説明

角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法

【課題】
回転移動軸の角度割り出し精度測定を容易し、測定時間の短縮とコストの削減を可能にする角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法を提供すること。
【解決手段】
エンコーダ11と、エンコーダ11の摺動抵抗の大きさに対応する外径形状と長さとを有する取付けシャフト12と、補正値を算出する演算部とを備えた角度割り出し精度測定装置10により回転移動軸13の角度割り出し精度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具と被加工物とを相対的に移動させて被加工物の切削加工を行う複合加工機の回転移動軸の角度割り出し精度を校正する角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライス盤や旋盤などの機能を備えた複合加工機では、切削工具と被加工物とをそれぞれ各種軸にチャッキングした後、切削工具と被加工物とを相対的に移動させて切削加工が行われる。
【0003】
このような加工装置では、より高い精度の加工が求められるため、各種軸の移動精度は常に高度に保たれている必要がある。しかし、長期の使用による軸の消耗や破損等の異常、取り付け時や交換時の取り付け不良、または重量や抵抗負荷による変形等の様々な原因により移動精度に問題が生ずる場合があり、この問題を検査、修正するため各軸は定期的または適宜校正作業が行われる。
【0004】
このような校正作業において、特に回転移動軸の角度割り出し精度を測定する方法としては、従来レーザ干渉計と2枚の円板の対向する面に高い精度で等角度に形成された凹凸形状を有するハース継手(Hirth coupling)とを備えた角度変位校正装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1に記載されるような校正装置では、まず校正装置に備えられた2枚の円板からなるハース継手の下側円板を、校正を行う加工装置の回転移動軸に固定する。続いて、校正されている回転移動軸の回転運動に影響されない位置に取り付けられた別の軸等に、上側円板を所定の角度位置で固定する。このとき、校正装置の上下の円板の回転軸は、回転移動軸の回転中心に合わせられ、レーザ干渉計のミラーが上側円板に結合するようにレーザ干渉計が設置される。
【0006】
校正作業では、始めにハース継手とレーザ干渉計を初期位置に戻してから、上側円板を持ち上げてハース継手の係合を解除する。続いて、上側円板をその位置に保持したまま、回転移動軸を規定の回転位置まで移動させた後に2つの円板を再び係合させる。
【0007】
下側円板は、回転移動軸に固定されているので、上側円板が下側円板と再係合する際の上側円板のその初期位置からの回転が、回転移動軸の所定の回転位置と実際の位置の間の角度誤差の量となる。このとき、レーザ干渉計のミラーは上側円板に固定されているので、光学系の対応する角運動がレーザ干渉計によって測定され、角度誤差の量が測定される。
【特許文献1】特許3388738号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載される校正装置では校正結果(または修正する為の補正値)を求める為に、前述のような動作を例えば360度の範囲にわたり10度毎に繰り返し、各角度における角度誤差の量が測定される。この測定は複数回実施され、全ての角度誤差の量に基づき校正結果が算出される。
【0009】
しかし、このような測定では、10度毎程度しか測定が出来ないために測定回数が非常に多く、円板を上下させる動作にも時間がかかり、回転する速度を上げることも容易ではないため、ユーザーにとっては加工装置が長時間停止されることとなり、メーカーにとっては加工装置の検査時間が長時間となって出荷に要する時間が長時間となり生産性を著しく低下させていた。更に手動で測定を行う場合は、作業者が長時間測定装置を操作する必要があるため、コストを増大させる大きな問題となっていた。
【0010】
本発明はこのような問題に対応するために成されたものであり、複合加工機に備えられた回転移動軸の角度割り出し精度測定を容易にし、測定時間の短縮とコストの削減を可能にする角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、切削工具と被加工物とを相対的に移動させて前記被加工物の切削加工を行う複合加工機の回転移動軸の角度割り出し精度を校正する角度割り出し精度測定装置において、前記角度割り出し精度測定装置には、前記回転移動軸が前記複合加工機に備えられた制御装置により回転した回転角度と、実際に回転した回転角度との誤差を計測するエンコーダと、前記エンコーダの摺動抵抗の大きさに対応する外径形状と長さとを有する取付けシャフトと、前記エンコーダにより検出された回転角度の誤差より前記回転移動軸を補正する補正値を算出する演算部と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、本発明は前記目的を達成するために、前記角度割り出し精度測定装置は、前記取付けシャフトの撓み量を計測する計測装置を備え、前記計測装置により計測された撓み量に基づき、前記演算部により算出される前記回転移動軸を補正する補正値を該演算部で補正することも特徴としている。
【0013】
本発明によれば、被加工物の切削加工を行う複合加工機の回転移動軸の角度割り出し精度を校正する角度割り出し精度測定装置には、複合加工機に備えられた制御装置により回転移動軸が回転した回転角度と実際に回転した回転角度との誤差を計測するエンコーダが、回転移動軸の回転中心と同じ回転中心となるように備えられている。回転角度の誤差は演算部により処理され回転移動軸を補正する補正値が算出される。
【0014】
エンコーダは、同じく角度割り出し精度測定装置に設けられた取付けシャフトにより回転移動軸に取り付けられる。このとき、測定を行う際にエンコーダに発生する摺動抵抗の大きさに合わせ、取付けシャフトが摺動抵抗により規定の値以上に変形しない強度となるように取付けシャフトの外径と長さが調整されている。
【0015】
これにより、回転移動軸の回転角度がエンコーダへ精密に伝達され高い再現性と精度で角度割り出し精度が測定可能となる。更に、エンコーダによる測定のため、所望の回転角度まで小さい回転角度毎に移動させて測定する必要がなく、回転以外の移動が発生しないため、容易に自動化が可能であって、測定時間の短縮とコストの削減を可能にする。
【0016】
また、本発明では、取付けシャフトに備えられた計測装置により計測される取付けシャフトの撓み量は演算部にて処理され、処理された撓み量に基づき演算部により算出された回転移動軸を補正する補正値が修正される。
【0017】
これにより、取付けシャフトがエンコーダの摺動抵抗の大きさに対応するだけの外径形状と長さを備えていなかった場合にも、算出される補正値が修正されるので、高い精度で角度割り出し精度が測定可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法によれば、エンコーダにより高い再現性と精度で角度割り出し精度が測定可能となり、容易に自動化が可能であって測定時間の短縮とコストの削減を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明に係る測定ヘッド調整装置、及び角度割り出し精度測定方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0020】
まず、本発明に係わる角度割り出し精度測定装置の構成を説明する。図1は本発明に係わる角度割り出し精度測定装置の構成を模式的に示した斜視図である。
【0021】
角度割り出し精度測定装置10は、エンコーダ11と取付けシャフト12と不図示の演算部を備え、旋盤やフライス盤等の機能を備えた複合加工機に取り付けられた回転移動軸13の角度割り出し精度の測定を行う。
【0022】
エンコーダ11は、回転する中心部11Aと固定される外周部11Bにより構成され、複合加工機に備えられた制御装置により回転した回転移動軸13の回転角度と実際に回転移動軸13が回転した回転角度との誤差を計測する。
【0023】
取付けシャフト12は、一端がエンコーダ11の中心部11Aに嵌合され、他端が回転移動軸13に設けられた爪14に把持されるまたはネジ等により回転移動軸13に固定される。これによりエンコーダ11は、回転中心が回転移動軸13の回転中心と同じになるように取付けシャフト12を介して回転移動軸13に固定される。
【0024】
エンコーダ11の外周部11Bは、回転移動軸13を除く複合加工機のいずれかの場所に固定される。例えば、回転移動軸13の回転運動に影響されない、別の移動軸15等に固定される。
【0025】
このように取り付けられた角度割り出し精度測定装置10の取付けシャフト12は、測定の際にエンコーダ11に発生する摺動抵抗の大きさに合わせ、取付けシャフト12が摺動抵抗により規定の値以上に変形しない強度となるように取付けシャフトの外径形状Dと長さLが調整されている。
【0026】
これにより、回転移動軸13の実際に回転した回転角度がエンコーダへ精密に伝達され高い再現性と精度で角度割り出し精度が測定可能となる。
【0027】
また、角度割り出し精度測定装置10には、シャフト12の撓み量を計測する不図示の歪ゲージ、電気マイクロメータ等による計測装置が備えられている。
【0028】
計測装置により計測される取付けシャフト12の撓み量は演算部にて処理され、処理された撓み量に基づき演算部により算出された回転移動軸13を補正する補正値が修正される。
【0029】
これにより、取付けシャフト12がエンコーダ11の摺動抵抗の大きさに対応するだけの外径形状と長さを備えていなかった場合にも、算出される補正値が修正されるので、高い精度で角度割り出し精度が測定可能となる。
【0030】
次に、本発明に係わる角度割り出し精度測定方法の手順を説明する。図2は本発明に係わる角度割り出し精度測定方法の手順を示した図である。
【0031】
まず始めに、図1に示す角度割り出し精度測定装置10は、エンコーダ11の中心部11Aが回転移動軸13に取付けシャフト12を介して取り付けられ、外周部11Bが他の移動軸15に固定される。このように取り付けられた角度割り出し精度測定装置10のエンコーダ11の中心部11Aは、回転移動軸13を回転移動させて角度の誤差を測定する際の基準位置となるレファレンス点まで回転移動される(ステップS1)。
【0032】
続いて、回転移動軸13を角度割り出し精度の測定開始位置まで回転させる(ステップS2)。
【0033】
続いて、回転移動軸13の回転が停止したところで、複合加工機に備えられた制御装置により回転した角度と実際に回転した角度の誤差の測定が開始され、角度誤差の量を取得する。角度誤差の量を取得後、回転移動軸13の1周分の回転移動を所望の数の測定点に分割した角度分だけ回転移動軸13を回転移動させる。(ステップS3)。
【0034】
続いて、1周分の全ての測定点が測定されているかが判断される。全ての測定点が終了していない場合は、再びステップS3を行い角度誤差の量が取得され、分割された角度分だけ回転移動軸13を回転移動させる(ステップS4:No)。全ての測定点が終了していた場合は次のステップを実施する(ステップS4:Yes)。
【0035】
次のステップでは、1周分の測定が指定された回数実施されているか判断される。指定された所望の回数の測定が行われていない場合は、ステップS3へ戻り同様の測定を実施する(ステップS5:No)。測定が指定された所望の回数全て行われていた場合は次のステップを実施する(ステップS5:Yes)。
【0036】
次のステップでは、取得された各角度での角度誤差の量に基づき演算部によって補正値が算出されてその値が複合加工装置の制御部に送信される、または測定した角度誤差の結果がモニタ、プリンタ等の出力装置により出力される(ステップS6)。
【0037】
続いて、全ての測定、結果の処理が終了した時点で回転移動軸13がファレンス点まで回転移動して戻り校正作業を終了する(ステップS7)。
【0038】
次に、本発明に係わる角度割り出し精度測定装置の具体的な実施例を示す。図3は加工装置に取り付けられた角度割り出し精度測定装置の側面断面図である。
【0039】
角度割り出し精度測定装置20には、エンコーダ21と取付けシャフト22とが備えられている。
【0040】
エンコーダ21は、回転する中心部21Aと固定される外周部21Bにより構成され、取付けシャフト22は、一端がエンコーダ21の中心部21Aに嵌合され、他端が加工装置に備えられた回転移動軸23の回転中心に設けられた固定板24にボルトにより固定される。
【0041】
これによりエンコーダ21は、回転中心が回転移動軸23の回転中心と同じなるように取付けシャフト22を介して回転移動軸23に固定される。
【0042】
エンコーダ21の外周部21Bはアーム25の先端に取り付けられた固定具26に固定される。
【0043】
このように取り付けられた角度割り出し精度測定装置20の取付けシャフト22は、エンコーダ21に発生する摺動抵抗の大きさに合わせ、取付けシャフト22が摺動抵抗により規定の値以上に変形しない強度となるように取付けシャフトの外径形状Dと長さLが調整される。
【0044】
例えば、図4に示されるように、Al(A5056)をシャフト22の素材として使用する場合、摺動抵抗によるシャフト22に発生する変形が0.1μm以下となるように、回転力が0.2Nとなる際には、外径形状DがD=φ20mmよりもD=φ32mmであることが好ましく、長さLがL=80mmよりL=40mmとなるほうが好ましい。
【0045】
また、角度割り出し精度測定装置20には、シャフト22の撓み量を計測する不図示の歪ゲージ、電気マイクロメータ等による計測装置が備えられ、取付けシャフト12の外径形状と長さが好ましい値に足りず撓み量が所定の値を超えた場合、測定装置により計測される取付けシャフト22の撓み量は演算部にて処理され、処理された撓み量に基づき演算部により算出された回転移動軸23を補正する補正値が修正される。
【0046】
以上、説明したように、本発明に係わる角度割り出し精度測定装置、及び角度割り出し精度測定方法によれば、回転移動軸の回転角度がエンコーダへ精密に伝達され、エンコーダにより高い再現性と精度で角度割り出し精度が測定可能となる。また、エンコーダによる測定のため、所望の回転角度まで小さい回転角度毎に移動させて測定する必要がなく、回転以外の移動が発生しないため、容易に自動化が可能であって測定時間の短縮とコストの削減を可能にする。
【0047】
更に、取付けシャフトがエンコーダの摺動抵抗の大きさに対応するだけの外径形状と長さを備えていなかった場合にも、算出される補正値が修正されるので、高い精度で角度割り出し精度が測定可能となる。
【0048】
また、このような検査装置の場合、トレーサビリィティ体系を明確にする必要があるが、ロータリー式のエンコーダの場合、JCSS(Japan Calibration System)認証を受けた校正機関で校正証明を受けることが可能であり、国家間相互認証MRA(Mutual Recognition Arrangement)により国際的な精度認証を受けられることから、検査装置として安心して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係わる角度割り出し精度測定装置の構成を模式的に示した斜視図。
【図2】本発明に係わる角度割り出し精度測定方法の手順を示した図。
【図3】加工装置に取り付けられた角度割り出し精度測定装置の側面断面図。
【図4】取り付けシャフトの外径形状と長さと撓み量の関係を示した図表。
【符号の説明】
【0050】
10、20…角度割り出し精度測定装置,11、21…エンコーダ,11A、21A…中心部,11B、21B…外周部,12、22…取付けシャフト,13、23…回転移動軸,14…爪,15…移動軸,24…固定板,25…アーム,26…固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具と被加工物とを相対的に移動させて前記被加工物の切削加工を行う複合加工機の回転移動軸の角度割り出し精度を校正する角度割り出し精度測定装置において、
前記角度割り出し精度測定装置には、前記回転移動軸が前記複合加工機に備えられた制御装置により回転した回転角度と、実際に回転した回転角度との誤差を計測するエンコーダと、
前記エンコーダの摺動抵抗の大きさに対応する外径形状と長さとを有する取付けシャフトと、
前記エンコーダにより検出された回転角度の誤差より前記回転移動軸を補正する補正値を算出する演算部と、を備えたことを特徴とする角度割り出し精度測定装置。
【請求項2】
前記エンコーダは、前記取付けシャフトを介して前記回転移動軸と同じ回転中心となるように該回転移動軸に中心部が固定され、外周部が該回転移動軸を除く前記複合加工機のいずれかの場所に固定されることを特徴とする請求項1に記載の角度割り出し精度測定装置。
【請求項3】
前記取付けシャフトは、前記エンコーダの摺動抵抗の大きさにより回転方向に発生する撓み量が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の角度割り出し精度測定装置。
【請求項4】
前記角度割り出し精度測定装置は、前記取付けシャフトの撓み量を計測する計測装置を備え、前記計測装置により計測された撓み量に基づき、前記演算部により算出される前記回転移動軸を補正する補正値を該演算部で補正することを特徴とする請求項1、2、または3のいずれか1項に記載の角度割り出し精度測定装置。
【請求項5】
切削工具と被加工物とを相対的に移動させて前記被加工物の切削加工を行う複合加工機の回転移動軸に、摺動抵抗の大きさに対応する外径形状と長さとを有する取付けシャフトを介して前記回転移動軸と同じ回転中心となるように中心部が固定され、外周部が該回転移動軸を除く前記複合加工機のいずれかの場所に固定されるエンコーダにより、前記回転移動軸が前記複合加工機に備えられた制御装置により回転した回転角度と、実際に回転した回転角度との誤差を計測し、前記エンコーダにより検出された回転角度の誤差より演算部で前記回転移動軸を補正する補正値を算出し、前記補正値に基づき前記制御装置により前記複合加工機を駆動させ、前記回転移動軸の角度割り出し精度を校正する角度割り出し精度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−281468(P2008−281468A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126560(P2007−126560)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】