説明

親水被膜の形成方法および親水被膜、ならびにインクジェット記録ヘッドの製造方法およびインクジェット記録ヘッド

【課題】親水処理の為の専用装置無しにフォトリソグラフィーにより容易に親水被膜を形成する方法及びその方法により形成された親水被膜を提供すること。
【解決手段】1)第一のカチオン重合性樹脂と第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層を基材上に形成する工程と2)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を該第一の被覆樹脂層に積層する工程と3)該第一及び該第二の被覆樹脂層に該活性エネルギー線を露光し現像することで該第一及び該第二の被覆樹脂層を硬化して被膜を形成する工程と4)該被膜を熱処理することで該被膜表面を親水化して親水被膜を形成する工程とを含む親水被膜の形成方法および親水被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水被膜の形成方法および、その方法により形成された親水被膜、また、該親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物に対してフォトリソグラフィーにより加工を行い、パターニングを行う技術は様々な分野に応用されている。その一例としては、インクジェット記録ヘッドの製造方法が挙げられる。
【0003】
インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドは、一般に、微細なインク吐出口、インク流路及びインク流路の一部に設けられるインクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数備えている。
このようなインクジェット記録ヘッドを作製する方法が、特許文献1に記載されている。まず、エネルギー発生素子が形成された基板上に、溶解可能な樹脂にてインク流路パターンを形成する。次いで、このインク流路パターン上に、カチオン重合可能な樹脂および、光酸発生剤を含む被覆樹脂層を形成し、フォトリソグラフィーによりエネルギー発生素子上にインク吐出口を形成する。最後に前記溶解可能な樹脂を溶出した後、被覆樹脂層を硬化させ、インク流路部材を形成する。
【0004】
一般に、インクジェットプリンタにおいて高印字品質を実現し常に安定した印字効果を得るためには、インク吐出口から吐出するインクが常にインク吐出口面に対して垂直に吐出されることが求められる。吐出時にインク吐出口面に不均一なインクの溜りが存在したり、それが吐出中に形成されたりすると、吐出するインクがインク溜りに引かれ、インク滴が正規の飛翔方向から離脱して正常な吐出が得られない場合がある。また、印字品位を向上させるために、インク吐出口の配列密度を高めた場合、これに応じてインク吐出口間の配列距離が狭くなるため、インク吐出口面での不均一なインクの溜りの影響をより受け易くなる。
【0005】
このため、インク吐出口面にインクをはじくよう撥水処理を施して上述の問題を解決し、安定したインク滴を得る提案が多数報告されている。また、逆に、インク吐出口面にインクを濡らすよう親水処理を施してインク吐出口面の均一な濡れを確保する提案も報告されている。
【0006】
これらの表面処理方法は特許文献2に記載がある。例えば、インク吐出口面に撥水処理を施す方法としては、フッ素系の撥水剤を塗布する方法などが挙げられる。対して、親水処理を施す場合には、酸処理やプラズマ処理などによってインク吐出口面に極性基を生成させて親水化する方法などが挙げられる。
【0007】
このように従来の方法では、親水被膜を形成する際に、酸処理やプラズマ処理などの専用装置が必要であり、フォトリソグラフィー装置のみでは形成できないため大きな負荷が掛かる場合があった。
【0008】
先に述べたようにフォトリソグラフィーによってインクジェット記録ヘッドを製造する場合においても、インク吐出口面に撥水処理を施すには、フッ素系の撥水剤を塗布する方法などで良く、従来装置の流用が可能である。しかし、親水処理を施すには、酸処理やプラズマ処理などの専用装置が必要であり、従来の装置のみでの製造はできないため製造工程に大きな負荷が掛かる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−45242号公報
【特許文献2】特開平6−122210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、親水処理のための専用装置を必要とすることなく、フォトリソグラフィーによって容易に親水被膜を形成する方法および、その方法により形成された親水被膜を提供することを目的とする。また、その親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る表面が親水化された被膜である親水被膜の形成方法は、
(1)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層を基材上に形成する工程と、
(2)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程と、
(3)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化して被膜を形成する工程と、
(4)工程(3)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜表面を親水化して親水被膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする親水被膜の形成方法である。
【0012】
また本発明は、前記親水被膜の形成方法により得られる親水被膜であって、
表面に、前記第二のカチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、表面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とする親水被膜である。
【0013】
また本発明は、インクを吐出するための吐出口と前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路とを形成し前記吐出口を有する面が親水化されたインク流路部材、
ならびに、インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板、
を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
(I)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層をエネルギー発生素子が形成された基板上に形成する工程と、
(II)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程と、
(III)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化させ、前記吐出口が形成された被膜を作製する工程と、
(IV)工程(III)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜の前記吐出口を有する面を親水化して前記インク流路部材を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法である。
【0014】
さらに本発明は、前記インクジェット記録ヘッドの製造方法により得られるインクジェット記録ヘッドであって、
前記吐出口を有する面に前記第二のカチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、前記吐出口を有する面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、親水処理のための専用装置を必要とすることなく、フォトリソグラフィーによって容易に親水被膜を形成する方法および、その方法により形成された親水被膜を提供することができる。また、その親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る方法により形成された親水被膜の模式的断面図である。
【図2】本発明の親水被膜の形成方法の各工程を説明するための図である。
【図3】第二のカチオン重合性樹脂を含む親水被膜表面の残存エーテル比を示したグラフである。
【図4】第二のカチオン重合性樹脂を含む親水被膜表面の接触角を示したグラフである。
【図5】第二のカチオン重合性樹脂を含む親水被膜の膜厚を示したグラフである。
【図6】本発明に係る方法により製造されたインクジェット記録ヘッドの模式図である。
【図7】インク供給部材を有し本発明に係る方法により製造されたインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。
【図8】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の各工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、前記課題を達成すべく鋭意研究した結果、フォトリソグラフィーによって、特定のカチオン重合可能な樹脂および、特定の光酸発生剤を含む被覆樹脂層の表面に極性基を生成して親水被膜を形成する方法を見出した。なお、親水被膜とは、ここでは純水での静的接触角が20°以下の被膜を表わす。本発明によれば、親水処理するための専用の装置を必要とすることなく、従来のフォトリソグラフィーにより容易に親水被膜を形成することができる。本発明による親水被膜の形成方法の応用範囲はインクジェット記録ヘッドの製造方法の他、半導体製造方法、MEMS分野等に応用可能である。
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を具体的に説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。
本発明に係る親水被膜の形成方法は、以下の工程を含む。
(1)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層を基材上に形成する工程。
(2)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程。
(3)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化して被膜を形成する工程。
(4)工程(3)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜表面を親水化して親水被膜を形成する工程。
【0019】
本発明に係る方法により形成される親水被膜の一例を図1に示す。符号1は基材を表し、符号14は表面が親水化された被膜(親水被膜)を表し、親水被膜14は、第一の被膜2b、第二の被膜3bおよび表面に親水層3cを有する。なお、図2に示す第一の被覆樹脂層2aを硬化することにより、第一の被膜2bを形成する。また、第二の被覆樹脂層3aを硬化することにより、第二の被膜3bを形成する。さらに、これらの被膜を熱処理することで、被膜表面、即ち第二の被膜3bの表面を親水化して親水層3cを形成する。
以下、図2(a)から(e)を用いて、図1の親水被膜の形成方法を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0020】
(工程(1))
まず、基材1上に第一のカチオン重合性樹脂と第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層2aを形成する(図2(a))。なお、第一の被覆樹脂層2aは基材1表面に直接形成しても良いし、基材1と被覆樹脂層2aとの間に他の層(例えば、ポジ型感光性樹脂層)を有していても良い。
【0021】
第一のカチオン重合性樹脂としては、エポキシ系やオキセタン系、ビニルエーテル系などが挙げられるが、硬化収縮が小さいこと、密着性が良いことなどを考慮すると、エポキシ系、オキセタン系を用いることが好ましい。さらに、第一のカチオン重合性樹脂としては、主鎖にエーテル結合やエステル結合といった、酸により分解可能な結合を有していない化合物を用いることがより好ましい。
【0022】
主鎖にエーテル結合やエステル結合を含むカチオン重合性樹脂としては、例えば式1−aから式1−iで表される化合物が挙げられる。対して、例えば式2−aから式2−eにそれぞれ示すようなカチオン重合性樹脂は、エーテル結合を有してはいるものの、本発明においては、主鎖にエーテル結合を有していないと定義する。
【0023】
つまり、ここでは、例えば式2−aから式2−eにそれぞれ示すようなカチオン重合性樹脂を第一のカチオン重合性樹脂として使用することが好ましい。なお、主鎖とは、鎖状化合物の炭素骨格のうち幹となる鎖であり、炭素数が最大となるものを意味する。
【0024】
【化1】

【0025】
上記式1−a中のl、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す。
【0026】
【化2】

【0027】
式2−aから式2−e中のnは1以上の整数を表す。
【0028】
第一のカチオン重合性樹脂として、主鎖に酸により分解可能な結合を含まないカチオン重合性樹脂(例えば式2−aから式2−eでそれぞれ表される化合物)を用いる場合は、第一の光酸発生剤は、特に制限はなく公知の光酸発生剤から選択して用いることができる。しかし、第一のカチオン重合性樹脂として、主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂(例えば式1−aから式1−iでそれぞれ表される化合物)を用いる場合は、第一の光酸発生剤として以下のものを用いることが好ましい。即ち、アンチモン酸またはアンチモン酸よりも酸強度の弱い酸を発生する光酸発生剤である。この理由については後述する。
つまり、光、より具体的には紫外線を含む活性エネルギー線を照射することにより、例えばアンチモン酸を発生するような第一の光酸発生剤は、いずれのカチオン重合性樹脂を第一のカチオン重合性樹脂として用いる場合にも使用できる。アンチモン酸を発生する光酸発生剤は、アニオン部に以下の式3に示す構造を持つものである。
【0029】
【化3】

【0030】
アンチモン酸を発生する光酸発生剤の具体例を式4−aから式4−jにそれぞれ示す。
【0031】
【化4】

【0032】
また、第一のカチオン重合性樹脂として、主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂(例えば式1−aから式1−iでそれぞれ表される化合物)を用いる場合には、第一の光酸発生剤として以下のものも用いることができる。即ち、上記式4−aから式4−jに記載する化合物のアニオン部(SbF6-)を、PF6-またはCH3COO-に変更したアンチモン酸よりも酸強度の弱い酸を発生させる化合物等も用いることができる。
【0033】
第一の被覆樹脂層2aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記第一の被覆樹脂層2aの材料(第一のカチオン重合性樹脂および第一の光酸発生剤を含む)を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて基材1上に塗布する方法である。なお、第一の被覆樹脂層2aの材料は溶媒を使用せずに基材1上に付与することもできるが、溶媒を使用する場合は、基材1を溶解しない溶媒から適宜選択して使用する。
【0034】
なお、第一の被覆樹脂層2aには、他にも紫外線吸収剤やシランカップリング剤等の機能性付与材料を含むことができる。なお、被覆樹脂層2a中の第一のカチオン重合性樹脂の含有量は、被膜性の観点から、溶媒を使用する場合はその全体量の50質量%以上が好ましい。また、被覆樹脂層2a中の第一の光酸発生剤の含有量は、反応性の観点から、樹脂の1質量%程度が好ましい。
【0035】
(工程(2))
次に、第一の被覆樹脂層2a上に、第二のカチオン重合性樹脂と、第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層3aを積層する(図2(b))。
【0036】
第二のカチオン重合性樹脂は、主鎖に酸により分解可能な結合を有するものであれば何でも良く、例えば、式1−aから式1−iに示すような主鎖にエーテル結合やエステル結合を有するカチオン重合性樹脂が挙げられる。
【0037】
また、第二の光酸発生剤としては、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生するものであれば何でも良く、メチド酸を発生する光酸発生剤は、アニオン部に以下の式5に示す構造を持つ。
【0038】
【化5】

【0039】
メチド酸を発生する光酸発生剤の具体例を式6−aから式6−jにそれぞれ示す。
【0040】
【化6】

【0041】
第二の被覆樹脂層3aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記第二の被覆樹脂層3aの材料(第二のカチオン重合性樹脂および第二の光酸発生剤を含む)を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて第一の被覆樹脂層2aに塗布する方法である。第二の被覆樹脂層3aの材料は溶媒を使用せずに第一の被覆樹脂層2a上に付与することもできるが、溶媒を使用する場合、被覆樹脂層2aを溶解しない溶媒から適宜選択して使用する。
【0042】
なお、第二の被覆樹脂層3aには、他にも紫外線吸収剤やシランカップリング剤等の機能性付与材料を含むことができる。なお、被覆樹脂層3a中の第二のカチオン重合性樹脂の含有量は、被膜性の観点から、溶媒を使用する場合は全体量の50質量%以上が好ましい。また、被覆樹脂層3a中の第二の光酸発生剤の含有量は、反応性の観点から、樹脂の1質量%程度が好ましい。
【0043】
第二の被覆樹脂層3aの厚さとしては、後述する工程(4)においてカチオン重合性樹脂が光酸発生剤から発生した酸により完全に分解されない範囲であれば特に制限されるものではないが、第一の被覆樹脂層2a上の厚みとして5μm以上が望ましい。
【0044】
(工程(3))
次に、第一の被覆樹脂層2aおよび第二の被覆樹脂層3aに紫外線を含む活性エネルギー線(図2(c)の矢印)を露光し、現像することにより、第一の被覆樹脂層2a、および第二の被覆樹脂層3aを硬化させて被膜を形成する(図2(c)、(d))。なお、この被膜は、図2(d)に示すように、第一の被膜2bおよび、第二の被膜3bにより構成されている。
【0045】
(工程(4))
次に、これらの被膜を熱処理することで、被膜の表面、即ち前記第二の被膜3bの表層に親水層3cを形成する(図2(e))。なお、第二の被膜3bの表層とは、表面のことであり、親水層が形成されるところを意味している。熱処理は、オーブンやホットプレートで行うことができる。熱処理の温度は、第二の被覆樹脂層3aの第二の光酸発生剤から発生したメチド酸が、第二のカチオン重合性樹脂の主鎖にあるエーテル結合やエステル結合基を酸分解して極性基を生成させ、親水化させ、親水層3cを形成できる温度であればよい。
【0046】
ここで、工程(4)における熱処理温度と、親水層3cの残存エーテル比との相関を知るために、以下の条件にて測定を行った。即ち、第一の被覆樹脂層2aを設けずに、基材1上に直接、表1記載の酸により分解可能な結合としてエーテル結合を主鎖に含む第二のカチオン重合性樹脂と第二の光酸発生剤とを含んだ第二の被覆樹脂層を形成した。そして、それを露光、現像、熱処理をした際の、その被覆樹脂層の表層、すなわち親水層3cの残存エーテル数を測定した。図3に、この条件における熱処理温度と、親水層3cの残存エーテル比との相関を表したグラフを示す。なお、エーテル数は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で測定した際のエーテル由来のピーク強度と基準となるピーク強度の比で表している。なお、基準となるピーク強度とは、ここではCH基を用いている。
【0047】
【表1】

【0048】
図3より、以下の組み合わせにおいて、熱処理温度に応じて第二のカチオン重合性樹脂を含む親水層3cの残存エーテル数が減少していることがわかる。即ち、表1記載のNo.1の組み合わせであり、第二の被覆樹脂層3aに、第二のカチオン重合性樹脂として主鎖に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂(1−a)と、第二の光酸発生剤としてメチド酸を発生する光酸発生剤(6−a)とを含む組み合わせである。これは、光酸発生剤(6−a)から発生したメチド酸が、熱処理によってカチオン重合性樹脂(1−a)の持つ主鎖のエーテル結合を酸分解し、極性基を生成する(存在させる)ことを表している。
【0049】
なお、エーテル結合以外の酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂を用いた場合も、同様な傾向であると考えている。
【0050】
なお、表1のNo.3、即ち第二の被覆樹脂層3aにカチオン重合性樹脂(1−a)とアンチモン酸を発生する光酸発生剤(4−a)とを含む組み合わせでは、親水層3cのエーテル数が熱処理により減少しないことがわかる。即ち、主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂であっても、アンチモン酸では酸分解されないことを表している。これは、光酸発生剤から発生する酸の酸強度に因るものである。
【0051】
ここで、以下の表2を用いて光酸発生剤により発生する酸の酸強度について説明する。表2は光酸発生剤とその光酸発生剤から発生する酸の酸強度の序列を示した一例である。なお、光酸発生剤が発生する酸の強弱は、以下の方法により測定することができる。即ち、カチオン重合性樹脂を同じにし、かつ光酸発生剤添加量(モル数)も同じにした樹脂組成物を用いて、あるパターンを形成するのに要した露光量を比較することにより測定することができる。この露光量が小さいものほど酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤であると言える。これより、酸強度の序列は、メチド酸>アンチモン酸>リン酸>酢酸となる。
【0052】
【表2】

【0053】
つまり、主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂を酸分解する酸強度の基準はメチド酸であること、言い換えると、第二のカチオン重合性樹脂は、メチド酸により分解可能なことが必要であるということがわかる。
【0054】
次いで、図4に、図3のときと同様、基材上に直接表1記載の第二のカチオン重合性樹脂と第二の光酸発生剤を含む第二の被覆樹脂層を形成し、露光、熱処理して得た親水被膜の、熱処理温度と、親水被膜表面の純水による静的接触角との相関を示す。図3および図4から、親水層3cの残存エーテル数の減少に応じて接触角が低下していることがわかる。なお、親水被膜表面の純水による静的接触角の測定は、接触角測定機(商品名:「FACE CA−XA150」、協和界面科学株式会社製)を用いて行った。ここで行った接触角測定方法では、20°以下は測定限界である。
【0055】
つまり、図3および4より、以下の組み合わせでは、熱処理温度160℃以上で第二のカチオン重合性樹脂を含む第二の被膜3bの表層が容易に親水化されることが示されている。その組み合わせとは、第二の被覆樹脂層3aに、主鎖に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂(1−a)と、メチド酸を発生する光酸発生剤(6−a)とを含む組み合わせである。
【0056】
次いで、図5には、図3および4のときと同様、第一の被覆樹脂層を形成せずに、表1記載の組み合わせで形成した親水被膜の、熱処理温度と熱処理後の膜厚との相関を示す。なお、熱処理前の第二の被覆樹脂層の膜厚は20μmであった。図3および5より、親水層3cの残存エーテル数の減少に応じて熱処理後の樹脂膜厚が低下していることがわかる。つまり、これは、樹脂表層のエーテル結合が分解されるだけでなく、樹脂内部のエーテル結合も分解されていることを示している。この場合、樹脂層と基板との密着性が低下するなど、樹脂層の信頼性低下が懸念される。つまり、基板と密着する樹脂層(本発明では第一の被覆樹脂層)については、第一のカチオン重合性樹脂として、酸によって分解可能な結合を含まない化合物を使用することが好ましい。
【0057】
以上のように、樹脂層の信頼性を損ねずに第二の被覆樹脂層の表層を容易に親水化させるためには、以下のようにすることが好ましい。即ち、基材1上に第一の被覆樹脂層2aを形成する際、第一のカチオン重合性樹脂として、例えば式2−aから式2−eに示すような主鎖に酸により分解可能な結合を有さないカチオン重合性樹脂を用いる。ついで、その層2a上に、例えば式1−aから式1−iに示すような主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、例えば式6−aから式6−jに示すようなメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層3aを積層する。そして、その第二の被覆樹脂層3aの表層を親水化することが求められる。
【0058】
また、工程(4)における熱処理温度の上限であるが、工程(3)で得られる被膜の熱分解を考慮すると250℃以下が好ましい。
【0059】
次いで、以下にインクジェット記録ヘッドの製造方法を例示し、その工程中で、本発明の親水被膜の形成方法の一例を用いてインク吐出口を有する面(吐出口面)を容易に親水化する方法を説明する。
【0060】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法は、
インク流路部材と、インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板とを含むインクジェット記録ヘッドの製造方法である。なお、インク流路部材は、インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路とを形成し、かつ前記吐出口を有する面が親水化されている。また、本発明の製造方法は、以下の工程を含む。
(I)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層をエネルギー発生素子が形成された基板上に形成する工程。
(II)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程。
(III)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化させて、前記吐出口が形成された被膜を作製する工程。
(IV)工程(III)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜の前記吐出口を有する面を親水化してインク流路部材を形成する工程。
【0061】
本発明に係る方法により製造されるインクジェット記録ヘッドの一例を図6に示す。
【0062】
図6に示すインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギー発生素子5を複数有する基板4上に、表層が親水化された親水被膜であるインク流路部材15を有する。なお、インク流路部材15は、図7に示すように第一の被膜7b、第二の被膜8bおよび表層に親水層8cを有する。さらに、インク流路部材15は、インクを吐出するためのインク吐出口10と、インク吐出口10に連通しインクを保持するインク流路6bとを形成する。また、基板4には、インクをインク流路6bに供給するインク供給口11が設けられている。また、図7は、図6のインクジェット記録ヘッドの基板4の裏面にインク供給部材12を接着したインクジェット記録ヘッドの、図6におけるA−A’断面を示した図である。
【0063】
以下、本発明の実施形態の一例を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
基板4上には、図8(a)に示されているように、エネルギー発生素子5が所定のピッチで2列に複数個配置されている。なお、エネルギー発生素子5には素子を動作させるための制御信号入力電極(不図示)が接続されている。
【0065】
以下、図8(b)から(h)および、図7を用いて、説明を行う。図8(b)から(h)は、図6のA−A’断面に相当する工程断面図である。
【0066】
(工程(a1))
まず、エネルギー発生素子5が形成された基板4上に、ポジ型感光性樹脂を含むポジ型感光性樹脂層(不図示)を形成する。後述する工程(a2)のように、このポジ型感光性樹脂層を必要に応じてパターニングすることによりインク流路パターン6aを形成することができる。
【0067】
前記ポジ型感光性樹脂層に含まれるポジ型感光性樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aの露光に使用される紫外線に対する吸光度が低い材料が好ましい。また、その使用される紫外線よりも短波長の活性エネルギー線、例えば、ArFレーザーやKrFレーザー等のエキシマレーザー,DeepUV光等に感度を有する材料が好ましい。例えば、DeepUV光で露光可能なポリメチルイソプロペニルケトンなどを挙げることができる。
【0068】
前記ポジ型感光性樹脂層の形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。まず、前記ポジ型感光性樹脂を適宜溶媒に溶解し、スピンコート法により塗布する。その後、プリベークを行うことでポジ型感光性樹脂層を形成することができる。
【0069】
前記ポジ型感光性樹脂層の厚さは、所望のインク流路の高さに応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0070】
(工程(a2))
次に、前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングしてインク流路パターン6aを形成する(図8(b))。
【0071】
前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングする方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。まず、前記ポジ型感光性樹脂層に対して、そのポジ型感光性樹脂を感光可能な活性エネルギー線を、マスクを介して照射し、パターン露光する。その後、前記ポジ型感光性樹脂を溶解可能な溶媒等を用いて現像し、リンス処理を行うことで、インク流路パターン6aを形成することができる。
【0072】
(工程(a3):工程(I)に対応)
次に、インク流路パターン6a及び基板4上に、第一のカチオン重合性樹脂と第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層7aを形成する(図8(c))。
なお、第一のカチオン重合性樹脂としては、エポキシ系やオキセタン系、ビニルエーテル系などが挙げられるが、硬化収縮が小さいこと、密着性が良いことなどを考慮すると、エポキシ系、オキセタン系が好ましい。さらに、第一のカチオン重合性樹脂としては、主鎖にエーテル結合やエステル結合といった、酸により分解可能な結合を有さない化合物がより好ましく、先述の通り酸により分解可能な結合を有さない化合物としては、例えば式2−aから式2−eに示す化合物が挙げられる。
【0073】
また、第一の光酸発生剤は、第一のカチオン重合性樹脂として主鎖に酸により分解可能な結合を有さないカチオン重合性樹脂(例えば式2−aから式2−eに示す化合物)を用いる場合は、特に制限はなく公知の光酸発生剤から必要に応じて選択することができる。
しかし、第一のカチオン重合性樹脂として主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂(例えば式1−aから式1−iに示す化合物)を用いる場合は、第一の光酸発生剤はメチド酸よりも弱い酸強度の酸を発生する光酸発生剤を使用することが好ましい。これは、メチド酸を発生する光酸発生剤を使用した場合、カチオン重合性樹脂の主鎖が分解する懸念があるためである。
【0074】
メチド酸よりも弱い酸強度の酸を発生する光酸発生剤としては、先述の通り例えば式4−aから式4−jに示す化合物が挙げられる。
【0075】
第一の被覆樹脂層7aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記第一の被覆樹脂層7aの材料を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にてインク流路パターン6aおよび、基板4上に塗布する方法である。なお、被覆樹脂層7aの材料を溶解させる溶媒には、インク流路パターン6aを溶解しない溶媒から適宜選択して使用することができる。
【0076】
第一の被覆樹脂層7aの厚さは、樹脂層の強度を考慮してインク流路パターン6a上の厚み(第一の被覆樹脂層7a表面からインク流路パターン6aまでの距離)として3μm以上であることが好ましい。また、厚さの上限は、インク吐出口部の現像性が損なわれない範囲であれば特に制限されるものではないが、インク流路パターン6a上の厚みとして50μm以下が好ましい。
【0077】
(工程(a4):工程(II)に対応)
次に、第一の被覆樹脂層7a上に、第二のカチオン重合性樹脂と第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層8aを積層する(図8(d))。
【0078】
第二のカチオン重合性樹脂は、主鎖に酸により分解可能な結合を有するものであれば何でも良く、先述の通り例えば式1−aから式1−iに示すような化合物が挙げられる。
【0079】
第二の光酸発生剤は、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生するものであれば何でも良く、先述の通り例えば式6−aから式6−jに示す化合物が挙げられる。
【0080】
第二の被覆樹脂層8aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる
即ち、前記第二の被覆樹脂層8aの材料を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて第一の被覆樹脂層7a上に塗布する方法である。
【0081】
第二の被覆樹脂層8aの厚さとしては、後述する工程(a7)においてカチオン重合性樹脂が光酸発生剤より発生したメチド酸により完全に分解されない範囲であれば特に制限されるものではない。しかし、第一の被覆樹脂層7a上の厚みとして5μm以上が望ましい。
【0082】
(工程(a5):工程(III)に対応)
次に、第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aに紫外線を含む活性エネルギー線を露光し、現像することにより、第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aを硬化させる。これにより、インク吐出口10が形成された被膜を作製する。(図8(e)、(f))。なお、この被膜は、第一の被膜7bおよび、第二の被膜8bで構成されている。
【0083】
インク吐出口10の形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。まず、第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aに対して、インク吐出口10の形状に応じたマスク9を介して活性エネルギー線としてi線を照射する。その後、加熱し、現像、リンス処理を行うことで、第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aを硬化させて、それぞれ第一の被膜7b、第二の被膜8bを形成し、インク吐出口10が形成された被膜を作製することができる。
インク吐出口10の幅は、吐出するインク液滴の大きさによって適宜設定することができる。
【0084】
(工程(a6))
次に、エッチングにより、インク供給口11を形成する。さらにインク流路パターン6aを除去することによりインク流路6bを形成する(図8(g))。
【0085】
インク流路パターン6aの除去方法としては、例えば、インク流路パターン6aを溶解可能な溶媒に基板を浸漬し、除去する方法などがある。また、必要に応じて、インク流路パターン6aを感光可能な活性エネルギー線を用いて露光して溶解性を高めてもよい。
【0086】
(工程(a7):工程(IV)に対応)
次に、熱処理により、被膜の表面、即ち前記第二の被膜8b表層に親水層8cを形成する(図8(h))。
熱処理の温度としては、第二の被膜8bの第二の光酸発生剤から発生した酸が、第二のカチオン重合性樹脂のエーテル基やエステル基を酸分解して極性基を生成させ、親水化させ得る温度であれば良い。その温度は前記の通り160℃以上が好ましい。また、前記の通り被覆樹脂層の物性を考慮するとその温度は250℃以下が好ましい。
【0087】
なお、インク流路面の純水による接触角は50°以上であることが好ましい。
【0088】
ここで、インク流路面とは、第一の被膜7bのインク流路6b側の面であり、さらにこの部位の接触角は、例えば第一の被膜7bを基板4から剥がし、純水の静的接触角で測定ができる。
【0089】
その純水による接触角は、インクのリフィルが効率的に行われ、かつリフィル後のインクのメニスカス振動の安定性を考慮すると50°以上あることが好ましく、70°以下であることが好ましい。
【0090】
その後、エネルギー発生素子5を駆動させるための電気的接合を行う。さらに、インク供給のためのインク供給部材12等を接続して、インクジェット記録ヘッドが完成する(図7)。
【0091】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。また、本発明のインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【実施例】
【0092】
(インクジェット記録ヘッドの作製)
以下、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0093】
(接触角評価)
接触角測定機(商品名:「FACE CA−XA150」、協和界面科学株式会社製)を用いて、実施例で作製したインクジェット記録ヘッドのインク吐出口を有する面(インク吐出口面:図8の符号13)の純水静的接触角を測定した。
【0094】
(実施例1)
まず、図8(a)に示すように、エネルギー発生素子としての電気熱変換素子5を形成したシリコン基板4上に、ポジ型感光性樹脂として、ポリメチルイソプロペニルケトン(商品名:「ODUR−1010」、東京応化工業株式会社製)をスピンコートにより塗布した。次いで、120℃にて6分間プリベークを行った。さらに、DeepUV露光機(商品名:「UX−3000」、ウシオ電機株式会社製)にて、インク流路パターン6aのパターン露光(露光量:14J/cm2)を行った。その後、メチルイソブチルケトンで現像し、IPA(イソプロピルアルコール)でリンス処理を行った。これにより、インク流路パターン6aを形成した(図8(b))。なお、インク流路パターン6aの膜厚は10μmであった。
【0095】
次いで、下記樹脂組成物1をメチルイソブチルケトンとジエチレングリコールモノメチルエーテルとの混合溶媒に50質量%の濃度となるように溶解した。この溶液をスピンコートにてインク流路パターン6a及びシリコン基板4上に塗布し、第一の被覆樹脂層7aを形成した(図8c))。なお、インク流路パターン6a上における第一の被覆樹脂層7aの膜厚(第一の被覆樹脂層7a表面からインク流路パターン6aまでの距離)は10μmであった。
【0096】
(樹脂組成物1)
・第一のカチオン重合性樹脂
「157S70」(商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、式2−aで表される化合物) 100質量部
【0097】
【化7】

【0098】
(式2−a中、nは1以上の整数を表す)
・第一の光酸発生剤
式4−aで表される化合物 1.5質量部
【0099】
【化8】

【0100】
次いで、下記樹脂組成物2をメチルイソブチルケトンとジエチレングリコールモノメチルエーテルとの混合溶媒に50質量%の濃度となるように溶解した。次いで、この溶液をスピンコートにて第一の被覆樹脂層7a上に塗布し、第二の被覆樹脂層8aを形成した(図8d)。なお、第一の被覆樹脂7a上における第二の被覆樹脂層8aの膜厚は8μmであった。
【0101】
(樹脂組成物2)
・第二のカチオン重合性樹脂
「EHPE−3150」(商品名:ダイセル化学株式会社製、式1−aで表される化合物) 100質量部
【0102】
【化9】

【0103】
(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)
・第二の光酸発生剤
「GSID26−1」(商品名、チバ・ジャパン株式会社製、式6−aで表される化合物) 1.5質量部
【0104】
【化10】

【0105】
次いで、i線ステッパー露光機(キヤノン株式会社製、i5)を用いて、インク吐出口10の形状に応じたマスク9を介して第一の被覆樹脂層7aおよび第二の被覆樹脂層8aに対して露光(露光量:4000J/m2)を行った(図8(e))。
次いで、露光後ベーク(PEB)を90℃、4分間行い、さらに、メチルイソブチルケトンで現像および、IPAでリンス処理を行った。これにより、第一の被覆樹脂層7aおよび、第二の被覆樹脂層8aを硬化させて、インク吐出口10を形成する被膜(第一の被膜7bおよび第二の被膜8b)を作製した(図8(f))。なお、インク吐出口10はいずれもφ(直径)10μmであった。
【0106】
次に、これをTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)中でエッチングを行い、インク供給口11を形成した。さらに、インク流路パターン6aの溶解性を高めるために、インク流路パターン6aの形成の際に用いた前記DeepUV露光装置(商品名:「UX−3000」、ウシオ電機株式会社製)にて再び露光(露光量:27J/cm2)した。その後、乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬し、残存しているインク流路パターン6aを溶出した(図8(g))。
【0107】
次いで、200℃、1時間加熱し、第二の被膜8bの表層に第二のカチオン重合性樹脂由来の極性基を生成させて親水化させた(図8(h))。
【0108】
最後に、インク供給口11が形成されているシリコン基板4の裏面に、インク供給部材12を接着して、インクジェット記録ヘッドを完成した(図7)。
このインクジェット記録ヘッドのインク吐出口面の接触角評価結果を表3に示す。
【0109】
(実施例2)
樹脂組成物2の代わりに、下記樹脂組成物3を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0110】
(樹脂組成物3)
・第二のカチオン重合性樹脂
「XA8040」(商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、式1−eで表される化合物) 100質量部
【0111】
【化11】

【0112】
・第二の光酸発生剤
「GSID26−1」(商品名、チバ・ジャパン株式会社製、式6−aで表される化合物) 1.5質量部
(比較例1)
樹脂組成物2の代わりに、下記樹脂組成物4を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。なお、樹脂組成物4中のカチオン重合性樹脂(式2−aで表される化合物)は、酸により分解可能な結合を有しておらず、本発明に用いる第二のカチオン重合性樹脂の要件を満たしていない。
【0113】
(樹脂組成物4)
・カチオン重合性樹脂
「157S70」(商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、式2−aで表される化合物) 100質量部
・光酸発生剤
「GSID26−1」(商品名、チバ・ジャパン株式会社製、式6−aで表される化合物) 1.5質量部
(比較例2)
樹脂組成物1の代わりに、下記樹脂組成物5を用い、樹脂組成物2の代わりに前記樹脂組成物4を用いたこと以外は、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。
【0114】
(樹脂組成物5)
・カチオン重合性樹脂
「EHPE−3150」(商品名:ダイセル化学株式会社製、式1−aで表される化合物) 100質量部
・光酸発生剤
式4−aで表される化合物 1.5質量部
(比較例3)
樹脂組成物1の代わりに、前記樹脂組成物2を用い、樹脂組成物2の代わりに、前記樹脂組成物5を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。なお、樹脂組成物5中の光酸発生剤は、アンチモン酸を発生する光酸発生剤であり、本発明に用いる第二の光酸発生剤の要件を満たしていない。
【0115】
(比較例4)
樹脂組成物1の代わりに、前記樹脂組成物4を用い、樹脂組成物2の代わりに、前記樹脂組成物1を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。樹脂組成物1中のカチオン重合性樹脂(式2−aで表される化合物)は、本発明に用いる第二のカチオン重合性樹脂の要件を満たしていない。また、樹脂組成物1中の光酸発生剤(式4−aで表される化合物)も、本発明に用いる第二の光酸発生剤の要件を満たしていない。
【0116】
(比較例5)
樹脂組成物1の代わりに、前記樹脂組成物5を用い、第二の被覆樹脂層8aを形成しないこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
表3に示した通り、実施例1と実施例2により、インク吐出口面が親水処理されたインク流路部材15を有するインクジェット記録ヘッドが作製できた。
【符号の説明】
【0120】
1 基材
2a 第一の被覆樹脂層
2b 第一の被膜
3a 第二の被覆樹脂層
3b 第二の被膜
3c 親水層
4 基板(シリコン基板)
5 エネルギー発生素子(電気熱変換素子)
6a インク流路パターン
6b インク流路
7a 第一の被覆樹脂層
7b 第一の被膜
8a 第二の被覆樹脂層
8b 第二の被膜
8c 親水層
9 マスク
10 インク吐出口
11 インク供給口
12 インク供給部材
13 インク吐出口を有する面(インク吐出口面)
14 親水被膜
15 インク流路部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が親水化された被膜である親水被膜の形成方法であって、
(1)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層を基材上に形成する工程と、
(2)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程と、
(3)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化して被膜を形成する工程と、
(4)工程(3)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜表面を親水化して親水被膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする親水被膜の形成方法。
【請求項2】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合を含まないことを特徴とする請求項1に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項3】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖にエーテル結合を含んでいないことを特徴とする請求項1または2に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項4】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖にエステル結合を含んでいないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項5】
前記第一の光酸発生剤が、前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸を発生することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項6】
前記第二のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエーテル結合を含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項7】
前記第二のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエステル結合を含んでいることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項8】
前記第一のカチオン重合性樹脂が式2−aで表される化合物であり、前記第一の光酸発生剤が式4−aで表される化合物である
【化1】

(式2−a中、nは1以上の整数を表す)、
【化2】

ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項9】
前記第二のカチオン重合性樹脂が式1−aで表される化合物であり、前記第二の光酸発生剤が式6−aで表される化合物である
【化3】

(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)、
【化4】

ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項10】
工程(4)において、工程(3)で得られた被膜を熱処理する際の温度が、160℃以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法により得られる親水被膜であって、
表面に、前記第二のカチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、表面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とする親水被膜。
【請求項12】
インクを吐出するための吐出口と前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路とを形成し前記吐出口を有する面が親水化されたインク流路部材、
ならびに、インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板、
を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
(I)第一のカチオン重合性樹脂と、第一の光酸発生剤とを含む第一の被覆樹脂層をエネルギー発生素子が形成された基板上に形成する工程と、
(II)主鎖に酸により分解可能な結合を含む第二のカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりメチド酸を発生する第二の光酸発生剤とを含む第二の被覆樹脂層を、前記第一の被覆樹脂層に積層する工程と、
(III)前記第一および前記第二の被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記第一および前記第二の被覆樹脂層を硬化させ、前記吐出口が形成された被膜を作製する工程と、
(IV)工程(III)で得られた被膜を熱処理することでこの被膜の前記吐出口を有する面を親水化して前記インク流路部材を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合を含まないことを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖にエーテル結合を含んでいないことを特徴とする請求項12または13に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記第一のカチオン重合性樹脂が、主鎖にエステル結合を含んでいないことを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第一の光酸発生剤が、前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸を発生することを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記第二のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエーテル結合を含んでいることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記第二のカチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエステル結合を含んでいることを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項19】
前記第一のカチオン重合性樹脂が式2−aで表される化合物であり、第一の光酸発生剤が式4−aで表される化合物である
【化5】

(式2−a中、nは1以上の整数を表す)、
【化6】

ことを特徴とする請求項12〜18のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項20】
前記第二のカチオン重合性樹脂が式1−aで表される化合物であり、第二の光酸発生剤が式6−aで表される化合物である
【化7】

(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)、
【化8】

ことを特徴とする請求項12〜19のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項21】
工程(IV)において、工程(III)で得られた被膜を熱処理する際の温度が160℃以上であることを特徴とする請求項12〜20のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項22】
請求項12〜21のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により得られるインクジェット記録ヘッドであって、
前記吐出口を有する面に前記第二のカチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、前記吐出口を有する面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101410(P2012−101410A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250778(P2010−250778)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】