説明

試料作製方法および試料作製装置

【課題】有機絶縁膜を含む層の境界を明確に判別可能とすることができる試料作製方法および試料作製装置を提供する。
【解決手段】有機絶縁膜と他の絶縁膜とが積層されてなる試料Waに対して集束イオンビーム20Aを照射して試料の断面を露出させる断面露出工程と、断面に対して水または水蒸気を供給しつつ、集束イオンビームを照射して断面の各膜が判別可能となるように処理する断面処理工程と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスの評価や故障解析を行うための試料作製方法および試料作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の観察評価および回路修正を行う際に、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置を用いて試料を作製する方法が知られている。具体的には、半導体装置における観察箇所(試料)に対してイオンビームを照射して溝を形成し、溝の側面にイオンビームを走査させながら照射する。この照射により発生する二次荷電粒子を二次荷電粒子検出器にて検出し、その二次荷電粒子像を画像にて観察している。しかし、イオンビームによるスパッタリング(エッチング)加工による試料の溝側面は比較的平坦であり、二次荷電粒子像による断面(溝側面)観察を行った場合、二次荷電粒子発生効率が似た材質や、非常に層が薄いとき、層の境界がはっきりと観察できないという問題があった。
【0003】
この問題を解消するために、イオンビームによる溝側面の観察前に、イオンビームにより活性化されて、試料断面の特定材質の膜に対して選択的にエッチング作用の及ぼすエッチングガスを観察断面(溝側面)に吹き付けながらイオンビームを照射する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2887407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の試料観察方法では、塩素ガスをエッチングガスとして用い、基板上の配線を多くエッチングして、その上下に形成された層間絶縁膜および保護膜との層の境界を視認できるようにしている。しかし、配線は金属である金属無機膜であり、その上下の層間絶縁膜および保護膜は有機絶縁膜である。つまり、金属無機膜と有機絶縁膜との境界は視認できるようになる。ところが、金属以外の無機絶縁膜と有機絶縁膜との境界、さらに有機絶縁膜と他の有機絶縁膜との境界は、両者が絶縁膜であり両者の断面について効率的なエッチングを行うことが困難であるため、明確に視認することができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、有機絶縁膜を含む層の境界を明確に判別可能とすることができる試料作製方法および試料作製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る試料作製方法は、有機絶縁膜と他の絶縁膜とが積層されてなる試料に対して集束イオンビームを照射して前記試料の断面を露出させる断面露出工程と、前記断面に対して水または水蒸気を供給しつつ、前記集束イオンビームを照射して前記断面の各膜が判別可能となるように処理する断面処理工程と、を有していることを特徴としている。
【0007】
このように構成することで、試料の断面に対して水または水蒸気を供給しながら集束イオンビームを照射すると、各膜と水との化学反応の違いに対応して、各膜が異なる外観を呈するようになる。したがって、有機絶縁膜を含む層の境界を明確に判別可能とすることができる。
【0008】
また、前記断面露出工程における前記集束イオンビームの強度よりも前記断面処理工程における前記集束イオンビームの強度が弱められていることを特徴としている。
このように構成することで、各膜と水との化学反応による化学的エッチングが支配的となり、各膜と水との化学反応の違いに対応して、各膜が異なる外観を呈するようになる。したがって、有機絶縁膜を含む層の境界を明確に判別可能とすることができる。
【0009】
また、前記他の絶縁膜は、有機絶縁膜であることを特徴としている。
このように構成することで、材質ごとにエッチング速度が異なるため凹凸が形成され、各膜の境界には段差が形成される。したがって、従来視認することができなかった有機絶縁膜間の境界を明確に視認することが可能となる。
【0010】
また、前記他の絶縁膜は、無機絶縁膜であることを特徴としている。
このように構成することで、有機絶縁膜はエッチングされ、無機絶縁膜は例えば酸化されるため、有機絶縁膜と無機絶縁膜との境界を明確に視認することが可能となる。
【0011】
そして、本発明に係る試料作製装置は、有機絶縁膜と他の絶縁膜とが積層されてなる試料に対して集束イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、前記試料に対して水または水蒸気を供給する水供給部と、を備え、前記試料に対して前記集束イオンビームを照射して前記試料の断面を露出可能に構成されるとともに、前記水または水蒸気を供給しつつ、前記断面に前記集束イオンビームを照射して前記断面の各膜が判別し得るように構成されていることを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、試料作製装置内で、試料の断面を露出させることができるとともに、試料の断面に凹凸などを形成して断面観察をすることができる。また、試料の断面に対して水または水蒸気を供給しながら集束イオンビームを照射すると、試料の各膜でエッチング速度が異なり、有機絶縁膜を含む層の境界を明確に視認することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る試料作製方法によれば、試料の断面に対して水または水蒸気を供給しながら集束イオンビームを照射すると、各膜と水との化学反応の違いに対応して、各膜が異なる外観を呈するようになる。したがって、有機絶縁膜を含む層の境界を明確に判別可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明に係る試料作製装置(荷電粒子ビーム装置)および試料作製方法の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0015】
(試料作製装置)
図1、図2に示すように、荷電粒子ビーム装置100は、真空室10と、イオンビーム照射部20と、電子ビーム照射部30と、試料ステージ60と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とを備えている。真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部又は全部が真空室10内に配置されている。
【0016】
イオンビーム照射部20は、イオンを発生させるイオン源21と、イオン源21から流出したイオンを集束イオンビームに成形するとともに走査させるイオン光学部22とを備えている。イオンビーム鏡筒23を備えたイオンビーム照射部20から、真空室10内に配置された試料ステージ60上の試料Waに対して荷電粒子ビームであるイオンビーム20Aが照射される。このとき、試料Waからは二次イオンや二次電子などの二次荷電粒子が発生する。この二次荷電粒子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料Waの像が取得される。また、イオンビーム照射部20は、照射範囲の試料Waをエッチング加工することも可能である。なお、イオンビーム20Aの強度は調節できるようになっている。
【0017】
イオン光学部22は、例えば、イオンビーム20Aを集束するコンデンサレンズと、イオンビーム20Aを絞り込む可動絞りと、イオンビーム20Aの光軸を調整するアライナと、イオンビーム20Aを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビーム20Aを走査する偏向器とを備えている。
【0018】
電子ビーム照射部30は、電子を放出する電子源31と、電子源31から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学部32とを備えている。電子ビーム照射部30から射出される電子ビーム30Aを試料Waに照射することによって、試料Waからは二次電子が発生するが、この発生した二次電子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料Waの像を取得する。ここで、電子ビーム鏡筒33から射出される電子ビーム30Aは、イオンビーム20Aと同一位置の試料Wa上に照射する。なお、電子ビーム照射部30を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0019】
試料ステージ60は、試料台61を移動可能に支持している。試料台61上には試料Wa(例えば半導体ウエハ等)を固定するための試料ホルダ(不図示)が設けられている。そして、試料ステージ60は、試料台61を5軸で変位させることができる。すなわち、試料台61を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構60bと、試料台61をZ軸回りに回転させるローテーション機構60cと、試料台61をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構60aとを備えて構成されている。試料ステージ60は、試料台61を5軸に変位させることで、試料Waの特定位置をイオンビーム20Aによって照射される位置に移動するようになっている。
【0020】
真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、真空室10内には試料台61と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とが設けられている。
【0021】
二次荷電粒子検出器70は、イオンビーム照射部20又は電子ビーム照射部30から試料Waへイオンビーム20A又は電子ビーム30Aが照射された際に、試料Waから発せられる二次電子や二次イオンを検出する。
【0022】
ガス銃80は、試料Waへエッチングガス等の所定のガスを放出する。そして、ガス銃80からエッチングガスを供給しながら試料Waにイオンビーム20Aを照射することで、イオンビーム20Aによる試料のエッチング速度を高めることができる。なお、本実施形態では、ガス銃80から水蒸気(HO)を供給するように構成されている。
【0023】
また、荷電粒子ビーム装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御部90を備えている。制御部90は、イオンビーム照射部20、電子ビーム照射部30、二次荷電粒子検出器70、及び試料ステージ60とそれぞれ接続されている。また、二次荷電粒子検出器70から検出される信号に基づき取得される試料映像を表示する表示装置91を備えている。
【0024】
制御部90は、荷電粒子ビーム装置100を総合的に制御するとともに、二次荷電粒子検出器70で検出された二次荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを基に画像を形成して表示装置91に出力している。これにより表示装置91は、上述したように試料の観察画像や参考画像を表示できるようになっている。
【0025】
また制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動し、試料Waの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビーム20Aの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。例えば、イオンビーム照射部20と電子ビーム照射部30との切替操作に連動して試料ステージ60を駆動し、試料Waを移動させたり、傾けることができるようになっている。
【0026】
(試料)
次に、本実施形態で使用する試料Waについて説明する。
図3に示すように、試料Waは、例えばCMOSイメージセンサーを使用する。具体的には、シリコン基板40上に配線膜42が形成され、さらに、内部レンズ膜43、カラーフィルタ膜44およびマイクロレンズ膜45が順次積層されている。ここで、内部レンズ膜43、カラーフィルタ膜44およびマイクロレンズ膜45は樹脂などの有機絶縁膜でそれぞれ形成されている。また、配線膜42は金属材料からなる金属無機膜で形成されている。
【0027】
(試料作製方法)
次に、荷電粒子ビーム装置100を用いて観察用の試料Waの作製方法について説明する。
図4に示すように、試料Waを試料台61上に配置し、試料Waの所定の加工領域(断面形成領域)に対してイオンビーム20Aを照射する。イオンビーム20Aを照射する際には、ガス銃80より水蒸気を放出している。これにより、試料Waの所定領域の表面はスパッタリングによりエッチング除去され溝51が形成される。つまり、試料Waの断面52が露出する(断面露出工程)。なお、ガス銃80から放出する水蒸気は、真空室10内の圧力が1×10−3Paになるように流量を調節し、イオンビーム20Aの強度は5000pA〜12000pAの範囲内で調節している。
【0028】
次に、図5に示すように、試料ステージ60を駆動して試料Waを傾け、断面52にイオンビーム20Aが照射され得る状態に調節する。試料Waが所望の位置に保持された状態で、再度イオンビーム20Aを照射する。イオンビーム20Aを照射する際には、ガス銃80より水蒸気をアシストガスとして放出している。また、断面52に対してイオンビーム20Aを照射する際の強度は、50pA〜200pAの範囲内で調節している。つまり、試料Waに溝51を形成する際よりもイオンビーム20Aの強度を落としている。
【0029】
このようにすることで、断面52に露出している各膜を適宜エッチングされるなどして各膜ごとに凹凸が形成される(断面処理工程)。なお、ガス銃80から放出する水蒸気は、上述と同様、真空室10内の圧力が1×10−3Paになるように流量を調節している。ここで、イオンビーム20Aの強度を落とすことにより、断面52の視認性を向上することができる。つまり、溝51を形成するのと同じ強度で断面52にイオンビーム20Aを照射すると、必要以上にエッチングされ、断面52の観察がしづらくなるため、それを回避している。
【0030】
そして、この状態で電子ビーム照射部30より電子ビーム30Aを照射し、試料Waから発生した二次電子を二次荷電粒子検出器70で検出して試料Waの像を取得する。二次荷電粒子検出器70で検出された二次荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを基に画像を形成して表示装置91に出力する。表示装置91により表示された試料Waの観察画像を図6に示す。図6に示すように、有機絶縁膜が積層された内部レンズ膜43、カラーフィルタ膜44およびマイクロレンズ膜45の境界が明確になり、各膜の状態を視認することができる。
【0031】
なお、荷電粒子ビーム装置100で観察すると、有機絶縁膜および無機絶縁膜は黒っぽく表示され、金属などの導電材料(金属無機膜)は白っぽく表示される。なお、ポリマー(有機膜)の場合は、誘電率が高いため白っぽく表示され、さらに水蒸気(HO)が供給されると、膜ごとにエッチング速度が異なるため、膜間の境界に段差が形成され、膜間の境界が視認できるようになる。したがって、有機絶縁膜が膜ごとに特徴的にエッチングされるため、有機絶縁膜−無機絶縁膜間の境界、および、有機絶縁膜−有機絶縁膜間の境界を明確に視認することができる。
【0032】
図7は、上述のアシストガスとして水蒸気ではなくフッ化キセノン(XeF)を用いて試料Waを作成し、観察した画像である。図7では、有機絶縁膜が積層された内部レンズ膜43、カラーフィルタ膜44およびマイクロレンズ膜45の境界が不明確であり、各膜の状態を視認することができない。これは、フッ化キセノンは有機絶縁膜に一般的に含有されているカーボンに対してはエッチング効果がないためである。
【0033】
本実施形態によれば、試料Waの断面52に対してガス銃80より水蒸気を供給しながらイオンビーム20Aを照射すると、試料Waの各膜と水との化学反応の違いに対応して、各膜が異なる外観を呈するようになる。したがって、各膜の境界を明確に判別することができる。
【0034】
また、断面露出工程におけるイオンビーム20Aの強度よりも断面処理工程におけるイオンビーム20Aの強度を弱くしたため、断面52に露出している各膜が余分にエッチングされるのを抑制することができる。したがって、断面処理工程後に試料Waの断面52を観察する際の視認性を向上することができる。
【0035】
さらに、ガス銃80から水蒸気を供給しながら断面52にイオンビーム20Aを照射することにより、有機絶縁膜−無機絶縁膜の境界だけでなく、有機絶縁膜−有機絶縁膜の境界も明確に視認することができる。
【0036】
そして、本実施形態によれば、荷電粒子ビーム装置100にて、試料Waの断面52を露出させることができるとともに、試料Waの断面52に凹凸を形成して断面観察をすることができる。
【0037】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、試料としてCMOSイメージセンサーを用いたが、試料はこれに限られない。
また、本実施形態では、ガス銃より水蒸気を供給するように構成したが、水を供給してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態における荷電粒子ビーム装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における荷電粒子ビーム装置の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態における試料の概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態における試料の作製方法を示す概略断面図(1)である。
【図5】本発明の実施形態における試料の作製方法を示す概略断面図(2)である。
【図6】本発明の実施形態における試料の観察画像である。
【図7】従来の方法を用いた際の試料の観察画像である。
【符号の説明】
【0039】
20…イオンビーム照射部 20A…イオンビーム(集束イオンビーム) 52…断面 80…ガス銃(水供給部) Wa…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機絶縁膜と他の絶縁膜とが積層されてなる試料に対して集束イオンビームを照射して前記試料の断面を露出させる断面露出工程と、
前記断面に対して水または水蒸気を供給しつつ、前記集束イオンビームを照射して前記断面の各膜が判別可能となるように処理する断面処理工程と、を有していることを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
前記断面露出工程における前記集束イオンビームの強度よりも前記断面処理工程における前記集束イオンビームの強度が弱められていることを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記他の絶縁膜は、有機絶縁膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
前記他の絶縁膜は、無機絶縁膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の試料作製方法。
【請求項5】
有機絶縁膜と他の絶縁膜とが積層されてなる試料に対して集束イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、
前記試料に対して水または水蒸気を供給する水供給部と、を備え、
前記試料に対して前記集束イオンビームを照射して前記試料の断面を露出可能に構成されるとともに、
前記水または水蒸気を供給しつつ、前記断面に前記集束イオンビームを照射して前記断面の各膜が判別し得るように構成されていることを特徴とする試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−66219(P2010−66219A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235050(P2008−235050)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(308028186)セイコーアイ・テクノリサーチ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】