試料中の被検出物質の検出方法
【課題】ノイズが低減でき、従来よりも遙かに優れた感度を有する試料中の被検出物質の検出方法を提供する。
【解決手段】基板1と、その基板1の上面に形成した絶縁薄膜2上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極3およびドレイン電極4を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、前記チャネルが超微細繊維で構成され、そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする。
【解決手段】基板1と、その基板1の上面に形成した絶縁薄膜2上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極3およびドレイン電極4を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、前記チャネルが超微細繊維で構成され、そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーを用いて試料中の被検出物質を検出する方法に係り、特に電界効果型トランジスタ(以下、FETと略記する)あるいは単一電子型トランジスタ(以下、SETと略記する)の構造を有するバイオセンサーなどのセンサーを用いて試料中の被検出物質を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来提案されたバイオセンサーは、特定の分子と選択的に反応する反応基をもった薄膜を電極上に形成し、その薄膜が前記特定分子を吸着した際のポテンシャルの変化を測定するようになっている。具体的にはグルコース酸化酵素を有する薄膜を電極上に形成し、グルコースとの酸化反応に伴う電流値の変化を測定することにより、グルコース量を検出する方式である。
【0003】
この種のバイオセンサーに関しては、例えば下記の特許文献1〜5や非特許文献1、2などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−260156号公報
【特許文献2】国際公開第02/48701号公報
【特許文献3】国際公開第01/44796号公報
【特許文献4】特開2002−118248号公報
【特許文献5】特公昭58−019984号公報
【非特許文献1】相沢、ケミカルコミニュケーション.945ページ(1989年)
【非特許文献2】Alexander Star, Jean-Christophe P, Gabriel.Keith Bradley,and George Gruner, Vol.3, No.4, 459-463 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが従来のバイオセンサーは前述のように化学反応に伴う電流値を直接的に検出する方法であるため、検出感度が低く、低濃度のグルコースを検出することが困難であるなど、バイオセンサーの高選択性という特長を充分に発揮できないという欠点を有していた。
【0006】
本発明の目的は、このような従来技術における欠点を解消して、ノイズが低減でき、従来よりも遙かに優れた感度を有する試料中の被検出物質の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の第1の手段は、基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とするものである。
【0008】
前記目的を達成するため本発明の第2の手段は、基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とするものである。
【0009】
前記目的を達成するため本発明の第3の手段は、基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とするものである。
【0010】
前記目的を達成するため本発明の第4の手段は、基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第5の手段は前記第1ないし第4のいずれかの手段において、前記超微細繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第6の手段は前記第5の手段において、前記カーボンナノチューブに欠陥が導入されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第7の手段は前記第1ないし第4のいずれかの手段において、前記被検出物質ならびに前記特定の物質が、相互作用する生体高分子であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第8の手段は前記第7の手段において、前記被検出物質が抗原または抗体であって、前記特定の物質が抗体または抗原であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は前述のような構成になっており、ノイズが低減でき、従来よりも遙かに優れた感度を有する試料中の被検出物質の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサーの斜視図である。
【図2】そのセンサーの概略構成図である。
【図3】そのセンサーを用いて被検出物質を検出する様子を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係るセンサーの被検出物質の他の検出の様子を示す概略斜視図である。
【図5】そのセンサーの絶縁基板とゲート電極との間の拡大概略図である。
【図6】本発明の実施形態においてカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略構成図である。
【図7】カーボンナノチューブ単一電子型トランジスタによる室温クーロンダイアモンド特性を示す図である。
【図8】従来の手法によってカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略斜視図である。
【図9】本発明の手法によってカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略斜視図である。
【図10】本発明の手法による触媒の配列例を示す概略斜視図である。
【図11】その触媒の拡大斜視図である。
【図12】第2の手法を施さないセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図13】そのセンサーに溶液を滴下した後の状態を示すセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図14】本発明のセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図15】そのセンサーに溶液を滴下した後の状態を示すセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図16】本発明のセンサーでバックゲート電極を修飾した状態を示す断面図である。
【図17】本発明のセンサーでカーボンナノチューブを直接分子修飾した状態を示す断面図である。
【図18】本発明のセンサーでカーボンナノチューブを間接分子修飾した状態を示す断面図である。
【図19】本発明のセンサーの他の構造を示す概略構成図である。
【図20】本発明のセンサーのさらに他の構造を示す概略構成図である。
【図21】本発明のセンサーによるFITC検出時のI−V特性曲線図である。
【図22】本発明のセンサーによるNiイオン検出時のI−V特性曲線図である。
【図23】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図24】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図25】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図26】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図27】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図28】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図29】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図30】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図31】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図32】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図33】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図34】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図35】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるカルモジュリン検出時のI−V特性曲線図である。
【図36】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるカルモジュリン検出時のI−V特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を図とともに説明する。図1は本発明の実施形態に係るSET型バイオセンサーの斜視図、図2はそのSET型バイオセンサーの概略構成図である。
【0018】
これらの図において1はチップ状の絶縁基板、2はその絶縁基板1の上にコーティングされて表面に例えば水酸基、アミノ基、カルボン酸基等の官能基を有する絶縁薄膜(本実施形態では水酸基を有するSiO2からなる絶縁薄膜)、3と4は薄膜2の上に所定の間隔をおいて形成されたソース電極ならびにドレイン電極で、両電極3,4の対向部分に尖端部5,6が形成されている(図1参照)。
【0019】
両電極3,4の尖端部5,6の間には、欠陥を導入したカーボンナノチューブ(以下、CNTと略記する)7が成長形成されている。前記基板1の薄膜2と反対側の面には、ゲート電極8が形成されている。
【0020】
前記絶縁基板1には、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの無機化合物あるいはアクリル樹脂、ポリイミドなどの有機化合物などが用いられる。また電極3,4,8には、例えば金、白金、チタンなどの金属が用いられる。電極3,4,8の電気的な接続関係は、図2に示すような接続関係になっている。
【0021】
本実施形態ではナノチューブ状構造体としてCNTを使用しており、このナノチューブ状構造体を用いることにより、非常に微細なチャネルを形成することができ、そのために高感度のセンサーが得られる。
【0022】
なお、図2に示すようにCNT7の下には空隙Gが形成されている。このようにしてSET構造を有するセンサーが構成される。SETとFETとは基本的な構成は同じであるが、電流通路となるチャネルにおいて、SETのチャネルは量子ドット構造を有し、FETのチャネルは量子ドット構造を有していない点で両者は異なっている。
【0023】
このトランジスタ(SETならびにFET)は、ゲート電極8やCNT7上の電荷(より厳密にはスピン電子状態)の変化に対して、ソース電極3、ドレイン電極4間の電流値が敏感に変化する。概してFETよりもSETの方が高感度である。また、SET的な特性がCNT生成後手を加えずに観測されることは稀であるが、FET上のCNTをCNTの生成温度(900℃程度の高温)にすることにより、CNTが部分的に破損して、アイランドを形成し、SETの電流特性を示す。また、動作電流(約数μA)に比べて大きな電流(約-+数mA)を流すことによっても同様の結果を得ることができる。
【0024】
本発明は、これらのトランジスタのゲート電極8やCNT7に分子が付着(相互作用)したとき、間接的あるいは直接的にCNT上の電子状態が変化するため、このときに生じるソース電極3−ドレイン電極4間の電流の変化から、付着(相互作用)した分子を検出することができる。また、ゲート電極8やCNT7自体を分子修飾したときの電流変化から分子を検出したり、あるいは修飾分子と他の分子との反応を検出することもできる。
【0025】
特にゲート電極8やCNT7を抗体(あるいは抗原)で修飾(固定化)した場合には、抗体−抗原反応を利用して、特定の抗原(あるいは抗体)を検出することが可能であるため、この手法により、感染症の病因ウィルス、細菌などの微生物を超高感度でしかも高速に検出することができる。この手法は、感染症の早期発見による予防や微生物の研究に有効利用でき、また素子(センサー)自体が著しく小さくなるため、それをフィールドに持ち出し、感染症ウィルスの検出やこれらの研究に活用することができる。
【0026】
図3は、そのセンサーを用いて被検出物質を検出する様子を示した概略図である。同図に示すようにセンサーは、分子検出部分18と信号変換部分19とを有し、両者は密接な関係にある。
【0027】
図中の12はSiO2からなる保護膜、13は検出すべき物質と選択的に反応あるいは吸着(相互作用)する特定の物質(例えば抗体)、14はその特定の物質13と選択的に反応あるいは吸着(相互作用)する被検出物質(例えば抗原)、15はその被検出物質14を含んだ試料溶液である。
【0028】
図4と図5は、本発明のセンサーを用いて被検出物質を検出する他の様子を示す概略図で、図5はそのセンサーの絶縁基板1とゲート電極8との間の拡大概略図である。この例の場合、被検出物質14を含んだ試料溶液15が絶縁基板1とゲート電極8の間に介在されて被検出物質14の検出が行われている。図5において符号20は特定の物質(例えば抗体)の配向を保つ分子、21は試料溶液15中に存在する被検出物質以外の物質である。図5では、特定の物質(例えば抗体)13により、被検出物質(例えば抗原)14が選択的に反応あるいは吸着などの相互作用する様子が示されている。
【0029】
次にCNTの基本電導特性の制御について説明する。
(1)バイオセンサーデバイスの基本要素となるCNTの成長位置、方向、本数、カイラリティー、特性などを任意に設計するために、電界や磁界の印加、CNTを成長する際に用いられる触媒の種類や形状などの最適化を行なう。
【0030】
図6は、触媒をパターンニングして、電界を印加しながらCNTの位置・方向を制御する手法の一例を示す概略構成図である。
【0031】
図中の1は絶縁基板、2はその絶縁基板1の上にコーティングされたSiO2からなる薄膜、9a,9bはSiO2薄膜2の上にパターンニングされた鉄などからなる触媒層、7は電界が印加されて触媒層9a,9b間に形成されたCNTで、成長位置、方向、本数、カイラリティー、特性などが任意に制御されている。10は反応容器、11はCNTの原料であるメタンガスなどの炭化水素ガスである。成長したCNTの長さは数μm程度(例えば3μm程度)、直径は数nm程度で、超微細な繊維状集合体となっている。
【0032】
(2)この成長位置、方向、特性などを制御したCNTを無侵襲な電極として用いて4探針法における形状を作製する。
【0033】
4探針法とは、試料に4本の針状の電極(例えば電極A,電極B,電極C,電極D)を直線上に設置し、外側の2探針(例えば電極Aと電極D)間に一定電流を流し、内側の2探針(例えば電極Bと電極C)間に生じる電位差を測定して抵抗値を求め、求めた抵抗値に試料の厚さおよび補正係数RCFを掛けて試料の体積抵抗値を算出する方法である。
【0034】
(3)電極とチャネル(CNT)が重なる部分は、高電界の電子ビーム、あるいはSTM(Scanning Tunneling Microscopy :走査型トンネル顕微鏡法)/AFM(Atomic Force Microscope :原子間力顕微鏡)を使用して局所印加電界によりウェルダリングを行ない、電極とチャネル(CNT)を一体化する。
【0035】
(4)次にCNTのトランスポート特性を評価する。評価する電気伝導特性としては、バリスティクな電導特性、スピン注入が可能か、スピントランスポートが可能かなどがある。
【0036】
(5)CNTに欠陥を導入することにより、CNTの電気的な特性が大幅に変化することが、本発明者らの予備実験で既に確認されている(CNTに欠陥を導入することにより、約5000Kの高いクーロンエネルギーを有し、室温で動作するSETが形成できることが、予備実験で確認されている)。
【0037】
従って、STM/AFM加工や電子ビームによりCNTに欠陥を任意に導入することにより、電導特性が制御可能なCNTが得られる。
【0038】
このCNTの欠陥導入法の具体例としては、例えばCNTを生成するときとほぼ同じ温度(例えば800℃程度)で焼鈍して、その後自然冷却する方法がある。ここでCNTの欠陥とは、熱によって炭素原子の一部が飛び出し、CNTが切れ切れになった状態でかろうじて繋がっているような、CNTの形状等が変わったことを指しているが、実際にはどのような構造になっているのか、現在のところ明確ではない。
【0039】
(6)このCNT内の欠陥と、CNTの電気的な特性の相関を調べる。例えば走査プローブ法(ケルビンプローブ法、マックスウェルプローブ法など)により、欠陥の密度、分布、大きさ(サイズ、エネルギーバリアなど)を評価して、CNT内の欠陥とCNTの電気的な特性の相関を明らかにする。このようにCNT内の欠陥と電気的特性との相関を把握することにより、特性の再現性、均一性の良いSETを製造することができる。
【0040】
(7)前記(6)により、欠陥導入の制御によるカーボンナノチューブの電気的特性の制御が可能となる。
【0041】
本発明では欠陥を導入したCNTを用いて、室温で作動するSETを作製することができる。ここでは欠陥を導入したCNTを用いた場合を説明したが、欠陥を導入しないCNTも使用可能である。
【0042】
従来のSETにおいて問題であった浮遊電荷や移動電荷による誤動作を回避するために、本発明では2つのCNT使用のSETを近接して作製し、単一の電荷を検知する際、両方のSETの出力特性(室温)のアンド(AND)をとる。これにより真の電荷があるときのみに両方のSETが動作するため、浮遊電荷や移動電荷による誤動作が回避できる。
【0043】
さらに測定速度を高速にするため、前述の手法を用いて、従来の直流方式ではなく、共振回路を用いて交流で動作させるシステムを採用した。以上のことにより、室温でしかも高速で、誤動作なく、単一の電荷分布を測定することができる。
【0044】
図7は、CNT使用のSETによる室温クーロンダイアモンド特性を示す図ある。この室温クーロンダイアモンド特性から、本発明のCNT使用のSETが室温で動作可能であることが立証できる。
【0045】
図1に示すようにCNT使用のSETを基板1上に形成するとともに、図3に示すように溶液中で稼動させるためにチップをSiO2からなる保護膜12でコーティングし、このSiO2保護膜12上に抗体などの特定の物質13を固定化する。この例では保護膜12を設けたが、保護膜12を設けないでよい場合もある。
【0046】
DNAなどの被検出物質14を溶解した試料溶液15の中に本実施形態に係るバイオセンサーを設置して、共振回路を用いて交流で動作させて、特定の物質13と被検出物質14との相互作用を測定することにより、被検出物質14の検出(表面電荷分布特性の評価)を行なうことができる。
【0047】
次にCNTを用いたセンサーの信号変換部分の作製について詳述する。ここではCNTの半導体的性質を用いてFET型またはSET型のトランジスタを作製する。作製方法は一般的なリソグラフ法による触媒の蒸着、熱CVDによるCNT成長および電極作製のプロセスから成り立っている。
【0048】
しかしこれには、次のような課題がある。まず、CNTの成長のコントロールは容易ではない。CNTの成長法はいくつか提案されているが、信号変換部分の電極間を単一のCNTで接続する素子を作製する場合、最終的に電極間にCNTが架橋する歩留まりと構造的な安定性が重要である。このため、触媒(相互の位置、構造、大きさなど)や熱CVD法の条件決め(温度、ガスの種類、流量、電場や磁場の導入など)が重要である。
【0049】
さらに、触媒上のCNT成長後に電極を作製するが、その際、電極が基板から剥離したり、電極内に亀裂が生じるなどの現象が起きる可能性や、CNTとの接触電位が素子の特性や強度に影響を与える可能性もあり、安定した電流特性を得るためには電極材料を検討する必要がある。
【0050】
そこで実施形態では、特に触媒の諸要素に新規な手法(後述する第1の手法)を用いた。また、CNTを分子で直接修飾する場合など、分子を含む溶媒が電極を覆うことがあり、電極とプロ−バーなどの測定機器との接続に電極表面を覆う溶媒の影響が生じるため、これを防ぐ手法(後述する第2の手法)を用いた。
【0051】
さらに、バックゲート型またはサイドゲート型の素子を用いた場合でも、試料や試料を含む蒸気などがゲート電極やサイドゲート電極に影響を及ぼすことがある。これはCNTを保護することにより回避することができた(後述する第3の手法)。実際、バックゲート電極やサイドゲート電極を用いた諸反応の検出結果の中には、被検出物質が気化してゲート電極やサイドゲート電極のみならずCNT表面に付着したため、電流値が変化したと思われる実例がある。
【0052】
前記第1の手法とは具体的には、CNTの成長の核を形成するため、電子線リソグラフィ法を用いてSiO2膜上に触媒を蒸着する。本実施形態では、厚さ380μmのSi基板の両表面を300nm程度のSiO2膜で覆った。このSiO2膜上に鉄,ニッケル,コバルト,モリブデン,タングステンなどの遷移金属もしくはそれら遷移金属微粒子を含む触媒を用い、かかる触媒をCNTの成長核とする手法に関するものである。
【0053】
図8は従来の手法を説明するための図で、図中の1は両表面にSiO2膜を形成したSiの絶縁基板、7はCNT、9a,9bは触媒、22a,22bは後で電極が形成される位置である。従来の手法は同図に示すように、所定の間隔をおいて触媒9a,9bが一つずつ蒸着により形成されており、一つの触媒9aから成長したCNT7が対をなす触媒9bに到達した時にCNT7による触媒9a,9b間の接続ができる。
【0054】
図9は本発明の実施形態(第1の手法)を説明するための図で、同図に示すようには、一つの電極が形成される位置22aに複数のドット状の触媒9a−1,9a−2,・・・・9a−nが並べて形成され、他方の電極が形成される位置22bにも複数のドット状の触媒9b−1,9b−2,・・・・9b−nが、前記触媒9a−1,9a−2,・・・・9a−nと対向するように形成されている。このように触媒9の設置数、すなわちCNTの成長核を増やし、密に配列することにより、本来触媒9からランダムに成長し易いCNTが対の触媒9に到達する確立を著しく高めることができる。この手法により、従来に比べて歩留まりを10倍以上高めることができる。
【0055】
図10は、本実施形態(第1の手法)に係る触媒9の配置例を示す図である。隣の触媒の間隔L1が2μmになるようにそれぞれ6つずつ密に配列されており、一方の触媒列9a−1,9a−2,・・・・9a−nと他方の触媒列9b−1,9b−2,・・・・9b−nの間隔L2は4μmとなっている。なお、触媒9の設置数、間隔L1ならびに間隔L2は、任意に設定可能である。
【0056】
図11は、触媒9の拡大斜視図である。同図に示すように触媒9は、50nm厚のSiなどからなる支持層25と、その上に形成された10nm厚のMo,Ta,Wなどの遷移金属からなる中間層26と、その上に形成された3nm厚のFe,Ni,Coなどの遷移金属からなるトップ層27の3層構造になっている。従って触媒9のトータル高さHは63nm、直径Dは2μmである。この多層構造の触媒9は蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの薄膜形成技術でパターンニングされる。
【0057】
触媒9を形成した絶縁基板1を図6に示すように、熱CVD装置の反応容器10内に設置した後、メタンやエタンなどの炭化水素ガス11を注入して、触媒9上にCNT7を成長させる。
【0058】
本実施形態では、CNT7の成長を次のような手順で行った。触媒9を形成した絶縁基板1を、室温から900℃まで15分間加熱した。このとき、Arを流量1,000sccm(1分間のガス流量)で反応容器10内に流入させた。この温度を維持して、メタンと水素を10分間それぞれ1,000sccm、500sccmの流量で流入させ、その後、120分かけて反応容器10内を室温まで冷却する。このときもArガスを1,000sccmで反応容器10内に流入させた。
【0059】
このようにしてCNT7を生成した後、絶縁基板1上に電極(ソース電極3,ドレイン電極4)を蒸着した。電極はAuを蒸着するか、あるいはTiを蒸着した後、その表面をAuで被覆する。特に後者は、基板からの剥離や電極内での亀裂の発生が少ないという特長を有している。触媒を覆う電極の幅は10μm程度である。
【0060】
次に前述の第2の手法について説明する。電極は多数個(50〜400個程度)同時に形成される。CNTを直接修飾するときなどは、CNT上にその装飾分子を含む溶液を滴下することがあり、このとき溶液の量によっては電極全体を覆うことがある。一旦、電極の表面が溶液で覆われると、CNTで結ばれた電極間の電流を測定するときに、プローバなどの測定装置のプローブと電極間に被膜が形成され、正確な電流値が得られない可能性がある。
【0061】
図12および図13は第2の手法を施さないセンサーを説明するための図で、図12は溶液を滴下する前の状態、図13は溶液を滴下した後の状態を示す図であり、両図とも(a)は平面図、(b)は断面図である。従来のセンサーは電極3,4の大きさが小さいと、図13に示すように電極3,4の全体が溶液の滴下によって形成された被膜28によって覆われるケースが多々あった。電極3,4間に流れる電流値は1μA程度と微小であるため、測定装置のプローブと電極3,4の間に被膜28が存在すると正確な電流測定ができない。
【0062】
そのため本発明では図14および図15に示すように、電極3,4の長さL3[図14(a)参照]を図12のものよりも約1.5〜3倍程度長くした。このように電極3,4の長さL3を長くすることにより、CNT7を修飾する分子の被膜28が形成されても、電極3,4の端部に被膜28で覆われない部分29(図15参照)ができる。この被膜28で覆われない部分29に光学顕微鏡を用いてプローバなどの測定装置のプローブを当てることにより、電極3,4間を流れる電流を正確に測定することができる。
【0063】
本実施形態の場合、図14(a)において電極3,4の先端部の幅w1を10μm、プローブを当てる部分の幅W2を150μm、長さL3を500μmとした。図14(b)に示すように、CNT7は電極3,4間で若干湾曲した状態になっており、基板1側の表面との間に空隙Gが設けられている。
【0064】
次に前述の第3の手法について説明する。CNTは水を始めとする種々の分子と容易に相互作用し、その電子状態が変化して、この変化は電流値の変化として現れる。これは積極的に気体センサーとして使用し得ると同時に、バックゲート電極やサイドゲート電極などをセンサーとして使用する場合にはノイズ源となる。
【0065】
そのため本実施形態では、CNTと電極の一部を絶縁性保護膜で覆い、ノイズを低減させた。絶縁性保護膜の形成には絶縁性の接着剤が使用できるが、スピンコートに広く利用されるパッシペーション膜を用いることも可能である。特に、バックゲート電極に水を与えた場合に見られた電流の増大は絶縁性保護膜の形成により、観測されなくなった。またこの絶縁性保護膜の形成により、素子全体を超音波洗浄したり、バックゲート電極などを今まで以上に強力な洗浄剤で洗浄したりすることが可能となった。
【0066】
センサーのゲート電極は様々な位置に形成することが可能で、センサーの用途や製作の容易さに応じて種々の構造をとることができる。次にセンサーの各構造について説明する。
【0067】
(A)ゲート電極を分子修飾した構造
基板に形成されたSiO2膜上に分子が付着すると、ソース電極とドレイン電極の間に流れる電流値が変化する。例えば、蛍光分子FITC(Fluorescein isothiocyanate)をゲート電極に与えることにより、電流値が変化する。また、抗体−抗原反応の例として、SiO2膜を抗体(あるいは抗原)で分子修飾し、対応する抗原(あるいは抗体)と反応させ、電気信号の変化を検出する。CNTに比べて大きな領域に分子修飾できるため、多くの分子を対象とした検出に適している。また、CNTを直接修飾しないため、使用後の洗浄によるCNTの破損が回避できる。
【0068】
図16は、この構造を示す図である。同図に示すように絶縁基板1のCNT7とは反対側のSiO2膜を特定の物質(例えば抗体)13で分子修飾し、その絶縁基板1とゲート電極8の間に被検出物質(例えば抗原)を含む試料溶液15を介在させた構造になっている。
【0069】
(B)CNTを直接分子修飾した構造
図17は、CNT7を直接分子修飾した構造を示す図である。CNT7を直接分子修飾することにより、修飾分子によるCNT7上の電子状態の変化は、バックゲート電極8を分子修飾した場合に比べて大きく、この構造は高い感度を有している。
【0070】
(C)CNTを間接的に分子修飾した構造
図18は、CNT7を間接的に分子修飾した構造を示す図である。CNT7を間接的に分子修飾するため、同図に示すようにCNT7を接着剤などの有機化合物からなる絶縁薄膜30で被覆する。修飾分子や表面に付着した分子が絶縁薄膜30内で引き起こす電子状態の変化によってCNT7の電子状態の変化を引き起こし、結果として電流の変化を生じる。
【0071】
(D)サイドゲートを用いた構造
この構造では、基板上のCNT近傍にアイランドを作り、これをゲートとして用いる。この構造だと基板背面(バックゲート電極)の分子修飾などの手間をかけずに、また、CNT7を直接修飾することに起因して生じるCNT7自体が破損されることが無いなどの特長を有している。SETに好適な構造である。
【0072】
前述の(A)バックゲート電極を分子修飾した構造の場合、CNTと電極の一部を絶縁性の保護膜で覆い、電流特性の安定化を図ると良い。また前述の(B)CNTを直接分子修飾した構造、ならびに(C)CNTを間接的に分子修飾した構造の場合には、図15を用いて説明したように電極3,4上に被膜で覆われない部分29を形成すると良い。
【0073】
図19は、さらに他の構造を説明するための概略構成図である。この構造の場合、絶縁基板1自体をチャネルとして使用し(バックチャネル)、その基板1上にCNT7を間にして電極3,4が設けられている。基板1の背面にチャネルとなる凹部16が形成され、その凹部16を検出対象物質を含む液体で濡らすことにより、絶縁基板1の背面で検出できるようになっている。
【0074】
図20は、さらに他の構造を説明するための概略構成図である。この構造の場合も絶縁基板1自体をチャネルとして使用(バックチャネル)しているが、その基板1のチャネルにCNTなどからなる探針17が設けられている。このバックチャネルと探針17を一体化したものは、例えば走査型プローブ顕微鏡の探針などに使用することができる。
【0075】
次に、本発明の具体例について説明する。予備実験として、SiO2膜とバックゲート電極との間に蛍光分子であるFITCを含む溶液を滴下し、電流特性の変化を観測した。ゲート電圧は−20Vとし、FITCの濃度を0.64nMとした場合のI−V特性を図21に示す。
【0076】
同図の縦軸はソース電極とドレイン電極の間に流れる電流値(ソース−ドレイン電流)(A)、横軸はソース電極とドレイン電極の間の電圧値(ソース−ドレイン間の電圧)(V)を示している。また図中の点線はFITCを付着する前のI−V特性曲線、実線はFITCを付着した後のI−V特性曲線である。
【0077】
この図から明らかなように、FITCの付着前後でI−V特性が大きく変化していることが分かる。
【0078】
(具体例1)
次にイオン反応を利用した2価イオンの検出について説明する。CNTバイオセンサーのCNTをピレンで直接修飾し、N−[5−(3′−マレインイミドプロピルアミノ)−1−カルボキシペンチル]イミノ二酢酸{N−[5−(3′−Maleimidopropylamimo)−1−carboxypentyl]iminodiacetic acid:以下、NTAと略記する}をバックゲート電極に結合した後、Niイオンを含む溶液を滴下し、それぞれの場合のI−V特性により、伝導特性を調べた。
【0079】
ゲート電極に電界を与えない場合のI−V特性を図22に示す。縦軸はソース電極−ドレイン電極間に流れる電流値(A)、横軸はソース電極−ドレイン電極間の電圧値(V)を示している。図中のdiはバックゲート電極を洗浄した後のI−V特性曲線、ntaはNTA結合後のI−V特性曲線、niはNiイオンを含む溶液を滴下した後のI−V特性曲線である。
【0080】
この図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を上げることにより、電流は増加するが、全ての系(di,nta,niの系)においてdv(ソース−ドレイン間の電圧)=0V近傍では殆ど電流は増加せず、半導体的な性質が見られる。
【0081】
洗浄後のI−V特性曲線(di)に比べ、NTAがバックゲート電極に結合した後のI−V特性曲線(nta)は、電流の著しい減少を示している。これに対して、Niイオンを系に加えると、I−V特性曲線(ni)に示すように電流は増加する。
【0082】
NTAはNiイオンのみならず他の2価のプラスイオンにも反応するため、他の2価のプラスイオンも検出することが可能である。
【0083】
(具体例2)
次に抗原−抗体反応を利用した抗ヘマグルチニン(HA)抗体の検出について説明する。
【0084】
HAのC末を様々なレベル(220,250,290,320)で切断し、発現を試みた。293T細胞へ遺伝子を導入し、モノクローン抗体E2/3とポリクローナル抗体を用い、細胞内でのHAタンパクの発現を確認した。ウェスタンブロット法で上清にHAタンパクが分泌されることを確認した。HA1−290が大量発現し、上清からNi2+カラムで精製した。ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay),SDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresis)で目的とするHAタンパクが含まれるフラクションを確認し、これを分取して、PBSで透析してHAを得た。さらに短いHA1−220についても発現が見られたが、モノクローン抗体と反応しなくなったため、使用しなかった。
【0085】
対照実験として、CNTバイオセンサーのSiO2膜を介して形成したバックゲート電極上にNTAを結合した後、Niイオンを系に加え、原液の希釈率、10−10から10−5までの濃度のHA抗体溶液を与えてI−V特性曲線を求めた。このときバックゲート電極にはHAが無いため、HA抗体はバックゲート電極上に配向性を持っては結合しない。
【0086】
次にHAを予め付けたヒスタグ(His tag)によりSiO2膜を介して形成したバックゲート電極上のNTAに固定化し、同様にHA抗体を与えてI−V特性曲線を求めた。これらのI−V特性曲線図を図23〜28に示す。なお、ゲート電圧は−20Vとした。
【0087】
図23はNTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えた時のI−V特性曲線図、図24は原液の希釈率が10−10のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図25は原液の希釈率が10−8のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図26は原液の希釈率が10−7のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図27は原液の希釈率が10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図28は原液の希釈率が10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図である。
【0088】
これらの図において、図中の点線は前記前者のバックゲート電極にHAが無いもの、実線は前記後者のHAを予め付けたヒスタグによりバックゲート電極上のNTAに固定化しものである。
【0089】
これらの図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を0Vから1Vまで変化させたときには両者(実線と点線)のソース電極−ドレイン電極間の電流値の違いは殆ど見られないが、電圧を1V以上に上げた場合、HAが固定化されていると見られる系(実線)において、電流値が急激に増大するという特性を示している。
【0090】
このことから、HA抗体がELISA(e(nzyme−)l(inked)i(mmuno)s(orbent)a(ssay))など従来法に比して、希釈度の高い領域でも検出することが可能であることが分かる。
【0091】
(具体例3)
これらの抗原−抗体反応を利用したヘマグルチニン(HA)の検出は、ゾルゲル法を用いても同様の結果が得られた。それらのI−V特性を図29ないし図34に示す。なお、抗原−抗体反応の実験前の全ての系において、NTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えている。ゲート電圧は−20Vとした。
【0092】
図29はHA抗原を付けずに希釈率10−7のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図30はHA抗原を付けずに希釈率10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図31はHA抗原を付けずに希釈率10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図32はHA抗原を付けた後に希釈率10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図33はHA抗原を付けた後に希釈率10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図34はHA抗原を付けた後に希釈率10−4のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図である。これらの図において、図中のniはNTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えたときのI−V特性曲線、HAはHAを予め付けたヒスタグによりSiO2膜バックゲート電極上のNTAに固定化しものである。
【0093】
これらの図から明らかなように、特に原液の希釈率が10−5,10−4で,ソース電極−ドレイン電極間の電流値に大きな変化が現れた。また、検出感度はELISA程度であった。
【0094】
(具体例4)
次に抗原−抗体反応を利用した抗カルモジュリン(CaM)の検出について説明する。CaM遺伝子cDNAを含むDNA断片を発現ベクターpBAD/gIII(Invitrogen社製)のSacI−XbaI部位に挿入し、CaM発現ベクター(pBAD/gIII/calmodulin)を構築した。
【0095】
そのベクターを大腸菌LMG194株に導入し、rCaM発現クローンを得た。このクローを2mlのLB/Ampicilin培地に植菌し、一晩培養した。
【0096】
この培溶液5mlを、LB/Ampicilin培地に接種し、OD600が0.5になるまで37℃で震とう培養した後、終濃度0.02%になるようにL−arabinoseを加え、さらに4時間、37℃で震とう培養した。そして遠心集菌し、NatI−Ve Binding Buffer(Invitrogen社製)で懸濁し、超音波粉砕して、ProbondTMPurification System(Invitrogen社製)を用いて部分精製した後、HiLoad26/60Superdex75pg(AmershamBioscience社製)を用いてSDS/ポリアクリルアミド電気泳動的に均一に精製してrCaMを得た。
【0097】
そして、CNTバイオセンサーのSiO2膜にNTAを結合した後、rCaMを予め付けたヒスタグ(His tag)によりSiO2膜上のNTAに固定化し、原液の希釈率、10−8から10−2までの濃度のCaM抗体を与えてI−V特性曲線を求めた。その結果を図35に示す。なお、ゲート電圧は−20Vとした。
【0098】
図中の曲線(イ)はNTA結合後に洗浄したときのI−V特性曲線、曲線(ロ)はrCaMを予め付けたヒスタグによりNTAに結合させたときのI−V特性曲線、曲線(ハ)は原液の希釈率が10−8の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(二)は原液の希釈率が10−7の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(ホ)は原液の希釈率が10−6の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(へ)は原液の希釈率が10−4の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(ト)は原液の希釈率が10−2の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線である。
【0099】
これらの図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を0Vから0.5Vまで変化させたとき、電流値は各濃度に従って変化している。このことから、抗CaM抗体は、HA抗体と同様に非常に原液希釈度の高い領域でも検出が可能であることが分かる。
【0100】
ELISAを用いた抗CaM抗体と抗HA抗体の検出結果を次の表に示す。なおこの測定手順は、1次抗体を下記の希釈率で希釈して1時間静置し、2次抗体(抗マウスHRPO標準抗体)を5000倍希釈して再び1時間静置してから、TMB発色剤で450nmの吸収波長をもつ基質を生成して吸光度を測定した。
【0101】
表
(抗CaM抗体) (抗HA抗体)
PBS Neg.Con 0.034 0.030
2.5×10−2 2.000 1.722
6.3×10−3 2.439 2.725
1.6×10−3 2.899 3.378
3.9×10−4 2.300 3.132
0.98×10−4 0.650 2.839
2.4×10−5 0.177 1.413
6.1×10−6 0.051 0.290
この表1には、6.1×10−6の希釈度でELISAでは検出が困難になることが示されている。一方、前記具体例3,4ではゾルゲル法がELISA程度の感度を示し、他はみな10−8程度の希釈度で検出が行われている。
【0102】
Si基板上にCNTを成長させ、その両端部に電極を形成して、前記Si基板のCNTを成長させた面とは反対の背面を酸(硫酸)で活性化した後、シラン化試薬(3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン)を180℃で反応させ、NTAを固定化する。次にNiイオンを添加し、ヒスチジンを導入した抗原(CaM、HA)を固定化し、希釈した抗体と反応させた後、洗浄し基板背面に負のバイアスを印加してI−V特性を測定した。
【0103】
図36は、前述のようにして固定化したCaMに対して希釈したCaM抗体を反応した後にCNT電極間に1.5V印加したときの電流値変化を示す特性図である。この図から明らかなように,抗原を固定化していない場合,電流値の変化は殆ど見られなかったが、固定化した場合は抗体濃度の増加につれて電流値が増加している。また、抗体の検出は、抗体原液の約10−10から10−8の希釈範囲で可能であることが判明した。
【0104】
FLISAを用いて同抗体の検出限界について検討したところ、抗体原液を約10−6希釈したものが検出限界であることが判明した。また、検出限界はCaMとHAで異なり、抗原,抗体に依存することも判明した。
【0105】
前記各具体例ではゲート電圧が−20Vの場合について説明したが、0V程のゲート電圧でも、またプラスのゲート電圧でも、電流値の変化は少ないが検出が可能であることが判明している。
【0106】
CNTバイオセンサーを溶液に適用した場合、ノイズが観測されてデータの信頼性に問題を生じることがある。そのため、試料溶液(検査液)をセンサーに滴下した後、ブロア−、ヒータ、熱電変換素子(ペルチェ素子)などで溶媒(水分)を蒸発させることにより、ノイズを著しく低減することができる。前述の溶液を適用した具体例については、このノイズ対処法を適用している。また熱電変換素子(ペルチェ素子)や液体窒素などにより試料溶液(検査液)を冷却し、水などの溶媒の影響を低減することができる。特に水を凍結して絶縁化することにより、ノイズを大幅に低減することができる。
【0107】
従来法にELISAやウエスタンブロット法があるが、これらは原液希釈率10−5程度の感度が限界であった。これに対して本発明のセンサーの感度はHA抗体検出を行ったところ、ELISAの103程度である。
【0108】
また電気信号を用いているため、多数の化学反応過程が無く、そのために検出所要時間が極めて短い。電流特性をI−V曲線により調べたが、パラメータアナライザーにより、数秒のうちにI−V曲線を取得することが可能である。
【0109】
従来から知られているPCRなどでは温度変化を伴うため、温度制御が必要であるが、本発明のセンサーは温度一定の環境で使用できるため、温度制御が不要で、構成が簡略化され小型化が可能である。温度一定環境で使用できるものとして、例えばRT−PCR法、ICAN法、LAMP法などがあるが、何れも検出時間が長くかかるという難点を有している。
【0110】
本発明のセンサーは単一種類の検出だけでなく、1つのサンプルに対して同時に多種のセンシングを行い、同時に複数種の検出が可能である。また、多サンプルに対して、複数のセンサーを用いて並行して検出することもできる。
【0111】
本発明のチャネルにナノチューブ状構造体を用いたセンサーは、強度があり繰り返して使用することもできるが、安価なことから、危険なウィルスなどの検出については使い捨てにすることもできる。
【0112】
前記実施形態ではCNTを使用する場合を説明したが、チューブ状でない超微細な繊維を用いることも可能である。
【0113】
前記実施形態ではDNAプローブを形成した1種類のバイオセンサーについて説明したが、基板上にSiO2膜付きのCNTバイオセンサーを例えば3つ併設し、各SiO2膜上にDNAプローブと蛋白質プローブと糖脂質プローブを個別に形成して、異なる生体高分子(DNA、蛋白質、糖脂質)を同時に測定することも可能である。
【0114】
前記実施形態ではDNAにおける表面電荷分布特性の評価を行なう場合について説明したが、本発明はその他に糖鎖、RNA、アミノ酸、糖、ウィルスなど他の生体高分子の検出にも適応可能である。また、光に応答してロドプシンなどの蛋白質が陽子を放出する過程における電子状態の変化、あるいは色素の構造変化における電子状態の変化なども検出可能である。
【0115】
前記実施形態ではSETのチャネル部にナノチューブ状構造体を接続した例を示したが、FETのチャネル部にナノチューブ状構造体を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
ウィルスなどの微生物は、人体あるいは他の生命体の中に入ると、これに対する抗体が相互作用を始める。従って、抗体があるウィルスなどについては、体液から本発明のセンサーにより検出できる。例えば、前記具体例として示したHAはインフルエンザ・ウィルスの表面を覆うスパイク・プロテインというタンパク質であるため、本発明のセンサーにより検出でき、インフルエンザ、SARS、BSEなどの感染症を高感度、高速で検出できる。
【0117】
本発明のセンサーは検出部が小さく、電気信号を使用しているため、検出回路をチップ化でき、ポータブルで安価な検出器として使用することができる。そのためフィールドにおける試験が可能になり、またあらゆる医療機関に提供することができる。これにより感染症の早期発見という防御対策に役立つとともに、バイオテロの対策にも役立つ。
【0118】
基礎科学分野においても、本発明のセンサーによる一分子レベルによる分子間相互作用の結合強さの検出や電流特性によるウィルスやタンパク質の分類が可能となる。このため抗体に類似した分子を探索したり、デザインしたりすることを通じて、創薬の基礎実験が可能である。また一分子の検出を経時的に行うこともできる。さらにスペクトロスコピックな抗原抗体反応検出装置の基礎回路としても使用できる。
【0119】
本発明のセンサーのゲート電極やCNTを直接DNAで修飾することにより、相補的なDNAを電気的に超高感度で検出することができる。また、DNAによる感染症ウィルスや細菌などの微生物の超高感度、高速な測定を通じて、同定が可能である。
【0120】
更に環境ホルモン、毒素、無機物についても本発明のセンサーで検出が可能である。またサンプルの蒸気の影響が検出できることから、対象は液体に限らず、気体にも適用でき、大気やその他のガス中での有害物質などの特定な物質の濃度測定も可能である。
【符号の説明】
【0121】
1:絶縁基板、
2:絶縁薄膜、
3:ソース電極、
4:ドレイン電極、
7:カーボンナノチューブ(CNT)、
8:ゲート電極、
13:特定の物質、
14:被検出物質、
15:試料溶液。
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーを用いて試料中の被検出物質を検出する方法に係り、特に電界効果型トランジスタ(以下、FETと略記する)あるいは単一電子型トランジスタ(以下、SETと略記する)の構造を有するバイオセンサーなどのセンサーを用いて試料中の被検出物質を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来提案されたバイオセンサーは、特定の分子と選択的に反応する反応基をもった薄膜を電極上に形成し、その薄膜が前記特定分子を吸着した際のポテンシャルの変化を測定するようになっている。具体的にはグルコース酸化酵素を有する薄膜を電極上に形成し、グルコースとの酸化反応に伴う電流値の変化を測定することにより、グルコース量を検出する方式である。
【0003】
この種のバイオセンサーに関しては、例えば下記の特許文献1〜5や非特許文献1、2などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−260156号公報
【特許文献2】国際公開第02/48701号公報
【特許文献3】国際公開第01/44796号公報
【特許文献4】特開2002−118248号公報
【特許文献5】特公昭58−019984号公報
【非特許文献1】相沢、ケミカルコミニュケーション.945ページ(1989年)
【非特許文献2】Alexander Star, Jean-Christophe P, Gabriel.Keith Bradley,and George Gruner, Vol.3, No.4, 459-463 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが従来のバイオセンサーは前述のように化学反応に伴う電流値を直接的に検出する方法であるため、検出感度が低く、低濃度のグルコースを検出することが困難であるなど、バイオセンサーの高選択性という特長を充分に発揮できないという欠点を有していた。
【0006】
本発明の目的は、このような従来技術における欠点を解消して、ノイズが低減でき、従来よりも遙かに優れた感度を有する試料中の被検出物質の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の第1の手段は、基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とするものである。
【0008】
前記目的を達成するため本発明の第2の手段は、基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とするものである。
【0009】
前記目的を達成するため本発明の第3の手段は、基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とするものである。
【0010】
前記目的を達成するため本発明の第4の手段は、基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第5の手段は前記第1ないし第4のいずれかの手段において、前記超微細繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第6の手段は前記第5の手段において、前記カーボンナノチューブに欠陥が導入されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第7の手段は前記第1ないし第4のいずれかの手段において、前記被検出物質ならびに前記特定の物質が、相互作用する生体高分子であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第8の手段は前記第7の手段において、前記被検出物質が抗原または抗体であって、前記特定の物質が抗体または抗原であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は前述のような構成になっており、ノイズが低減でき、従来よりも遙かに優れた感度を有する試料中の被検出物質の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサーの斜視図である。
【図2】そのセンサーの概略構成図である。
【図3】そのセンサーを用いて被検出物質を検出する様子を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係るセンサーの被検出物質の他の検出の様子を示す概略斜視図である。
【図5】そのセンサーの絶縁基板とゲート電極との間の拡大概略図である。
【図6】本発明の実施形態においてカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略構成図である。
【図7】カーボンナノチューブ単一電子型トランジスタによる室温クーロンダイアモンド特性を示す図である。
【図8】従来の手法によってカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略斜視図である。
【図9】本発明の手法によってカーボンナノチューブを成長・形成する様子を示す概略斜視図である。
【図10】本発明の手法による触媒の配列例を示す概略斜視図である。
【図11】その触媒の拡大斜視図である。
【図12】第2の手法を施さないセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図13】そのセンサーに溶液を滴下した後の状態を示すセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図14】本発明のセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図15】そのセンサーに溶液を滴下した後の状態を示すセンサーの平面図(a)と断面図(b)である。
【図16】本発明のセンサーでバックゲート電極を修飾した状態を示す断面図である。
【図17】本発明のセンサーでカーボンナノチューブを直接分子修飾した状態を示す断面図である。
【図18】本発明のセンサーでカーボンナノチューブを間接分子修飾した状態を示す断面図である。
【図19】本発明のセンサーの他の構造を示す概略構成図である。
【図20】本発明のセンサーのさらに他の構造を示す概略構成図である。
【図21】本発明のセンサーによるFITC検出時のI−V特性曲線図である。
【図22】本発明のセンサーによるNiイオン検出時のI−V特性曲線図である。
【図23】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図24】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図25】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図26】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図27】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図28】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図29】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図30】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図31】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図32】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図33】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図34】本発明のセンサーのゾルゲル法での抗原抗体反応によるヘマグルチニン検出時のI−V特性曲線図である。
【図35】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるカルモジュリン検出時のI−V特性曲線図である。
【図36】本発明のセンサーの抗原抗体反応によるカルモジュリン検出時のI−V特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を図とともに説明する。図1は本発明の実施形態に係るSET型バイオセンサーの斜視図、図2はそのSET型バイオセンサーの概略構成図である。
【0018】
これらの図において1はチップ状の絶縁基板、2はその絶縁基板1の上にコーティングされて表面に例えば水酸基、アミノ基、カルボン酸基等の官能基を有する絶縁薄膜(本実施形態では水酸基を有するSiO2からなる絶縁薄膜)、3と4は薄膜2の上に所定の間隔をおいて形成されたソース電極ならびにドレイン電極で、両電極3,4の対向部分に尖端部5,6が形成されている(図1参照)。
【0019】
両電極3,4の尖端部5,6の間には、欠陥を導入したカーボンナノチューブ(以下、CNTと略記する)7が成長形成されている。前記基板1の薄膜2と反対側の面には、ゲート電極8が形成されている。
【0020】
前記絶縁基板1には、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの無機化合物あるいはアクリル樹脂、ポリイミドなどの有機化合物などが用いられる。また電極3,4,8には、例えば金、白金、チタンなどの金属が用いられる。電極3,4,8の電気的な接続関係は、図2に示すような接続関係になっている。
【0021】
本実施形態ではナノチューブ状構造体としてCNTを使用しており、このナノチューブ状構造体を用いることにより、非常に微細なチャネルを形成することができ、そのために高感度のセンサーが得られる。
【0022】
なお、図2に示すようにCNT7の下には空隙Gが形成されている。このようにしてSET構造を有するセンサーが構成される。SETとFETとは基本的な構成は同じであるが、電流通路となるチャネルにおいて、SETのチャネルは量子ドット構造を有し、FETのチャネルは量子ドット構造を有していない点で両者は異なっている。
【0023】
このトランジスタ(SETならびにFET)は、ゲート電極8やCNT7上の電荷(より厳密にはスピン電子状態)の変化に対して、ソース電極3、ドレイン電極4間の電流値が敏感に変化する。概してFETよりもSETの方が高感度である。また、SET的な特性がCNT生成後手を加えずに観測されることは稀であるが、FET上のCNTをCNTの生成温度(900℃程度の高温)にすることにより、CNTが部分的に破損して、アイランドを形成し、SETの電流特性を示す。また、動作電流(約数μA)に比べて大きな電流(約-+数mA)を流すことによっても同様の結果を得ることができる。
【0024】
本発明は、これらのトランジスタのゲート電極8やCNT7に分子が付着(相互作用)したとき、間接的あるいは直接的にCNT上の電子状態が変化するため、このときに生じるソース電極3−ドレイン電極4間の電流の変化から、付着(相互作用)した分子を検出することができる。また、ゲート電極8やCNT7自体を分子修飾したときの電流変化から分子を検出したり、あるいは修飾分子と他の分子との反応を検出することもできる。
【0025】
特にゲート電極8やCNT7を抗体(あるいは抗原)で修飾(固定化)した場合には、抗体−抗原反応を利用して、特定の抗原(あるいは抗体)を検出することが可能であるため、この手法により、感染症の病因ウィルス、細菌などの微生物を超高感度でしかも高速に検出することができる。この手法は、感染症の早期発見による予防や微生物の研究に有効利用でき、また素子(センサー)自体が著しく小さくなるため、それをフィールドに持ち出し、感染症ウィルスの検出やこれらの研究に活用することができる。
【0026】
図3は、そのセンサーを用いて被検出物質を検出する様子を示した概略図である。同図に示すようにセンサーは、分子検出部分18と信号変換部分19とを有し、両者は密接な関係にある。
【0027】
図中の12はSiO2からなる保護膜、13は検出すべき物質と選択的に反応あるいは吸着(相互作用)する特定の物質(例えば抗体)、14はその特定の物質13と選択的に反応あるいは吸着(相互作用)する被検出物質(例えば抗原)、15はその被検出物質14を含んだ試料溶液である。
【0028】
図4と図5は、本発明のセンサーを用いて被検出物質を検出する他の様子を示す概略図で、図5はそのセンサーの絶縁基板1とゲート電極8との間の拡大概略図である。この例の場合、被検出物質14を含んだ試料溶液15が絶縁基板1とゲート電極8の間に介在されて被検出物質14の検出が行われている。図5において符号20は特定の物質(例えば抗体)の配向を保つ分子、21は試料溶液15中に存在する被検出物質以外の物質である。図5では、特定の物質(例えば抗体)13により、被検出物質(例えば抗原)14が選択的に反応あるいは吸着などの相互作用する様子が示されている。
【0029】
次にCNTの基本電導特性の制御について説明する。
(1)バイオセンサーデバイスの基本要素となるCNTの成長位置、方向、本数、カイラリティー、特性などを任意に設計するために、電界や磁界の印加、CNTを成長する際に用いられる触媒の種類や形状などの最適化を行なう。
【0030】
図6は、触媒をパターンニングして、電界を印加しながらCNTの位置・方向を制御する手法の一例を示す概略構成図である。
【0031】
図中の1は絶縁基板、2はその絶縁基板1の上にコーティングされたSiO2からなる薄膜、9a,9bはSiO2薄膜2の上にパターンニングされた鉄などからなる触媒層、7は電界が印加されて触媒層9a,9b間に形成されたCNTで、成長位置、方向、本数、カイラリティー、特性などが任意に制御されている。10は反応容器、11はCNTの原料であるメタンガスなどの炭化水素ガスである。成長したCNTの長さは数μm程度(例えば3μm程度)、直径は数nm程度で、超微細な繊維状集合体となっている。
【0032】
(2)この成長位置、方向、特性などを制御したCNTを無侵襲な電極として用いて4探針法における形状を作製する。
【0033】
4探針法とは、試料に4本の針状の電極(例えば電極A,電極B,電極C,電極D)を直線上に設置し、外側の2探針(例えば電極Aと電極D)間に一定電流を流し、内側の2探針(例えば電極Bと電極C)間に生じる電位差を測定して抵抗値を求め、求めた抵抗値に試料の厚さおよび補正係数RCFを掛けて試料の体積抵抗値を算出する方法である。
【0034】
(3)電極とチャネル(CNT)が重なる部分は、高電界の電子ビーム、あるいはSTM(Scanning Tunneling Microscopy :走査型トンネル顕微鏡法)/AFM(Atomic Force Microscope :原子間力顕微鏡)を使用して局所印加電界によりウェルダリングを行ない、電極とチャネル(CNT)を一体化する。
【0035】
(4)次にCNTのトランスポート特性を評価する。評価する電気伝導特性としては、バリスティクな電導特性、スピン注入が可能か、スピントランスポートが可能かなどがある。
【0036】
(5)CNTに欠陥を導入することにより、CNTの電気的な特性が大幅に変化することが、本発明者らの予備実験で既に確認されている(CNTに欠陥を導入することにより、約5000Kの高いクーロンエネルギーを有し、室温で動作するSETが形成できることが、予備実験で確認されている)。
【0037】
従って、STM/AFM加工や電子ビームによりCNTに欠陥を任意に導入することにより、電導特性が制御可能なCNTが得られる。
【0038】
このCNTの欠陥導入法の具体例としては、例えばCNTを生成するときとほぼ同じ温度(例えば800℃程度)で焼鈍して、その後自然冷却する方法がある。ここでCNTの欠陥とは、熱によって炭素原子の一部が飛び出し、CNTが切れ切れになった状態でかろうじて繋がっているような、CNTの形状等が変わったことを指しているが、実際にはどのような構造になっているのか、現在のところ明確ではない。
【0039】
(6)このCNT内の欠陥と、CNTの電気的な特性の相関を調べる。例えば走査プローブ法(ケルビンプローブ法、マックスウェルプローブ法など)により、欠陥の密度、分布、大きさ(サイズ、エネルギーバリアなど)を評価して、CNT内の欠陥とCNTの電気的な特性の相関を明らかにする。このようにCNT内の欠陥と電気的特性との相関を把握することにより、特性の再現性、均一性の良いSETを製造することができる。
【0040】
(7)前記(6)により、欠陥導入の制御によるカーボンナノチューブの電気的特性の制御が可能となる。
【0041】
本発明では欠陥を導入したCNTを用いて、室温で作動するSETを作製することができる。ここでは欠陥を導入したCNTを用いた場合を説明したが、欠陥を導入しないCNTも使用可能である。
【0042】
従来のSETにおいて問題であった浮遊電荷や移動電荷による誤動作を回避するために、本発明では2つのCNT使用のSETを近接して作製し、単一の電荷を検知する際、両方のSETの出力特性(室温)のアンド(AND)をとる。これにより真の電荷があるときのみに両方のSETが動作するため、浮遊電荷や移動電荷による誤動作が回避できる。
【0043】
さらに測定速度を高速にするため、前述の手法を用いて、従来の直流方式ではなく、共振回路を用いて交流で動作させるシステムを採用した。以上のことにより、室温でしかも高速で、誤動作なく、単一の電荷分布を測定することができる。
【0044】
図7は、CNT使用のSETによる室温クーロンダイアモンド特性を示す図ある。この室温クーロンダイアモンド特性から、本発明のCNT使用のSETが室温で動作可能であることが立証できる。
【0045】
図1に示すようにCNT使用のSETを基板1上に形成するとともに、図3に示すように溶液中で稼動させるためにチップをSiO2からなる保護膜12でコーティングし、このSiO2保護膜12上に抗体などの特定の物質13を固定化する。この例では保護膜12を設けたが、保護膜12を設けないでよい場合もある。
【0046】
DNAなどの被検出物質14を溶解した試料溶液15の中に本実施形態に係るバイオセンサーを設置して、共振回路を用いて交流で動作させて、特定の物質13と被検出物質14との相互作用を測定することにより、被検出物質14の検出(表面電荷分布特性の評価)を行なうことができる。
【0047】
次にCNTを用いたセンサーの信号変換部分の作製について詳述する。ここではCNTの半導体的性質を用いてFET型またはSET型のトランジスタを作製する。作製方法は一般的なリソグラフ法による触媒の蒸着、熱CVDによるCNT成長および電極作製のプロセスから成り立っている。
【0048】
しかしこれには、次のような課題がある。まず、CNTの成長のコントロールは容易ではない。CNTの成長法はいくつか提案されているが、信号変換部分の電極間を単一のCNTで接続する素子を作製する場合、最終的に電極間にCNTが架橋する歩留まりと構造的な安定性が重要である。このため、触媒(相互の位置、構造、大きさなど)や熱CVD法の条件決め(温度、ガスの種類、流量、電場や磁場の導入など)が重要である。
【0049】
さらに、触媒上のCNT成長後に電極を作製するが、その際、電極が基板から剥離したり、電極内に亀裂が生じるなどの現象が起きる可能性や、CNTとの接触電位が素子の特性や強度に影響を与える可能性もあり、安定した電流特性を得るためには電極材料を検討する必要がある。
【0050】
そこで実施形態では、特に触媒の諸要素に新規な手法(後述する第1の手法)を用いた。また、CNTを分子で直接修飾する場合など、分子を含む溶媒が電極を覆うことがあり、電極とプロ−バーなどの測定機器との接続に電極表面を覆う溶媒の影響が生じるため、これを防ぐ手法(後述する第2の手法)を用いた。
【0051】
さらに、バックゲート型またはサイドゲート型の素子を用いた場合でも、試料や試料を含む蒸気などがゲート電極やサイドゲート電極に影響を及ぼすことがある。これはCNTを保護することにより回避することができた(後述する第3の手法)。実際、バックゲート電極やサイドゲート電極を用いた諸反応の検出結果の中には、被検出物質が気化してゲート電極やサイドゲート電極のみならずCNT表面に付着したため、電流値が変化したと思われる実例がある。
【0052】
前記第1の手法とは具体的には、CNTの成長の核を形成するため、電子線リソグラフィ法を用いてSiO2膜上に触媒を蒸着する。本実施形態では、厚さ380μmのSi基板の両表面を300nm程度のSiO2膜で覆った。このSiO2膜上に鉄,ニッケル,コバルト,モリブデン,タングステンなどの遷移金属もしくはそれら遷移金属微粒子を含む触媒を用い、かかる触媒をCNTの成長核とする手法に関するものである。
【0053】
図8は従来の手法を説明するための図で、図中の1は両表面にSiO2膜を形成したSiの絶縁基板、7はCNT、9a,9bは触媒、22a,22bは後で電極が形成される位置である。従来の手法は同図に示すように、所定の間隔をおいて触媒9a,9bが一つずつ蒸着により形成されており、一つの触媒9aから成長したCNT7が対をなす触媒9bに到達した時にCNT7による触媒9a,9b間の接続ができる。
【0054】
図9は本発明の実施形態(第1の手法)を説明するための図で、同図に示すようには、一つの電極が形成される位置22aに複数のドット状の触媒9a−1,9a−2,・・・・9a−nが並べて形成され、他方の電極が形成される位置22bにも複数のドット状の触媒9b−1,9b−2,・・・・9b−nが、前記触媒9a−1,9a−2,・・・・9a−nと対向するように形成されている。このように触媒9の設置数、すなわちCNTの成長核を増やし、密に配列することにより、本来触媒9からランダムに成長し易いCNTが対の触媒9に到達する確立を著しく高めることができる。この手法により、従来に比べて歩留まりを10倍以上高めることができる。
【0055】
図10は、本実施形態(第1の手法)に係る触媒9の配置例を示す図である。隣の触媒の間隔L1が2μmになるようにそれぞれ6つずつ密に配列されており、一方の触媒列9a−1,9a−2,・・・・9a−nと他方の触媒列9b−1,9b−2,・・・・9b−nの間隔L2は4μmとなっている。なお、触媒9の設置数、間隔L1ならびに間隔L2は、任意に設定可能である。
【0056】
図11は、触媒9の拡大斜視図である。同図に示すように触媒9は、50nm厚のSiなどからなる支持層25と、その上に形成された10nm厚のMo,Ta,Wなどの遷移金属からなる中間層26と、その上に形成された3nm厚のFe,Ni,Coなどの遷移金属からなるトップ層27の3層構造になっている。従って触媒9のトータル高さHは63nm、直径Dは2μmである。この多層構造の触媒9は蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの薄膜形成技術でパターンニングされる。
【0057】
触媒9を形成した絶縁基板1を図6に示すように、熱CVD装置の反応容器10内に設置した後、メタンやエタンなどの炭化水素ガス11を注入して、触媒9上にCNT7を成長させる。
【0058】
本実施形態では、CNT7の成長を次のような手順で行った。触媒9を形成した絶縁基板1を、室温から900℃まで15分間加熱した。このとき、Arを流量1,000sccm(1分間のガス流量)で反応容器10内に流入させた。この温度を維持して、メタンと水素を10分間それぞれ1,000sccm、500sccmの流量で流入させ、その後、120分かけて反応容器10内を室温まで冷却する。このときもArガスを1,000sccmで反応容器10内に流入させた。
【0059】
このようにしてCNT7を生成した後、絶縁基板1上に電極(ソース電極3,ドレイン電極4)を蒸着した。電極はAuを蒸着するか、あるいはTiを蒸着した後、その表面をAuで被覆する。特に後者は、基板からの剥離や電極内での亀裂の発生が少ないという特長を有している。触媒を覆う電極の幅は10μm程度である。
【0060】
次に前述の第2の手法について説明する。電極は多数個(50〜400個程度)同時に形成される。CNTを直接修飾するときなどは、CNT上にその装飾分子を含む溶液を滴下することがあり、このとき溶液の量によっては電極全体を覆うことがある。一旦、電極の表面が溶液で覆われると、CNTで結ばれた電極間の電流を測定するときに、プローバなどの測定装置のプローブと電極間に被膜が形成され、正確な電流値が得られない可能性がある。
【0061】
図12および図13は第2の手法を施さないセンサーを説明するための図で、図12は溶液を滴下する前の状態、図13は溶液を滴下した後の状態を示す図であり、両図とも(a)は平面図、(b)は断面図である。従来のセンサーは電極3,4の大きさが小さいと、図13に示すように電極3,4の全体が溶液の滴下によって形成された被膜28によって覆われるケースが多々あった。電極3,4間に流れる電流値は1μA程度と微小であるため、測定装置のプローブと電極3,4の間に被膜28が存在すると正確な電流測定ができない。
【0062】
そのため本発明では図14および図15に示すように、電極3,4の長さL3[図14(a)参照]を図12のものよりも約1.5〜3倍程度長くした。このように電極3,4の長さL3を長くすることにより、CNT7を修飾する分子の被膜28が形成されても、電極3,4の端部に被膜28で覆われない部分29(図15参照)ができる。この被膜28で覆われない部分29に光学顕微鏡を用いてプローバなどの測定装置のプローブを当てることにより、電極3,4間を流れる電流を正確に測定することができる。
【0063】
本実施形態の場合、図14(a)において電極3,4の先端部の幅w1を10μm、プローブを当てる部分の幅W2を150μm、長さL3を500μmとした。図14(b)に示すように、CNT7は電極3,4間で若干湾曲した状態になっており、基板1側の表面との間に空隙Gが設けられている。
【0064】
次に前述の第3の手法について説明する。CNTは水を始めとする種々の分子と容易に相互作用し、その電子状態が変化して、この変化は電流値の変化として現れる。これは積極的に気体センサーとして使用し得ると同時に、バックゲート電極やサイドゲート電極などをセンサーとして使用する場合にはノイズ源となる。
【0065】
そのため本実施形態では、CNTと電極の一部を絶縁性保護膜で覆い、ノイズを低減させた。絶縁性保護膜の形成には絶縁性の接着剤が使用できるが、スピンコートに広く利用されるパッシペーション膜を用いることも可能である。特に、バックゲート電極に水を与えた場合に見られた電流の増大は絶縁性保護膜の形成により、観測されなくなった。またこの絶縁性保護膜の形成により、素子全体を超音波洗浄したり、バックゲート電極などを今まで以上に強力な洗浄剤で洗浄したりすることが可能となった。
【0066】
センサーのゲート電極は様々な位置に形成することが可能で、センサーの用途や製作の容易さに応じて種々の構造をとることができる。次にセンサーの各構造について説明する。
【0067】
(A)ゲート電極を分子修飾した構造
基板に形成されたSiO2膜上に分子が付着すると、ソース電極とドレイン電極の間に流れる電流値が変化する。例えば、蛍光分子FITC(Fluorescein isothiocyanate)をゲート電極に与えることにより、電流値が変化する。また、抗体−抗原反応の例として、SiO2膜を抗体(あるいは抗原)で分子修飾し、対応する抗原(あるいは抗体)と反応させ、電気信号の変化を検出する。CNTに比べて大きな領域に分子修飾できるため、多くの分子を対象とした検出に適している。また、CNTを直接修飾しないため、使用後の洗浄によるCNTの破損が回避できる。
【0068】
図16は、この構造を示す図である。同図に示すように絶縁基板1のCNT7とは反対側のSiO2膜を特定の物質(例えば抗体)13で分子修飾し、その絶縁基板1とゲート電極8の間に被検出物質(例えば抗原)を含む試料溶液15を介在させた構造になっている。
【0069】
(B)CNTを直接分子修飾した構造
図17は、CNT7を直接分子修飾した構造を示す図である。CNT7を直接分子修飾することにより、修飾分子によるCNT7上の電子状態の変化は、バックゲート電極8を分子修飾した場合に比べて大きく、この構造は高い感度を有している。
【0070】
(C)CNTを間接的に分子修飾した構造
図18は、CNT7を間接的に分子修飾した構造を示す図である。CNT7を間接的に分子修飾するため、同図に示すようにCNT7を接着剤などの有機化合物からなる絶縁薄膜30で被覆する。修飾分子や表面に付着した分子が絶縁薄膜30内で引き起こす電子状態の変化によってCNT7の電子状態の変化を引き起こし、結果として電流の変化を生じる。
【0071】
(D)サイドゲートを用いた構造
この構造では、基板上のCNT近傍にアイランドを作り、これをゲートとして用いる。この構造だと基板背面(バックゲート電極)の分子修飾などの手間をかけずに、また、CNT7を直接修飾することに起因して生じるCNT7自体が破損されることが無いなどの特長を有している。SETに好適な構造である。
【0072】
前述の(A)バックゲート電極を分子修飾した構造の場合、CNTと電極の一部を絶縁性の保護膜で覆い、電流特性の安定化を図ると良い。また前述の(B)CNTを直接分子修飾した構造、ならびに(C)CNTを間接的に分子修飾した構造の場合には、図15を用いて説明したように電極3,4上に被膜で覆われない部分29を形成すると良い。
【0073】
図19は、さらに他の構造を説明するための概略構成図である。この構造の場合、絶縁基板1自体をチャネルとして使用し(バックチャネル)、その基板1上にCNT7を間にして電極3,4が設けられている。基板1の背面にチャネルとなる凹部16が形成され、その凹部16を検出対象物質を含む液体で濡らすことにより、絶縁基板1の背面で検出できるようになっている。
【0074】
図20は、さらに他の構造を説明するための概略構成図である。この構造の場合も絶縁基板1自体をチャネルとして使用(バックチャネル)しているが、その基板1のチャネルにCNTなどからなる探針17が設けられている。このバックチャネルと探針17を一体化したものは、例えば走査型プローブ顕微鏡の探針などに使用することができる。
【0075】
次に、本発明の具体例について説明する。予備実験として、SiO2膜とバックゲート電極との間に蛍光分子であるFITCを含む溶液を滴下し、電流特性の変化を観測した。ゲート電圧は−20Vとし、FITCの濃度を0.64nMとした場合のI−V特性を図21に示す。
【0076】
同図の縦軸はソース電極とドレイン電極の間に流れる電流値(ソース−ドレイン電流)(A)、横軸はソース電極とドレイン電極の間の電圧値(ソース−ドレイン間の電圧)(V)を示している。また図中の点線はFITCを付着する前のI−V特性曲線、実線はFITCを付着した後のI−V特性曲線である。
【0077】
この図から明らかなように、FITCの付着前後でI−V特性が大きく変化していることが分かる。
【0078】
(具体例1)
次にイオン反応を利用した2価イオンの検出について説明する。CNTバイオセンサーのCNTをピレンで直接修飾し、N−[5−(3′−マレインイミドプロピルアミノ)−1−カルボキシペンチル]イミノ二酢酸{N−[5−(3′−Maleimidopropylamimo)−1−carboxypentyl]iminodiacetic acid:以下、NTAと略記する}をバックゲート電極に結合した後、Niイオンを含む溶液を滴下し、それぞれの場合のI−V特性により、伝導特性を調べた。
【0079】
ゲート電極に電界を与えない場合のI−V特性を図22に示す。縦軸はソース電極−ドレイン電極間に流れる電流値(A)、横軸はソース電極−ドレイン電極間の電圧値(V)を示している。図中のdiはバックゲート電極を洗浄した後のI−V特性曲線、ntaはNTA結合後のI−V特性曲線、niはNiイオンを含む溶液を滴下した後のI−V特性曲線である。
【0080】
この図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を上げることにより、電流は増加するが、全ての系(di,nta,niの系)においてdv(ソース−ドレイン間の電圧)=0V近傍では殆ど電流は増加せず、半導体的な性質が見られる。
【0081】
洗浄後のI−V特性曲線(di)に比べ、NTAがバックゲート電極に結合した後のI−V特性曲線(nta)は、電流の著しい減少を示している。これに対して、Niイオンを系に加えると、I−V特性曲線(ni)に示すように電流は増加する。
【0082】
NTAはNiイオンのみならず他の2価のプラスイオンにも反応するため、他の2価のプラスイオンも検出することが可能である。
【0083】
(具体例2)
次に抗原−抗体反応を利用した抗ヘマグルチニン(HA)抗体の検出について説明する。
【0084】
HAのC末を様々なレベル(220,250,290,320)で切断し、発現を試みた。293T細胞へ遺伝子を導入し、モノクローン抗体E2/3とポリクローナル抗体を用い、細胞内でのHAタンパクの発現を確認した。ウェスタンブロット法で上清にHAタンパクが分泌されることを確認した。HA1−290が大量発現し、上清からNi2+カラムで精製した。ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay),SDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresis)で目的とするHAタンパクが含まれるフラクションを確認し、これを分取して、PBSで透析してHAを得た。さらに短いHA1−220についても発現が見られたが、モノクローン抗体と反応しなくなったため、使用しなかった。
【0085】
対照実験として、CNTバイオセンサーのSiO2膜を介して形成したバックゲート電極上にNTAを結合した後、Niイオンを系に加え、原液の希釈率、10−10から10−5までの濃度のHA抗体溶液を与えてI−V特性曲線を求めた。このときバックゲート電極にはHAが無いため、HA抗体はバックゲート電極上に配向性を持っては結合しない。
【0086】
次にHAを予め付けたヒスタグ(His tag)によりSiO2膜を介して形成したバックゲート電極上のNTAに固定化し、同様にHA抗体を与えてI−V特性曲線を求めた。これらのI−V特性曲線図を図23〜28に示す。なお、ゲート電圧は−20Vとした。
【0087】
図23はNTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えた時のI−V特性曲線図、図24は原液の希釈率が10−10のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図25は原液の希釈率が10−8のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図26は原液の希釈率が10−7のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図27は原液の希釈率が10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図28は原液の希釈率が10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図である。
【0088】
これらの図において、図中の点線は前記前者のバックゲート電極にHAが無いもの、実線は前記後者のHAを予め付けたヒスタグによりバックゲート電極上のNTAに固定化しものである。
【0089】
これらの図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を0Vから1Vまで変化させたときには両者(実線と点線)のソース電極−ドレイン電極間の電流値の違いは殆ど見られないが、電圧を1V以上に上げた場合、HAが固定化されていると見られる系(実線)において、電流値が急激に増大するという特性を示している。
【0090】
このことから、HA抗体がELISA(e(nzyme−)l(inked)i(mmuno)s(orbent)a(ssay))など従来法に比して、希釈度の高い領域でも検出することが可能であることが分かる。
【0091】
(具体例3)
これらの抗原−抗体反応を利用したヘマグルチニン(HA)の検出は、ゾルゲル法を用いても同様の結果が得られた。それらのI−V特性を図29ないし図34に示す。なお、抗原−抗体反応の実験前の全ての系において、NTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えている。ゲート電圧は−20Vとした。
【0092】
図29はHA抗原を付けずに希釈率10−7のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図30はHA抗原を付けずに希釈率10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図31はHA抗原を付けずに希釈率10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図32はHA抗原を付けた後に希釈率10−6のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図33はHA抗原を付けた後に希釈率10−5のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図、図34はHA抗原を付けた後に希釈率10−4のHA抗体を与えた時のI−V特性曲線図である。これらの図において、図中のniはNTA結合後にNiイオンを含む溶液を与えたときのI−V特性曲線、HAはHAを予め付けたヒスタグによりSiO2膜バックゲート電極上のNTAに固定化しものである。
【0093】
これらの図から明らかなように、特に原液の希釈率が10−5,10−4で,ソース電極−ドレイン電極間の電流値に大きな変化が現れた。また、検出感度はELISA程度であった。
【0094】
(具体例4)
次に抗原−抗体反応を利用した抗カルモジュリン(CaM)の検出について説明する。CaM遺伝子cDNAを含むDNA断片を発現ベクターpBAD/gIII(Invitrogen社製)のSacI−XbaI部位に挿入し、CaM発現ベクター(pBAD/gIII/calmodulin)を構築した。
【0095】
そのベクターを大腸菌LMG194株に導入し、rCaM発現クローンを得た。このクローを2mlのLB/Ampicilin培地に植菌し、一晩培養した。
【0096】
この培溶液5mlを、LB/Ampicilin培地に接種し、OD600が0.5になるまで37℃で震とう培養した後、終濃度0.02%になるようにL−arabinoseを加え、さらに4時間、37℃で震とう培養した。そして遠心集菌し、NatI−Ve Binding Buffer(Invitrogen社製)で懸濁し、超音波粉砕して、ProbondTMPurification System(Invitrogen社製)を用いて部分精製した後、HiLoad26/60Superdex75pg(AmershamBioscience社製)を用いてSDS/ポリアクリルアミド電気泳動的に均一に精製してrCaMを得た。
【0097】
そして、CNTバイオセンサーのSiO2膜にNTAを結合した後、rCaMを予め付けたヒスタグ(His tag)によりSiO2膜上のNTAに固定化し、原液の希釈率、10−8から10−2までの濃度のCaM抗体を与えてI−V特性曲線を求めた。その結果を図35に示す。なお、ゲート電圧は−20Vとした。
【0098】
図中の曲線(イ)はNTA結合後に洗浄したときのI−V特性曲線、曲線(ロ)はrCaMを予め付けたヒスタグによりNTAに結合させたときのI−V特性曲線、曲線(ハ)は原液の希釈率が10−8の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(二)は原液の希釈率が10−7の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(ホ)は原液の希釈率が10−6の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(へ)は原液の希釈率が10−4の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線、曲線(ト)は原液の希釈率が10−2の抗CaM抗体を与えて反応させたときのI−V特性曲線である。
【0099】
これらの図から明らかなように、ソース電極−ドレイン電極間の電圧を0Vから0.5Vまで変化させたとき、電流値は各濃度に従って変化している。このことから、抗CaM抗体は、HA抗体と同様に非常に原液希釈度の高い領域でも検出が可能であることが分かる。
【0100】
ELISAを用いた抗CaM抗体と抗HA抗体の検出結果を次の表に示す。なおこの測定手順は、1次抗体を下記の希釈率で希釈して1時間静置し、2次抗体(抗マウスHRPO標準抗体)を5000倍希釈して再び1時間静置してから、TMB発色剤で450nmの吸収波長をもつ基質を生成して吸光度を測定した。
【0101】
表
(抗CaM抗体) (抗HA抗体)
PBS Neg.Con 0.034 0.030
2.5×10−2 2.000 1.722
6.3×10−3 2.439 2.725
1.6×10−3 2.899 3.378
3.9×10−4 2.300 3.132
0.98×10−4 0.650 2.839
2.4×10−5 0.177 1.413
6.1×10−6 0.051 0.290
この表1には、6.1×10−6の希釈度でELISAでは検出が困難になることが示されている。一方、前記具体例3,4ではゾルゲル法がELISA程度の感度を示し、他はみな10−8程度の希釈度で検出が行われている。
【0102】
Si基板上にCNTを成長させ、その両端部に電極を形成して、前記Si基板のCNTを成長させた面とは反対の背面を酸(硫酸)で活性化した後、シラン化試薬(3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン)を180℃で反応させ、NTAを固定化する。次にNiイオンを添加し、ヒスチジンを導入した抗原(CaM、HA)を固定化し、希釈した抗体と反応させた後、洗浄し基板背面に負のバイアスを印加してI−V特性を測定した。
【0103】
図36は、前述のようにして固定化したCaMに対して希釈したCaM抗体を反応した後にCNT電極間に1.5V印加したときの電流値変化を示す特性図である。この図から明らかなように,抗原を固定化していない場合,電流値の変化は殆ど見られなかったが、固定化した場合は抗体濃度の増加につれて電流値が増加している。また、抗体の検出は、抗体原液の約10−10から10−8の希釈範囲で可能であることが判明した。
【0104】
FLISAを用いて同抗体の検出限界について検討したところ、抗体原液を約10−6希釈したものが検出限界であることが判明した。また、検出限界はCaMとHAで異なり、抗原,抗体に依存することも判明した。
【0105】
前記各具体例ではゲート電圧が−20Vの場合について説明したが、0V程のゲート電圧でも、またプラスのゲート電圧でも、電流値の変化は少ないが検出が可能であることが判明している。
【0106】
CNTバイオセンサーを溶液に適用した場合、ノイズが観測されてデータの信頼性に問題を生じることがある。そのため、試料溶液(検査液)をセンサーに滴下した後、ブロア−、ヒータ、熱電変換素子(ペルチェ素子)などで溶媒(水分)を蒸発させることにより、ノイズを著しく低減することができる。前述の溶液を適用した具体例については、このノイズ対処法を適用している。また熱電変換素子(ペルチェ素子)や液体窒素などにより試料溶液(検査液)を冷却し、水などの溶媒の影響を低減することができる。特に水を凍結して絶縁化することにより、ノイズを大幅に低減することができる。
【0107】
従来法にELISAやウエスタンブロット法があるが、これらは原液希釈率10−5程度の感度が限界であった。これに対して本発明のセンサーの感度はHA抗体検出を行ったところ、ELISAの103程度である。
【0108】
また電気信号を用いているため、多数の化学反応過程が無く、そのために検出所要時間が極めて短い。電流特性をI−V曲線により調べたが、パラメータアナライザーにより、数秒のうちにI−V曲線を取得することが可能である。
【0109】
従来から知られているPCRなどでは温度変化を伴うため、温度制御が必要であるが、本発明のセンサーは温度一定の環境で使用できるため、温度制御が不要で、構成が簡略化され小型化が可能である。温度一定環境で使用できるものとして、例えばRT−PCR法、ICAN法、LAMP法などがあるが、何れも検出時間が長くかかるという難点を有している。
【0110】
本発明のセンサーは単一種類の検出だけでなく、1つのサンプルに対して同時に多種のセンシングを行い、同時に複数種の検出が可能である。また、多サンプルに対して、複数のセンサーを用いて並行して検出することもできる。
【0111】
本発明のチャネルにナノチューブ状構造体を用いたセンサーは、強度があり繰り返して使用することもできるが、安価なことから、危険なウィルスなどの検出については使い捨てにすることもできる。
【0112】
前記実施形態ではCNTを使用する場合を説明したが、チューブ状でない超微細な繊維を用いることも可能である。
【0113】
前記実施形態ではDNAプローブを形成した1種類のバイオセンサーについて説明したが、基板上にSiO2膜付きのCNTバイオセンサーを例えば3つ併設し、各SiO2膜上にDNAプローブと蛋白質プローブと糖脂質プローブを個別に形成して、異なる生体高分子(DNA、蛋白質、糖脂質)を同時に測定することも可能である。
【0114】
前記実施形態ではDNAにおける表面電荷分布特性の評価を行なう場合について説明したが、本発明はその他に糖鎖、RNA、アミノ酸、糖、ウィルスなど他の生体高分子の検出にも適応可能である。また、光に応答してロドプシンなどの蛋白質が陽子を放出する過程における電子状態の変化、あるいは色素の構造変化における電子状態の変化なども検出可能である。
【0115】
前記実施形態ではSETのチャネル部にナノチューブ状構造体を接続した例を示したが、FETのチャネル部にナノチューブ状構造体を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
ウィルスなどの微生物は、人体あるいは他の生命体の中に入ると、これに対する抗体が相互作用を始める。従って、抗体があるウィルスなどについては、体液から本発明のセンサーにより検出できる。例えば、前記具体例として示したHAはインフルエンザ・ウィルスの表面を覆うスパイク・プロテインというタンパク質であるため、本発明のセンサーにより検出でき、インフルエンザ、SARS、BSEなどの感染症を高感度、高速で検出できる。
【0117】
本発明のセンサーは検出部が小さく、電気信号を使用しているため、検出回路をチップ化でき、ポータブルで安価な検出器として使用することができる。そのためフィールドにおける試験が可能になり、またあらゆる医療機関に提供することができる。これにより感染症の早期発見という防御対策に役立つとともに、バイオテロの対策にも役立つ。
【0118】
基礎科学分野においても、本発明のセンサーによる一分子レベルによる分子間相互作用の結合強さの検出や電流特性によるウィルスやタンパク質の分類が可能となる。このため抗体に類似した分子を探索したり、デザインしたりすることを通じて、創薬の基礎実験が可能である。また一分子の検出を経時的に行うこともできる。さらにスペクトロスコピックな抗原抗体反応検出装置の基礎回路としても使用できる。
【0119】
本発明のセンサーのゲート電極やCNTを直接DNAで修飾することにより、相補的なDNAを電気的に超高感度で検出することができる。また、DNAによる感染症ウィルスや細菌などの微生物の超高感度、高速な測定を通じて、同定が可能である。
【0120】
更に環境ホルモン、毒素、無機物についても本発明のセンサーで検出が可能である。またサンプルの蒸気の影響が検出できることから、対象は液体に限らず、気体にも適用でき、大気やその他のガス中での有害物質などの特定な物質の濃度測定も可能である。
【符号の説明】
【0121】
1:絶縁基板、
2:絶縁薄膜、
3:ソース電極、
4:ドレイン電極、
7:カーボンナノチューブ(CNT)、
8:ゲート電極、
13:特定の物質、
14:被検出物質、
15:試料溶液。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項2】
基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項3】
基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項4】
基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記超微細繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項6】
請求項5記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記カーボンナノチューブに欠陥が導入されていることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記被検出物質ならびに前記特定の物質が、相互作用する生体高分子であることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項8】
請求項7記載の試料中の被検出物質の検出方法において、前記被検出物質が抗原または抗体であって、前記特定の物質が抗体または抗原であることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項1】
基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項2】
基板と、その基板の上面に形成した絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
そのチャネル上に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項3】
基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を蒸発させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項4】
基板と、その基板の上面に形成した第1の絶縁薄膜上に、所定の間隔をおいて対向して設けたソース電極およびドレイン電極を有するチャネルとを少なくとも備えたセンサーで試料中の被検出物質を検出する方法において、
前記チャネルが超微細繊維で構成され、
前記基板の前記チャネルとは反対側の面に第2の絶縁薄膜が形成され、その第2の絶縁薄膜の外側にバックゲート電極を設けて、前記第2の絶縁薄膜が被検出物質と相互作用する特定の物質で修飾され、
その修飾箇所と前記バックゲート電極の間に前記試料溶液を滴下した後、その試料溶液の溶媒を凍結させることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記超微細繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項6】
請求項5記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記カーボンナノチューブに欠陥が導入されていることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の試料中の被検出物質の検出方法において、
前記被検出物質ならびに前記特定の物質が、相互作用する生体高分子であることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【請求項8】
請求項7記載の試料中の被検出物質の検出方法において、前記被検出物質が抗原または抗体であって、前記特定の物質が抗体または抗原であることを特徴とする試料中の被検出物質の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2011−64691(P2011−64691A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238816(P2010−238816)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【分割の表示】特願2004−37866(P2004−37866)の分割
【原出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【分割の表示】特願2004−37866(P2004−37866)の分割
【原出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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