説明

試料分析装置

【課題】複数の分析部を並置した試料分析装置において,隣の試料からの散乱光によるクロストークの影響を低減する。
【解決手段】複数の光源13〜18それぞれを異なる変調周波数で変調し,周波数分離によって所望の信号成分のみを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の測定位置で複数の試料を分析する試料分析装置に関し,試料測定信号間のクロストークを低減することのできる試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,試料中に含まれる成分量を検出する分析装置においては,試薬コストの削減や,環境への負荷低減のため,分析に用いる試料の微少量化が求められている。従来,このような検査に用いる分析装置には,ハロゲンランプ等からの白色光を試料に照射し,試料を透過してきた光を回折格子で分光して必要な波長成分を取り出し,その吸光度を割り出すことで目的の成分量を測定する分光分析装置が広く用いられてきた。しかし,ハロゲンランプ等から出射される光では,液量を減らすことにより細くなった試料に見合うだけの強度の光を得るための絞込みができず,試料の量を減らすことには限界があった。
【0003】
そこで,この問題を解決するために,液量を減らし,細くなった試料に十分な強度の光を絞り込むことが可能な,光源を使用することが考えられている。例えば,特開平8-122247号公報には,光源としてレーザ素子又はLED素子を備え,試料容器に複数波長の光を照射し,複数の波長域で吸光度を測定する分析装置が記載されている。また,特開2002-340676号公報には,複数のLEDそれぞれから,各々周波数fnで変調された発光波長λnの光が試料容器に照射され,透過光をAD変換して積算し,周波数分析することが記載されている。更に,光源として,発光ダイオード又はレーザダイオードのような複数の光源を用い,プリズムやハーフミラーなどの光学機器を用いずに,複数の光の光軸を一つに揃えるように構成し,試料容器に光を照射する方法が考えられている。
【0004】
また,試料の微少量化によるもう一つの問題は,従来の分析装置では微少量の液の取り扱いが困難であり,分注,混合時に発生する気泡等により正確な測定ができなくなるということである。
【0005】
この問題を解決する方法としては,基板に形成された電極上の液体を電気的な制御により搬送する方法を用いることが有効である(特開昭60-216324号公報,特開2004-935号公報,特開平10-267801号公報)。このように電極を形成した基板上で電圧印加する電極を切り替えることで微量液体を搬送し(このような搬送の駆動力を,以下,静電力という),分析するシステムの利点は,単一もしくは二枚の基板を利用するため,周囲が壁に囲まれた容器に比べ気泡の影響を受けにくいことや,電極に電圧を印加するだけで基板内の自由な場所で多数の液体を独立して駆動できること,また電圧を印加することにより液体の置かれる場所を指定できるため,試料や反応液がいつ測定部に到達するのかタイミングを計りやすいことなどが挙げられる。R. B. Fair, et al. Electron Devices Meeting., 2003. Vijay Srinivasan, et al. μTAS., 2003には,基板上に試料導入部,混合部,測定部,排出部を,多数の電極から形成される液体流通路で結んで分析システムを構築し,試料導入部から導入した試料を,液体流通路によって搬送し,混合部において試薬と混合して反応液とし,測定部で成分を測定後,再び同じ液体流通路を搬送し,排出部にて排出するシステムが報告されている。
【特許文献1】特開平8-122247号公報
【特許文献2】特開2002-340676号公報
【特許文献3】特開昭60-216324号公報
【特許文献4】特開2004-935号公報
【特許文献5】特開平10-267801号公報
【非特許文献1】R. B. Fair, et al. Electron Devices Meeting., 2003. Vijay Srinivasan, et al. μTAS., 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スループットの向上を計るために,光源,試料保持部,検出器からなる測定部を複数並べて設置し測定すると,出射した光が試料を通過する際に生じる散乱によって,迷光が両隣の検出器へ入射する現象(以下,クロストークという)が起こる。迷光を検出すると測定誤差が生じるため,迷光の検出は避けなければならない。
【0007】
本発明は,測定部を複数並べて設置しながら,隣の試料で散乱された迷光,すなわちクロストークの影響を受けずに,個々の測定部の試料を高精度に分析することのできる試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では,上記問題を解決するために,大きく分けて以下の2方式を採用した。
(1) 測定部は,発光波長の異なる少なくとも2種類の光源,試料保持部,検出器を備え,光源からの光は試料の光の透過方向の長さの概略1/2の位置で,その出力光軸が交差するように設置され,かつ,それぞれ異なる変調周波数で変調された光を出射する。更に,測定部は複数近接して設けられており,クロストークが発生する範囲内に位置する光源はそれぞれ異なる変調周波数で変調された光を出射する。この構成により,少なくとも2種類の波長の光が同じ濃度の経路を通過するため,測定精度が安定し,それぞれの波長の光が異なる変調周波数で変調されているため,測定部が複数近接して設けられていても,周波数分離回路によりクロストークを分離し除去することが可能である。
(2) 上記構成において,近接して設けられた複数の測定部において,それぞれの光源ごとに異なる変調周波数で変調された光を出射する代わりに,それぞれの測定部ごとに順次時間差をおいて光を出射する。この構成により,測定精度を安定したうえで,それぞれの測定部が順次時間差をおいて光を出射するため,測定部が複数近接して設けられていても,時間差によりクロストークを分離し除去することが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,微少量の試料を,高スループットにクロストークの影響なく測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。以下の説明で,パッケージ内に納められている光源は,好ましくはレーザダイオードやLED等の半導体光源である。
【実施例1】
【0011】
異なる変調周波数で変調された光を試料に照射して,周波数分離回路よりにクロストークを分離し除去する試料分析装置の例について説明する。本実施例では,試料として血清を用い,複数の測定部の試料保持部にそれぞれ保持されている試料に対し,各々の測定部の光源より光を水平方向に出射し,各々の測定部の検出器において透過光量を測定し,各々の測定部において試料の濁度を測定した。
【0012】
はじめに光学系について説明する。図1は,本実施例の試料分析装置を上部から見た構成を示す図である。図1には測定部が3個図示されているが,測定部の数に制限があるわけではない。本実施例では,測定部の数透明な樹脂等から成るパッケージ25の内部に,波長λ1の光線19を発する光源13と,波長λ2の光線20を出射する光源14が納められている。ここでパッケージ25内における光源13,14は,便宜上,水平方向に並べて図示されているが,実際は垂直方向に並んで配置されている。
【0013】
光源13は駆動回路7によって変調周波数f1で駆動され,光源14は駆動回路8によって変調周波数f2で駆動される。光源13から出射された変調周波数f1,波長λ1の光線19と,光源14から出射された変調周波数f2,波長λ2の光線20は,試料保持部28中に保持されている試料31に水平方向に出射し,検出器パッケージ34に収められた検出器37に照射され,検出される。この時,光源13と光源14の位置は,光線19と光線20が,試料31の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し,検出器37に照射されるように調整され,パッケージ25に収められている。ここで,概略1/2とは,完全な中心点ではなく,中心から設計誤差の範囲でずれた位置で交差しても良いことを表している。
【0014】
透明な樹脂等から成るパッケージ26の内部には,波長λ1の光線21を発する光源15と,波長λ2の光線22を出射する光源16が納められている。光源15は駆動回路9によって変調周波数f3で駆動され,光源16は駆動回路10によって変調周波数f4で駆動される。また,透明な樹脂等から成るパッケージ27の内部には,波長λ1の光線23を発する光源17と,波長λ2の光線24を出射する光源18が納められている。光源17は駆動回路11によって変調周波数f5で駆動され,光源18は駆動回路12によって変調周波数f6で駆動される。
【0015】
パッケージ26内の光源15から出射された変調周波数f3,波長λ1の光線21と,光源16から出射された変調周波数f4,波長λ2の光線22は,試料保持部29中に保持されている試料32を透過した後,検出器パッケージ35に収められた検出器38で検出される。また,パッケージ27内の光源17から出射された変調周波数f5,波長λ1の光線23と,光源18から出射された変調周波数f6,波長λ2の光線24は,試料保持部30中に保持されている試料33に照射され,検出器パッケージ36に収められた検出器39で検出される。光線21と光線22は,試料32の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差するように設定されており,光線23と光線24は,試料33の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差するように設定されている。
【0016】
通常,試料に光を照射して分析する場合,2種類の光が同じ濃度のところを通過しなければ測定精度に悪影響が現れる。図2は,試料保持部28の拡大図である。図2には,試料31を通過する波長λ1の光線19と波長λ2の光線20の,水平軸に対する角度αを誇張して示す。試料31の濃度は左右には対称(水平方向に対称)であり,比重の違いにより濃度の濃い部分が下方に移動し,濃度の薄い部分が上方に移動している。光源13から出射された波長λ1の光線19は左下から右上に,また光源14から出射された波長λ2の光線20は左上から右下に,つまり,光線19は試料の濃度の濃い部分から入射し,濃度の薄い方向に,光線20は,試料の濃度の薄い部分から入射し,濃度の濃い方向に,同じく水平軸に対してわずかな角度αをもって通過している。このため,2種類の光が,試料の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し,検出器に照射されるようにする事により,2種類の光が透過する経路が違っても,波長λ1の光線19と波長λ2の光線20は同じ濃度の部分を違う向きから透過することになり,濃度の影響を受けにくく,ばらつきの少ない測定が可能になる。
【0017】
次に,検出系について説明する。図1に示すように,検出器37は,試料31等で減衰されかつ合成された,波長λ1,変調周波数f1の光線19,及び,波長λ2,変調周波数f2の光線20を電気信号に変換して出力する。検出器37から出力された信号は,周波数f1と周波数f2が合成されており,いったんアンプ40で増幅された後,FFT若しくはBPF等から構成される周波数分離回路45により,周波数f1と周波数f2の各周波数成分に分離される。周波数分離回路45により分離された周波数f1の信号と周波数f2の信号はアナログ信号であるため,周波数f1の信号をA/Dコンバータ48で,周波数f2の信号をA/Dコンバータ49でデジタル信号に変換し,データ処理装置54に送る。
【0018】
周波数分離回路45により分離された信号のうち,周波数f1の信号には波長λ1の情報が含まれており,波長λ1の光線19が試料31等でどれ位減衰されたかを比較することができる。同様に,周波数分離回路45により分離された周波数f2の信号には,波長λ2の情報が含まれており,波長λ2の光線20が試料31等でどれ位減衰されたかを比較することができる。この時,減衰量の比較対照は,試料保持部28中に試料31が入っていない場合での測定データ若しくは純水等の基準となる試料での測定データである。また,光源15から出射した波長λ1,変調周波数f3の光線21,光源16から出射した波長λ2,変調周波数f4の光線22,光源17から出射した波長λ1,変調周波数f5の光線23,あるいは光源18から出射した波長λ2,変調周波数f6の光線24が,試料に照射された際に生じた散乱の影響によって,検出器37に迷光として入射したとしても,周波数分離回路45によって信号を分離することが可能である。
【0019】
以上の処理をデータ処理装置54で行い,波長λ1の光線19の減衰量と波長λ2の光線20の減衰量を比較することで,試料31に含まれる目的の成分量を検出することができる。
【0020】
同様に,検出器38の出力は,アンプ41で増幅された後,周波数分離回路46により周波数f3と周波数f4の各周波数成分に分離され,それぞれA/Dコンバータ50,51でデジタル信号に変換され,データ処理装置55に送られる。データ処理装置55は,波長λ1の光線21の減衰量と波長λ2の光線22の減衰量とを比較することで,試料32に含まれる目的の成分量を検出する。また,検出器39の出力は,アンプ42で増幅された後,周波数分離回路47により周波数f5と周波数f6の各周波数成分に分離され,それぞれA/Dコンバータ52,53でデジタル信号に変換され,データ処理装置56に送られる。データ処理装置56は,波長λ1の光線23の減衰量と波長λ2の光線24の減衰量を比較することで,試料33に含まれる目的の成分量を検出する。
【0021】
このように,2つ以上の光源を格納したパッケージ,試料保持部,検出器からなる測定部が複数並べられて,各測定部で試料保持部に光を水平方向に照射し,検出器で測定する場合,光源ごとに全て異なる変調周波数を印加して検出器に受けた光の情報を,周波数分離回路を用いて分離して必要な波長成分を取り出し,その吸光度を割り出すことで目的の成分量を測定することが可能な分析装置を構成できる。
【0022】
なお,並べられた測定部の各パッケージ内部に納められている光源の発光波長の組合せは全て同一である。
【0023】
また,このときに,例えばパッケージ25の内部に納められている光源13,14の光線19,20による迷光が受光される範囲の測定部の光源には,光源ごとに全て異なる変調周波数を印加し,それ以遠のパッケージの光源には,パッケージ25からその範囲までの変調周波数の組合せを繰り返し適用しても良い。試料容器内の光路は,試料表面の表面張力のある箇所や容器の底部など,検出に悪影響を及ぼす箇所を避けて設定する。
【実施例2】
【0024】
別の測定部に属する波長の同じ光源を同一の変調周波数で変調し,隣接する測定部の光源から時間差で光を出射することによりクロストークの影響を低減する試料分析装置の例について説明する。本実施例では,試料として血清を用い,複数の試料保持部に保持されている試料に対し,各々の光源より光を水平方向に照射し,各々の検出器において透過光量を測定し,試料の濁度を測定した。
【0025】
図3は,本実施例の試料分析装置を部から見た構成を示す図である。パッケージ内の光源は,図1と同様に便宜上,水平方向に並べて図示しているが,実際は垂直方向に並んで配置されている。また,図3には3個の測定部が図示されているが,測定部の数に制限があるわけではない。透明な樹脂等から成るパッケージ25の内部には,波長λ1の光線19を発生する光源13と,波長λ2の光線20を発生する光源14が納められている。同様に,透明な樹脂等から成るパッケージ76の内部には,波長λ1の光線72を発生する光源68と,波長λ2の光線73を発生する光源69が納められ,透明な樹脂等から成るパッケージ77の内部には,波長λ1の光線74を発生する光源70と,波長λ2の光線75を発生する光源71が納められている。波長λ1の光を発生する光源13,68,70は,それぞれ駆動回路7,64,66によって変調周波数f1で駆動され,波長λ2の光を発生する光源14,69,71は,それぞれ駆動回路8,65,67によって変調周波数f2で駆動される。
【0026】
パッケージ25内の光源13,14の組,パッケージ76内の光源68,69の組,及びパッケージ77内の光源70,71の組は,それぞれの組が同時に発光することなく,図4のLED出射のタイミングチャートに示すように,相互に時間的なずれをもって発光する。光線19と光線20は,試料31の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差するように設定されており,光線72と光線73は,試料32の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差するように設定されており,光線74と光線75は,試料33の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差するように設定されている。
【0027】
信号処理回路の構成は,実施例1と同じである。ただし,本実施例では,図5のデータ検出のタイミングチャートに示すように,データ処理装置54は,光源13,14が発光した時間に得られたデジタル信号のみを測定データとして採用する。同様に,データ処理装置55は,光源68,69が発光した時間に得られたデジタル信号のみを測定データとして採用し,データ処理装置56は,光源70,71が発光した時間に得られたデジタル信号のみを各々測定データとして採用することにより,クロストークの影響を低減することが可能となる。
【0028】
また,例えばパッケージ25の内部に納められている光源13,14の光線19,20による迷光が受光される範囲の測定部の光源は,パッケージ単位で順次時間差で光を出射し,それ以遠の測定部の光源には,パッケージ25からのその範囲までの,各測定部での光源の出射時間のパターンを繰り返しても良い。なお,本実施例における時間差による光の出射方法は,実施例1においても適応が可能である。
【実施例3】
【0029】
基板に形成された電極上で試料が保持及び搬送される機構を用いて,異なる変調周波数で変調された光を試料に垂直方向に照射して,周波数分離回路よりクロストークを分離し除去する試料分析装置の例について説明する。本実施例では,試料として血清を用い,基板上で電気的な制御により複数の試料の保持と搬送を行って,測定部において透過光量を測定し,試料の濁度を測定した。
【0030】
図6を用いて,本実施例における試料や試薬などの液体の搬送方法を説明する。図6では第1の電極の数を6個にしているが,電極の数が制限されているわけではない。図6(1)〜図6(12)は,液体の搬送手順を時系列で示している。複数存在する第1の電極80〜85は,それぞれ複数のスイッチ88〜93を介して電源94に接続されており,電源94の対極側は第2の電極86に接続されている。
【0031】
図6(1)において,導入口87の上部には,試料や試薬などの液体95を吸引したディスペンサ96が待機している。図6(2)において,ディスペンサ96の先端部分が導入口87から上部基板100と下部基板101の間の空間104内に入り,導入口87の下に配置されている第1の電極80のわずかに上で停止する。具体的には,ディスペンサ96の先端部分が第1の電極80の上部に位置する撥水膜の近傍に位置し,かつ撥水膜に接しない程度の位置で停止する。同時に第1の電極80に接続されたスイッチ88が閉になり,第1の電極80と第2の電極86との間に電圧が印加される。
【0032】
図6(3)において,ディスペンサ96内の液体95を吐出すると,液体95は第1の電極80と第2の電極86との間に静電力で保持され,粒状の液体105となる。粒状の液体105は,上部基板100と下部基板101の間に挟まれた状態で保持されているため,つぶされた形状になっている。図6(4)において,ディスペンサ96を退避する。図6(5)〜図6(9)において,スイッチ88〜93を左から右方向に順次開閉を切り替えることによって,電圧が印加される第1の電極80〜85が,左から右方向に順次切り替わり,粒状の液体105は第1の電極80の位置から排出口106の下に配置されている第1の電極85の位置まで搬送される。電圧の印加のタイミングチャートを図23に示す。
【0033】
図6(10)において,待機していた,粒状の液体105を吸引するためのディスペンサ107の先端部分が,排出口106から上部基盤100と下部基板101の間の空間104に入り,排出口104の下に配置されている第1の電極85のわずかに上で停止する。具体的には,ディスペンサ107の先端部分が第1の電極85の上部に位置する撥水膜の近傍に位置し,かつ撥水膜に接しない程度の位置で停止する。同時に,第1の電極85に接続されたスイッチ93が開になり,第1の電極85と第2の電極86との間に印加されていた電圧が解除される。図6(11)において,第1の電極85上の粒状の液体105がディスペンサ107により廃液108として吸引される。図6(12)において,ディスペンサ107が退避し,液体搬送が終了する。
【0034】
次に,前述の液体搬送基板に保持されている試料中に含まれる成分量を検出する方法を,図7を用いて説明する。図7は,図6に示した複数の第1の電極80〜83を含む液体搬送基板と電極82上に形成された測定部110の周辺を示す図である。測定部110の第1の電極82上には,前述の液体搬送手順により,試料である粒状の液体105が導入されている状態を示している。液体搬送基板外部には,波長λ1の光線19を出射する光源13と,波長λ2の光線20を出射する光源14と,測定部110の電極を介して透過してきた光を受光して電気信号に変換する検出器37が配置されている。前述のように,波長λ1の光線19の減衰量と波長λ2の光線20の減衰量を比較することで,粒状の液体105内の目的成分の量を検出することができる。尚,粒状の液体に照射する光の波長の種類はλ1及びλ2に限定されているわけではない。
【0035】
図8は,図7に示した検出方法を用いた本実施例の試料分析装置の断面構成を示す図である。
【0036】
光学系及び検出系は実施例1と同じである。本実施例では,試料と試薬とを混合した液体が測定開始部より導入口87より30秒おきに供給されて,10秒おきにとなりの電極へ移動している。このため,各測定部には30秒ごとに液体が搬送される。本実施例では,連続して順次分析処理することによって短時間で多数の測定を終えることが可能なレート検出を用いている。そのため,測定部では液体が搬送される30秒ごとに,光源より光を液体に照射し,検出した。本実施例では検出にレート検出を用いたが,エンドポイント検出等他の検出方法を用いることも可能である。また,図8には測定部が3箇所図示されているが,測定部の数に制限があるわけではない。
【0037】
測定開始点にある透明な樹脂等から成るパッケージ25の内部には,波長λ1の光線19を発する光源13と,波長λ2の光線20を出射する光源14が納められている。光源13は駆動回路7によって変調周波数f1で駆動され,光源14は駆動回路8によって変調周波数f2で駆動される。光源13から出射された変調周波数f1,波長λ1の光線19と,光源14から出射された変調周波数f2,波長λ2の光線20は,第2の電極86を形成した上部基板100と第1の電極80〜85,190を形成した下部基板101に対して垂直方向に出射し,その間に収められた試料31を透過し,検出器パッケージ34に収められた検出37に照射され,検出される。この時,光源13と光源14の位置は,光線19と光線20が,試料31の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し,検出器37に照射されるように調整され,パッケージ25に収められている。概略1/2とは,完全な中心点ではなく,中心から設計誤差の範囲でずれた位置で交差しても良い。
【0038】
透明な樹脂等から成るパッケージ26の内部には,波長λ1の光線21を発する光源15と,波長λ2の光線22を出射する光源16が納められている。光源15は駆動回路9によって変調周波数f3で駆動され,光源16は駆動回路10によって変調周波数f4で駆動される。光源15から出射された変調周波数f3,波長λ1の光線21と,光源16から出射された変調周波数f4,波長λ2の光線22は,電極を形成した上部基板100と下部基板101に対して垂直方向に出射し,その間に収められた試料32を透過し,検出器パッケージ35に収められた検出器38に照射され,検出される。光源15と光源16の位置は,光線21と光線22が,試料32の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し,検出器38に照射されるように調整され,パッケージ26に収められている。
【0039】
透明な樹脂等から成るパッケージ27の内部には,波長λ1の光線23を発する光源17と,波長λ2の光線24を出射する光源18が納められている。光源17は駆動回路11によって変調周波数f5で駆動され,光源18は駆動回路12によって変調周波数f6で駆動される。光源17から出射された変調周波数f5,波長λ1の光線23と,光源18から出射された変調周波数f6,波長λ2の光線24は,電極を形成した上部基板100と下部基板101に対して垂直方向に出射し,その間に収められた試料33を透過し,検出器パッケージ36に収められた検出器39に照射され,検出される。光源17と光源18の位置は,光線23と光線24が,試料33の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し,検出器39に照射されるように調整され,パッケージ27に収められている。
【0040】
図9,図10は本実施例による試料保持部を用いた場合の液体の形状を示す説明図である。図9は平面方向から見た液体の形状を示す模式図であり,図10は図9のaa断面を示す模式図である。通常,本実施例の液体の搬送方法を用いると,図9に示した試料31のように,試料搬送方向に試料が移動するときの衝撃から溶液が撹拌されると,例えば,白い領域は試料,点の領域は試薬といったような濃度勾配が生じる。このような試料に対して図10に示すように光を垂直方向に照射して分析する場合,2種類の波長の光が同じ濃度のところを通過しなければ測定精度に悪影響が現れる。しかし,前述のように,波長λ1の光線19と波長λ2の光20が,試料の,光の透過方向長さの概略1/2の位置で交差し検出器に照射されるようにする事により,2種類の波長の光が透過する経路が違っても,濃度の影響を受けにくく,ばらつきの少ない計測が可能になる。
【0041】
図8に示すように,検出器37から出力された信号は,周波数f1と周波数f2が合成されており,いったんアンプ40で増幅された後,FFT若しくはBPF等から構成される周波数分離回路45により,周波数f1と周波数f2の各周波数成分に分離される。周波数分離回路45により分離された周波数f1の信号と周波数f2の信号は,それぞれA/Dコンバータ48,49でデジタル信号に変換し,データ処理装置54に送る。
【0042】
周波数分離回路45により分離された信号のうち,周波数f1の信号には波長λ1の情報が含まれており,波長λ1の光線19が前記試料31等でどれ位減衰されたかを比較することができる。同様に,周波数分離回路45により分離された周波数f2の信号には,波長λ2の情報が含まれており,波長λ2の光線20が試料31等でどれ位減衰されたかを比較することができる。この時,減衰量の比較対照は,上部基板100と下部基板101の間に試料31が入っていない場合での測定データ若しくは純水等の基準となる試料での測定データである。また,光源15から出射した波長λ1,変調周波数f3の光線21,光源16から出射した波長λ2,変調周波数f4の光線22,光源17から出射した波長λ1,変調周波数f5の光線23,光源18から出射した波長λ2,変調周波数f6の光線24が,試料に照射された際に生じた散乱の影響によって,検出器37に迷光として入射したとしても,周波数分離回路45によって信号を分離することが可能である。
【0043】
以上の処理をデータ処理装置54で行い,波長λ1の光線19の減衰量と波長λ2の光線20の減衰量を比較することで,試料31に含まれる目的の成分量を検出することができる。
【0044】
検出器38から出力された信号は,アンプ41で増幅された後,周波数分離回路46により,周波数f3と周波数f4の各周波数成分に分離され,A/Dコンバータ50,51でデジタル信号に変換し,データ処理装置55に送られる。周波数分離回路46により分離された信号のうち,周波数f3の信号には波長λ1の情報が入っており,周波数f4の信号には波長λ2の情報が入っている。データ処理装置55で,波長λ1の光線21の減衰量と波長λ2の光線22の減衰量を比較することで,試料32に含まれる目的の成分量を検出することができる。
【0045】
検出器39から出力された信号は,アンプ42で増幅された後,周波数分離回路47により,周波数f5と周波数f6の各周波数成分に分離され,A/Dコンバータ52,53でデジタル信号に変換し,データ処理装置56に送られる。周波数分離回路47により分離された信号のうち,周波数f5の信号には波長λ1の情報が入っており,周波数f6の信号には波長λ2の情報が入っている。データ処理装置56で,波長λ1の光線23の減衰量と波長λ2の光線24の減衰量を比較することで,試料33に含まれる目的の成分量を検出することができる。
【0046】
図11に,例として試料31を各測定部で検出したときの,データ処理装置54,55,56に入力される信号を吸光度に変換した図を示す。データ処理装置55,56では,測定開始部に配置されたデータ処理装置54から時間の遅れをもって検出しているために,吸光度の値がデータ処理装置ごとに変化しており,試料ごとに経時変化を検出することが可能となる。
【0047】
このように,2つ以上の光源を所有したパッケージ,基板上に形成された電極上の試料保持部,検出器からなる測定部が複数並べられて,各々で試料保持部に垂直方向に光を照射して検出器で測定する場合でも,光源ごとに全て異なる変調周波数を印加して,検出器に受けた光の情報を周波数分離回路を用いて分離して必要な波長成分を取り出し,その吸光度を割り出すことで目的の成分量を測定することが可能な分析装置を構成できる。
【0048】
なお,並べられた測定部の各パッケージ内部に納められている光源の発光波長の組合せは全て同一である。
【0049】
また,このときに測定開始点であるパッケージ25の内部に納められている光源13,14の光線19,20による迷光が受光される範囲の測定部の光源には,光源ごとに全て異なる変調周波数を印加し,それ以遠の測定部の光源には,測定開始点のからその範囲までの変調周波数の組合せを繰り返し適用しても良い。試料内の光路について,試料表面の表面張力のある箇所など,検出に悪影響を及ぼす箇所を避けると良い。
【実施例4】
【0050】
各パッケージ内部に納められている光源の組合せが同一である複数の測定部の光源を1つの光源群と定義し,光源群が複数存在する場合,異なる変調周波数で変調された光を試料に照射して,周波数分離回路によりクロストークを分離し除去する試料分析装置の例について説明する。図12は,3つの光源群1,2,3を有する試料分析装置を上部から見た構成を示している。本実施例は,基板上で電気的な制御により複数の試料を保持,及び搬送が可能な試料保持部を用い,光源より試料及び検出器に垂直方向へ光を照射する実施例3記載の測定部を用いたが,構成はこの限りではない。
【0051】
光源群1は,測定開始部から順に,波長λ1で変調周波数f1の光を発する光源13と,波長λ2で変調周波数f2の光を出射する光源14を内部に納めた透明な樹脂等から成るパッケージ25,波長λ1で変調周波数f3の光を発する光源15と,波長λ2で変調周波数f4の光を出射する光源16を内部に納めたパッケージ26,波長λ1で変調周波数f5の光を発する光源17と,波長λ2で変調周波数f6の光を出射する光源18を内部に納めたパッケージ27,波長λ1で変調周波数f7の光を発する光源120と,波長λ2で変調周波数f8の光を出射する光源121を内部に納めたパッケージ138が,下部基板101上に形成された電極147,148,149,150上に順に設置されている。
【0052】
光源群2は,光源群1,3と異なる波長の光源を使用している。測定開始部から順に,波長λ3で変調周波数f9の光を発する光源122と,波長λ4で変調周波数f10の光を出射する光源123を内部に納めた透明な樹脂等から成るパッケージ139,波長λ3で変調周波数f11の光を発する光源124と,波長λ4で変調周波数f12の光を出射する光源125を内部に納めたパッケージ140,波長λ3で変調周波数f13の光を発する光源126と,波長λ4で変調周波数f14の光を出射する光源127を内部に納めたパッケージ141,波長λ3で変調周波数f15の光を発する光源128と,波長λ4で変調周波数f16の光を出射する光源129を内部に納めたパッケージ142が,下部基板101上に形成された電極151,152,153,154上に順に設置されている。
【0053】
同様に光源群3は,光源群1,2と異なる波長の光源を使用している。測定開始部から順に,波長λ5で変調周波数f17の光を発する光源130と,波長λ6で変調周波数f18の光を出射する光源131を内部に納めた透明な樹脂等から成るパッケージ143,波長λ5で変調周波数f19の光を発する光源132と,波長λ6で変調周波数f20の光を出射する光源133を内部に納めたパッケージ144,波長λ5で変調周波数f21の光を発する光源134と,波長λ6で変調周波数f22の光を出射する光源135を内部に納めたパッケージ145,波長λ5で変調周波数f23の光を発する光源136と,波長λ6で変調周波数f24の光を出射する光源137を内部に納めたパッケージ146が,下部基板101上に形成された電極155,156,157,158上に順に設置されている。
【0054】
各光源群において,試料は,上部基板100と下部基板101の間を各電極に順次電圧が印加されて生じる静電力により搬送又は保持される。本実施例では,各電極上で保持された試料にそれぞれ変調周波数の異なる光を出射しているため,光源群内及び光源群間でのクロストークの影響を回避して,それぞれの測定部で目的の成分量を測定することができる。すなわち,各測定部では,必要な波長成分の情報を,周波数分離回路を用いて検出器の出力から分離して取り出し,その吸光度を割り出すことで目的の成分量を測定する。
【0055】
本実施例で用いた光源群各々の波長は全て異なるが,同一波長の組合せの光源群を複数用いることも可能である。
【0056】
また,光源群内で,測定開始部である前記パッケージ25の内部に納められている光源13の光線19及び光源14の光線20による迷光が受光される範囲の測定部の光源には,波長の異なる光源ごとに全て異なる変調周波数を印加し,それ以遠の測定部の光源には,パッケージ25からその範囲までの変調周波数の組合せを繰り返し適用してもよい。更に,各光源群間でもクロストークの影響が見られない場合,光源群間で変調周波数の組合せ及び繰り返し範囲を同一にすることも可能である。
【実施例5】
【0057】
基板上で電気的な制御により複数の試料を保持,及び搬送が可能な試料保持部を用い,光源より試料及び検出器に垂直方向へ光を照射する試料分析装置において,実施例2に示したように,各測定部の同じ波長の光源を同一の変調周波数で変調し,測定部間に時間差を持たせて光を出射することにより,クロストークの影響を低減する例について説明する。本実施例は,基板上で電気的な制御により複数の試料を保持,及び搬送が可能な試料保持部を用い,光源より試料及び検出器に垂直方向へ光を照射する実施例3記載の測定部を用いたが,測定部の構成はこの限りではない。
【0058】
図13は,本実施例の試料分析装置を上部から見た構成図である。測定開始点にある透明な樹脂等から成るパッケージ25の内部には,波長λ1の光線19を発生する光源13と,波長λ2の光線20を発生する光源14が納められている。光源13は駆動回路7によって変調周波数f1で駆動され,光源14は駆動回路8によって変調周波数f2で駆動される。透明な樹脂等から成るパッケージ76の内部には,波長λ1の光線72を発する光源68と,波長λ2の光線73を出射する光源69が納められている。光源68は駆動回路64によって変調周波数f1で駆動され,光源69は駆動回路65によって変調周波数f2で駆動される。透明な樹脂等から成るパッケージ77の内部には,波長λ1の光線74を発する光源70と,波長λ2の光線75を出射する光源71が納められている。光源70は駆動回路66によって変調周波数f1で駆動され,光源71は駆動回路67によって変調周波数f2で駆動される。
【0059】
各試料は,測定開始部より30秒おきに供給されて,10秒かけてとなりの電極へ移動している。図14に試料移送のタイミングチャートを示す。実際に試料が隣の電極へ移動するのにかかる時間は1秒程度であるため,測定にかけることが可能な時間は約9秒ほどである。この約9秒の間に,パッケージ25,76,77内の光源13,68,70から出射された波長λ1で変調周波数f1の光線19,72,74と,光源14,69,71から出射された波長λ2で変調周波数f2の光線20,73,75が,電極86が形成された上部基板100と電極80〜85,190が形成された下部基板101の間に保持されている試料31,32,33に対して順次時間差をおいて垂直方向に照射される。測定部に液体が保持されている約9秒での出射及びデータ検出のタイミングチャートを図15に示す。電極80が形成された測定部のデータ処理装置54では,図15に示すように光源13,14から波長λ1と波長λ2の光を出射し,データ検出時間に得られたデジタル信号のみを測定データとして採用する。同様に,電極82が形成された測定部のデータ処理装置55では,光源68,69から波長λ1と波長λ2の光を出射し,データ検出時間に得られたデジタル信号のみを測定データとして採用し,電極190に形成された測定部のデータ処理装置56では,光源70,71から波長λ1と波長λ2の光を出射し,データ検出時間に得られたデジタル信号のみを各々測定データとして採用することにより,クロストークの影響を低減して測定を行うことが可能となる。
【0060】
本実施例は,実施例4に示したように複数の光源群が存在する場合にも,パッケージごとに光源の出射時間をずらすことによって適応することが可能である。
【0061】
また,光源群内において,パッケージ25の内部に納められている光源13,14の光線19,20による迷光が受光される範囲内の測定部の光源は,パッケージ単位で順次時間差で光を出射し,それ以遠の測定部の光源には,パッケージ25からのその範囲までの,各測定部での光源の出射時間のパターンを繰り返しても良い。光源群間でも,光源群間で繰り返し範囲を同一にすることも可能である。更に,各光源群間で光源の波長が異なる場合には,光源群間で出射時間及び繰り返し範囲を同一にしてもよい。
【実施例6】
【0062】
実施例1から5は,出射した光がほとんど広がらない,例えば半導体レーザ等を光源にした場合の例である。しかし,光源が例えば発光ダイオード等の場合,素子から出射された光は広がってしまうため,試料が少ない場合には絞り込むことが必要となる。
【0063】
図16は,光源として発光ダイオードを用いた場合の実施例を示す図である。波長λ1の光19を発する光源13と波長λ2の光20を発する光源14は,透明な樹脂等から成るパッケージ25の内部に納められている。パッケージ25の,光が出射する先端部分は,内部光源から照射される光が概略平行光になるように凸型のレンズ形状に成型されているため,パッケージ25内の光源13と光源14から出射された波長λ1の光19と波長λ2の光20は,パッケージ25内から太く広げられた概略平行光に成形されて出射する。
【0064】
太く広げられて概略平行光に成形された波長λ1の光19と波長λ2の光20は,レンズ159により試料31の,光の透過方向長さの概略1/2の位置に絞り込まれ,再度広がりながら試料31内部を透過し,検出器37に照射される。この時,波長λ1の光線19と波長λ2の光線20は,実施例1から6と同様に,2種類の光が透過する経路の違いによる濃度の影響を受けることは無い。
【実施例7】
【0065】
本発明では,例えば図1に示す光源13,15,17と光源14,16,18から出射される光の中心波長,あるいは,最も成分量の多い波長は,概略340,405,415,450,480,505,546,570,600,660,700,750,800 (単位はnm) の13種類から選択した2種類の異なる波長を組合せて用いる。これらの波長の組合せを用いることで,生化学自動分析装置に於いては,使用する試薬のプロトコルを変えることなく,現在測定可能な検査項目を網羅することが可能である。また,それらの組合せの中でも,一方の波長が340nmの紫外線である組合せが一番多い。その理由は,340nmともう一種類の波長を用いるのに適した検査項目や,検査用の試薬が多いためであり,一方の波長に紫外線を選択することは非常に重要である。
【実施例8】
【0066】
実施例3,4,5で示した試料保持部の構成を変更した種々の実施例について説明する。本実施例では,試料をオイル滴で取り囲んで試料の保持及び搬送を行った。液体の搬送方法は実施例3と同様である。尚,本実施例に用いた第1の電極及び第2の電極への印加電圧は数ボルト程度である。
【0067】
図17に,一実施例における試料保持部184の断面構成図を示す。試料保持部184は下部基板182及び上部基板183から構成されている。下部基板182では絶縁性基板165の上表面に,試料160,161の搬送方向に沿って第1の電極167〜170が形成され,更にその表面は絶縁膜180で覆われている。上部基板183では絶縁性基板166の下表面に1つの第2の電極171が形成され,更にその表面は絶縁膜181で覆われている。更にそれぞれの絶縁膜181の表面には液体が搬送しやすいよう,撥水性を付与するため表面に撥水膜185,186が塗布されている。これらの二つの基板間に,搬送する試料160,161を配置し,その周囲をオイル滴162,163で取り囲む。オイル滴162,163の周囲には空気164が存在する。
【0068】
本実施例では絶縁性基板165,166に石英を,第1の電極167〜170及び第2の電極171〜175にITO(Indium-Tin Oxide)を,絶縁膜180,181にCVD(Chemical Vapor Deposition)で成膜したSiO2を用い,撥水膜として旭硝子社製CYTOP(登録商標)を用いた。ITOの厚みは70nmとし,CVDで成膜した絶縁膜180の厚みは200nmとした。また下部基板182と上部基板183の間の距離は0.5mmとした。また試料160,161として試料として血清を,オイル滴162,163としてシリコーンオイルを用い,液量はそれぞれ5μLとした。下部基板182と上部基板183の間にオイル滴162,163で取り囲まれた液体を設置することにより,オイルの蒸発防止効果が高まり,また,オイルが重力で引かれて液体から分離することを回避することができる。なお,本実施例では試料をオイル滴で取り囲み,オイル滴の周囲には空気が存在する構成としたが,図22に示すように,上部基板183と下部基板182との間をオイル162で満たし,当該オイルの中に試料の液滴が配置されるようにしてもよい。この場合にはオイルの配置制御が容易に行なうことができる。
【0069】
また本実施例では第2の電極171は1つとしたが,図18のように上部基板183に複数の第2の電極172〜175を配置してもよい。この場合には,搬送の際に液体の位置精度を高める効果がある。また本実施例では第1の電極167〜170及び,第2の電極171〜175をそれぞれ絶縁膜180,181で覆ったが,図19のように第1の電極167〜170の表面を絶縁膜180で覆い,第2の電極171表面に絶縁膜181がなくともよい。この場合には,簡単な構成とすることができる。更に第2の電極171表面に撥水膜186がコーティングされていなくともよい。この場合には,より簡単な構成とすることができる。
【0070】
また,図20のように,下部基板182の第1の電極167〜170の間に第2の電極172〜174を形成するなど,上部基板183表面に第2の電極171を形成せず,下部基板182に複数の電極を設けておき,この複数の電極のいずれかを第1の電極167〜170とし,別のいずれかを第2の電極172〜174とすることもできる。この場合には,上部基板に電極を成膜する必要がないので,より簡単な構成となる。更に上部基板183の絶縁性基板166表面に撥水膜がコーティングされていなくともよい。この場合には,より簡単な構成にできる。また図21のように上部基板183を設けず,下部基板182のみの構成でも試料の保持及び搬送が可能となる。この場合は更に簡易な構成となる。
【0071】
以下に,本発明の態様を列挙する。
(1)出力波長の異なる少なくとも2種類の半導体光源、資料保持部、検出器からなる測定部であり、少なくとも2種類の半導体光源はそれぞれ異なる変調周波数で強弱を与えられた光を出射する測定部であり、複数近接して設けられた測定部の光源は、測定部ごとに異なる変調周波数で強弱を与えられた光を出射することを特徴とする試料分析装置。
(2)前記複数近接して設けられた測定部は,はじめから一定数までの範囲において測定部ごとに異なる変調周波数で強弱を与えられた光を出射する光源を持つ直列方向のグループ配列とし、そのグループ配列を直列方向に複数配列したことを特徴とする(1)に記載の試料分析装置。
(3)前記グループ配列を並列方向に複数配列し、最初のグループ配列から一定数のグループ配列までの範囲において測定部ごとに異なる変調周波数で強弱を与えられた光を出射する光源を持つマトリクス配列とし、そのマトリクス配列を直列方向及び若しくは並列方向に複数配列したことを特徴とする(1)に記載の試料分析装置。
(4)前記グループ配列の前記光源は、波長の組み合わせが同一であり、グループ配列毎に波長の組合せが同一か若しくは異なることを特徴とする(1)に記載の試料分析装置。
(5)出力波長の異なる少なくとも2種類の半導体光源、資料保持部、検出器からなる測定部であり、少なくとも2種類の半導体光源はそれぞれ異なる変調周波数で強弱を与えられた光を出射する測定部であり、複数近接して設けられた測定部の光源は、測定部ごとに順次時間差をおいて特定の時間光を出射することを特徴とする試料分析装置。
【0072】
(6)前記複数近接して設けられた測定部は,はじめから一定数までの範囲において測定部ごとに順次時間差をおいて特定の時間光を出射する光源を持つ直列方向のグループ配列とし、そのグループ配列を直列方向に複数配列したことを特徴とする(5)に記載の試料分析装置。
(7)前記グループ配列の前記光源は、波長の組み合わせが同一であり、グループ配列毎に波長の組合せが同一か若しくは異なることを特徴とする(5)に記載の試料分析装置。
(8)前記光源は,前記少なくとも2つの波長の光が,前記試料の光の透過方向における長さの概略1/2の位置で交差するように構成されたことを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(9)前記光源は1つのパッケージ内に収められていることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(10)前記光源は,半導体レーザ及び発光ダイオード若しくはその組合せであることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
【0073】
(11)前記光源は,発光ダイオードであり,1つの透明な樹脂等のパッケージ内に収められ,前記パッケージの前記光源から出射される光の出射部位の形状を,前記光源から出射された光が概略並行光に成型されるように凸型のレンズ形状に成型され,前記パッケージと前記試料収容部の間に集光レンズが設けられていることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(12)前記光源各々に対して異なる周波数に変調する複数の発信回路と,前記検出器で検出した信号を,前記光源のそれぞれの周波数成分に分離する,周波数分離回路とを有することを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(13)前記(12)記載の試料分析装置において、測定部ごとに順次時間差をおいて計測が可能な周波数分離回路を有することを特徴とする(5)に記載の試料分析装置。
(14)前記光源から出射される光の中心波長,あるいは,最も成分量の多い波長が,概略340,404,415,450,480,505,546,570,600,660,700,750,800(単位はnm)の中の異なる波長であることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(15)前記光源のうち1つが紫外線であることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
【0074】
(16)前記複数の光源より出射される光は,前記試料保持部及びその上に保持される前記試料に対して垂直方向に出射されることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(17)前記試料保持部は,第1の基板と,前記第1の基板に設けられた複数の電極が前記試料を保持,及び搬送する搬送路に沿って設置されており,前記複数の電極の任意の電極に電圧を印加するための電圧印加手段をさらに有し,複数の電極の少なくとも1つが配置される領域からなることを特徴とする(1)又は(5)に記載の試料分析装置。
(18)前記試料保持部は,前記複数の電極を覆う第1の絶縁膜と,前記絶縁膜と覆う第1の膜とを有することを特徴とする(17)に記載の液体搬送基板。
(19)前記試料保持部は,第2の基板と,前記第2の基板に設けられた電極層とをさらに有し,前記複数の電極と前記電極層とは対面することを特徴とする(17)に記載の液体搬送基板。
(20)前記試料保持部は,前記電極層を覆う第2の絶縁膜と,前記第2の絶縁膜を覆う第2の膜とをさらに有することを特徴とする(19)に記載の液体搬送基板。
【0075】
(21)前記試料保持部は,前記複数の電極と前記電極層とが概略平行に配置されることを特徴とする(19)に記載の液体搬送基板。
(22)前記試料保持部は,前記第1の基板と前記第2の基板とは,前記複数の電極と前記電極層とが一定の距離を保つように配置されることを特徴とする(19)に記載の液体搬送基板。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明による試料分析装置の構成例を示す図。
【図2】試料保持部の拡大図。
【図3】本発明による試料分析装置の他の構成例を示す図。
【図4】LED出射のタイミングを示す図。
【図5】データ検出のタイミングを示す図。
【図6】液体試料の搬送方法を示す図。
【図7】液体搬送基板に保持されている試料の測定方法を示す図。
【図8】本発明による試料分析装置の他の構成例を示す図。
【図9】試料の水平方向の形状を示す図。
【図10】試料の断面模式図。
【図11】各測定部のデータ処理装置より得られた吸光度を比較して示した図。
【図12】複数の光源群を有する試料分析装置の構成例を示す図。
【図13】本発明による試料分析装置の他の構成例を示す図。
【図14】試料移送のタイミングチャート。
【図15】測定部でのLED出射及びデータ検出のタイミングチャート。
【図16】光源に発光ダイオードを用いたときの測定部の構成例を示す略図。
【図17】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図18】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図19】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図20】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図21】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図22】試料搬送・保持部の断面構成例を示す図。
【図23】試料搬送・保持部の電極に電圧を印加するタイミングを示す図。
【符号の説明】
【0077】
7,8,9,10,11,12,64,65,66,67…駆動回路
13,15,17,68,70,120…波長λ1の光源
14,16,18,69,71,121…波長λ2の光源
19,21,23,72,74…波長λ1の光
20,22,24,73,75…波長λ2の光
25,26,27,76,77,138,139,140,141,142,143,144,145,146…パッケージ
28,29,30,184…試料保持部
31,32,33,160,161…試料
34,35,36…検出器パッケージ
37,38,39…検出器
40,41,42…アンプ
45,46,47…周波数分離回路
48,49,50,51,52,53…A/Dコンバータ
54,55,56…データ処理装置
80,81,82,83,84,85,167,168,169,170,190…第1の電極
171,172,173,174,175…第2の電極
87…導入口
88,89,90,91,92,93…スイッチ
94…電源
95,105…液体
96,107…ディスペンサ
100,183…上部基板
101,182…下部基板
104…上部基板と下部基板の間の空間
106…排出口
108…廃液
110…測定部
122,124,126,128…波長λ3の光源
123,125,127,129…波長λ4の光源
130,132,134,136…波長λ5の光源
131,133,135,137…波長λ6の光源
147,148,149,150,151,152,153,154,155,156,157,158…電極
159…レンズ
160,161…試料
162,163…オイル滴
164…空気
165,166…絶縁性基板
180,181…絶縁膜
184…試料保持部
185,186…撥水膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる波長の光を発生する複数の光源と,試料を保持する試料保持部と,前記試料保持部に保持された試料を透過した前記複数の光源からの光を検出する光検出器とを備える測定部が複数並置され,
一つの測定部に属する複数の光源及び少なくとも当該測定部に隣接する測定部に属する複数の光源は,それぞれ異なる変調周波数で変調された光を出射することを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の試料分析装置において,各測定部に属する複数の光源から出射された光は当該測定部の試料保持部に保持された試料の光透過方向における長さの概略1/2の位置で交差することを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の試料分析装置において,各測定部に属する複数の光源が発生する波長の組み合わせが同一であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の試料分析装置において,前記複数の測定部が備える複数の光源は,それぞれ異なる変調周波数で変調された光を出射することを特徴とする試料分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の試料分析装置において,相互に隣接する所定数の測定部に属する複数の光源は,それぞれ異なる変調周波数で変調された光を出射することを特徴とする試料分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の試料分析装置において,前記複数の測定部が備える複数の光源は同期して発光することを特徴とする試料分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の試料分析装置において,複数の電極が設置された基板と,前記複数の電極に選択的に電圧を印加する電圧印加手段とを備える試料搬送路を有し,前記各測定部の試料保持部は,前記搬送路上に設定されることを特徴とする試料分析装置。
【請求項8】
請求項1記載の試料分析装置において,前記測定部は二次元的にマトリックス配列されていることを特徴とする試料分析装置。
【請求項9】
それぞれ異なる波長の光を発生する複数の光源と,試料を保持する試料保持部と,前記複数の光源から出射して前記試料保持部に保持された試料を透過した光を検出する光検出器とを有する測定部が複数並置され,
同じ測定部に属する複数の光源は,それぞれ異なる変調周波数で変調された光を同じタイミングで出射し,
少なくとも隣接する測定部に属する光源は,それぞれ異なるタイミングで発光することを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
請求項9記載の試料分析装置において,各測定部に属する複数の光源から出射された光は当該測定部の試料保持部に保持された試料の光透過方向における長さの概略1/2の位置で交差することを特徴とする試料分析装置。
【請求項11】
請求項9記載の試料分析装置において,各測定部に属する複数の光源が発生する波長の組み合わせが同一であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項12】
請求項9記載の試料分析装置において,異なる測定部に属する光源は,それぞれ異なるタイミングで発光することを特徴とする試料分析装置。
【請求項13】
請求項9記載の試料分析装置において,相互に隣接する所定数の測定部に属する光源は,それぞれ異なるタイミングで発光することを特徴とする試料分析装置。
【請求項14】
請求項9記載の試料分析装置において,複数の電極が設置された基板と,前記複数の電極に選択的に電圧を印加する電圧印加手段とを備える試料搬送路を有し,前記各測定部の試料保持部は,前記搬送路上に設定されることを特徴とする試料分析装置。
【請求項15】
請求項9記載の試料分析装置において,前記測定部は二次元的にマトリックス配列されていることを特徴とする試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−329920(P2006−329920A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156950(P2005−156950)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】