触媒コンバータ
【課題】 大流量の排気ガスを効果的に浄化することができ、同時にレイアウトの自由度が高い触媒コンバータを提供する。
【解決手段】 LnAlO3(Ln:希土類元素)およびLnxPdOyを含む触媒材料を触媒コンバータ103に納めた構成とする。この触媒材料は、空間速度の増加に伴う浄化効率の低下が僅かである性能を有しているので、触媒コンバータ103を小型化できる。またこの触媒材料は、高い耐熱性を有している。そのため、触媒コンバータ103をエンジン101の直下に配置することができる。
【解決手段】 LnAlO3(Ln:希土類元素)およびLnxPdOyを含む触媒材料を触媒コンバータ103に納めた構成とする。この触媒材料は、空間速度の増加に伴う浄化効率の低下が僅かである性能を有しているので、触媒コンバータ103を小型化できる。またこの触媒材料は、高い耐熱性を有している。そのため、触媒コンバータ103をエンジン101の直下に配置することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い触媒効率を保ちながら小型化が可能で、さらに設置場所の自由度の高い触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンからの排気ガス中には、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)といったそのまま排出することは好ましくない成分が含まれている。一般にこれらの成分は、触媒コンバータにより分解され、浄化されるようになっている。
【0003】
従来技術における触媒材料としては、Al2O3等の高比表面積を有する粒子材料を担体とし、そこに活性金属となる貴金属の微粒子を担持させたものが用いられている。この触媒材料では、担体粒子中に存在する無数の細孔に貴金属の粒子が担持され、ガスがこの細孔中に拡散することで、浄化作用が発揮される。このような触媒材料としては、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−168117号公報(第「0024」段落、第「0054」段落)
【特許文献2】特開2002―303127号公報(第「0040」段落)
【特許文献3】特開平6−307232号公報(第「0017」段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、触媒材料の容積に比較して、排気ガスの流量が大きくなると、担持体粒子の細孔中にガスが拡散する拡散速度よりも、排気ガスが触媒材料中に流れてゆく物質移動速度が非常に大きくなり、上述した細孔中へのガス拡散から起こる浄化の寄与が小さくなって、浄化効率が低下してしまう。
【0006】
このことに関連して、高出力車や、軽自動車のような小排気量で高ガス負荷(高SV)の掛かる車は、排気ガスの流量が多く、効果的な浄化を行うために、以下説明するような工夫が施されている。すなわち、(A)触媒コンバータをエンジンの近くに設置する、(B)触媒の容量を大きくする、(C)触媒に用いる貴金属の担持量を多くする、といった対策が採られている。
【0007】
(A)の方法は、排気ガスの温度が高い状態で触媒に接触させることで、浄化反応時の温度を高く保ち、それにより浄化効率を高くしようとする方法である。(B)の方法は、排気ガスと触媒材料との接触面積を確保することで、浄化効率を高く維持する方法である。(C)の方法は、浄化対象成分を分解する際に主要な役割を担う活性金属の担持量を増やすことで、浄化効率を高くする方法である。
【0008】
しかしながら、上述した(A)の方法は、車内における触媒コンバータの設置位置が限定され、設計上の制約が大きくなるという問題がある。すなわち、この方法は、容積に関する制限の大きいエンジンルーム内に触媒コンバータを配置しなくてはならず、触媒容量の制限や、触媒コンバータの形状に関する制限が厳しいという問題がある。また、高温において安定した触媒作用を得ることができる触媒材料を選択しなくてはならないという問題もある。
【0009】
(B)の方法は、触媒コンバータの大型化が避けられず、車内における設置位置の制約が大きくなり好ましくない。また、触媒コンバータを大型化すると、車の重量増加や燃費の悪化、貴金属の大量使用による高コスト化、消耗部品の短命化といった問題も顕在化する。
【0010】
また、(C)の方法は、貴金属の消費量が増え、コスト高になる問題がある。また、浄化に好ましい状態で貴金属を用いていないためコストパフォーマンスも悪くなる。
【0011】
本発明は、このような従来技術における不都合を解消した触媒コンバータを提供することを目的とする。すなわち本発明は、高出力車や、軽自動車のような高ガス負荷(高SV)の掛かる車から排気される大流量の排気ガスを効果的に浄化することができ、同時にレイアウトの自由度が高い、小型軽量化が図れる、貴金属の使用量を減らせる、といった優位性を備えた触媒コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の触媒コンバータは、LnAlO3(Ln:希土類元素)、および希土類元素とパラジウムの複合酸化物を含む触媒材料と、この触媒材料を納めた容器とを備えたことを特徴とする。すなわち、本発明の触媒コンバータにおいては、触媒材料として、LnAlO3(Ln:希土類元素)を担体とし、そこに希土類元素とパラジウムの複合酸化物を担持させたものを用いる。
【0013】
希土類元素とパラジウムの複合酸化物は、LnxPdOy(0<x、0<y)で表される複合酸化物である。なお、Lnは、希土類元素から選ばれた元素である。
【0014】
この材料(LnAlO3)は、ペロブスカイト型の結晶構造中に、共有結合性のAlを含んでおり、また、電気的な安定性が小さいことにより、担持されたLnxPdOyに対して強い相関作用を及ぼす。このため、LnxPdOyの活性が高められる。また、LnxPdOyは、Ln(希土類元素)とPdとが複合化されているため、高温条件下におけるPdの還元劣化を抑制することができる。つまり、本発明の触媒コンバータにおいては、高い排ガス浄化活性を有し、且つ高温耐熱性に優れたLnxPdOy/LnAlO3を用いているので、高い排ガス浄化作用を得ることができる。
【0015】
また、LnAlO3は、比表面積が小さい材料である(〜5m2/g)。このため、LnAlO3に担持された貴金属は、ガスとの接触が良好なLnAlO3粒子の外表面に存在する状態となる。ガスの流速が大きくなった場合、触媒粒子の外表面に活性点が存在する方が、浄化反応には有利である。したがって、LnAlO3を用いた本発明の触媒コンバータにおいては、高ガス流量下において高い排ガス浄化作用を得ることができる。
【0016】
このような触媒材料としての優位性があるため、後述する実測データから明らかにされるように、空間速度(SV値)を大きくしても浄化率がほとんど変化しないという有意な触媒性能を有している。
【0017】
一般に、空間速度を大きくすれば、浄化ガスが触媒材料に接触している時間が短くなるので、浄化効率は低下する。例えば、従来技術においては、この原理を前提として、浄化対象のガスが触媒材料になるべく長く接触するように、触媒コンバータの有効断面積と有効長とを極力大きく確保している。
【0018】
これに対して、本発明の触媒材料においては、上述にように空間速度に対する浄化率の依存性が極めて小さい。このため、触媒コンバータの断面積を小さくするでき、また長さを短くすることができる。つまり、触媒コンバータが占める容積を小さくすることができる。つまり本発明は、触媒コンバータの小型化、軽量化、および低コスト化を追求することができる。
【0019】
したがって本発明は、排気ガスの流量が大きい高出力車や、許容される触媒コンバータの容積に比較して、大流量の排気ガスを処理しなければならない軽自動車に適用することに適している。
【0020】
なお、空間速度(SV値)とは、(単位時間当たりの体積流量/反応系の容積)で表されるもので、単位時間(例えば1時間)あたり反応系いくつ分のガスが流れたのかを評価する指標である。空間速度が小さいということは、反応系内を通過するガスの通過時間がより長いことを意味し、空間速度が大きいということは、反応系内を通過するガスの通過時間がより短いことを意味する。
【0021】
また、本発明の触媒材料は、耐熱性が高いので、触媒コンバータに利用した場合に、エンジンの近くに配置することができる。この耐熱性の高さは、上述した触媒コンバータを小型化できる点と相まって、触媒コンバータをエンジンルーム内に配置する上で有利な要素となる。
【0022】
本発明において、触媒材料を構成するLnAlO3(Ln:希土類元素)がLaAlO3であり、LnxPdOy(Ln:希土類元素)がLa2PdO4および/またはLa4PdO7であることは好ましい。後述するように、この組合せの触媒は、空間速度に依存しない高い浄化効率を得ることができる。
【0023】
本発明における触媒材料は、反応温度が400℃、空間速度が50000(h−1)おける浄化率と、反応温度が400℃、空間速度が100000(h−1)おける浄化率との差が±2%以下である特性を示す。このような特性を有するが故に、触媒コンバータの容積を小さくすることができる優位性を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、空間速度への依存度が小さい触媒材料を触媒コンバータに採用することで、大流量の排気ガスに対応することができる。また、空間速度への依存度が小さいが故に、同じ浄化効率を得るために必要とする触媒材料の量を減らすことができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、高出力車や、軽自動車のような高ガス負荷(高SV)の掛かる車から排気される大流量の排気ガスを効果的に浄化することができる。また、触媒コンバータの容積を小さくでき、同時に高耐熱性を有しているので、小型軽量化が図れ、レイアウトの自由度が高い触媒コンバータを得ることができる。また、触媒材料の使用量を減らすことができるので、高コストである貴金属の使用量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(触媒材料の製造例)
以下、本発明の触媒コンバータに利用可能な触媒材料の製造方法の一例を説明する。ここでは、担持体としてペロブスカイト型複合酸化物であるLaAlO3を作製し、そこに担持物として、Pd複合酸化物であるLa2PdO4とLa4PdO7とを含浸担持させる製造工程の一例を説明する。
【0027】
(LaAlO3の製造方法)
まず、所定量の硝酸ランタン六水和物、硝酸アルミニウム九水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を作製した。次に所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。そして、この2つの水溶液を混合し、ホットプレートスターラーに乗せ、250℃の温度に保持しつつ、混合溶液中の水分が蒸発するまで攪拌を行った。
【0028】
水分が蒸発し、乾固物を得たら、乳鉢でそれを粉砕し、さらにこの粉砕物をアルミナ坩堝に移し、マッフル炉において熱処理を加えた。この熱処理は、2.5℃/minの昇温速度で室温(26℃)から350℃まで昇温させ、350℃に到達したら、その温度に3時間維持し、さらに自然冷却させる制御条件にて行った。この熱処理により、リンゴ酸塩および硝酸銀を除去した仮焼成体を得た。
【0029】
次にこの仮焼成体を乳鉢で15分間粉砕混合し、その粉砕物を再びアルミナ坩堝に入れ、マッフル炉において再度熱処理を加えた。この熱処理は、5℃/minの昇温速度で室温(26℃)から800℃の温度に上昇させ、800℃に到達したら、その温度に10時間維持し、その後自然冷却する制御条件にて行った。この熱処理を行うことで、LaAlO3で示されるペロブスカイト型の複合酸化物の粉末を得た。
【0030】
(触媒粉末の製造方法)
まず所定量の硝酸パラジウム二水和物と硝酸ランタン六水和物をイオン交換水に溶解させ、金属塩混合水溶液を作製した。次に所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。
【0031】
そしてナス型フラスコに、上記金属塩混合水溶液とリンゴ酸水溶液とを入れ、両者を混合し、そこに作製しておいたLaAlO3粉末を所定量加えた。そして、このナス型フラスコをロータリエバポレータで減圧しながら、60℃の湯浴中で上記混合溶液を蒸発乾固させ、乾個物を得た。
【0032】
次にこの乾個物をマッフル炉に入れ、2.5℃/minの昇温速度で常温(26℃)から250℃の温度にまで昇温させ、さらに250℃の温度に到達したら、5℃/minの昇温速度に切り換えて、750℃まで昇温させ、750℃の温度に到達したら、その温度を3時間維持し、その後自然冷却させる熱処理を加えた。
【0033】
この熱処理によって、La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に含浸担持させた構造を有する粉末状の触媒材料を得た。
【0034】
(触媒コンバータの製造方法)
以下触媒コンバータの製造方法の一例を説明する。まず、上述した触媒材料、水、およびSiO2バインダーを混合し、十分に攪拌してスラリー状の液体を得た。次に、コージェライト製のハニカムに上記スラリー状の液体を必要量ウォッシュコートし、200℃で2時間乾燥させ、さらに750℃で3時間の焼成を行うことで、触媒材料を保持したハニカム構造体を得た。そして、このハニカム構造体を、触媒コンバータを構成する容器に収めることで、触媒コンバータを得た。
【0035】
(触媒コンバータの設置例)
図1は、実施形態の触媒コンバータを配置した排気ガス浄化システムの一例を示す概念図である。図1は、ガソリンエンジンを搭載した乗用車における排気ガス浄化システムを示すもので、ガソリンエンジン101、排気配管102、および触媒コンバータ103が示されている。図1に示す例は、乗用車の床下に触媒コンバータを配置する場合の例である。
【0036】
触媒コンバータ103は、外装部材である金属製の容器の中に、ハニカム構造を有した触媒保持部材が納められた構造を有している。このハニカム構造の触媒保持部材の表面(ハニカム構造の表面)にLnAlO3(Ln:希土類元素)粒子を担体とし、そこにLnxPdOy粒子が担持された構成を有する触媒材料の粉末がコーティングされている。浄化対象となる排気ガスは、このハニカム構造体の内部を通過する際にコーティングされた触媒材料に接触し、窒素酸化物等の浄化が行われる。
【0037】
図2は、長さを短縮した触媒コンバータの概要を示す概念図である。すなわち、図2に示すのは、図1に示す触媒コンバータ103の長さを短縮することで、床下スペースの有効利用と車両の軽量化を図るものである。
【0038】
後述するように、本発明を利用した触媒コンバータは、空間速度が大きくなっても浄化効率が低下しない性能を備えている。空間速度が大きくなるということは、排気ガスが触媒に接触する時間が短くなるということであり、それは触媒コンバータの容積が小さくなるということと等価である。したがって、本発明を利用した触媒コンバータは、触媒コンバータの容積を小さくしても浄化効率が低下しない性能を備えているといえる。
【0039】
図2に示すのは、このことを利用したもので、触媒コンバータの容積を小さくできることを利用して、触媒コンバータの長さを短くした場合の例である。本発明においては、浄化性能を維持したまま、触媒コンバータの容積を60%程度まで減少させることが可能である。
【0040】
このことは、触媒コンバータの重量を20%低減したことにもなる。通常、触媒コンバータの重量は5〜6kgであるため、この効果は、およそ1〜2kgの軽量化に相当する。またこの場合、触媒材料に用いる貴金属の使用量を20%削減したことにもなる。つまり、小型軽量化と低コスト化を図ることができる。
【0041】
また、触媒コンバータを小型化できるので、その配置に自由度を持たせることができる。すなわち、触媒コンバータが小型化されることで、従来は配置できなかった位置に触媒コンバータを配置することができる自由度が生まれる。
【0042】
図3に示すのは、触媒コンバータ103の径105を小さくした場合の例である。すなわち、触媒コンバータの容積を小さくできることを利用して、その径を小さくした例である。この場合も小型軽量化、低コスト化、配置位置の自由度の増加、といった優位性を得ることができる。
【0043】
図4は、エンジン直下に触媒コンバータを配置した状態を示す概念図である。本発明の触媒コンバータは、小型化でき、また耐熱性が高いので、エンジン直下(あるいはエンジン直後)に配置することができる。
【0044】
エンジンの近くに触媒コンバータを配置する方法は、排気ガスの高温度状態を利用できる点で浄化効率を高くすることができる優位性があるが、〔1〕触媒材料に耐熱性が要求される、〔2〕必然的にエンジンルーム内またはその近くに触媒コンバータを配置することになるので、触媒コンバータの寸法や形状に大きな制限が加わる、といった問題がある。
【0045】
本発明を利用した触媒コンバータは、耐熱性に優れており、高温に曝しても性能の低下が少ない性能を有しているから、エンジンルーム内やその近くに触媒コンバータを配置することができる。また、触媒コンバータの容積を小さくしても浄化効率の低下が抑えられるから、触媒コンバータを小型化でき、またそれ故、エンジンルーム内やその近傍のスペース的に厳しい場所であっても触媒コンバータを配置することができる。
【0046】
また、図2や図3に示すように、触媒コンバータの長さを短くしたり、その径を細くしたりすることが可能であるので、ある程度その形状を自由に選ぶことができる。そのため、従来は困難であった場所に配置する自由度が大きいという優位性を得ることができる。
【0047】
このように本発明の触媒コンバータを利用することで、エンジン直下のレイアウトから床下レイアウト、その他適当な場所へのレイアウトの自由度を高くすることができる。
【0048】
(触媒材料の活性評価)
上述の作製方法により作製した粉末状の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持させた触媒材料)に耐久処理を加え、その後、活性評価を行った。耐久処理は、粉末状の触媒材料を980℃または1050℃に加熱した状態において、モデル排ガスを20時間流通させることによって行った。モデル排ガスとしては、A/F=14.6相当のガソリンエンジンの排気ガスをもとにした混合ガスを採用した。なお、A/Fは、(空気/燃料)比のことである。
【0049】
活性評価は、耐久処理と同じ、触媒材料にA/F=14.6相当のガソリンエンジンの排気ガス流し、空間速度(SV値)と反応温度とを振って、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、および窒素酸化物(NOx)の浄化率を測定することで行った。
【0050】
図5は、実施形態の触媒粉末における空間速度と50%浄化温度との関係を示すデータプロット図である。50%浄化温度というのは、触媒材料に接触することで、浄化対象となる成分の排気ガス中における濃度が半分になる反応温度のことをいう。
【0051】
図6は、比較例の触媒粉末における空間速度と50%浄化温度との関係を示すデータプロット図である。なお比較例は、従来技術として一般的である、Al2O3粉末にPdO粉末を担持させたもの(PdO/Al2O3)である。
【0052】
図5と図6を比較すれば明らかなように、本発明を利用した触媒粉末は、空間速度を高めても各浄化対象成分に対する50%浄化温度はほとんど高くならない。これは、同じ触媒コンバータにおいて、排気ガスの流量を増加させても、浄化効率がほとんど低下しない性能を得ることができることを意味している。また、同じ排気ガスの流量において、触媒コンバータの容積を小さくしても、浄化効率がほとんど低下しない性能を得ることができることを意味している。
【0053】
これに対して、比較例の場合は、特に窒素酸化物(NOx)の50%浄化温度が空間速度の増加に応じて高くなる傾向が顕著である。
【0054】
これは、空間速度が大きくなると、より反応温度を高めないと所定の浄化率を確保することができないことを意味している。つまり、図6の窒素酸化物(NOx)に関するデータは、同じ触媒コンバータを採用した場合において、排気ガスの流量が大きくなると、窒素酸化物の浄化効率が大きく低下することを意味している。また、このことは、同じ排気ガスの流量において、触媒コンバータの容積を小さくすると、窒素酸化物の浄化効率が大きく低下することを意味している。
【0055】
また、下記表1に示すように、実施形態の(空間速度:100000h−1)における各成分に対する50%浄化温度は、比較例の(空間速度:50000h−1)における各成分に対する50%浄化温度とほぼ同じである。
【0056】
【表1】
【0057】
図7は、実施形態の触媒粉末が示す空間速度と400℃浄化率との関係を示すデータプロット図である。400℃浄化率というのは、400℃の反応温度における浄化率である。
【0058】
図7を見れば分かるように、実施形態の触媒粉末は、空間速度が大きくなっても各成分に対する浄化率はあまり変化しない。すなわち、排気ガスの空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になった場合における、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)の浄化率の低下は、ごく僅かである。
【0059】
図7から明らかなように、空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になっても、各成分の浄化率は、±2%の範囲に収まっている。このことは、空間速度に依存せずに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率を維持する能力に優れていることを意味している。
【0060】
図8は、比較例における空間速度と400℃浄化率との関係を示すデータプロット図である。図8を見れば分かるように、比較例の触媒材料は、空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になると、400℃浄化率が大きく低下する。
【0061】
また、下記表2に示すように、実施形態の(空間速度:100000h−1)における各成分に対する400℃浄化率は、比較例の(空間速度:50000h−1)における各成分に対する400℃浄化率とほぼ同じである。
【0062】
【表2】
【0063】
以上のことから、次の内容が結論される。すなわち、空間速度が50000h−1程度においては、浄化効率の観点から見て、比較例に対する本実施形態の優位性はそれ程大きくない。しかしながら、空間速度が50000h−1より大きくなると、比較例では特に窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率の低下が顕著になるが、本実施形態の触媒粉末は、浄化効率の低下はほとんど見られない。すなわち、比較例は空間速度に依存して浄化効率が大きく変化する(特に窒素酸化物(NOx)に対して)が、本実施形態の触媒粉末は、空間速度が50000h−1から100000h−1に増加しても、さほど浄化効率は変化しない。
【0064】
したがって、本実施形態で示した触媒粉末を用いた場合、触媒コンバータの容積を小さくしても、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率の低下(特に窒素酸化物の浄化効率の低下)を抑えることができる。つまり、小型の触媒コンバータを使用することができる。
【0065】
また、少ない触媒材料の使用で済むので、Pd等の貴金属の使用量を減らすことができ、低コスト化を図ることができる。
【0066】
また、本実施形態で示した触媒粉末を用いた場合、同じ触媒コンバータにおいて、排気ガスの流量が増えても浄化効率の低下を抑えることができる。つまり、限られた触媒コンバータの容積で、大きな排気ガス流量に対応することができる。
【0067】
(耐熱性の評価)
以下、上述の作製方法により作製した粉末状の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持させた触媒材料)の耐熱性を調べた結果について説明する。ここでは、昇温させた場合に、触媒活性がどのように変化するのかを調べた結果について説明する。
【0068】
図9は、実施形態の触媒粉末の50%浄化温度のデータを示すグラフである。ここでは、空間速度が50000h−1の場合における50%浄化温度が、耐久処理なし、980℃、20時間の耐久処理あり、1050℃、20時間の耐久処理あり、の3条件について記載されている。なお、ここで耐久処理は、A/F=14.6相当のストイキモデル排ガスの雰囲気で行った。
【0069】
図10は、前述の比較例(PdO/Al2O3)の触媒粉末における50%浄化温度のデータを示すグラフである。各種の条件は図9の場合と同じである。
【0070】
図9と図10とを比較すると、実施形態の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持した触媒材料)は、比較例の触媒材料(PdO/Al2O3)に比較して、耐久処理の影響による浄化効率の変化が小さいことが分かる。つまり、実施形態の触媒材料は、耐久処理しても初期の性能を維持する傾向が比較例の触媒材料よりも高い。これは、実施形態の触媒材料が、比較例の触媒材料よりも高い耐熱性を有していることを意味している。
【0071】
図11は、実施形態の触媒粉末の400℃浄化効率のデータを示すグラフであり、図12は、比較例(PdO/Al2O3)の触媒粉末における400℃浄化効率のデータを示すグラフである。なお、各種の条件は図9の場合と同じである。図11と図12とを比較すれば明らかなように、実施形態の触媒材料は、比較例の触媒材料に比べて耐久処理による浄化率の低下が小さいことが分かる。つまり、実施形態の触媒材料は、比較例の触媒材料に比べて高い耐熱性を備えていることが分かる。
【0072】
このように、実施形態の触媒材料は、従来技術における触媒材料よりも高い耐熱性を有している。このことは、触媒コンバータのエンジン間近やエンジンルーム内への配置に際して、有利な材料となる。
【0073】
以上説明した内容から明らかなように、本発明を利用した触媒コンバータは、空間速度を増加させても、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率が低下し難い優位性がある。このため、触媒コンバータを小型軽量化することができ、高出力エンジン等の大流量の排気に対して、容積を大型化せずに対応することができる。また、触媒材料の使用量を減らせるので、貴金属の使用量を減らすことができる。
【0074】
また、触媒材料の耐熱性が高いので、触媒コンバータの配置場所が限定されないという優位性を得ることができる。また、上述した触媒コンバータを小型軽量化できる点からも、触媒コンバータの配置に関する自由度を高くすることができる。このため、車内のスペースを有効に利用することができる設計が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ガソリンエンジンの排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)等の成分を浄化する触媒コンバータに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】触媒コンバータを配置した排気ガス浄化システムの一例を示す概念図である。
【図2】長さを短縮した触媒コンバータの概要を示す概念図である。
【図3】外径を小さくした触媒コンバータの概要を示す概念図である。
【図4】エンジン直下に触媒コンバータを配置した状態を示す概念図である。
【図5】実施形態の触媒材料における空間速度と50%浄化温度とを関係を示すデータプロット図である。
【図6】比較例の触媒材料における空間速度と50%浄化温度とを関係を示すデータプロット図である。
【図7】実施形態の触媒材料における空間速度と400℃浄化率とを関係を示すデータプロット図である。
【図8】比較例の触媒材料における空間速度と400℃浄化率とを関係を示すデータプロット図である。
【図9】実施形態の触媒材料における50%浄化温度を示すグラフである。
【図10】比較例の触媒材料における50%浄化温度を示すグラフである。
【図11】実施形態の触媒材料における400℃浄化率を示すグラフである。
【図12】比較例の触媒材料における400℃浄化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
101…ガソリンエンジン、102…排気配管、103…触媒コンバータ、104…触媒コンバータの長さ、105…触媒コンバータの径。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い触媒効率を保ちながら小型化が可能で、さらに設置場所の自由度の高い触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンからの排気ガス中には、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)といったそのまま排出することは好ましくない成分が含まれている。一般にこれらの成分は、触媒コンバータにより分解され、浄化されるようになっている。
【0003】
従来技術における触媒材料としては、Al2O3等の高比表面積を有する粒子材料を担体とし、そこに活性金属となる貴金属の微粒子を担持させたものが用いられている。この触媒材料では、担体粒子中に存在する無数の細孔に貴金属の粒子が担持され、ガスがこの細孔中に拡散することで、浄化作用が発揮される。このような触媒材料としては、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−168117号公報(第「0024」段落、第「0054」段落)
【特許文献2】特開2002―303127号公報(第「0040」段落)
【特許文献3】特開平6−307232号公報(第「0017」段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、触媒材料の容積に比較して、排気ガスの流量が大きくなると、担持体粒子の細孔中にガスが拡散する拡散速度よりも、排気ガスが触媒材料中に流れてゆく物質移動速度が非常に大きくなり、上述した細孔中へのガス拡散から起こる浄化の寄与が小さくなって、浄化効率が低下してしまう。
【0006】
このことに関連して、高出力車や、軽自動車のような小排気量で高ガス負荷(高SV)の掛かる車は、排気ガスの流量が多く、効果的な浄化を行うために、以下説明するような工夫が施されている。すなわち、(A)触媒コンバータをエンジンの近くに設置する、(B)触媒の容量を大きくする、(C)触媒に用いる貴金属の担持量を多くする、といった対策が採られている。
【0007】
(A)の方法は、排気ガスの温度が高い状態で触媒に接触させることで、浄化反応時の温度を高く保ち、それにより浄化効率を高くしようとする方法である。(B)の方法は、排気ガスと触媒材料との接触面積を確保することで、浄化効率を高く維持する方法である。(C)の方法は、浄化対象成分を分解する際に主要な役割を担う活性金属の担持量を増やすことで、浄化効率を高くする方法である。
【0008】
しかしながら、上述した(A)の方法は、車内における触媒コンバータの設置位置が限定され、設計上の制約が大きくなるという問題がある。すなわち、この方法は、容積に関する制限の大きいエンジンルーム内に触媒コンバータを配置しなくてはならず、触媒容量の制限や、触媒コンバータの形状に関する制限が厳しいという問題がある。また、高温において安定した触媒作用を得ることができる触媒材料を選択しなくてはならないという問題もある。
【0009】
(B)の方法は、触媒コンバータの大型化が避けられず、車内における設置位置の制約が大きくなり好ましくない。また、触媒コンバータを大型化すると、車の重量増加や燃費の悪化、貴金属の大量使用による高コスト化、消耗部品の短命化といった問題も顕在化する。
【0010】
また、(C)の方法は、貴金属の消費量が増え、コスト高になる問題がある。また、浄化に好ましい状態で貴金属を用いていないためコストパフォーマンスも悪くなる。
【0011】
本発明は、このような従来技術における不都合を解消した触媒コンバータを提供することを目的とする。すなわち本発明は、高出力車や、軽自動車のような高ガス負荷(高SV)の掛かる車から排気される大流量の排気ガスを効果的に浄化することができ、同時にレイアウトの自由度が高い、小型軽量化が図れる、貴金属の使用量を減らせる、といった優位性を備えた触媒コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の触媒コンバータは、LnAlO3(Ln:希土類元素)、および希土類元素とパラジウムの複合酸化物を含む触媒材料と、この触媒材料を納めた容器とを備えたことを特徴とする。すなわち、本発明の触媒コンバータにおいては、触媒材料として、LnAlO3(Ln:希土類元素)を担体とし、そこに希土類元素とパラジウムの複合酸化物を担持させたものを用いる。
【0013】
希土類元素とパラジウムの複合酸化物は、LnxPdOy(0<x、0<y)で表される複合酸化物である。なお、Lnは、希土類元素から選ばれた元素である。
【0014】
この材料(LnAlO3)は、ペロブスカイト型の結晶構造中に、共有結合性のAlを含んでおり、また、電気的な安定性が小さいことにより、担持されたLnxPdOyに対して強い相関作用を及ぼす。このため、LnxPdOyの活性が高められる。また、LnxPdOyは、Ln(希土類元素)とPdとが複合化されているため、高温条件下におけるPdの還元劣化を抑制することができる。つまり、本発明の触媒コンバータにおいては、高い排ガス浄化活性を有し、且つ高温耐熱性に優れたLnxPdOy/LnAlO3を用いているので、高い排ガス浄化作用を得ることができる。
【0015】
また、LnAlO3は、比表面積が小さい材料である(〜5m2/g)。このため、LnAlO3に担持された貴金属は、ガスとの接触が良好なLnAlO3粒子の外表面に存在する状態となる。ガスの流速が大きくなった場合、触媒粒子の外表面に活性点が存在する方が、浄化反応には有利である。したがって、LnAlO3を用いた本発明の触媒コンバータにおいては、高ガス流量下において高い排ガス浄化作用を得ることができる。
【0016】
このような触媒材料としての優位性があるため、後述する実測データから明らかにされるように、空間速度(SV値)を大きくしても浄化率がほとんど変化しないという有意な触媒性能を有している。
【0017】
一般に、空間速度を大きくすれば、浄化ガスが触媒材料に接触している時間が短くなるので、浄化効率は低下する。例えば、従来技術においては、この原理を前提として、浄化対象のガスが触媒材料になるべく長く接触するように、触媒コンバータの有効断面積と有効長とを極力大きく確保している。
【0018】
これに対して、本発明の触媒材料においては、上述にように空間速度に対する浄化率の依存性が極めて小さい。このため、触媒コンバータの断面積を小さくするでき、また長さを短くすることができる。つまり、触媒コンバータが占める容積を小さくすることができる。つまり本発明は、触媒コンバータの小型化、軽量化、および低コスト化を追求することができる。
【0019】
したがって本発明は、排気ガスの流量が大きい高出力車や、許容される触媒コンバータの容積に比較して、大流量の排気ガスを処理しなければならない軽自動車に適用することに適している。
【0020】
なお、空間速度(SV値)とは、(単位時間当たりの体積流量/反応系の容積)で表されるもので、単位時間(例えば1時間)あたり反応系いくつ分のガスが流れたのかを評価する指標である。空間速度が小さいということは、反応系内を通過するガスの通過時間がより長いことを意味し、空間速度が大きいということは、反応系内を通過するガスの通過時間がより短いことを意味する。
【0021】
また、本発明の触媒材料は、耐熱性が高いので、触媒コンバータに利用した場合に、エンジンの近くに配置することができる。この耐熱性の高さは、上述した触媒コンバータを小型化できる点と相まって、触媒コンバータをエンジンルーム内に配置する上で有利な要素となる。
【0022】
本発明において、触媒材料を構成するLnAlO3(Ln:希土類元素)がLaAlO3であり、LnxPdOy(Ln:希土類元素)がLa2PdO4および/またはLa4PdO7であることは好ましい。後述するように、この組合せの触媒は、空間速度に依存しない高い浄化効率を得ることができる。
【0023】
本発明における触媒材料は、反応温度が400℃、空間速度が50000(h−1)おける浄化率と、反応温度が400℃、空間速度が100000(h−1)おける浄化率との差が±2%以下である特性を示す。このような特性を有するが故に、触媒コンバータの容積を小さくすることができる優位性を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、空間速度への依存度が小さい触媒材料を触媒コンバータに採用することで、大流量の排気ガスに対応することができる。また、空間速度への依存度が小さいが故に、同じ浄化効率を得るために必要とする触媒材料の量を減らすことができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、高出力車や、軽自動車のような高ガス負荷(高SV)の掛かる車から排気される大流量の排気ガスを効果的に浄化することができる。また、触媒コンバータの容積を小さくでき、同時に高耐熱性を有しているので、小型軽量化が図れ、レイアウトの自由度が高い触媒コンバータを得ることができる。また、触媒材料の使用量を減らすことができるので、高コストである貴金属の使用量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(触媒材料の製造例)
以下、本発明の触媒コンバータに利用可能な触媒材料の製造方法の一例を説明する。ここでは、担持体としてペロブスカイト型複合酸化物であるLaAlO3を作製し、そこに担持物として、Pd複合酸化物であるLa2PdO4とLa4PdO7とを含浸担持させる製造工程の一例を説明する。
【0027】
(LaAlO3の製造方法)
まず、所定量の硝酸ランタン六水和物、硝酸アルミニウム九水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を作製した。次に所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。そして、この2つの水溶液を混合し、ホットプレートスターラーに乗せ、250℃の温度に保持しつつ、混合溶液中の水分が蒸発するまで攪拌を行った。
【0028】
水分が蒸発し、乾固物を得たら、乳鉢でそれを粉砕し、さらにこの粉砕物をアルミナ坩堝に移し、マッフル炉において熱処理を加えた。この熱処理は、2.5℃/minの昇温速度で室温(26℃)から350℃まで昇温させ、350℃に到達したら、その温度に3時間維持し、さらに自然冷却させる制御条件にて行った。この熱処理により、リンゴ酸塩および硝酸銀を除去した仮焼成体を得た。
【0029】
次にこの仮焼成体を乳鉢で15分間粉砕混合し、その粉砕物を再びアルミナ坩堝に入れ、マッフル炉において再度熱処理を加えた。この熱処理は、5℃/minの昇温速度で室温(26℃)から800℃の温度に上昇させ、800℃に到達したら、その温度に10時間維持し、その後自然冷却する制御条件にて行った。この熱処理を行うことで、LaAlO3で示されるペロブスカイト型の複合酸化物の粉末を得た。
【0030】
(触媒粉末の製造方法)
まず所定量の硝酸パラジウム二水和物と硝酸ランタン六水和物をイオン交換水に溶解させ、金属塩混合水溶液を作製した。次に所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。
【0031】
そしてナス型フラスコに、上記金属塩混合水溶液とリンゴ酸水溶液とを入れ、両者を混合し、そこに作製しておいたLaAlO3粉末を所定量加えた。そして、このナス型フラスコをロータリエバポレータで減圧しながら、60℃の湯浴中で上記混合溶液を蒸発乾固させ、乾個物を得た。
【0032】
次にこの乾個物をマッフル炉に入れ、2.5℃/minの昇温速度で常温(26℃)から250℃の温度にまで昇温させ、さらに250℃の温度に到達したら、5℃/minの昇温速度に切り換えて、750℃まで昇温させ、750℃の温度に到達したら、その温度を3時間維持し、その後自然冷却させる熱処理を加えた。
【0033】
この熱処理によって、La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に含浸担持させた構造を有する粉末状の触媒材料を得た。
【0034】
(触媒コンバータの製造方法)
以下触媒コンバータの製造方法の一例を説明する。まず、上述した触媒材料、水、およびSiO2バインダーを混合し、十分に攪拌してスラリー状の液体を得た。次に、コージェライト製のハニカムに上記スラリー状の液体を必要量ウォッシュコートし、200℃で2時間乾燥させ、さらに750℃で3時間の焼成を行うことで、触媒材料を保持したハニカム構造体を得た。そして、このハニカム構造体を、触媒コンバータを構成する容器に収めることで、触媒コンバータを得た。
【0035】
(触媒コンバータの設置例)
図1は、実施形態の触媒コンバータを配置した排気ガス浄化システムの一例を示す概念図である。図1は、ガソリンエンジンを搭載した乗用車における排気ガス浄化システムを示すもので、ガソリンエンジン101、排気配管102、および触媒コンバータ103が示されている。図1に示す例は、乗用車の床下に触媒コンバータを配置する場合の例である。
【0036】
触媒コンバータ103は、外装部材である金属製の容器の中に、ハニカム構造を有した触媒保持部材が納められた構造を有している。このハニカム構造の触媒保持部材の表面(ハニカム構造の表面)にLnAlO3(Ln:希土類元素)粒子を担体とし、そこにLnxPdOy粒子が担持された構成を有する触媒材料の粉末がコーティングされている。浄化対象となる排気ガスは、このハニカム構造体の内部を通過する際にコーティングされた触媒材料に接触し、窒素酸化物等の浄化が行われる。
【0037】
図2は、長さを短縮した触媒コンバータの概要を示す概念図である。すなわち、図2に示すのは、図1に示す触媒コンバータ103の長さを短縮することで、床下スペースの有効利用と車両の軽量化を図るものである。
【0038】
後述するように、本発明を利用した触媒コンバータは、空間速度が大きくなっても浄化効率が低下しない性能を備えている。空間速度が大きくなるということは、排気ガスが触媒に接触する時間が短くなるということであり、それは触媒コンバータの容積が小さくなるということと等価である。したがって、本発明を利用した触媒コンバータは、触媒コンバータの容積を小さくしても浄化効率が低下しない性能を備えているといえる。
【0039】
図2に示すのは、このことを利用したもので、触媒コンバータの容積を小さくできることを利用して、触媒コンバータの長さを短くした場合の例である。本発明においては、浄化性能を維持したまま、触媒コンバータの容積を60%程度まで減少させることが可能である。
【0040】
このことは、触媒コンバータの重量を20%低減したことにもなる。通常、触媒コンバータの重量は5〜6kgであるため、この効果は、およそ1〜2kgの軽量化に相当する。またこの場合、触媒材料に用いる貴金属の使用量を20%削減したことにもなる。つまり、小型軽量化と低コスト化を図ることができる。
【0041】
また、触媒コンバータを小型化できるので、その配置に自由度を持たせることができる。すなわち、触媒コンバータが小型化されることで、従来は配置できなかった位置に触媒コンバータを配置することができる自由度が生まれる。
【0042】
図3に示すのは、触媒コンバータ103の径105を小さくした場合の例である。すなわち、触媒コンバータの容積を小さくできることを利用して、その径を小さくした例である。この場合も小型軽量化、低コスト化、配置位置の自由度の増加、といった優位性を得ることができる。
【0043】
図4は、エンジン直下に触媒コンバータを配置した状態を示す概念図である。本発明の触媒コンバータは、小型化でき、また耐熱性が高いので、エンジン直下(あるいはエンジン直後)に配置することができる。
【0044】
エンジンの近くに触媒コンバータを配置する方法は、排気ガスの高温度状態を利用できる点で浄化効率を高くすることができる優位性があるが、〔1〕触媒材料に耐熱性が要求される、〔2〕必然的にエンジンルーム内またはその近くに触媒コンバータを配置することになるので、触媒コンバータの寸法や形状に大きな制限が加わる、といった問題がある。
【0045】
本発明を利用した触媒コンバータは、耐熱性に優れており、高温に曝しても性能の低下が少ない性能を有しているから、エンジンルーム内やその近くに触媒コンバータを配置することができる。また、触媒コンバータの容積を小さくしても浄化効率の低下が抑えられるから、触媒コンバータを小型化でき、またそれ故、エンジンルーム内やその近傍のスペース的に厳しい場所であっても触媒コンバータを配置することができる。
【0046】
また、図2や図3に示すように、触媒コンバータの長さを短くしたり、その径を細くしたりすることが可能であるので、ある程度その形状を自由に選ぶことができる。そのため、従来は困難であった場所に配置する自由度が大きいという優位性を得ることができる。
【0047】
このように本発明の触媒コンバータを利用することで、エンジン直下のレイアウトから床下レイアウト、その他適当な場所へのレイアウトの自由度を高くすることができる。
【0048】
(触媒材料の活性評価)
上述の作製方法により作製した粉末状の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持させた触媒材料)に耐久処理を加え、その後、活性評価を行った。耐久処理は、粉末状の触媒材料を980℃または1050℃に加熱した状態において、モデル排ガスを20時間流通させることによって行った。モデル排ガスとしては、A/F=14.6相当のガソリンエンジンの排気ガスをもとにした混合ガスを採用した。なお、A/Fは、(空気/燃料)比のことである。
【0049】
活性評価は、耐久処理と同じ、触媒材料にA/F=14.6相当のガソリンエンジンの排気ガス流し、空間速度(SV値)と反応温度とを振って、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、および窒素酸化物(NOx)の浄化率を測定することで行った。
【0050】
図5は、実施形態の触媒粉末における空間速度と50%浄化温度との関係を示すデータプロット図である。50%浄化温度というのは、触媒材料に接触することで、浄化対象となる成分の排気ガス中における濃度が半分になる反応温度のことをいう。
【0051】
図6は、比較例の触媒粉末における空間速度と50%浄化温度との関係を示すデータプロット図である。なお比較例は、従来技術として一般的である、Al2O3粉末にPdO粉末を担持させたもの(PdO/Al2O3)である。
【0052】
図5と図6を比較すれば明らかなように、本発明を利用した触媒粉末は、空間速度を高めても各浄化対象成分に対する50%浄化温度はほとんど高くならない。これは、同じ触媒コンバータにおいて、排気ガスの流量を増加させても、浄化効率がほとんど低下しない性能を得ることができることを意味している。また、同じ排気ガスの流量において、触媒コンバータの容積を小さくしても、浄化効率がほとんど低下しない性能を得ることができることを意味している。
【0053】
これに対して、比較例の場合は、特に窒素酸化物(NOx)の50%浄化温度が空間速度の増加に応じて高くなる傾向が顕著である。
【0054】
これは、空間速度が大きくなると、より反応温度を高めないと所定の浄化率を確保することができないことを意味している。つまり、図6の窒素酸化物(NOx)に関するデータは、同じ触媒コンバータを採用した場合において、排気ガスの流量が大きくなると、窒素酸化物の浄化効率が大きく低下することを意味している。また、このことは、同じ排気ガスの流量において、触媒コンバータの容積を小さくすると、窒素酸化物の浄化効率が大きく低下することを意味している。
【0055】
また、下記表1に示すように、実施形態の(空間速度:100000h−1)における各成分に対する50%浄化温度は、比較例の(空間速度:50000h−1)における各成分に対する50%浄化温度とほぼ同じである。
【0056】
【表1】
【0057】
図7は、実施形態の触媒粉末が示す空間速度と400℃浄化率との関係を示すデータプロット図である。400℃浄化率というのは、400℃の反応温度における浄化率である。
【0058】
図7を見れば分かるように、実施形態の触媒粉末は、空間速度が大きくなっても各成分に対する浄化率はあまり変化しない。すなわち、排気ガスの空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になった場合における、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)の浄化率の低下は、ごく僅かである。
【0059】
図7から明らかなように、空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になっても、各成分の浄化率は、±2%の範囲に収まっている。このことは、空間速度に依存せずに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率を維持する能力に優れていることを意味している。
【0060】
図8は、比較例における空間速度と400℃浄化率との関係を示すデータプロット図である。図8を見れば分かるように、比較例の触媒材料は、空間速度が50000h−1から100000h−1と2倍になると、400℃浄化率が大きく低下する。
【0061】
また、下記表2に示すように、実施形態の(空間速度:100000h−1)における各成分に対する400℃浄化率は、比較例の(空間速度:50000h−1)における各成分に対する400℃浄化率とほぼ同じである。
【0062】
【表2】
【0063】
以上のことから、次の内容が結論される。すなわち、空間速度が50000h−1程度においては、浄化効率の観点から見て、比較例に対する本実施形態の優位性はそれ程大きくない。しかしながら、空間速度が50000h−1より大きくなると、比較例では特に窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率の低下が顕著になるが、本実施形態の触媒粉末は、浄化効率の低下はほとんど見られない。すなわち、比較例は空間速度に依存して浄化効率が大きく変化する(特に窒素酸化物(NOx)に対して)が、本実施形態の触媒粉末は、空間速度が50000h−1から100000h−1に増加しても、さほど浄化効率は変化しない。
【0064】
したがって、本実施形態で示した触媒粉末を用いた場合、触媒コンバータの容積を小さくしても、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率の低下(特に窒素酸化物の浄化効率の低下)を抑えることができる。つまり、小型の触媒コンバータを使用することができる。
【0065】
また、少ない触媒材料の使用で済むので、Pd等の貴金属の使用量を減らすことができ、低コスト化を図ることができる。
【0066】
また、本実施形態で示した触媒粉末を用いた場合、同じ触媒コンバータにおいて、排気ガスの流量が増えても浄化効率の低下を抑えることができる。つまり、限られた触媒コンバータの容積で、大きな排気ガス流量に対応することができる。
【0067】
(耐熱性の評価)
以下、上述の作製方法により作製した粉末状の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持させた触媒材料)の耐熱性を調べた結果について説明する。ここでは、昇温させた場合に、触媒活性がどのように変化するのかを調べた結果について説明する。
【0068】
図9は、実施形態の触媒粉末の50%浄化温度のデータを示すグラフである。ここでは、空間速度が50000h−1の場合における50%浄化温度が、耐久処理なし、980℃、20時間の耐久処理あり、1050℃、20時間の耐久処理あり、の3条件について記載されている。なお、ここで耐久処理は、A/F=14.6相当のストイキモデル排ガスの雰囲気で行った。
【0069】
図10は、前述の比較例(PdO/Al2O3)の触媒粉末における50%浄化温度のデータを示すグラフである。各種の条件は図9の場合と同じである。
【0070】
図9と図10とを比較すると、実施形態の触媒材料(La2PdO4および/またはLa4PdO7をLaAlO3に担持した触媒材料)は、比較例の触媒材料(PdO/Al2O3)に比較して、耐久処理の影響による浄化効率の変化が小さいことが分かる。つまり、実施形態の触媒材料は、耐久処理しても初期の性能を維持する傾向が比較例の触媒材料よりも高い。これは、実施形態の触媒材料が、比較例の触媒材料よりも高い耐熱性を有していることを意味している。
【0071】
図11は、実施形態の触媒粉末の400℃浄化効率のデータを示すグラフであり、図12は、比較例(PdO/Al2O3)の触媒粉末における400℃浄化効率のデータを示すグラフである。なお、各種の条件は図9の場合と同じである。図11と図12とを比較すれば明らかなように、実施形態の触媒材料は、比較例の触媒材料に比べて耐久処理による浄化率の低下が小さいことが分かる。つまり、実施形態の触媒材料は、比較例の触媒材料に比べて高い耐熱性を備えていることが分かる。
【0072】
このように、実施形態の触媒材料は、従来技術における触媒材料よりも高い耐熱性を有している。このことは、触媒コンバータのエンジン間近やエンジンルーム内への配置に際して、有利な材料となる。
【0073】
以上説明した内容から明らかなように、本発明を利用した触媒コンバータは、空間速度を増加させても、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)に対する浄化効率が低下し難い優位性がある。このため、触媒コンバータを小型軽量化することができ、高出力エンジン等の大流量の排気に対して、容積を大型化せずに対応することができる。また、触媒材料の使用量を減らせるので、貴金属の使用量を減らすことができる。
【0074】
また、触媒材料の耐熱性が高いので、触媒コンバータの配置場所が限定されないという優位性を得ることができる。また、上述した触媒コンバータを小型軽量化できる点からも、触媒コンバータの配置に関する自由度を高くすることができる。このため、車内のスペースを有効に利用することができる設計が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ガソリンエンジンの排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)等の成分を浄化する触媒コンバータに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】触媒コンバータを配置した排気ガス浄化システムの一例を示す概念図である。
【図2】長さを短縮した触媒コンバータの概要を示す概念図である。
【図3】外径を小さくした触媒コンバータの概要を示す概念図である。
【図4】エンジン直下に触媒コンバータを配置した状態を示す概念図である。
【図5】実施形態の触媒材料における空間速度と50%浄化温度とを関係を示すデータプロット図である。
【図6】比較例の触媒材料における空間速度と50%浄化温度とを関係を示すデータプロット図である。
【図7】実施形態の触媒材料における空間速度と400℃浄化率とを関係を示すデータプロット図である。
【図8】比較例の触媒材料における空間速度と400℃浄化率とを関係を示すデータプロット図である。
【図9】実施形態の触媒材料における50%浄化温度を示すグラフである。
【図10】比較例の触媒材料における50%浄化温度を示すグラフである。
【図11】実施形態の触媒材料における400℃浄化率を示すグラフである。
【図12】比較例の触媒材料における400℃浄化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
101…ガソリンエンジン、102…排気配管、103…触媒コンバータ、104…触媒コンバータの長さ、105…触媒コンバータの径。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LnAlO3(Ln:希土類元素)に希土類元素とパラジウムの複合酸化物を担持させた触媒材料と、
前記触媒材料を納めた容器と
を備えたことを特徴とする触媒コンバータ。
【請求項2】
前記LnAlO3(Ln:希土類元素)は、ペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒コンバータ。
【請求項3】
前記LnAlO3(Ln:希土類元素)がLaAlO3であり、
前記希土類元素とパラジウムの複合酸化物がLa2PdO4および/またはLa4PdO7であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒コンバータ。
【請求項4】
前記触媒材料は、反応温度が400℃、空間速度が50000(h−1)おける浄化率と、反応温度が400℃、空間速度が100000(h−1)おける浄化率との差が±2%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒コンバータ。
【請求項1】
LnAlO3(Ln:希土類元素)に希土類元素とパラジウムの複合酸化物を担持させた触媒材料と、
前記触媒材料を納めた容器と
を備えたことを特徴とする触媒コンバータ。
【請求項2】
前記LnAlO3(Ln:希土類元素)は、ペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒コンバータ。
【請求項3】
前記LnAlO3(Ln:希土類元素)がLaAlO3であり、
前記希土類元素とパラジウムの複合酸化物がLa2PdO4および/またはLa4PdO7であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒コンバータ。
【請求項4】
前記触媒材料は、反応温度が400℃、空間速度が50000(h−1)おける浄化率と、反応温度が400℃、空間速度が100000(h−1)おける浄化率との差が±2%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒コンバータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−122809(P2006−122809A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314115(P2004−314115)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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