説明

角度検出装置

【課題】温度変化による影響を受ける要因を演算により除去し、正確な角度測定を実施する。
【解決手段】シャフト12のV字溝14の両斜辺は中線Nを中心にその両側に角度±φだけ傾斜し、両斜辺にホール素子のセンサ15a、15bを取り付ける。一様な磁束密度Bの磁界内において、シャフト12を角度θ回転させると、センサ15a、15bの出力Va、Vbは、Ka、Kbをホール係数、da、dbを厚み、供給電流をIとすると、Va=(Ka/da)・I・B・sin(φ+θ)、Vb=(Kb/db)・I・B・sin(φ−θ)、(Va−Vb)/(Va+Vb)=(cosφ・sinθ)/(sinφ・cosθ)=tanθ/tanφとなり、tanθ=tanφ・(Va−Vb)/(Va+Vb)となり、tanθはKa、Kb、da、db、I、Bに無関係に求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール素子を用いた角度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホール素子を用いた角度センサにおいては、基本的に図5に示すように、マグネットにより発生した一様な磁束密度Bの磁界内において、ホール素子1を配置し、所定の電流Iを供給し、出力Vを求めることにより、磁束の方向とホール素子1とが形成する角度θを求めている。
【0003】
この場合に、ホール素子1のホール係数をK、厚さをd、供給電流をI、磁束密度をBを基に、ホール素子1の出力Vは次式により得られる。
V=(K/d)・I・B・sinθ …(1)
【0004】
また、2つのホール素子を用いて回転角を検知する回転角度検出器が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−95402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ホール素子は周囲の温度変化等に起因して、ホール係数K等が変化し、出力Vが変動する虞れがある。そのために、正確な角度θを求めるためには、温度検出センサを備えるなどして、温度補正演算を行うことが好ましい。
【0007】
しかし、特許文献1の回転角度検出器では、2つのホール素子を用いてホール係数の温度の影響を或る程度相殺することができる。
【0008】
この特許文献1の回転角度検出器は一般的な広い範囲の角度検出を目的としており、微小角度の検出については精度良く測定することはできない。この特許文献1においては、測定すべき角度θが0付近では、一方のホール素子の角度検出面の向きは0゜方向に、他方のホール素子の向きは90゜方向となる。このような角度センサでは、測定角が0゜又は90゜付近では両ホール素子の条件が大きく異なるため測定精度が悪い。
【0009】
また特許文献1では、2つのホール素子の出力の比を基に測定を行っているが、2つの出力が大きく異なる場合には、これらの出力に含まれる誤差の影響が測定値に大きく現れる。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、2つのホール素子を用いて、測定範囲において両ホール素子の条件を揃えて、更に出力の差分を基に算出を行うことにより、微小角度の高精度な検出を行い得る角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る角度検出装置は、磁束密度が一様な磁界内にホール素子を配置して、該ホール素子により角度θを検出する角度検出装置において、前記磁束の方向と平行な中線に対し角度±φ傾いた+φ軸と−φ軸に沿ってそれぞれ配置したホール素子から成る第1、第2センサと、前記磁束の方向に対し前記中線が相対的に角度θ傾いた場合に、前記第1、第2センサの出力Va、Vbを求める検出回路と、該検出回路の出力からtanθ=tanφ・(Va−Vb)/(Va+Vb)を演算して角度θを求める演算回路とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る角度検出装置によれば、2つのホール素子を用いて温度変化による影響を受ける要因を除去し、ホール素子の出力の差分により角度を求め、特に微小な角度測定が好適に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の構成図である。
【図2】拡大図である。
【図3】回路構成図である。
【図4】原理的説明図である。
【図5】ホール素子を用いた角度センサの基本的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図1〜図4に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
実施例の角度検出装置においては、図1に示すように、周囲の固定のマグネット保持体11に対して中心のシャフト12の回転角θを測定するものであり、例えばシャフト12は液面計のフロートの上下動を微小な回転角度の変位として検出するようになっている。透磁性材料から成るマグネット保持体11には、一対のマグネット13a、13bが取り付けられ、マグネット13a、13b間には、N極からS極に向う平行磁束による一様な磁界が形成されている。
【0015】
シャフト12にはV字溝14が設けられ、図2の拡大図が示すようにシャフト12のV字溝14の両斜辺は、中線Nを中心にその両側に角度±φ(φは90゜以下、好ましくは10゜〜15゜)だけ傾斜している。V字溝14の両斜辺にホール素子から成る第1センサ15a、第2センサ15bが基板を介して又は直接にそれぞれ取り付けられている。
【0016】
第1、第2センサ15a、15bは磁束検出面である平面をV字溝14の斜辺に平行して、例えば図示しないセンサ回路基板と共に接着されている。この+φ軸、−φ軸に沿って、第1センサ15a、第2センサ15bの磁束検出面がそれぞれ配置されている。そして、中線Nが磁束と平行な場合をシャフト12の角度θが0となるようにしている。なお、マグネット保持体11とシャフト12の関係は相対的なものであり、マグネット保持体11が回転し、シャフト12が固定であってもよい。
【0017】
図3は回路構成図であり、第1センサ15a、第2センサ15bの基板に搭載されたセンサ回路を介しての出力Va、Vbは、それぞれ検出回路16a、16bを介して演算回路17に接続され、更に表示回路18に接続されている。また、第1センサ15a、第2センサ15bのセンサ回路には、電流供給回路19から定電流Iが供給されている。
【0018】
図4は原理的説明図であり、磁束密度Bの一様な磁界内において、シャフト12を図4に示すように角度φよりも小さい角度θだけ回転させると、第1、第2センサ15a、15bの出力Va、Vbは、Ka、Kbをそれぞれのホール係数、da、dbを厚み、供給電流をI、磁束密度をBとすると、(1)式を基に、それぞれ(2)、(3)式となる。
Va=(Ka/da)・I・B・sin(φ+θ) …(2)
Vb=(Kb/db)・I・B・sin(φ−θ) …(3)
【0019】
この(2)、(3)式に、sin(α±β)=sinα・cosβ±cosα・sinβの三角公式を導入すると、次の(2)'、(3)'式が得られる。
Va=(Ka/da)・I・B・(sinφ・cosθ+cosφ・sinθ) …(2)'
Vb=(Kb/db)・I・B・(sinφ・cosθ−cosφ・sinθ) …(3)'
【0020】
ここで、出力Va、Vbの差Va−Vbを求めると次の(4)式となり、出力Va、Vbの和Va+Vbを求めると次の(5)式となる。
Va−Vb=2(Ka/da)・I・B・cosφ・sinθ …(4)
Va+Vb=2(Kb/db)・I・B・sinφ・cosθ …(5)
【0021】
ホール素子が同じ種類であれば、通常はKa=Kb、da=dbである、しかし、ホール係数Ka、Kb、厚みda、dbは厳密には若干異なり、シャフト12の中線Nを磁束方向と一致させたθ=0においても、Va≠Vbとなる。この場合においては、θ=0の状態、つまり零点調整において、第1センサ15aと第2センサ15bの出力Va、Vbを求め、Va=Vbとなるように定数を補正して正規化する。
【0022】
このようにして、出力Va、Vbを正規化して、(Va−Vb)/(Va+Vb)を求めると、次の(6)、(7)式が得られる。
(Va−Vb)/(Va+Vb)=(cosφ・sinθ)/(sinφ・cosθ)
=tanθ/tanφ …(6)
∴ tanθ=tanφ・(Va−Vb)/(Va+Vb) …(7)
【0023】
このように(7)式においては、第1、第2センサ15a、15bのホール係数Ka、Kb、厚みda、db、供給電流I、磁束密度Bは相殺されることになる。
【0024】
しかし、出力Va、Vbを正規化しても、ホール係数Ka、Kbは温度により変動することがあり、その影響は(7)式の測定値に及ぶこともある。このため、個々のホール素子の温度特性を調べて、温度係数が近似した対となるホール素子を選択して用いれば、第1、第2センサ15a、15bの温度変化による影響を更に少なくすることができる。
【0025】
なお、tanφは定数であるから、出力Va、Vbによる(7)式の演算によりtanθが得られ、三角関数表等から角度θを求めることができる。
【0026】
また、角度θが十分に微小角であれば、sinθ≒θ、cosθ≒1なので、tanθ=θとなり、(7)式から次の(7)’式が得られる。
θ=tanφ・(Va−Vb)/(Va+Vb) …(7)’
【0027】
また、第1、第2センサ15a、15bの出力Va、Vbに、(2)"、(3)"式のような磁束密度とは無関係で、供給電流Iと関係するオフセット電圧Oa、Obが重畳していることがある。
Va=(Ka/d)・I・B・sin(φ+θ)+Oa …(2)"
Vb=(Kb/d)・I・B・sin(φ−θ)+Ob …(3)"
【0028】
この場合には、マグネット13a、13bを取り除いた磁束密度0の無磁界状態において、第1、第2センサ15a、15bに電流Iを供給することにより、オフセット電圧Oa、Obを求めることができる。そこで、予め出力Va、Vbからこのオフセット電圧Oa、Obを差し引いておけばよい。
【符号の説明】
【0029】
11 マグネット保持体
12 シャフト
13a、13b マグネット
14 V字溝
15a 第1センサ
15b 第2センサ
16a、16b 検出回路
17 演算回路
18 表示回路
19 電流供給回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束密度が一様な磁界内にホール素子を配置して、該ホール素子により角度θを検出する角度検出装置において、前記磁束の方向と平行な中線に対し角度±φ傾いた+φ軸と−φ軸に沿ってそれぞれ配置したホール素子から成る第1、第2センサと、前記磁束の方向に対し前記中線が相対的に角度θ傾いた場合に、前記第1、第2センサの出力Va、Vbを求める検出回路と、該検出回路の出力からtanθ=tanφ・(Va−Vb)/(Va+Vb)を演算して角度θを求める演算回路とを有することを特徴とする角度検出装置。
【請求項2】
前記+φ軸、−φ軸はV字溝の両斜辺としたことを特徴とする請求項1に記載の角度検出装置。
【請求項3】
前記角度θが微小角の場合にtanθ≒θとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の角度検出装置。
【請求項4】
前記中線を前記磁束の方向に一致させたθ=0において、前記出力Va、VbがVa=Vbとなるように零点調整することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の角度検出装置。
【請求項5】
無磁界状態において、前記出力Va、VbがVa=Vb=0となるように出力Va、Vbに含まれるオフセット電圧を補正することを特徴とする請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載の角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220194(P2012−220194A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82542(P2011−82542)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(390026996)東京計装株式会社 (57)
【Fターム(参考)】