説明

記録装置

【課題】記録ヘッドのノズル状態の検出精度を向上させながらも、高速な記録を実現する記録装置を提供する。
【解決手段】不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定動作の両方の結果に基づいて、不良ノズルの良否を判断する。また、ヒータ抵抗値の測定を、不吐検出動作の休止時間時に行うことで高速な検出が可能になる。更には、ヒータ抵抗値の測定後に不吐検出動作を実行することで、異常なノズルの駆動を防止しノズルに不要なダメージを与えることがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置に関し、特に、複数の記録ヘッドを用いて記録を行なう記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、ファクシミリ等における情報出力装置として、所望される文字や画像等の情報を用紙やフィルム等シート状の記録媒体に記録を行うプリンタが広く使用されている。
【0003】
プリンタの記録方式としては様々な方式が知られているが、記録媒体に非接触記録が可能で、カラー化が容易で、静粛性に富む等の理由でインクジェット方式が近年特に注目されている。また、その構成としては、記録命令に応じてインクを吐出する記録ヘッドを装着し、記録媒体の搬送方向と交差する方向に記録ヘッドを往復走査しながら記録を行うシリアル方式が、安価で装置の小型化が容易などの点から一般的に広く用いられている。
【0004】
上記のようなインクジェット記録装置(以下、記録装置)では、インク滴を吐出するノズルの集積密度をあげながら、1ドットあたりのインク吐出量を小さくすることで、更なる高解像度の画像記録を実現している。また、より高画質な画質を得るために、基本となる4色インク(シアン、マゼンタ、イエロ、ブラック)の他に、これらの染料濃度を低くした淡インクやレッド、グリーン、ブルー等の特色インクを同時に記録する等の多彩な技術が提案されている。
【0005】
更には、高画質化が進むにつれて懸念される記録速度の低下も、実装する記録素子の数を多くし、その駆動周波数の向上させ、更には、記録ヘッドの往復走査時に記録を行う両方向記録のような記録技術により大きく改善されてきている。このように多数の記録素子を含む記録ヘッドでは、使用頻度に応じて経時的に不良記録素子が発生する。多くの記録素子は正常であっても1つの記録素子が不良になっただけで、画像品位は劣化する。
【0006】
特に、近年要求される写真調の画像記録では、わずかな不良記録素子の発生が記録ヘッドの実際の使用を困難にする。この場合の対応方法として、様々な不良記録素子の検出方法や、その結果に応じての回復方法あるいは記録方法などが既に数多く提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
従来より不良素子の検出方法として、フォトセンサを用いて記録ヘッドのノズルからのインク吐出状態を検出する方法がある。また、インクを吐出するためにエネルギーを供給する記録素子と、その記録素子を駆動するための駆動素子との間の電圧変化を、インクを介して検出する電極を用いて、記録ヘッドのノズルからのインク吐出状態を検出する方法もある。他にも、全記録素子を使って階段状のパターンを記録媒体に記録し、これをフォトセンサを使って記録されたパターンの抜けを判断する方法や、帯電したインク滴を電極の上に吐出させ、その時の電極の電位変化からインク吐出状態を検出する方法等が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−188853号公報
【特許文献2】特開2001−315363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記従来の検出方法では、その検出結果が記録素子そのものに原因が有るのか、インク滴やゴミなどがノズル内に詰まっているだけなのかの判断ができないと言った問題があった。
【0010】
また、記録ヘッドの出荷前検査時に不良記録素子を特定し、その情報を記録ヘッドに記憶させる方法や、不良化する可能性が高い素子情報を事前に記憶させておき、該当する素子の駆動頻度を減らす方法なども提案されている。しかし、この場合にも、記録ヘッド出荷時には問題はないものの、その記録ヘッドの使用環境や経年変化に対しての十分な対応ができていないと言う問題がある。
【0011】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、記録ヘッドのノズル状態の検出精度を向上させながらも、高速な記録を実現する記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は次のような構成を有する。
【0013】
即ち、それぞれにヒータを内蔵した複数のノズルを備えた記録ヘッドと、前記ヒータの抵抗値を測定するために前記記録ヘッドに対するデータ信号とタイミング信号とを生成する第1の生成手段と、前記記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良を検出するために前記記録ヘッドに対するデータ信号とタイミング信号とを生成する第2の生成手段と、前記ヒータの抵抗値を測定する際に前記記録ヘッドに印加する第1の駆動電圧と、前記インク液滴の吐出不良を検出する際に前記記録ヘッドに印加する、前記第1の駆動電圧より高い第2の駆動電圧とを供給する供給手段と、前記ヒータの抵抗値の測定と前記インク液滴の吐出不良の検出とを実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
従って本発明によれば、ノズルに内蔵されたヒータの抵抗値の測定と記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良の検出との両方を行なうことにより、より高精度に記録ヘッドのノズル状態を検出することができるという効果がある。
【0015】
また、例えば、複数の記録ヘッドが備えられている場合には、ある記録ヘッドのヒータの抵抗値の測定と別の記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良の検出とを並列的に実行することにより測定の速度を高速に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の主要機構部分を示す斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】制御回路の詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】ヒータの抵抗値を測定する際に記録ヘッドを駆動する信号パルスの波形を示す図である。
【図5】記録ヘッドの不吐検出動作に用いられる信号パルスの波形を示す図である。
【図6】ヒータ抵抗値の測定と不吐検出の動作タイミングを示す図である。
【図7】不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定動作のパイプライン処理を示す図である。
【図8】不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定動作のシリアル処理を示す図である。
【図9】不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定の処理を示すフローチャートである。
【図10】不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定の別の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施例で開示する構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。
【0018】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0019】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0020】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0021】
またさらに、「記録素子」(「ノズル」という場合もある)とは、特にことわらない限りインク吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0022】
図1は、本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置(以下、記録装置)の主要な機構構成を示す斜視図である。
【0023】
図1において、インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列を有するインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)1を搭載したキャリッジ2は、記録媒体の搬送方向と直交する走査方向に往復移動して記録媒体に記録を行なう。キャリッジ2はベルト13に固定され、シャフト12に摺動可能に取り付けられる。ベルト13はキャリッジモータ14により移動するので、ベルト13に取り付けられたキャリッジ2もこれに伴って移動する。なお、複数のノズルそれぞれにはインクを加熱し、インク液滴としてノズルから吐出させるヒータが内蔵されている。
【0024】
記録された記録媒体は排紙ローラ3により装置外へ搬送される。記録ヘッド1のインク吐出面に対向して、記録媒体の記録面の裏面にプラテン4が設けられる。記録時には記録用紙などの記録媒体15は紙押さえローラ5により押さえられ、記録の進行に伴って、搬送モータ8の駆動力が搬送ギア7と搬送モータギア9を介して伝達されたに搬送ローラ6により搬送される。
【0025】
さらに、搬送ギア7の外周にはエンコーダフィルム10が取り付けられており、搬送モータ8の回転に同期して回転する。そして、エンコーダセンサ11を用いてエンコーダフィルム10に所定間隔で設けられたスリットの検知を行うことにより、エンコーダ信号を発生し、この信号に基いて記録媒体15の搬送位置の検出と記録タイミングの生成を行なう。
【0026】
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0027】
図2に示すように、制御構成は大きく二つに分けられ、ホスト19とのインタフェースをもつ第1記録制御部40と記録ヘッド1を駆動制御する第2記録制御部29とから構成される。第1記録制御部40と第2記録制御部29はそれぞれ、通信回路28と通信回路30を備え、これら通信回路により互いに情報のやり取りが可能となっている。第1記録制御部40や第2記録制御部29は、例えば、ASICやSOCなどにより実装される。電源回路50は、記録ヘッド1へ供給するための2種類の電圧を生成する。電源回路50で生成された電圧は、電圧切り替え回路36によって、記録ヘッド1へ選択的に供給される。記録装置は、電源回路50の他に、CPU18や第1記録制御部40や第2記録制御部29に供給するロジック電圧や、キャリッジモータ14や搬送モータ8を駆動するためのモータ電圧を生成する別の電源回路(不図示)を備えている。
【0028】
ホスト19から送信された制御コマンドや記録データは、インタフェース(I/F)回路20によって受信される。受信された制御コマンドはCPU18によって解析され、この制御コマンドに従って記録装置の制御が行われる。また、受信された記録データは共通バス26を介して画像処理部21に転送され、記録方法に応じた各種の画像処理が施され、再度、共通バス26を介して大容量のDRAM27へ格納される。
【0029】
DRAM27には少なくとも、記録ヘッドの1走査分の記録に用いられる記録データが格納されている。DRAM27にはさらに、マルチパス記録や記録データを2つのノズルに分配した記録などに用いられる画像マスクや、光学センサなどで構成される不吐検出センサ16からの検出結果や、後述するヒータ抵抗値測定回路34によって検出された結果を格納する。
【0030】
不吐検出センサ16から検出された結果や、ヒータ抵抗値測定回路34によって検出された結果は、CPU18によって解析され、不吐ノズル情報として利用される。
【0031】
また、CPU18は、ROM17に予め格納されているプログラムや、ホスト19からI/F回路20を介して入力される制御コマンドに従って記録装置全体の制御を行う。なお、ROM17には、CPU18が動作するためのプログラムや記録ヘッド1の制御に必要な各種テーブルなどが格納されている。
【0032】
DRAM27に格納された記録データは、CPU18からの記録開始命令に従って、エンコーダセンサ11の検出値を基準として第1記録タイミング生成回路23で生成されるタイミングで、第1記録データ生成回路24によって読み出される。そして、一旦、SRAM25に格納された後、記録ヘッドの1ノズル列分の記録データが揃った段階で、再度第1記録データ生成回路24によって第2記録制御部29へ転送される。
【0033】
第2記録制御部29は、第1記録制御部40から転送されてきた記録データとタイミング信号を使用して記録ヘッド1を駆動する。或いは、第2記録制御部29は第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32で生成された記録データとタイミング信号を使用して記録ヘッド1を駆動する。この切換は、第2記録制御部29のタイミング・データ切換回路33によりなされる。
【0034】
この実施例では、不吐検出センサ16を用いた不吐検出回路22の不吐検出動作は、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23で生成された記録データ及びタイミング信号を用いる。第1記録データ生成回路24は、不吐検出の対象のノズルのヒータを駆動するためのデータを生成する。つまり、第1記録データ生成回路24は、不吐検出の対象のノズルを指定するデータを生成する。これにより、各ノズルについて不吐検出を行うことができる。一方、ヒータ抵抗値測定回路34を用いたヒータ抵抗値測定動作は、第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32で生成された記録データとタイミング信号を用いる。第2記録データ生成回路31は、ヒータ抵抗値測定の対象のノズルのヒータを駆動するためのデータを生成する。つまり、第2記録データ生成回路31は、ヒータ抵抗値測定の対象のノズルを指定するデータを生成する。これにより、各ノズルのヒータ抵抗値測定を行うことができる。そして、ヘッド駆動回路35は、夫々の動作で必要な記録データとタイミング信号とを用いて、記録ヘッド1を選択駆動する。ここで、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23はまとめて、第1の生成回路と呼ばれ、第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32はまとめて、第2の生成回路と呼ばれる。
【0035】
なお、図2から分かるように、記録ヘッド1は用いられる4色のインク(シアン、マゼンタ、イエロ、ブラック)に対応して、記録ヘッド1a、1b、1c、1dに分けられる。そして、ヘッド駆動回路35も夫々の記録ヘッドに対応して、4つのヘッド駆動回路35a、35b、35c、35に分けられる。
【0036】
次に、上記構成の記録装置を用いた記録ヘッドのインク吐出不良の検出(不吐検出)動作についていくつかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
実施例1に従う不吐検出は、不吐検出センサを用いて記録ヘッド1のノズルからのインク吐出状態をフォトセンサにより検出することと、記録ヘッド1に備えられた複数のノズル各々の内部にあるヒータ(記録素子)の抵抗値を測定することにより行なう。
【0038】
・ヒータ抵抗値の測定
図3は電圧切換回路とヘッド駆動回路とタイミング・データ切換回路の詳細な構成を示す回路ブロック図である。
【0039】
図3に示すように、電圧切換回路36は4つの記録ヘッド1a、1b、1c、1dに対応して、4つの部分に分割されている。これにより、4つの電圧切換回路36a、36b、36c、36dはそれぞれ、対応する記録ヘッドに印加する通常の記録に用いるの電圧とヒータの抵抗値の測定に用いる検査用の電圧とを切り換える。電圧Vaと電圧Vbは電源回路50で生成される。
【0040】
まず、ヒータの抵抗値の測定動作について説明する。
【0041】
その抵抗値は、測定対象となるノズルのヒータに所定の電圧を印加し、流れる電流が安定したところでその値を検出抵抗Rsを用いて電圧値に変換し、A/D変換器などで構成されるヒータ抵抗値測定回路34によって測定される。
【0042】
図4は、ヒータの抵抗値を測定する際に記録ヘッド1aを駆動する信号パルスの波形を示す図である。
【0043】
実施例1では、第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32を用いて、ヒータ抵抗値を測定するためデータとタイミング信号とを生成する。
【0044】
ヒータに流れる電流が安定するまでの時間は記録動作における記録周期よりも長い時間を必要とする。このため、ヒータ抵抗値の測定時間(TM)は、記録動作におけるヒータの駆動期間よりも長い。このため、ヒータ抵抗値の測定時には通常の駆動パルスよりも長い駆動パルスを第2記録データ生成回路31により生成し、ヘッド駆動回路35aを通じてこれを記録ヘッド1aへ入力する。このように、第2記録タイミング生成回路32は、ヒータ抵抗値を測定する場合の記録周期(TP)が記録動作を行う場合の記録周期より大きくなるようにタイミング信号の制御を行う。この場合、その駆動電圧を通常の記録時と同じ駆動電圧値と同じにしてしまうと、ヒータに過剰な電流が流れてしまうために、記録ヘッド1aへ入力する駆動電圧値はヒータ抵抗値を測定してもヒータにダメージを与えないレベルにする。即ち、駆動電圧値VH=Va(Va<Vb)にする。通常、この電圧値(第1の駆動電圧)は3.3Vから5V程度である。一方、電圧Vb(第2の駆動電圧)は通常の記録時に用いる電圧であり、その電圧値は第1の駆動電圧より高く、15V〜20V程度である。
【0045】
なお、図4では記録ヘッド1aのヒータ抵抗値の測定について説明したが、この説明は記録ヘッド1b〜1dのヒータ抵抗値の測定にも同様に適用できる。
【0046】
・不吐検出センサを用いた不吐検出動作
ここでは、測定対象となるノズルから実際にインク滴を吐出させ、その吐出状態をフォトセンサを用いた不吐検出センサ16を用いて検出し、不良ノズルを検出する。
【0047】
図5は記録ヘッド1aの不吐検出動作に用いられる信号パルスの波形を示す図である。
【0048】
実施例1では、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23を用いて、不吐検出動作を行う為のデータとタイミングを生成する。
【0049】
不吐検出動作においては、通常の記録動作と同じように記録ヘッド1aを駆動し、吐出の安定化を考慮して、図5に示すように各ノズル毎に吐出区間と休止区間を繰り返しながら記録ヘッドの駆動を行う。また、駆動電圧値についても通常の記録動作時の駆動電圧と同じVH=Vb(Va<Vb)にする。
【0050】
なお、図5では記録ヘッド1aの不吐検出動作について説明したが、この説明は記録ヘッド1b〜1dの不吐検出動作にも同様に適用できる。
【0051】
以上説明したように、この実施例では、2つの記録データ生成回路と2つの記録タイミング生成回路を用い、ヒータ抵抗値の測定動作と不吐検出動作のためのデータをタイミング信号とを生成し、電圧切換回路で夫々の動作のために用いる駆動電圧を切り換える。これにより、1つの記録ヘッド1に対して、不吐検出動作とヒータ抵抗値の測定動作の夫々に対応したデータ信号とタイミング信号と駆動電圧とを生成することが可能となる。
【0052】
そのため、ノズルの良否判定を、ノズルの吐出状態を検査する不吐検出動作とノズルのヒータそのものの抵抗値を測定するヒータ抵抗値の測定動作の両方の結果に基づいて、より正確な記録ヘッドのノズルの状態を判断する事が可能となる。
【0053】
なお、ヒータ抵抗値測定回路34で測定された抵抗値が正常であるか否かの判定(良否判定)は、以下のような方法で行う。
【0054】
例えば、第1の判定方法として、ヒータ抵抗値測定回路34で測定された抵抗値が予め用意された抵抗値の範囲内にあれば、そのヒータは正常と判定する。この予め用意された抵抗値の範囲は、記録ヘッドの製造時の規格で定められた範囲である。これに対して、ヒータ抵抗値測定回路34で測定された抵抗値がこの抵抗範囲外の値であれば、そのヒータは不良であると判定する。
【0055】
また、上記説明は記録ヘッド1aに対するものであったが、複数の記録ヘッド1a〜1dそれぞれにヒータ抵抗値の測定と不吐検出とのを別々に行なうことができることはいうまでもない。
【実施例2】
【0056】
実施例1ではヒータ抵抗値の測定と不吐検出動作とを別個のタイミングで行なうことを前提としていたが、実施例2では、不吐検出の実行中にヒータ抵抗値の測定を並行的に行なう例について説明する。
【0057】
図6はヒータ抵抗値の測定と不吐検出の動作タイミングを示す図である。不吐検出期間は図6に示されているようにインクを記録ヘッドから吐出するインク吐出区間と記録ヘッドからのインク吐出を行なわない休止区間とに分けられる。実施例2では図6に示すように、記録ヘッド1bのノズル列に対する不吐検出動作の休止区間に記録ヘッド1aノズル列のヒータ抵抗値の測定を実行して行なうように制御する。
【0058】
このことは以下のような制御を実行することで達成される。
【0059】
即ち、電圧切換回路36bが駆動電圧VH=Vb(>Va)を選択し通常の駆動電圧を記録ヘッド1bに印加するとともに、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23により不吐検出動作のためのデータ信号とタイミング信号とを供給する。一方、この動作期間の休止区間に、電圧切換回路36aは駆動電圧VH=Va(<Vb)を選択し低電圧を記録ヘッド1aに印加する。この時、第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32によりヒータ抵抗値の測定のためのデータ信号とタイミング信号とを供給する。
【0060】
なお、図6では記録ヘッド1aと記録ヘッド1bとの関係のみについて説明したが、同様の制御を他の記録ヘッドに対しても適用できる。
【0061】
図7は記録ヘッド1a〜1dに対するヒータ抵抗値の測定と不吐検出動作とパイプライン的に行なう場合の動作タイミングを示す図である。即ち、記録ヘッド1aに対するヒータ抵抗値の測定が終了後、記録ヘッド1bに対するヒータ抵抗値の測定と記録ヘッド1aに対する不吐検出動作とを同時に実行する。その後、記録ヘッド1cに対するヒータ抵抗値の測定と記録ヘッド1bに対する不吐検出動作とを同時に実行し、その後さらに、記録ヘッド1dに対するヒータ抵抗値の測定と記録ヘッド1cに対する不吐検出動作とを同時に実行する。最後に、記録ヘッド1dに対する不吐検出動作を実行する。
【0062】
なお、本発明はヒータ抵抗値の測定動作と不吐検出動作を同時に実行することに限定するものではない。例えば、図10に示すように、ヒータ抵抗値の測定動作の期間の一部と不吐検出動作の期間の一部とが同時に実行される形態でも構わない。図10では、記録ヘッド1aに対する不吐検出動作を行っている途中に、記録ヘッド1bに対する抵抗値測定を開始するように、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23は動作する。
【0063】
図8は記録ヘッド1a〜1dに対するヒータ抵抗値の測定と不吐検出動作とを時系列に順次実行する場合の動作タイミングを示す図である。図8と図7とを比較するならば、2つの動作を並列的に実行することで検出時間を大幅に低減できることが明らかである。
【0064】
従って以上説明した実施例に従えば、ある記録ヘッドに対する不吐検出の実行中に別の記録ヘッドに対するヒータ抵抗値の測定を並行的に行なうので高速に、また、互いの検出動作からのノイズの影響のない正確な検出が可能となる。
【実施例3】
【0065】
実施例1、2ではヒータ抵抗値の測定と不吐検出動作の順序については特に限定しなかったが、実施例3では、2つの動作の順序を最初にヒータ抵抗値の測定を実行し、次に不吐検出動作を実行する例について説明する。
【0066】
図9は記録ヘッドのインク吐出不良の検出処理を示すフローチャートである。
【0067】
まず、ステップS10において、インク吐出不良の検出処理を実行する指示がCPU18から指示されたなら、処理はステップS20に進み、電圧切換回路36a〜36dが選択する駆動電圧(VH)をVH=Vaに設定する。次に、ステップS30では、第2記録データ生成回路31と第2記録タイミング生成回路32からヒータ抵抗値を測定するためのデータ信号とタイミング信号とを生成し、タイミング・データ切換回路33を経てヘッド駆動回路35a〜35dに供給する。
【0068】
ステップS40では、ヘッド駆動回路35a〜35dは対応する電圧切換回路36a〜36dを経て記録ヘッド1a〜1dにデータ信号とタイミング信号とを供給し、ヒータ抵抗値測定回路34によりヒータ抵抗値を測定する。そして、ステップS50では、その測定値をメモリ(SRAM25/DRAM27など)に保存する。
【0069】
次に、ステップS60において、電圧切換回路36a〜36dが選択する駆動電圧(VH)をVH=Vbに設定する。そして、ステップS70ではメモリに保存された測定されたヒータ抵抗値が正常な値かどうかを調べる。ここで、その値が正常な値であれば、処理はステップS80に進む。一方、ヒータ抵抗値が正常でないノズルがある場合には、ステップS75に進む。ステップS75では、不吐検出の対象からそのノズルを除外する。これは、不吐検出の対象のノズル情報をSRAM25に保持し、この不吐検出の対象のノズル情報に設定を行うことによりなされる。ステップS80では、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23から不吐検出を実行するためのデータ信号とタイミング信号とを生成し、タイミング切換回路33を経てヘッド駆動回路35a〜35dに供給する。SRAM25に保持される不吐検出の対象のノズル情報に基づいて、第1記録データ生成回路24と第1記録タイミング生成回路23はデータ信号とタイミング信号とを生成する。
【0070】
ステップS90では、ヘッド駆動回路35a〜35dは対応する電圧切換回路36a〜36dを経て記録ヘッド1a〜1dにデータ信号とタイミング信号とを供給し、不吐検出センサ16により光学的に吐出不良ノズルを検出する。そして、ステップS100では、その検出結果をメモリ(SRAM25/DRAM27など)に保存する。
【0071】
従って以上説明した実施例に従えば、検出処理は、始めにヒータ抵抗値の測定動作を実行し、その後、ヒータ抵抗値の測定の結果を反映して不吐検出センサによる不吐検出動作を実行する。このように2つの動作の実行順序を規定することにより、無駄な不吐検出動作の実行を抑制でき、記録ヘッドのノズルの良否判定を短時間で行うことができる。
【0072】
また、ヒータ抵抗値の測定において異常と判断されなかったノズルに対しても、吸引回復動作などを行って、ノズルを状態を回復させた後に不吐検出動作を実行することも可能になる。これにより、例えば、インクの目詰まりが解消された後に、不吐検出動作がなされることになるので、より正確なノズルの状態を判断する事が可能となる。
【0073】
またさらに、その後の不吐検出動作においてノズルの不良が判定された場合に、そのノズルの不良がインクの目詰まり等が原因となる可能性もあるため、吸引回復動作の後に再度、不吐検出動作を実行することもできる。
【0074】
以上の説明は実施例1〜3を別個に説明したが、本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、実施例1〜3の全てを組み合わせた構成、実施例1〜3の内のいずれか2つを組み合わせた構成なども可能であることは言うまでもない。これら場合には、組み合わせられたそれぞれの実施例の効果を達成できることになる。
【0075】
また、ヒータ抵抗値測定回路34で測定された抵抗値が正常であるか否かの判定方法は、上述した方法以外でも構わない。例えば、抵抗値の上限値を定め、抵抗値がこの上限値以下であれば正常と判定し、この上限値より高ければ不良であると判定してもよい。あるいは、抵抗値の下限値を定め、抵抗値がこの下限値以上であれば正常と判定し、この下限値より低ければ不良であると判定してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれにヒータを内蔵した複数のノズルを備えた記録ヘッドと、
前記ヒータの抵抗値を測定するために前記記録ヘッドに対するデータ信号とタイミング信号とを生成する第1の生成手段と、
前記記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良を検出するために前記記録ヘッドに対するデータ信号とタイミング信号とを生成する第2の生成手段と、
前記ヒータの抵抗値を測定する際に前記記録ヘッドに印加する第1の駆動電圧と、前記インク液滴の吐出不良を検出する際に前記記録ヘッドに印加する、前記第1の駆動電圧より高い第2の駆動電圧とを供給する供給手段と、
前記ヒータの抵抗値の測定と前記インク液滴の吐出不良の検出とを実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドは複数のインクに対応した複数の記録ヘッドから構成され、
前記切換手段は、前記複数の記録ヘッドに対応して複数の切換回路から構成され、
前記制御手段は、前記複数の記録ヘッドの内のある記録ヘッドに対するヒータ抵抗値の測定と前記複数の記録ヘッドの内の別の記録ヘッドに対するインク液滴の吐出不良の検出とが並行に実行されるよう、前記第1の生成手段と前記第2の生成手段によるデータ信号とタイミング信号の生成と前記複数の切換回路による駆動電圧の切換とを制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記インク液滴の吐出不良の検出の期間は、前記記録ヘッドからインクを吐出させるインク吐出区間と前記記録ヘッドからのインクの吐出を行なわない休止区間から構成され、
前記制御手段は、前記別の記録ヘッドに対するインク液滴の吐出不良の検出の期間における前記休止区間において、前記ある記録ヘッドに対するヒータの抵抗値の測定を行なうよう制御することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記ヒータの抵抗値の測定動作と前記インク液滴の吐出不良の検出動作とは、前記複数の記録ヘッドごとに別々に実行することを特徴とする請求項2又は3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ヒータ抵抗値の測定を前記インク液滴の吐出不良の検出の前に実行するよう制御する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記インク液滴の吐出不良の検出のために、前記記録ヘッドから吐出されるインク液滴を光学的に検出する検出手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記第1の生成手段は、前記ヒータの抵抗値の測定のために、通常の記録動作において前記記録ヘッドに供給される駆動パルスよりも長い駆動パルスを生成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記制御手段はさらに、前記ヒータの抵抗値を測定する際には、前記切換回路が前記第1の駆動電圧を選択し、前記第1の生成回路により生成されたデータ信号とタイミング信号とが前記記録ヘッドに供給され前記第1の駆動電圧により前記記録ヘッドが駆動されるように制御する一方、前記記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良を検出する際には、前記切換回路が前記第2の駆動電圧を選択し、前記第2の生成回路により生成されたデータ信号とタイミング信号とが前記記録ヘッドに供給され前記第2の駆動電圧により前記記録ヘッドが駆動されるように制御し、前記ヒータの抵抗値の測定と前記インク液滴の吐出不良の検出の両方を実行するように制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−224080(P2012−224080A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−84067(P2012−84067)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】