説明

記録ヘッド

【課題】高速でのノズルへのインクの再充填が可能な記録ヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録装置用の記録ヘッド10は、第1の基板1と第2の基板2とを有する。第1の基板1は、インクを吐出するためのエネルギー発生素子3と、第1の基板1を貫通するインク供給口6とを有する。第2の基板2は、インクの吐出口4を有する複数のノズルと溝とを有する。そして、第2の基板2の溝と第1の基板1とでノズルとインク供給口6とをつなぐインク流路5が形成されている。第1の基板1の上に第2の基板2が配置されており、第2の基板2には、記録ヘッド10の表面側の一方の面と、第1の基板1の方向を向いた他方の面のそれぞれに凹部7、8が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いた記録装置(インクジェット記録装置)は、記録ヘッドのノズルの吐出口からインク(記録液)を吐出飛翔させ、これを記録媒体に付着させることで記録を行う構成となっている。
【0003】
この種の記録ヘッドの構成について以下で説明する。記録ヘッドは、電気配線、およびインクを吐出するためのエネルギーを発生させる複数のエネルギー発生素子が表面に設けられたシリコン基板上に、積層された樹脂材料からなるオリフィス基板が配置される。オリフィス基板には、各エネルギー発生素子と対応する位置にノズルが設けられている。ノズルはエネルギー発生素子により気泡を発生させる発泡室と、インクを吐出するための微細な吐出口とを有している。また、オリフィス基板に設けられた溝とシリコン基板とで、後述するインク供給口からノズルにインクを供給するインク流路が形成されている。なお、シリコン基板には、インクタンクなどからインクを供給するためのインク供給口がシリコン基板を貫通するように設けられている。このインク供給口とインク流路を介してインクタンクなどからノズルへとインクが供給される。
【0004】
以上のように構成された記録ヘッドは、シリコン基板の裏面から供給されたインクがインク供給口とインク流路とを通って各ノズルの発泡室内に充填される。発泡室内に充填されたインクは、エネルギー発生素子により膜沸騰されて発生する気泡によって、シリコン基板に対してほぼ直交する方向に押し出され、吐出口からインクが吐出される。
【0005】
インクジェット記録装置は、高い記録品位、および高速記録の要求に応えるために、ノズルの高密度化、および吐出されるインクの小液滴化が要求される。ノズルの高密度化に関しては、例えばオリフィス基板を感光性の樹脂材料で形成し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングすることで実現されている。また、小液滴化については、吐出口径と発泡室を縮小化することで実現されている。この発泡室の縮小化のために、エネルギー発生素子の表面とオリフィス基板の表面との距離(以下、「OH距離」と称する)を小さくする設計がなされている。
【0006】
OH距離を小さくする方法の1つとして、オリフィス基板を薄くすることが挙げられる。例えば特許文献1では、インクの吐出特性に関わる吐出口近傍のみオリフィス基板を薄くし、その他の部分は強度の観点から厚くすることで、OH距離を小さくすることを実現している。そのため、オリフィス基板の表面(シリコン基板とは反対の面)には、各吐出口を中心とした凹部を有する形状になっている。しかしながら、オリフィス基板を薄くすることは、強度の面で限度がある。
【0007】
OH距離を小さくする他の方法として、インク流路の高さを低くすることが挙げられる。この場合、シリコン基板の表面(エネルギー素子が配置されている面)とオリフィス基板の裏面との間隔を小さくすることで、OH距離を小さくすることができる。しかしながら、インク流路の高さを低くすると、流路抵抗が増加し、ノズルへのインクの再充填に必要な時間が長くなってしまい、高速記録を行うには望ましくない。そこで、例えば特許文献2には、OH距離を小さくしつつ、ノズルにインクを高速で再充填可能にするため、オリフィス基板の裏面のインク流路を構成する部分に凹部(以下、「裏面溝部」と称する)を設け、インク流路の一部の高さを高くすることが示されている。この方法の場合、OH距離を小さくしつつ、インク流路の高さが高くなるため、流路抵抗の低減が実現され、高速でのインクの再充填が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−037439号公報
【特許文献2】特開2003−025595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の方法の場合、以下の問題が生じる。
(1)オリフィス基板を形成する樹脂材料が記録ヘッドの製造中に収縮する。
(2)オリフィス基板の表面付近と裏面付近とでオリフィス基板の平面に平行な方向の収縮量が異なる。
【0010】
この2点の問題から、裏面溝部の位置でオリフィス基板がインク流路の高さを低くする変形、つまり、オリフィス基板がシリコン基板方向に湾曲する。この変形により、流路抵抗が増大し、インクの再充填を阻害するといった課題が発生してしまう。
【0011】
具体的には、樹脂材料で形成されたオリフィス基板を有する記録ヘッドの製造工程では、インク耐性や基板同士の密着性の観点から一般的に最終工程としてキュア工程が行なわれる。キュア工程により、一般的な樹脂材料で構成されたオリフィス基板では数〜十数%程度収縮する。裏面溝部を有するオリフィス基板では裏面溝部の側部はシリコン基板に向けて突出した形状となるため、オリフィス基板の平面に対して平行な方向は固定されていない自由端になり、オリフィス基板の裏面溝部の側部の収縮量は大きくなってしまう。その結果、裏面溝部付近に着目すると、引張り応力が発生することになる。したがって、キュア工程後、裏面溝部付近のオリフィス基板はインク流路の高さを低くする変形(シリコン基板方向への湾曲)が生じる。以上のことから、インク流路の高さが所望の高さより低くなり、裏面溝部を設けたことによる効果が減少してしまう。なお、キュア工程によってインク流路の高さが低くなることを見込んで、裏面溝部の深さを大きくするという対策が考えられるが、裏面溝部においてオリフィス基板が薄くなりすぎてしまい、強度不足という別の課題が発生してしまう。さらに、オリフィス基板をキュア工程でも収縮しない材料で形成することも考えられるが、記録ヘッドを構成する材料は、使用するインクに対して諸特性(インクへの溶出、密着性など)を有する必要があり、材料の選択性が低いため、対策することは容易ではない。
【0012】
そこで、本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、高速でのノズルへのインクの再充填が可能な記録ヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のインクジェット記録装置用の記録ヘッドは、第1の基板と第2の基板とを有する。第1の基板は、インクを吐出するためのエネルギー発生素子と、第1の基板を貫通するインク供給口とを有する。第2の基板は、インクの吐出口を有する複数のノズルと溝とを有する。そして、第2の基板の溝と第1の基板とでノズルとインク供給口とをつなぐインク流路が形成されている。第1の基板の上に第2の基板が配置されており、第2の基板には、記録ヘッドの表面側の一方の面と、第1の基板の方向を向いた他方の面のそれぞれに凹部が設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、オリフィス基板の変形によるインク流路の高さの低下を低減させることができるため、ノズルへの高速でのインクの再充填が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る記録ヘッドの一実施形態の概略構成図である。
【図2】キュア工程時に発生するオリフィス基板の収縮の方向と変形の様子を示す図である。
【図3】表面溝部と裏面溝部の位置関係を示す模式図である。
【図4】表面溝部が分割して設けられている記録ヘッドの概略構成図である。
【図5】表面溝部が分割して設けられている記録ヘッドの他の構成を示す概略構成図である。
【図6】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す図である。
【図7】本発明に係る記録ヘッドの第2の実施形態の概略構成図である。
【図8】第2の実施形態において、キュア工程時に発生するオリフィス基板の収縮の方向と変形の様子を示す図である。
【図9】第2の実施形態における、表面溝部と裏面溝部の位置関係を示す模式図である。
【図10】第2の実施形態における記録ヘッドの他の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態の詳細について説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0017】
[実施形態1]
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置用の記録ヘッドの一実施形態の概略構成図であり、(a)は記録ヘッドの表面からみた記録ヘッドの概略構成図、(b)は(a)のAA’断面の概略斜視図である。
【0018】
インクジェット記録装置用の記録ヘッド10は、シリコン基板(第1の基板)1とシリコン基板1上に積層された樹脂材料からなるオリフィス基板(第2の基板)2とで構成されている。オリフィス基板2は、例えば一方向に延びており、より具体的には矩形をしている。
【0019】
シリコン基板1の表面には、複数のエネルギー発生素子3が配置されている。そして、シリコン基板1の裏面には、共通液室9が設けられており、エネルギー発生素子3を挟むように、シリコン基板1を貫通、つまり共通液室9と連通するインク供給口6が設けられている。
【0020】
シリコン基板1の表面には、オリフィス基板2が配置されている。オリフィス基板2には、シリコン基板1上の各エネルギー発生素子4に対応する位置にノズルが設けられている。ノズルはエネルギー発生素子3により気泡を発生させる発泡室11と、発泡室11から外部にインクを吐出するための微細な吐出口4とを有している。ノズル同士は、壁部12によって区切られている。つまり、壁部12同士に囲まれることで、発泡室11が形成されている。また、オリフィス基板2には溝が設けられており、この溝とシリコン基板1とで、インク供給口6から発泡室11へインクを供給するインク流路5が形成されている。オリフィス基板2の表面(一方の面)には、表面から裏面(他方の面)方向に窪んだ凹部である表面溝部8が設けられ、裏面には、裏面から表面方向に窪んだ凹部である裏面溝部7が設けられている。表面溝部8は、オリフィス基板2の短手方向で両端部付近を長手方向に延びている。裏面溝部7は、インク流路5を構成するように位置している。なお、表面溝部8と裏面溝部7については後述する。また、不図示のインクタンクなどから共通液室9にインクが供給される。
【0021】
図2は、キュア工程時に発生する、AA’断面におけるオリフィス基板2の収縮の方向と変形の様子を示す図であり、(a)は収縮の方向を示し、(b)は変形の様子を示す。図2(a)の矢印に示すように、キュア工程により、裏面溝部7や表面溝部8の側部に収縮応力が働く。その結果、図2(b)に示すように、裏面溝部7の位置でオリフィス基板2は、インク流路5の高さを低くするような変形をするが、オリフィス基板2の表面溝部8の位置では、オリフィス基板2がシリコン基板1とは離れる方向に変形しようとする。そのため、裏面溝部7の位置でのオリフィス基板2のインク流路5の高さを低くするような変形を緩和させることができる。
【0022】
表面溝部8と裏面溝部7の位置関係について、図3を用いて具体的に説明する。図3は、表面溝部8と裏面溝部7の位置関係を示す模式図であり、(a)は、図1(a)のAA’断面における模式図、(b)は図1(a)のBB’断面における模式図である。なお、シリコン基板1の短手方向をx、長手方向をy(図1(a)参照)、シリコン基板1の表面に対して垂直な方向をz、エネルギー発生素子3の中心を0とする。また、オリフィス基板2の短手方向(x方向)において、裏面溝部7、表面溝部8、およびインク供給口6の端部のうち、位置0に近い端部の位置を「開始位置」、位置0から離れた位置を「終了位置」としている。
【0023】
裏面溝部7の開始位置をx1i、裏面溝部7の終了位置をx1f、表面溝部8の開始位置をx2i、表面溝部8の終了位置をx2f、インク供給口6の開始位置をx3i、インク供給口6の終了位置をx3fとする。さらに壁部12の、オリフィス基板2の短手方向の端部側の位置をx4、オリフィス基板2の端部の、シリコン基板1と接合している部分のオリフィス基板2の中央部側の位置をx5、そして位置x4と位置x5の中心をx6とする。
【0024】
裏面溝部7を設けるにあたり、より好ましい配置としては、
(1)裏面溝部7の終了位置x1f>インク供給口6の開始位置x3i
(2)裏面溝部7の開始位置x1iは可能な限り小さくする
(3)裏面溝部7の終了位置x1f<位置x4と位置x5の中心位置x6
となるようにする。
【0025】
(1)に関して、インクの高速での再充填を妨げる原因が、キュア工程によりインク流路5の高さが低くなることである。そのため、シリコン基板1の短手方向において(記録ヘッド10を表面側からみて)、裏面溝部7とインク供給口6とが重なる方が高速でのインクの再充填にとって有利となる。したがって、(1)のような位置関係が好ましい。
【0026】
(2)に関して、裏面溝部7の開始位置が吐出口4に近ければ近いほど、インク流路5の高さの低い領域が狭くなる。そのため、インクの高速での再充填にとって効果がある。ただし、吐出特性が悪化したり、オリフィス基板2の割れが生じたり、製造に支障をきたしたりしない程度に裏面溝部7の開始位置を吐出口4に近づけることが望ましい。
【0027】
(3)に関して、記録ヘッド10を製造するときに、オリフィス基板2で変形が最も起こる箇所がオリフィス基板2とシリコン基板1とが接合している位置よりも離れているところになる。そのため、位置x4と位置x5の中心にあたる位置x6が最も変位する部分にあたる。したがって、インク流路5の高さを低くする変形を発生させる裏面溝部7が、この位置x6を含まないようにすることがより好ましい。
【0028】
また、裏面溝部7の深さについては、インクの再充填の観点からは、大きいほうが有利である。しかし、裏面溝部7の深さを大きくすることは、言い換えるとオリフィス基板2の厚さを薄くすることになる。したがって、オリフィス基板2の強度により裏面溝部7の深さが限定されることになる。
【0029】
次に表面溝部8を設けるにあたり、より好ましい配置としては、
(1)裏面溝部7の終了位置x1f<表面溝部8の開始位置x2i
(2)表面溝部8の終了位置x2f<位置x5
(3)表面溝部8の開始位置x2i<位置x4と位置x5の中心位置x6
となるようにする。
【0030】
(1)に関して、上述するように、裏面溝部7は吐出口4に近い位置に配置する。また、記録ヘッド10の表面側からみて、裏面溝部7と表面溝部8が重なってしまうと、オリフィス基板2に薄くなりすぎる部分ができてしまい、強度不足となってしまう。したがって、(1)のような位置関係が望ましい。なお、表面溝部8の開始位置x2iと裏面溝部7の終了位置x1fの間の間隔aが小さいとキュア工程で発生する応力によりオリフィス基板2が割れてしまう可能性があるので、間隔aはオリフィス基板2が割れない程度にする必要がある。
【0031】
(2)に関して、位置x5の直上に表面溝部8がある場合、表面溝部8におけるオリフィス基板2の変形が拘束されるため、オリフィス基板2のインク流路5の高さを高くする変形が小さくなってしまう。したがって、表面溝部8を形成した効果をより大きくするために、(2)の位置関係が好ましい。
【0032】
(3)に関して、上述したように位置x4と位置x5の中心にあたる位置x6が最も変位する部分にあたる。そのため、表面溝部8はこの位置x6を含むように配置されることが好ましく、(3)の位置関係がより好ましい。
【0033】
図1に示す記録ヘッド10においては、表面溝部8が、オリフィス基板2の短手方向で両端部付近を長手方向に延びている。しかしながら、図4に示すように、各吐出口4を挟む位置だけに表面溝部8を分割して設けてもよい。
【0034】
また、表面溝部8を分割して配置する他の構造について図5を用いて説明する。図5は、表面溝部8が分割して設けられている記録ヘッド10の他の構成を示す概略構成図であり、(a)は記録ヘッド10の表面からみた記録ヘッド10の概略構成図、(b)は(a)のCC’断面の模式図、(c)は(a)のDD’断面の模式図である。上述の、図4で示した表面溝部8とは異なり、オリフィス基板2の短手方向において、吐出口4を挟まない位置に表面溝部8が分割して配置されている。
【0035】
この場合、オリフィス基板2の長手方向での収縮量の違いにより、裏面溝部7の位置でのインク流路5の高さを低くする変形を緩和することになる。位置関係として裏面溝部7の終了位置x1f>表面溝部8の開始位置x2iの場合でも、記録ヘッド10の表面側からみて裏面溝部7と表面溝部8とが重なることによってオリフィス基板2が薄くなりすぎるという問題は発生しない。なお、図5(c)に示す間隔bはオリフィス基板2が薄くなりすぎることを避けるために、所定の間隔をとる必要がある。また、表面溝部8の深さは、大きければ大きいほど、インク流路5を高くする変形効果が大きいが、オリフィス基板2の厚みが薄くなりすぎるため、オリフィス基板2の強度により制限される。
【0036】
次に、図6を用いて本発明の記録ヘッド10の製造方法について説明する。
【0037】
まず、エネルギー発生素子3と、それを駆動および制御するための半導体素子(不図示)がシリコン基板1に設けられる。そして、シリコン基板1に対し、フォトリソグラフィ技術を利用して、表面(エネルギー発生素子が設けられた面)に密着層110、裏面には共通液室9を形成するためのマスク層116を形成する。
【0038】
その後、シリコン基板1の表面に第1の層111(膜厚:5μm)と第2の層112(膜厚:4μm)とを積層する(図6(a)参照)。第1の層111と第2の層112はいずれもポジ型感光性樹脂であり、感光する波長域が異なる樹脂が選定される。
【0039】
次に、後に裏面溝部7となる部分にマスクをして、第2の層112の感光波長領域であり、かつ第1の層111の感光波長領域をカットした紫外線を照射し、現像液にて現像を行い第2の層112を除去し、裏面溝部7にあたる型を形成する(図6(b)参照)。なお、裏面溝部7の寸法としては20μm×20μmとし、後に形成する吐出口4の端部と裏面溝部7の端部との間隔が4μm程度となるようにする。
【0040】
次に、後にインク流路5となる部分にマスクをしてから、第1の層111の感光波長領域であり、かつ第2の層112の感光波長領域をカットした紫外線を照射し、現像を行い、インク流路5の型を形成する(図6(c)参照)。
【0041】
次に、ネガ型感光性樹脂、例えばSU−8(日本化薬(株))をスピンコートにて塗布して乾燥させ第3の層113を形成する。なお、第3の層113は、第3の層113の表面とシリコン基板1の間隔が4μmとなるように形成した。そして、吐出口4となる部分以外をマスクし、紫外線露光を第3の層113に行い、次いで現像、ポストベークを行うことで、吐出口4となる領域117を設けた(図6(d)参照)。
【0042】
次に、表面溝部8を形成するため、第3の層113と同材料のネガ型感光性樹脂をスピンコートにて塗布して乾燥させ第4の層114を形成する。なお、第4の層114は、第4の層114の表面とシリコン基板1との間隔が7μmとなるように形成した。そして、表面溝部8となる部分以外をマスクし、第4の層114に対して、紫外線露光を行い、次いで現像、ポストベークを行うことで、表面溝部8を形成した(図6(e)参照)。表面溝部8の寸法としては、表面溝部8を分割する場合(図4、図5(a)参照)、20μm×20μmとし、表面溝部8をオリフィス基板2の長手方向に延ばす場合(図1(a)参照)は幅が20μmとなるようにする。また、シリコン基板1の短手方向において、裏面溝部7と表面溝部8との間隔が3μm程度となるようにした。なお、第4の層114を形成せずに、第3の層113を厚く形成し、第3の層113の表面から機械加工やレーザー加工で表面溝部8を形成しても良い。
【0043】
その後、シリコン基板1の裏面にインクを供給するための共通液室9を形成するために、結晶性異方性エッチング、およびインク供給口6を形成するためにドライエッチングを行う。そして、第1の層111と第2の層112を除去し(裏面溝部7とインク流路5ができ上がる)、後にキュア工程が行われる(図6(f)参照)。
【0044】
以上の工程により、記録ヘッド10を製造した。なお、図6(a)〜(f)ではエネルギー発生素子3を挟むようにインク供給口6を形成したが、図6(g)に示すように、エネルギー発生素子3の一方の側部のみにインク供給口6を設けてもよい。
【0045】
以上より、本実施形態では、裏面溝部7の位置でオリフィス基板2は、インク流路5の高さを低くするような変形をするが、表面溝部8の位置では、オリフィス基板2がシリコン基板1とは離れる方向に変形しようとする。そのため、裏面溝部7の位置でのオリフィス基板2のインク流路5の高さを低くするような変形を緩和させることができる。したがって、流路抵抗が小さくなり、インク供給口6からインク流路5を介してノズル(発泡室11)へ高速でインクを充填することができる。
【0046】
[実施形態2]
本発明に係る記録ヘッドの第2の実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と同一の構成については説明を省略する。図7は、本発明に係る記録ヘッドの第2の実施形態の概略構成図であり、(a)は記録ヘッドの表面からみた記録ヘッドの概略構成図、(b)は(a)のEE’断面の概略斜視図である。本実施形態が第1の実施形態と大きく異なる点は、シリコン基板1の短手方向において(記録ヘッド10を表面側からみて)、裏面溝部7と表面溝部8とが重なることである。
【0047】
上述したように、シリコン基板1の表面とオリフィス基板2の表面との間の距離は、第1の実施形態と同程度に小さく、かつオリフィス基板2が薄くなりすぎてはいけない。そこで、第2の実施形態では、オリフィス基板2の短手方向の両端部付近において、オリフィス基板2の厚さを厚くする厚肉部19を設けて、オリフィス基板2の表面から突出するようにする。このようにすることで、オリフィス基板2の短手方向の両端部、つまり厚肉部19に挟まれた中央部に、長手方向に延びる、吐出口4を含む窪んだ凹部である表面溝部8が形成されることになる。裏面溝部7は上述の実施形態と同様にインク流路5を構成する位置に設けられているため、裏面溝部7と表面溝部8は、記録ヘッド10の表面から見ると部分的に重なっている。
【0048】
本実施形態では、オリフィス基板2の短手方向の両端部に厚肉部19を形成しているため、オリフィス基板2は短手方向で中央部から端部に向かうにつれて強度が大きくなっている。また、厚肉部19を形成することで表面溝部8が形成されるため、表面溝部8の深さに制限がほとんどない。
【0049】
図8は、キュア工程時に発生する、EE’断面におけるオリフィス基板2の収縮の方向と変形の様子を示す図であり、(a)は収縮の方向を示し、(b)は変形の様子を示す。図8(a)に示すように、裏面溝部7と表面溝部8の側部に収縮応力が働く。そのため、図8(b)で示すように、オリフィス基板2の裏面溝部7と表面溝部8の位置においては、オリフィス基板2は、シリコン基板1の方向とシリコン基板1とは反対の方向の何れにも変形しようとする。そのため、結果として、インク流路5の高さを低くする変形を抑制すことができる。
【0050】
表面溝部8と裏面溝部7の位置関係について、図9を用いて説明する。図9は、表面溝部8と裏面溝部7の位置関係を示す模式図であり、(a)は、図9(a)のEE’断面における模式図、(b)は図9(a)のFF’断面における模式図である。なお、シリコン基板1の短手方向をx、長手方向をy(図7(a)参照)、シリコン基板1の表面に対して垂直な方向をz、エネルギー発生素子3の中心を0とする。また、オリフィス基板2の短手方向(x方向)において、溝部7、8やインク供給口6の、位置0に近い位置を「開始位置」、位置0から離れた位置を「終了位置」としている。
【0051】
裏面溝部7の開始位置をx1i、裏面溝部7の終了位置をx1f、表面溝部8の端部位置をx2、インク供給口6の開始位置をx3i、インク供給口6の終了位置をx3fとする。さらに壁部12の端の位置をx4、オリフィス基板2の端部の、シリコン基板1と接合している部分のオリフィス基板2の中央部に近い位置をx5、そして位置x4と位置x5の中心をx6とする。
【0052】
裏面溝部7の好ましい配置および高さは第1の実施形態と同様である。表面溝部8を設けるにあたり、より好ましい配置としては
(1)表面溝部8の端部位置x2>裏面溝部7の終了位置x1f
(2)表面溝部8の端部位置x2<接合位置x5
(3)表面溝部8の端部位置x2>位置x4と位置x5の中心位置x6
となるようにする。
【0053】
(1)に関して、インク流路5の高さを高くする変形による、インク流路の高さを低くする変形を軽減する効果を考慮すると(1)のような位置関係が望ましい。(2)、(3)については、第1の実施形態同様の理由である。
【0054】
なお、表面溝部8でのオリフィス基板2の変形を抑制する効果があるならば、図10に示すように表面溝部8の端部位置x2がオリフィス基板1の長手方向で一定ではなく、一部では、表面溝部8の幅が狭くなる形状でもよい。また、表面溝部8や裏面溝部7は分割されていても良い。
【0055】
表面溝部8の深さは、上述したように特に制限はないため、所定の流路抵抗になるよう設計すればよい。なお本実施形態の記録ヘッド10は、第1の実施形態と同様な工程で製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 シリコン基板(第1の基板)
2 オリフィス基板(第2の基板)
3 エネルギー発生素子
4 吐出口
5 インク流路
6 インク供給口
7 裏面溝部(凹部)
8 表面溝部(凹部)
10記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するためのエネルギー発生素子を有する第1の基板であって該基板を貫通するインク供給口を有する第1の基板と、前記インクの吐出口を有する複数のノズルと溝とを有する第2の基板とを有し、前記第2の基板の前記溝と前記第1の基板とで前記ノズルと前記インク供給口とをつなぐインク流路が形成されている、インクジェット記録装置用の記録ヘッドであって、
前記第1の基板の上に前記第2の基板が配置されており、
前記第2の基板には、前記記録ヘッドの表面側の一方の面と、前記第1の基板の方向を向いた他方の面のそれぞれに凹部が設けられている、記録ヘッド。
【請求項2】
前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部は、前記インク流路を構成する部分に設けられている、請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記第2の基板は一方向に長くなっており、
前記第2の基板には、前記ノズルを互いに区切る壁部が設けられており、前記第2の基板の短手方向において、前記第2の基板の端部の前記第1の基板に接合している部分であって、前記第2の基板の中央部側の位置と、前記壁部の、前記第2の基板の端部側の位置との中心が前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部に位置している、請求項1または2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部は、前記記録ヘッドの表面から見て、前記他方の面の前記凹部および前記吐出口とは重なっていない、請求項1から3のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部は、前記記録ヘッドの表面から見て、前記他方の面の前記凹部および前記吐出口と重なっている、請求項1から3のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記第2の基板は一方向に長くなっており、
前記第2の基板の短手方向において、前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部は、前記第2の基板の前記吐出口と、前記第2の基板の端部の、前記第1の基板と接合している部分との間に位置している、請求項4に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記第2の基板は一方向に長くなっており、
前記第2の基板の短手方向において、前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部の端部が、前記第2の基板の前記吐出口と、前記第2の基板の端部の、前記第1の基板と接合している部分との間に位置している、請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項8】
前記第2の基板は一方向に長くなっており、
前記第2の基板の短手方向において、前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部が、前記第2の基板の端部の前記第1の基板と接合している部分であって第2の基板の中央部側の位置と、前記ノズルを互いに区切る壁部の、前記第2の基板の端部側の位置との中心の位置よりも前記吐出口に近い位置にある、請求項4から7のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記第2の基板は一方向に長くなっており、
前記第2の基板の短手方向において、前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部は、前記記録ヘッドの表面から見て、前記インク供給口と重なっている、請求項4から8のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
前記第1の基板および前記第2の基板は樹脂材料で構成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項11】
インクを吐出するためのエネルギー発生素子を有する第1の基板であって該基板を貫通するインク供給口を有する第1の基板と、前記インクの吐出口を有する複数のノズルと溝とを有する第2の基板とを有し、前記第2の基板の前記溝と前記第1の基板とで前記ノズルと前記インク供給口とをつなぐインク流路が形成され、前記第2の基板の一方の面と前記第1の基板に接合する他方の面にそれぞれ凹部が設けられたインクジェット記録装置用の記録ヘッドの製造方法であって、
前記エネルギー発生素子を配置した第1の基板の上に第1の層と第2の層とを順に積層し、前記第2の層の、前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部となる部分以外を除去し、
前記第1の層の、前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部に対応して設けられるインク流路となる部分以外を除去してから前記第1の層を第3の層で覆い、
前記第3の層の前記吐出口となる部分を除去してから前記第3の層を第4の層で覆い、
前記第4の層の前記第2の基板の前記一方の面の前記凹部となる部分を除去し、前記第1の基板の前記インク供給口となる部分を除去し、
前記第1の層を除去して前記インク流路を形成し、前記第2の層を除去して前記第2の基板の前記他方の面の前記凹部を形成することで、前記第2の基板を形成する、記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−28008(P2013−28008A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164173(P2011−164173)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】