験体Aに、トンネルの火災時に加熱される内面に相当する試験体の下面(一面、加熱面)A1に沿う方向の軸力Nをかけることができ、このとき、試験体Aの軸力Nの大きさが軸力計測手段16aによって検知され、この軸力計測手段16aを備えることで軸力Nの大きさを調整することができる。
【0018】
曲げモーメント導入ジャッキ13は、試験体Aの上面(他面、非加熱面、トンネルに設置した状態で地山側を向く外面)A2の一端と他端の両端側(軸力N方向両端側)にそれぞれ下端を接続しつつ上方に突設した一対のモーメントブロック18に支持されて設けられている。このとき、曲げモーメント導入ジャッキ13は、水平方向に配され、両端がそれぞれ一対のモーメントブロック18のそれぞれに接続して設けられている。また、曲げモーメント導入ジャッキ13には、例えばロードセルなどの曲げモーメント計測手段19aやジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)19bが具備されている。そして、このような曲げモーメント導入ジャッキ13を駆動することにより、一対のモーメントブロック18がそれぞれ外側に押圧され、試験体Aには、これら一対のモーメントブロック18を通じ、下面A1側に圧縮力が、上面A2側に引張力が生じるように曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけることができる。また、このとき、試験体Aの曲げモーメントMの大きさが曲げモーメント計測手段19aによって検知され、この曲げモーメント計測手段19aを具備することで曲げモーメントMの大きさを調整することができる。
【0019】
この他に、試験体Aの曲げモーメント付加による曲げ変形を計測する変位計測手段(変位計)23や、さらに変位計23や各ロードセル16a、19aの計測信号を基に、軸力導入ジャッキ12や曲げモーメント導入ジャッキ13のシリンダを伸縮させる各ジャッキ駆動装置(油圧ポンプ)16b、19bを制御する制御装置24が備えられている。なお、この制御装置24に、軸力計測手段16a及び曲げモーメント計測手段19aの計測値が表示されるが、別途に計測値表示装置があってもよい。また、変位計23は、試験体Aのほぼ中央部付近を計測できるように固定して設けられている。
【0020】
一方、加熱炉部20は、上面が開口する略矩形箱状の炉21と、炉21の内側面から内部に向けて火炎Sを噴出するように設けられた複数のバーナー22とを備えて構成されている。そして、この加熱炉部20は、試験体Aの下面(加熱面、一面)A1で加熱炉部20の開口する上面が閉塞されるように、試験体Aひいては応力導入部10の下方に配置されている。このように構成した加熱炉部20は、バーナー22によってその内空温度を1200℃以上にすることができ、且つこの内空温度を自在に変化させることができ、任意の温度で試験体Aを下面A1側(一面側)から加熱することができる。
【0021】
そして、上記のように構成した耐火性試験装置Cを用いて試験体(覆工セグメント)Aの耐火性の試験を行う際には、試験体Aに、軸力導入ジャッキ12を駆動することによりトンネル火災前に覆工セグメントAに作用している所定の軸力Nをかけるとともに、曲げモーメント導入ジャッキ13を駆動することにより、同じくトンネル火災前に覆工セグメントAに作用している所定の曲げモーメントMをかける。これにより、試験体Aに、トンネル火災前の覆工セグメントAに相当する初期状態の応力が発生し、この応力に応じて試験体Aがトンネル火災前の覆工セグメントAに相当するように曲げ変形する。そして、この曲げ変形が一定に維持されるようにしておく。
【0022】
ついで、加熱炉部20のバーナー22から火炎Sを噴出させて炉21の内空温度を上昇させるとともに試験体Aを下面A1側から加熱する。このとき、本実施形態においては、道路トンネルの耐火性能試験で多用されるRABT(ドイツ交通省、道路トンネルの設備と運用に関する指針)に基づくRABT加熱(RABT曲線Z)で試験体Aを加熱する。すなわち、本実施形態では、図5(a)に示すように、加熱開始から5分で1200℃に至らしめ、55分間1200℃を維持し、除冷開始から110分間で常温に戻すように試験体Aを加熱する。ここで、トンネル火災が発生した際に、トンネルの覆工の軸力Nは加熱によってほぼ変化することがない(詳細は第2実施形態で示す)。このため、図5(b)に示すように、軸力計測手段16aの検知結果を基に軸力導入ジャッキ12の駆動を制御して、試験を行なっている間、試験体Aの軸力Nを常時初期状態の軸力Nで維持する。
【0023】
ここで、具体的に曲げ変形を一定にする制御と軸力Nを一定にする制御について説明する。曲げ変形については、変位計23の計測信号が制御装置24に伝達されると、制御装置24では、最初の設定変形(変位)が記憶されていて、その値よりも変形が小さく(試験体Aが真っ直ぐになる方向)なれば、変位を大きくするべく曲げモーメント導入ジャッキ13を伸長させる信号をジャッキ駆動装置19bに送り、逆に変位が大きくなれば、変位を小さくするべく曲げモーメント導入ジャッキ13を縮退させる信号をジャッキ駆動装置19bに送るような制御が逐次行なわれて、変形が一定に維持される。軸力Nについては、曲げ変形を一定にする制御に伴って、曲げモーメント導入ジャッキ13の加力状態が変化するが、この加力状態は、曲げモーメント計測手段19a(この計測手段19aは、軸力計測手段16aと同様に荷重計である。曲げモーメントMの計測値は、この曲げモーメント導入ジャッキ13と試験体Aとの偏芯距離から換算されるものである。)によって計測されている。例えば、曲げモーメント計測手段19aの導入力値が10Nだった場合には、試験体Aへの導入軸力Nは、当初導入軸力Nに比べ、ほぼその値だけ減じられることになるので、減じられないように(軸力Nが変化しないように)その分だけ加力する、つまり、制御装置24は、曲げモーメント計測手段19aの計測値信号を受けて、その計測値分だけ軸力導入ジャッキ12のジャッキ駆動装置16bに伸長信号を送り、ジャッキ駆動装置16bを駆動させる。この際、軸力計測手段16aの計測値も制御装置24に送られているので、この数値が、当初導入軸力Nに曲げモーメントMを導入するための力を加算した数値になるまでジャッキ駆動装置16bを駆動させる制御を制御装置24が行なう。
【0024】
そして、上記のように軸力Nを一定に維持した状態でRABT加熱された試験体Aは、例えば図5(c)に示すように曲げモーメントMが経時的に変化し、この加熱により変化する曲げモーメントMが曲げモーメント計測手段19aによって計測される。本実施形態では、図5(c)に示すように、初期状態の曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけた状態で加熱を開始すると、徐々に負の曲げモーメントMが増大してゆき、1200℃の加熱温度を維持している間に、そのピークを迎えるとともに徐々に負の曲げモーメントMが減少してゆく。そして、除冷を開始してから常温に戻る間に急激に負の曲げモーメントMが減少し始め、ほぼ常温に戻った段階から今度は正の曲げモーメントMが試験体Aに発生する。
【0025】
このように、本実施形態では、試験体Aの曲げモーメントMの経時的変化が試験データとして得られ、このとき、トンネル火災前の覆工セグメントAに相当するように、試験体Aに所定の軸力Nをかけるとともに所定の曲げモーメントMをかけて試験を行なっているため、従来の軸力のみをかけて耐火性試験を行なう場合と比較して、実際のトンネル火災を受けた場合により近い状態での試験データを得ることができる。
【0026】
したがって、本実施形態の耐火性試験装置C及び耐火性試験方法によれば、より実際に近い状態でのトンネル火災に対する覆工セグメントAの影響を試験データとして取得することができ、覆工セグメントAの耐火性能を正確に且つ高精度で確認することが可能になる。
【0027】
以上、本発明に係る覆工セグメントの耐火性試験方法及び耐火性試験装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、試験体Aの加熱にRABT加熱を用いるものとしたが、例えば実際に火災を受けた特定のトンネルの受熱履歴などに基づいて加熱条件を設定してもよく、特に加熱条件を限定する必要はない。
【0028】
また、本実施形態では、鋼材部2とコンクリート部3を備えるとともに、コンクリート部3に有機繊維を混入した覆工セグメント(耐火セグメント)Aの耐火性を試験するものとして説明を行なったが、本発明は、本実施形態の覆工セグメントAと異なる構成を備えた覆工セグメントAの耐火性を試験するために用いられてもよい。
【0029】
ついで、以下に、図6から図12を参照し、本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法について説明する。本実施形態は、例えばシールド工法などによって構築される道路トンネルの覆工セグメントを設計する方法に関するものである。なお、第1実施形態と共通する構成に対しては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0030】
本実施形態の覆工セグメントAの設計方法では、はじめに、覆工セグメントAの構造仕様及び荷重条件を設定する。この構造仕様及び荷重条件の設定では、例えばトンネル外径や内径、覆工セグメントAの幅Lや厚さB、覆工セグメントAの鋼材部2やコンクリート部3の使用材料の力学特性などの構造仕様を設定するとともに、トンネル構築に伴い事前に行なわれる地山調査結果に基づいて荷重条件を設定する。荷重条件としては、例えば、図6(a)、図6(b)及び表1に示すように、トンネルの覆工に作用する荷重に係る、土被りH、地下水位Hw、鉛直土圧Pvc、頂部側方土圧qe1、底部側方土圧qe2、頂部水圧Pw1、底部水圧Pw2、自重g、地盤反力係数k、側方土圧係数λを設定する。
【0031】
【表1】
【0032】
ついで、このように設定した構造仕様及び荷重条件の設定値に基づき、トンネルT内で火災が発生した際の加熱条件(想定したトンネル火災に相当する加熱条件)としてRABT加熱を用い、加熱によって変化する覆工各部の内部温度(覆工の内部温度の分布)を周知の非定常熱伝導解析によって解析する。なお、本実施形態では、図7に示すように、トンネルTの対象性を考慮して右半分の覆工各部に対してのみ解析を行い、また、このとき、クラウン部CLを基点として135°〜180°に位置する部分は、道路面Rよりも下方に位置して火災時に直接加熱されることがないものとして扱っている。
【0033】
そして、構造仕様及び荷重条件の設定値と非定常熱伝導解析の解析値に基づいて、トンネルTの覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析により解析する。すなわち、図8に示すような、はり−ばねモデルを用い、荷重条件値(外部荷重や自重、地山拘束力)をばねの各節点に与えて覆工の応力、ひずみを解析する。このとき、非定常熱伝導解析の結果を反映させるとともに覆工セグメントAの力学特性の温度依存性を考慮して解析を行なう。そして、この弾塑性熱応力変形解析によって、RABT加熱に基づく経過時間毎(0分から180分)の覆工の変形、覆工の曲げモーメントM、覆工の軸力Nが、図9から図11に示すように得られる。ここで、図9が覆工の変形、図10が覆工の曲げモーメントM、図11が覆工の軸力Nを示しており、加熱によって覆工に作用する曲げモーメントMが経時的に変化するのに対し、覆工に作用する軸力Nは、加熱による変化がほぼ生じないことが分かる。
【0034】
ついで、トンネルTの覆工各部を構成する複数の覆工セグメントAのうち、少なくとも一つの覆工セグメントAを抽出する。そして、弾塑性熱応力変形解析で求めたこの抽出した覆工セグメントAの加熱前の初期状態、すなわち加熱時間0分における軸力N及び曲げモーメントMを、第1実施形態で示した覆工セグメントAの耐火性試験方法における所定の軸力N及び所定の曲げモーメントMとして、第1実施形態に示した耐火性試験を行なう。また、この耐火性試験において、試験体Aは、本実施形態の構造仕様を備えるように形成し、試験体Aの加熱条件を、本実施形態の非定常熱伝導解析に用いた加熱条件と同様にすなわちRABT加熱として耐火性試験を行なう。これにより、第1実施形態の図5(c)に示したような、試験体(抽出した覆工セグメント)Aの加熱に伴い変化する曲げモーメントMの実測値が得られる。
【0035】
そして、試験体Aの実測値と熱応力変形解析値とを比較する。図12に示すように、このように比較した結果、実測値と熱応力変形解析値、すなわち試験結果と解析結果とが相関係数0.5(好ましくは0.8)以上、及び/又は試験結果と解析結果の差異が±10%(好ましくは±5%)以下を示してほぼ一致する場合には、熱応力変形解析の妥当性が高いものと判断される。なお、この相関があることについては数値計算による他、相関係数の基準が低い場合は目視によって判断することも可能である。これにより、他の部分の覆工ひいてはトンネルT全体の覆工に対する熱応力変形解析の信憑性が得られ、この熱応力変形解析から、覆工(覆工セグメントA)が所望の耐火性を具備していると判断できる場合には、初期に設定した覆工セグメントAの構造仕様が好適であると判断される。そして、第1実施形態に示したように、覆工セグメントAの耐火性能を正確に且つ高精度で確認できる耐火性試験の実測値を基に、熱応力変形解析の妥当性が確認されるため、本実施形態の設計方法を基に構造仕様を定めて製作した覆工セグメントAは、確実に所望の耐火性を備えることになる。
【0036】
したがって、本実施形態の覆工セグメントAの設計方法においては、上記のように高精度の試験結果を基に、火災時に発生する覆工セグメントAの熱応力変形の解析値の妥当性を確認して覆工セグメントAの構造仕様を定めるため、確実に所望の耐火性を備えた覆工セグメントAを設計・製作することができ、覆工セグメントAの火災に対する信頼性を向上させることができる。また、このように高精度で所望の耐火性を備えた覆工セグメントAを設計できることによって、覆工セグメントAに、例えば安全性の配慮から本来必要とされる耐火性よりも過剰に高い耐火性を付与するようなことがなくなり、覆工セグメントAの経済的な設計を可能にする。
【0037】
以上、本発明に係る覆工セグメントの設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、非定常熱伝導解析を行う際にRABT加熱を用いるものとしたが、第1実施形態と同様に、例えば実際に火災を受けた特定のトンネルの受熱履歴などに基づいて加熱条件を設定してもよく、特に加熱条件を限定する必要はない。
【0038】
また、本実施形態では、試験体Aの上面(他面)A2に設けた曲げモーメント導入ジャッキ13を伸ばし、一対のモーメントブロック18をそれぞれ外側に押圧するようにして(一対のモーメントブロック18が離れるように押圧して)、上面A2側に引張力、下面(一面)A1側に圧縮力が生じるように曲げモーメント(負の曲げモーメント)Mをかけたが、トンネルの断面形状や断面位置によっては、覆工セグメントに生じる曲げモーメントは必ずしも負の曲げモーメントばかりではない。覆工セグメントの初期応力状態が正の曲げモーメントになっている場合には、本実施形態とは逆に、曲げモーメント導入ジャッキ13を縮め、一対のモーメントブロック18をそれぞれ内側に引っ張って近づけるようにして、試験体Aの上面A2側に圧縮力、下面A1側に引張力が生じるように曲げモーメント(正の曲げモーメント)Mをかけることになる。このようにした場合でも、覆工セグメントの設計方法は前述の通りで変わることがなく、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントが設置されるトンネルを示す斜視図である。
【図2】図1のY−Y線矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験装置を示す断面図である。
【図4】図3のX−X線矢視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法における加熱条件と、覆工セグメント(試験体)の軸力及び曲げモーメントの経時変化を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法における荷重条件の設定例を説明するために用いた図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において非定常熱伝導解析及び弾塑性熱応力変形解析により解析する範囲を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析時に用いたはり−ばねモデルを示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の変形を経時的に示した図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の曲げモーメントの変化を経時的に示した図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において弾塑性熱応力変形解析から得たトンネル覆工の軸力の変化を経時的に示した図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る覆工セグメントの設計方法において、本発明の第1実施形態に係る覆工セグメントの耐火性試験方法による実測値と、弾塑性熱応力変形解析の解析値を比較した図である。
【符号の説明】
【0040】
10 応力導入部
11 軸力導入フレーム
12 軸力導入ジャッキ(軸力導入手段)
13 曲げモーメント導入ジャッキ(曲げモーメント導入手段)
16a 軸力計測手段
16b ジャッキ駆動装置
18 モーメントブロック
19a 曲げモーメント計測手段
19b ジャッキ駆動装置
20 加熱炉部(加熱手段)
21 炉
22 バーナー
23 変位計(変位計測手段)
24 制御装置
A 覆工セグメント(試験体)
A1 下面(加熱面、一面)
A2 上面(非加熱面、他面)
C 覆工セグメントの耐火性試験装置
M 曲げモーメント
N 軸力
T トンネル
Z RABT曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するための覆工セグメントの耐火性試験方法であって、
前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるとともに、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけ、トンネル火災前の前記覆工セグメントに相当するように前記試験体を曲げ変形させて、この初期状態を維持しつつ前記試験体を前記一面側から加熱し、前記試験体の曲げモーメントの変化を計測することを特徴とする覆工セグメントの耐火性試験方法。
【請求項2】
トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するために用いる覆工セグメントの耐火性試験装置であって、
前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるための軸力導入手段と、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけるための曲げモーメント導入手段とを備えるとともに、前記試験体を前記一面側から加熱するための加熱手段と、該加熱手段で加熱することにより変化する前記試験体の軸力を計測する軸力計測手段と、前記試験体の曲げモーメントを計測する曲げモーメント計測手段及び変位を計測する変位計側手段とを備えていることを特徴とする覆工セグメントの耐火性試験装置。
【請求項3】
複数の覆工セグメントで形成されるトンネルの覆工セグメントの設計方法であって、
前記覆工セグメントの構造仕様及び荷重条件を設定し、
前記構造仕様及び前記荷重条件の設定値に基づき、想定したトンネル火災に相当する加熱により変化する前記トンネルの覆工各部の内部温度を非定常熱伝導解析によって解析し、
前記設定値と前記非定常熱伝導解析の解析値に基づき、前記覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析によって解析して、
前記覆工各部を構成する前記覆工セグメントのうち少なくとも一つの前記覆工セグメントを抽出するとともに、前記弾塑性熱応力変形解析で求めた前記少なくとも一つの覆工セグメントの加熱前の初期状態における軸力及び曲げモーメントを、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法の前記所定の軸力及び前記所定の曲げモーメントとし、且つ前記非定常熱伝導解析時と同様に前記試験体を加熱して、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法による耐火性試験を行ない、
前記試験体の加熱により変化する曲げモーメントの実測値と前記熱応力変形解析による曲げモーメントの解析値とを比較し、相関があることを確認して、前記覆工セグメントの構造仕様を決定することを特徴とする覆工セグメントの設計方法。
【請求項1】
トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するための覆工セグメントの耐火性試験方法であって、
前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるとともに、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけ、トンネル火災前の前記覆工セグメントに相当するように前記試験体を曲げ変形させて、この初期状態を維持しつつ前記試験体を前記一面側から加熱し、前記試験体の曲げモーメントの変化を計測することを特徴とする覆工セグメントの耐火性試験方法。
【請求項2】
トンネル火災に対する覆工セグメントの耐火性能を評価するために用いる覆工セグメントの耐火性試験装置であって、
前記覆工セグメントの試験体に対し、前記トンネルの火災時に加熱される内面に相当する前記試験体の一面に沿う方向に所定の軸力をかけるための軸力導入手段と、前記一面側に圧縮力、前記一面と対向する他面側に引張力が生じるように、または前記一面側に引張力、前記他面側に圧縮力が生じるように所定の曲げモーメントをかけるための曲げモーメント導入手段とを備えるとともに、前記試験体を前記一面側から加熱するための加熱手段と、該加熱手段で加熱することにより変化する前記試験体の軸力を計測する軸力計測手段と、前記試験体の曲げモーメントを計測する曲げモーメント計測手段及び変位を計測する変位計側手段とを備えていることを特徴とする覆工セグメントの耐火性試験装置。
【請求項3】
複数の覆工セグメントで形成されるトンネルの覆工セグメントの設計方法であって、
前記覆工セグメントの構造仕様及び荷重条件を設定し、
前記構造仕様及び前記荷重条件の設定値に基づき、想定したトンネル火災に相当する加熱により変化する前記トンネルの覆工各部の内部温度を非定常熱伝導解析によって解析し、
前記設定値と前記非定常熱伝導解析の解析値に基づき、前記覆工各部の応力変形状態を弾塑性熱応力変形解析によって解析して、
前記覆工各部を構成する前記覆工セグメントのうち少なくとも一つの前記覆工セグメントを抽出するとともに、前記弾塑性熱応力変形解析で求めた前記少なくとも一つの覆工セグメントの加熱前の初期状態における軸力及び曲げモーメントを、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法の前記所定の軸力及び前記所定の曲げモーメントとし、且つ前記非定常熱伝導解析時と同様に前記試験体を加熱して、請求項1記載の覆工セグメントの耐火性試験方法による耐火性試験を行ない、
前記試験体の加熱により変化する曲げモーメントの実測値と前記熱応力変形解析による曲げモーメントの解析値とを比較し、相関があることを確認して、前記覆工セグメントの構造仕様を決定することを特徴とする覆工セグメントの設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−286593(P2008−286593A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130563(P2007−130563)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(505413255)阪神高速道路株式会社 (46)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(505413255)阪神高速道路株式会社 (46)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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