説明

角度測定方法及び角度測定システム

【課題】回転角度を高精度且つ短時間で測定すること。
【解決手段】回転が一定範囲とされた支持基準体であるエンコーダ本体2aと、エンコーダ本体2aに対し全周回転自在に軸支された駆動する回転体である回転軸3とを有し、エンコーダ本体2aに対する回転軸3の相対的な回転角度を検出する相対的角度検出手段としてのロータリエンコーダ2と、エンコーダ本体2a及び回転軸3から切り離されて、エンコーダ本体2aの回転角度を光学式角度検出手段としての非接触角度検出手段20とを備える。これにより、ロータリエンコーダ2が検出した回転角度を、非接触角度検出手段20で検出した回転角度に基づいて補正することができ、回転角度を高精度且つ短時間で測定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転角度を精密に測定することが求められる技術分野に好適に利用することができる角度測定方法及び角度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械等における回転体の角度割出精度を精密に測定するため、多面鏡とオートコリメータを用いる角度測定方法(以下「多面鏡方式」という)や、ハースカップリングとレーザ干渉計を用いる角度測定方法(以下「ハースカップリング方式」という)が行なわれていた。
【0003】
多面鏡方式では、多面鏡を載せた被測定物の回転角と多面鏡の角度との差を高精度なオートコリメータで測定する。
【0004】
ハースカップリング方式では、ハースカップリングが取り付けられた被測定物を所定の目標角度変位で回転し、ハースカップリングの結合を外した後に目標角度変位の分だけハースカップリングを逆回転し、その逆角度変位とレーザ干渉計で測定された基準位置からの角度変位との合計を、被測定物の目標角度変位と比較する(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平06−502727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の角度測定技術では、測定に時間がかかる、測定精度の向上が困難である、という欠点があった。
【0007】
多面鏡方式では、多面鏡の角度と被測定物の角度との位相角を種々変更して測定を繰り返すが、操作者の手作業によって角度を割出すため、測定者は緊張した測定作業を長時間連続して継続する必要がある。また、分解能が粗く、装置を長時間安定に保つことが困難であるため、測定精度の向上にはどうしても限界があった。
【0008】
ハースカップリング方式では、被測定物を目標角度変位で回転した後、その目標角度変位の分だけハースカップリングを逆回転してレーザ干渉計の反射鏡を元の位置に戻す首振動作が必要であるため、全体の測定時間が長くなる。また、角度測定の精度がハースカップリングの歯の分解能に依存するとともに、正回転及び逆回転の繰り返し時にハースカップリングの歯で伝達誤差が発生するので、測定精度向上には限界があった。
【0009】
また、回転角度を検出するデバイスとしてロータリエンコーダが知られているが、測定精度を許容範囲内に収めるには被測定物の回転軸に対してロータリエンコーダを精度良く取り付ける必要があり、現実的にはロータリエンコーダの精度良い取り付けがあまり容易でないことから、ロータリエンコーダの利用が阻害されるという課題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、回転角度を高精度且つ短時間で測定することができる角度測定方法及び角度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、本体部と前記本体部に対し回転自在な回転軸と前記回転軸に取り付けられたコード部と前記本体部に固定されて前記コード部のコードを読み取る読取部とを有するロータリエンコーダを用いる角度測定方法であって、回転駆動される被測定物の回転軸に前記ロータリエンコーダの回転軸を取り付けるとともに、前記被測定物の回転軸と前記ロータリエンコーダの回転軸との偏心を許容するように、前記ロータリエンコーダの回転軸に直交する面内における前記ロータリエンコーダの本体部の変位を一定の遊び範囲内に規制し、前記ロータリエンコーダの読取部の読み取ったコードに基づいて前記ロータリエンコーダの回転軸の回転角度を測定するとともに、非接触で角度を検出する非接触角度検出手段により前記ロータリエンコーダの回転軸の回転角度測定開始時点からの前記ロータリエンコーダの本体部の変化した角度を検出し、前記ロータリエンコーダを用いて測定された回転角度を、前記非接触角度検出手段で検出された前記ロータリエンコーダの本体部の変化した角度に基づいて補正することを特徴とする角度測定方法を提供する。この構成により、ロータリエンコーダの測定値が非接触角度検出手段の測定値で補正されるので、従来の多面鏡方式やハースカップリング方式の角度測定技術と比較して、短時間且つ精度良く回転角度を測定することができる。また、被測定物の回転軸に対するロータリエンコーダの回転軸の偏心量の許容範囲をロータリエンコーダの仕様よりも大きくすることができるので、被測定物に対するロータリエンコーダの取付が大変容易になる。即ち、本発明により、ロータリエンコーダを用いて回転角度の測定を高精度且つ短時間で行なえるようになるので、工作機械等の生産能力アップに大きく貢献する。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記ロータリエンコーダの本体部の変位を前記一定の遊び範囲内で許容しつつ前記ロータリエンコーダの本体部を係止する治具を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記ロータリエンコーダの本体部に錘を取り付け、前記ロータリエンコーダの本体部を重力方向に付勢することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、本体部と前記本体部に対し回転自在な回転軸と前記回転軸に取り付けられたコード部と前記本体部に固定されて前記コード部のコードを読み取る読取部とを有するロータリエンコーダを用いる角度測定方法であって、回転駆動される被測定物の回転軸に前記ロータリエンコーダの本体部を取り付けるとともに、前記被測定物の回転軸と前記ロータリエンコーダの回転軸との偏心を許容するように、前記ロータリエンコーダの回転軸に直交する面内における前記ロータリエンコーダの回転軸の変位を一定の遊び範囲内に規制し、前記ロータリエンコーダの読取部が読み取ったコードに基づいて前記ロータリエンコーダの本体部の回転角度を測定するとともに、非接触で角度を検出する非接触角度検出手段により前記ロータリエンコーダの本体部の回転角度測定開始時点からの前記ロータリエンコーダの回転軸の変化した角度を検出し、前記ロータリエンコーダを用いて測定された回転角度を、前記非接触角度検出手段で検出された前記ロータリエンコーダの回転軸の変化した角度に基づいて補正することを特徴とする角度測定方法を提供する。この構成により、ロータリエンコーダの測定値が非接触角度検出手段の測定値で補正されるので、従来の多面鏡方式やハースカップリング方式の角度測定技術と比較して、短時間且つ精度良く回転角度を測定することができる。また、被測定物の回転軸に対するロータリエンコーダの回転軸の偏心量の許容範囲をロータリエンコーダの仕様よりも大きくすることができるので、被測定物に対するロータリエンコーダの取付が大変容易になる。即ち、本発明により、ロータリエンコーダを用いて回転角度の測定を高精度且つ短時間で行なえるようになるので、工作機械等の生産能力アップに大きく貢献する。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記ロータリエンコーダの回転軸の変位を前記一定の遊び範囲内で許容しつつ前記ロータリエンコーダの回転軸を係止する治具を用いることを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記ロータリエンコーダの回転軸に錘を取り付け、前記ロータリエンコーダの回転軸を重力方向に付勢することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、本体部と前記本体部に対し回転自在な回転軸と前記回転軸に取り付けられたコード部と前記本体部に固定されて前記コード部のコードを読み取る読取部とを有し、回転駆動される被測定物に前記回転軸が取り付けられるロータリエンコーダと、前記被測定物の回転軸と前記ロータリエンコーダの回転軸との偏心を許容するように、前記ロータリエンコーダの回転軸に直交する面内における前記ロータリエンコーダの本体部の変位を一定の遊び範囲内に規制する規制部材と、前記ロータリエンコーダの回転軸の回転角度測定開始時点からの前記ロータリエンコーダの本体部の変化した角度を非接触で検出する非接触角度検出手段と、前記ロータリエンコーダの読取部が読み取ったコードに対応する回転角度を、前記非接触角度検出手段で検出される前記ロータリエンコーダの本体部の変化した角度に基づいて補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする角度測定システムを提供する。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記規制部材は、前記ロータリエンコーダの本体部の変位を前記一定の遊び範囲内で許容しつつ前記ロータリエンコーダの本体部を係止する治具を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態では、前記規制部材は、前記ロータリエンコーダの本体部に取り付けられ、前記ロータリエンコーダの本体部を重力方向に付勢する錘を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、本体部と前記本体部に対し回転自在な回転軸と前記回転軸に取り付けられたコード部と前記本体部に固定されて前記コード部のコードを読み取る読取部とを有し、回転駆動される被測定物に前記回転軸が取り付けられるロータリエンコーダと、前記被測定物の回転軸と前記ロータリエンコーダの回転軸との偏心を許容するように、前記ロータリエンコーダの回転軸に直交する面内における前記ロータリエンコーダの回転軸の変位を一定の遊び範囲内に規制する規制部材と、前記ロータリエンコーダの本体部の回転角度測定開始時点からの前記ロータリエンコーダの回転軸の変化した角度を非接触で検出する非接触角度検出手段と、前記ロータリエンコーダの読取部が読み取ったコードに対応する回転角度を、前記非接触角度検出手段で検出される前記ロータリエンコーダの回転軸の変化した角度に基づいて補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする角度測定システムを提供する。
【0021】
本発明の一実施形態では、前記規制部材は、前記ロータリエンコーダの回転軸の変位を前記一定の遊び範囲内で許容しつつ前記ロータリエンコーダの回転軸を係止する治具を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態では、前記規制部材は、前記ロータリエンコーダの回転軸に取り付けられ、前記ロータリエンコーダの回転軸を重力方向に付勢する錘を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態では、前記非接触角度検出手段は、前記ロータリエンコーダのうち前記規制部材により規制された部分の前記回転軸に直交する面に設置される第1及び第2の反射素子と、レーザ光源と、前記レーザ光源から発光された光束を前記第1の反射素子に向かう第1の光束と前記第2の反射素子に向かう第2の光束とに分割し、前記第1の反射素子で反射された第1の反射光束と前記第2の反射素子で反射された第2の反射光束とを干渉させる干渉光学系と、前記干渉光学系により干渉した前記第1の反射光束と前記第2の反射光束との位相差を検出する位相差検出手段と、前記位相差検出手段で検出される前記第1の反射光束と前記第2の反射光束との位相差と、前記第1の反射素子と前記第2の反射素子との位置の差とに基づいて、前記第1の反射素子と前記第2の反射素子との対応点間を結ぶ直線の傾斜角度を算出する傾斜角度算出手段と、を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の一実施形態では、前記補正手段は、前記ロータリエンコーダの読取部が読み取ったコードに対応する前記回転角度と前記非接触角度検出手段の前記傾斜角度算出手段で算出された前記傾斜角度との和をとることを特徴とする。
【0025】
本発明の一実施形態では、前記被測定物の回転軸の回転が停止したタイミングで回転角度を検出する静的測定、及び、前記被測定物の回転軸の回転中のタイミングで回転角度を検出する動的測定のうち少なくとも一方の測定を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来技術と比較して回転角度を高精度且つ短時間で測定することができる。また、被測定物に対するロータリエンコーダの取付が大変容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態における角度測定システムの一例の全体構成図
【図2】回転駆動される被測定物にロータリエンコーダの回転軸を取り付ける様子を示す側面図
【図3】回転駆動される被測定物にロータリエンコーダの回転軸を取り付ける様子を示す正面図
【図4】非接触角度検出手段の干渉ユニットをコーナキューブプリズムに対して正対して配置した様子を示す側面図
【図5】非接触角度検出手段の干渉ユニットをコーナキューブプリズムに対して正対して配置した様子を示す正面図
【図6】錘によりエンコーダ本体の変位を規制する場合の一例を示す正面図
【図7】被測定物を水平方向に沿って配置した場合を示す側面図
【図8】非接触検出手段で検出する角度の説明に用いる説明図
【図9】第2実施形態における角度測定システムの一例の全体構成図
【図10】回転駆動される被測定物にエンコーダ本体を取り付ける様子を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に従って、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0029】
図1は、第1実施形態における角度測定システムの一例の全体構成図である。
【0030】
図1に示す角度測定システム100は、回転駆動される被測定物1の回転軸1aの回転角度をロータリエンコーダ2を用いて測定する。ロータリエンコーダ2は、エンコーダ本体2aと、エンコーダ本体2aに対し回転自在な回転軸3とを含んで構成されている。
【0031】
図2は、被測定物1の回転軸1aにロータリエンコーダ2の回転軸3を取り付ける様子を示す側面図であり、図3は、その正面図である。
【0032】
図2に示すように、エンコーダ本体2aの内側において、回転軸3に円盤状のエンコーダ14(コード部)が取り付けられている。エンコーダ14は、回転軸3を中心とした円周上に全周にわたり目盛(コード)が形成されている。エンコーダ14は、インクリメンタル型でもアブソリュート型でもよい。また、エンコーダ14の目盛を読み取るエンコーダ読取ヘッド13(読取部)がエンコーダ本体2aに固定されている。エンコーダ読取ヘッド13は、エンコーダ14の目盛の読み取りに応じて、パルス信号(回転角度信号)を出力する。即ち、エンコーダ本体2aと回転軸3との相対的な回転角度の変化量に応じたパルス信号が、ロータリエンコーダ2で生成される。なお、エンコーダ本体2aは、カップリング内蔵型であってもよい。
【0033】
ロータリエンコーダ2の回転軸3は、ボールベアリングからなる軸受15を介して、エンコーダ本体2aに取り付けられている。本実施形態では、ロータリエンコーダ2の回転軸3を、被測定物1の回転軸1aに、取り外し可能に取り付ける。取り付け後、回転軸3は、エンコーダ本体2aに対し軸受15を介して自由に回転できる状態にある。このため、被測定物1の回転軸1aが回転しても、ロータリエンコーダ本体2aに接続されているケーブル16が絡みつくことがない。本例の回転軸3は、被測定物1の回転軸1aに取り付けるための取付部3aを有する。特別なアタッチメントを介して、被測定物1の回転軸1aに取り付けてもよい。
【0034】
本実施形態のエンコーダ本体2aは、後述のように、被測定物1の回転軸1aとロータリエンコーダ2の回転軸3との偏心を許容するように、回転軸3に直交する面(以下「直交面」と称する)内における動き(変位)が一定の遊び範囲内で許容された状態で配置される。また、被測定物1の回転軸1aに対するロータリエンコーダ2の回転軸3の偏心量の許容範囲は、後述する非接触角度検出手段20の取付許容量に依存する。したがって偏心量の許容範囲が本来のロータリエンコーダ2の仕様よりも広くなるので、ロータリエンコーダ2の被測定物1に対する取付が大変容易になる。被測定物1の軸振れは存在しても測定誤差にならないが、面振れは測定誤差になるので、目標測定精度に合わせて計算される規定値以内に抑える。
【0035】
非接触角度検出手段20は、干渉ユニット4(直角プリズム5及び偏光ビームスプリッタ6)、コーナキューブプリズム7(7a,7b)、レーザ光源10、位相差検出ヘッド11、及びデータ処理装置12を含んで構成されている。非接触角度検出手段20は、ロータリエンコーダ2を用いた回転軸3の回転角度測定開始時点からのエンコーダ本体2aの変化した傾斜角度を、非接触で検出する。なお、回転角度測定は、被測定物1の回転軸1aの回転が停止したタイミングで回転角度を検出する静的(スタティック)測定でも、被測定物1の回転軸1aの回転中のタイミングで回転角度を検出する動的(ダイナミック)測定でもよい。静的測定では、例えば回転開始時点が回転角度測定開始時点となる。動的測定では、回転中の任意のタイミングを回転角度測定開始時点とすることができる。
【0036】
図4は、干渉ユニット4を配置した様子を示す側面図であり、図5は、その正面図である。
【0037】
図5に示すように、エンコーダ本体2aの直交面(回転軸3に直交する面である)に一対のコーナキューブプリズム7a、7b(反射素子)が設置される。干渉ユニット4(干渉光学系)は、一対のコーナキューブプリズム7a、7bに正対する位置に配置される。
【0038】
干渉ユニット4は、図1に示したように、直角プリズム5及び偏光ビームスプリッタ6を含んで構成されている。干渉ユニット4は、レーザ光源10から発光されたレーザ光束を、第1のコーナキューブプリズム7aに向かう第1のレーザ光束と、第2のコーナキューブプリズム7bに向かう第2のレーザ光束とに、分割する。偏光ビームスプリッタ6を透過した第1のレーザ光束は、第1のコーナキューブプリズム7aに直接的に入射する。この第1のコーナキューブプリズム7aで反射された第1のレーザ光束(第1の反射光束)は、偏光ビームスプリッタ6に直接的に戻って来る。偏光ビームスプリッタ6で直角に反射した第2のレーザ光束は、さらに直角プリズム5で直角に反射して、第2のコーナキューブプリズム7bに入射する。この第2のコーナキューブプリズム7bで反射された第2のレーザ光束(第2の反射光束)は、直角プリズム5で直角に反射して、偏光ビームスプリッタ6に戻って来る。即ち、干渉ユニット4は、互いに平行な第1及び第2のレーザ光束をそれぞれ第1及び第2のコーナキューブプリズム7a、7bに入射させて、第1及び第2のコーナキューブプリズム7a、7bで反射されて再帰する第1及び第2の反射光束を干渉させる。したがって、干渉ユニット4により、光路長が異なる第1及び第2の反射光束の干渉縞が発生する。
【0039】
偏光ビームスプリッタ6は、レーザ光源10で発光されたレーザ光束のうち一部(第1のレーザ光束)が偏光ビームスプリッタ6を通過して第1のコーナキューブプリズム7aの入射面に垂直に入射するように配置される。また、直角プリズム5は、直角プリズム5を経由する第2のレーザ光束が第1のレーザ光束と平行になるように配置される。
【0040】
位相差検出ヘッド11(位相差検出手段)は、光路長の異なる第1の反射光束と第2の反射光束とからなる干渉光を受光して、第1及び第2のコーナキューブプリズム7a、7bの反射光束(第1及び第2の反射光束)の位相差を検出する。本例では、干渉縞をカウントすることにより、第1のレーザ光束の光路(図1の実線)と第2のレーザ光束の光路(図1の点線)との光路長差(位相差)を検出する。
【0041】
なお、干渉ユニット4とコーナキューブプリズム7a、7bとが正対している場合、コーナキューブプリズム7a、7bはレーザ光束に対し直交方向全てについて概ね1mm前後動いても、位相差検出ヘッド11で測定される干渉信号の振幅低下を許容範囲内にすることが可能である。この位置ズレ量の許容範囲は、レーザ光源10のビーム径や、位相差検出ヘッド11等の性能に左右される。このようなコーナキューブプリズム7a、7bの位置ズレ量の許容範囲は、回転軸1a、3間の偏心量の許容範囲になるので、ロータリエンコーダ2の取付が大変容易になる。
【0042】
レーザ光源10は、例えばHe−Neレーザを使用する。波長安定化は行なわなくても、測定精度に大きな影響は与えない。レーザ光源10と干渉ユニット4との間は、光ファイバで結合すると、取付が非常に容易になる。位相差検出ヘッド11は、マイケルソン干渉計によるフリンジカウント方式でも、ヘテロダイン方式でも、かまわない。ヘテロダイン方式の場合、レーザ光源10は直交偏光2周波の必要があり、例えばゼーマンレーザやAOM(音響光学素子)が使われる。
【0043】
データ処理装置12は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータ装置によって構成されている。
【0044】
被測定物1の回転軸1aは、図示省略の駆動手段(例えばモータ)を用いて回転駆動される。ロータリエンコーダ2から出力されたパルス信号(回転角度信号)は、ケーブル16を介して回転角度検出部9に送られる。回転角度検出部9は、パルス信号を回転角度(以下では「θ1」とする)に変換し、そのθ1をデータ処理装置12に送る。また、位相差検出ヘッド11から出力された、第1のレーザ光束と第2のレーザ光束との位相差(光路長差)を示す位相差信号は、ケーブル21を介してデータ処理装置12に送られる。データ処理装置12は、非接触角度検出手段20の一部(傾斜角度算出手段)を構成しており、位相差検出ヘッド11から出力された位相差信号と、第1のコーナキューブプリズム7aの頂点と第2のコーナキューブプリズム7bの頂点との位置の差(間隔)とに基づいて、三角関数を用い、図8に示すように第1のコーナキューブプリズム7aの頂点70aと第2のコーナキューブプリズム7bの頂点70bとを結ぶ直線70の傾斜角度(以下では「θ2」とする)を算出する。ロータリエンコーダ2及び回転角度検出部9によるθ1よりも非接触角度検出手段20によるθ2の方が分解能が高い(分解ピッチが小さい)。
【0045】
また、データ処理装置12は、θ1(エンコーダ本体2aと回転軸3との相対的な回転角度である)を、θ2(ロータリエンコーダ2のうち動きを規制された部分の傾斜角度である)に基づいて、補正する。即ち、ロータリエンコーダ2を用いて測定されたθ1を、コーナキューブプリズム7a、7bの対応点間を結ぶ直線の傾斜角度θ2に基づいて補正する。本例のデータ処理装置12は、θ1とθ2との和をとる(θ1+θ2)ことで、θ1を補正する。
【0046】
次に、規制部材の、具体例について、説明する。
【0047】
図1及び図5に示した例では、回り止め治具8により、エンコーダ本体2aの動きを規制している。回り止め治具8は、エンコーダ本体2aに延設された棒2bを係止爪8a、8bにより係止する。二つの係止爪8a、8bの空隙の幅は、偏心量の許容範囲に対応する。これにより、エンコーダ本体2aの動きが少なくとも非接触角度検出手段20の測定可能範囲内に規制される。
【0048】
また、測定点での静的測定に際し、目標とする測定精度より十分に小さい程度に、ロータリエンコーダ2及び非接触角度検出手段20の測定値のバラつきが収まることが求められる。角度割出精度測定の実施にあたっては、静的測定で行なわれることが多く、その場合、被測定物1の回転及び停止を一定の角度毎に繰り返して測定していく。測定値取り込みにおいては、各測定値が目標測定精度に対し、十分に安定しているものとする。被測定物1の回転速度は、特に、ロータリエンコーダ2及び非接触角度検出手段20の性能に依存し、一般的に、高速回転で測定可能である。測定分解能も同様で、一般的に、多面鏡とオートコリメータを用いる方式(多面鏡方式)や、ハースカップリングとレーザ干渉計を用いる方式(ハースカップリング方式)等よりも、優れている。
【0049】
なお、軸受15の性能が優れ、被測定物1の回転に合わせエンコーダ本体2aが回転しない場合には、回り止め治具8を省略してもよい。即ち、軸受15の性能に依っては、軸受15自体を、エンコーダ本体2aの動きを規制する規制部材として機能させることも可能である。
【0050】
図6は、錘17によりエンコーダ本体2aの動きを規制する場合を示す正面図である。図16に示すように、錘17は、エンコーダ本体2aに取り付けられ、重力方向に下げられる。この錘17により、エンコーダ本体2aは、重力方向に付勢され、動きが一定の遊び範囲内に規制される。
【0051】
図7は、被測定物1を水平方向に沿って配置した場合を示す側面図である。
【0052】
また、回り止め治具8が弱い磁力を帯びていると、エンコーダ本体2aの位置が定まり易くなり、測定し易い、特に、図7の水平配置の場合には有効である。
【0053】
なお、図1、図7等に回り止め治具8を用いた場合を示し、図6に錘17を用いた場合を示したが、これら両方を規制部材として用いてもよい。他の規制部材(例えば磁力により動きを規制する磁性体)を用いてもよい。
【0054】
以上のように、第1実施形態における角度測定方法では、回転駆動される被測定物1の回転軸1aにロータリエンコーダ2の回転軸3を取り付けるとともに、被測定物1の回転軸1aとロータリエンコーダ2の回転軸3との偏心を許容するように、ロータリエンコーダ2の回転軸3に直交する直交面内におけるロータリエンコーダ本体2aの動き(変位)を一定の遊び範囲内に規制し、エンコーダ読取ヘッド13の読み取ったコードに基づいてロータリエンコーダ2の回転軸3の回転角度θ1を検出(測定)するとともに、非接触角度検出手段20によりロータリエンコーダ2の回転軸3の回転角度測定開始時点からのエンコーダ本体2aの変化した傾斜角度θ2を検出し、θ1をθ2に基づいて補正する。
【0055】
この構成により、回転角度を短時間且つ精度良く測定することができる。即ち、第1に、ロータリエンコーダ2を用いて角度測定を行なうことで、従来の多面鏡方式で必要であった操作者の手作業を省略でき、またハースカップリング方式のような逆回転を伴う首振り動作を省略できるので、高精度の測定が可能になるだけでなく、全体の測定時間を短縮できる。第2に、ロータリエンコーダ2の測定値を非接触角度検出手段20の測定値で補正するので、測定精度をさらに向上させることが可能となる。第3に、被測定物1の回転軸1aに対するロータリエンコーダ2の回転軸3の偏心量の許容範囲をロータリエンコーダ2自体の仕様よりも大きくとることが可能になるので、被測定物1に対するロータリエンコーダ2の取付が大変容易になり短時間で済む。例えば、非接触角度検出手段20を併用しなかった場合には100μm前後の取付精度が必要であったが、レーザ干渉測長方式の非接触角度検出手段20を併用した場合には1mm前後の取付精度とすることができ、これに応じて偏心量の許容範囲が広くなった。
【0056】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態における角度測定システムの一例の全体構成図である。図9にて、図1〜8に示した第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付した。以下では、第1実施形態で説明した内容については説明を省略し、主として第1実施形態と異なる点を説明する。
【0057】
第1実施形態では図2に示したように被測定物1の回転軸1aにロータリエンコーダ2の回転軸3を取り付けたのに対し、第2実施形態では図10に示すように被測定物1の回転軸1aにエンコーダ本体2aを取り付ける。
【0058】
図10において、取付アタッチメント18は、被測定物1の回転軸1aにエンコーダ本体2aを取り付けるための介装部材であり、ロータリエンコーダ2の回転軸3が被測定物1の回転軸1aの回転の影響をあまり受けないようにロータリエンコーダ2の回転軸3を保護する。
【0059】
本実施形態における回り止め治具8は、ロータリエンコーダ2の回転軸3に直交する直交面内におけるロータリエンコーダ2の回転軸3の動き(変位)を一定の遊び範囲内で許容しつつ、ロータリエンコーダ2の回転軸3を係止する。
【0060】
本実施形態におけるコーナキューブプリズム7(7a、7b)は、ロータリエンコーダ2の回転軸3に取り付けられる。第1実施形態と同様、コーナキューブプリズム7は、干渉ユニット4と正対させて配置される。干渉ユニット4及び位相差検出ヘッド11を用いて、ロータリエンコーダ2の回転軸3の回動が非接触で検出される。
【0061】
本実施形態では、第1実施形態と異なり、回転軸3にエンコーダ本体2aの荷重が掛からず、比較的軽量なコーナキューブプリズム7の荷重で済むので、回転軸3及び軸受15が小型で済み、軽量化が図れる。よって、被測定物1の回転軸1aの可搭載重量に依っては、こちらの方式が向いている。反面、エンコーダ本体2aに接続されたケーブルが、エンコーダ本体2aの回転に伴いロータリエンコーダ2に巻き付かないように注意を要する。
【0062】
第2実施形態では、回転駆動される被測定物1の回転軸1aにエンコーダ本体2aを取り付けるとともに、被測定物1の回転軸1aとロータリエンコーダ2の回転軸3との偏心を許容するように、ロータリエンコーダ2の回転軸3に直交する直交面内におけるロータリエンコーダ2の回転軸3の動き(変位)を一定の遊び範囲内に規制し、エンコーダ読取ヘッド13の読み取ったコードに基づいてエンコーダ本体2aの回転角度を検出(測定)するとともに、非接触角度検出手段20によりエンコーダ本体2aの回転角度測定開始時点からのロータリエンコーダ2の回転軸3の変化した傾斜角度を検出し、ロータリエンコーダ2を用いて検出(測定)された回転角度θ1を、非接触角度検出手段20で検出されたロータリエンコーダ2の回転軸3の変化した傾斜角度θ2に基づいて補正する。
【0063】
なお、前述の第1及び第2実施形態では、ロータリエンコーダとして光学式のロータリエンコーダを用いた場合を例に説明したが、磁気式等の他のロータリエンコーダを用いてもよいことは、言うまでもない。
【0064】
また、前述の第1及び第2実施形態では、非接触角度検出手段として、いわゆるレーザ干渉測長器を用いた場合を例に説明したが、非接触で高精度に角度測定が可能な非接触角度検出手段であれば、他のものを使用できる。例えば、オートコリメータや水準器などを用いてもよい。
【0065】
回転角度の測定は、動的測定でもよい。本発明に係る角度測定方法及び角度測定システムでは、被測定物1の回転軸1aの回転が停止したタイミングで回転角度を検出する静的測定、及び、被測定物1の回転軸1aの回転中のタイミングで回転角度を検出する動的測定のうち少なくとも一方の測定を行なう。動的測定では、ロータリエンコーダ2と共に使用する非接触角度検出手段20の出力のリアルタイム性が必要である。
【0066】
また、本発明を簡略に説明するために、回転角度θ1を傾斜角度θ2のみを用いて補正する場合を例に説明したが、他の測定値にも基づいて補正してもよいことは言うまでもない。即ち、本発明では、少なくとも傾斜角度θ2に基づいて、回転角度θ1を補正する構成である。例えば、被測定物1の回転軸1aとロータリエンコーダ2の回転軸3との偏心量を検出し、その検出された偏心量と傾斜角度θ2とに基づいて回転角度θ1を補正する。
【0067】
また、被測定物は、図に示した形状には限定されない。例えば、円盤状でもよい。また、ロータリエンコーダ2の取付対象である被測定物の回転軸は、特別に形成された軸形状のものである必要はなく、例えば被測定物の回転中心を被測定物の回転軸とし、これにロータリエンコーダを取り付ければよい。
【0068】
本発明は、本明細書において説明した例や図面に図示された例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の設計変更や改良を行なってよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0069】
1…被測定物、1a…被測定物の回転軸、2…ロータリエンコーダ、2a…エンコーダ本体、3…ロータリエンコーダの回転軸、4…干渉ユニット、5…直角プリズム、6…偏光ビームスプリッタ、7(7a、7b)…コーナキューブプリズム(反射素子)、8…回り止め治具、9…回転角度検出部、10…レーザ光源、11…位相差検出ヘッド、12…データ処理装置、13…エンコーダ読取ヘッド(読取部)、14…エンコーダ(コード部)、15…軸受、17…錘、18…取付アタッチメント、20…非接触角度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転が一定範囲内とされた支持基準体と、前記支持基準体に対し全周回転自在に軸支された駆動する回転体とを有し、前記支持基準体に対する前記回転体の相対的な回転角度を連続的に検出する相対角度検出手段と、
前記回転体および前記支持基準体から切り離されて、前記支持基準体の回転角度を光学的に検出する光学式角度検出手段と、
を備えたことを特徴とする角度測定システム。
【請求項2】
前記光学式角度検出手段は、前記相対角度検出手段による相対的な回転角度の検出と同時に前記支持基準体の回転角度を検出する請求項1に記載の角度測定システム。
【請求項3】
前記相対角度検出手段が検出した回転角度を、前記光学式角度検出手段で検出した回転角度に基づいて補正する補正手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の角度測定システム。
【請求項4】
前記相対角度検出手段は、ロータリエンコーダであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の角度測定システム。
【請求項5】
前記光学式角度検出手段は、レーザ干渉計を用いたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の角度測定システム。
【請求項6】
前記支持基準体の回転角度を一定範囲内に規制する規制部材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の角度測定システム。
【請求項7】
前記規制部材は、前記支持基準体の基準位置を鉛直下方に付勢する錘部材からなることを特徴とする請求項6に記載の角度測定システム。
【請求項8】
回転が一定範囲内とされた支持基準体と、前記支持基準体に対し全周回転自在に軸支された駆動する回転体との相対的な回転角度を検出する相対角度検出ステップと、
前記回転体および前記支持基準体から切り離されて、前記支持基準体の回転角度を光学的に検出する光学式角度検出ステップと、
を含むことを特徴とする角度測定方法。
【請求項9】
前記光学式角度検出ステップは、前記相対角度検出ステップにおける相対的な回転角度の検出と同時に前記支持基準体の回転角度を検出する請求項8に記載の角度測定方法。
【請求項10】
前記相対角度検出ステップで検出した回転角度を、前記光学式角度検出ステップで検出した回転角度に基づいて補正する補正ステップを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の角度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−79978(P2013−79978A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−10062(P2013−10062)
【出願日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【分割の表示】特願2012−230847(P2012−230847)の分割
【原出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】