説明

視覚障害者誘導用ブロックを製造する方法および視覚障害者誘導用ブロック

【課題】 平面状本体部9と突起部7、それぞれの物性または色調を変えて視覚障害者誘導用ブロックを射出成形により一体成形する。
【解決手段】 意匠型1、突起部ベース型5、および平面状本体部ベース型6から構成される射出成形用金型の、突起部形成キャビティー2へ、カーボンブラックを配合したゴム配合物を充填して所要の手段により加硫し突起部7を成形し、突起部ベース型5を外し、平面状本体部9を形成するキャビティー8へ弁柄を配合したゴム配合物を充填して所要の手段により加硫し平面状本体部9を成形し、突起部7と接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚障害者誘導用ブロックを製造する方法および視覚障害者誘導用ブロックに関する。より詳細に述べると、視覚障害者誘導用ブロックを構成する平面状本体部と突起部をプレス成型法又は射出成型法により一体に製造する方法及び当該製造方法により製造された視覚障害者誘導用ブロックに関する。
本発明で使用する用語「視覚障害者」は、視力の無い人、弱視者、及び高齢者等弱者を包含する広義で解釈されるべきである。
【背景技術】
【0002】
視覚障害者誘導用ブロックを構成部品から分類すると、視覚障害者誘導用ブロックを構成する平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部を有する2つの構成部品からなるタイプが主流である。
【0003】
さらに、視覚障害者誘導用ブロックを着色から分類すると、視覚障害者誘導用ブロックを構成する平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部を同じ色に着色したタイプと、異色に着色したタイプの2種類がある。
【0004】
現在、視認性が向上するという理由から、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部を異色に着色したタイプの視覚障害者誘導用ブロックが強く要望されて来ている。
【0005】
従来、平面状本体部と、突起部が同じ色の視覚障害者誘導用ブロックは、射出成形法とプレス成型法で製造されている。
【0006】
図2は、平面状本体部と、突起部が同じ色の視覚障害者誘導用ブロックを射出成形法によって製造する従来法の1例の概念図である。図2に示したように、平面状本体部17と、突起部16が同じ色の視覚障害者誘導用ブロックを製造する従来の射出成形法で使用する金型は、上下2枚の型(11,12)から構成されていて、突起部16を形成するキャビティー13と、平面状本体部17を形成するキャビティー14を画定している。ゲート15から可塑化したゴムを充填して、所定の方法により加流して、突起部16と平面状本体部17を一体に射出成形する。
【0007】
図3は、平面状本体部23と、突起部22が同じ色の視覚障害者誘導用ブロックをプレス成形法によって製造する1例の概念図である。図3に示したように、平面状本体部23と、突起部22が同じ色の視覚障害者誘導用ブロックを製造するプレス金型は、上下2枚の型(18,19)から構成されていて、突起部22を形成するキャビティー20と、平面状本体部23を形成するキャビティー21を画定している。
【0008】
キャビティー21に、キャビティー21の深さより厚い材料ゴム24を挿入して、上型18を下降させて材料ゴム24を圧縮して、突起部22を形成するキャビティー20と、平面状本体部23を形成するキャビティー21に材料ゴム24を充填させて、所定の方法により加流して、突起部22と平面状本体部23を一体に成形する。
【0009】
上述した2つの従来法による視覚障害者誘導用ブロックには、改良すべき幾つかの欠点がある。
【0010】
第1の欠点は、射出成型法およびプレス成形法のいずれの方法においても、平面状本体部と突起部を同じ配合材料のゴムを使用しなければならないので、平面状本体部と突起部で色調を変えることが不可能か、或いは容易ではない。従って、視認性が向上するという理由から、現在強く要望されている平面状本体部と、突起部を異色に着色したタイプの視覚障害者誘導用ブロックを、これらの従来法で製造することができない。
【0011】
第2の欠点は、平面状本体部と突起部を同じ配合材料のゴムを使用しなければならないので、平面状本体部と突起部で硬度を変えることが不可能である。従って、突起部の硬度を自由に設計して耐磨耗性を向上させることができない。
【0012】
さらに、平面状本体部を突起部と同様に硬く成型すれば、敷設時に路面の凹凸面に対する追随性を改良することができない。
【0013】
また、平面状本体部と突起部に硬度差を設けることが出来ないため、視覚障害者が、歩行時に接触したときの感覚による識別性を改良することが不可能である。
【0014】
さらに、平面状本体部と突起部を、ゴムとゴム以外の材料、たとえば熱可塑性樹脂或いは熱可塑性エラストマー等との組合せで製造する従来技術がある。
【0015】
たとえば、特許文献1は、概略、それぞれ異色の平面状本体部及び突起部から成る視覚障害者用多色点字タイルを記載していて、平面状本体部の材料としてSBR又はEPDMが好ましいこと、また突起部の材料としてポリフェニレンエーテルが好ましいと記載している。
【0016】
特許文献1に記載された視覚障害者用多色点字タイルは、平面状本体部と突起部が、それぞれ異色に製造されているので、視覚障害者による視認性という観点からは、平面状本体部と突起部が同色に製造されているものに比べて、向上している。
【0017】
然しながら、特許文献1に記載された従来技術では、平面状本体部の材料と、
突起部の材料の組合せが極めて狭く、加工性、成形性等に改良の余地がある。また、平面状本体部がゴム、突起部がポリフェニレンエーテル樹脂で、それぞれの材料が異なるので、両方がゴムで製造されているものに比べて、いわゆる「風合い」が悪い。さらに、ポリフェニレンエーテルはエンジニヤリングプラスチックで、通常、ゴムより高価であるので、全体のコストを引き上げ、広く流通しないという欠点がある。
【0018】
特許文献2は、概略、それぞれ異色の平面状本体部及び突起部から成る視覚障害者誘導用用ブロックであって、平面状本体部を熱可塑性エラストマーで、突起部を熱可塑性ポリウレタンで製造した視覚障害者誘導用用ブロックを開示している。
【0019】
特許文献2に記載された視覚障害者誘導用用ブロックは、平面状本体部と突起部が、それぞれ異色に製造されているので、視覚障害者による視認性という観点からは、平面状本体部と突起部が同色に製造されているものに比べて、向上している。然しながら、平面状本体部が熱可塑性エラストマー、突起部が熱可塑性ポリウレタンで、それぞれの材料が異なるので、両方がゴムで製造されているものに比べて、いわゆる「風合い」が悪い。さらに、熱可塑性エラストマーは、汎用性のゴムに比べて高価であるので、全体のコストを引き上げ、広く流通しないという欠点がある。
【特許文献1】特許第3422750号公報
【特許文献2】特許第3962401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上述べたように、従来、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、平面状本体部および突起部を形成する主要材料としてゴムを使用し、それぞれの配合を変えた材料を使用して射出成形法によって一体製造できなかった。
【0021】
従って、発明が解決しようとする課題は、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、平面状本体部および突起部を形成する主要材料としてゴムを使用し、平面状本体部および突起部を形成する材料の配合を変えた配合物を使用して視覚障害者誘導用ブロックを射出成形法によって一体製造できなかったことである。
【0022】
発明が解決しようとする別の課題は、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、平面状本体部および突起部を形成する主要材料としてゴムを使用し、平面状本体部および突起部を形成する材料の配合を変えた配合物を使用して、平面状本体部より突起部の硬度を高くし、突起部の耐磨耗性を向上させ、且つ、平面状本体部を軟らかく成形することにより施工性を改良した視覚障害者誘導用ブロックを射出成形法によって一体製造できなかったことである。
【0023】
発明が解決しようとする更に別の課題は、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、平面状本体部および突起部を形成する主要材料としてゴムを使用し、平面状本体部および突起部を形成する材料の配合を変えた配合物を使用して、平面状本体部と突起部の色調を変えることにより、視覚障害者による視認性を向上した視覚障害者誘導用ブロックを射出成形法によって一体製造できなかったことである。
【0024】
発明が解決しようとする更に別の課題は、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、平面状本体部および突起部を形成する主要材料としてゴムを使用し、平面状本体部および突起部を形成する材料の配合を変えた配合物を使用して、平面状本体部と突起部の硬度差を大きくすることにより、視覚障害者による歩行時の接触による感覚による識別性を改良することができなかったことである。
【0025】
発明が解決しようとする更に別の課題及び利点は、以下逐次明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
【0027】
1.平面状本体部と、平面状本体部の表面に突設された突起部から構成され、路面又は床面に敷設される視覚障害者誘導ブロックをプレス成型法又は射出成形法によって一体的に製造する方法であって、
突起部を形成するためのキャビティーが穿設された意匠型と、突起部ベース型と、平面状本体部ベース型を含むプレス成型又は射出成形用金型を用意すること、
意匠型と、突起部ベース型と、平面状本体部ベース型を相互に密着させて、突起部を形成するキャビティーを形成すること、
所定の配合をしたゴム配合物を突起部を形成するキャビティーに充填し、常用により加硫し、突起部を形成すること、
突起部ベース型を外し、平面状本体部ベース型と意匠型を密着させて、平面状本体部のキャビティーを形成すること、および
平面状本体部を形成するキャビティーに所定の配合をしたゴム配合物を充填し、常用により加硫し、平面状本体部を形成すると同時に突起部と接着して一体化することを含む前記視覚障害者誘導用ブロックをプレス成型又は射出成形法により製造する方法。
【0028】
2.前記1項において、突起部の物性と、平面状本体部の物性を変える。
【0029】
3.前記1又は2項において、突起部の色調と、平面状本体部の色調を変える。
【0030】
4.前記1〜3項のいずれか1項において、意匠型に穿設された突起部を形成す
るキャビティーの周囲に、所定の高さ及び幅を有する防止壁を立設する。
【0031】
5.前記1〜4項のいずれか1項に記載の方法によって製造された視覚障害者誘導用ブロック。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載した発明により、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、同じ材料から成る配合物、たとえば、ゴム配合物を使用してプレス成型法又は射出成型法により一体に製造することができる。
【0033】
さらに、請求項1に記載した発明により、ゴム配合物の配合を変えることにより、たとえば、突起部と平面上本体部のそれぞれの色調及び物性を変えること、突起部と平面上本体部のそれぞれの色調を変え、物性を同じにすること、突起部と平面上本体部のそれぞれの色調及び物性を同じにすることが可能になる。
【0034】
請求項2に記載した発明により、下記に例示する効果が奏功される。
(1)突起部を形成するキャビティーに充填するゴム配合物の硬度を、平面状本体部を形成するキャビティーに充填するゴム配合物の硬度より高くすることにより、突起部の耐磨耗性を高めることができる。
【0035】
(2)突起部の硬度を高くすることにより、視覚障害者がその上を歩行したとき、歩行感覚により認識し易くすることができる。
【0036】
(3)突起部の硬度を自由に設計することができるので、視覚障害者誘導用ブロックの敷設箇所が室外或いは室内か、敷設施設の種類、使用対象者の性別、年齢等多様な要件に合わせた開発ができる。
【0037】
(4)突起部に比べて平面状本体部を軟らかく設計することにより、敷設したときに、敷設面の凹凸面の形状に追随し易くすることができる。
【0038】
請求項3に記載した発明により、下記に例示する効果が奏功される。
(1)突起部と平面状本体部の色調を変えることにより、弱視者、高齢者等による視認性が向上する。
【0039】
(2)平面状本体部と突起部の色調を変えることにより、視覚障害者誘導用ブロックの視認性向上という本来の目的以外に、晴眼者にとっても方向指示機能を付したり、或いは各種の目的をもったディザインの幅が拡大される。
【0040】
請求項4に記載した発明により、下記に例示する効果が奏功される。
(1)意匠型に穿設された突起部を形成するキャビティーの周囲に、所定の高さ及び幅を有する防止壁を立設することにより、突起部を形成するキャビティーに充填されたゴム配合物が、平面状本体部を形成するキャビティーに流出するのを防止することでき、最終製品の仕上がりがきれいになる。
【0041】
(2)防止壁の高さ及び幅を適切に設計して、最終製品の突起部の周囲に十分の深さと幅を有する溝を形成することができるので、その溝が、突起部と平面上本体部との境界領域となり、突起部の視認性が向上する。
【0042】
請求項5に記載した発明により、請求項1〜4による効果を有する視覚障害者誘導用ブロックを、低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の最も重要な特徴は、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックを、同じ材料から成る配合物で射出成型法により一体に製造することができる点である。従って、平面状本体部及び突起部を形成するための材料は、ゴム、熱可塑性合成樹脂、熱可塑性エラストマー等任意に選択される。
【0044】
本発明で使用されるゴムとしては、天然ゴム、スチレンーブタジエンゴム、ニトリルーブタジエンゴム、ネオプレン、ポリイソブチレン、多硫化ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム、ハイパロン、エチレンープロピレン共重合体ゴム、エチレンープロピレンージエンモノマー共重合体ゴム、スチレンーブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、イソプレンーイソブチレン共重合体等が例示される。これらのゴムは、単独でも、2種以上混合して使用することもできる。
【0045】
本発明で使用される熱可塑性合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂等が例示される。
【0046】
本発明で使用される熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系(スチレン・
ブロック。コポリマー、SBC)、オレフィン系(TPO)、ウレタン系(TP
U)、ポリエステル系(TPEE)、ポリアミド系(TPAE)、1,2−ポリ
ブタジエン系、塩ビ系(TPVC)、フッ素系、アイオノマー樹脂、塩素化ポリ
エチレン、シリコーン系等が例示される。
【0047】
これらの主原料には、所要の各種添加剤を添加して所定の射出成形機により一体成形される。主原料に添加される添加剤としては、カーンボンブラック、シリカ、二酸化チタン、各種顔料、クレー、酸化亜鉛、ステアリン酸、促進剤、加硫剤、硫黄、安定剤、劣化防止剤、加工助剤、粘着付与剤、可塑剤、ワックス、早期加硫促進剤、エクステンダー油等が例示される。これらは必要により適宜選択されて添加される。
【0048】
次ぎに、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部の色とのコントラスト、平面状本体部の色と突起部の色とのコントラストに関して解説する。
【0049】
視覚障害者誘導用ブロックは、採光度も照明計画も照明設計も異なり、材料も色も多種多様な路面或いは床面に、敷設される場合がある。従って、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部と突起部の色のコントラストを大きくしただけでは不都合が発生することがあるので、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部の色とのコントラスト、平面状本体部の色と突起部の色とのコントラストも高くしなければならない。
【0050】
視機能は対象物の形や大きさ、距離、運動、色その他の印象を眼を通して入手するための能力である。その主な視機能は、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚である。視覚障害者は、これらの視機能が完全に又は極度に低下した人である。弱視は、広義には、レンズでは矯正することができない一般的な視力障害を意味し、狭義には、器質的変化がないか、あってもそれでは説明が付かない程度の視機能障害と定義されている。
【0051】
晴眼者が、誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認する場合、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚等の視機能が自然に総合的に働いているものと考えられる。然しながら、弱視者の場合は、これらの視機能に障害があるために誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができない。たとえば、視力機能に障害がある場合にも、当然誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができないことがあると考えられる。また、奥行知覚、視野、調節機能に障害がある場合にも、誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができないことがあると考えられる。
【0052】
眼に光りが入ると、明るさと同時にその組成によって色を感じる。この場合、
光の方から見れば、スペクトル組成の変化として考えられ、一方、眼の方から見れば、感覚の変化としてとらえられる。
【0053】
光源自体の放射する光の色、及びこの光源色を受けたときの鏡面反射による色を光源色という。これに対して、それ自身では光を放射せずに他の光源の光で照明されて現れる色を物体色という。物体色のうち、絵や草花のように、照明光を表面で反射する拡散反射によって現れる色を表面色と云い、カラースライドのように拡散透過によって現れる色を透過色と云う。
【0054】
視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部と突起部のそれぞれの色は、物体色のうち、拡散反射によって現れる表面色を利用するものである。
【0055】
晴眼者の場合は、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚等の視機能を総合的に作用させて、誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することができる。然しながら、主として視力機能に障害がある弱視者の場合、各視力機能を総合的に機能させて誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することが困難である。それを解決するためにも、色覚機能によって、誘導用ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することが理想的である。そのためにも、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部の色とのコントラスト、及び平面状本体部の色と突起部の色とのコントラストをできるだけ大きくしなければならない。
【0056】
日本照明学会編:最新やさしい明視論(改訂版)、10,1979は、「視覚の働き得る明るさ(照度)の範囲」として、物の色と形がはっきりと分かる105〜10ルックスの範囲を明所視、物の色と形がいくらか分かる10〜10−2ルックスの範囲を薄明視、物の明暗だけがおぼろげに分かる10−2ルックス以下を暗所視と定義している。晴眼者の場合は、視覚系が眼に入ってくる光量に従ってその応答の感度を変えて、明順応、暗順応、及び薄明視と適切に順応できるが、弱視者を含め視覚障害者は、この機能が低下した人たちである。
【0057】
輝度は、視覚障害者誘導用ブロックが敷設されている環境下の照明、路面・床面の色(輝度)によって変わるので、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部と突起部を輝度で表現しても、それは弱視者を含め視覚障害者にとって適切な指標ではない。そこで、視覚障害者誘導用ブロックが敷設されている環境下の照明、路面・床面の色(輝度)によって左右されない輝度比を採用することが好ましい。
【0058】
そこで、本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、それが敷設される路面又は床面の輝度と平面状本体部の輝度との比が、1.5〜2.5の範囲が好ましい。輝度比がこの範囲にあると、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部のコントラストが大きく、くっきりと視認できる。
【0059】
また、本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、平面状本体部の輝度と突起部との輝度比が、1.5〜2.5の範囲が好ましい。平面状本体部と突起部との輝度比がこの範囲にあると、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部と突起部とのコントラストが大きくなり、突起部がくっきりと視認できる。
【0060】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部の輝度と突起部との輝度比を、別の観点、即ち、色彩学上の配色による可視度に関するデータから検討する。
【0061】
塚田敢1978:色彩の美学、紀伊国屋書店、及び千々岩英彰、1983:色彩学、福村出版、は純色の赤、橙、黄、緑、紫、白、灰(N5)、および黒の9色を、それぞれ図柄と地にして組み合わせたときの、可視度(Visibility)を記載している。図柄は、直径15mm、太さ3mm、円環の欠如部3mmのランドルト環(Landolt)で、2000lxの照度下で観察して、欠如部が視認できた最大距離(m)で示してある。これを表−1として記載する。
左側縦軸は地色、上横軸が図柄である。
【0062】
【表1】

【0063】
このデータから、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色(以下「路面・床面色」と略記する)、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体部の色(以下「平面状本体部色」と略記する)と、突起部の色(以下「突起部色」と略記する)、との三色の好ましい組合せは下記の通りであることが理解される。
路面・床面色が赤色−平面状本体部色が黄色−突起部色が赤色
路面・床面色が橙色−平面状本体部色が黒色−突起部色が橙色
路面・床面色が黄色−平面状本体部色が黒色−突起部色が黄色
路面・床面色が緑色−平面状本体部色が白色−突起部色が緑色
路面・床面色が青色−平面状本体部色が白色−突起部色が青色
路面・床面色が紫色−平面状本体部色が黄色−突起部色が紫色
路面・床面色が紫色−平面状本体部色が白色−突起部色が紫色
路面・床面色が白色−平面状本体部色が黒色−突起部色が白色
路面・床面色が灰色−平面状本体部色が黄色−突起部色が灰色
路面・床面色が灰色−平面状本体部色が白色−突起部色が灰色
路面・床面色が黒色−平面状本体部色が黄色−突起部色が黒色
【0064】
さらに、路面・床面色と、平面状本体部色と、突起部色の三色の最も好ましい組合せは下記の順位の通りである。尚、左側数字は順位を示している。4と4は同じ順位である。
1 路面・床面色が黒色−平面状本体部色が黄色−突起部色が黒色
2 路面・床面色が黄色−平面状本体部色が黒色−突起部色が黄色
3 路面・床面色が黒色−平面状本体部色が白色−突起部色が黒色
4 路面・床面色が紫色−平面状本体部色が黄色−突起部色が紫色
5 路面・床面色が紫色−平面状本体部色が白色−突起部色が紫色
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を説明する。
図1を参照して本発明で使用する金型の構成と、それを使用した射出成形法を説明する。
【0066】
[使用した金型の構成とその使用方法]
図1は、本発明の方法の各工程を順番に説明するための断面図である。
【0067】
先ず、図1−1に示した3枚構成の金型を用意する。図1−1において、1は意匠型である。意匠型1には、突起部7を形成するためのキャビティー2と、平面状本体部9を形成するためのキャビティー8の一部3と、キャビティー2へ充填したゴム配合物がキャビティー8へ流入するのを防止するための防止壁4が形成されている。この防止壁4が形成されているために、射出成形完了後は、突起部7の周囲に突起部7と平面上本体部9の境界領域を画定する溝10が形成される。
【0068】
図1−1において、5は突起部ベース型である。突起部ベース型5と意匠型1を密着させることにより、突起部7を形成するためのキャビティー2と、平面状本体部9を形成するためのキャビティー8の一部3が画定される。
【0069】
図1−1において、6はキャビティー2と、平面状本体部9を形成するためのキャビティー8を形成する平面状本体部ベース型である。
【0070】
次に、図1−2に示すように、意匠型1,突起部ベース型5及び平面状本体部ベース型6をそれぞれ密着させて、突起部7を形成するためのキャビティー2を形成して、突起部用に所要の配合比率で各種添加剤、充填剤を配合したゴム配合物をキャビティー2へ充填し、たとえば、150〜170℃で3〜5分間の加硫条件でゴム配合物を加硫して、先ず突起部7を成形しておく。この場合、ゴム配合物の加硫は完全加硫でも、半加硫でもよい。
【0071】
JIST9251は、視覚障害者誘導用用ブロックの設計に関して次ぎのように規定している。平面状本体部は、長さ及び幅が300mm以上の正方形であること。点状突起の場合は、高さ5mm、上底12mm、下底22mmの円形突起を、それぞれの心−心距離で55〜60mm等間隔で5×5=25個突設することと規定している。線形状突起の場合も説明は割愛する。従って、突起部用に所要の配合比率で各種添加剤、充填剤を配合したゴム配合物を突起部形成用キャビティー2へ充填する方法としては、手動でゴム配合物を突起部形成用キャビティー2へ1個毎に充填する方法、或いは平面状本体部とほぼ同じ長さ及び幅で、点状突起の高さ5mmより幾分大きめの厚さを有する金属製プレートに、点状突起と同じ形状の凹部を25個穿設し、その凹部を介してゴム配合物を突起部形成用キャビティー2へ充填する半自動充填方式等任意に選択される。線形状突起の場合も、これと同じ方式でゴム配合物を充填することができる。
【0072】
次に、図1−3に示すように、突起部ベース型5を外して、平面状本体部ベース型6と意匠型1を密着させて、平面状本体部9を形成するためのキャビティー8を形成して、平面状本体部用に所要の配合比率で各種添加剤、充填剤を配合したゴム配合物をキャビティー8へ充填し、たとえば、150〜170℃で3〜5分間の加硫条件でゴム配合物を加硫して、先に形成された突起部7と平面状本体部9を加硫接着させる。
【0073】
上述した3工程を経ることにより、図1−4に示したような、突起部7と平面上本体部9の色調、物性が、それぞれ異なる視覚障害者誘導用ブロックが製造される。
【0074】
図1−4を参照すれば明らかなように、意匠型1に防止壁4が形成されているため、キャビティー2へ充填したゴム配合物がキャビティー8へ流入するのが防止されて、突起部7の周囲に所定の深さ及び幅を有する溝10が形成されている。この溝10が、突起部7と平面上本体部9の境界領域を明確に分離していて、突起部7の視認性を高める効果を上げている。
【0075】
[視覚障害者誘導用ブロックの製造例]
JIST9251は視覚障害者誘導用用ブロックを、長さ及び幅を300mm以上の正方形の平面状本体部と、平面状本体部に一体に突設された点状突起部とから構成されると規定している。そして、点状突起部は、内径が12mm、外径が、(内径+10)mm、高さが5mmで、隣接する点状突起部同士の心−心間隔が55〜60mmで、最低25個(5×5)形成することと規定している。
【0076】
表−2に示したゴム配合物を使用してJIST9251に規定されている視覚障害者誘導用用ブロックを射出成形した。
【0077】
射出成型には、図−1で示した射出成形金型を使用した。使用した射出成型機は型締め
圧1500kN〜4000kN、射出容量50cm〜3000cm、射出圧力100MPa〜200MPa、射出速度100cm/秒〜200cm/秒の射出ヘッドを備えている。
【0078】
図1−2に示したように、先ず、突起部7を形成するキャビティー2に、表−1に示した突起部形成用ゴム配合物を充填して、150〜170℃で3〜5分間の条件で加硫して、突起部7を硬化させた。
【0079】
次に、図1−3に示したように、突起部ベース型5を外して、平面状本体部ベース型6と意匠型1を密着させて、平面状本体部9を形成するためのキャビティー8を形成して、表−2に示した平面状本体部用ゴム配合物をキャビティー8へ充填し、150〜170℃で3〜5分間の加硫条件でゴム配合物を加硫して、先に形成された突起部7と平面状本体部9を加硫接着させた。全ての型を取り外すと図1−4に示した形状の視覚障害者誘導用ブロックが形成された。
【0080】
【表2】


【0081】
実施例で製造したタイルの突起部と平面上本体部の諸物性を測定した結果を表−3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
突起部の耐磨耗性は、同じゴム配合物を使用して2段金型或いはプレス金型を使用する従来法に比べて厚さで44%、体積で38%向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上述べたように、本発明によれば、平面状本体部と、平面状本体部に突設された突起部から構成される視覚障害者誘導用ブロックの中でも、特に平面状本体部と突起部を異色にする、或いは平面状本体部と突起部を同色で、それぞれの物性を変えた視覚障害者誘導用ブロックを射出成形により一体成形により製造することができる。従って、視覚障害者誘導用ブロックを敷設する一般道路の歩道や駅構内、プラットホーム、地下街、事務所ビル、学校、病院・診療所、美術館・博物館、劇場・ホール、会館、ホテル(ロビー、客室、宴会場)、銀行、店舗、大規模店舗、店舗街のプロムナード、スポーツ施設、公園等の敷設環境に応じて、また年齢、性別等使用対象者の諸条件に応じて製造することができるので、視覚障害者誘導用ブロック業界に資する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明で使用する金型の構成を示す断面図
【図2】従来の単色視覚障害者誘導用ブロックの射出成形法を示す概念図。
【図3】従来の単色視覚障害者誘導用ブロックのプレス成形法を示す概念図。
【符号の説明】
【0086】
1 意匠型
2 突起部形成キャビティー
3 平面状本体部形成キャビティー
4 防止壁
5 突起部ベース型
6 平面状本体部ベース型
7 突起部
8 キャビティー
9 平面状本体部
10 溝
11 上型
12 下型
13 キャビティー
14 キャビティー
15 ゲート
16 突起部
17 平面状本体部
18 上型
19 下型
20 キャビティー
21 キャビティー
22 突起部
23 平面状本体部
24 材料ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状本体部と、平面状本体部の表面に突設された突起部から構成され、路面又は床面に敷設される視覚障害者誘導ブロックをプレス成型法又は射出成形法によって一体的に製造する方法であって、
突起部を形成するためのキャビティーが穿設された意匠型と、突起部ベース型と、平面状本体部ベース型を含むプレス成型又は射出成形用金型を用意すること、
意匠型と、突起部ベース型と、平面状本体部ベース型を相互に密着させて、突起部を形成するキャビティーを形成すること、
所定の配合をしたゴム配合物を突起部を形成するキャビティーに充填し、常用により加硫し、突起部を形成すること、
突起部ベース型を外し、平面状本体部ベース型と意匠型を密着させて、平面状本体部のキャビティーを形成すること、および
平面状本体部を形成するキャビティーに所定の配合をしたゴム配合物を充填し、常用により加硫し、平面状本体部を形成すると同時に突起部と接着して一体化することを含む前記視覚障害者誘導用ブロックをプレス成型又は射出成形法により製造する方法。
【請求項2】
突起部の物性と、平面状本体部の物性を変えることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
突起部の色調と、平面状本体部の色調を変えることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
意匠型に穿設された突起部を形成するキャビティーの周囲に、所定の高さ及び幅を有する防止壁を立設することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって製造された視覚障害者誘導用ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−119777(P2009−119777A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297913(P2007−297913)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【出願人】(594139012)財団法人安全交通試験研究センター (7)
【Fターム(参考)】