説明

覚醒誘導装置

【課題】覚醒作用を向上した覚醒誘導装置を提供することを課題とする。
【解決手段】正常な覚醒度に誘導しようとする対象者に温度刺激を与えて、対象者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する覚醒誘導装置において、正常な覚醒度に誘導しようとする対象者の覚醒度を判断する覚醒度判断部131と、対象者の両手ならびに首の位置を検出する姿勢検出部132と、対象者に与える温度刺激媒体を生成する車載空調システムと、温度刺激媒体の温度、温度刺激媒体の量、対象者の両手、首の内温度媒体を与える部位及び時間を制御する温度刺激媒体制御部133とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者や運転者等の対象者の覚醒状態を正常な状態に誘導する覚醒誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば以下に示す文献に記載されたものが知られている(特許文献1参照)。この文献1には、人間の身体に温度刺激を与えて、該人間の覚醒状態を維持する手法として、運転者等の首まわりに温度刺激を与えて、眠気を覚醒させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−329611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、温度刺激を与える対象者の首まわりのみに温度刺激を与えていた。このため、対象者が例えば運転者の場合に、実環境下では運転が単調運転に陥りやすく、覚醒効果が不十分であるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、覚醒作用を向上した覚醒誘導装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、温度刺激媒体の温度、温度刺激媒体の量、対象者の両手、首の内温度媒体を与える部位及び時間が制御された温度刺激を対象者に与え、対象者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度刺激媒体の温度、温度刺激媒体の量、対象者の両手、首の内温度媒体を与える部位及び時間が制御されて、温度刺激が対象者に与えられるので、対象者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する覚醒作用を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態1に係る覚醒誘導装置の構成を示す図である。
【図2】覚醒度判定マップを示す図である。
【図3】運転者の手の位置を検出する際の動作処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】運転者の手の位置を検出する際にカメラにより撮像された画像の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る覚醒誘導の動作処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態1に係る覚醒誘導における制御マップを示す図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る覚醒誘導における他の制御マップを示す図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る覚醒誘導における制御マップを示す図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る覚醒誘導における他の制御マップを示す図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る覚醒誘導の動作処理の手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態3に係る覚醒誘導における制御マップを示す図である。
【図12】本発明の実施形態3に係る覚醒誘導における他の制御マップを示す図である。
【図13】本発明の実施形態4に係る覚醒誘導の動作処理の手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施形態4に係る覚醒誘導における制御マップを示す図である。
【図15】本発明の実施形態4に係る覚醒誘導における他の制御マップを示す図である。
【図16】本発明の実施形態5に係る覚醒誘導の動作処理の手順を示すフローチャートである。
【図17】本発明の実施形態5に係る覚醒誘導における制御マップを示す図である。
【図18】本発明の実施形態5に係る覚醒誘導における他の制御マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明を実施するための実施形態を説明する。
【0010】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る覚醒誘導装置の構成を示す図である。図1に示す実施形態1の装置は、温度刺激を与えら対象者の画像を撮像する撮像カメラ11と、舵角センサ12と、制御コンピュータ13とを備えている。
【0011】
この実施形態1ならびに以下に説明する実施形態2〜5において、温度刺激を与える対象者は車両の運転者として説明する。運転者に与える温度刺激媒体は、温度刺激媒体生成手段とて機能する車載の空調システムで生成される送風(加熱または冷却された空気)とする。
【0012】
撮像カメラ11は、例えばダッシュボードの計器板の上部に備えられ、運転席シート14に着座した図示しない運転者の顔画像を含む上半身の画像を撮像して、画像信号を制御コンピュータ13へ送信する。舵角センサ12は、ステアリングホイール15の回転角度及び回転方向を示す符号付き数値である舵角を検出して、制御コンピュータ13へ送信する。
【0013】
制御コンピュータ13は、例えば、CPUと、プログラム及び制御パラメータや制御マップを記憶するプログラムROMと、作業用RAMと、入出力インタフェースとを1チップ化した所謂ワンチップマイクロコンピュータなどで構成されている。制御コンピュータ13は、覚醒度判断部131、姿勢検出部132ならびに温度刺激媒体制御部133を備えている。すなわち、これらの覚醒度判断部131、姿勢検出部132ならびに温度刺激媒体制御部133は、上記コンピュータに備えられたソフトウェアとハードウェア資源とが協働して作用する制御コンピュータ13によって実現されたものである。
【0014】
覚醒度判断部131は、実験やシミュレーション等の結果に基づいて予め用意されて記憶装置に記憶された、図2に示す覚醒度判定マップを参照して運転者の覚醒度を判定する。覚醒度判断部131は、低い覚醒度から正常な覚醒度への誘導が必要な場合には、本装置の処理を開始する信号として、RelaxTrigger信号を出力し、高い覚醒度から正常な覚醒度への誘導が必要な場合には、ArousalTrigger信号を出力する。
【0015】
覚醒度の判定では、舵角センサ12の舵角信号をsteerSignal とし、一定の時間でのsteerSignal の周波数解析を行う関数を下記のように定義する。
【0016】
FFT(F,steerSignal)は、Fという操舵周波数でのsteerSignal の操舵振幅とする。「低い」覚醒度と判定されるのは、下記の式(1)の条件が満たされたときとする。
〔SFMin < F < SFL〕、且つ、〔SMH < FFT(F,steerSignal) < SMMax〕 …(1)
ここで、図2に示されているように、SFL、SFMin、SMH、SMmaxは、予め統計解析により設定された閾値であり、固定値でもよいし、個人によって可変にしてもよい。
【0017】
一方、「高い」覚醒度と判定されるのは、下記の式(2)の条件が満たされたときとする。
〔SFH < F < SFMax〕、且つ、〔SMMin < FFT(F,steerSignal) < SML〕 …(2)
ここで、図2に示されているように、SFH、SFMax、SML、SMminは、予め統計解析により設定された閾値であり、固定値でもよいし、個人によって可変にしてもよい。
【0018】
上記「低い」覚醒度ならびに「高い」覚醒度と判定される以外、すなわち下記の式(3)の条件が満たされたときに「正常」な覚醒度であるとする。
〔SFMin < F < SFH〕、且つ、〔SMMin < FFT(F,steerSignal) < SML〕
〔SFMin < F < SFL〕、且つ、〔SMMin < FFT(F,steerSignal) < SMH〕 …(3)
このようなマップを用いて、覚醒度が「低い」、「正常」、「高い」の何れかの結果が得られる。
【0019】
なお、撮像カメラ11で得られた運転者の顔画像から表情や対象者の行動を認識し、認識した結果に基づいて覚醒度を判定してもよい。また、運転者の生体信号を計測し、計測した生体信号に基づいて覚醒度を判定してもよい。
【0020】
姿勢検出部132は、撮像カメラ11で得られた運転者の上半身の画像に基づいて、運転席に着座した運転者の姿勢、特に運転者の首ならびに両手の位置を検出する。運転者の両手の位置を検出する手法としては、図3の検出手順を示すフローチャートに基づいて実行される。
【0021】
図3に示す検出手順を実行するにあたって、撮像された運転者の画像からステアリングホイール15が映っている範囲を切り出し、切り出した部分を図4(撮像カメラ11側から見た画像)に示すように中央を境に右半分(運転者側から見て)と左半分(運転者側から見て)とに分ける。なお、撮影画像に写っていないステアリングホイール15の下の部分(撮像不可範囲)を右と左に分けて、その位置をPos. RightとPos. Left として定義する。
【0022】
図3において、先ずステップS301では、運転者を撮像した画像を処理した結果、撮影画像の右半分に手が検出されているか否かを判定する。判定の結果、検出されている場合は、ステップS302に示す処理を実行する一方、検出されていない場合には、ステップS303に示す処理を実行する。
【0023】
ステップS302では、ResultRight信号としてステアリングにそえられた右手が検出された検出結果(位置)を出力する。このResultRight信号は、ダッシュボードの右側に設けられた空調システムの右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の制御値(指令値)として用いられる。
【0024】
ステップS303では、ResultLeft信号として検出不可を示すPos. Right信号を出力する。このPos. Right信号も先の検出結果と同様に、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の制御値(指令値)として用いられる。この指令値は、図4に示す撮像不可範囲(Pos. Right)に運転者の右手があるものと推定し、この部分への送風を指令する制御信号として機能する。
【0025】
ステップS304では、運転者を撮像した画像を処理した結果、撮影画像の左半分に手が検出されているか否かを判定する。判定の結果、検出されている場合は、ステップS305に示す処理を実行する一方、検出されていない場合には、ステップS306に示す処理を実行する。
【0026】
ステップS305では、ResultLeft信号として検出結果を出力する。このResultLeft信号は、ダッシュボードの左側に設けられた空調システムの左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の制御値として用いられる。
【0027】
ステップS306では、ResultLeft信号として検出不可を示すPos. Left信号を出力する。このPos. Left信号も先の検出結果と同様に、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の制御値として用いられる。この指令値は、図4に示す撮像不可範囲(Pos. Left)に運転者の左手があるものと推定し、この部分への送風を指令する制御信号として機能する。
【0028】
ステップS307では、ResultRight信号ならびにResultLeft信号を出力する。
【0029】
図1に戻って、温度刺激媒体制御部133は、車載の空調システムで生成されて左右の送風吹き出し口16R,16Lから吹き出される送風(温度刺激媒体)の温度、刺激部位(首、手)、風量、時間を以下に示す制御手順にしたがって制御する。
【0030】
図5は運転者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する際に実行される処理手順を示すフローチャートである。
【0031】
図5において、ステップS501では、覚醒度判断部131からRelaxTrigger信号が出力されたか否かを判定する。RelaxTrigger信号が出力された場合は、ステップS502に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0032】
ステップS502では、低い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図6に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndCoolTime) 連続して実行する。
【0033】
ここで、図6、図7に示す制御マップならびに後述する各実施形態2〜5で用いられる制御マップは、実験やシミュレーション等を行って取得されたデータに基づいて設定され、記憶装置に記憶されて用意される。また、EndCoolTime は、覚醒度を低い運転者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する実験やシミュレーション等を行い、その結果正常な覚醒度に誘導された時間を取得し、そのデータに基づいて設定される。なお、以下で説明する制御マップの各種時間は、それぞれ実験やシミュレーション等を行い、その結果取得されたデータに基づいて設定される。
【0034】
図5に戻って、ステップS503では、正常な覚醒度への誘導処理を開始してから上記EndCoolTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は一連の処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS502に戻って正常な覚醒度への誘導を続けて実行する。
【0035】
ステップS504では、覚醒度判断部131からArousalTrigger信号信号が出力されたか否かを判定する。ArousalTrigger信号信号が出力された場合は、ステップS505に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0036】
ステップS505では、高い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図7に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndWarmTime) 連続して実行する。ここで、EndWarmTime は、覚醒度を高い運転者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する実験やシミュレーション等を行い、その結果正常な覚醒度に誘導された時間を取得し、そのデータに基づいて設定される。
【0037】
ステップS506では、正常な覚醒度への誘導を開始してから上記EndWarmTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は一連の処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS505に戻って正常な覚醒度への誘導を続けて実行する。
【0038】
低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図6に示すように制御される。
【0039】
図6において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手と首が交互に刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、右側吹き出し口16Rから首までの距離が右手までに比べて遠いことを考慮して、右手に対して首の風量を大きく設定する。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)となるように設定する。
【0040】
一方、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の首と左手が交互に刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このとき、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風により右手が刺激されているときには、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風により首が刺激される。逆に、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風により首が刺激されているときには、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風により左手が刺激される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、左側吹き出し口16Lから首までの距離が左手までに比べて遠いことを考慮して、左手に対して首の風量を大きく設定する。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)となるように設定する。
【0041】
次に、高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図7に示すように制御される。
【0042】
図7において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手と首が交互に刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、右側吹き出し口16Rから首までの距離が右手までに比べて遠いことを考慮して、右手に対して首の風量を大きく設定する。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)となるように設定する。
【0043】
一方、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の首と左手が交互に刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このとき、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風により右手が刺激されているときには、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風により首が刺激される。逆に、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風により首が刺激されているときには、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風により左手が刺激される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、左側吹き出し口16Lから首までの距離が左手までに比べて遠いことを考慮して、左手に対して首の風量を大きく設定する。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)となるように設定する。
【0044】
なお、図6ならびに図7において、首に送風して刺激する1回の時間と、右手または左手に送風して刺激する1回の時間は同等に設定する。このように、図6ならびに図7に示す覚醒度の誘導する制御では、運転者の首と両手に同等の時間温度刺激が与えられることになる。
【0045】
人間の深部体温と覚醒度とは相関関係にあり、視床下部の同じ部位でコントロールされているといわれている。低い覚醒度に体が変移する際に、末梢血管を拡張子し、放熱すると同時に熱産生が低下している。逆に、覚醒度上がるときには、放熱を抑制するため末梢血管を収縮させ、高い熱産生の指令が出されている。本発明では、このメカニズムを利用して本発明は覚醒度を誘導して。
【0046】
低い覚醒度から正常な覚醒度へ誘導する際には、手を冷却して、拡張していた血管の収縮を引き起こし、体温低下を抑制する。そして、首を冷却することによって、体温の低下を促進させ、視床下部が熱産生を上昇するような指令を引き起こす。したがって、体温が上昇すると同時に覚醒度が正常な範囲に誘導される。
【0047】
一方、高い覚醒度から正常な覚醒度へ誘導する際には、上記とは逆のプロセスを行なうことになる。手を適度に加熱することで、収縮している末梢血管の拡張を起こし、放熱を促す。そして、首の加熱により、低めの熱産生モードに体を誘導することによって、高すぎた深部体温を正常な範囲にもどし、覚醒度を正常な範囲に誘導する。
【0048】
この実施形態1では、温度刺激対象の部位の上記生理学的な特徴を生かし、手と首の温度刺激を交互に行なうことによって、覚醒作用が向上し、低いもしくは高い覚醒度を正常な覚醒度に誘導する覚醒効果を高めることができる。
【0049】
これにより、対象者が所定の操作を行うときに最適な覚醒度でいられることが可能になるので、高い精度の操作を安定して行うことが可能になる。その上、不適切な覚醒度で操作を行うことに対するストレスが解除されるため、長時間ストレスを感じることなく長時間の操作が可能になる。
【0050】
覚醒度を調整する手段として温度刺激が利用されているので、対象者の好み、価値観などに左右されることなく、覚醒度を調整することが可能になる。
【0051】
刺激対象の部位を動的に検出することによって対象者が姿勢を変えた場合でも温度刺激の強度、覚醒効果を保つことが可能となる。 そして、温度刺激の対象部位以外、例えば顔に温度刺激を与えないことで、対象者に不快感を与えることなく覚醒度を正常な覚醒度に調整することができる。
【0052】
(実施形態2)
図8ならびに図9は、本発明の実施形態2に係る覚醒誘導装置の制御マップを示す図である。この実施形態2は、先の図6、図7に示す制御マップに代えて、図8、図9に示す制御マップに基づいて、覚醒度を誘導制御しており、装置構成、制御手順は先の実施形態1と同様である。
【0053】
図8、図9に示す制御マップでは、先の図6、図7に示す制御マップに比べて、手から首、その逆の首から手に温度刺激を変える際に、重複時間t1を設けるようにしている。これにより、首は常に温度刺激が与えられていることになる。また、図8、図9に示す制御マップでは、先の図6、図7に示す制御マップに比べて、首に温度刺激を与えているときにはその温度刺激を高めに設定している。
【0054】
低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図8に示すように制御される。
【0055】
図8において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手と首が交互に刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、一定値に設定する。この一定値は任意に設定することができるが、例えば制御可能な風量の中間値もしくはその中間値付近の値に設定される。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)となるように設定し、かつ首に送風されるときには手に送風されるときに比べて低い温度に設定する。
【0056】
一方、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の左首と左手が交互に刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、先の右側の場合と同じ一定値に設定する。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して右側と同一な低い温度(低温)となるように設定し、かつ首に送風されるときには手に送風されるときに比べて右側と同一な低い温度に設定する。
【0057】
次に、高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図9に示すように制御される。
【0058】
図9において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手と首が交互に刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、先の図8で説明した値と同一な一定値に設定する。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)となるように設定し、かつ首に送風されるときには手に送風されるときに比べて高い温度に設定する。
【0059】
一方、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の首と左手とが交互に刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、先の右側の場合と同じ一定値に設定する。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して右側と同一な高い温度(高温)となるように設定し、かつ首に送風されるときには手に送風されるときに比べて右側と同一な高い温度に設定する。
【0060】
この実施形態2では、温度刺激対象の部位の上記生理学的な特徴を生かし、手と首の温度刺激を交合に行ない、かつ首には常に温度刺激を与えることによって、覚醒作用が向上し、低いもしくは高い覚醒度を正常な覚醒度を誘導する覚醒効果を高めることができる。
【0061】
これにより、対象者が操作に最適な覚醒度でいられることが可能になるので、高い精度の操作を安定して行うことが可能になる。その上、不適切な覚醒度で操作を行うことに対するストレスが解除されるため、長時間ストレスを感じることなく長時間の操作が可能になる。
【0062】
覚醒度を調整する手段として温度刺激が利用されているので、対象者の好み、価値観などに左右されることなく、覚醒度を調整することが可能になる。
【0063】
刺激対象の部位を動的に検出することによって対象者が姿勢を変えた場合でも温度刺激の強度、覚醒効果を保つことが可能となる。 そして、温度刺激の対象部位以外に温度刺激を与えないことで、対象者に不快感を与えることなく覚醒度を正常な覚醒度に調整することができる。
【0064】
(実施形態3)
図10は本発明の実施形態3に係る覚醒誘導装置で実行する覚醒度を誘導する制御手順を示すフローチャートであり、図11、図12は制御マップを示す図である。なお、実施形態3に係る装置構成は先の図1に示すものと同様である。
【0065】
図10において、ステップS1001〜S1003で示す処理は、先の図5のステップS501〜S503で示す処理と同様であり、ステップS1006〜S1008で示す処理は、先の図5のステップS504〜S506で示す処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0066】
ステップS1004では、覚醒誘導の処理がEndCoolTime 実行された後、それまで与えていた温度刺激を段階的に減少させて温度刺激が与えられる前の状態と同等の状態、すなわち温度刺激を与えない状態になったときに停止する処理を実行する。この温度刺激の減少を開始してから停止するまでの処理は、一定の時間(RestoreCoolTime)内で完了するように行われる。したがって、温度刺激の減少率は、温度刺激の開始から停止までのRestoreCoolTime内に完了するように設定される。ここで、RestoreCoolTimeは、任意に設定することができるが、例えば実験やシミュレーションなどによって取得されたデータに基づいて設定される。
【0067】
ステップS1005では、温度刺激を段階的に減少させる処理を開始た後、一定の時間(RestoreCoolTime)が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は、温度刺激を停止して一連誘導処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS1004に戻って温度刺激を段階的に減少させる処理を続行する。
【0068】
ステップS1009では、覚醒誘導の処理がEndWarmTime 実行された後、それまで与えていた温度刺激を段階的に減少させて温度刺激が与えられる前の状態と同等の状態、すなわち温度刺激を与えない状態になったときに停止する処理を実行する。この温度刺激の減少を開始してから停止するまでの処理は、一定の時間(RestoreWarmTime)内で完了するように行われる。したがって、温度刺激の減少率は、温度刺激の開始から停止までのRestoreWarmTime内に完了するように設定される。ここで、RestoreWarmTimeは、任意に設定することができるが、例えば実験やシミュレーションなどによって取得されたデータに基づいて設定される。
【0069】
ステップS1010では、温度刺激を段階的に減少させる処理を開始た後、一定の時間(RestoreWarmTime)が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は、温度刺激を停止して一連誘導処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS1009に戻って温度刺激を段階的に減少させる処理を続行する。
【0070】
低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図11に示すように制御される。
【0071】
図11において、先の図6に示す一連の覚醒誘導がEndCoolTime の時間実行された後、温度刺激を段階的に減少させて停止する処理が実行される。この処理では、刺激部位(首、手)と風量とは、図6と同様に変化させる。これに対して、送風温度は、右出口温度指令値ならびに左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)から段階的に上昇させる。RestoreCoolTimeが経過して、送風温度が刺激を与える前の温度、すなわち車内の温度と同等の温度に至ると、送風を停止して温度刺激を停止し、覚醒誘導を終了する。
【0072】
高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図12に示すように制御される。
【0073】
図12において、先の図7に示す一連の覚醒誘導がEndWarmTime の時間実行された後、温度刺激を段階的に減少させて停止する処理が実行される。この処理では、刺激部位(首、手)と風量とは、図7と同様に変化させる。これに対して、送風温度は、右出口温度指令値ならびに左出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)から段階的に低下させる。RestoreWarmTimeが経過して、送風温度が刺激を与える前の温度、すなわち車内の温度と同等の温度に至ると、送風を停止して温度刺激を停止し、覚醒誘導を終了する。
【0074】
このように、この実施形態3においては、上記実施形態1で得られる効果に加えて、覚醒度の誘導が完了した後、温度刺激を段階的に減少させることによって、長い覚醒誘導効果が保つことが可能となる。
【0075】
(実施形態4)
図13は本発明の実施形態4に係る覚醒誘導装置で実行する覚醒度を誘導する制御手順を示すフローチャートであり、図14、図15は制御マップを示す図である。なお、実施形態4に係る装置構成は先の図1に示すものと同様である。
【0076】
図13において、ステップS1301では、覚醒度判断部131からRelaxTrigger信号が出力されたか否かを判定する。RelaxTrigger信号が出力された場合は、ステップS1302に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0077】
ステップS1302では、低い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導するにあたって、先ず始めに覚醒度の低下を抑制するような誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図14に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndCoolHandTime) 連続して実行する。
【0078】
ステップS1303では、覚醒度の低下を抑制する誘導処理を開始してから上記EndCoolHandTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合はステップS1304に進む一方、経過していない場合には、先のステップS1302に戻って覚醒度の低下を抑制する誘導を続けて実行する。
【0079】
ステップS1304では、覚醒度の低下抑制誘導の処理がEndCoolHandTime 実行された後、覚醒度を安定させる誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図14に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(StableTime)連続して実行する。
【0080】
ステップS1305では、覚醒度を安定させる誘導処理を開始してから上記StableTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合はステップS1306に進む一方、経過していない場合には、先のステップS1304に戻って覚醒度を安定させる誘導を続けて実行する。
【0081】
ステップS1306では、覚醒度の安定誘導の処理がStableTime 実行された後、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図14に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndCoolTime )連続して実行する。
【0082】
ステップS1307では、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する処理を開始してから上記EndCoolTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は一連の処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS1306に戻って正常な覚醒度に誘導する処理を続けて実行する。
【0083】
ステップS1308では、覚醒度判断部131からArousalTrigger信号が出力されたか否かを判定する。ArousalTrigger信号が出力された場合は、ステップS1309に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0084】
ステップS1309では、高い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導するにあたって、先ず始めに覚醒度の上昇を抑制するような誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図15に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndWarmHandTime) 連続して実行する。
【0085】
ステップS1310では、覚醒度の上昇を抑制する誘導処理を開始してから上記EndWarmHandTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合はステップS1311に進む一方、経過していない場合には、先のステップS1309に戻って覚醒度の上昇を抑制する誘導を続けて実行する。
【0086】
ステップS1311では、覚醒度の上昇抑制誘導の処理がEndWarmHandTime 実行された後、覚醒度を安定させる誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図15に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(StableTime)連続して実行する。
【0087】
ステップS1312では、覚醒度を安定させる誘導処理を開始してから上記StableTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合はステップS1313に進む一方、経過していない場合には、先のステップS1311に戻って覚醒度を安定させる誘導を続けて実行する。
【0088】
ステップS1313では、覚醒度の安定誘導の処理がStableTime 実行された後、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図15に示す制御マップに基づいて予め設定された時間(EndWarmTime )連続して実行する。
【0089】
ステップS1314では、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する処理を開始してから上記EndWarmTime が経過したか否かを判定する。判定の結果、経過した場合は一連の処理を終了する一方、経過していない場合には、先のステップS1313に戻って正常な覚醒度に誘導する処理を続けて実行する。
【0090】
低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図14に示すように制御される。
【0091】
図14において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手が刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、調整可能な風量の中間値よりも少なく設定される。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)となるように設定する。
【0092】
左手も上記右手の場合と同様に制御される。すなわち、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の左手が刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、右手と同様に設定される。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、右手と同様に設定される。
【0093】
このような送風が両手に対して上記EndCoolHandTime の時間行われる。
【0094】
この後、図14の制御マップに示すように、運転者の手と首が同等の割合で交互に冷却され、このような覚醒度を安定させる誘導が上記StableTimeの時間行われる。
【0095】
その後、図14の制御マップに示すように、運転者の手と首が交互に冷却される。このときに、両手に比べて首への送風時間を長く設定して首への温度刺激を長くする。このような正常な覚醒度に誘導する処理が上記EndCoolTime の時間行われる。
【0096】
高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図15に示すように制御される。
【0097】
図15において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手が刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、調整可能な風量の中間値よりも少なく設定される。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)となるように設定する。
【0098】
左手も上記右手の場合と同様に制御される。すなわち、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の左手が刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、右手と同様に設定される。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、右手と同様に設定される。
【0099】
このような送風が両手に対して上記EndWarmHandTime の時間行われる。
【0100】
この後、図15の制御マップに示すように、運転者の手と首が同等の割合で交互に温められ、このような覚醒度を安定させる誘導が上記StableTimeの時間行われる。
【0101】
その後、図15の制御マップに示すように、運転者の手と首が交互に温められる。このときに、両手に比べて首への送風時間を長く設定して首への温度刺激を長くする。このような正常な覚醒度に誘導する処理が上記EndCoolTime の時間行われる。
【0102】
このように、この実施形態4では、放熱を抑制または促すため、まず反応が早い手に温度刺激を集中的に行い効果が現れた後、比較的反応に時間がかかる熱産生の変化を起こす首への温度刺激を行なうようにしている。これにより、先の実施形態1〜3に比べてより一層迅速に覚醒度の誘導を行うことが可能にする。
【0103】
(実施形態5)
図16は本発明の実施形態5に係る覚醒誘導装置で実行する覚醒度を誘導する制御手順を示すフローチャートであり、図17、図18は制御マップを示す図である。なお、実施形態5に係る装置構成は先の図1に示すものと同様である。
【0104】
図16において、ステップS1601では、覚醒度判断部131からRelaxTrigger信号が出力されたか否かを判定する。RelaxTrigger信号が出力された場合は、ステップS1602に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0105】
ステップS1602では、低い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導するにあたって、先ず始めに覚醒度の低下を抑制するような誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図14に示す制御マップに基づいて実行する。
【0106】
ステップS1603では、覚醒度が低下しているか否かを判定する。判定の結果、低下していない場合はステップS1604に進む一方、低下している場合には、先のステップS1602に戻って覚醒度の低下を抑制する誘導を続けて実行する。
【0107】
ここで、低い覚醒度の状態において、覚醒度の推移変化(低下傾向、安定、上昇傾向)は、図2に示す操舵周波数と操舵振幅の値の推移を監視し、この値の推移に基づいて推定することができる。図2において、先の式(1)で示す低い覚醒度の範囲においては、(F,FET)の値が(SFMin,SMMax)で覚醒度最も低く、(F,FET)の値が(SFL,SMH)で覚醒度最も高い。したがって、覚醒度が低い状態において、(F,FET)の値が例えば(SFMin,SMMax)から(SFL,SMH)に推移しているような場合には、低い覚醒度が上昇傾向にあると推定し、逆に推移している場合には低い覚醒度が低下傾向にあると推定する。
【0108】
ステップS1604では、覚醒度の低下が抑制された後、覚醒度を安定させる誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図17に示す制御マップに基づいて実行する。
【0109】
ステップS1605では、上述した覚醒度の推移変化の手法により覚醒度が安定したか否かを判定する。判定の結果、安定した場合はステップS1606に進む一方、安定していない場合には、先のステップS1604に戻って覚醒度を安定させる誘導を続けて実行する。
【0110】
ステップS1606では、覚醒度が安定したと推定された後、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図17に示す制御マップに基づいて実行する。
【0111】
ステップS1607では、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する処理を開始した後、上述した覚醒の推移変化の手法により覚醒度が上昇傾向で、かつ現在の覚醒度が正常な覚醒度よりも低いか否かを判定する。判定の結果、覚醒度が上昇傾向でかつ現在の覚醒度が正常な覚醒度よりも低い場合には、一連の処理を終了する一方、上記判定内容を満足していない場合には、先のステップS1606に戻って正常な覚醒度に誘導する処理を続けて実行する。
【0112】
ステップS1608では、覚醒度判断部131からArousalTrigger信号が出力されたか否かを判定する。ArousalTrigger信号が出力された場合は、ステップS1609に示す処理を実行する一方、出力されていない場合には判定処理を続ける。
【0113】
ステップS1609では、高い覚醒度から正常な醒度に運転者の覚醒度を誘導するにあたって、先ず始めに覚醒度の上昇を抑制するような誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図18に示す制御マップに基づいて実行する。
【0114】
ステップS1610では、覚醒度が上昇しているか否かを判定する。判定の結果、上昇していない場合はステップS1611に進む一方、上昇している場合には、先のステップS1609に戻って覚醒度の上昇を抑制する誘導を続けて実行する。
【0115】
ここで、高い覚醒度の状態において、覚醒度の推移変化(低下傾向、安定、上昇傾向)は、図2に示す操舵周波数と操舵振幅の値の推移を監視し、この値の推移に基づいて認知する。図2において、先の式(2)で示す高い覚醒度の範囲においては、(F,FET)の値が(SFMax,SMMin)で覚醒度最も高く、(F,FET)の値が(SFH,SML)で覚醒度最も低い。したがって、覚醒度が高い状態において、(F,FET)の値が例えば(SFMax,SMMin)から(SFH,SML)に推移しているような場合には、高い覚醒度が低下傾向にあると推定し、逆に推移している場合には高い覚醒度が上昇傾向にあると推定する。
【0116】
ステップS1611では、覚醒度の上昇が抑制された後、覚醒度を安定させる誘導を実行する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図18に示す制御マップに基づいて実行する。
【0117】
ステップS1612では、上述した覚醒度の推移変化の手法により覚醒度が安定したか否かを判定する。判定の結果、安定した場合はステップS1613に進む一方、安定していない場合には、先のステップS1611に戻って覚醒度を安定させる誘導を続けて実行する。
【0118】
ステップS1613では、覚醒度が安定したと推定された後、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する。この誘導は、温度刺激媒体制御部133の制御の下に、図18に示す制御マップに基づいて実行する。
【0119】
ステップS1614では、覚醒度を正常な覚醒度に誘導する処理を開始した後、上述した覚醒の推移変化の手法により覚醒度が低下傾向で、かつ現在の覚醒度が正常な覚醒度よりも高いか否かを判定する。判定の結果、覚醒度が低下傾向でかつ現在の覚醒度が正常な覚醒度よりも高い場合には、一連の処理を終了する一方、上記判定内容を満足していない場合には、先のステップS1613に戻って正常な覚醒度に誘導する処理を続けて実行する。
【0120】
低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図17に示すように制御される。
【0121】
図17において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手が刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、調整可能な風量の中間値よりも少なく設定される。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して低い温度(低温)となるように設定する。
【0122】
左手も上記右手の場合と同様に制御される。すなわち、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の左手が刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、右手と同様に設定される。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、右手と同様に設定される。
【0123】
このような送風が両手に対して、覚醒度の低下が抑制されるまで続けて行われる。
【0124】
この後、図17の制御マップに示すように、運転者の手と首が同等の割合で交互に冷却され、このような覚醒度を安定させる誘導が覚醒度の低下傾向が抑制されて安定するまで行われる。
【0125】
その後、図17の制御マップに示すように、運転者の手と首が交互に冷却される。このときに、両手に比べて首への送風時間を長く設定して首への温度刺激を長くする。このような正常な覚醒度に誘導する処理が覚醒度が上昇傾向になるまで行われる。
【0126】
高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際の送風では、図18に示すように制御される。
【0127】
図18において、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口位置指令値に基づいて、運転者の右手が刺激されるように、右側吹き出し口16Rから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される右出口風量指令値に基づいて、調整可能な風量の中間値よりも少なく設定される。また、このときの送風温度は、右出口温度指令値に基づいて、車内の温度に対して高い温度(高温)となるように設定する。
【0128】
左手も上記右手の場合と同様に制御される。すなわち、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口位置指令値に基づいて、運転者の左手が刺激されるように、左側吹き出し口16Lから吹き出される送風の風向が制御される。このときの風量は、温度刺激媒体制御部133から出力される左出口風量指令値に基づいて、右手と同様に設定される。また、このときの送風温度は、左出口温度指令値に基づいて、右手と同様に設定される。
【0129】
このような送風が両手に対して、覚醒度の上昇が抑制されるまで続けて行われる。
【0130】
この後、図18の制御マップに示すように、運転者の手と首が同等の割合で交互に温められ、このような覚醒度を安定させる誘導が、覚醒度の上昇傾向が抑制されて安定するまで行われる。
【0131】
その後、図18の制御マップに示すように、運転者の手と首が交互に温められる。このときに、両手に比べて首への送風時間を長く設定して首への温度刺激を長くする。このような正常な覚醒度に誘導する処理が覚醒度が低下傾向になるまで行われる。
【0132】
このように、この実施形態5では、温度刺激に対する対象者の覚醒度の変化によって温度刺激のパターンを調整している。すなわち、放熱を抑制または促すため、まず反応が早い手に温度刺激を集中的に行い効果が現れた後、比較的反応に時間がかかる熱産生の変化を起こす首への温度刺激を行なうようにしている。これにより、先の実施形態1〜3に比べてより一層迅速に覚醒度の誘導を行うことが可能にする。
【符号の説明】
【0133】
11…撮像カメラ
12…舵角センサ
13…制御コンピュータ
14…運転席シート
15…ステアリングホイール
16L…左側吹き出し口
16R…右側吹き出し口
131…覚醒度判断部
132…姿勢検出部
133…温度刺激媒体制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に温度刺激を与えて、前記対象者の覚醒度を正常な覚醒度に誘導する覚醒誘導装置において、
対象者の覚醒度を判断する覚醒度判断手段と、
前記対象者の両手ならびに首の位置を検出する姿勢検出手段と、
前記対象者に与える温度刺激媒体を生成する温度刺激媒体生成手段と、
前記温度刺激媒体生成手段で生成される前記温度刺激媒体の温度、前記温度刺激媒体の量、前記対象者の両手、首の内前記温度媒体を与える部位及び時間を制御する温度刺激媒体制御手段と
を有することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項2】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の首と手とへ交互に同等の時間温度刺激を与える
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項3】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の首から一方の手へ温度刺激を与える部位を切り換えるときに、前記対象者の他方の手から首へ温度刺激を与える部位を切り換え、双方の切り換え期間に重複期間を設け、前記対象者の首には常に温度刺激が与えられている
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項4】
前記温度刺激媒体制御手段は、予め設定された所定の時間内で、温度刺激を段階的に減少させて停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項5】
前記温度刺激媒体制御手段は、先ず前記対象者の手に温度刺激を与え、その後前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を首に与える時間と手に与える時間とを同等し、その後前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を手に与える時間よりも首に与える時間を長くする
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項6】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の覚醒度を低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する場合に、前記対象者の覚醒度が低下しているときには前記対象者の手にのみ温度刺激を与え、前記対象者の覚醒度の低下が抑制されると前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を首に与える時間と手に与える時間とを同等し、前記対象者の覚醒度が上昇し始めると前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を手に与える時間よりも首に与える時間を長くする
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項7】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の覚醒度を高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する場合に、前記対象者の覚醒度が上昇しているときには前記対象者の手にのみ温度刺激を与え、前記対象者の覚醒度の上昇が抑制されると前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を首に与える時間と手に与える時間とを同等し、前記対象者の覚醒度が低下し始めると前記対象者の首と手に交互に温度刺激を与え、かつ温度刺激を手に与える時間よりも首に与える時間を長くする
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒誘導装置。
【請求項8】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の覚醒度を低い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際に、温度刺激媒体の温度を温度刺激を与える前の前記対象者の周囲の温度に比べて低く設定する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の覚醒誘導装置。
【請求項9】
前記温度刺激媒体制御手段は、前記対象者の覚醒度を高い覚醒度から正常な覚醒度に誘導する際に、温度刺激媒体の温度を温度刺激を与える前の前記対象者の周囲の温度に比べて高く設定する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の覚醒誘導装置。
【請求項10】
前記対象者は、車両の運転者であり、
前記温度刺激媒体生成手段は、前記車両に搭載された空調システムで構成され、
前記温度刺激媒体は、前記空調システムで加熱または冷却された空気である
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の覚醒誘導装置。
【請求項11】
前記姿勢検出手段は、座席に着座した前記運転者の上半身を撮像し、かつ前記車両のステアリングの下部が撮像されていない画像に基づいて前記運転者の手の位置を検出する際に、撮像された画像に前記運転者の手が撮像されていない場合には、撮像されていない前記車両のステアリングの下部に前記運転者の手があるものと推定する
ことを特徴とする請求項10に記載の覚醒誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−1056(P2012−1056A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136296(P2010−136296)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】